「DJに求められるものが違う」瀧見憲司が語る、海外のクラブ現場事情

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海外でも精力的にDJ活動を行う瀧見憲司氏。

【リアルサウンドより】  日本を代表するベテランDJで あり、自ら音源制作を手がけるアーティストであり、インディ・レーベル「クルーエル」のオーナーでもある瀧見憲司。昨年秋に6年ぶりのミックスCD『XLAND RECORDS presents XMIX 03』をリリースした彼に、クラブ・カルチャーの変遷と現状、DJとしてのこだわり、そしてJ-POPカ ルチャーとの距離感などについて存分に語ってもらった。  筆者が瀧見と知り合ったのは彼がまだ20歳 そこそこで『フールズメイト』誌編集部で働いていたころに遡る。久々にじっくり話した彼は、それから25年以上がたっても、元ジャーナリストらしい冷静かつシャープで明晰な視点を失っていないのが嬉しかった。 ――ー昨年「HigherFrequency」 のインタビューで、「海外のいろんなところでやる機会が増えて、日本人としてというか人間としての弱さも実感するけど。どうしても越えられない一線があるように感じるっていうか。例えば盛り上がっている現場で受けるトラックをそれなりのミックスでかけるのは簡単なんだけど、そうじゃない状態で一線を越えるのは難しい。自分固有のものを持ったまま、あくまでDJとして通用させるのは難しいよね。まだ自分はその一線を越えているとは思えないし」と発言されてましたよね。 瀧見くんのような海外でのプレイ経験も多い、キャリアのあるDJからそういう発言が出るのは重いし、意外でもありました。 瀧見: それは突き詰めると、日本人の、というか自分が持つ白人コンプレックスみたいなものに繋がるんですよ。日本人は世界的に見ればマイノリティだし。日々の生活の中で音楽はもちろん、洋服や身の回りのガジェット、生活様式もほとんど全てが西洋文化に元があるものに囲まれていて、そういう生活を普通にしている自分が、海外で日本人やアジア人が一人もいない場所でプレイして盛り上がってる時に、ふと、壁や一種のアイデンティティ・クライシスみたいなものを痛感することがありますね。もちろん現場では意識ではそう思っていても、体は動いてますけど。やっている事で国境は超えているんだけれど、世界の中での日本人の立ち位置とか存在意義みたいなものをどうしても意識してしまうんですね。30年ばかりずっと洋楽を聴いてきてレコードを買い続けて、音楽と状態を紹介する。言ってみれば自分はそういう人生を送ってきたと思うんです。紹介の仕方のパターンやフォーマットが変わっただけで。日本人なんだけど洋楽を聴いてる、というスタンスは変わってなくて、いざ海外でやってみると、自分はいったい何なんだろうって思いにとらわれるんですよ。結局自分はネイティヴではないし、かけているのは西洋の音楽だけど(歌詞などの)意味や成立過程が完全にわかっているわけではない。でもそれなりに受け入れられているという事実を考えると、 一体どういうことなんだろうなと。 ――プレイしていてお客さんの反応を見てそう感じるわけですか。 瀧見:感じる。歌詞がわからないなりに流れを考えてセットを組んでるわけだけど、絶対に、完全には正しくはないだろうなと思う時はある。正しくなかったり誤読や誤解してるところが逆にうけてるのかもしれないけど。 ――この曲の次にこの歌詞の曲はおかしい、とか、そういうことですか。 瀧見:極端に言えばそういうことです。その曲を成り立たせている文化や背景そのものを完全に理解できているとは言えないから。 ――実際に言われたことはある? 瀧見:言われたことはないです。でも、これは外したかも、と思うことはある。まあ歌ものを続けてかけることは実際の現場では滅多にないですけど。 ――それが日本人が海外でDJをやるときの限界ですか。 瀧見:日本人一般というより、自分自身の限界を感じるときはありますね。スポーツと違って明確な勝ち負けのある世界とも違うので。でも完全にわかってなくても呼ばれるってことは、それなりに意味を読み取ってくれてるんだなとは思いますけど。 ――歌ものでないインストの場合は感じないわけですよね。 瀧見:いや、感じますよ。ある程度の技術があって、同じような曲をかけるのであれば、自分でなくてもいいのかな、誰がやっても一緒なのかな、と思う時がある。自分の持ち味を出しつつ受け入れられるのはすごく難しい。 ――定番ネタとかヒット曲だと、誰がやっても同じになってしまう可能性がある。 瀧見:ヒット曲でなくても「こういうタイプの曲をかければキープできるな」というのはわかってるわけですよ、 経験上。そこで自分らしさを出して、なおかつ受け入れられるのは難しい。凄い盛り上がってる時に、客のパワーに寄せて合わせるのか、違う事をやりつつ場をキープできるのかという事ですね。 ――なるほど。それはさきほどの、日本人のとしての自分というよりは、DJとしての自分の限界ということですね。 瀧見:そう。だから両方あるんですよ。後、アーティストDJというかパフォーマンスとしてDJをやるDJと、クラブDJの違いというのもあるので。 ――なるほど。身近にいる日本人のDJで、 そこをうまくクリアしてる人というと? 瀧見:結局ガイジンになっちゃうのかならないのかっていう境目があって。サトシ・トミイエ君なんかは生活基盤も含めてガイジンになってるでしょ。でも僕はガイジンにはなれないわけですよ。今の自分の状況で自分が若かったら絶対向こうに移住してると思うけど、この年齡(47歳)ではすべてを捨てて海外で勝負するような、そういう無謀さはないし、状況的にも難しい。となると、そういうジレンマからもなかなか逃れられない。

Kenji Takimi @ Retro Futuro, Tipografia Club, Pescara

――でも日本国内だけでなく、海外でプレイすることをやめないですよね。 瀧見:呼ばれるうちは行っておこうと思いますけどね。プロのクラブDJなら、たとえ自分のファンがいない状態でも、やらなきゃいけない。そこで呼ばれるってことは、プロとして評価されてるってことだし仕事だから。でも自分のプレイのどこが面白がられているのか、正直よくわからくて、読めないからこそ面白い現場もありますけどね。ハマってるのか外してるのか、どこまでやっていいのかわからなくなるときがある。そこもまたジレンマなんですよ。 ――となると、日本人であることを前面に出していくしかないってことですか。 瀧見:そういうやり方でお手本になるような前例がないんですよ。いわゆる音楽的にジャパニズム的な方向にはまったく興味ないし。ただ、もちろんアーカイヴィングと新しいもののバランスとかに違いを見いだしてもらってるのかな、と感じるときはあります。 ――海外のお客さんと日本のお客さんの違いは感じますか。 瀧見:僕なんかがやってる界隈でいえば、お客さんの音楽的な知識量レベルは日本のほうがはるかに高いですよ。向こうのDJは「日本人はほんとわかってる」って言いますね。曲をちゃんとわかって聴いている、と。向こうのクラブって、日本でいうカラオケと居酒屋とクラブが合体したような感じなんですよ、<場>としては。あらゆる人がいるわけです。年齢も職業も含めて。ボーイ・ミーツ・ガール的な男女の出会いの場や社交場としても機能している。日本のクラブはマニアックなお客さんが多いハコと、若い一般の人が多いハコが現状かなり分化してる。でも向こうでは、音楽には全然詳しくなくて、酒を飲みにくるだけの人もマニアックな客より比重としてはたくさんいる。ただ、曲は知らなくても音はわかるんですね。そこが全然違う。 ――なるほど。曲を知らなくても、いいプレイなら踊ってくれると。 瀧見:そう。だからそこのスキルをすごく要求されるわけですよ。場をキープするグルーヴ感の抑揚と時間軸に対する感覚がかなり違う。DJも一人5〜6時間とか普通だし、パーティ自体も一昼夜とか毎週普通にやってますからね。逆に、ヨーロッパでバリバリやってるDJが日本のマニアックな客相手に向こうと同じ調子でやって外すこともありますね。「普通じゃん!」って。DJに求められるものが違うから。日本ですごく人気があっても、ヨーロッパではそうでもない、って人もいるし。 ――ああ、わかります。 瀧見:あと、海外の客はエネルギーの量が違うと感じる時は多いですね。その場における熱量のこもり方というか、パワーの出し方がストレートなんで。非言語コ ミュニケーションではあるけど、でもやっぱりコミュニケーションはとらなきゃいけないわけで。そこでエネルギーも使うし。 ――どっちがやりやすいんですか。 瀧見:それは、音楽的にやりたいようにやれるという意味では、マニアのお客さんがたくさんいる日本のクラブの方がやりやすいですよ。 ――でもそこで安住してるだけでは自分の世界が広がっていかない。 瀧見:それはあるかな。ただそう思ったとしても、DJっていうのは呼ばれないと成り立たない職業ですからね。需要がないところでやっても仕方ないわけで。お客さんがいてこそだから。お客さんに引っ張られて場が変わるというのは凄い面白いですからね。 ――そこらへんがアーティストとDJの一番の違いかもしれませんね。 瀧見:逆にそれがあるからこそ、ある程度歳が行ってもやれてるのかなと。メンタリティが違うんですよね。アー ティストって「自分を見てくれ」という職業じゃないですか。自分を紹介するっていうか。でも自分の思うDJとは、自分を介してほかの音楽や状態を紹介する仕事ですからね。 ――そこに関連してなんですが、1年ぐらい前のアンドリュー・ウェザオールとの対談で、DJがアーティストとして音楽を作るときの限界、というようなことを話されてましたよね。 瀧見:限界というか……単純に聞き手として、音楽としてどっちに感動するかといえば、もちろんDJが作る音楽にもいいものはたくさんあるけど、ギター一本で歌う歌にはかなわないんじゃないか、というのが常にある。つまりDJって長い時間体験しないと良し悪しがわからないじゃないですか。即効性がそんなにない。一曲単位ではDJは勝負できないですからね。長編小説なんですよあくまでも。だからひとつかみで掴めるかっていったら、難しいんじゃないかと。 ――ああ、なるほど。一瞬のインパクトがあるかないかということですね。それを羨ましいと思うんですか。 瀧見:羨ましいとは思わないけど。ただそこの溝は絶対埋まらないんだろうなとは思います。領分が違う。そこは違うものとして割り切ってやるしかない。だから自分が音楽を作るときにも、ミュージシャン的な作り方はあえてしないようにしている。それはミュージシャンに任せておこうと。 ――でもアンディはそういう考え方じゃないみたいですね。 瀧見:そうですね。自分に自信があるんじゃないかな。 ――その違いはどこにあるんですか。 瀧見:それは最初(の質問)に戻るかな。バックグラウンドとメンタリティの違いは確実にある。同じようなものを聴いていたとしても。だからビジネス的な効率だけを考えたら、ドメスティック・マーケットだけでやるのがいいんですよ、どう考えても。(後編に続く) (取材・文=小野島大)
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KENJI TAKIMI『XLAND RECORDS presents XMIX 03』(KSR Corp.)

■リリース情報 『XLAND RECORDS presents XMIX 03』 発売:2013年10月9日 価格:¥2,520(税込み) Crue-L facebook

AKB48岩佐美咲のヒットで演歌ブーム到来? 若手が台頭する最新シーン事情

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岩佐美咲『鞆の浦慕情』【通常盤】

【リアルサウンドより】  AKB48の演歌歌手、岩佐美咲(18歳)のシングル『鞆(とも)の浦慕情』が、発売初週で1.2万枚を売り上げ、1月20日付けのオリコン週間総合シングルランキングで首位を獲得した。2013年のオリコンシングル売上トップ100ランキングに入った演歌は、福田こうへいの『南部蝉しぐれ』、氷川きよしの『しぐれの港』『満天の瞳』のみであることを考えると、AKB48人気の効果があったにせよ、異例の大ヒットである。  オリコンによると、10代の演歌歌手としては1986年6月23日付けの城之内早苗の「あじさい橋」以来の首位獲得とのこと。「あじさい橋」は、城之内が元祖AKB48ともいえるおニャン子クラブに在籍していた時のヒット曲であることから、今回の首位獲得は「演歌アイドル」に対する需要が再び掘り起こされた結果ともいえるだろう。  「演歌アイドル」は通称「エンドル」とも呼ばれ、過去には、長山洋子、前述の城之内早苗、そしてアイドルユニット「HOP CLUB」として活動していた丘みどりなどがいた。彼女たちの共通点としては、アイドル的なルックスを持ちながら、幼少の頃から歌のトレーニングを続けており、高い歌唱力を持っていることが挙げられる。岩佐もまた、子どもの頃から祖父母の影響で演歌に親しんでいるだけではなく、氷川きよしも在籍する長良プロダクションに所属、演歌の王道である「ご当地ソング」(広島県福山市の鞆の浦)で売り出していることからも、本格的にその道を志していることがうかがえる。  アイドルファンにとっても今回の岩佐の楽曲は新鮮に響いているようだ。  「アイドル戦国時代と言われて久しい昨今、他のグループとの差別化を図るため、アイドルは様々な音楽ジャンルに挑戦していますが、演歌というのは意外と盲点だったのではないかと思います。しかも今回のCDには、一世を風靡した『恋するフォーチュンクッキー』の演歌バージョンや、松田聖子の名曲『赤いスイートピー』のカバーも収録されています。この2曲が演歌と呼べるかどうかはわかりませんが、普段JPOPを聴いている層にとって、とっつきやすい印象なのは確かです。これを機に演歌の魅力に気づく若年層が増えるかもしれませんね」(芸能記者)  また雑誌『歌の手帖』(マガジンランド刊)の村田弘司編集長は、今回の成功について、「若いリスナーにとって演歌が“新しい音楽”になっているからでは」と指摘する。  「演歌とポップスが同居するテレビ番組がなくなり、若い人にとって演歌が身近なものではなくなった。だから『年上の人たちが聞くダサい音楽』ではなく、新鮮な音楽として受け入れてもらえるのではないでしょうか。以前、雑誌で岩佐さんの連載をやっていたのですが、AKB48が好きな若いファンの方が、雑誌に載っている“イントロナレーション”にカルチャーショックを受けていたのが印象的です。カラオケで、こぶしを回したりビブラートをかけて歌うことが、スポーツ的な感覚、ゲーム的な感覚で受容されているということもあるのでしょう」  また、今回の楽曲は「AKB48ファン以外にも届いている」と村田編集長。  「そもそも握手会などのAKB48のスタイルは、お客様を大事にするという演歌のスタイルと通じるものがありますよね。最初の2枚のシングルは岩佐さんのファンが買われていた印象でしたが、ショッピングモール等の営業では、親子連れの方がCDを買われていくという姿も見られました。今回のシングルは前2曲よりも王道の演歌スタイルの楽曲になっていますし、ボイストレーニングを積んだ成果もあり、歌も枚数を重ねるにつれ上達しているので、順当な流れかなと感じます」    さらに「若手演歌歌手がナンバー1を獲得する」というのは特殊な現象とも思われるが、実は、その成功を狙う動きは常にあるという。 「やはり氷川きよしさんが2000年にデビューしたのがエポックメイキングでしたね。当時はビートルズがロック史を塗り替えたような衝撃だったんです。その後デビューして今も人気のある山内惠介などのように、アイドル的な人気を狙う10代20代の歌い手は、毎年デビューしています」    若者に演歌の魅力を知らしめた今回の岩佐美咲のシングルヒット。若者に門戸を開く、というよりも若者が自ら演歌の魅力に目覚めた現象といえる。岩佐美咲は、このまま着実に歌唱力を高め、「女性版氷川きよし」として認知されるか。そして新たな若手演歌歌手が、岩佐美咲を目指してデビューし、業界全体の新陳代謝が加速されるか。今後の演歌業界から目が離せない。 (文=松下博夫)

「1秒でも歌でイリュージョンが生まれれば成功だ」 鬼才・豊田道倫が語るポップ論

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今回の新作は「豊田道倫&mtvBAND」名義でのリリースとなる。

【リアルサウンドより】  昨年3月にアルバム『m t v』をリリースし、各方面から高く評価されたシンガーソングライター豊田道倫が、1月15日に早くも新作『FUCKIN' GREAT VIEW』を発表する。今回の演奏を担当するのは、前作発表後のツアーを担った「m t v BAND」。宇波拓(ベース、アコギ、キーボード)、久下惠生(ドラム、Voice)、冷牟田敬(ギター、ピアノ、ヴォーカル/コーラス)という類まれな個性を持つ面々が集まり、豊田とともに研ぎ澄まされたロックサウンドを奏でている。それは詩情豊かな日本語ロックでありつつ、レッド・クレイオラやフレイミング・リップスにも通じる、突き抜けた音像体験でもある。2014年のシーンに突如として登場したこの怪作について、豊田自身がじっくりと語った。 ――前作『m t v』から1年足らずという短いインターバルですが、今回の『FUCKIN' GREAT VIEW』はmtvBANDでの活動の中でできた曲ですか? 豊田道倫(以下、豊田):『m t v』は去年3月にリリースして、4、5月にツアーをしました。こういうメンバーでやるというのは得がたいことなので、レーベルとしてはライブ盤も考えつつ、という感じでツアーを通して録音はしてたんですよ。ただ、僕はそれをリリースすることはあんまり考えていなくて、どうせならもう1枚作りたいと思ってました。ストックはアルバム3枚分くらいあるんだけど、春から夏にかけてササッと曲が生まれたので、ストックは使いませんでした。 ――では、このバンドでやることを想定した新しい曲なんですね? 豊田:そこは半々という感じで、何となく自分でやって、バンドでもできる曲を、と。 ――mtvBANDのメンバーは大変な個性派ぞろいですが、今回のアルバムはバンドのゴツゴツとした音の空気、ムードがさらに出ていますね。先程の「得がたさ」という意味で手応えがあったのでは。 豊田:手応えはあったけれど、かといって、このメンバーで「しっかりリハーサルを重ねて音を作り上げて、しっかりしたレコーディングをしよう」とは最初から思っていなくて。八丁堀にある、小さなアートスペースに全員来てもらって、宇波拓のコンピュータで録りました。みんな何の日か把握してなくて、普通に練習だと思ってたらしい(笑)。昔のレコードって、ビートルズとかにしてもけっこうそんな感じで、直感で録音していて、それほど作り込んでないでしょ? それをこのメンバーでやりたかったんですよ。 ――それぞれ高い演奏能力を持っている人たちが、あえてスタジオで一気に録る。 豊田:きちんと作り上げたものをちゃんとしたスタジオで作り込むのは、逆にたいしたことではない、という感覚が僕の中にあって。ミストーンもOKするくらいの感じで(笑)。この4人は集まれる時間がなかなかないので、選択肢は他になかったね。オーバーダブも基本的になし。ミックスは東京でやって、マスタリングはAbbey Road。 ――事前にデモなどはあったのですか? 豊田:ない。簡単なコード譜くらいでその場でパッと。そういう、すごく野性的というか素朴な録り方をしました。 ――そうした結果、「Heavenly Drive」あたりの曲ではグラスゴーの名物バンド、パステルズのような浮遊感も出てますね。 豊田:ちゃんとしたスタジオで別々のブースに入って録音すると、音は分離しているし修正も可能だけど、化学反応は起こりにくいですね。日本のそういう盤を聴いても「ちゃんとやってるなー」しか感じなくて。非常に危なっかしいんだけれど、狭い空間で全員揃って録音して、音もかぶっている、そういうのもいいかな、と思ったんです。 ――ただ、歌詞の面ではいつものシャープな豊田さんで、シンガーソングライターの作品という印象も強い。 豊田:結局は一人、という意識が強いせいか、これもソロアルバムという気はしてます。もうひとつ、アコギ一本で『naked FGV』という特典CDを作ったんだけど、あれでも成立するくらいの歌。極端に言えば、メンバーが演奏を間違っていても、歌があっていればとりあえずはいいと思っていて、丁寧に歌いました。いつもはボーカルを少し引っ込ませるくらいのミックスにするけど、今回はかなり歌が前に出ているかもしれない。 20140114-image004.jpg ――このアルバムには、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドやルー・リードのソロのような、冷めたロックの手触りも感じます。 豊田:自分のことに関してはあんまりわからないですね。ただガッとやっただけ、という感じで、「よくレコードになったな」とは思いますけれど(笑)。あとはやっぱり、Abbey Roadでマスタリングしたかった、というのは大きいですね。今回は自分でプロデュースしていますけれど「Abbey Roadの人はこれを聴いてどう思うんだろう?」というのは考えたかな。「今回こそは突き返されるんじゃないか」と思って(笑)。 ――突き返されることも期待したり? 豊田:ちょっとね(笑)。そういうものをAbbey Roadの人がロックレコードにしてくれて感激しました。当初はもっと荒っぽくて殺伐としたもののつもりだったけど、思ったよりサウンド的にグラマーで温かいものになった。ギターの音などに関してはAbbey Roadの力は大きかったかな。 ――歌詞の面ではどうですか。豊田さんには詩人の才気がありすぎて、どうしても詩情が溢れてしまう。自分でそこを壊すのは難しくありませんか。 豊田:今回はあまり言葉を詰めていないですね。先行してYou Tubeにアップしていた「Heavenly Drive」について、松本亀吉さんがレビューを書いてくれました。誰も歌詞を褒めてくれなかったけれど、松本さんは歌詞がいいと。「Heavenly Drive」というフレーズ以外にほとんど歌詞はないのですが、自分にしては珍しく、書くのに1ヶ月掛かったので、「そういう人がいるんだな」と思いました。 ――〈ガセネタを信じたあいつは 明け方に車で消えた〉というフレーズですね。豊田さんはツイッターなどでは社会の状況などについて発言していますが、歌詞の中ではあまりありませんね? 豊田:自分が何回も歌う歌、となるとなかなかできなくて。歌っていて好きな言葉と肉声で発する言葉は、どうしても違う。つまんない言葉だけど、歌っていると気持ちよくなる言葉もあります。 ――聴き手として聴いていて好きな歌詞と、ご自分が作る歌詞も違いますか。 豊田:違うと思います。自分の身体性を通さないと、歌詞は作れないところはあります。 ――ここ5-6年の音楽界では歌詞の重要性についてよく語られていますが、最近のその流れを豊田さんはどう感じていますか? 豊田:僕はあまり流行りの日本の音楽を聴かないけど、メール文化や3.11もあって、言葉による”いたわり”の気持ちが求められていることは感じます。本屋に行っても、「自分を救う」といった内容のものは多い。それとは違う、面白い異物としての歌詞や言葉の表現が今はあまり脚光を浴びていないのかもしれない。 ――今作は「言葉のアルバム」でもあり、随所に言葉の異物感が出ていると感じます。 豊田:自分では何を狙って書いているのかよくわからない部分はあるけど、僕は「瞬間芸」がしたいんですよ。一瞬の歌で、何かを誤魔化す、夢を見るのがポップスやロックだと思う。ちょっとしたフェイクのような、すごく小さな道具でそれをできる可能性がある。それは自分を知ってほしい、わかってほしい、という気持ちとは違う。1秒でも歌でイリュージョンが生まれれば成功だと思っている。 ――確かに、豊田さんの歌は私小説的なイメージで捉えられることもあるけど、いわゆる心情吐露的な表現とも違います。 豊田:そのちょっとしたこと、一瞬の歌が難しくて。なかなか狙ってできることではないので、いつも悩んでる(笑)。 ――今回の作品には、一瞬の夢を見せるようなイリュージョンが確かにあると思います。というわけで、インタビュ-の後編では、リスナーとしても確かな耳を持つ豊田さんに5枚のアルバムを挙げてもらい、それぞれのイリュージョンについて語ってもらいます。 (取材=神谷弘一/撮影=山本光恵)
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豊田道倫&mtvBAND『FUCKIN' GREAT VIEW』(Headz)

■リリース情報 『FUCKIN' GREAT VIEW』 価格:¥ 2,415 [税抜価格 ¥ 2,300] 発売日:2014年 1月15日(水) 01. ひとり 02. 夜のコーヒー 03. オレンジ・ナイト 04. 26歳 05. G 06. 玄米木苺フレークシェイク 07. ずっとビーチのはしっこで 08. ふたり 09. Heavenly Drive 10. 街の暮らし

KAT-TUNはなぜピンチに強い? トラブルも追い風に変えるチームワーク力

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2013年は大きな転機の年となったKAT-TUN。

【リアルサウンドより】  KAT-TUNにとって2013年は、コンサートツアーの中止や冠番組の終了により、グループとしての活動が滞りがちになり、解散説が流れたほか、メンバー田中聖がジャニーズ事務所としては異例の「専属契約解除」となるなど、なにかと厳しい状況だった。にも関わらず、田中聖脱退後のアルバム『楔-kusabi-』は、初週売り上げが16.8万枚で、前作『CHAIN』(2012年2月発売)の 11.0万枚を上回る好セールスを記録している。  最近では、1月2~4日に開催されたファンミーティング『新春勝詣』にて、メンバーの亀梨和也がファンにキスをしたとして物議を醸すなどしているが、同グループはいったいなぜ、度重なる騒動があってもその人気を失わないのだろうか。  ジャニーズに詳しい芸能ライターのジャニ子氏は、KAT-TUNの強みを次のように分析する。 「KAT-TUNはもともと、嵐やV6といったほかのグループと異なり、不良っぽさを売りにしてきたグループです。ファンも『一度仲間になったら裏切らない』のような美学を持った方が多いですし、ちょっとやそっとヤンチャしたぐらいで幻滅したりすることはありません。また、最近のジャニーズでは嵐のファンを『アラシック』と呼んだり、Sexy Zoneのファンを『セクシーガール』と呼んだりする文化が根付いていますが、ファンを自主的に『ハイフン』と呼び始めたのは彼らが最初。実はファンに対するアプローチが濃厚なグループでもあるんです。だからこそ、彼らがピンチになると、ファンは『絆が試されている』と捉え、より熱心に応援するのではないでしょうか」  また、2013年末に行った単独カウントダウンコンサートは、KAT-TUNとファンの絆を再確認するうえでも重要だったという。 「KAT-TUNのパフォーマンスの特色は、田中聖さんによるラップによるところが大きかったです。彼が発する“オラオラ感”は、ほかのジャニーズグループにはない魅力でした。そのため、4人になった新生KAT-TUNが、どこまでそのイメージを保てるか心配でしたが、年末の単独コンサートではチームワークに磨きを掛け、見事に4人でのステージを成功させました。田中さんが抜けてしまったのは残念なことですが、メンバーにとっても、ファンにとっても、KAT-TUNの健在ぶりを確認できるきっかけになったのではないかと思います」  田中不在の『楔-kusabi-』も、新生KAT-TUNの方向性を見いだせる仕上がりだとジャニ子氏。 「先に述べたように、田中さんのラップが抜けてオラオラ感は減りましたが、その分大人っぽくてしっとりとしたアプローチの曲が多くなっています。年齢的にもイメージを大人向けにしていく時期なので、そういった方向に進むことに対し、多くのファンは好意的に受け取っているのではないでしょうか。メンバーも田中さん自身も、すでに腹をくくっているようなので、今後は新生KAT-TUNに期待していきたいところです」  そのヤンチャぶりゆえ騒動の絶えないKAT-TUNだが、それも大きな魅力であることはたしか。新生KAT-TUNが今後、グループとしてどこまで成長できるのか、しっかりと見届けたい。 (文=松下博夫)

Hey! Say! JUMPが勝負に出ている!? CD連続リリースが意味するもの

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『Ride With Me』では初のラップに挑戦したHey! Say! JUMP。

【リアルサウンドより】  2014年は、Hey! Say! JUMPが飛躍する予感だ。『Ride With Me』が12月25日にリリースしたばかりの彼らは、2月5日には、通算12枚目となるニューシングル『AinoArika/愛すればもっとハッピーライフ』を発売する。シングルリリースが1年以上なかったこともある彼らからすると、今回の発売スピードは異例とも言えるだろう。さらに、シングル3枚目『Your Seed/冒険ライダー』以来の両A面シングルであることからも、力の入れ具合が計り知れる。  「AinoArika」を聞いてみると、これまでになかったオーケストラの荘厳な前奏から、一気に爽やかでハイテンションなメロディが始まる構成が印象的。また、中盤あたりでは大胆に曲調を変えたパートがあり、そこでは彼らの新たな武器となっているラップを堪能することもできる。フレッシュかつ大人の色気を醸し出しはじめた、今のJUMPの魅力が存分に味わえる一曲といえよう。  そんな「AinoArika」は、メンバーの八乙女光が主演、伊野尾慧も出演するするドラマ『ダークシステム 恋の王座決定戦』(TBS系・1月20日深夜スタート)の主題歌でもある。八乙女はドラマ『金八先生』の第7シリーズで薬物に依存する中学生という難しい役どころを見事に演じた経験があるものの、ドラマ主演は初めてのこと。眠っていた彼の高い演技力が陽の目をみるとあり、大きな期待が寄せられている。また、伊野尾も約8年ぶりのドラマ出演ということで、出演のニュースに多くのファンが喜びの声を挙げている。  さらに、髙木雄也もドラマ『Dr.DMAT』に、そして知念侑李は『超高速!参勤交代』で久しぶりの映画出演を果たしている。マネジメント体制が変わったらしいと噂されてから、次々とチャンスが舞い込んでいるJUMP。そして、彼らは見事にその才能を発揮しているのだ。  個々の活動は喜ばしいものだが、新曲が次々と発表されているだけにファンとしてはコンサートが待ち遠しい。今回発売されるシングルのもうひとつの表題曲「愛すればもっとハッピーライフ」が、コンサートで盛り上がること必至のパーティーチューンということもあり、生の彼らに会える機会が作られることを願うばかりだ。 (文=ジャニ子)

本当は凄い「泉谷しげる」 今こそ聴きたい名作アルバムたち

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『’80のバラッド』(1978年)

【リアルサウンドより】  昨年の紅白では、観客に毒づきながら「春夏秋冬」を歌い、一部で物議を醸した泉谷しげる。「春夏秋冬」は多くの人が知る名曲であるが、昔からのファンの中には「他にもいい曲があるんだけどな」と感じた人も多いかもしれない。泉谷しげるこそは、日本の音楽史でもまれに見るほどサウンドの探求に貪欲で、多くの実験的な作品を発表してきたミュージシャンである。     たとえばロックというなら、石井聰亙監督の映画『狂い咲きサンダーロード』にも提供した「電光石火に銀の靴」のギター・リフは、日本のロック史に残る出来。初めて聞いた人は鳥肌が立つかもしれない。  加藤和彦がプロデュースした『春・夏・秋・冬』(1972年)ではフォーク音楽だったが、サディスティック・ミカ・バンドを従えた『光と影』(1973年)などではファンキーな要素もあるウェストコーストサウンドにシフト。極めつけの名作は、加藤和彦プロデュースの『’80のバラッド』(1978年)だ。吉田建などの腕利きプレイヤーを招いて生まれた、同時期のルー・リードあたりにも通じる洗練されたロックサウンド。「波止場たちへ」「翼なき野郎ども」など、歌詞の面でも泉谷しげるの代表作と目される名曲が入った一枚である。  俳優活動中心の時期を経て、80年代後半には、仲井戸麗市(後に脱退)、下山淳、吉田建、村上ポンタ秀一らによるバンド「LOSER」を従え、U2などにも通じるダイナミックなバンド演奏を披露。『吠えるバラッド』(1988年)は、同時期の泉谷のバンドリーダーぶりが伝わる名作である。90年代のロックサウンド追求期を経て、近年では弾き語りライブを旺盛に行う一方、昨年カバー&コラボレーション・アルバム『昭和の歌よ、ありがとう!』を発表したり、1月8日には『突然炎のように!』(自主流通版)を再リリースするなど、今も攻めの姿勢を失っていない。  紅白で泉谷しげるに関心を持って「何か聴いてみようかな」と考えている方は、まずは1970年代の泉谷サウンドに触れていただきたい。 (文=編集部)

ラルク、ももクロ、AKB48も……国立競技場でライブ公演が増えた理由

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L’Arc~en~Ciel『WORLD TOUR 2012 LIVE at MADISON SQUARE GARDEN』(Ki/oon Music Inc.)

【リアルサウンドより】  L'Arc~en~Cielが3月21、22日に国立競技場で単独ライブを行うことを発表し、大きな話題となっている。L'Arc~en~Cielは、2012年5月に行ったツアー『20th L'Anniversary WORLD TOUR 2012 THE FINAL』でも、国立競技場にてライブを開催。マーチングバンドを率いて場内のトラックを周回するなど、派手な演出にも注目が集まった。  国立競技場ではほかにも、AKB48ももいろクローバーZが同月にライブを行うことを発表。もまた、ふたたびライブを行うのでは、との噂も飛び交っている。国立競技場でのライブが増加している理由としては、2014年に取り壊しが決まっていることがあげられるだろうが、その背景事情とはいかなるものだろう。国立競技場の運営を行う、日本スポーツ振興センターの役員室長、河村氏に話を訊いた。 「多くの方がご存じのように、国立競技場は2014年7月に取り壊しが行われます。そこで私どもは、国立競技場の歴史に敬意を表し『SAYONARA 国立競技場』プロジェクトを実地することになりました。その趣旨を、これまで興業を行っていただいた音楽関係者の方に説明したところ、いくつかの団体から御申入れがございました。国立競技場はあくまで屋外のスポーツ施設ですので、音響や周辺地域の問題だけではなく、芝生への影響も懸念されますが、それも充分考慮したうえで、ライブを行っていただけるとのことです」  嵐が国立競技場でふたたびコンサートを行うという噂については、「そういったお問い合わせをいただいているのは事実ですが、嵐のコンサートに関しては今のところ開催するかどうかは存じていません」(河村氏)。しかしながら、アーティストたちが国立競技場に対して、それぞれ思い入れを抱いているのは確からしい。 「L'Arc~en~Cielは、一昨年も国立競技場でライブを行っているため、先ほども述べたように、国立競技場で音楽イベントを行うのが大変であることを重々ご存じかと思います。それでもふたたび国立競技場でライブを行っていただけるということは、やはり思い入れを持ってくださっているのではないでしょうか。今回、公演が決まっているほかのアーティストも、歴史に対し敬意を払うという意味で、プロジェクトにご賛同をいただいております」  1985年には、大規模ロック・フェスティバルの草分けとされる『国際青年年記念 ALL TOGETHER NOW』が開催された国立競技場。2000年代に入ってからは、SMAPやDREAMS COME TRUEといった一部の国民的グループだけが、国立競技場での単独ライブを行っている。多くのスポーツ競技者にとって聖地とされる国立競技場は、アーティストたちにとっても、やはり特別な場所のようだ。 (リアルサウンド編集部)

でんぱ組.inc、私立恵比寿中学、BABYMETAL… アイドルはなぜ「日本武道館」を目指す?

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でんぱ組.inc『WORLD WIDE DEMPA 初回限定盤』(トイズファクトリー)

【リアルサウンドより】  でんぱ組.inc私立恵比寿中学BABYMETALなどのアイドルグループが、立て続けに日本武道館での単独公演を行うことを発表して話題となっている。そもそもなぜ最近のアイドルグループは武道館公演を目指すのか。  日本武道館は本来、音楽イベントをするための施設ではなく、音響もそれほど良いとされているわけではない。にも関わらず、武道館公演を目標に掲げるアイドルグループは多く、ベイビーレイズなどは2014年までに武道館公演ができなければ解散をする、という公約さえ打ち出している。  いったいそこにはどんな意味合いがあるのか。アイドルカルチャーに造詣の深いライター・物語評論家のさやわか氏が解説する。 「日本武道館がミュージシャンにとってある種の聖地になっているのは、1966年のビートルズ日本公演が武道館で行われたことを皮切りに、多くの有名ミュージシャンが武道館で公演を行ってきたからでしょう。もっとも、ビートルズが武道館で公演を行ったのは、当時はまだ大勢で音楽を聴くような施設が少なかったことが大きい。当初は芸能色の強い公演も多くありましたが、80年代にBOOWYが日本武道館で公演したあたりから、ロックの殿堂といったイメージが定着していきます。氷室京介が放った『ライブハウス武道館へようこそ』という名言は、ライブハウスでやるような硬派な音楽を、武道館というメジャーな場所に持ち込むことに成功した、ということを象徴しているのです。それ以降、武道館でライブをやるということは、音楽シーンで評価されることと、芸能的な意味での成功という、二重の意味合いを持つことになります」  一方アイドル界では、2000年頃までは芸能的な成功のシンボルとして武道館公演を目指す傾向が強かったが、2000年代に入ると意味合いが変化した、とさやわか氏は言う。 「アイドルはもともと昔ながらの芸能界に近いポジションにいたので、自然な形で武道館公演をやっていました。山口百恵だっておニャン子クラブだって武道館のステージに立っている。しかし、2008年にPerfumeが行った武道館公演などになると、芸能界に近いグループとして武道館公演をやるというより、明らかにBOOWYあたりから培われた、音楽シーンでの武道館のブランドを意識して公演をやっています。Perfumeのマネージャー氏は、80年代の邦楽ロックカルチャーに影響を受けている方だったので、当時Perfumeはサマソニや武道館での公演をロック的な文脈、つまりBOOWYのような、成り上がり的サクセスストーリーを目指していたのです。そして、昨今のアイドルが武道館を目指す理由は、これと同じパターンがとても多くなってきています。たとえば東京女子流が武道館を目指したのも同じですね。彼女たちは早い段階から武道館を目指して実現させましたが、それは玄人好みの良い邦楽をやっているということを、音楽シーンに知らしめる意味合いが強かったはずです」  さらに武道館には、アイドルを含めた勢いのある中堅クラスのミュージシャンにとって、狙いやすい理由があるという。 「武道館のキャパシティは約14000人といわれていますが、もともとライブをやるための施設ではありませんから、その席数はレイアウト次第でかなり調整できます。やろうと思えば8000~9000人規模にまで縮小することも可能なのです。もちろん、それはそれですごい動員数なのですが、武道館のブランド力を考えると、また多くのアリーナ会場と比較すると、意外なほど少ない人数です。つまり、昨今のアイドルが武道館を目指すのは、ホール会場でライブができる程度の人気をつけたグループが、一般的なアリーナ会場よりも比較的席を埋めやすく、にもかかわらず音楽シーンにおける箔を付けられるハコとして、武道館は非常に魅力的だからではないでしょうか」  PerfumeやBABYMETALなどに代表されるように、音楽性で勝負するアイドルユニットが増えている昨今。日本武道館公演増加の背景には、そうした音楽シーンの変化もありそうだ。 (文=編集部)

全裸闊歩の過激シーンも……ターボ向後監督が選ぶ、世界のセクシーMV5本

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マイリー・サイラス『Bangerz』

【リアルサウンドより】  いま、海外では女性のヌードを魅力的に撮ったMVが流行している。2013年に世界中でブームとなったロビン・シックの「ブラード・ラインズ~今夜はヘイ・ヘイ・ヘイ♪」は、日本でも人気となり、AKB48の大島優子、小嶋陽菜らもパロディMVを発表するなどして、大きな話題となったのは記憶に新しいところ。海外の音楽シーンを語るうえでも、この潮流を見逃すことはできないかもしれない。  そこで、セクシー女優のつぼみを起用した日本初のヌードMV「Bad habit」を撮影したことで、一躍音楽業界からも注目を集めることとなったAVクリエイター・ターボ向後氏に、ハイクオリティかつセクシーなMVを紹介してもらった。ヌード映像と音楽に並みならぬ情熱を持った同監督は、果たしてどんな映像を観せてくれるのか。後学のために鑑賞してみたい。

スカイ・フェレイラ「Night Time、My Time」

Sky Ferreira - Night Time, My Time

ターボ向後:まず紹介したいのは、アメリカの女性シンガー、スカイ・フェレイラの「Night Time、My Time」。本人のヌード写真を使ったジャケットが強烈だったアルバムのタイトル曲で、デヴィッド・リンチの映画作品へのオマージュが込められています。エロさが漂いながらも、とてもカッコイイ映像です。

ビョーク「Pagan Poetry」

Bjork - Pagan Poetry (Official Music Video)

ターボ向後:2001年にフォトグラファーのニック・ナイトが撮った作品。僕が記憶する中では、初めて女性シンガーが堂々とバストトップを公開したMVです。SM的な耽美さもあり、アーティスティックな名作だと思います。

メイク・ザ・ガール・ダンス「BABY BABY BABY」

BABY BABY BABY/MAKE THE GIRL DANCE

ターボ向後:2011年に発表されたフレンチ・エレクトロユニット、メイク・ザ・ガール・ダンスのMV。車から降りた女性がいきなり全裸になり、パリの街中を露出AVのような調子で練り歩くんですよ。しかもワンカット! これはすごいインパクトですね。

ザ・フレイミング・リップス「Watching the Planets」

ターボ向後:ザ・フレイミング・リップスは、ボーカルのウェイン・コインが離婚して性欲が爆発してしまったのか、2009年くらいから滅茶苦茶なMVばかり撮っています。登場人物が全員全裸だったり、女性器の化け物が出てきたりと、とにかくぶっ飛んでいますね。(編集部注:過激映像のため、埋め込みは見送ります。関心のある方はご検索を)

マイリ―・サイラス「Wrecking Ball」

Miley Cyrus - Wrecking Ball

ターボ向後:2013年のセクシーMVといえば、マイリ―・サイラス抜きには語れません。彼女はそれまで可愛らしいアイドル路線だったのが、失恋をきっかけに思いっきり方向転換し、急にセクシー路線になってしまいました。この曲では鉄球とセミヌードの彼女が出てきて、破壊の限りを尽くしています。歌詞の内容は、彼女自身が経験した失恋について。実は女性こそ共感できる映像作品なんじゃないかと思います。ちなみにカメラマンは、これまたお騒がせ男のテリー・リチャードソンです。  ポップ・ミュージックに関する広範な知識と、映像作家ならではの視点でさまざまな作品を解説してくれたターボ向後監督。残念ながらリアルサウンドでは紹介できない作品もあったが、どれもがただセクシーなだけではない、表現力豊かな映像作品だった。ヌードMVというと眉をしかめるひともいるかもしれないが、純粋に映像として観ることによって、また違った魅力が発見できるのではないだろうか。 (リアルサウンド編集部)

サマソニ第一弾出演者決定 ヘッドライナーにA・モンキーズ選出でUKロック色強まるか

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アークティック・モンキーズ『AM』(Hostess Entertainment)

【リアルサウンドより】  8月16日、17日に開催される都市型ロックフェスティバル「サマーソニック2014」(以下サマソニ)の第1弾出演アーティストが発表された。  第一弾のヘッドライナーとして発表されたのは7年ぶりの出演を果たすアークティック・モンキーズ。  前回2007年の出演時にはサマソニ史上最年少、デビュー最速で「大抜擢」のヘッドライナー出演を経験した彼ら。その後は着実にキャリアを重ね、いまや名実ともにイギリスを代表するロックバンドの地位にまで上り詰めた。昨年にリリースした5作目のアルバム『AM』は世界23ヶ国でiTUNESチャート1位を記録、海外各メディアでも2013年の年間ランキングの上位に位置する高い評価を集めている。押しも押されもせぬUKロックシーンの代表となった彼らが、その風格と共に7年ぶりのヘッドライナーをつとめるわけだ。  その他、ロバート・プラント、アヴェンジド・セヴンフォールド、フェニックスの出演が決定。サマソニ前夜のオールナイトイベント「ソニックマニア」のベッドライナーとして、カサビアンの出演も同時に発表された。  さて、ここでは、今回の第一弾発表でアークティック・モンキーズがトリをつとめることが発表された「意味」を探り、そこから今年のサマソニの傾向を読み解いてみよう。  というのも、実は、サマソニは日本のロックフェスではほぼ唯一「その日にトリをつとめるバンドの音楽ジャンルからラインナップの傾向がつかめる」フェスティバルなのだ。オールジャンルの都市型ロックフェスとして、海外の大物アーティスト、JPOPの人気バンド、女性アイドルグループ、KPOPやアジアンポップスまで幅広い出演陣を実現しているサマソニ。一見総花的に見えるが、その一方でメインステージは明確なジャンルの打ち出しを意図したラインナップになっているのである。  昨年の2013年で言えば、メタリカがヘッドライナーをつとめた東京1日目が象徴的だ。この日は他にもリンキン・パーク、ブレット・フォー・マイ・ヴァレンタイン、マキシマム ザ ホルモンなど、ラウド/メタル系のバンドが集結。BABYMETALが「天下一メタル武道会」と位置づけたこの日のサマソニでメタリカのラーズ・ウルリッヒやカーク・ハメットと邂逅を果たしたりもしている。  2012年にはリアーナがヘッドライナーをつとめた東京2日目にKE$HAやピットブルが出演しR&B系のラインナップが実現。2011年にはヘッドライナーをつとめたザ・ストロークスと共にビーディー・アイやTHE BAWDIESが出演した「ロックンロール・デイ」が、2010年にはヘッドライナーのJAY-Zと共にNASやKREVAが出演した「ヒップホップ・デイ」が、それぞれ洋楽と邦楽の壁を超えて実現している。  こうやって見ていくと、今年のアークティック・モンキーズのヘッドライナー出演が持つ意味はハッキリする。「UKロック復権」だ。ジェイク・バグやザ・ストライプスを筆頭に、今のイギリスからは若手のイキのいいロックンロール・アクトが続々と登場してきている。特にジェイク・バグは昨年のサマソニで初来日を果たし、バンドセットで堂々としたパフォーマンスを見せている。おそらくこの辺りをメインステージに抜擢し、本国イギリスでも着実にシーンを塗り替える新世代ロックンロール・アクトが集結する一日が実現するはずだ。  もしくは、ひょっとしたら新作『AM』のヘヴィでスローな方向性を反映してブラック・サバスとのダブルヘッドライナーが実現、昨年の「オズフェスト」に続くヘヴィ/ラウド系のラインナップになるかもしれない。こちらは大穴の予測だが、実現したらかなり熱い一日になるのではないだろうか?  90年代末の黎明期から00年代の拡大期を経て、いまや日本のロックフェスは単なる音楽イベントと言うより、花火や海水浴にも並ぶ「夏の定番レジャー」として定着している。この連載「ロックフェス文化論」でも検証していこうと思っているが、その状況を踏まえ、ここ数年、日本の各種大型ロックフェスは、様々なスタイルで独自進化を遂げ、「フジロッカーズ文化圏」や「ロッキン文化圏」など、それぞれ独自のコミュニティと文化圏を形成してきている。  その中で、「都市型フェス」としてスタートしたサマソニは、20万人以上の動員を誇りながらフェス独特のコミュニティや文化圏を持たない、という特色がある。その背景にあるのが、毎年ヘッドライナーによって傾向が変わるラインナップにあるわけだ。リアーナやKE$HAやピットブルを目当てにサマソニに訪れたギャルやギャル男が、その翌年にメタルTシャツ着てメタリカでヘッドバンギングしている図は思い描きづらいわけで。フジロックやロック・イン・ジャパンに比べ、フェスへの帰属意識が生まれにくい構造になっている。  つまり、野外の開放的な自然環境の体験を伴わないこともあり、最も“メディア的な”ロックフェスとして進化してきたのがサマソニなのである。イキのいい海外の新人バンドをショーケース的にいち早く来日させ、邦楽バンドだけでなくアイドルやKPOPにも門戸を開き「そこにいけば今の音楽シーンの様々な最新潮流を身をもって体験できる場」としてブランドを築き上げてきた。  昨年には全日程がソールドアウト、合計約23万人(東京13万人、大阪10万人)という過去最高の観客動員を記録したサマソニ。今年も大きな注目を集めそうだ。 ■柴 那典 1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter