「やり続けなアカン」人気芸人“世界のナベアツ”を動かした、桂文枝の情熱と落語の魔力

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撮影=後藤秀二
 2011年、突如落語家への転身を発表した桂三度。芸人、作家、監督……多才な彼が次の挑戦に選んだ「落語」は、今までのどの分野とも異なる“くせもの”だった――。彼を落語へと導いたものはなんだったのか? 桂文枝から託された言葉とは? 神保町花月を舞台に行われる桂文枝プロデュースの落語会『戀する落語会』開催直前、トップバッターに抜擢された桂三度が、プレッシャーに押しつぶされそうな心の内を語る! ――まずは、6月から始まる『戀する落語会』について教えてください。 桂三度 これはまず、(桂文枝)師匠プロデュースで、師匠もたっぷり落語をしはるので、落語会としては絶対にお得です。たぶんお客さんには大満足して帰ってもらえると思います。ただ僕は縦軸というかストーリーテラーというか、師匠の気まぐれで任命されまして。まぁ舞台うんぬんより、舞台をやっている僕を袖で師匠が見ている……嫌ですよね。緊張しますよね。その緊張を隠そうとしている僕を、お客さんには楽しんでもらえたらなと思います。 ――発表記者会見でも、師匠から随分とプレッシャーをかけられていましたよね。トップバッターということで、三度さんがコケたら後がないとか。それだけの信頼感が、三度さんにあるということなのだと思いますが。 三度 いやいやいやいやいやいやいや! ――日刊サイゾーの読者層は20代後半から30代の男性がメインで、お笑いは好きだけど落語はちょっと敷居が高い、というイメージを持っている人も多いかと思います。そこで今回は、ぜひ三度さんに上方落語の魅力を教えていただきたいと。 三度 基本、上方のほうが笑いを取りにいこうとする色があり、一方で江戸のほうがキレイに話す色があると、先輩の落語家さんが言うてはりました。たぶん初心者の方やと、素直に楽しめる上方のほうが(入り口としては)入りやすいんじゃないかなと思います。しかも、今回は柔らかくするために、僕は表向きはオープニングでスタンダップコメディをやるってなってますけど、裏の見方したらこれ、前説です。 ――(笑)。 三度 「みなさん、どうぞ楽しんでってください」と。柔らかくほぐすという役です、僕は。こういうところもまた、ほかの落語会と違うポイントです。ゲストも、たむらけんじくんとミサイルマンの西代くんという、西のやわらか芸人ワンツーをそろえましたんで、とにかくとても柔らかい落語会になると思います。そして最後には、師匠がたっぷり聴かせてくれる。これをきっかけに、いろんなタイプの落語会に行っていただければうれしいです。 ――三度さんは芸人、作家、映画監督など、さまざまな仕事をされてきましたが、今までやってきたものと落語の大きな違いはなんでしょうか? 三度 僕はいろいろ転職してますけど、大きくはお笑いという円の中で動いていたんです。だから自分の中では、そんなに大変なことはなかった。でも落語をやり始めて、師匠からも作っていいぞと言われて作り始めて、痛感しました。お笑いと落語では間の取り方が全然違うんです。間の取り方が違うと笑いの作り方も違ってくる。だからもう、まったく初体験のことばかり。この世界に入ったときは、大変だけどなんとかなるやろと思っていました。そしたらもう、全然違うということに気づいて。今まで一生懸命いろいろなことをやってきたのに、これじゃ芸人1年目と一緒やん! と。腹立つわ~(笑)。 ――お笑いの方程式を、一回捨てなくてはならなくなってしまったと。 三度 そうなんですよ。めっちゃ難しいですよ。入門して3年になりますが、この3年は自分のクセを捨てる、笑いの取り方のクセ、しゃべり方のクセを全部捨てていく作業ですね。もう、エライ目遭うてます。 ――そもそもなぜ、落語家を目指そうと思ったのでしょうか? 三度 僕はずっと、“いいテレビタレント”になりたいと思っていたんです。いいテレビタレントになるためにはどうしたらええかと思って、落語を始めた。だから、いつかこう落語をやっていることがテレビに生きたらええなと思いますけど、今んところはもうまったく関係ないですね。落語のコツがまだつかめてないので。 _MG_6736.jpg ――“いいテレビタレント”というのは、どんなイメージでしょうか? 三度 具体的にはちょっと伝えにくいんですが、僕は恥ずかしながらコンビを2回解散してるんですね。1回目の解散は相方から言われて、これから自分はどうしよう、ピン芸人続けるのもええけど、なんか少し違う気がすると。デビューしてからずっと、自分がふわふわしてるのが嫌いやったんですね。それで、その時に脳裏に浮かんだのが放送作家と落語家でした。当時はいろいろな理由で作家を選ぶわけですけど、そんなこんなで作家も何年かやって、コンビも再結成して、昔よりテレビにも出られるようになりました。だけど、まだふわふわしてる。地に足は着いていない。この隙間を埋めるにはどうしたらええかなって思ったときに、前から興味があった落語に……本当に勘でしかないんですけど。だから僕にとってのいいテレビタレントというのは、地に足がしっかり着いている人ですね。下半身どっしりしてるけど、上半身はものすごく軽やかに動くみたいなイメージですね。 ――月並みな言葉ですが、「ブレない」ということでしょうか。 三度 そうです。僕自身がブレまくりなんで(笑)。もう、ほんまになんとかしたいんですわ。 ――この3年で、そのふわふわは少しずつ埋まっていっている実感はありますか? 三度 う~ん……あるって言いたいんですけどね、全然ないですね。いや、ほんまにね、なまりも含めたしゃべりのクセや間の取り方のクセを直す作業で終わってしまいました。だから、まだ気持ち的には1年目です。何年かかんねんと。自分が落語家として納得するのは、だいぶ先のことでしょうね。そのときたぶん、年金もらってると思います(笑)。 ――師匠がいるという経験も初めてですか? 三度 初めてです。弟子入りするまで師匠のことはまったく怖なかったんですけどね、今めっちゃ怖いですもんね。緊張するし。言うたら父親ですし。 ――師匠から言われた言葉で、心に残っているものはありますか? 三度 そうですね……ここはええこと言いたいですね(笑)。 ――期待してます!(笑) 三度 ……僕がなぜ師匠に付いたかというと、師匠が月1回やってるレギュラー番組があったんです。『三枝一座がやってきた!』(NHK)という、地方の市民会館を回って公開録画する番組です。で、僕は「世界のナベアツ」としてゲストに呼んでいただいたんです。地元の人とゲームコーナーをやったりしながら、最後に師匠がご当地落語をするんですね。その土地の名産や名所にちなんだ落語を。それは言うたらその番組のためだけにやっている落語です。それを月1回やっている、この地位も名誉もある人が。そう思ったときに、すごいなと感動しました。尊敬する方はたくさんいらっしゃいますけど、その時のインパクトが強くて、師匠に弟子入りをお願いしたんです。  僕が弟子入りしたのは41歳。だいぶ遅いです。そしたら師匠が「焦ることはない。ただやり続けなきゃあかん。俺も20代で入ったけど、認められたのは40代や」と。テレビの世界では師匠はもう20代で大スターでしたけど、落語家として賞をもらったのは40代になってからなんだそうです。だから、どんなことがあっても、やり続けなあかん、走り続けなあかんって言われたのが、ものすごく心に残っていますね。 ――なるほど……。 三度 まぁまぁいい感じにまとまりましたかね(笑)。でもホンマにね、師匠は休まないんですよ! 弟子入りしたときによく言ってはったんが、「60代は駆け抜ける、70代は休む。80代は円熟期、になったらええな」。だけど師匠、今70歳ですけど、こういう落語会を立ち上げたり、大阪でも創作落語の会をやって月1で新ネタおろしてるし、全然休む気配ありません(笑)。 ――「戀する落語会」では、若手の方をフィーチャーして新たなファン層の獲得も目指していますね。 三度 それは桂文枝個人の思いでもあるし、上方落語協会会長の思いでもあるんだと思います。もちろん上方落語だけでなくて、落語会全体の思いですね。1回目は一門だけという形になりましたけど、今後は江戸の落語家さんにも出てもらいたいと師匠は考えてはるみたいです。 ――で、そのオープニングを三度さんに……。 三度 「絶対成功させろよ、お前」というプレッシャーのまっただ中におります(笑)。普通だったらこれ、ストレスで毛が抜けてもおかしくないと思いますよ。 _MG_6723.jpg ――注目度も高いですしね、初回は…… 三度 勘弁してください、もう! ――すみません(笑)。実際にこの「戀する落語会」を楽しむにあたり、これだけは押さえていたほうがいいという知識やマナーなどはありますか? 三度 漫才のネタと違って落語は、笑いはないけど後半のために仕込んでるネタがあるんですね。前半、これ全然笑えないなと思ってても、後半は何かあるんやろなと思って許したってください。 ――細かいボケをちりばめていく漫才やコントに慣れていると、落語のその仕込みの時間は相当長く感じそうですね。 三度 このネタのこのお話は、前半にまったく笑いがない。ネタふりやから。ウケへんのは分かってる。だけど、実際やってみると「あれ……俺、いま宇宙におんのかな」っていうくらい静かなんで、めっちゃ怖いですよ(笑)。僕ね、芸人の中でもトップクラスで汗かかない自信あったんです。体質的に芸人に向いてんな~、よかったな~って思ってたんですよ。だけど落語家になってから、ワキ汗が止まらない(笑)。 ――すごい、体質まで変えてしまうとは…… 三度 ホンマえげつないですよ。宇宙ですもん……ゼロ グラビティです。ジョージ・クルーニーのいないゼロ グラビティ(笑)。 ――でも、落語のそういう仕組みが分かってくると、見る側ももっと楽しめるのかもしれませんね。 三度 漫才もコントも素晴らしいところはたくさんありますけど、落語は落語で「あ、このタイプか」とか「あの話に似てるな」とか探っていくと、とても楽しいなとは思います……が! そんなことはホンマ考えんと、ただただ楽しんでほしいです。 ――もっとオープンな気持ちでいいんですね。 三度 お客さんが楽しんでるのを見ると、やる側もノッてきます。 ――芸人から落語家へ転身した方として、月亭方正(旧芸名・山崎邦正)さんがいらっしゃいますが、方正さんが落語家になると聞いてどう思われましたか? 三度 正直、「わ~、先行かれた!」っていう気持ちが大きかったですね。それでまた(入門が)遅れたというのも実際ありました。これじゃあ、方正さんの後追いやな~と。 ――方正さんは40代になったら芸で人を笑わせたいという思いが強かったと、以前取材をさせてもらったときにおっしゃっていたのですが、三度さんも「今まで笑わせられなかった層を笑わせたい」というような気持ちはありますか? 三度 いや、もう自分のことしか考えてないです。すんません(笑)。そりゃあ、今まで誰も成し遂げられなかった、おじいちゃんも笑ってる、子どもも笑ってる、若い男女も笑ってるというのが理想ですけど、今はもう自分のことで精いっぱいですね。落語家になったのもホンマに身勝手ですから。自分の足を地に着けたいという。 ――今回の落語家転身もそうですが、三度さんは築き上げたものを壊していく、安定したものを捨て去るというイメージがあります。 三度 そんなことないんですよ。いま振り返ったら「あんときのアレもっと続けとったら、お金がもうちょっとあったかもしれない」とかホンマ思います。もったいなかったな~と。 ――でも、挑戦してしまう…… 三度 僕はこれから絶賛金儲けするつるもりですよ! 今はまったくないですけど!「お金じゃないねん」とかカッコイイことは言わないです。めっちゃ儲けたいし、儲かるためには……っていう逆算もしますしね。ただ、現実は「戀する落語会」のプレッシャーでハゲそうで、儲かるどころではありません!! (取材・文=西澤千央) ■『神保町花月 ~桂文枝プロデュース~ 戀する落語会 パートI』 開催日時:6月8日(日)14時00分開演 ~16時05分頃終演予定 場所:神保町花月(東京都千代田区神田神保町1-23 神保町シアタービル2F) <http://www.yoshimoto.co.jp/jimbocho/> 出演:桂文枝、桂三若、桂三四郎、桂三輝、桂三度、桂三実 ゲスト:たむらけんじ、ミサイルマン西代 チケット料金:前売3,000円 当日3,200円 チケット発売 5月15日10時~発売開始