9nine、武道館公演で見せた「ガールズポップの本質」とは? 自由奔放なユニットの個性を追う

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 2014年現在のガールズポップスシーンを語る上で、もっとも難しい設問の一つは「9nineの魅力を一言で的確に表現せよ」ではないだろうか? 結成から9年、幾度かのメンバーチェンジを経て、グループとしてはベテランの域にさしかかろうとしている彼女たちだが、昨今の活動はファンの想像を越える部分もあり、さまざまな憶測や議論を呼んでいた。  昨年11月には、なんと新聞広告の一面を使って、9か月以上も先に行われる初の武道館公演を告知。「大箱をやるという目標を掲げて勢いをつける必要がある」と、その大胆なプロモーションを評する声がある一方、「いくら"9"年目のアニバーサリーイヤーだからって無謀では?」と、急速に見えるスケールの拡大を心配する声もあった。しかしその後、ヒットドラマ「リーガルハイ」のオープニング曲となった『Re:』、そして話題のTVアニメ「マギ」のエンディング曲となった『With You / With Me』と続けてリリースし、自己のシングル売り上げを更新。4月に行われた中野サンプラザのライブチケットも完売し、シースルースクリーンを使用したステージングが喝采を浴びるなど、着々と武道館公演へ向けて勢いを増していた。  もっとも印象的だったのは、2014年上半期ガールズポップスアルバムとしては最大の実験作にして野心作『MAGI9 PLAYLAND』の発売である。9nineはこれまでも積極的にEDM的なエレクトロサウンドを楽曲に取り入れてきたグループではあったが、あくまでトッピング的な使い方で、良質なガールズポップスにイマドキ感を加えるという感じだった。しかし『MAGI9 PLAYLAND』では、確信犯的にそうした9nineサウンドの構造を逆転させ、EDM的なサウンドストラクチャーの中でどう9nineを表現するのかに注力している。ある意味では非常に実験的な、コンセプトアルバムのような色合いをもったアルバムに仕上がっているのだ。楽曲は全て、OZO氏と101氏という2人のクリエイターだけで制作。つんく♂氏とモーニング娘。、あるいはブレイク直前の前山田健一氏とももいろクローバーZ、そして中田ヤスタカ氏とPerfumeといった、ガールズポップスアーティストと楽曲制作者の強力なタッグによってブレイクスルーを果たしたグループを連想させる制作体制といえよう。実際、9nineの楽曲の質感は明らかに激変している。  これらの流れを統合すると、9nineは明らかにこれまでとは異なる形態へとメタモルフォーゼしようとしていることが伺える。世界最初のアイドルグループといえるTHE BEATLESが、実験作「ラバーソウル」によってアーティストへと変貌していったように、9nineもまた「知る人ぞ知る良質ガールズポップスの担い手」という曖昧な立ち位置から、野心作『MAGI9 PLAYLAND』によって成長し、より強い「表現者」として自らのあり方を再定義しようとしているように見えるのだ。そうした変化を予感するに足る出来事が、彼女達には起こっていた。
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 9nineとは何か? “パフォーマンスガールズユニット”としてのアイデンティティを問われ、彼女達自身はもちろん、制作者側も、そしてファン達もその答えを出さなくてはならない場所。それが今回、8月21日に行われた初武道館公演だったのではないかと思う。  そんな緊張と興奮が渦巻く会場では、お馴染みの9nineコスプレの子供達から、急増中の9nineにあこがれる若い女子、9年間彼女達を支えてきたであろう熱烈なファンまで、幅広い層のファン1万人が固唾を飲んでその瞬間を見守っていた。  「With You / With Me」のアルバムバージョンで幕を開けたライブは、2曲目『MAGI9 PLAYLAND』からの「out of the blue」が流れた時点で、筆者の予想は完全に確信へと変わっていった。低音の出方が完全にフロアーオリエンテッドなダンスミュージック仕様となっていて、その「ロー」の迫力は、会場全体がどうノッていいのか戸惑うほどだったのだ。やはり9nineの音楽性は常に変化・進化を続けていて、それがこの低音の鳴りに現れているに違いない。ひょっとしたら今後、BABYMETALが海外のメタルフェスに参戦しまくっているように、世界中のEDMフェスに参戦することになるのではないだろうか……。しかし、そんな浅はかな「見立て」は、川島海荷のMCで徐々に揺らいでいく。 「わたし、全然今日が初めての武道館なんだぁっていう実感なかったんですけど、さっきみんなで遂にぶどうぱん食べたんですよ!!」  ぶ、ぶどうぱん? 「武道館でぶどうぱんを食べてやるー!!ってずっと思ってて、その夢が叶いましたぁー!!」  えぇ、ダジャレ!?  その後も『MAGI9 PLAYLAND』からのエッジーな曲を交えつつ、9年間の歴史を走馬灯のように蘇らせる過去曲が連発されるが、MCの度に「過去の総決算、そこからの新しい9nine」というストーリーはことごとく崩壊していった。その極めつけが後半、ここぞというタイミングでの佐武宇綺によるこの一言。 「すいません……やっぱり私、今日もマイク"水没"させちゃいました」  まるでヘリウムガスを吸ったかのような明らかな変声。汗っかきで有名な佐武宇綺は、いままでのライブでも何度かヘッドセットのマイクを汗の雫で故障させてきたが、この大事な武道館公演でもやってしまったのだ。明らかなアクシデントで佐武宇綺がステージからはけている間、他のメンバーはまるで今までの緊張感から解放されたように、セットに設置された階段に座り込む。そして、まるでコンビニ前にたむろする部活終わりの女子中学生のようなゆるゆるトークをはじめた。
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 その光景に、張りつめていた会場の空気がどっと弛緩していくのを肌で感じながら、筆者は何故か号泣してしまった。僕等は、そしてもしかしたら制作者の方々や彼女達自身も、武道館をこういうステージにしたかったかもしれない。そうだ、この空間こそが9nineじゃないか。  武道館公演の前までに起こった数々の“進化”は、推測するに9nineという表現者に新しい物語を付け加えようとする施策だったかもしれない。しかし、ガールズポップアーティストとは本来「物語の担い手」のような社会化された存在ではないと思う。企画書上の物語を軽々と越えてしまうのが「ガールズポップ」の本質であり、9nineは初めての武道館公演という大舞台でも、予測不可能で大胆不敵な「女の子」のままだった。  もちろん吉井香奈恵のボーカルでの表現力は格段にアップしていたし、村田寛奈のダンスパフォーマンスはキレを増し、西脇彩華のファンと9nineを繋ぐ共感力は、この武道館で最高潮に達していた。しかしそれを凌駕していたのは、9nineというパフォーマンスガールズユニットが持つ究極の個性であり、そこには楽曲やパフォーマンス、そして男子が頭を絞って考えてしまう物語性を超える素晴らしさがあった。そういったグループのあり方が初の武道館公演といった大舞台でもいかんなく発揮されたこと。それこそが9nineというグループの最大の意味なのではないか。  武道館公演を体感した今、「9nineの魅力を一言で的確に表現せよ」という難問に対し、筆者はこう答えるだろう。「9nineとは究極のパフォーマンスガールズユニットであり、僕が求めている"女の子"そのものだ」と。それが今の9nineの「リアル」であり、「答え」なのだ。 ■ターボ向後 AVメーカーとして史上初「映像作家100人 2014」に選出された『性格良し子ちゃん』を率いる。PUNPEEや禁断の多数決といったミュージシャンのMVも手がけ、音楽業界からも注目を集めている。公式Twitter

安倍なつみ、椎名林檎や今井美樹らの名曲カバー クラシカルな歌唱法で新境地目指す

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【リアルサウンドより】  安倍なつみが、10月22日にミュージカルやライト・クラシックの名曲を歌い上げるアルバム『光へ -Classical & Crossover-』をリリースすると発表した。  モーニング娘。を卒業後、ソロ活動として10周年を迎える安倍は、これまで数々のミュージカルや舞台に出演。活動の中で次第にクラシカルな歌唱法を習得し、それまでのポップス的な歌い方とは異なる世界を志向するようになったという。安倍は、昨年11月に行われた故・本田美奈子のメモリアル・コンサートに出演した際、ミュージカル曲を歌唱する姿がレコード会社のクラシック部門のプロデューサーの目に留まり、今回のアルバムの制作へと至ったそうだ。
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 同作には、ミュージカル『レ・ミゼラブル』の名曲「夢やぶれて」や「オン・マイ・オウン」、NHK連続テレビ小説『カーネーション』(NHK)のメインテーマである、椎名林檎の「カーネーション」や、イギリスの民謡「グリーンスリーヴス」、今井美樹の「白のワルツ」などが収録され、安倍はこれらをクラシカルな歌唱法で歌い上げている。  YouTubeには、同作の制作ドキュメント映像がアップされており、映像内では安倍がこのアルバムに込めた思いを語るシーンや、彼女が歌唱する場面も収録されている。

「光へ-Classical & Crossover-」制作ドキュメント映像

安倍なつみからのコメント

ミュージカルや舞台の経験を通じて、生のオーケストラに合わせて歌うことの難しさや面白さ、その凄みや魅力を体感してきました。 音楽に言葉や感情を乗せて表現する上で大切なことを、それらの経験の中で改めて学ばせていただくのと同時に、アンサンブルで創り上げる世界が更に好きになりました。 モーニング娘。を卒業し、ソロ活動を開始して10年が経ち、新しい挑戦をしたいと思っていたところ、今回のオファーをいただきました。 はじめは驚きと感動で大変でした。いまだに夢の様な状況に震える瞬間もあります。 でもこのチャンスを無駄にはせず、今の私だからこそできる表現を追求しながら、全身全霊で臨ませていただきます! 新しいスタッフ、素晴らしい演奏家の皆さんと創り上げた新たな「安倍なつみ」の世界をお楽しみ下さい。 安倍なつみ
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安倍なつみ『光へ -Classical & Crossover-』(日本コロムビア)

■リリース情報 『光へ -Classical & Crossover-』 発売:2014年10月22日(水) 価格:初回限定盤(CD+DVD)¥3,500+税    通常盤(CDのみ)¥2,800+税 <収録内容> M1.Stand Alone~NHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」より(小山薰堂・作詞/久石譲・作曲) M2.ローズ(吉元由美・訳詞/アマンダ・マクブルーム・作曲) M3.夢やぶれて~ミュージカル「レ・ミゼラブル」より(岩谷時子・訳詞/クロード・シェーンベルク・作曲) M4.カーネーション~NHK連続テレビ小説「カーネーション」より(椎名林檎・作詞作曲) M5.サリー・ガーデン~風と少女~(Asu・作詞/アイルランド民謡) M6.グリーンスリーヴス~永遠~(吉元由美・作詞/イングランド民謡) M7.私だけに~ミュージカル「エリザベート」より(小池修一郎・訳詞/シルヴェスター・リーヴァイ・作曲) M8.オン・マイ・オウン ~ミュージカル「レ・ミゼラブル」より(岩谷時子・訳詞/クロード・シェーンベルク・作曲) M9.この祈り~ザ・プレイヤー~with 望月哲也(吉元由美・訳詞/デヴィッド・フォスター・作曲) M10.夢はひそかに~映画「シンデレラ」より(漣 健児・訳詞/マック・デイヴィッド&アル・ホフマン・作曲) M11.光へ(吉元由美・作詞/村松崇継・作曲)※オリジナル新曲 【BONUS TRACK for CHRISTMAS】 M12.白のワルツ(布袋寅泰・作詞作曲) ■関連リンク 安倍なつみオフィシャルサイト 安倍なつみ ブログ 「光へ -Classical & Crossover-」特設サイト

世界の人気DJはなぜ数十億円も稼ぐのか? 関係者が語るイベント大規模化とEDMブーム

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デヴィッド・ゲッタ『ラヴァーズ・オン・ザ・サン(EP)(ワーナーミュージック・ジャパン)

【リアルサウンドより】  米経済誌のフォーブスが先日、「Electronic Cash Kings」と題した“2014年で収入が一番多いDJのランキング”を公開した。収入ランキングはライブ、商品販売、スポンサー契約、音楽のセールス、他ビジネスベンチャーに基づいて計算されたとのこと。出典としてはSongkick、Pollstar、RIAA、マネージャー、プロモーター、弁護士、アーティスト自身などが挙げられている。  ランキングは、カルヴィン・ハリスが6600万ドル(約68億円)で1位を獲得。2位にはデヴィッド・ゲッタが3000万ドル(約31億円)でランクインし、アヴィーチーとティエストは、それぞれ2800万ドル(約29億円)で3位に入るなど、数十億単位で稼ぐDJが増加し、また近年流行しているEDM系のアーティストが多くみられる。この背景にはどのような業界事情があるのだろうか? ワーナーミュージック・ジャパンのインターナショナル本部マーケティング・グループで、デイヴィッド・ゲッタなどを手がけるプロデューサー小野誠二氏はこう語る。 「フォーブスのランク上位のDJ/プロデューサーは、営業と制作のバランスが良い人、つまりフェスやツアーやパーティでDJプレイをして営業収入で稼ぐ一方、自身で楽曲を発表したり他のアーティストへの楽曲プロデュースを行い印税収入もある人が上位にランクインしています。これは、彼らEDM系のDJを取り巻く環境、すなわちEDMと呼ばれる音楽の、世界におけるマーケットがここ数年で急速に拡大したことに尽きるでしょう。日本での一般的な知名度からすると意外とも思えるカルヴィン・ハリスが2年連続の1位、2位のデヴィッド・ゲッタの倍以上を稼ぎ、かつ昨年の年収の約1.5倍になっている、という結果を見ると、一見楽曲プロデュースも多く派手に活躍しているゲッタより、ハリスは欧米でのステイタスが高くなり、ライブ収入の単価が高額になっていると推測できますね」  続いて、海外のクラブミュージックに詳しいライターの中西英雄氏は、30万枚のチケットが1時間足らずで完売する米国の『ULTRA MUSIC FESTIVAL』や、入場料のみで約4万円でありながら40万人以上の動員数を記録するベルギーの『Tomorrowland Festival』などを例に挙げ、パーティーの規模が大きくなっている理由についてこう説明する。 「CDもある程度の売り上げがあるアーティストがいる一方、“稼ぐDJランキング”で5位に入ったスティーヴ・アオキなどに関しては、アルバムがそこまで売れた訳ではない。しかし『ULTRA MUSIC FESTIVAL』も『Tomorrowland Festival』にしろ、チケットの価格が高額にもかかわらず、数秒で数十万枚という売り上げを記録している。これは、規模の大きいパーティーを人々が求めるようになっていることが考えられます。ダンスミュージックフェスの演出は映像やレーザーを用いながら年々進化し、大きな規模でしか味わえない興奮が売り物になってきており、『この幸福体験をしたいから、チケットは高くても買う』という認識が一般層にも浸透しつつあるのです」  また、人気DJの華やかな生活ぶりは、現地メディアでもしはしば報じられている。 「6位にランクインしたアメリカのアフロジャックは非常に話題豊富なアーティストで、パリス・ヒルトンと付き合った過去があったり、自家用ジェットの通称“アフロジェット”で世界を飛び回わりながらDJ活動を行っています。彼はDJとしては初めて、ニューヨークの株式市場NASDAQの鐘を鳴らしたことからも、成功者であることがうかがえますね」(中西氏)  最後に、EDMブームの今後の課題と見通しについて、中西氏はこう語った。 「この盛り上がりに、EDM以外の他のクラブミュージックが呼応していないため、EDMだけが1つのブームとして過ぎ去っていく可能性も否めません。もっとも、ダフト・パンクの名作『Random Access Memories』によって終わるとの声もあったブームは、アヴィーチーの『TRUE』で再び盛り返しました。今は彼に続くスターDJの出現が待たれるところですね」  今年は9月に東京・お台場で『ULTRA MUSIC FESTIVAL』の日本版『ULTRA JAPAN』が開催されるほか、先のランキングでも3位に入ったアヴィーチー、6位のアフロジャックが来日を控えるなど、日本にも徐々にEDMの波が押し寄せている。アジアも巻き込んだ一大ムーブメントになりつつあるなか、日本からも“稼ぐDJ”は登場するだろうか。 (文=編集部)

アイドルソングはどのように作る? 濱野智史とCHEEBOWによるPIP楽曲ミーティング

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左、CHEEBOW氏。右、濱野智史氏。

【リアルサウンドより】  TwitterやUstreamなどを使った企画講座などを行っている「ツブヤ大学」のイベントとして『濱野智史&CHEEBOW、楽曲ミーティングなう! #PIP』が、8月8日に渋谷「The SAD cafe STUDIO」にて開催された。  同イベントは、気鋭の批評家/情報環境研究者でありながら、重度のアイドルヲタクとしても知られる濱野智史氏が、自身がプロデュースするアイドルグループプロジェクト「PIP(Platonics Idol Platform)」のオリジナル曲作成を、週末音楽家のCHEEBOW氏に依頼、そのミーティングの模様を公開するというもの。  本業はiPhoneなどiOS系のアプリ開発者で、じつは音楽的なバックボーンがほとんどゼロにも関わらず、「愛乙女★DOLL」などの人気曲を手がけてきたCHEEBOW氏は、どのようにしてアイドル楽曲を制作しているのか。そしてPIPの初オリジナル曲はどのような仕上がりを目指すのか。  コンセプト設計やサウンドの調整、作詞の方法論まで、アイドル楽曲制作ならではのプロセスについて語り合うとともに、PIP楽曲の方向性を探った。

CHEEBOW「ライブアイドルの楽曲は、必ずしも多くの人の共感を得る必要はない」

濱野:作曲のオファーを受けた際、まずどういうことを考えますか? C:始めはやっぱり「どんな曲にするか」を考えるんですけど、その時に「そのアイドルに今どんな曲が求められているのか」「どんな曲を歌ったら新しいファンを呼び込めるのか」ということを意識して、そこから「ファンの人達が何を欲しているのか」というところまで掘り下げて考えます。実際に制作に入ると、曲を作って、歌詞を書いて、アレンジを考えて、ミックスして、マスタリングするという流れになります。今はネットで配信するので、ネット用マスタリングなんて工程もあります。僕はこのマスタリングという工程があまり得意ではないので、外注に出したりしていますね。濱野さんがプロデュースするアイドルの場合は、ライブ活動が主軸ですから、ライブでより盛り上がるチューニングをしなければいけません。だから、曲を作った後もできるだけライブに足を運んでいます。 濱野:だからCHEEBOWさんはよくライブ会場で見かけるんですね。らぶ☆けんの現場とかで「よく来てるなー」って思っていました。 C:会場に行って、ファンの盛り上がりや音を確認するんです。そうすると「ここはもう少し間奏を長めに取った方が良いな」といったことがわかります。 濱野:なるほど。では、具体的なアイドルソングの作り方についても教えてください。 C:例えば、5人組の女性アイドルグループで、メンバーはほぼ高校生だったとします。それで「夏の終わり頃に披露したい」というオファーが6月くらいに来たとしますね。夏の楽しさと、終わってしまう寂しさが両方欲しい、みたいな内容で。そこでまず「彼女たちにとっての『夏』って何だ?」と考えるのですが、そのキーワードは一般的に出てくる「夏休み」「プール」「天体観測」とかではないんですね。彼女たちにとっての夏をリアルに考えると、アイドルフェスであり、ライブであり、握手会などのイベントだと思うんです。なので基本的に僕はここを原点としてライブアイドルの曲を考えることが多いです。彼女たちの夏の寂しさって、ライブの日々が終わってしまう寂しさとか、来年もこんな風にいられるかわからない寂しさとか、そういうことも含んでいると思うので。 濱野:すごい! 俺が今、書いてる歌詞と全く同じ発想です(笑)。たぶん、今のアイデアをそのまま使うことになるんじゃないかな。 C:なぜこういう風に考えるのかというと、ライブアイドルに限って言えば、曲が共有されるのはアイドルとファンの間だけで、普通にテレビを見たり、CD屋でCDを買ってくれるリスナーが聴くわけではない。だから、必ずしも多くの人の共感を得る必要もないんですね。アイドルが多くの人に「見つかる」手前までは、僕はこの手法は大いにアリだと思っています。そういうわけでコンセプトは決定です。「夏のライブでのファンとの思い出」「野外ライブでファンのサイリウムがきれいだった」といった感じですね。それに「でも来年もここにいられるのかな」みたいな寂しさも込めると。アイドルの子たちはみんな「夏の夕暮れのサイリウムは本当に綺麗で嬉しい」って言ってますからね。

濱野「ライブアイドルの歌詞に複雑な言葉は入らない」

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当日はPIPのメンバーによるパフォーマンスも行われた。

濱野:CHEEBOWさんは実際、ヲタ並みにアイドルの子たちとコミュニケーションして、彼女たちの心情に寄り添っていますよね。 C:ちょっと気持ち悪いかもしれませんが、あの子達のブログやツイッターもチェックしています。それは曲を作った後ですね。また次に作る可能性があるので、読んでないとわからないんですよ。ライブも観に行きますし、そのときにフィードバックを得ます。それから今回は多分やりませんけど、メンバー全員にアンケートをしたりもします。具体的には、好きなものを3つに絞って挙げてもらったりしていますね。それと、一番重要なのは「嫌いな言葉」で、それはなるべく使わないであげるか、それをプラスにするような歌詞にするようにしています。「嬉しかったこと」「悔しかったこと」などの質問は、そのまま歌詞に入れやすいですね。 濱野:なるほど。ただ、ライブアイドルってやっぱり歌下手じゃないですか。踊りながら歌ってるからどうしたってマイクずれちゃったりもするし。だからすごく複雑な言葉は入らないですよね? C:踊りの難易度が年々上がってるし、それで歌うのはなかなか難しいと思うので、歌詞は複雑にならないようにしますね。その分、それまでの彼女たちが発表している音源をたくさん聴いて、今までにやっていない種類の音がないかとか、「ここはもっと突っ込んだ方がいいんじゃないか」みたいなところを音楽的に考えて、色を出します。例えば、ロックっぽい曲が多いなら、シンセが多めのテクノポップ的なアプローチをしてみたり。でも、基本的にファンは今までの曲が好きなんですね。同じような曲ばかりだと、やっぱり飽きるので「新しい曲が欲しい」とは言うんだけど、変わってほしくない気持ちもある。そこをどうやって変えていくかっていうと「予想を裏切って、期待を裏切らない」ということが大事なんじゃないかと。元のイメージをなるべく崩さないようにしながら、ファンの人達が知らなかった彼女たちの表情を見せてあげたいと思っています。 濱野:すごいですね。CHEEBOWさん、自分でアイドルグループを作ったほうがいいんじゃないですか? C:僕は運営ができないんですよ。「次にこんな曲が来るだろう」っていう予定調和はなるべく断ち切りたいタイプなので、かわいい曲が2曲続いたらすごくセクシーな曲を入れてみたり、「次は違うことやるだろうな」って思われている感じなら、あえてまたかわいい曲にしたりします。ファンの思った通りにはやらないので、運営はダメでしょうね(笑)。ただ、僕の曲は先ほど言ったようなスタンスで作っているので、その時はイマイチな反応でも、1年くらい経ってから再評価されたりすることがよくあります。

CHEEBOW「アイドル自身のことを書いているのに、一般的な物語として受け止められる感じを目指す」

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8月8日は濱野氏の誕生日でもあった。

濱野:CHEEBOWさんが作った、愛乙女★DOLLの「キミはストーム」という曲は、わりとゆっくりした曲で最初は人気がなかったですね。 C:そうなんです。テンポが遅いからか、ライブのセットリストにもあんまり入らなかったけど、あるときにメンバーの都築かなという子がブログで「『キミはストーム』は実はすごくエモいんだ」というようなことを書いたんです。そうしたらいきなり人気が出て、わりとよくセットリストに入るようになりました。ファンの人達も「けっこう好き」と言ってくれています。 濱野:では、実際にPIPの曲はどんな感じになるのでしょうか? C:Aメロでは楽しかった夏のエピソード、Bメロはその中での寂しさを匂わせて、サビで楽しかった夏を振り返って盛り上がる。サビとは違うメロディDメロ(Cメロとも言います)では、来年のことを思って少し悲しい感じにして、これをメロディとアレンジで表現していこうと思います。この時点ではまだ歌詞はないです。作詞は今回、濱野さんにしていただきます。歌詞がないので当然メロディもふわっとしたもので、雰囲気程度です。そこに言葉を入れていくんですけど、具体的過ぎるのも何なので、一般化させつつ薄めたりもします。アイドル自身のことを書いているのに、一般的な物語として受け止められる感じですね。実際、48グループの講演曲には、ズバリ日にちが入っていたりとか、具体的な言葉が多いじゃないですか。あれは48グループの講演はお客さんとメンバーが密接だからでしょうね。ただ、シングルカットされる曲はもっと遠いところまで飛ばさなきゃいけないから、具体的な言葉は使っていません。濱野さんはどっち側を狙いますか? 濱野:僕自身、AKB48にハマった理由の一つは歌詞です。まさにアイドルのことも歌っているしファンのことも歌っているし、辞めたメンバーのことも歌っている。かつ一般的な詞として聴ける。その方がいろいろな人の琴線に引っかかりますよね。たしかに彼女たちのことをそのまま、というよりはもう少し一般的な形にしたいです。

CHEEBOW「発注する側がノッてなかったら、制作側もノれない」

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誕生日ケーキを囲み、来場者が写真撮影をする一幕も。

C:すると、彼女たち自身を表現しつつ、言葉を柔らかくしていく、ということが僕らの作詞のコンセプトになりますね。では、実際に曲を聴いていただきたいと思います。 (会場に曲が流れる) 濱野:このエモさというか、サビのメロディを聴いて、もう歌詞が浮かぶ自信があります(笑)。 C:全部打ち込みで作ったものなので、これにギターなり色々な音が入ってくると思います。 濱野:はい、もうこれでOKです(笑)。音楽詳しいわけじゃないから、「メロディのここ直してください」とか言うことはないので。俺、まだ何もやってないのに、何で嬉しく思うんだろう? 素晴らしいです。ありがとうございます。 C:こういう感じで、1コーラス作って、OKが出たらアレンジして、という感じですね。今回はノッてて全部できちゃいましたけど。 濱野:作曲を頼むこと自体が初めてでしたけど、ノリノリで喋って、1週間後にノリノリの良い曲が返ってくるって楽しすぎますね。 C:それはありますね。発注する側がノッてなかったら、制作側もノれないというか。「何でもいいから曲くれ」と言われるとすごく困ります。でも今回は濱野さんがしっかりイメージを持っていらっしゃったので、楽しく作れました。 (構成=編集部) ツブヤ大学公式サイト Platonics Idol Platform公式サイト PIP official info

新作ジャケで過激ポーズ披露のYUKI セクシーなアートワーク群を振り返る

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YUKI『FLY(アナログ盤)』(ERJ)

【リアルサウンドより】  YUKIが9月17日にリリースする3年ぶりのオリジナルアルバム『FLY』のジャケット画像が「セクシーすぎる」として話題となっている。  『FLY』には全16曲を収録し、初回生産限定盤(CD+DVD)、通常盤(CDのみ)、アナログ盤の3種類に分けて販売。ジャケットのデザインはそれぞれ異なり、オートバイの上で3つの扇情的なポージングを披露している。  ネット上ではこのジャケット写真に対し「YUKIらしくてカッコイイ」「年齢を感じさせない、憧れる」「ほどよいエロさが良い」といった声が寄せられており、セクシーな表現をしながらも、好感を持って受け入れられていることが伺える。  YUKIはこれまでも、絶妙な“エロス”を感じさせるアートワークを数多く打ち出してきた。本稿では、そんなYUKIのセクシーかつポップな表現にスポットを当ててみたい。

スカートの中から小人が飛び出す!?

YUKI『the end of shite』

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YUKI『the end of shite』(エピックレコードジャパン)

 JUDY AND MARY解散後、初のシングルとして2002年にリリースされた『the end of shite』のMV。YUKIがスカートの中に手を入れて弄ると、その裾から小人が多数出てくるという描写は当時、過激であるとして放送を控えるテレビ局も多かった。YUKI曰く、「一人で勝手に始めちゃうわよ」という意味であり、ソロ活動スタートへ向けてのアートワークだったという。上記のYouTube公式動画でも当該のシーンはカットされているが、2005年リリースの映像作品『ユキビデオ』では、最後まで鑑賞することが可能だ。なお、ジャケット写真でも同様のポージングをしており、こちらも艶っぽい仕上がりとなっている。

YUKIが“ヌード肖像画”を披露!?

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YUKI『メランコリニスタ』(エピックレコードジャパン)

 YUKIの13枚目のシングルとなる『メランコリニスタ』のジャケットは、アーティスティックなヌードの肖像画が思わず目を引く一枚だ。YUKIの公式サイトによると、YUKIの造語である“メランコリニスタ”をイメージし、ドイツで人気のアーティストである山口智子氏が描き下ろしたもので、残念ながら(?)YUKI自身をモデルにしたというわけではないとのこと。MVもエロティックな仕上がりで、ガーターベルト風の衣装もさることながら、長い舌で手に持ったスプーンを舐め上げるシーンは特に刺激的である。官能的な行為を連想させる仕草は、YUKIが得意とする表現方法のひとつといえよう。

YUKI『メランコリニスタ』

ナチュラルだけどエロいYUKI

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YUKI『ランデヴー(初回生産限定盤)(DVD付)』(エピックレコードジャパン)

 「綱渡りのランデヴー」という歌詞に象徴されるように、ギリギリの危うい恋物語をテーマにした『ランデヴー』。ジャケット写真は、ナチュラルな雰囲気ながら、どこかしどけない印象を抱かせるポートレート。ウィンクする表情も魅力的だが、なんといっても露になった脇腹に目を奪われる。こうした“隙”の作り方は、同性から見ても参考になるのかもしれない。大人しすぎず、エロすぎない、YUKIの成熟した魅力が溢れた一枚だ。写真は初回限定盤だが、通常版もまた独特の雰囲気を醸し出しているので、そちらもチェックしてみてほしい。

舌を突き出した表情がエロティック

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YUKI『BETWEEN THE TEN(初回生産限定盤)』(エピックレコードジャパン)

 ソロデビュー10周年記念アルバムとして、それまでのカップリング曲を集めたのが『BETWEEN THE TEN』。なにかを舐めようとしているかのような舌が、実にエロティックな妄想を膨らませるジャケットとなっている。1曲目に収録された「bed」は、「シーツの中で 時をとめながら 絡まって足が 冷たい足が あたる…」「あかりはつけないで でも少しだけ見せて oh baby, come over me…」といったベッドの中の情景描写が印象的なスローナンバー。YUKIの楽曲は、ポップでキラキラしたダンスチューンも魅力的だが、本作は大人のカップルが二人でゆっくり聴いても、趣きのあるアルバムではないだろうか。

最新MVではレオタード姿を披露

YUKI 『誰でもロンリー』

 最新アルバム『FLY』からの先行シングル「誰でもロンリー」のMVでは、うずたかく積み上げられたスピーカーの前、下半身レオタード姿でコミカルなダンスを披露しているYUKI。「ミュージカルの舞台の練習のために集まった様々なジャンルのダンサーたち」という設定で、どこか懐かしさを感じさせるファッションと、バレエのような動きがチャーミングだ。  1993年、JUDY AND MARYのボーカリストとしてメジャーデビューし、2002年から本格的なソロ活動を開始したYUKI。20年以上に渡って音楽活動を継続しながら、今なお人々を魅了しているのは、その高い音楽性に加え、常に刺激的なビジュアル表現にチャレンジしてきたことも大きいだろう。新作アルバム『FLY』の仕上がりに期待するとともに、今後もさらに魅惑的なアートワークを展開してくれることを願いたい。 (文=松下博夫)

『HARE NOVA Vol.04』ライブレポート 「新世代のアーティストが次から次へと出てきている」

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【リアルサウンドより】  会社設立40周年を迎えるソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)が、4月から7月にかけて展開するライブオーディションシリーズ『HARE NOVA』(ハレノヴァ)。その第4回目『HARE NOVA Vol.04』が7月16日、渋谷clubasiaで開催された。SMAは奥田民生氣志團YUKI木村カエラ西野カナ等、100組以上のミュージシャン、俳優、タレント、芸人、文化人などが在籍するマネジメントオフィス。この『HARE NOVA』は、合計4回の各回から選ばれたアーティストが8月に行われる渋谷TSUTAYA O-EASTのファイナルステージに出演し、そこで選出されたアーティストが9月に行われるSMA主催の日比谷野外音楽堂にオープニングアクトとして出演できるというものだ。 HARENOVA オフィシャルHP:http://sma40th.com/harenova/  リアルサウンドでは前回に続き、イベントにゲストウォッチャーとしても参加した音楽ジャーナリストの宇野維正氏によるライブレポートを掲載する。「HARE NOVA」の趣旨についてはこちら。(編集部) ・出演アーティスト ShiLock 中村佳穂 Marmalade butcher BELLRED もしもしくじら 住岡梨奈(ゲストアクト) ・ゲストウォッチャー 中山道彦(ソニー・ミュージックアーティスツ) 堂島孝平(ミュージシャン・音楽プロデューサー) 大森ゆかり(ソニーミュージックアーティスツ) 寺林拓人(ユニバーサルミュージック ZEN MUSIC) 宇野維正(音楽ジャーナリスト)

ShiLock

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 2014年1月に結成されたばかりの4人組バンド、ShiLock。全員現役の大学生で、メンバーの平均年齢は20歳。ハードロックをベースにしたシンプルで骨太の楽曲、真っ直ぐな歌詞。まさに正統派ロックバンドと呼ぶに相応しい彼らは、この日のステージでも時折オーディエンスを煽りながら堂々としたパフォーマンスを披露してくれた。タンクトップ姿で歌い上げるボーカルのCameron、フライングブイでギターソロをかき鳴らすギターのSada。ベタと言えばこれ以上なくベタだが、そこにはベタであることを突き詰めようという覚悟が伺えた。 ■ゲストウォッチャーコメント 中山道彦「日本のバンドシーンって、こういう正統派のバンドが異端だったりするんですよ。だけど、こういうバンドは売れる時はものすごく売れるので、諦めずに続けてほしい。このバンドにしか出せない個性を出せた時に、正統派であることが活きてくると思います」 寺林拓人「ボーカルのCameronくんが非常にイケメンだなぁと(笑)。そのカッコよさをステージ上でどのようなパフォーマンスをすれば映えるのか研究していけば、それが個性や音楽のバリエーションにもつながっていく気がします」

中村佳穂

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 くるり岸田繁や高野寛から賞賛され、既に一部の音楽好きの間で話題となっている京都の現役女子大生シンガーソングライター、中村佳穂。5月31日に1stミニアルバム『口うつしロマンス』もリリースされたばかり。小柄な身体からは想像もできないほど時に激しくエモい歌声と、独創的なピアノ演奏(とゲスト参加したスティーヴ エトウの見事なパーカッション演奏)、自分のことや目の前の状況を即興的に弾き語っていくその圧倒的なパフォーマンスに、オーディエンスもゲストウォッチャーも一様にどよめいていた。曲の途中で小沢健二「今夜はブギーバック」の一節が飛び出すなど遊び心も満載。 ■ゲストウォッチャー 堂島孝平「前代未聞ですね。素晴らしかったです。ライブを観ているというより、演劇を観ているような気持ちになりました。一瞬でも聴き逃したら、見逃したらいけないというパフォーマンスでした。(東京で)友達を見つける前に、いいマネージャーを見つけてください(笑)」 宇野維正「本当に凄味のあるアーティストで、感性と理性のバランスも素晴らしい。ただ、今ちょっと才気走り過ぎている感があるので、じっくり聴かせる美しい曲とトリッキーな曲のコントラストをよりはっきりつけたら、さらに良くなると思いました」

Marmalade butcher

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 2010年に始動、2012年からライブ活動をスタートさせた、「モテるインスト」をモットーとする4人組インストゥルメンタル・バンド、Marmalade butcher(通称「マ肉」)。中心人物にえぬはアイドルに楽曲を提供するなど、コンポーザーとしても活動している。オルタナティブロックというよりは、近年の高速Jロックと親和性の高い疾走感のある演奏。この日のステージでは、当日のMC木村ウニ(蜜)が参加して、バンドにとって初めての歌モノカバー(レベッカ&アン・ルイス)も披露。途中、あまりの激しさに弦が切れるなどのトラブルもあったが、最後まで全速力で走り切った。 ■ゲストウォッチャー 大森ゆかり「すごいパワフルな演奏でカッコよかったです。ライブの見せ方としては、映像とシンクロさせるとか、ビジュアル面でもう少し統一感を持たせるとか、そういう工夫を加えたらより良くなると思いました」 堂島孝平「『モテるインスト』がモットーで、誰一人モテる感じがしないというのが最高ですね(笑)。ちゃんとフリとボケができている。そういうキャラクターがお客さんにもっと伝わるようになったら、より面白くなるんじゃないかな」

BELLRED

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 メンバー全員が楽器を演奏し、メンバー全員が交互にリードボーカルをとる4人組のアコースティックポップスバンド。実はこのBELLRED、それぞれ別のバンドのフロントマンやシンガーソングライターとして活動する4人が集まったグループなのだ。「ポップ」ではなくて「ポップス」であるのがポイントで、ステージ上ではディズニー『アラジン』でお馴染みの「ホール・ニュー・ワールド」のカバーまで披露。比較的ロック色の強いHARE NOVAにおいては異色の存在だったが、各メンバーのキャラクターやそのユニークなやり取りなども含め、将来的には化けそうな予感も。 ■ゲストウォッチャー 寺林拓人「パフォーマンスとしては素晴らしかったです。ただ、見ていて『楽しそうだな』とは思うんですけど、まだ『楽しいな』と思うところまではいかない。そこにいくのが次のステップだと思います」 堂島孝平「もっと自分たちの持ち味を活かす見せ方があるような気がします。たとえば最初から最後までショウっぽくするとか、そういう思いきった演出をしてみたらおもしろいかもしれませんね」

もしもしくじら

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 女子3人+男子ドラマーという平均年令19才の4人組バンド、もしもしくじら。前身バンドは2011年に結成とのことだが、現ラインナップとなったのは昨年12月。今年3月から都内ライブハウスを中心に本格的に活動を始めたという、まだ生まれたてホヤホヤのバンド。ボーカルさかきばらあゆみの個性的で無垢な歌声と、オールディーズロックンロール的なタメ感のあるグルーブが持ち味。チャットモンチーを通り越して少年ナイフまで想起させるような、ステージ上でのほんわかとした独特の佇まいは大きな武器になりそう。 ■ゲストウォッチャー 大森ゆかり「まだ荒削りなところもありますけど、将来すごく大きなステージで演奏している光景が目に浮かびました。女性アーティストというのはみんな自己プロデュース能力が高いので、その面をこれから磨いていってください」 中山道彦「僕のタイプのバンドです(笑)。ただ、女性ボーカルのバンドがたくさんいる中で、どう差別化していくかというのが大事。まだ憧れの方が、表現よりも先に立っているような感じがしました」
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 最後にゲストアクトとしてステージに立ったのは、デビューからちょうど2周年を迎えるシンガーソングライターの住岡梨奈。この日は、ゲストウォッチャーとしても登壇した堂島孝平がギター&バンマスを務める、ドラムに小松シゲル(NONA REEVES)、ベースに須藤優(ARDBECK, U&DESIGN)、キーボードに渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz, cafelon)という豪華メンバーによるスペシャルバンドと共に超ハイクオリティなパフォーマンスを展開。セットの終盤では彼女が注目されるきっかけとなった「テラスハウス」のテーマ曲でもあるテイラー・スウィフト 「We Are Never Ever Getting Back Together」の見事なカバーも披露して、オーディエンスを大いに沸かせてくれた。  今回のvol.4で渋谷clubasiaを会場とするマンスリーステージのHARE NOVAはラスト。4回目の今回も驚くほどバリエーションに富んだバンド/グループ/ソロアーティストがステージに登場して、オーディエンスを5者5様に楽しませてくれた。 「今回は即戦力というよりも、いろんなタイプの素晴らしい素材と出会えた回でしたね。改めて思ったのは、こういう才能たちをどう導いていくのかという点で、プロデューサーは必要だなってことでした。もちろん、中にはそういう存在がまったくいらないような人もいますが、レコード会社やマネージメントにしかできないことというのは、まだまだたくさんあるんじゃないかな」(中山道彦) 「特に今日は出演者のみなさんが若くて、本当にいろんなジャンルで新世代のアーティストが次から次へと出てきているんだなぁと。生の現場を存分に感じることができてとてもワクワクしました」(大森ゆかり) 「若い才能が集まるこういう場を作るということは、とても意味があることだと思いました。きっと出演者にとっても、同世代が多かったこともあって、とても刺激になったんじゃないでしょうか」(寺林拓人) 「今日はみんなのステージを見ていて『負けたくない!』とギラギラしてきました(笑)。みんなこれからもたくさんの発見をしていって、より大きくなっていくと思います。音楽には完成形というのはなくて、いつまでも未完成なものだと思うから」(堂島孝平) 今年4月から始まったHARE NOVAも、残すは8月28日に渋谷TSUTAYA O-EASTでのファイナルステージのみ。ファイナリスト6組も発表された。これまでHARE NOVAに参加してきた人は自分の推しバンドの急成長ぶりを、まだ未参加の人はいきなり選りすぐりのバンドたちだけのステージを目撃するチャンス。オープニングアクトにnicoten、ゲストアクトとしてUNISON SQUARE GARDENが登場。渋谷TSUTAYA O-EASTで待ってます! (取材・文=宇野維正/撮影・Ohagi)
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『HARE NOVA FINAL !!!!!』に出演するUNISON SQUARE GARDEN

■ライブ情報 SMA 40th presents NEXT NEW LIVE SERIES 『HARE NOVA FINAL !!!!!』 8月28日(木) 東京・渋谷TSUTAYA O-EAST(開場17:30/開演18:00) 前売¥2,500/当日¥3,000(税込・ドリンク代別・整理番号付・全自由) ・出演 フィッシュライフ 絶景クジラ BOYS END SWING GIRL もしもしくじら Shout it Out 橋鼠 ・オープニングアクト nicoten ・ゲストアクト UNISON SQUARE GARDEN Pコード:236-830 http://pia.jp/t/harenova/ チケット一般発売日:2014年7月16日(水)10:00~ セブンイレブン店頭の端末で直接ご購入いただくと、システム利用料¥210/枚がかかりませんので、そちらもご利用ください。 ■中山道彦:株式会社ソニー・ミュージックアーティスツ代表取締役社長 ■堂島孝平:1995年に18才でデビュー以来、常に「挑戦」と「発明」を続ける、21世紀ポップミュージックの旗手。最新アルバム「フィクション」発売中! オフィシャルHP:http://djkh.jp/ ■大森ゆかり: ソニー・ミュージックアーティスツにてフジファブリック、マネージャーを担当。 フジファブリック オフィシャルHP:http://www.fujifabric.com/ ■寺林拓人:ユニバーサルミュージック ZEN MUSICでこれからデビューの新人を準備中。 ■宇野維正:音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter

RIZEのKenKenらも注目する打首獄門同好会 “生活密着型ラウドロック”のルーツと魅力とは?

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【リアルサウンドより】  打首獄門同好会が、10周年記念ベストアルバム『10獄~TENGOKU~』を8月20日にリリースする。  HR/HMのヘビーなサウンドに、うまい棒やラーメン二郎、『水曜どうでしょう』など多くの人が共感できる歌詞を乗せ、“生活密着型ラウドロック”をキーワードに活動するスリーピースバンド・打首獄門同好会。その彼らが結成から10年の活動を続け、現在、RIZEのKenKenをはじめに多くのバンドからも注目を集めているという。大澤敦史(Gu)に彼らのルーツを聞くとともに、歌詞、サウンド面から魅力を探った。

「好きなものを好きなように歌えばいいやっていうところから、今の形ができあがった」

――そもそも、結成にはどのようないきさつがあったのですか? 大澤:もともと最初に組んだ3人は、全員同じ音楽学校の出身者だったんですね。で、全員楽器専門だったので、誰もボーカルをとったことがなかったんですけど、とりあえずバンド組もうぜって始まって……で、一回ベースが抜けて、新しいベースが入って、今の3人体制になったという感じですね。 ――その頃から、今のような音楽性だったのですか? 大澤:まあ、そうですね。結成していちばん最初に作った曲が、朝飯の歌(「Breakfast」)だったので。それからずっと食べ物の歌は作っているから、あんまりブレてないですね。 ――何でまた朝飯の歌を。 大澤:3人とも楽器の専門だったから、ボーカルの志望者が誰もいなかったわけですよ。で、ボーカル探すのがもう大変で……だったら自分で歌ったほうが早いやっていう安直な考えから、俺がボーカルを始めたので、要はボーカリストとしてのルーツがまったくなかったんです。 ――なるほど。 大澤:だから、歌詞って言われても、作ったことないしなあっていう。でまあ、「遊び半分で、いいんじゃね?」みたいな軽いノリで作ったのが、その朝飯の歌で。一応、真面目な歌詞も作ってみたんですけど、遊び半分の歌と真面目な歌の両方をライブでやってみたところ、どうも客の受けは、遊びの歌のほうが良くてですね。それでだんだんそっちにシフトしていって、気がついたらそれ一色になっていたという。 ――それ一色に(笑)。 大澤:結局、メンバー3人とも洋楽を聴いて育ってきたから、日本語歌詞の方向性みたいなものに対して、そんなに強いこだわりもなかったんですよね。ベタにラブソングを歌うとか、みんなを元気づける曲を歌うとか、そういう志もなくて。もうどっちかっていうと、自分の好きなアレンジで音を出すとかっていうほうに、強いこだわりを持っていたというか。 ――その洋楽っていうのは、やっぱりハードロックとかラウド系の? 大澤:ですね。うちのドラムはマリリン・マンソンが大好きだし、ベースはKORNとか大好きで。で、俺もシステム・オブ・ア・ダウンとかすごい好きだったので、結局重かったり、アレンジがエグかったりとか、そういうのがやれたらいいなっていう。 ――でも、世界観的なところは、そっちに寄っていかなかったんですね。 大澤:まあ、日本語でそれをやろうとしても、どういうふうにやるんだろうっていうのがあって。ビジュアル系的なものも、俺たちはちょっと違うしなあっていう。だからもう何でもいいみたいなノリから始めてみたら、俺たちも面白いし、客も面白がっているみたいだから、じゃあそれでいいわみたいな。で、だんだんそっちにエスカレートしていって、じゃあ好きなものを好きなように歌えばいいやっていうところから、そのときどきのマイブームがあったら、それを拾って歌にしていけばいいっていう、今の形ができあがっていって。 ――マイブーム? 大澤:そう。俺のなかで空前のラーメン二郎ブームが巻き起こったとか、メンバー内で『水曜どうでしょう』ブームがあったりとか……そういうものを、もう歌にしちゃえばいいじゃんっていう。その悪ノリが、だんだん自分たちでも面白くなってきたんですよね。
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「自分のなかに何かブームが起こるの待ちみたいな(笑)」

――打首の曲は、大きく分けると何パターンがあって。まずは食べ物の歌、そして日々の生活の歌、あとは……。 大澤:『水曜どうでしょう』の歌ですね(笑)。まあ、食べ物の歌は、やっぱり作りやすいというか、自ずと自分のなかでブームが起きるので。たとえば、今回のベスト盤にも入っている焼き鳥の歌(「ヤキトリズム」)を書いた頃は、もう朝、市場に鳥を買いに行って、自分で串を刺して、それを河原に持っていって焼くぐらい、空前の焼き鳥ブームが俺のなかに訪れていたんですよ。 ――串に刺すところから? 大澤:そう。で、それを食べながら芋焼酎を飲んでいると、すごいロマンを感じるんですよね。で、しばらくそのブームが続いたから、それを歌にしてみようと思って。そう、最近はちょっと空前のそばブームがきそうになっていて。 ――まさか自分で打ったり? 大澤:まだ自分では打ってないんですけど、そろそろ打とうかなと(笑)。歌にする場合はやっぱり、ある程度いってから作りたいんですよ。だから、ちょっと旅に出て、本場のそばを食べ歩いて、それから今度は自分で打って……そこまで行ってからじゃないと、曲にしたくないんですよね。二郎の歌(「私を二郎に連れてって」)を作るときも、ある程度体重が変わるぐらいまで二郎を食いまくってから作りましたから。 ――(笑)。そこまでやった上で書いているからこそ、歌詞に説得力があるのですね。 大澤:結局、こういう歌詞の方向性に行ってしまったがゆえに、歌詞に入れている思いが本物になってしまったというか(笑)。だから、決してうわべだけじゃないんですよね。食べ物の歌を作った場合は、その食べ物はひと通り通ったんだなって思ってもらって結構です。 ――食べ物の歌と言えば、うまい棒の歌(「デリシャスティック」)が、ひとつブレイクポイントになったようですね。 大澤:そのへんがひとつ転機になったというか、そのへんで悪ノリが固まった感じはありますね(笑)。そう、その歌を作ってから、ライブ会場でうまい棒を配り始めて、お客さんがうまい棒を振るようになったんです。それでだんだん、“うまい棒のバンド”と言われるようになって……。この曲は、ここ数年、ライブでやらないことがないくらいの定番曲なんですけど、最大千本配りましたからね。まあ、千本と言っても、予算一万円ですけど。 ――いずれにせよ、大澤君の感情に火がつかないと歌詞が生まれないわけですね。 大澤:確かに、その縛りはありますね。自分のなかに何かブームが起こるの待ちみたいな(笑)。あと、テーマが決まっても、方向性が決まらないこともあって。さっき言った、そばの歌にしても、ただ“そば”を連呼しているだけでは成り立たないわけじゃないですか。そばの種類を言うのか、そばの歴史や味のうんちくから攻めて行くのか……そう、二郎の歌を作るときも、二郎の店舗がある場所を並べるっていう方向も、選択肢としてあるにはあったわけです。 ――まあ、わかりやすいところでは。 大澤:でも、そうじゃなくて、二郎に行きたいんだけど、勇気を出せずに行けないっていう方向にして……それは実際、友だちでいたんですよね。二郎の話をすると、今度連れっててよって言われるんです。行きたいけど、ひとりじゃいけないみたいな。だから、そっちを題材として引っ張ってきたっていう。 ――それはそれで共感値が高かったんじゃないですか? 大澤:いわゆる“あるある”を引っ張ってきた感じですね(笑)。そこを意識したのは、「まごパワー」という曲の存在が結構大きくて……厳しかったおやじが、孫ができるといきなりデレデレじいちゃんになるっていう歌なんですけど(笑)。それがものすごく“あるある”だっていうか、うちのおやじもそうみたいな話が、ある程度の年代から結構入ってきて。息子、娘、甥、姪ができたあたりの年代から、「これ、超わかる」みたいなことを言われて、これはありだなって。

打首獄門同好会「フローネル」

「これは人気曲になり得るんだなという引きの強さを、再認識した」

――そういう共感値の高さで言ったら、「フローネル」なんかまさに……。 大澤:そう、「フローネル」は、作ってみたら意外と人気が出たみたいな曲ですね。で、あの曲にまつわる事件がひとつあって。最近、ミュージックビデオを作りましたけど、前はライブ映像がYoutubeにちょっと上がっているくらいで、あんまり推し曲というつもりもなかったから、そんなに気にもしてなかったんですね。そしたらある日、ツイッターって「フローネル」の歌詞をつぶやいているツイートがちょっと話題になっていて。で、何の騒ぎだと思ったら、つぶやいているのが、RIZEのKenKenだったんですよ。「あれ? これ、RIZEの人だよな? なぜ、うちらのバンドの歌詞を?」って。 ――その頃は全然接点がなかったんですか? 大澤:そう、当時は。で、何でつぶやいているんだろう、しかもアルバムの一曲でしかない、オフィシャルな映像を出しているわけでもない曲の歌詞を。って思って、「うちの曲ですねー」ってアプローチしてみたら、「大好きだから」って言われて。で、これは一回ごあいさつに行かなきゃと思って、ライブに遊びに行って……それ以来、飲み仲間みたいな(笑)。 ――それが、いつぐらいの話なのですか? 大澤:2年前くらいですかね。で、これは人気曲になり得るんだなという引きの強さを、再認識しまして。なにせ、RIZEの人から引きがあったわけですから(笑)。で、今回ベスト盤を作りましょうってなったときに、じゃあこの曲のミュージックビデオを作ろうっていう話になって。 ――そのビデオがまた……。 大澤:そう、このイラストというか“フテネコ”を描いている芦沢ムネトさんも、KenKenを通じて知り合って。で、「フローネル」のビデオを作るってなったときに、あの猫似合うなと思って頼んでみたら描いてくれることになったっていう。 ――発表した当時は、推し曲でもなかったのに。 大澤:この曲は、2009年に出した『庶民派爆弾さん』っていうCDに入っているんですけど、それが全国流通の初めてのCDだったので、当時のベストみたいな内容だったんですよね。で、今回のベストと同じように、やっぱり新曲も入れたいよねって作っただけの曲だったんですけど、それをライブでやってみたところ、この曲はかなり共感型なんだなっていうことに気づいて。特にライブをやっているときは夜なので……。 ――歌詞の通り、あとは「風呂入って速効寝る計画」っていう(笑)。 大澤:そうそう(笑)。ツイッターで検索すると、いまだに使われていますからね。「もう今日は帰ったらフローネル」って。で、誰かがそれに「何それ?」ってリプライして、「これだよ」って「フローネル」のライブ映像が貼ってあるっていう。 ――まさに口コミで広がっているというか、食い物とはまた違う共感が……。 大澤:まあ結局ね、ひっくるめていうと生活密着型というか、“生活密着型ラウドロック”とは、よく言ったなって感じですよね。食べて、寝るっていう(笑)。 ――そんな“生活密着型ラウドロック”の集大成とも言えるベスト盤『10極~TENGOKU~』が今回リリースされるわけですが、このタイミングでベスト盤を出すっていうのは、どういう流れだったのですか? 大澤:単純に、結成10周年が今年だったので、何かやるかって考えたんですけど、別に何かって言ってもなあ……「ベスト作る?」っていう安易な考えで。ただ、今までの曲が13曲入っているんですけど、そのうち7曲は再録なわけですよ。俺、録り直すの大好きなので(笑)。技術的なことはもちろん、録音環境も良くなっているので、もう一回録ってみたいなっていう。その最たるものが「フローネル」で、それこそ当時は、ライブで全然回数を重ねていない状況で、とりあえず録ったわけです。でも、そのあとライブのなかで、いろいろ改変されて、雰囲気も変わってきているから、ぜひそれを録りたいなっていう。あと、2年前からうちらのCDに携わってもらっているエンジニアがいるんですけど、その人についてから録った楽曲は、まあ良しとしようと。それが残りの6曲で、それ以前の7曲は、全部再録したんですよね。 ――ベスト盤とはいえ、決して楽に作っているわけじゃないと。 大澤:まあ、その他に新曲を3つ入れているので、結局10曲新しく録り直していますから、もうフルアルバムみたいなものですよね(笑)。 ――仕上がりはどうですか? 大澤:これはもう、自信作ですね。2年一緒にやってきたレコーディング・エンジニアだから、もう意思の疎通もバッチリっていう。何しろ10曲レコーディングしたうち7曲は、これまでライブで散々やってきた曲なので、もう勝手知ったるというか、かなり良い感じに録れたと思いますね。

「大きいステージでやっている人たちとやれたら面白そうだな」

――歌詞だったり音だったり、それこそバンド名だったり、これまでバラバラのイメージだったものが、このベスト盤でようやくひとつになったというか……今まで意外と全体像が見えづらかったところがありますよね? 大澤:まあ、ぶっちゃけ派手な露出とかなかったですからね。ただ、ライブをやって、それを観た人たちが好きになってくれるという。だから、ライブバンドとして、良く言えばまっとう、悪く言えば愚直過ぎみたいな(笑)。ライブを観てもらったら、そこは自信があるんだけど、別にそれ以外のところで何かの主題歌でドーンとか、地上波の番組出てドーンとか、雑誌に何ページもインタビューが載っているとか、そういうのはいっさいなかったので。 ――現場レベルでは結構有名というか、知る人ぞ知る存在みたいなところがあって……。 大澤:そう、意外とね。「何でうちらのこと知ってるの?」みたいな人も結構いたりして。そう、こないだも、KenKenに「紹介するよ」ってマキシマム ザ ホルモンの楽屋に連れて行かれて、「打首の大澤です」って言ったら、「うわー、ついに来たかー」ってナヲさんに言われました(笑)。 ――向こうは、すでに存在を知っていたんですね。 大澤:何かそういうパターンが多いんですよね。飲みの席で知り合って、「打首の~」って言ったら、「おー、知ってる知ってる。今度対バンやろう」って、そのあと一緒にライブをするようになったりとか。 ――きっとバンドマンならではの観点というのがあるのでしょうね。 大澤:やっぱり、作っているもの同士の感覚ってあるんですよね。「そのテーマで、こう作るか!」みたいな。そこは作っているもの同士、分かるわけです。そういう意味では、うちは結構やっていることが密かにマニアックだったりするところがあって。それが多分、バンドマン同士の面白がり合いになってくれているのかなって。 ――生活密着型の歌詞とはまた別のところでも引きがあると。 大澤:結成時の話じゃないけど、もともとバンドサウンドやアレンジが良ければいいっていう考え方だったので、結局そのへんはバンドマン同士、要はウマが合うからやっているところもあるんですよね。サウンドのルーツに洋楽が見えるものというか。だから、歌詞だけ見ると、それこそ「筋肉少女帯とか好きですか?」って言われるけど、バンドマン同士だと、そこでやっぱり洋楽のバンドの名前が出てくるんです。「システム・オブ・ア・ダウン、好き?」「あ、やっぱり。わかるわー」みたいな。だから、結局そっちでも話が合うみたいな。密かにそういうベクトルもあるんですよね。 ――「面白い」と「カッコ良い」だったら、どっちが言われてうれしいですか? 大澤:両方ありですね。カッコ良いと言ってくれる人は、きっとサウンドを聴いてくれているんだろうし、面白いって言ってくれる人は、歌詞をちゃんと拾ってくれているんだろうし。だから両方ともうれしいです。もっと言えば、「バカだなー」っていうのでも、うれしいっていう(笑)。「こいつらアホだな、良い意味で」みたいな。 ――(笑)。 大澤:まあ、こんな感じではありますけど、これも結構自然体のなりゆきというか、メンバー的にはやっていて無理はないんですよね。無理がないからこそ、10年続いたっていうのもあるし。生活密着型なだけに、生活している限り曲は作り続けられるっていう。まあ、食べ物の趣味がラーメンから漬物になったり、「もう徹夜はできない」とか、そういう歌になっていくかもしれないですけど(笑)。 ――今後の目標としては何がありますか? 大澤:そうですね……KenKenもそうですけど、最近でかいステージに出ている人たちと友だちになっていきたので、そういう人たちと何か一緒にやってみたいですよね。それを実現させるためには、もうちょっとバンドとしての勢力を……結局10年やっていると、ライブハウスで一緒にやっていた仲間も、ほとんどいなくなってきているんですよ。だから、居場所としては自然とそっちでやっている人たち、大きいステージでやっている人たちとやれたら面白そうだなっていう。商売っ気抜きに、そうなりたいなっていうのは、ちょっと思いますよね。だから、それも含めて、ちょっとこの10周年のタイミングでバーンといきたいなと。この機を逃すと、もうタイミングがないんじゃないかっていう(笑)。そんなことは思っています。 (取材・文=麦倉正樹)
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打首獄門同好会『10獄~TENGOKU~』(Living,Dining&kitchen Records)

■リリース情報 『10獄~TENGOKU~』  発売:8月20日 価格:¥2,500(税抜) 〈収録曲〉 1.DON-GARA(新曲) 2.私を二郎に連れてって 3.デリシャスティック(再録) 4.まごパワー(再録) 5.88 6.ヒゲは走る(新曲) 7.ドーナツ歌現象(再録) 8.ヤキトリズム 9.フローネル(再録) 10.ファミチキ 11.失われし平和な春の日よ(新曲) 12.上野ZOO(再録) 13.カモン諭吉 14.AJPN(再録) 15.今日も貴方と南武線(再録) 16.How do you like the pie? 【無くなり次第終了!特典内容】 タワーレコードオリジナル特典…結成10周年記念番組「10獄放送局」 総集編DVD 未公開シーンも収録!? ▽全国のTOWER RECORDS店頭▽TOWER RECORDSオンラインショップ http://goo.gl/xb8Hzd ヴィレッジヴァンガードオリジナル特典…ミュージックビデオコレクション DVD &「うちくびさん一家」ポストカード ▽全国のヴィレッジヴァンガード店頭 一部店舗のポストカードにはメンバーの直筆サイン&スペシャルメッセージ付き! 全チェーン共通特典(TOWER RECORDS除く)…ミュージックビデオコレクション DVD ▽全国のTSUYAYA、HMVほか全チェーン共通  ※特典の取扱いは店舗により異なります。お近くのCDショップに特典有無を必ずお問い合わせの上お求めください。 ■ワンマンライブ情報 『10th Anniversary Tour Final 「10獄への階段」』 10月18日(土) 赤坂BLITZ ■オフィシャルホームページ http://www.uchikubi.com/ ■ネット番組“10獄放送局” http://www.juscli.com/prog_08_ug.php

人間椅子・鈴木研一が影響を受けた10曲「2010年代も真ん中なのに、70年代HRに惹かれちゃう」

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写真左より、鈴木研一(Ba、Vo)、和嶋慎治(Gu、Vo)、ナカジマノブ(Dr、Vo)

【リアルサウンドより】  音楽性を深化させながらハードロック一筋に突き進み、今年、デビュー25周年を迎えた人間椅子。ヘビーなギターリフを刻み続けるリーダーの和嶋慎治、白塗りのペイントでうねるベースラインを生み出す鈴木研一、パワフルなドラミングでバンドを支えるナカジマノブ。問答無用のサウンドで圧倒する彼らが、ニューアルバム『無頼豊饒』を完成させた。彼らの音楽のバックボーンには、70年代ハードロックが大きな比重を占めている。今回リアルサウンドでは人間椅子の音楽の根幹を探るべく、バンドを代表して鈴木研一に、これまでに最も影響を受けた10曲を挙げてもらった。そして、新作『無頼豊饒』の話題、長く活動する人間椅子の原動力についてを全2回にわたってたっぷりと語ってもらった。

「これに勝るものはないし、いくら作ってもこれをしのぐことができない」

――鈴木さんがハードロックに興味を持ったきっかけを聞かせてください。 鈴木:ハードロックの入り口はキッスです。中学生のときに、地元の青森で小林克也さんのラジオ番組で流れた「ラヴィン・ユー・ベイビー」がすごく気に入っちゃってキッスにハマったんです。アルバム『地獄からの脱出』が全曲良くて、そこからお小遣いはキッスのアルバムに全部使うようになりましたね。高校に入って小遣いじゃ足りなくて、新聞配達してレコード代にしてました。 ――ちなみに、楽器はいつから始めたんですか。 鈴木:中学のときにフォークを買って、キッスの「デトロイト・ロック・シティ」を弾いたんだけどイマイチで(笑)。それで高校入学祝いで、ポール・スタンレー・モデルのミラージュを買ってもらって、エレキギターを練習したけどどうも違って、高2くらいでオレはベースになろうと思ったんです。ジーン・シモンズに憧れたけど、なぜか(アイアン・メイデン)のスティーブ・ハリス・モデルのベースを買いました(笑)。 ――和島さんとは青森の同じ高校だったんですよね。 鈴木:一緒の学年でクラスは違ったんです。でも中学から和嶋くんは知ってて、ロック好きな友だちがいて偶然出会って。そんなに親しくない頃に、いきなりウチにキッスのレコード借りに来たんですよね(笑)。でも、オレはキッスを布教したかったからすぐ貸して(笑)。まさか突然キッスを借りに来た人と、一生バンドするとは思ってなかったですね(笑)。 ――(笑)。鈴木さんは、キッスからどのように他のハードロックにハマったんですか? 鈴木:高校に入って、FM番組のハードロック特集で、レッド・ツェッペリンディープ・パープルクイーンとか聴いて、キッスだけがカッコいいハードロックじゃないって気づいたんですよ(笑)。さらに父親の友だちが、ツェッペリンの『フィジカル・グラフィティ』ピンク・フロイド『狂気』とかレコード10枚くらい貸してくれたんです。それで、ブラック・サバスのベストで、サバスにハマりました。大学で東京に来たらレアなレコードが手に入るのうれしかったですね。伊藤政則さんの本で勉強したり、ほぼ毎日西新宿のレコード屋を回ってましたよ。当時はCDの再発もなかったですからね。 ――では、鈴木さんの選ぶ、70年代ハードロック必聴の10曲の話題にいきましょう。まずは、バッジーの「GUTS」から話を聞かせてください。 鈴木:全てのハードロックの曲の中でこれが一番好きなんです。これに勝るものはないし、いくら作ってもこれをしのぐことができない。バッジーは、大学の頃に偶然中古レコード屋でジャケ買いしたんですけど、サードの『友情(Never Turn Your Back On a Friend)』がすごくカッコよくて、僕らが「針の山」って歌詞を変えてカバーしてる、「ブレッドファン」にノックアウトされたんです。バッジーは噛めば噛むほど味が出るバンドで、「GUTS」はファーストの1曲目で、バンドの全てを表す曲ですね。とにかくリフの素晴らしさにつきます。特にサビがあるわけでもなく延々リフが続いて、メロディが少しずつ変わっていくだけなんだけど。ハードロックはリフがカッコいいと、それだけで成立しちゃうんですよ。 ――では、ブラック・サバス「CHILDREN OF THE GRAVE」。 鈴木:サバスで最初にやられたのは「パラノイド」でした。すごくシンプルな曲なんですけど、シンプルで人の心に残るのがハードロックの究極の目的だと思うんです。で、「CHILDREN OF THE GRAVE」の重たいリフのリズムは発明ですよ。これのそっくりさんはいっぱいあるけど、最初にこれを作れたサバスがうらやましい。トニー・アイオミがこれを作ったとき、どれだけうれしかったか想像しちゃいますね。あと、なにげにサバスのキモは、ドラムのビル・ワード。リズム感が良いわけじゃなく、むちゃくちゃに力一杯やる感じ、やたらシンバル叩く感じ。あれをおとなしくやられても面白くない。ビル・ワードのすごさも伝わってほしいなぁ。 ――次は、レッド・ツェッペリン「Immigrant Song」。 鈴木:オレとしてはこのインタビューで、ハードロックを知らない人にも聴いてほしいって思いがあるんです。だから聴いたら絶対好きになるぞって10曲を挙げたんです。ツェッペリンは他の曲も当然好きだけど、知らない人に最初にこれ聴いてノックアウトされてほしいなって。「移民の歌」みたいな、こんなすごいドラムは他にないですよ。あと、音楽ってハーモニーも大事だけど、ユニゾンの素晴らしさはハードロックにしかない良さなんです。「移民の歌」はすごいユニゾンで、音の固まりになってる。それをひたすら繰り返すところ良さがある。

「これを聴いてぶったまげるかどうかで、ハードロックの素質があるかどうか分かれる」

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――では、ディープ・パープルの「SPEED KING」。 鈴木:(ディープ・)パープルは、「スモーク・オン・ザ・ウォーター」「ハイウェイ・スター」も良いけど、スタジオ盤だと今ひとつおとなしくて。でも「SPEED KING」はスタジオでも音がすごいので、この曲にしたんです。ほんと、リッチー・ブラックモアは天才ですよ。「スモーク・オン・ザ・ウォーター」で、キーがGで弦2本のコードルートでリフを作るっていうのを最初にやったのはリッチー。その功績は大きいですよ。 ――次は、ユーライア・ヒープの「EARY LIVIN'」。 鈴木:ユーライア・ヒープは、パープルに似てるけど、一番違うのはオルガンがすべてのバンドってところ。ケン・ヘンズレーのオルガンがとにかくすごい。オルガンのハードロックって意味で、若い人に聴いてほしいですね。 ――そして、ブルー・オイスター・カルト「TRANSMANIACON MC」。 鈴木:俺、ブルー・オイスター・カルト大好きなんですよ(笑)。高校生のときに弘前のレコード屋で見つけたファースト『狂気への誘い(Blue Öyster Cult)』のジャケットがカッコよかったですね。ハードロックは大体ブリティッシュだけど、アメリカのブリティッシュを取り入れたバンドは、いかにもアメリカらしい匂いがあるんですよ。あとブルー・オイスター・カルトは、「死神((Don't Fear) The Reaper)」と「ゴジラ(Godzilla)」を聴いてほしいですね。 ――では、ドイツのバンド、スコーピオンズの「CATCH YOUR TRAIN」。 鈴木:スコーピオンズの良いところは、ウルリッヒ・ロートっていうジミヘン好きの速弾きギタリストがいるところ。最初聴いたときに、どんだけ速いんだって思いましたね。リッチーもジミー・ペイジも速いけど、意外と手癖が強い。この人は美しいメロディを速弾きするのがすごい。この曲は、キャッチーなメロとシンプルな構成とすさまじいソロが1曲にバシッと入ってる。これを聴いてぶったまげるかどうかで、その人のハードロックの素質があるかどうか分かれると思います。 ――そして、メタルゴッド、ジューダス・プリーストの「VICTIM OF CHANGES」。 鈴木:ジューダスはA級バンドだけど、でもファーストから3枚目くらいまでは、今ひとつ突き抜けないB級な感じがあって、その頃の方が好きなんです。思いっきりサバスに影響された曲だけど、とにかくロブ・ハルフォードの歌がすごい。低音からハイトーンで3オクターブくらい使うんです。ジューダスは、リフも良いし、80年代のもカッコいいけど、歌から入りたい人にはこれだと思って挙げました。

「とにかく日本でもハードロック好きが増えてほしい」

――キッスは「STRANGE WAYS」と意外な選曲ですね。 鈴木:キッスは俺の魂ですよ。俺は、サバス半分、キッス半分でできてるみたいなものだから(笑)。普通だったら、「デトロイト・ロック・シティ」「ラブガン」「ロックンロール・オールナイト」から入るのも良いと思う。でも、セカンド『地獄のさけび(Hotter Than Hell)』の最後の曲を初めて聴いたとき、衝撃を受けたんです。ギターのエース・フレーリーの曲だけど、エースの曲はリフがすごくカッコよくて、ブリティッシュロック好きでも相当聴ける。この曲は、サバスみたいなリフに、どうやって弾いてるか分からないソロがカッコいいんです。キッスは、産業ロックとか言われたり、メイクとか火吹きとか、ギミックに話題が行きがちだけど、それだけじゃないよって思いがあって、この曲を挙げました。 ――最後は、キング・クリムゾンの「THE GREAT DECEIVER」です。 鈴木:プログレだけどハードロックしてる曲ですね。プログレって、芸術的なりフとか展開のカッコよさがあるけど、この曲は極悪に聴こえるんですよ。破壊神みたいな、こんなに悪意に満ちたリフはないなって。 ――ロバート・フリップは頭の良い人だから、知恵を使った悪みたいな曲ですね。 鈴木:それは良い表現ですね。ロバートは心のどこかで極悪なんですよ(笑)。クリムゾンは、「21世紀の精神異常者」や「太陽と戦慄」から入るのが普通ですけど、これはとにかく音がすごい。 ――逆に若いロックファンには入りやすいかもしれないです。バトルズとかマーズ・ヴォルタとか、激しく変拍子の多いバンドに近い要素が入ってるので。 鈴木:その元祖ですからね。あと、ハードロックファンにもプログレを聴いてほしいなって思いでこれを入れました。 ――10曲挙げてもらいましたが、70年代ハードロックって独特な匂いがありますよね。 鈴木:ありますね。この10曲は、若い人に聴いてほしいなっていうのと、俺の好きなバンドをもっと広めたいって思いの入った選曲になりましたね。もう2010年代も真ん中なのに、俺は70年代ハードロックに惹かれちゃうんですよ。最近はもっとロック漬けになろうと思って、何するときでもiTunesのハードロックチャンネルをずっと流してるんです。自分らの曲を練習してる間も、違う曲流してますから(笑)。とにかく日本でもハードロック好きが増えてほしい。聴く人も演る人も。こんなにすごい音楽があるんだから。その布教活動を俺はしてるところがあって、実際に、3〜4ヶ月に1回、高円寺Show Boatで『ハードロック喫茶ナザレス』ってイベントをやってるんです。 ――そうなんですか。どんなイベントなんですか? 鈴木:夜の11時から約5時間、俺がDJでハードロックをかけ続けてるっていう。ステージのど真ん中に俺が座って音楽かけて、お客さんと向かい合って聴くってイベントなんです。マンガ読んでる人もいるし、寝てる人もいるけどそれで良いっていう(笑)。マニアックな選曲で、ハードロック好きな人なら楽しめると思います。次は、10月18日にやります。でも最近お客さんが増えて、チケット売り切れて新しい人が来れないのがジレンマで。これじゃあ布教活動にならないし、もっとデカいハコでやろうかなと思ったりしてます。 ――ぜひやってください(笑)。鈴木さんは、とにかく今もハードロックどっぷりなんですね。人間椅子の音楽性の濃さの理由が分かったような気がします。 鈴木:そういうのを踏まえた3人が作ってるから、当然70年代の匂いプンプンの音楽になるんです(笑)。今回のアルバム『無頼豊饒』もその延長ですね。 ――ということで、次回はニューアルバム『無頼豊饒』の話を聞かせてください。(後編に続く) (取材・文=土屋恵介)
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人間椅子『無頼豊饒(初回限定盤)(DVD付)』(徳間ジャパンコミュニケーションズ)

■リリース情報 『無頼豊饒』 発売:6月25日 価格:初回限定盤(CD+DVD) 4800円(税込)    通常盤(CD) 3086円(税込) ※初回限定盤、通常盤ともに共通のアートワーク <収録内容> 01.表徴の帝国 02.なまはげ 03.地獄の料理人 04.迷信 05.生まれ出づる魂 06.悉有仏性(しつうぶっしょう) 07.宇宙船弥勒号(うちゅうせんみろくごう) 08.リジイア 09.ミス・アンドロイド 10.グスコーブドリ 11.がらんどうの地球 12.結婚狂想曲 13.隷従の叫び <DVD収録内容> ※初回限定盤のみ 『バンド生活二十五年~猟奇の果~』 @TSUTAYA O-EAST (2014年1月18日より) 1.新調きゅらきゅきゅ節 2.爆弾行進曲 3.時間からの影 4,怪人二十面相 5.九相図のスキャット 6.ねぷたのもんどりこ 7.品川心中 8.踊る一寸法師 9.相剋の家 10.蜘蛛の糸 11.針の山 12.猟奇が街にやって来る ■ライブ情報 『人間椅子ワンマンツアー「二十五周年記念ツアー ~無頼豊饒~」』 8月20日(水)仙台 LIVE HOUSE enn 2nd 8月22日(金)青森 Quarter 8月24日(日)札幌 Bessie Hall 8月30日(土)熊本 B.9 V1 8月31日(日)博多 DRUM Be-1 9月3日(水)広島 HIROSHIMA BACK BEAT 9月4日(木)香川 高松 モンスター 9月12日(金)大阪 梅田 Shangri-La 9月14日(日)名古屋 Electric Lady Land 9月20日(土)恵比寿 LIQUIDROOM ■「なまはげ」MV(6/25発売AL「無頼豊饒」より) http://youtu.be/CLoUY1kA4ZY ■「無頼豊饒」 ダイジェスト http://youtu.be/sGvsk1W_2Jc

アイドルが売れるには厄介オタも必要!? 姫乃たまが濱野智史に“ガチ恋の心理”を尋ねる

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地下アイドルでありながら、ライターとしても活躍する姫乃たま。

【リアルサウンドより】  貴重な休日に呼び出した濱野智史さんに、「姫乃たまはどうしたら売れますかね」と聞くと、寝癖のついた髪を揺らして、えっと驚いてから「ああ、なんで売れないんですかね」と呟きました。そもそも売れる気はあるのかと、小一時間問いただしてやりたくなるような、ぼんやりした地下アイドルの私を前に「考えることは好きなんで大丈夫です」と言って頭を抱えてくれました。  いまはアイドルグループのプロデューサーとして活躍している濱野さんも、数ヶ月前までひとりのアイドルオタクであり、さらに数年前まではアイドル文化にあまり理解のない社会学者でした。「アイドルなんか全然好きじゃなかったですよ。童貞がアイドルの手を握りたいからCD買ってるとか思って、むしろ馬鹿にしてました。音楽チャートも握手会やった順になってるし」  最初にAKB48を好きになった時も、画面越しに眺めるだけで、現場に足を運ぶのは抵抗があったそうです。私も地下アイドルライブに出演するたび、ビギナーの方への敷居の高さを感じます。アイドルにお金をかける自分への気恥かしさなどから、現場に行けない人がたくさんいると濱野さんは言います。 「僕も在宅(現場には足を運ばないファンのこと)の時期に、周りの人間からイベントに誘われても、行かないって思ってました。別に普通に好きなだけだから、とか、そういうこと格好つけて言っちゃうんですよね。そこがもうすでにオタクっぽいんだけど(笑)。この段階の人は、僕の感覚だとまだまだ多いですよ」  しかし、ハマれ。さらば救われる! 根っからのフィールドワーカーだった濱野さんは「現場に行かないとわからないことがある」と、足を運んだAKB48の握手会で、全てのファンが幸せそうにしている空間に衝撃を受けました。そしてアイドルを応援する楽しさを確信したのです。  私はアイドルのファンになったきっかけや理由を聞くのが好きです。アイドルに夢中になるより先に16歳で地下アイドルになり、舞台裏をのぞいてしまったせいで、アイドルファンの話は近いのに遠い世界のことのようで面白いのです。アイドルの応援が楽しくないわけがないと濱野さんも言います。「そりゃあ楽しいですよ。純粋にアイドルを応援している時の気持ちは、恋愛における片思いに似ているし。人は子どもを作らないといけないから恋愛に似た行為は楽しくなるようにできてますよね」  濱野さんの話を聞きながら、ふとファンは私に片思いのような気持ちを持っているのか気になりました。40~50代を中心に、親戚の女の子を見るような目で見守ってくれているファンの人たちです。あんまり恋愛対象にされている感じはありません。「たいていのアイドルは歌や踊りの技術はそんなに高くないから、好きになってもらうには、あの子なんかいいなって思ってもらうしかないですよね。それは恋の始まりに似ています。だから純粋に応援しているファンっていうのは、(本気で付き合いわけじゃなくても)みんなガチ恋だと言っていいと思います」。なるほど、たしかに現場にいるファンの動物的な情熱は恋愛に似ています。  また、「若くてお金のないオタクにとってガチ恋はコスパがいい応援の仕方」という話に驚かされました。ピンチケと呼ばれる若いファンの男の子たちが、同世代のアイドルに自分はガチ恋だとアピールするのは、記憶に残れるかもという考えからだというのです。「年齢も近いから、もし同じ学校にいたら何かあったかもしれないと思うこともあるでしょうけど、基本的にはアイドルオタクですから。それで記憶に刺さればいいなくらいの気持ちですよ」。現実的な恋愛に発展させたいというよりは、ファンとして認知されることを重視した行動だったんですね。恋に似ているけれど、恋じゃないのです。  しかしこのガチ恋をこじらせるといわゆる「厄介オタ」になってしまいます。そして厄介オタになる原因は、恋愛が成就しないという単純な理由ばかりではないようです。応援しているアイドルが売れなかったり、グループの中で干されたりしていると、純粋に応援する楽しみが失われて、こじれていく場合もあると濱野さんは言います。こじらせる方向は厄介オタだったり、病めるオタだったりと様々です。私もこじらせオタを今までたくさん見てきました。アイドルがいないところでこっそり病んでしまう人から、こんなグループや事務所は辞めた方がいいと忠告したり、果ては女の子が立ち直れなくなるまで説教してしまう人など、本当にいろいろです。  正直なところ私は、趣味でそこまで苦しむことないのにと本気で思っていました。そんな風に理解がないせいか、五年間のアイドル生活で厄介オタも病めるオタもファンにいたことがありません(鈍くて気づかなかっただけかもしれないですが)。私に恋をしたり、説教したり、アンチになったり、議論する人もいませんでした。ただ純粋に応援だけでなく、こうしたファンからも影響を受けなければ、アイドルとして売れないということは薄々気付いています。それを伝えると濱野さんは、「そんなにみんながいいねいいねって言い合う現場もなかなかないから、それはそれでいいじゃないですか」と笑って、ようやく頭を抱えるのをやめました。  「でも30代くらいになるとガチ恋を自称するのって恥ずかしいんで、姫乃さんが40~50代のガチ恋に代わる言葉を作ったらいいと思いますよ」と言ってくれました。なるほどなあ。セカンドライフとかでいかがでしょうか。 ■姫乃たま 1993年2月12日下北沢生まれの地下アイドル。2009年より都内でのライブ活動を中心に地下アイドル活動を開始、2011年よりライターとしても活動している。他に司会やDJ、イベンターなど活動は多岐にわたる。 [twitter] [地下アイドル姫乃たまの恥ずかしいブログ] [姫乃たまのあしたまにゃーな

海の家のクラブ化、危険ドラッグ、EDMブーム……磯部涼と中矢俊一郎が語る、音楽と社会の接点

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磯部涼『踊ってはいけない国で、踊り続けるために ---風営法問題と社会の変え方』(河出書房新社)

【リアルサウンドより】  音楽ライターの磯部涼氏と編集者の中矢俊一郎氏が、音楽シーンの“今”について語らう新連載「時事オト通信」第1回の後編。前編【磯部涼×中矢俊一郎 対談新連載「グローバルな音楽と、日本的パイセン文化はどう交わるか?」】では、日本のヒップホップ文化全般のあり方を、ヤンキー社会に顕著な“パイセン文化”という観点から読み解いた。後編では、海の家のクラブ化問題や危険ドラッグについて、さらにEDMブームのグローバル性まで、音楽と社会に関わるアクチュアルな問題について議論を深めた。

海の家のクラブ化問題

中矢:ところで、去年の夏はテレビなどで「海の家のクラブ化」が社会問題になっているとよく報じられましたよね。そんな海の家で流れているのも、今はEDMが主流なんですかね? 磯部:EDMでもJ-POPでも、とにかくアガるものだったら何でもかかるって感じだと思うよ。クラブ・ミュージックと海の家の関係っていうと、レゲエ・バンドのHomegrownを生んだ葉山の<OASIS>とか、野村訓一氏がやっていた辻堂の<Sputnik>がよく知られているけど、そっちはもっと洗練された感じで、いま問題になっているようなガラが悪い方向に行ったのは、サイケデリック・トランスのイベントをやる店が増えてからだろうね。『men’s egg』(既休刊)の人気読者モデルだった植竹拓ことピロムの回想録『渋谷(ピロム)と呼ばれた男』(鉄人社、2013年)には、もともとはヒッピー色が強かったサイケデリック・トランスが、2000年代初頭、渋谷でポスト・パラパラとしてギャルとギャル男に受けて、それに目を付けたエイベックスが<ヴェルファーレ>でイベント「サイバートランス」を開始したことによって大きなムーヴメントになっていく過程が描かれている。そして、いわゆる野外レイヴにもギャル/ギャル男客が押し寄せるんだけど、彼らのマナーの悪さは有名で、最近もジュークのトラックメーカーである食品まつりが「ギャル、ギャル男とかの間でサイケトランス流行ってた頃に野外パーティ手伝った時に、パーティ後そこら中にテントごと捨ててあったの思い出して、そうゆうパーッとした生き方もあるんだと今もたまに思い出す。けど片付けが死ぬほど大変だった」なんてツイートしていて笑ったな。山奥だとまだ世間と隔離されてるからそれぐらいで済むとして、それが海に来たら……当然、地元と揉めるよねっていう。以後、サイケに限らずガラの悪い若者に受けるチャラ箱風・海の家が増えて色々と問題を起こした末に、今年は逗子市がかなり厳しい条例を制定して話題になっている。 中矢:結局、何が「問題」なんでしたっけ? 大音量の音楽に周辺住民が迷惑をしている……とか? 磯部:騒音問題もあるんだけど、さっき挙げた逗子市の「安全で快適な逗子海水浴場の確保に関する条例及び施行規則」は音楽を流すことだけでなく、「砂浜で酒を飲むこと」や、「入れ墨を露出すること」も禁止しているから、まぁ、ガラが悪い若者を排除しようとしていると言っていいだろうね。昨夏、逗子海岸では喧嘩の末の殺人事件すら起きているから、市としても動かざるを得なかったんだと思う。 中矢:そうなると今年の夏、クラブ化する場所が逗子からどこかへ移ることもあり得るんですかね。 磯部:実際、昨夏に藤沢市の片瀬西浜海水浴場が他の地区に先立って音楽を禁止したため、若者が逗子と鎌倉に流れて荒れたことで件の「安全で快適な逗子海水浴場の確保に関する条例及び施行規則」の制定に至ったんだよね。結果、この夏の逗子海岸は静かになってファミリー層には好評みたいだけど、海水浴客の総数は激減して海の家の組合からは不満も聞こえてくる。一方、若者たちは依然として規制が緩い鎌倉に流れていて。松尾崇・鎌倉市長は「何かを排除することなく皆が楽しめる海水浴場を目指したい」と発言しているし、意図的に規制緩和路線を進めている節もある。さて、このまま逗子が落ち込んでいくのか、あるいは、鎌倉で問題が起きたりしないのか、この夏の湘南は、規制と経済のバランスを考える上でも注視しておきたいね。 中矢:日本の公共空間というのは、マナーとルールとモラルが混在しているし、何が本当にダメなのか曖昧な部分が多いように思います。 磯部:曖昧に成り立っていたものに対して、法できっちり規制していこうというのが近年の傾向だろうね。やはり話題になっている風営法とクラブの問題もそう。例えば、僕が編集した『踊ってはいけない国、日本』(河出書房新社、2012年)では、社会学者の宮台真司氏がその原因について「地域共同体が弱体化したことにより生まれたいわゆる“新住民”が、何か問題が起こった時に自分で文句を言いに行かず、すぐ行政に頼るがために過剰な規制が生まれている」というようなことを語ってくれた。ただ、“新住民”化しているのはクラブも同じで、地域のことなんて意に介さない店も多い。湘南の海の家にしても、昔は権利を持っている地元の人がやっていたのが、00年代に入って権利を企業に貸すようになって。そのおかげで盛況になったものの、やり逃げのような経営をするところも増えて風紀は乱れた。クラブに関しては、一部の事業者は地元との関係を修復する方向に動いているけど、全ての事業者がそうなるとは考えられないから、僕は程よい規制の在り方を考えるしかないと思っている。 中矢:ところで、アメリカは日本より何かとオープンな印象がありますが、カリフォルニア州の場合、アルコールに対しては厳しい。コンビニではビール一缶を買うときでも必ず袋に入れられるし、午前2時から6時までお酒の販売が禁止されています。だから、クラブは大体2時で閉店する。他方で、医療大麻は合法なので、公園で学生たちがジョイントを堂々と回していたりしますけど、それを咎める人もいない。 磯部:そうそう、アメリカやイギリスはリカー・ライセンス(アルコールの販売許可)の取得も難しくて、それが合法クラブをつくるハードルになっていたりもする。あっちのアルコールに対する厳しさは宗教観も関係しているのかな。一方、日本は寛容だけど、逗子の件は公共の場におけるアルコールの在り方が問われた珍しい事例と言えるだろうね。それにしても、海で暴れている若者たちはEXILEのメンバーみたいなルックスをしているのに、同グループに顕著な日本的集団主義が見られず、世間というグループから突出した行動を取ってしまっている。そこには、HIROさんのような目を光らせているパイセンが不在なのかもしれない。

脱法ドラッグにカルチャーはあるか?

中矢:社会問題といえば、去年あたりアメリカではMDMAの粉末をカプセルに入れた“モーリー”がEDMのブームとリンクしながら大流行しましたけど、日本では脱法ドラッグが“危険ドラッグ”と呼び変えられて再び話題になっていますよね。2012年頃にも同ドラッグをめぐる事件が相次いで社会問題化しましたが、1年ほど前に私と磯部さんが10代のドラッグ事情に関する記事を作った際は、「脱法ドラッグはダサい」という認識が若い子たちの間で広まっていたように感じました。なぜ、ぶり返しているように見えるのか……。 磯部:最近、危険ドラッグによるトラブルがまた増えているのには恐らくふたつの理由があって、ひとつは報道を見て、ほとんどの人間は恐怖や嫌悪を感じるだろうけど、中にはそれをきっかけに興味を持って試してみる人間もいるということ。つまり、危険性のアピールが逆効果をもたらすと。2012年の脱法ドラッグ・パンデミックでも同じような事態が起きたよね。それと、もうひとつの理由としては、前回のパンデミックを収拾させるため、2013年に厚生労働省が包括規制を導入したわけだけど、それを受けて業者がまだ規制されていない新手の薬物を使うようになったり、検出されにくくなるのを狙って様々な薬物を混ぜ合わせたりするようになったため、ドラッグの酩酊効果がより強烈かつ予想しづらくなったということが挙げられると思う。もともと、合法ハーブと呼ばれていたものってもっと緩い効果だったのに、規制がモンスター化させてしまったという。 中矢:しかし、危険ドラッグと音楽に接点はあるんですかね? アメリカのヒップホップだと、パープル・ドリンク(コデイン配合の咳止めシロップをソーダで割ったもの)について歌ったエイサップ・ロッキーの「Purple Swag」とかがありましたけど。 磯部:最近、「危険ドラッグ、4人に1人経験=クラブ利用の16歳以上男女」というニュースが出回っていて、「風営法の規制緩和路線に対するネガキャンか」「サンプル数=355名で“クラブ利用者”と一般化するな」みたいな批判がされているものの、それでも、この調査結果が本当だとして、僕の予想より遥かに多くて普通にびっくりしたけどね。しかも、元になった報告書によると調査対象となったイベントは「すべてreggae/dancehall」だそうで、レゲエ/ダンスホールのひとたちはケミカル・ドラッグを嫌う印象があったんだけど、ひょっとしてこれは新たな文化の萌芽なのだろうか……っていうのは冗談として、大麻系にせよ、覚醒剤系にせよ、睡眠薬系にせよ、危険ドラッグは結局が何か別のドラッグの模造品だから、大麻やLSDやMDMAのように「危険ドラッグ特有の効果が新しい音楽を生む」みたいなことはないだろうし、最近、問題になっている新手のやつは効果が強過ぎて音楽をつくる前にぶっ倒れちゃうんじゃないかな。 中矢:なるほど。そういえば、大麻解放論者は「大麻を解放すれば、危険ドラッグに手を出す人はいなくなる」と主張したりしますけど……。 磯部:開沼博氏も『漂白される社会』(ダイヤモンド社、2013年)で「日本では“違法”ドラッグのハードルが高いから、“脱法”ドラッグに流れるひとが多い」みたいなことを書いていたけど、大麻に寛容なアメリカでも、マイアミで起きた人食い事件の原因になったと言われるバスソルトが流行ったりしていたからね。あと、モーリーもほとんどはピュアなMDMAが入っているわけではなく、様々な薬物が混ぜ合わせられた“危険ドラッグ”だし。要するに、どうしたって人間のドラッグに対する興味は尽きることはないんだから、この問題でも的確な規制と、あと依存者に対しては取り締まるだけでなく、治療を施していくことが重要なんじゃないかな。

グローバル化の一現象としてのサマー・オブ・ラブ

中矢:最後に日本とアメリカ以外の世界にも目を向けた話をできればと。もうだいぶ経ってしまいましたけど、ワールドカップの時期、コンビニなどでブラジル音楽をわりと耳にしたんです。「今お聴きいただいたのは、セルジオ・メンデス&ブラジル’66の世界的ヒット・ナンバー『マシュ・ケ・ナダ』でした」とかちょっとした解説もあったり。だから、90年代にブラジル音楽はブームになったけど、今回のワールドカップを機にまた日本で流行ったりすることもあり得るのかなと思ったんです。結局、特に盛り上がらなかったですけど、90年代にブームになった経緯を振り返ったりして。あの時代、アシッド・ジャズの文脈からブラジル音楽がクラブ・ミュージックとして受容されるようになった後、「サバービア・スイート」で紹介されたボサノヴァがカフェ・ブームとシンクロしていきましたよね。で、今やエクセルシオールみたいなチェーン店のBGMでもボサノヴァは当たり前に使われ、渋谷直角の『カフェでよくかかっているJ-POPのボサノヴァカバーを歌う女の一生』みたいな本も話題になったわけですが。 磯部:今回のワールドカップに関連して日本で良くも悪くもいちばん話題になった音楽は椎名林檎の「NIPPON」だからね……。ほとんどのひとはワールド・カップを“世界で頑張る日本人”みたいな愛国番組の延長でしか観てないでしょ。リンダ3世の「ブラジリアン・ライム」とか面白かったし、音楽ファンの一部ではアントニオ・ロウレイロとかいわゆる新ミナス派が話題だけどね。あと、ポスト・バイリ・ファンキとしてのテクノ・ブレーガとか? 中矢:テクノ・ブレーガは北部の都市ベレンを発祥の地とする音楽で、基本的にブレーガという土着のポップスの80年代音源を、クラブ・カルチャーを通過したプロデューサーたちがリミックスしたものなんですよね。ガビ・アマラントスバンダ・ウオといったアイコンがデビューした2012年頃から、ブラジル全土で流行り始めているそうですが、ビジネスモデルもユニークといわれている。リミックス作業が中心の音源製作は低コストなので、完成したCDは露天商に超安いコピーを販売させることで、パーティに集客する広告として機能しています。実際、1万人以上が集まるパーティもあるらしくて。ただ、バイリ・ファンキのように国外でも注目される音楽になるのか、まだ何ともいえないところかなと。 磯部:バイリ・ファンキもパッケージよりパーティが重要みたいだから、そこも近いんだろうね。あと、最近のグローバルなベース・ミュージックの潮流とリンクしているようなところもあるし、もっと注目されそうな気もするけど。 中矢:バイリ・ファンキに関しては、M.I.A.の「Bucky Done Gun」に当時の彼氏であるディプロが取り入れたことで、その音楽の存在が国外でも広く認知されましたよね。 磯部:M.I.A.前夜、日本でバイリ・ファンキが注目され始めた頃はまだググれば何でも出てくるような時代ではなかったので(http://youtu.be/2Dd1P3VSuww)、同ジャンルをDJでよくかけていた露骨KITから「向こうのバイリ・ファンキのパーティでは、フロアにノーパンの男が一列に並んで、女の子は順番にピストンしていくらしいよ!」って教えてもらって、「すげー!」っていちいちカルチャー・ショックを受けていたし、実際、バイリ・ファンキの音にも欧米や日本にはない荒々しさが漂っていたとも思う。ただ、その後のネットの普及や、ベース・ミュージックのようなグローバルなムーヴメントの拡大によって、そういうエキゾチシズムやローカリズムを感じさせるジャンルは少なくなってきたよね。テクノ・ブレーガも洗練されてるでしょう。 中矢:先程も話に出たようにグローバルとローカルという言葉を掛け合わせた、グローカル・ビーツという言葉がキーワードになっていた時期がありましたよね。バイリ・ファンキのほかに、アンゴラのクドゥロ、アルゼンチンのデジタル・クンビア、インドネシアのファンコットなどがそれに当たると思いますが。 磯部:それがEDM以降、グローカル・ビーツが単なる“グローバル・ビーツ”として均質化していったと思うんだよね。K-POPなんかも、00年代はサウンドに独特の“訛り”があったのが、東方神起や少女時代のUS進出を機に徹底的にグローバライズが押し進められた印象があるし、最近、DJのwardaaがツイートしていた「ジャマイカでインターネットが普及して最新トレンドを追えるようになった挙げ句EDMが流行りまくってレゲエが衰退してる」という話には驚いたな。 中矢:なるほど。EDMだって、ロンドン発の重厚なダブステップの流れと、パリの洒脱なエレクトロの流れが合流して発生したものですけど、その2つの特性を大雑把に取り込んだダンス・ミュージックともいえる。そんな音楽は世界中に浸透しているわけですが、まだしばらく勢力は衰えないのかな? 磯部:柴那典氏の『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』(太田出版、2014年)にしろ、皆、何かのムーヴメントが起こるとサマー・オブ・ラヴに例えるのが好きだけど、EDMは、モーリーの流行と合わせて考えれば、それこそまんま“サマー・オブ・ラブ”でしょう。そして、サマー・オブ・ラブって“お前はお前の踊りを踊れ”の真逆というか、“皆が同じ踊りを踊る”ことで自己という呪縛から解放されるムーヴメントなわけで、そりゃあ、没個性化していくよなぁっていう。ただ、ファーストでもセカンドでもサマー・オブ・ラヴが終わったあとは反動のように内省的な表現が増えたし、EDMが終わったあとに何が始まるのかにも興味があるけどね。 (構成=編集部) ■磯部 涼(いそべ・りょう) 音楽ライター。78年生まれ。編著に風営法とクラブの問題を扱った『踊ってはいけない国、日本』『踊ってはいけない国で、踊り続けるために』(共に河出書房新社)がある。4月25日に九龍ジョーとの共著『遊びつかれた朝に――10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』(Pヴァイン)を刊行。 ■中矢俊一郎(なかや・しゅんいちろう) 1982年、名古屋生まれ。「スタジオ・ボイス」編集部を経て、現在はフリーの編集者/ライターとして「TRANSIT」「サイゾー」などの媒体で暗躍。音楽のみならず、ポップ・カルチャー、ユース・カルチャー全般を取材対象としています。編著『HOSONO百景』(細野晴臣著/河出書房新社)が発売中。余談ですが、ミツメというバンドに実弟がいます。