
「僕にとっては言ってみれば<紀元前>な感じ」(西寺)
――リリースから約1カ月経過しましたが……反響はいかがですか? Annie The Clumsy(以下:Annie):うーん、よくわかんないです(笑)。でも、地元の大宮のモア・レコードでは<Albums of the Month>に選んでくれたこともあってすぐに売り切れたみたいで。 西寺郷太(以下:西寺):この『From My Messy Room』に関しては、リリースしてすぐに世間に大きな衝撃を与えることを望んでいたわけではないんですよ。僕としてはこれと同じようなデモ的なアルバムをもう1枚出して、さらにそのあとでもっとプロデュースされたアルバムを作って、その3点セットで<Annie The Clumsy>というアーティストの凄さが伝わったらいいなと思っていて。 今回のアルバムはあくまで彼女がいままでやってきたことをパッケージングして手に取りやすいようにしたもので、僕にとっては言ってみれば<紀元前>な感じなんです。だからそもそもスタートラインにすら立っていないし、そういうつもりもなかったというか。彼女のことを高く評価していた人はもともと僕の周りに結構いて、それはデザイナーだったりモデルの子だったり、一番早くおしゃれなことに気づく、いわゆるアーリーアダプターみたいな人だったから、いまはそれを少しずつ増やしていくような段階ですね。 ――これから始まる本編の前日譚的なアルバムというか。 Annie:はい、名刺代わり的な。 西寺:やっぱり彼女のデモテープが素晴らしかったし、もちろん荒いところだらけではあるんだけど、それを配信ではなくそのままパッケージできることなんて今の時代あんまりないと思うので。それをあえてやってるのが今回の作戦ですね。その作戦自体はうまくいってると思いますよ。 ――それにしても……アルバム・タイトルにある<Messy Room>って日本語に置き換えると<とっちらかった部屋>、いわゆる<汚部屋>じゃないですか。さらにそこにきてステージネームが<不器用なアニー>。 Annie:そうですね、〈フラフラしてる〉とか〈おっちょこちょい〉とか。 ――だからYouTubeで事前に動画をチェックしていたとはいえ、どんな人が現れるのか正直心配でした(笑)。 西寺:まあ、変な人ですよ(笑)。 ――この2つのワードからイメージしていくと、完全に社会不適合者じゃないですか(笑)。 Annie:確かにあまり外に出ないです(笑)。ANNIE THE CLUMSY - YOU ARE A MASSIVE WINKER (BalconyTV)
「ウクレレの魅力はコードが押さえやすいのと、あと持ち運びに便利」(Annie)
――この名前の由来を教えてもらえますか? Annie:イギリスに留学していたときのニックネームが<Annie>だったんですね。で、ウェイトレスをやっていたときにグラスやボトルを割りまくっていて、「なんでそんなにフラフラしてるんだ? お前はclumsyだ!」って言われるようになって。 ――ドジっ娘だ。 Annie:いまもバーテンダーやってますけど、お店のグラスが少しずつ減ってますから。「あれ、もう半分しかない!」みたいな。 ――音楽をやり始めたきっかけがまたゆるい感じで……プロフィールには「2010年、イギリス留学中にもらったウクレレで音楽を始める」とありますね。 Annie:ギターが難しすぎて、もっと小さいのが欲しいってなって当時の彼氏からクリスマスプレゼントでウクレレもらったんです。 西寺:え、2010年? ――そうなんですよ、めちゃくちゃ最近でびっくりしました。渡英前には一切音楽活動はしていなかったんですよね? Annie:それが音楽にはぜんぜん興味がなくて。音楽より映画が好きだったこともあって、演技の勉強がしたくてイギリスに行ったんですよ。ただ、周りにミュージシャンの友達が多かったから、たしなむ程度に音楽をやり始めて、日本に帰国してからもうちょっと本格的にやってみたいと思うようになりました。それで運良く進んでこんな感じに。 ――たった4年でいまのこの状況はすごいと思いますよ。 西寺:初めて会ったのは2年前だよね? 2年前のちょうどいまごろ。 Annie:そうですね。2012年のヤマハ主催の『Music Revolution』というコンテストで郷太さんが審査員長を務めていて。 西寺:そう、だから音楽を始めて2年でコンテストに出場していたってことなんですよ。 Annie:まあ、周りに恵まれていたんですよね。 ――「もらったウクレレで音楽を始める」という軽さと、いまのこの状況とにものすごい飛躍を感じてしまいます。 Annie:そんなにガツガツはしてないんですけどね。 ――初めてウクレレを手にしたときのカジュアルさの延長でここまできた、みたいな。 Annie:ウクレレは持ち運びやすいし、コードも簡単だし……例えばギターのFのコードはすごく難しいけど、ウクレレなら2つだけ押さえればいいから。 ――ウクレレの魅力はコードが押さえやすいのと、あと持ち運びに便利だから(笑)。 Annie:本当にそれです……重いものは担ぎたくないから(笑)。
「<プロデュースをしない>というプロデュース」(西寺)
――気負いがないというか、生活レベルで音楽やっている感じがするんですよね。 西寺:だから彼女には期待しているというか、化けると思ってるんですよ。単純にビジネスとしていけるんじゃないかって。正直、彼女に対してはぜんぜんプロデュースしてないんですけど、それは<プロデュースをしない>というプロデュースというか……見たことのない花の種を見つけたからとりあえず水をやっておこうか、みたいな(笑)。新人アーティストを育成していくときのいまの日本の音楽業界のルールは必ずしも彼女にはそぐわないと思うし、僕らの計算を越えたところに辿り着く可能性があるんじゃないかって。オフィシャルブログをさかのぼって見たら昔の彼氏とバスルームでハグしてる写真とか普通に載ってたりするし(笑)、とにかくここまで業界を全力でサヴァイブしてきた僕の感覚とはなにもかもが違うから面白いんですよ。 ――こんなこと言ったら怒られてしまうかもしれないけど、良い意味でプロ感が希薄ですよね。 西寺:でも、アニーちゃん、全体的に偉そうなんですよね(笑)。悪い意味じゃないんですけど。偉そうというか、堂々としてるって言ったほうがいいのかな? ――確かに、これが初めてのインタビューとは思えないところがありますが……で、いま話に上がったブログも一通りチェックさせてもらいましたけど、音楽だけでなく映像製作や演技もやってるんですよね。なんというか、アートやクリエイティブな活動全般への関心が高くて、音楽もそのチャンネルのひとつとして存在しているような印象を受けました。 Annie:たぶん、そうなんだと思います。ゆくゆくは演技がしたいと思っているんですけど、昔モデルの事務所にいたこともあって、その道の厳しさもわかっているつもりなので。だから、いまは音楽が自分の表現としてあるからこれをがんばっていけたら……その過程のなかでなんかいいことがあったらいいなって(笑)。 西寺:演技やってるなんて初めて知ったわー(笑)。 Annie:最終的には海外に出ていきたいぐらいの野望はあるんですけど、とりあえずいまはこれでやっていって。 ――いろいろなチャンネルを持っていることがアニーさんの音楽のカジュアルさや生活感に少なからぬ影響を及ぼしていると思うんですけどね。 Annie:コマーシャルの音楽をやっていると、音楽の表現と演技の表現は似てるところもあるなって思って。だから一石二鳥というか、例えばミュージックビデオを作るときは自分で監督も演技もできるわけですよね。 ――アニーさんのそういう音楽に対するスタンスと、ウクレレという楽器がまた抜群に相性がいいんですよね。 Annie:チープな感じだけど癒しにもなるかなって。作曲もウクレレでやってるんですけど、チープなニュアンスを出したいときはいちばん最初にもらった安いやつを使ったりしてますね。あとは最近打ち込みを覚えたくてかんばってるんです。やっぱりウクレレだけだと自分も歌っていて飽きるので……次のアルバムには打ち込みの曲も入れてみたいですね。 ――やっぱり宅録感みたいなものは大事にしていきたいというか。 Annie:はい、それは押し出していきたいですね。Free as a bird - annie the clumsy
「別に歌で誰かを幸せにしたいとは思ってなくて」(Annie)
――あとプロフィールに<フライト・オブ・ザ・コンコルドに触発されて本格的に曲作りを始める>って書いてあったんですけど、コメディバンドに強い影響を受けてるというバックグラウンドも相当めずらしいですよ。 Annie:だから歌詞も下品なものが多いんですよね(笑)。音楽って愛や失恋のことを歌わなくちゃいけないと思っていたんですけど、フライト・オブ・ザ・コンコルドを聴いて「あ、何を歌ってもいいんだ!」って。別に歌で誰かを幸せにしたいとは思ってなくて、鼻で笑えるような音楽を作りたいんです。掃除中に聴いたりして、鼻で「フッ」と笑えるような。フライト・オブ・ザ・コンコルドはもうすべてが面白くて、外でひとりで聴いていても肩を震わせて笑っちゃうぐらい。やっぱりユーモアがあるのがいいですよね。海外だとウクレレを弾くコメディ・アーティストって結構いて、彼らもそうですけど演技もやったりするんですよ。私がやりたいことを全部やってるから惹かれるんでしょうね。だからシー&ヒムも大好きで、ズーイー・デシャネルは私にとって女神です。 ――シー&ヒムが好きなのはSoundCloudのカバー曲の選曲からも伝わってきましたよ。ほかに好きなアーティストっています? Annie:フィオナ・アップルとかケイト・ナッシュとか、女性のシンガー・ソングライター系が好きですね。 ――あー、フィオナ・アップルもそうですけど、僕はアニーさんの音楽を聴いていてレジーナ・スペクターを連想しました。 Annie:レジーナ・スペクター、大好きです! 映画のワンシーンで流れるような曲が好きなんですよね。 ――あとはチープな録音状態も含めてアノラック系に通ずる良さもありますよね。パステルズやマリン・ガールズのあの脱力感。 西寺:僕はもともとヤング・マーブル・ジャイアンツとかヴァセリンズとか、アノラック系がすごく好きだったんですよ。コンテストの流れで作った自主制作のアルバム(2013年の『Annie Volume 1』)はそういう良さが損なわれてしまって彼女自身不本意な部分もあるみたいですけど、今回、僕的には仮にオーディオ的に粗悪な音でも気持ち良かったらそれでいいと思っていて。 ――そういう経緯を聞くと、『From My Messy Room』ってタイトルは本当によくできていますよね。アニーさんのパーソナリティを端的に伝えるフレーズであると同時に、アニーさんのアーティストとしての素材の良さを知ってもらいたいという意味でもしっくりくるし、前のアルバムを踏まえると、<汚い音かもしれないけどこれがわたしの本当の音楽なんだよ>と解釈することもできますから。この『From My Messy Room』の制作にあたって郷太くんからのアドバイスは何かありましたか? 西寺:カバー曲を何曲か入れてほしいということと、最初から同じような内容で「双子のアルバム」を2枚作ろうって言っていたので曲数をあんまり増やさないようには意識してましたね。曲そのものに関してはなんにも言ってないです。「最終的にはエイミー・ワインハウス的なサウンド・プロダクションで歌ってるのを聴いてみたい」(西寺)
――結論からいくと、この『From My Messy Room』は、何を聴くか迷ったときにすっと手が伸びるようなカジュアルさやフレンドリーさがあってそれが大きな魅力になっているのは間違いないんですけど、でも単なるおしゃれな心地よい音楽として消費されることを頑なに拒むような毒気があるんですよ。だからヴェルヴェット・アンダーグラウンドの「Sunday Morning」をカバーしてるのはものすごく合点がいきます。 西寺:うん、そう思いますね。ちょっと怖いんですよ。 ――で、この毒気はどこからきてるんだろうって考えたんですけど、やっぱりそれはフライト・オブ・ザ・コンコルドを聴いて培われたユーモアだと思うんですよね。ユーモアがこの作品を魅力的にしてる、と言ってもいいと思うんですけど。レジーナ・スペクターの名前を引き合いに出したのもそういうところなんですよ。 Annie:さっきも言いましたけど、やっぱり鼻で笑われる感じは欠かせないですよね。そんなに大声で笑うほどのものでもないと思うから(笑)。「フッ」と笑わせられたいいな、ぐらいのつもりで作ってるので……そういうのとダサさを混ぜてる感じ? 西寺:いいですよねえ(笑)。 Annie:どこかのお店の宣伝文句に<こじらせ女子>って書いてあって、言われるまでは気づかなかったんですけど、「あー、きっと私はこじらせてるんだろうな」って。そういうひねくれたものが自然と出ちゃうんでしょうね。 ――宅録感やウクレレもそうですけど、やっぱりユーモアがこのアルバムを軽やかにしているんだと思いますよ。ソングライティング、主に歌詞を書くときに心掛けていることはありますか? Annie:うーん、頭の中に思い浮かんだことをそのまま書き綴ったような……。 ――それこそツイッター感覚というか。 Annie:本当にそんな感じですね。まあ日記みたいなものです。 ――歌詞は今後も基本的には英語詞でいく感じですか? 自分の言いたいことを表現するにあたって日本語よりも英語のほうが書きやすいとか。 Annie:日本語だとあまりにもストレートすぎてたぶんファンがいなくなっちゃうと思うんですよね。もうあまりにも下品すぎて(笑)。英語だとスラングに包みながら曖昧にできますからね。あと日本語で歌うとリズムも崩れちゃうような気がして。 ――漠然とでも構わないのですが、最後に今後のビジョンについて教えてください。 Annie:男ふたり女ひとりの編成でバンドをやってみたいっていうのはありますね……それは単に男に囲まれたいってだけなんですけど(笑)。あとは多国籍バンドも組んでみたいんですけど、そうするとスタジオを借りなくちゃいけなくなるし、面倒くさいからいまはとりあえずこれでいいやって(笑)。 西寺:僕は最終的にはエイミー・ワインハウス的なサウンド・プロダクションで彼女が歌ってるのを聴いてみたいんですよね。例えば、レトロなドラムでホーンセクションもちゃんと入って、でも歌はいまの彼女のままっていう。めちゃくちゃかっこよくなると思うんですよ。いずれにしても、もうちょっと作り込んだプロダクションをやってみたいです。 Annie:あとはバーテンダーの仕事もやめたくなくて……私、これまで1年以上続いた仕事がないんですよ。前もボスに中指立ててクビにされちゃったから。 西寺:え、日本で(笑)? 中指? それすごいな!(爆笑) (取材・文=高橋芳朗)
annie the clumsy『From My Messy Room』(ヴィヴィド・サウンド・コーポレーション)























