スマイレージ、なぜ改名&増員を決意した? 実験的グループの苦悩と功績

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スマイレージ『嗚呼 すすきの/地球は今日も愛を育む(初回生産限定盤A)』(アップフロントワークス)

【リアルサウンドより】  スマイレージのリーダー・和田彩花と福田花音が9月24日、動画サイト「ハロ!ステ」でグループの増員と改名を発表し、話題となっている。  この発表を受けてブログには賛否両論の意見が寄せられ、福田は25日に「本当にこれは軽はずみで決まったこととかじゃなくて何度も何度も相談を重ねて決まったこと。(中略)つんく♂さんが考えてくださった、スマイレージという名前はとても大切なものだし、宝物」としながらも「例え『スマイレージ』って名前が変わってもわたしたちが今までやってきたことが全て無駄になるってことはない」と、改めてファンに理解を求めた。  2009年結成以降、メンバーの卒業や増員でその体制を変えてきたスマイレージ。2012年からは現体制となる6人で活動を続けてきた彼女たちが、今このタイミングでグループ名の変更とメンバー増員を決めた理由とは何か。今や「伝説」ともいわれる青梅イベントほか、結成時から彼女達のイベントやライブに足繁く通い、同グループの動向に詳しい映像作家のターボ向後氏は、ハロー!プロジェクト内での彼女たちの功績を振り返りながら、次のように分析する。 「スマイレージは和田と福田を含む4人のオリジナル・メンバーの時から、AKBブレイク以降、戦国時代といわれた新しいアイドルシーンへ、ハロプロとして初めて戦略的に切り込んでいくグループとして機能していました。AKBグループを意識したファンとの向き合い方を模索していて、それまでハロプロで行われていたオマケ的なものではなく、今のような「接触系」と呼ばれる親密な握手会のスタイルをハロプロのグループとして始めたのも、動画サイトでの積極的な情報発信を最初に行ったのも彼女たちです。その試みの新しさゆえに、いつもファンからは賛否両論が起こりましたが、結果として彼女たちが現在のハロプロに与えた功績は少なくありません。もっと言えば、4人時代のスマイレージのあの狂騒的な活動がなければ、今のハロー!プロジェクトはなかったといっても過言ではないと思います。モーニング娘。や℃-uteがブレイクした背景には、グループの努力や苦節をエンターテイメントとして展開すること、つまり“物語性”を取り入れたのが一要因としてありますが、そうした物語性をAKBG以降のものへと更新していったのはスマイレージが先鞭をつけたことです。彼女たちの活動は手探りゆえに迷走することもありましたが、それまで極めて「内向き」だったハロプロの方向性を外側へと向けるきっかけとなった重要なグループであったことは間違いないと思います」  しかし、その実験的な活動方針ゆえの重圧が、グループとしての方向付けを難しくしていったと、ターボ向後氏は続ける。 「2011年8月にはオリジナルメンバーの小川紗季が、同年12月には前田憂佳が相次いで卒業したうえ、中西香菜、竹内朱莉、勝田里奈、田村芽実の4人が加わり、スマイレージは新たなスタートを切ることになります。しかし、オリジナルメンバーの半分が入れ替わるという前代未聞の状態で、この時点で元のスマイレージとは異なるグループになっていたと思います。にも関わらず、和田と福田は懸命にスマイレージであろうとし続けたし、新メンバーも必死にスマイレージになろうとしていました。僕は6人編成になった直後、今やファンの間では伝説といわれている青梅でのリリースイベントに参加した一人ですが、彼女達が一生懸命であるがゆえに“スマイレージ”というグループのイメージに囚われ、メンバーそれぞれが本来持っているポテンシャルを活かしきれていないと、その時点でも感じました。そんな歯がゆい堂々巡りの結果、グループとしての方向付けが難しくなっていった面もあったと思います。しかし、彼女たちはその苦しい状態のまま努力を続け、今年7月には念願の初武道館公演を達成しました。ここでようやく彼女たちは、スマイレージというグループに一区切りを付け、次のステップに進む決心ができたのではないでしょうか」  そんな彼女たちは今後、どのようなグループとして活動を開始するのだろうか? 「彼女たちはやっと“スマイレージらしく”という縛りから解放されたと思うので、今後は各メンバーが自由に個性を発揮して、自分たちらしいグループを1から築き上げていくのではないでしょうか。メンバーの福田花音はアーバンギャルドのようなサブカル色の濃いバンドを好んでいますし、田村芽実は宝塚を愛好しています。そういった趣味志向が活かされ、独自のグループになるのが理想的ではないかと。そのためにも、次のグループ名は“スマイレージZ”のような、前グループを踏襲したものにならないことを祈ります(笑)」  ハロプロ内でも特異なポジションを担ってきたスマイレージ。新たな名称になることで、同じメンバーが在籍しながらも、まったく異なる方向性を持ったグループとなるかもしれない。 (文=松下博夫)

MONKEY MAJIK×渡辺俊美 対談「震災後は『何のために歌うか』を考えるようになった」

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【リアルサウンドより】  仙台を拠点に活動するMONKEY MAJIKが来年のデビュー15周年に向けて、9月10日にシングル『You Are Not Alone』をリリースした。同作は岩手・宮城・福島で行われている『NHK・民放連共同ラジオキャンペーン』のキャンペーンソングに起用されており、メッセージ性のある楽曲としてすでに東北のファンには馴染みのある1曲だ。リアルサウンドでは同作の発売を記念して、福島県出身のミュージシャンで、地元でも積極的に活動を行っている渡辺俊美(TOKYO No.1 SOUL SET)との対談を実施。東日本大震災以降の音楽についての議論や、渡辺のベストセラー書『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』にまつわる話、さらにはバンドがキャリアを積んでいく上で起こることなどを大いに語り合ってもらった。

「僕らが一番恐れているのは、震災に対しての意識の低下です」(tax)

――渡辺俊美さんは福島県出身、MONKEY MAJIKは宮城県の仙台を拠点にしていて、2011年の東日本大震災以降、大きな経験を共有しています。それぞれ東北で精力的に活動されていますが、どんな思いで取り組んでいるのか、聞かせてください。 渡辺: 僕は毎月、福島に行っていますが、両親はまだ避難しています。そこで感じるのは、福島出身のアーティストより、県外のアーティストが「がんばろう」と訴えたほうが、ずっと盛り上がるということ。だから、県外のアーティストのライブをセッティングしたり、地元のアーティストと交流を持ってもらったりしています。  そして、僕らはもう文句を言う時期は過ぎたと思っているから、次の段階に進むことをしっかり考えようと思っています。今後に向けて、どうすれば役に立てるか――避難している人、被災地に残っている人の両方を傷つけないように活動していきたいですね。被災地の今後については多くの意見があり、それをひとつにまとめるのは本当に大変なことで、また時間がかかるものだと思うので、寄り添って見守っていけたらいいなと。 ――MONKEY MAJIKも「MONKEY MAJIK MARKET」(以下、MMM)という、東北で作られたものを適正な価格で販売する、という試みを続けています。 tax: 震災直後は、友人たちがすごく大変な思いをしているのを見て、「音楽をやっている場合ではない」と思っていました。それで、各自がそれぞれの方向で動いて、MONKEY MAJIKとして何ができるかと考えたときに、親御さんを亡くされた小さな子たちなどに対して、お金を集めて具体的な支援をしなければという話になったんです。電力事情もあったので、できるだけ南のほうでライブをして、スタッフも含めて無償で動いて、集まったお金を全額、遺児支援をしているあしなが育英会や県庁に寄付するという、仙台プロジェクトを始めました。これは、いまも継続して行っています。  僕らが一番恐れているのは、震災に対しての意識の低下です。押しつけてもいけない問題だし、それでもまだ生活もままならない人たちがどうしたら復興に行き着くことができるかを考えたときに、出てきたアイデアがMMMでした。僕らができることは、もともとこの土地で素晴らしいものを作ってきた方々をサポートしていくことです。そうして、インディーズ時代からお世話になっているAZOTHさんとTシャツを作り、石巻のMOBBY DICKさんというウェットスーツのメーカーとスマホケースを作り、仙台の露香さんとお香を作りました。最近は、東北の伝統的な無添加・無香料の「坊っちゃん石鹸」に「塩竈の藻塩」を入れたオリジナルの藻塩入石鹸も作りましたね。こういう素晴らしい商品を知ってもらって、そのなかに少しメッセージを込めて、東北に目を向けてもらえるきっかけになったらと、微力ながらやらせてもらっています。 Blaise: 僕は初めて日本に来たとき、素晴らしすぎてユートピアだと思ったんです。それくらい、日本のスピリットに惹かれたし、フランシスコ・ザビエルが日本に来て、「我が国より素晴らしい文化をみつけた」と日本を紹介したのがよく分かりました。震災で大変なことが起こったけれど、そこからもう一度作り直しましょう、という考え方が本当にすごい。それを自分の目で見られたのは大きいですね。カナダ人でも、日本人でもなく、いち地球人として、美しい心と笑顔があれば、絶対におもしろいことができるはずだとずっと信じています。 渡辺: 「被災地」とくくってしまうけれど、そこは日本だし、もっと言えば地球じゃないかと。そういうことを知らせるために音楽があると思う。震災後は、「何のために歌うか」を考えるようになりました。少なくとも「すきだから歌う」という感覚ではなくなりましたね。同じように、食事をするにも「何のために食べるのか」と考えるし、何をしても「何のために」ということを意識しながら生きているなと感じます。 ――食という話が出ましたが、渡辺さんは『461個の弁当は、親父と息子の男の約束』という本も出していますね。息子さんとの「高校3年間、毎日お弁当をつくる」という約束を果たしながら、絆を深めていくというエッセイです。 渡辺: 子どもが小さなころから食育が大事だなと思っていて。何を食べてもいいとは思えないし、お金を渡して「好き勝手に食え」なんて言えない。放射能の問題もあるけれど、東北の野菜がダメというわけではないし、自分の目で見て、いい食材を選ばなければいけないと思うんです。息子には「食べることが生きることだ」ということを伝えていきたい。家族って、言葉でうまく伝えられないときがありますよね。同じことを言うにしても、親の言葉より、友人の言葉のほうが響いたりして(笑)。その分、家族だからこそ言葉ではない伝え方ができることもあって、そこで食事がいちばんいいのかなと。「うまいなぁ」というときに、伝わるものって大きいでしょう。 tax: 僕も読ませてもらって、すごくうらやましく思いました。僕にも息子2人と、娘1人がいるんですけど、こういう仕事をしているとなかなか会えなかったりして。ツアーに出たり、東京で仕事をしたりして、久しぶりに家に帰って寝ている姿を見ると、知らない間に大きくなっているんですよね。たまに言葉をかわして、「なんかちょっと生意気になったな」と感じたり。俊美さんの本を読ませていただいて、親子の距離とか、子どもの成長とともに心が離れていってしまう怖さも感じました。だから寄り添っていろんなことを聞いても、素っ気ない返事ばっかりになっていく。本を読んでいて、次のページに進みたいんだけれど、心が痛くて(笑)。自分は奥さんに任せっきりな部分があるので、本当に素晴らしい親子関係だなと思いました。あんなに素晴らしい息子さんで、本当にうらやましいなと思います。 渡辺: バカですけどね(笑)。でも、奥さんと仲良くしているということを子どもは見ているでしょう? 僕は離婚したばっかりだしずっと離れていたから、それは素晴らしいと思う。もちろん震災も大きなきっかけでしたが、自分の大切な人を大切にしない限り、福島だ、東北だ、国だと言っていられないから、僕は「こいつだけは絶対に見守っていこう」と思ったんです。 tax: それは本当に伝わってきました。 渡辺: だから、奥さんをきちんと守ればいいんですよ。奥さんとイチャイチャしていれば、子どもにもちゃんと伝わるものがある(笑)。 tax: でも同じアーティストとして、週末にライブに行って、ツアー先で息子さんのために食材を買って帰ってきて、お弁当に詰めたら喜ぶかな…なんて考えるのは、本当にすごいと思う。自分が同じ立場だったらそこまでできる自信がないです。俊美さんは地に足がついているな、自分はダメだな、って思います(笑)。長い年月をかけて愛すべき人を愛して、ともに暮らして、同じものを食べて「おいしい」と言う時間を大事することが、すごく必要なことなんだなと感じました。 渡辺: いや、僕も40過ぎてやっと地に足がついたというか。息子にも言うのですが、30くらいまではみんなはしゃぐから大丈夫だと。でも、40をすぎるとちょっとうつになるから、「ここまででよかったのかな」と思う。30代までは憧れる人みたいになりたいと思って、40過ぎたら「こうはなりたくない」というものをどんどんそぎ落としていく。それが見えてくるから、それまで自分で選択してやりな、と言っています。僕の生き方をプレゼンすることしかできないんです。最近、フリースタイルなんかをやりはじめていて、かわいいんですよ。最初にお題出して、例えば「坊っちゃん」とか言うんですけど、最後は全部「おっぱい」になっちゃうんです(笑)。全部オチがおっぱい。そういう興味が音楽になってきて、面白いですね。 Blaise: 僕も家族の大切さはずっと感じていますね。うちは6人兄弟だったんですけど、両親が夜も仕事に行っていたから、自分たちで料理もしていたんです。メイナードは次男で、僕は下から2番め。一番上のお兄さんは80年代の音楽、グラム・ロックなんかを聴いていて、メイナードは…という感じで、いろんなことを見て育ってきたから、多分家族のいいところが僕にサンプリングされている(笑)。一番下の妹なんで、下から全部見ているから、めちゃくちゃ頭がいいんですよ。みんなリスペクトしあっているから、すごく愛が強いし、喧嘩をしてもすぐに許しあえる。家族こそ本当の学校で、エデュケーションの場でした。自分の大きな家族を作りたいな、と思います。
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「音楽が生き物になっていく」(渡辺)

――BlaiseとMaynardのご両親も、時々日本に来られていますね。 Blaise: これまで3回来ていますね。10数年前と5年前と数ヶ月前に来て、特にお父さんが日本大好きになりました。昔は単純に「すごくきれいな国だ」と言ってましたけど、来るたびにどんどん好きになっているみたいで。3回目は特に感動していて、「スピリチュアルな力がすごく強い」と言っていました。オタワに住んでいるんですが、気温以外はちょっと仙台に似ているかもしれない。人も優しいし、食べ物とか名物を大事にしている街です。みんなメープルシロップをカナダと思っているけど、あれはケベック。オタワもいいところですよ。 渡辺: ふたりは震災を経て、音楽との向き合い方は変わりましたか? tax: 最初は本当に苦しかったです。何を作ったらいいのか分からなかった。ものの見方が変わってきたというのもあるんですけど、現実を受け入れた先の答えがない、迷いしか書けなかったというのもあって。そんななかで、フレデリック・バックというカナダのアニメーション作家が日本で展覧会をするということで、テーマ曲を書いてほしいという依頼があったんです。もちろんうれしかったし、まずは引き受けた仕事からしっかりやっていこうと思って、曲を作り始めたんです。戦後の話を描いた『木を植えた男』という作品を見ながら曲を書いたんですが、そのおかげで「僕らのいまの思いを形にしていいんだ」と気持ちの整理がつきました。それで、そのまま「木を植えた男」というタイトルの曲を作ったんです。そこで現実に起きていることに向き合って、受け入れて、自分たちの思っていることを形に残す…という繰り返しでいいんだと思いました。そういう風にしかできない、それがいちばん自然体でいいんだとメンバーの中で思えるようになって。 Blaise: 新しい曲もそうだけど、昔の曲に対しての気持ちが変わりましたね。例えば、仙台でチャリティイベントをやったとき、「アイシテル」や「fly」を作った当時とはぜんぜん違う世界に入っていて。若いときにデビューして、ハッピーな気分で作った曲を歌いながら、歌うことの意味が完璧に変わっていることがわかって。遊びの曲が、真面目な曲に変わったんです。みんなで歌って、歌詞の意味が本当に変わって聴こえたし、「アイシテル」のひと言が、本当に大切な言葉だと思えたんです。歌詞の意味の大切さに、あらためて気づくことができましたね。 渡辺: そうそう。曲を作っているとき、どうやって録ったかというフィーリングは覚えているけど、今はどんどん曲が育っていく感じがあるんです。音楽が生き物になっていくというか。逆に震災後に作った曲が、震災と関係ない人に響いたりしているんですよね。楽しい曲を作っても、日常の楽しさが膨らんで逆転する。曲がいいとそういうことになるんですよね。それがちょっとバカな曲でも。 tax: 震災前は自分たちが満足すればいいと思っていたけど、本当に曲が育っていくんだと思います。また自分が歳を重ねてそぎ落とされることがたくさん出てきて、発想が変わってくるんですよね。本当に3年前を機に僕らは大きく変わったように思います。俊美さんも、20代のころに作ったTOKYO No.1 SOUL SETの曲がぜんぜん違うように響いたりしていますか? 渡辺: そうですね。例えば95年に作った「黄昏'95~太陽の季節~」なんかは、テレビでかかっていて「今ヒットするんだ!」って思いました(笑)。「太陽の光と月の明かり」ってまったく違うものなんだけど、いまになってみると重要視されるというか、どんどん自然の言葉が重要になっている。日本全体が苦労していて、「楽しいだけじゃない」って思うようになっていて。そういった意味でも、ひとりひとり思い入れが曲を進化させているのかなと思います。やっぱり自分で書くもの、思いつくのは息子のことですからね。嘘つかないで物語を書くのは、息子のことになってしまうんですよ。だから、昔の曲だけど息子が0歳、4歳、7歳のときに作ったもので、今でも歌える。「息子は息子だもん」って(笑)。
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「ライブというより、ホームパーティーの感覚でやっている」(Blaise)

――音楽が人の気持ちに与える影響があると思います。実際にパフォーマンスをするなかで、あらためて音楽の力を実感することはありますか。 tax: バラードを歌ったときに涙を流している方をみると、この人の人生のどこかにこの曲が染み渡っているんだと思います。すごくうれしい反面、「この人に何があったのだろう」って考えてしまう。そうやって人の心を揺さぶれるようなものを残せたことは素晴らしいと思うし、今になって作品を大事にしてくれるファンのありがたみを感じています。 Blaise: そういうアットホームな雰囲気があるよね。ライブというより、ホームパーティーの感覚でやっている(笑)。僕たちがやりたいことをみんなが分かってくれていると思うけど、最近はより近くになっています。MCも前より長くなりましたね。いろんな質問も出てくるし、ちゃんと答えていきたいと思えるようになって。ちょっと年取ったのかもしれない(笑)。多分時間が経っているから「ファン」から「友だち」になっている。それは大事にしたいですね。 渡辺: MCはやっぱり長くなっていきますね。僕よりもずっとハードコアなバンド、例えばBRAHMANなんかも、すごく長く話すようになっていて(笑)。でも、キャリアを積むというのはたぶんそういうことで、パフォーマンスも含めて“次の段階”に進んでいるんだと思う。僕らもいい大人で、ごまかしがきかない年齢になると、「ヒット曲ばかりやって、楽しければいい」ということじゃなくなってくる。もちろん、シリアスな話ばかりというのも嫌だから、「今日ははしゃごうぜ!」というのも全然アリなんだけど、そこは緩急というか、一緒に楽しんだり、一緒に悲しんだりするのが大切なんだと思います。例えばラブソングで涙を流して、それで何が解決するわけでもなけれど、心に抱えたものを発散して、がんばろうと思う人もたくさんいる。どんなジャンルでも、どんなにくだらない歌でも、音楽に罪はなくて、誰かは喜んでいる。自分自身が音楽に助けられたので、音楽にちゃんと寄り添って、恩返しがしたいなと思っています。 ――さて、MONKEY MAJIKは来年15周年の節目を迎え、さらに精力的な活動が期待されています。 渡辺: そうか、もうベテランの域なんだね。ギターで言えばヴィンテージだ(笑)。 tax: そうですね(笑)。節目の年として、みなさんに大きく感謝する場を設けたいと思います。武道館ライブもあるし、これまでも沢山コラボレーションしてきたアーティストもいるので、大きいパーティーをやりたいなと。 Blaise: 簡単に言うと、MONKEY MAJIKの“大感謝祭”ですね。「みんな、こんなことあったの覚えてる?」って。この間、10年くらい前に録ったテープを見つけたんですけど、最高にダサくて(笑)。 tax: それと、MMMの第六弾で、今度はそば猪口の形をしたグラスを作っているんです。仙台のガラス工房とのコラボレーションで、広瀬川の砂を使ったものです。会津の染め物を使ったものも準備しているので、ぜひ楽しみにしていてもらいたいですね。 渡辺: 僕も山元町の人たちにミサンガを作ってもらったり、津波で流されてしまった仙台のTシャツ工場にSOUL SETで頼んだりしていています。大事なのは、やりたいけれど、やれていないことを実現していくこと。復興というより、新しい提案をする気持ちで、いろんなことに取り組んでいきたいですね。 Blaise: いつか、一緒におもしろいコラボレーションをしましょう! (取材=神谷弘一/撮影=竹内洋平)
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MONKEY MAJIK『You Are Not Alone』(binyl records)

■リリース情報 『You Are Not Alone』 発売:9月10日(水) 価格:CD+DVD ¥1,800(税抜)    CDのみ ¥1,000(税抜) <CD収録内容> 01.You Are Not Alone 02.Written In The Stars 03.You Are Not Alone -Instrumental- < DVD収録内容> 01.You Are Not Alone -Music Video-
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渡辺 俊美『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』(マガジンハウス)

『461個の弁当は、親父と息子の男の約束。』 発売:2014年4月30日 価格:1,500円+税

NoGoDが語るエンターテインメント論「バンドは浮世離れしていて、たくさんの人を楽しませるもの」

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【リアルサウンドより】  本格的なヘヴィ・メタルを中心にした音楽性と奇抜なファッションによって、ファンからの強い支持を得ているNoGoDがニューアルバム『Make A New World』を完成させた。卓越した演奏テクニックに支えられたサウンド、前向きなメッセージ性を感じさせる歌詞をさらに突き詰めた本作は、来年10周年を迎える彼ら自身にとってもひとつのターニングポイントになりそうだ。今回は団長(Vo)、Kyrie(G)にインタビュー。新作の制作過程、バンドのルーツ音楽、現在の音楽シーンに対するスタンスまで幅広く語ってもらった。

「とにかくグッドメロディでエッジの効いた音楽をやりたいと思って」(団長)

――オーセンティックなヘビィメタルを軸にしたNoGoDの音楽は、現在のシーンにおいてはかなり異色ですよね。 団長:今回のアルバムもそうですけど、音源を作るたびに「いい音だな」という自信はあるんですけどね。いま、こういうメタルっぽいバンドサウンドは主流の音ではないと思うんですよ。スクリーモ、メタルコアみたいな音ではなくて、ダイナミクスを大事にした骨太のロックだなと思うので。 ――音数も抑えられていて、バンドの生音が伝わる作りになってるというか。 団長:同期の音を使ってないですからね。ぜんぶ人力なんで。 Kyrie:まあ、何も考えてないだけなんですけどね。 団長:そう、もともと同期を使うっていう概念を持ってないから。メンバーが5人いれば、大体のことは出来るんで。 Kyrie:同期は、要はオケを流しながら演奏するわけじゃないですか。極端なことを言えば、「オケを使うんだったら、その音だけでいいんじゃないか?」って思ってしまうので。 団長:別の音を足すという発想もないし、生で足せる音以外は(CDにも)入れるべきじゃないと思ってるんですよ。真っ当じゃないのは見た目だけで、こんなにピュアなバンドはいないですよ。 Kyrie:(笑)。 ――バンドのルーツになっているのは、やはりヘヴィ・メタルなんですか? Kyrie:うーん…。メタルっぽい精神性を持ってるのは、僕とベース(華凛)くらいですけどね。 団長:え、俺は? Kyrie:君はどっちかっていうと、メロコア、パンクの精神性の方が強いでしょ。 団長:…しょうがないよ、ハイスタ(Hi-STANDARD)世代だから。 Kyrie:相方のギター(Shinno)はJ-POPだし。 団長:J-POPとLUNA SEAさんね。 Kyrie:だから純然たるメタル・バンドではないんですよね。もともとメタルをやりたいと思って始めたわけでもないし、いまのNoGoDは生粋のメタル・バンドなのか? って言われれば、そうではないと思うので。 団長:ぶっちゃけメタルは大好きだし、ベーシックな部分にメタリックなテイストは入ってますけどね。ただ、我々は90年代の豊かな音楽を聴いてきたので。日本の音楽も豊富だったし、海外の音楽もどんどん入ってきて。そういう要素も自然と入ってくるんですよね、自分たちの音楽に。 Kyrie:あと、「何でもやれるバンドでいたい」っていうもあって。年月をかけて「ここまでやっても大丈夫」っていう範囲を広げてきたというか。 団長:とにかくグッドメロディでエッジの効いた音楽をやりたいと思ってたんですよね、僕は。自分自身のことを言うと、10代の頃はオーソドックスなメタルバンドをやってたんですよ。でも、徐々に限界を感じ始めて。メタルのフィールドって、良くも悪くもスタイルを重んじるところがあって、新しいことをやろうとすると受け入れてもらえなかったんです。で、「じゃあ、いっそのこと化粧してやる!」って思って始めたのがNoGoDなんですよ。もともと筋肉少女帯さんや人間椅子さんも好きだったし。ただ、日本で化粧してバンドをやると、ビジュアル系に括られるんですよ。 ――ビジュアル系のシーンに対しては、窮屈さを感じなかった? 団長:ビジュアル系と言われることに抵抗はなかったです。でも、化粧をしているだけで出演出来ないライブハウスもあるから、結局、ビジュアル系のハコでやるしかないんですけどね。 Kyrie:ジャンルで括りづらいバンドだとは思うんですよね。今回のアルバムもそうですけど、同じジャンル、ひとつの方向性を突き詰めているわけではないので。もちろん、どんな曲をやってもNoGoDらしさは在るべきだと思ってるんですが。

「聴いてくれた人が新しいNoGoDを感じてくれたら嬉しい」(Kyrie)

――新作『Make A New World』はどんなテーマで制作されたんですか? Kyrie:いままでのアルバムはテーマやコンセプトを掲げて制作を進めるんですけど、今回はそれをやらなかったんですよね。「こういうアルバムにしよう」と決めず、書いた曲のひとつひとつに向き合ったというか。 団長:それまではコンセプチュアルなアルバムしか作ってこなかったんです。でも、長年バンドをやってきて、NoGoDらしさだったり、バンドの力をしっかり実感できるようになってきて。このタイミングで違う作り方をやってみてもいいんじゃないかな、と。アルバムに英語のタイトルを付けるのも初めてなんですよ。 Kyrie:曲が出そろった段階で、歌詞のなかに“世界”とか“ワールド”という言葉が何回か出てくることに気づいて。それぞれの曲のなかにも、いままでのNoGoDにはなかったエッセンスが入ってるし、それも含めて「新しい世界」だなと思ったんです。 ――新しいトライが多いアルバムだった、と。 Kyrie:新しいトライは多いですね、地味に(笑)。細かく説明すると新しいポイントがいっぱいあるんですけど、それはプレイヤーとしての挑戦だったりするので。具体的なことはともかく、聴いてくれた人が新しいNoGoDを感じてくれたら嬉しいですね。まあ、「いつも通りだな」と思ってくれてもいいんですが。 ――あくまでも自分たちがやりたいことをやるのが先決? Kyrie:賞賛してもらえることもあるし、批判の言葉をもらうこともあるんですけど、まずは納得できる作品を作ることがスタートラインですからね。もちろん、より多くの人に届けたいという気持ちはありますけど。 団長:アーテイストが自信を持ってやってないと、誰にも届かないと思うんですよ。特にウチはメッセージソングを歌うバンドなので。音楽はあくまでもメッセージを届けるものだと思ってるんですよ、僕は。 ――今回のアルバムも歌詞も驚くほどストレートですよね。 団長:英語の歌もたくさん聴いてるし、大好きですけど、自分がやるとなれば「日本人なんだから、英語では歌わない」っていうタイプなんです。海外を視野に入れていれば、英語で歌うのもいいと思いますけど、俺は日本語という言葉がすごく好きなんですよ。こんなに豊かで、品がある言葉って、他にないんじゃないかなと。 Kyrie:顔は品がないんですけどね。 団長:そうなんだよね(笑)。日本語を大事に扱えば、ひとつの言葉の意味を何倍、何十倍に膨らませることもできるし、景色を見せることもできますからね。聴いてくれる人を悲しませたり、傷を舐め合うような歌は好きじゃなくて、とにかく元気になってほしいんですよ。ロックバンドは言葉を大事にするべきだと思いますね、ホントに。

「さらに視野を広げていきたいですね。日本のロックバンドとして」(団長)

――7月にパリで行われたJAPAN EXPOに出演しましたが、そのときも…。 団長:もちろん日本語で歌いました! JAPAN EXPOだから日本語が通じるのかと思ったら、ぜんぜん通じなくて(笑)。「英語もフランス語もできないから、日本語で歌います!」って言ったら、シーンってなちゃったんですよ。で、慌てて「Are you ready?」って言って。でも、サウンドのカッコ良さはちゃんと伝わったと思います。こういうサウンドはもともとヨーロッパから生まれたものでもあるし。 Kyrie:日本とは環境も違うし、人の雰囲気も違ったけど、僕達がやることは何も変わらないというか。ライブを見てくれた人、関わったスタッフを含めて、みんな音楽が好きなんだっていうのはすごく伝わってきたんですよ。音楽を愛する気持ちには国境はないなって思えましたね。 ――JAPAN EXPOは日本のカルチャーを発信するというテーマのイベントですが、そこはどんなふうに捉えてますか? Kyrie:このバンドがジャパン・カルチャーだって言われたら、「え、やめて。日本人はこんなんじゃない」って客観的に思いますね(笑)。 団長:そんなことないよ。白塗り、舞妓、芸者だから(笑)。でも、JAPAN EXPOの中心はコスプレ、アニメ、マンガ、ゲームだと思うんですよね、きっと。バンドにはそこまで興味がなくて、アニソンを歌っていればちょっと興味を持つという感じじゃないかな、と。それでもNoGoDを見るために集まってくれた人がいた、ということに意味があると思うんです。握手会にも100人以上参加してくれたんですけど、イタリアとかドイツとか、他国から来てくれた人もいて。その人たちの熱量は本物だったし、励みになりましたね。ヨーロッパでもツアーをやりたいと思ったし…実はツアーの計画があったんですけど、いろんな事情で頓挫しちゃったんです。来年はぜひ行きたいですね。ヨーロッパだけではなく、アジアでもライブしたいし。そのために昔の曲をYoutubeに再アップしたんですよ。SoundCloudにも曲を上げたし、さらに視野を広げていきたいですね。日本のロックバンドとして。 ――国内においても、もっといろんなシーンに切り込んでいけるバンドだと思うんですが。 団長:切り込みたいですよ! 個人的にはずっとフェスに出たいと思ってるんですけど、化粧しているバンドはなかなか出づらいみたいで。もしかしたら偏見を持ってるんじゃないかなって感じることもあるんですよね。僕ら、炎天下のライブでもぜんぜんいけるんですけどね。白塗りしてるから、紫外線対策もバッチリだし(笑)。 Kyrie:何のインタビューだよ(笑)。 団長:結局、今年もフェスに出れなかったら、自分でやりました(6月14日、川崎CLUBCITTA‘で開催された団長主催のフェス「Big mouth ROCK FESTIVAL 2014」)。Jealkb、THE冠、MEANING、石鹸屋に出てもらって。 ――個性的なメンツですね~。 団長:アーティスト主催のフェスはおもしろいじゃないですか。氣志團万博もそうだし、西川貴教さんがやってるイナズマロックフェスもそうだし。ジャンルに関係なく、その方が「いいな」と思うバンドを呼んでるというか。 ――エンターテインメントに対する意識も高いんでしょうね。 団長:そうですね。リンプ・ビズキットのボーカルのフレッド・ダーストが「俺は90年代のオルタナ・ブームが大嫌いだった」って言ったことがあるんです。80年代の煌びやかなショービジネスの世界に憧れてたのに、’90年代になったらネルシャツを着て、足元を見ながら「俺は弱い人間だ」って歌うバンドばっかりになった。俺はそうじゃなくて、キッズが憧れるロックスターになるんだって。ホントにその通りだなって思うんですよ。バンドっていうのは浮世離れしていて、たくさんの人を楽しませるものだな、と。だから俺は派手なメイクをするんです。意見が合わないメンバーは派手なメイクをしてくれないんだけど(笑)。 Kyrie:だって、中身が俗物なんだもん。ぜんぜん浮世盤れしてないでしょ、君は。 団長:浮世離れしてる人は「浮世離れしたい」なんて言わないからね。憧れだから。 ――(笑)。いま、多くの人を楽しませるエンターテインメント性を担ってるのは、アイドルでしょうね。 団長:中学2年のときにモーニン娘。さんのライブを観に行ったんですけど、8人くらいの女の子がステージにいて、何千人のファンが「ウォーッ!」って盛り上がってて。この熱狂こそがライブなんだって思ったんですよね。あと、「AIR JAM」も大好きだったんですけど、そっちは全力、汗だくでライブをやることがエンターテインメントなんですよね。で、お客さんはジャンプして暴れまくって。そういうショーマンシップにはリスペクトを持っているし、自分たちもそうありたいと思いますね。 ――『Make A New World』のツアーでも、NoGoDの新しいエンターテインメントが見られそうですね。 Kyrie:全曲新曲のアルバムも初めてだし、どういうライブになるかはまだ分からないですけどね。フルアルバムのツアーは毎回、空気が違うんですよ。今回はどんな雰囲気になるか、すごく楽しみです。いままで以上にライブを想定して作った曲ばかりだし、新しい世界を感じられるツアーになると思います。 団長:来年は10周年だし、このアルバムと次のツアーがひとつの節目になるかもしれないですね。バンドのポテンシャルも上がってきてるし、「いま見るべき、いま聴くべきバンドです」と言っておきます! (取材・文=森朋之)
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NoGoD『Make A New World(通常仕様)』(キングレコード)

■リリース情報 『Make A New World』 発売:2014年9月17日 価格:¥3,000(税抜) 【初回生産分のみの2大特典】 ・スペシャル“New World”BOX仕様 ・Japan Expo 2014 メモリアル・フォトブック封入 ■ツアー情報 『ONE MAN TOUR -2014-AUTUMN 「Follow Your World」』 9月27日(土) 神戸VARIT 9月28日(日) OSAKA MUSE 10月4日(土) 横浜BAYSIS 10月5日(日) 水戸LIGHT HOUSE 10月10日(金) 仙台MACANA 10月11日(土) 盛岡CLUB CHANGE WAVE 10月13日(月.祝) 札幌KRAPS HALL 10月18日(土) 名古屋E.L.L 10月19日(日) 浜松窓枠 10月25日(土) 長野JUNK BOX 10月26日(日) 新潟RED 10月30日(木) 広島ナミキジャンクション 11月1日(土) 熊本DRUM Be-9 V2 11月2日(日) 福岡DRUM Be-1 11月8日(土) 福井CHOP 11月9日(日) 金沢AZ 11月15日(土) 高崎CLUB FLEEZ 11月16日(日) HEAVEN’S ROCK 宇都宮VJ-2 11月29日(土) 品川ステラボール [TOUR FINAL!!] その他イベント出演有り。詳細は公式頁を参照 ■NoGoD公式頁 http://www.artpop.org/nogod/ ■『Make A New World』特設サイト http://cnt.kingrecords.co.jp/nogod_manw/

ニコ動No.1歌姫 ユリカ/花たん、新作を語る 「“流行りの曲、歌い方”は、ちょっと苦手です」

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【リアルサウンドより】  ニコニコ動画を中心に活動する歌い手として、歌唱力・表現力ともにNo.1と評されるユリカ/花たんが、ロック&メタルをコンセプトにした3rdアルバム『The flower of dim world』をリリース。今作でも冴える力強いハイトーンボイス&“美ブラート”と、ほんわかした人柄には大きなギャップがあるが、そのマイペースさがブレない芯の強さを感じさせる。今作に込めた思いとともに、「歌い手」として活動をはじめた経緯と“現在地”を語ってもらった。

「“歌手になりたい”という気持ちはありませんでした」

――当サイト初登場ということで、まずはこれまでの歩みを振り返っていただきたいと思います。ニコニコ動画の「歌ってみた」カテゴリに投稿をはじめたきっかけとは? 花たん:昔からカラオケが大好きで、歌が趣味だったんです。でも、「歌手になりたい」みたいな気持ちは一切なくて、本格的な音楽活動はしていませんでした。ニコニコ動画に出会う前は、イラストや音楽を共有する「ピアプロ」というサイトで、音楽ではなくイラストを投稿していて。そんななかで、ニコニコ動画で活躍していた歌い手さんから、「イラストを使わせてもらいました!」というメッセージをいただいて、初めて「歌ってみた」というカテゴリがあることを知ったんです。 ――当時は、どんな曲を歌っていたんですか? 花たん:世代的に、浜崎あゆみさんだったり、宇多田ヒカルさんだったり。アニメも好きなので、今回のアルバムにも収録させていただいた、『魔法騎士レイアース』のOPテーマ「光と影を抱きしめたまま」 もよく歌っていました。でも、自信はまったくなくて、家族や友だちがほめてくれることがあっても、「信用しないぞ!」という感じでしたね(笑)。ただ、多くの人に聴いてもらったことがなかったので、どんな反応があるんだろう、という興味本位で投稿してみました。 ――08年の初投稿から間もなく、初音ミク初期の難曲「恋は戦争」を見事に歌いこなし、09年4月にはdoriko氏の「ロミオとシンデレラ」で大ブレイク。現在では330万再生を超えていますが、投稿はオリジナルが発表された5日後でした。そもそも幅広い楽曲を歌いこなせる歌唱力があるからかもしれませんが、選曲が独特だという印象があります。 花たん:単純に、私はもともと「みんなと同じ」というのが苦手なんです(笑)。それに、ランキングに載っていなくても素敵な曲はたくさんあるし、聴いていて「こんな風に歌いたいな」と思える曲を歌うことが多くて。「こんないい曲があるんだよ!」って伝えたくて、自然とそういう曲選びになっているのかもしれないですね。

「“この音は出ないだろう”という難しい曲の方が、気合が入ります」

――そんななか、11年に1stアルバム『Flower Drops』でメジャーデビュー。今作は3枚目のアルバムで、ロックとメタルをフィーチャーした刺激的な作品になっています。1曲目の「泡沫の砦」をはじめ、これまでもコラボレーションを重ねてきたOSTER projectの書き下ろし曲が4曲収録されていますが、どの曲も音域の幅が広く、メロディの動きが独特で歌いこなすのが難しそうです。 花たん:とても難しいです! でも、そっちのほうがやる気が出ますね。例えば「この音は出ないだろう」っていう高音のパートがあっても、それにチャレンジするのが好きなんです。OSTERさんの曲は、特に気合いが入った歌い方になっていると思います。「泡沫の砦」は壮大なイメージで盛り上がる楽曲なので、すぐに一曲目にしたいと思いました。 ――ギターサウンド全開のハイテンションなロックチューン「Live with a ghost mind」も、このアルバムを象徴する1曲です。こちらはホワイトスネイクなどにも参加した世界的ギタリスト、ダグ・アルドリッチ氏が作曲を担当していますね。 花たん:母が世代なので、大興奮でした(笑)。邦楽とは違う、洋楽のロックですよね。「これが歌えるのかな」と不安な部分もありましたが、洋楽っぽく、カッコよく歌えたと思います。田村直美さんの歌詞も、80年代のロックっぽくてカッコいいです! いまっぽい言葉ではないので、歌うときちょっとだけ恥ずかしかったですけど(笑)。 ――シンガーソングライター・天野月さんの提供曲「CRITICAL ERROR」は歌が前面に出ていて、持ち味の伸びやかな高音が印象的でした。 花たん:天野さんの曲を歌わせていただくのは3曲目で、いつも「どんなイメージの曲にしますか」とやりとりしています。それで、今回は「花たんのファンが好きになってくれるような楽曲を作りました」って。天野さんは尊敬する歌手で、私のことをすごく考えてくださるし、期待に応えたいというプレッシャーは大きいですね。聴き手の方も好きと言ってくれるので、いつもうれしく思っています。 ――そしてカバー曲ですが、先ほどもお話に出た「光と影を抱きしめたまま」や、『ドラゴンボールGT』のEDテーマ「Blue Velbet」(工藤静香)など、懐かしいアニメ主題歌も収録されました。 花たん:特にアニメ縛りではなかったんですが、自分がよく観ていたアニメで「この曲はカッコいい!」という4曲を選ぶことになりました。カラオケで歌い慣れていたので、収録も早かったですね。歌手になろうと思っていたわけではないのに、当時から「自分だったらこう歌う!」というこだわりがあって(笑)。自分が好きなオリジナルの細かいクセの部分は取り入れさせていただきつつ、丁寧に歌いました。 ――今回はご自身の書き下ろし曲も2曲収録されています。 花たん:自分で曲を作ってみないかと言われて、最初はソフトを使ってきちんと作ろうと思ったんですけど、結局、鼻歌を収録して「後はお願いします!」になりました(笑)。8曲目の「餓えた野獣」は、私がいますごくハマっている『弱虫ペダル』という漫画に登場する、荒北靖友という大好きなキャラクターをモチーフにしています。その思いだけで作ったので、自分が歌うことをすっかり忘れてしまっていて、キーがすごく低いんです(笑)。 ――キャラ愛が勝ってしまったと(笑)。一方の「アネモネ」は、歌い上げるタイプの壮大なバラードです。 花たん:最初はラプンツェルをモチーフにした恋愛ソングをと考えていたのですが、書き進めるにつれて、病んでいる女の子の曲になってしまいました(笑)。でも、もともと物語のある歌詞や曲が好きなので、これも好きかもって。歌としては、中音域から一気に高音域に進む、自分らしく歌える曲をイメージしました。

「“みんなと同じ曲、同じ歌い方”は嫌なんです」

――どの楽曲にもこだわりがあることが伝わってきます。ニコ動での選曲にも通じますが、歌いやすい曲だったり、わかりやすい人気曲に走らない、というか。 花たん:いまのニコ動では、ランキング上位に上がってくる人気曲を歌う、という人が多いと思います。それが良い悪いということでは全然ないのですが、「この曲が流行ったらみんなこの曲、この歌い方が流行ったらこの歌い方」となってしまうのが、私はちょっと苦手で。そうなると、刹那的な楽しみ方になってしまうんじゃないかなって思うんです。もちろん、いまだけ楽しむのだってアリだし、聴いてくださっている方がどう思っているかはわからないですけど、ほかの人とは違う歌い方をしたい、違うアプローチをしたい、というのは心がけています。 ――本当に好きになった曲を歌ってきた、ということですよね。 花たん:単純に人と合わせるのが苦手なんです(笑)。ニコ動の中でも求められるものは変わっていくし、自分が変えた方がいい部分もあると思うんですけど、そこにとらわれると、もともと好きでやってきたことなのに疲れちゃったり、嫌になってしまったりするんじゃないかなって。その場に合わせてキャラ作りをするのって、すごく面倒ですよね。私はお仕事でも、「この曲はあんまり歌いたくないな」と思うと、つい態度に出ちゃうので、社会人としては扱いづらいだろうなと思います(笑)。自由奔放にやらせてくださっているレーベルや担当さんに感謝ですね。 ――例えば、順調にヒットを重ねてタイアップ曲が増えてくると、より多くの人の意向が入ってくるようになると思いますが、そのときはどうしますか? 花たん:「これは嫌、あれは嫌」なんて言ってちゃいけないな、とは思うんです。あまり態度に出しちゃいけないな…とも思いつつ、それはまだ遠い話というか、売れたら考えればいいやと思っています(笑)。いまはもう少しだけ、自由に活動させてもらえればなって。 ――あらためて、今回のアルバムをどんなふうに聴いてもらいたいですか? 花たん:ロックとメタルをコンセプトに、聴き手の方がどんな楽曲を聴きたいか、ということをすごく考えて作りました。自分のなかで好きな曲を一曲でも見つけて、落ち込んだとき、テンションを上げたいときに聴いていただけたらうれしいです。初めて聴いてくださる方は、「出すの辛くない?」というくらいの高音部分、パワフルに歌った部分にビリビリきていただけたら幸せです! 今後はライブツアーも積極的にやっていきたいですし、投稿するペースは常に遅いのですが、育ててもらった場所でもあるニコニコでの活動はこれからも続けていくので、ニコ厨のみなさんもよろしくお願いします(笑)。 (取材・文=橋川良寛) ■リリース情報 『The Flower of dim world』 発売:2014年9月24日(水) 価格:¥2,916(税込) ※初回生産分のみスリーブケース仕様

ももクロ、モー娘。から、リリスク、ベルハーまで…動員力から考察するアイドル界の現在

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モーニング娘。'14『モーニング娘。'14コンサートツアー春~エヴォリューション~ (Blu-ray)』(アップフロントワークス(ゼティマ))

【リアルサウンドより】  活況が続くグループアイドルシーン。CD不況の今、ライブアイドルにとってワンマンライブでの動員力は人気を示す最も分かりやすい指標となっている。2014年9月現在においてその状況はどうなっているのか。データをまとめ、分析して行こう。 (※表の詳細は<IDOL NEWSING『アイドルライブ動員数表』>を参照のこと)

アリーナクラスに返り咲くモー娘。 武道館級の増加が意味すること

 まず国立&ドーム級(約4~7万人)から。48系、ももいろクローバー、Perfumeなど、トップの動員力を誇るグループがここに位置している。国立競技場は国内最大規模の会場であるため、今後は連続開催日数で動員力を推し量ることができそうだが、あまりそこに意味はないかもしれない。彼女たちは既にこの規模以下のグループとは別のルールでショービズ界を成り上がるゲームを戦っているからだ。それは芸能界や音楽業界で人気を維持、拡大し続けることだったり、海外進出だったり、といった具合に。  続いてアリーナ&武道館級(約6000~2万人)だが、まずBABYMETALに触れておきたい。さいたまスーパーアリーナでの公演を来年1月に控えているが、今年7月からフランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、日本を回るワールドツアーを行い、レディー・ガガのアメリカツアーに帯同したりと、その人気は既に世界規模。動員力表ではここに置くしかないが、実際にはこの枠には収まらない異質な存在といえる。  続いてはモーニング娘。だが、2010年12月以来、約4年ぶりに横浜アリーナで単独コンサートを行うことを発表している。4年ぶりにアリーナクラスに返り咲く、というわけだ。人生を娘。に捧げた道重さゆみというアイドルの卒業公演でもあり、これをブースターとして年末の紅白歌合戦への切符を狙っている。  そしてでんぱ組.inc。来年2月にキャパ1万人の国立代々木競技場第一体育館での2days公演を控えている。48系、ももクロ率いるスタダ系、ハロプロ系、BABYMETALに続いて、勢いのあるグループといえる。  この動員力表で最も注目すべきは、武道館クラスのグループが増加していることだ。Berryz工房、℃-ute、東京女子流、SUPER☆GiRLS、E-Girls、チームしゃちほこ、9nine、ベイビーレイズ、スマイレージと、数年前に比べて実に数多くのグループが武道館規模の人気を獲得している。これはつまりAKBだけ、ももクロだけの"専オタ"だけでなく、アイドルの多様性が世間的にも認められ、「アイドル」というジャンル自体のファンが増加したことを証明している。このことはのちほど詳しく説明する。

リリスク、ベルハー、ゆるめるモ!…リキッドルーム級の増加はインディーズアイドル希望の象徴

 Zepp&青年館級(約1200~2700人)では、日本人ガールズグループとして史上最速となる「メジャーデビュー後4カ月半」でZeppツアーを発表した、東京パフォーマンスドールに要注目だ。異例の出世スピードだが、一度ステージを観れば誰もがその理由に納得できるはず。以前当連載でもその魅力を詳述した(参照:初代から受け継ぐ、東京パフォーマンスドールの先進性とは? 楽曲とライブから読み解く)。  その他、中野サンプラザ(約2300人)のアップアップガールズ(仮)、TSUTAYA O-EAST(約1300人)のEspeciaも、早いスピードで規模を拡大させている。  そして、武道館に続いて注目すべき会場は、恵比寿・LIQUIDROOM(約900人)。ゆるめるモ!、バニラビーンズ、BELLRING少女ハート、lyrical schoolなど、バニラビーンズを除けば、ほとんどが大手ではない事務所に所属しているグループだ。これは芸能界的な力や資本力に頼らなくとも約1000人の規模には到達できる、ということを意味している。地下アイドル、インディーズアイドルの可能性と希望を象徴する事象だ。

BiS横アリ成功は"アイドルファン"の増加を証明している

 最後にBiSについて。7月に横浜アリーナでラストライブを開催し、約8000人を動員、解散した。事前には、普段の集客力(例えば13年10月の両国国技館でのワンマンは関係者を入れて約4000人とされている)を考えると成功は難しいという下馬評が多数だったが、実際には大成功。これには、先に述べた「アイドル」というジャンル自体のファンが増加したことが影響したのではないかと、筆者は推測している。BiSは元々、アイドルカルチャーをメタ的な視点で捉えた展開を行うことを活動の肝としていた。「解散」すらメタ化して集客の材料とし、「アイドル」というジャンルに揺さぶりを掛けるような、"アイドルファン"の琴線に触れるような展開を数多く行って来た。結果「アイドルファンなら観ておかなければならない」という意識を強く喚起し、解散ライブという演出も加わり、アイドルファン全体の"お祭り"のようなイベントにまで昇華できたのではないだろうか。8月に開催された国内最大規模のアイドルフェスである『TOKYO IDOL FESTIVAL 2014』の動員数は2日間でのべ4万1282人だったと発表されている。この数字も「アイドルファン」の増加を証明している。  このように2014年の上半期はアイドルファンの増加と、アイドルというジャンル、カルチャーの世間への定着がさらに進んだ期間だったといえるだろう。今後もこの傾向はより強まって行くに違いない。 ■岡島紳士(おかじま・しんし)(@ok_jm) 1980年生まれ。アイドル専門ライター。著書、共著に『グループアイドル進化論』、『AKB48最強考察』、『アイドル10年史』『アイドル楽曲ディスクガイド』など。埼玉県主催「メディア/アイドルミュージアム」のアドバイザーと、会期中に行われた全9回の番組&イベントMCを担当。DVDマガジン『IDOL NEWSING vol.1』を手掛けている。 オフィシャルサイト

ももクロ、モー娘。から、リリスク、ベルハーまで…動員力から考察するアイドル界の現在

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モーニング娘。'14『モーニング娘。'14コンサートツアー春~エヴォリューション~ (Blu-ray)』(アップフロントワークス(ゼティマ))

【リアルサウンドより】  活況が続くグループアイドルシーン。CD不況の今、ライブアイドルにとってワンマンライブでの動員力は人気を示す最も分かりやすい指標となっている。2014年9月現在においてその状況はどうなっているのか。データをまとめ、分析して行こう。 (※表の詳細は<IDOL NEWSING『アイドルライブ動員数表』>を参照のこと)

アリーナクラスに返り咲くモー娘。 武道館級の増加が意味すること

 まず国立&ドーム級(約4~7万人)から。48系、ももいろクローバー、Perfumeなど、トップの動員力を誇るグループがここに位置している。国立競技場は国内最大規模の会場であるため、今後は連続開催日数で動員力を推し量ることができそうだが、あまりそこに意味はないかもしれない。彼女たちは既にこの規模以下のグループとは別のルールでショービズ界を成り上がるゲームを戦っているからだ。それは芸能界や音楽業界で人気を維持、拡大し続けることだったり、海外進出だったり、といった具合に。  続いてアリーナ&武道館級(約6000~2万人)だが、まずBABYMETALに触れておきたい。さいたまスーパーアリーナでの公演を来年1月に控えているが、今年7月からフランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、日本を回るワールドツアーを行い、レディー・ガガのアメリカツアーに帯同したりと、その人気は既に世界規模。動員力表ではここに置くしかないが、実際にはこの枠には収まらない異質な存在といえる。  続いてはモーニング娘。だが、2010年12月以来、約4年ぶりに横浜アリーナで単独コンサートを行うことを発表している。4年ぶりにアリーナクラスに返り咲く、というわけだ。人生を娘。に捧げた道重さゆみというアイドルの卒業公演でもあり、これをブースターとして年末の紅白歌合戦への切符を狙っている。  そしてでんぱ組.inc。来年2月にキャパ1万人の国立代々木競技場第一体育館での2days公演を控えている。48系、ももクロ率いるスタダ系、ハロプロ系、BABYMETALに続いて、勢いのあるグループといえる。  この動員力表で最も注目すべきは、武道館クラスのグループが増加していることだ。Berryz工房、℃-ute、東京女子流、SUPER☆GiRLS、E-Girls、チームしゃちほこ、9nine、ベイビーレイズ、スマイレージと、数年前に比べて実に数多くのグループが武道館規模の人気を獲得している。これはつまりAKBだけ、ももクロだけの"専オタ"だけでなく、アイドルの多様性が世間的にも認められ、「アイドル」というジャンル自体のファンが増加したことを証明している。このことはのちほど詳しく説明する。

リリスク、ベルハー、ゆるめるモ!…リキッドルーム級の増加はインディーズアイドル希望の象徴

 Zepp&青年館級(約1200~2700人)では、日本人ガールズグループとして史上最速となる「メジャーデビュー後4カ月半」でZeppツアーを発表した、東京パフォーマンスドールに要注目だ。異例の出世スピードだが、一度ステージを観れば誰もがその理由に納得できるはず。以前当連載でもその魅力を詳述した(参照:初代から受け継ぐ、東京パフォーマンスドールの先進性とは? 楽曲とライブから読み解く)。  その他、中野サンプラザ(約2300人)のアップアップガールズ(仮)、TSUTAYA O-EAST(約1300人)のEspeciaも、早いスピードで規模を拡大させている。  そして、武道館に続いて注目すべき会場は、恵比寿・LIQUIDROOM(約900人)。ゆるめるモ!、バニラビーンズ、BELLRING少女ハート、lyrical schoolなど、バニラビーンズを除けば、ほとんどが大手ではない事務所に所属しているグループだ。これは芸能界的な力や資本力に頼らなくとも約1000人の規模には到達できる、ということを意味している。地下アイドル、インディーズアイドルの可能性と希望を象徴する事象だ。

BiS横アリ成功は"アイドルファン"の増加を証明している

 最後にBiSについて。7月に横浜アリーナでラストライブを開催し、約8000人を動員、解散した。事前には、普段の集客力(例えば13年10月の両国国技館でのワンマンは関係者を入れて約4000人とされている)を考えると成功は難しいという下馬評が多数だったが、実際には大成功。これには、先に述べた「アイドル」というジャンル自体のファンが増加したことが影響したのではないかと、筆者は推測している。BiSは元々、アイドルカルチャーをメタ的な視点で捉えた展開を行うことを活動の肝としていた。「解散」すらメタ化して集客の材料とし、「アイドル」というジャンルに揺さぶりを掛けるような、"アイドルファン"の琴線に触れるような展開を数多く行って来た。結果「アイドルファンなら観ておかなければならない」という意識を強く喚起し、解散ライブという演出も加わり、アイドルファン全体の"お祭り"のようなイベントにまで昇華できたのではないだろうか。8月に開催された国内最大規模のアイドルフェスである『TOKYO IDOL FESTIVAL 2014』の動員数は2日間でのべ4万1282人だったと発表されている。この数字も「アイドルファン」の増加を証明している。  このように2014年の上半期はアイドルファンの増加と、アイドルというジャンル、カルチャーの世間への定着がさらに進んだ期間だったといえるだろう。今後もこの傾向はより強まって行くに違いない。 ■岡島紳士(おかじま・しんし)(@ok_jm) 1980年生まれ。アイドル専門ライター。著書、共著に『グループアイドル進化論』、『AKB48最強考察』、『アイドル10年史』『アイドル楽曲ディスクガイド』など。埼玉県主催「メディア/アイドルミュージアム」のアドバイザーと、会期中に行われた全9回の番組&イベントMCを担当。DVDマガジン『IDOL NEWSING vol.1』を手掛けている。 オフィシャルサイト

the原爆オナニーズ・TAYLOWが語る34年のバンド史、そして若手世代へのメッセージ

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日本のパンク・シーンを牽引してきたthe原爆オナニーズ。(写真:イシバシ・トシハル)

【リアルサウンドより】  結成から34年、現在でも精力的に活動を続ける日本のパンクロック界の重鎮バンド、the原爆オナニーズ。過激なバンド名のため毀誉褒貶を受けつつも、海外で先駆的にライブ活動を展開するなど、現在のパンク・シーンの礎を築いてきた。後進からのリスペクトも厚く、過去には元Blankey Jet Cityの中村達也や、PIZZA OF DEATH RECORDSを率いる横山健も参加、永久メンバーとして名を連ねている。バンドを牽引してきたボーカリスト・TAYLOW氏は、どのような信念のもとに活動してきたのか。洋邦のアンダーグラウンドシーンにも深く精通する同氏に、バンドの歩みや当時のシーンについて、そして新しい世代に伝えたい事を聞いた。聞き手はハードコア・パンクバンド、FORWARDのボーカリストISHIYA氏。(編集部)

the原爆オナニーズの歩みについて

ーー原爆オナニーズが結成したのはいつですか? TAYLOW:原爆オナニーズ自体は1980年に結成した。その前は前身バンド、THE STAR CLUBのマネージャーをやっていて、そこからボーカルのHIKAGEを除いて全員引き抜いたのが原爆オナニーズ。今のバンド形態になって、「the」が付いたのは1982年からだね。 ーー原爆オナニーズって相当ショッキングなネーミングですよね。名前の由来は? TAYLOW:当時「スタークラブ改名計画」っていうのがあって、バンド名を変えようって話が出ていたんだ。スタークラブはちょっとビートルズっぽいからヤダねって感じで。その時にギターの良次雄の友達が、SEX PISTOLSをもじって「じゃあ原爆オナニーズしか無い! パンクは」って発案したんだよね。 ーーなるほど、SEX PISTOLSをもじったんですか! バンド名で得した事とか損した事とかはありますか。 TAYLOW:損ばっかりでしょう(笑)。広島では10年ぐらい前にGUY君(広島DISK SHOP MISERY、BLOOD SUCKERレーベル)がセッティングしてくれるまで、全然ライブが出来なかった。83年ぐらいに広島で反戦運動している人達から「どうしてこんなバンド名なんだ」ってクレームの電話がかかってきたこともある。「バンド名が許せない」って。でも、このバンド名の理由を「あなた達と同じような気持ちで、核・反戦について問題意識を持ってもらえればと思って付けています」ってちゃんと説明したら、その場で和解したけどね。 ーーそれだけバンド名のインパクトが凄かったって事ですよね。 TAYLOW:ロックバンドが認知されていないようなところにも、名前だけで広まっていった。反戦・反核って思想以前に、絶対日本人が嫌がる言葉だから。 ーー1stアルバム出るのは、結成から少し経ってからですよね? TAYLOW:1stの『NUCLEAR COWBOY』は85年だね。それまでは20cm盤っていうミニアルバムだった。それ以来2~3年に1枚ずつリリースして、14~15枚ぐらい出している。 ーーワンマンやった時にとてつもない曲数を演奏したと聞きましたが、楽曲は全部で何曲ぐらいあるんですか? TAYLOW:100曲以上あって、ワンマンの時はたしか58曲演奏した。拷問だよ、ありゃ(笑)。GAUZEがワンマンで60曲やったじゃん。そこに挑戦しようとしたんだよね。 ーー今のメンバーになるまでどれぐらい移り変わってますか? TAYLOW:僕とEDDIEが82年からずっとやっていて、ギターは良次雄からSHIGEKI、SHINOBUと変わったぐらい。ドラムは大口ミキオ君からタッちゃん(中村達也)に変わってJOHNNYかな。横山健君も、ちゃんとメンバーとして入った。Hi-STANDARDは終わっていないけれど、止めている間にパンクロックをやりたいって言っていたから、じゃあやってみようかっていう簡単なノリで。

結成当時のパンクシーンと、"原爆サウンド”の秘密

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the 原爆オナニーズ『Nuclear Cowboy+O'dd On Liveitself+PUNK ROCK MONSTER』(テイチクエンタテインメント)

ーー当時の名古屋のシーンは、スタークラブと原爆が活動していましたが、そのほかはどんな感じでしたか? TAYLOW:CFDLとかが出てくるぐらいまで、後進は無かったんだよね。ROSE JETSとか割礼ペニスケースとかいたけどね。僕はハードコアが好きで、すぐ東京とか大阪から良いバンド連れて来て観せるんだけど、そうするとみんな、やりたいけど出来ない状態になっちゃって。バンドはいっぱいいたんだけど、観に行くともう一息頑張りましょうっていうバンドばっかりだった。それでCFDLがもう全然違うハードコアを出して、あそこから名古屋のハードコアは結構平気でやれるようになったかな。それまでは「ジャップコアをやらなきゃいけない」みたいな固定観念があった。それを壊したところから始まったと思うんだよね。 ーーその間も原爆は変わらない活動を続けていますよね。メンバーが変わるとサウンドも変わったりするものだと思いますが、一貫して“原爆のサウンド”に聴こえるのはなぜでしょう? TAYLOW:たぶんEDDIEのベースの音だろうね。スタークラブの時からEDDIEの音はずーっと変わってないもん。日本のパンクロックのベースの音って、FRICTIONタイプかEDDIEタイプかどっちかで、その二つの主流を作ったうちの一人だから。 ーーパンクだけに限らず、ハード系の日本のアンダーグラウンドのベースの音を確立したって事ですよね。それが未だに現役バリバリでやっているっていうのがすごいです。昔観た人が今観たら、衝撃だと思うんですよ。あの時に観た原爆が、まだ全然変わらずやっているってすごく嬉しいと思いますよ。 TAYLOW:昔のリスナーが知っている曲も未だにやるしね(笑)。まぁ、やっている側としては進歩もしているつもりなんだけど。

シド・ヴィシャスとの遭遇と海外進出

ーー原爆で海外に行った経験についても話を訊かせてください。 TAYLOW:1992年にアメリカ・サンフランシスコでギルマン(老舗DIYライブハウス)とカメレオンっていうところでやった。こういう形態のパンクバンドでは、たぶん日本で最初に海外に行ったと思う。ROSEROSEとGAUZEがヨーロッパに行っているけど、アメリカに行ったのは僕等が最初じゃないかな。 ーーアメリカのお客さん達も衝撃を受けていましたか? TAYLOW:一番、楽しそうだったのはジェロ・ビアフラ(DEADKENNEDYS・ボーカル)だね。大喜びで暴れていたよ(笑)。クリス・ドッジ(SPAZZ)も暴れていた。日本のパンクに興味深かった人はみんな来ていたんじゃないかな。ニューヨークからも来ていたし。 ーーアメリカに行く時は、バンド名は翻訳するのですか? TAYLOW:アメリカのレーベルからシングルを出した時は、そのまんまバンド名をローマ字にした。カリフォルニアUCSSっていう、カリフォルニアの大学のカレッジラジオでは、プロモーションとしてライブをやる前々日ぐらいからそのバンドの曲がすごくかかるんだよね。アメリカに到着した時、車のラジオでいきなり原爆がかかった時はビックリしたよ。 ーーTAYLOWさんは個人的にも海外に沢山行っていますね。シド・ビシャスと会った事があるって聞いたんですけど......。 TAYLOW:イギリスは78年からもう何回も行っている。シド・ビシャスは会ったというか、見た。普通に同じ場にいたんだよ(笑)。何かみんな彼が歩くと道を開けたりしていたけれど、普通の人のイメージ。みんなが思い描いているシド・ビシャスとは違うと思うよ。たぶんみんな、シド・ビシャス伝説に騙され過ぎなんだよ(笑)。 ーーほかにイギリスではどんなライブに行ったりしましたか。 TAYLOW:色々なところに行っているんだけど、個人的に一番衝撃的だったのはWIRE。彼らのライブを観て「こりゃもうバンドやるしか無い」と思った。それまではバンドのマネージャーをやっていて「マルコム・マクラーレンみたいで面白いじゃん」とか思っていたけど、WIREを観てからね、もう何でもアリ。 ーーイギリスでパンクロックが隆盛の時? TAYLOW:パンクロック・ムーブメントの最後の方、DISCHARGEが出てくる頃だね。DISCHARGEのシングル買って「ヘタクソなU.K.Subsだな」って思ったよ(笑)。78年から80年の間は、U.K.SubsかKillingJokeの時代だから、街中に出て行くと大体イキったパンクスはそのどちらかが好きだった。 ーーU.K.Subsは今もイギリスですごい人気ですよね。それで帰って来てどうしたんですか? TAYLOW:日本に帰って来た時は、周りはやっと77年型のパンクに追いつき始めたぐらいだった。それで「そんなもんじゃ無い。音楽は壊さなきゃいけない」ってみんなに言ってまわったの。でも名古屋の人達はみんなワケがわからないよね。でも、本場で体験しちゃっているから、こっちはサイケデリックなモノとパンクが頭の中で一緒になっているわけ。ちょうどその頃のイギリスはハードコア・パンクが出始めた時で、観に行っても暴れ方がそれまでのポゴじゃなくて、今で言うスラムみたいな暴れ方するから衝撃だった。SPECIALSみたいなバンドを観に行っても、みんないきなり暴れ回るから。2TONE(イギリスのSKAレーベル)とハードコアが出てきたのがほぼ同時期で、暴れ方も大体一緒だったんだけど、2TONEの客が一番ヤバかったな。喧嘩しに来ているだけの本当の悪い人達だから。まだ本当に全部スキンヘッズの頃。今まで観たライブで一番怖かったよ(笑)。

若手バンドたちへのメッセージ

the 原爆オナニーズ - 発狂目覚ましくるくる爆弾 @ お年玉GIG2014

ーー原爆がアメリカで活動したのはなぜですか? TAYLOW:1984年に初めてアメリカに行って、アメリカのバンドも日本のバンドも一緒なんだなって思ったんだよね。イギリスのバンドってシステム的なところがちょっと違っているけれど、アメリカの場合はDIYだから「ああ、ちゃんと自分達で機材片付けるんだ」って感じだった。アンプもちゃんと自分で運ぶし。だったらアメリカのバンドとは友達になってもいいなって思ったんだ。彼らは結構メジャーになっても自分でやっているもんね。ただ、日本に帰って来たらZOUOとかOUTOとか関西のハードコアでカッコいいのいっぱいいたし、東京にはEXECUTEもGAUZEもCOMESもいたから、基盤とするのは日本の方がいいかなって感じだったよ。 ーーアンプを持っていないバンドが当たり前になるくらい、日本のライブハウスは優れていますしね。 TAYLOW:日本のライブハウスは素晴らしいよ。どこに行っても任せられるっていうのが、まずビックリ。ただ、だからこそ若いバンドを観ると、ついみんなに「アメリカに行け」って言ってしまう。アメリカに行くとなったら、ちゃんと基礎体力のあるバンドにしないといけないじゃない? 日本だと、そんなに大きな音でドラムを叩けなくても、前に出してもらえるもんね。アメリカに行ったら聞こえないから、自分でちゃんと叩けるドラマーにならなきゃいけないし、楽器も弾ける人にならなきゃいけない。バンドがちゃんとした音を出さないと、聞こえないし伝わらない。日本だとモニターがあるけど、モニターが無いところもあるし、ボーカルなんか自分で音程取れなきゃできない。耳おさえて歌うみたいな感覚を、自分で持っていないとできない。そういう事ができるようになると、バンドは確実に成長するよ。 ーーそういうアメリカでのライブ特有の感覚を日本に持ち込んだのも、原爆が最初ですよね。今ではバンドがサンフランシスコに行ったらまずギルマンでライブをする、という流れがありますが、それも原爆が道を作ったのでは。 TAYLOW:ギルマンでやってから向こうの人たちと話が出来るようになって、それがみんなに伝わっていったから、流れは繋がっているのかもね。あそこは全部ボランティアスタッフでやっていて、素晴らしいライブスペースだよ。 ーー当時のアメリカ人にしたら、日本人のパンクは珍しかったんですかね。 TAYLOW:日本人でパンクをやっているということで興味半分にライブを観たら、ちゃんと音が出ているから、気に入ったんじゃないかな。 ーー向こうの客はシビアですからね。演奏さえ良ければライブが終わった後に態度がコロッと変わります。 TAYLOW:そういう風に客がコロッと変わるぐらいの力を、みんな付けて欲しいよね。今の日本のバンドって、ライブハウスが良すぎるから、それに甘え過ぎている面があると思う。そのままアメリカに行くと「ひ弱な日本人」というイメージが付いてしまう。だから、大げさに「行きなさい行きなさい」とは言い辛い。小さいところでやるならまだしも、ガチンコ勝負でライブやって、ちょっとでもダメだとその後がマズいからね。 ーー日本と比べると、治安の面とか恐ろしい部分はありますが、昔に比べて海外に行きやすくなってきていると思います。 TAYLOW:そういうのを知った上で、みんなはなぜ海外にライブしに行こうと思わないのかな? 日本のバンドってすごく沢山良いバンドがいるのに。メインストリームの音楽より、インディペンデントのバンドの方がアメリカとかヨーロッパでは好まれるから、むしろチャンスがあると思うんだけど。若い20代のバンドとかに、行けば?って言うと、海外はちょっと...って言う。行ってみなきゃわかんないじゃん。百聞は一見に如かずっていうのは、バンドで海外に行って一番感じたことだね。 ーー海外でバンドをやると、ものすごい人数の友達が出来ますしね。 TAYLOW:バンドって楽しいんだけどなぁ。日本国内だっていっぱい廻れるしさ。たぶんバンドやってなかったら行かないようなところにだって行くじゃない。それぞれの地域に行って友達作って帰ってくるワケだし。 ーーそうした繋がりをよく見ると、アンダーグラウンドなシーンで活躍していたバンドは、原爆みたいに息の長い活動を続けている場合が多いですしね。 TAYLOW:メジャーじゃない人で、アンダーグラウンドでずっと続いている人はいっぱいいる。それで飯を食うことを辞めて、仕事しながら表現するっていう方法に変えた人、パンクでも結構いるよ。ひょっこりCDを出したりとか、CDを出さずにサウンドクラウドに上げたりとかしていてね。そういえば日本のバンドって、バンドキャンプとかサウンドクラウドを何で使わないの? みんなにいくら教えてもやらない。iTunesを勧めても、JASRACと同じような事ばっかり言うし。 ーー原爆もネットを活用していますね。 TAYLOW:やっているよ。それで原爆を知った人もいたりする。言い方が悪いけど、音楽聞きたいだけの若い子とかにしてみれば、過去の作品なんてフォーマット関係無いじゃん。自分達が10代の時だって、ただ音楽が聞きたかっただけでしょう。そういう感覚で、自分たちの音楽を届けられる状況をちゃんと作っているインディペンデントのバンドがすごく少ないよね。音楽好きな中学生や高校生は、1枚のCD買うよりも100個のバンドが聞きたいんだよ。自分達だってラジオから流れる曲をカセットテープに録音とかしていたワケでしょ。歳食っちゃった自分たちとしては、1枚のCDを買ってほしいってついつい言っちゃうんだけど、自分たちだって本当は100の音楽を聞きたいじゃない。やっぱり、どんな形であれまずは聞いて貰えた方がいい。それが結果として、ライブとかにも繋がるから。海外に行くのもそうだし、ネットでもなんでも、日本の若いバンドはどんどん幅を広げていってほしいな。 (取材・文=ISHIYA)

初音ミク生みの親=クリプトン伊藤博之社長インタビュー「今は“いかに狭く売るか”という試みが大事」

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【リアルサウンドより】  音楽文化を取り巻く環境についてフォーカスし、キーパーソンに今後のあり方を聞くインタビューシリーズ。第3回目は、ボーカロイド「初音ミク」の生みの親としても知られるクリプトン・フューチャー・メディアの伊藤博之社長が登場。「初音ミク」がここまでの支持を集めた理由や、クリエイターの新しいあり方とその支援方法、さらには初音ミクのコンサートと展示スペースなどを併催した一大イベント『マジカルミライ』について、存分に語ってもらった。

「初音ミクというドリルで堀った先に資源があった」

――クリプトン・フューチャー・メディア社が北海道札幌市で設立されたのは1995年。インターネットの黎明期ですね。 伊藤:Windows95が出た年、つまり一般の人が使えるパソコンが出た年です。このときはお客さんも東京にいたため、東京に拠点を構えたほうが圧倒的にメリットが大きかった。しかし、あえて札幌にとどまりました。通常であれば商品のPRをするために、営業マンを東京に派遣するんですが、「今後はインターネットでPRしていくことが主流になってくるだろうから、北海道でも仕事ができる」と考えたんです。そこで、インターネットのことを勉強し、北海道で最初にOCNの専用回線を引いて、サーバーを立ち上げました。「北海道でやると決めた以上、発信するためにはインターネットを活用しよう」と発想をシフトできたことは、田舎にいたおかげなのかもしれません。 ――その予見は当たり、今やインターネットは生活に欠かせないインフラとなりました。 伊藤:そうなると考えていましたし、インターネットが社会のインフラになるという前提であれば、産業はインターネットの作法にしたがわなければ死んでしまうと思いました。音楽の場合は原盤というものがありますが、「コピーできるものはことごとくコピーされる」ということがインターネットの作法であり、コンピューターを使う以上、避けては通れない仕様のようなものです。プロテクトすることはできますが、それをまた掻い潜ることもできるため、あまり効果がない。コピーされないことを前提とするビジネスは、「それは仕様なので仕方がない」としたうえで組み立てていかなければならないと思っています。僕はその答えを持っているわけではなく、音楽ビジネスはこう進むべきだ、とは言えません。ただ、そういう原理と状況があるということですね。 ――そうした新しい環境の中で、初音ミクがここまでの支持を集めた理由についてはどう捉えていますか。 伊藤:日本レコード協会が発表した「2012年度音楽メディアユーザー実態調査報告書」(http://www.riaj.or.jp/report/mediauser/pdf/softuser2012.pdf)で、「未知アーティストに関する楽曲ファイル購入のきっかけ」のトップが「動画共有サイト」でした。このことから、けしからん複製が行われている場も、未知のアーティストを知る場もインターネットであり、プロモーションと権利侵害が同時に起きているということがわかる。そのなかで初音ミクというボーカロイドソフトが支持された背景には、3つの事柄が挙げられます。  ひとつは、拡散するツール、場所としてのインターネットや動画共有サイトの普及。ふたつ目は、個人の創造性をサポートするツールとして、コンピューターとソフトウェアが高性能・低価格化し、DIY革命のようなものが起こったこと。最後は「人は案外クリエイティブだ」ということです。つまり、音楽は一部の天才が生みだすものではない。人間はきっかけがあれば誰でも創造する生き物で、ルネッサンス的にそれを再認識したことが重要でした。石油のような天然資源は、やみくもに地面を掘っても出ない。過去に何かの蓄積があったから石油が生まれ、それをうまく掘り当ててはじめて油田が出るんです。同じように、いくらインターネットが普及し、ツールも高性能で安くても、何もない地面を掘り進めても油は出ません。初音ミクというドリルで堀った先に資源があったから、このような油田ができたのだと思っています。 ――クリエイティビティーという資源が、日本にあったと? 伊藤:そうですね。他の国で同じことをやって同じ結果になったかと言えば、そこはクエスチョンマークがつきます。クラスの女子の半分以上がきれいな絵を描く国は珍しい。そもそも外国の人の多くは、あまりきちんと「丸と線」が描けません。それをもってクリエイティブだというと違うかもしれませんが、きちんと図を把握して形にすることができる――そういう美意識を持っている、というのは日本の文化的な資産です。
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「原盤を買うのではなく価値を買う、共感を与える」

――音楽面でいうと、日本に以前からあったボカロに繋がる文化的な資産としては、MIDI等を使った音楽制作の蓄積がありますね。 伊藤:日本人は、フィジカルな部分でマッチョに自分を表現してノリを鼓舞する…ということについては得意ではないけれど、繊細なメロディや歌詞や歌世界を表現する分野では独特のものがあると思います。フォアグラウンドな音楽で世界に太刀打ちしようとしても、身体能力の制約上、短距離走で金メダルを狙うこととが難しいのと同様に、やはり難しい。しかし、UGC(User Gnerated Contents)、CGM(Consumer Generated Media)の世界ではその価値観だけが唯一絶対というわけではありません。そうではない価値観を持つ人々同士でクラスタ化される側面があります。初音ミクから派生したボーカロイドシーンの盛り上がりは、「歌を歌う」という機能を持つソフトウェアが派生した結果、ある種の世界観や音楽的な雰囲気がひとつの文化圏を作っていき、クラスタ化していった状況だと思っています。 ――それがアジア圏をはじめとする諸外国にも飛び火していきました。 伊藤:2007年に初音ミクをリリースしてから7年間経ちますが、海外からの問い合わせは翌08年から少しずつ増えています。もともと弊社は音楽ソフトウェアの輸入からスタートしているので、海外展開に対しても気負うことなく普通に対応してきました。初音ミクのfacebookページは2010年に開設して、「微博」という中国語版ツイッターでの情報発信も始めました。現在はfacebookのユーザー数が240万、微博のフォロワー数が60万人ほど、海外向けのファンコミュニティには約20万人の登録者がいます。これだけのユーザーがいると、海外で何かアクションを起こす際の下敷きになる。海外で展開する際に難しいのはPRですが、このように情報発信活動を何年間もやったうえでお客さんにリーチできるようにしておけば、何か情報を出す際に価値を持つわけです。「お客さんと接点を作ること」だけをずっとやってきた結果として、アメリカやインドネシアでもいい展開ができているのでしょう。 ――その効果として、多くのクリエイターを世の中に登場させることになりました。一方で「ボーカロイド楽曲のダウンロード数が頭打ちではないか」という議論もあり、その意見について伊藤社長は「少し違う取り組みが必要」ともおっしゃっています。 伊藤:90年代までは「いかに広く宣伝して、広く売るか」ということを競っていたように思いますが、そこから一気に営業の数字が伸びなくなりました。今は『アナ雪』やEXILEと同じ売り方ができない99.9%のミュージシャンにとっては、「いかに狭く売るか」という試みが大事だと思います。例えばLD&Kさん(参照:LD&K大谷秀政社長インタビュー「CDの売上が3分の1でもアーティストが存続できる形を作ってきた」)などは、音楽だけではなくファッションやライブ空間といったライフスタイルを一気通貫でひとつの価値観に束ねて、ブランドにしている。そういった意味での「レーベル」なんです。それを価値として提示する、深くお客さんに楽しんでもらうことが重要ですね。  僕が考えることもそれと同じです。同人CDをいきなり一般の流通で売ってブレイクするかと言えば、そうではない。一方で、同人イベントで行列ができるような人もいます。ある種のクラスタを形成できる価値を中心軸に、いかにピンポイントでキャッチーにブランディングするか、その価値をいかに顧客に伝えて情報を提供するか、ということが重要です。それはカフェやフェス、書籍という形もいい。音楽とは違う形を利用することにより、音楽、アーティストの価値をより深く消費してもらう。それが「いかに狭く売るか」ということであり、これからのプロデュース方法だと思います。そこで「原盤というものはコピーできる」という事実を前提として、コピーできるものを気持ちよく買ってもらうために「原盤を買うのではなく価値を買う、共感を与える」という見せ方や売り方が大事になってきます。

「レコード会社がPRをクリエイターに頼るケースも増えた」

――例えば、今回開催される『マジカルミライ』のようなイベントも、クラスタを形成しうる価値を作る、という発想なのでしょうか。 伊藤:文化としての初音ミクなりボーカロイドというものが、単に一般消費財と同じように、「コンサートに行って、盛り上がって、帰って」ということの繰り返しでいいのだろうか、という考えがあります。ボーカロイドの裏にはクリエイターがいて、コンサートはその人たちが作り上げた作品の発表の場でもある。そして、そこにイラストやワークショップやシンポジウムというものを重ねあわせることによって、単に音楽のライブを聴きに来るのではなく、その後ろにある価値を理解してもらう。それをきっかけに、音楽ないし、何か創作を始めるきっかけにしてもらえたらいいな、と思います。それが次のクリエイティブな動きになって、文化が永続的に続いていくことを望んだことが企画の意図です。 ――「少数精鋭の天才的なクリエイターがいる」というより、「多くの人が多彩な形で才能を発揮している」方が望ましいというお考えですね。 伊藤:商売として何かを成立させることは難しいことです。プロを目指して上京して頑張って、ダメだったら田舎に帰る…というようなケースを僕自身がたくさん見てきました。そのなかで「音楽ってそういう風に、イチかバチかで人生を賭けるほどのものなのかな?」という疑問があったんです。もちろん良い音楽を聴きたいし、良い音楽を作りたい、ということは僕にもわかる。しかし、「メジャーレコードという装置に乗らなければ、自分の作った音楽はないに等しい」という状況は違うと思ったんです。  ただ、今はメジャーレコード会社を通さずとも自分の力だけで、たくさんの人に聴いてもらうことができる。その背景には「音楽産業が果たしていた制作・流通・プロモーションの3つの力を一般のユーザーが持てるようになった」ことが挙げられます。制作は、パソコンにDAWを入れればありとあらゆる音が作れますし、昔は非常に高価だったプラグインソフトも安価に手に入れられるようになったので、マスタリングも自分でできます。当社のDTMソフトウエアの配信サイト『SONICWIRE』(http://sonicwire.com)では、定番から最新のものまで世界の音源ソフトウエアが手軽にダウンロード購入できます。流通に関しても、iTunesを使って自身の音楽を配信して販売することが可能ですし、同人系のイベントなどで直接売る機会も作ることができる。当社で運営している音楽アグリゲートサイト『ROUTER.FM』(http://router.fm)を使えば、自分の作品をiTunesやAmazon、BeatPortなど世界中の主要配信サイトでまとめて販売できる。現在2,000以上のデジタルレーベルがROUTER.FMを通じて世界中で音楽を販売しています。一番のネックはプロモーションで、ここに多くのレコード会社が生きていく道があったと思うのですが、今はどちらかというとクリエイター側にPR力があるという状況になってきています。フォロワーが何万人もいるボカロPも珍しくありませんし、レコード会社が自社の商品のPRをクリエイターの発信力に頼るケースも増えていますね。 ――音楽の世界でも今までと違うプロダクトが生まれ、初音ミクはそのきっかけのひとつを作りました。新しく生まれた文化を育てるために、伊藤社長が心がけたこととは? 伊藤:「できること」と「できないこと」を整理して考えました。「できないこと」は、初音ミクの使い方をこちらが決めること。誘導することはできますが、完全にコントロールすることはできません。著作権のようなものを確実にコントロールすることを前提に、すべての物事を管理するのはとても難しい。逆にオープンにする方向で考えたほうが、いつかビジネスになってくれる可能性もあるので、誹謗中傷や商業的な使われ方にならないような最低限のルールだけ設け、後は自由に使ってもらえるようにしました。また、独占契約をしてPさんを抱えるようなことも、インターネットの自由な世界に縛りを入れてしまう無駄なことだと考え、距離を置いてきました。  「できること」に関しては、「自分たちにしかできないこと」をやっていく、ということだと思います。今でこそ海外でも広がっているという認識が共有されていますが、初期の段階から「海外からも見られているな」という実感はあって。「CDを国内でリリースしました」というだけで終わらないように、08年くらいから、海外のリスナー向けにiTunesやAmaszonMP3と契約して、世界に出口を作ってあげていました。
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「『何を作るか』ではなくて、『何が求められているか』」

――自社で運営されているCGM型音楽レーベル『KARENT』ですね。配信リリースに特化しており、一般的なレーベルのようにアーティストと専属契約を結ぶ形とはまた違った方向性を示しています。 伊藤:特定のクリエイターだけをフォローするようなことをこちらがやると、平等に扱えなくなるので、それならば最初から誰も扱わない方がいい。音楽のプロダクションなどから見れば逆の発想なのかもしれませんが、囲えば逃げますし、囲わない方が長続きします。文化として定着させることを優先すると、後者に注目した方がいいと思います。また、『KARENT』の売上の半分以上は海外です。初音ミクのfacebookページに『KARENT』の新しい情報を載せていくことで、240万人に対するPRを行った効果であり、大きくメディアとして伝えるプラットフォームを作ったからこそここまで伸びたんだと思います。 ――これからもクリプトン・フューチャー・メディア社の役割は「制作においてクリエイターを支援していくこと」になるのでしょうか。 伊藤:先ほど「狭く売る」と言いましたが、それは「セコく売る」ということではなくて、いかに価値を共感してくれる人に届けるか、ということです。単に原盤として音楽を作って、出版して営業してカラオケに入れて…という繰り返しは、すごく作業的・機械的に行われているように感じてしまうし、そういうものはいい加減もういいなと思う。うちは「何を作るか」ではなくて、「何が求められているか」「どういう価値がどこで喜ばれるか」ということを念頭にやっていきたいと考えているんです。  うちが提供するのは完成物ではなくて、「作る雰囲気」や「作るツール」、「作るきっかけ」であり、その例が初音ミクやピアプロというサイト(投稿されたイラスト、楽曲などの作品を、非営利などの条件下で会員同士が融通し合い、新たな作品を生みだせる創作の場として作られたもの)です。ネットで活動するアーティストは今後も増えるし、インターネット自体がなくなることはない。うちはアーティストを抱え込んでプロモーションしたりはできませんが、いろんなアーティストが活躍する機会、視聴されるサービスやツールを作ることが自分たちのやるべきこと、自分たちにしかできないことだと考えて取り組んでいます。 ――そうしたアイデアは、社内のディスカッションなどから生まれるのですか? 伊藤:僕が考える場合もあるし、社員から上がってくる場合もあります。例えば、音楽ライブの情報を集める『gigle(ギグる)』(http://gigle.jp/)というサイトがありますが、これはうちの若手社員から出てきた発想です。チケット屋が独占的に持っているコンサート情報は、ほかのチケット屋からは出てこないし、多くの情報を俯瞰できる場所がないから、作ってしまおうと。立ち上げたあとに忙しくなって放置していてビジネスにはなっていないのですが、アクセスだけは常に右肩上がりです(笑)。

「『いろいろな価値』が数値化・相対化されれば世の中は大きく変わる」

――クリプトン社でボーカロイドソフトウェアの開発を中心に担った佐々木渉さんなどはメディアの登場機会も多いですね。他の方を含め、社内の雰囲気はどういう感じでしょう? 伊藤:個性豊かですね。佐々木は実際にすごく音楽好きで詳しいです。DJをやってるネットワーク管理者がいたり、バリバリのギタリストがプログラマーだったり。どんな部署でも「何かを作っていること」が入社条件です。弊社のお客さんはクリエイターであり、彼らが必要とするものを作るのもまたクリエイターですから。プログラマーや経理であっても、クリエイターが大事にするものを理解できないときちんとした対応ができないと思っています。 ――ボーカロイドを中心とするムーブメントは、とても盛り上がった分、これがピークだと見ている人もいるかもしれません。今後も広がっていきそうですか? 伊藤:これからでしょうね。現在のクリエイティブな動きをさらに定着させるためには、クリエイターにお金を分配する仕組みが必要ですが、それがなかなか難しい。例えば、iTunesで2012年にビートルズの配信が始まったときには、サンフランシスコの街中の看板が全てビートルズになりました。こういった動きをみると、「今のアーティストは過去のアーティストとも競争しなければいけない」と思う。有名になった過去のアーティストは、すでにブランドが出来上がっているので、それだけである程度のパーセンテージが売れていきますから。コンテンツが積み重なる量に応じて人々の収入が増えていけばいいのですが、そうはならないので、1アーティストあたりの期待値が下がっていくことになってしまう。こうしてお金という価値ですべてのものを評価してしまうと、次第に割に合わなくなっていくのは必然です。 ――クリエイティブなものには、単にお金では測れない価値がありますね。 伊藤:音楽には「世の中の人にどれだけ勇気や元気を与えたか」という目に見えない価値があります。例えば、自殺しようと考えていた人がある曲を聴いて、踏みとどまることだってある。数年前にMITのメディアラボを訪問したとき、入り口に大きなディスプレイがあり、画像認識してその人がスマイルしているかを測り、ある程度笑顔にならないと入れないというシステムがありました。そういった実感・感覚のようなものが、世の中で数値化できるものが仮にあったとしたら、クリエイターはそのために頑張ることができるかもしれませんね。例えば、体にセンサーをつけて、血流などのパラメーターから幸せの数値が測れたりすると、ゲーム感覚で楽しいこと、幸せなことをクリエイティブして競えるようになるのではないでしょうか。色々なものが「見える化」する方向性に世の中の技術は向かっていますから、お金だけじゃない「いろいろな価値」が数値化・相対化されれば世の中は大きく変わるきっかけになるでしょうね。 (取材=神谷弘一/構成=中村拓海/撮影=下屋敷和文) ■公演情報 『初音ミク「マジカルミライ2014」in TOKYO』 日時:2014年9月20日(土) 昼公演 OPEN 12:00/START 13:00 夜公演 OPEN 17:00/START 18:00 会場:東京体育館 公式HP

無料配信で波紋を呼ぶU2の新作、肝心の内容は? サウンドと歌詞の変化を分析

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Apple公式ホームページ

【リアルサウンドより】  U2がリリースした5年ぶりのニューアルバム『Songs of Innocence』が、一週間で3300万人にダウンロードされたことが明らかになった。  Apple社の発表イベントにて無料先行配信が発表されたこの新作。一般発売は10月13日だが、iTunesユーザーに対しては発売に先駆け約5週間の無料配信を実施。ユーザーのライブラリに新作アルバムの楽曲が加わり、iCloudを通してそれをダウンロードする形でのリリースとなった。  全世界で5億人いるiTunesユーザー全てに届けられたこのアルバムは、Apple社CEOのティム・クックが「リリース初日だけでこれだけの人が手にするアルバムは史上初」と語った通り、これまでにない規模での広がりを見せている。その背景にあるApple社側の戦略にとってはこちらの記事を参照していただくとして(参照:iPhone6発表と同時にU2の新アルバム無料配信 バンドとAppleの狙いとは?)、その成果は果たしてどうなったのか? 肝心のニューアルバムの内容、そして前代未聞の方法で新作を発表したことの音楽面への影響を分析していきたい。  まずは金銭的な側面について。アルバムは無料配信されたが、ボノはTIMES誌の取材や自身のウェブサイトにおいて「音楽が無料になったわけではない」と強調。アップルが独占配信の料金を支払ったことを告げている。  具体的な金額については明かされていないが、ニューヨーク・タイムス紙によると、Appleがバンドと所属レーベルのユニバーサルミュージックに1億ドル(日本円にして約100億円)を支払ったと報じられている。これは新作アルバムの独占配信だけでなく、CMなども含めたグローバルなマーケティング・キャンペーンの対価とされている。ただ、実際に今回の施策においてバンド側が多額の収益を得たことは間違いないようだ。  そして、肝心のアルバムの内容について。筆者としては、ニューアルバムを「U2らしさを最大限に活かしつつサウンドをモダナイズした傑作」と捉えている。もちろん数々の名作を作ってきたバンドであるので、キャリアの中での位置付けについては評価がわかれるところだろう。が、この新作で彼らが2010年代のインディ、そしてメインストリームの音楽シーンのモードを意識していることは、充分にも伺い知れる。  象徴的なのはリードトラックにもなっている1曲目「The Miracle (of Joey Ramone)」。「♪Wow~」という歌い出しから始まるメロディは、コールドプレイやスタジアム・ロック化した最近のEDMの王道にも通じるような、ライヴでの大合唱をイメージさせるスケールの大きなもの。また、ラストトラック「The Troubles」はスウェーデンの歌姫リッキ・リーをゲストに迎え、ラナ・デル・レイやロードを彷彿とさせるダークで沈鬱なナンバーになっている。プロデューサーはデンジャー・マウスと、アデル等を手掛けたポール・エプワースとライアン・テダー。バンドの路線や基本的な方向性は前作と変わっていないが、かと言って過去を踏襲している感もない。そういう絶妙なバランスでアルバム一枚がまとめられている。エモーショナルなバラード「Song for Someone」や、エネルギッシュなリフから始まる「Volcano」など、楽曲のクオリティも粒揃いだ。  一方、歌詞のテーマは、とてもパーソナルなものになっている。若くして亡くなったボノの実母について歌った「Iris (Hold Me Close)」や、かつて自宅のあった場所を曲名にした「Cedarwood Road」など、故郷や家族をモチーフにした曲も多い。「The Miracle (of Joey Ramone)」も、「もしラモーンズがいなかったら U2 も存在しなかっただろう」と語ったラモーンズへの敬愛の情を描いたもの。アルバム一枚を通して自らの思春期を振り返るような作品になっているのである。  ボノは公式サイトのメッセージで、さらなる新作『Songs of Experience』を準備中であることも告げている。「無垢」と「経験」というそれぞれの言葉の意味を考えると、新作はおそらく、私的な思いを綴った『Songs of Innocence』と、社会へのメッセージを込めた『Songs of Experience』という2枚で対をなすものになるのではないだろうか。そして、北アイルランド問題を示す言葉である「The Troubles」という言葉を冠した楽曲がその2枚を繋ぐブリッジになるのではないかと推測できる。  ただし。これだけ入念に準備されたアルバムも、そのリリース方法が賛否両論を集めているのも事実だ。批判を集める理由になったのは、楽曲がユーザーのライブラリに自動的に追加される方式だったこと。U2のことを好きではないユーザー、興味ないユーザーにとっては、これを不快に思う人も多かったのろう。削除するにはiTunes Matchに加入する必要があったことも苦情の対象となった。それを受け、9月15日にAPPLE社はアルバムを削除するためのツールを公開している。  また、そうでなくとも、リスナーにとっての音楽を聴く体験の価値は、単に音楽の中身だけでなく「それをどうやって手にしたか」にも左右される。「朝起きたら勝手にライブラリに入っている」というリリース方法を喜ばない音楽ファンも多かったようだ。ツイッターには主に若いユーザーの「U2って誰? なんで勝手にiPhoneに入ってるの?」という書き込みが相次ぎ、それをまとめたサイト(http://www.whoisu2.com/)も登場した。  こうした無料配信が賛否両論を集めたことは、過去にもある。たとえば、Jay-Zは昨年7月にサムスンとパートナー契約を締結し、アルバム『Magna Carta Holy Grail』100万枚をGalaxyユーザーに先行無料配布するという施策を行った。こちらの場合もJay-Zには500万ドル(約50億円)が支払われマーケティング的には大きな注目を集めたが、ダウンロードするための専用モバイルアプリが個人情報にアクセスすることが批判の対象にもなった。そして、レディオヘッドの『イン・レインボウズ』なども含め、作品の内容よりもむしろリリース方法に注目が集まった作品は、その音楽性についての評価が成されにくいという傾向もある。  果たして今回のU2の新作がどう受け取られるのか? 音楽業界に巨大な一石を投じたその結果は、後々明らかになっていくはずだ。 ■柴 那典 1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

ななみ、デビュー作までの波乱の日々を語る「10代は悲しみだったけど、20代はきっと楽しい」

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【リアルサウンドより】  大分出身の注目のシンガーソングライター、ななみが10月8日、シングル『愛が叫んでる』でメジャーデビューする。「強がってはいても、愛がほしい」という生々しいメッセージが込められた同楽曲は、ななみ自身が引きこもりやいじめなど、10代で経験した様々なエピソードをもとに生まれたもの。楽曲について話を聞くと共に、彼女の生い立ちについても知ることができた。

「音楽から得られる楽しさで、日々に色が出てきた」

――メジャーデビューが決まったとき、率直にどう思いましたか? ななみ:信じられませんでした。14歳のころから音楽を続けてきて、目標のメジャーデビューが叶ってしまうことで、プレッシャーや不安も感じましたね。でも、最近は新しいスタートをシンプルに楽しめたらいいと思っています。 ――初インタビューなので、時間をさかのぼって伺いますね。14歳で音楽をはじめたきっかけは? ななみ:両親が離婚してしまったんです。母には「私は大丈夫だよ」なんて強がっていたのですが、当時は多感な時期だったので、すごく考えてしまって。友だちの笑顔を見ると悔しくて、「なんで自分だけ」と思ったりもしました。それで学校に行けなくなり、半年くらい引きこもってしまったんです。  じっとしているからお腹も空かないし、部屋にいるだけだから日常に変化もない。“生きている”という実感がなかったんですよね。そんななかで、YouTubeで音楽を聴くようになって、音楽から得られる楽しさで、日々に色が出てきたんです。それがすごく助けになって。最初は好きな曲を口ずさむだけだったのですが、思い切って母に「音楽がやりたい!」って言いました。そうしたら、母は私が何かをやりたいと言い出したことがうれしかったみたいで、全力で応援してくれて。それが中学3年生のころです。 ――そして、実際にオーディションを受けるようになったんですね。 ななみ:何十社も受けて、落選もたくさんしたんですけど、当時はそれでも審査員の方に「いいね」なんて評価されることが嬉しくて。カラオケだけで歌の練習をしていたのが福岡の音楽スクールに通い始めて、ギターの基礎や作詞作曲の土台となる部分を教わりました。最初の曲も、そのときにできたんですよ。でも、「個性は学べるものじゃない」と思って、スクールは卒業。その後は大分でライブ活動をしていました。 ――その年齢で音楽に専念するのは大きな決断だったと思います。 ななみ:みんなが学校に行っている間に音楽をやっていて、「歌手を目指しているらしい」という噂が広がって、久しぶりに学校に行ったらからかわれることもありました。もともと団体行動が苦手だったし、「愛が叫んでる」のPVで描いているようないじめも経験したんです。本気で歌手になりたかったけれど、それを受け入れてくれない人たちに対して、どこか後ろめたい気持ちもあって。それでも前を向いて、「今に見てろ!」という気持ちで学校に通っていました。 ――いまのななみさんは快活な印象で、団体行動だったり、みんなの前で表現することが苦手なタイプには見えません。音楽に取り組むなかで変わっていったのでしょうか。 ななみ:そうですね。最初は家族でカラオケに行っても恥ずかしくて歌えなかったんです(笑)。だから、2013年に「Music Revolution JAPAN FINAL」でグランプリをとったことが自信につながっているのかもしれません。「こんな私でも、自信を持っていいものがある」と気付いたというか。 ――そんななかで生まれたのが、「愛が叫んでいる」だったと。 ななみ:Music Revolutionの第一次審査が2012年で、最初は歌だけで出ていたんですが、弾き語りで出てみようと思って。それで、それまでに書いた曲を練習してみても、どれもピンと来ない。「愛が叫んでる」はそのときに作った曲です。愛にしがみついていた主人公が、心を開いて愛をもらえるようになる…という気持ちは、当時の自分の成長と重なるもので、歌詞は暗いけれど、徐々に評価してもらえるようになりました。

「『歌わなきゃいけない』という使命感みたいなものが、常にあるんです」

――大きいテーマの曲ですが、ななみさんの個人的な気持ちを歌われているという捉え方もできるかもしれませんね。 ななみ:そうですね。引きこもっていた時期、私と同じように高校に行っていない人と遊ぶことが多くて。いわゆるヤンキー系の友だちが多かったんですけど、そういう人たちって、強がってはいても、愛がほしくて集まっているんですよね。家庭や学校で嫌なことがあったり、理由はそれぞれ。でも、結局は「人は愛がないと生きていけないんだ」と気づいたんです。それで、曲を作って誰かを救いたい、と思いました。 ――「誰かを救いたい」という思いは、いまも強いですか? ななみ:強いですね。そう考えて振り返ると、自分が引きこもりやいじめなどを経験したことは、すごい宝だなと思います。それまでは恋愛の曲だったり、分かりやすい曲が多かったのですが、経験として振り返れるようになって、「愛が叫んでる」や「巨人のおはなし」のように、誰かを救いたいと思って歌うようになりました。私に初めて生きる力をくれたのが音楽だったので、自意識過剰かもしれないけれど、「歌わなきゃいけない」という使命感みたいなものが、常にあるんです。 ――ななみさんの歌声は低音域が豊かで、独特の魅力がありますね。 ななみ:もともとハスキーで、普通の女性より低めでガラガラしているんです。アイドルブームのなかで、「声が高くてかわいい子っていいな」と憧れて、母に「なんでこんな声に産んだの?」なんて言ってしまったこともありました(笑)。一番のコンプレックスだったんですけど、それが個性になると思って受け入れることができたんです。洋楽を聴くと、低音でハスキーなボーカリストもたくさんいますよね。最初は、ホイットニー・ヒューストンやセリーヌ・ディオンのマネをしてみたりもしました。でも、オリジナル曲は見本がないから、マネできません。そこで自然と出てきた歌声が自分の声なんだと思うんです。 ――アイドルも多く輩出している世代ですが、ななみさんはそれとは違う個性ですね。 ななみ:声もそうですけど、もともと女の子らしいことをするのが苦手で(笑)。目線が男なんですよね。ストレートにものを言ってしまうし、女子のなかでは孤立しがちでした。だから、「かわいくしないといけない」という気持ちはなかったし、いまもかわいらしい女の子たちと対バンして、自分の個性を出せるのが楽しくて。 ――海外だと、例えばアヴリル・ラヴィーンのように強い女の子像を打ち出しているアーティストもいますね。洋楽から発見したヒントもあったのでは? ななみ:そうですね、アヴリルの影響は大きかったと思います。女性だからってかわいらしく振る舞う必要はないし、強い女性がいてもいいじゃないかって。 ――楽曲の話に戻ると、「巨人のおはなし」はひとつの紙芝居のような物語に仕立てられているのが印象的でした。 ななみ:物語形式の作り方は初めてでした。巨人を出したいと思ったのは、『進撃の巨人』に衝撃を受けたからですね。巨人が人を襲って、人間がかわいそう…という構図だけれど、自分自身も小さいころ、何もわからずアリの巣を壊したことがあったので、そういう意味では自分も巨人だったなと思って。弱い者も、強い者も罪はなく、それでも大きさに関係なく命の重さはかわらないから、「命が美しい」というのは正しいんだ、ということを伝えたかったんです。でもどう伝えればいいか分からなくて、そのまま影響を受けた『進撃の巨人』から巨人を出して、巨人と少女の話にしようと思いました。 ――まさに絵が見える楽曲に仕上がっていますね。歌詞はどんな風に作るんですか? ななみ:あまり曲を作るのに時間をかけないんですが、歌詞についてはすごく時間をかけました。洋楽が大好きなので、最初は適当な英語で作ります。なので「揚羽蝶」なんかもそうですが、言葉にもリズム感が出ていると思っています。 ――それは強みだと思います。影響を受けたミュージシャンはいますか? ななみ:アリシア・キーズ、レオナ・ルイスKTタンストール、王道ですがホイットニーもそうですし、テイラー・スウィフトやジェシーJなんかも好きです。言葉は分からないけれど、歌声で伝わるものがあって、それが学べたと思います。吐息の入れ方ひとつでも、普通に歌ってるだけじゃないんだと分かる。それはすごく自分も大事にしたいと思っています。 ――アコースティック楽器を軸としたサウンドが好きなんでしょうか。 ななみ:そうですね。できれば生音で、あまりピコピコしていないのが好みです。今回の楽曲も人が出す音にこだわっていて、「愛が叫んでる」は、自分が好きなアーティストのバックミュージシャンに演奏してもらったんです。アヴリルのバックでやっていたり、エンジニアはマドンナと一緒に仕事をしていたり。譜面どおりではなく生きた音になって、6テイクやって、全部違うんですよ。すごくうれしくて、いまでも信じられないですね。マドンナなんて、私にとっては龍みたいに、本当に存在しているかどうかすら分からないレベルの人なので(笑)。 ――この曲は、ななみさんのやりたいことが詰まったものだと。 ななみ:はい!私の思う本当の音を届けたいなと思います。今世に出ている楽曲も素晴らしいんですけど、それとはまた違う音楽を届けられたらなって。

「『世界を変えたい』と思っているんです」

――第一歩として、とても充実した作品だと思います。新曲もできていますか? ななみ:今は120曲くらいストックがあります。1ヵ月に10曲作るという自分内ルールがあって、ディレクターに送って、その中から厳選してもらって、デモをアコースティックで録るというのを毎月やっているんです。どんなに忙しくてもそれはやっています。作ろうと思って作ってはいなくて、ギターを鳴らして、出てくるメロディが曲になって、感じるままに曲を作っています。 ――歌詞については、どんなことを表現していきたいと考えていますか? ななみ:比喩というか、回りくどい言葉よりも素直な言葉で正しいことを言いたいと思っています。テーマとしては、本当だったらかき消したいことかもしれないけれど、私にとっては宝物になっている実体験を活かしていきたいですね。PVでは白いドレスを着ているけれど、「真白い純粋な女の子」というイメージではないし、最初からありのままの自分を隠さないで表現していきたいんです。 ――どんな人にメッセージを伝えたいですか? ななみ:広く聴いてほしいのですが、一番は、自分と似た経験をして悩んでいる人たちです。逆に、勉強が大変とか、卒業前に別れるのは悲しい…とかは、経験してないので何も言えません。同じ経験をしている人にはメッセージを伝えてもいいのかなと思っているので、その世界の人たちには一番に伝えていきたいです。 ――FM大分でのレギュラー番組、大分合同新聞での定期コラムと、地元のメディアから愛されてますね。 ななみ:大分は東京に比べるとすごい田舎なので、ある意味地元の人間の繋がりを大切にするところがありますね。ラジオも新聞も、みなさん優しく応援してくださっています。いろいろなことがあったけれど、地元で仕事があるとすごく楽しみなので、きっと大分が大好きなんだと思います。 ――基本的には、東京ベースで活動していくんですね? ななみ:はい。6月に上京して、人の多さには慣れました。逆に地方に行くと、東京に帰りたいと思ったり。でも、東京に染まりきってしまわないで、意地でも田舎の娘らしさは忘れないでいたいです。東京の優しさも好きなんですが、地元の泥臭い優しさは地元の人間にしか分からないと思うんです。私はそれをなくしたくないし、戻ったときに「ななみちゃん、なんか東京人っぽくなったよね」と言われたくないので(笑)。 ――地元の人からはどんな言葉を? ななみ:ライブハウスの方たちからは「どう最近? どうなの?」って(笑)。Twitterなどで悩んでいると感じさせてしまったときは、すぐに「大丈夫?」って言ってくれたり。娘みたいに思っていた「ななみちゃん」が東京の人たちにもまれて…という風に思ってるみたいです(笑)。 ――最後に、あらためて今後のことをお聞かせください。どんな音楽を伝えていきたいですか? ななみ:普通、「武道館」とか「ドーム」とか、人の作ったものを目標にしてしまうと思うし、もちろん大きな会場でライブもしたいのですが、ずっと言ってきたように「世界を変えたい」と思っているんです。それは「平和」のような壮大なことではなくて、自分がかかわることができる人をひとりでも救えたらなって。自分の成長過程で世界は広くなっていくから、そうやって救える人たちも増えていくと思うんです。 ――曲のテーマも増えそうですね。今後は純然たるラブソングも…? ななみ:たくさんありますよ(笑)。ただ愛は恋愛も家族もあるので、「君」や「あなた」に限りたくないなと思っています。音楽はお金のためにやるものじゃないので、「売れなきゃ」と思ってやっていると嫌になってしまうんです。売れるのは大事なことだけど、そこにとらわれすぎて、本物の部分を忘れたくない。本物の音楽や、本物の人間の気持ちを忘れずに届けていきたいと思います。本物になりたいです。10代は悲しみでしたが、20代はきっと楽しいと思うんです。その中でいろんなことがあると思いますが、強くなれたり、やさしくなれたらいいなと思います。 (取材=神谷弘一/構成=高木智史)
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ななみ『愛が叫んでる』(日本クラウン)

■リリース情報 『愛が叫んでる』 発売:2014年10月8日 価格:¥1,111(税抜) 〈収録曲〉 1.愛が叫んでる 2.巨人のおはなし 3.揚羽蝶 4.愛が叫んでる~Instrumental ver.~ ■「愛が叫んでる」着うた®、着うたフル® 先行配信スタート iTunes https://itunes.apple.com/jp/artist/nanami/id596613552 レコチョク http://recochoku.com/c0/nanami/ ■オフィシャルHP http://73music.jp