
「どんな曲にも必ず良い部分があるし、“それを見つけて、育てる”」(前川)
――新作『大金星』は、人間に対する温かい視線に満ちた、かりゆし58らしいアルバムだと思います。前川さん以外のメンバーも曲作りに参加した『8』(5thアルバム)を経て、さらに音楽性が深まってますよね。 前川真悟(以下、前川):ありがとうございます。アルバムのコンセプトは2月の段階で決まってたんですよ。“自分の近くにいてくれる人の愛しさだったり、大事にしたいという姿勢をそのまま歌にしたい”っていう話をメンバーにして、そのテーマでそれぞれが曲を書いて。ボツ曲がない状態で制作が進んでいったんです。自分たちが組んだスケジュールから遅れることは一度もなかったし、いいペースでしたね、ホントに。 ――制作が順調に進んだのは、どうしてだと思いますか? 前川:それぞれのスキルアップもあるんですけど、いちばんデカいのは(楽曲制作の)取り組み方を変えたことだと思います。まず、俺、(宮平)直樹、(新屋)行裕が曲を書いて、それを持ち寄るんですね。デモのクオリティはいろいろですけど、その場で“これはパッとしない”って捨ててしまうんじゃなくて、1曲1曲、丁寧に育ててみようと思って。以前は30曲も40曲もデモを作って、それをふるいにかけてたんですよ。でも、どんな曲にも必ず良い部分があるし、“それを見つけて、育てる”というふうに作り方を変えたんです。 たとえば“自分の子供をプロ野球選手にしたい”と思ってる親がいるとするじゃないですか。“生まれたときの体重が1800gだったから、フィジカル的に無理”とか、幼稚園くらいで“足が遅いからダメ”って決め付けてしまったら、バットの持ち方も知らないうちに可能性がなくなってしまう。曲作りも同じで、名曲の匂いがしないからって諦めるんじゃなくて、良い部分に目を向けて、育てるほうがいいんじゃないかって。そうすることで、自然とボツ曲がなくなっていったんです。 ――実際、ひとつもボツ曲がなかったんですか? 新屋行裕(以下、新屋):そうですね。最初は13曲入る予定だったんですけど…」 前川:これも初めてだったんですけど、(先行シングル)『Oh!Today』のカップリングに入ってた「フリーなり」をアルバムに入れようって洋貴が言い出して。 中村洋貴(以下、中村):ライブで盛り上がりそうな曲だから、アルバムにも入れておけば、聴いてもらえるかなっていう。あと、今回は久しぶりに沖縄でレコーディングしたんですよ。リズム録りが中心で、あとはギターとコーラスを少し録ったくらいなんですけど、それがすごく良くて。 ――どうして今回、沖縄で録ることになったんですか? 前川:ずっとやりたいって言ってたんですよ、特に(中村)洋貴が。 中村:(笑)気持ち的な問題もあったんですよね。リラックスして録ってみたいっていう。東京だと、どうしてもガチガチになってしまうんで。 前川:いちばん体力を使うのはドラムですからね。洋貴は単身赴任みたいな感じで東京に来てるんですけど、泊まるところがガガガSPさんと同じだったりすることもあって(笑)。まわりの環境も島(沖縄)とは対極だし、そこはやっぱり違いますよね。 新屋:沖縄のスタジオ、(中村)の家にも近かったしな。 中村:リラックスして、いいテイクが録れました(笑)。レコーディングも早かったし。 宮平直樹(以下、宮平):オンとオフをはっきり分けられるんですよね、沖縄は。レコーディングは7時くらいまっで、その後はごはん食べたり、飲みに行ったりして。 中村:けっこう遊んでたもんな(笑)。 前川:行裕がソファで寝てるところを何度も見ました(笑)。ちょうどワールドカップの時期だったし。 新屋:基本的にはリズム録りだけだから、やることがないんですよ(笑)。毎日スポーツバーに行って、サッカー見て…。 前川:一応、スタジオには来るっていう誠意を見せて(笑)。でも、モノづくりを楽しめる環境はいいですよね。「“そもそも、音楽にメッセージなんて必要か?”みたいなことを思って」(前川)
――その空気はCDにも確実に反映されていると思います。 前川:あと、もうひとつ“いいな”と思ってることがあって。このアルバムの4番バッター的な存在になってる「愛を信じてる」は直樹の曲で、俺が“一生大事にしたい”と思ってる「生きてれば良い事あるみたいよ」は行裕の曲なんですよ。 ――「愛を信じてる」は大きな広がりを感じさせるラブソングですね。 宮平:僕はあまり歌詞を書かないので、曲調とかメロディが主なんですけどね。この曲を書いたときは、洋楽っぽくて、デッカイ感じの曲にしたいと思ってました。 前川:直樹はいままで(デモの段階では)メロディを鍵盤で弾いたりしてたんですけど、“何でもいいから、歌詞を書いてみたら”って言ったんです。そのなかに“無限”という言葉があって、それがこの曲のメロディにすごく合ってたんですよね。語感もいいなって思ったし、直樹のデモに秘められていたものが、歌詞にも活かされてるんですよ。こういうふうに真っ直ぐ愛を歌うことを避けてた時期もあったんですけど…。 ――どうしてですか? 前川:“そもそも、音楽にメッセージなんて必要か?”みたいなことを思って。俺がお客さんだったら、母親のことを歌った曲を聴いて、気分が上がるかな? とか。でも、最近は“愛とか夢なんて言ってても、しょうがない”みたいな雰囲気があって、それは良くないなって思ったんですよね。愛や夢でお腹がいっぱいにならないのは確かだけど、それを言うことがファッションみたいになってるというか。だったら、思い切り愛や夢を歌って、突き抜けるほうがカッコいいな、と。 ――なるほど。「生きてれば良い事あるみたいよ」はどんなテーマで制作したんですか? 新屋:勝手に“ACの広告でこういう曲が流れてたらいいだろうな”って(笑)。歌詞を書いているうちに“悩んでいる人が聴いたときに、力になれるような歌にしたい”って思ったんですよね。ライブに来てくれる人もたぶん、いろいろと悩みがあるだろうし、“自分が好きなアーティストのライブに行って、こんなことを歌ってくれたら嬉しいだろうな”と。いちばん、お客さんの立場になって書いた曲かもしれないですね。あとはもう、優さん(プロデュースを担当したBEGINの島袋優)のおかげです。 前川:すごく愛情を持って接してくれるんですよね、優さんは。この曲のギターソロは勝さんと行裕が同時に録ってるんですよ。ブースのドアを開けっ放しにして、“どっちかが間違ったら、もう1回ね”っていう。 新屋:すごくいいレコーディングでした。 前川:しかもこの曲、もともとは行裕が歌うはずだったんです。でも、他の曲の作業をしているときも、ずっとこの曲のことが頭に浮かんでしまって。“一生大事にするから、歌わせてください”って告白したら、“いいよー”って(笑)。 ――アルバム全体を通して、演奏も生き生きしてますよね。 前川:最近、ベースを弾くのが楽しいんですよ。たぶん、他のメンバーも演奏するのが楽しくなってきてると思うんですけど。 中村:確かに最近は楽しいですね。全体のグルーヴも良くなってる気がします。 前川:以前はいろんなことが気になってたんですよね。縦のリズムが揃わないとか、歌うとベースが走る(速くなる)とか。いまは足りないところよりも、良いところを見るようにしてるんですよね。 ――楽曲制作の話にも通じてますね、それは。 前川:そうなんですよね。だから、ヘンにビクビクしなくなってるんですよ。たとえば行裕のギターソロのとき、機材トラブルで音が出なくなったとしても、バッキングだけループさせて場を繋いだり。あと、いきなり直樹に“あとひと回し、ギターソロ弾いて”って無茶ぶりしたりとか。 宮平:ハプニングを楽しめるようになってきました(笑)。「誰かが喜んでくれたときじゃないと、俺らはお金をもらえない」(前川)
――タイトル曲の「大金星」についても聞かせてください。この曲にはラーメン屋を始めた友達の話が出てきますが、最後の「大洋と太陽のBBQパーラー」にも「今度お前に食わせたいラーメンがあるんだ おれの友達がやってる店なんだ」という歌詞がありますね。 前川:その2曲は両方ともホントの話なんですよ。ラーメン屋のほうは兄弟みたいに仲良くしてる大阪の友達なんですけど、もともとは格闘技をやっていて、網膜剥離になってしまったんですね。その後、グレーゾーンの仕事をしてたんだけど、好きな人が出来て、その人といっしょになるためにラーメン屋で修業して、店を始めて。カウンターだけの小さな店なんですけど、開店した年に食べログでラーメン・オブ・ザ・イヤーに選ばれたんですよ。「大洋と太陽のBBQ」は沖縄の友達の話で、アパレル関係の仕事をしてたんだけど、“大量生産で、ただモノを流しているだけの仕事が嫌になった”って言って。お客さんと1対1で向き合える仕事をして、それを子供に見せたい”ってバーベキュー屋を始めたんです。 ――かりゆし58も最初は“人生をまともなものにするために音楽を始めた”って言ってましたよね。 前川:どうにか辞めないで続けてます(笑)。何が大事なのか、分からなくなったこともありますからね。人生をまともにしようと思って始めた音楽なのに、活動が上手くいきはじめると、家族と過ごせる時間が減ってしまったり…。いまは良いバランスでやれてると思いますけどね。 ――独自のポジションを築いてますからね、かりゆし58は。ここ数年はバンドの数も増えて、競争も激しくなってると思うんですけど、いわゆるバンドシーンとは一線を画しているというか。今後のビジョンについては、どんなふうに考えているんですか? 前川:それは“バンドとして、どう階段を上っていくか?”っていうことですよね。ちょうど昨日、そのことをずっと考えていて、朝まで寝れなかったんですよ(笑)。まず、もともとのモチベーションとして“天下を取ってやる”とかは思ってないんですよね。以前、“武道館を目指そう”という話が出たときも、ぜんぜんピンと来ないというか、どうしていいかわからなくなったし。何なら、行裕なんか人前に出るのも苦手ですからね。 新屋:苦手です(笑)。 前川:バンド自体は絶好調なんですよ、いま。曲作りも順調だし、ライブも楽しいし。この状態を続けていくために必要なのは“欲しいものを取りに行く”という姿勢だと思うんですよね。メンバーだけじゃなくて、バンドに関わってくれる人たちにも、それぞれ必要なものがあると思うんですよね。たとえば“来年、車検がある”とか家のローンのこととか、両親が認知症になったとき、良い施設に入れてあげるための頭金を貯めたいとか。それを書き出して、それをペイするためには、どうしたらいいか?って考えるのがいいんじゃないかって。そうすると“じゃあ、何枚くらいCDが売れればいいのか”とか“これくらいの規模のツアーをやって、物販の売り上げはこれくらいで…”っていうのも分かってくるじゃないですか(笑)。 ――すごいですね、それ。バンドと人生が密接しているというか…。前川さんはテレビのバラエティ番組にも出演してますが、あれはやはり、バンドの知名度を上げるため? 前川:というより、“いろんなことにチャレンジしてみよう”というほうが強いですね、最近は。そう思ってからは、テレビに出てもそんなに緊張しなくなったし。 宮平:めっちゃ見てますよ、真悟がテレビに出るときは(笑)。 前川:(笑)最近は自分でも見るようになりましたね。で、“こういうふうに言えば良かったな”って思ったり。もちろん、タレントさんや芸人さんと張り合うつもりはぜんぜんないんですけど、声をかけてもらえるんだったら、真剣にやってみようと思って。 ――なるほど。 前川:しかも、こういうエンターテインメントでもらえるお金って、すごくキレイじゃないですか。誰かが喜んでくれたときじゃないと、俺らはお金をもらえないわけだから。CDを聴いてくれる人、ライブに来てくれる人に喜んでもらうためにがんばって、お金をもらって…。 ――人生が豊かになって。 前川:そんなに素晴らしいことはないなって思うんですよね、ホントに。 (取材・文=森朋之)
かりゆし58『大金星(完全限定初回生産盤)』(Pacific Records)
















