
撮影=尾藤能暢
企画意図を的確に読み取る“上品芸人”であり、ひな壇では抜群の安定感を醸し出す“先生”であり、もはやバラエティ番組に欠かせない存在である博多大吉。初めての著書『年齢学序説』(幻冬舎)も文庫化されるなど、絶好調、怖いものなし、この世の春かと思いきや……。くべてもくべても燃えない焚火のように、頑なに「そんなことないです」を繰り返す、あぁ上品。というわけで、年齢本に込めた思いから昨今のお笑い事情まで、愛と毒を絡めて語る大吉ワールドをご堪能あれ。
――まずは、この本を書こうと思ったきっかけを教えてください。
大吉 僕が『やりすぎコージー』(テレビ東京系)で「26歳にまつわる都市伝説」を発表したのがきっかけです。実はこのネタ、ゴールデンでは丸々カットされたんです。言葉悪いですけど、その辺のネットで拾ってきたようなネタを言う人がゴールデンでオンエアされていまして。あぁそんなもんかと。それが深夜でオンエアされたものを、幻冬舎の編集さんが見ていてくださったんです。声をかけてもらった時は、うれしかったですね。見ている人は見ているんだなぁと思いました。
――年齢の法則に気づいたのは?
大吉 大物芸人さんはみんな26歳で冠番組を持っているなぁと思って、調べてみたらそうじゃない人だらけだったんですけど、追いかけていくと必ず何かあるんですよ。基本、そこをくっつけているだけの戯言です。
――でも、『年齢学』ですよね(笑)。
大吉 このタイトルを編集さんから提案された時は、おいおい全然「学」じゃないし、その上「序説」なんて何を言っているんだって、慌てましたよ。何度も言いますが、戯言なんですよ。お笑い、プロレス、漫画、昭和歌謡……自分の好きなことを書いているだけなんです。しかも回りくどく!!
――構想8年、執筆3年、大作です。
大吉 ある程度、ネタはあったんです。1ページに1ネタくらいのネタ本にしましょうかって提案もしてもらったんですけど、たぶん自分が本を出せるなんて最初で最後だと思ったんで、それではちょっとさみしいかなと。それで「一回書かせてもらっていいですか?」ってお願いして、前半部分を書いてみたんです。それを読んでもらって、こんな感じで書けるならやってみましょうと。ただ、前半にだいぶ出し尽くしてしまったんで、後半はほぼほぼ残りかすを集めた厳しい戦いでした。EXILEの年齢を足して割っている時なんか、ドキドキですよ。「26になれ、26になれ」って祈りながら計算して、26になったら「やった~!」って。もういろいろな人の年齢を計算してますから。四則計算駆使して。
――そうはおっしゃいますが、この本には大吉先生のクールで鋭い視点が詰まっていると思います。
大吉 小さい頃から、大人の顔色をうかがう子どもだったんでね。仕事中はフロアさん(フロアディレクター)の顔ばっかり見てしまいますね。今何が起こっているのか、だいたい顔を見れば分かりますから。
――相手が求めていることをやりたいと。
大吉 まずはそれですね。その相手というのが、僕の場合はMCの方とかではなくてスタッフさんなんです。そのあたりが、上品芸人と呼ばれるゆえんですかね。
――あの「上品芸人」(テレビ東京系『ゴッドタン』での一企画)のくくりは、大発見でしたよね。
大吉 よくぞ言ってくれた、と思いました。だって、しゃべりながらも「絶対ここ使わないだろ」っていうこと、いっぱいありますもん。ただ現場のためにやってるっていう。そういうカンペは、だいたい僕に出る。もちろんオンエアされない。あれ? あんなに疲れたのに、テレビでは全然しゃべってないな……と思いながら。
――『年齢学序説』が文庫になると聞いた時は、いかがでしたか?
大吉 僕、その話はてっきり立ち消えになったと思っていたんで、「まだあったんだ」っていうのが正直な感想でした。装丁が決まったころでしょうか、やっと実感が湧いてきて。実際、駅なんかで売ってるのを見かけると、「うわっ」ってなります。買っちゃいますもん。恥ずかしくて。だいたい一冊しかないから。
――『サンデー・ジャポン』(TBS系)でもせっかく宣伝できたのに、すぐ(本を)隠しちゃいましたよね。
大吉 編集さんには申し訳ないですけど、恥ずかしいんです。
――芸人さんなのに、本を書いているということが恥ずかしい?
大吉 ここまで時間をかけて書いたものなので、言い訳できないんですよ。面白くないって言われたら、もう「すいません」としか言いようがない。で、自分でも思うんですけど、年齢層や趣味とか読者を選ぶ本なので、ハタチそこそこの、なんとなく僕のことを好きだなって思ってくださっている方が読んだところで、ちんぷんかんぷんですから。だから、なるべく知られたくないっていう気持ちのほうが前面に出ちゃいまして。本当は同窓会で売りたいんですよ、手売りで。
――先日、大吉先生のラジオでの発言がネットニュースで出回っていたのをご存じですか?
大吉 知ってます。すぐニュースになるんですね。

――「若い子がテレビを見ない理由」。世代間で話題を共有できていないと。
大吉 その、(テレビに出てくるネタの世代間格差の)集大成みたいな本ですよ、これは。
――この本で、若い子たちに知ってほしいという気持ちはありますか?
大吉 いや、同世代で趣味も僕と合う人が懐かしがって読んでくれたらいいです。若い子が知る必要のない情報が山盛りですからね。
――そうは言っても、普遍的なアドバイスをさりげなく忍ばせてますよね。たとえば、「妥協すること」と「諦めること」の違いとか。
大吉 僕は「前向きな撤退」っていう言葉が大好きなんです。妥協するっていう自覚は持ちにくいかもしれませんが、ちょっとずつ目線を下げていく……それは「諦める」こととは違う。
――今、NSCに入学する人が年に2000人いて、その割には出ていける場所は少ない。芸人を続けていこうか悩んでいる人に相談された時、大吉先生はどんな言葉をかけるんですか?
大吉 相談されたら、「辞めたら?」って言います。でも、相方は「絶対辞めるな!」としか言わない。だから、どっちに相談するかです。今ね、40歳付近で固まってしまってるじゃないですか。この世代、強すぎるでしょ。MCにもいるし、ひな壇にもいるし。『アメトーーク!』(テレビ朝日系)の年間大賞とか、あれだけ芸人がいて、一番若手が品川君(品川庄司)ですよ。そりゃあ、20代30代、出てこれないですよ。
――まるで自民党の議員みたいです。
大吉 そんな中、パンサーとかジャンポケとか頑張ってますけど……数が違う。この城は、なかなか落とせないと思いますよ。
――その40歳周辺の芸人さんたちがテレビにも出て、毎年ライブもやって、自分たちでネタも書いて……もっと調子に乗ってくれないと、若手の出番がないのでは?
大吉 僕たちも、月イチで新ネタを作るようにしてますね。浮かれられないんです。吉本はギャラが安いとはいえ、おかげさまでここまで働いていればある程度はもらえるので、遊ぼうと思えば遊べるんですけど、やっぱりダメですね。
――それは恐怖感ですか?
大吉 どんどん年を取ってますからね。もう44ですよ。じっとするのが怖い。華丸さんが結構ね……僕はまだ咀嚼しきれてないんですけど、華丸さんがいま変な面白さを出しているんですよ。フツーの一言が、めっちゃウケたりするんです。それはそれですがりたいんですけど、怖いんです。よく分かってないから。長いこと一緒にいすぎて、華丸さんの何が面白いのか、よく分からなくなってきてる(笑)。自分が作ったネタを演じてもらってなら、理解できるんですけどね。「今日は寒かね~」でドカーンとウケたりする。
――すごい、金脈ですね。
大吉 ただ、これ以上埋まっているのかなという不安もありますよ。そこに頼っちゃうと、実は泥でしたっていうこともあるかもしれないので。
――そういう用心深いところが、大吉さんが「先生」と呼ばれるゆえんなのでしょうか?
大吉 僕らは変に年を取ってる後輩芸人なので、雨さん(雨上がり決死隊)に気を使っていただいてるだけですよ。僕のことは「先生」で、華丸さんは「岡崎さん」。それを見て、周りの芸人さんたちもそう呼んでくれるようになったので、ありがたいですね。
――やはり『アメトーーク!』での「博多華丸・大吉芸人」は大きかったですか?
大吉 あれは、僕らの中ではゴールだったんです。これでいつでも福岡に帰れるし、あとはもう言ってみれば余力というか。行けるところまで慣性の法則で行こうみたいなノリでした。実際、あれで爆発的に仕事が増えたわけでもないですし。それより、ちゃんとしたマネジャーがついてくれたことのほうが大きいかもしれません。

――基本、スタンスは変わらないと。
大吉 変わらないですね。劇場やってるからじゃないですかね。お客さんの前で漫才をすることで冷静になれる。テレビに出られなくても、劇場でウケていればいい話なんで。あと福岡にも仕事があるし。慌てないんですよ、僕たち。
――故郷を捨てて、東京で成功してやる! っていうのも、芸人として成功する一つのモチベーションだと思うのですが、あくまで福岡と東京の両立にこだわった理由はなんでしょう?
大吉 僕も福岡のことが好きですし大事にしたいですけど、僕以上に華丸さんが動かない。何よりも福岡を優先させるので。福岡を優先させているのか、福岡のゴルフを優先させてるのかは謎ですが。ちょっとは山っ気が出る時もあるんですよ。ピンでいろいろな仕事に呼んでもらって、それがウケればいいんですけど、失敗して落ち込んだ時、ふと振り返ると華丸さんが福岡でほほえんでる。それがどうしたって顔で、こっちを見てる。それで僕も「あぁそうでしたね」って。なんかすいません、ちょっと調子に乗ってました。反省とかしなくてよかったんですねって。
――華丸さんの存在が大きいんですね。
大吉 本当にアイツが僕以上に博多が好きなので。全国ネットで「有名なラーメン店は?」って聞かれて、パッと浮かんだところを言うべきなのに、あの人は言わない。どこの名前を出しても角が立つ。あの店は、俺は好きだけど最近行ってないから味が落ちてるかもしれない。そういうことを気にして、結果、黙るという、テレビとしてあるまじきことをするんですよ。その一瞬は「何やってるんだ」ってムッとはしますけど、よくよく理由を聞いてみると、あの人はブレてない。昔っから何も変わってない。
――華丸さんが『R-1』で優勝して先にブレイクして、その隣で大吉先生はどんなことを考えていたのですか?
大吉 華丸さんばっかりテレビに出てると、親たちから「アンタ何やってるの?」って言われるので、その辺は確かにキツかったですけど、個人的にはなんとも思っていなかったですね。すごい失礼な言い方ですけど、『R-1』にそこまで期待していなかったので、そんなに重要なタイトルだとは、当時は思っていなかったんですよ。たまたま優勝しただけのこと。それでTBSだったり、フジテレビだったり、いろんなテレビ局を見学させてもらったと。お金をもらって芸能人を生で見れて。ウィニングランの気持ちで一年間を過ごしました。
――ご自身も芸能人なのに。
大吉 違いますよ。たまに街で僕のことを見かけて喜んでくれる方がいらっしゃるんですけど、困るんです。「またまた」と。綾野剛さんのほうがうれしいでしょ? 僕とばったり会うより。ごめんね、だけど綾野剛はここにはいないんだよ……と。
――考えすぎです(笑)。
大吉 この間ですね、ロケで嵐の櫻井翔さんがカレーを召し上がったんですけど、カメラが止まった後に「大吉さん食べますか?」って言っていただいて、翔さんが使ったスプーンで食べてしまったんですよ……。さらに、その後、翔さんがまた同じスプーンで食べた。ラリーがあったんです。これは調子に乗ってるなと、自分で自分を戒めました。
――(笑)。最後に、読者にメッセージをいただきたいのですが。
大吉 まぁきれいごとみたいですけど、売れてない若手が読んでくれたらいいなと思って書きました。世に出れなくてもがいている、ウチの、吉本の芸人に読んでほしいなと思って書いたんですけど、まぁ思っていた以上に誰も読んでくれなくて、はらわた煮えくり返るのみです。アイツら! だからお前ら売れないんだ!
――だから、26がダメでも38がある。38がダメでも……というふうに書いたのに。
大吉 僕の計算では、毎年2000冊売れるはずなんです。NSC生が買うから。
――授業で読んでほしいと。
大吉 本当ですよ。今でこそこんなエラそうに言ってますけど、自分たちもそうだったので。35歳、知名度ゼロで東京に出てきてました。人生なんてあっという間ですから、若手は早くこれを読んで、辞めるなら辞める。続けるなら続ける。僕に謝るなら謝る。その三択です。
(取材・文=西澤千央)