
NHK-FM 『今日は一日“プログレ三昧”3』
しゃべりと笑いと音楽があふれる“少数派”メディアの魅力を再発掘! ラジオ好きライターが贈る、必聴ラジオコラム。
史上最高に「面倒臭い」音楽番組である。何しろ、取り扱う音楽ジャンルが複雑怪奇な「プログレッシブ・ロック」限定で、放送時間は10時間。1曲目から25分強の曲がかかり、やっと終わったかと思えば、今度はうんちくまみれの音楽語りが止まらない。9月23日に放送された『今日は一日“プログレ三昧”3』(NHK-FM 12:15~22:45)は、そんな面倒臭さが絶妙な違和感となって通りがかりのリスナーを惹きつけるような、ある種理想的な音楽番組のありようを提示してくれた。
そもそもこの番組は、毎回ひとつのテーマに特定して一日中音楽を流すという特番「三昧シリーズ」の一環であり、ほかにも『“パンク/ニュー・ウェイブ”三昧』『“プロ野球ソング”三昧』『“ひげ男(メン)ソング”三昧』など、オーソドックスなくくりから斬新すぎてピンとこないくくりまで、これまでもさまざまな『三昧』が放送されている。その中で「プログレ」というテーマは最も硬派な部類に入るが、だからこそ出演者、リスナー共にこだわりが強く、面倒臭いということでもある。
今回はそんな『“プログレ”三昧』の第3弾。番組は、ナビゲーターの山田五郎と音楽評論家の岩本晃市郎とプログレマニアのリスナーが、今回初登場でプログレ初心者のNHK荒木美和アナにプログレの魅力を伝えるプロセスを通じて、ラジオの向こうの初心者リスナーにもプログレの良さをわかってもらおう、という図式である。司会の山田自身がプログレマニアな上、専門の音楽評論家もいて、さらに山田から「プログレはリスナーも面倒臭い」といわれるほどにマニアックなリスナーが山ほどメールを送ってくる状況は、プログレ初心者の荒木アナにとって、すでに十分過酷なアウェイの場といえる。
しかし今回はそこに、さらに恐ろしく面倒臭い男が登場した。「スターレス高嶋」こと高嶋政宏である。キッスのメイクで弟の泥沼離婚問題に関する質問にまで受け答えしたことで、結果的にその天然っぷりと人のよさと比類なきロックへの忠誠心を示すこととなった、あの高嶋政宏である。何しろ、キング・クリムゾンの名曲「スターレス」をその名に冠する男、彼のプログレ愛はもう誰にも止められない(というと、「そんなメジャーなバンドの曲を名乗るようではまだまだ甘い」というのがプログレマニアの面倒臭さなのだが)。
高嶋は登場まもなく、プログレ初心者の荒木アナにロック・オン。映画『バッファロー’66』のサントラでプログレをちょっと聴いたことがあるという荒木アナに対し、「プログレをコンピで聴く女は信用できない」といきなり憤慨。「荒木さん、プログレはベースとドラムの技術を聴かないとダメなんですよ。バスドラの踏みとか」と頼まれてもいない個人教育を始め、「さっと流しちゃダメなんですよ。家帰ってライナーノーツ見ながらヘッドフォンでじっくり聴かなきゃダメ」と正しい聴き方まで熱血指南。その直前には高嶋自身、「キング・クリムゾンの『レッド』を聴きながら毎日ウォーキングしている」と言っていたのに、他人には「ながら聴き」を許さないという見事なまでの自己矛盾。そしてさまざまな曲と目の前のプログレマニア3人の解説を聴いていくうち、「何がプログレかわかんなくなってきました……」とこぼした荒木アナの反応に、「何がじゃないんですよ! 感じてくださいよ!」と突如ブルース・リー化。それまで長々と説明してきた自らの理屈っぽさをも、一撃で全否定してみせる。
ほかにも、荒木アナがプログレならではの長く面倒な曲名に出てくるカッコや「~」まできっちり読まないと急に不機嫌になったり、NEU!(ノイ!)というバンド名の「!」の部分が伝わるように語尾を強調して読んでほしいと言いだすなど、高嶋の面倒臭さは留まるところを知らない。ところが、次の箇所でその読み方を高嶋の指導通りに実践すると、「いいですよ、いいですよぉ」と村西とおる口調で突如、別人のように上機嫌になるあたり、驚くほどの純粋さをも感じさせる。
しかしこの、理屈であって理屈じゃない感じ、そして自己矛盾を抱えたまま進んでいく話の展開の読めなさは、まさにプログレ的なこじれ方といえるかもしれない。言われている方からしてみれば、単なる面倒なオヤジだが……。まさに山田五郎言うところの「プログレ・ハラスメント」である。
しかし同時に、その面倒臭さこそがこの番組の魅力でありプログレという音楽の魅力でもあって、そこを明確に自覚している山田が司会を務めているというのが、やはりこの番組の肝だろう。マニアとしてジャンルの内側にいながら、同時に外側からの視点をも持ち合わせている。内部にマニアックな知識欲を抱えながら、常に外側に向けて開かれた言葉を持っている。この日は20代女性から寄せられたメールも多く読まれ、中には10代のリスナーまでいて驚いたが、そういった70年代プログレ全盛期を知らないリスナーが増えているのは、山田がプログレ及びプログレファン(自身含む)を形容する際たびたび口にする「面倒臭い」という言葉があるからだろう。
通常、マニアがビギナーをその世界に引き入れるためには、何よりもまずその簡単さや取っつきやすさをアピールするものだが、マニア側にいる彼の口から「プログレは面倒臭い」という言葉が発せられることによって、逆に面倒臭いからこそプログレがいい音楽なのだということが伝わる。彼のように、マニアックなものに接したときの第一印象を持ち続けている人の言葉を聴くと、どんなマニアであっても、誰もが初めは初心者であったということに思い当たる。そしてその言葉につられて聴いてみると、プログレも高嶋政宏も、間違いなく面倒臭くて面白い。いや、面倒臭いから面白い。趣味にしろ人間にしろ、実はほとんどのものがそうなのだ。実に面倒臭く、真の意味でプログレッシブな音楽番組である。
(文=井上智公<
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