
「色んな人を常にいい意味で“裏切りたい”」(成田)
――昨年は『演出家出演』のリリースとワンマンツアーの成功があり、大きく飛躍した1年だと思います。今作『幕の内ISM』はテンポの速い楽曲もありつつ、しっとり聴かせる楽曲があり、パスピエの全体像がはっきりと見えるバラエティに富んだアルバムになっています。現在のシーンではライブに力を入れるバンドが多いなかで、パスピエは音源にも力を入れている印象ですが、ご自身ではバンドの立ち位置をどう捉えていますか? 大胡田:そうですね……どっちとも言いづらいところがありますけど。同世代のライブ寄りなバンドのなかで、カルチャー寄りバンドなのではないかなと思ってます。 ――前作はそのカルチャー寄りの立場から、意図的にバンドシーンにぶつけるアルバムを作ったわけですよね? 客層も大きく変わりましたし。 成田:自分たちの物差しとして、ライブに来てくれるお客さんを直で見ることでしか測れないのですが、そこに来てくれる人たちの層は大きく変わった気はしますね。意図的に肉体的なアルバムを作ったことに関しては…音楽って様々なものがあって自由でいいはずなんですけど、バンドっていう括りで出ていくときに、「そういう限られた場所で戦っていかないといけないんだな」って感じていて。「だったらそのシーンに対抗出来る音楽をやらないと」と思ったんですよね。 ――近年だとそのシーンから“抜け出す”という表現も多くなってきていますね。 成田:僕の場合は、シーンに入るどうこうよりも、流れの中で作ったという感じですね。これまでのアルバムとしてライブに向けたものであったり、音楽の密度に向けたアルバムがあって、今回は自分たちが持っているものを多く見せることができるバランスの良いアルバムとして、『幕の内ISM』が完成しました。お客さんから見て、第一印象が大事だというのも分かるし、そのためにフックの強い曲が重要だっていうのも理解できるんですけど、対人関係にも例えられるように、その時々によって会った相手の印象って変わるじゃないですか。僕はバンドとしてそうあった方が楽しいなって思うんです。だから、自分の方でスイッチを変えるということよりも、自分たちが「ライブに向けて音楽を作りたい」という欲求だったからそう作った。今回はこういう欲求だったから『幕の内ISM』が出来たっていう、流れの中のことではあるんですけどね。 ――その流れの中で今後こうなっていきたいという理想などはあるのでしょうか? 大胡田:音楽だけではなく、私が絵を描いているからというのもあるのかもしれないですけど、絵とか映像とか、いろんな面から見てもらえるようなバンドになりたいかもしれないです。カルチャーの内の一つとして「パスピエ」というジャンルがあるみたいな。 成田:僕は自由にやったことがこれからも認めてもらえればいいなって。今までも自由に作っていて、結果的にこうして少しずつお客さんが増えたり、知ってくれる人が増えたりしているので。 あと、色んな人を常にいい意味で“裏切りたい”って考えていて。今って何でもカテゴライズされやすい状況だと思うんですが、僕はそれが決して悪いことじゃないと考えています。情報がありすぎるが故に、カテゴライズしないと吸収できないんじゃないかと思うので。パスピエがこれまでやってきたことって、何かにカテゴライズされたときに「じゃあその逆を行こう」っていうスタンスでいつも進んできたんです。『ONOMIMONO』の段階で「こういう知的なバンドなのかな」と見て頂いた方が多かったので、「じゃあフィジカルの方に向けてみよう」と思って『演出家出演』を作ったりとか。そうするとライブもだんだんフィジカルなお客さんが増えてきたので、「じゃあまた改めて知的に見せてみようか」と、常に逆に展開しているんです。 物をカテゴライズするのは、情報を吸収するうえですごく有効な手段だと思うんですけど、同時にやっぱり先入観も植え付けてしまうものだと感じるので。それはやっぱり、自分たちが音楽を発信し続けていく上で、どんどん出口が狭くなってしまうことですから…。5年後、10年後にも自由にやっていく布石を打っているというか。そういう風にやっていくのが音楽をする上で一番健康的かなという意識で活動しています。 ――自由とはいえ、前作の逆を行くという制約を付けたことで苦労したことはありますか? 成田:微調整というか、「ここはこうだったらな~」という風にブラッシュアップしたことはありますけど、作るのが苦しかったらやってないと思うんですよね(笑)。でも、歌入れをしていて大胡田のボーカルが映えなかったり、「パスピエらしくないな」と思ったらバッサリ切り捨てていきますね。 ――多面的な中にもある程度の基準があるわけですね。ではお二人が「これはパスピエらしくない」と思う瞬間を教えてください。 成田:僕の場合は、メンバーが演奏している画が見えないときですかね。過去にカバーさせてもらってる楽曲も含めて「パスピエのやってる音楽」と想像できるか否かが基準です。 大胡田:私は…よくわかんないなあ(笑)。5人で何かしていればすべてパスピエだとゆるーく思っているので。 ――逆に成田さんは「パスピエらしさ」って何だと思われますか? 成田:「既存の持っているイメージに付加価値として違和感が付いたもの」がパスピエかなと。僕らが作っている音楽や絵って、全く見たことがない景色ではないと思っているんですよ。みんな、何かしらからインスパイアを受けたものを出しているわけだし。これまで見たり聞いたりした要素ですけど、僕らがやることによって、既存のものにプラスアルファの違和感が乗っているという感覚がパスピエなのではないかと思います。 ――違和感といえば、昨年からライブでの共演相手が大胡田さんの言う「カルチャー寄り」ではないバンドになっていることが増えてると思うんですが、そのライブパフォーマンスに影響を受けて、パスピエのライブで変化したことなどはありますか? 成田:少しずつ「このバンドのこういう部分は出来るかもね」っていうのは、話が上がったらやってみようと思うんですけど…。ただ、やっぱりそのアクションはそのバンドがパフォーマンスしてるからカッコいいというのはあるので。でも、色んなバンドマンと話して感じたのは、あくまでも「このバンドのライブの感じってこうだよな」っていうのは、リスナー側が思っていることなのだと。お客さんに対して「こういうアクションをしてほしい」という意味ではなく、演者側が見ようとしている景色って、どういうジャンルでも意外とみんな一緒なのかなと感じました。それをお客さんが「こういうバンドだ」って認識付けをして自分なりの楽しみ方をするのが健全なのかもしれないですね。「みんな、ニュースを出し続けたり、音楽を演奏するだけではない工夫をしている」(大胡田)
――ワンマンツアーを行って、多くのファンから反応があったと思うのですが、その反応は、お二人にとって予想の範疇内でしたか? 成田:僕はステージの上から見ていて壮観でしたね。多くの人が見てくれればくれるほど、その人の数だけ感情があると思うんですよ。それがちゃんとエネルギーになってステージに返ってきている構図というか。それを見ていて期待以上のものがあったと感じました。 大胡田:私は、こういう関係性っていうのがあるんだなと思って。人と人、私と彼ら(観客)みたいな。お友達でも家族でも親戚でもないんですけど、パスピエっていう音楽で確かにつながっているって感じて……嬉しかったですね。みんながこっちを見て、歌ってくれてて。昔DVDで色んなアーティストのライブを見ていて「一緒に歌ってもらうのとかいいな!」って思っていたので(笑)。 ――今のライブシーンは、観客とアーティストの繋がりを重視しているような感じですよね。 成田:リスナー・お客さんの発信欲求が高いなって感じていて。例えば僕らが出した音楽に対して「こういうアクションを起こしたい」っていうのが伝わってくる。僕らは、お客さんが曲に合わせてハンドクラップをしてくれていて、そこに対して煽ることはあるんですけど、こっちから「ここはハンドクラップをやろうぜ!」っていう提示は一切してなくて。でも、お客さん一人一人の中で答えを出してアクションになっているというか。そこに凄くエネルギーがあるなって感じていて。「自分も一緒にライブを作っている感覚」があるのかなって考えています。ただ、発信源となっているのは僕らなので、もっと色々なアクションを起こさせる音楽をこれからしていこうかなって。今回の『幕の内ISM』にもそういう仕掛けは取り入れているつもりです。 ――極端に言えば、前作からパスピエを知ったリスナーが、初めて聴いてどうリアクションを取っていいかわからないような? 成田:そうですね。例えば1曲目の「YES/NO」とか。四つ打ちなんですけどサビでテンポをガッと落としたりしているので。僕らもリスナーや来てくれるお客さんの反応を見て、次の作品への欲求に繋がったりしているので、今回こういう提示をして、見せてくれた反応が次のことにもつながっていくと思っています。ほんと、日本のお客さんの知能指数ってすごく高いと思うんですよね。だからこそ変拍子のバンドにも余裕で付いてくるし。 そこに対して、お客さんが今まで感じたことのないような音楽や体験を、僕らや他のバンドが見せていけたら面白いのかなと思うんですけど。ただ、スタンスとしては乗っかってしまうのはいけないなと。自分たちのやりたいことが見つかって、そこに定住してしまうのが一番怖いなと思うので、常に新鮮さを求めていきたいなというのはありますね。 ――では、「スタンスとして乗っかってはいけない」と成田さんが考える現在のシーンは? 成田:僕は音楽に限らず、ここ5年くらいは「言ったもの勝ち感」があると思うんですよね。なんか結局それが認められれば正解というか、勝ったもの勝ちというか。情報を受ける側の人たちも発信欲求が強いし、発信をしたうえで同じ目的を持つ人同士で固まるイメージを僕は持っていて。物事を細分化して、大きくなっていったものが正解みたいな。 フェスとかもまさにそうだと思っているんですけど、主催のイベンターやバンドが、「こういうバンドと共演したい」と考えて規模を大きくしていく場合もあれば、規模を拡大せずに、同じコミュニティでずっとやっていく場合もあるので。だから、何を音楽で投下したとしても、驚きにならないのかもしれないなって今のシーンに関しては思いますね。 変な話、ノイズミュージックを主体とした若手バンドがメインのシーンに出てきたとしても、ジャンルだけで引き寄せられることはないと思うんですよ。「何々と何々が融合した音楽」とかも同じように。リスナーは自分のコミュニティの中に引っかかるものであれば聴こうとするし、そうじゃなかったら反応しないのかなと。かつ、その人にとって「好きで聴いている音楽」と「ライブ」っていう観点のコミュニティがそれぞれ別にあると思っているんです。「CDは聴かなくてもフェスでよく見るし好き」っていう人は多いでしょうし…。その中において、最初にそのコミュニティの中で発信したものや、規模が拡大していって勝ったものが「正解」の指標になりつつある気がするので、そういった意味でも言ったもの勝ちかなと。 ――パスピエとしてはその中で、「自分たちのコミュニティ」を作って勝っていきたい? それとも多面性を見せながら、色んなコミュニティにアプローチを仕掛けていきたい? 成田:その両方かもしれません。音楽をやっている以上は色んな人と繋がってみたいというのはあるので、パスピエらしさは保ちつつ、それこそライブシーンに向けてアクションを取ってみたり、今回のアルバムを作ってみたりするわけです。でも、パスピエのことを好きでいてくれる人は絶対裏切らないような作品やライブにするつもりです。 大胡田:私は、みんな工夫して常に進んでいるなって思いますね。今、フェスもたくさんあるし、「この人もこの人もいいな」ってなるわけじゃないですか。だから、飽きられないために、というかずっと好きでいてもらうために、歌うだけではなくて、「色々なことをしますよ」ってニュースを出し続けるとか。音楽を演奏するだけではない工夫をしているのかなって。「一歩踏み出したら、ずっと進んで行かなきゃいけないんだな」って思っています。 (後編に続く) (取材・文=中村拓海)
パスピエ『幕の内ISM』(ワーナーミュージック・ジャパン)












