
NHK『LIFE!~人生に捧げるコント~』- NHKオンライン
「どうしてその道に足を踏み入れたんだ? お前それで良かったのか? もっと違う選択肢があったんじゃないのか?」
ガウン姿の内村光良が、楽屋でテレビを見ながらセリフの練習をしている。
これは『LIFE!人生に捧げるコント』(NHK総合)で、3月18日に放送されたコント「やってみよう」の一幕だ。
『LIFE!』は、2012年9月にNHK BSプレミアムで放送が開始され、翌年6月から不定期レギュラー化。今年4月からは、毎週のレギュラー化が決まったコント番組である。
出演は、座長のウッチャンナンチャン・内村光良のほか、ココリコ・田中直樹、ドランクドラゴン・塚地武雅、我が家・坪倉由幸、しずる・池田一真の中堅から若手のお笑い芸人勢に加え、西田尚美、塚本高史、星野源、ムロツヨシ、石橋杏奈といった俳優勢が名を連ねている。
作家陣も、内村の盟友である内村宏幸や平松政俊、劇団「ペンギンプルペイルパイルズ」の倉持裕、そして今年に入ってからは「シベリア少女鉄道」の土屋亮一も加わった。出演者も作家陣も、実にバランスのとれた布陣はNHKらしい。
NHKのお笑い番組といえば、数年前までは『爆笑オンエアバトル』を除けば、いわゆる“演芸”番組以外は見当たらなかった。
そんな中で誕生したのが、『LIFE!』の内村宏幸や平松も参加した『サラリーマンNEO』だった。『サラリーマンNEO』は、後に『あまちゃん』でも演出した吉田照幸が監督を務め、生瀬勝久、沢村一樹、中越典子、入江雅人、平泉成、原史奈といった俳優陣が演じたコント番組。04年にスタートすると、現在までSeason 6を放送。11年には『サラリーマンNEO 劇場版(笑)』として、映画公開までされる人気番組となった。
当時、NHKにはコント番組のノウハウがまったくなく、コント番組を多く手がけた作家の内村宏幸らが“先生”のようになって、その方法論を一から学んでいった。それこそ、スタッフの笑い声を入れるのか入れないのかで、激論が交わされたほどだったという。当時を振り返って、内村宏幸は「未開の地に野球を教えに行くみたい」だったと語っている。
この番組を通じてコント番組のノウハウを学んだNHKは、ダウンタウンの松本人志を招いて『松本人志のコントMHK』を作ったり、BSプレミアムでは『七人のコント侍』を不定期で放送し、コント番組の血脈を継承している。『LIFE!』もそのひとつだ。
今、民放では、定期的に放送されるコント番組はほとんどなくなった。作るのに時間がかかり、セットにもお金がかかる上、視聴率も獲りにくい。コントをやる場がなくなるから、コントを作るスタッフも育たない。
しかし、NHKは違う。
民放のように、毎分の視聴率にとらわれる必要はない。また、ドラマの歴史が深く、それらのセットを保存しているので、あらゆるシチュエーションのセットがスタジオのどこかで眠っている。だから、セットにほとんどお金がかからないというわけだ。
逆に、民放のように多くの芸人がひな壇に座るバラエティ番組はやりにくい。同様に、多くのタレントを使ったゲームのような企画も、NHKの雰囲気には合わない。だが、お笑いを“作品”のように作るコントなら、NHK的な価値観を保持しつつ、思いっきりふざけられるのだ。実は、コントこそ、NHKらしいお笑いの形だったのだ。
冒頭のコントは、内村光良による書き下ろしだ。
セリフの練習をしている楽屋のテレビには、次々と刑事ドラマの予告が流れていく。塚本高史の熱血刑事もの、星野源の鑑識もの、西田尚美のインターポールの女刑事もの……。
さらに「50歳と45歳がタッグを組んで難事件に挑む」という塚地と田中の『独身刑事』。予告には「独身(ひとりみ)しか裁けない悪がある―」というコピーが躍っている。そして、ムロツヨシによる『ニューハーフ刑事』。そんな数々の刑事ドラマの予告を見ながら、もう一度男は台本を見つめる。そのタイトルは『全裸刑事』。内村は一瞬迷いの表情を浮かべながら、「やってみよう」と全裸になるのだった。
実はこのコント、もともとは『全裸刑事』ではなく、『大家族刑事』だったという。
撮影時は、まだテレビで流れてくる刑事ドラマの予告はできていなかったので、内村はそれを見ている体(てい)で『大家族刑事』を演じた。ところが、いざ予告ができ上がり、内村のパートとつなげて見ると、『大家族刑事』が『独身刑事』や『ニューハーフ刑事』に「負けている」と感じたのだ。
「仕上がったのを見たら、あまりにも(他が)強烈すぎてこれは『大家族刑事』が霞んじゃう、と。そこで俺が忙しいさなかに考えついたのが『全裸刑事』(笑)。ニューハーフまで行った時に、これを超えるのはなんだろうって考えたのよ。『侍刑事』とか……。でも『全裸』にかなうやつがない(笑)」(内村/スタジオトークより)
そうして、最初からすべて撮り直したのだ。
デビュー当時からずっとスタジオコントにこだわり続けた、内村光良のコント職人としての矜持を感じさせる“全裸”だった。
「どうしてその道に足を踏み入れたんだ? お前それで良かったのか? もっと違う選択肢があったんじゃないのか?」
今、テレビを主戦場にする芸人にとって、コント番組は茨の道だ。もっと楽な選択肢はあるかもしれない。それでも内村は「やってみよう」と、スタジオコントをやり続けた。コントができない時期は、挑戦ものの企画などでキャラクターになりきったりして、擬似コントを演じ続けた。自身にとって『笑う犬』(フジテレビ系)シリーズ以来約9年ぶりとなるコント番組『LIFE!人生に捧げるコント』では、いつしか内村の醸し出す“哀愁”が武器になった。
「今、この年になったからこそ、その味わいが表現できるようになったと思うんです。そういう意味では、これから50代、60代と年齢を重ねていくと新たなキャラクターが生まれるんじゃないかと思っていて。この先、それがすごく楽しみですね」(『NHKウィークリースコラ(2013年8/16・23号)』)
内村光良は、コントに芸人人生を捧げている。そして、その人生は続いていくのだ。
(文=てれびのスキマ <
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