Shiggy Jr.がライブで見せた“末恐ろしさ”ーー穏健なようでラディカルな音楽性とは?

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『Shiggy Jr. presents「なんなんスかこれ。」』でライブを行ったShiggy Jr.。(写真=後藤壮太郎)

【リアルサウンドより】  まだインディーズでミニ・アルバムを2枚リリースしただけなのに、一部の音楽ファンから注目を浴びているShiggy Jr.。シティポップと形容されることの多い彼らだが、その真価とは「ポップミュージック」であることに賭ける過剰なほどの意気込みと、呆気にとられるほどの参照元のてらいのなさだ。2014年11月21日に新代田FEVERで開催された『Shiggy Jr. presents「なんなんスかこれ。」』での彼らのステージは、そう確信させるものだった。  Shiggy Jr.の主催イベントに招かれたのはSANABAGUNとlyrical school。両者ともヒップホップである、という点もShiggy Jr.がジャンルの垣根をあっさり越えていて面白い。  SANABAGUNは、2MCに加えてトランペットとサックスも擁する生バンド編成のグループ。バンドは太いグルーヴを繰り出し、そのサウンドにはレゲエやジャズの要素も。さらにはグループ全体で振り付けを始める場面や、「なんなんスか」というイベント名のコール&レスポンスもあり、ユーモアも操るステージだった。  11月2日のリキッドルームでのワンマンライヴが大成功を収めたlyrical schoolは、台湾公演も経ての凱旋ライヴ。いつものようにまずバックステージで円陣を組む声が響き、そして6人がステージへ。意外だったのは、2曲目から「おいでよ」「わらって.net」「抜け駆け」とメロウな楽曲を並べてきたことだった。それでもフロアの熱はまったく落ちない。前半の意外な選曲は、リキッドルームを経ての自信の表れだったのかもしれない。短いMCを挟んでの後半では、一転して「FRESH!!!」「brand new day」「PRIDE」と今年のシングル曲を並べて、一気に盛りあげた。  lyrical schoolは『PRIDE』でオリコン週間シングルランキング9位を獲得したばかり。lyrical schoolが終わったらフロアの人数が減るのでは……とも気にしていたのだが、多少の入れ替わりこそあれまったく人は減らずに満員のまま。むしろ、Shiggy Jr.のセッティング中にリズム隊が軽く演奏しただけでフロアが盛りあがっていたのだ。開始前からこの異様な昂揚感はなんなのだ、と思いながら私もその空気に同調していた。  今夜は、ヴォーカルの池田智子、ギターの原田茂幸、ベースの森夏彦、ドラムの諸石和馬の4人に加えて、アコースティック・ギター1人、ブラスセクション3人、キーボード2人、コーラス1人を加えた総勢11人からなる大編成だった。  「oh yeah!!」でライヴが始まると、シティポップと呼ばれていたShiggy Jr.を実際に聴いたとき、むしろ「ギターポップ」や「ネオアコ」といった単語を連想したことを思い出した。この日の「oh yeah!!」を締めくくったのはアコースティック・ギターの音。続く「Summer Time」は、一気にテクノ色を強めたアルバム『LISTEN TO THE MUSIC』の収録曲で、ライヴではキーボードを加えて人力テクノを展開しはじめた。「Day Trip」では、いよいよサックス、トロンボーン、トランペットからなるブラスセクションが大活躍。今夜は新代田からデトロイトが見えそうなモータウン風味だ。コーラスとのハモりも心地良く、それは「baby I love you」でも同様だった。「oyasumi」でのギターのうなりかたには、「パワーポップ」という単語も脳裏に浮かぶ。さらにメンバーがステージからフロアを煽り、この光景だけ見るとフェス系のバンドのようだ。
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この日のShiggy Jr.は総勢11人の特別編成で演奏を行った。(写真=後藤壮太郎)

 MCでも触れていたが、Shiggy Jr.は結成してまだほんの2年。結成当初から歌ってきたという「やくそく」では、サウンドの素朴さが現在のShiggy Jr.とのコントラストを浮びあがらせていた。「サンキュー」は、終盤で原田茂幸がヴォーカルを担当するパートにカタルシスのあるミディアム・ナンバー。「おさんぽ」は再びブラスセクションが活躍するソウル風味の楽曲だった。  驚いたのは、現時点での彼らの代表曲ともいえる「LISTEN TO THE MUSIC」で、森夏彦がベースを置いたことだった。テクノに振り切れたこの楽曲にふさわしいともいえる光景だ。「Saturday night to Sunday morning」は、そのメロディーラインの鮮やかさとともに本編ラストを飾ることになった。  フロアの熱気はまったく冷めることはなくアンコールへ。「Dance Floor」はその興奮に応えるかのようなディスコ・ナンバーだった。  そしてアンコールの最後に披露されたのは、なんと小沢健二とスチャダラパーの「今夜はブギーバック」のカヴァー。SANABAGUNの2MCを迎えてのものだった。  私は内心で唖然とした。ここまで書いてきたように、Shiggy Jr.のサウンドは特定の音楽性に縛られたものではない。2013年のアルバム「Shiggy Jr. is not a child.」を聴いたときも、まず印象に残ったのは、原田茂幸の書く楽曲の研ぎ澄まされていてキャッチーなメロディーと、池田智子のヴォーカルの表現力の豊かさという根幹の部分だった。サウンドは多彩でもあるのだが参照元がバラバラで、その極めつけが、アルバム「Listen To The Music」でのサウンドの変化のきっかけがバナナラマやカイリー・ミノーグを聴いたことだった、というエピソードだ。80年代のストック・エイトキン・ウォーターマンによるユーロビートやハイエナジーの影響、という文脈の飛躍っぷりにはある種の困惑も覚えたし、その大胆さこそがShiggy Jr.をShiggy Jr.たらしめていると痛感したほどだ。  そうしたShiggy Jr.のスタイルには、渋谷系という文化を連想せずにはいられなかったが、しかしそんな使い古された言葉を用いるのもいかがなものか……とライヴ中に考えていたところに、最後の最後で叩きつけられたのが「今夜はブギーバック」だった。それは、渋谷系というキーワードを過剰に意識しがちな自分の世代の感覚が軽く打ち壊されるような体験でさえあった。  Shiggy Jr.は正しい。彼らの無自覚な暴力性こそが前世代を乗り越えていくのだ。私は、原田茂幸が山下達郎を好きだという事実と同じぐらい、池田智子がゆらゆら帝国を好きだったものの自分の声には向かないからとポップミュージックへ向かったというエピソードが重要だと考える。そこに彼らのポップミュージックへの献身の理由を見るからだ。見事なまでにキャッチーなメロディーと、一聴して人の耳を引きつけるサウンドを生み出し続けているのは、それがあってこそだろう。そうした資質と才能ゆえに、Shiggy Jr.という存在はシーンの中で一際輝くことになった。彼らは体系性を無視してもまったく問題がない。穏健なようでいてラディカルだ。Shiggy Jr.の今夜のライヴを見て、“末恐ろしい若者たち”と感じてしまったのは、そんな理由からだった。   tofubeatsのEP『ディスコの神様』には、ラブリーサマーちゃんとともに池田智子がコーラスで参加していた。寺嶋由芙のシングル『カンパニュラの憂鬱』でベースを弾いていたのは森夏彦だし、同じく寺嶋由芙のミニ・アルバム『好きがはじまる』に収録されていた「#ゆーふらいと」のリミックスを手掛けていたのは原田茂幸だ。12月2日に発売されるNegiccoのシングル『光のシュプール』のカップリング「1000%の片想い」では、Shiggy Jr.が演奏と編曲を担当している。彼らが日本のポップミュージックのメインストリームに飛び込むのは時間の問題だ。そこで“末恐ろしい若者たち”がまた予想もできない音を聴かせてくれないか。11人編成でのライヴを見てから、そんな期待を抱き続けている。 ■宗像明将 1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter

星野源、サカナクション、READ ALOUD…今だからこそ“ジャケ買い”したいアーティストは?

 音楽配信やストリーミングサービスの台頭により、CDジャケットを見ることが減ったリスナーも多いかもしれない。しかし、ジャケット写真をはじめとしたCDのアートワークには、アーティストの思いが込められていて、芸術的にもすばらしい作品がたくさんある。今回当サイトでは、そのジャケット写真が秀逸なアーティストをピックアップし、今だからこそ“ジャケ買い”したいアーティストを紹介したい。 【リアルサウンドより】  音楽ライターの森朋之氏は“ジャケ買い”の文化や面白みについてこのように解説する。 「“ジャケ買い”とは、CD、レコードなどのジャケットを気に入り、内容を知らないまま購入すること。基本的にはショップに足を運び、CDやレコードをチェックしているときに“お、このジャケット、カッコいい”“かわいい”“おしゃれ”“笑える”“くだらなくて最高”みたいなことで興味を持ち、よく知らないアーティストにも関わらず買ってみるという行為かと。ジャケットのアートワークには、そのアルバムのサウンドのイメージ、コンセプト、アーティストの意図やメッセージが込められているはずなので、ユーザーとしてはジャケットを見ることで、音楽性を想像する楽しさもある。  実際に聴いて“想像とぜんぜん違った”とか“まったく好みではなかった”ということもあるが、それもまたジャケ買いの楽しさ。逆にジャケ買いしたアルバムが良いと“おお、自分のセンスはまちがってなかった”とひとりで優越感に浸れたりして(?)、それも楽しい。もともとデザインが気に入って購入しているわけで、部屋に置いておいてインテリアみたいに使うのもアリかと。個人的に好きなのは、パロディジャケット。たとえば超有名な『ロンドン・コーリング』(ザ・クラッシュ)のジャケットが、実はアルバム『エルヴィス・プレスリー』(‘56年)のデザインとほぼ同じ。そういう発見もCD/レコードの楽しさのひとつですね」  実際に、森氏はジャケ買いで、すばらしいアーティストに出会ったという。 「ジャケ買いして当たりだったCDは、the happy losersというスペインのバンドの『apple taste』、UKのギターバンドfarrahの『Moustache』。いわゆるギターポップ系のバンドは、かわいいジャケが多いです」  洋楽だけではなく、現在の日本の音楽シーンで活躍しているアーティストのなかにもジャケ買いして楽しめるアーティストも多い。そこで、タワーレコード渋谷店 J-POP担当の宇野文美さんにオススメのジャケ買いアーティストを聞いてみた。宇野さん自身も、坂本龍一とクリスチャン・フェネスによるユニット・fennesz+sakamotoの作品『cendre』の美しい風景の写真に惹かれてジャケ買いしたという。

星野源 『ギャグ』

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星野源『ギャグ』(SPEEDSTAR)

 2013年5月発売のシングル。ご自身が声で出演されたアニメ映画『聖☆おにいさん』の主題歌で、楽曲自体がとてもワクワクするようなキャッチーでポップな楽曲です。まずは、その楽しさが一目で伝わってくる黄色のカラー、そして星野源さんを思わせる人物の顔の目・鼻・口の代わりに“G・A・G”! ユーモアや飛び出してくるような楽しさを、この絵が上手く表現していて、誰にも伝わる一枚だと思います。

READ ALOUD 『アカンサス』

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READ ALOUD『アカンサス』(CALLING COMER)

 淡く美しいブルーの中に、よく見たらピストルが。一見、綺麗な絵かと思いきや、実はそれだけでない。nao morigoさんのアートワークが、様々なイマジネーションを駆り立てます。まず、水墨画のアートワークがとても美しい。インパクトのあるジャケットというのは目立つ反面、聴く人を限定する、という側面もあると思います。『アカンサス』のジャケットはそういうところがなく、“なんだろう?”と思って手に取ってみたくなる、間口の広さがあり、さらによく見てみるとピストルという相反する強いモチーフ。ロックを感じることもでき、しかし聴く人を限定しない、多くの人に伝わる、というところにREAD ALOUDらしさも感じました。この『アカンサス』のような、様々な想像を駆り立ててくれるジャケットは、個人的にとても好きです。クワタユウキ × nao morigo(画家) 「アカンサス」スペシャル・インタビュー

サカナクション 『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』

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サカナクション『バッハの旋律を夜に聴いたせいです。』(Victor Entertainment)

 バッハといえば、“音楽の父”であり、ドイツを代表するクラシック作曲家。そして、ドイツはテクノミュージックが盛んな街。表題曲のタイトルのドイツ語表記や、ニューウェーブを想起させるような写真が、曲を表しているようです。

岡村靖幸『彼氏になって優しくなって』

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岡村靖幸『彼氏になって優しくなって』(V4 RECORDS)

 岡村靖幸さんご自身で自分自身を撮った“セルフィーショット”写真。いわゆる“自撮り”なのですが、とてもインパクトがあり目を引きます。岡村ちゃんならでは、ですね。

ペトロールズ 『SIDE BY SIDE』

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ペトロールズ『SIDE BY SIDE』(enn disc)

 長岡亮介、三浦淳悟、河村俊秀からなる3ピースバンド・ペトロールズのシングル。“SIDE BY SIDE=併走”というタイトルが良く分かる絵が、分かりやすく可愛いです。鮮やかなブルーも、バンドサウンドを表しているよう。  宇野さんは最後に、「今はネットや配信などで簡単に音楽が手に入る時代で、それは素晴らしいことだと思います。ただ、ジャケットなどのアートワークを含めたパッケージ、作品を手元に置いておくのも、また一つの音楽の楽しみ方です。データだけでは味わえない、愛着や新たな発見もたくさんCDにありますので、気になったアーティストや作品があれば、ぜひ手にしてみて下さい」と、音楽ファンへのメッセージも語ってくれた。作品世界を音楽とともに深く表現したアートワークもチェックして、すばらしいアーティストと出会ってみてはいかがだろうか。 (文=高木智史)

クレモンティーヌ、小野リサ、中塚武らが提示する、ディズニー音楽の新たな魅力とは?

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ジャズやラテンをベースに、様々な要素がクロスオーバーした独自のサウンドを展開する中塚武。

【リアルサウンドより】  『アナと雪の女王』の主題歌「レット・イット・ゴー」が今年、大きなブームを巻き起こしたように、ディズニー映画を彩る音楽にはポップミュージックとして世界中で広く愛される名曲が数多く、作品の古今を問わず、数多の名カバーが生みだされている。とくにジャズとは相性が良く、2013年10月にはジャズ界の巨匠による名演の数々を収録したCD6枚組のBOX『Disney Jazz Giants Collection』がリリースされるほど、その音源は多い。  そんなディズニー音楽のジャズアレンジの歴史に新たな1ページを加えるのが、11月12日にリリースされた中塚武によるディズニーカバー作品『Disney piano jazz“HAPPINESS”Deluxe Edition』だ。同アルバムには、「美女と野獣」や「レット・イット・ゴー」、「星に願いを」といったディズニー珠玉の名曲21作品を収録、前作『Disney piano jazz“HAPPINESS”』に収録された18曲に、新たに3曲を加えて再リリースした形だ。  中塚自身によるピアノを中心に、佐々木史郎(熱帯JAZZ楽団、BIG HORNS BEE)、中路英明(ex オルケスタ・デ・ラ・ルス、オバタラ・セグンド)など、日本を代表するジャズ界の重鎮から多数の若手ホープのジャズミュージシャンまで参加した同作。中塚のピアノ・ソロがメランコリックに響く「When She Loved Me(トイ・ストーリー2)」や、リズミカルかつスリリングなピアノの上で石川周之介のフルートが舞う「Heigh-Ho(白雪姫)」、めくるめく展開と鋭いホーンセクションに息をのむ高速スウィング「Main Street Electrical Parade(ディズニーランド(R))」、ひょうきんな原曲がブルーなモダンジャズへと驚きの変化を遂げた「Chim Chim Cher-ee(メリーポピンズ)」など、多彩なアレンジで生まれ変わった楽曲群は、ディズニーファンのみならず、耳の肥えた音楽ファンにとっても興味深いものだろう。  特に、中塚自身が「世界の作曲家の中で3本の指に入るほど大好きな作曲家」と評するアラン・メンケン作曲の「Under the Sea(リトル・マーメイド)」は、聴き手の心を掴むメロディの魅力を最大限に活かしながら、コードワークを中塚独自の解釈で捉え直した、いわゆるリ・ハーモナイゼーションを施したピアノ演奏で、楽しげなイメージの同曲に潜むクールな一面を引き出している。ちなみに、アルバム単位でディズニーのジャズアルバムを公式リリースする日本人アーティストは、中塚が初めてだという。  今作をリリースしたウォルト・ディズニー・レコードは、米ウォルト・ディズニー・カンパニーのレーベルで、日本ではエイベックス・エンタテインメントがライセンス契約を結んでおり、これまでにも日本ならではのアプローチでユニークな作品を多数生み出してきた。
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『DCONSTRUCTED -EDM Meets Disney・Pixar-』(WALT DISNEY RECORDS)

 たとえば2005年12月には、『BREAKS & BEATS DISNEY』と題して、ディズニー公認サンプリングによるブレイクビーツ・アルバムをリリース。同作には、ZEEBRAやDJ HASEBEといったヒップホップ界の大御所が参加。アンダーグラウンドなヒップホップシーンで支持されるレーベル・KEMURI PRODUCTIONSが手がけた楽曲をアナログ・カットしたEPは、ヒップホップDJたちの間で人気が高く、いまなお入手困難なほど。2009年よりリリースされているロックコンピ集『DISNEY ROCKS!』はシリーズ化され、曽我部恵一、大橋トリオ、the telephones、Riddim Saunter、OCEANLANE、avengers in sci-fi、→Pia-no-jaC←など、名だたるミュージシャンが名を連ねてきた。最近では、今年6月にダフト・パンクやアヴィーチー、U.N.K.L.E.、そして大沢伸一といった世界的なダンスミュージックのクリエイターを迎えたEDMコンピ集『DCONSTRUCTED -EDM Meets Disney・Pixar-』(日本盤にはボーナス・トラックを2曲追加)をリリースしたことも記憶に新しい。ウォルト・ディズニー・レコードのコンピレーションは、原曲の魅力を活かしつつも、常に新たなミュージシャンを迎え、音楽的にも意欲的な試みを続けてきたのである。
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『Bossa Disney Best』(WALT DISNEY RECORDS)

 中塚のアルバム『Disney piano jazz“HAPPINESS”Deluxe Edition』と同日の11月12日には、ディズニー楽曲をボサノヴァ・カバーした『Bossa Disney Best』もリリース。こちらには小野リサ、ミウシャ、イヴァン・リンス、ジョイスらといったボサノヴァの名手が参加。中でも小野リサが歌う「レット・イット・ゴー」は、注目したい一曲だ。さらに11月26日には、歌手・クレモンティーヌ初のディズニー・オフィシャル・アルバム『CLEMENTINE SINGS Disney』がリリースされる。こちらはディズニーマリー(おしゃれキャット)のために書き下ろされた「パリのお散歩〜ディズニーマリー」や、「レット・イット・ゴー」のフランス語バージョンのほか、大橋トリオが作曲を手がけたミッキーマウス&ミニーマウスのインスパイアソング「2人は小さな恋人」や、リリー・フランキーが作詞を、鈴木慶一が作曲を手がけたドナルドダック&デイジーダックのインスパイアソング「Ma cherie 〜デイジーみたいな君に」など、一流クリエイター陣によるオリジナル楽曲も収録され、洒脱な雰囲気の漂う一枚に仕上がっている。  誰もが耳にしたことがある名曲に、さまざまなクリエイターやミュージシャンの手によって新たな解釈を加えてきたウォルト・ディズニー・レコード。好みの音楽ジャンルで自分に合ったコンピレーションを探してみると、意外な発見があるのではないだろうか。 (文=松田広宣)
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中塚武『Disney piano jazz“HAPPINESS”Deluxe Edition』(WALT DISNEY RECORDS)

■リリース情報 『Disney piano jazz“HAPPINESS”Deluxe Edition』 発売:2014年11月12日(水) 価格:2700円+税 1.小さな世界(ニューヨーク・ワールドフェア) 2.愛を感じて(ライオン・キング) 3.美女と野獣(美女と野獣) 4.メインストリート・エレクトリカル・パレード(ディズニーランド(R)) 5.パート・オブ・ユア・ワールド(リトル・マーメイド) 6.ビビディ・バビディ・ブー(シンデレラ) 7.いつか夢で(眠れる森の美女) 8.レット・イット・ゴー(アナと雪の女王) 9.ホエン・シー・ラヴド・ミー(トイ・ストーリー2) 10.君がいないと(モンスターズ・インク) 11.ハイ・ホー(白雪姫) 12.星に願いを(ピノキオ) 13.スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス(メリーポピンズ) 14.アンダー・ザ・シー(リトル・マーメイド) 15.輝く未来(塔の上のラプンツェル) 16.ホール・ニュー・ワールド(アラジン) 17.チム・チム・チェリー(メリーポピンズ) 18.ふしぎの国のアリス(ふしぎの国のアリス) 19.お砂糖ひとさじで(メリーポピンズ) 20.くまのプーさん(くまのプーさんとハチミツ) 21.レット・イット・ゴー(イン・クリスタル・クリスマス)(アナと雪の女王)
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『CLEMENTINE SINGS Disney』(WALT DISNEY RECORDS)

『CLEMENTINE SINGS Disney』 発売:2014年11月26日(水) 価格:2800円+税 1. パリのお散歩~ディズニーマリー(ディズニーマリー・インスパイアソング) 2. 2人は小さな恋人(ミッキーマウス&ミニーマウス・インスパイアソング) 3. ミッキーマウス・マーチ(ミッキーマウス・クラブ) 4. ビビディ・バビディ・ブー(フランス語バージョン)(シンデレラ) 5. 栗毛色のお姫様(バンビ&ファリーン・インスパイアソング) 6. アンダー・ザ・シー(フランス語バージョン)(リトル・マーメイド) 7. いつか王子樣が(フランス語バージョン)(白雪姫) 8. スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス(フランス語バージョン)(メリーポピンズ) 9. 流れ星のワルツ(レディ&トランプ・インスパイアソング) 10. Ma cherie~デイジーみたいな君に(ドナルドダック&デイジーダック・インスパイアソング) 11. 星に願いを(フランス語バージョン)(ピノキオ) 12. パリのお散歩~ディズニーマリー(フランス語バージョン)(ディズニーマリー・インスパイアソング) 13. レット・イット・ゴー(フランス語バージョン)(アナと雪の女王)

CTSはポップスとダンスミュージックをどう融合? 「日本語の”言葉”の強さは意識してる」

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【リアルサウンドより】  謎のLED覆面ユニット・CTSが、配信限定EP『唯我独尊 ONLY ONE』を11月19日にリリースした。彼らは全員が「覆面」というダフトパンク的なビジュアルを持ちつつ、ダンスミュージックとポップスを独自に融合させた音楽を発信し続けているユニット。ライブでのド派手なレーザー演出や、音と完全同期したクオリティの高い映像パフォーマンスにも定評があり、楽曲は軒並みクラブチャートやiTunes Storeダウンロードチャートで上位にランクインし(今作も早速iTunesダンスチャート1位、総合でも4位を獲得している)、『electrox』から『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』、『SUMMER SONIC』、またテイラー・スウィフトの日本公演のオープニングアクトに抜擢されるなど、ジャンルレスにライブを行い、幅広いリスナーを獲得している。  目を引くビジュアルやキャッチーなエレクトロサウンドが特徴的な同ユニットの魅力について、音楽コンシェルジュのふくりゅう氏は日本文化のエッセンスが効いていると語る。 「CTSは、ゲームやCDJ、シンセサイザーやカオスパッドなどの楽器、妖怪ウォッチや仮面ライダーのベルトのおもちゃなどなど、ガジェット好きな日本ならではの環境が生み出したハイブリッドなアーティストだと思います。ルックスはデジタルな仮面をかぶっていることからダフトパンク的であり、宇宙からやってきた未来人のような雰囲気です。フロアやライブ会場で彼らがSEとともに登場すると、SF映画のワンシーンのようでテンションが上がる(笑)。ライブでは歌うがMCといったMCはせず、取材でもトークはできず、LED特殊マスクに映し出せる「YES」と「NO」の応対のみという、エンタテインメントに徹している3人組ユニットですね。EDM風な快楽ポイントの高い決め所なシンセサウンドを押さえつつも、みんなで合唱できるポップなフレーズや歌詞を積極的に楽曲にとりこむことで、海外ではフェスと融合してカルチャーとして盛り上がっているダンスミュージック文化を、“ポップミュージック”として日本にローカライズしてくれる存在です」  そんな3人が制作した今回の作品は、富士山をバックにした新アーティスト写真や、曼荼羅模様のようなジャケット、渋谷のスクランブル交差点などを闊歩するリリックビデオなど、日本を意識した仕上がりとなっている。ここまで日本向けに舵を切ってきたことには何の意図があるのだろうか。CTSのメンバーたちにメールインタビューを実施した。(インタビューは全員での回答) ――2014年は様々なフェスやライブに出演されたと思いますが、そのなかでも思い出深いステージをその理由と共に教えてください。 CTS:先日10月31日の恵比寿リキッドルームでのハロウィンパーティーは、CTSとして初の主催イベントとして、ファンの皆さんとも特別な一体感を感じた、思い出深いステージです。 ――インドネシア・ジャカルタで行った初の海外公演『Java Sounds Fair』はいかがでしたか。 CTS:国内では得られない多くの経験ができました。CTSの活動の上でのキーワードにもなっている「日本」、「東京」という言葉を海外でライブすることにより、いつもとは違った視点で考え、体験できた非常に良い機会になりました。 ――『唯我独尊 ONLY ONE』に収録されている3曲はより歌モノとしてポップ色が強くなったサウンドだと思いました。改めてCTSのコンセプトと目指すべき目標を教えてください。 CTS:CTSなりのダンスミュージックとポップスの融合を突き詰めていきたいです。ダンスミュージックをルーツにしつつも、良い意味でジャンルやシーンにはとらわれず、CTSの音楽、世界観をよりオーバーグラウンドな所で一人でも多くの人に良い形で届けられたら嬉しいです。 ――新曲で日本的な「唯我独尊」というワードをタイトルに使われた理由を教えてください。 CTS:日本語の美しさ、響き、風情など、独特な日本語の”言葉”の強さは常に意識しています。今回は「みんなちがって、みんないい」というメッセージをダイレクトに楽曲、タイトルに落とし込みました。2曲目の「天真爛漫DAYS」も同様のメッセージを込めており、2つは対になっています。  親しみやすいダンスミュージックでリスナーの支持を広げているCTS。その活躍は、JPOPに代表されるポップシーンと、グローバルなダンスシーンを媒介する役割を果たしていくのかもしれない。 (文=編集部)
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CTS『唯我独尊 ONLY ONE』(ユニバーサル ミュージック)

■リリース情報: 『唯我独尊 ONLY ONE』 発売:2014年11月19日(水) 配信限定リリース <収録内容> 01. 唯我独尊 ONLY ONE 02. 天真爛漫 DAYS 03. KIRALI KANATA 04. 唯我独尊 ONLY ONE (R-Control RMX) Remixed by REMO-CON 05. 唯我独尊 ONLY ONE (ZROQ Remix) 06. 唯我独尊ONLY ONE (Bapjap Remix) 07. 唯我独尊ONLY ONE (Instrumental) 08. Just Bring It (Exclusive Mix)

大原櫻子は“10代の声”をどこまで届けられるか? 音楽市場アナリスト・スタッフの分析

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【リアルサウンドより】  大原櫻子がいよいよ本格的な歌手活動へと踏み出していく。11月26日にリリースされる本人名義での1stソロシングル『サンキュー。』は、そう予感させる力強い楽曲に仕上がっている。以前もリアルサウンドでは、大原櫻子についての記事(「支持層の大半は女子中高生 大原櫻子はなぜ10代の心をとらえたか」)で彼女の魅力を歌詞の面から分析したが、今回は彼女がボーカリストおよびアーティストとして、これからの音楽シーンでどんな存在となっていくかを探りたい。  大原櫻子といえば、まずは映画『カノジョは嘘を愛しすぎている』で5000人を超えるオーディションを経てデビューした際の印象が鮮烈だった。同オーディションでは、音楽プロデューサーの亀田誠治が「彼女の声を聞いた瞬間に、ヒロインはこの子しかいないと確信した」と評価した逸話がある。音楽市場アナリストの臼井 孝氏も、彼女の一番の魅力は歌声にあるという。 「歌詞を見なくても胸に響いてくる歌声が、大原櫻子さんの一番の魅力だと思いますね。これまでにリリースした楽曲はすべて亀田誠治さんによる作詞作曲なのですが、それでも大原さん自身のメッセージとしての説得力がある。万人に支持される歌声の魅力や存在感をもったシンガーが久々に出てきたと思いましたね。アイドル時代の岩崎宏美のように若くして上の年代にも好かれる声だと思います」  一方、大原櫻子を初めて見たときの印象をレーベルスタッフはこのように語る。 「初めて見たのはフジテレビの夏のイベントで、映画『カノジョは嘘を愛しすぎてる』劇中バンド、MUSH&Co.のお披露目ライブでした。その時はお披露目ライブと聞いていたので、正直あまり期待してなかったのですが、いきなり歌声にやられましたね。音程がズレることもなかったですし、高音域も素晴らしいのですが、中音域も凄く出るので、歌声の伸びが非常に気持ちよく聴こえるんです。突然のアンコールもアカペラで対応するなど、とても初めて人前で歌う高校生とは思えない度胸にも惹かれました。しかもその姿が“堂々”と言うよりも“キラキラ”した感じだったことが、より魅かれた理由でしたね」  高い歌唱力だけでなく、そのキャラクターも人気の背景にあると、先述の臼井氏は語る。 「彼女は歌がうまく、アイドル的な要素も持ち合わせているのに嫌味がないというか、妬まれない存在だと思う。『頑張ったっていいんじゃない』というタイトルも親近感を感じさせる彼女のルックスや雰囲気にすごく合っていると思いますね。『カノ嘘』の効果も大きいと思いますけど、それが同世代のファンが多いということにつながっていて、実際に各地のイベントなどでのお客さんの8割が女子中高生とのことです。そこでのひたむきな歌への姿勢がより同世代の共感を得るのだと思います」  また、歌と演技で同時デビューを果たしたことが、彼女の豊かな表現力を支えているとの見方もある。 「歌と演技を共にやってきたことが、ステージ上の表現力にも大きく活きていると思います。演技を含めて多くの舞台に立ってきた結果でしょう。また彼女自身、聞き手に伝えようという強い気持ちも持っています。その点では、映画がヒットした直後に、全国を1人で回って実際に歌声を聴いてもらう機会を持ったのは大きかったと思います。映画を観て、生で歌声を聴いた10代のリスナーたちに彼女の思いが伝わり、その興奮がSNSを介して拡散していきました」(レーベルスタッフ)

大原櫻子 - サンキュー。(Music Video Short ver.)

 今回のシングル『サンキュー。』については、臼井氏は“一緒に歌って共感できる曲“だと分析する。 「『サンキュー。』は当初シンプルな印象もありましたが、彼女自身のバリエーションを広げることになりそうですね。歌詞の覚えやすさは一番な気がしますし、ライブでは一番歌いやすい曲なのかなと。これまでの、聴いて共感する歌ではなく、一緒に歌って共感できる曲を目指したのかなという気がします。亀田さんのことですから、楽曲でいろいろと実験的なことをしていると思うんですけど、個人的にはまだ出ていないバラードの曲が聴いてみたいですね。歌手としてどこまでいけるか楽しみです」  10代リスナーの厚い支持をベースに、彼女はこれから幅広い世代から愛される“国民的シンガー”へと上り詰めていけるか。大原櫻子のポテンシャルがどう開花するか見守っていきたい。 (文=高木智史) ■リリース情報 『サンキュー。』 発売:2014年11月26日 【初回限定盤(CD+DVD)】 VIZL-718 ¥1,500(税抜) 〈収録曲〉 1. サンキュー。 2. オレンジのハッピーハロウィン 3. 頑張ったっていいんじゃない(Acoustic Live ver.)with 制服女子歌い隊 4. サンキュー。(Instrumental) 5. オレンジのハッピーハロウィン(Instrumental) [DVD] サンキュー。(Music Video) 【通常盤】 VICL-36954 ¥1,000(税抜) 〈収録曲〉 1. サンキュー。 2. オレンジのハッピーハロウィン 3. 頑張ったっていいんじゃない(Acoustic Live ver.)with 制服女子歌い隊 4. サンキュー。(Instrumental) 5. オレンジのハッピーハロウィン(Instrumental) 【3939限定盤】 VICL-36998 ¥361(税抜) ※3939枚生産限定 ※一部取扱いの無い店舗もございます 〈収録曲〉 1. サンキュー。 ■ライブ情報 『ニッポン放送開局60周年記念 オールナイトニッポンRadio Live忘れられぬミュージック』 11月28日(金) 神奈川 横浜アリーナ 『Act Against AIDS 2014 LIVE in Centrair』 11月29日(土) 中部国際空港 セントレア 4Fイベントプラザ ※15:00~「SATURDAY GO AROUND」の公開生放送部分へ出演 『FM802 Act Against AIDS SPECIAL FREE-LIVE 2014』 11月30日(日) 心斎橋BIG STEP 大階段 11:00~17:00 『トヨタカローラ福岡 presents FM FUKUOKA“Fukuoka Key(10)Music Fes”in キャナル 12月7日(日) 福岡 キャナルシティ博多B1 サンプラザステージ 『EX THEATER TV Presents COUNTDOWN EX 2014 to 2015』 12月31日(水) 東京 EXシアター六本木 ■GYAO!にて大原櫻子 「サンキュー。」フルMV期間限定公開中 http://bit.ly/1xhGgt5 ■オフィシャルHP http://sakurako-web.com/

土岐麻子×中塚武、特別対談「ジャズの歌を知ることで、ポップスの中でもっと自由になれる」

tokith_.jpg左、中塚武。右、土岐麻子。

【リアルサウンドより】  ソロデビュー10周年を迎え、ジャズをテーマにしたカバーアルバム『STANDARDS in a sentimental mood~土岐麻子ジャズを歌う~』をリリースする土岐麻子と、「美女と野獣」や「レット・イット・ゴー」(「アナと雪の女王」主題歌)などのディズニー楽曲をジャズ・アレンジでカバーした『Disney piano jazz“HAPPINESS”Deluxe Edition』を発表した中塚武との対談が実現した。早稲田大学在学中から交流があり、ポップスとジャズを自由に行き来しながら、質の高い音楽活動を続けているふたり。おたがいのアルバムの制作秘話から、現在の音楽シーンにおけるポップスとジャズの関係まで、刺激的なトークセッションを繰り広げた。

「ジャズは憧れで、いまも手の届かない存在」(土岐)

――中塚さんと土岐さんは「YOUR VOICE」(中塚の3rdアルバム『GIRLS&BOYS』収録)で共演していますね。 中塚武(以下、中塚):はい。2006年だから、8年前ですね。 土岐麻子(以下、土岐):もう8年も経つんですね(笑)。 ――「YOUR VOICE」も当時、“ジャジーな曲”という捉え方をされたと思うのですが、中塚さんはあくまでもポップスとして作られたとか。 中塚:そうですね。土岐ちゃんの歌で、ハッピーな曲を作りたいなと思って。僕はポップスとして作ったんですけど、たぶん、ここ最近でジャズの定義が広がってきたんじゃないですかね。僕らがインディーズの頃、ジャズと言えばいわゆる本格的な“どジャズ”かクラブジャズでした。そのあと、カフェジャズや女子ジャスなども出てきて、“○○ジャズ”がどんどん増えて間口が広がった。あと、「こんなのジャズじゃない」っていう頑固オヤジも減ってきているんじゃないでしょうか(笑)。 土岐:そうかも(笑)。 ――土岐さんは11月19日にスタンダードのカバーを中心にした「STANDARDS in a sentimental mood~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリース。ジャズをテーマにした「STANDRDS」シリーズの新作は久しぶりですね。 土岐:9年ぶりですね。 中塚:え、そんなに経つの? ソロの最初って、「STANDARDS」だよね。 土岐:ソロになって10年なんですよ。だから初心に返る意味もあって、今回は「STANDARDS」を作ってみようかと。音楽的な初心ではなく、活動の初心なんですけどね。 ――どういうことですか? 土岐:これは“たまたま”なんですけど、Cymbalsが解散した後、ソロとして最初に出したのがジャズのアルバムだったんですよね。それが意外にも好評で、3枚立て続けにリリースして。ジャズの人って認識されることもあったから、一時期は避けていたんですけど、振り返ってみたときに「最初のアルバムがなかったら、いま音楽を続けていたかわからなかったな」と思って。あのアルバムをたくさんの人に受け止めてもらったことが自信にもなったし、その後の音楽活動のモチベーションにもつながっていたんですよね。 ――ただ、音楽的なルーツではない? 土岐:そうですね。もともとポップスをやりたかったわけだし、ジャズとは距離を感じているので。憧れというか、手の届かない存在なんですよね、いまも。 中塚:でも、今回のアルバムもすごく良かったよ。ちゃんとコントロールされてる感じがした。 土岐:え、なにが? 中塚:土岐ちゃんの歌はインディーズの頃からずっと好きだったんだけど、今回でネクストレベルに入った感じがしたんだよね。たとえば語尾のニュアンスとか、ベロシティ(速度)とか。マイルス・デイヴィスみたいな感じなんだよね、手触りが。スタンダードを歌ってもハッピーになりすぎず、しっかり抑制されていて。前の3枚とはぜんぜん違うよね。 土岐:確かに録音するときの心持ちは違ってましたね。前の3枚は“驚かし”があったんですよ(笑)。Cymbalsの人がジャズを歌うっていうこと自体もそうなんだけど、センセーショナルなものがほしかったんです。だから「September」(Earth, Wind & Fire)をボサノバ・アレンジにしたり、スタンダード・ナンバーもピアノのリフを繰り返してポップスみたいに聴かせたりして。「この曲をこんなアレンジでやっちゃうんだ?」という意外性ですよね。あとは「ジャズだって、こんなにポップに聴けますよ」ということもやりたかったし…。でも、今回はそれをやらないことにしたんです。もう驚かしたくはないし(笑)、もうちょっと本質的なところに向かってみたくて。 中塚:「STANDARDS」だから、それをやれたのかもね。オリジナルアルバムだったら、もっと考えるでしょ? 土岐:そうですね。さっき中塚さんが言ってたように、ジャズとポップスの垣根がなくなってきたのも大きいと思います。ジャンルで遊ぶのではなくて、いい音楽として聴けるものにしたかったので。 中塚:なるほど。あとね、“小唄”っていう感じもあったんだよね。クールな小唄っていう雰囲気で。 土岐:めっちゃうれしいですね、それは。そういえば前も小唄の話をしましたよね? 中塚:お互い、民謡に興味があるんだよね。 土岐:最近、ライブで熊本民謡の「おてもやん」を歌ってるんですよ。江利チエミさんがあの曲をジャズっぽく歌っているんですけど、それをもとにさせてもらって。 中塚:いいねー! 土岐:今度一緒にやりましょうよ。

「日本人が持っている“おめでたさ”を出した」(中塚)

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2014年4月には活動10周年の締めくくりとして、自身初のベストアルバム『Swinger Song Writer』をリリース。

――中塚さんの音楽にも、日本の民謡からの影響があるんですか? 中塚:無意識に出ていると思います。そういう部分っていちばん大事なところかもしれないと思ってるんです。日本人が舶来のポップスやジャズをやると、どうしてもアイデンティティを見失いがちじゃないですか。でも、民謡のコブシだったり、気質みたいなものには、それがあるんですよね。 ――気質っていうと? 中塚:日本人が持っている“おめでたさ”だったり。たとえば新幹線で(東京から)大阪に行くと、三島あたりでみんなソワソワしてくるじゃないですか。富士山が見たいから(笑)。ああいう“おめでたさ”って、海外の人にはないと思うんです。 土岐:そうかも。何かにかこつけて、お祝いしちゃうとか。 ――中塚さんの新作『Disney piano jazz“HAPPINESS”Deluxe Edition』はディズニーの楽曲をジャズ・アレンジでカバーした作品。ディズニーもジャズもアメリカ文化の象徴と言えるものですが、このアルバムにも日本的な要素が反映されているんでしょうか? 中塚:たぶん、このアルバムを聴くと東京ディズニーリゾートを思い浮かべると思うんですよ。京葉線に乗ってると、ディズニーランドに行く人がコスプレしてたりするじゃないですか。ああいう風景も日本だけの“おめでたさ”ですから。 土岐:そういう視点がこのアルバムにつながってるんですね。おもしろいなー。 中塚:ミュージシャンひとりの名義で、ディズニーのジャズアルバムを作った日本人は今までいなかったらしくて。海外にはいるんですけどね。デューク・エリントンとか、デイヴ・ブルーベックとか。だから、「日本人がやると、こうなるよ」というアルバムにしたくて。かなり好き勝手にやらせてもらいました。 土岐:確かにこのアルバムを聴いてると、ところどころに“おもしろ”が入ってるんですよね。「チム・チム・チェリー」なんて、爆笑しちゃいましたから。 中塚:スモーキーすぎて、煤だらけになってるアレンジだよね。煙突掃除だけに(笑)。 土岐:「これ、どんな解釈?」って。すごくおもしろいと思います。 中塚:海外のミュージシャンだったら、もっとスタイリッシュにするだろうね。 土岐 海外のカバーって、ストレートなものが多いですよね。同じようなアレンジ、同じような歌い方をすることがリスペクトの示し方になってる。私は逆なんですよ。「カバーするんだったら、自分のものにしないと失礼」って思うので。 中塚:わかる。 土岐:ちゃんと自分のものにするためには、すごく突き詰めなくちゃいけないんですけどね。中塚さんのアルバムを聴いていても、すごく考えて作ってるんだろうなって思うし。その場の感じで“ちょいちょい”っていうふうには出来ないでしょ? 中塚:楽をしちゃうと癖になりそうだからね(笑)。 土岐:でも、そういうタイプの方もいるじゃないですか。何も考えないで、ピアノの前に座ってバン!と出てきたものがいちばん良いんだっていう。中塚さんはそうじゃなくて、ひとつひとつに意図があるんですよね。

「どんな局面においても、自分以外のものにはなり得ない」(土岐)

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ソロデビュー10周年のニューアルバム『STANDARDS in a sentimental mood ~土岐麻子ジャズを歌う~』では、細野晴臣とのデュエットも披露している。

――土岐さん、中塚さんはポップスのフィールドで活動されているわけですが、ジャズの要素もかなり入ってますよね。そのバランスはどう取ってるんですか? 土岐:あえてジャンルで考えると、ポップスとジャズでは成り立ちがぜんぜん違うというか。まずポップスは、実際のサイズよりも長い時間をかけて構築するんですよね。曲にもアレンジにも歌い方にもいろんな可能性があるんだけど、そのなかでいちばんいいところに標準を合わせて作り込んでいくというか。ジャズはそうじゃなくて、瞬間の構築だと思うんです。プレイヤー同士の反応によって、2度と同じ演奏は出来ないっていうのが、ジャズのひとつの特徴ですからね。 中塚:そうだね。 土岐:そのなかに奇跡みたいな瞬間があるんですよね。語尾の長さとかニュアンスとか、「いま、ばっちりだったね!」っていう。 中塚:ジャズはDJのバック・トゥ・バックにも近いかもしれないですね。ふたりのDJが同じブースで交互にレコードをかけ合って、興が乗ると朝までやっちゃうっていう。今回の僕の作品ではそういう感じからあえて離れて、もっと決め込んで、作り込んでるんですよ。そういう意味では、映画音楽に近いのかもしれない。 ――ジャズ的な“瞬間の構築”ではない、と。 中塚:ジャズの演奏家は、その場でパッと瞬間的に表現するために日々猛練習してると思うんですよ。ただ、今回のレコーディングの現場では「瞬発力のみでOK」ということは無かったです。やっぱり、ライヴとレコーディングでは判断基準がまったく違うんだと思います。ただ、プレイヤーに関していうと、ホーンの演奏家の皆さんは「ジャズを通ってないと、話にならない」というところがあって。 土岐:そうなんだ。 中塚:日本は吹奏楽のシーンがしっかり存在していて、学生時代にそこでジャズの基本的なイディオムを学ぶんですよね。そのシーンのなかで「あの大学のあいつは凄い」って言われるような人がプロになるんだけど、僕ら作曲家・編曲家としては、そういうジャズのイディオムを通過した人たちが最高に楽しく演奏できるようなスコアを書く技術は、基本中の基本だったりします。 ――歌に関してはどうでしょう? ジャズを通ることで、さらに表現の幅が増すということもありますか? 土岐:ジャズの歌を知ることで、ポップスのなかでももっと自由になれるっていうことはあるかも。ただ、そうなるためには技術、度胸、経験が必要だし、私はまだ獲得できてないと思っていて。だからこそ、ジャズは憧れなんですよね。 中塚:今回のアルバムを聴いてると、歌としての体幹がしっかりしてるなあって。どんなジャンルをやっても、土岐麻子としての軸がブレないというか。歌のインナーマッスルが鍛えられてる(笑)。 土岐:そうだったらうれしいですね~。 ――おふたりともすごく分析的というか、自分の音楽をきちんと言葉に出来るのもすごいと思います。 土岐:どうなんですかね? ただ、自分が何を考えてるか?ということは、よく友達と話すんですよ。最初は単なるグチだったりするんだけど(笑)、最終的には生き方の話になるっていう。恋愛でも仕事でも何でもそうなんだけど、自分が何を考えていて、何を求めているか、どういう人になりたいかということは、どんなことにおいても同じなんだなって。 中塚:そうやって話し込むことは大事だよね。 土岐:そうそう。話してると「また同じところに着地したね」ということも多いし。それはつまり、どんな局面においても、自分以外のものにはなり得ないということだと思うんです。音楽を作るときも「自分以上のことは出来ない」と考えてるので。それは今回のアルバムも同じですね。 中塚:それは感じる。「自分が歌って、それで全部」というか。 土岐:だから、ヘンに緊張しなくなったんですよね。いまの自分以上の歌は歌えないんだから、それでいいっていう。それが歌の体幹ってことなのかもしれないですね。 (取材・文=森朋之/撮影=竹内洋平)
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中塚武『Disney piano jazz“HAPPINESS”Deluxe Edition』(WALT DISNEY RECORDS)

■リリース情報 『Disney piano jazz“HAPPINESS”Deluxe Edition』 発売:2014年11月12日(水) 価格:2700円+税 1.小さな世界(ニューヨーク・ワールドフェア) 2.愛を感じて(ライオン・キング) 3.美女と野獣(美女と野獣) 4.メインストリート・エレクトリカル・パレード(ディズニーランド(R)) 5.パート・オブ・ユア・ワールド(リトル・マーメイド) 6.ビビディ・バビディ・ブー(シンデレラ) 7.いつか夢で(眠れる森の美女) 8.レット・イット・ゴー(アナと雪の女王) 9.ホエン・シー・ラヴド・ミー(トイ・ストーリー2) 10.君がいないと(モンスターズ・インク) 11.ハイ・ホー(白雪姫) 12.星に願いを(ピノキオ) 13.スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス(メリーポピンズ) 14.アンダー・ザ・シー(リトル・マーメイド) 15.輝く未来(塔の上のラプンツェル) 16.ホール・ニュー・ワールド(アラジン) 17.チム・チム・チェリー(メリーポピンズ) 18.ふしぎの国のアリス(ふしぎの国のアリス) 19.お砂糖ひとさじで(メリーポピンズ) 20.くまのプーさん(くまのプーさんとハチミツ) 21.レット・イット・ゴー(イン・クリスタル・クリスマス)(アナと雪の女王)
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土岐麻子『STANDARDS in a sentimental mood ~土岐麻子ジャズを歌う~』(rhythm zone)

『STANDARDS in a sentimental mood ~土岐麻子ジャズを歌う~』 発売:2014年11月19日(水) 価格:3,240円(税込) <CD収録内容> 01.In a Sentimental Mood 02.Round Midnight 03.Stardust 04.Lady Traveler 05.Misty 06.The Look of Love 07.Californication 08.After Dark 09.Smile 10.Christmas in the City (Performed by 土岐麻子 & 細野晴臣) 11.Cheek to Cheek ■ライブ情報 『TOKI ASAKO 10th ODYSSEY ソロデビュー10周年 感謝祭!! どこにも省略なんてなかった3952days』 2014年12月6日(土)ビルボードライブ大阪 2014年12月11日(木)名古屋ブルーノート 2014年12月20日(土)恵比寿The Garden Hall(スペシャル・ゲスト:土岐英史)

Happiness、3年半の活動を経て辿りついた場所 新シングルに見るメンバーの成長とは?

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Happiness『Seek A Light(CD+DVD)』(rhythm zone)

【リアルサウンドより】  2011年4月29日、今はなきSHIBUYA-AXにてHappinessのファースト・ライブを観た。当時のJ-POPシーンでは韓流旋風が吹き荒れており、「ダンスがカッコいい」「サウンドがクール」などとK-POPが注目を集めていたのだが、そのなかで〈EXILEのDNAを受け継ぐガールズパフォーマンスグループ〉として表舞台に立つことになった彼女たち。当時平均年齢15歳のHappinessは未来を期待された鳴り物入りのガールズグループでもあった。キャッチーな歌メロと切れ味の鋭いダンスを全面に出した彼女たちの音楽は、とにかくフレッシュでカッコよかった。  HappinessのCDデビュー曲は『Kiss Me』で、2011年2月にリリースされた。デビュー時は「2011年、要注目のガールズグループ」として話題を集め、その後間もなく、先輩のDream、Happiness、さらにほぼ同期のFlowerを含むガールズ・エンターテイメント・プロジェクト、E-girls(当時の表記はE-Girls)が誕生。同年の春から「E-Girls Show」と題して、全国でライブ・イベントを開始した。  2011年12月、E-girlsは『Celebration!』でCDデビュー。2012年のシングル『Follow Me』で、名実ともに日本を代表するガールズグループへと飛躍。テレビCMへの出演も増え、2013年にはNHK紅白歌合戦にも初出場した。E-girlsという母体があり、そこからさまざまなプロジェクトが生まれていく……という流れとは逆のアプローチで、各グループは活動の幅を拡げていったのである。  2013年には須田アンナ、川本璃がHapinessへ新メンバーとして加入。夏には「Happiness vs Flower」の対決企画という形で武者修行ツアーを行い、8月7日にシングルを同日発売。この時のシングル『Sunshine Dream 〜一度きりの夏〜』はオリコン7位という過去最高位を記録した。年が明け、MIYUUがリーダーとして就任したこと、新たに7人編成のグループとして活動していくことが、2014年春までに伝わってきた。  そして、レコード会社の移籍を経て、彼女たちの音楽は新たに生まれ変わった。5月にはシングル『JUICY LOVE』を発表、そして11月19日には最新シングル『Seek A Light』を発表する。デビュー時から現在まで、いろんな感情を味わってきたであろう彼女たちだが、この2曲ではそういった繊細さも含めて<攻め>のスタンスが貫かれている。ただ単にポップになっているとか、わかりやすいメロディになっているとか、踊りやすいリズムになっているとか、表面的なことではない。内面から涌き上がってくるようなエネルギーが、楽曲に躍動感をもたらしている。今回、本人たちにアンケート取材を行うことができたのだが、この成長ぶりについては彼女たちも実感しているようだ。 「自分たちで作り上げる!という意識が、少し成長したと思います。また作品に対して、メンバー一人ひとりが意見を言うようになりました。スタッフさんやメンバーとたくさんコミュニケーションをとりながらつくっているので、グループの一体感がさらに出てきたなと感じます。パフォーマンス面もパワーアップしたと言われることが多く、うれしいです」(楓) 「ヴォーカル力やパフォーマンス力、そして表現の仕方もすごく大人っぽくなったと思います」(須田アンナ) 「曲に対しての思い入れが強くなりました。今回の曲もどれだけ気持ちを入れられるか試行錯誤しました」(YURINO)  表題曲の「Seek A Light」は、凛々しい歌メロと重層的なハーモニーのバッキングが、絶妙なバランス感を醸し出している。そして、プログラミングでは得られないであろうキラキラした高揚感に満ちあふれているのだ。暗闇で光を探す……というポジティヴかつ深い内容の歌詞は、彼女たち自身と重なるところもあったそう。 「“ヒトリじゃないから”というサビの部分は、まさに自分たちのことを歌っているなと思い、このサビを聴くとグッとくる部分があります」(MIYUU) 「歌詞が個人的に大好きで、自分自身この曲にすごく背中を押されたので、何かに行き詰まった時に聴いていただけたらいいなと思います」(須田アンナ)  そんなHappinessの歌を共有できる場所がライブだ。キャッチーでタフでカッコいい彼女たちのポップ・ミュージックを、もっと多くの人に体感してもらいたいし、そういう意味では単独のコンサートも期待したい。そんな彼女たちがステージでパフォーマンスしている時、いちばん楽しいと思う瞬間をきいてみた。 「ファンの方に私たちの思いが届く時」(藤井夏恋) 「ファンの方々と目が合い、喜んでくださった時。私まですごく幸せになります! いつもありがとうございます♡」(川本 璃) 「みんなで気持ちがひとつになっているなぁと感じる瞬間。私たちの思いが伝わり、ファンの皆様が拍手であたたかく応援してくださっている様子を見た時」(SAYAKA)  今回、カップリングには記念すべきデビュー曲「Kiss Me」の2014年バージョンが収録されている。デビュー時のフレッシュな印象とは異なり、歌詞の一つひとつに実感が込められていて、とても素敵なR&B/ポップスに仕上がっている。光も影も両方知っているからこそ体現できる深み。デビュー時は<K−POPへの日本からの回答>という役割を担っていた部分もあると思うが、気づけば今ではJ-POPの王道として認知されつつある(YouTubeのコメント欄は海外からのものも多い)。この3年半の歩みは、Happinessが「みんなをハッピーにする」ための必然的な道のりだったとも言える。そう、ムダなことなんて何ひとつないのだ。 ■上野拓朗 エディター。『リズム&ドラム・マガジン』『CROSSBEAT』『ローリングストーン日本版』を渡り歩き、現在はPOKER FACEのプロデュースと制作を行いながら、FLJ magazineでも編集協力として携わっている。

アイドルがアイドルを辞めるときーー姫乃たまが“卒業”を考える

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地下アイドルとして活動しながら、ライターとしても注目を集める姫乃たま。

【リアルサウンドより】  近年のアイドルブームはグループアイドルが中心のため、引退というと解散に伴うものか、スキャンダル発覚による脱退など、グループの都合によるイメージを持たれがちです。しかし、ソロアイドルとしてフリーランスで活動している私の周りには、グループアイドル全盛の中で活動するソロのアイドルが多く集まっています。  彼女たちのほとんどはフリーランスか、物販やライブ時の撮影を任せているスタッフがいるだけです。ステージでのパフォーマンスを含め、活動に関することは基本的に全て本人が決めています。そのため、彼女たちは他人の都合によって引退することがありません。彼女たちがアイドルを辞めようと決意するのは、アイドル活動ではなく私生活に転機が訪れた時でしょう。  16歳で地下アイドル活動を始めた私が、最初に辞めようとはっきり思ったのは18歳の時でした。高校を卒業する直前のことです。地下アイドルの自分が、私生活の自分と乖離していったことが原因だったと思います。地下アイドルの自分を自分だと思えなかったのです。いまはあの頃の気持ちをはっきりと思い出せないのですが、地下アイドルの自分はどこか違うところで生活している他人のように感じていました。  ただの高校生が、ある日急に舞台で歌うようになって、自分のことじゃないように感じるのも仕方がなかったと思います。こう書くと夢のある話のようですが、実際には技術がないまま人前に立つのは苦痛でした。  結局、様々なきっかけが重なって、数か月の活動休止の後に活動を再開することに決めました。現在の姫乃たまという名前に改名して、私生活では大学に進学し、公私共に新たなスタートを迎えたのです。改名後はライブだけでなく、文章を書く機会が増えたり、生まれ育った街の行事に司会で呼ばれたりと、私生活の自分に近い仕事が増えたことで、地下アイドルの自分を徐々に受け入れられるようになりました。  そうしてやっと地下アイドルとはどういうものなのか、真剣に考えるようになったのです。地下アイドルである自分のことを、他人のように切り離して活動きたせいで、まともに考えたことがなかったのです。活動を再開してから今日までの大学四年間は、地下アイドルとは何なのかを考える期間だったように思います。  そもそもメジャー、インディーズ問わず、アイドル活動をしている子の多くは、アイドルが最終目標ではありません。周囲のソロアイドルの子も、最終的には声優や歌手になりたいという子がほとんどです。今年の『 AKB48じゃんけん大会公式ガイドブック2014』にも、ずらりと並んだメンバーの写真の隣に、女優になりたい、タレントになりたいという手書きの文字が多く見受けられました。アイドルとは途中経過の職業なのです。  私は地下アイドルを経験することによって、こうした文章や、モデルの仕事をさせてもらえるようになりました。自分の能力を考えると、いきなりライターやモデルになることは不可能です。何の能力も技術もないのは今も変わりませんが、唯一、人に何かを披露することには慣れました。何年か地下アイドルとしてライブ活動を積み重ねてきた結果だと思います。  他の職業への途中経過であり入門であるという点で、アイドルは大学に似ているなあと思います。大学に通いながら、地下アイドルとは何なのか考えていたせいかもしれません。  最終目標の声優や女優になった時がアイドルからの卒業だと考えると、私生活を見直すための活動休止は大学でいう休学という感じでしょうか。様々な分野の職業について学びながら、興味の深いものは実習したり研究したりして、最終的な就職、進路先を見つける大学生の姿はアイドルに似ています。  中でもやはり卒業は大きな節目で、希望の職業に就けた場合はいいですが、そのまま辞めていく人も多くいます。私も高校卒業の節目に地下アイドルを辞めようと決めましたが、再びあっという間に大学卒業の年になりました。そういえば周囲のアイドルでも長期間、活動を続けている人は、生活が安定している人が多いなあと最近よく思います。  イベントまで足を運んでくださる熱心なアイドルファンの方々は、そのことによく気づいているようです。学生のアイドルを応援している方は年度末になると、そわそわしているのを見かけます。私もここ数か月ファンの方から、なんとなくそわそわした雰囲気をよく感じるのです。  まだ来年度からの自分がどうなるかわかりません。しかし、本来なら自分とは何かを考える年齢を、地下アイドルとは何かを考える期間に充ててしまったため、地下アイドルは自分から切り離せないテーマになっています。このまま永遠に猶予期間を過ごすのは怖いですが、次は苦痛が原因ではない、最高のアイドルからの卒業を考えたいと思います。 ■姫乃たま 1993年2月12日下北沢生まれ。日本の地下アイドル。2009年より都内でライブをする傍ら、ライターとしても活動を開始。イベントの主催や、司会、モデルとしても活躍している。全曲ボーカルで参加した宅録ユニットFriendlySpoonの『フレスプのファーストアルバム』絶賛発売中。 Twitter 姫乃たまのあしたまにゃーな 地下アイドル姫乃たまの恥ずかしいブログ

ゲスの極み乙女。の音楽は、なぜ尖っているのに気持ちいい? 現役ミュージシャンが曲の構成を分析

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ゲスの極み乙女。『魅力がすごいよ(初回限定魅力的なプライス盤)』(ワーナーミュージック・ジャパン)

【リアルサウンドより】  最近注目を集めているゲスの極み乙女。の楽曲は、インディーズのロックバンドのような、J-POPのフォーマットに当てはまらないエキセントリックな面と、メジャーシーンで活躍できる聴きやすいキャッチーな面を同時に持っており、「尖っていて攻撃的だけれど気持ちよく聴ける」といった印象を受けます。今回はそれがどのような音楽的な特徴によって表現されているか、ということを分析したいと思います。  わかりやすい特徴を羅列していくと、まずサビは非常に聴きやすくキャッチーです。また、メンバーの個性や演奏技術などがよく話題になりますが、編成自体はドラム、ベース、鍵盤、ギター&ボーカルという4人ですから、サウンド的にはスタンダードでリスナーにとって今まで聞いたことがないような音ではないはずです。しかしそのスタンダードなサウンドで、聞きやすいのに聞いたことがないような音を出しているのが彼らのアレンジとアンサンブルの面白いところです。また、エキセントリックな部分、非J-POP的な特徴は何と言ってもその楽曲構成にあります。ポイントとしては、セクションごとの変化が激しい、セクション内での動きが少ない、という2点です。そして先ほど言ったように定番のパート編成からなる彼らのサウンドが、アンサンブルという点では独特で尖った特徴を持っています。それを具体的に見ていくには、キュレーションマガジン「Antenna」のCMソング『パラレルスペック』が良い例です。この曲はそれらの特徴を概ね全て持っています。

めまぐるしい展開とキャッチーなサビの関係

 イントロでは、解放感のあるピアノフレーズから始まって一転、とらえどころのないフワフワしたピアノにベースがスラップしまくる展開で、そのままAメロのラップに入ります。それをもう一度繰り返した後、ロックなキメを挟み、サビで大団円、というような1コーラスになっています。聴き手としては、非常に目まぐるしい場面展開にグイグイ引っ張られるままに、流麗なサビで気持ちよく流されてしまう、といった感覚ではないでしょうか。  順番に見ていくと、歌のメロディがキャッチーであることは聴いての通りですが、面白いのは歌のメロディの譜割りです。「雨にま『で』流され『て』」というように、『』が小節の1拍目ですから、基本的にフレーズの最後の音が1拍目ということになります。このように小節の始まりより前にメロディが始まることをアウフタクトと言って、『魅力がすごいよ』と『みんなノーマル』という2枚のアルバムのうち、半分以上の曲でサビでそれが用いられており、川谷絵音さんの定番の作曲手法と言えます。ではそれがどういう効果を生んでいるのかというと、簡単に言えば「インパクト」です。小節の始まりより前からメロディが始まるということは、サビの歌い出しにおいてはボーカルだけ先にセクションチェンジしてサビに入って、後からサウンドがついてくる、ということになります。この曲のようにそれまでがラップスタイルだと、サビに先立って歌のメロディが流れることになり、ボーカルがメロディを持っていることの美しさと、「これからサビですよ」というセクションの変化が強調されます。これは後で書く楽曲構成の特徴と関係してきますが、メロディはコードに則して作られているので、当然その前のセクションのコードが違う場合はメロディとコードがちぐはぐになります。それを解決するには、そこだけコードをメロディに合わせるか、もっと単純に、コードを弾かないか、のどちらかです。『パラレルスペック』では、サビの前でバンド全体がブレイクします。それによって、よりセクションの変化が強調されています。  また、これも後ほど補足しますが、サビのコードはかなり王道のポップな進行が使われています。この曲の場合はChicagoの『Saturday In The Park』とほとんど同じで、王道中の王道です。サビできれいなコード進行を使うのは歌ものとして真っ当ですが、注目したいのはそれ以外のセクションのコード進行です。主だったセクションのコードは以下のようになっていて、サビ以外はすごくマニアックなコード進行をしています。 イントロ & A (キーはB) | G#m7/C# | E/F# Eb/F D/E | B (キーはBb) | Gm7 | Gm7 | Eb/F | Eb/F | | Gm7 | Gm7 | Eb/F | D/C | C (キーはF) | Gm7 | C7 | FM7 | Dm7 |  このような、サビでのメロディの特徴とコード進行のギャップに共通しているのは、単にサビがキャッチーできれいであるか、ということとは別に、曲の中でサビがサビであることを強調している、ということです。逆に言えば、サビがキャッチーで「すごくサビっぽい感じ」なのは、他のセクションとのギャップ、相対化によって生まれている、ということが言えます。  そこで、他のセクションとのギャップがサビをサビらしくしているという意味で、全体的にこの曲を見ていくと、その構成の特徴が見えてきます。まず、セクションごとの変化の激しさ、という点では、そもそもセクションが変わるたびに転調しており、メロディ的なつながりも含めて雰囲気に共通点の方が少ないくらいです。コードに関して注目していただきたいのはAメロとサビのコード進行の違いです。Aメロはジャズで使われる複雑な分数コードの進行です。それに対して、サビのコード進行は先ほど言ったように極めて王道のポップな進行です。不安定な進行が続いたからこそサビの王道進行で盛り上がる、という効果と、本来ひとつの曲の中で同居しそうにないような雰囲気の違うコード進行が並ぶことで、曲の展開が非常に独特でダイナミックになります。

サンプリングミュージックを生バンドで演奏

 展開の激しさ、という意味でもうひとつ挙げたい特徴は、サビの後の展開です。3回サビがありますが、サビの後でサビの雰囲気を引き継ぐ展開は一度もありません。それまでのセクションチェンジと同様に、唐突にまったくつながりのない展開が始まります。多くの歌ものでは、コード進行が同じかどうかはともかくサビの後はその雰囲気を引き継いだものになるか、Aメロに戻ります。この曲でも最初のサビの後のセクションはコード進行としてはイントロやAメロと同じですが、そもそも雰囲気がすごく違うので唐突な印象を受けますし、その後に始まる歌はAメロとはまた別のものです。さらに2度め、3度めのサビの後に至っては、それまでまったく出てこなかった展開が続きます。その意味で、この曲は「起承転結」ではなく「転転結転」といったような楽曲構成になっています。ここまで過激にではありませんが、これは他の楽曲にも共通する特徴で、比較的歌もの寄りな「デジタルモグラ」「猟奇的なキスを私にして」などでも、サビの後は、サビとは雰囲気の違うイントロに何の未練もなく戻ります。  このゲスの極み乙女。の楽曲の特徴は、ふたつの点から捉えることができます。ひとつはサンプリングミュージック的である、ということです。先ほどのコード進行表を見ていただければわかりますが、セクション間の関係は突拍子もない程変化していますが、ひとつのセクション自体は基本的に2-4小節のループでできています。冒頭に書いた「セクション内での動きが少ない」というのはこのことで、これも多くの曲に共通する特徴です。このような構造は、物語性や叙情性のつながりを重視する日本の歌謡曲とは違い、ループ性を重視するダンスミュージックの特徴と似通っています。さらに細かく言えば、「クールなものはとりあえず何でもサンプリングして詰め込む」といった姿勢の、サンプリングネタのループを中心に楽曲が構成されているようなヒップホップの構造です。編成はごく普通の4人バンドで、そのサウンド的なアプローチも、広い意味でロックバンド的なものですが、楽曲構造の点において彼らはいわゆるロックバンド、ポップ・グループといったものとは違う音楽性を表現しています。  それが結果的にどのような表現になっているか、ということがふたつめの点です。徹底してサビの進行を繰り返さない、というとこに特に表れていますが、曲全体が単一の感情にのめり込んで進むことなく、ときに感情的であったり覚めた感覚を持っていたりする僕達の日常と同じように、ひとつのテーマに対して多角的な表現がなされています。音楽的には、サビを強調し、どれだけキャッチーなセクションにしても、他のセクションでそれを引きずらないので、ありふれた陳腐なものにはなりませんから、かえって王道的なものを持ってくることができます。  短い言葉でまとめると「大きな変化による大きな相対化」ということになりますが、『パラレルスペック』のように、曲として成立するギリギリまで極端にすることは、単に「脈絡がない」ということになってしまう危険もあり、理論的に考えてどうこう、というレベルとは一段違う、非常に難しいことです。サンプリングミュージックの特徴でもありますが、曲としてのメロディ的な全体像やつながりによって快楽を演出するのでない場合には、ストーリー性ではなく、ひとつひとつの瞬間、ひとつひとつのネタが単純に気持よくなければなりません。

ピアノの不思議な立ち位置

 ストーリー性よりも「単純に今流れている音がかっこいいか」を重視しているという点において、シンプルな編成ながら彼らのアンサンブルの有り様は独特です。まず、一際耳を引くちゃんMARIさんのピアノに焦点を当てます。特にミニアルバム『みんなノーマル』は、彼女のピアノを前面に出しつつ、しかし「ピアノバンド」とは全く感じない不思議なサウンドデザインでした。  ピアノは、広い音域をカバーし、複雑な和音もきれいに表現しやすい万能楽器ですが、万能であるがゆえに、バンドの中での扱いがなかなか難しい楽器でもあります。目一杯弾くと必ず他のパートと干渉し、かといって、限定的に弾くと本来のピアノの良さを活かしきれず、「ピアノのピアノらしいダイナミズムを活かしながらバンドとも共存している」というトラックにはあまりお目にかかれません。その意味で、ちゃんMARIさんがあくまで「ガンガン弾きまくっている」ように聞こえるのに、バンドとしても一貫性がある彼らのトラックは希少です。  彼女のピアノを独特なものにしているのはプレイそのものと、ベーシックトラックから離れたソリスト的、飛び道具的な場所にいる立ち位置です。まず彼女自身のプレイの特徴としてはまず、聴く人の「ピアノってこういう感じでしょ」という予想を常に少し上回る、耳を釘付けにするフレーズを弾ける単純な技術力と発想力があります。『みんなノーマル』の多くの曲で見せているとおりですし、『魅力がすごいよ』の『ラスカ』のAメロのように、歌の邪魔をせずに、しかし自分も裏方に回ることなく弾き切れます。次に、クラシックなどの有名なフレーズを巧みに織り交ぜる、あるいはごっそり持ってくるというサンプリング的な手法(例:『列車クラシックさん』のラヴェルの『水の戯れ』、『サリーマリー』のショパンの『子犬のワルツ』を短調にアレンジなど)を多用するので、意外と耳に馴染みが良いことです。このあたりは、少し先ほどの楽曲の構成とも関係します。ギターは、何を弾いても「ギターの味」というものを持っている楽器ですが、ピアノは和音の構成がシンプルなものを弾くと耳に残らないほどさっぱりと鳴ってしまいます。だからこそ、サビ以外のセクションで複雑なコードやフレーズを駆使しているのには、ピアノが単に「耳馴染みの良い便利な道具」に収まらずに主張する上で非常に効果的です。クラシックの名フレーズを混ぜ込むことは、ポップスとは違う意味で聞きやすさを持っているものを提示することになるので、複雑なことをした分、聴き手から遠いものになってしまうことを防ぎ、絶妙な距離感を保っています。  そして、バンドのアンサンブルの中でちゃんMARIさんのピアノが飛び道具的な位置にいることができるのには、ベースの休日課長さんの存在が大きいでしょう。彼はベーシストとして万能型で、どちらかというと自分のプレイを前に出すタイプですが、フレーズが変わってもグルーブ感がブレないこと、自分のプレイをすると同時に、隙間の開け方やコード感の強調具合で周りを活かすこともできるので、楽曲全体の鍵を握っています。特にちゃんMARIさんが印象的なフレーズを弾くときに、休日課長さんがコードを強く出せばちゃんMARIさんのフレーズは曲に馴染み、『パラレルスペック』のイントロのように彼が高音で動けば、コード感が希薄になり相対的にちゃんMARIさんのフレーズは曲から離れた位置に浮かび上がります。また、先程説明したように楽曲全体としてもセクションごとのオンオフがはっきりしておりループ構造なので、ピアノにせよベースにせよ、いつでも飛び出していつでも止められることも大きいです。  また、これだけ激しく展開が移り変わる楽曲の中で、リズムに一貫性がなければ気持ちよく聴くことはできません。音源だけでドラムプレイを判断するのは難しいですが、ほな・いこかさんのプレイは比較的ストレートな、伸び伸びしたタイプに聞こえます。ちゃんMARIさんのピアノや川谷さんのラップなど、いわゆるウワモノのリズム的な出入りが激しいアンサンブルの中にあって彼女のドラムが埋もれずに、伸びやかにビートをリードしているように聞こえるのも、やはり休日課長さんが彼女のリズム的なキモを逃さずに、ドラムを活かす位置に音を入れているからです。その点で、リズム隊の2人が一貫性のあるグルーヴを出し続けていることが、彼らの楽曲をひとつの曲として成立させている大前提であると言えます。  楽曲の構造にせよ、サウンドとアンサンブルにせよ、おそらく彼らはかなりの部分で感覚的にやっているはずです。何故ならば、ここまでで指摘した彼らの特徴は、ひとつひとつを「こうだからこう」と因果関係で結びつけていくには多面的過ぎるし、相互作用の関係が複雑過ぎるからです。それぞれが目的論的に生み出されたわけではなく、各パート、各セクション、各アレンジが、単純に、「これカッコいい!」というものを集めてできている、つまりそれぞれに生きているからこそ、尖った要素をはらんだまま楽曲が成立しているのでしょう。  以前、織田哲郎さんがインタビュー(参考:「ポップの本質は一発芸だ」J-POPを創った男=織田哲郎が明かす“ヒットの秘密”)で「聞き心地を良くすることがポップだと勘違いされがちだけれど、一発で人を振り向かせる瞬間芸こそがポップなんだ」と言っていました。ゲスの極み乙女。の音楽を聴くとその言葉を思い出します。 参考1:aikoのメロディはなぜ心に残る? ミュージシャンが楽曲の“仕組み”をズバリ分析 参考2:サザン桑田佳祐の名曲はなぜ切ない? ミュージシャンが"歌う和音"と"シンコペーション"を分析 参考3:中田ヤスタカはいかにしてエレクトロとJPOPを融合したか “緻密な展開力”と“遊び心”を分析 参考4:モーニング娘。楽曲の進化史ーーメロディとリズムを自在に操る、つんく♂の作曲法を分析 参考5:ユーミンのメロディはなぜ美しく響くのか 現役ミュージシャンが“和音進行”を分析 参考6:小室哲哉はJPOPのリズムをどう変えたか 現役ミュージシャンが「TKサウンド」を分析 参考7:スピッツのメロディはなぜ美しい? 現役ミュージシャンが名曲の構造を分析 参考8:BUMP OF CHICKENの曲はなぜ感情を揺さぶる? ボーカルの特性と楽曲の構造から分析 ■小林郁太 東京で活動するバンド、トレモロイドでictarzとしてシンセサイザーを担当。 ブログ トレモロイドHP Twitter

『テラスハウス』卒業メンバーの新作が同時リリース chayと住岡梨奈の音楽性はどう変化した?

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chay『Wishes(通常盤) 』(ワーナーミュージック・ジャパン)

【リアルサウンドより】  10月末をもって終了したテレビ番組『テラスハウス』(フジテレビ系)。その卒業メンバーである永谷真絵ことchayのシングル『Wishes』と、住岡梨奈のアルバム『watchword』が11月12日にリリースされた。  『テラスハウス』出演前からメジャーアーティストとして活躍し、今年の1月(住岡)と3月(chay)に卒業した2人だが、リリースが同日になるのは今回が初めて。それぞれシングル・アルバムと形態が違うために真っ向勝負とはならないが、チャートの順位にも注目が集まるところだろう。  そこで今回は、彼女たちの新作をこれまでの作品と比較し、それぞれの特徴を分析。成長した部分や注目ポイントを紹介したい。

ファッションアイコンへと変貌を遂げたchayの“モデル路線”

 chayが最新作『Wishes』や、これまでリリースしてきた楽曲には、後述する住岡との違いがいくつかある。80年代のポップスや洋楽(特にシンディー・ローパー好きを公言している)をルーツに持つ彼女の楽曲は、どこかレーベルメイトの山下達郎や竹内まりやからの影響を感じさせる部分があり、特にその傾向が顕著だったのがデビューシングルの「はじめての気持ち」だった(実際にchayはこの2人のPVに出演したり、山下の楽曲をカバーしている)。  chayは今年の5月からはファッション雑誌『CanCam』に登場、専属モデルとしての活躍も目立つ。ちなみに新作の『Wishes』は、初回限定盤の1000枚限定で『CanCam』とのコラボレーションフォトブックに加えて、「c­hayデザインちっちゃいポーチ」が付録になるといった驚きの特典で話題になっている。楽曲もテラスハウス在籍時にリリースした2ndシングル『I am』からその傾向が変化していく。歌詞の中に英語が多く登場するほか、曲調もギターの弾き語り路線から、オケを前面に出して壮大なスケール感を演出し、前向きなポップソングを歌うようになった。  おそらくこの変化は、自ら作詞・作曲を手掛けるchayが、『テラスハウス』という媒介を通して広く世間に知られることになったゆえの心境の移り変わりによるところが大きい。タイミング的にそう遠くない時期にリリースされるであろう1stフルアルバムには、前向きなシングル表題曲が収録されるのは間違いないが、アルバム曲には彼女の本質である80'sポップ的な楽曲が収録されるのか、という部分にも注目したい。

シングルでは勝負に出た住岡梨奈、アルバム曲で新境地へ

 わが道を邁進し続けるchayと比べ、住岡のアルバム『watchword』は、「言葉にしたいんだ」や「マイフレンド」など、『テラスハウス』と結びつきの強いシングル表題曲があるものの、どちらかといえば自身の苦悩や葛藤を盤石の制作陣の手助けを借りて表現した一作といえる。  1stフルアルバム『ツムギウタ』でプロデューサー・アレンジャーとして活躍した堂島孝平を引き続き制作陣の軸に据えつつ、名越由貴夫や上田健司、Ex.BEAT CRUSADERSのクボタマサヒコ、カトウタロウ、マシータや、100sの玉田豊夢&山口寛雄コンビなど、気心の知れた腕利きが揃う。さらに藤井敬之(音速ライン)、末光篤、たむらぱん(田村歩美名義で参加)、津野米咲(赤い公園)、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)といったミュージシャン勢の楽曲提供やプロデュースも加わり、同作が“住岡梨奈”という一人のシンガーを彩る実験作のように思えてくる。  しかし、そこを実験作で終わらせないのが住岡の地力といったところか。アルバム全11曲中の5曲に自身が作詞・作曲の両方を務めた楽曲があり、そのなかでも「moyamoya」と「カラフル・モノクローム」が作品の核となっているように思える。上田健司をプロデューサーに据え、名越由貴夫・高野勲・小関純匡といったベテランを迎えた「moyamoya」には、<もっときっとでっかくなって この声で歌えるように>といった自身の苦悩や葛藤を吐き出した素の住岡が垣間見えた。それと対比させるかのように、アルバムのラストを飾る「カラフル・モノクローム」は、ハマ・オカモト(OKAMOTO'S)がプロデューサーとして参加。津野米咲(赤い公園)、神谷洵平(赤い靴)、長岡亮介(ペトロールズ)をレコーディングに迎えるなど、若手~中堅どころの実力者を集めている(どちらもベーシストがプロデューサーである)。住岡もマイペースな進行で、一聴すると優しいバラードに聴こえる同曲に<どこにも行く宛なんかない>や<そのうち捨てられるんでしょう>と独白のような一節を込めつつ、曲の最後では<叶えてよ>と呟くような歌声でアルバムを締めくくり、。  ベテランに支えられて“過去と今”を振り返る「moyamoya」と、若手ミュージシャンたちと“これから”を歌う「カラフル・モノクローム」の2曲で締めくくった住岡渾身の一作。これらをキュートな“りなてぃ”が好きなファンがどう受け止めるのか楽しみだ。  番組も終了し、これからはいわゆる“テラハファン”以外の層へ広く届けることが求められる2人。住岡とchay、路線や系統は違うが、同番組から輩出された同世代のシンガーとして、これからもJ-POPシーンの中で切磋琢磨し続けるだろう。 (文=中村拓海)