
大人計画 公式サイトより
最終回を目前に控え、注目が高まるNHKの朝ドラ『あまちゃん』。その人気と共に、脚本を担当した宮藤官九郎の評価もうなぎ上りに高まっている。以前からコアなファンが多く、俳優からも「宮藤さんの作品なら、ぜひ出たい」というラブコールが絶えなかったが、『あまちゃん』の大ヒットで認知度は高年齢層にまで拡大。幅広い名声を得て、東京オリンピック開会式の演出にも名前が挙げられるほど、いま日本を代表する作家のひとりに駆け上がろうとしている。
そんな輝きの裏で微妙な空気を漂わせているのが、宮藤の師匠である松尾スズキだ。松尾といえば、宮藤が所属する劇団「大人計画」主宰であり、原稿用紙の使い方もままならなかったという宮藤の才能を見抜き、脚本家としての礎を作り出した育ての親。宮藤の作品にも数多く出演しており、『あまちゃん』にも原宿の喫茶店マスター役として出演している。
ところが、松尾はその宮藤の活躍に対してかなり複雑な思いを抱いているらしい。そのひとつの現れが先日発売された、悩み相談をまとめた著書『人生に座右の銘はいらない』(朝日新聞出版)での発言だ。“これまでどんな絶望を感じ、脱出してきたか?”という相談に対して松尾は「いつでも、絶望は感じています」とした上で、こんな恨み節を吐露している。
「テレビドラマの脚本を書きたいのに、二十数年、舞台の脚本を書いてきて、それなりに名もあるのに、一向に話がこない」
もちろんこれは、松尾お得意の自虐ギャグだろう。演劇界では岸田國士戯曲賞の選考委員を務めるほどの大御所になり、サブカル業界でも絶大な支持を得ているくせに、弟子の宮藤に嫉妬して「俺にはテレビの脚本のオファーがない」とぼやく。そんな“ちっちゃい男”感を全開にするコラムは、この人のお家芸ともいえるものだ。
しかしだからといって、松尾のこうした恨み節がまったくの冗談かというと、そんなこともないらしい。松尾をよく知る編集者が、こう語る。
「松尾さんというのはややこしい人で、ああいう自虐ネタや恨み節を言っている時は、本当に黒い感情が渦巻いていることが多いんですよ。親しい人には、本気で愚痴や文句を言っていますから(笑)」
例えば以前、同じ弟子筋にあたる劇作家の本谷有希子がブレークしてメディアからひっぱりだこになった時のこと。松尾はやはりコラムなどで、「本谷はこんなに世話になってるのに、俺を敬わない」「本谷が『トップランナー』(NHK)に出た時もコメントを求められなかった」「著書も送ってこない」などの自虐ギャグを連発していた。だが、この時も裏でこんな行動に出ていたという。
「本谷さんのことを扱った新聞の特集記事で、記者が松尾を含む縁のある人たちにコメント依頼をしたところ、松尾さんが本谷さんに『師匠である自分が、その他大勢と同じは失礼だ』と怒鳴り込んだらしいです」(演劇関係者)
本谷は弟子筋といっても、大人計画に所属していたわけではなく、松尾が講師を務めていた演劇学校の授業に参加していた程度。それでこの怒りようなのだから、確かに今回、宮藤への“黒い感情”がめらめらと燃え上がっていても不思議はない。何しろ、今もサブカル、マニアック枠にとどまっている松尾に対して、宮藤はNHKの朝ドラという国民的な枠で一般ウケしないはずのギャグや小ネタを織り交ぜながら高視聴率を叩き出し、週刊誌では「松尾スズキらクドカンファミリー」と書かれてしまうほど、立場が逆転してしまっているのだ。
実は、松尾の『人生に座右の銘はいらない』には、当の宮藤からも質問が寄せられている。今から5~6年前に松尾へTENGAの差し入れがあり、宮藤もそれをもらうことになった時のこと。宮藤はTENGAの騎乗位タイプをチョイスしたのだが、その際、「ああ、宮藤は騎乗位だよね」と松尾に言われ、宮藤は「それ以来、騎乗位を避けるようになりました」という。「いったい俺の、どこが騎乗位なんでしょう」……これが、宮藤の松尾への質問内容だ。
なんとも他愛のない話だが、しかし、これに対する松尾の回答がじわじわと怖い。「それは、宮藤くんの人生が、受けから攻めに代わるタイミングとリンクしちゃったのかもしれませんね」と、宮藤の活躍ぶりを皮肉ったような発言をしたかと思うと、「しかし、宮藤は本当にTENGA話が好きだよね」と妙な距離感を漂わせて回答を締めくくる。
しかも、この本、ほかにも恨み節のオンパレードだ。「俺みたいに、作品や演技にギャグを入れないと気がすまない性分の人間は、日本では賞的なものとほとんど無縁です」と、演劇界で評価されない実情にもぼやきを炸裂させたかと思えば、「明らかに自分よりレベルの低い作家」が、ただシリアスな作風というだけで“いい賞”を獲り、高額賞金を受け取っていることを“イライラする現実”と言い切り、「人を笑わせるという技術を評価してくれる評論家なんて、ほぼいません」とぼやき続ける。
もっとも、こうしたルサンチマンをネタに変えてゆくことこそが、松尾の持ち味。ここは一つ、松尾のさらなる飛翔のためにも、師弟対決を実現させるべく、誰か松尾にテレビドラマの脚本を依頼してほしいところだ。宮藤への嫉妬がマックスとなっているであろう、今の“クドカンファミリーの”松尾なら、とんでもない作品を書いてくれるかもしれない。