
左、中塚武。右、土岐麻子。
【リアルサウンドより】
ソロデビュー10周年を迎え、ジャズをテーマにしたカバーアルバム『STANDARDS in a sentimental mood~土岐麻子ジャズを歌う~』をリリースする土岐麻子と、「美女と野獣」や「レット・イット・ゴー」(「アナと雪の女王」主題歌)などのディズニー楽曲をジャズ・アレンジでカバーした『Disney piano jazz“HAPPINESS”Deluxe Edition』を発表した中塚武との対談が実現した。早稲田大学在学中から交流があり、ポップスとジャズを自由に行き来しながら、質の高い音楽活動を続けているふたり。おたがいのアルバムの制作秘話から、現在の音楽シーンにおけるポップスとジャズの関係まで、刺激的なトークセッションを繰り広げた。
「ジャズは憧れで、いまも手の届かない存在」(土岐)
――中塚さんと土岐さんは「YOUR VOICE」(中塚の3rdアルバム『GIRLS&BOYS』収録)で共演していますね。
中塚武(以下、中塚):はい。2006年だから、8年前ですね。
土岐麻子(以下、土岐):もう8年も経つんですね(笑)。
――「YOUR VOICE」も当時、“ジャジーな曲”という捉え方をされたと思うのですが、中塚さんはあくまでもポップスとして作られたとか。
中塚:そうですね。土岐ちゃんの歌で、ハッピーな曲を作りたいなと思って。僕はポップスとして作ったんですけど、たぶん、ここ最近でジャズの定義が広がってきたんじゃないですかね。僕らがインディーズの頃、ジャズと言えばいわゆる本格的な“どジャズ”かクラブジャズでした。そのあと、カフェジャズや女子ジャスなども出てきて、“○○ジャズ”がどんどん増えて間口が広がった。あと、「こんなのジャズじゃない」っていう頑固オヤジも減ってきているんじゃないでしょうか(笑)。
土岐:そうかも(笑)。
――土岐さんは11月19日にスタンダードのカバーを中心にした「STANDARDS in a sentimental mood~土岐麻子ジャズを歌う~」をリリース。ジャズをテーマにした「STANDRDS」シリーズの新作は久しぶりですね。
土岐:9年ぶりですね。
中塚:え、そんなに経つの? ソロの最初って、「STANDARDS」だよね。
土岐:ソロになって10年なんですよ。だから初心に返る意味もあって、今回は「STANDARDS」を作ってみようかと。音楽的な初心ではなく、活動の初心なんですけどね。
――どういうことですか?
土岐:これは“たまたま”なんですけど、Cymbalsが解散した後、ソロとして最初に出したのがジャズのアルバムだったんですよね。それが意外にも好評で、3枚立て続けにリリースして。ジャズの人って認識されることもあったから、一時期は避けていたんですけど、振り返ってみたときに「最初のアルバムがなかったら、いま音楽を続けていたかわからなかったな」と思って。あのアルバムをたくさんの人に受け止めてもらったことが自信にもなったし、その後の音楽活動のモチベーションにもつながっていたんですよね。
――ただ、音楽的なルーツではない?
土岐:そうですね。もともとポップスをやりたかったわけだし、ジャズとは距離を感じているので。憧れというか、手の届かない存在なんですよね、いまも。
中塚:でも、今回のアルバムもすごく良かったよ。ちゃんとコントロールされてる感じがした。
土岐:え、なにが?
中塚:土岐ちゃんの歌はインディーズの頃からずっと好きだったんだけど、今回でネクストレベルに入った感じがしたんだよね。たとえば語尾のニュアンスとか、ベロシティ(速度)とか。マイルス・デイヴィスみたいな感じなんだよね、手触りが。スタンダードを歌ってもハッピーになりすぎず、しっかり抑制されていて。前の3枚とはぜんぜん違うよね。
土岐:確かに録音するときの心持ちは違ってましたね。前の3枚は“驚かし”があったんですよ(笑)。Cymbalsの人がジャズを歌うっていうこと自体もそうなんだけど、センセーショナルなものがほしかったんです。だから「September」(Earth, Wind & Fire)をボサノバ・アレンジにしたり、スタンダード・ナンバーもピアノのリフを繰り返してポップスみたいに聴かせたりして。「この曲をこんなアレンジでやっちゃうんだ?」という意外性ですよね。あとは「ジャズだって、こんなにポップに聴けますよ」ということもやりたかったし…。でも、今回はそれをやらないことにしたんです。もう驚かしたくはないし(笑)、もうちょっと本質的なところに向かってみたくて。
中塚:「STANDARDS」だから、それをやれたのかもね。オリジナルアルバムだったら、もっと考えるでしょ?
土岐:そうですね。さっき中塚さんが言ってたように、ジャズとポップスの垣根がなくなってきたのも大きいと思います。ジャンルで遊ぶのではなくて、いい音楽として聴けるものにしたかったので。
中塚:なるほど。あとね、“小唄”っていう感じもあったんだよね。クールな小唄っていう雰囲気で。
土岐:めっちゃうれしいですね、それは。そういえば前も小唄の話をしましたよね?
中塚:お互い、民謡に興味があるんだよね。
土岐:最近、ライブで熊本民謡の「おてもやん」を歌ってるんですよ。江利チエミさんがあの曲をジャズっぽく歌っているんですけど、それをもとにさせてもらって。
中塚:いいねー!
土岐:今度一緒にやりましょうよ。
「日本人が持っている“おめでたさ”を出した」(中塚)

2014年4月には活動10周年の締めくくりとして、自身初のベストアルバム『Swinger Song Writer』をリリース。
――中塚さんの音楽にも、日本の民謡からの影響があるんですか?
中塚:無意識に出ていると思います。そういう部分っていちばん大事なところかもしれないと思ってるんです。日本人が舶来のポップスやジャズをやると、どうしてもアイデンティティを見失いがちじゃないですか。でも、民謡のコブシだったり、気質みたいなものには、それがあるんですよね。
――気質っていうと?
中塚:日本人が持っている“おめでたさ”だったり。たとえば新幹線で(東京から)大阪に行くと、三島あたりでみんなソワソワしてくるじゃないですか。富士山が見たいから(笑)。ああいう“おめでたさ”って、海外の人にはないと思うんです。
土岐:そうかも。何かにかこつけて、お祝いしちゃうとか。
――中塚さんの新作『Disney piano jazz“HAPPINESS”Deluxe Edition』はディズニーの楽曲をジャズ・アレンジでカバーした作品。ディズニーもジャズもアメリカ文化の象徴と言えるものですが、このアルバムにも日本的な要素が反映されているんでしょうか?
中塚:たぶん、このアルバムを聴くと東京ディズニーリゾートを思い浮かべると思うんですよ。京葉線に乗ってると、ディズニーランドに行く人がコスプレしてたりするじゃないですか。ああいう風景も日本だけの“おめでたさ”ですから。
土岐:そういう視点がこのアルバムにつながってるんですね。おもしろいなー。
中塚:ミュージシャンひとりの名義で、ディズニーのジャズアルバムを作った日本人は今までいなかったらしくて。海外にはいるんですけどね。デューク・エリントンとか、デイヴ・ブルーベックとか。だから、「日本人がやると、こうなるよ」というアルバムにしたくて。かなり好き勝手にやらせてもらいました。
土岐:確かにこのアルバムを聴いてると、ところどころに“おもしろ”が入ってるんですよね。「チム・チム・チェリー」なんて、爆笑しちゃいましたから。
中塚:スモーキーすぎて、煤だらけになってるアレンジだよね。煙突掃除だけに(笑)。
土岐:「これ、どんな解釈?」って。すごくおもしろいと思います。
中塚:海外のミュージシャンだったら、もっとスタイリッシュにするだろうね。
土岐 海外のカバーって、ストレートなものが多いですよね。同じようなアレンジ、同じような歌い方をすることがリスペクトの示し方になってる。私は逆なんですよ。「カバーするんだったら、自分のものにしないと失礼」って思うので。
中塚:わかる。
土岐:ちゃんと自分のものにするためには、すごく突き詰めなくちゃいけないんですけどね。中塚さんのアルバムを聴いていても、すごく考えて作ってるんだろうなって思うし。その場の感じで“ちょいちょい”っていうふうには出来ないでしょ?
中塚:楽をしちゃうと癖になりそうだからね(笑)。
土岐:でも、そういうタイプの方もいるじゃないですか。何も考えないで、ピアノの前に座ってバン!と出てきたものがいちばん良いんだっていう。中塚さんはそうじゃなくて、ひとつひとつに意図があるんですよね。
「どんな局面においても、自分以外のものにはなり得ない」(土岐)
――土岐さん、中塚さんはポップスのフィールドで活動されているわけですが、ジャズの要素もかなり入ってますよね。そのバランスはどう取ってるんですか?
土岐:あえてジャンルで考えると、ポップスとジャズでは成り立ちがぜんぜん違うというか。まずポップスは、実際のサイズよりも長い時間をかけて構築するんですよね。曲にもアレンジにも歌い方にもいろんな可能性があるんだけど、そのなかでいちばんいいところに標準を合わせて作り込んでいくというか。ジャズはそうじゃなくて、瞬間の構築だと思うんです。プレイヤー同士の反応によって、2度と同じ演奏は出来ないっていうのが、ジャズのひとつの特徴ですからね。
中塚:そうだね。
土岐:そのなかに奇跡みたいな瞬間があるんですよね。語尾の長さとかニュアンスとか、「いま、ばっちりだったね!」っていう。
中塚:ジャズはDJのバック・トゥ・バックにも近いかもしれないですね。ふたりのDJが同じブースで交互にレコードをかけ合って、興が乗ると朝までやっちゃうっていう。今回の僕の作品ではそういう感じからあえて離れて、もっと決め込んで、作り込んでるんですよ。そういう意味では、映画音楽に近いのかもしれない。
――ジャズ的な“瞬間の構築”ではない、と。
中塚:ジャズの演奏家は、その場でパッと瞬間的に表現するために日々猛練習してると思うんですよ。ただ、今回のレコーディングの現場では「瞬発力のみでOK」ということは無かったです。やっぱり、ライヴとレコーディングでは判断基準がまったく違うんだと思います。ただ、プレイヤーに関していうと、ホーンの演奏家の皆さんは「ジャズを通ってないと、話にならない」というところがあって。
土岐:そうなんだ。
中塚:日本は吹奏楽のシーンがしっかり存在していて、学生時代にそこでジャズの基本的なイディオムを学ぶんですよね。そのシーンのなかで「あの大学のあいつは凄い」って言われるような人がプロになるんだけど、僕ら作曲家・編曲家としては、そういうジャズのイディオムを通過した人たちが最高に楽しく演奏できるようなスコアを書く技術は、基本中の基本だったりします。
――歌に関してはどうでしょう? ジャズを通ることで、さらに表現の幅が増すということもありますか?
土岐:ジャズの歌を知ることで、ポップスのなかでももっと自由になれるっていうことはあるかも。ただ、そうなるためには技術、度胸、経験が必要だし、私はまだ獲得できてないと思っていて。だからこそ、ジャズは憧れなんですよね。
中塚:今回のアルバムを聴いてると、歌としての体幹がしっかりしてるなあって。どんなジャンルをやっても、土岐麻子としての軸がブレないというか。歌のインナーマッスルが鍛えられてる(笑)。
土岐:そうだったらうれしいですね~。
――おふたりともすごく分析的というか、自分の音楽をきちんと言葉に出来るのもすごいと思います。
土岐:どうなんですかね? ただ、自分が何を考えてるか?ということは、よく友達と話すんですよ。最初は単なるグチだったりするんだけど(笑)、最終的には生き方の話になるっていう。恋愛でも仕事でも何でもそうなんだけど、自分が何を考えていて、何を求めているか、どういう人になりたいかということは、どんなことにおいても同じなんだなって。
中塚:そうやって話し込むことは大事だよね。
土岐:そうそう。話してると「また同じところに着地したね」ということも多いし。それはつまり、どんな局面においても、自分以外のものにはなり得ないということだと思うんです。音楽を作るときも「自分以上のことは出来ない」と考えてるので。それは今回のアルバムも同じですね。
中塚:それは感じる。「自分が歌って、それで全部」というか。
土岐:だから、ヘンに緊張しなくなったんですよね。いまの自分以上の歌は歌えないんだから、それでいいっていう。それが歌の体幹ってことなのかもしれないですね。
(取材・文=森朋之/撮影=竹内洋平)

中塚武『Disney piano jazz“HAPPINESS”Deluxe Edition』(WALT DISNEY RECORDS)
■リリース情報
『Disney piano jazz“HAPPINESS”Deluxe Edition』
発売:2014年11月12日(水)
価格:2700円+税
1.小さな世界(ニューヨーク・ワールドフェア)
2.愛を感じて(ライオン・キング)
3.美女と野獣(美女と野獣)
4.メインストリート・エレクトリカル・パレード(ディズニーランド(R))
5.パート・オブ・ユア・ワールド(リトル・マーメイド)
6.ビビディ・バビディ・ブー(シンデレラ)
7.いつか夢で(眠れる森の美女)
8.レット・イット・ゴー(アナと雪の女王)
9.ホエン・シー・ラヴド・ミー(トイ・ストーリー2)
10.君がいないと(モンスターズ・インク)
11.ハイ・ホー(白雪姫)
12.星に願いを(ピノキオ)
13.スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス(メリーポピンズ)
14.アンダー・ザ・シー(リトル・マーメイド)
15.輝く未来(塔の上のラプンツェル)
16.ホール・ニュー・ワールド(アラジン)
17.チム・チム・チェリー(メリーポピンズ)
18.ふしぎの国のアリス(ふしぎの国のアリス)
19.お砂糖ひとさじで(メリーポピンズ)
20.くまのプーさん(くまのプーさんとハチミツ)
21.レット・イット・ゴー(イン・クリスタル・クリスマス)(アナと雪の女王)

土岐麻子『STANDARDS in a sentimental mood ~土岐麻子ジャズを歌う~』(rhythm zone)
『STANDARDS in a sentimental mood ~土岐麻子ジャズを歌う~』
発売:2014年11月19日(水)
価格:3,240円(税込)
<CD収録内容>
01.In a Sentimental Mood
02.Round Midnight
03.Stardust
04.Lady Traveler
05.Misty
06.The Look of Love
07.Californication
08.After Dark
09.Smile
10.Christmas in the City (Performed by 土岐麻子 & 細野晴臣)
11.Cheek to Cheek
■ライブ情報
『TOKI ASAKO 10th ODYSSEY ソロデビュー10周年 感謝祭!! どこにも省略なんてなかった3952days』
2014年12月6日(土)ビルボードライブ大阪
2014年12月11日(木)名古屋ブルーノート
2014年12月20日(土)恵比寿The Garden Hall(スペシャル・ゲスト:土岐英史)