赤西仁、自主レーベルからの新曲は約4万枚売上げ 芸能界復活への足がかりとなるか 

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赤西仁『Good Time (初回限定盤A)(DVD付) 』

【リアルサウンドより】 参考:2014年08月04日~2014年08月10日のCDシングル週間ランキング(2014年08月18日付)  関ジャニ∞の、エイトレンジャー名義でのセカンドシングルが一位。ファンはもちろんご存じだと思うが、これは同名の映画と連動した作品。今回は映画の続編が公開されることになったので、それに合わせたリリースとなった。  ちなみに2012年に発売された1枚目は初週で33万枚を売り上げて、これは年間シングルベスト20に入り、この年に嵐に次ぐ好成績を収めたジャニーズ系のシングルとなった。もちろん、関ジャニ∞のシングルとしてもこの年一番のヒット作だ。それに比べると、初週20万枚という今回は、イマイチ伸びてないということになるだろう。原因はいろいろ考えられて、映画もまあ続編だから注目度が低いのかもしれないし、関ジャニ∞名義でのシングルが7月にリリースされたばかりだからプロモーションやファンの購買意欲が分散されたというのもあるだろう。しかし枚数で見ると7月の『オモイダマ』も初週16万枚だったわけで、今年2月に初週35万枚を記録した『キング オブ 男!』に比べると落ち込みを感じさせる。地力のあるグループなので危なげではないが、この数字的な落ち込みが目立ってしまわないようにしていきたいところ。  2位は赤西仁。ジャニーズを離れ、ワーナーも離れて、自身によるインディーズレーベルからリリースされた1枚目が4万枚弱という数字が多いか少ないかは評価の分かれるところだろう。ちなみに4万枚弱という数字は何か見覚えがあったのだが、これは今年2月にリリースされた、ex.ファンキーモンキーベイビーズのファンキー加藤のファーストソロシングルとちょっと似た数字ではないか。いや、だからダメだというのではない。むしろインディーズで対等の数字を出したのだから、これはすごいのではないか。この結果をうまく利用してアーティスティックな実力派というキャラをなるべく短期で世間に印象づけることができれば、ジャニーズを去ったタレントとして芸能界で一定の地位を築いていけるかもしれないと思う。  5位のSTYLE FIVEは『涼宮ハルヒ』シリーズなどで名を馳せた京都アニメーションによる女子向けアニメ最終兵器『Free!』の第2シリーズ主題歌。3万枚はなかなかの数字だが、昨今のアニメものといえばやっぱり『ラブライブ』のμ'sが2月にリリースしてデイリー1位も獲得した『タカラモノズ/Paradise Live』が超ロングヒットを続けて10万枚に手が届きかけていることで、それに比べればおとなしい印象。アニメ関係のCDはアイドルを筆頭とする3次元ものと違ってまだ複数アイテムやイベント参加券の封入に及び腰で、なかなか初動に目立った動きが期待できない。μ'sなどはDVDやBlu-ray販売のほうで3次元アイドル並みのイベント参加券商法をやって大成功させているので、CDのほうでも似たような動きが増えれば売り上げ的には面白くなるのだが。  あとトップ10で気になるのは9位のゲスの極み乙女。だろうか。メジャーリリースとしては4ヶ月振りの2作目で、そこそこペースが早いながらも前作のミニアルバムを初動でわずかに上回った。リリース戦略的にはようやく軌道に乗せ始めたばかりのバンドではあるが、今後の伸びに期待したい。 ■さやわか ライター、物語評論家。『クイック・ジャパン』『ユリイカ』などで執筆。『朝日新聞』『ゲームラボ』などで連載中。単著に『僕たちのゲーム史』『AKB商法とは何だったのか』『一〇年代文化論』がある。Twitter

磯部涼×中矢俊一郎 対談新連載「グローバルな音楽と、日本的パイセン文化はどう交わるか?」

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磯部涼×九龍ジョー『遊びつかれた朝に--10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』(Pヴァイン)

【リアルサウンドより】  クラブと風営法の問題をテーマにした書籍『踊ってはいけない国』シリーズなどで知られる磯部涼氏と、細野晴臣が世界各地で出会った音楽について綴った『HOSONO百景』の編者である中矢俊一郎氏が、音楽シーンの“今”について独自の切り口で語らう新連載「時事オト通信」。第1回目のテーマは“日本のヒップホップ文化”について。アンダーグラウンドシーンにおけるハスラー・ラップのあり方とその変化から、メジャーシーンにクラブ・ミュージックを広く浸透させたEXILE・HIROの戦略まで、日本的な“パイセン文化”という視点を軸に語り合った。(編集部)

日本のヒップホップとヤンキー文化

中矢:2000年代、日本のアンダーグラウンドなヒップホップのシーンではいわゆるハスラー・ラップが流行り、ドラッグ・ディールをはじめとした裏稼業や下層社会の厳しい生活環境をリアルな日常として歌うラッパーたちが目立ちましたよね。SEEDA、NORIKIYO、D.Oなどが該当するかと思いますが、ハスラー・ラップに括られることもあったANARCHYは最近、エイベックスからメジャー・デビュー・アルバム『NEW YANKEE』を出しました。低所得者が多い京都・向島のマンモス団地で育った彼は、これまで過酷な生い立ちをリリックにすることが多かったですが、今回の作品にはひらすらアッパーで派手なサウンドのパーティ・ソングから、ポリティカルなメッセージが込められた曲、切ない気持ちを歌ったラヴソングまである。オーバーグラウンドで挑戦するにあたって、間口を広げたように感じました。 磯部:MS Cru(後のMSC)の『帝都崩壊』(2002年)を皮切りとして、ANARCHYの『ROB THE WORLD』とSEEDAの『花と雨』(共に2006年)が最初のピークとなった日本版ハスラー・ラップの流れは、それまで、「経済的に豊かで治安も良い日本において、ハードコアなラップ・ミュージックにはリアリティがない」と散々言われてきたところに、「いや、問題が不過視化されているだけで、日本もひと皮向けば荒廃しているんだ」というシンプルなメッセージを突き付けたわけだけど、それは、2000年代半ばに表面化したいわゆる格差社会問題ともリンクしていたように思う。ただし、ハスラー・ラップはその名の通りドラッグ・ディールのような日本ではタブーとされているトピックも扱っていたため、世間一般にまで広がることはなかった。2009年2月、D.Oが麻薬取締法違反容疑で逮捕され、1週間後に出るはずだったメジャー・デビュー・アルバム『JUST BALLIN' NOW』が発売中止になってしまった事件が象徴するようにね。同アルバムは、ザ・ブルーハーツをサンプリングした「イラナイモノガオオスギル」や、学校に馴染めなかった少年時代を歌った「LIL’ RAMPAGE」、中川家・剛に貧乏から成り上がった経緯をラップさせた「Play Da Game」みたいな楽曲を収録していて、想定リスナーをいわゆるアウトローだけではなく、ちょっと不良っぽいぐらいの少年少女にまで広げた良い意味でポップな作品だったから残念だったな。そして、ANARCHYの『NEW YANKEE』もまた、『JUST BALLIN' NOW』を踏まえたような野心的な作品だと感じた。マーケティング・アナリストの原田曜平が提唱した“マイルド・ヤンキー”というラベリングは上から目線が反感を呼んでいたけど、ANARCHYはリスナーを“ニュー・ヤンキー”と呼んで仲間目線で肯定している。 中矢:先日、ANARCHY本人にインタビューをしたのですが、これまでとは違うリスナーを獲得しようという意識はあるみたいですね。たとえばヒップホップを聴き始めた不良っぽい中高生が、仲間や女の子との馬鹿騒ぎを歌った「Energy Drink」や「Shake Dat Ass」といった曲を聴いて「調子イイじゃん!」と思い、今回のアルバムからファンになることもあるのかなと。あと、その名も「Love Song」という曲は、女子高生にも届くように書いたと言っていました。どこまで戦略的なのかはわからないけれど、実際、情景描写が極端に少ない、シンプルな恋愛感情で構成されたリリックで、それは現在のJ-POPの歌詞にも通じるように思いましたね。 磯部:ただ、ANARCHYのもともとのファンって、彼の育った過酷な環境を背景としたヒリヒリするようなリリシズムに引かれていたひとが多いはずで、だからこそ、『NEW YANKEE』の初回特典を自叙伝『痛みの作文』の文庫版にしたり、向島団地のシーンが多いドキュメンタリー『DANCHI NO YUME』が同時公開されたんでしょう。そういうひとたちがアルバムの前半に置かれたパーティ・ソングに引いちゃわないかなとは思った。もちろん、オープニングの「The Theme」なんかには「現実が酷いからこそ、パーティを楽しもう」みたいなメッセージが込められているわけだけど、アルバムを通していちばん印象に残る“ヒリヒリするようなリリシズム”が「Moon Child」でフィーチャリングされているKOHHのヴァースっていうのも……。最近、KOHHは得意のチャラくてバカっぽいラップを封印したシリアスなアルバム『MONOCHROME』をリリースしたけど、お株を奪われている感じはしたな。  それに、件のパーティ・ソング群のつくりは、ANARCHYが新しいリスナーとして想定しているような普通の不良の子たちにとってはエッジー過ぎるんじゃないかと。まぁ、彼の言う“ヤンキー”に、“マイルド”の真逆と言ってもいい“ニュー”という形容詞がかかっているのは、「不良こそ最新の音楽を聴いて、格好付けて欲しい」という願いもあるんだろうけど……果たして、それは、“マイルド・ヤンキー”が好むとされる、EXILEの“マイルド”化されたポップ・ミュージックを凌駕することが出来るだろうか。 中矢:なるほど。KOHHとかKUTS DA COYOTEとか、ああいうチャラくておバカなラップを実践しようとしている人は日本にも出てきているけど、それを受容する層はまだ限られていると。対して、EXILEは独自のドメスティックな文化を形成しているともいえるか……。 磯部:『NEW YANKEE』の前半パート含め、彼らの一見、チャラかったりバカっぽかったりするラップは、実はラップ・ミュージックやベース・ミュージックのモードを意識したスノッブな表現だから、EXILEを聴いているようなリスナーにはハードルが高いんじゃないかな。そういう意味で同アルバムは“グローカル・ビーツ”(吉本秀純と大石始が監修した著作のタイトルより/音楽出版社、2011年)としても興味深いというか、グローバルな音楽や価値観を、日本向けにどうローカライズするかという問題を考える上でも興味深いと思った。  その点、EXILEの新曲「NEW HORIZON」のローカライズの仕方も面白くて、あのMVってやたら壮大だけど、単に、新しいメンバーが古いメンバーと合流してHIROの楽屋に挨拶しに行くっていう話でしょう? そういう如何にも日本的なパイセン文化がアフロ・フューチャリズム的な壮大な世界観の中で描かれている。

EXILE / NEW HORIZON

 あるいは、ANARCHYが少年院のテレビでその姿を観て、本格的にラップをしようと思ったっていうZEEBRAもラップ・ミュージックのグローバライズとローカライズのバランスには極めて意識的なひと。「Greatful Days」(DRAGON ASH feat.ACO, ZEEBRA、99年)の「俺は東京生まれHIP HOP育ち 悪そうな奴は大体友達」は恐らく日本語ラップでいちばん有名なラインで、そこでも“ニガ”なノリが“DQN”なノリに、見事に翻訳されている。ちなみに、個人的に好きなのは「MR.DYNAMITE」(00年)で自分のリスナーを定義していく3ヴァース目に出てくる「バスじゃモロ最後部な奴ら」というライン。いわゆるゼロ年代批評では「学校を拡張したものが社会である」みたいな語り口が流行ったらしいけど、ZEEBRAはそれにも先駆けていたし、“NEW YANKEE”っていう定義より明快だよね。 中矢:パイセン文化といえば、漢が率いるMSCは同じ地元・新宿の先輩が社長を務めるLibra Recordsから名作を発表してきましたけど、漢は2012年に独立し、この6月にはDOMMUNEでLibra社長のパワハラとギャラ未払いなどがあったことを告発しましたよね(参考:MC漢ら、レーベル始動会見でBEEF宣言も 宇川直宏「ミュージックビジネスに風穴開ける動き」)。2000年代、地元の仲間とともにヒップホップでカネを稼ぎ、成り上がるというヴィジョンを描くラッパーは他にもいましたけど……。 磯部:あれはあれで今っぽいんじゃないかな。工藤明夫の『いびつな絆』(宝島社、2013年)や瓜田純士の『遺書』(太田出版、2014年)みたいな話題の不良本で描かれていた最近の不良のスタイルも、地元の上下関係より同世代の横の繋がりを重視して、パイセンだろうが気に食わなかったらガンガン捲くっていくっていうものだったし。地域共同体が弱体化すると、当然、そうなるよね。あと、漢は新しくつくったレーベル<9sari group>のオフィスをDARTHREIDERとシェアしているというのも興味深い。漢は、日本においてアウトローな表現が受容されるのには限界があると分かっているからこそ、彼とは真逆のクリーンでインテリジェントなイメージを持っているDARTHREIDERをパートナーに選んだようなところもあるんじゃないかな。それと、オフィス周りの地域住民の警戒心を解くためにカレー・パーティを催していたのも良い話だった。

鎖カレー会映像

中矢:9SARI OFFICEがYouTubeにアップしている「9SARI HEAD LlINE 番外編」というイメージ映像(https://www.youtube.com/watch?v=VYWGPUpjU3o)があるんですけど、ギャングどうしの銃撃戦をパロディ化し、D.Oをはじめ2人が主宰するレーベルに所属するラッパーらが水鉄砲で撃ち合うという動画なんです。これまで漢やD.Oにはアウトロー的なイメージがありましたが、それを逆手に取りながらおどける彼らの様子が可笑しいですね。ただ、EXILEの場合、ベースにはこうしたラッパーたちと同じヤンキー文化があるかもしれないものの、ドラッグとかセックスとかダーティで下品なイメージは一切排除していますよね。 磯部:EXILEが話している映像を観ていても、丁寧な言葉で当たり障りのないことしか言わないから、耳を素通りしちゃうんだよね。ただ、とにかく、「HIROさんを尊敬している」っていうことだけは伝わってくるんだけど、あれもまた極端に日本社会化された“Swag(スワッグ)”なのかもしれない。スワッグはUSのラップ・ミュージックで数年前に流行った言葉で、ざっくり言うと、「その人にしかないフッションだったり立ち振る舞いだったりのスタイルを持っている」みたいなことになるのかな。でも、日本では、ファッション・ブランドの<Swagger>が倒産したのは関係ないとして、板野友美が『SxWxAxG』ってアルバムを出してAKB48時代のファンが離れていったり、それまでスワッグを体現していたKOHHが「Fuck Swag」って曲で「結局見た目より中身」って急に生真面目なことを歌い出したり、“スワッグ”という価値観に対する抵抗感が表面化しつつある。それってやっぱり、アイドルでもラップでも、日本では単なる“出る杭”では駄目で、“全体を支えるための杭”こそが評価されるっていうことなのかもしれない。EXILEの「NEW HORIZON」のMVにはソロ・ダンスでスワッグしてみせるシーンがあるけど、彼らEXILEメンバーが実践している「HIROさんを頂点としたEXILE TRIBEにしっかりと貢献した上で目立つ」というのは実に日本的な“スワッグ”なんじゃないかなって。 中矢:しかも、その教育がすごく徹底されている印象があって、それはE-girlsなんかにも踏襲されている気がしますね。先ほど、ZEEBRAがスノッブな輸入文化だったヒップホップを日本のヤンキー層にも浸透させた話が出ましたけど、EXILEもそういったことに自覚的なんですかね? 磯部:『サイゾー』のEXILE特集で、ライターの西森路代氏が「サマンサタバサと連動した『Diamond Only』のMVでメンバー全員が同ブランドのバッグを掛ける姿が象徴するように、E-Girlsはいわゆる“量産型女子大生”のロールモデル」と言っていたけど、それは必ずしも無個性という意味ではなくて、ルールを守った中で個性を出す日本式“スワッグ”なんだと思う。その点、E-girlsは「LDHからK-POPへの回答」だなんてよく言われるものの、USから直輸入した韓国式スワッグともまた違うんじゃないかな。

E-girls / Diamond Only (Music Video)

 そして、HIROはそのようなローカライズに極めて意識的だと思う。彼はディスコの店員からZOOになった、いわゆる芸能界というよりはちゃんと日本のダンス・カルチャーを出自に持つひとで、ZOOを脱退したCRAZY-Aが関わっていった日本のラップ・ミュージック・シーンと、HIROがつくり上げたEXILE TRIBEは兄弟みたいなものだとも言える。前者はグローバライズにこだわり続けているひとが多いからこそ大きくならなかったし、後者はダサいと言われようがローカライズを厭わなかったからこそ大きくなったんじゃないかな。もしくは、HIROは出自であるはずのクラブを、現在、何処か遠ざけているようなところがあるように思えるけど、それは、今の日本では風営法の影響もあってクラブのイメージが悪いからで、だからこそ、彼はダンススクールとショッピングモールとコンサートホールを“現場”に選んでいる。 中矢:西森さんにも磯部さんにもご協力いただいたE-girlsの記事では、山形県に住んでいる小学4年生の女の子に取材したんです。その子は幼稚園の頃にEXILEにあこがれてダンスを始め、今はE-girlsの“制服ダンス”(ミュージック・ビデオの前半部分で制服姿のメンバーが繰り広げるダンス・パフォーマンス)のDVDを母親にダンス・スクールまで送ってもらう車の中でよく見ていると言っていたんですけど、東北地方にはまだEXPG(LDHが運営するダンス・スクール)がないらしくて。で、母親に「もし仙台あたりにEXPGができたら?」と訊いたら、「すぐに娘を通わせます!」と言っていました。要するに、親子がターゲットになっているんですね。 磯部:きゃりーぱみゅぱみゅの武道館公演も親子連れが多かったことが印象的だったけど、EXILE然り、AKB48然り、人口が現象している日本で売り上げを延ばそうと思ったら、当然、親子をターゲットにするよね。しかも、EXPGの優秀な子はEXILEのステージに上げてもらえるわけでしょう。そんなことになったら、おじいちゃんおばあちゃんや親戚もチケットを買う。それに、HIROさんの目が行き届いているから、子供を預けるのも安心と。ジャニーズやハロプロやAKBにははみ出してしまうスワッグな奴らがいるけど、EXILEからはまだ決定的なやつが出てきていないのは、管理がしっかりしている証拠。  あと、EXILEとスワッグと言えば、LDHにはDOBERMAN INCというラップ・グループが所属していて、彼らは2000年代初頭のインディ・デビュー時、いまで言うスワッグに先駆けることをやっていたんだけど、LDHに所属して以降はどうも飼い殺しにされているように思えてしまって。それが、今回、DOBERMAN INFINITYとして再始動するっていうから、果たしてHIROがどんな落としどころを考えたのか、ちょっと楽しみだな。 (後編へ続く) (構成=編集部) ■磯部 涼(いそべ・りょう) 音楽ライター。78年生まれ。編著に風営法とクラブの問題を扱った『踊ってはいけない国、日本』『踊ってはいけない国で、踊り続けるために』(共に河出書房新社)がある。4月25日に九龍ジョーとの共著『遊びつかれた朝に――10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』(Pヴァイン)を刊行。 ■中矢俊一郎(なかや・しゅんいちろう) 1982年、名古屋生まれ。「スタジオ・ボイス」編集部を経て、現在はフリーの編集者/ライターとして「TRANSIT」「サイゾー」などの媒体で暗躍。音楽のみならず、ポップ・カルチャー、ユース・カルチャー全般を取材対象としています。編著『HOSONO百景』(細野晴臣著/河出書房新社)が発売中。余談ですが、ミツメというバンドに実弟がいます。

特典ゼロ、10円着うた、パロディ動画……金爆の巧みなプロモーション戦略とは?

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『情熱大陸×鬼龍院翔』

【リアルサウンドより】  8月20日にリリースされるゴールデンボンバー(以下金爆)のニューシングル『ローラの傷だらけ』は、ストーカー的ともいえる一方的な愛情を王道のヴィジュアル系サウンドに乗せたロックチューンだ。 また、CDのジャケットにはメンバーの写真は無く、タイトルとバンド名のクレジットのみのシンプルなものとなっており、値段は461(白い)円+税とダジャレになっているのが彼ららしい。  CD発売に先駆けて、本作のPVも所属レーベルのYouTubeチャンネル「zanyzapofficial」にて公開され、すでに20万再生以上を記録している。

「ゴールデンボンバー/ローラの傷だらけ Full size(音声モノラル64kbps)」

 そして、今回のCDでPVやジャケット以上に話題を集めているのは、握手券やDVD、写真などの販促特典を一切付けず、当然初回盤や通常盤といった「複数売り」も無しという「特典ゼロ」展開だ。 リーダーである鬼龍院翔(ボーカル)は自身のブログ(6月27日)にこのリリースに至った理由を「CDを売るためにやっていることが『何かズルをしている』と捉えられてしまうことが多い。変な話だが、これで他のアーティストも“特典”を付けやすくなるんじゃないかな」と語り、売上枚数の予想(前回のシングルの3分の1である約3万枚)までしている。この発言はネットニュースにも多数取り上げられ、物議を醸し出した。

金爆のプロモーション戦略の光と影

 そもそも、金爆とは、雑誌やメディアに広告費を使わずに(「エアーバンドだから」とブレイク以前は雑誌から門前払いを食らっていたという理由もあるが)、手に取りやすいワンコインCDを販売することや、自ら身体を張ったおもしろ動画やパロディ動画をニコニコ動画にアップしたことにより、ファンの口コミで広まったバンドである。  代表曲『女々しくて』にしても、当初は主にV系ファンの間で盛り上がっていた所に、「パクられる前に自らパクってみた」(http://www.nicovideo.jp/watch/sm10692856)というパロディ動画がきっかけでネットユーザーからも脚光を浴びることになり、現在のブレイクにつながっている。  その後も2011年11月には、『酔わせてモヒート』のリリースに合わせて10円で着うたを配信し、着うたランキング上位をゴールデンボンバーの楽曲で1位から20位までジャックしたニュースはTV番組でも取り上げられるなど、「拡散しやすい」話題作りに余年がなかった。  2012年の末には紅白歌合戦に出演し、記者会見では樽美酒研二のシモネタ発言に加えて、本番での観客も巻き込んだ「お面」パフォーマンスはお茶の間にも衝撃を知名度を不動のものにした。  楽曲の良さと「エアバンドだから」こそできるおふざけパフォーマンスを武器にして絶好調と呼べる状態であった金爆に、ひとつ転機が訪れる。2013年の『Dance My Generation』は初登場1位、過去のリリース作品、関連作品も含めて13作品同時にオリコンチャート100位圏内にランクインという快挙をなしとげたのだが、リリース時の「特典」のひとつである握手会の参加権は、対象店舗にて、『Dance My Generation』含めて過去のリリース作品を3000円以上購入しなければならず、そのハードルの高さからファンから戸惑いの声が多数あがった。  それを受けて当時の鬼龍院のブログに「次回のシングルは握手会等の特典一切無しの一種売りにしたいと思います!
その売り上げの差を見てまた音楽業界の現状を感じて下さい!」「売り方の面でファンの方々に少なからず迷惑をかけてしまったのでリーダーの僕としてはあまり手放しでは喜べません。」「次にCDを出すときはファンの方々を困らせないようにしたいです。」(http://ameblo.jp/kiryu-in/entry-11444963450.html)とあるように、今回の「特典ナシ」リリースにつながる事件であったように思える。  また、当初はファンの口コミやネットニュース媒体を利用することで、「広告費ゼロ」戦略の金爆だったが、バンドの知名度が大きくなりすぎて、メンバーのTwitterでのなにげないつぶやきやブログの内容まで、逐一ネットニュースになり不本意な形で拡散されてしまうという状況になっていた。  極めつけは今年の1月、Twitterで引越し業者が鬼龍院の引っ越し先住所に関わるツイートをし炎上、さらに、『101回目の呪い』リリース時のテレビ番組の企画で行われたゲリライベントで、特典の握手券は抽選というシステムにもかかわらず、イベントでの購入者と握手してしまったことでファンからの苦情が殺到。「僕が呟くことによってその結果、巡り巡って誰かを傷付けてしまうこのツールは重い、悩んでしまう」「何でもニュースになってしまうのは気が重い」とTwitterを退会するという事件があった。これまでの「戦略」だったものが裏目に出てしまった結果といえる。  とはいえ、鬼龍院自身は「日経エンタテイメント!(2014年9月号)」のインタビューで「戦略ではない」と言っているものの、売れなかったとしても「これだけ売れませんでした」というニュースになってしまうことが予想されるし、(シングル「ローラの傷だらけ」鬼龍院翔インタビュー)公式チャンネルにアップロードされたリリースインタビューも既に7万PVを越えており、音楽サイトでこのようなことを書くのもアレなのだが、下手な音楽専門誌やメディアに露出するよりも、確実に「見られて」おり、宣伝効果は抜群だ。金爆のプロモーションの巧みさが伺える。

音楽CDを売るということ、買うということ

 また、今回のリリースに対して、ブログやインタビューで「音楽”だけ”を売りたい」という発言が目立つ鬼龍院だが、こういった発言をすることによって、逆に「特典もつかないけどこのスタンスを応援するために複数買おう」というファンも少なからず出てくるのではないだろうか。  2011年に事務所移籍トラブルにあった鈴木あみのCDを一斉に買って応援しようと呼びかけたケースや、05年にリリースされた『ハッピー☆マテリアル(テレビアニメ『魔法先生ネギま!』主題歌)』をオリコンチャート1位にしようというケースなどが有名で、「応援」するためにCDを買うことは熱心なファンにとってはさほど不自然なことではない。オフィシャルでつける「特典」以外にも「応援する」という意味での付加価値は現在の音楽市場では、なかば当たり前のことになっているのだ。  オリコンチャートが日刻みで公開され、それに一喜一憂するアーティストも少なくない(個人的な観測範囲だとアイドルとヴィジュアル系バンドに多い)昨今、チャート結果を見て自発的に複数枚購入するファンの出現も予想される。  この「実験」の結果は、「音楽CD」を取り巻く状況を一変させることは無いと思うが、一石を投じることになるのは間違いなさそうだ。 ■藤谷千明 ライター。ブロガーあがりのバンギャル崩れ。執筆媒体は「ウレぴあ総研」「サイゾー」「SPA!」など。Twitter

乃木坂46の楽曲は、松井玲奈・生駒里奈の兼任でどう変わった? 最新シングルを徹底分析

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乃木坂46『夏のFree&Easy(初回仕様限定Type-A(CD+DVD)』(ソニー・ミュージックレコーズ)

【リアルサウンドより】  乃木坂46が、9thシングル『夏のFree&Easy』を7月9日に発売した。同作は8thシングル「気づいたら片想い」に続き西野七瀬が2作連続でセンターを務めており(連続のセンターは生駒里奈以外では初)、SKE48の松井玲奈が、AKB48グループの「大組閣」により交換留学生として加入後初参加となる作品だ。  また今作の選抜メンバーを見てみると、リリース時点で20歳以上のメンバーが17人中12人、高校生以下のメンバーが2人だけになった。グループ発足時は生駒里奈、生田絵梨花、星野みなみといったまだ幼く清純なイメージの3人がフロントに立っていたが、3年経った現在は「乃木坂御三家」と呼ばれる白石麻衣、橋本奈々未、松村沙友理に加え、松井が西野の周りを固め、“綺麗なお姉さんたち”へとパブリックイメージも変化しつつあるともいえる。(参考:乃木坂46西野、連続センターの意図とは? ミスiDレイチェルがその”イメージ戦略”を分析)  さて、そんな現在の乃木坂46が放つ新作とは果たしてどのようなものだろうか。本稿では表題曲とカップリングの楽曲を3つの視点からとらえ、最新シングルについて考察していく。

松井・生駒の兼任が色濃く反映された2曲

「夏のFree&Easy」

 昨年の夏に発売された『ガールズルール』に引き継ぎ、キャッチーなアイドルサマーソングとなった同曲。ただ同じ“夏ソング”と言ってもこの2曲では異なる点がいくつか存在する。「ガールズルール」はフロントを「乃木坂御三家」が務め、田舎の学校を舞台にしたMVと合わせ、女の子の友情をテーマにした楽曲だった。その一方で「夏のFree&Easy」のテーマは“都会の夏”。渋谷を舞台にMVを撮影し、ヘッドフォンやイヤホンをした乃木坂メンバーのそれぞれの夏のワンシーンが切り取られている。 楽曲も7thシングル「バレッタ」、8thシングル「気付いたら片想い」と続いていた昭和アイドル歌謡の路線ではなく、エレキギターを中心に疾走感あふれる、いかにもJ-POPの“夏ソング”に仕上がっている。  これまで、乃木坂46の楽曲はどちらかといえば、“純粋無垢・女の子の花園・甘酸っぱい青春”といった印象の楽曲が多かった。それに対して今回の「夏のFree&Easy」はより大胆でストレート。人見知りが多い乃木坂46のメンバーでも、夏のおかげでいつもより少し積極的になってしまうというような楽曲だ。  また「夏のFree&Easy」は、楽曲全体にSKE48の要素が散りばめられているように感じることもできる。歌詞の前向きな内容や元気な印象を与えるメロディラインなどがまさにそうで、SKE48の最新シングルだとしてもあまり違和感はないのかもしれない。そして、世間的な注目度でいうと、同作は「西野の2作連続のセンター作」というよりも「SKE48松井玲奈が乃木坂46初参加のシングル」という印象の方がおそらく強いだろう。そう仮定すると“SKE48色=松井玲奈色”を出した楽曲になったのは、ある種自然な流れなのだろう。

「何もできずにそばにいる」

 表題曲「夏のFree&Easy」が松井玲奈色を出した曲だとしたら、こちらは生駒の兼任が隠れたテーマになっているように思える。キャプテンの桜井玲香は生駒の総選挙の際に、「『頑張れ!』と言うべきか『無理しないでいいよ』って言ってあげるべきかわからなかった」と語っているが、「何も言わずにそばにいる」というタイトルは、まさにこのことではないだろうか。美しいピアノの旋律や、耳に残る切ないメロディーと絶妙なコーラスが詞の物語を引き立てており、生駒がセンターを務めていた時代の「君の名は希望」や「人はなぜ走るのか?」と同じように、今後長らくファンから愛される曲になっていきそうだ。

“センター・西野七瀬”を表す曲は、「夏のFree&Easy」ではない

「無口なライオン」

 「夏のFree&Easy」Type-Bに収録。乃木坂46は、この3年間ですでに4人が表題曲のセンターを経験しており(生駒、白石、堀未央奈、西野)、それぞれに合った楽曲が提供されてきた。という今までの流れから行くと、「夏のFree&Easy」は西野に合わせて作られた楽曲であるということになるのだが、おそらくそれは間違いだ。すでに述べたとおり、表題曲は今までの乃木坂の曲とは異なるし、そもそも引きこもりがちで太陽を嫌う西野が「Sunshine, Free&Easy」と歌っているのは、どうもしっくりこない。では、西野に合わせた楽曲はどれかというと、この「無口なライオン」である。  同曲の詞は、乃木坂46のセンターを「百獣の王」に例え、「ライオンなのだからライオンらしく生きなければいけない」ということではなく、「君は生まれながらのライオンなんだから自分のやり方で堂々とやればいいんだ」といった趣向で書かれており、これは作詞を務める秋元康から西野へのエールともとれる。番組でも涙することが多く、ネガティブな発言が多い西野に向けて、「涙こぼしても君は王者なんだ」「自己嫌悪なんか意味ないよ」といった歌詞が捧げられている。

乃木坂46の新機軸「クラブミュージック×アイドル」路線

「ここにいる理由」

 『夏のFree&Easy』Type-Cに収録。選抜に入っていない“アンダーメンバー”も、8thシングルからは「アンダーライブ」という形で、ライブを行うようになり、どんどん活躍の幅を広げている。今回のアンダー楽曲はメンバーも今までにないと語るような楽曲。サカナクションを思わせるイントロで始まったかと思うと、サビではドラムンベースを思わせる強靭なビートが曲を引っ張り、全体的にクールな一面を演出している。今回は選抜メンバーに20歳以上が多い分、若いメンバーが揃ったアンダーだが、詞は別れをテーマにしたシリアスな内容。振り付けはコンテンポラリーダンスになっており、あらゆる面において今までのアンダー曲とは違い、彼女たちが次のステップへと進む楽曲になっているといえる。

「その先の出口」

 『夏のFree&Easy』Type-Aに収録。白石麻衣をセンターに据え、お姐さんメンバー9名で構成されたEDMナンバー。ダンスも今までの乃木坂にはないガールズヒップホップにも挑戦している。今まで大人ユニットで歌ってきた「偶然を言い訳にして」や「でこぴん」とはまた違い、ひたすらにポジティブで前向きな詞になっている。

「僕が行かなきゃ誰が行くんだ?」

 『夏のFree&Easy』通常盤に収録。この曲を歌うメンバーは伊藤万理華、井上小百合、斉藤優里、桜井玲香、中田花奈、西野七瀬、若月佑美の7人。これは6thシングル『ガールズルール』のカップリング曲ながら、MVやメンバーの雰囲気、楽曲の世界観・ダンスなどがファンやメンバーからも好評だった「他の星から」と同じ顔触れ。歌詞の内容は、明言こそしていないものの、地球は球体ではなく平面であるという地球平面説神話をネタにしており、「他の星から」と地続きであることが暗喩されているように思える。この曲でもドラムンベースの要素が見受けられており、【「他の星から」メンバー×コズミックな世界観×クラブミュージック】という構図は乃木坂46のが提示する一つの形として確立していきそうだ。  上記の三つはどれもクラブミュージックをベースにした楽曲だ。アイドルとクラブミュージックという組み合わせは、最近だとモーニング娘。などが、世界的な流れに乗ってダブステップやブロステップを飛び道具的に使うことはよくあった。現在でも世界的にEDMの人気は根強いし、クラブミュージック系の才能ある若手も次々と登場している。ドラムンベースで言えば、新人のRudimentalがイギリスで最も権威のある音楽賞の一つであるBrit Awardsを今年受賞していることなどからもその勢いがわかる。また、アイドルソングを含めた、邦楽における「テンポの高速化」が少し前から語られているが、(参考:「高速化するJPOP」をどう受け止めるか 音楽ジャーナリスト3人が徹底討論)BPMの高いドラムンベースは昨今のJPOPにマッチするジャンルなのではないだろうか。  乃木坂46の楽曲は、現在活躍している若手アイドルたちとは違ったアプローチが目立っている。彼女たちが打ち出している「ドラムンベース×アイドル」ないしは「クラブミュージック×アイドル」路線は、新たなアイドルソングのトレンドとなっていくかもしれない。  近年のアイドルグループは、ファンや運営が物語を重視する傾向にあり、毎度リリースされる新譜やイベント、ライブではそのグループの現在地と未来を読み取ることができる。今回のシングルはただの“夏ソング“ではなく、大組閣に巻き込まれ激震を受けた乃木坂46の今の姿をファンに示してくれたものとして捉えることができるのかもしれない。活動も3年目となった乃木坂46がリリースする、熱量のこもった新作をぜひ手にとってもらいたい。 ■ポップス 平成生まれ、沖縄育ち。音楽業界勤務。Nogizaka Journalにて『乃木坂をよむ!』を寄稿。

__(アンダーバー)が語る、ネットの変化と新作のコンセプト「ニコニコの時の流れだけやけに速い」

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【リアルサウンドより】  既存のボーカロイド楽曲を大胆にアレンジして歌う「フリーダム」と、オリジナルソングをしっかりと歌い上げる「フツーダム」という2つのスタイルでの歌唱を特徴とする『ニコニコ動画』出身の歌い手__(アンダーバー)。彼が7月9日に3rdアルバム『くぁwせdrftgyふじこlplp;@:「どうも__(アンダーバー)です。」(仮)』(通称:ふじこ)をリリースする。__(アンダーバー)の「歌ってみた」動画は、累計3000万回以上の再生数を誇り、Twitterのフォロワーも31万人以上、幅広い層から支持を集めている人気の歌い手だ。今回リアルサウンドでは新作に関するインタビューを実施。オリジナル曲志向を強めた理由や、彼自身の音楽的ルーツ、さらには近年の『ニコニコ動画』の歴史や変化についても語ってもらった。

「純粋な笑いをみんなと一緒に楽しみたい」

――『くぁwせdrftgyふじこlplp;@:「どうも__(アンダーバー)です。」(仮)』(通称:ふじこ)は、オリジナルとボカロカバーが収録された初の2枚組CDです。それぞれ性格の異なった力作ですが、今回2枚組にした経緯は? __(アンダーバー):1stアルバムの『フツーバム~フツーダムに歌ってみた~』と、ボカロカバーアルバムの『フリーバム~フリーダムに歌ってみた~』をリリースしてきた僕にとって、今作は分岐点になると考えているんです。というのも、僕は自分の世界観を表現したくて、オリジナルをやっていきたいと思っていて。でも今までボカロ中心で活動してきた分、なかなかオリジナルは受け入れられづらいところがあったんですね。だからこれまでのボカロカバーでの活動も踏まえつつ、自分の思いも表現するために、思い切って2枚組にしました。 ――そのオリジナルでは曲ごとに世界観を作り上げ、いろんな作曲家の方とコラボレーションしていますね。 __(アンダーバー):はい。__(アンダーバー)には、「アンダーバー星に住むアンダーバー王が、国の繁栄のために地球を侵略しにきている」という設定がありまして(笑)。このオリジナルはその始まりという位置づけかなと思います。アンダーバー王が、宇宙船で地球に落ちてきたところからスタートして、アンダーバー王が地球の人間のなかにひっそり潜みながら侵略していく。作曲家さんたちとのコラボレーションはその侵略が形になっていることを表しているんですね。でも侵略って言うと少し恐いので、洗脳っていう感じですね。__(アンダーバー)は人間のなかにひっそり潜みながら、人々の心を楽しませて洗脳していくことを大切にしています。 ――「人々を楽しませたい」というコンセプトが生まれたきっかけは? __(アンダーバー):将来も見えないし、自分の信じてきたものは本当にこれでいいんだろうか、とかすごく疑ってしまう時期が僕にはあって。それと同じように辛い思いをしている人たちも見てきて、そんな人たちにどうにかできないかなって思ったんです。誰にも相談できなくて、辛いことがあっても、僕の曲で少しでも気晴らしになれば嬉しいんです。 ――__(アンダーバー)の音楽は、ユーモラスというか、くすっと笑えるような表現をしていくのがひとつの特徴ですよね。 __(アンダーバー):純粋に何にも深いことを考えずに毎日楽しかった時期って小学生くらいだろうなと思うんです。小学生くらいの時って、下らないシモネタ……それこそウンコだとかで大爆笑してたじゃないですか。今となっては何が面白いのかさっぱり分からないんですけど、あの時の気持ちが一番大事なんだなというのが僕の中ではあって。だから、『フリーバム』では昔の下らない、純粋な笑いをみんなと一緒に楽しんでいけたらと思って、ボカロ曲をアレンジしたりしていました。 ――『フリーバム』で表現していた“純粋な笑い”を、今作ではオリジナル楽曲にも出していくと? __(アンダーバー):そうですね。例えば、「まじしゃんず☆さまー」とかも、彼女ができないうんぬん(笑)っていうのを大胆にのっけてみたりとか、すごく下らないんですが、どんどんそんな感じでやっていきたいですね。 ――その「まじしゃんず☆さまー」はヒャダインさんの作曲ですが、今作で関わっている他の作曲家も含めて、どのように曲を作っていったのですか? __(アンダーバー):一曲ごとの、はじまりから終わりまでのメインストーリーを全部まとめて作って、その曲を作者さんごとに分けてお願いした、という感じです。「まじしゃんず☆さまー」に関しては、思い通りのものが来た!っていう感じでしたね。ヒャダインさんはやはりずっと作曲をされてきた方なので、イメージ通りのものを作成していただいてすごく感謝しています。詞もすごくのっけやすかったです。 ――コンセプトをしっかり固めて作った初のオリジナルアルバムを制作して、見えてきたものはありましたか。 __(アンダーバー):今までいつかオリジナルをやっていきたいと思っていた分、自分のなかでは意外とスムーズにできたかなと。一回目にしては良いものができたなと思えたので、今後作っていくアルバムもかなり良いものにできそうかなっていう手応えも感じています。 ――溜まっていた表現衝動を出したという? __(アンダーバー):そうですね。それで聴いていただいて楽しんでくれるのが一番なんですけど、そのなかに隠されたコンセプトというか、「フリーバム」もそうなんですけど、根底は暗~い気持ちから作っていることがほとんどなので(笑)。そういうところも感じてもらえたらと思います。 ――非常に多様な音楽的なルーツが見え隠れする作品でもあります。 __(アンダーバー):物語性や歌もあり、演技もありっていうところで、大きな影響を受けたのはSound Horizonさんですね。それからフリーダムのバックボーンになっているといったら、これは初めて言うかもしれないですけど、「ボボボーボ・ボーボボ」っていうマンガ。本当にくだらないというか、つじつまの合わないもの、そんな展開、勢い、ゴリ押し感から影響を受けています。Sound Horizonさんのような真面目な世界観もありつつ、「ボボボーボ・ボーボボ」のようなアホみたいな世界観で、面白いのにどこか物悲しい、心に刺さるところがある、ということを感じてほしいですね。そんな二面性が「フツーダム」と「フリーダム」なのかなって思います。
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「歌で大事なのは、詞をどこまで言葉として表現できるかということ」

――改めて振り返っていただきたいのですが、音楽を通して自分を表現するということについて、どのように捉えていますか。 __(アンダーバー):正直、最初歌は趣味程度でしかなかったんです。カラオケ行ってワイワイ楽しむだけみたいな。「ひとカラ」に行くことが多かったんですけど、ひとりで行ってどうやったら歌がうまくなれるだろうとか、誰かとカラオケ行ったりするときとかも、誰かにうまいと思ってもらいたい、楽しんでもらいたいっていうのを当時から思って歌っていて、ニコ動に投稿するようになりました。 ――歌がうまく聞こえる要素にはどのようなものがあるのですか? __(アンダーバー):僕は、何十年とずっと歌をうたってきた人には絶対に敵わないと思うんですが、世の中に下手ウマと呼ばれる人たちがいて、下手なんだけど魅力を感じる要素はなんだろうと考えたんです。それで、それは詞をどこまで歌にのっけられることなのかな、という気がして。音程やリズムを取るのはもちろん、詞をどこまで言葉として表現できるかということが大事なのかなと。そっちのほうが歌の本質が伝わるんじゃないかと考えて、そこに力を入れ始めました。それでそのうちに、動画も曲も作れるようになって今に至るので、すべてが延長線上にあるというか。そういうふうに歌っていって、ライブに出るようになると、音楽を作る人たちとも徐々に触れる機会が多くなっていろいろ話していくと、曲やメロディーを一個一個作るのにもさまざまな思いが込められているんだなと思うようになったんです。それで「フリーバム」を作る上での思いとか考えが変わっていって、その結果今のオリジナルがあると思うんです。そういう意味では、ボカロの影響はすごく大きかったです。 ――そのボカロでのカバーが「フリーバム」ですが、今回の作品についても伺っていきたいと思います。今回カバーの選曲はどんな基準で? __(アンダーバー):いまのニコニコ動画って世代が変わってきているなと感じていて。僕は初音ミクが出てくる前からずっと観ていたんですが、時期によって4世代くらいに分かれるんじゃないかと。僕の中での初音ミクは「ミックミクにしてやんよ」とか「メルト」とかそのくらいなんです。けれども今のユーザーにとっては、初音ミクって「千本桜」とか「カゲロウプロジェクト」とかになってくるので、意識の差が出てくるというか。僕は昔の曲の方が思い入れが強いので「ハロープラネット」とか、その世代によって違うものを入れていきたいなと思いまして、古いものから新しいものまで幅広く、初音ミク、ボカロっていうのはこういうものなんだよ、こういう曲があるんだよというのを聴いてほしくて、昔のものから今のものまで幅広く選曲しました。

「ニコニコ動画は昔のようにくだらない場所であってほしい」

――初期の世代と今の世代では、どの点が変わっていますか? __(アンダーバー):曲調が大きいですかね。昔はバラ―ドというかJ-POPっぽい曲がすごく多くてそれがウケたっていうのがあるんですけど、徐々にBPMが早くなっていったんですよね。昔はJ-POPサウンドだったのがバンドサウンドになって、バンドサウンドからテクノサウンドに変わっていったというのは感じます。 ――今回、かなりBPMの早い曲も入っていますよね。 __(アンダーバー):そうですね。そこで思ったのは、ボカロは人間の歌うものじゃないと(笑)。いまさらなんですけど痛感しています。昔のものですら、息継ぎがなかったり、滑舌的に難しいものだったのに、それがさらにありえないレベルのものになっていて(笑)。ましてやボカロというとさまざまなジャンルがあります。でもそれはボカロからバラードからロックまで歌ってきて、自分のスキルアップになったかなと思います。 ――今回の収録曲で特に難しかったのは? __(アンダーバー):7曲目の「ニセモノ注意報」ですね。この楽曲は曲のなかでBPMが早くなっていくんです。滑舌もすごく難しいし息継ぎもないし、そういう意味ではすごく大変でした。歌うだけじゃなくて、曲の歌詞を表現していかなければならなかったので苦戦しました。 ――世代の話でいうと、曲調だけではなく歌詞の変化もあると思うのですが、どんな点で感じますか。 __(アンダーバー):だんだん複雑になっていっていますね。もちろん作曲者によっても違うんですが、昔の方はけっこう直接的表現というかわかりやすい表現が多かったんですが、最近になって「これは日本語なのか?」と思うような表現とか、初めて聞くような難しい言葉を使われる方もいますし、すごく物語性が出てきて、深読みができるものが増えてきてるなと思います。 ――そうしたものをユーザーも求めていると。 __(アンダーバー):ニコニコで投稿していくうちに、新しい世代は新しいものを求めてやってくると感じました。そういうなかで作り手さんも新しいものをどんどん広げていくので、楽曲自体のクオリティも高くなってきて、「これはもはやプロじゃねぇの?」って思うことも多々あります。その移り変わりが早くて、「ニコニコの時の流れだけやけに速いな」と思いますね(笑)。それから昔はいかに面白いこと、変なことをやって投稿して、視聴者がみんなで盛り上げよう!という風潮があったんですが、最近になるにつれて、その風潮がなくなってきているなと感じます。最近は、いかに投稿者が楽しませるかというふうになっている。でも僕は、ニコニコ動画は昔のようにくだらない場所であってほしい、あの良さは失ってほしくないとも思っています。 ――そういう変化も、オリジナルをやるという背景にあるのでしょうか。 __(アンダーバー):いまの子は二次創作よりも一次創作を楽しみにしていってるのかな、っていう気はしますしね。僕のリスナーさんでも、ずっとボカロを聴いてきてる人がいるんですけど、そういう人たちも、僕の音楽を聴いてくれたうえで少しずつ変化してるというか。「__(アンダーバー)さんのオリジナルが見たいな」「__(アンダーバー)さんのつくりだす世界を楽しみたい」っていう人が増えてきているというのは感じています。僕だけでなくリスナーさんにも、流れの変化は一緒に出てきているんだなと思います。

「アリーナとかドーム規模でライブをやっていきたい」

――最近は大きな会場でのライブ活動も成功しています。ライブパフォーマンスに対する手応えは? __(アンダーバー):ライブを通して、自分の本当にやりたいことが明確になってきたと思っています。ライブでは、コメントとか字じゃなく生でお客さんが楽しんでるのが伝わってくるので、自分がやりたかったのはこれだ、と思えるようになりました。僕としてはライブに重点をおいてこれからの表現活動をやっていきたいですね。昔の僕もそうだったんですけど、ライブというのは敷居が高くて、足が運びづらい場所だったんですが、そういう人たちに対して、ライブというのは楽しいものだと伝えていきたいし広めていきたい。だから、ライブもエンターテインメントなものにしていきたいです。 ――今作で新たなチャレンジになりましたが、今後の活動はどうなっていくとお考えですか? __(アンダーバー):ボカロ文化は消えてほしくないなって思うので、ボカロもやっていくつもりです。けれども、メインはオリジナルを作って、それをライブでやることだと考えています。 ――9月6日にはTOKYO DOME CITY HALLでワンマンも控えています。 __(アンダーバー):僕のやりたい、表現したいことはそれこそ会場の広いところじゃないと表現しきれないというか。僕は演劇とかミュージカルが好きだったんで舞台セットをがっつり組んで、ダンサーさんも含めて壮大に表現していきたい。いろんな構想があるのでアリーナとかドーム規模でライブをやっていきたいんですよね。まだ気は早いですが、そういう思いは強くあります。 (取材=神谷弘一/構成=高木智史)
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__(アンダーバー)『くぁwせdrftgyふじこlplp;@:「どうも__(アンダーバー)です。』(仮)(Subcul-rise Record)

■リリース情報 『くぁwせdrftgyふじこlplp;@:「どうも__(アンダーバー)です。』(仮) 発売:7月9日 価格:3,240円(税込) <収録内容> ・DISC1 1.インビジブル 作詞・作曲・編曲:kemu フリーダムアレンジ__(アンダーバー) 2.ヤンキーボーイ・ヤンキーガール 作詞・作曲:トーマ 編曲:kouichi 3.ワールズエンド・ダンスホール 作詞・作曲:wowaka 編曲:三矢禅晃 4.ぼくらの16bit戦争 作詞・作曲:sasakureUK 編曲:kouichi 5.ハロー*プラネット 作詞・作曲:sasakureUK 編曲:kouichi 6.天樂 作詞・作曲:ゆうゆ 編曲:kouichi 7.ニセモノ注意報 作詞:スズム 作曲・編曲:150P 8.妄想税 作詞・作曲:DECO*27 編曲:kouichi 9.glow 作詞・作曲:keeno 編曲:三矢禅晃 10.アンデッドエネミー 作詞:スズム 作曲ギガP、スズム・編曲:スズム 11.とある国王の体操第一 作詞・作曲・編曲:スズム 12.ハッピーサウンド 作詞・作曲:__(アンダーバー)編曲:スズム 13.Alice in Musicland 作詞・作曲・編曲:OSTER project フリーダムアレンジ:__(アンダーバー) DISC2 1.星王襲来 作詞:__(アンダーバー)作曲・編曲:150P 2.まじしゃんず☆さまー 作詞:__(アンダーバー)作曲:前山田健一 編曲:スズム 3.ラブモノガタリ 作詞:__(アンダーバー)作曲・編曲:40mP 4.アンダーバーに会いたい 作詞・作曲:__(アンダーバー)編曲:kouichi 5.タイガーウルフ 作詞:__(アンダーバー)作曲・編曲:Neru 6.ボインボインちゃん 作詞・作曲:__(アンダーバー)編曲:三矢禅晃 7.恋友達 作詞:__(アンダーバー)作曲・編曲:れるりり 8.ユメクリスマス 作詞:__(アンダーバー)作曲・編曲:ギガP 9.mile作詞:__(アンダーバー)作曲・編曲:10日P 10.Happy Under World 作詞・作曲・編曲:OSTER project

浅井健一が語る、曲作りのスタンス「心に力が入ると駄目、素直が一番いいよ」

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ソロとして6枚目のアルバムをリリースした浅井健一。

【リアルサウンドより】  浅井健一が、2013年のアルバム『PIL』より1年半ぶりの新作『Nancy』をリリースした。1年をかけてじっくり作ったというこのアルバムは、椎野恭一や福士久美子、林幸治といったプレイヤーを迎えたバンドサウンドの楽曲のほか、浅井自身がプログラミングを手がけて一人で作り込んだ楽曲も収録されており、さらにスケール感を増した作品に仕上がっている。もちろん、浅井ならではのイマジネーション溢れる詩世界も健在だ。今回のアルバム制作に当たり、浅井はなにを考え、どう言葉と音を組み立ててきたのか。レコーディングの裏話や、自身の創作スタンス、そして浅井が考える理想的な心のあり方まで、じっくりと語ってもらった。

「自分が作る歌は、聴いた人がポジティブになるようにしたい」

ーー今回の作品は、いつ頃からレコーディングしましたか? 浅井健一(以下:浅井):去年の1月に「Parmesan Cheese」って曲を1人で作り始めた。『PIL』ってアルバムのツアーで中断したりしたから、その合間に作り上げていったんだけど、去年の秋、10月くらいにメンバー集めて、最終追い込みレコーディングがあって、ほとんどの曲はそこでレコーディングした。結局、1人で作りこんだのは3曲だけ。「Parmesan Cheese」と「君をさがす」と「Sky Diving Baby」なんだけど、それは全部1人でやってる。なので、それ以外の曲は秋に椎野さん(椎野恭一:ds)と林くん(林幸治:b)と福士さん(福士久美子:key,cho)でレコーディングして、それでダビングの作業をやって、音自体は今年の1月ぐらいに完成したかな。マスタリングは3月くらいだったけどね。 ーー1人で仕上げた曲とバンドで録った曲は、それぞれどういう風に位置付けてますか。 浅井:人間が全部やってる音楽と、コンピューターが正確なリズムで鳴らす音楽って、まったく違った感触になるでしょう? それぞれ大好きなんだけど、「この曲はコンピューターと向き合って1人でやろうかな」ていうのは、そのときの自分の気分というか、それだけだね。1曲目の「Sky Diving Baby」は最初にキーボードのフレーズがあったんだけど「これはコンピューターでやったらかっこ良くなるな」っていう自分の勘があった。コーラスとかも、Protoolsでやったらいろんなことにチャレンジできるから、すごく面白いんだわ。 ーー今回はコーラスが多いですね。それがアルバムの色にもなっています。 浅井:最近多いよね。一昔前まで、コーラスなんて全く興味なかったんだけど、最近は大好きになってるかな。 ーー「Sky Diving Baby」は切なくて悲しいけど、聴き終わったときに開放感があります。これはアルバム全体の印象にも近いのですが、この開放感は何でしょう? 浅井:音楽でも映画でも何でも、それを聴いたり観たりした後に清々しい気持ちというか、前向きな方が絶対にいいじゃん。落ち込むだけの映画に、俺は存在理由はないと思うんだ。だからスプラッタームービーとか大嫌い(笑)。昔、『Dancer In The Dark』っていうビョークが出てた映画あったでしょう。俺は観てないんだけど、相当暗くなるらしいじゃん? 強いて言えば、「そんな悲惨なことがあるんだから今が大事なんだな」って思える面があるのかもしれないけど、自分が作る歌は、聴いた人がポジティブになるようにしたい。昔は「かっこよけりゃいい」っていう感じで関係なかったけど、最近はそれを意識するようになったね。 ーー以前はズバッと斬るような感じでしたね? 浅井:ズバッと斬ってそれでおしまいっていうね(笑)。昔はそれでいいと思ってたし、またそれに戻るかもわからんけど、今はそうじゃない気持ちかな。 ーーただ、いわゆる応援歌みたいなものとはまた違いますよね。 浅井:応援歌は嫌いなんだわ、俺。ただ頑張れって言うのは軽薄な気がするし。曲作るときには、自分でもどういうものができるのかわかってない中で一生懸命やって、今回みたいなものができると。そういうことなんだよ。 ーーバンドが入った曲に関して、レコーディング現場の雰囲気はどうでしたか? 浅井:俺と椎野さんと福士さんは長いんで。林くんはなかなか無口なんで、「嫌なのかな?」とたまに心配しちゃったときもあったんだけど、そんな心配は無用で(笑)。彼はすごく真面目で音楽に対して一生懸命で、ただ単純に無口なだけだった。喋りだすと喋るし、飲みにも行ったし、当たり前だけど雰囲気は良かったよ。雰囲気悪かったらレコーディングできんでね。 ーー先程も話に出たコーラスワークは、実際にこのアルバムの魅力のひとつだと思います。 浅井:コーラスは…ものすごい大事だよね。作ってて楽しい。声とメロディだけで、歌詞必要なかったりするから、自分の中の好きなメロディでいけるじゃん? 福士さんのコーラスすごくかっこいいしね。やっぱり声の質。それが音楽にはすごく関わってる。声っていうのは、たぶんその人の心が関係してきてるから、不思議ですよ。 ーー浅井さん自身の声もそうですよね。すごく柔らかい感じがして。 浅井:全てにおいてそうなんだけど、力が入ると駄目だね。心にも力が入ると駄目なんだわ。バッティングセンター行って、「絶対ホームラン打とう」とか思っても全然いい当たりが出なくて、軽く振ったときにパコーンと当たる時あるじゃん? あれもそうだし、この世の中っていうのは、欲を出して立ち向かおうとするといいことない。それは音楽にもいえて、歌入れしていて「なかなかいい感じで録れたな」ていうのがあったとするよね。それで十分いいんだけど、「もっといいのが録れるかもしれない」と思って、そこから10回、20回やっても越えられんもん。「欲のない状態に戻そう」って言ったところで絶対、欲はあるんだわ。「もっといいのを録ってやろう」と思ってるんだから、「欲のない状態に戻そう」っていう気持ち自体がめちゃくちゃ欲にまみれとる(笑)。そこなんだわ、世の中の秘密っていうのは。 ーーそれを意識し始めたのはいつ頃からですか? 浅井:15年くらい前から漠然とはわかってたよ。レコーディングの繰り返しだからね。ブランキーのときから30年以上やってるんだもん。「録らないけど、音を作るので1曲やってください」って言われて適当にやるのが、欲がないから一番良かったりするんだわ。そんなことはバンドのほとんどのみんなはわかってるんじゃないかな。体験してると思う。音楽だけじゃなくて、あらゆるところでそういう現象はあると思うけどな。だからサッカーの試合でもそうだったんじゃないかな(笑)。4年前はみんな大して期待してなかったわけじゃん? 期待されてないもんだから、すごい良いところまで行けたでしょう? 今回は逆だもんね。 ーーこれまでに、自分の中で「力が入っちゃって素直じゃなかった」ということはありますか。 浅井:あんまりないかな。頑張ってひねり出したものはあるかもしれないけど、それも素直に頑張ってひねり出しとるでね(笑)。 ーーひねり出す時はやはり、産みの苦しみがある? 浅井:そりゃ、あるよ。やっぱり詩が一番難しいね。曲の展開の部分だとかで悩むときはもちろんあるし。やっぱり、詩とメロディと、全てがよくないと駄目だもんね。演奏力もないといけないし、曲が世の中に出る時期も関係してくるし。だから音楽業界みんな、難しいというか、面白いことをやってる。 ーー作品が世に出る時期の社会の雰囲気なども、浅井さんの音楽に関係してくると? 浅井:そりゃ、自然に関係するよね。みんな同じ今を生きてるんだから。ニュースもみんな同じように見るし、同じ時間を生きてる。不思議ですね。 ーーなるほど。浅井さんの歌詞は時代を超越しているようなところがあって、そうした部分が少年性と評されたりすることもありますがーー。 浅井:少年性とかはよく言われたりするんだけど、自分でそういうのは全然ないと思ってるんだ。俺、全然大人だし、考え方もそこらへんの大人より大人だし。たぶんみんな勘違いしてると思うんだけど、俺は素直なだけなんだわ。素直に自分の気持ちを書くのが、一番いいよ。

腹減ってるときに曲を書いてると、絶対食べ物が浮かんでくる

ーーアルバム最終曲の「ハラピニオ」は、近未来から過去を振り返るというSF的な設定の曲ですね。 浅井:「ハラピニオ」が一番好きかな。コーラスのところが嬉しくなるでしょ? あそこがいいんだ。それと「Parmesan Cheese」が今回の中で「どうだ!」っていう感じかな。 ーーどちらも食べ物に関係しますね。 浅井:腹減ってるときに書いてるとね、絶対食べ物が浮かんでくるんだよ(笑)。ドミノ・ピザのスパイシーデラックス。「ハラピニオをトリプルで」って頼むとすごい乗ってくるよ。 ーー「ハラピニオ」のSF的な場面設定は、浅井さんの音楽の中でも珍しいですよね。 浅井:『マッド・マックス2』の景色が少し入っているかな…あれは。その雰囲気はちょびっとあるかもね。もっと優しいけど(笑)。そんな詩ができるなんて思ってもいなかったけど、なぜかできたから不思議ですね。 ーーこの曲は未来の地点から歌っていますが、『紙飛行機』のように、未来やその先に向けて歌っているような曲もあります。 浅井:今回はそういう曲が2曲も入りましたね。俺もみんなと同じように未来のことは考える。今の社会情勢を見てて、不安を感じない人はいないと思うんだよ。そういう人はよっぽどおめでたい人というか。その中でも、自分たちの意思で変えることは全くないわけじゃないと思う。  自分のことしか考えない魂と、自分はもちろん、目に入るまわりの人達も普通の生活が出来て、良い状態のときに初めて幸せを感じられる魂と、いろんな魂があるじゃん? 後者の魂が地球上にたくさん増えていったら、明るい未来が来ると思うんだけど、自分さえ良ければいいっていう魂が増えれば、最悪になる。ただ、自然界っていうのは、自分さえ良ければいい、というものなんだよね、本当は。だから、自分さえ良ければいい、っていうことを、あからさまに否定することもないのかなとも思う。「人の為」と書いて「偽」って読むでしょ? だから「人のため」じゃなくて、人が喜んでないと自分も喜べないからその人たちを助けるというのは、結局は自分のためじゃん? それがいいと思うんだ。人間でしかできないことだし、そういう考え方が大事だと思う。

体調を整え過ぎると、歌詞が何も出てこなかったりする

ーー今回のコーラスワークなどもそうですが、作品を作るごとに、新しい音楽的な関心や可能性、引き出しのようなものが出てくるのでは? 浅井:いや、毎回出しきっとるよ。俺、引き出し派じゃないんだわ(笑)。よく「あの人は引き出しがたくさんある」みたいな言い方するじゃん? 俺、はじめから引き出しが一個もないから、いつも思いつきでやってるだけだもん。何で引き出しって言葉があんまり好きじゃないかっていうと、引き出しって場所決まってんじゃん? 勉強っぽいし、そういう堅苦しいのが嫌なんだよね。こっちの引き出しはこれだけ、あっちの引き出しはこれだけ。そうやって限度が決まっちゃってるイメージがあるんだ、自分の中で。それが俺、何か違う気がするんだよね。 ーーでは「引き出し」というより、何か新しいひらめきが降りてきた、という感じでしょうか。 浅井:その「降りてくる」っていうのもあんま好きじゃないんだわ(笑)。「降りてくる」ていうと自分が特別な人のような感じじゃん? だから、たまたまできる。 ーー失礼しました(笑)。その「たまたまできる」のに、体調などは関係しますか。 浅井:体調を整えると、なんか健康的っていうか、一般的な言葉しか出てこないこともある。いっぺん一月以上酒やめてて、体調も良くて、そのときに創作活動入るでしょ。そしたら全然自分の中で盛り上がらない。意外と二日間くらい飲み続けてぶっ倒れそうで「もうそろそろ復活しなくちゃ」て思ったときにできたりするね。いつもそうとは限らんけど、そういうときも年に2回くらいある。「よしやるぞ」って立ち向かった時にできる方が多いけどね。でも意外と体をクリーンにし過ぎると何も出てこなかったりするね。だから普通に生きてればいいんじゃないかな。 ーーなるほど、とにかく意識しすぎるのは良くないと。さて今回の作品は、ポップソングとしても完成度の高い曲が多くて、多くのリスナーに届くのではないかと思います。 浅井:届いてほしいね。そういう思いしかないよ。老若男女、誰にでも伝えたい。おじいさんが聴いて「おぉ、えぇがや」って思ってくれたら嬉しいしさ、小学生が聴いてもいいって思われたい。絶対に聴けるよ。世の中めちゃめちゃいっぱい音楽あるけど、そん中でも光っとると思う。 ーー浅井さんはほかのミュージシャンの音楽に刺激を受けたりしますか。 浅井:たまにラジオとかで、かっこいい音楽流れてきたりするよね。刺激的な音楽は絶対あるから、それに俺も刺激受ける。有名なところだとNirvanaやRadio Headも好きだし、Gilbert O'Sullivan、Chris Isaak、The Shocking Blue、The Black Keys、いっぱいいるよ。でも最近の人はあんまり名前を知らないかな。たくさんいるけど、そこまで到達するのは難しい。普段から曲作りに熱中してるとね、そういう時は心の底からプレイヤーになっちゃってるもんで、リスナーの気分にはなかなか戻れないんだわ。自然とそうなっちゃってるんだ(苦笑)。 ーーでは最後に、今回のアルバムのツアーについても教えてください。 浅井:今回は東名阪が椅子席なんですよ。「ゆっくり見たいな」ていう人は是非。前半はこれまでのすべての曲から選りすぐって、アコースティックな世界を表現しようと思っている。後半は、林くんは残念ながら参加しないんだけど、キーボードとバイオリン、皆川さんと岡村さんと、福士さんと椎野さんを迎えて、アルバムの曲をやります。10年ぶりくらいに、夏フェスは一切出ずに、自分の全ての力をこのツアーに注ぎ込む気持ちでやるから、みなさんに是非観に来てほしいですね。 (取材=神谷弘一/構成=松田広宣)
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浅井健一『Nancy(初回限定盤) 』(SPACE SHOWER MUSIC)

■リリース情報 『Nancy』 発売:7月9日 価格:3,400(without tax) <収録曲> 1. Sky Diving Baby 2. Stinger 3. Parmesan Cheese 4. 紙飛行機 5. Johnny Love 6. Papyrus 7. 桜 8. 僕は何だろう 9. 君をさがす 10. ラビット帽 11. ハラピニオ ■イベント情報 『Nancy』発売記念 東京限定Live 『Sky Diving Night』 2014年7月10日(木)東京都 赤坂BLITZ 『浅井健一 2014 AUTUMN TOUR「Splash Nancy」 ACOUSTIC & ELECTRIC NIGHT』 2014年9月25日(木)東京都 新木場STUDIO COAST 2014年10月2日(木)北海道 cube garden 2014年10月8日(水)愛知県 DIAMOND HALL 2014年10月9日(木)大阪府 なんばHatch 2014年10月17日(金)福岡県 DRUM LOGOS オフィシャルHP

『HARENOVA Vol.03』ライブレポート 「音楽シーンの今日と明日、表と裏を一晩で見渡せる」

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【リアルサウンドより】  会社設立40周年を迎えるソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)が、4月から7月にかけて展開するライブオーディションシリーズ『HARENOVA』(ハレノヴァ)。その第3回目『HARENOVA Vol.03』が6月18日、渋谷clubasiaで開催された。SMAは奥田民生氣志團YUKI木村カエラ西野カナ等、100組以上のミュージシャン、俳優、タレント、芸人、文化人などが在籍するマネジメントオフィス。この『HARENOVA』は、合計4回の各回から選ばれたアーティストが8月に行われる渋谷TSUTAYA O-EASTのファイナルステージに出演し、そこで選出されたアーティストが9月に行われるSMA主催の日比谷野外音楽堂にオープニングアクトとして出演できるというものだ。 HARENOVA オフィシャルHP:http://sma40th.com/harenova/  リアルサウンドでは前回に続き、イベントにゲストウォッチャーとしても参加した音楽ジャーナリストの宇野維正氏によるライブレポートを掲載する。「HARENOVA」の趣旨についてはこちら。(編集部) ・出演アーティスト スライディングが普通の歩き方 ORIE 被写体X NeruQooNelu BOYS END SWING GIRL オワリカラ(ゲストアクト) ・ゲストウォッチャー 原田公一(ソニー・ミュージックアーティスツ) 豊島直己(ビクターエンタテインメント) 川崎みるく(ソニー・ミュージックレーベルズ/キューンミュージック制作部) 小倉昭彦(ソニー・ミュージックアーティスツ) 宇野維正(音楽ジャーナリスト)

スライディングが普通の歩き方

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 最初のアクトは、2010年に結成された自称「B級ヒップホップ集団」、スライディングが普通の歩き方。いわゆる生音ヒップホップバンドで、2MCにギター、ベース、ドラム、さらにシンセ、サンプラー、サックス、コーラスの総勢9人の大所帯。トバしまくるMC2人と、黙々とグルーブを生み出していくバンドの面々、さらにはステージ上では炊飯器を抱えて謎の動きをしているメンバーもいたりするのだが、そんなカオスも含めて、雑然とした佇まいがこのバンドの持ち味。サックスをフィーチャーしたファンキーでオーガニックなサウンドは、ヒップホップの範疇におさまらないこのバンドだけのオリジナリティを誇っていた。 ■ゲストウォッチャーコメント 原田公一「ヒップホップをやっているからには、もっとお客さんを巻き込んでいくような、攻撃的な姿勢を見せてほしかった。ステージで照れくさそうにやっているのが気になりましたね」 小倉昭彦「特に1曲目の『Panic Panic』はジェットコースターみたいな曲調でスリリングで面白かったです。ただ、パフォーマンスはもっとガツンとやってほしいな(笑)」

ORIE

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 2番目のアクトは、平均年齢19歳、都内のライブハウスを中心に活動しているORIE。男女による掛け合いボーカル(曲によってはベースのわかつきがリードをとって、ギターのマツカワイクトがコーラスを歌う)という最近のバンドにおいては珍しいスタイルで、その特徴を活かしたキャッチーなメロディと清冽なギターサウンドが特徴。また、独特の言語感覚による繰り返しの多い歌詞も印象に残る。結成から間もないこともあって、バンドの統一感、オーディエンスの盛り上げ方などライブパフォーマンスの見せ方においてはまだ課題が残るものの、化ける可能性は大いにアリ!? ■ゲストウォッチャーコメント 豊島直己「すごく雰囲気のあるバンドで、正直『いい!』と思いました。ただ、まだ演奏面の力量が追いついてないところがあって。特に2本のギターのアンサンブルなどに研究する余地があると思いました」 川崎みるく「わかつきさんのボーカルは女の子なのにミドルがしっかりしていて、マツカワさんのボーカルは男の子なのにハイがキレイな声で。二人の声が重なるところはすごく魅力的なんだけど、オイシイところが近い声でもあるので、曲によってはキーを変えるとか、まだまだ工夫のし甲斐があるんじゃないかな」

被写体X

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 3番目のアクトは、2010年に都内で前身バンド結成、翌2011年に現在のピアノトリオ編成となった被写体X。女性ボーカルをメインとするいわゆる「聴かせる」タイプのピアノトリオではなく、カオティックなピアノの旋律とタイトなリズム隊が織りなす、予測不可能でスリリングな楽曲構成がインパクトを生んでいる。各メンバーのプレイヤビリティも高く、曲の途中でいきなり激しくなるなど、聴かせ所を押さえた緩急自在な演奏も見事。最もポップで素直なメロディが鳴らされていた4曲目の「メリーさん」からは、このバンドの大きな可能性を垣間見ることができた。 ■ゲストウォッチャーコメント 宇野維正「音楽的なスキルの高さとその完成度に驚きました。ただ、意図的にそういう選曲にしたのかもしれませんが、今日はテンポの早い曲ばかりだったので単調さがちょっと気になりました。ゆったり目の曲も是非聴いてみたい」 小倉昭彦「アバンギャルドとポップの間を行き来しているんですけど、アバンギャルドに寄りすぎている曲もあったりして、ちょっと頭でっかちなところを感じました。とてもいいキラキラしたメロディも持っているバンドなので、もっといいバランスがあるんじゃないかな」

NeruQooNelu

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 4番目のアクトはNeruQooNelu。昨年結成されたばかりながら、一朝一夕に身に付くわけがない飛び抜けたセンスを誇る、プロフィールに謎の多いバンド。その音楽性はピクシーズ、あるいは女性ボーカルという意味ではそのメンバーのキム・ディールが結成したブリーダーズを思わせるような90年代USオルタナティブロック。しかも、その最上級のヤツ。「それを今の日本で鳴らす意味は?」なんて疑問も頭をよぎるが、聴いているうちにサウンドのあまりの気持ち良さにどうでもよくなってしまう。ウソかホントか「海外進出も計画している」とのことだが音のクオリティ的にはそれにも頷ける、メンバーのキャラクターもそれぞれ別々のベクトルで濃い、とにかく異色のバンドだった。 ■ゲストウォッチャーコメント 豊島直己「グルーブもあって、サイケデリックで、非常に楽しめました。ただ、どこかで聴いたことがあるようなメロディもあったりして、オリジナリティの部分で気になるところはありましたね」 宇野維正「日本のバンドにはなかなかいない自然なサイケデリック感があって、どうしてそれを身につけることができたのか気になりました。音楽マニアにとって『あのバンドいいよね』ってところまでは確実にいけるバンド。ただ、それ以上を目指すには、何かが必要な気がします」

BOYS END SWING GIRL

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 5番目のアクトは、千葉の成田からやってきた全員20歳の4人組バンド、BOYS END SWING GIRL。変化球的なバンドが多かったこの日にあって、最も真っ直ぐなギターバンド。コーラスの入り方やギターのアンサンブルも、同時代のロックをよく研究している跡がうかがえて、オリジナリティには欠けるきらいはあるものの非常に高い完成度を持っていた。ステージの上に立った4人の様になっている姿、そして「僕らは音楽の世界で日本代表になりたい」と自分たちの夢を語る熱いMCも印象的。「即戦力」という言葉が頭をよぎった。 ■ゲストウォッチャーコメント 川崎みるく「とても真面目に、高いところを目指しているバンドだということが伝わりました。アドバイスをするとしたら、自分たちの悪いところをみつけて反省したりするのではなく、いいところを伸ばしていくことだけを考えた方がいいと思います」 原田公一「ボーカルもいいし、バンドのアンサンブルもいいし、オーディエンスへのアピールの仕方も良かったし、とてもいいバンド。ただ、競合するバンドがとても多い場所にいるので、特に歌詞の面では、わかりやすいだけじゃない深みのようなものがほしい」
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 この日は、最後にゲストアクトとしてオワリカラが登場。2010年に『ドアたち』でアルバムデビューして以来、その圧倒的なライブパフォーマンスでロックシーンにおいて頭角を現した、日本発の独自のサイケデリックロックを鳴らすバンドだ。「自分はバンドでオーディションを受けたりとかデモテープを送ったりした経験がなくて、こういう場に立っているのが不思議な感じがする。だから、今日はゲストというよりはチャレンジャーのつもりで挑ませてもらっています」と語るフロントマンのタカハシヒョウリ。その言葉の通り、彼らの初期の代表曲「団地」では、彼らにとって初めての試みとなる映像と音をシンクロさせたパフォーマンスを披露。フロアいっぱいのオーディエンスにとって、嬉しいサプライズとなった。  前回のHARENOVA Vol.02に続いて、この日もいわゆる通常のオーディションイベントやショーケースライブとは違って、各バンドの強烈な個性がぶつかりあってステージ上が特別な空気に包まれていたHARENOVA vol.3。オーディエンスも、MC陣(今回は土岐麻子が参加して、その的確かつユーモア溢れるコメントで会場の空気をあたためてくれた)も、そしてゲストウォッチャー陣も、このユニークで刺激に満ちたイベントの楽しみ方をそれぞれが自由に見つけるようになってきた。「想像していた以上に出演バンドがバラエティに富んでいて、本当に楽しめました。4曲、5曲聴けると、バンドの個性がわかりますよね」(豊島直己)。「キュレーターとしての冨永周平さん(HARENOVA制作チーフ)の個性がすごく出ているイベントで、そこがとても興味深かったです。主催者の『このバンドを見せたい!』という気持ちが伝わってくるところが他のイベントと最も違うところですね」(川崎みるく)。「HARENOVAを観るのは2回目ですけど、イベントの性格がよりはっきりしてきましたね。今はメジャーのバンドも『ライブで何ができるのか?』というところでみんな頑張っている時代だから、ライブバンドとしてのポテンシャルを知る上でこういうイベントはとても意味があると思います」(小倉昭彦)。  渋谷clubasiaでの開催は次回の7月16日がラストとなるHARENOVA(8月にはTSUTAYA O-ESTでFINALを開催)。ゲストアクトの住岡梨奈は、堂島孝平率いるバンド編成でのステージを準備をしているとのこと。日本の音楽シーンの今日と明日、表と裏を一晩で見渡すことができるユニークなイベントHARENOVA。あなたも参加してみては? (取材・文=宇野維正/撮影・Ohagi) ■ライブ情報 SMA 40th presents NEXT NEW LIVE SERIES 『HARE NOVA ハレノヴァ Vol.04』 7月16日(水) 東京・渋谷 clubasia (開場18:00 / 開演18:30) 出演(50音順) ShiLock 中村佳穂 BELLRED Marmalade butcher もしもしくじら ・ゲストアクト 住岡梨奈 Gt: 堂島孝平 Dr: 小松シゲル (NONA REEVES) B: 須藤優 (ARDBECK,U&DESIGN) Key: 渡辺シュンスケ (Schroeder-Headz,cafelon) ・MC 木村ウニ (蜜) 冨永周平 (ソニー・ミュージックアーティスツ 「HARE NOVA」) 前売¥2,000 / 当日¥2,500 (税込・ドリンク代別・整理番号付・オールスタンディング) Pコード:229-706 http://pia.jp/t/harenova/ セブンイレブン店頭の端末で直接ご購入いただくと、システム利用料¥210/枚がかかりませんので、そちらもご利用ください。 SMA 40th presents NEXT NEW LIVE SERIES 『HARE NOVA FINAL !!!!!』 8月28日(木) 東京・渋谷 TSUTAYA O-EAST (開場17:30 / 開演18:00) http://shibuya-o.com/category/east ゲストアクト UNISON SQUARE GARDEN http://unison-s-g.com/ 前売¥2,500 / 当日¥3,000 (税込・ドリンク代別・整理番号付・全自由) チケット一般発売日:2014年7月16日(水) 10:00~ Pコード:236-830 http://pia.jp/t/harenova/ セブンイレブン店頭の端末で直接ご購入いただくと、システム利用料¥210/枚がかかりませんので、そちらもご利用ください。 ■原田公一:1977年より南佳孝のマネジメントを担当。その後、UNICORNPUFFYほか多くのアーティストに携わる。現・ソニー・ミュージックアーティスツ取締役。 UNICORN オフィシャルHP:http://www.unicorn.jp/ PUFFY オフィシャルHP:http://www.puffy.jp/ ■豊島直己:株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント制作本部副本部長。 ■川崎みるく:キューンミュージックで多くのアーティストの制作を手がける。現在はシナリオアート、BLUE ENCOUNTを担当。 シナリオアート オフィシャルHP:http://www.scenarioart.jp/ BLUE ENCOUNT オフィシャルHP:http://blueencount.jp/ ■小倉昭彦:ソニー・ミュージックアーティスツにて西野カナ、片平里菜ほかマネジメントチーフを担当。 西野カナ オフィシャルHP:http://www.nishinokana.com/ 片平里菜 オフィシャルHP:http://www.katahirarina.com/ ■宇野維正:音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

9mm Parabellum Bulletが10年で到達した場所とは?「ロックの水を求める人たちに道を作っておく」

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【リアルサウンドより】  デビュー10周年を迎えた9mm Parabellum Bulletが、7月9日にベストアルバム『Greatest Hits』をリリースする。これまでのシングル、EPの表題曲だけではなく、初回限定生産盤にベストライブ音源も収録された本作は、CD音源とライブパフォーマンスの両面において、バンドの10年の軌跡を辿ることができる作品である。今回リアルサウンドでは、今やライブシーンを代表するバンドとなった彼らにインタビュー。菅原卓郎(Vo&G)とかみじょうちひろ(Dr)に10年間のパフォーマンスを振り返ってもらうと同時に、バンドシーンはどう変化してきたか、さらにはこれからの音楽の届け方についても語ってもらった。

菅原「初期の自分たちを見ていると『こいつら、何て危ない橋を渡ってるんだ!』って思う」

――結成10周年の節目にリリースされるベストアルバム『Greatest Hits』は、これまでのシングル、EPの表題曲が収録されたCDとなっていて、初回限定生産盤『Greatest Hits~Special Edition~』にはこれまでのベストライブ音源「Selected Bullet Marks」がDisc2に付属されています。2枚組となった経緯とは? 菅原卓郎(以下 菅原):ベストアルバムのミーティングをしていて、いろいろとアイディアを出していた中で、滝(善充)が「ベスト盤の方はシンプルにシングルを集めたものでいいんじゃないか?」と提案したんです。その理由は、LUNA SEAGLAYとかBLANKY JET CITYとか「自分たちが子供の頃音楽に出会ったきっかけはベスト盤だった」ということで。はじめから2枚組にすることは決まっていたので、もう1枚は遊んだもの、9mmらしいことをしよう、と考えてライブベスト盤にしました。しかも最近のものだけではなくて、初めてやったワンマンライブの1曲目から始まるという、歴史を辿っていく作りです。 かみじょうちひろ(以下 かみじょう):そもそも「ライブベストを」と言い出したのは俺です(笑)。「普通にベスト盤出すことは数多のバンドがやってきていることだから、ライブベストにしたら面白くね?」って言って。 菅原:EPのカップリングは、ライブをまるごと1本入れるっていうのをやってきたから、かみじょうくんの意見を聴いたときに「そういう感じになるな」というイメージは湧きましたね。 ――ライブ音源のほうは初期の荒々しい演奏が特に印象的ですね。改めて過去のライブ音源と向き合って、どんなことを感じましたか。 かみじょう:当時の自分たちの武器はテンションのみだったなと。技術的なところではなくて、良いテンションのみが収録されていると思います。で、そのテンションは今やろうと思っても表現できないもので、そういうものが音源として閉じ込められていて、いいなと思いました。 菅原:再演することはできても、過去のものを完全に再現することは無理です。こういう風にはもう弾けないもんね? かみじょう:どっかの偉いミュージシャンが「音楽は二度と同じ表情をしない」とか言ってましたけど、たぶんそれなんだと思います(笑)。 菅原:初期の方の音源はコードを間違えたりとか、ものすごいミスが入りまくってますけど、むしろそれがいいというか。「こいつら、何て危ない橋を渡ってるんだ!」とか「すげー間違えてるけど最高」って思いましたね。そのときのその瞬間が収められていて良いですね。動きまくってライブしてる奴のほうが絶対かっこいいって思ってましたから当時は「いけるところまでやりたい」という気持ちでしたね。

菅原「尖ってる部分をなくさずに洗練させるには、技術だけじゃなくてハートが必要」

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――2005年以降はロックバンドにとってライブが活動の中心になってきた時期でもありますが、その中で9mm Parabellum Bulletはライブシーンを牽引してきたバンドではないかと思います。初期の衝動的にやっていた時代から、ライブに対する意識は変わってきましたか? 菅原:ライブに対して何かを意識して、というよりかは、バンドをやるにあたって曲を作ってライブするのが当たり前という感覚です。その上で、さっきも言ったようにそのときなりの最高点、限界までやる、という感じはずっと続けてきました。ライブ盤を聴いていてわかるのは、演奏がうまくなっていくことにフォーカスが当たりがちですけど、サウンドがよりデザインされていく、メンバー各々が自分だけの音を出せるようになって、それが荒々しさをそのまま洗練させていってるようにも感じます。尖ってる部分をなくさずに洗練させるには、技術だけじゃなくてハートが必要なことだと思います。だからガラッと変わったというより、最初に持っていたものを生かすために変わっていっている、という感じかな。 ――なるほど、荒々しさを保ったまま洗練されていくというのは、9mmの音を的確に表現した言い方ですね。それを支えるのは個々のプレイヤーの粒立った音だと? 菅原:ローディさんがライブのリハでチェックしてくれているのと本人が弾くのとで、全然音が違う、というようなことですね。音にその人の名前が書いてあるような感じが、よりはっきりしてきているんじゃないかな。 かみじょう:ライブがかっこ悪いバンドってすごくかっこ悪いと思っていました。デジタルレコーディングできる時代になって、編集はいくらでもできるので、実際にプレイヤーがその場で演奏してできていないのって「すっげえダサいな」と。ライブでやることが一番かっこいいというバンドになるならライブに力を入れるべきっていう意識は、話し合わなくてもみんな自然に共有していた気がします。「一緒に全力で走ってくれる友達」みたいな感じがあったというか。はじめの頃のインタビューでは、みんながみんな「お互いがライバル」みたいなことを言っていましたね。 ――張り合いながら一緒に全力で走る、と? 菅原:そうですね。ステージでもより目立とうとしていたかも。でもそれが次第に、それぞれが相手を殺さずに自分の激しさでライブ表現するっていうことにずっと挑戦してきたんだと思います。ライブは特に、PAエンジニアやステージクルーのように、俺たち以外のスタッフも必ずいるので彼らとも力を結集してずっとやってきてます。自分たちは自分たちのライブを見れないから、スタッフたちが冷静に見てくれて、彼らとのやりとりを通じて良くなってきたんだと思います。 ――これまでのライブの中には、「やっちゃったなぁ」という日もありましたか? かみじょう:「やっちゃったなぁ」しかないですね(笑)。例えば4人でキメるところで、スティック落としてた、とかコード間違えた、とかみんなあります。ドラマーの俺としては、カウント間違えた、というのが10年間で2、3回あります。スタッフさんが貼っておいてくれたセットリストが前回ので、俺だけ見てるセットリストが違う、ということもありましたね(笑)。 菅原:それが武道館じゃなくてよかった(笑)。

かみじょう「対バンは「槍と剣が戦う」から面白い、みたいなノリで、学ぶことも多い」

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――これまで9mmは、いろいろなバンドと共演してきましたが、これは意識的に選択してきたことでしょうか。 菅原:「対バンしよう」って誘ったり誘われたりするときには、よっぽどスケジュールが難しくない限りはやってきました。だから対バンに力を入れてきたっていうより、自然なことですね。そもそもはライブハウスで1バンドだけでライブできないからね。最初から300人のファンがいるバンドはいないわけで、最初はバンドで対バンして、それぞれに10人くらいお客さんがいてっていう小さいシーンから始まります。俺らずっとお客さんいなかったねえ(笑)。 かみじょう:いなかったねー(笑)。 菅原:だから他のバンドとやるのは自然なことだと思っています。必ず何かを得られるし、向こうも何か影響を受けるし。CDを出すようになってからは自分が尊敬しているバンドとやることが多くなっていますけど、そもそも昔は街のライブハウスで、お互いにどこの馬の骨ともわからない同士でやるわけじゃないですか?そういうときはもう「俺達が一番かっこいいんだ」っていう気持ちでやっていました。そうじゃないと良いライブにならないと思うし、そういう中で良いバンドとも出会えると思います。よく「ガチンコ勝負」って言うし。シーンって、作ろうとして作れる人もいると思うけれど、だいたいは後から発見するものだと思います。「あのへんで面白いことが起きてるらしい」って、気がついたらできてる、みたいな感じだと思うんです。観に行ってるお客さんも最初からお客さん同士でつながりがあるわけじゃないだろうし、「シーンが生まれる最初は、3000人や300人の前では起こらない。20人くらいの前で起きる」っていう話を聞いたことがあります。とにかく、当時自分たちが感じていたことは、the telephonesとかミドリとかといっぱい対バンして楽しかったな、という感じです。何かを作ろうっていうんじゃなくて、「やっと気が合う仲間と出会えた」という感じかな。 ――音楽的な方向性は違っても気が合う、という感じですね? かみじょう:異文化コミュニケーションみたいな感じですかね。みんな同じ方向見ていたり同じ武器で戦っていても面白くないじゃないですか?「槍と剣が戦う」から面白い、みたいなノリで、学ぶことも多いです。バンドによって、ピークの持ってき方や空気感の作り方も全然違うので、見ていて「あれ真似しよう」とか「あれはかっこ悪いわ」とか、本当にいろいろあります。 ――卓郎さんの「シーンは後から発見する」という言葉が印象的でしたが、自分たち以外を取り巻く環境の変化はどう感じていますか? 菅原:僕らが結成してからこの10年間で、解散したり活動休止したバンドもいます。逆にユニコーンみたいに復活してドーンとツアーを回るバンドもいます。あんまりリスナーと変わらない気持ちで見ていますね。ただその中でバンドをやっているだけです。あんまり気にしていないです。ただ、お客さんも含めて、シーンについて話す人がいるけれど、自分たちがシーンであることをわかっていないんじゃないかな、と思うことがありますね。シーンって言うときには自分たちも含まれるということを。それから、全員ってわけじゃないけど、ライブの見方が画一的になっているような気がします。音楽全部そうですけど、例えばモッシュとかダイブとか、ある時代に生まれた誰かの価値観のはずで、それを借りてやってるんです。うまく言えるかわからないけど、「音楽に対する反応はそれだけじゃないのにな」と思うことがあります。ただモッシュしたい、ダイブしたい、暴れたい、というだけだったら人集めてラジカセ持って公園でやったっていいじゃないですか?生の人間が演奏しているということを忘れて、ただ曲が流れているものとしてライブを観ているのかな?と思うときはあります。フェスも見ていると、「君たちが見にきているアーティストはもっといろんな世界、いろんな楽しみ方があるもっと素晴らしいものを表現しているんだけどな」って感じることがあります。でもそれは自分たちがコントロールしきれるものではないし、せめて俺達が演奏しているときには、そういうことが起きてほしくないので、一層気合入れて演奏しています。

菅原「仕事として自分ができる一番いいものはバンドだ、ということに気づいた」

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――この10年間で自分たちを客観的に見て、バンドとしてはどのような存在になっていると思いますか。 かみじょう:客観的に見るなら「メタル歌謡」というような、ありそうでなかった感じはやれていると思います。ハイスタ(Hi-STANDARD)が、GパンTシャツでステージに上がるっていう、それまでのステージ文化にはなかった価値観を作りました。くるりが、草食系男子がハードなギターを弾くかっこよさみたいな価値観を作りました。例えば俺らが持っているリフとかってちょっとダサいけど、でも聴きたくなる、みたいな、いろいろなものの合間を縫ったギリギリのものは提示できたと思います。お客さんもついてきてくれたから、それは成功と言っていいんでしょう。 ――ライブと同時に、作品もコンスタントにリリースしてきました。バンドを突き動かしているものは何でしょうか? 菅原:やっぱりバンドがやりたいということですね。かみじょうくんも「ドラマーでいたい」というのはあると思います。10年バンドを続けてきたことで、自分が持っている一番いいもの、出会った人に一番いい影響を与えられるものが、バンドなんです。震災が起きたときで言うと、そのときに一番必要なのは、寝る場所やご飯や毛布ですから、当然そのときは音楽から遠ざかってしまうと思います。でも出番が来たら、音楽で良いものを届けられるはずだと。自分ができる一番のものはバンドだ、ということにそのとき気づきました。 かみじょう:日立のキャッチコピーに「世界が変わるといいね それは日立が変えたい」というのがあるんですけど、何かかっこいいバンドがいたときに、そのバンドのメンバーでいたい、と思いますね。あと、パソコンとインターネットの普及で趣味が多様化して、日本でもアメリカでも正直ロックは下火です。でも音楽に拠り所を求める人はいます。特に日本では、海外みたいにただ単純に酒飲んで踊る、というのと違って、とかくロックに精神性を求める文化だと思っているので。音楽好きな人たちがいてくれるので、そういう人にかっこつけたいです(笑)。 菅原:趣味が多様化したことで、「音楽がないと駄目だ」って言ってた人たちは一体どこに行っちゃったんだろう?って考えることもあります。村上春樹さんが、多くの人が本を読まなくなったことに対して「水路を作ってあげる」と言っていました。それを聞いてなるほどって思いました。「9mmの水が飲みたい」っていう人たちのために道を作っておくというか、「ロックの水がないと生きられない」っていう人は必ずいるはずだから、その人たちがそれに気づいたときに来れるようにしておかなきゃいけない、存在していなきゃいけない、というふうに、別に肩肘張らずにそう思います。 (取材:神谷弘一/構成:高木智史)
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9mm Parabellum Bullet『Greatest Hits』(ユニバーサルミュージック)

■リリース情報 初回限定生産盤/10周年盤 『Greatest Hits ~Special Edition~』 発売:7月9日 価格:¥3,780(税込) 〈収録曲〉 〔Disc.1〕「Greatest Hits」 1.The World 2.Discommunication 3.Supernova 4.Wanderland 5.Black Market Blues 6.Cold Edge 7.命ノゼンマイ 8.新しい光 9.カモメ(Strings Version) 10.ハートに火をつけて 11. Answer And Answer 〔Disc.2〕「Selected Bullet Marks」(ライブ音源ベスト) 1. 「(teenage)Disaster」 (2007.02.25 "機械の遺伝子" at 渋谷 O-nest) 2. 「Beautiful Target」 (2007.09.09 "カオスの百年 vol.4" at 渋谷 CLUB QUATTRO) 3. 「Caucasus」 (2007.11.28 "硝子越しの暴走" at 恵比寿 LIQUIDROOM) 4. 「Heat-Island」 (2008.02.08 "Termination Tour 07/08" at 渋谷 CLUB QUATTRO) 5. 「sector」 (2008.06.06 "無重力のキューブ" at SHIBUYA-AX) 6. 「Living Dying Message」 (2008.10.18 "暁の野音" at 日比谷野外大音楽堂) 7. 「Vampiregirl」 (2009.01.29 "VAMPIRE EMPIRE TOUR 08/09" at 京都 磔磔) 8. 「Talking Machine」 (2009.09.09 "999(アット ブドウカン) " at 日本武道館) 9. 「キャンドルの灯を」 (2010.06.24 "Revolutionary Tour 2010" at 東京 NHKホール) 10. 「Lovecall From The World」 (2010.09.09 "カオスの百年 vol.7" at 新木場 STUDIO COAST) 11. 「Termination」 (2011.06.26 "Movement YOKOHAMA" at 横浜アリーナ) 12. 「Scenes」 (2011.09.09 "Movement Moment Tour 2011" at Zepp Fukuoka) 13. 「Mr.Suicide」 (2012.09.09 "カオスの百年 vol.8 昼の部[女性限定ライブ]" at 下北沢 GARDEN) 14. 「The Revolutionary」 (2012.09.09 "カオスの百年 vol.8 夜の部[男性限定ライブ]" at 下北沢 GARDEN) 15. 「Punishment」 (2013.03.09 "39 -Thank You- LIVE" at 新宿 風林会館) 16. 「光の雨が降る夜に」 (2013.04.17 "桜前線ブッタ斬リ2013" at Zepp Namba) 17. 「Scream For The Future」 (2013.09.09 "カオスの百年 vol.9" at 横浜BLITZ) 18. 「新しい光」 (2013.11.01 "Breaking The Dawn Tour 2013" at Zepp Sapporo) 19. 「Answer And Answer」 (2014.02.07 "10th Anniversary Live「O」" at 日本武道館) 20. 「黒い森の旅人」 (2014.02.08 "10th Anniversary Live「E」" at 日本武道館) 期間限定スペシャル・プライス盤 『Greatest Hits』 発売:7月9日 価格:¥1,999(税込)※2014年8月29日までの期間限定出荷盤 〈収録曲〉 1.The World 2.Discommunication 3.Supernova 4.Wanderland 5.Black Market Blues 6.Cold Edge 7.命ノゼンマイ 8.新しい光 9.カモメ(Strings Version) 10.ハートに火をつけて 11. Answer And Answer ■ライブ情報 『Next Bullet Marks Tour 2014』 9月27日(土) 札幌 PENNY LANE24 [北海道] 9月28日(日) 札幌 PENNY LANE24 [北海道] ※GUEST BANDあり 9月30日(火) 帯広 MEGA STONE [北海道] 10月5日(日) 酒田 MUSIC FACTORY [山形] 10月7日(火) 盛岡 CLUB CHANGE WAVE [岩手] 10月9日(木) 仙台 Rensa [宮城] 10月10日(金) 仙台 Rensa [宮城] ※GUEST BANDあり 10月16日(木) 渋谷 La.mama [東京] 10月18日(土) 横浜 club Lizard [神奈川] 10月25日(土) 福岡 DRUM LOGOS [福岡] 10月26日(日) 福岡 DRUM LOGOS [福岡] ※GUEST BANDあり 10月31日(金) 松本 ALECX [長野] 11月2日(日) 新潟 LOTS [新潟] 11月3日(祝•月) 金沢 EIGHT HALL [石川] 11月8日(土) 岡山 CRAZYMAMA KINGDOM [岡山] 11月9日(日) 広島 CLUB QUATTRO [広島] 11月11日(火) 京都 磔磔 [京都] 11月15日(土) 川崎 CLUB CITTA’ [神奈川] 11月19日(水) 水戸 LIGHT HOUSE [茨城] 11月21日(金) 高崎 club FLEEZ [群馬] 11月25日(火) なんば Hatch [大阪] 11月26日(水) なんば Hatch [大阪] ※GUEST BANDあり 11月28日(金) 高松 MONSTER [香川] 11月30日(日) 浜松 窓枠 [静岡] 12月4日(木) 名古屋 Zepp Nagoya [愛知] 12月5日(金) 名古屋 Zepp Nagoya [愛知] ※GUEST BANDあり 12月10日(水) 新木場 STUDIO COAST [東京] 12月11日(木) 新木場 STUDIO COAST [東京] ※GUEST BANDあり ■9mm Parabellum Bullet 10th Anniversary特設サイト

BiS解散ライヴを徹底レポート あえて「立つ鳥跡を濁す」結末に

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7月8日、横浜アリーナで解散ライヴ「BiSなりの武道館」を行ったBiS。

【リアルサウンドより】  BiSは伝説を残すことを拒むかのように解散した。「伝説の現場だった」と言う人もいるかもしれないが、BiSの4回目のライヴから見てきた私にしてみれば、「凄さ」で解散ライヴを上回るライヴは他に何度もあった。現在のプー・ルイ、ヒラノノゾミ、カミヤサキ、テンテンコ、ファーストサマーウイカ、コショージメグミの体制でもだ。しかし解散ライヴでのBiSは、一切のMCを排して約3時間半で49曲を歌い続け、最後の最後にとんでもない衝撃を残していったのだ。  そのアイロニー、シニカルさこそ終わりゆくBiSの真骨頂であった。公演のサブタイトルの「騙された気分はどうだい?」とは、ジョン・ライドンのセックス・ピストルズ脱退ライヴでの言葉だが、それが今日のライヴを象徴するかのように。
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開演前の横浜アリーナ周辺の様子。

 2014年7月8日、横浜アリーナでBiSの解散ライヴ「BiSなりの武道館」が開催された。会場の外には、研究員(BiSファンの総称)が本物の業者に依頼して献花台を設置。メンバー6人のために6つの花輪が立てられ、遺影や棺桶、果物籠まで置かれていた。献花する研究員の列は絶えず、ライヴで見たこともない異様な光景が展開されていた。  メンバーが「チケットが1万枚余っている」と言っていたライヴだったが、蓋を開けてみれば、会場を狭めて使用したとはいえ、ほぼ満員に見える状態。スタッフからの諸注意の後、約30分遅れでライヴはスタート。まずBiSと脱退メンバーのナカヤマユキコ、ヨコヤマリナ、ミチバヤシリオが登場し、代表曲「nerve」が歌われた。
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脱退メンバーを加えた9人編成で、彼女たちの代表曲「nerve」が披露された。

 その後、マネージャーの渡辺淳之介とプロデューサーの松隈ケンタが登場し、渡辺淳之介がキックとクラップを要求しながらクイーンの「We Will Rock You」を歌うという、忘年会の二次会のような状況に。諸注意をしたスタッフが「伝説になるといい」と涙ぐんでいたことといい、こういう内輪ノリが良くも悪くもBiSにはつきまとってきたな……と複雑な気分になったところで、ライヴのオープニング映像が始まった。  ライヴはまずラスト・シングルの「FiNAL DANCE」から。会場には研究員を制圧すべく屈強な黒人セキュリティが多数配置されていたが、続く「プライマル。」で早くも研究員とセキュリティが揉め出す状況に。順調な滑り出しだ。これは最後まで延々と続くことになる。  そしてライヴ開始後まもなく気づくことになったのは、「新しい楽曲から古い楽曲へと遡っている」という事実だ。そして、2012年の夏から2013年の春までの楽曲へ突入すると、脱退したメンバーを思い出し、胸が苦しくなりだした。  今日のオープニングの「nerve」に現れなかった脱退メンバーはふたり。ひとりは順調にソロ活動をし、横浜アリーナにも花を出していた寺嶋由芙だ。彼女はライヴ活動も活発なので、いつでも会うことができる。ただ、もうひとりのワキサカユリカはパブリックな場に一切現れなくなった。BiSには「Hide out cut」という美しい名曲がある。ワキサカユリカ在籍時最後の楽曲だ。ライヴが進行していくと、欠けてしまい取り戻せなくなったものも浮きあがらせてしまう。これもまたBiSが抱えた罪なのだ。
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横浜アリーナでも普段通りダイヴを試みたカミヤサキ。

 途中で休憩が入ったが、わずか3分間。ライヴ後半は必然的にさらに古い楽曲が歌われ、ノスタルジーと苦しさが入り混ざっていった。trfのカヴァー「survival dAnce 〜no no cry more〜」を聴いたときには、2012年9月23日の「おながわ秋刀魚収穫祭」で歌われたときのことを思い出した。瓦礫が撤去されて、3つの震災遺構が残る以外はほぼ何もない女川町で、さらにゲリラ豪雨を受けた後に、BiSも研究員も総力戦で臨んだライヴだ。あのときBiSは何のエクスキューズもなくライヴをした。そのBiSの姿勢は、メンバーが変わり、ステージからのダイヴを繰り返し、リフトアップされて研究員の頭上にメンバーが立つ現在も変わらない。同じようなことをするアイドルは別に他にもいるのだが、BiSが見る者に衝撃を与えるのは、同じことをしてもエクスキューズがなく、言い換えると無謀だからだ。それは、BiSと非常階段とのコラボユニット「BiS階段」を通して大きく進化した。歌唱やダンスについて決して高い技術を持っているとは言えないBiSだからこそ果たした「異常進化」だったのだ。カミヤサキは「IDOL」で横浜アリーナでもフロアへダイヴした。その一方、客席では研究員をセキュリティが羽交い締めにする光景も。修羅場である。
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「パプリカ」で“騎乗位パフォーマンス”を披露するプー・ルイ(下)とコショージメグミ(上)。

 そして、2011年のファースト・アルバム「Brand-new idol Society」の楽曲群へ。ここで終わりだ。「パプリカ」ではプー・ルイとコショージメグミが騎乗位を交互にしてみせる。何をしているのだろうか……。一方、「太陽のじゅもん」を聴きながら、松隈ケンタ率いるSCRAMBLESが作り上げたファースト・アルバムが名盤だったからこそ、その後もBiSは高い音楽性を評価され、イロモノに終わらずに済んだことを再確認させられた。スキャンダラスなプロモーションなど、BiSにとっては実は枝葉に過ぎないのだ。
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研究員によって大量に投げ込まれたバルーン。

 そして終盤を迎えると、「レリビ」で客電がつき、メンバーが客席の通路を歌いながら歩いていく。セキュリティに阻まれていた研究員も遂に彼らを突破し、BiSを追いかけはじめる。さらに会場には巨大なバルーンが大量に投げ込まれた。これは研究員が用意し、必死に膨らませて、チケットを大量に買って確保したスペースに置いてあったものだ。最後に再び歌われた「nerve」でも横浜アリーナの空間をバルーンが飛び交った。  そしてエンディング映像が終わると渡辺淳之介が現れ、メンバーの今後を発表。プー・ルイはすでに始動しているバンド「LUI◇FRONTiC◆松隈JAPAN」で活動。しかし予想外だったのがここからだ。ヒラノノゾミとファーストサマーウイカは、NIGOと渡辺淳之介のプロデュースでユニット「ビリーアイドル」をスタート。カミヤサキは、現在いずこねこの茉里とのユニット「プラニメ」を結成し、タワーレコード傘下のT-Palette Recordsからデビュー。テンテンコはフリーで活動し、フェス「夏の魔物」にDJで出演することが決定。コショージメグミは、サクライケンタのプロデュースによる「book house girl(仮)」に参加するという。  そして呆気に取られたのは、「明日『元BiS』がワンマンライヴをする」というアナウンスだった。しかも価格は3万円。BiSは解散したというのに、翌日に「元BiS」としてライヴをするというのだ。客席からは、理解しかねるようなざわめきが起きた。「騙された気分はどうだい?」。公演のサブタイトルが脳裏に浮かんだ。やりやがった、と。献花台まで出して研究員がBiSを葬ろうとしたら、BiSはゾンビのように死ななかった、というオチがついた。
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開催前は大量の空席が危惧されていたが、当日はほぼ席が埋まった。

 「世界を変えようとしたけど変えられなかった」とメンバーは解散ライヴ前に語っていた。しかし、ラストツアー「THE BiS WHO SOLD THE WORLD TOUR」では熱狂を増し、6月25日の「異端児Festival」では、研究員の狂気に近い熱狂に恐怖すら感じたものだ。こいつらを救うには解散ライヴで爆発でも起こらないと無理だ、と考えたほどに。  ところがBiSは解散ライヴでMCもせず、ひたすらにパフォーマンスを続け、今後の活動と翌日のライヴのみを発表して、我々の前から去っていった。あまりにもあっけない。しかし、この底意地の悪さ、悪態のつき方こそ初期のBiSにあったものだ。
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左からカミヤサキ、コショージメグミ、ヒラノノゾミ、プー・ルイ、テンテンコ、ファーストサマーウイカ。

 BiSは、まさにBiSらしく終わった。「伝説」なんて、これまでの現場にいなかった連中の妄言に過ぎない。この後味の悪い、曖昧模糊とした感覚こそがBiSなのだ。約3年半の活動を経て、まだ概念としての「BiS」は完結していない。世界を変えられなかった女の子たちの物語こそがこれからの「BiS」なのだ、と解散ライヴで明かされてしまったのだから。あえて「立つ鳥跡を濁す」のがBiS。もう力なく笑うしかないのだ。 ■宗像明将 1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

ニューロティカ・あっちゃんが語る、バンド活動30年「文化祭の延長みたいな感じでやってきた」

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ニューロティカ結成30周年記念ドキュメンタリー映画 『あっちゃん』のイメージ画像。

【リアルサウンドより】  今年、結成30周年を迎えたパンクバンド「ニューロティカ」のボーカリスト、イノウエアツシことあっちゃんのドキュメンタリー映画『あっちゃん』が現在、製作されている。同映画は、制作費をクラウドファンディングサービスのキャンプファイヤーで募り、約940万円という、インディーズ映画としては異例の金額を集めたことでも話題となっている。  ライブ回数は1700回を超え、氣志團や175R、PUFFYなど様々なアーティストに影響を与えてきたニューロティカ。唯一のオリジナルメンバーであるあっちゃんは、普段はお菓子屋として働きながら30年間、バンド活動を続けてきた。その継続の秘訣とはいかなるものだろうか。そして、ニューロティカがシーンに与えた影響とは。  ドキュメンタリー映画の監督ナリオ氏と、主人公であるあっちゃんに、映画製作秘話や初期ニューロティカの時代を振り返るインタビューを行った。

NR30th映画『あっちゃん』予告編

ナリオ「インディーズ映画としては日本で一番の額が集まった」

ーーニューロティカの映画を作ることになったきっかけは? ナリオ:ドラムのナボちゃんが、30周年だから色々な事を仕掛けていこうと言っていて、その一環として映画を作ろうということになりました。厳密に言うと30年間続けているのはあっちゃんだけなので、なぜ彼がこれまでバンドを続けてこられたのかというテーマに密着したドキュメンタリー映画にしたいと思っています。僕は昔からニューロティカの映像に関わってきたので、今回の件は二つ返事で引き受けました。 あっちゃん:ナボちゃんはニューロティカのプロデューサー的な部分があって、サウンドはもちろん、PVの編集とかも自分でやっちゃうんですよ。 ーー資金集めにクラウドファンディングを使ったのも珍しいですね。 ナリオ:僕自身、そういう発想は全然無くて、最初はニューロティカ周りのお世話になってる方々に呼びかけて資金を集めようって話だったのですが、ニューロティカと親しいバンドの人がクラウドファンディングに詳しくて、色々と教えてくれました。目標額の350万円が集まるかどうかとみんなでヒヤヒヤしてたのに、最終的には250%になって。インディーズ映画としては日本で一番の額が集まったと言う記録が出ました。これも30年の信頼と実績でしょうね。 あっちゃん:最初、俺は「人からお金貰うなんて性格的にダメだ」って言ってたんだけど、みんなにちゃんとバックがあって、ただ貰うだけではないというので、クラウドファンディングを利用しました。でも、こんなに集まると思わなかったから、どうしようかと(笑)。とりあえず、一番高い額を寄附してくれた人に、楽曲に名前を入れてレコーディングするっていう企画とか、いろいろ考えている。 ーー公開はどれくらいの規模を予定していますか。 ナリオ:支援してくれるパトロンさん達との公約に「東名阪は絶対やります」っていうものがあるので、東京、名古屋、大阪の公開は絶対にやります。そこから札幌、九州とかも視野に入れたいですね。また、ライブハウスとかではなく、映画館で一般映画として公開するということにもこだわっています。ここ最近、ロック系のドキュメンタリー映画がすごく増えていて、しかもけっこう数字を出しているらしいんですよね。ニューロティカだって歴史のあるバンドで、同じステージに行っても負けないくらいのストーリーを持っていると思うので、そこで勝負したいと思います。 ーー今回、かなりあっちゃんの私生活に密着していると聞きましたが。 ナリオ:そうですね。ただ、内容がまだ固まりきらないところがあって。というのも、あっちゃんのお菓子屋の日常ってあまりにも普通なんですよ(笑)。そんなに特別な事が起こるわけじゃくて、普通に仕入れに行って、普通にお菓子を並べてっていう感じで。それをずっと撮っていても、ドラマが起こるわけでは無い。あっちゃんは公私ともにハッピーで、良い仲間に恵まれて、家族とも仲良いし、毎日美味しいお酒飲んでいるだけ。大体、おもしろいドキュメンタリーには悲劇が付き物なんだけど、あっちゃんにはそれがないんですよ(笑)。でも、その分ステージに上がってスポットライトを浴びている時とはギャップがあって面白いので、その辺をうまく引き出していけたら良いなと思っています。 あっちゃん:酒飲んでばっかりいるから、インタビューが全部撮り直しになったりしてね(笑)。 ナリオ:酒飲んでるとかっこつけたりするから(笑)。今回、あっちゃんの家に泊まりに行って、寝食を共にして私生活も丸ごと撮っています。その日々の中から、同期のバンドーー筋肉少女帯とかジュンスカとかブルーハーツとかがみんな解散したりしているのに、なぜ彼は30年間バンド活動を継続できたのかを見い出せれば良いなと。
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映画では、あっちゃんの普段の仕事の模様も。

あっちゃん「いつかパンクに殴られるんだろうなって覚悟はあった」

ーー映画では過去のことなどもたくさん語っているそうですね。 ナリオ:あっちゃんが当時の回想をして「あの時メンバーが辞めたのはこういう理由だった」とか真相を話しているんですが、メンバーの修豚さんとかジャッキーさんに話を聞くと、みんな言うことが全然違かったりするから驚きますよ。 あっちゃん:正直、何で辞めたか知らないんだよな(笑)。ただ、前のメンバーと一緒にやっていた10年というのは確実にその後の財産になっていて、初期のニューロティカを好きでいてくれた連中ーーPOTSHOTとかロリータ18号が、客が入らない時期を助けてくれたりもした。ありがたいことだよね。 ーー初期の頃だと、オムニバスアルバムの『Oi of Japan』とか、ソノシートでリリースした『Go or Stop!』などが印象的でした。 あっちゃん:TAMさん(THE STALINのギタリストで80年代にハードコアパンクを中心にリリースしていたレーベルADKの主催者)がすごく忙しい時期で、でも気に入ってくれて「ADKでは出せないけど、プロデュースするから自分達で出しなよ」って言ってくれたんだよね。で、高校の後輩のバンド「我殺」と自分達のレーベル「ネオファミリー」を作ってソノシートを出したんだ。85年の頃だね。その後、90年にコロンビアからメジャーデビューして6枚くらいCDを出して、契約が切れた後はPOTSHOTのレーベルのUKプロジェクトとか、175RのレーベルのLimited Recordsとかにお世話になった。で、2005年からは自分たちでレーベルをやり始めて、もう10年近く経っている。 ーーピエロのメイクはいつから? あっちゃん:バンド初めて4年目ぐらいかな? ロフトの『ネオファミリー大作戦』の1回目で、みんなに内緒で階段の上でスタッフの女の子にメイクしてもらって、下降りて行ったらみんなビックリして、そのままステージ上がってお客さんもビックリして(笑)。
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ピエロメイクはお菓子屋の仕事中に着想を得たとのこと。

ーーニューロティカはけっこう、ショッキングなバンドでしたよ。パンクなのに楽しいというのは、メジャーにもアンダーグラウンドにもいなかった存在。 ナリオ:当時のライブハウスはちょっと怖い場所だったのに、ピエロですからね(笑)。 あっちゃん:あっはっはっは。でもある程度、覚悟はあったよ。いつかパンクに殴られるんだろうなって。「このピエロ、チャラチャラしやがって」みたいな感じで(笑)。バンドマンはみんな知り合いだから良いけど、市ヶ谷の法政でやっててモヒカンがステージに飛んで来た時は「こりゃ殴られるかな」って思った。でも、不思議とそういうことは今までなかったね。 ーーなんでピエロだったんですか? あっちゃん:俺は髪の毛をうまく立たせられなかったんですよ。しかも革ジャンも持って無くて、どうしたらインパクトがあるかなって考えてた。で、たまたま家でお菓子を陳列してる時に「三角ハット」っていうウエハースに砂糖をまぶしたお菓子のパッケージにピエロが描いてあって「あ、これだ!」って閃いたんだよね。そして、いつも来てくれる洋服の専門学校に行っている女の子に「ピエロやりたいんだけど」って言ったら、その子が衣装を作ってくれた。ただ、ライブハウスが怖かった時代に育ったので、俺がピエロをやることで、それをちょっと明るくしすぎちゃったなっていう反省もあるんだよね、実は。 ーーでも、それで間口が広がったし、毎回ライブハウスで喧嘩ばっかりあったら本当に限られた奴しか来なくなるから、良かったと思いますよ。そういう意味でもニューロティカは既成概念をブチ壊してきた。逆にパンクだったと思います。 あっちゃん:ちょうど、色んなバンド同士の垣根がなくなってきた時期だったよね。当時、あそこの世界はアンダーグラウンドでカッコよかった。みんなが集まる所で、テレビにも映らない、本にも載らない、学校のクラスメイトもメンバーもわからない、俺しかわからない場所って言うか。俺にとっては一番カッコいい輝いた場所で、あそこ行けば誰かいるし、しかもみんなトッポい奴ばっかり。その時の仲間とは今も繋がっていて、ついこの前やった渋谷O-EAST 30周年ワンマンの時もなんだけど、イベンターは入れてなくて、ストッパーやらセキュリティやらチケットやらは、みんな友達が無償でやってくれた。全国どこでもそうなんですけど、本当に素敵な仲間に囲まれていますね。 ーーインディーズのシーンには、そういう「みんなで協力して形にする」っていうのが多いですよね。 あっちゃん:少し前に岡山に行った時、地元のバンドの子が無償でストッパーとかするんですよ。自分たちのライブハウスを守るんだって気持ちがすごい伝わってくる。で、みんな帰りは自転車で「どーもありがとうございましたー!」なんつって帰るの。もうそこだけで俺ね、素敵だなぁーと。
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ステージでは別人のようにパワフルなパフォーマンスを披露するあっちゃん。

あっちゃん「毎日楽しい事を見つけて、それを伝えたい」

ーー昔のインディーズシーンで、なにかビックリエピソードはありますか? ナリオ:そんなに昔の話じゃないけれど、興奮した女の子のお客さんがブラジャーを外して投げるってのがありましたね。振り回したりとか(笑)。 あっちゃん:あったねー、みんなおっぱい出してね。演奏どころじゃ無いよホントに。俺としてはやっぱり、そっちは見ないように「俺、関係無いよ」ってフリをしなきゃならないじゃん、ポロンと出てるのにだよ(笑)。 ナリオ:当時はお客さんもアヴァンギャルドだったのかもしれないですね。 ーーニューロティカは打ち上げもスゴかったですよね。 あっちゃん:昔は打ち上げだけ出てもタダ酒がありつけたもんね。そこでまた新しい繋がりが出来たりもした。旧ロフトには夜10時半になるとみんな集まっていて、毎日飲んでる感じ。で、俺はロフトの厨房入って勝手にビール飲んじゃったりしていたんですね。まぁ、それは大目に見てもらっていたんだけど、当時のマネージャーがちょっとヤンチャで、俺と同じような感じで飲んじゃって、ロフトの社長にぶん殴られたりとかしてた。で、みんな律儀だから「アツシ悪い!マネージャーぶっとばしちゃったよ」って電話かかって来るの(笑)。まぁ、めちゃくちゃだったけど楽しかったよ。 ーー最近のバンドシーンを見ていて思うことはありますか? あっちゃん:う~ん、別にあんまり無いですけどね。俺は自由にやって来たんで、みんな自由にやっていけばいいんじゃないかな。バンドを30年続けてきて、ほんの少しはロックシーンに貢献したっていう自負があるんだけど。あと友達のバンドが夜9時頃のテレビに出たりするのが嬉しいんですよね。 ーー今もライブでは3時間ぶっ通しで歌ったりしていますけど、そのパワーはどこから? あっちゃん:打ち上げの時には手がつっちゃったりしてるけどね(笑)。まぁ朝から仕事やっているんで、それで体力は付いてるかなって気がする。お菓子屋には肉体労働もあるんで。でもなにより、毎日毎日楽しい事を見つけて、それをみんなに伝えたいっていう気持ちが一番かな。それがニューロティカだって思ってるんで。こんな美味しいラーメン屋見つけたからみんなに教えたいとか、新しく楽しいことを見つけたから、ニューロティカを通じてそれを伝えたいとか、それがモチベーションになっていますね。ニューロティカは文化祭の延長みたいな感じで、俺自身、いわゆる精神年齢が25歳なんです。あとはロックを嫌がらないでなんでも出来るのがニューロティカなのかな。どうして30年間も続けてこられたのか、その答えが今回の映画に隠されていると思いますので、ぜひ観に来て下さいね。 (取材=ISHIYA、構成=編集部)