「面白い」が正義! 狂ったTBSに『芸人キャノンボール』再び

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TBS系『芸人キャノンボール2016』番組サイトより
「TBSってクレイジーな局になってきたよね」  これは『クレイジージャーニー』(TBS系)の中で、最近のTBSのバラエティ番組について、松本人志が言った言葉である。  最大級の賛辞といえるだろう。 たしかに今のTBSは、『クレイジージャーニー』や『万年B組ヒムケン先生』、『有田ジェネレーション』などの深夜番組の充実っぷり。そして、ゴールデンタイムでも『水曜日のダウンタウン』といった“攻めている”お笑い番組がある。  中でも“狂ってる”と思わせてくれるのはその大胆な編成だ。それをまざまざとあらわしているのが明日24日のゴールデンタイムだ。  なんと、19時から特番『芸人キャノンボール2016』を3時間、続けて22時(正確には21時57分)から『水曜日のダウンタウン』が放送されるのだ。  ともに、「地獄の軍団」と名高い藤井健太郎プロデューサー率いる制作陣による番組だ。つまり、内容は抜群だが、決して視聴率を獲るとは言いがたい藤井健太郎が、この日のゴールデン4時間を独占するのだ。狂ってる。 『芸人キャノンボール』は、1997年から始まったカンパニー松尾によるAV作品『テレクラキャノンボール』が下敷きになっている(さらに遡れば『テレクラキャノンボール』は映画『キャノンボール』が元ネタだが)。2014年には『劇場版テレクラキャノンボール2013』として劇場公開もされた作品だ。『キャノンボール』シリーズはアイドルグループ・BiSの解散ライブを題材にした『劇場版BiSキャノンボール2014』にも発展した。プロレス団体・DDTではマッスル坂井によってスカパー・サムライTVでオマージュ作品『プロレスキャノンボール2009』を制作。その後、2015年には『劇場版プロレスキャノンボール2014』が改めて制作され劇場公開。大きな反響を呼んだ。  そうした「キャノンボール」シリーズの本活的な芸人&テレビ版として企画されたのが『芸人キャノンボール』だ。  このAV作品を元にした番組が最初に放送されたのが、なんと2016年の元日のゴールデンタイムだったのだ。狂っている。攻めてる、としか言いようがない。  藤井健太郎も、このたび発売された自著『悪意とこだわりの演出術』(双葉社)で、このように述懐している。 「ここで攻めているのは決して僕ではなく、元日のゴールデンタイムにこの番組を流すジャッジをしたTBSの編成だと思います」  さらに、企画が決まった後も、一般的に視聴率至上主義と言われる編成部員から「ここは視聴率が多少悪くても、内容でちゃんと面白いモノを出すことが大事だから」「元日の目立つ場所で格好の悪い番組は出したくないから」と何度も言われたという(同書)。  結果、視聴率はふるわなかったが、番組を観た人が絶賛する「熱のある」番組になった。  そんな『芸人キャノンボール』が帰ってくる。  スタッフや芸人たちのSNSなどから『27時間テレビ』(フジテレビ系)放送のさなか、収録が行われていたらしい。  その放送を前に、元日に放送された前回を振り返ってみよう。 『芸人キャノンボール』は、芸人たちが4つのチームに分かれ、4つのステージごとに「お題」が与えられる壮大な“借り物レース”だ。ゴールを目指しながら、「とにかく歌が上手い人」や「とにかく相撲が強い人」など「お題」にあった人を連れていき対戦する。  ポイントはチェックポイントに到着した順番で与えられる「着順ポイント」と、対戦した上での結果の順位に応じて与えられる「競技ポイント」があり、さらに「『紅白』出場者」「社長」「100キロ超え」などの際立った特長がある人を連れていけばボーナスポイントが与えられる。  最初のお題は「とにかくにらめっこが強い人」。  それぞれのチームは人が多くいる場所や、個性的な人が集まりそうな場所を思案しながら、「にらめっこ」が強そうな人を探していく。  また、この番組の肝は、連れていく人を素人に限定していないことだ。出演者の人脈を使って芸能人などを連れて出すことも認められている。実際、ロンドンブーツ1号2号チームは、アンガールズ田中がいる有吉チームを笑わせるため、相方の山根をブッキングしようとした(結局、地方ロケのためNG)。  なんてことのない「お題」だが、そこは藤井健太郎の番組。絶妙な“悪意”がまぶされている。 「にらめっこ」が強い=個性的な風貌ということで、藤井Pの番組では頻出する「歯がない」人などが登場。  そして、ロンブーチームが場外馬券場で見つけた“英国紳士”風の素人が強烈だった。  他の人が一生懸命面白い顔を作って笑わせようとする中、ただそこにいるだけで笑わせることができる強烈キャラだった。  続く第2ステージはこの番組の面白さが凝縮されていた。 「とにかく歌が上手い人」を連れていくという「お題」でロンブーチームが真っ先に電話をかけたのは、『紅白』歌手でもある千秋だった。  最初こそ突然の電話に「マネジャーに確認しないと」と一度は躊躇するが、旧知の仲である出川哲朗やウド鈴木の説得に「行ったほうが面白いんでしょ? 行ったらオイシイんでしょ? じゃあ行くー!」と快諾したのだ。  だが、これが思わぬ展開を見せる。  ロンブーチームが待ち合わせの場所に到着してしばらく待っていると、千秋から電話がかかってくる。なんと、別の仕事で行けなくなったというのだ。もちろんロンブーチームは大混乱。なんとか時間ギリギリで別の人物を連れてチェックポイントの会場に到着した。  すると、なんとおぎやはぎチームの代表として千秋が登場したのだ!  じつはロンブーチームからの電話の後、おぎやはぎチームのバカリズムからも連絡が入った千秋。先に約束した上、長い付き合いのウドや出川を裏切れないというが、バカリズムはそのほうが「オイシイ」と説得。果たして、彼女は面白い方を選択したのだ。  裏切りや策略、相手の車のタイヤを外し、相手の進行を妨害することも厭わない。  多少「ズル」しても、「面白い」ことが一番の「正義」。  そんな世界だからこそ、とにかく芸人たちがレースにのめり込み真剣だ。  真剣にレースに勝とうとし、必死に「面白い」ことを探すのが『芸人キャノンボール』だ。  それは、今のTBSの“狂った”姿勢を象徴しているかのようだ。いよいよ24日、『芸人キャノンボール』が「2016 in Summer」として帰ってくる。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

いよいよ一挙再放送!『大アマゾン 最後の秘境』の「わからない」という恐怖

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NHK『大アマゾン 最後の秘境』番組サイトより
 年齢を重ねるにつれ、見たこともない未知の映像をテレビで見ることはほとんどなくなった。  そして、その中から、心の底から「恐怖」を感じることもあまりない。  けれど、そのふたつをまざまざと見せてくれたのが『NHKスペシャル』で放送されたシリーズ『大アマゾン 最後の秘境』(NHK総合)だ。  今年4月から4回にわたって放送されたもので、このたび、22日深夜に第1集と第2集が、翌23日深夜に第3集と第4集が再放送される。  このシリーズは伝説的ドキュメンタリー『ヤノマミ 奥アマゾン 原初の森に生きる』を作ったディレクター・国分拓による作品だ。  ちなみに『ヤノマミ』はアマゾンの奥地に住む先住民族「ヤノマミ」に150日間もの間、密着し、その独特な死生観や精神世界に迫ったもの。今回も国分らは、長期間アマゾンに滞在し取材したという。  第1集の「伝説の怪魚と謎の大遡上」と第3集「緑の魔境に幻の巨大ザルを追う」は、未知の自然の驚異を追ったものだった。  前者は、濁流のアマゾン川の中にうごめく「怪魚」たちを見事にカメラに捉え、その驚きの生態を世界で初めて映像に収めた。  後者では、現在もなお目撃談が後を絶たない謎の「巨大ザル」を探索。それだけ聞くと、「川口浩探検隊」シリーズ(テレビ朝日系)のようなものを思い浮かべてしまいそうだが、あのスペクタルを継承しつつも、映像は徹底的にリアリズム。見たことのない生き物や自然の姿に何度も息を呑んだ。  だが、今回のシリーズでスゴかったのは、「自然」よりも「人間」だった。  それは第2集「ガリンペイロ 黄金を求める男たち」と第4集の「最後のイゾラド 森の果て 未知の人々」。 「人間がいちばん恐ろしい」  というのは、ノンフィクションに用いられる常套句のひとつだが、それを何よりも実感させてくれるドキュメントだったのだ。  第2集の「ガリンペイロ 黄金を求める男たち」は、アマゾンに眠る金を掘り続ける男たち=「ガリンペイロ」の生活に密着した作品。過酷な労働環境のもと、一攫千金の夢を見る男たちは、たいていが訳あり。無法者の集まりだ。  当然のようにみんな銃を持ち、ケンカやトラブルは絶えない。それが殺し合いにまで発展することも少なくない。 「場所を誰かに話したら、誰かが死ぬことになる」  国分たち取材班が、ガリンペイロのボス(通称「黄金の悪魔」!)に取材許可をもらう交渉中にドスの利いた声で言われた言葉だ。ヤバい匂いがプンプンしている。  ガリンペイロには2人を殺した元殺人犯の男もいる。ある日突然、その男が取材班が寝泊まりしている小屋に木の棒を持ってやってきた。完全に目がすわっている。 「おい」  男はスタッフに声をかけるとイッた目のまま言う。 「お前らも踊れ」  そんな言葉とは裏腹に緊迫感が漂っている。 「お前ら人を殺したことがあるか?」 「ない」と答えると「ねぇってよ」とバカにした様子で笑うと、ひとしきり取材班をビビらせ、からかっていくのだ。  たとえからかっているだけとはいえ、少しでも機嫌を損ねたら何をされてもおかしくない怖さがビンビン伝わってくる。  別の日の夜には、酔っ払ったガリンペイロ同士がケンカ。そのうちのひとりが興奮して銃を持ちだした。 「やばい、やばい!」  カメラマンが慌てて逃げ出す。酔っ払って理性を失った状態。銃口がスタッフに向けられない保証はどこにもない。「死」の恐怖がリアルに迫ってくる。  第4集の「最後のイゾラド 森の果て 未知の人々」は文明社会と一切の関わりを持たない先住民「イゾラド」と近隣の村人たちとの衝突を描いたものだ。  イゾラドは洋服を着ない上、武器も木製の弓矢や槍。  彼らが、かつて自分たちが住んでいた集落に、自分たちと同じ人間が住んでいるらしいことを知り、まずは男たちだけで川を渡り、近づいてくる。攻撃するつもりだろうか。険しい表情で何やら話し合っている。  村人たちは彼らをむやみに攻撃するつもりはない。なんとかコミュニケーションをとろうと大きな声で話しかけていく。  お互いが警戒しあってなかなか距離が縮まらない。村人たちはバナナなどを与え、友好関係を築こうとしたが、結局後日、その集落は彼らに襲撃されてしまう。  ペルー政府は文明社会にイゾラドをなじませるために交渉役をたて接触をはかる。11回目の接触にカメラマンが同行。 「この人、誰?」  見知らぬ顔を見つけたイゾラドの一家は不信な表情で詰め寄ってくる。 「ノモレ、ノモレ、ノモレ」  カメラマンは「友達」を意味する言葉を必死で繰り返す。  すると、カメラマンの着ている服に興味を持ったのか、それを脱がそうとする。 「私の子どもに危害を加えるなよ」  とすごんだと思ったら、「妊娠してるの」とお腹を触らせようとしたり、動物に噛まれた傷痕を親しげに見せてきたりもする。  にこやかになったと思ったら、その数秒後には、急に攻撃的な表情に変貌する。  お互いがお互いを「わからない」という感情が、攻撃性を刺激したり、不安を煽ったりする。  ある程度危険な被写体であっても、テレビカメラがあれば滅多なことはしないだろう。そんな希望的観測はまったく通用しない。21分間というこの接触は、おそらくカメラマンにとって永遠のように長く感じられただろう。  本当の恐怖とは「わからない」ということだ。  だが、その「わからない」が映像になると、極上の刺激的作品に変わっていく。  もはやテレビで「わからない」ような未知の世界は残っていないなどと言われる。  だから今、テレビはよりわかりやすい方向にばかり進んでいる。  だが、テレビだからこそできるスケールと時間をかけて、国分たちNHK取材班はアマゾンの奥地で未知の「わからない」という金脈を掘り出したのだ。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

元ジャニーズアイドルに仕掛けられた『田村淳の地上波ではダメ!絶対!』のドッキリ最高峰

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『田村淳の地上波ではダメ!絶対!』スカパー!
「高知(東生)さんのせいだよぉ~、なんで覚せい剤なんかやるんだよー」  ロンドンブーツ1号2号の田村淳はそんなふうに嘆きながら、衆人環視の中、ズボンを下ろし、オマルにおしっこをし始めた。  これは『田村淳の地上波ではダメ!絶対!』(BSスカパー!)で行われた、淳への抜き打ち尿検査である。すでに淳は、週刊誌やネット上などで覚せい剤疑惑があったことからスタッフが企画し、抜き打ちで尿検査を実施していた。それも3回。勘の鋭い淳が察知し、覚せい剤を“抜いて”いる可能性があるからだ。  専門家立ち会いのもと、実際におしっこをする場面も目視。その一部始終がノーカットで放送され、検査の結果、疑惑が晴らされたはずだった。  しかし、高知容疑者の逮捕を受け、再び疑惑が高まっているとして、7月21日の放送で4度目の検査が実施されたのだ。 『田村淳の地上波ではダメ!絶対!』はそのタイトル通り、地上波のテレビではタブー視されているような企画を次々に放送している。ホームレスの生活の実態を調査する社会派の企画から、実際に不倫をしている女性や、薬物経験のある人を招いて、その実体験を聞いたり、伝説の深夜番組『トゥナイト』(テレビ朝日系)での山本晋也の風俗リポートをオマージュした「アトゥシナイト」なるお色気系企画(8月4日の放送では、本家・山本晋也が登場し、浅草ロック座へ潜入したり、「エロ芸グランプリ」が開催される予定)など、かなり挑戦的で自由だ。サイゾー系のネットニュースが、番組の会見にあたかも訪れたような内容の実際と異なる記事を掲載したことに対して、実際にサイゾー編集部を淳が訪れ、その真意を問いただしたこともあった。  淳は4度目の検査で「陰性」つまりシロが確定した際、「いろんな人を検査したいんですよ」と漏らしたが、それが数日後に、すぐに実現。このあたりのフットワークの軽さも、今の地上波にはあまりないことだろう。  そして、その1回目の検査対象になったのは、なんと元KAT-TUNの田中聖。  確かに彼は週刊誌などで、覚せい剤疑惑のある芸能人として誌面をにぎわせたことがある。ネット上には、そのような疑惑の目を向ける書き込みが後を絶たないという。実際、ある舞台挨拶の前、田中は右手小指を骨折。見栄えが悪いだろうと、ギプスをつけずに登壇すると、それを見たネットユーザーが反応した。「アイツ、右手が動かない。やっぱりクスリをやってるに違いない」と。  それでも、元ジャニーズのアイドル。芸人ならばシャレで済まされるかもしれないが、激怒されてもおかしくない抜き打ち検査はリスクが高すぎる。そもそも、本当に“クロ”だったらどうするのか?  まずは偽取材を敢行し、その言動を専門家とモニタリング。すると、田中はいきなり不可解とも思える行動をする。取材開始直前になって、トイレに行くのだ。これ自体は変わったことではないが、その時間、15分以上。待たされる形になった淳は「今、(覚せい剤を)やってんじゃないの? 怪しいな、すでに」「ほぼ確定だな」と言いたい放題。  そんな中、専門家が覚せい剤常習者の特徴を挙げていく。それが「汗をかきやすく、水分をよく摂る」「痩せ気味になり、顔色が悪い」「人を疑いやすい」「毛髪検査をくぐり抜けるため、髪の毛を頻繁に脱色する」というものだ。  果たして取材の場に現れた田中の髪は脱色され、体は痩せて、どことなく顔色が悪かった。取材を続けていくうちに、専門家が挙げる覚せい剤常習者の特徴と、次々に合致していく。専門家も「これは怪しい」とつぶやくほど疑惑が高まったところで、いよいよ淳が田中のもとへ突撃。 「マジか……!」と絶句する田中に対し、ついに抜き打ち尿検査が始まったのだ。 「ドッキリ的なものも、初めてなんですよ」 と言いながら、カメラの前でオマルにおしっこをしようとする田中に、淳は笑って言った。 「ドッキリの中でも、俺、これ最高峰だと思う」  もちろん「田中には事前に話が伝わっていたのではないか」とか「本当は出来レースではないのか」など、疑おうと思えばキリがない。そうやってなんでも色眼鏡で見て冷笑するのも、逆にカメラが映し出すものを100%信じるのも、同じようにバカげている。世の中を、自らつまらなくするだけだ。 『田村淳の地上波ではダメ!絶対!』は、今なかなかテレビでは味わえなくなった「こんなことやっていいの?」というドキドキ感を感じさせてくれる。だけど、僕は『地上波ではダメ!絶対!』というタイトルだけは気に食わない。確かにBSスカパー!という、まだまだ閉じられた世界だからこそ、許されているものかもしれない。だとするならば、それでは自ら視聴者層を狭めているだけだ。  エロ系の企画はともかく、それ以外のこの番組の企画を「地上波ではできない」と、もし作り手自らが言うのならば、それは勝手な思い込みではないだろうか? かつてテレビは、大衆と共犯関係を結ぶことができたからこそ、多少のことは許されてきた。ならば今、大衆とどのような共犯関係なら結べるのか?  時代が違う――。そんな理由だけであきらめてほしくないし、あきらめたくはない。なぜならテレビは“時代”を変えてきたメディアなのだから。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

「失敗のない青春に価値はない!」日テレ版『時をかける少女』が描く、青春のトキメキ

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日本テレビ『時をかける少女』公式サイトより
 筒井康隆の青春SF小説の金字塔『時をかける少女』は、これまで何度も映像化されてきた。代表的なものでいえば、1983年に公開された大林宣彦監督による原田知世主演の実写映画版と、2006年に公開された細田守監督によるアニメ映画版だろう。  そして16年7月より、全5話の連続ドラマとして黒島結菜主演で始まったのが、日本テレビ版の『時をかける少女』だ。  このドラマ版の製作が発表されると、一部でアニメ版が原作だと思っている人がいると話題になるなど、世代によってイメージする“原作”が異なる稀有な作品である。それは、本当の原作である小説版はもちろん、その後に製作された実写映画もアニメ映画も、見る者の心に強く残る傑作だったことの証左だろう。  そして今回のドラマ版は、町並みの美しい風景は大林映画版っぽさがあり、明るくハツラツとした作風は細田アニメ版っぽさがあるように、原作や過去の映像作品のいい部分がバランスよく配合されて作られている。  すべての作品に共通するのが、タイムリープの能力を持ってしまう主人公である少女、彼女を好きな幼なじみの同級生、そして未来人の少年の三角関係が描かれるということだ。アニメ版は、そもそも原作の主人公である和子の姪という設定のため当然だが、このドラマ版でも原作とは一部名前が変わっており、それぞれ芳山未羽(黒島結菜)、深町翔平/ケン・ソゴル(菊池風磨)、浅倉吾朗(竹内涼真)。さらに、原作や他の映像作品でも出てこない相原央/ゾーイ(吉本実憂)という、翔平と一緒に過去にやってきた少女も登場する。  また、自分がタイムリープできるようになった秘密を、大林版では深町にしか、アニメ版では和子にしか相談しないが、ドラマ版では原作同様、深町と吾朗2人に早々に打ち明けている。逆に、原作や大林版では自分の意志でタイムリープするのは最後の一度きりだが、ドラマ版はアニメ版同様、何度も頻繁に自分の意志でタイムリープしている。加えて、ほとんどの映像作品は主人公ひとりの視点で話が進むのに対し、ドラマ版は連ドラという特性を生かし、3人の視点が入れ替わるように、それぞれのモノローグが挿入されている。  もちろん、エピソードもドラマオリジナルのものが付け加えられている。例えば第3話では、青春ドラマの定番である「学園祭」が描かれた。当初、未羽のクラスはクラス発表をしないことに決めた。だが、実際に学園祭を終えると、高校最後の年にそれをやらなかったことを3人は強く後悔した。  そこで、未羽はタイムリープをする。クラス発表をやるよう、クラスメイトを説得するためだ。そしてロミオ役を吾朗、ジュリエット役を相原に配した舞台『ロミオとジュリエット』を上演することが決まる。  だが、ジュリエット役の相原は、破壊的に演技がヘタ。向いてなかったのだ。クラスはバラバラになってしまう。すると、未羽はまたもタイムリープ。「ジュリエットは男がやったほうが面白いのでは?」と提案し、ジュリエット役を深町に替えるのだ。  普通、相原の心情を慮って、たとえタイムリープという武器があっても、彼女がジュリエットのままなんとかしようとするのが、青春ドラマの定石だ。だが、このドラマでは「それでいいの?」と思ってしまうほど、タイムリープはかなり軽く使われる。実は、それがこのドラマの“肝”でもあるのだ。  相原は、代わりに与えられた背景美術で才能を発揮して称賛を浴び、舞台も大盛況。しかし、クライマックスで大きなトラブルが発生する。大事な告白シーンのさなか、天井に挟まっていたバスケットボールが落下し、吾朗の頭を直撃、気絶してしまう。さらに、慌てて駆け寄ろうとした女子生徒がセットに足を引っ掛けてしまい、セットが崩れてしまう。続けて、なんとか成立させようと前に出たジュリエット役の深町の衣装が脱げてしまう始末。クラスメイトが一致団結して作り上げた舞台は、台無しになってしまった。  落ち込むクラスメイトを前に、いつものようにタイムリープしてやり直そうとする未羽。だが、「でも、浅倉くんが気絶する瞬間いい顔してたな」と吹き出す男子生徒がきっかけになって、「翔平くんの最後のキメポーズも最高だった」「おかげで演出を超えたクライマックスだったよ」と楽しそうに言い合うのだ。  そんな光景を見て「このままがいい」と、未羽はタイムリープすることを思いとどまるのだ。 「失敗のない青春に価値はない!」    男子生徒が言うと、「失敗最高!」というコールがクラスを包み込むのだ。  タイムリープが頻繁に軽く行われる設定だからこそ、逆にタイムリープしなかった時の思いに重みが増す。  青春には、失敗がつきものだ。いや、若さゆえの失敗こそが、青春ともいえる。やり直せないからこそのはかなさと煌めきを、やり直せるからこそ逆説的に描いている。  主人公がタイムリープするかのように、作品も何度も何度もやり直されている。何度やり直されても、そのトキメキは損なわれない。青春は、一度きりでは終わらないのだ。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

“壊し屋”ホリケンも白旗! 『全力!脱力タイムズ』がぶっ壊す、バラエティ番組のルール

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『全力!脱力タイムズ』フジテレビ
「わかんないよなぁ……わかんないんだよ」  スタッフから「OKでーす!」という本番終了を告げる声がかかると、ネプチューン堀内健は疲れ果てた様子でつぶやいた。  その言葉に、それまで笑いをこらえていた、くりいむしちゅー有田哲平をはじめとする出演者たちが、ドッと笑った。  これは『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)の本編終了後、数秒流れるシーンだ。この番組は、有田が「アリタ哲平」としてキャスターを務める“報道”番組である。報道番組らしく、経済学者の岸博幸、アルピニスト・野口健、犯罪心理学者の出口保行といった3人の「解説員」が並び、ゲストと対峙する。  そのゲストのうち1~2人は俳優やアイドルなどで、彼らはたいてい普段はしないメガネなどをかけ、報道番組仕様になっている。今回(15日)はHey! Say! JUMPの中島裕翔だった。そしてもう一人のゲストとして、必ず芸人が呼ばれる。それが堀内だった。 「報道番組に出られたことは?」とアリタに問われると、堀内は報道番組らしく静かに言う。 「いや、初めてですね。あのー、嫌いじゃないんで。こういうニュース番組というのは。今日は解説員の方もいらっしゃるので、いつもより一歩踏み込んだ意見を、お茶の間に、テレビを通して訴えたいと思います」  スタジオには「天才芸人!堀内健 なぜそんなに面白いのか」と題されたパネルが用意されている。「堀内健の最大の魅力」とか「どんな人?」「やりすぎ!ホリケン伝説」「人生の大ピンチ」などと見出しが書かれ、肝心なところは隠されている。これをもとに、隠されている部分をめくって解説していくという、情報番組でよく見る形式である。  だが、この番組は一筋縄ではいかない。まずは、これまでのホリケンの略歴をまとめたVTRがあると振るアリタ。しかし、流れ始めたのは「日本の論点」と題する「学校のトイレで排便しない小学生」問題を扱ったVTRなのだ。 「一回止めましょう」  アリタは冷静に対処。「これは来週やる予定」だと説明し、あらためてVTRを振る。しかし、流れたのは、やはり同じもの。 「最初から、やり直しましょうか?」と堀内は言うが、「流しちゃったんで、こっちから……」とワケのわからないことを言うスタッフ。アリタが「ホリケンの魅力は、今日は語らない?」と確認するとスタッフがうなずき、パネルはそのまま片付けられていく。  結局、「学校のトイレで排便しない小学生」問題になると、アルピニストの野口は、「ウンチといえば、ベースキャンプですよね」とテーマと関係のない話を語りだす。番組内で「といえば解説」と呼ばれる、恒例の流れだ。  すると、「正気か、お前!」と激高するホリケン。 「打ち合わせ、すごいやったんだよ、これ! おい、アリペイ! ハメやがったな、この野郎! 裏切られた気持ちだよ!」  そんなホリケンにアリタは「手違いですので」と、冷たくあしらうのだ。  このように『脱力タイムズ』は、“トラブル”だったり、解説員がまったく関係ない話をしだしたりと、本来のテーマに全然たどり着かないという報道コント番組である。ゲストの芸人はひとりそれに翻弄され、なんとかツッコもうとする。だが、誰もそのツッコミに対してまともな反応をしてくれず、どんどん追い込まれていく。  バラエティ番組には、ある程度のルールが存在する。こうツッコめば、こういう反応がある。あるいはこうボケれば、こういう反応がある――。芸人たちは、そうしたことを経験則で知っている。だから、自分の言動によって起こることが予測できてしまう。  だが、この番組は違う。「わからない」のだ。「わからない」ことは不安だ。ルールが壊され、追いつめられていく芸人。だから、普段見せたことのないような表情が出てしまう。それがたまらなく面白い。不安定な部分をあえて残し、予定不調和な現実を見せつける。そういった意味では、文字通りの“報道”番組なのかもしれない。 『脱力タイムズ』に以前ゲスト出演した出川哲朗は本編終了後、驚嘆して言った。 「有田……攻めてるねえ」  これまでさまざまな番組において、自由奔放なボケで大暴れしてきたホリケン。いわば“壊し屋”だ。しかし、この番組で翻弄され“壊れた”のは、ホリケンのほうだった。 「アリペイちゃん、今日、オレ何点だ?」  あまりにもいつもと勝手が違いすぎて、自分の出来が「わからない」不安に駆られたホリケンが、思わず有田に尋ねた。 「100点です」  手だれの芸人が経験則で積み重ねてきたルールを壊したときにこそ、その芸人の「全力」が見られるのだ。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

“壊し屋”ホリケンも白旗! 『全力!脱力タイムズ』がぶっ壊す、バラエティ番組のルール

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『全力!脱力タイムズ』フジテレビ
「わかんないよなぁ……わかんないんだよ」  スタッフから「OKでーす!」という本番終了を告げる声がかかると、ネプチューン堀内健は疲れ果てた様子でつぶやいた。  その言葉に、それまで笑いをこらえていた、くりいむしちゅー有田哲平をはじめとする出演者たちが、ドッと笑った。  これは『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)の本編終了後、数秒流れるシーンだ。この番組は、有田が「アリタ哲平」としてキャスターを務める“報道”番組である。報道番組らしく、経済学者の岸博幸、アルピニスト・野口健、犯罪心理学者の出口保行といった3人の「解説員」が並び、ゲストと対峙する。  そのゲストのうち1~2人は俳優やアイドルなどで、彼らはたいてい普段はしないメガネなどをかけ、報道番組仕様になっている。今回(15日)はHey! Say! JUMPの中島裕翔だった。そしてもう一人のゲストとして、必ず芸人が呼ばれる。それが堀内だった。 「報道番組に出られたことは?」とアリタに問われると、堀内は報道番組らしく静かに言う。 「いや、初めてですね。あのー、嫌いじゃないんで。こういうニュース番組というのは。今日は解説員の方もいらっしゃるので、いつもより一歩踏み込んだ意見を、お茶の間に、テレビを通して訴えたいと思います」  スタジオには「天才芸人!堀内健 なぜそんなに面白いのか」と題されたパネルが用意されている。「堀内健の最大の魅力」とか「どんな人?」「やりすぎ!ホリケン伝説」「人生の大ピンチ」などと見出しが書かれ、肝心なところは隠されている。これをもとに、隠されている部分をめくって解説していくという、情報番組でよく見る形式である。  だが、この番組は一筋縄ではいかない。まずは、これまでのホリケンの略歴をまとめたVTRがあると振るアリタ。しかし、流れ始めたのは「日本の論点」と題する「学校のトイレで排便しない小学生」問題を扱ったVTRなのだ。 「一回止めましょう」  アリタは冷静に対処。「これは来週やる予定」だと説明し、あらためてVTRを振る。しかし、流れたのは、やはり同じもの。 「最初から、やり直しましょうか?」と堀内は言うが、「流しちゃったんで、こっちから……」とワケのわからないことを言うスタッフ。アリタが「ホリケンの魅力は、今日は語らない?」と確認するとスタッフがうなずき、パネルはそのまま片付けられていく。  結局、「学校のトイレで排便しない小学生」問題になると、アルピニストの野口は、「ウンチといえば、ベースキャンプですよね」とテーマと関係のない話を語りだす。番組内で「といえば解説」と呼ばれる、恒例の流れだ。  すると、「正気か、お前!」と激高するホリケン。 「打ち合わせ、すごいやったんだよ、これ! おい、アリペイ! ハメやがったな、この野郎! 裏切られた気持ちだよ!」  そんなホリケンにアリタは「手違いですので」と、冷たくあしらうのだ。  このように『脱力タイムズ』は、“トラブル”だったり、解説員がまったく関係ない話をしだしたりと、本来のテーマに全然たどり着かないという報道コント番組である。ゲストの芸人はひとりそれに翻弄され、なんとかツッコもうとする。だが、誰もそのツッコミに対してまともな反応をしてくれず、どんどん追い込まれていく。  バラエティ番組には、ある程度のルールが存在する。こうツッコめば、こういう反応がある。あるいはこうボケれば、こういう反応がある――。芸人たちは、そうしたことを経験則で知っている。だから、自分の言動によって起こることが予測できてしまう。  だが、この番組は違う。「わからない」のだ。「わからない」ことは不安だ。ルールが壊され、追いつめられていく芸人。だから、普段見せたことのないような表情が出てしまう。それがたまらなく面白い。不安定な部分をあえて残し、予定不調和な現実を見せつける。そういった意味では、文字通りの“報道”番組なのかもしれない。 『脱力タイムズ』に以前ゲスト出演した出川哲朗は本編終了後、驚嘆して言った。 「有田……攻めてるねえ」  これまでさまざまな番組において、自由奔放なボケで大暴れしてきたホリケン。いわば“壊し屋”だ。しかし、この番組で翻弄され“壊れた”のは、ホリケンのほうだった。 「アリペイちゃん、今日、オレ何点だ?」  あまりにもいつもと勝手が違いすぎて、自分の出来が「わからない」不安に駆られたホリケンが、思わず有田に尋ねた。 「100点です」  手だれの芸人が経験則で積み重ねてきたルールを壊したときにこそ、その芸人の「全力」が見られるのだ。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

ラップは賢くないとできない――『マツコ会議』でマツコが壊す先入観

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日本テレビ『マツコ会議』
「お前、うますぎるわ!」  マツコ・デラックスは、黒人ラッパーの流暢すぎる進行に驚愕しながらツッコんだ。  その男の名はACE。彼は、ヒップホップ界隈ではすでに有名な存在だ。『フリースタイルダンジョン』(テレビ朝日系)では「ラスボス」般若の“通訳”役を務めているのをはじめ、多くのバラエティ番組に出演。CSでは『ラッパー“ACE”の世界をねらえ』(MONDO TV)という冠番組まで持っている。ちなみに『家、ついて行ってイイですか?』(テレビ東京系)にも“終電を逃したラッパー”として密着されたことがある。  マツコは、そんなバラエティ慣れしたACEの、ユーモアを挟みながらわかりやすくラップを解説する姿に舌を巻いていたのだ。  これは、気になるスポットに中継をつなぎ、それを見ながら企画会議を行う『マツコ会議』(日本テレビ系)での一幕。中継先とやりとりをしていく中で、“総合演出”のマツコがテーマを決め、VTRを作り、ホームページで公開するというコンセプトの番組だ。  7月2日放送の回で、下北沢で開催されている「ラップサークル」にカメラが潜入すると、そこで講師を務めていたのがACEだった。  教室のホワイトボードには、こんなふうに書かれている。 今日のご飯は“炊きたて” これが母の□□□□  でも毎日カレーは□□□□  たまには食べたい□□□□  この3つの□□□□に、「炊きたて」の母音「aiae」で韻を踏んだ言葉を穴埋めしていこうという授業である。  ひとりの女生徒は、それを上から順に「愛だね」「飽きたね」「まいたけ」と韻を踏んでいく。「ほかにないか?」とACEが振ると、手を挙げたのは「長老」と呼ばれる生徒。彼が「さじ加減」「なしだぜ」「闇鍋」と答えると、ACEは「ありきたりなのは嫌なんですね。いったい、人生に何があったのか?」と笑わせる。 「やってることは、ほぼ『笑点』よね?」というマツコに、「そうですね、座布団のない『笑点』」とACE。 「なんでそんなにしゃべりうまくなったの?」 「反省文書きすぎたからですかね」  ACEはラップで鍛えられたであろう瞬発力で、よどみなく答えて、芸人顔負けに笑わせていく。  授業は山手線ゲーム形式で韻を踏んでいく課題を経て、フリースタイルのMCバトルへ。ACEは、即興で相手をディスり合うMCバトルは「パンチライン」が大切だと解説。たとえば「でしゃばりすぎ」と相手にディスられたら、それを受けて「お前うるせえよ、“ペチャパイ好き”」と、相手のディスに対し韻を踏んで返すと高評価につながる、と。  番組でもラップの基本授業の光景から見せていたため、ラップをよく知らない番組視聴者でも、授業を受けるように、ラップの仕組みを理解でき、その何がすごいのかがとてもわかりやすい。これまでラップに接する機会があまりなかったというマツコも、感心しながら言う。 「ラッパーって、賢くなきゃできないね」 『BAZOOKA!!!』(BSスカパー!)の「高校生RAP選手権」や『フリースタイルダンジョン』をきっかけに今、ヒップホップが注目されている。雑誌では「サイゾー」、「ユリイカ」(青土社)、「クイック・ジャパン」(太田出版)、「TV Bros.」(東京ニュース通信社)などが相次いでフリースタイルを中心としたヒップホップの特集を組んだ。  たとえば『クイック・ジャパン』(Vol.126)では、いとうせいこうがお笑い芸人との類似性を指摘している。 「お笑いで上に上がるためには、ネタが面白いにはこしたことがないけど、その場その場でなにを言えるかという能力が必要」  それは、まさに「フリースタイル」だ。だから「芸人はそのことに焦って学ばなければいけないし、勝たなければいけない」と、いとうは言うのだ。  確かに、90年代以降、文化系で表現欲のある若者の最大の受け皿はお笑いだったが、それがヒップホップに変わりつつあるイメージがある。事実、このスクールに集まる生徒の多くはごく普通の人たちだ。  かつて「お笑いの学校なんて」と嘲笑されていたお笑い養成所が今では当たり前になったように、ラップの学校にもそんな日が来るのかもしれないし、ラッパーがテレビの世界を席巻する日も近いのかもしれない。  実際、このところさまざまなバラエティ番組で、ラッパーを使った企画を見かけるようになった。とはいえ、まだまだラッパーをうまく生かせず、持て余しているように見える番組が多いが、この企画はそうした番組の中でもラップを知らない人にラップの楽しさを伝えるという点で珠玉の回だった。その大きな要因は、マツコの柔軟さにある。 『マツコ会議』が取り上げるスポットの多くは、若者の流行の最先端だ。そういった目新しいものに対し、僕らは先入観で警戒してしまいがちだ。マツコも一見偏屈に見えるが、その実、自分の先入観を破られることに抵抗があまりない。むしろ、それを楽しんでいるフシがある。そうした場面は『マツコ会議』の中でよく出てくる。もちろん、今回もそうだった。  番組冒頭で、ラップは「反体制的な人たちがやっているイメージ」と語っていたマツコが、素直に「イメージが変わった」と言う。 「高尚なお遊びよね。ものすごく頭使うし、でもやってることは遊びなんだよ。そこがカッコいいと思った」  マツコの柔軟さが、僕らの先入観をも壊してくれるのだ。  なお、現在番組ホームページには、マツコが「なかなかの仕上がり」と評するACEを密着したVTRが公開されている(http://www.ntv.co.jp/matsukokaigi/)。まさに「なかなかの仕上がり」だ。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

人類の後輩でいたい――カズレーザーが「カズレーザークリニック」で示す、自然体の知性

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三ミュージック公式サイトより
 メイプル超合金の快進撃が止まらない。  昨年末、「M-1グランプリ」の決勝に出場すると一気に知名度が上昇した彼らは、一度見たら忘れられない強烈なキャラクターを2人ともが持っているという、稀有なコンビだ。  安藤なつは、体重130キロ近い体形で、「性の化け物」を公言し、セフレの存在も認める女芸人。一方、金髪で常に全身赤い服を身にまとうカズレーザーは、及川光博、京本政樹、天海祐希といった「美しい人」がタイプだという、バイセクシャルだ。その恰好は、寺沢武一の漫画『コブラ』の主人公を模したものだ。「ヒーロー」になりたいのだという。  同志社大出身のインテリで、クイズ番組などでも活躍。『アメトーーク!』(テレビ朝日系)のような芸人の力を試される番組に出ても、共演者から「その落ち着きはなんなの? 2世タレント?」と驚かれるほどいつも変わらずほほえみを浮かべ、「肩書さえ気にしなければ、ただの人間ですからね」と、誰に対しても態度が変わらない。あまりにも不自然なキャラクターなのに、どこまでも自然体。言うなれば“超自然体”だ。  そんなカズレーザーをメインに据えたコーナーが、『お願い!ランキング』(同)の「カズレーザークリニック」だ。これまで不定期に3回放送されている企画で、東京大学を中心とした高学歴女子が抱える悩みをカズレーザーにぶつけ、それを解決しようというものだ。  数学オリンピックの金メダリストやルービックキューブ日本一、あるいは高いIQを持つ人たちだけが入れる組織「JAPAN MENSA」の会員といった日本トップクラスの頭脳が「普通の人と会話のテンポが合わない」とか、「勉強に集中しすぎて、部屋の掃除ができない」などといった悩みをカズレーザーに打ち明ける。  そうした悩みにも、カズレーザーはいつもの超自然体で飄々と答えていく。  例えば「女子力の磨き方がわからない」という悩む東大生女子。彼女は周りが男子ばかりゆえ、普通の女子が、男性にモテるためにやることがわからないという。それを探るためにファッション誌を見ずにアニメを参考にしてしまったため、コスプレにハマってしまい、普段からゴスロリ系のファッションをしている。「東大で、女子で、しかもコスプレ好き=化け物」と自嘲する。  それに対し、カズレーザーは「俺なんか、金髪で、バイセクシャルで、マッチョだぜ。でも、明るく生きてる」と笑い飛ばす。  そして、そもそも「女子力」というのは何かと問う。そこで相方の安藤が「一般的に言われているのが『料理ができる』『飲み会で取り分けができる』」と解説を加えると、「愚問も甚だしいね」と、カズレーザーは持論を展開していく。 「料理ができる女子は、『女子力高い』じゃなくて『料理ができる子』ってカテゴライズされる。取り分けできる子は『気が利く子』ってカテゴライズされる。『女子力が高い』なんて女性はもともといないの。ウソの概念。そんなことを気にする必要ない」  目からウロコ状態の女子大生に、優しく言う。 「モテないって、自分で気を遣ってるだけ」と。  また「プライドが高すぎる」と悩んでいる女子大生には、「好奇心が一番学問を育てる。その次は劣等感だと思う。誰かと並びたいというプライドは、あったほうがいいと思う」と、極めてまっとうなことを語った上で、こう答える。 「あと、そんなに言うほどプライド高くないんじゃないかって思う。本当にプライド高かったら、こんなカメラの前で芸人に悩みを相談しない(笑)」  カズレーザーは、どんな悩みを持っている人に対しても、決してその人を否定することはしない。まず彼は相手の悩みに対して、必ず先に「俺なんか、金髪で、バイセクシャルで、マッチョだぜ」と言うように、自分の周りにある具体例を自虐を交えて語って、相手に寄り添う。  前述の「プライドが高すぎる」という彼女には、自分には「プライドがない」と言う。「人類の後輩でいたい」と。 「芸人は、プライドがないほうが仕事につながるから」とその理由を語りつつ、でも「ちゃんと研究したり学問を修める人は、プライドがあったほうがいい」と諭す。その上で、相手が抱いている「悩み」自体が、実は思い込みで実態のないものではないかと論理的にその前提を問い直す。  そもそも「女子力」なんてものはあるのか、不都合なほどプライドは高くないんじゃないか、と。そうして、だったらあなたはそのままでいいのだと結論を下すのだ。  ただ単に「そのままでいい」「大丈夫」と言うのは簡単だ。けれど、カズレーザーは自虐でしっかり相手の心を解きほぐし、論理で悩み自体を無効化する。そして、最後に相手を肯定するから、圧倒的な説得力がある。一方で、常にどこか他人事で一定の距離があり、親身になりすぎない自然体の適当さも心地いい。  本当の意味で「頭がいい」というのは、こういうことを言うのだろう。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

人類の後輩でいたい――カズレーザーが「カズレーザークリニック」で示す、自然体の知性

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サンミュージック公式サイトより
 メイプル超合金の快進撃が止まらない。  昨年末、「M-1グランプリ」の決勝に出場すると一気に知名度が上昇した彼らは、一度見たら忘れられない強烈なキャラクターを2人ともが持っているという、稀有なコンビだ。  安藤なつは、体重130キロ近い体形で、「性の化け物」を公言し、セフレの存在も認める女芸人。一方、金髪で常に全身赤い服を身にまとうカズレーザーは、及川光博、京本政樹、天海祐希といった「美しい人」がタイプだという、バイセクシャルだ。その恰好は、寺沢武一の漫画『コブラ』の主人公を模したものだ。「ヒーロー」になりたいのだという。  同志社大出身のインテリで、クイズ番組などでも活躍。『アメトーーク!』(テレビ朝日系)のような芸人の力を試される番組に出ても、共演者から「その落ち着きはなんなの? 2世タレント?」と驚かれるほどいつも変わらずほほえみを浮かべ、「肩書さえ気にしなければ、ただの人間ですからね」と、誰に対しても態度が変わらない。あまりにも不自然なキャラクターなのに、どこまでも自然体。言うなれば“超自然体”だ。  そんなカズレーザーをメインに据えたコーナーが、『お願い!ランキング』(同)の「カズレーザークリニック」だ。これまで不定期に3回放送されている企画で、東京大学を中心とした高学歴女子が抱える悩みをカズレーザーにぶつけ、それを解決しようというものだ。  数学オリンピックの金メダリストやルービックキューブ日本一、あるいは高いIQを持つ人たちだけが入れる組織「JAPAN MENSA」の会員といった日本トップクラスの頭脳が「普通の人と会話のテンポが合わない」とか、「勉強に集中しすぎて、部屋の掃除ができない」などといった悩みをカズレーザーに打ち明ける。  そうした悩みにも、カズレーザーはいつもの超自然体で飄々と答えていく。  例えば「女子力の磨き方がわからない」という悩む東大生女子。彼女は周りが男子ばかりゆえ、普通の女子が、男性にモテるためにやることがわからないという。それを探るためにファッション誌を見ずにアニメを参考にしてしまったため、コスプレにハマってしまい、普段からゴスロリ系のファッションをしている。「東大で、女子で、しかもコスプレ好き=化け物」と自嘲する。  それに対し、カズレーザーは「俺なんか、金髪で、バイセクシャルで、マッチョだぜ。でも、明るく生きてる」と笑い飛ばす。  そして、そもそも「女子力」というのは何かと問う。そこで相方の安藤が「一般的に言われているのが『料理ができる』『飲み会で取り分けができる』」と解説を加えると、「愚問も甚だしいね」と、カズレーザーは持論を展開していく。 「料理ができる女子は、『女子力高い』じゃなくて『料理ができる子』ってカテゴライズされる。取り分けできる子は『気が利く子』ってカテゴライズされる。『女子力が高い』なんて女性はもともといないの。ウソの概念。そんなことを気にする必要ない」  目からウロコ状態の女子大生に、優しく言う。 「モテないって、自分で気を遣ってるだけ」と。  また「プライドが高すぎる」と悩んでいる女子大生には、「好奇心が一番学問を育てる。その次は劣等感だと思う。誰かと並びたいというプライドは、あったほうがいいと思う」と、極めてまっとうなことを語った上で、こう答える。 「あと、そんなに言うほどプライド高くないんじゃないかって思う。本当にプライド高かったら、こんなカメラの前で芸人に悩みを相談しない(笑)」  カズレーザーは、どんな悩みを持っている人に対しても、決してその人を否定することはしない。まず彼は相手の悩みに対して、必ず先に「俺なんか、金髪で、バイセクシャルで、マッチョだぜ」と言うように、自分の周りにある具体例を自虐を交えて語って、相手に寄り添う。  前述の「プライドが高すぎる」という彼女には、自分には「プライドがない」と言う。「人類の後輩でいたい」と。 「芸人は、プライドがないほうが仕事につながるから」とその理由を語りつつ、でも「ちゃんと研究したり学問を修める人は、プライドがあったほうがいい」と諭す。その上で、相手が抱いている「悩み」自体が、実は思い込みで実態のないものではないかと論理的にその前提を問い直す。  そもそも「女子力」なんてものはあるのか、不都合なほどプライドは高くないんじゃないか、と。そうして、だったらあなたはそのままでいいのだと結論を下すのだ。  ただ単に「そのままでいい」「大丈夫」と言うのは簡単だ。けれど、カズレーザーは自虐でしっかり相手の心を解きほぐし、論理で悩み自体を無効化する。そして、最後に相手を肯定するから、圧倒的な説得力がある。一方で、常にどこか他人事で一定の距離があり、親身になりすぎない自然体の適当さも心地いい。  本当の意味で「頭がいい」というのは、こういうことを言うのだろう。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

オードリー若林が『ご本、出しときますね?』で引き出す、作家たちの素顔

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 小説家の生態とは、一体どのようなものなのだろうか?  普段なかなか接する機会が少ないため、よくわからない。それを解き明かしてくれるのが、オードリー・若林正恭が司会を務める『文筆系トークバラエティ ご本、出しときますね?』(BSジャパン)だ。  読書家で知られる若林は、私生活でも西加奈子や朝井リョウら小説家と交流があり、よく飲みにも行くという。話をすると、めちゃくちゃ面白い。内容も最先端なことばかり。そこで若林は、小説家を集めてトークする番組がやりたいと、『ゴッドタン』や『ウレロ』シリーズなどで知られるテレビ東京のプロデューサー・佐久間宣行に提案し、実現したのだ。  出演する小説家ゲストは、前述の西や朝井をはじめ、長嶋有、加藤千恵、村田沙耶香、平野啓一郎、山崎ナオコーラ、佐藤友哉、島本理生、藤沢周、羽田圭介、海猫沢めろん、白岩玄、中村航、中村文則、窪美澄、柴崎友香、角田光代といった面々。その多くが、テレビにはめったに出ない人たちだ。 「小説家」や「本」をテーマにすると、どうしても“堅い”番組になりがちだ。しかし、この番組は芸人である若林が聞き手のため、そうはならないで、常に笑いがあふれている。かといって、テレビバラエティにありがちな、わかりやすい笑いだけに走ったりもしない。それは、若林や作り手たちが小説家をリスペクトしているからだろう。  番組では、前半は視聴者や3人(ゲスト2人+若林)から募集したテーマを元にトーク、後半は「私のルール」と題して自分に課しているルールをそれぞれが語る、というのが基本構成。そして最後に、その日のトークに合わせたテーマで、オススメの本を紹介する。ここで重要なのは、若林は基本、聞き手ではあるが、絶妙なバランスで自分の話も挟むことだ。  例えば、売れない若手時代、アナーキーなことをやるのがカッコいいと思っていたが、そんな時代を脱したきっかけになった先輩芸人の一言だとか、もともと自分のモチベーションは「怒り」だが、最近それがなくなって戸惑っているなどという話をする。  すると、ゲストもどんどん話しやすくなっていく。ゲストは小説家だ。決して、トークに慣れているわけではない。「さあ、話して」と言われても、戸惑ってしまうだろう。けれど、若林が自らを積極的に開いていくことで、ゲストも饒舌になっていくのだ。  だから、小説家それぞれの魅力的なキャラクターがあらわになっていく。角田光代が実は「ボクシング歴16年」だという意外な話や、「『Qさま!!』(テレビ朝日系)のオファーめっちゃくる!」「(断っても)なかなかあきらめない」というような、西・朝井の裏話なども飛び出す。  中でもすごかったのは、先ごろも芥川賞候補に選出された村田沙耶香だ。小説家仲間から「クレイジー」と評される彼女は、ウワサ以上にクレイジーだった。 「私のルール」のコーナーで、彼女は「自分に湧き上がった感情、特に負の感情は頭の中で分析し、原形がなくなるまで研究して遊ぶ」というルールを発表した。  学生時代、女生徒たちに嫌われていたセクハラ教師がいたという。確かに、自分の体をぎゅうぎゅうと押し付けてきたりする。当然、嫌悪感が押し寄せてきた。だが、村田は、そこで「本当にこれは正しい嫌悪感なんだろうか?」と立ち止まった。周りのみんながその教師のことを嫌い、セクハラだと言っているから惑わされているだけではないか、と。そんなことを分析しているうちに、嫌悪感がいつの間にかなくなってしまったというのだ。  また、村田は作家だけで生活できるようになっても、週3ペースでコンビニのバイトを続けている。  そこで「ちょっと、こっちこっち」と客に呼ばれ、「なんでしょう?」と近寄ると突然、ギュッと抱きつかれた。事件である。  だが、村田は「気がつかないふりをしよう」と思った。気づいたら「セクハラっぽい雰囲気になっちゃうから」と。いや、「セクハラっぽい」というより、「強制わいせつ」である。さらに、おにぎりを陳列している際、別の客に急に足首をつかまれた。また気づかないふりをしていたら、ほかのお客さんが飛んできて「お前何やってるんだ!」と騒ぎになった。それを「セクハラみたいになっちゃった」とあっけらかんと言うのだ。まさにクレイジー。  よく小説は小説として独立して読みたいから、作家の人となりは知りたくないという人もいる。もちろん、それは読み手の態度のひとつだ。だが、作家の人となりを知ることで作品が立体的に見えたり、それを手にするきっかけになることは少なくない。事実、若林の下には「出版業界のために(なる番組を)ありがとう」という声が届くという。  だが、若林は出版業界のためにやっているわけではない。「俺が楽しくてやってる」と言うのだ。  聞き手が楽しんでいるから、自ずとしゃべる方も楽しくなる。すると、それを見ている視聴者も楽しい。 「俺、とてもじゃないけど、(テレビで)本音言ったら仕事全部なくなっちゃう」と、“本音”をさらけ出す若林に作家たちは共感して、素顔を見せてくれる。 「未知の世界を知ることのはものすごい喜び」と村田は語っているが、まさにこの番組はそんな未知の世界を教えてくれるのだ。  残念ながら、今週(6月24日)放送される回で第1シーズン最終回を迎えるが、まだまだ魅力的な作家が数多くいる。  若林のライフワークになってほしい番組だ。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから