BABYMETAL、でんぱ組.inc、乃木坂46、モーニング娘。… 2014年グループアイドルシーン振り返り

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乃木坂46『透明な色(Type-A)』(ソニー・ミュージックレコーズ)

【リアルサウンドより】  2014年、アイドルシーンは更なる盛り上がりを見せた。BABYMETALやでんぱ組.incの大躍進や、アイドルカルチャーの定着化と市場拡大…。今回はこれらをトピックごとに分け、振り返って行きたい。

BABYMETALとでんぱ組.incの躍進

 メタルとアイドルの融合を掲げたBABYMETALは、2014年に最も大きく飛躍を遂げたアイドルグループだ。2月発売の1stアルバム『BABYMETAL』は、iTunes Storeにおいて7ヵ国のロックアルバムチャートでベスト10入りを果たし、7月からはフランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、日本を巡るワールドツアーを行った。イギリスのSonisphere Festivalでは約5万人の観客の前でパフォーマンスを披露。さらにレディー・ガガのライブツアーにも帯同し、ロンドンで開催したワンマンライブでは約5000人を動員。9月には幕張メッセにて2daysのワンマンライブも開催した。  メンバーそれぞれにオタク属性があるでんぱ組.incは、5月に武道館での単独公演を開催し、約1万人を動員。台湾や香港など海外公演も多数行い、10月からは地上派初の冠番組「でんぱジャック World Wide Akihabara」(フジ系)がスタートした。  両グループに共通しているのは、メタルと電波ソングといった音楽的コンセプトを中心に据えていること。こうしたコンセプトが根幹にあることで、数多くいるアイドルとの差別化ができている。その上で海外フェスに出演したり、世界観を壊さない範囲で別ジャンルのカルチャーを取り入れたりと、訴求する層を積極的に広げているのが、成功の大きな要因となっている。

乃木坂、モー娘、しゃちほこ、橋本環奈…ジャンルの定着化と市場の拡大

 BABYMETALとでんぱ組だけではない。それ以外にもここ1年で大きく知名度を上げたアイドルは数多い。例えば乃木坂46は「2014年オリコン年間シングルランキング」のトップ10に2枚のシングルを送り込み、8月には明治神宮野球場(3万人を動員)で単独コンサートを開催。モーニング娘。'14は約4年ぶりに横浜アリーナ(1万2000人を動員)で単独コンサートを開催した。  チームしゃちほこ、9nine、ベイビーレイズ、スマイレージなど、武道館(キャパ約6000~1万人)で単独公演を行うグループも急増した。また、Dream5は企画枠ながら紅白歌合戦への出演を決め、橋本環奈が所属していることで有名なRev. from DVLはZepp DiverCity(キャパ約2400人)での単独ライブを開催。東京パフォーマンスドールは全国Zeppツアーを成功させた。  ゆるめるモ!、lyrical schoolと、インディーズであっても恵比寿LIQUIDROOM(キャパ約900人)でワンマンライブを行うグループも増加した。  8月に開催された国内最大規模のアイドルフェス『TOKYO IDOL FESTIVAL 2014』の動員数は2日間でのべ4万1000人を突破した。  これらの状況から、「アイドルというジャンル自体のファンが増えた」「1000人以上の規模の会場を埋めるほどの一定の固定ファンが、多くのアイドルにつくようになった」「複数のアイドルが好きな"DD"のアイドルファンが増えた」ということが言えるのではないだろうか。AKB48が『RIVER』で本格的なブレイクを果たしてから5年。ようやくシーンが確立し、市場が大きく広がりつつある、という風に見て良さそうだ。

圧倒的トップをひた走るAKB48

 先日、2014年オリコンシングルランキングが発表された。そのトップ10は以下の通り。括弧内は推定累積売上数。 1位 AKB48「ラブラドール・レトリバー」(178.7万枚) 2位 AKB48「希望的リフレイン」(115.7万枚) 3位 AKB48「前しか向かねえ」( 115.4万枚) 4位 AKB48「鈴懸の木の道で「君の微笑みを夢に見る」と言ってしまったら僕たちの関係はどう変わってしまうのか、僕なりに何日か考えた上でのやや気恥ずかしい結論のようなもの」(108.6万枚) 5位 AKB48「心のプラカード」(105.8万枚) 6位 嵐「GUTS!」(60.5万枚) 7位 嵐「Bittersweet」(59.2万枚) 8位 乃木坂46「何度目の青空か?」(57.8万枚) 9位 EXILE TRIBE「THE REVOLUTION」(57.3万枚) 10位 乃木坂46 「気づいたら片想い」(54.7万枚)  1位から5位までをAKB48が独占し、その全てがミリオンヒット、という結果になった。昨年よりも総数は下がっているが、握手会襲撃事件や大島優子の卒業がありながらもこの結果を出せていることは、トップアイドルとしてのポジションが依然揺ぎ無いことを証明している。  また、選抜総選挙の投票総数も前年に比べ約4万票以上増加した。投票のルールについては、投票用シリアルナンバーカードが封入されたCDのバージョンが増えたり、当選枠が拡大したりなど、年々細かい変更が行われている。が、それらを考慮しても、AKB48がアイドルの中でダントツの人気があることは変わらないだろう。  AKB48のトップはそのままに、その他のアイドルの人気も上がり、アイドル市場が大きく広がった2014年。では2015年はどうなるのか、次回のコラムで予想してみよう。 ■関連記事 岡島紳士のアイドル最新マッピング 第13回:動員力 ももクロ、モー娘。から、リリスク、ベルハーまで…動員力から考察するアイドル界の現在 第12回:吉木りさ 『怒られたい』で話題の吉木りさ 天性のグラドルが持つ音楽活動の可能性とは? 第11回:lyrical school ユルさとアツさで独自の進化 清純派ヒップホップアイドルグループlyrical schoolはブレイクするか? 第10回:橋本甜歌 tofubeats楽曲でデビュー 子役・ギャルモデルを経た橋本甜歌は「真のアイドル」を目指す? 第9回:篠崎愛 高い歌唱力を誇るカリスマグラドル 篠崎愛のソロ歌手活動を夢想する 第8回:いずこねこ 笑顔でネガティブな気持ちを歌うアイドル いずこねこの「終わらせ方」を読む 第7回:東京パフォーマンスドール 初代から受け継ぐ、東京パフォーマンスドールの先進性とは? 楽曲とライブから読み解く 第6回:道重さゆみ 卒業発表の道重さゆみに見る、アイドルがブレイクに至る"物語”の重要性 第5回:緑川百々子 ネットカルチャーのニューアイコン 緑川百々子はアイドルのボーダレス化を象徴する 第4回:さくら学院 BABYMETAL、松井愛莉、武藤彩未…ブレイクアイドルの登竜門「さくら学院」に迫る 第3回:せのしすたぁ SMAPに影響されたリアルGMT!? 福井県のロコドル せのしすたぁ登場 第2回:BABYMETAL BABYMETALが“接触なし”で快進撃  Perfumeに続くアミューズ系アイドルの行方 第1回:倉持由香 TMR西川貴教も賛同! グラドル自画撮り部部長・倉持由香が「グラドル界」を革新する ■岡島紳士(おかじま・しんし)(@ok_jm) 1980年生まれ。アイドル専門ライター。著書、共著に『グループアイドル進化論』、『AKB48最強考察』、『アイドル10年史』『アイドル楽曲ディスクガイド』など。埼玉県主催「メディア/アイドルミュージアム」のアドバイザーと、会期中に行われた全9回の番組&イベントMCを担当。DVDマガジン『IDOL NEWSING vol.1』を手掛けている。 オフィシャルサイト

セカオワ、SCANDAL、miwa……ドリカムのパフォーマンスが若手に与えた影響とは?

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DREAMS COME TRUE『ATTACK25』(ユニバーサル・シグマ)

【リアルサウンドより】  SEKAI NO OWARIのメンバー・Saori(Key)が、DREAMS COME TRUEが現在行っている全国ツアー『DREAMS COME TRUE CONCERT TOUR 2014 -ATTACK25-』の横浜アリーナ公演(12月20日~21日)について、自身のTwitterにて「『こんなものを後輩に突きつけるなんて、酷いです』と、中村正人さんにお伝えした。感動しました」とコメントし、話題となっている。  SEKAI NO OWARIは現行の若手アーティストのなかでも突出したライブ演出へのこだわりを見せるバンドで、先述のSaoriはステージ演出を担当。同バンドは今年の10月に、富士急ハイランドをセカオワ専用のテーマパークに仕立てた『炎と森のカーニバル』を開催したことも記憶に新しい。また、Saoriは ドリカム・中村正人がMCを務める『LIVE MONSTER』(日本テレビ系)に出演した際、ステージ演出について「やりたいことをするには、どうしてもそのチケット代が上がっちゃう。『でも、いいものを見せるよ』っていう値段設定」と語っている。中村はこれに対し「うち(DREAMS COME TRUE)もだいぶ無茶な『ドリカムワンダーランド』ってイベントをやってるんだけど、『みんなを異次元に連れて行きたい』って始めたけど、予算が異次元なんだよね(笑)」と共感を寄せていて、両者が目指す理想の“エンターテインメント”には、共通点が多いことが伺える。今回のTwitterの発言で、Saoriは改めてドリカムのライブパフォーマンスにリスペクトを表明した形だ。  ドリカムは、1991年から4年に1度開催されるグレイテストヒッツライブ『史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND』を開催しており、1991年に開催された初回公演では3会場6公演で約6万人を動員。大規模編成でファンから募った人気曲を演奏したほか、幕間ではコントや寸劇を披露するなど、音楽コンサートの枠を越えた演出を行った。1995年には野外でパフォーマーが参加した大規模公演を開催し、以降もドーム規模で壮大なパフォーマンスを続けている。  そんなドリカムのライブパフォーマンスに影響を受けているアーティストは、Saoriだけではない。EXILEのリーダー・HIROは、1995年『史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND』にZOOのメンバーとして出演。「ダンスに魂を注いで頑張ってたけど、エンターテインメント的な部分はドリカムの2人の姿勢を見て刺激を受けたし、勉強になった。一生忘れられない思い出になった」と明かしている。倖田來未はDREAMS COME TRUEのライブビデオを観て刺激を受け、歌手に憧れて芸能界入りを志したという経歴の持ち主だ。2人がエンターテインメント性の高いライブパフォーマン スを志向し、公演ごとに新たな試みに挑戦している根底には、ドリカムの存在があるに違いないだろう。  また、カバーアルバム『私とドリカム -DREAMS COME TRUE 25th ANNIVERSARY BEST COVERS-』に「大阪LOVER」で参加しているSCANDALは「大阪発のバンドなので、歌詞に出てくる景色がとてもリアルに想像出来て昔から身近に感じられる一曲です。生で聴いた初めての大阪LOVERはずっと忘れないです(一部抜粋)」とコメントしている。さらに、今年6月に行った大阪城ホール公演『SCANDAL ARENA LIVE 2014「360°」』では、同曲をライブ初披露。RINAはこの公演で「ドリカムさんの大阪城ホールを観に来たときに、すごく綺麗なウェーブをやっていて。だから今回ぜひみんなでやってみたい!」と語り、実際に観客がウェーブを行う一幕があった。そんなRINAも先日の横浜アリーナ公演を訪れ、近況を語っている。スタジアム規模になっても観客を決して置いていかず、全員を巻き込んで楽しむというサービス精神は、吉田美和と同郷のバンドにもしっかりと受け継がれているようだ。  miwaは同カバー盤に「LOVE LOVE LOVE」で参加。彼女は2007年に国立競技場で行われた『史上最強の移動遊園地 DREAMS COME TRUE WONDERLAND 2007』を観賞していて、「サプライズ連続の素晴らしいライブに圧倒され、興奮しっぱなしだったのを覚えています。なかでも『何度でも』『LOVE LOVE LOVE』を会場全員で大合唱したのは本当に鳥肌でした」とカバーにあたってのコメントを寄せている。彼女は12月24日に横浜アリーナで行われたツアー『miwa-39 live ARENA tour-“miwanissimo 2014”』の最終公演で、ゴンドラで会場を回ってプレゼントを配布したり、DJタイムを作ったり、シングアロングで会場を大きく盛り上げたりと、やはりファンを巻き込んだ演出を行っている。  現在もパフォーマンス面で圧倒的な力を見せながら、後進アーティストに影響を与え続けるドリカム。例年通りであれば2015年は『史上最強の移動遊園地DREAMS COME TRUE WONDERLAND』開催年だが、今のところアナウンスはない。続報を待ちながら、来年の彼らのパフォーマンスに期待したい。 (文=松下博夫)

いずこねこ、ラストライブで見せた涙 “不在のアイドル”が辿り着いた場所とは

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ラストライブを迎えたいずこねこ。

【リアルサウンドより】  12月20日。渋谷WWWにて映画+ライブイベント『世界の終わりのいずこねこの終わりの始まり』が開催された。  イベントは映画『世界の終わりのいずこねこ』に出演したアイドルたちのトーク&ライブ。『世界の終わりのいずこねこ』の上映。いずこねこラストライブの三部構成。  ライブスペースの渋谷WWWは元々映画館だったのだが、客席は階層構造のスタンディングだったため、映画鑑賞時には座布団が用意された。  第一部、映画でいずこねこ(茉里)が演じる高校生のイツ子の同級生役で出演したアイドル達によるライブがスタート。出演したのは、社会学者の濱野智史がプロデュースするグループアイドルPIP。篠崎こころが所属するアイドルデュオ・プティパ(petipas!)。いずこねこが振付を担当した「正しさは君だ」を披露したみきちゅ。ウィスパーボイスで歌うPeach sugar snowとClassic fairy。いずこねこと対バンすることが多かったアイドルラップユニット・ライムベリー、司会は地下アイドル兼エロ本ライターの姫乃たまが務め、元BiSのコショージメグミ、ミスID出身の木村仁美、宗本花音里と渡賀レイチェルは撮影の裏話を披露した。
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左・渡賀レイチェル、右・姫乃たま。

 映画ではイツ子と蒼波純が演じるスウ子以外の生徒の物語はほとんど描かれなかったが、各アイドルのライブやトークを見ていると、劇中では描かれなかったサイドストーリーの妄想がどんどん広がっていく。  そして終盤には映画の共同脚本を担当し、担任のミイケ先生を演じた漫画家の西島大介aka DJまほうつかいが登場。一夫多妻制アイドルの清竜人25の「Will♡You♡Marry♡Me?」を熱唱し、会場を大きく湧かせた。  その後、『世界の終わりのいずこねこ』の上映が終了後、数分の休憩を挟んで、いずこねこのラストライブがスタート。本編の監督・竹内道宏が編集したメモリアルフィルムが流れた後で、いずこねこが登場し、一曲目の「rainy irony」を披露した。  最前列の飼い主(いずこねこファン)たちはもちろん、会場全体が「待ってました!」と盛り上がる。歌に合わせて「にゃんにゃん」と合いの手を入れる、いずこねこMIXも最高に熱い!  7曲目の「nostalgie el」では、事前に飼い主の方々が観客に配った薄い水色の光を放つサイリウムを一斉に発光させるというサプライズが行われた。  8曲目「last cat factory」の後、茉里は飼い主の方々への長い手紙を披露。感極まってうまく話せずにぐちゃぐちゃに泣く場面もありながらも、家族のような存在だったという飼い主への感謝をただひたすら伝えようとする。その姿は微笑ましく、同時に誠実さが伝わってくる。そして映画のエンディングテーマ「i.s.f.b」を歌いライブは終了、事前に茉里が「アンコールはありません」と伝えたこともあって、最後の瞬間を観客全員が見届けようと、茉里を見守っているかのようだった。
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熱唱するいずこねこ。

 いずこねこは、サクライケンタの変拍子の楽曲が奏でる物悲しい世界観を、茉里のボーカルと激しいライブパフォーマンス、そして飼い主のMIXが加わることで、ネガティブな歌詞をアグレッシブなライブで見せるという独自の表現となっていた。  思えば、いずこねこは、ずっと「終わり」について歌っていたように思う。自殺志願者の内面を歌ったかのような「BluE」はその象徴だろう。しかし、それはあくまでサクライのディストピア的世界観の表現でしかなかったのだが、突如決まった活動終了によって本当に終わることとなり、文字通り「終わり」と向き合わざる負えなくなった。  細かい背景や理由については、あえて触れないが、2014年のいずこねこは、どうやって、みんなが納得のいく形で、活動を終わらせるかを模索する一年だったと言える。  すでに一度、いずこねこは8月31日に活動終了を宣言しており、茉里はミズタマリとして元BiSのカミヤサキとプラニメの活動をはじめており、サクライケンタもこのイベントに出演していたコショージメグミと宗本花音里が参加するMaison book girlのプロデューサーとして新しいスタートを切っている。
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出演者で記念撮影する一幕も。

 そのためか、「終わり」の余韻に全員が浸るという感じはあまりなかったのだが、今年3月のぐちゃぐちゃの状況を思うと「よくぞ、ここまで持ち直して大団円で終われた」と、感慨深かった。  それにしても名は体を表すというが、茉里からいずこねこというアイドルが完全に分離した今の状況は、文字通りいずこねこ(何処猫)という不在自体がキャラクター化した状況だとも言える。哀しい別れかもしれないが、このライブが終わることで、不在のアイドル・いずこねこは完成したのかもしれない。  映画では、伝説の猫・いずこねこが、イツ子の肉体を通して2035年にアイドルとして復活する。そう考えると、この解散ライブ自体が、作中の物語をなぞっていると同時に、映画へとつながるエピソード0のようでもあった。  アイドル映画の補完イベントとしても、いずこねこというアイドルの終わらせ方としても、見どころ満載で、映画とライヴ、フィクションとノンフィクションといった虚実が入れ子構造となった刺激的なイベントだった。 (文=成馬零一)

東京女子流の2014年は“ネクストステージ“への助走期間だった? グループの長期戦略を読む

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東京女子流『Say long goodbye / ヒマワリと星屑 -English Ver.-(CD+DVD) (TypeA)』(avex trax)

【リアルサウンドより】  東京女子流が12月20日に東京・渋谷公会堂で『CONCERT*05 ~カワイイ満載見納めPARTY~』『CONCERT*06 ~STEP UP TO THE NEXT STAGE~』の2公演を開催した。両公演のタイトルに表されている通り、昼夜連続のこのライブは東京女子流のこれまでと、そして来年以降の新たなステップへの示唆との二側面を表現するものになった。東京女子流にとって年末に大きな会場でライブを行なうことはグループの恒例であり、それらのライブは一年ごとの成長度合いと現在点を確認する節目になってきた。その流れの中で今年の年末ライブは、一日の間にデビューからこれまでの総括と、次の段階への方向付けとを明確に示し、グループが自らの立ち位置を変えようとしていることを伝えるものになった。  1stアルバム『鼓動の秘密』収録のライブ定番曲「孤独の果て~月が泣いている~」からスタートした昼の部『CONCERT*05 ~カワイイ満載見納めPARTY~』はデビュー以降、東京女子流のライブでお馴染みになった曲を中心にしたセットリスト。ファンと振付を共有することを前提にした「おんなじキモチ」に象徴される、アイドルファンへの門戸を広く開いたバランスのライブとなった。ライブ前半の楽曲をすべて1stアルバムと2ndアルバム『Limited addiction』収録曲で埋め、自己紹介ではかつて一時的に使用していた各メンバーの一言キャッチフレーズを添える等、アイドルシーンに強くコミットしてきた初期活動を広く詰め込んだ構成だったといえる。 「アイドルシーンに強くコミットしてきた」とわざわざ書いたのは、東京女子流は自らを「ダンス&ボーカルグループ」とし、「アイドルグループ」とは位置づけてこなかったためだ。とはいえ、それはアイドルというカテゴリーを軽視したり拒否するような頑なな態度では一切ない。東京女子流は「アイドル」カテゴリーの一員としてイベントに出演することや、アイドルシーンで一般的な販促イベントなども柔軟に行ない、「アイドル」というジャンルに敬意を持って参与してきたグループである。だからこそアイドルファンに広く支持される楽曲も発信できたし、それらの作品は今後もアイドルファンにとって重要なものであり続けるはずだ。しかし同時に、東京女子流は長期的な視野で、アイドルシーンの慣例から独立する志向を持ってきたことも事実だ。この日、「カワイイ」と銘打たれた楽曲が彼女たちに似合わなかったものでは決してないが、グループの長期戦略として別の色合いを見せるタイミングを、この日は昼夜公演のコントラストではっきり打ち出した。  もっとも、夜公演の『CONCERT*06 ~STEP UP TO THE NEXT STAGE~』が、これまでの東京女子流に馴染まない目新しさのものだったわけではない。今年7月からの5ヶ月連続赤坂BLITZ公演夜の部の統一テーマにしていた「HARDBOILED NIGHT」で披露してきた楽曲や、近年に発表されたシリアスサイドの楽曲を核に用いたセットリストもまた、これまでの東京女子流が確実に活動の幹に据えてきたものの反映といえる。「カワイイ」を卒業してより成熟に向かう意思を見せた時、それが無理な背伸びに見えないのは、長期的な視点でメンバーの成長を見込んだ楽曲制作が行なわれているためだろう。それらの楽曲パフォーマンスは確かにこれまでの東京女子流が自らの特徴にしてきた一側面であるが、昼公演に比べるとファンとの往還を減らして、よりタイトに「ダンス&ボーカルグループ」としてライブパフォーマンスのみで見せる構成を目指していた。その意味で、夜公演のタイトルに付された「STEP UP TO THE NEXT STAGE」とは、まったく新たな何かを模索するものではなく、長いスパンに立った時にグループが目指す方向性により純化していく宣言だったといえるだろう。  このような方向のシフトはもちろん、急に思いついたものではないはずだ。振り返れば今年は、東京女子流の活動にとっての「ネクストステージ」を開拓する試みが多く見られた。春に行なわれた4thツアーではタイトルを、グループの楽曲制作のシンボルである松井寛の代名詞を冠した「Royal Mirrorball Discotheque」とし、ディスコ/ハウス路線に振り切って、セットリストも曲間をミックスして繋ぐ形式をとった。それに応じて振付も再度アレンジされ、トータルとしてノンストップのパフォーマンスで見せる割合を強めた試みを行なっている。また映像制作面では、『5つ数えれば君の夢』『学校の怪談 呪いの言霊』の二本の主演映画公開、あるいは「HARDBOILED NIGHT」で上映されたドラマなど、本格的に演技をする映像作品が印象的だ。これまで公式Ustreamを中心に東京女子流の映像コンテンツは、メンバーのオン/オフの姿をドキュメンタリー的にファンに提供するなど、アイドルシーンの標準ともいえるパーソナリティ提示路線が目立っていた。メンバーが作りこんだ演技的パフォーマンスを通じて映像と関わる機会が増えたこともこの一年の試みだったといえる。そして先月まで行なわれていた5ヶ月連続BLITZ公演では、昼の部に過去アルバムの振り返り、夜の部にグループの大人っぽさ、クール面を前面に出した構成でライブを組み立てている。12月20日の昼夜公演もまた、その延長線上にある志向と考えることができる。2014年は東京女子流にとって、ごく自然に「ネクストステージ」に歩を進めるための年だったのだろう。  もちろん、「ダンス&ボーカルグループ」として見た時、まだ実力が高水準で5人整っているわけではないが、年末の節目のライブに触れるにつけ、成長の度合いが確認できる。今年は圧倒的な総合力で中心に立つ新井ひとみの独走が際立った年でもあったが、ボーカルを後ろから支える中江友梨は歌唱力を一段と安定させ、新井らに比べると歌が弱く感じられた山邊未夢、庄司芽生も確実に力を底上げしてきている。もともと強い歌声を持つ小西彩乃はまだ本調子ではないはずだが、その中でも復調を模索し、その成果を12月10日発売のシングル『Say long goodbye』で見せつけた。そうしたそれぞれのスピードでの成長も、おそらくは10年単位の長期的な視野で制作を行なっている東京女子流運営だからこそ、落ち着いて見守ることができる。この日、リーダーの庄司がMCで強調したのは、この先グループとして「自分たちで音楽を発信する」という意思表明だった。制作中の来年3月11日発売シングルでは作詞を山邊が手がけることが発表されているが、このような楽曲制作への参加度合いの増加も、その意思表明の中には含まれているのだろう。結成5年をかけて次の段階への門を開くことを明示した東京女子流。「ネクストステージ」もまた、変わらぬ着実な速度で実力を積み上げていってほしい。 ■香月孝史(Twitter) ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

西野カナの新アルバム『with LOVE』がロングヒット ファン層拡大の背景とは?

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【リアルサウンドより】  11月12日に西野カナがリリースした5thアルバム『with LOVE』が、発売初週に10万枚を売り上げる好調ぶりを見せている。これは彼女にとって通算4枚目となるオリコン首位作品となり、平成生まれのアーティストとしては最多の記録。同世代の中でも頭ひとつ抜きんでた人気を見せつけた。そんな本作が、発売から1ヵ月以上を経過した今もじわじわとセールスを伸ばしている。理由のひとつに挙げられるのがファン層の拡大だ。   そもそも西野カナといえば、CD売上に加えて、音楽サイトからのダウンロードや着うたで支持を広げたシンガー。そんな姿が“ケータイ世代のカリスマ”と評され、10代~20代前半の女性たちが主なファン層と見られてきた。しかし、昨今ではこれまでのファンたちに加え、20代以降の働く女性たちをも巻き込み始めている様子。すでに公開されている西野カナのアルバム特設サイト(http://www.nishinokana.com/withlove_talking/)では、漫画家の桜沢エリカや『日経ウーマン』の佐藤編集長ら、30代~40代の大人の女性に、アルバムについてのインタビューも行っている。中でも桜沢は、印象的な楽曲に『好き』を挙げ、50歳の友人もこの曲にハマっているというエピソードを披露し、「いくつになっても持っているときめく心を刺激してれくるのでは」とその魅力を語っている。一見、若者向けと思われがちな西野の楽曲。だがじっくり歌詞を見てみると、恋する気持ちに寄り添った言葉たちはどれもシンプルで、それゆえしっかり共感を呼ぶものであることがわかる。彼女の楽曲が世代を超えて浸透し始めている所以は、この「普遍性」にこそあるのではないかと思う。  そんな「普遍性」を持った歌詞に加えて、もうひとつロングヒットを支えているのが、8月にリリースされたシングル『Darling』の意外な反響だ。得意のバラード曲から一転、カントリー調の軽快なテンポのこの楽曲は、当初から西野の新境地と話題となっていた楽曲。そもそもこれまで、切ない失恋ソングのイメージが強かった彼女にとって、恋する喜びや幸せを描くこと自体がある意味で挑戦だったはず。それが、プロモーションとはまた違ったかたちで、多くのリスナーに支持をされたということは、大きな自信に繋がる出来事だったに違いない。  2008年に、弱冠19歳でデビューして以降、常にシーンの先頭を走って来た西野カナ。ヒット曲を連発し、数々の記録を打ち立ててきた彼女だが、その勝因が大げさな戦略やタイアップ頼みのプロモーションにあると思ったらそれは間違いだ。彼女が一貫して大切にしてきたのは、ただひとつ「等身大でいること」。たとえばそれは同年代の友人たちの体験談を綿密にリサーチした歌詞であったり、出身地でもある三重県の方言を交えた話し方であったりにも表れている。ファンと同じ目線に立ち、彼女たちの日常を代弁する存在でいることこそ、彼女がひたすら追い求めてきた理想形と言えよう。  本作『with LOVE』を制作するにあたり、西野は「みんなの日常生活に寄り添うような、心温まるアルバムにしたい」とコメントしている。誰かの憧れになりたいのではない、いつもそばにいる身近な存在でいたい。そんな想いが感じられる言葉だ。ファッションが変化しようが、年齢を重ねようが、変わらないのはそんな彼女のアーティストとしてのスタンス。新たなフェイズに突入し、着実にファンを増やしつつある西野カナは、幅広い世代をカバーする女性シンガーとして、今後ますます飛躍するに違いない。 (文=板橋不死子)
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西野カナ『with LOVE(初回生産限定盤)』(SME)

■リリース情報 『with LOVE』 発売:11月12日 【初回生産限定盤】CD+DVD SECL-1609~1610 ¥3,600(税込) 【通常盤】CD SECL-1611 ¥3,100(税込) ■『with LOVE』配信サイト <iTunes> https://itunes.apple.com/jp/album/id930412775?at=10lpgB&ct=4547557036411_wn <レコチョク> http://recochoku.jp/album/A1001265287/ <mora> http://mora.jp/package/43000001/4547557036411/
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西野カナ『with LOVE(通常盤)』(SME)

■オフィシャルサイト http://www.nishinokana.com/

ハロプロ、2014年総まとめ 激動の1年を「人事異動」で振り返る

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年末恒例のハロプロ集合コンピレーションアルバム『プッチベスト15』(UP-FRONT WORKS)

【リアルサウンドより】  モーニング娘。を始めBerryz工房、℃-uteなど数々のグループにより形成されるアイドル集団、ハロー!プロジェクト。彼女たちの今年1年間の活動を、メンバー数の推移やハロプロ内での人事異動という切り口から振り返ろうというのが本記事の趣旨である。2014年1月1日の時点では、各グループの合計人数は61人だった(モベキスJ+ハロプロ研修生)。それが1年間でどう変わったのか? グループごとに見ていこう。 続きはこちら

三代目JSBの躍進から見える、新世代EDMクリエイターの充実とは?

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三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBE『O.R.I.O.N.(CD+DVD)』(rhythm zone)

【リアルサウンドより】 参考:2014年12月08日〜2014年12月14日のCDシングル週間ランキング(2014年12月22日付)(ORICON STYLE)  今週のオリコン週間シングルランキングは、SKE48の『12月のカンガルー』が38.6万枚で1位。2位には三代目 J Soul Brothers from EXILE TRIBEの『O.R.I.O.N.』がランクインした。というわけで、ここでは二つのグループの新曲について分析したい。  両者のシングルは「12月」と「オリオン座」という、どちらも明確に冬の“季語”を織り込んだタイトルになっている。このこと自体は不思議でもなんでもない。春は卒業や桜、夏は海やバカンスなど、ポップソングが季節感をテーマにするのは当たり前。加えて言えば2014年の三代目JSBは「春夏秋冬シリーズ」と銘打ってシングルを発売してきたわけで、このタイミングで冬をテーマにした曲をリリースするのは予定通りのことだ。  でも、この2曲とも曲調はアップテンポ。SKE48は「イエ—!」「フゥー!」というガヤの入ったハイテンションなアイドルポップ。三代目JSBは夏にリリースした「R.Y.U.S.E.I」に通じるEDMナンバー。J-POPの世界には「冬の王道はバラード」という風潮もいまだ根強いのだが、それをあえてハズしてきているのだ。  もちろん、それぞれのグループに事情と狙いがある。  SKE48は夏にリリースされた前作『不器用太陽』でグループ初のバラード曲に挑戦している。そして、この曲ではシングルとして初めて松井珠理奈と松井玲奈がセンターを離れ、新たに北川綾巴と宮前杏実がセンターをつとめている。世代交代を打ち出すこのタイミングではSKE48らしい元気でがむしゃらなダンスポップのほうがいいだろうという判断があったはず。AKB48『希望的リフレイン』の分析でさやわか氏が書いているとおり(参照:AKB48新作に見る、革新性と保守性の両立 グループの勢いを持続させるための施策とは?)、メンバーを若返らせながら保守性を両立させるような楽曲になっているわけだ。  そして三代目JSBは、これまで『冬物語』などミディアムバラードを冬の定番にしていたが、あえてEDMナンバーを選択。これに関しては、『S.A.K.U.R.A.』『R.Y.U.S.E.I.』『C.O.S.M.O.S. 〜秋桜〜』とリリースしてきた春・夏・秋の3枚のシングルのうち、明らかに頭一つ抜けた評価と結果を残したのが『R.Y.U.S.E.I.』である、ということが背景にあるのではないだろうか。  CDセールスも『R.Y.U.S.E.I.』が最も多く、YouTubeの再生数でも「S.A.K.U.R.A.」が約400万回、「C.O.S.M.O.S. 〜秋桜〜」が約890万回であるのに対し、「R.Y.U.S.E.I.」は約1660万回(2014年12月20日時点)とダントツの支持を集めている。さらにこの曲は「第56回日本レコード賞」の優秀作品賞にもノミネート。明らかに代表曲としての立ち位置を獲得したのだ。  というわけで、「O.R.I.O.N.」も「R.Y.U.S.E.I.」の続編的なナンバーとなっている。作曲を手掛けたのも、同じく「STY」と「Maozon」によるチーム。前にもこのチャート分析で書いたが、実はMaozonは同人音楽シーン出身のクリエイターだ。(参照:EXILEファミリーと同人音楽の「接点」とは? チャート1位の三代目JSB新曲から読み解く)。弱冠22歳。去年の今ごろはコミケで自主制作のCDを売っていた人が今年は作曲家としてレコード大賞にノミネートされているという、驚くほどのシンデレラ・ストーリーを歩んでいる。  2014年は初開催の「ULTRA JAPAN 2014」も大きな成功をおさめ、EDMが完全に日本のシーンに根付いた一年だった。さらに、初のアルバム『Don't Wanna Be』を12月24日にリリースするbanvoxや、海外レーベルからリリースされた「GAMER」が話題を呼んでいるBUGLOUDなど、若手の日本人プロデューサーもメキメキと頭角を表している。  三代目JSBの成功の背景には、そんな新世代EDMクリエイターの充実も伺えるのである。 ■柴 那典 1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

木村カエラが新作で見出した創作スタンスとは? 「沈んだ時の世界もちゃんと温めてあげたい」

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【リアルサウンドより】  木村カエラが、12月17日にアルバム『MIETA』をリリースする。デビュー10周年を記念した横浜アリーナ2デイズ公演を成功させたうえで制作した本作は、彼女の持ち味であるポップとロックの両面をそれぞれ突き詰め、アルバム全体として非常に勢いを感じさせる作品に仕上がっている。今回リアルサウンドでは、木村カエラ本人にインタビューを実施。アルバム制作時や10周年記念ライブで生じたという心境の変化に加え、ポップアイコンであることの矜持、ティム・バートンとの対面が作品に及ぼした影響などについて語ってもらった。

「プレッシャーが大きすぎて一回押しつぶされそうになった」

――8thアルバムの『MIETA』は、10月24日、25日、26日の横浜アリーナ公演でも提示されていたポップとロックの両サイドが、アルバム全体として融合されたような作品だと感じました。非常に幅広い楽曲が入っていますが、まずは制作のプロセスを教えてください。 木村カエラ(以下:カエラ):10周年のアルバムを作る話になったときに思ったのは、いろんなイベントがあるこの10周年企画を、まずは一つ一つクリアしていこうと決意したことでしたね。横浜アリーナでのライブもこれから準備という段階だったし、自分の視野をクリアにしなければいけない状態だったので、はじめは「クリア」という言葉をタイトルに考えていました。でももっともっとポジティブな言葉にしたいなとだんだん思って。 ――10月の横浜アリーナライブは大成功でしたけど、事前にクリアにしなければならない状況があったと。 カエラ:ライブが近づいてくるとプレッシャーがありますよね? いつもはそれを自分の中でポジティブな方向に持っていって、良い緊張でライブ当日を迎えるんですけど、今回はそのプレッシャーが大きすぎて一回押しつぶされそうになったんです。良いものを作りたいという思いがあるのにリハーサル中に歌が歌えなくなって、耳が聴こえなくなったんです。そんなことは初めてでした。元々私は自分の中で何か不具合があっても、あんまりそれを人に言わないんです。解決してから「あれはヤバかった」とか人に言うんですけど、今回はそんな状況じゃなくて症状に出ちゃったので、無理かもしれない、と。歌えないことが明らかになってきて、リハーサル中に涙が出てきちゃって、そうしたら周りのバンドメンバーやスタッフが集まってきて、「どうすればいいか」と話し合ってくれてすごく力をくれたんですね。
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『KAELA presents GO!GO! KAELAND 2014-10years anniversary-』10月26日公演より(写真=ミヨシツカサ)

――バンドメンバーやスタッフからはどんな言葉があったのでしょうか。 カエラ:バンドメンバーは10年間一緒にやっている人たちです。スタッフにも10年間変わらずやっている人たちがいて、みんなが力をくれて「今日はリハーサル止めますか?」「歌いやすいようにギターの音色変えようか?」「イヤモニを変えてみようか?」と、時間もないのにいろんなことを試してくれたんです。セットリストを一度も通せない状態だったのに、皆が落ち着いて私にパワーをくれたときに、「私は何をしていたんだ」とすごく思ったんです。それまで、だんだんと一人ぼっちな感じになっていって、自分で何もかも背負っていく意識になっていたんだと思いました。「木村カエラとしてこんな人になっていきたい」という自分の理想を突き詰めていくがゆえにそうなっていったんだ、と。 ――周囲のサポートで発想の転換があったわけですね。 カエラ:バンドメンバーに感謝するべき10年、応援してくれた人たちに感謝すべき10年なのに、自分だけのことにしか目を向けないでプレッシャーに負けて、何を私は自分だけで背負い込もうとしてたんだろう、って思った瞬間にすごく心が軽くなりました。しかもバンドメンバーに「カエラちゃんは完璧をやろうとしてるでしょ?カエラちゃんは完璧じゃないよ」って言われたんです。「カエラちゃんが楽しくないとお客さんも楽しくないよ」とホントにそうだよなって思うことを言われたり、いろんな言葉を掛けてもらったりしました。そうしたら段々と自分の気持ちと心が軽くなって、どこかで気持ちが変わって違うところに向ける意識が芽生えた瞬間に、「アルバムのタイトルは『MIETA』にしよう」って思いました。 ――アルバムタイトルには、この10年で築いた表現者としてのあり方や、それを支えるチームの存在が込められていたのですね。サウンド的には、ロック寄りの楽曲とポップな楽曲がとてもスムーズに共存していて、一気に聞ける作品になっています。 カエラ:「次は激し目の曲がいいな」「次はかわいい曲がいいな」と、今まで意識しないでロックとポップのジャンルをやってきました。それを改めて(横浜アリーナの)ライブで表現した時に、「私ってこんなに両極端なんだ。こんなに普通がなくてロックとポップの両極端に分けられる人っていないな」って自分で再確認したんですね。それは今まで意識していなかったのですごく気付かされたことだったんです。なので、それに気づいたことによって、すごく自信になりました。10年間続けることは、ある意味デビュー当時の夢でもあり、目標でもあったんですけど、10年後にロックとポップの境目が見えたこともあって、それをもっと突き詰めていきたい、私にしかできないことがあった、ということで、この先の自分が楽しみになりましたね。
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『KAELA presents GO!GO! KAELAND 2014-10years anniversary-』10月25日公演より(写真=ミヨシツカサ)

「落ち込んだ時に自分をどう感じるかで結局いろんなことが変わってくる」

――歌詞の面では、かなり吹っ切れたフレーズが印象的です。「MIETA」では「すべてはここからがはじまりなんだ/変わる ぐるぐる廻る」と。 カエラ:一度どん底を見て這い上がって得られたものがある、という流れが「MIETA」という言葉に入っています。アルバムの中には、そうやって自分が崩れそうになった時期に書いた歌詞もあるし、その途中を駆け抜けていったときもあるし、「見えた」ということが自分の中で決まってから書いたものもあるし、10周年の流れがこのアルバムの中には入っています。今までにないアルバムになったと思ってます。 ――サウンド的なコンセプトはありましたか。 カエラ:意識していたのは、ライブハウスツアーがあるのでかなりロックなものにしたい、ということでした。後は、10周年ということで自分がかなり攻めの状態でいたので、攻めのモードな曲が多いですね。それから、「eye」と「RUN」と「MIETA」は何となくロックとポップの両極端を突き詰めていこう、と気付かされてから作ったものです。「RUN」に関しては、もう何かふざけちゃえ、みたいなところがあります。もしライブ前に作ったら、もっと言葉を詰め込んで「何かから抜け出す」というようなことを延々と羅列するような歌詞になっていたんじゃないかな。ただ、ライブが終わって抜け出した状態で書いたので、走っている様というか、気が抜けた状態である意味ふざけたものをこの中に入れられたので自分としては満足しています。 ――タイトルトラックの「MIETA」は、□□□の三浦康嗣さんと共作したある種実験的な曲でもありますね。断片的なフレーズをつないで、ひとつの世界を作っている。 カエラ:まず三浦さんと一緒にやるというのが新しいことだったので、それをアルバムのタイトル曲にしたいと思いました。□□□自体が実験的なことをやっているし、今回の「MIETA」という言葉にすごくパワーがあると思っているので、その感覚をどう表したらいいか、ということを三浦さんと打ち合わせで話していました。実際にレコーディングしながら「ここは尺を伸ばそう」とか、構成を練っていきましたね。昔はわからなかったことが今はわかる、ということはよくあるし、過去の自分と比べることによって人は成長していく過程に気付かされます。そして成長している実感が自分の自信につながります。そこで「見えた!」と思った瞬間っていうのを描けたらすごくいいなと思いました。だから三浦さんの、時の経過を感じさせる音はすごく合っていると思います。 ――「君は僕の鏡となり僕を映し出すよ」というフレーズに込めたものは? カエラ:私はこれまでも「人は一人で生きてはいけない」というテーマをずっと書いてきました。そんな中で「人は人の鏡である」ということ、人の鏡になれる自分というのは、何かを乗り越えて自信を持った瞬間に初めて、自分自身の姿と心を真っ直ぐに見つめることができるんじゃないかと思ったんですね。この曲はそんな思いから歌詞を書きました。 もうひとつ思うのは、落ち込んでいる時でも明るい時でも、自分を温めて大切にしないと見えるものも見えないということですね。自分を温める方法を何か見つけることで全然見える世界が違う。実はアルバムを作っている時期にティム・バートンさんとミシェル・ゴンドリーさんに会ったんです。ティム・バートンさんは個展を観に行ったんですけど、彼の作品にはけっこう怖いものやエグいものがあります。でも、一方でただ可愛くもあるじゃないですか? その不思議な感じはなんだろう、と改めて考えたんです。彼は自分が元々持っている暗い世界に対してもすごく愛情を持って接していて、その愛情によって作品を生み出していると思うんです。そこで「自分が沈んだ時の世界もちゃんと温めて見てあげないといけない」という思いになったんですよね。 ――なるほど。それはティム・バートンの表現論としても納得感がある言葉ですね。 カエラ:人が日々生活している中で浮き沈みは絶対にあるじゃないですか? その中で、落ち込んだ時に自分をどう感じるか、自分のモチベーションをどう思うかで、結局いろんなことが変わってくるんじゃないか。そんなことをティム・バートンさんの個展を観た時に改めて感じたんです。ミシェル・ゴンドリーさんについては「いつもどういう風に作品を作っているの?」と質問されて「いつも姿形を変えていろんなことをやっています。新しい自分をどんどん作っていかないと人が楽しくないと思ってるんです。」と答えたら「それが正しい。僕もそうなんだ。」って言われた時に、すごく救われた気持ちがしたんですね。大好きな人にそういう言葉を掛けてもらえたことで「この10年が間違いじゃなかった」「じゃあこのままいこう!」というパワーに変わりました。この2つの出来事によってすごく背中を押してもらえたし、そこで考え方が少し変わって前に進めた感覚もありました。「MIETA」の中で「深い闇の中でも自分を温めよう」という言葉が出てくるんですけど、そういうところとつながっています。
20141217-kimura4.JPG『KAELA presents GO!GO! KAELAND 2014-10years anniversary-』10月25日公演より(写真=ミヨシツカサ)

「『TODAY IS A NEW DAY』は木村カエラを表している曲」

――先ほどの「鏡」の話にも通じるかもしれませんが、聴き手など第三者に開かれている感覚は今回の作品の特徴のひとつかと思います。カエラさん自身、今作を作るときに外に向うエネルギーを感じていましたか? カエラ:それはめちゃめちゃありましたね。第三者を立てることで、自分も聞いている人の感覚になる部分がありましたし、自分が感じてきたことを経て「人の背中を押したい」という気持ちがとても強かったですね。10年間自分がやってきたことも、「夢を忘れないで」「一人で生きてはいけない」「何があっても自分自身で自分の中をどうにかしなきゃいけないんだけど、私はそのお手伝いをしたい」ということ。それがこのアルバムにはすごく入っています。「ぼく」という言葉がよく使われているのは、それが出ているからだと思います。自分が誰かに励まされたいというモードがあったので、第三者を「ぼく」という形で作り出して、自分自身にも言葉を掛けてもらう、ということです。例えば「one more」とかもそう。「あなたしかないものがあるんだ あなたがやり遂げることが僕にとってすごいサプライズになるんだよ」と言われたら、私はできる、みたいな。もし何かをやろうとしている人や、自分の個性を見失っている人がいたら、その人達への応援ソングになるんじゃないかと思いました。

木村カエラ - 「TODAY IS A NEW DAY」Music Video

――『TODAY IS A NEW DAY』はこのアルバムを象徴する曲で、ライブでも大切に歌われていたと感じました。 カエラ:この曲は本当に木村カエラを表している曲だと思っています。10年間ずっと関わってきたASPARAGUSのしのっぴ(渡邊忍)が作ってくれているというのがまずあります。歌詞も彼と共作しているんですけど、Aメロやサビはけっこう彼が書いていて、私を知っている人にしか書けない世界があると思います。私自身は元々、自分の心と向き合いすぎる方で、ちょっと根暗なところがある(笑)。それから「幸せになりたい」「笑っていたい」とかいうことが私の生きていることのテーマでもあります。だから私は毎日どこかで「幸せでいよう」「笑っていよう」と気持ちを切り替えています。その感覚がすごく入っていて、「何かあっても自分の気持で切り替わるから大丈夫」とすごく力強く言っている曲で、この曲を聴くと気持ちが切り替わって「大丈夫!」と思えます。私らしいし私のテーマでもあるし、全部入っている感じがします。 ――根暗かどうかはさておき(笑)、確かに内省的な要素は作品の底流に流れていて、リスナーはそれを知っているから、カエラさんの曲にハマれるのかもしれません。自分の中の影の部分とずっと向き合ってきたという感覚ですか。それともキャリアを重ねるに従って悩みも増えてきたと? カエラ:常に悩んでましたけど(笑)、そのときどきによって悩みは違ったりしますね。デビュー当時は自分をどう出していけばいいか悩んでいた時期もあります。有名になったらなったで、奇抜な部分があるからか、あることないこと書かれて傷ついたりもしました。震災が起きた後は、傷ついたり、それを乗り越えようとしている人たちに届けるためには、自分の奇抜さは必要ないのでは……と考えたこともありました。「Sun Shower」のような優しい曲や自分の内面に向き合った曲を出した方がいいんじゃないか、とか。とにかく誰かに対してできることを探して悩んできた時期もあります。  でも今はとにかく、「私にしかできないことがあるはずで、それを全力でやる」という感覚です。今は攻めの状態にあって、10周年といっても「私、全然止まってないよ」という気持ちなんですね。とはいえ、ちゃんと影があって光があるというか、そのふたつはくっついて離れないもので、両方ないと真実味がない感じはします。全力で作りすぎて、現時点ではどう説明していいかわからない、という感じがありますけど、10年間の中で一番いいアルバムなんじゃないかと私は思っています。聴いてもらったら、自分の中で何かが変わったり、はっとすることは絶対にあるはずです。そんな変化を求めて作ったところはあるから、それを体験して欲しいと思います。
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「『ロックとポップ』というものをもっと突き詰めたい」

――横浜アリーナでのライブを観て、木村カエラというポップアイコンであることを楽しく引き受けていらっしゃるように感じました。アイコンであること、に関してはどのように考えていますか。 カエラ:アイコンと言われることは自分にとってすごく自信につながることだったし、元祖アイコン、という感じのTwiggyのような人が大好きなので、その人達と同じようにアイコンとして扱われることは当時、「マジで?キタ!」という感じですごく嬉しかったです。自分の世界を出すということで自分がすごく救われた部分もあったし、しかもそれが受け入れられて、ちょっと変なことを言ってもそれを面白がってもらえたことに救われました。後は元々、根暗の自分と木村カエラという人物はけっこう別のものだと思ってるんです。木村カエラになるとカラフルな服を着るしメイクも面白くして、私の中の夢をそこで全部叶えてます。私の中で、夢はすごくカラフルだけど現実は白黒、というイメージがあります。例えば今話してる私が白黒だとしたら、テレビやライブにいる木村カエラはすごくカラフルです。それをずっと作り上げてきた感じがあるので、それがうまくいってると現実の私もカラフル、という感じがあります。 ――10周年イヤーは3月からのツアーで一区切りになるかと思いますが、アルバムはそこで終わりではなくてこれから向こう10年くらいのカエラさんの方向を指し示す作品ではないかと思います。今回の「見えた!」というところから、今後表現者としてどうやっていくか、というイメージは何かお持ちですか。 カエラ:はっきりと決まっていませんけど、「ロックとポップ」というものをもっと突き詰めたいと思っています。その作業はすごく面白くなりそうだし、自分にしかできないことがきっとその中にあるはずだと思うんです。ロックに関しては本当に「誰にも負けない」という思いで…いきたい(笑)。その感覚を忘れずにこれからもやっていきたいと思いますね。ライブハウスツアーもあるので、そこでまたお勉強して、もっと良くなりたいです。 ――今作は、プライベートレーベルの「ELA」からのリリースとなりますが、今後はレーベルの活動にも力を入れていきますか。 カエラ:具体的には決まっていませんが、いろいろとやってみたいですね。最初は「モデルが歌やってる」みたいに思われちゃってたところもあって「絶対10年続けてやるぞ」みたいな意識が自分の中にありました。ようやくそれを迎えて夢が叶ったことで、歌一本から少し解放されたところもあります。だからここからはもう少し、例えば絵本を描いてみたり、歌以外のこともしてみたいですね。そこから何が広がっていくかわからないですけど、まだオリジナルアルバムも第一弾なので、いろいろと自分ができることを探していきたいと思います。 (取材=神谷弘一/構成=高木智史)
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木村カエラ『MIETA(初回限定盤)』(ビクターエンタテインメント)

■リリース情報 『MIETA』 発売:12月17日(水) 価格:初回限定盤<あなたの努力次第でみえる仕様>(CD+DVD) 価格:¥3,500+tax    通常盤(CDのみ) ¥3,000+tax <CD収録内容> 01.one more 02.sonic manic (ソニー ハイレゾ音源対応ウォークマン® & ヘッドホンCMソング) 03.TODAY IS A NEW DAY 04.MAKE THIS DREAM REAL 05.c’mon 06.Satisfaction 07.RUN 08.MIETA 09.OLE!OH! 10.Wake up 11.eye <DVD収録内容>※初回限定盤のみ MUSIC VIDEO&MAKING:「OLE!OH!」、「TODAY IS A NEW DAY」 GO!GO! KAELAND BACKSTAGE オリジナルクイズ 「MITEA Q」 <「MIETA」 限定特典> ・Amazon “ぐるぐる廻る季節がMIETAカエラカレンダー” ※対象は初回限定盤のみ。無くなり次第終了。 ・TOWER RECORDS全国各店/TOWER RECORDS ONLINE “「MIETAぞ!! クリア下敷き」 TOWER RECORDS ver.” ※先着順での配布。無くなり次第終了。一部取扱いのない店舗もあり。 ・HMV全国各店/HMV ONLINE “「MIETAぞ!! クリア下敷き」 HMV ver.” ※先着順での配布。無くなり次第終了。一部取扱いのない店舗もあり。 ・TSUTAYA全国各店/TSUTAYAオンラインショッピング “「MIETAぞ!! クリア下敷き」 TSUTAYA ver.” ※先着順での配布。無くなり次第終了。一部取扱いのない店舗もあり。 ※TSUTAYAオンラインショッピングは、予約分のみが対象。 ■iTunes https://itunes.apple.com/jp/album/mieta/id944110655 ■GYAO! 木村カエラ 「TODAY IS A NEW DAY」 http://gyao.yahoo.co.jp/player/00091/v10064/v0994000000000542851/ ■ライブ情報 ライブハウスTOUR 2015 『MITAI KIKITAI UTAITAI』 2015年3月6日(金)東京都 赤坂BLITZ 2015年3月8日(日)岐阜県 CLUB-G 2015年3月15日(日)静岡県 Live House浜松窓枠 2015年3月20日(金)兵庫県 神戸チキンジョージ 2015年3月21日(土)京都府 KYOTO MUSE 2015年3月28日(土)福島県 郡山Hip Shot Japan 2015年3月29日(日)宮城県 仙台Rensa 2015年4月4日(土)熊本県 熊本B.9 2015年4月5日(日)鹿児島 CAPARVO HALL 2015年4月11日(土)香川県 高松オリーブホール 2015年4月12日(日)広島県 CLUB QUATTRO 2015年4月28日(火)新潟県 新潟LOTS 2015年4月29日(水)石川県 金沢EIGHT HALL 2015年5月16日(土)福岡県 Zepp Fukuoka 2015年5月23日(土)北海道 Zepp Sapporo 2015年5月29日(金)愛知県 Zepp Nagoya 2015年5月30日(土)愛知県 Zepp Nagoya 2015年6月5日(金)大阪府 Zepp Namba(OSAKA) 2015年6月6日(土)大阪府 Zepp Namba(OSAKA) 2015年6月12日(金)東京都 Zepp Tokyo 2015年6月13日(土)東京都 Zepp Tokyo ■KAELA WEB http://kaela-web.com/

tha BOSS×般若が語る、日本のヒップホップの臨界点「ラッパーの表現の質はどんどん上がっていく」

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左・般若。右・tha BOSS。

【リアルサウンドより】  THA BLUE HERBのラッパー・ILL-BOSSTINOが、ソロ名義「tha BOSS」として、同じくソロで活躍するラッパー・般若とコラボレーションし、シングル『NEW YEAR'S DAY』を12月10日にリリースした。同作は、12月26日に東京・LIQUIDROOMにて行われるツーマンライブ「One Mic」に向けて制作されたもので、90年代後半より日本のヒップホップシーンの前線を走り続けてきたふたりが初めてタッグを組んだ作品だ。  北海道・札幌にレーベル「THA BLUE HERB RECORDINGS」を立ち上げ、自分たちにしかできないヒップホップを深く追求し、そのストイックな姿勢と独自のスタイルでシーンにおける圧倒的な支持を獲得してきたtha BOSS。元・妄走族のメンバーで2003年からソロとして活動を開始、数々のMCバトルではその勝負強さを見せつけ、一方ではシンガーソングライターの長渕剛と親交を持つなど、オリジナリティ溢れる活動を展開し、唯一無二の存在感を示してきた般若。ラッパーとして確かなスキルを培ってきたふたりは、なぜ今のタイミングで共作を行い、世に出したのか。そして、現在の日本のヒップホップシーンについて思うところとはーー。作品の聴きどころから、お互いの表現論について、さらにはこれからのヒップホップに寄せる期待まで、じっくりと語り合った。聞き手は、音楽雑誌を中心に活躍する編集者の上野拓朗氏。(編集部)

tha BOSS「一緒に曲をやるのは時間の問題だった」

――こういう“夢の組み合わせ”みたいなコラボレーションって、タイミングだったり環境だったり、いろんな要素が折り重なって実現すると思うんですけど、今この時期に「NEW YEAR'S DAY」っていうまさにドンピシャな曲をリリースするアイデアは、どこから出てきたものなんですか? tha BOSS:まあ、リキッド(リキッドルーム)だね。リキッドで12月26日にツーマンをやるってことが決まって、それが10月頃だったのかな……まだ時間もあったから、“じゃあ、1曲作ろうか”という流れで。 般若:お互いの中で、いつかは一緒にやるだろうっていうのが、絶対にあったと思うんで。だからタイミングなのかなって。今回のリリックの題材に関しては、BOSS君からいただいたもので、年末っていうモロにピンポイントだったこともあるし、いいかなと思いました。 tha BOSS:バンドのライブからインスピレーションを受けることもあるけど、どうせなら自分のスタイルと同じ1MC+1DJのライブから、いろいろ学びたいっていうのは常にあって。そうなってくると、俺の世代で1MC+1DJで生き残って、ちゃんとしたクオリティでコンスタントに全国キャパを問わず色んな会場でライブをしている人間っていうと、同世代ではもういないからさ。それを考えたら般若とか、田我流もそうだね。そっちの世代に目を向けたら、凄いヤツらがめちゃめちゃいるから。しかもクオリティが高いし。で、俺はそっちの方にここ何年間は常に視線がいってるというか。そういう人たちと勝負してる方が面白いし、だから一緒に曲をやるのは時間の問題だった。特に般若や田我流とかはライブでブッキングされることもあったから。そういう時に少しずつリンクしていって、距離が縮まっていった。でも、曲を作ろうぜ、よしやろう!っていうのは瞬発力だから。ノリだよ。今回はたまたまそれがうまくハマったなって。 ――リリックは、シンプルに今年を振り返るっていう内容ですよね。 般若:自分は超個人的なことをむちゃくちゃ言ってますけど、そこはBOSS君と真逆なところというか。BOSS君の場合は、もっといろんな人にわかるようなリリックで。だから、まとまったかなとは思うんですけどね。(リリックを)書き始めてからは自分の場合は早いんで、最初は10分くらいで書いたんじゃないかな。時系列に書いていって。そこからBOSS君に指摘されたところも考慮して2回ぐらい直してって感じですかね。 tha BOSS:年末に歌う曲っていうのは、去年の暮れに考えてたんだよね。 般若:いいっすね。 tha BOSS:そういう曲ないよなって。クリスマスになると、いつもジョン・レノンの曲(「ハッピー・クリスマス」)がかかって。深いところだと、SIONの「12月」っていう曲もある。そういう曲ってヒップホップにはないなって、去年の12月くらいに何気に思って。で、般若と一緒にやることになった10月くらいだと、年末のことってリアリティがまだあんまりなかったんだよ。でも、毎年、その時は絶対に来る。来年も再来年も来る。“年末”っていうのは必ず来るから、その時にだけかかればいいし、その時にだけライブでできればいいくらいのノリなんだよね。その中で般若に今年起こったことっていうのは、当事者ではなく離れた俺から見ても、結婚したり、子供ができたり……っていうのは、Bボーイでマイク1本で戦ってきたMCにしてみたら、強烈な変化だと思うんだよ。表現そのものが揺さぶられるくらいの変化というか。だから、そこをリリックに入れてほしいと伝えたし、そこを歌うべきだと俺は思った。 般若:個人的にこの一年は半端じゃなかったっす(笑)。一年に2回ワンマンやったし、結婚、出産、事件とか、とにかくめちゃくちゃでした。でも、この曲の題材はめちゃくちゃキャッチーですよね。 tha BOSS:本当に。忘年会ソングになってほしいよ(笑)。 般若:みんな歌えないけど(笑)。 tha BOSS:カラオケだったらいいんじゃない? 般若:無理だと思います(笑)。

般若「どんなビートに乗っかってもBOSSなんだなって。改めてぶん殴られたような衝撃」

――tha BOSSさんは般若さんと一緒にやってみて、同じMCとして何か改めて感じることはありましたか? tha BOSS:般若が凄い!っていろんな人間が言うけど、何が凄いかっていうのは、レコーディングして作品が生まれるところに触れてみないと、本当の般若の凄さはわからないと思ってた。いろんなイメージってあるじゃない? 俺もイメージで語られる人間だし、般若はわりとフィジカルなイメージが強かったんだよ、俺の中では。でも、今回曲を作ってみて、リリックの韻の踏み方とか俺的には結構衝撃だった。韻を踏んでるか踏んでないのかわからないけど、よくよく辿ってみれば、めちゃくちゃタイトに踏んでる……みたいな。しかも難しい言葉じゃなくて、口語体なのにすごく自然に韻を踏んでる。そこに最初にビックリした。 般若:自分らは派手に表に出るタイプの人間じゃないと思うんです。BOSS君が17年間やってきた中で、TBHRからのリリースで自分じゃないラッパーと初めて同じブースに入ったって言ってくれた時、「マジっすか?」ってなるわけじゃないですか。それで改めてBOSS君のラップを目の当たりにして、「この人、スゲーな」と。どんなビートに乗っかってもBOSSなんだなって。改めてぶん殴られたような衝撃を自分も味わってましたね。お互い、たぶんラップに関しては、もの凄いマニアックだと思うんですよ。どっちかっていうと自分の場合は他のアーティストを呼んだり、逆に呼ばれたりとかが多かったので、いろんな人を見てきたんですけど、その中でも忘れられない刺激的な瞬間でしたね。お互いに曲が進むにつれて興奮してましたから。いい曲になるなって。やっぱわかるんですよ。これは間違いないっていう予感が確信に変わっていくような。そりゃそうだよな、BOSSと般若がやるからそうだよなって思いながらやってましたけど。 tha BOSS:本当に良かったよ。すごく突き抜けた曲になったから。年末なのに、しみったれてないっていうか。でも、THA BLUE HERB RECORDINGSにラッパーを招いて同じブースに入ったのは本当に初めてで、自分以外のラッパーが俺の曲にバースを入れたのも初めてなんだ。で、今回のシングルはTHA BLUE HERB RECORDINGSから出すんだけど、次は般若の昭和レコードから出そうっていう流れもあって。 般若:俺は次にBOSS君とやる時は、まったく違うことをやろうって思ってます。もの凄い変態なことをやります。 ――想像以上のものが仕上がってきそうですね(笑)。 tha BOSS:実際のところ緊張感もあったよ。俺も自分の意見を般若に伝えるのに正直すごく気を使ったし、それはお互いMCだからね。ミュージシャンだと調和を求めるけど、MC同士がやるとなると、本当に調和を求めていいいのかどうかということすらもわからない。ぶつけ合うことはもちろんあるけど、同じビジョンを共有するってことは電話やメールだけじゃ正直わからないから。 般若:そうですね。 tha BOSS:だから、一緒にブースに入ってみないと。そういう意味じゃ、そんな俺のことも受け入れる度量が般若にはあったし、だから完成したというか。 般若:みんなが俺にどういうイメージを持ってるかわからないですけど、自分の歌にある優先順位の中で一位にあるのは、人と作る時に“最高の作品にするために”ってことなんですよね。最高のものにするために、リリックを書き直してくれとか、ここをちょっと変えてくれとか言われても、自分は何回でもやる。それで作品が良くなるんだったら。だから、そういうところに変なエゴはまったくないんですよ。作品が良くなればいい。

tha BOSS「他の仕事やってる人と同じように、 挫折を乗り越えてここまでお互い辿り着いたんだ」

――tha BOSSさん的には、2014年はどんな一年だったんですか? tha BOSS:今年はライブと練習だけだった。だから、辛抱することが多かったっていうか。新しい作品を出した時はやっぱり景気も良くなるし、THA BLUE HERB自体の血流というか代謝が良くなる。お客さんとの交流、金まわり含めて、いろんな意味で活性化する。前のアルバムを出して2年が経って、今年はライブだけで生きてきたわけで、オレらはこういう人間ですっていうことだけで日本中をライブしてたからね。まぁ正直、世の中の景気はあんまり良くないし、そういう意味じゃ今年は我慢の年だったとも言える。ライブの質はどんどん上がっていくんだけど、人が入る時もあればぜんぜん入らない時もある。そんなのいつものことなんだけど、なんとか12月まで来れた。生き残ったなって感じがする。勝ちまくったなっていうよりは、なんとか今年も生き残れたっていうか。 般若:いや、それは勝ってるんですよ。ライブだけでやれてる人なんて、正直今いないですよ。ここはみんなが触れちゃいけないことなのかもしれないけど、凄いリアルですね。人の噂であいつはヤバイ、こいつはキテるとか、そういうのを一回抜きにして、年間通して地に足着けてやれてる人はそんなにいないですよ。BOSS君は自分よりも世代は少し上の人で、BOSS君世代でちゃんとやってる人って、僕から見てBOSS君しかいないんですよ。これは500%間違いないと思うんですけど(笑)。だから、俺はすげぇと思うんです。生き残ってるってことはすげぇことで、やってること自体が凄い。まあ、俺もいつまでできるかわからないけど。 tha BOSS:まあ、俺はたまたまできたけど、同じように俺と同世代でラッパーやってるけど、それができなかったヤツは何をやってたかといえば、やりたくもねぇ仕事をしてたのかもしれない。でも、そんなの街中を見てみれば、みんな大変なんだよね、生きていくっていうのは。 般若:「NEW YEAR'S DAY」は、本当そういうのを全部含めての曲になってるのかなって思いますね。 tha BOSS:確かに。 般若:たまたま我々がラップという表現を通して作っただけであって。 tha BOSS:曲は突き抜けてるんだけど、その根底に流れてるのは、やっぱり挫折なんだよね。般若がこないだ出したアルバム『#バースデー』を一つ取ってみても、楽しかったことと同じ数だけ挫折があったというのは一目瞭然だし、ラッパーやりながらも、他の仕事やってる人と同じように挫折を乗り越えてここまでお互い辿り着いたんだ。 般若:その通りです。 tha BOSS:バックトラックはどこまでも突き抜けてるんだけど、俺のバースの“お疲れさん”も含めて、曲の中にはいろいろな悲しみや涙が実はちゃんとあるんだよね。やっぱみんな大変だし、俺も生き残るのが大変だったから、敢えてここは“お疲れさん”で締めようっていうようなところまで行くわけで。根底に流れているのは挫折なんだよね。傷であったり。 般若:俺、“お疲れさん”って入ってきた時に、なんて優しい曲なんだろうって思ったんですよ。そんなこと言われたことないのに(笑)。 ――でも、そういうふうにトラックの曲調とリリックの内容の対比で奥行きを出すというか、そういう醍醐味ってヒップホップならではだと思うんです。 tha BOSS:ヒップホップだね。挫折から始まってるよ、ヒップホップは。 般若:挫折から始まってないヒップホップが多すぎる(笑)。嘘つけこの野郎って(笑)。 tha BOSS:俺らなんか特にそうだから。ルーザーだから。 ――こういう味わい深さみたいなのって、なかなか出せる人って少ないと思うんですよね。 般若:まぁまぁいい歳だからじゃないですかね、現実的に(笑)。そういうのを自然に言えるようにもなったんじゃないかなとは思います。 tha BOSS:ネクスト・レベルだよ、これからの日本のヒップホップは。本当にそういう世界に突入していく。現実に世の中はどんどん廃れていくしさ。ラッパーはどんどん表現が成熟していくから、やっぱりそこに視点を向けるし。世の中のことを歌うことだけがすべてではないけど、歌うには十分すぎるくらいの没落具合を見せるはずだから、この国は。でも、ラップの表現の質はどんどん上がっていく。俺が1番ヤバいっていうよくある視点から、もっと上のレベルに曲自体の質が上がっていくはずだよ。 般若:俺の場合は、たまに自分みたいなヤツの曲を聴いて、少しでも笑ってもらえればいいやっていうくらいの感覚でしかやってないです。だから「NEW YEAR'S DAY」を聴いて、バカだなこいつって思ってもらえればいいっていうか。“結婚発表した日に被害届出されたって何?”みたいな(笑)。そういうところで笑ってもらえればいいかなって。 tha BOSS:でも、その歌詞には意外といろんなものが詰まってるんだよね。般若の今回のバースも、最初に聴くのと何回も聴くのとでは印象が違う。俺的には後でどんどん効いてくるというか。 般若:後効きだと思います(笑)。 tha BOSS:俺より単語が少ない分、言葉の表現がシンプルになってるんだけど、凄いと思わせる何かがあるんだよね。“俺より辛い思いしたヤツいんのかよ”っていうようなところまで、ふっとみんなを連れて行く力がある。 般若:「NEW YEAR'S DAY」もBOSS君のリリックに比べると、俺の方が言葉の数が圧倒的に少ないじゃないですか。でも、BOSS君の今回のリリックですべてを表してるのは、“俺独り良けりゃじゃねえ/ちゃんと連れてく”ってところで、この“ちゃんと連れてく”って言葉にすべて含まれてる気がします。置いてけぼりにするようなラップも、まぁそれも時として俺は必要だとも思うんですよ。みんな説明を求めたがるじゃないですか。だけど自分は、「これはどういう意味なの?」「知るか!」って感じのタイプの人間だと思っていて。それ以上でもそれ以下でもねぇ。お前がそう思うならそうだろっていう。それでいいんですよ。もうちょっと感性に対してお互い豊かになっていくべきだと思うから。そういった意味では、俺は最近リスナーの心が少し貧乏になってきたのかなって正直感じるんです。それは俺の実力不足なのかもしれないけど、そう感じる時があります。でも、ライブは理屈じゃない。作品は勝手にみんなが解釈してくれればいいと思うんですよね。

般若「ステージに立ってる時は、お客さんの顔が凄いゆっくり見える」

――般若さんの野音のライブも、まさに理屈じゃないところで何かが突き動かされていくようなエネルギーがありましたよね。般若さんはライブをしている時、オーディエンスとその場を共有している感覚はあるんですか? 般若:そうですね。こっちから発信してきたものが、もうみんなの曲になっちゃったんだなぁとか、そういうふうに思うことはあります。でも、ライブをやっている時はこっちもそんなに余裕もないので……余裕なくないですか? tha BOSS:ないね。戻れないし、進めていくしかないからね(笑)。乗り遅れてるヤツなんて構ってない(笑)。作品は別にみんな好きに聴いてもらえればいいよって感じだけど、ライブに関してはこっちがラップしてる最中は“つまらないんだったら、帰れば”って感じで。共感してくれてるヤツらしか相手にしない。ただそれだけ。それくらいの絶対的な肯定を求めるね。 般若:そうやって俺はここ3年、いろんなことを我慢してるんで(笑)。 tha BOSS:でも、申し訳ないけど本当にそうだわ。結果や批判は甘んじて受ける。それはしょうがない。俺だっていろんな曲を聴いて良い悪いは言うし、それこそ昔が良かったとかも言う。ただ、ライブのまさにラップしてるその瞬間に関しては“悪りぃけど”って感じだよね。それ込みの入場料金だからって。 般若:間違いないっす。別にライブ中に微動だにせずスマホ片手に見てるのもいいんですよ。逆にそれでメシ食えんじゃねぇかみたいなヤツもいるわけです(笑)。葬式みたいに突っ立ったまま。まあ、いろいろ変わったのはしょうがないですけど、でももったいないぞってところはあります。スマホで動画を録るのはいいけど、お前が見てるのはスマホだぞっていう。あんなの女を目の前にしてエロ動画見てるのと一緒ですわ。マジでそう思いますよ。そういえば俺、ライブで目の前で化粧直された時、勃起しそうになりましたからね。昔の話ですけど。 tha BOSS:俺も目の前で化粧直されたことあるわ。 般若:最高! tha BOSS:こいつなんの準備してるんだよって。 般若:最高でした。 tha BOSS:バンドだと、ここからはギターソロとか、ここからはコーラスみたいな感じで、自分を保てる隙間があるかもしれないけど、ラップの場合はずっとラップしてるからさ。目の前で化粧してる女がいる時も。 般若:客席でちょっと揉めてるヤツが見えたり、こっちは全部見えてるからってことです。 tha BOSS:お客さんは見てるつもりでいるけど、実は見られてるのはお客さんなんだよね。みんな丸見えなんだよ。 ――演者は一番よく客席が見えるところにいますからね。 般若:なんかうまく説明できないけど、ステージに立ってる時は時間軸がヘンに細分化されてるというか、お客さんの顔は凄いゆっくり見えるけど、自分の中では言葉がスピードに乗って回転していく。それと同時に今見えてるものに対しての意識が働いていたりしてるし、とにかく忙しいんですよね。 ――そういう意味で野音はどうでしたか? 般若:野外でちゃんとやるのも初めてだったんで、良いことと悪いこととはありましたね。照明とかも含めて箱の中だったら支配して作れるけど、野外は日が暮れてくるとともに進んでいくようなストーリーがあったりとか。お客さんも俺も時間とともに変わって、“あれ? みんな同一人物だったのかな”っていうテンションになっていく。そこは面白いと思うんですけどね。またやりたいです、あそこは。できるだけコンスタントにやりたいなと個人的には思ってます。俺のソロじゃなくてもウチの昭和レコードとかでもやりたいなと。今年は忙しかったですからね。1月に自分のワンマンをSHIBUYA-AXでやって、9月に野音をやって、10月はZONEのライブがあって、11月はSHINGO君(SHINGO★西成)のなんばグランド花月のワンマンがあって。

tha BOSS「景気が悪いからこそ生き残ってるのは実力あるヤツ」

――tha BOSSさんはさっき「今年は辛抱することが多かった」と話してましたが、般若さんのように何か劇的なことは起きなかったんですか? tha BOSS:いや、ないね。ずっとライブしてた。それだけだよ。準備してライブして、また練習してライブして。ライブは毎回全てが劇的だったけどね。 ――THA BLUE HERBではいろんなバンドと対バンしてきましたよね。ヒップホップというよりは、ハードコアだったりロックだったり、異種格闘技戦と言ってもいいフィールドでライブを行っている印象があるのですが、今回こうやって般若さんと一緒にやってみて、改めてヒップホップのフィールドで戦ってみたいという気持ちはあるんでしょうか? tha BOSS:そうだね。今回、般若とやったように、他のラッパーと一緒に曲を作ってみたい。そういうベクトルに今は向いている。自然淘汰の時代は終わったからね。ある程度落ちるヤツは落ちたし、残るヤツは残ったっていうか。残ったヤツは結局みんなそれぞれスタイルがあって、表現に対して真面目だし、歳も関係ない。だから、来年からはちょっと変化を加えてみようと思って。 ――そういうベクトルに向かったきっかけはあったんですか? tha BOSS:いろんな場所で、いろんなMCたちが生き残って、いいライブをやったとか、誰と誰が曲を作ったとか、ここ2〜3年ですごく変わったよ、日本のヒップホップは。景気が悪いからこそ生き残ってるのは実力あるヤツが多いし、ここまで残ってるヤツは本物だよ。で、みんな真面目だよね。曲作るにしてもライブにしても。ライブをやる時は、それぞれのペースで絶対曲げないでやるしさ。そういう意味では本当にここ2〜3年だね。昔のヒップホップバブルの時代とは違う。いろんな環境からいろんな人たちが現れたというか。だから、俺からベクトルを向けていったんじゃなくて、そういう大きな日本のヒップホップに俺も自然と吸収されていった感じ。 ――いろんなバンドと対バンしてきた経験っていうのは、どういう形なのかはわからないですけど、そういうところでまた活かされるんでしょうかね。 tha BOSS:場所がどうであれ相手がどうであれ、経験は活きてくるとは思うよ。ただ、バンドとやるのと、ヒップホップの連中とやるのとでは、セットがぜんぜん違うから。ヒップホップにはヒップホップにしかわからない面白さがある。そこで勝負をするのが面白くて。スラングやネタやトラックの使い方もそうだし、ヒップホップにしかわからないいろんなクイズがあってさ。それをお客さんと一緒になってやり取りするのがすごく楽しい。でも、バンド連中の前ではそんなの通用しないから。ヒップホップではない、もっと大きなミュージックってところで勝負していく。ぜんぜん戦い方が違う。 ――般若さんは来年何かありますか? 般若:野音でも公言したように、アルバムは出しますよ。あと、リリックにも書いてあるけど、別口で映画絡みのこともあるんで。あれは俺の中でも凄い経験になったし。『#バースデー』の制作の佳境だったんですけど、向こうからオファーをもらって、これはやらなきゃダメだろと思って、まるまる1カ月間、撮影に行ってきて。すごく大変でしたけど、いろんな人と何かを作れるってことに関しては、すごく感慨深いです。今回のBOSSくんの件も感謝しかないし。だから、来年はまたちょっと違う展開にはなっていくんじゃないかなって思ってます。俺らの世代で生き残ってる人たちは、みんなどっかしらそうだと思うけど、大きな意味では俺は仲間だと思ってるし。小っちゃいじゃないですか、ヒップホップっていう枠で構えちゃうと。町というよりは、ぜんぜんまだ村だしさ。そこを、みんなで町レベルにまで上げていったほうが面白いと思うんですよ。そんな楽しいジャンルでもいいじゃんとは思ってます。ヒップホップという一つの集合体の中だったら、自分は歯車でしかないと思ってるんで。それは昔からですけど。 ――12月26日のライブが楽しみですが、この日仕事納めの人も多いんですよね。 tha BOSS:そうだね。だから皆さんお疲れっていう、最後はそういう空気で行けたらいいよね。 般若:自分自身、楽しみにしてるんですけど、当日リリック間違わなきゃいいなって感じです。 tha BOSS:そうだね(笑)。一回しかないからね。 ――この日がステージ初披露ですよね。 般若:そうです。どっちが先、どっちが後に出るのかはわからないですけど、頑張ります。 (取材・文=上野拓朗/POKER FACE
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tha BOSS feat.般若『NEW YEAR'S DAY』(THA BLUE HERB RECORDINGS)

■リリース情報 『NEW YEAR'S DAY』 発売日 : 2014年12月10日(水) 価格 : ¥500(税抜) THA BLUE HERB RECORDINGS HP ■イベント情報 【LIQUIDROOM 10th ANNIVERSARY】 "One Mic" 出演: THA BLUE HERB / 般若 開催日: 2014年12月26日(金曜日) 会場: リキッドルーム 開場: 18:30 開演: 19:30 前売券: 3,500円(税込、ドリンク代: 500円別途) 当日券: 4,500円(税込、ドリンク代: 500円別途) お問い合わせ先: 東京恵比寿リキッドルーム (TEL: 03-5464-0800) http://www.liquidroom.net

藤巻亮太が明かす、“ソロ第二幕”に向けた葛藤と覚悟「レミオロメンとの差別化が縛りとしてあった」

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【リアルサウンドより】  藤巻亮太が、SPEEDSTAR RECORDS移籍第1弾シングル『ing』を12月17日にリリースする。前作『オオカミ少年』から2年という期間を空けてリリースされる今作では、弾き語りに近いシンプルなサウンドで、藤巻らしいリリカルで広がりのある「歌」を展開している。レミオロメンのこと、ソロ活動のことに向き合ったことで完成したという本作で、藤巻が乗り越えたものは何か。“ソロ第二章”にこぎつけるまでの葛藤の日々や、そこで見出した光明について語ってくれた。

「本当にソロとして何がやりたいのか、どのくらいの覚悟でやっていくのか」

――前作のアルバム『オオカミ青年』で、藤巻さんはソロシンガーとしての表現スタイルを確立したという印象がありましたが、今作の『ing』はそれから2年。思ったよりも時間がかかりましたね。 藤巻亮太(以下、藤巻):『オオカミ青年』は、レミオロメンを10年間やった後の反動という側面が強かったですね。『オオカミ青年』の収録曲の何曲かはレミオロメン当時からあって、その曲と向き合っていると自分自身が何かを吐露していく、吐き出していく、という気持ちを表現したくなって、「これはバンドよりもソロでやった方がしっくりくる」と思いました。今冷静に考えてみると、バンドの活動がなかったら自分自身の思いを表現したいという反動もなかっただろうと思います。だから、『オオカミ青年』まではひとくくり、という感じですね。 ――ソロの第一作で一区切り、というのは興味深いですね。それだけバンド活動が濃密だったということでしょうか。 藤巻:レミオロメンというバンドのことを、やっぱりものすごく考えました。「レミオロメンってなんなんだろう?」「バンドって何なんだろう?」「ソロって何なんだろう?」ということを自分の中でもう一度整理して、1stアルバムには衝動的にドロッとしたものを吐き出していった部分が多かった分、2枚目を作るなら自分の音楽性丸ごとで勝負していくことになるだろうと思いました。だから本当にソロとして何がやりたいのか、どのくらいの覚悟でやっていくのか、ということに対する覚悟が必要で2年かかりました。そして、やっぱりバンドは生き物で、自分の意志だけじゃなくてメンバー皆の思いや覚悟があるときに輝くものだし、そういうタイミングを作っていってそのテンションに向わなければ始められない。だから約束はできないけれど、いつかちゃんともう一度バンドをやろう、という思いが自分の中で決まった、ということと、じゃあソロを本当に始めよう、ということです。音楽にはもっと豊かでふくよかな部分もたくさんあって、それを表現したいと決まるときに出来たのが『ing』という曲です。 ――『ing』は時間がひとつのテーマになっています。単純に色分けしにくい重層的な感情が表現されていて、さまざまな受け取り方ができる曲ですね。 藤巻:自分にすごく向き合って作りました。今の気持ちを素直に言葉に乗せて、この曲を作ることで整理できるんじゃないか、という思いがありました。今の自分でどうにかできる問題と、どうにもできない問題があって、それを取捨選択していくことがひとつ。そして、1人で自分のキャリアをもう一度スタートするという現状を受け入れていくことで、本当に自分が進むべき道が見えてくると思ったんです。それで、世に出しても恥ずかしくないものをソロでもう一回出していこう、という覚悟が、この曲を書きながら定まっていきました。 ――「そうだ夜はこんなにも暗い」というフレーズが印象に残ります。 藤巻:夜っていうのは暗くて、夜の暗さを認めないうちは夜の暗さに追い詰められます。夜は暗いものだし冬は寒いもので、そうやって生きていくんだから、それを受け入れられれば一歩ずつ進んでいけるんじゃないか、ということです。自分の中で頑なに拒んだり思い込もうとしていたものをほどいていく。そういう思いがこの2年間ですごく大事でした。
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「生きていくってすごく一筋縄ではいかないな」

――メロディやサウンド面で見ると、『ing』は藤巻さんのすごくリリカルで叙情的な部分、ある種スイートな部分が出ています。長く聴いてきた藤巻さんの音楽という印象ですが、ご自身の感覚としてはどうですか? 藤巻:生きていくってすごく一筋縄ではいかないな、という思いがあります。10年前は10年前で何かを悩んでいたはずで、必死で生きてきた結果今の自分がいるということだと思うんです。でも人は過去に戻れないからこそ、今感じるいろんな感情…甘いだけじゃなくて苦いも辛いもしっかり味わっていくような生き方をしたいし、いろんな味わいみたいなところに生きていく光みたいなものを見つけた感覚、そこに向かって言葉を作っていこう、という気持ちがありました。 ――それは10年前とは違う感覚ですか? 藤巻:生きているというのはその現在進行形の「ing」、やっぱり今なんですよね。人間って過去に囚われたり、未来に不安を覚えたりする生き物なんだけれど、そういう中から今というものを取り出せる時に曲ができるんだと思います。そういう向き合い方の大事さとか、それを歌っていこうと思ったのが、『ing』から始まるソロの第二章です。すごく、ここから始まる、という気持ちでいます。 ――その境地にたどり着くまでに、具体的に行ったことはありますか。 藤巻:弾き語りを始めて、細かくライブハウスを回りましたね。そのなかで歌うことの楽しさやお客さんと出会えることの喜び、ギター1本と歌でどこまでやれるのか、といったようなすごくシンプルなところに立ち返れたことが大きいと思います。弾き語りでは言葉をどう聞いてもらうか、ということについてものすごく勉強になりました。あとは旅行です。8月はアラスカに行ってきました。アンカレジで1日だけホテルに篭った日があって、そこで「ing」の1コーラスができました。まだ夏なんだけど「今年はどんな1年だったかなあ」という気持ちが自然に出てきたんですよね。ちょうどそのときに広島の土砂災害があって、それをアラスカからテレビで見ました。今年1年、悲しいことがあって泣いている人がいる一方で、自分にとっての1年もあって、その中で今どういう風に生きるべきか、自分は本当に一生懸命生きられてるのか、ということをすごく考える時間になりました。 ――日本から距離を置いたことで見えたものもあるでしょうね。 藤巻:日常生活のルーティンから一度出てみることでわかることがあると思います。30代になってから特に旅が好きで、旅に出ることで「ここが自分の中で淀んでいたんだろうな」「こういうループから抜け出せていなかったんだな」ということを感じながら、自分にとって新鮮な音楽や言葉を発想していけるんですよね。アラスカでは季節が1つくらい先で、夏でも日本の秋っぽいんです。その寒さが、妙に「今年1年はどんな年だったかな」という気持ちにさせたのかもしれません(笑)。実際旅は、振り返ったり見つめたりする良い機会なので、それがなかったらこういうフレーズになっていなかったかもしれません。 ――アンカレジのホテルで曲の原型ができたとのことですが、歌を浮かび上がらせるようなアレンジに仕上がっています。 藤巻:サビは繰り返すコード進行なんですけど、だからこそその中で問い掛けが歌いやすくて、問いに対して視点の違うアンサーでサビのキャッチボールができたらいいな、と思いました。それからちょっとUKっぽいところもあったりします。イメージした、ということはなかったんですけど、ギターのアルペジオが冬を匂わせるようなもので、アレンジの中で温度感が出せたかと思っています。歌は温かいんだけれど、コード感や演奏はどこかザラッとしていて、その寒暖のコントラスト、緩急のあり方はいいところで落ち着けたいと思っていました。

「ソロをこのシングルからちゃんと始めること」

――先行配信された「アメンボ」はどのように作られた曲でしょうか。 藤巻:これは映画『太陽の坐る場所』のために作った曲です。自分の地元の山梨を舞台に作られた映画で、高校までのことを、数年後の同窓会で思い出しながら話が進んでいきます。同窓会で出会うというのは、ある意味でいろいろな傷とも向き合わなきゃいけないことで、当時の自分と再会する感覚って自分でもわかるなと思いました。自分の原風景に、その傷のような夕立があって水たまりができて、そこに青空が映ってアメンボが動いて水面が揺れる、というような景色があります。それを歌ってみたいな、ということがまずイメージとしてありました。 ――複雑な感情が「アメンボ」には込められていますが、聴き心地としては非常にシンプルな印象がありました。 藤巻:言葉が展開していって、一言で言えばいろいろな感情、「心の綾」のようなものがアレンジで表現できたらいいなと思いました。言葉と言葉の間にいろいろな思いが隠れていたりこぼれ落ちちゃったりして、そういう部分を音楽がどう拾っていけるか、ということは作り手としてもいつも思うところです。そこが見つけられると楽しいし、やっていて良かったと感じます。そういう風に、パワーで押し切るだけじゃなくて、幾重にも重なった複雑な思いをこの曲の中で拾い集められるように意識しました。 ――この曲はどのようなメンバーで演奏したのですか。 藤巻:ドラムはあらきゆうこさんで、ピアノが河野圭さん。ベースやギターは自分で弾きました。弦っぽいものやシンセも自分でやりました。曲ごとに演奏陣を考えたり、自由度がソロになってすごく高まってきていると思いますね。自分が表現したいことに対してより純度が高まっている手応えがあります。 ――その上で今、藤巻さんが欲しい音や演奏はどんなものでしょう? 藤巻:言葉と言葉の間にあるものを、メロディが埋めるのか、それとも違う楽器が違うことで埋めるのか。いろんな表現の幅やアングルがあるなと感じています。アレンジまでしていくと面白いし、本当に可能性がある。みんなでアレンジしていく喜びもたくさんあるんだけれど、1人でそれを突き詰めていく作品性というのも今だから挑戦できることです。ソロの1作目はアレンジも含めていろんな人と作った部分もあったけど、2作目に向かう今の段階は、一から十までやり切ろうかな、という思いがありますね。 ――3曲目に収録されている『Happy Birthday』は良い意味で無防備で、シングルならではの曲かもしれませんね。 藤巻:この曲は、過去でも未来でもなく今なんだ、というところをテーマにしているので、テーマはやっぱり似ています。1歳年を取って、その中でやっぱり、昨日の自分じゃなくて今の自分に戻っていくというか、誕生日を迎えることで新しい風が絶対に吹くし、それを今日も明日も吹かせていったらきっと素晴らしいことがあって、それが「今を生きる」ということになってくるのかなと思います。そういう意味で『ing』のテーマとつながっていますね。ただ、自分と向き合って深いところへ掘っていくことで『ing』を作ったのとは対照的に、この曲は本当に素直にスッと一筆書き出来た曲です。 ――掘り下げる、という意味ではレミオロメンのときから、すごくポップな歌でも藤巻さんの世の中に対する関心などが歌詞に表現されていたように思います。そういう作業はこれからもやっていく、ということでしょうか。 藤巻:人間って意識よりも無意識の世界の方が大きいと思うんですね。今こうして意識をつくって話していますけど、ものづくりでは無意識の世界から出てくる言葉の方がリアリティを持っているように思えることがあります。その深度によっては、「僕だけじゃなくて君ともつながっているかもしれない」ということがあって、そういう風に掘り下げた言葉は根っこの部分でつながっているかもしれない。そうした共通点まで到達する、そこまで掘り下げていく、ということは曲作りをする上で大事な気がしています。 ――次の作品へ向けた動きも始まっているのでしょうか。 藤巻:まだちゃんとは始まっていませんが、年明けくらいからレコーディングを始めていこうかと思っています。曲はこの2年間で20曲以上出来ました。その中でより良いもの、今に近いものを選んだり新しく作ったりして、代名詞になれるような作品を作りたいです。 振り返ると、僕の中でどうしてもレミオロメンというバンドとの差別化が自分の縛りとしてありました。そういう縛りは止めて、自分が持っているものや素直に思っているものをちゃんと丸ごと出していこうと思っています。弾き語りをやったことが楽曲に影響することもあるし、自分の根っこにあるバンドサウンドというものがもう少し洗練されてくる部分もあるだろうし、そんな中で今生きていくことをもっと素直に言葉にしていこうと。今できることは、ソロをこのシングルからちゃんと始めることです。一人一人の心に届くように、一対一の気持ちを忘れないで、作って、伝えていきたいですね。 ――その第一弾が今回のシングル『ing』ですね。 藤巻:ここからまた、今という時間を大事にしながら音楽を頑張っていこうと思います。 (取材=神谷弘一/構成=高木智史)
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藤巻亮太『ing(初回限定盤)』(ビクターエンタテインメント)

■リリース情報 『ing』 発売:12月17日 【初回限定盤】VIZL-771 ¥1,800(税抜) 01. ing 02. アメンボ 山梨放送開局60周年記念作品 映画『太陽の坐る場所』主題歌 03. Happy Birthday 04. ing~エレキ語りver.~ DVD「ing」【MUSIC VIDEO】 【通常盤】VICL-37001 ¥1,200(税抜) 01. ing 02. アメンボ 山梨放送開局60周年記念作品 映画『太陽の坐る場所』主題歌 03. Happy Birthday ■ライブ情報 「EX THEATER TV Presents COUNTDOWN EX 2014 to 2015」 12月31日(水) EXシアター六本木 ■オフィシャルサイト http://www.fujimakiryota.jp/index.php