最長44年ぶりの新アルバムも……「待たせすぎた」レジェント・ミュージシャンたち

20140326-yoshiko-thumb.jpg

ファレル・ウィリアムス『GIRL』

【リアルサウンドより】  過去の記憶とその再生の狭間にたゆたう「音の壁」を音像化したような銀杏BOYZ9年ぶりの新作『光のなかに立っていてね』や、去年のプロデューサーオブザイヤーともいうべきファレル・ウィリアムスの8年ぶりのソロアルバム『GIRL』など、2014年に入って通常のポップミュージックのリリースタームを凌駕した大作・傑作の登場が目立っている。  アーティスト側に立てば、これらの年月は制作に打ち込んだ自らの存在証明であり、作品のテーマを研ぎ澄ましていくのに必要不可欠な時間といえるが、そうした作り手の事情と並んで、作品と作品におけるリリースタームの長期化は「Don't trust over 30.(30歳以上のやつの言うことなんか信じるな)」を標榜し、常に若者の音楽としてその「刹那」を主題化してきたロックミュージックが産業として、そして何よりも表現メディアとして、アーティスト自身の成長をも作品化できうる媒体へと成熟している証ともいえる。  今回は8年、9年といった年月がまだまだひよっこ(?)に思える、2014年「待たせすぎた」新作をリリースする洋楽アーティスト達をご紹介したい。

伝説の歌姫リンダ・パーハクス
44年ぶり奇跡の新作『The Soul of All Natural Things』

 ダフトパンクをして「アシッドフォークミュージックにおける最高傑作」と言わしめ、彼等の映画『Electroma』にもフューチャーされた彼女の前作『Parallelograms』がリリースされたのは1970年。現在も当時も歯科衛生士(!)だった彼女が、趣味で録音していた驚くべき唄の数々に取り憑かれたのは、彼女の患者の一人で映画『エデンの東』『理由なき反抗』の主題歌を手掛けたレナード・ローゼンマンだった。    当時のヒッピーコミューンの在り様を幻想的に、そしてなによりも一聴したら忘れる事の出来ない歌声で描写したそのアルバムは、プロモーションされる事もなく忘れ去られていったが、2000年以降のアニマルコレクディブらによる「フリークフォーク」ムーブメントによって一躍再評価され、カルトアルバムとして神格化されていった。  そして今年スフィアン・スティーヴンスのレーベルより実に44年ぶりに発売された『The Soul of All Natural Things』は彼女の孫の世代といってもいいUSインディーのミュージシャン達による熱烈なラヴコールに応えて制作された一大傑作アルバム。人魚の歌声とよばれた彼女が紡ぐ、時代を超えた奇跡のメロディーに、魂を揺さぶられる作品だ。

Linda Perhacs- Prisms of Glass

「ロック史上最もドラッグをやったであろうミュージシャン」に毎年ランクイン
デヴィッド・クロスビー 20年ぶりのソロアルバム『CROZ』

 ロックとドラッグといえば、その地獄から奇跡の生還をとげたBEACH BOYSのブライアン・ウィルソンやローリングストーンズのキース・リチャーズがあげられるが、そうしたミュージシャン達を超える欧米におけるジャンキー系ミュージシャンの筆頭といえばデヴィッド・クロスビーだった。  それもそのはず、彼はSUMMER OF LOVEといわれた1960年代のサイケデリックロックムーブメントを代表するバンド、THE BYRDSのソングライターであり、その後ニールヤングらと結成したCSN&Yほか、「EIGHT MILES HIGH」や「Deja Vu」といったロック史に残るドラッグソングを連発したレジェンドだ。  しかし、1970年代後半からオーバードーズに苦しめられクリニックへの入退院を繰り返し、1980年代には口の悪いゴシップ誌において「来年死亡するに違いないミュージシャン」第1位に毎回ランクインするなど、ミュージシャン生命を絶たれるような危機に陥っていった。  だが、今年72才になる彼のキャリアを救ったのはやはり音楽で、リハビリを兼ねた息子のジェームズ・レイモンドとのセッションにより立ち直ったという。そして元ダイアーストレイツのマークノップラーらの協力の元、20年ぶりのソロアルバム『CROZ』を完成させた。  オープンチューニングを多用した、まるで70年代に恋人として、そして音楽的同志として生活を共にしたジョニ・ミッチェルに捧げるかのような、フォークとジャズをクロスオーバーさせた楽曲の数々は、60〜70年代に彼が唄った希望と絶望の行方を、現代に捉えなおしたヴィッド・クロスビーのキャリア史上最高傑作といってもいい作品に仕上がっている。

David Crosby - "CROZ" Teaser

漆黒の「ノワールソウルミュージック」The Afghan Whigs
16年ぶりのニューアルバム『Do to the Beast』

 「ベイシティーローラーズがブラックフラッグに犯されてるような音楽を作りたいんだ」と、カートコバーン自身が言ったように1990年代にNIRVANA、PEARL JAM、SOUND GARDENといったバンドによって一大センセーションを巻き起こした音楽ジャンル「グランジ」は、その音楽的なルーツをラジオフレンドリーなポップミュージックに置いていた。そんな中、唯一といっていいほど自らの音楽性の源をスタックスやモータウン、フィリーソウルといった黒人音楽に求めたのが、グレッグ・デュリ率いるThe Afgan Whigsだった。  歌詞の世界観においても、グランジが得意としたパンク直系の激情とニヒリズムとは一線を画した、極めてフィルムノワール的なセクシャルなラブソングを唄っており、当時異色のバンドとして人気を博していた。  しかしグランジの衰退とともにバンドも解散、リーダーのグレッグ・デュリはその後ソロや新しいユニットで活動していた。その後、2012年になると再結成、去年の夏から半年をかけて制作されたのが、来月16年ぶりにリリースされるニューアルバム『Do to the Beast』である。  先行で解禁されたMV「Algiers」でも明らかなように、ノワールソウルミュージックとでもいうべき彼等独自のサウンドは健在。アルバムに収録されている他の楽曲も、映画『エンジェルハート』のようなブードゥ教をテーマしたもの、メキシコ・マタモロスでの大量殺人事件をテーマにしたものなど見事に「漆黒」。発売後の日本でのライブなども待たれるところだ。

The Afghan Whigs - Algiers [OFFICIAL VIDEO]

 16年から44年まで、途方もない年月を経て制作されたこれらの作品を聴いて驚くのは、アーティスト達の変わらなさである。むしろ若い時代に制作された作品よりも、そのテーマが「結晶化」され、より力強いロックミュージックとして鳴っているように思える。  それは若かりし頃、彼等を捉えた刹那の正体、年齢と共に時代と共に朽ちていくかのように思われたその「一瞬」が、実は普遍性を持つ「永遠」であった事を再発見した、彼等自身の歓びの音なのかもしれない。 ■ターボ向後 AVメーカー『性格良し子ちゃん』を率いる。PUNPEEや禁断の多数決といったミュージシャンのMVも手がけ、音楽業界からも注目を集めている。公式Twitter

「仏教と洋楽の“土着化”は似ている」お寺育ちの西寺郷太が初ソロで挑戦したこと

20140326-nishidera-thumb.jpg

音楽活動から文筆業まで、幅広く活躍する西寺郷太。

【リアルサウンドより】  各方面でマルチな才能を発揮し続けるNONA REEVESの西寺郷太が初のソロ・アルバム『TEMPLE ST.』をリリースした。バンドのフロントマンとしてはもちろん、音楽プロデューサーとして、ソングライターとして、マイケル・ジャクソン研究家として、コラムニストとして、ラジオ・パーソナリティとして――多岐に渡る活動を展開する業界きってのハーデスト・ワーキング・マン=西寺の多忙の合間を縫って行われた今回の独占取材では、西寺本人によるアルバムの全曲解説を企画。  制作に際してインスパイアされた楽曲を挙げてもらいながら、『TEMPLE ST.』を紐解いていく約1万5,000字に及ぶロング・インタビューは、きっと西寺の“ポップ・マエストロ”たるゆえんの証明にもなるだろう。

自分のいちばんのアイデンティティは寺の子供として生まれたこと

――実際はそんなことはないのかもしれないですけど、最初に聴いたときはさらっとつくった印象を受けたんです。さらっとつくったがゆえのかっこよさだったり、聴きやすさがあるアルバムだなって。 西寺:アルバムの制作に取りかかったのは去年の夏ごろなんですけど、ちょうどほかの仕事が忙しいときで……bump.y(アルバム『pinpoint』トータル・プロデュース)、Negicco(シングル『ときめきのヘッドライナー』プロデュース)、岡村靖幸さん(シングル『ビバナミダ』共作詞)、Small Boys(堂島孝平とのコンビによるアイドル・ユニット。セカンド・アルバム『Small Boys II』を制作)……夏から冬にかけてはライブをやることも多くて、土日に地方に行って弾き語りをやったりだとか。だから今回のソロは時間のないなかでつくったんですけど、スケジュールを見てソロのレコーディングが入ってる日はすごくうれしくて。原稿を書くことも多かったですしね。  でも、そういうなかでソロ・アルバムをつくったのは僕にとって良かったような気がしています。なんか、いままでは音楽に対する愛情や執念みたいなものがありすぎたというか。それは良いことでもあるし、だからこそ伝わる人には伝わった部分もあるとは思ってますけどね。  たとえとしてはちょっと大きな話になっちゃいますけど、ボブ・ディランはアルバムつくってもじっくり聴かないらしいんですよ。制作のときに集中してつくり込んで、完成して自分の手から離れたものはもう人のものであると。その感覚っていままではよくわからなくて、適当につくってるだけなんじゃないか? って思いがちだったんですけど、でもボブ・ディランの作品のすごさって、そうやって聴いた人が勝手にストーリーをつくっていける余地みたいなものをちゃんと残してるんですよね。ボブ・ディランの曲ってカヴァーのほうが良かったりすることがよくあるけど、それはそういうことだと思うんですよ。 ――確かに、ディランの曲はそういうケースがよくあります。 西寺:いまようやく僕も、トップスピードのなかでたくさん仕事をしてきたことで取捨選択がはっきりしてきて。たぶん“このアルバムではこういうところを見せたい”という焦点が明確になってきたことがすっきり聴けることにつながってるんだと思います。あとは並行してNONA REEVESのニュー・アルバムもつくっていて、曲をつくっているなかでNONA向きのものはそっちに回したりしていたので、純然たるソロ・アルバムとして割り切ってつくれたのは大きかったかもしれないですね。 ――カジュアルにつくった作品ならではの心地よさがあるんですよね。実際、特にコンセプトも決めずにつくっていったそうで。 西寺:ひとつだけあるとしたら、運やタイミングを重視したこと。偶然電話がかかってきた人に頼むとか、ティト(ジャクソン)が来日してたからギター弾いてほしいってお願いしたりだとか。流れに身を任せていたようなところはあります。 ――アルバム・タイトルの『TEMPLE ST.』は、郷太くんの実家がお寺であることにちなんでいるんですよね。 西寺:自分のいちばんのアイデンティティは寺の子供として生まれたことだと思ってるんですよ。仏教はインドや中国の教えをどうやって日本のなかに入れ込んでいくかを考えてきた歴史だったわけで、高度文明から得た新しいものを日本の土着性のなかに落とし込むことは、寺の考え方の根本にあるんですよね。それって洋楽に心酔して育った僕が日本の音楽シーンでやってきたことと一緒なんじゃないかって思ったりもして、“TEMPLE”という言葉は自分を示すひとつのアイデンティティとして相応しいかな、って思えてきたんです。 ――まさに今回のアルバムでは“TEMPLE”という言葉がひとつのシンボルになっていると思っていて、ほのかに漂うエキゾチシズムやオリエンタリズムがアルバムの大きな魅力になっていますよね。英語詞の曲が8曲中5曲を占めていることも関係しているのかもしれないですけど、なんとも不思議な無国籍感があります。 西寺:実は歌詞カードもそういうデザインにしているんですけど、よくハワイなんかに行くと中国語みたいな明朝体を使っている日本食レストランってあるじゃないですか? 日本人の感性では絶対に選ばないあの字体の感じっていいなって思っていて。いまはインターネットの時代で誰がどこで何を聴いているかもわからないし、狙いとしてユニバーサルな作品は目指しましたね。例えば、いままでは日本のマーケットで売るなら日本語で歌わないとって思ってましたけど、そうとも限らないのかなって考え直すようになってきて。そこの常識を一回外してみようとしてつくったのが今回のソロ・アルバムです。

『TEMPLE ST.』全曲解説+インスパイア・ソング

01. EMPTY HEART

西寺郷太 ソロ・デビュー Single「EMPTY HEART」MV

Donald Fagen/I.G.Y(1982) Marvin Gaye/What's Goin' On(1971) 大滝詠一/君は天然色(1981) Ralph Tresvant/Sensitivity(1990) Toro Y Moi/Still Sound(2011) ――ドナルド・フェイゲンの「I.G.Y.」が筆頭に挙がっていますが、今回のソロ・アルバムの制作にあたっては「自分にとっての『Nightfly』をつくりたかった」という思いがあったみたいですね。 西寺:ここでドナルド・フェイゲンを挙げているのは、考え方の部分ですね。やっぱりスティーリー・ダンとドナルド・フェイゲンの関係性が僕にとってのNONAとソロの在り方としての理想だったので。ドナルド・フェイゲンってソロのときも使ってるメンバーはスティーリー・ダンとそんなに変わってなかったりするんですけど、同じようなメンバーでもイーブンの関係でつくれるスティーリー・ダンのときとソロをつくるときでは気持ちが全然違うと思うんですよ。例えば、今回のティトとの共演の件なんかはまさにそうなんですけど、俺と同じ気持ちを(NONAのメンバーである)奥田(健介)や小松(シゲル)に抱いてもらうのはいくら仲が良くても無理じゃないですか。僕のジャクソンズに対する思いは10歳のときからひとりで育ててきたものだから。そういうパーソナルなポップ感を追求しようと思ったのが今回の『TEMPLE ST.』なんですよね。だからソロ・プロジェクトをやるときは基本的には純粋な西寺郷太を聴いてもらいたいんだけど、そこに奥田や小松が必要ならばせっかくの良いミュージシャンなんだから手伝ってもらうっていう感覚……その理想としての「Nightfly」ですね。アルバムのアートワークの部分から、いろんなことを考えるときに象徴として「Nightfly」がありました。あと、『Nightfly』って「I.G.Y.」がかかった時点でもう通して聴いたような感じがするじゃないですか。「EMPTY HEART」にもそういうところがあると思っていて。  マーヴィン・ゲイの『What's Goin' On』もそれと同じで、なんか「What's Goin' On」みたいな曲ばっかり入ってるような印象がありません? 「EMPTY HEART」ではまさにそれがやりたかったんですよ。これがNONAだったら「こんな曲もあります」「あんな曲もあります」ってことになるんですけどね。「EMPTY HEART」ができたからソロ・アルバムをつくる気になったところもあるし、ストリングスのアレンジも全部「EMPTY HEART」みたいな感じでやってほしいって伝えていたし。それは大滝詠一さんの「君は天然色」にしても同じことがいえるんですけど、『A LONG VACATION』がなんであんなに売れたのかというと、それはやっぱり1曲目の「君は天然色」の多幸感だと思ってるんですよ。そこでもうすでに一回説明が終わってるというか。 ――リストをいただいたとき、これはきっとアルバムの1曲目の在り方みたいな話なんだろうなあとは思っていました。“1曲目イズム”というか。 西寺:ラルフ・トレスヴァントの「Sensitivity」に関していうと、これはニュー・エディションのメンバーからソロに転身して最初のシングルですよね。ニュー・エディションはラルフが看板だったグループで、だからこそソロとして出ていくのが難しかったところがあったと思うんですよ。そんななかでジャム&ルイスがプロデュースしたソロ・デビュー・シングルだったわけですけど、あの曲のなんにも起こらない感じ、ラルフの声だけを味わう感じが、「EMPTY HEART」にはあるような気がしていて。自分で言うのもなんなんですけど、「EMPTY HEART」はまったく飽きないんですよ。何回でも繰り返して聴けるというか。そこは「Sensitivity」にも通じるところがあるんじゃないかなって。  トロ・イ・モアの「Still Sound」は音楽的にリアルに影響を受けている曲です。ここ数年のチルウェイヴの流れは自分のなかで面白いと思っていたんですけど、NONAはもうちょっとJ-POPのフィールドに乗っていたから、バンドではなかなか表現できなくて。ベッドルーム・ミュージックでエフェクトがガンガン入っていて、ひとりで全部つくってるあの感じですよね。後半の無駄に長いところはジョージ・マイケルの「I Want Your Sex」にも近いんですけど、パート1とパート2に分かれているあの構成のイメージです。生だったドラムが後半で打ち込みに変わったり、打ち込みだったパーカッションが生に変わったり。同じコードなんだけど、リズムのなかで不思議な違いがあるんですよ。純粋に衝撃を受けたのはこのトロ・イ・モアですね。彼はキャラクター的にも近いと思うんです(笑)。ミュージック・ビデオも出来上がったんですけど、それももろに「Still Sound」のビデオみたいなつくりになってます。今回こだわった点として“モロをやる”っていうのがあったんですよ(笑)。ストーンズ・イズムというか、容赦なくディスコをやってみたりラップに手を出してみたり。そういうのが長生きの秘訣なのかなって。「あ、それ流行ってるんならやろう!」みたいな。チルウェイヴはもうピークは過ぎたかもしれないけど、廃れない何かが確実にありますよね。

02. TEMPLE/SHAKE

Tears For Fears/The Working Hour(1985) Stevie Wonder/Dark 'N' Lovely(1987) Peter Gabriel/Sledgehammer(1986) 坂本龍一/Free Trading(1987) Harbie Hancock/Rockit(1983)

Peter Gabriel - Sledgehammer HD(1080p)

――ティアーズ・フォー・フィアーズの「The Working Hour」は意外なセレクションでした。 西寺:これは“2曲目イズム”ですね(笑)。ティアーズ・フォー・フィアーズの「The Working Hour」は『Songs From The Big Chair』の2曲目、大ヒットした「Shout」の次に収録されている曲なんですけど、ジャズの要素が入っていたりして「俺たちはこんなこともできる!」みたいなケンカの強さを見せつけてるあたりが“2曲目イズム”を感じさせる。この「TEMPLE/SHAKE」はまさにそんな感じで、7/8の変拍子になっているのと、Negiccoの「愛のタワー・オブ・ラヴ」みたいにヘンなベースラインがしつこく鳴ってるところがポイントですね。シンセ・ベースならではの耳に残るベースラインは、スティーヴィー・ワンダーの「Dark 'N' Lovely」を考慮してつくったところはありました。ピーター・ガブリエルの「Sledgehammer」とか、ああいう鉄っぽい感じですね。 ――80年代のポップス特有の味わいですよね。 西寺:「TEMPLE/SHAKE」ではいつもNONAのプロデュースを頼んでいる冨田謙さんがピアノ、宮川弾さんがフルートを担当しているんですけど、この2人は僕にとってトータル・プロデューサーの二大巨頭なんです。今回はNONAと同じになっちゃうから冨田さんではなく弾さんに全体的なコプロデュースをお願いして、冨田さんには“監督”ではなく、あえて“選手”として参加してもらいました。それぞれに思いっきり演奏してほしいってお願いしたんですけど、自分的には竜と虎を戦わせたような感じでしたね。それがこの曲の勝因につながってるのかなって。僕の考える究極のマエストロである2人に演者になってもらった面白さがあると思います。マイルス・デイヴィスがよくやっていたように、優れたプレイヤーを呼んでくること、揃えることが仕事だったみたいなところはありますね。 ――後半はまさに竜と虎の戦いというか、冨田さんと宮川さんのインプロヴィゼーションの応酬で混沌とした展開になっていきます。 西寺:ヒクソン・グレイシーじゃないですけど、2人とも本当にケンカが強いから意外と動かないんですよ。その間をつくった戦い方がまたグッとくるというか。埋めるんじゃなくて抜いてくる感じがまたこの曲に合ってますよね。2曲目に比較的ポップス的ではないこういう曲を入れることが“2曲目イズム”になるのかなって。この曲や7曲目の「SILK ROAD WOMAN」は歌が入ってるけどそれほど歌詞は重要ではないというか、どちらかというとインスト的な良さがある曲ですね。 ――坂本龍一さんの「Free Trading」は、冒頭で話した『TEMPLE ST.』のエキゾチシズムやオリエンタリズムにリンクしてくる楽曲ですね。 西寺:坂本さんのアルバムでは『Neo Geo』をいちばんよく聴いていて。ちょっとしたオリエンタリズムみたいなものがありますけど、この曲にしても中国語の語りが入っていたりして。でもこれは僕が連想したというよりは、冨田さんに「TEMPLE/SHAKE」を渡したときに「『Free Trading』を思い出した」って言われたんですよ。「似てるというわけでもないけど感覚的に合う」って。  ハービー・ハンコックに関してはすべてにおいて詳しいわけではないんですけど、『Sunlight』(1978年)みたいなポップに寄っていったものは結構好きだったりします。「Rockit」は賛否両論あると思いますけど、僕らのようなMTV世代にはデカい曲だし、ああいうインストなんだけどインパクトがある曲は自分のなかでやってみたかったんですよね。

03. SCHOOL GIRL

Mr. Mister/Broken Wings(1985) Blow Monkeys/It Doesn't Have To Be This Way(1987) Maylee Todd/Hieroglyphics(2011) Dr. Original Savannah Band/Cherchez La Femme(1976) Pharrell Williams/Happy(2013)

Pharrell Williams - Happy (Official Music Video)

――郷太くんのこういうブルー・アイド・ソウルっぽい歌ごころが出る曲は好きですね。Mr.ミスターの「Broken Wings」はちょっと意外でしたが。 西寺:空間的だけど淡々としてる感じが「Broken Wings」にちょっと似てるかなって。車がスローモーションでゆっくり進んでいくような絵がイメージとしてあったんです。最初から歌詞もできていたし、本当にサクッと出来上がった曲なんですよ。  ブロウ・モンキーズの「It Doesn't Have To Be This Way」に関しては、こういうゴーゴーっぽいリズムの曲は打ち込みでしかできない曲というのがあって。NONAでもやれるタイプの曲だとは思うんですけど、そうするともっとホットな仕上がりになるような気がするんですよね。自分でもドラムを叩いてるんですけど、それはもうサンプルしてるから、そこは無機質にグルーヴと歌だけでもっていく感じにできたのがソロっぽさなのかなって思ってます。 ――さっきのトロ・イ・モアじゃないですけど、メイリー・トッドは郷太くんと音楽の趣味が合いそうなアーティストですよね。 西寺:メイヤー・ホーソーンなんかもそうですけど、最近は話が合いそうなアーティストが増えてきました。昔からNONAがやってきたことだったり、僕が好きだったことが海外から発信されてまた戻ってきたというか。サバンナ・バンドの「Cherchez La Femme」に関しては、ディレクターから「ああいうのつくってほしい」ってリクエストをもらっていたんです。『MUSIC 24/7~TAMAGO RADIO』(2013年10月から2014年3月までTBSラジオで放送された西寺郷太がパーソナリティを務める音楽番組)のテーマ・ソングとしても使ってるんですけどね。  「SCHOOLGIRL」は10代のころに可愛い女の子をずっと眺めてるときの気持ちを歌ったような曲なんですけど、そういうドリーミーな雰囲気を表現するのにサバンナ・バンドのビッグ・バンド的なタッチは打ってつけだなと思って。ファレル・ウィリアムスの「Happy」は、この曲のレコーディングが終わったころに聴いた曲で、永遠に繰り返せる感じが近いなと。 ――その「Happy」が入ってるファレルのニュー・アルバム『G I R L』は、今回の郷太くんのソロに通じるところがあると思いました。やっぱりさらりと聴けるというか、良い意味での軽さが心地よいんですよ。 西寺:その軽さみたいなことは今回学んだところです。自分もミュージシャンで音楽好きだから一生懸命になって曲を聴いてしまうんだけど、世の中の人って良い意味で音楽と距離を置いて接してますよね。なんていうか、お店に入ったらずっと付きまとってくる店員みたいな音楽じゃなくて(笑)、声をかけたらいろいろ教えてくれるけどサッといなくなる店員のような音楽のほうがいいのかなって思い始めたんです。ようやく今回それができましたね。 ――ファレルの『G I R L』って、音楽史に残るようなマスターピースを目指してつくったアルバムというよりは、いまこのタイミングで出すことが重要だからつくったアルバムという感じがするんですよね。彼はいま絶好調じゃないですか? 郷太くんも同じようにここ最近はクリエイティビティに溢れていて、その延長でつくられた作品という印象を受けるんです。 西寺:今回はおそろしく悩んでないんですよ。 ――まさにそれが『TEMPLE ST.』の聴きやすさというか軽やかさにつながってるんだと思います。だからファレルの『G I R L』とは音楽的な同時代性も感じるし、スピリット的にも重なる部分があると思いますよ。 (後編に続く) (取材・文=高橋芳朗)
20140326-nishidera-02-thumb.jpg

西寺郷太『TEMPLE ST.』(FLY HIGH RECORDS)

■リリース情報 『TEMPLE ST.』 (GOTOWN/ VIVID SOUND) 発売:3月25日 価格:2,800円 〈収録曲〉 01. EMPTY HEART 02. TEMPLE / SHAKE 03. SCHOOLGIRL 04. I CAN LIVE WITHOUT U 05. SANTA MONICA 06. BLUEBERRY BAG 07. SILK ROAD WOMAN 08. YOU MUST BE LOVE http://www.gotown.jp http://ameblo.jp/nonareeves-life

「音楽の販売スタイルはもっと模索できる」沖野修也が提言する、これからの音楽マネタイズ術

20140325-okino-02-thumb.jpg

取材は氏がプロデュースを務めた老舗クラブ「THE ROOM」にて行われた。

【リアルサウンドより】  DJ、プロデューサーや兄弟DJユニット「Kyoto Jazz Massive」として活躍し、東京都渋谷にある老舗クラブ「THE ROOM」のプロデューサーとしても知られる沖野修也氏が、現在の音楽シーンについて語るインタビュー後編。前編【沖野修也が明かす“1万円でアナログ販売”提案の真意「録音物にはライブとは違う価値がある」】では、ネット上で賛否両論を巻き起こしたエントリー「僕がアナログを一万円で売ろうと思った訳」を書いた真意について明かした。後編では、沖野氏が提唱する“全業”という仕事術や、再販制度や小売りの形態が変化を遂げる中で、いかに音楽をマネタイズしていくか、さらにはSpotifyなどの定額制ストリーミングサービスへの向き合い方まで、大いに語った。

全業には水平型と垂直型があり、僕の場合は水平型です

――沖野さんは自身のブログで、「自分でできることはすべてやる“全業”」という仕事術を紹介していました。音楽家としていろんなタイプの仕事を、ひとつの価値観を通して行い、しっかり稼いでいくという活動モデルです。 沖野:全業には水平型と垂直型があり、僕の場合は水平型で、“沖野修也”という世界を音楽以外の分野にも拡張していくこと。僕はあらゆる契約業務をはじめ、イベントの開催や、アーティストの出版管理も行います。その他にもアートディレクションやスタイリング、ライナーノーツの執筆、ラジオ番組の制作、DJ、作曲、リミックス……音楽を中心としながらさまざまな分野に手を伸ばしていますが、それらの根底にあるのは“レコメンデーション”です。自分の音楽だけじゃなく、他アーティストの音楽もレコメンデーションする作業――ただ単に制作・演奏するだけじゃなく、そこにかかわる仕事で、なおかつ音楽性とも矛盾しないことであれば、僕は活動の場をどんどん広げていきたいと思っています。去年、僕が描いたイラストの個展を開催したんですが、そこで出展した作品はアルバムのジャケットとして使用したり、The Roomに飾ったりもしています。それは結果的になんの矛盾もしていない。僕が突然、寿司屋で働き出したらおかしいと思いますけどね(笑)。  ちなみにもうひとつの垂直型の全業というのは、音楽制作に特化して、入口から出口まですべてを自分がまかなうという手法です。例えば、Roomで働くスタッフ兼アーティストの冨永陽介が挙げられるんですが、彼はDJとして活動し、アーティストとしても曲も作り、プレス工場のオーダーも自分で手配し、自ら手売りで販売するといった、何から何まで自分でこなすタイプ。ミュージシャンはそのような作業をレコード会社や外部の人間に振っていますが、垂直型はコストをかけずに実質的な利益が減ってしまうリスクを回避できる。アナログのプレスを自分でするのは無理でも、コーディネイトからレコーディング、マスタリングまですべて自分自身で管理してしまえば、制作費はだいぶ抑えることができ、1枚あたりの収益を上げることができます。 ――これから音楽で食べていくには、避けては通れない道かもしれませんね。 沖野:いずれ、そうなっていくと思います。実際、自分でミュージシャンをやりながらレーベルをやっている人も多いですし、海外にはアーティスト兼エンジニア、という人も大勢います。自分のスタジオを持っているから、そこで完遂できてしまうんです。さらに他アーティストのトラックダウンやマスタリング仕事も受けられるという、僕が考える全業のあるべき姿ですよね。 ――日本ではエンジニア兼クリエイター、という人はあまり聞かないですね。 沖野:国内におけるエンジニアのイメージは、職人的な位置付けの職種ですが、海外では職人であると同時に、アーティストであり、作曲家であり、出版権も管理している人までいます。これだけで4つの顔を持ち合わせていることになります。

一生大切にしたいと思える作品であれば、1万円は決して高い買い物ではない

20140325-okino.jpg

「1万円のアナログ盤リリース」を計画し、話題となっている沖野修也。

――なるほど。音楽産業の高い利益率が保たれてきた理由のひとつに、再販制度(再販売価格維持制度:音楽CDは時限再販商品)の存在があります。音楽配信・ストリーミングの普及によってその基盤が崩れる中で、ビッグヒットで稼いだ資金を若手に再配分するという音楽業界のエコシステムが崩壊するのでは? という懸念も出ていますが、それについてはどう思いますか。 沖野:個人的に再販制度はなくていいものだと思っています。アナログを1万円で売りたいとブログで書いたとき、「再販制度で守られているんだから」という批判もあったのですが、それはまったく見当外れの指摘です。僕は過去に自社作品・自社原盤でCDをリリースしたことがありますが、確かに価格は維持されるものの、“返品”という大きな問題があるわけです。小売店はCDの仕入れた量を一時的に買ってくれますが、仕入れ量が年々シビアになっていることもあり、確実に捌けそうな枚数しかオーダーしてくれない。僕らは返品を前提に小売店に仕入れてもらいますが、その際、仕入れ量に応じたお金は支払ってもらえるので、それを“利益”と錯覚してしまい、運転資金として使用してしまうこともあります。ところが、返品がきたら返金の請求書も届くわけです。なので、メーカーはどんどん作品を作って仕入れてもらい返金しなくていいように自転車操業していくわけです、どこかでバカ売れしなければ、結局は利益の錯覚と返金のいたちごっこになってしまうんです。  さらにアーティストの著作権印税というのは、返品前に支払うのが普通なので、印税率に差はあれど、返品されたところで支払った印税が戻ってくることはありません。なので、僕のような数年に数枚しか出さない自社リリースは、再販制度の恩恵はまったく受けていないんです。 ――値段を弾力化して、安くしてでも市場で売れた方がいいということでしょうか。 沖野:小売店も限られた予算枠の中で厳選しなくてはいけないので、今の時代は本当に少数しか仕入れてもらえない。でも、仕入れた分はいずれコアなファンが購入してくれる、と踏んでいるので、価格を自由に決められるようにすれば、仕入れ量にも変化は起きるはずです。かつて小売店にも潤沢な予算があった時代は、大量に仕入れても返品したときにお金が戻ってくるので、リスクはほとんどなかったんです。しかし今は最初に仕入れる分の予算もないので、確実に売れるであろう枚数だけ仕入れている、というわけです。 ――すべてがそうであるとは言い切れないものの、沖野さんの立場からするといま話されたような状況だということですね。1万円という発想も、そこから生まれてくると。 沖野:仮にアナログの価格を1万円と設定し、7掛けで卸した場合、小売店側の利益は劇的に増えます。例えば、1万円の12インチを10枚扱いたいという小売店があったとき、店側の利益は1枚あたり3,000円に、僕の売り上げはトータルで7万円になります。もちろん、ここで大事なのは「1万円払う価値があるかどうか」です。完全限定生産で、海外でも話題になるレベル、一生大切にしたいと思える作品であれば、1万円は決して高い買い物ではない。アーティストがかけたコストに対するリクープ、店側と卸業側の収益、三者が納得して幸せになるケースはあり得るんです。  “限定感”というのもポイントは高い。複製できるデジタルは安くて構いませんが、アナログに関してはやはり高値で売りたい。それこそ一点モノのシルクスクリーンをつけて、10万で販売することもできる。僕はこれからイラストをウェブで受注生産するんですけど、一番安いもので5万円、一番高いものは25万円に設定しているんですね。それをアナログに置き換えた場合、10万円が高いと思う人は1万円のアナログを購入すればよいし、1万円が高いと思う人は、デジタルをダウンロードすればいい。同じ曲でも、販売する形態を変えて価格を変える手法です。 ――写真家にはプリントを100~200万で売る人もいます。でも、音楽はどちらかというと割安で、フリーミアムに近い形で配布してきましたよね。 沖野:販売スタイルも大きく関与してきます。例えば洋服だったら、ユニクロとディオールオムを同じ店では売らないですよね。でも、CDショップに行けば、僕の作品とアイドルの作品が同じJ-POPの棚に陳列されています。なので、今さら値段を上げるという行為に抵抗がある、というのはわかります。「僕のCDはこの店でしか買えない」というセグメントをしてこなかったツケもあると思います。  極端な例ですが、セレクトショップ10店舗限定販売、というやり方でもいいのかもしれません。もしくはウェブオンリーの販売。地方のレコードショップで生き残っているところは、インターネットやSNS、e-bayのようなオークションサイトを有効利用し、以前より売り上げを伸ばしているところもあると聞きます。これまでは近郊の人へ向けた販売だったものが、日本全国もしくは世界中のコレクターが買ってくれる。広い視野で見れば、音楽の販売スタイルはまだまだ模索できるはずなんです。言わば、日本でセールスが1/10になっても、国の数を20倍にすればいいだけの話ですから。

アーティストはアクティブなエンターテインメント能力が問われている

20140324-okino7.jpg

SHUYA OKINO (KYOTO JAZZ MASSIVE)『DESTINY replayed by ROOT SOUL』(Village again / Extra Freedom)

――最近はSpotifyなどの定額制ストリーミングサービスが注目を集めていますが、それらに対してはどう思いますか。 沖野:僕は“購入して所有したい派”なのでまだやるつもりはないんですが、その利便性にヒントはあると思います。結局、情報が氾濫しているから、探す手間も面倒だし、時間もかけたくない。となれば、誰かが先頭に立ってキュレーションしたチャンネルを提供すればいい。例えば、僕が選曲したプレイリストを公開する“沖野修也チャンネル”といったものを。ただし、そこで使用された楽曲から生まれる利益がきちんとアーティストに還元されるのか、という疑問はありますけどね。 ――1曲あたりの分配金は、現状ではかなり低いと見られています。 沖野:そこはアーティスト次第かもしれません。分配金が低くても宣伝になるからサービスに参加するアーティスト、とにかく断固として参加しないアーティスト、答えはひとつじゃないと思います。それと、盲目的になっていると思いますが、インターネットは“無償”のサービスではない。当たり前にいろんなサイトにアクセスし、サービスを受けているわけですが、そこには“接続料”の負担があるわけです。究極の話、携帯キャリアが音楽ストリーミングのプラットフォームを構築し、料金の中に接続料に加えて、“音楽サービス”を組み込むことができたら、アーティストに還元されるシステムを作りやすいのかもしれません。  僕は自分の存在を知ってもらったり、音楽を普及させるためならストリーミング・サービスに参加はする……と思いますが、個人的には熱心な音楽リスナーに向けて、支払った金額以上の価値を提供したいと考えています。楽曲云々ではなく、ファンや聴き手をエンターテインしていくことが、アーティストに課せられる時代になってきた、ということです。もちろん、生業である音楽で純粋に評価されるべきですが、飽くなき欲求に応えていくアクティブなエンターテインメント能力が問われているのだと思います。 ――そういう時代に、まるっきり音楽しかできないタイプのミュージシャンは、どうするべきだと思いますか? 沖野:そこはやっぱり、見せ方です。僕はゲリラ戦法というか、とにかく増やせるだけ露出は増やす。ブログもツイッターもフェイスブックも、イベントのフライヤーに載る名前や写真も、僕はすべて露出だと思っています。その更新頻度が増えれば、人の意識に働きかけられることができますからね。  逆に、ツイッターもフェイスブックもブログもやらない、ましてや生活感すら見られたくない、音楽だけで勝負したい人は、存在価値を高めていくべきだと思っています。ダフトパンクはその最たる例ですよね。ライブ以外は会えない、正体もわからない(知っている人もいますが)、なにひとつ素性を知らない。でも音楽性は高く世界的なヒットを放っている。こういったことが神格化につながっていきます。  売れるアナログの原理と一緒で、ある程度著名な人からのレコメンデーションや、すでに地位を確立した人との比較によって認知度が上がっていくようになる。例えば、僕がダフトパンクを推す一方で、無名の新人を並列で紹介したとします。すると、聴き手のその無名アーティストに対する印象というのは、無から有に変わると思うんです。影響力のある人間が、若手を積極的に世に紹介していくフックアップや、同様の音楽をグループ化していくことは、これから先もっと重要になっていくでしょうね。 (取材・文=編集部)

ワンオクTomoya、POLYSICSヤノ、MERRYネロ……実は凄腕なドラマーたち6選

20140324-oneok-thumb.jpg

ONE OK ROCK『人生x僕= (通常盤)』(A-Sketch)

【リアルサウンドより】  ドラムはギターのように“バンドの花形”と呼ばれることの少ないポジションかもしれない。  しかし、我が国のロックシーンにおいては、壮絶なドラミングで見る者を熱狂させたX JAPANのYOSHIKIや、Zi:KILL、Die In Cries、L'Arc-en-Cielと一時代を築いたバンドを千手観音のようなプレイで渡り歩いたyukihiro、そしてシンプルながらも野性的なリズム、キレのあるテクニックでリスナーを魅了したBLANKEY JET CITYの中村達也など、多様なスタイルを提示してきたドラマーも多い。  構造上、単純な打楽器である。しかし単純であるからこそ、自由度も高く、その人なりが良く現れるとも言えよう。バンドにおいてもテンポとテンションを左右する重要な役目でもある。  今回はそんなバンドの要でもあるドラマーを様々なスタイル、ジャンルの中から「隠れた名手」ともいうべきドラマーを紹介していきたい。

スタイリッシュなドラマー3選

アグレッシヴなパワーヒッター Tomoya(ONE OK ROCK)

ONE OK ROCK - Deeper Deeper [ONE OK ROCK 2013 "Jinsei × Kimi ="TOUR LIVE&FILM]

 その温和なルックスとは裏腹に大きく振りかぶったショットは一音入魂、まるでパワーヒッターのようであり、外国人ドラマーを彷彿とさせるアグレッシブなドラミング。  力任せに叩けば大きい音が出るものでも無く、そもそも大きい音と力強い音は全く別。そんな“鳴らし方”をちゃんと知っていると思わせる説得力。学生時代は吹奏楽部でパーカッションを担当、音楽専門学校でドラムを専攻。なるほど、基礎が出来ている。型にハマらないロックの世界では人に教わることを良しとされないことだってある。だが、その基礎があった上で自分なりの持ち味を出すことが出来るのなら、まさに鬼に金棒、いや、金棒ではなく鉢、スティックか。  今最も勢いのあるバンドのひとつとして、「日本にもこんなドラム叩くやつがいるんだぞ」と胸を張って言える、そんな誇らしさを感じるドラマーである。

クリックアンドロイド ヤノ(POLYSICS)

POLYSICS 『Live Blu-ray 『MEMORIAL LIVE OR DIE!!!』ダイジェスト』

 すらっと伸びた背筋、腋を締め、的確に繰り出されるリズムは、そのバイザー(サングラス)に隠れた表情と共に、人間味すら忘れてしまうほどの正確さ。シーケンスフレーズと一体化するドラミングは、“忍び”を思わせるほどの軽やかさで、時にどれが打ち込み音であるか解らなくなることだってあるほどだ。  ヴォーカル、ハヤシのハイテンションなステージングも魅力のバンドであるが、いつだって冷静さを失わずにリズムキープする姿は「常にメンバーの背中を見ている」ドラマーというバンドの監督的ポジションを1番年下ながら解っているようで頼もしく見える。  そんな冷静沈着、クールなヤノもバンドが3人体制となってからはギターを片手に、フロントに躍り出るという新たなキャラ開拓もしているようだ。そんな“芸風”の拡がりを含め、今後も目が離せないドラマーなのである。

ヴィジュアル系の暴走機関車 ネロ(MERRY)

LIVE DVD『MERRY VERY BEST 20121130 赤坂BLITZ ~Special 2night【黒い羊】~』45秒SPOT

 畳みかけ、捲し立てる、一度観たら忘れられなくなるようなタム回し。熱が入り過ぎて、時として我を忘れるかのように狂い叩く。ただそれはアンサンブルの乱れというわけではなく、バンドとしての狂気を呼び起こすスイッチなのかもしれない。細かい技術云々がどうでも良くなるくらいのねじ伏せる力があるのだ。  上手いと言われるドラマーは数多く居るだろう。しかし、プレイを見ただけで、音を聴いただけで「ネロのドラム」と解ってしまうようなドラマーはそうそうお目にかかれるものではない。誰にも真似することのできない「オンリー・ワン」。それはロックドラマーとして、プレイヤーとしての理想の完成形の一つだ。

二面性を持つドラマー3選

 後半は少し視点を変え、二面性、「二つの顔を持つドラマー」に注目していきたい。

プレイヤーとドラムテック 有松益男(BACK DROP BOMB)

BACK DROP BOMB "Road" LIVE CLIP from「59days preface」

 北九州男児のドラムともいうべき、重厚かつ、ず太い音ながらタイトなドラム。オフビートに乗せ、独特のタメを利かせたスネア捌きはドラマーなら誰もが真似したくなるプレイであり、憧れる音。  そんなサウンド作りの上手さを活かし、ドラムテックとしても名を馳せている。  生楽器であるドラムはそのセッティングもシビアだ。そんなレコーディング現場におけるセッティング、メンテナンスに至るまで細かくチューニングする仕事。それはVAMPSからUVERWorldまで多岐に渡り、ドラマー界の頼れる兄貴である。

オリジナルバンドとサポートワークス 石井悠也(カムロバウンス)

supercell 『拍手喝采歌合-short ver.-』

 いきものがかりポルノグラフィティ世良公則Buono!……自身のバンド、カムロバウンスで活動する傍ら、サポートミュージシャンとして今注目を浴びているドラマーである。  力まずスナップを利かせた切れ味の鋭いショットから放たれる正確無比なリズム、バラード調の楽曲では完全にドラムが歌っている。  様々なジャンルに対応する技術はもちろん、その中でいかに自分らしさを盛り込めるかがサポートワークでは重要である。フィルやブレイク、その瞬間にとんでもない“はっちゃけ”をしてくるのも持ち味だろう。正確さと自分らしさ、この絶妙なバランス感覚、ハイセンス極まれりといった感じだ。

ロックンロールとスラッシュメタル 桐田勝治(ザ・クロマヨンズ)

ザ・クロマニヨンズ 『人間マッハ(ライブver.)』

 シンプルでストレートなロックンロール、それを牽引するストレートなドラミング。「安定感のある」という言葉では収まり切らない腰の座ったリズムは重戦車のようだ。時折、爆発的な加速を見せ、手数が多くなる。しかし、それはあまりに見事すぎて他を邪魔立てすることはない。  この桐田、もう一つの顔がある。  ジャパニーズ・スラッシュメタルの雄、Gargoyleのドラマー、KATSUJIとして。こちらが本来の姿である。

2009,10/10 CLUB CITTA' KAWASAKI「死ぬこととみつけたり」

 弱冠17歳で加入。四半世紀以上に渡る活動の中で「ライブバンドの帝王」とも呼ばれるカリスマバンドである。  疾走感なんていうレベルではない早さのブラストビート、これでもかと言わんばかりのツーバスとフィルの応酬は、力強さと細やかさを兼ね備えた圧巻のドラミング。リズムがズレることはない、まさに名手という言葉しか出てこない。  日本語ロックレジェンドと言うべきロックンロールバンドと、方や「帝王」とも呼ばれるスラッシュメタルバンド。そんなジャンルも見た目も異なるモンスターバンドを行き来する、まさに二面性を持つドラマー中のドラマーである。

バンドの熱量をもっとも伝えるのは、ドラマーかもしれない

「じゃんけんに負けたヤツがドラムになる」  バンドを始めるときによく言われた言葉。かつてはそんな時代もあった。  住宅事情含め、手軽に始められるものでもない。ギターやベースと比べれば、その「楽器を演奏している」感覚は薄いのかもしれない。ステージ上を駆け巡ることも出来なければ、客席からは一番遠い場所で座っている。そんな、何となく地味なイメージを持たれるのかもしれない。  しかし、その両手両足を使い、全身を駆使して音楽を表現するそのドラマーの姿は、実にドラマチックであり、アスリートのようでもある。実はバンドのカッコよさ、熱量を一番伝えることの出来るポジションではないのだろうか。 (文=冬将軍)

ザ・ピーナッツからBABYMETALまで……11人の論者がアイドル楽曲の43年史を語る

20140322-idol.jpg

イベントは、新宿ロフトプラスワンにて行われた。

【リアルサウンドより】  3月15日。新宿ロフトプラスワンにて、『アイドル楽曲ディスクガイド』(アスペクト)の刊行を記念するトークイベントが開催された。  ハロプロ楽曲大賞、アイドル楽曲大賞の主催者として知られるピロスエ氏が編者となった「アイドル楽曲ディスクガイド」は、1950年代から現在の2010年代までのアイドルとアイドル的な女性歌手のシングル850枚+アルバム100枚の950タイトルのレビューを収録したものとなっている。  2010~12年からはじまり、50年代から2000年代までの歴史を振り返りながら、間に井上ヨシマサ、tofubeatsのインタビューを挟み、最後に2013年を振り返るというボリュームのある構成の本書を読むと、アイドルという概念がいかに幅広く、様々なものを内包していて、その全貌を捉えることがいかに困難なのかがよくわかる。  トークイベントは二部構成でアイドル史を振り返るものとなっており、ピロスエ氏と本書に執筆したライター諸氏が登壇。雑多で混沌とした戦後のアイドル史を時系列順に語ることで歴史的な流れを整理する談話となった。  第一部では50~60年代のプレアイドル期から80年代後半まで。第二部では90年代から現在まで語られた。以下はその簡単な概要である。

さやわか「敷居の高さが今のアイドルとは違う」

第一部 登壇者 ピロスエ、岡島紳士、さやわか、栗原裕一郎、原田和典、岩切浩貴、【VJ】fardraut films ●1950~60年代(美空ひばり江利チエミ中尾ミエ、奥村チヨ、黛ジュン吉永小百合山本リンダザ・ピーナッツ etc) 原田:この時代は、いわばスターの時代で、テレビに出る歌手は天上人だった。 栗原:テレビ放映 が53年。59年に「ザ・ヒットパレード」という歌番組が開始される。ロカビリー歌手だったミッキー・カーチスや長澤純、当時デビューしたばかりのザ・ピーナッツが出演していた。そこでカバーポップスの時代になって洋楽のカバーを歌う番組がヒット。そこからアイドルの概念が生まれたのではないか? 一方で当時は映画の時代で、吉永小百合はそこから出てきた。 さやわか:敷居の高さが今のアイドルとは違う。 栗原:『山口百恵→AKB48 ア・イ・ド・ル論』(宝島社新書)の北川昌弘さんは「アイドルとはテレビのものである」と言っている。テレビが登場したことでアイドルが登場した。また、当時の女性歌手は譜面が読めた。プロのミュージシャン。 進駐軍の外国人相手に歌っていたような人たちだった。 原田:英語の歌が日本でヒットしてたのは、今、考えると凄い。 ●70年代前半(南紗織天地真理山口百恵麻丘めぐみアグネスチャン太田裕美キャンディーズ etc) ピロスエ:アイドルの歴史は南紗織の「17才」からスタートした。 栗原:彼女のデビューは71年、沖縄本土返還の一年前だった。政治情勢が変わると歌手の傾向も変わる。 岩切:この頃から、ポップスを書ける人が増えてきた。カバーを繰り返す内に和製ポップスが成熟していく。専属作家制度が崩壊したことが大きい。 ピロスエ:太田裕美はアイドルなのか? 栗原:この曲までは自分でピアノを弾いていて、他のアイドルに楽曲を提供していた。でも歌うのは他の人が提供した曲で自意識はシンガーソングライターだった。「木綿のハンカチーフ」ではじめてハンドマイクで歌った。 ピロスエ:あとは、後のグループアイドルに影響を与えるキャンディーズが73年に登場する。 ●70年代後半(ピンクレディー岩崎宏美大場久美子石川ひとみ榊原郁恵 etc) ピロスエ:デビュー年で分けているけど、70年代後半に人気が絶頂だったのは山口百恵。 さやわか:子どももいるし、セクシーもあるし、宇宙人もいるし、70年代後半になると、今のアイドルの概念に近くなる。 岩切:当時のアイドルファンは大学生以下で、小中学生から上は高校生まで。 栗原:いい年過ぎてアイドルを聴いていると、頭悪いんじゃないのと思われてたんじゃないですかね? 原田:大場久美子はピアノで表現できないフィーリングがいいですよね。僕は北海道出身でNHKと民放が数局しかなくて全部、後追いだった。地方によって受信できたテレビ番組の違いが大きかった。 岩切:当時は歌番組自体が細分化されていて、アイドルはワイドショーや天気予報でも歌っていた。 栗原:フォークもありニューミュージックもあり、音楽的にも充実していた時代。テレビを見ていたら様々な歌が流れていて、ポストモダン状態だった。

岡島「おニャン子がいろんなものを壊した」

●80年代前半(松田聖子松本伊代伊藤つかさ薬師丸ひろ子原田知世岡田有希子中森明菜小泉今日子 etc) 栗原:前年の79年は暗黒の時代だった。誰一人残ってない。 岩切:中森明菜は山口百恵のフォロワー。 栗原:レコード業界は百恵的なものを売り出したかったが、松田聖子の登場で空気がガラッと変わった。 さやわか:今まで百恵的なものだったアイドルが聖子のぶりっ子的なものに傾いた。 栗原:薬師丸ひろ子や原田知世は角川映画の女優。 岩切:だから角川の雑誌「バラエティ」が独占していた。 栗原:角川春樹は映画とテレビと全部使って、本を売ろうとしていた。メディアミックスの走り。しかし、角川映画にとって、アイドルは副産物だったのではないかと思う。 さやわか:小泉今日子の「なんてったってアイドル」(作詞:秋元康)でアイドルがメタ化。そして、おニャン子クラブで素人化。この二つがこの時期に同時進行している。 ●80年代後半(オールナイターズ、おニャン子クラブ、斉藤由貴南野陽子浅香唯中山美穂森高千里etc) 栗原:おニャン子で「もう、いいや」と思った。今までのアイドルは親衛隊文化(ヤンキー)だった。おニャン子以降、ファン層がヤンキー的なものからオタク的なものになっていった。 岡島:おニャン子がいろんなものを壊した。おニャン子から入った人と離れた人がいる。 さやわか:うしろゆびさされ組はアニメ『ハイスクール!奇面組』とのタイアップ。『スケバン刑事』(斉藤由貴、南野陽子、浅香唯)、『ママはアイドル』(中山美穂)などテレビ番組主導になっていて、アニソンやテレビドラマの番組タイアップが増えていく。 ピロスエ:南野陽子は、今の楽曲派の人たちにも評価されそうな感じがありますね。 栗原:森高千里の「17才」(南紗織のカバー)で歴史が一巡する。ただ、当時はアイドルとは思っていなかった。 岩切:森高は系譜としては太田裕美に近い。 栗原:Winkや森高千里は現代アートみたい。昭和の終わりで時代の変わり目。小泉今日子以降、アイドルがメタ化して、ベタなアイドルは成立しない。80年代後半はメタアイドルの時代。 岩切:音楽史的には作家がそろった時期。ロック系の人が増えた。おニャン子にはライダーズ系が入っている。楽曲的には豊かで小室哲哉も出てくる。みんな面白いことをやろうとしていた時代で、お金もあった。 ●第一部 まとめ 岩切:アイドルポップスはなんでもあり。80年代までは、日本の景気と並走している。 さやわか:その後、経済とエンタメは反比例していき、社会の動きとシンクロしなくなっていく。これ以降、音楽産業はバブルを迎えることになる。

宗像「元号を広末にしたい。1997年は広末元年」

第二部 登壇者 ピロスエ、岡島紳士、鈴木妄想、田口俊輔、DJフクタケ、宗像明将、坂本寛、【VJ】fardraut films ●90年代前半(東京パフォーマンスドール、乙女塾、高橋由美子、ねずみっ子クラブ) ピロスエ:おニャン子が解散して以降、「アイドル冬の時代」になったと言われているけど、本当にそうだったのか疑問視している。 鈴木:グループ数自体は減っていない。ただ、単純にメディア露出がガクンと減った。 田口:音楽シーンがバンド寄りになったため、相対的に露出が減った。その影響はある。 坂本:アーティストの方がスターやアイドルよりもカッコよくなってきたのがバンドブーム以降。その流れを踏まえて小室哲哉が活躍する。 岡島:おニャン子で素人化してアイドルが壊れて、森高とかWinkでメタ化した末期感というか何でもアリ感は今に通じる。 鈴木:東京パフォーマンスドール(TPD)は、おニャン子のカウンター。原宿で定期ライブをやっていた。 岡島:TPDはCDセールスこそ振るわなかったけど、日本武道館と横浜アリーナでコンサートを成功させた。今のライブアイドル全盛の流れに続いています。 坂本:おニャン子は一般まで巻き込んでいたけど、乙女塾は一回り落ちて、おニャン子の出がらし的に見られていた。TPDも今聴くとカッコイイけど、当時としては先鋭的で、一般のリスナーには受けが悪かった。 ピロスエ:この頃から、グループアイドルが増えていく。 坂本:完全なソロで成立していたのは森高千里までで、それ以降は松浦亜弥までいない。 フクタケ:その中で、当時の高橋由美子は特別な位置づけ。最後のアイドルと言われていて、一人で支えていた。 宗像:ねずみっ子クラブは、おニャン子以降の試行錯誤の始まり。このあとAKB48まで、中々爆発しない。 ●90年代後半(安室奈美恵MAXSPEED吉川ひなの広末涼子モーニング娘。etc) 坂本:SPEEDが当時の小学生に与えた影響は凄かった。安室奈美恵やSPEEDは、アイドルだけどアーティスト寄りの売り方をしていて、アイドルと呼ばれたくないみたいなところはあった。今と真逆。 フクタケ:吉川ひなのは、ちょっとメタでキャラ先行。「ハート型の涙」は、彼女のキャラを朝本浩文が面白がって作ったもの。 宗像:この時代、広末がいかに俺たちを救済したか。 ピロスエ:歌手デビューは97年。この年は『新世紀エヴァンゲリオン』の劇場版もあっていろいろとエポック・メイキングな年。90年代後半は、エヴァンゲリオン、広末、モーニング娘。など、僕たちの青春時代ということを差し引いても激動の時代だった。 宗像:元号を広末にしたい。1997年は広末元年。今は広末17年を生きている。僕と岡島さんは当時、広末のメーリングリストに登録していた。広末の影響で今がある。 ピロスエ:宗像さんと岡島さんが広末で人生が変わったのなら、僕と坂本さんはモーニング娘。の影響が大きい。 坂本:インターネットも絡んでいて、テキストサイト更新者から商業ライターへという流れがあった。 宗像:取材をしているとアイドルを目指したきっかけがモーニング娘。というアイドルはすごく多い。

坂本「渋谷系以降聴くものがなかった人が『LOVEマシーン』で転んだ」

●00年代前半(タンポポプッチモニミニモニ。、松浦亜弥、Whiteberry、ZONEdream、杏さゆり、星井七瀬 etc) 岡島:ハロプロ勢の勢いが凄い。ファンのコミュニケーションがネットを通じて盛んになった。 宗像:Webカルチャーの面から見てもハロプロは凄かった。違法ダウンロードが広まった時期だったけど、それでもCDは売れていた。また、ゼティマはCCCDを最後までやらなかった。その辺のストロングスタイルも素晴らしい。 岡島:アイドルに興味がない人がハロプロの音楽から入ってきた。 坂本:渋谷系以降聴くものがなかった人が「LOVEマシーン」で転んだ。それ以前のモーニング娘。はダサかったが「真夏の光線」くらいから評価が変わったけど、売上は伸びなかった。ダンス☆マンが参加することで当時の音になっていて、「LOVEマシーン」で吹っ切れた。 フクタケ:DJ文化が東京周辺へ定着した時期だった。一方で、ポストSPEED的なものを模索したavexは、後に残るものを育てている。 宗像:BEE-HIVE(アミューズ出身のアイドルグループの総称)は報われなかった。毛色の違うPerfumeだけが生き残った。 フクタケ:00年中盤は杏さゆりや乙葉といったグラビアアイドルがアイドルの代表の時代だった。 ●00年代後半 (Perfume、AKB48、Berryz工房℃-ute、真野恵里菜、中川翔子 etc) ピロスエ:世間的にはハロプロのピークが過ぎた時期。それでもハロプロにこだわるか他のアイドルへ推し変するのかファンは迫られた。 宗像:Perfumeは「ポリリズム」のブレイクによって報われた。ここに至るまでが長かった。 岡島:中川翔子の功績は色々と多い。ネットランナーがBLOGをやらせた。 坂本:AKB48は「スカート、ひらり」の頃に劇場で見た。当時は「また、パンツ見せてるのか」って感じだった。 宗像:陸海空の自衛隊の協力で作られたAKB48の「RIVER」のPVは震災前(09年)だからできたもの。平和じゃないと作れない。 フクタケ:この頃の秋葉原はカオスだった。歩行者天国のいたるところでライブがおこなわれていた。 岡島:ホコテンのアキバ系アイドルによるストリートライブの熱狂が、ディアステージ、そしてでんぱ組.incにつながっている。

フクタケ「ブルーオーシャンはミュージカルや舞台」

●2010年代初頭(ももいろクローバー、東京女子流、9nine、乃木坂46、でんぱ組.inc、BABYMETAL、BiS、アップアップガールズ(仮)、天野春子「あまちゃん」etc) ピロスエ:他の時代に較べて多様性がありますね。 宗像:「潮騒のメモリー」は2013年を意識した80年代オマージュとしてよくできている。 フクタケ:ロコドルやアジアといった中心じゃないところから、いいものが生まれている。その一方で、中央が空いていてドーナツ化現象が起きている。 岡島:地方にいてもいい作品が作れる環境が整った。ロコドルでもアジアでも場所に関係なく、いいものが出てくる。 坂本:それと引き換えに音楽が安く作られているという問題もある。売れるもの程、多様性がなくなっている。 宗像:今は現場が多い。スケジュールカレンダーを見ないと、自分の好きなアイドル以外の動向がわからなくなっている。 ●全体 まとめ 坂本:楽曲が流行りものの形態に規定されているのを感じる。カラオケや着メロの影響によって楽曲の作り方が変わってくる。 栗原:カラオケ以降、コミュニケーションツールとしての役割が強くなっている。 岩切:お金がないとできることとできないことがある。昔の歌謡曲やアイドル楽曲のレコーディングはお金があるからできたことがたくさんあった。それは大きい。 宗像:ずっと見ているとアミューズの大里会長は怖い。そのアミューズがソロアイドルの武藤彩未を売り出しているということはグループからソロへというゆり戻しの流れが来くる兆候かもしれない。 フクタケ:ブルーオーシャンはミュージカルや舞台。新生TPDや乃木坂46がやっているけど、その流れができてくれればと思う。 岡島:BABYMETALがビルボードのチャートに入ったけど、接触なしでも、他と差別化されたコンセプトを固めてコンテンツがしっかりしていてライブが楽しければ受け入れられる。AKB、ももクロがブレイクして、ハロプロに勢いが戻りつつあり、BABYMETALらも後に続いている。要はアイドルの市場がそれだけ拡大し、安定し始めたということ。今後も握手会は安価で始められるので基本として進んでいくのだろうが、楽曲のバリエーションは、これからも増えていくと思う。さっきの多様性の話と繋がるけれど、CDの売り上げ自体の落ち込みが進む中では、チャートの上位曲だけを見ていてもアイドル楽曲全体のシーンは把握して行けなくなる。ライブアイドルはCDの売り上げだけでなく、ほとんどはチェキや握手を含む物販で回しているから。ビジネスとして最低でも数年は回っていたり、数百人規模のワンマンができるグループであるなら、無視はできないはず。そうしたグループが無数に出現して行けば、単に個人で「アイドル楽曲シーン全体を把握すること」が難しくなるだけで多様性は進んで行くし、もう既にその流れは始まっている。 フクタケ:運営の母体の基礎体力が重要になってきている。育成も含めて時間をかけられるところが残っていく。ロコドルは、やっている方の情熱で回っている側面もあるけど、ビジネスにならないという所は引いてきている。 宗像:不景気だけど、アイドルのマーケットは金を使うので、なんでも有りの盛り上がりがある。ただ、チャートに見えているのは上澄みの部分で、ライブの方はもっとグチャグチャなことになっている。アングラで揉め事が起きているのを見ていると、バンドブームの末期に似ている。とはいえ、バンドブームの時よりはマーケットが固まって広まっている。この本が出るのもその証明で、そこまで悲観的になる必要はないと思う。 ピロスエ:まとめとしては、「俺達の戦いはまだまだはじまったばかりだ!」ってことで。個々のヲタ活をがんばってきましょう。 (取材・文=成馬零一)
20140314-idol-thumb.jpg

『アイドル楽曲ディスクガイド』(アスペクト)

■書籍詳細情報 ピロスエ・編『アイドル楽曲ディスクガイド Idol Music Disc Guide 1971-2013』 発売日:2014年2月27日 発行・発売:株式会社アスペクト 判型:A5判(オールカラー256ページ) 定価:2500円+税

SMAPに影響されたリアルGMT!? 福井県のロコドル せのしすたぁ登場

20140322-seno2.jpg

良質な楽曲がアイドルファンの間で話題となっている、福井県のロコドル・せのしすたぁ。

【リアルサウンドより】  NHK朝の連続小説『あまちゃん』が昨年世間を席巻したように、今はアイドルブームであり、ロコドル(ご当地アイドル)ブームでもある。せのしすたぁは、その「あまちゃん」から展開された「全国『あまちゃん』マップ!あなたの町おこしキャンペーン」で、47都道府県のご当地アイドル・福井県代表に選出されたグループ。メンバーは、長女役の「ゆうほ」とニ女役の「まお」の2人で、ともに高校を卒業したばかりの18歳。実の姉妹ではなく、小学校からの幼馴染同士だ。  彼女たちの魅力は数あれど、最も特徴的なのは、楽曲のアイドルポップスとしての質の高さ。メロディーラインが心地良く、軽快で踊れるそのサウンドに、耳の早いアイドルファンたちがこぞって熱狂している。プロデューサーでありマネージャー、そして楽曲制作も行っている森永康之氏(クリエイティブオフィスSHOWCASE)は、その音楽ジャンルを「和製歌モノディスコ」と、今回の取材で定義した。 ※この取材は今春発売予定のアイドルDVDマガジン『IDOL NEWSING vol.1』との合同で行われました。 取材時の様子はこちら。 http://idolnewsing.com/dvd/dvd_idolnewsing1/1171 ゆうほ:私は元々AKB48さんが好きで、いろんなアイドルさんの曲を聴いて来たんですけど、森永さんの曲はたくさんの音が重なってないから、耳にうるさくないし、何て言うか、今までに聴いたアイドルさんの曲とは違うから、面白いなって。歌いやすいし。 まお:歌詞には私たちが話してたことが書かれてて「あーこないだ言ってたことじゃん」「あの子のことだ」とか、面白いんです。自分たちが思ってないことを歌わせられるわけじゃないから、すっごく嬉しいし、感情も入る。ami~gas(まおが兼任し、ゆうほも元メンバーだったグループ。同じく森永氏が楽曲制作を行っている)やせのしすたぁを始める前はEXILEとかみんなが聴いてるものしか聴いてなかったんです。でも今は自分たちの曲しか聴いてない。 森永:せのしすたぁは元々「瀬乃∞しすたぁ」という名前で、今のメンバーとは全く別に2010年から始まってるんですけど。その少し前に付き合ってた女の子がジャニーズ、特にSMAPが好きで。それでSMAPを聴くようになって、もう、超いいなと。コンサートも3回くらい行って。アイドルソングのレベルの高さに気付いたんです。世界中探してもこんなにキャッチーで、凝ってて、よく出来てる音楽はないなって。だから完全にSMAPなどのジャニーズを意識して曲は作ってます。 まお:ジャンルでいうと何になるの? 森永:う~ん、「和製歌モノディスコ」ってことで!これからはもっと80年代、90年代のディスコサウンド、みたいなものを追求して行きたい。 ゆうほ:「アイドルなんてなっちゃダメ!ゼッタイ!」は歌詞にインパクトがあるよね。 森永:Negiccoさんの「アイドルばかり聴かないで」との関連性をよく聴かれるんですけど、実際は全然意識せず作りました。でも聞かれると話題性に便乗して「アンサーソングです」と答えてます(笑)。歌詞は僕の生活自体が仕事もレッスンもずっとこの子らと一緒なので、もう書けることがこの子たち自身のことしかないんですよね。盗み聞きしたり、相談したりして歌詞を作ります。

せのしすたぁ♪「アイドルなんて なっちゃダメ!ゼッタイ!」 MV

耳の早いファンがネットや口コミを通じ、勝手に情報を拡散

 ネットが普及し、YouTubeなどの動画共有サイトが一般的にも浸透している今、新人のアイドルにとって、メジャーもインディーも地方も首都圏も、活動開始時にはほとんど関係がない。どこか秀でたところがあれば、耳の早いファンがネットや口コミを通じ、勝手に情報を拡散してくれる。アイドル好きで知られるタワーレコードの嶺脇社長も、昨年夏にせのしすたぁの音楽を知り、すぐさま自らのイベントで曲を掛けたという。  そんなアイドルファンの間で注目度が高まっているせのしすたぁだが、結成はなかなかゆる~い感じだったようだ。 ゆうほ:まず私が先に2012年にami~gasに入ったんですよ。地元のショッピングセンターアルプラザ・アミが発信するグループとして募集されてたのを、地元のテレビCMで見掛けて、応募したのがきっかけです。最初はアイドルグループっていう告知じゃなかったけど。 まお:ボイトレの先生がつくとか、メイクアップ講座とか、ダンスレッスンがあるとか書いてあったけど、何もなかったよね。 ゆうほ:そう。それで結成の時に「アイドルになる」って初めて聞かされて。でも元々アイドルの振りコピとか好きだったし、やってみようってなって。何故か振付まで担当することに(笑) まお:私はゆうほと友達だったから、なんか楽しそうだし、部活もやめてヒマだしって思って、応募してみたんです。元々目立ちたがり屋だったし。歌もダンスもなんもやったことなかったけど。 ゆうほ:途中で瀬乃∞しすたぁもやることになって。2012年10月からは平仮名の「せのしすたぁ」に表記が変わって、今に至ります。

まお画伯の描く"サイコ"なイラストもインパクト大!

20140322-seno3.jpg

せのしすたぁ-『I'm sick!!!』(idol SHOW口CASE)

 初CDにして1stアルバム『I'm sick !!!』は音源もさることながら、全面イラストのジャケットもインパクトがある。ぱっと見は可愛い女の子だが、よく見るとイラスト自体黒一色で、至るところに目が描かれていたりと、おどろおどろしい雰囲気がある。「サイコ絵」や「サイケデリックアート」と呼ばれるジャンルに近いが…これを手掛けたのはメンバーのまお自身だという。 まお:中3くらいの時に、こういう絵を学校の授業で最初に描いて。美術の先生に「こういうのもいいね」とは言われたけど、あんまり褒めてくれなかった。周りから「ちょっと気持ち悪いよ」って言われて。でも森永さんに見せたら「いいじゃん!」って褒めてくれたんですよ。
20140322-seno6.JPG

まおのイラスト画像

ゆうほ:わざとじゃなくて、ナチュラルにこういう絵を描いてたんだよね。 まお:そう。少女マンガみたいなのは描けないし。サイコ絵って言葉も今初めて聞きました。元々デザイナーになりたくて、デザインの勉強のために東京に行きたかったってこともあるし、ジャケを書かせて貰えたのは嬉しかったです。

ユンボで壁を壊してステージに登場したい

 「今後の目標は?」と聞くと、「ワンマンを地元でやりたい!」と2人とも口を揃える。せのしすたぁのライブといえば「客席に降りてお客さんに囲まれて歌う」「『(まおが曲の間中ずっと)オレにケチャしろ』と客を煽りながら呟き続ける」など、破天荒なパフォーマンスが多い。衣装もシャツにネクタイ、パンツスタイルで、紙袋を被っていることもあり、アイドルとしては独特。さらにまおは「ユンボで壁を壊してステージに登場したい」という夢をTwitterでつぶやき語り続けている。 ゆうほ:まずは全国の都道府県を全部回ってライブがしたい。せのしすたぁは曲もいいけど、ライブもいいから。 まお:ライブは純粋にうちらが楽しんでるんです。うちらが楽しいから、お客さんがその「私たちのほんとの素のところ」を見て、一緒に楽しんでくれる。可愛くないってちょっと思っちゃうかもしれないけど、それでもきっと楽しいから、絶対ライブに来て欲しい。 ゆうほ:それで、まずは地元でワンマンライブをやることだよね。 まお:普通は地元から東京へ、だけど、私たちは東京から地元に逆輸入みたいな感じで。とにかくいろんな場所でいろんな人たちに聴いて貰いたいです!  取材の際に森永氏は「地元はほんとに狭い世界なので、例えばまおのイラストも『気持ち悪い』って言われて終わるんです。ゆうほに最初に会った時も『ほんとに友達がいない。イジメも受けてて』って言ってて。でも広いところに出れば『いい』って言ってくれる人に絶対出会えます 。この子たちにそういう気分を味あわせてあげたい」と、その活動の動機を語ってくれた。森永氏自身、過去にコンペやコンテストに曲を応募して落ち続け、「一生日の目を見ないだろうな」と思っていたところで、ネットを通じて曲を評価したファンが集まって来た、という経緯がある。だからこそ、実感を伴った言葉でメンバーにそう伝えられるのだろう。  残念ながら3月17日に「ゆうほが3月22日をもって喉の治療に専念するため、活動を休止すること(脱退ではない)」が発表された。せのしすたぁにとってはピンチの時。しかし「せのしすたぁ自体は新しい体制で活動を続けて行くこと」も宣言されている。これを読んだ人は是非CDを買ったり、ライウに行ったりして、応援して欲しい。  筆者としてはまおのサイコなイラストが好き過ぎるので、勝手にTシャツにして着てみようかと思っているところだ。

せのしすたぁ「恋キラキラ」MV

■せのしすたぁ 2010年に福井県のロコドル「瀬乃∞しすたぁ」として結成。命名の理由は「ファンから『せーの!』と呼んで欲しかったから」。この初期のメンバーは今は残っていない。2012年10月より、ゆうほ、まお、ゆまの3名で平仮名表記の「せのしすたぁ」として活動開始。2013年8月に『あまちゃん』の"リアルGMT"メンバーに選出される。同年10月に1stアルバム『I'm sick !!!』発売。同年末にゆまがグループを卒業、2名体制に。2014年3月22日をもってゆうほが喉の治療に専念するため活動を休止し、グループとしては近く新体制で出発することが発表された。クリエイティブオフィスSHOWCASE所属。 オフィシャルサイト http://senosister.com/ オフィシャルTwitter https://twitter.com/senosister_info ゆうほ 1995年8月16日生まれ。 まお 1995年4月14日生まれ。 Twiter ■岡島紳士(おかじま・しんし)Twitter 1980年生まれ。アイドル専門ライター。著書、共著に『グループアイドル進化論』、『AKB48最強考察』、『アイドル10年史』など。雑誌への寄稿も随時。埼玉県主催「メディア/アイドルミュージアム」アドバイザー。au公式サイトでアイドルコラム担当。会期中に行われた、全9回の番組&イベントMCも担当した。DVDマガジン『NICE IDOL (FAN) MUST PURE!!!』制作。現在は新シリーズ『IDOL NEWSING』を制作中。 http://nifmp.blog57.fc2.com/

ユーミンのメロディはなぜ美しく響くのか 現役ミュージシャンが“和音進行”を分析

20140321-yumin-thumb.jpg

松任谷由実40周年記念ベストアルバム 日本の恋と、ユーミンと。 (通常盤)

【リアルサウンドより】  東京を拠点に活動するバンド、トレモロイドのシンセサイザー・小林郁太氏が、人気ミュージシャンの楽曲がどのように作られているかを分析する当コラム。今回は1972年のデビュー以来数々の名曲を世に送り続け、昨年も宮崎駿監督作品『風立ちぬ』に「ひこうき雲」が主題歌として起用されるなど、日本のポップ史における「生ける伝説」と呼ぶべきシンガーソングライター、ユーミンこと松任谷由実の楽曲に迫る。(編集部) 参考1:aikoのメロディはなぜ心に残る? ミュージシャンが楽曲の“仕組み”をズバリ分析 参考2:サザン桑田佳祐の名曲はなぜ切ない? ミュージシャンが"歌う和音"と"シンコペーション"を分析 参考3:中田ヤスタカはいかにしてエレクトロとJPOPを融合したか “緻密な展開力”と“遊び心”を分析 参考4:モーニング娘。楽曲の進化史ーーメロディとリズムを自在に操る、つんく♂の作曲法を分析  作曲家には多かれ少なかれ、その人の型や癖があります。例えば以前このコラムで扱ったaikoさんや桑田佳祐さんの楽曲は誰が歌っても彼らの曲とわかるような特徴があります。そういう意味では、ユーミンの楽曲にはアクの強さはありません。しかしユーミンの繊細で情緒豊かな曲世界が「ユーミンにしかできない」オリジナリティを持っていることは確かです。それはどのようにして作られているのでしょうか?  彼女の楽曲の大きな特徴のひとつは、自然体のメロディが自然に美しく聞こえるための技巧的な和音進行です。スピッツやaiko、椎名林檎井上陽水などが参加した『Queen's Fellow』のようなトリビュートアルバムで、アレンジが変わっても歌い手が変わっても楽曲の美しさが変わらないことが、メロディと和音の関係、という曲の芯の完成度が高いことを表しています。「ルージュの伝言」「14番目の月」「中央フリーウェイ」「CHINESE SOUP」など、フォーマットがある程度はっきりしているような楽曲も、ただのジャンルミュージックではなく「ユーミンの曲」として聞こえるのも、彼女の作曲技術の高さの表れです。

「やさしさに包まれたなら」の音世界

 さっそくその実例を「やさしさに包まれたなら」で見てみましょう。まさにタイトル通りの感情を聴き手に与える、いわゆるエバーグリーンな名曲です。強い情緒に訴えることなく、しかし広がりのあるドラマチックな展開を持つこの曲には、ユーミンの圧倒的な作曲技術の要素がたくさん詰まっています。まず、和音進行について最初の一節「小さい頃は神さまがいて」を解説します。原曲はF#(ファのシャープ)でわかりにくいのでC(ド)に変えて書くと下のようになっています。 | C | D | Bm7 Em7 | Am7 | (| ド ミ ソ | レ ファ# ラ | シ レ ファ# ラ ミ ソ シ レ | ラ ド ミ ソ |)  この4小節に対して、ベタなポップスのコード進行をつけると以下のようになります。比べて弾いてみると如何にこの曲のコード進行が美しいかよくわかりますし、ベタな進行では繊細なメロディが活かせず、曲世界の広がりが全く出ないことがわかります。 *よくあるコード進行* | C | Dm7 | G | Am7 | (| ド ミ ソ | レ ファ ラ ド | ソ シ レ | ラ ド ミ ソ |)  鍵は2つ目のD(レファ#ラ)と、それに続くBm7(シレファ#ラ)です。2小節目のD(「小さいころは」の「ろは」)でフワッと伸びやかに歌が舞い上がる感覚になります。それ自体はよく使われる展開でもあるのですが、すごいのは3小節目のBm7(「神さまが」の「神」)で、コードだけで考えるとキーであるCの中では本来ものすごく違和感が出るはずなのですが、とても自然に聞こえます。これは前のコードのDの和音構成をほとんど変えずにベースだけB(シ)に移っているからです。このBm7は、前のコードDで、Cに対して全音上げて一気に展開を動かし、それに続く和音として今度はベースだけ動かすことに意味があります。コードの名前や単体の響きではなく、そのつながり方に意味がある好例です。「よくあるコード進行」の例のようにCにとって5度の関係にある安定的なG(ソシレ)にいくこともできますが、そうすると| C | D | G |というメジャーコードの3連続になり不自然に明るくなってしまいます。Bm7はマイナーコードになるので切なさや湿り気を与えています。  もう少し大きな視点で注目していただきたいこの曲のポイントを3点挙げます。「ピアノのアルペジオ」「ベースのリズム」「サビ」です。  アルペジオというのは、和音を「ジャーン」といっぺんに弾くのではなく、一音ずつ順番に弾く演奏のことです。いわゆるAメロでは、ピアノのアルペジオとベースで和音進行を担っています。この2つの楽器が一定のリズムで淡々と繰り返していることで、和音の繊細な響きの変化を美しく表現しています。  そしてそのまま耳をベースにフォーカスしてください。コードの中では音程を動かさずに「ドーンドドー」というリズムを繰り返していますが、ベースがこのリズムを破るときは必ずメロディアスに動きます。主旋律(この場合は歌)の合間を縫って裏メロディを入れることを「オカズ」「オブリガード」などと言いますが、この曲では淡々とした演奏とオブリガードのメリハリがはっきりしていて、和音進行が作り出す世界観の広がりを強力に後押ししています。ちなみにそれもそのはずで、弾いているのは「ベースの神様」細野晴臣さんです。  最後にサビについてです。「カーテンを開いて」から始まるセクションは、前のメロディからの転換という意味でのいわゆる「Bメロ」と、盛り上がるという意味でのいわゆる「サビ」が連続するような形です。マイナーコードから始まり2コードを繰り返す抑制的な前半部分から、「やさしさに」で一気に視界が開け、開放感に満ちた解決に至ります。2つの構成が1つのセクションになっていることで、それぞれが短く、テンポ良くドラマが進むこともこの曲の特徴です。  ジブリ映画『魔女の宅急便』のエンディング曲になっていることもあって、多くの人に馴染みのある「やさしさに包まれたなら」ですが、自然で伸びやかな美しさの裏にはこのような作曲技術が隠されています。

「中央フリーウェイ」

もう1曲、絶妙な和音進行の例として「中央フリーウェイ」についても簡単に解説します。「やさしさに包まれたなら」は、素直な響きのように聞こえるけれど実はメロディと和音の関係が絶妙、というタイプですが、「中央フリーウェイ」は、一聴した感じで既に何やらオシャレな都会的な雰囲気をコード進行自体に感じます。後期の「オシャレソウル」をフォーマットにしているので多少込み入った和音進行になっていますが、音楽史的に言うと、演歌的・情念的な感情表現が今以上に色濃かった日本のポップスシーンで、70年代にこれをやっている、というだけでも大きな意義があると思います。  実際に歌い出しからひと回し分のコードを見てみると | FM7 | F#dim D7 | Gm7 | Edim C7 | Fm7 | | Bbm7 | Bbm7onEb | AbM7 Gm7-5 | C7sus4 | (キーはAb) というようになっています。「やさしさに包まれたなら」と比べると字面だけでもややこしそうですが、紐解いてみると意外とシンプルなのです。いろいろと難しい記号がついているものの、2小節ごとに「ラド」「ソシb」「ラbド」と2音を1音階ずつ上げ下げして、基音(ベースが弾くことが多い)が移動しているだけ、と考えればそれほど複雑ではありません。例えば、2小節目で早速キーより半音高いF#のコードを弾くのは気持ちの悪い響きになります。ですから、1小節目で弾いたFM7のラとドを残してベースだけが移動しているように聴かせることで、調和感を保ったままきれいなベースラインをメロディアスに動かせるのです。その結果をコードの名前で書くとF#dimになるというだけで、ここでも重要なのは1音ごとの音のつながりです。

「転調」を多用しつつ、自然に感じさせる技術

 次のキーワードは「転調」です。よくポップスで、最後のサビだけ少し高くなることがありますね? あれです。『やさしさに包まれたなら』の解説ではキーをCにしてコードを書きましたが、実は「| C | D | Bm7 Em7 | Am7 |」という歌い出しの進行はCというよりGのように見えます。『中央フリーウェイ』も同様で、曲全体としてはAbと言えそうですが、1段目最後のFm7まではFに転調しています。そのようにユーミンは、セクションの中でよく部分転調をします。  重要なことは、実際に転調しているかどうかではなく、どのように聞こえるか、です。みなさんが意識していなくても、人の耳は実はなかなか正確に調(スケール)を判断しています。僕はこのコラムでも和音進行を解説する際に「安定的」「不安定」「6度」「1度」などという言葉を使っていますが、コードの響きというのは、それ単体での響きよりも、どのようなつながりか、そのスケールの中でどの位置を占めるものか、というような「関係性」によって印象が決まります。例えば「やさしさに包まれたなら」で言えば、Am7はCにとっては6度、Gにとっては2度で、どちらがキーかによってまったく響き方は変わります。ユーミンの楽曲の和音進行の繊細さを「調」という視点から見ると、「転調しているような、していないような」微妙な和音進行を織り交ぜることで、響きを繊細にしているのです。例に出した2曲のように出だしのコード進行が、響きは自然なまま非常に技巧的になっていることで、独特の繊細な音世界に聴き手を引き込みます。その時点で「勝負あった」という感じですね。  このように、ユーミンの和音進行には一音一音ごとに意図を持った、連続性が見られます。一方、いわゆるロックバンド的な音楽を「退屈」「ベタ」と感じる場合、ユーミンとは逆に、一音一音を分解して響きを捉えるのではなく、一般的なコード進行の枠の中で「コード」という部品として組み合わせるような「プラモデル工法」でコード進行が作られていることが多いです。それにはそれで、70年代のSex Pistolsによるパンクの登場、その後のダンスミュージック(ループミュージック)の台頭、によってコードが簡素化していったという必然性はあります。しかし、それに慣れてしまって和音の表現の微細さを追求していない、という反省を僕自身も含めて多くのミュージシャンが抱えています。平凡なポップソングが6色のペンキで描かれた絵だとすれば、ユーミンの楽曲は水彩画です。そこからは、奇をてらうためではなく、人が自然に気持ちよく聴くために技巧を凝らす、真の技術が見て取れるのではないでしょうか。 ■小林郁太 東京で活動するバンド、トレモロイドでictarzとしてシンセサイザーを担当。 ブログ トレモロイドHP Twitter

ジャニーズ初、サマソニ出演決定のTOKIO ロックバンドとしての「実力」は?

20140320-tokiozenin01-thumb.jpg

今回の発表で、長瀬智也は「短パン」の復活も期待されている。

【リアルサウンドより】  デビュー20周年を迎えたTOKIOが、8月16、17日に千葉と大阪で同時開催される「サマー・ソニック」と、7月19、20日に北海道岩見沢市で行われる「ジョイン・アライブ」に出演することを発表し、話題となっている。  ジャニーズのグループが夏のロックフェスに出演するのは初めて。産経スポーツによると、ボーカルの長瀬智也は「自分たちのバカらしさ、楽しさを忘れずにメチャクチャにやってやりたい」と、ベースの山口達也は「他のバンドと同じステージに立てるのは楽しみ。刺激がある」と、それぞれ意欲を明かしている。  アークティックモンキーズメガデスピクシーズといった海外の大物バンドも多数出演する今回のサマー・ソニック。TOKIOのバンドとしての側面に注目が集まりそうだが、実際のところその実力はいかほどなのだろうか。ポップミュージックへの造詣が深いライターの冬将軍氏は、次のように語る。 「TOKIOはバンドとしてのキャリアが長く、アイドルが流行りで楽器を持った、というようなレベルはとっくに越えていると思います。ドラムの松岡昌宏さんは安定感のあるドラムとして定評がありますし、特にボーカル・ギターの長瀬智也さんは、『ギター・マガジン』で機材を紹介されたことがあるほど、通好みなギタリストとして知られています。フェンダー、ギブソン、グレッチなどのヴィンテージギターを始め、高級ブランドであるPRSの年間に数本しか作られない“プライベートストック”と呼ばれる最上級モデルであったり、本当にギターが好きな人が選ぶような逸品を多数所有していて、マニアも唸らせるレベル。エリック・クラプトン本人のギターを手がけているフェンダーのマスタービルダー(最高峰の職人)に、個人オーダーしたという逸話もあるほどです。しかもそれらの楽器を観賞用ではなくライブなどでちゃんと使用しています。プレイ面でも、ギターを低く構えたりすることなく、思いっきりストラップを短くして弾いた りしているのが逆に“渋い”ですよね。テレビでその演奏を観るたび、『よく歌いながらこんなリフ弾けるな』と関心したものです。コブクロの小渕健太郎さんはヴィンテージギターショップを通じて長瀬さんと知り合い『こんなに上手いのか』と、その腕前を認めていました」  また、楽曲面でも面白いところがあると、同氏は続ける。 「TOKIOは2006年から大物アーティストとのコラボレーションにも力を入れていて、同年には中島みゆきが『宙船』を、2007年には甲斐よしひろが『ひかりのまち』と『ラン・フリー(スワン・ダンスを君と)』を、長渕剛が『青春 SEISYuN』を、それぞれ提供しました。ロックバンドに軸足を置きながらも、日本の歌謡曲的なアプローチにも意欲的に挑戦していて、それが彼らの演奏にある種の“熱さ”や“男臭さ”を付与していました。歌に重きをおいて、聴かせるところはしっかりと聴かせるスタイルは『ジャニーズだから』という色眼鏡抜きに、ひとつのバンドとして評価するに値するのではないでしょうか」  TOKIOにとっても大きな挑戦となる今回の試み。大物バンドが多数出演する中、彼らのプレイは果たしてどう受け止められるのだろうか。 (文=松下博夫)

テレビ出演は16年ぶり!  最終回直前『いいとも』に小沢健二がまさかの登場

20140319-ozawa.jpg

小沢健二-『我ら、時 通常版』(EMI Records Japan)

【リアルサウンドより】  3月31日の放送終了まで今日(3月19日)の回を含めて残り9回となった『笑っていいとも!』。いよいよラストスパートに入って、テレフォンショッキングのゲストもタモリと縁のある大物が目立ってきた。今日のゲストは同郷にして、親交の深い井上陽水。2人で恋愛にまつわる洒脱な会話を繰り広げた後、いつものようにタモリが「じゃあ、明日のゲストを紹介しましょう」と切り出す。デスク横のゲスト紹介のパネルに登場したのは、なんと、小沢健二! 「おぉ!」と驚きの声をあげるタモリ。対照的に、「あぁー」とちょっと薄めのリアクションの観客。井上陽水はいつものニヤニヤ顔。「もしもし、『笑っていいとも』です。小沢さんでいらっしゃいますか? タモリさんに代わります」といつも通りに淡々と仕事をこなす三田友梨佳アナ。いやいや、そこ、もっと緊張して声が震えるところだから!(と、26歳の三田アナに言っても仕方ないか……)  小沢健二、16年半ぶり、4度目の『笑っていいとも!』テレフォンショッキング出演である。ちなみに最後にテレビに出たのは、1997年の『知ってるつもり?!』の淡谷のり子特集のスタジオコメンテイターだったから、そこから数えても丸16年ぶり。これを事件と言わずになんと言おう。
20140319-ozawakenji02.jpg

3月20日の『笑っていいとも!』に出演する小沢健二

「小沢くん……」と感慨深そうに独り言を言いながら受話器を受け取ったタモリの第一声は「お久しぶりですね」。「お久しぶりです。今、楽しく見させていただいていました」とちょっと緊張気味の小沢健二。「いやっ、はぁー、お元気ですか? 今、アメリカでしょ?」と一応近年の小沢健二の消息を知っているらしいタモリに、「基本はアメリカで、あちこち、ほとんど16年くらい旅行しております」と小沢健二。「明日、大丈夫なんですか?」というタモリの問いかけに、「はい、是非うかがいます」。「お待ちしてます。よろしくお願いします」というタモリの二度目のフリにも、「はい」と一言。わざとなのか、単純に番組のお約束を忘れていたのか、最後まで小沢健二は「いいとも!」とは言わないのであった。  テレフォンショッキングでのタモリと小沢健二のやり取りと言えば、作家の樋口毅宏氏が2009年のデビュー作『さらば雑司ヶ谷』の中でその会話を引用し、後に執筆したベストセラー『タモリ論』のきっかけとなったことでも有名。最後の出演となった1997年9月5日の回も、ほぼ尺のすべてを使ってタモリの目の前で3曲(「指さえも」「大人になれば」「ラブリー」)を弾き語りするなど、数々の伝説を残してきた。  ちょうど今日3月19日は、レコード会社からリリースされる作品としては、アルバム『毎日の環境学』以来、8年ぶりとなる『我ら、時』(通常版)の発売日。2010年に突然の復活ツアー「ひふみよ」公演を開催し、その2年後に東京オペラシティで「東京の街が奏でる」公演を開催するなど、近年はレコード会社やメディアと距離を置いて、ほぼライブの現場だけで音楽活動を行っていた小沢健二。ここにきて突然メジャーのレコード会社から作品を再びリリースし、旧知のタモリの番組のフィナーレ直前に華を添えることにもなった小沢健二。はたして、これは本格的な音楽活動再開の前兆なのだろうか? 明日の『笑っていいとも!』は絶対に見逃せない! ■宇野維正 音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

Kis-My-Ft2、CDセールス20万枚超の背景 ジャニーズ若手における“実験”の場に

20140312-kisumai-thumb.jpg

Kis-My-Ft2 『光のシグナル』(avex trax)

【リアルサウンドより】 参考:2014年03月03日~2014年03月09日のCDシングル週間ランキング(2014年03月17日付)(ORICON STYLE)  今週の第1位はKis-My-Ft2 の『光のシグナル』。デビュー曲『Everybody Go』から10作連続の首位獲得は、同じくジャニーズのKinKi KidsNEWS、KAT-TUN、Hey!Say!JUMPに続く史上5組目の記録だ。『映画ドラえもん 新・のび太の大魔境 ~ペコと5人の探検隊~』主題歌という大きなタイアップもあり、20万枚を超えるセールスを実現した。  同シングルの「ドラえもんコラボ盤」では、『ドラえもん』タッチのアニメキャラになったキスマイのメンバー7人がジャケット写真に登場している。ミュージックビデオもドラえもん制作スタッフが7人の登場するアニメを描き下ろした。単なるテーマソングというだけでなく、かなりがっつりとタッグを組んだコラボが実現したわけだ。  ちなみに、この曲の作詞を担当したのは男女ツインヴォーカルの5人組ロックバンド・東京カランコロンのせんせい(Vo/Key)。前作シングル『SNOW DOMEの約束』ではトライセラトップスの和田唱が作詞を担当しており、ロックバンドのフロントマンを楽曲の作詞として起用する流れもすでにあるのだが、それでも抜擢と言えるだろう。  昨年12月には中居正広のプロデュースによるグループ内のユニット「舞祭組(ブサイク)」もデビューを果たしている。こういった試みも含めて、メジャーデビュー3年目を迎えたKis-My-Ft2というグループは、ジャニーズの中でも一つの「実験」の場になっている感もある。
20140228-atsuko.jpg

前田敦子『セブンスコード Type-A』(キングレコード)

 そして、注目したいのは4位の前田敦子のシングル『セブンスコード』。昨年末にロックフェス「COUNTDOWN JAPAN 13/14」に初登場した際に披露した曲だ。その時のレポート原稿にも書いたが(参考:前田敦子が凄腕バンドと共にCDJ登場! ロックフェスの客は彼女をどう受けとめたか)、実力派のミュージシャンを従えた編成で鳴らすこの曲は、普段彼女のライヴをあまり観る機会のないだろうフェスの客にも、好意的に受け止められていた。映画『Seventh Code』主題歌となったこの曲はいわゆる「ロック路線」の楽曲で、方向性はオーセンティックなアメリカンロック。4月にはZepp TokyoとZepp Nambaで単独ライヴも予定されており、女優業が本格化するなか、歌手としての方向性も徐々に定まってきているようだ。  一方、前週に初週売り上げ109.1枚となり1位を獲得したAKB48『前しか向かねえ』は、今週も6位を記録。こちらは先日に卒業を発表した大島優子の最後のセンター曲だ。こちらもいわゆる「ロック路線」なのだが、これはいわゆる「青春パンク」を彷彿とさせる曲調。メジャーコードのシンプルなコード進行にわかりやすいメロディ、8ビートのリズムにストレートなギターが配され、ブルーハーツ「リンダリンダ」やMONGOL800「小さな恋のうた」の系譜に連なるような楽曲になっている。  同じタイミングで発売された2曲を聴き比べると、同じ8ビートのロックチューンでもかなりテイストの違いが見て取れる。アレンジやミックスの方向性も異なっている。端的に言えば、前田敦子『セブンスコード』のほうが“大人”なイメージ。バックの演奏にも聴かせどころのある「本格派」のテイストだ。ただ、前田敦子の新作のセールスは前作シングル『タイムマシンなんていらない』より約2万枚少なくなっている。代表曲となるべきシングルでのセールスの低下は気になる点でもある。  本体もさることながら、初期を支えた人気メンバーが次々と卒業し、その後のキャリアを成功させられるかどうかにも注目が集まるAKB48。少なくとも、今年の前田敦子、大島優子の活動はその試金石となると言っても過言ではないだろう。 ■柴 那典 1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter