
『シリアル電気』( アニプレックス)
2014年3月23日に『オンバト+』(NHK)が終了したことで、十数年ぶりに「お笑いネタ番組ゼロ時代」が到来した。5月現在、全国ネットの地上波テレビでレギュラー放送のお笑いネタ番組は存在しない。漫才、コント、ピン芸といった若手芸人のネタを視聴者が手軽にチェックする機会は失われたままだ。
この「お笑いネタ番組ゼロ時代」では、若手芸人が売れるための道のりは限りなく険しいものになっている。いくらネタが面白くても、センスがあっても、見た目が良くても、それだけではなかなかのし上がることはできない。
そんな逆風の中、ネタの力だけで着実に人気を伸ばし続けている異色の若手芸人がいる。「ダメよ~、ダメダメ」のフレーズで知られる日本エレキテル連合だ。衣装やメイクの細部にまでこだわったコントの数々で、多くの人を虜にしている。
彼女たちの演じるコントは、ある種の「衝動」から生まれている。このせりふを言いたい、この衣装を着たい、このキャラクターを演じてみたい、という原初的な衝動。一番最初にある感覚を決して手放さず、そこに軸足を置いてネタが組み立てられているのだ。
だから、日本エレキテル連合のコントでは、特別な出来事が何も起こらないことも多い。2人の人物が出てきて、一つの状況が提示される。そして、ただそれだけで終わってしまうケースが目立つ。これはかなり珍しいスタイルだ。
ほかの芸人の演じるコントでは、状況の説明は最小限にとどめて、その状況の中で起こるハプニングやアクシデントが主題となることが多い。学校、コンビニ、病院といった特定のシチュエーションがあって、そこに人物が出てくる。そして、誰かが変なことをする、変なことを言う、変なことが起こる。そこが、笑わせどころになっている。
ところが、日本エレキテル連合のコントでは、そのような展開になることがあまりない。奇抜な衣装を身にまとったクセのあるしゃべり方の人物が現れて、一つの状況が提示される。そして、これという進展もないまま、唐突にコントは終わってしまうのだ。
ただ、それが面白くないかというと、抜群に面白い。なぜなら、せりふ、衣装、小道具の細部にまで徹底的なこだわりが感じられ、それを一つ一つ味わい尽くす楽しみがあるからだ。彼女たちの代表作である「未亡人朱美ちゃん3号」というネタでも、繰り返される「ダメよ~、ダメダメ」というフレーズが妙に印象に残る。ネタの密度が濃いので、見る者はそこに安心して浸ることができるのだ。
いわば、ほかの芸人のコントが物語性のある「映画」だとしたら、日本エレキテル連合のコントは一つの状況を切り取った「絵画」に近い。受け手は、絵画を鑑賞するようにして、ネタの細部をじっくり堪能してその世界に没入することができるのだ。
実際、ネタ作りを担当する中野聡子は、自分の思い描く世界観に合わせて演技をする相方の橋本小雪を「真っ白なキャンバス」に例えている。中野という新進気鋭のアーティストが、ゴッホ顔負けのゴテゴテした厚塗りで橋本というキャンバスに絵筆を入れていく。そうやって、あのグロテスクで魅惑的な作品の数々が生み出されているのだ。
もちろん、彼女たちのネタにストーリー性が皆無というわけではない。「未亡人朱美ちゃん3号」というネタが面白いのも、ひとひねりしたオチが鮮やかに決まっているからだ。「ダメよ~、ダメダメ」という決まり文句があれだけ繰り返されるのも、朱美ちゃんの顔が不気味に白く塗り上げられているのも、すべてに意味があったということが結末で明らかになる。ミステリー仕立てで、何度も見返したくなる傑作だ。
「お笑いネタ番組ゼロ時代」という逆風をものともせず、着実にファンを増やしている日本エレキテル連合。見る者すべてを一瞬でしびれさせる、キケンな高電圧芸人だ。
(文=お笑い評論家・ラリー遠田)