宇多田ヒカルのパパが、沢木耕太郎の「藤圭子」本に激怒しているワケ

41QTeNxXm2L._SS500_.jpg
『流星ひとつ』(新潮社)
 藤圭子の突然の死から2カ月足らずの10月中旬、ノンフィクション作家・沢木耕太郎が、三十数年前の藤を描いた『流星ひとつ』(新潮社)を緊急出版し、話題を集めている。  藤の自殺直後、本サイトでは沢木がかつて藤と取材を通じて男女関係にあり、そのもつれから発表予定だった藤をテーマにした作品を封印してしまった事実を指摘していた(記事参照)。  『流星~』はまさに、その封印していた“幻のノンフィクション”であり、今回の出版は「沢木は藤が自殺を遂げた今こそ、作品を発表すべき」と書いた本サイトの声が届いた形だ。  ところが、この『流星~』に対し、藤の元夫でヒカルの実父である宇多田照實がかみついている。  11月2日のTwitterで、フォロワーから「沢木耕太郎さんの『流星ひとつ』は読みましたか?」と質問された照實は、「厚かましく本を送って来ました。許諾もしてないし、30年以上前に発行予定だった本。藤圭子は怒っていると思います」と怒りをあらわに。「藤圭子さんが生前に出版する事を快く了承しています」と反論する別のフォロワーには、「僕はNYで原稿を受け取った藤圭子の怒りを目の当たりにしました」と主張している。  しかし、この照實の発言には、いくつか首をかしげたくなる部分もある。まず、実子であり親族であるヒカルが出版に関し苦言を呈すのならわかるが、照實は藤と離婚しており、「許諾もしてない」と怒る権利はないようにも思える。さらに、藤はニューヨークで原稿を受け取ったと照實は述べているが、『流星~』のあとがきによれば、ニューヨークに移り住む以前に藤は沢木より原稿を受け取り「自分は出版してもいいと思うが、沢木さんの判断に任せる」と返事したと書いている。  しかも、マスコミ報道などとは違って、今回の作品は、藤の歌への情熱や、小さなことにもいちいち感動する素直でまっすぐな性格などを描いたもので、決して藤を貶めるような内容ではない。  にもかかわらず、照實が激怒している理由を、「許諾云々の問題ではなく、嫉妬のような感情があるのではないか」と週刊誌記者は話す。 「沢木の『流星~』は、照實と出会う前の藤の姿を描いています。沢木と藤は恋愛関係にあったとされていますから、照實にしてみれば沢木は“昔の男”。そんな人間が、2人の濃密な関係を漂わせる本を出版するのは、離婚したとはいえ気分のいいものではないでしょう」  しかも、沢木は長らく封印していた『流星~』を緊急出版した理由について、ヒカルと照實が発表したコメントによって「精神を病み、永年奇矯な行動を繰り返したあげくの投身自殺、という説明で落着」してしまったことが「あまりにも簡単に理解されていくのを見るのは忍びなかった」と書き、ヒカルに「輝くような精神の持ち主」だった藤の姿を知ってほしいと願う気持ちから今、出版したのだと説明している。これではまるで“精神を病んだ人”というイメージを植え付けた照實から、藤を救済する目的で出版したとも受け取れる。 「こうした沢木の記述に、照實がカチンと来た可能性は高いでしょうね」(同)  もっとも、照實の感情とは別に、沢木の『流星~』については、出版業界からも「きれいごとで片付けすぎではないか」という指摘もある。というのも『流星~』には、沢木と藤の関係性がきちんと描かれていないからだ。  例えば、そのひとつがあとがきの問題。沢木によれば、『流星~』の原稿を渡した後、藤から手紙が送られてきて、その手紙の最後には「追伸『流星ひとつ』のあとがき、大好きです」とあったという。ところが、沢木はそう書きながら、肝心のあとがきについてはなぜか“残っていない”として、執筆ノートに記されていたという“あとがきの断片”を公開しているだけなのだ。 「本当のあとがきには、“沢木から藤へのラブレター”が書かれていたはず。沢木さんはわざと残ってないとして隠したんじゃないでしょうか。それ以外にも、『流星~』は肝心な部分をことごとく避けて通ってる気がしてならない。そもそも2人の恋愛関係は、沢木さんが途中で逃げ出して終わった可能性が高い。別れの時にもいろいろあったはず。それをああいう“美しい物語”仕立てにしてお茶を濁すというのは、どうなんでしょう」(大手出版社のベテラン編集者)  自分と取材対象の関係性を丁寧に描く手法で“ニュージャーナリズムの旗手”として高い評価を得てきた沢木だが、今回はそこまで踏み込めなかったようだ。いや、それとも元夫を刺激して怒らせているのだから、やはり2人の関係性は作品からにじみ出ていると考えるべきなのだろうか?

封印された藤圭子の評伝 運命を大きく変えた、大物作家との知られざる悲恋

41NrPsEicOL.jpg
『藤圭子 ベスト・ヒット』(Sony Music Direct [Japan] Inc.)
 8月22日、マンションから飛び降り自殺を図った藤圭子。ワイドショーでは連日、関係者が生前の彼女の様子や思い出を語っているが、ぜひ藤について語ってほしい人物がいる。いや、“書いてほしい”と言うべきだろうか。  その人物とは、『深夜特急』(新潮社)、『テロルの決算』(文藝春秋)などで知られる人気ノンフィクション作家・沢木耕太郎である。最近ではロバート・キャパの代表作を題材にした『キャパの十字架』(同)を出版して話題を呼ぶなど、ノンフィクション界の第一線に立ち続けている大御所だが、実は沢木は、今から34年前の1979年、藤圭子のノンフィクションを書くべく1年間に渡って密着取材を行っていた。そして原稿を書き上げたのだが、なぜかそれは日の目を見ることなく、今も封印されたままなのだ。  なぜ1年も密着し、書き上げたものが発表されずにいるのか……。誰もが不思議に思うが、その理由は沢木と藤が取材を通して恋愛関係に発展、それがこじれた結果、出せなくなってしまったのだという。  この2人の経緯を暴露しているのは、伝説のスキャンダル雑誌「噂の眞相」1999年11月号。新宿御苑に程近い雑居ビルの壁際で、カップルのように親しげなムードで内輪もめを起こしている様子を見たというマスコミ関係者のコメントや、藤が突然引退して渡米したのは、沢木とニューヨークで暮らす約束をしていたからだとする関係者からの証言を紹介している。  実際、当時、藤と非常に親しい間柄だった人物も、その関係を示唆する文章を書いている。それは写真評論家・大竹昭子のエッセイ集『旅ではなぜかよく眠り』(新潮社/95年)に記載された、ある一文だ。「歌姫」と題された文章の中に、「歌手」と呼ばれる女性が登場し、彼女が「著名な作家」が書いたノンフィクション作品の本をぎゅっと抱きしめ、「この作家のことは知らなかったけれど、本人に会ったらとてもステキな人で、たちまち好きになってしまった。もうすぐニューヨークに来るので会うことになっている」と打ち明けるのだ。  もちろん、ここで登場する「歌手」は藤を、「著名な作家」とは沢木のことを指している。実は大竹は、ニューヨークに来たばかりの藤をしばらく居候させていたというのだ。「噂の眞相」では、80年代初頭にニューヨークで藤と付き合いがあったという人物が、藤がいつも沢木の話をし、沢木が書いた幻の原稿をいつもうれしそうに持ち歩いては周囲にそれを見せていたこと、そしてニューヨークで沢木と同棲する計画があることを話していたとも報じている。  この「噂の眞相」の記事では、沢木に直撃取材を敢行。ここで沢木は大竹のエッセイに登場するのが自分と藤であることを認め、「取材のプロセスで確かに彼女は僕に好意を抱いていたし、僕も好意を抱いていた。これは間違いありません」と返答。男女関係にあったことや、同棲の約束をしていたことについては否定しながらも、取材の終わりには「藤さんの家庭はうまくいっているの?」と直撃した記者に逆質問している。  沢木との恋に破れた藤は、その後すぐに宇多田照實と出会い、ヒカルをもうけるわけだが、その経緯を知ると、沢木が藤の人生において与えた影響は大きいと言わざるを得ない。藤について書いた原稿を発表しない理由を記者に問われ、沢木は「それは……話せません」と歯切れ悪く答えているが、少なくとも藤は、愛する人が綴ったその原稿を宝物のように大事にしていたのだ。  なぜ藤は、自らの手で人生の幕を閉じなければいけなかったのか? 今、封印してしまった原稿の続きを書けるのは、沢木をおいてほかにはいない。芸能界を一度は引退するほどまでに藤がかなえようとした恋に対して、今こそ沢木は決着をつけるべきではないのだろうか? (文=エンジョウトオル)