『孤独のグルメ』の原作コンビが描く、究極散歩マンガ『散歩もの』

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散歩もの』(作画・谷口ジロー、著・久住昌之)
 この世で最も奥が深く、老若男女が楽しめるアウトドアスポーツといえば、ズバリ「散歩」ではないでしょうか。健康診断で肉体年齢が60代と診断された、筋金入りのインドア派を自称する僕でも可能なスポーツ、それが散歩。散歩・イズ・ビューティフル。まあ……散歩がスポーツなのかどうかは、別途議論が必要なところですが。  今回は、そんな散歩がテーマのマンガ『散歩もの』をご紹介します。「散歩」がテーマのマンガなんて、一体どうやってオチをつけるんだ? と思う方もいらっしゃるかと思うのですが、そこは心配ご無用。実は、本作品は『孤独のグルメ』の名コンビ、谷口ジロー先生と久住昌之先生の作品なのです。本作品も『孤独のグルメ』同様、毎回これといったオチはなく、フワッとした感じで終わりますが、それでいてちゃんとした作品として成立しているのです。 『散歩もの』は通常のマンガ雑誌ではなく、「通販生活」(カタログハウス)という雑誌に掲載されていました。この掲載誌の渋さこそが、「散歩」というニッチなテーマのマンガを実現できる理由だともいえます。  テーマが違うとはいえ、谷口先生と久住先生のコンビ作品ですから、当然『孤独のグルメ』のテイストが色濃く出ており、読めば読むほどに『孤独のグルメ』のスピンオフ作品ともいえる雰囲気を感じます。特に、作品中に出てくる食事のシーンなどは、かなり孤独のグルメっぽいです。  ただし『散歩もの』は、あくまで散歩マンガなので、グルメではなく散歩がメイン。主人公である中堅文具メーカーの部長、上野原譲二が休日や仕事中にいろいろな場所をフラッと散歩して、古い町並みを見たり、雑貨を見つけたりしてはその心象風景をつづるという、これが全盛期のジャンプだったら、3話目ぐらいで強制的に途中からバトルものに方向転換させられかねない地味な内容です。もし散歩バトルマンガがあれば、それはそれで読んでみたい気もしますけど。  でもまあ、読者層はきっと「散歩の達人」(交通新聞社)とか「おとなの週末」(講談社)とか読んでいそうなアダルティな人たちを狙ってるわけですから、これでいいわけです。そういう意味では、孤独のグルメ以上にディープで読み手を選ぶ作品といえましょう。  主人公、上野原は妻帯者、中小企業の中間管理職という設定で、独身貴族の孤独のグルメ・井之頭五郎とは異なり、なかなかのリア充っぽさが漂います。しかし、作品が醸し出す雰囲気が酷似しているのは、どっちの主人公も頑固で結構変わった性格をしているからなんだと思います。  上野原は、とにかく散歩にかける情熱が人並み以上のものがあります。奥さんの頼まれ物の途中とか、仕事中の出先とかでもお構いなしにガンガン脇道にそれて、散歩モードに突入してしまいます。  自分のことを「散歩の天才」って言うぐらいの散歩好き。自称、散歩の天才……。うーん、実に微妙な響きです。さらに、頑固なまでの懐古主義者でもあります。 「俺は街を上へ上へ開発していくのって嫌いなんだよ」  上野原は、高層ビルなどの建築が大っ嫌い。それこそ、六本木ヒルズとか東京ミッドタウンは最悪なんでしょうね。その一方で、大正とか昭和の香りのするノスタルジックな建物は大好きな模様です。  そんな古めかしい店に入っては、普通の人が興味を示さないような渋い雑貨を衝動買いして帰ってくるという、奇妙な性癖(?)もあります。  慶応元年からやっている草履屋に興味を示して、いきなり草履を衝動買いしたり、ちょっとイイ感じの雑貨屋を発見して、エジソン電球なるレトロな電球を衝動買いしたり。いきなりエジソン電球とか買ってきて家に取り付けられても……そりゃ奥さんもあきれちゃいますよね。  そのほかにも、仕事途中に昔ながらの井戸を見つけて、テンション上がってしまい、井戸水をガンガンくみ出していたら、住人に怒られてしまったり。一企業の部長としてはなかなか行動がアレですよね。  そんな上野原の散歩にかける熱い思いがヒシヒシと伝わってくる、散歩原理主義者ともいえる数々の名言(しかも、ほとんどが独り言)をご紹介しましょう。 「テレビや雑誌で見た場所へ出かけていく散歩は、散歩ではない」    後でも出てきますが、散歩にガイドブックは不要というのが上野原の持論です。迷ったら、それはそれでいいじゃないか的な。つまり、「東京ウォーカー」(角川マガジンズ)、「るるぶ」(JTBパブリッシング)あたりで下調べしてから行くのは観光であって、散歩ではありません。もちろん、ネットで調べるというのもアウトです。 「理想的なのは、『のんきな迷子』」  どうやら、積極的に迷うのを推奨している模様です。確かに、散歩は無計画なぐらいなほうが楽しいかもしれません。もはや、この男にカーナビは不要に違いありません。 上野原の散歩論はさらにディープに、坂道についても熱く語ります。 「あー、いいねえ坂道だ」 「わあ、素晴らしいスロープだ」  目白の坂道に感動しまくり! 確かに、すごい坂道を見つけるとテンションが上がってしまうのは、なんとなく理解できますが……。 「こっちの坂もいいぞ」  別の坂道にも食いつく上野原。坂道がいいとか悪いとか……基準がよくわかりませんが、これは相当な坂道マニアですね。もしかしたら、坂道にエクスタシーを感じるタイプなのかもしれません。 「傾斜した道は使いにくい」 「だから工夫しなきゃならない」 「そういうのが街の味になってるんだな」  坂道文化を語り続けます。もはや、オッサンが散歩の最中に発する単なる独り言とは思えないほどのクオリティ。散歩の天才と呼ばれるには、このぐらいの域に達していなければならないようです。そういえばタモリさんも「日本坂道学会」なるものを設立しているぐらいですし、坂道にはどこか人を惹きつけてやまない魅力があるのかもしれません。  続いて、東京・吉祥寺の路地裏「ハーモニカ横丁」の日本一狭いカレー屋での一幕。路地裏文化に興味を示す若者カップルとの会話で、たいそうご機嫌な上野原です。 「吉祥寺の良心ですよ」  吉祥寺の良心……こういうクサいセリフは、相当吉祥寺ラブでないと言えないセリフです。しかし、若者たちがハーモニカ横丁のガイドブックを作りたいなどという発言をした途端、説教モードに。 「こういう路地はガイドなんかに頼らないでただ歩くのが楽しいんじゃない?」  独自の路地論を展開。ガイドに頼るのは散歩じゃないんだ、邪道だ、と。とにかく路地は自力で散策するのが粋なのだと力説します。まさに、散歩原理主義ならではですね。 「ちょっと不安なぐらいがいいんじゃない? 歩けば必ず面白い店やものが発見できる、そんな路地ですよ」  若者は完全にキョトン顔です。言いたいことはわかりますが、ここまでいくと老害……いやいや、日本の明日を担う若者たちに散歩の本当の楽しさを伝えたい一心での発言ですよね。わかります。この若者も今後はきっと改心して、ガイドなど持たずに路地裏を徘徊することでしょう。  というわけで、かつてないほどに硬派な散歩論が展開される究極の散歩マンガ『散歩もの』。いかがだったでしょうか? たまに散歩する程度の人からディープな坂道マニアの人まで、散歩をする人にはぜひ一度手に取って読んでいただきたい、そんな奥深い作品です。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

『孤独のグルメ』の原作コンビが描く、究極散歩マンガ『散歩もの』

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散歩もの』(作画・谷口ジロー、著・久住昌之)
 この世で最も奥が深く、老若男女が楽しめるアウトドアスポーツといえば、ズバリ「散歩」ではないでしょうか。健康診断で肉体年齢が60代と診断された、筋金入りのインドア派を自称する僕でも可能なスポーツ、それが散歩。散歩・イズ・ビューティフル。まあ……散歩がスポーツなのかどうかは、別途議論が必要なところですが。  今回は、そんな散歩がテーマのマンガ『散歩もの』をご紹介します。「散歩」がテーマのマンガなんて、一体どうやってオチをつけるんだ? と思う方もいらっしゃるかと思うのですが、そこは心配ご無用。実は、本作品は『孤独のグルメ』の名コンビ、谷口ジロー先生と久住昌之先生の作品なのです。本作品も『孤独のグルメ』同様、毎回これといったオチはなく、フワッとした感じで終わりますが、それでいてちゃんとした作品として成立しているのです。 『散歩もの』は通常のマンガ雑誌ではなく、「通販生活」(カタログハウス)という雑誌に掲載されていました。この掲載誌の渋さこそが、「散歩」というニッチなテーマのマンガを実現できる理由だともいえます。  テーマが違うとはいえ、谷口先生と久住先生のコンビ作品ですから、当然『孤独のグルメ』のテイストが色濃く出ており、読めば読むほどに『孤独のグルメ』のスピンオフ作品ともいえる雰囲気を感じます。特に、作品中に出てくる食事のシーンなどは、かなり孤独のグルメっぽいです。  ただし『散歩もの』は、あくまで散歩マンガなので、グルメではなく散歩がメイン。主人公である中堅文具メーカーの部長、上野原譲二が休日や仕事中にいろいろな場所をフラッと散歩して、古い町並みを見たり、雑貨を見つけたりしてはその心象風景をつづるという、これが全盛期のジャンプだったら、3話目ぐらいで強制的に途中からバトルものに方向転換させられかねない地味な内容です。もし散歩バトルマンガがあれば、それはそれで読んでみたい気もしますけど。  でもまあ、読者層はきっと「散歩の達人」(交通新聞社)とか「おとなの週末」(講談社)とか読んでいそうなアダルティな人たちを狙ってるわけですから、これでいいわけです。そういう意味では、孤独のグルメ以上にディープで読み手を選ぶ作品といえましょう。  主人公、上野原は妻帯者、中小企業の中間管理職という設定で、独身貴族の孤独のグルメ・井之頭五郎とは異なり、なかなかのリア充っぽさが漂います。しかし、作品が醸し出す雰囲気が酷似しているのは、どっちの主人公も頑固で結構変わった性格をしているからなんだと思います。  上野原は、とにかく散歩にかける情熱が人並み以上のものがあります。奥さんの頼まれ物の途中とか、仕事中の出先とかでもお構いなしにガンガン脇道にそれて、散歩モードに突入してしまいます。  自分のことを「散歩の天才」って言うぐらいの散歩好き。自称、散歩の天才……。うーん、実に微妙な響きです。さらに、頑固なまでの懐古主義者でもあります。 「俺は街を上へ上へ開発していくのって嫌いなんだよ」  上野原は、高層ビルなどの建築が大っ嫌い。それこそ、六本木ヒルズとか東京ミッドタウンは最悪なんでしょうね。その一方で、大正とか昭和の香りのするノスタルジックな建物は大好きな模様です。  そんな古めかしい店に入っては、普通の人が興味を示さないような渋い雑貨を衝動買いして帰ってくるという、奇妙な性癖(?)もあります。  慶応元年からやっている草履屋に興味を示して、いきなり草履を衝動買いしたり、ちょっとイイ感じの雑貨屋を発見して、エジソン電球なるレトロな電球を衝動買いしたり。いきなりエジソン電球とか買ってきて家に取り付けられても……そりゃ奥さんもあきれちゃいますよね。  そのほかにも、仕事途中に昔ながらの井戸を見つけて、テンション上がってしまい、井戸水をガンガンくみ出していたら、住人に怒られてしまったり。一企業の部長としてはなかなか行動がアレですよね。  そんな上野原の散歩にかける熱い思いがヒシヒシと伝わってくる、散歩原理主義者ともいえる数々の名言(しかも、ほとんどが独り言)をご紹介しましょう。 「テレビや雑誌で見た場所へ出かけていく散歩は、散歩ではない」    後でも出てきますが、散歩にガイドブックは不要というのが上野原の持論です。迷ったら、それはそれでいいじゃないか的な。つまり、「東京ウォーカー」(角川マガジンズ)、「るるぶ」(JTBパブリッシング)あたりで下調べしてから行くのは観光であって、散歩ではありません。もちろん、ネットで調べるというのもアウトです。 「理想的なのは、『のんきな迷子』」  どうやら、積極的に迷うのを推奨している模様です。確かに、散歩は無計画なぐらいなほうが楽しいかもしれません。もはや、この男にカーナビは不要に違いありません。 上野原の散歩論はさらにディープに、坂道についても熱く語ります。 「あー、いいねえ坂道だ」 「わあ、素晴らしいスロープだ」  目白の坂道に感動しまくり! 確かに、すごい坂道を見つけるとテンションが上がってしまうのは、なんとなく理解できますが……。 「こっちの坂もいいぞ」  別の坂道にも食いつく上野原。坂道がいいとか悪いとか……基準がよくわかりませんが、これは相当な坂道マニアですね。もしかしたら、坂道にエクスタシーを感じるタイプなのかもしれません。 「傾斜した道は使いにくい」 「だから工夫しなきゃならない」 「そういうのが街の味になってるんだな」  坂道文化を語り続けます。もはや、オッサンが散歩の最中に発する単なる独り言とは思えないほどのクオリティ。散歩の天才と呼ばれるには、このぐらいの域に達していなければならないようです。そういえばタモリさんも「日本坂道学会」なるものを設立しているぐらいですし、坂道にはどこか人を惹きつけてやまない魅力があるのかもしれません。  続いて、東京・吉祥寺の路地裏「ハーモニカ横丁」の日本一狭いカレー屋での一幕。路地裏文化に興味を示す若者カップルとの会話で、たいそうご機嫌な上野原です。 「吉祥寺の良心ですよ」  吉祥寺の良心……こういうクサいセリフは、相当吉祥寺ラブでないと言えないセリフです。しかし、若者たちがハーモニカ横丁のガイドブックを作りたいなどという発言をした途端、説教モードに。 「こういう路地はガイドなんかに頼らないでただ歩くのが楽しいんじゃない?」  独自の路地論を展開。ガイドに頼るのは散歩じゃないんだ、邪道だ、と。とにかく路地は自力で散策するのが粋なのだと力説します。まさに、散歩原理主義ならではですね。 「ちょっと不安なぐらいがいいんじゃない? 歩けば必ず面白い店やものが発見できる、そんな路地ですよ」  若者は完全にキョトン顔です。言いたいことはわかりますが、ここまでいくと老害……いやいや、日本の明日を担う若者たちに散歩の本当の楽しさを伝えたい一心での発言ですよね。わかります。この若者も今後はきっと改心して、ガイドなど持たずに路地裏を徘徊することでしょう。  というわけで、かつてないほどに硬派な散歩論が展開される究極の散歩マンガ『散歩もの』。いかがだったでしょうか? たまに散歩する程度の人からディープな坂道マニアの人まで、散歩をする人にはぜひ一度手に取って読んでいただきたい、そんな奥深い作品です。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

金、女、野望、復讐……柳沢きみお『青き炎』と『DINO』に学ぶ、アウトローな生き方

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青き炎』(実業之日本社)
 女性にとって、結婚したい男と付き合いたい男は違う。金持ちで優しい男が結婚相手としては理想だけど、付き合うんならどこか翳があって、ちょっと危険でワルな感じのする男がいい、というのが昔からの定説ですよね。もちろん、男目線で見ても憧れるのは後者のような男じゃないでしょうか。  今回ご紹介する柳沢きみお先生の『青き炎』と『DINO(ディーノ)』は、まさにそんな主人公が登場します。どちらもイケメンで高学歴、スポーツ万能という誰もがうらやむ天賦の才能を持ちながら、自らの野望達成のため、あえてドス黒い悪の道に進んでいくというピカレスク・ロマンです。  『青き炎』は、金と権力を手に入れるために徹底的に女を利用し、時には殺人も厭わない。そんなダークネスな男の一代記です。  主人公は海津龍一という高校生。成績優秀、スポーツ万能、おまけにイケメンという三拍子そろった男子なのですが、高校では友達を作らず、部活にも所属せず、おまけに家族とも折り合いが悪く、父親に「何を考えてるのかさっぱりわからん」と見捨てられている状態。筋金入りの一匹狼です。愛想がないので「氷のような人間」として男子からは嫌われていますが、イケメンでクールなので女子からは人気があるのです。性格が激悪でもイケメンならモテるという、実にわかりやすい事例です。  そんな龍一がどれだけ危険でワルな男なのか、ダイジェストで紹介しましょう。個人的には、絶対友達になりたくないタイプです。  高校生なのにホステスを愛人に持ち、しかもその女に貢がせている。  ホステスと二股をかけて、カネ目当てで大病院の娘と付き合う。娘の父親を脅して、手切れ金1,000万円を請求。  頭がいいので、ちゃっかり慶応義塾大学に合格。テニスサークルに入部して、モテモテ。  入部早々、速攻で部長の彼女に手を出して部長の怒りを買い、テニスの試合でボコボコにされるが、サークルを休んでテニススクールで1カ月特訓を積み、部長にリベンジ。今度は龍一が圧倒的な勝利を収め、部長に赤っ恥をかかせてサークルから追い出します。  テニサーと並行して、ディスコの黒服バイトを始めます。女殺しテクに磨きがかかり、ホストやヤクザとも付き合いだして、さらにタチが悪くなります。  究極のお金持ち、住菱財閥のお嬢様に目をつける。お嬢様がラグビー好きと見るや、ラグビー部にサクッとくら替え。運動神経バツグンなので、すぐに大学の代表選手に選ばれる。もちろん龍一の狙いは、住菱財閥に婿入りしてカネと権力をゲットすることです。  住菱財閥の婿入りが不可能と見るや、6つのビルを所有する未亡人オバさんにターゲットを変更。オバさんを言葉巧みに口説き落とし、結婚にこぎ着けた後、速攻で交通事故に見せかけて殺してしまい、念願のビルオーナーとなります。そしてババア殺しの疑いをかけてきた親戚は、ヤクザを使って脅して黙らせます。  資産ゲットでついに野望達成かと思いきや、その後の展開では、予想外の転落が待っているわけですが……。 「大企業の社長になれた!? ふん、それがどうだって言うんだ。しょせんサラ公じゃねーか! そんなのになって大喜びしてるヤツもしょせん三流野郎だ!」 「本当のエリートってヤツを教えてやろう。自由に生きていて、若くして成功したヤツだ。それがエリートだ」  龍一のこんなセリフに象徴されるように、社会の歯車たるサラリーマンを徹底的に蔑み、イケメンと明晰な頭脳を徹底的に悪い方へ利用するという、バブルが生んだドス黒いアンチヒーローなのです。
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DINO』(ゴマブックス)
 一方、『DINO』は老舗デパートが舞台であり、主人公の家族を不幸に追い込んだ奴らへの復讐をテーマにした壮大なストーリーです。  主人公の菱井ディーノは丸菱デパート7代目社長、菱井丈一郎の息子です。しかし丈一郎は、丸菱デパートの番頭格であった樽谷一族にクーデターを起こされ、追放されてしまいます。その後、丈一郎は酒に溺れて死亡、母は家を出ていき、ディーノは親戚をたらい回しにされる不遇な少年時代を送ります。  高校に入学したディーノは、父が遺品として、1軒の家とフェラーリ・ディーノ206GTを遺してくれていたことを知って感激し、亡き父のために樽谷一族へ復讐して丸菱デパートを取り返すことを決意します。    いきなりオープニングの「お父さん、いよいよだよ」というセリフのあと「天罰を与えるべき者」という復讐リストがドバーンと出てきます。そこには樽屋一族をはじめ、クーデターに参加した当時の重役たちの名前がズラッと並んでいます。丸菱デパートに潜入して、このリストに載っている奴らに一人ずつ復讐していこうというのです。  復讐のため、養子先の杉野姓を名乗り、杉野ディーノとして東大を卒業後、トップの成績で丸菱デパートに入社。早速、幹部候補生となります。もちろん、イケメンでスタイルも抜群なので、デパート内の女子にモテまくり。新卒のくせに、配属された売り場内の女主任を速攻で口説く手の早さ。さすが、東大卒イケメン。 「なにもこんな30にもなったオバさんを抱かなくても、キミならいくらでもいるでしょ」 「ふう、僕はアナタくらいの年上の人が好きなんだ」  甘いピロートークで、女主任から丸菱デパートの内部事情を夜な夜な聞き出します。もちろんこの女主任は、ディーノが復讐するための情報源にすぎません。そして主任から得た情報を元に、矢継ぎ早に復讐を実行していきます。  最初のターゲットは曽根崎専務。専務に復讐する足がかりとして、コネ入社の息子・曽根崎フロア長を狙います。深夜のオフィスで女子社員とエッチする性癖のある曽根崎フロア長を背後から襲い、素っ裸のまま縛り上げ、翌朝フロア中の晒し者に。  息子の失態により、流通センターに左遷された曽根崎専務。しかし、ディーノの怒りはその程度では収まりません。追い打ちを掛けるように流通センターへ忍び込んで、放火するディーノ。曽根崎専務はショックで心筋梗塞を起こし、再起不能に。そう、これがディーノ流の天罰なのです!  2人目のターゲットは登戸副社長。登戸には溺愛する一人娘・恵がいます。ディーノは松野という偽名で恵に接近し、口説き落とします。そう、東大卒イケメンなら、どんなにうさん臭い偽名でもナオンを口説けるんです!  自宅に呼び寄せ、酒でベロベロに酔わせた恵の裸体を撮影。その写真を登戸副社長宅に送りつけます。登戸は怒りのあまり、朝帰りの娘の首を絞めて殺してしまい、そのまま失脚です。天罰……怖すぎですね。  このようにディーノは女から得た情報を元に、ターゲットのウィークポイントを徹底的に突く、ヤクザ顔負けの発想で冷徹に復讐を実行していきます。なんというガチすぎる復讐。東大卒イケメンのくせに、とんだ大悪党です。  この先も、ラスボスである樽谷会長を目指して着々と復讐を敢行していくのですが、ツッコミどころも豊富な作品です。  まず気になるのが、主人公の菱井ディーノというキラキラネームっぷり。名字を変えて杉野ディーノになっているので、先代社長の息子だとはバレていない、という設定なのですが、そもそもディーノっていう名前が個性的すぎて、普通にバレるだろという気がします。しかし作品の後半になるまでそのキラキラネーム問題はスルーで、散々復讐しまくった「え、今さら?」というタイミングで、ディーノという名前は目立つからマズい……となり、杉野一郎へと強引に改名します。一郎って……急に変えすぎだろ!  そのディーノという名前は、ディーノの父親・丈一郎の遺品でもあったフェラーリ・ディーノ206GTから取られているのですが、息子にスーパーカーの名前をつけるという発想もすごいですよね。そんな作品なので、本編の復讐ストーリーとは関係なく、柳沢きみお先生のフェラーリ偏愛ぶりが遺憾なく発揮されています。作品中にまったく脈絡なく「フェラーリの名車たち」というミニコーナーが割り込んできたり、「この車は男が一人で走らせるためにある。この車は男の汗だけを求める」みたいな、イケてるフェラーリポエムが突然挿入されたりするのも特徴となっています。特にフェラーリに興味がない人には読んでいて違和感がすごいのですが、これが逆にクセになってくるのです。  こんな感じで、最初から全力で悪の道を行く『青き炎』と、復讐という大義名分がありつつも結局人を殺しまくる『DINO』。対照的な2作品なのですが、どちらもダークな主人公を軸としたストーリーがとてつもない面白さで、やっぱりクールでワルな男の生き様はどこまでいっても魅力的なのだ、ということを証明してくれています。今さらながらアラフォーの僕も、『LEON』あたりを熟読してクールなワルを目指さなければ、と思うようになりました。まあ、厄年なので、すでに運勢は十分にワルいんですけどね。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

元祖“Lサイズ女子”の圧倒的包容力! 名作ラブコメ『Theかぼちゃワイン』の魅力

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The かぼちゃワイン』(著:三浦 みつる/秋田書店)
 大地の母、母なる海、人間空母……これらの言葉に代表されるように、古来より人は女性に対して雄大さとか母性とか包容力みたいなものを求めてきました(人間空母は関係ありませんけど)。  しかし、残念ながら現代の日本では、自分より小柄な女性を好む男性が多いといわれています。そしてマンガの世界でも、男子のほうが女子よりも高身長なカップル設定が圧倒的に多いです。男子のほうが背が高くて当たり前、という先入観がいつの間にか世の中に浸透してしまっているんですよね。  ところが、そんな先入観をひっくり返す、170センチオーバー、180センチオーバーの高身長女子、すなわち“Lサイズ女子”が活躍するラブコメが近年増えてきています。『富士山さんは思春期』をはじめとして『ハル×キヨ』『Stand up!』などなど、さらには一歩踏み込んで『七つの大罪』のような文字通り巨人族の女子(9メートル級)が登場するマンガもあります。まあ『七つの大罪』は、ラブコメじゃないですけど。とにかく、Lサイズ女子復権の時代が、確実に到来してきているのです。  復権という言葉を使わせていただきましたが、1980年代、元祖Lサイズ女子がヒロインのマンガが人気を集めました。『Theかぼちゃワイン』がそれです。  『かぼちゃワイン』は1981年から「週刊少年マガジン」(講談社)で連載されたマンガで、作者は三浦みつる先生。82年からはアニメ化もされているので、原作は読んでいなくてもアニメは見ていたという人も多いのではないでしょうか。また、『かぼちゃワイン』の正式タイトルに「The」がついていることを知らない人も意外と多いかもしれません。  『かぼちゃワイン』は主人公であり、チビで女嫌いの自称硬派・青葉春助と、大柄ヒロインのエルちゃんこと朝丘夏美の「SLコンビ」によるドタバタラブコメディです。サンシャイン学園中等部に転校してきた春助に、エルちゃんが一目惚れ。一方的にモーションをかけます。しかし、春助は女嫌い硬派のキャラを押し通そうとして、エルちゃんを邪険に扱います。  しかし、エルちゃんのポジティブさや一途さに、次第に自分もエルちゃんに惹かれていることを認め始めます。それでも頑固な春助の性格のせいで、正式なカップル成立には至らない……という、非常にヤキモキさせるストーリー展開です。  春助もエルちゃんも中学生(後半では高校生)なのですが、その身長差はかなりのもので、エルちゃんが片膝をついてしゃがんでいる状態と春助が直立している高さがほぼ同じというシーンがあります。  春助とエルちゃんの身長について公式発表はされていませんが、初期設定ではエルちゃんが175センチで春助が120センチだったといわれています。中学生で120センチって……まさに、大人と子どもですね。  『かぼちゃワイン』の作品の魅力はなんといっても、元祖“Lサイズ女子”エルちゃんの、母なる海を感じさせる圧倒的包容力に尽きます。一方で、主人公の春助はケンカっ早く、トラブルメーカーで、エルちゃんに対する言葉も相当キツいものがあり、恋愛対象としてはかなりどうかと思うところがあります。  例えば、春助のためにエルちゃんがお弁当を作ってくれたシーンでの、春助のセリフ。 「よけえなおせっかいはやめろっていってんだろ! だれがくうかっ、ぜったいにくわねえぞ!」  それに対するエルちゃんのセリフは 「ううんっいいの、いやならしかたないもんっ。あたしってほんとおせっかいだね!」 ……切ないです。  また、レストランで春助とエルちゃんが一緒に食事するシーンでは、ワリカンでお金を払おうとするエルちゃんに対し、 「女におごってもらうなんて男としてカッコつかねえじゃんか」 と、男らしく自分がおごる意思を見せますが、ポケットが破れてお金を落としてしまっており、食い逃げ疑惑で店員とレジでモメ始めます。  結局、エルちゃんが全額立て替えることになるのですが、男のプライドが邪魔して、素直に受け入れられない春助。金がないくせに、頑なに拒みます。その時のやりとりのセリフ。 「春助クンあたしにはらわせて!おねがいっ。ねっ」 「よ……ようし……そんなにたのむんだったら、はらわせてやらァ!」 「ありがとっ。春助クン」  ちゃんと春助のメンツを立てつつ、お金を払ってきっちり場を収めるエルちゃんの懐の深さ……まさに女神です。中学生にしてこんなできた女、そうそういないですよね。  これだけだったら、春助は体も器も小さいサイテー男なのですが、そこは主人公。随所に、エルちゃんに対する気づかいも見られます。  足をくじいた春助の手当てをしようと、自分が住んでいる女子寮に春助を引っ張り込むエルちゃん。男子禁制の女子寮に男を連れ込んだことがバレて、エルちゃんは朝まで食事抜きの独居房のような反省部屋に入れられてしまいます。  責任を感じた春助は、女子寮に再度忍び込み、エルちゃんが幽閉されている反省部屋にこっそりあんパンを差し入れします。喜ぶエルちゃんに対して…… 「い、いいかっ勘違いすんなよ! 別におまえが心配だからきたんじゃねえぞ」  そう、春助は決してエルちゃんが嫌いなわけではないのです、頑ななまでの男ツンデレなのです。もちろん作品連載当時はツンデレなどという概念はありませんでしたが、春助は80年代からすでに孤高のツンデレ男子だったのです。  とにかくエルちゃんは、春助のしでかしたケンカやトラブルを丸く収め、どんなに春助に憎まれ口を叩かれても、常にニコニコして決してへこたれないタフなメンタル。そして、最終的には圧倒的包容力ですべてを包み込んでしまう、中学生にして完成された母性を持つ女なのです。人間関係がギスギスしがちな今の時代だからこそ、エルちゃんのような体もハートもビッグなLサイズ女子が評価されるべきではないでしょうか? Lサイズ萌えの時代は、確実に到来してきていますよ!  ちなみに『かぼちゃワイン』には続編として『Theかぼちゃワイン Another』という作品があります。こちらは27歳、社会人となった春助とエルちゃんの話です。エルちゃんは春助の実家のランジェリーショップで働いており、春助は探偵事務所で働きだすのですが…… 「ねぇ、せっかくだから泊まっていけばいいのに」 「恋人同士でもないのにそんなこと出来っかよ!!」 「気安くキスすんなって言ってんだろ!」  というわけで、27歳になった2人の関係は、中学時代から何も変わっていませんでした。ダメだ、この甲斐性なし男は……。エルちゃん、いくら器がでかいといっても、いい加減キレるべきだと思います。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

究極のチャラ男マンガ『Bバージン』は、なぜ非モテのバイブルだったのか?

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『Bバージン』(著:山田玲司/小学館)
 ジュリアナ東京、ワンレン、ボディコン、ヤンエグ、アッシー君、オヤジギャル等々……今はすでに死語になってしまったバブル時代を象徴するキーワードの数々、今の日本では想像できないほどに、あらゆる事象がアホみたいに盛り上がっていた時代でした。  そんなバブル時代の影響を色濃く受けた、『Bバージン』という作品をご存じでしょうか?「週刊ヤングサンデー」(小学館)で1991~97年まで連載されていた、山田玲司先生の代表作です。  今でこそクールジャパンで、アニメオタク・マンガオタク・アイドルオタクなど、自分のオタク属性をカミングアウトしても一定の理解を得られる世の中ですが、90年代はまだ今ほどオタクに市民権はなく、オタクを実生活でカミングアウトすることは、モテるためには絶対的禁忌とされていました。そんな中で『Bバージン』はオタクからモテ男への転身を描いた、当時としては画期的なラブコメであり、多くの非モテ男へ勇気と希望を与えるマンガだったのです。  当時ならいざ知らず、もしいま初めて『Bバージン』を読むと「うわー、何このチャラいマンガ!」という印象を持ってしまうかもしれません。なにしろ出てくるセリフの一つひとつがことごとくチャラチャラしており、「女を落とすならウォッカベースのモスコミュールで!」みたいな口説き方指南もバンバン出てくるという、ここまで徹底的にチャラさに徹したラブコメは当時としても斬新でした。  主人公・住田秋は、高校時代は生物部に所属する生物オタク。女性とは無縁の完全オタクな非モテ青年でした。しかしある日、高校で出会ったヒロイン、桂木ユイに一目惚れします。  一念発起した秋は脱オタク、そして脱非モテを目指して2人の姉と1人の妹に徹底的なイケメンに仕立て上げられます。そして憧れのユイと同じ大学に入学。女子の理想をそのまま体現したようなさわやかイケメンへと改造された秋は、キャンパスのナンバーワン女子、乙丸アリサをもゾッコンにさせるほどのモテっぷりで、童貞のままナンバーワンの女殺しの名を与えられたのでした。  ちなみに作品タイトルの『Bバージン』ですが、おぼっちゃま・お嬢様すぎてヤレない童貞(処女)がAバージン、オタク&非モテでヤレないのがCバージンであり、Bバージンは、モテまくりでやろうと思えばやれるけど、愛する人のために操を立ててヤラないことなのです。Bバージン……なんという高貴な童貞でしょうか!  つまり主人公の秋は、せっかく大学デビューでモテまくりなのに、本命のユイと付き合えるまで誰ともヤラない「宿命のBバージン」という十字架を姉たちにより背負わされていたのです。  この『Bバージン』の魅力のひとつは、冒頭でもご説明した通り、圧倒的なチャラ描写と、軽薄ゼログラビティなチャラいセリフの数々です。会話の一つひとつがチャラすぎて用語解説が追いつかないレベルです。 「彼氏きめてんじゃん。それアニエスの新作だろ。俺もさ、今年はアニエスかなってチェックしたんだ」 「今日はブナンにベルサーチでまとめたけど、ベルトはアルマーニなんだ」 「このあとアザブのクラブ行こうよ。昔のチームの連中がDJやっててさ・・・けっこー基地(ベース)の連中も・・・」 「オータニのバルゴでも行こうか?」 「俺、今日は一応イタリアものできめたかったし、エンポリオだけど」 「アニエスのスーツの後はベネトンでカジュアル・・・お前やっぱわかってるよなぁ」  めまいがするほどのチャラいセリフのオンパレード……。連載当時、ファッションに疎い非モテ予備校生男子だった僕(筆者)には、アニエスだのアルマーニだの言われても、かろうじてどこかの国のファッションブランドなんだろうな程度の知識レベル。ベネトンに至っては、F1に出ているぐらいだから車のメーカーでしょ? という認識でした。ナイキとかアシックスとかアディダスは、よく知ってたんですけどね!  おまけに90年初頭はインターネットなどない時代なので、今のようにわからない言葉をググることもできません。さらに、友達に意味を聞くのも恥ずかしくてできません……というわけで、「エンポリオ(アルマーニ)」の意味がわかったのは『Bバージン』を読み始めてから5年後ぐらいのことですし、「オータニのバルゴ」に至ってはいまだに意味がわかりません。  マンガの中でHOW TOコーナー的な感じで、あからさまに女の口説きテクニックが紹介されているのも斬新でした。当時これを真に受けて実践し、ボッコボコにされた非モテ男子たちは星の数ほどいるのではないでしょうか?(成功した人もいると思うけど) <女のつかみ方 基本1> その娘が強調してるアクセサリーをさりげなくホメる。 「あ・・・そのイヤリングいいね。似合うじゃん・・・」 「そぅおー、ハデかなーとか思ったんだけどー。」 <女のつかみ方 基本2> それにひっかけて本人をほめる 「まあ・・・素材がいいからだろ・・・フツーの娘だとイヤリングに負けそうだもんね」 といった具合に、ものすごく実践的に解説されています。モテたければこの歯の浮くようなセリフをサラッと言えればいいのですが、言えるんだったら非モテはやってませんよね。イヤリングじゃなくて、イカリングなら大好物なんですけどね!  そのほかにも「『○○みたいな』で女をホメる時はわけのわからないハリウッド女優はブナンである」みたいな実践テクも書かれていました。つまり「君ってウーピー・ゴールドバーグみたいだね」とか言えば喜ぶみたいなんですよ。まったく……女心ってやつは意味不明です。  とにかく『Bバージン』連載当時の僕は、大学受験に失敗した後、代ゼミで先の見えない暗い浪人時代を送っており、非モテをこじらせすぎて非モテレベルがMAXでした。そのため『Bバージン』に出てくるチャラ男すぎる大学生のチャラチャラした恋愛ライフがあまりにうらやましくまぶしくもあると同時に、とめどなく殺意が湧くものでありました。  しかし、読んでいくうちに、そのチャラさの厚いヴェールに覆われた作品の本当のテーマが、韓流ドラマも真っ青の究極の純愛であることに気づくのです。そう『Bバージン』こそ、どん底にいる僕たち非モテの心をグッとつかんで離さない非モテのバイブルだったのです。チャラッチャラに装飾されたキャンパスライフが描かれている中にあって、Bバージンを誓って一途にユイだけを追いかける秋の熱さが非モテ達の胸を打つわけです。 「キープだ愛人だって、なんなんだお前達はーっ!! こいつの為なら死んだっていいってのが、恋愛だろ!! それをなんだ、キープだ補欠だって、恋人は物じゃねーぞ!!」 などと、秋は青春映画真っ青の熱いセリフをかましてくれるのです。ここで非モテたちは号泣ですよ。  作品中盤ではだんだんチャラさのヴェールが取れていき、純愛路線、そして熱血路線を経て、秋の生物オタクへの回帰が色濃くなってきます。ユイを狙うライバルとして登場した、Jリーガー候補のサッカー部のエース、佐藤元三(モトミ)とユイを賭けてPK対決するくだりは完全に熱血スポ根友情マンガみたいです。  終盤になると、一流の生物学者になるため、水族館のスタッフとして働き始める秋。イルカを処分するしないで、水族館スタッフの内部紛争に巻き込まれていきます。最後にはシー●ェパードみたいなゴリゴリの武闘派動物愛護団体と手を組んで、水族館内でクーデターを起こし、殺されそうなイルカを東京湾に逃がし、自分も海外逃亡……などというすごい展開に。もはやハードボイルドです。前半のあのモテHOW TOマンガみたいな展開はどこへ行ってしまったのか……。  このように大学生チャラ男編、熱血純愛編、水族館内部紛争編のように激しく方向性が変わっていった作品ではありますが、最後までハイテンションを維持しており、名作と呼ぶにふさわしい作品です。皆さんも本作品を読んで究極の純愛『Bバージン』を目指してみてはいかがでしょうか? 結局のところ、イケメンじゃなければキモチ悪いだけという可能性もありますが……。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

マンガ界を震撼させた伝説のゴーストライター 『コミックマスターJ』とは?

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『コミックマスターJ』(少年画法社)
 みなさん、すでに忘れつつあるかもしれませんが、2014年はメディアを中心に世間の話題をさらった「偽ベートーベン問題」というのがありました。まさしく世間が「聞いてないよ!」と突っ込みたくなる一大事件に発展したことにより、「ゴーストライター」という今まであまり表立って語られることのなかったキーワードが注目されることとなり、流行語大賞にまでノミネートされました。最近では、ゴーストを務めた新垣隆さんがあらゆるメディアで引っ張りだこになっていますね。  それに影響されたかどうなのか分かりませんが、っていうかたぶん間違いなく影響されていると思いますが、文字通り「ゴーストライター」というドラマが最近になって放送されたりもしました。  ところで、マンガの世界でも「ゴーストライターはありまぁす!」ということで、マンガの世界のゴーストライターを描いた作品をご紹介しましょう。その名も『コミックマスターJ』(少年画法社)。漫画界を……いや世界を崩壊させてしまうほどの恐るべき実力を持つ、伝説の漫画アシスタントを描いた作品です。  おいおい、伝説の漫画家じゃなくてアシスタントのマンガかよ……と思った方もいるかもしれません。しかし、ナメてもらっては困ります。『コミックマスターJ』はただの漫画アシスタントにあらず、究極のスーパーアシスタントなのです。  なにしろ、依頼料は1回500万円。ブラックジャック並みの高額報酬ですが、奇跡のスピードとあらゆるペンタッチを有する技術でどんな締め切り寸前の修羅場も切り抜ける、プロ中のプロなのです。  例えば漫画家が急病で倒れたり、失踪したり、入稿直前の原稿が火事で焼けたりしてもコミックマスターJが救ってくれるのです。どんなマンガ家の画のタッチも本物そっくりに再現でき、ストーリー作成からネームまでも超スピードで完璧にこなす、まさしく漫画界究極のゴーストライターでもあるのです。  主人公の「J」は、サングラスに全身白ずくめという現代のベートーベンとは真逆のスタイルですが、実力は本物です。真夏でも決して脱ぐことのないコートの下には、すべての漫画道具がそろっています! これはすごい。職務質問されたら一発アウトなレベルです。  そして一度描き始めれば、ほかのアシスタントを寄せ付けないほどの超スピード。周りのアシスタントがドン引きするほどの迫力で、どんなに締め切り直前でも完璧に間に合わせてくれます。  画のタッチも完璧。専属アシスタントでも本物と見分けがつかないレベルなのです。完璧な仕事っぷりで、単なるアシスタントを超えたゴーストとしての役割を果たすJですが、ただ単に500万円という金さえ積めば依頼できるわけではありません。Jが依頼を受ける作品には、条件があるのです。  それは「魂のある作品」でなければ依頼は受けない、ということです。逆にJが認めた作品であれば、たとえ500万円が払えなくても、依頼を受けてもらえる時があります。この辺は、なんかブラックジャックっぽいですね。  なので、Jが作品を読んで「いい作品です!」と言ったら、ほぼ間違いなく依頼を受けてもらえます。ただし、油断はできません。魂のある作品でも、本当に漫画家先生が追い詰められて原稿を落としそうではない時、まだ余裕がありそうだとJに見抜かれた場合は……。 「身を削り自らの全てを賭け限界を超えても、なおその前に締め切りが立ちはだかるときに私は引き受ける」 などと言われて、断ってしまうこともあります。Jが単なる報酬目当ての金の亡者ではなく、真にマンガを愛するプロフェッショナルであることがお分かりいただけるのではないでしょうか。  さて、そんなプロ中のプロであるコミックマスターJだからこそ、作品中で数々の名言を残しています。漫画界を震撼させるような、強烈な名ゼリフの数々をご紹介しましょう。 「漫画はつねにジャパニーズドリームでなければならない!」 「漫画大国日本で漫画を読めぬ奴は死ねっ」 「どんなに倫理に反していようが、漫画を守るためならどんな者にでもなる。鬼にも悪魔にでもな!」 「紙とペンしかない以上、自分を信じて描くしかない」 「夢であろうが現実でなかろうが、原稿を上げるのが先だ!」 「ギリギリだったな、命も原稿も」 「一家を養うための漫画など必要ないっ」 「逃げられなくなった漫画家達は闘うしかない、漫画という武器でな!」 「一流の漫画家ならば…原稿上げてから病気になれ!!!」  こんな感じで、行き詰まって弱気になった漫画家先生たちに、超厳しい気合を入れます。中にはどう考えても、物理的に無理なこと含まれてますが……。  もちろん、単なる漫画アシスタントが先生に向かってこんなこと言ったら大変なことになりますが、スーパーアシスタントJであれば許されるのです。なぜなら彼は……あらゆる漫画家を超越する存在だから。アシスタントなのに!  そんなに実力がある男がなぜアシスタントに甘んじているのか、自分の作品を出せばいいじゃないか! 皆さん当然そう思うことでしょう。そう、Jが自分の作品を世に出さない理由……それが、本作品の隠されたテーマでもあります。実は、Jが一度自分のマンガを描けば、その作品がすごすぎて世界が崩壊してしまうのです! J自身、それが分かっているから自分の作品を世に出せない……そんな苦悩と日々闘い続けているのです。  ちなみに作品の最終章では、Jが自作を世に出してしまった結果、本当に世界大戦が巻き起こり、崩壊してしまった後の世界が描かれています。それはもはや北斗の拳的な暴力が支配する世の中であり、マンガに関わる者を抹殺しようとするカルト組織が世の中を支配する、『20世紀少年』的世界でもありました。  そしてこの終末世界から再び平和な世界を取り戻すべく、漫画家たちが立ち上がる……そんな壮大なストーリーになっています。世界を崩壊させるのも、取り戻すのも、漫画家たちの役目。この世は、漫画家を中心に回っているのです。全然知りませんでしたね。  というわけで、今回は伝説のゴーストライターマンガ『コミックマスターJ』をご紹介しましたが、いかがだったでしょうか。作中では、ここでご紹介しきれないほどのマンガ名言の数々や、超リアルな漫画家の現場エピソードなどもお楽しみいただけます。とにかくゴーストライターを決して侮ってはいけないのです。ひとたびゴーストライターが本気を出したら、世界を滅ぼしてしまうこともあるかもしれません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

理解できたらヤバい!? 『東京都北区赤羽』清野とおるが描く、狂気の創作『ガードレールと少女』

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『ガードレールと少女 清野とおるマンガ短変集』(彩図社)
 みなさんは『東京都北区赤羽』(Bbmfマガジン)、そしてその続編『ウヒョッ!東京都北区赤羽』(双葉社)という作品をご存じでしょうか? 僕はこの一連の作品を読んだ時、「赤羽! そういうのもあるのか!!」と、まるで初めて『孤独のグルメ』(扶桑社)を読んだ時と同じような衝撃を受け、それ以来すっかり北区赤羽シリーズの虜になっています。  『東京都北区赤羽』および『ウヒョッ!東京都北区赤羽』は、東京の人以外あまりなじみのない、そして東京の人でも誰もが知ってるというほどの知名度でもない「赤羽」という土地にスポットを当て、赤羽に出てくる変な人や変な店、変なスポットなどを清野とおる先生が面白おかしく紹介しているノンフィクション・エッセイマンガです。もともとカルト的な人気を誇っていた作品ですが、今年1月、山田孝之さん主演のドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』(テレビ東京系)が放送されたことで、いよいよメインストリームに進出してきた感があります。赤羽の地価にもさぞや影響を与えていることでしょう。  ところで、作者の清野先生は、かつてこの日刊サイゾーでも「キ○チ○ガ○イと呼ばないで」という、やたらウ○コの話が出てくる文字通りキチxxな連載をされておりました。これがまためちゃくちゃ面白いコラムで、赤羽に限らずあらゆるノンフィクションな題材を面白く仕上げることができる天賦の才を発揮しています。  しかし『東京都北区赤羽』シリーズをはじめ、『Love & Peace~清野とおるのフツウの日々~』『清野とおるのデス散歩』(共に白泉社)などの一連の清野作品を読んでいて、常に感じていたのは、一見おバカなギャグの中に、ある種の狂気ともいえる、読んでいて背筋がゾクゾクとする「何か」が見え隠れしていることでした。  その清野先生の見え隠れしていた「狂気」の部分を凝縮した作品といえるのが、『ガードレールと少女 清野とおるマンガ短変集』(彩図社)です。この単行本は『東京都北区赤羽』のようなノンフィクションではなく完全なる創作マンガ集で、清野先生が描くかわいらしい画の上に、まったく理解不能なナンセンスギャグと、失禁しそうなほどの狂気が惜しみなく散りばめられており、ほとんどの読者が置いてけぼりにされる「読み手を試しているマンガ」と言えるでしょう。  この『ガードレールと少女』がいかに狂気に満ちているか、その内容を一部ご紹介しましょう(※ネタバレあり)。 ・「ま」  道路に書かれている「止まれ」の「ま」の部分だけを盗んで食べる女子高生の話。「ま」だけでなくカタカナの「止マレ」の「マ」を盗んで食べてみたら、あまりのおいしさにハマってしまい、日本中にあるすべての「止マレ」の「マ」を盗みつくすようになる。……ちょっと何言ってんだかわからないと思いますが、本当にこういう内容のマンガなのです。 ・「曲がれない男」  就職活動中に曲がり角を曲がったらカッパに火をふかれて全身火傷し、髪もアフロのようになってしまったトラウマで、曲がり角が怖くて曲がれなくなった男の話。男のお母さんが息子のトラウマを解消しようと、曲がり角に全裸の美女を設置。電信柱でポールダンスをしながら美女が男にこう語りかけるのです。「SHALL WE SEX?」…ちょっと何言ってんだかわからないと思いますが、本当にこういう内容のマンガなのです。 ・「ロフトの上の人」  賃貸の1LDKマンションを契約してみたら、LDKの「D(ダイニング)」がない物件だった。詐欺じゃないか、騙された! と怒る男。よく見ると、部屋のロフトの上に誰かいる……その男は、実はドッペルゲンガー(もうひとりの自分)だった。なーんだ、LDKの「D」ってドッペルゲンガーのことだったんだ!……ちょっと何言ってんだかわからないと思いますが、本当にこういう内容のマンガなのです。 ・「私のケサランパサラン」  友達の幸代に、手に入れると願いがかなうケサランパサランの都市伝説を教えてもらった由美子。偶然、ケサランパサランを手に入れ、憧れの「先輩と仲良くなれますように」と願う。そして、トラックにはねられそうになったところを憧れの先輩に助けてもらい、急激に2人の仲は親密に……ケサランパサランの噂は本当だったんだ! ・「地獄のケサランパサラン」  ケサランパサランによって由美子と先輩が仲良くなるのを、物陰から見ていた幸代。憧れていた先輩を由美子に奪われ、怒り狂った幸代はケサランパサランにお願いします。「由美子に恐怖を与えたまえ!!!」すると、ケサランパサランはドス黒く変色。黒くてフサフサの謎のバケモノが由美子に襲いかかる……ちょっと何言ってんだかわからないと思いますが、本当にこういう二部構成のマンガなのです。 ・「富士子」  道路を走るカップルの車。道には「危ない!!!子供の飛び出しには注意しましょう。」の看板が。と同時にライフルで武装した小学生ギャングたちが現れ、カップルの車を襲い、男はボコボコに、女はさらわれてしまいます。そう、看板の本当の意味は「『危ない子供』の飛び出しには注意しましょう」だったのでした。ちなみにさらわれた女の名前が富士子です。……ちょっと何言ってんだかわからないと思いますが、本当にこういうマンガなのです。 ・『ガードレールと少女』 少女の家は急な曲がり角の先にあるため、車がしょっちゅう家に突っ込んでくる。家の前に設けられたガードレールはその度に家や命を守ってくれた。父親が浮気をして母が家を飛び出した時も、母がガードレールにつまずいて転んだおかげで家出にならず、夫婦仲が修復された。そんな数々の恩があるガードレールが、度重なるダメージと老朽化で壊れる寸前に……。  今度は私がガードレールをガードする番! そして、少女はガードレールに突っ込んでくるバイクや車や大型バスや脱線した新幹線からガードレールを守るのだった。……ちょっと何言ってんだかわからないと思いますが、本当にこういうマンガなのです。  ちなみに対談企画も収録されており、『東京都北区赤羽』でも登場するコワモテおじさん、ジョージさんとの対談では、ジョージさんがグウの音も出ないレベルの的確な指摘をします。 「こりゃ駄目だな。売れる要素がねえ」 「まず絵がダメだ。薄気味悪くてとっつきにくい。それに何より、話の意味がサッパリ分からねえ。こういうジャンルを不条理っていうのかもしんねえけど、不条理は博打みてえなもんだな。一部のマニアが喜ぶだけで、大衆ウケなんてまずしねえ。売れたきゃこの作風から足を洗え」  はい……メチャクチャ正論です。ただしフォローさせていただくなら、大衆ウケしないというだけで、清野とおる流の高品質なナンセンスギャグがてんこ盛り。分かる人には分かる(ただし分からない人には一生分からない)そういう読者を選ぶ作品がこの『ガードレールと少女』なのです。僕は好きですこの作品集。自分が相当オカシイだけなのかもしれないけど。  ……で、偶然にもそんな『ガードレールと少女』の清野先生の表紙イラストで、偶然にも『ガードレールと少女』を出版した彩図社から、僕のマンガコラム本「このマンガ恐るべし…!!」が4月28日に発売されるのです。……ちょっと何言ってんだかわからない、とかスルーせず、書店で見かけた際には手にとっていただけますよう、よろしくお願いいたします! (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

こんな刑事はイヤだ!! 恐るべき方法で事件を解決する「特殊スキル刑事マンガ」特集

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 『めしばな刑事タチバナ』というマンガをご存じでしょうか? 立ち食いそば・マイナー牛丼チェーン・カップ焼きそば・ポテトチップス等のB級グルメに異常なこだわりとウンチクを持つタチバナ刑事が、取り調べで容疑者に対し、ガチな「めしばな」をしてB級グルメワールドに引き込み、気がついたら容疑者が自白してしまっているというマンガです。手荒な取り調べはせずに、ほんわかムードで事件が解決します。  世間にはグルメマンガとして認識されている作品ですが、刑事マンガの観点で見ると、これほど異例な存在はありません。実は、今回はこういった一風変わった能力で事件を解決する、特殊スキルを持つ刑事マンガをご紹介したいと思います。  特殊スキル刑事マンガの起源は、『スケバン刑事』にさかのぼります。初代・斉藤由貴、二代目・南野陽子、三代目・浅香唯、四代目・松浦亜弥と、まるで歌舞伎役者のごとく「麻宮サキ」のコードネームを襲名させるドラマシリーズが有名ですが、実のところ原作は「花とゆめ」(白泉社)に連載されていた少女マンガです。「スケバン」+「刑事」という意外性がありすぎるキーワードの組み合わせ、「刑事」と書いて当然のように「デカ」と読ませる語呂のセンスの良さ。銃の代わりにヨーヨーを武器として使うという意味不明なこだわり、あらゆる要素が奇跡的に絡み合った、まさに元祖特殊スキル刑事マンガといえましょう。  では、そのほかに、いったいどんな特殊スキルを持った刑事がいるのでしょうか?  ■『占い刑事』(著:桑沢篤夫/ヤングジャンプコミックス)
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 その名の通り、占い師兼刑事の男が主人公のマンガで、易学の知識で難事件をバンバン解決します。主人公・城戸我宝(きどがほう)は、警察署内にいる時も易者スタイル。誰が見ても、一目で占い師とわかります。むしろ、刑事だとわかる要素はゼロです。  張り込みの際には趣味と実益を兼ねて、町の占い師に扮して張り込みます。しかも、よく当たるという評判で、行列までできてしまいます。もはや、張り込みどころではありません。  取り調べでは、容疑者への聴取そっちのけでいきなり四柱推命占いを開始。続いて姓名判断で画数判断、そして手相……と占いのフルコース。どうやら容疑者の今日の運勢は、最悪の模様です。そりゃそうだろ、捕まって取り調べ受けてるんだから。  次々と容疑者に繰り出される占いがこどごとく的中するため、容疑者のメンタルがかなり揺さぶられます。最後に人相占いをしたところ、女運も最悪でした。ついに観念した容疑者は、女性関係のトラブルが元で金銭を奪ったことを自白してしまうのです。……これこそが、占い刑事の取り調べ術。威圧的な態度も取らず、暴力も使わず……それどころか、証拠さえも必要ありません。ただ占うだけで容疑者を落としてしまうこの能力、まさにスーパー刑事ですね。 ■『キッテデカ』(著:寺沢大介/ビッグコミックス)
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 これまた文字通り、切手マニアな刑事のマンガです。主人公・前島郵雅(まえじまゆうが)は、署内ではいつも切手のコレクションを眺めているだけのグーダラ刑事ですが、切手はもとより郵便に関する知識がものすごく、証拠品で切手や郵便物が押収されると、それを手がかりにほぼ100%難事件を解決してしまうという、特殊スキルを持った刑事です。  ……いやいや、切手が絡んだ事件なんて、そうそう都合よく発生するわけないだろ! と思う方もいるかもしれませんが、これが大変不思議なことに、ストーリー上の不自然さはまったくなく、頻繁に切手絡みの事件が発生するのです。マンガの世界を甘く見てはいけません。 <事例1>  連続窃盗団が盗んだ盗品の中に、1枚の手紙がありました。手紙に貼ってあった切手は、高価な「見返り美人」。この切手を手がかりに、キッテデカが全国の切手商ネットワークへ連絡。「見返り美人」を切手商に売りに来た人間を指名手配し、まんまと窃盗団を芋づる式に逮捕します。 <事例2>  新宿区で身元不明の老人の誘拐され、老人の物とみられるプレミア切手「月に雁」を綴じたアクセサリーが発見されました。この「月に雁」切手の消印日が特殊であったことから、キッテデカがその切手の消印を押した西新宿の郵便局員に聞き込みを行ったところ、老人の身元が判明。その老人を脅していた地上げ屋の強制捜査で、見事老人は救出されたのでした。  そんな感じの、どう考えても普通の人では分かりかねるディープな郵便知識を駆使し、毎回、難事件をバリバリ解決。しかもその過程で…… 「歴代の前島密1円切手の見分け方」 「切手の印刷時に異物が付着して汚れた状態で印刷されたエラー切手を“定常変種”と呼ぶ」「切手の裏糊はポリビニールアルコール製で、微かに甘味があり、身体には無害」  などなど、刑事マンガを読んでいると思ったら、いつの間にか興味のない人にはまったくどうでもいい、切手についてのマニアックなウンチクが身についてしまうという恐るべき作品です。 ■『胸キュン刑事』(著:遠山光/少年マガジンコミックス)
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 作者は遠山光先生です。遠山光先生の代表作といえば、ほかにも『ハートキャッチいずみちゃん』があります。どちらも少年マンガの枠の中でエロ表現のチキンレースを行う、いわゆる「寸止めエッチマンガ」で、多くの小中学生たちをイライラムラムラさせてきました。  主人公は音羽署捜査一課に配属された新人女刑事「皇くるみ」(すめらぎくるみ)です。くるみが生まれつき自分に備わっているある超能力を駆使して難事件を解決していくというストーリーなのですが、その超能力がスゴいのです。  なんと、犯罪者が近くにいると、乳首がピーンと反応するのです。しかも的中率は100%、警察犬よりも優秀です。つまり、もうお分かりですね……? 犯人を見つけると胸の乳首がピーンと立つから、『胸キュン刑事』なのです!  ストーリーの定番は、容疑者に「胸キュン」したくるみが、おとり捜査を敢行。色仕掛けで容疑者に接触し、犯罪のしっぽをつかみます。ところが、途中でおとり捜査がバレて、くるみは拉致。服を脱がされ、“このままじゃ、ヤラれちゃう!”というところで張り込んでいた同僚の刑事が乗り込み、犯人を現行犯逮捕。一件落着、めでたしめでたし。  一方で、くるみが脱がされるシーンでムラムラさせられた挙げ句、寸止めを食らった小中学生読者は全然めでたくない。というのが、毎回のお約束となっています。 ■『大相撲刑事』(著:ガチョン太朗/ジャンプコミックス)
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 こちらもタイトルがそのまま内容を物語っていますが、相撲取りの格好をした刑事が主人公のマンガです。本作品は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)に連載され、そのあまりにブッ飛んだ設定と、インパクトの強すぎる絵柄と、常に滑り気味のギャグセンスで、10週打ち切りとなりながらも、多くのジャンプ読者に「伝説の打ち切りマンガ」と評されました。打ち切りになってなお人々の記憶に残る、ある意味で稀有なマンガです。  主人公「大関」の経歴は元FBI捜査官という輝かしいものですが、普段からチョンマゲにまわし一丁の姿という、刑事のくせにいつ職務質問されてもおかしくない姿をしています。さらに、なぜ普段から力士の格好をしているかについては一切説明がありません。  短気で、破天荒かつ感情的であり、バイオレンス。国際線のファーストクラスに土俵を持ち込んで座ったり、取り調べ時の食事でチャンコを頼まなかった犯人にブチ切れたり(普通、頼まないだろ……)、犯人を張り手でブッ叩こうとして、勢い余って警察署の壁を張り手で破壊するという、北斗の拳のラオウも真っ青の壁ドンの威力を持ちます。  どんな凶悪犯罪でも相撲の力技で解決してしまう凄腕刑事なのですが、このマンガでは悪党を改心させるためのお約束のネタがあります。 「明日までにレポート300枚書いてこい! タイトルは、エレキギターと鼻毛切りについてだ!!」 「え、それを書くと罪が軽くなるんスか?」 「ならん!!!」  これが、大相撲刑事の定番ギャグです。悪党に無茶なテーマと無茶な枚数のレポートを課し、でもそれをやったところで一切メリットはないという……。ちなみに、ほかのレポートのテーマも「木工用ボンドと登校拒否について」とか「アイドルと北方領土」とか、ひどいのばかりです。 ■『ちんぽ刑事』(著:丘咲賢作/アッパーズKC)
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 文字通り、ちんぽがデカい刑事が主人公のマンガ。内容はないに等しく、「ちんぽデカッ!」って言いだけのギャグマンガです。 ***  というわけで、後半に行くに従って特殊スキルでもなんでもなかった気もするわけですが、とにかく刑事マンガはあまりに作品数が多すぎて、もはや平凡な設定の刑事マンガでは目立つことができません。エッジの立ったキャラクターの刑事が登場しなければ、差別化できない状況となっているのです。  きっと今後も、より過激で誰も思いもつかないような特殊スキルを持った刑事が登場することになるのでしょうね。ちなみに最近は、未読の『ボディコン刑事』『火星人刑事』あたりがどんな作品なのか気になってます。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

矢沢永吉『成りあがり』のマンガ版が、原作以上にロックしすぎて“ルイジアンナ”な件

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『成りあがり』(角川書店)
 みなさんは、永ちゃんこと矢沢永吉の自伝『成りあがり』(角川書店)を読んだことはありますでしょうか? 永ちゃんの少年時代や青年時代の超貧乏な苦労話に始まり、伝説のバンド「キャロル」の結成から解散までの秘話、そしてソロミュージシャン矢沢永吉として成功する、文字通りロック界のスーパースターの成りあがりの過程が書かれています。  これは幾多のタレント自伝の中でも傑作と言わざるを得ない作品で、永ちゃん独特の「アイラブユーOK」な口調から繰り出される数多くの名言があらゆる世代の心を打つ自伝であり、悩める男たちへの熱いエールであり、ビジネスマン向けの自己啓発本としても役に立つという、すごい名著なのです。 「家に金入れないでヘイベイビーとかって感覚、オレは嫌いなんだよ。ロックンローラーの資格ない」 「マジメなのよ、オレ。えらいマジメ。オレ。えらいマジメなの。結婚前提でどう?」 「バカはダメよ。バカはやめろと言いたい。まわりが迷惑するから。義務教育、ポイントだけ押さえて、あとはファッファッとしてればいい」 「ロックンロールはオレにとっちゃ空気みたいなものなんだから。息を吸って、吐き出せばもうロックンロールができあがってる」 (『成りあがり』より)  などなど、ページをめくるたびにロックなノリの名言連発。自伝物によくある、いかにも“ゴーストライターが書いてます”みたいな小ギレイにまとまった文章じゃなくて、永ちゃんらしい、フィーリングが先行するこの感じが逆に新鮮で、普段本を読まないような人たちでも思わず最後まで読んでしまう、そんな不思議な魅力があります。  その名作『成りあがり』がマンガにもなっていたのは、ご存じでしょうか? 実は本作は過去に2回、マンガ化されています。1度目は1993年、2度目は2008年で、どちらも『成りあがり』を原作としながら、とても同じものとは思えない、まったく別のマンガとなっています。今回は、この2つのマンガ版『成りあがり』をご紹介したいと思います。
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■コミック版成りあがり(作画:江原良道/風雅書房)  93年に発刊されたコミック版『成りあがり』のストーリーは、原作の時系列に沿って忠実に描かれており、原作の細かいセリフの言い回しや解説についても、マンガでありながら相当細部まで再現。名著のコミカライズとしてかなり気を使って描かれているのが感じられます。  そういう意味では非常に自伝マンガらしい構成なのですが、一方で画についてはまさかのギャグテイストでブッ飛んでいます。幼少期、広島時代の永ちゃんは新聞の4コマ漫画に出てきそうなガキンチョで、コボちゃんやサンワリ君あたりを想起させる画のタッチなのですが、純然たるキッズでありながら、なぜか磯野波平のように両サイドの髪を残して頭頂部がスッカスカという非常にかわいそうなルックスで描かれており、貧乏で苦労しているのがビンビンに伝わってきます。  高校生からバンドデビューするまでの永ちゃんは、頭頂部スカスカからフサフサへと無事トランスフォームしたものの、今度はなぜか西川きよし師匠かシンプソンズかというほどに、目玉が飛び出たギョロ目のキャラクターに変貌します。ところどころで普通にリアル永ちゃんの顔になるシーンがあるので、明らかに意図的にギョロ目キャラとして描いているのですが、その意図が全然わかりません。まあシンプソンズは、アメリカではロック色の強いアニメなので、ロックつながりといえばロックつながりですが……。  さらに驚かされるのが、女子キャラです。男子キャラが軒並みギョロ目のシンプソンズ状態なのに対し、女子キャラはなんと『きまぐれオレンジ☆ロード』を彷彿とさせる、昭和な香り漂う美少女です。永ちゃんの初体験のシーンでは、シンプソンズな永ちゃんがオレンジ☆ロードのひかるちゃんみたいな女子キャラとまぐわって、絶頂とともに富士山がドカーンと爆発するという、シュールな様子が描かれています。この世界観は、ちょっとほかに例えようがありません。  通常自伝マンガといえば、多少なりとも美化して描かれるものですが、この作品は完全にその真逆を行っています。あえてこのブッ飛んだキャラクターでの自伝をOKした永ちゃんの器のデカさが、実にロックであるといえます。
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成りあがり 矢沢永吉物語(作画:きたがわ翔/角川グループパブリッシング)  続いて08年、比較的新しめの『成りあがり』コミカライズ作品。こちらは、作画がきたがわ翔先生です。きたがわ翔先生といえば、『19(NINETEEN)』『B.B.フィッシュ』『ホットマン』等の作品でイケメン&美女が多数登場しまくっていますので、この時点で永ちゃんがきっちり美麗イケメンに描かれることは確定路線であり、安心して読むことができる自伝作品であるかのように思われました。  しかし、この『成りあがり 矢沢永吉物語』は、別の意味で壮絶にロックしていました。なにしろこのタイトルですから、普通に考えれば誰もが主人公は永ちゃんだと考えるところですが、実は違うのです。この作品の主人公は「内田忠志」なる、仕事に疲れたサラリーマンなのです。……誰だよ、お前。  忠志の父・平太は熱狂的な永ちゃんファンであり、忠志は子どもの頃から父親・平太に永ちゃんのコンサートに連れて行ってもらっていました。しかし思春期、反抗期となりだんだんと疎遠になってしまい、大人になった今はすっかり話さなくなってしまったのでした。  そんな忠志に、実家からの一本の電話が……。父・平太が病気で亡くなったのです。実家に戻り、父親の形見である永ちゃんのライブビデオや『成りあがり』を発見。忠志が父の遺した『成りあがり』を読み進めるのに合わせて『成りあがり』のシーンがマンガで描かれていくという、非常に凝った構成になっています。  つまり主人公の忠志、父の平太、そして永ちゃんという3人のキーパーソンが作品中に存在し、しかも途中で平太が永ちゃんに影響されてこっそり書いていた手書きの自叙伝『裏・成りあがり』が遺品として見つかるくだりでは、平太の少年・青年時代の回想シーンにさかのぼります。さかのぼったと思ったら現代の忠志の時代に戻ってみたり、今度は永ちゃんのバンド結成時代へ場面転換してみたり……。ちょっとした、バック・トゥ・ザ・フューチャー状態です。  さらにややこしいのは、主人公の忠志、若かりし頃の平太、若かりし頃の永ちゃん……3人とも、きたがわ先生らしいスッキリしょうゆ顔のイケメンとして描かれており、今読んでいるのが3人のうち一体誰の話なのか、だんだんわからなくなってきます。単なる自伝コミカライズにとどまらないこの複雑なギミックこそ、まさにロック……。ロックはロックでも、プログレッシブ・ロック寄りですけど。とにかくナメてかかるとノックアウトされる、ハンパな自伝じゃなかったのです。 ***  というわけで名著『成りあがり』と、そのコミカライズ作品を2作品ご紹介しました。マンガ版はどちらも原作を読んだ後なら超絶楽しめること請け合いであり、逆に原作を読んでなければ、あまりのファンキーモンキーベイビーすぎる展開にお口ポカーンになってしまう可能性がありますが、日本人男子ならば3冊とも必読の作品であることは言うまでもありません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)

オトナ男子に読んでほしい、禁断の“変態少女マンガ” 岡田あーみん3部作のススメ

 岡田あーみんという少女漫画家をご存じでしょうか? 現在30代の女性であれば知っている人は多いかもしれませんが、サイゾーの中心読者層である男性陣は意外と知らないかもしれませんね。  あーみん先生は1983年にデビューし、集英社の少女マンガ誌「りぼん」に『お父さんは心配症』『こいつら100%伝説』『ルナティック雑技団』という、いわゆるあーみん三部作を連載。カリスマ的人気を誇った後、忽然とマンガ界から消えてしまった伝説の漫画家です。『お父さんは心配症』連載当時は、同じ「りぼん」の『ちびまる子ちゃん』と共に2大少女ギャグマンガとして君臨し、その後、テレビドラマ化されるほどの人気を誇りました。  そんなあーみん先生の作風は「少女漫画家界に咲くドクダミの花」と呼ばれており、今までの少女マンガとは一線を画した、奇行癖を持つ変態キャラたちが猛スピードで意味不明なギャグを繰り出し続けるという内容で、王道的ラブコメ路線に慣れていた当時のりぼん読者の度肝を抜きました。  岡田作品はいたいけな乙女たちの少女マンガ観を、いや、もしかしたらその後の人生観までをも根本から覆すパワーを持っていたんです。まだ10年そこそこしか生きていない少女の人生観を根底から変えるって、並大抵の事象じゃないですよね。  ちなみに変態といっても、ここでは性的な意味での変態を指しているのではありません。当時は、いわゆる奇行癖を持ったギャグマンガキャラクター全般を「変態」と呼ぶ傾向がありました。おそらくそのルーツは、新沢基栄先生の『3年奇面組』にあったと思われます。しかし、昔から多種多様なギャグマンガが存在していた少年マンガならまだしも、お目めキラキララブコメが主流の少女マンガ界に突如として変態キャラを登場させたことが、いかにすさまじいイノベーションであったか想像に難くありません。  では変態少女マンガに疎い、変態少女マンガ童貞なオトナ男子のあなたのために、伝説のあーみん3部作の見どころを、それぞれご紹介していきましょう。
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『お父さんは心配症』
 主人公は、女子高生の典子の父、佐々木光太郎。典子がまだ幼い頃に妻と死別しており、男手ひとつで娘を育てているシングルファーザーです。この光太郎(通称パピィ)こそが、あーみん作品を特徴付ける変態キャラのルーツなのです。  典子には同級生の北野くんというボーイフレンドがおり、典子と北野くんの交際を心配性すぎる光太郎が、あらゆる手を使って妨害するというのがこの作品の基本ストーリーです。娘の異性交遊を心配するのは、父親としてごく当然の心理であるかのように思います。しかし、その妨害の仕方が想像を絶しており、今の時代なら家庭内ストーカー状態で接近禁止命令が出されてもおかしくないレベルなのです。  典子に対しては、電話を盗聴する、門限に30分遅れると警察に捜索願を出す、デートを尾行するなどは日常茶飯事。ボーイフレンド北野くんへの攻撃はこんなものでは済まされず、「北野」と書いたわら人形に五寸釘を打ち込む、斧で斬りつける、木に縛りつけて弓矢で狙う、バスガイドに女装して部活の合宿に潜入する、アパレル店員に変装しマネキンの足で殴る、背中を工事用ドリルで突き刺す……。  などなど、常に血しぶきが飛び交う容赦ない妨害工作が行われます。こうしてテキストで書くとまるでホラーマンガのようですが、もちろん完全なるギャグマンガです。しかし間違いなく、ある種の狂気も感じられます。このギャグと狂気の織り成すコンビネーションは大人が読んでもすさまじいと感じるので、子どもの頃にリアルタイムで読んでいた現在30~40代の女性には、さぞや強烈なエクスペリエンスだったことでしょう。
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『こいつら100%伝説』
 タイトルからは内容がまったく想像できませんが、忍者3人組が主人公のギャグマンガです。多少ラブコメ要素のあった『お父さんは心配症』に対して、設定を戦国時代の忍者物にしたためか、ギャグ方面がさらにレッドゾーン振り切ってる感じでキレッキレに研ぎ澄まされており、分かる人には超わかるが、理解できない人にはまったく理解できないギャグマンガの境地に入っている作品です。  ストーリーは白鳥城のお姫様・姫子を守る3人の見習い忍者と、そのお師匠様によるドタバタコメディです。3人の忍者は、クールだけど超自己中でサディスティックな極丸(きわまる)、ナルシストで奇抜な変態キャラの危脳丸(あぶのうまる)、かわいらしい見た目で意外とやってることがエグい満丸(まんまる)というキャラ付けがされています。  途中からテコ入れキャラ(?)としてなのか、「ターミネーター」なるデューク東郷顔の殺人サイボーグが突如レギュラーキャラとして参入します。戦国時代なのにターミネーターという、ストーリーの脈絡のなさも本作品のなんでもアリ具合を象徴しています。  変態ギャグの登場頻度は、前作の『お父さんは心配症』を上回るハイペースです。 「ハーフわき毛日本一」 「すみません、ぼくのおちちはおでこにあるんです」 「今日も元気に男好き!! はーっあっ!男好きったら男好き!!」 「要するにおまえがちちさわり魔か?」 「墓石だるま落とし、墓石ドミノ」 「マスター作ってくれよぉ、涙忘れるカステラ」 「鬼頭オパーリン」 ……等々、ここで字面だけ書いたところでさっぱり意味がわからないかと思いますが、かといって実際のコマを見たところでやっぱりよく意味がわからないという、奇妙奇天烈なギャグ三昧のマンガです。結局、何が100%なのかもよくわかりません。
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『ルナティック雑技団』
 あーみん三部作の最終章となる『ルナティック雑技団』では突然、画のテイストがグレードアップして、まるで少女マンガのようになりますが、それはあくまで見た目だけ。やはり少女マンガの皮をかぶった、変態ギャグマンガでした。少女マンガ風の画柄で一瞬油断させられるだけ、逆にタチが悪いです。  本作品のヒロインは星野夢実。両親が海外出張となったために、父の部下である天湖(てんこ)家に下宿することになります。  天湖家には、夢実が通う学園のプリンスであり、孤高の貴公子といわれるスーパーイケメン、天湖森夜(もりや)が住んでおり、憧れの森夜と夢実による一つ屋根の下のあま~いラブコメディになる……かと思われたところが、岡田作品にそんな少女マンガの一般常識は通用しません。  そこに立ちはだかるのは、森夜の母親、ゆり子(通称:マダムゆり子)。この女こそ佐々木光太郎の女版であり、あーみん三部作の中でも群を抜くレベルの変態キャラなのです。  マダムゆり子は、溺愛する森夜と夢実がいい仲になるのを徹底的に妨害します。その一つ一つのセリフがまた狂気を帯びています。 「ご上司さまのご令嬢さまがこんな むさくるしい所にようこそ。わたくし天湖とつがいになっておりますゆり子でございます」  初めはこんなセリフで夢実を丁重に迎え入れるゆり子。まあ、この時点ですでに人として何かがおかしいセリフですが。夢実と森夜が接近しだすと、すぐにタガが外れたように狂気のセリフを連発。 「出てけーめぎつね このいら草でおいはらってやるー」 「思春期から発情期へ通じるけもの道をなんとかなんとか寸前で禁猟区よ!!」 「あの女は魔性の女…男をまどわす夢食い妖婦(バンプ) 少女の仮面の下は獣盛りの東洋毒婦」 「よくもうちの息子を そのイヤらしいひとさし指で なぶり いたぶり もてあそんでくれたわねェ」 ……仮にも、夫の上司の娘へ向けて話す言葉とは到底考えられないレベルです。もちろんマダムゆり子のほかにも、 「学校なんかやめちゃってデカダン酔いしれ暮らさないか、白い壁に『堕天使』って書いて!?」  みたいな「特攻の拓」もビックリの中二病あふれるイカしたセリフを吐く愛咲ルイや、 「その生意気なセーラー服と大人を軽蔑しきった白いソックスがどんなに私をイライラムラムラさせているかわかってらっしゃいますか お嬢様」  ……みたいなセリフで、ダンディなルックスながら下ネタを連発する執事・黒川など、魅力的な変態キャラが多数登場します。変態キャラ選手層の厚さではV9時代の読売巨人軍に匹敵するレベルのマンガなのですが、圧倒的な妖気を漂わせる変態主婦、マダムゆり子こそがやはり最強であると主張しておきます。 ***  というわけで、一部の女子にカルト的な人気を誇る岡田あーみん三部作の見どころを、オトナ男子目線でご紹介しました。  私見ではありますが、オトナ男子が初めてあーみんワールドに触れるなら、やはり一見少女マンガ風でおとなしめの『ルナティック雑技団』から読んでみることをオススメします。この作品で少し慣らし運転してから、よりディープで危険な香りのする『こいつら100%伝説』『お父さんは心配症』へと読み進めていくことで、心身へのダメージを最小限にしつつ、変態少女マンガの世界にズブズブと入り込んでいくことができるでしょう。そして、あなたもいつしか、「あー民」と呼ばれるコアなファンになってしまうかもしれません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>)