
撮影=後藤秀二
総勢100名の若手芸人が本気の勝負を繰り広げるよしもと大運動会、通称“ラフスポ”。パンサーら人気若手芸人がファンから黄色い声援を浴びる中、粛々とレポーターの仕事を務めていたのがこの二人。マテンロウ・アントニーとデニス・植野行雄。ハーフ芸人という独自のポジションを得た彼らから見える、現在の若手芸人事情とは――。大運動会に負けず劣らず、熱い戦いがそこにはあった。
アントニー (DVDのパッケージを眺めながら)お気づきの通り、DVDのプロモーションする割には、僕らが端っこにしか写ってないというね。
――お二人は『LAUGH SPORTS FES 2014 in CHIBA~よしもと若手“ほぼほぼ”オールスターズ大運動会』スペシャルレポーターですから。
アントニー しかしね、まさかワールドカップの真裏でこんなことをやるとは……。
植野行雄(以下植野) そう! 日本戦の一番大事な試合のとき(対コートジボアール戦)にね。よしもとも勝負に出たなと思って。
アントニー そんな中で、このイベントに足を運んでくれたわけでしょ。これは背負うものがデカい。
――ワールドカップよりも素晴らしいものを見せないと。
アントニー 日本で認められたサッカー選手たちと、よしもとからも認められていない芸人たちとね。
植野 アントニーなんか、みんなにイジられてな。運動会が始まる前、ホテルのテレビで試合を観戦してたんですよ。みんなが日本を応援している中、アントニーだけコートジボアールを応援せなあかんみたいになって。コートジボワールがファールしたら……。
アントニー 僕に向かってブーイングですよ。
――しかし、ワールドカップに負けず劣らず、熱い大会でした。
アントニー 熱いというか、暑かったです。ここでは「若手」と銘打ってますけど、基本的にみんな30過ぎてるんで。スタミナのほうが後半キツかったですね。一番印象に残ってるのは、行雄ちゃんとの二人三脚。何回もフライングしてね。
植野 はたから見たら、単に囚人が逃げてるだけという。
アントニー 鎖でつながれて(笑)。
――いいコンビネーションを発揮されてました。
植野 でも、やっぱり足速くてキャーキャー言われたいですよ。もう一回運動し直そうかなと、終わった後にマジで考えましたもん。
アントニー インポッシブルの井元さんとかチョコレートプラネットの長田さんとか、カッコ良かったっすよね。
――長田さんは、体つきもすごかったです。
植野 トップアスリートの体つきしてますよね。なんでやねん(笑)。
アントニー あとはパンサー向井さんと尾形さん。期待を裏切らない。ただ菅さんだけは、マジで使えなかったですけどね。俺より足遅いとかどういうこと?
――何かとんでもない事件などはありましたか?
植野 事件というか、ファンの子と木陰で談笑してる芸人の多いこと!! ホンマ、これなんなん? って。
アントニー 俺と行雄ちゃんが二人で歩いてても、誰も近寄ってこないのに。
――ファンにとっては、夢のようなイベントですよね。
植野 めっちゃ近寄れるし、フリーでしゃべれますもんね。でもファンの子たちはね、俺らを見て「一応……写真撮っとくか」だけなんですけど。
アントニー 一番分かりやすい記念としてね。自分が喜ぶ写真ではなく、友達に見せる用。
植野 でも、僕らが出場することで、来年あたりから世界戦になるかもしれませんよ。どっかのアメリカのコメディ事務所みたいな。
アントニー 「面白いおじさん達チーム」「情熱トライアングルズ」「おしゃべり野郎Aチーム」「チーム★スーパールーキー」と、もう一つ僕らが作りましょう。ハーフのやつらを集めて。
植野 今後、もっと広がる可能性ができましたよね。もっとワールドワイドに。
アントニー とはいえ、「面白いおじさん達チーム」はやっぱり面白かった。意外に大西ライオンさんが足速かったり。あと、先輩なのに、お昼ご飯のカレーをみんなによそってくれた。
植野 しかし、あの人たち、なんでそんなにしゃしゃんねや! ていうくらいしゃしゃってましたよ。芸歴3年目くらいの若手がいるのに、あの人たち18年目とかザラですよ。
アントニー しかも、競技じゃないところでグイグイくるんですよ。競技のときは満身創痍。全員どっか痛そうにしてた(笑)。
――芸歴15年差をものともしないというのが、なんというか山本昌みたいです。
アントニー ……たとえが、おばさんですね。
――(笑)。「若手」と一口に言っても、それぞれですね。
アントニー NSC2期生が若手だったら、僕らはなんなんだっていう……。
――芸人さんの中で「若手」とは、どれくらいの芸歴のことを指すんですか?
アントニー 都合よく、誰もが「売れるまで若手」って言いますね。そういうシステムじゃないですか。ピースさんとか見ると、「若手」って感じしないですもん。
植野 フットの後藤さんあたりが「中堅」とされてますからね。
アントニー 若手の高年齢化は、いかんともしがたいものがありますよ。
――厳しい問題です。
植野 でもね、このイベントも護送車みたいなバスに乗せられてくるわけですよ。50人乗りのバスに50人で乗ってくる。詰め込まれて、補助席も使って。そこでまず疲労困憊なんです。朝も早くから千葉の奥地まで。あれに耐えられたら、みんな「若手」ですよ。
――でも考えてみたら、たくさんの芸人さんがいる中で、これに出られるという時点でかなりの実力者ですよね。
アントニー そんなことはない(笑)。
植野 いやいや、結構絞られてるで。
アントニー そんな栄誉のメンバーですか?
植野 栄誉のメンバーよ。若手大注目枠やで。
アントニー でもまぁ、いま若手としてこれに出て、がむしゃらに運動して“いつか売れるぞ!”って思ってやってましたけど、どんなに頑張って売れても、これは続くんだと悟りました。
――今回もいくつかチームに分かれて競い合っていましたが、実際に若手芸人の中でも派閥みたいなものはあるんですか?
植野 あ、でも(後輩を)連れていってる人は連れていってますよ。(派閥を)作ってる人は作ってる。
――お二人はいかがですか?
植野 いや、ないですね。組織的にはフリーでやってます。フリースタイルで。
アントニー 行雄ちゃんは一匹オオカミタイプだから。
植野 一匹オオカミではないけど、仕事終わりにご飯行ったりはしますよ。ライブ終わりにそれこそハイエナ的に「ご飯行きませんか?」って言われたら、そりゃ行くしかないでしょう。
――もちろん先輩がおごるわけですよね?
植野 だからね、このDVDに出てる先輩方も大変だと思うんです。「じゃ、飲み行くか?」って居酒屋に行くじゃないですか。そうすると、たまに二次災害があるんですよ。行った店に、さらに後輩がいるという。そうなると、そっちもおごらないけないんで。
アントニー 「遠くの飲み屋に行く」っていうのは鉄則だよね(笑)。
――先輩後輩だけじゃなく、「売れてる」「売れてない」という要素がからんでくると、また人間関係が複雑になりそうです。世間的な認知度がそんなに高くない先輩との付き合い方で、苦労されることはないですか?
植野 ここ(劇場)に来たら、めちゃフラットなんです。
――劇場での認知度とテレビの認知度は、必ずしもイコールではないですもんね。そこがまた悩ましいところではないかと。
植野 そこは本当にハーフで良かったと思うところです。
アントニー あんまり気にしないで済むから。
植野 「オイ、前説やっとけヨ」って軽口がたたけますし、先輩たちにとっても僕らはライバルじゃない。枠がちゃうから。
アントニー あいつがテレビに出てるからといって、俺の枠が奪われているわけじゃないと。
――テレビには「枠」や「席」があるんですね。
植野 最近はあんまりないですけど、「ハーフ芸人」の頃とかね、「植野さんにホンマ出てほしいんですよ~」って言われてた仕事がどうしてもスケジュール合わなくて受けられなくて、ある日テレビつけたら、その番組にしれっとアントニーが出てましたからね。
アントニー もう、どっちでもよかったんだろうね(笑)。
植野 同期やし、しゃあないなと。家も5分くらいのところに住んでるしな。
――まさに、スープの冷めない距離ですね。
アントニー ……先ほどから、たとえがおばさんですよ。
植野 (笑)。しかも、間にチャドさんも住んでる。
アントニー 外国人に優しい町だよね。
――やっぱり『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の「ハーフ芸人」でのブレークはすごかったですよね。本当に、テレビで見ない日はないというくらいに。
アントニー 1回の出演によるインパクトが強いだけなんですよ。自分たちでは「1回で3回分」って呼んでます。
――ワールドカップもブラジル大会ということで、植野さんはそこでもご多忙だったのではないですか?
植野 そうですね。マルシアさんとサバンナ八木さんとの三つ巴で(笑)。
アントニー なんか最近、行雄ちゃんの笑顔が止まらないんですよ。
――どうしてですか?
アントニー お笑いのギャラって、しばらく後の入金なんですよ。
――なるほど!
アントニー 今まで買い物も全然してなかったのに、最近急に買いだしたよね? あと引っ越すって言いだした。

――(笑)。お二人は今、どんな芸人さんを目標にしているんですか?
アントニー それよく考えるんですけど、本当に前例がないので……。
――パイオニアですもんね。
植野 開拓しているところが正しいのかどうかは分かりませんが。そもそも、ほかの芸人さんと戦ってないもんな。僕ら戦ってるの、ふなっしーですから。ゆるキャラがライバル。
アントニー だから新しい何かが出てきたら、僕らはいなくなってますよ。
――そんなことないですよ。
アントニー じゃあ聞きますけど、今、せんとくん好きな人います?
――……。
アントニー この無言が答えですよ。3年後、「いたね?」ってなってますよ。
植野 いや、俺は絶対に生き残る! チャンスだと思ったら、周りを蹴落としてでも前に出ますよ。ブラジルサッカーですから。
アントニー 番組に二人で出るとき、行雄ちゃんは「今日のこの仕事は大事だ」って、入念な打ち合わせを持ちかけてくるんですよ。「じゃあこういう場合はこうして……」「せやな。最初から飛ばさんと、徐々にいこか」とか話しておきながら、番組が始まった途端、めっちゃスタートダッシュするんです(笑)。それからも絶対にボールを離さない。ブラジル人の悪いクセだ。
植野 今、マサイ族のハーフでリロイ太郎っていうのも出てきてるんです。だから「最近のハーフ芸人はどうですか?」とか聞かれると率先して「いや~、リロイ太郎っていうマサイ族のハーフがいて~」って話題にしちゃうんです。
アントニー ……最低ですよ。
植野 そうすると、リロイ太郎はテロップに出るじゃないですか。リロイは「植野さん、名前出してくれてありがとうございます!」って感謝して、僕は「いや、ええよ。仲間やから」って言う。
――いい話じゃないですか。
アントニー だけど、リロイはテロップ出て終わりなんです。番組に呼ばれることはない。面白い話は、行雄ちゃんがバラしちゃってるから。
――悪い先輩だな~。
植野 でもね、当時ハーフの話してるやつなんか誰もいなかったんです。それが(「ハーフ芸人」以降)他事務所のハーフも一斉に「こっちだこっちだ」って向かってきた。だってみんなそれなりのエピソードは持ってるから、それをワンテンポずらすだけでいい。ハーフ芸人集めたネタ見せなんか、全員が全員同じネタですからね。「切れるぞビザが」とか「来い(濃い)よ!顔が」とか。
――でも、芸人さんに限らず「自分だけでも……!」という気持ちは大切だと思います。
植野 僕だけかもしれないですけどね、性格悪いのは(笑)。ただ地を這ってでも売れたいとは思います。
アントニー このDVDを見ても分かると思いますけど、いい年した大人が地を這いながら、それはそれは一生懸命バカなことをやってます。
植野 言ってみれば「次世代」じゃないですか。面白い人はもちろん、イケメンもいっぱいいる。DVDを見て興味を持った方は、ぜひ劇場のほうに足をお運びください。
アントニー 外人もいますしね。これはニッポンの縮図ですよ!
植野 ホンマに金なくても、こんなに楽しく遊べんねんなと実感しました。食券獲得も、戦いでしたよ。ウワサで「食べ物のタダ券もらえるらしいぞ」って聞いて、いろいろ聞き込みして、担当のスタッフさんにたどり着いたらやっともらえる。なんやねん、そのシステム!
アントニー なんで行きのバスで配らないんだ!
植野 あわよくば渡さんとこという、その精神……。
アントニー This is YOSHIMOTO!
(取材・文=西澤千央)
●『よしもと若手“ほぼほぼ”オールスターズ大運動会』
2014年10月8日(水)発売
価格:2,315円+税
発売元:よしもとアール・アンド・シー
6月15日に千葉県・生命の森リゾートにて、約2年ぶりに開催された『LAUGH SPORTS FES 2014 in CHIBA~よしもと若手“ほぼほぼ”オールスターズ大運動会~』をDVD化。約50組、総勢100人の若手芸人たちが4チームに分かれて、本気の運動会で勝負!