スチャダラパーが語る“味”ありきのヒップホップ論「カッコよくするだけだったら誰でもできる」

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【リアルサウンドより】  2015年にデビュー25周年を迎えるスチャダラパーのニューアルバム『1212』が、スチャダラパーとSPACE SHOWER MUSICによる新レーベル「ZENRYO RECORDS」から1月28日にリリースされる。同作は、2009年リリースの『11』以来、約6年ぶりとなるオリジナルアルバム。新曲群に加え、チャットモンチーとのユニット“スチャットモンチー”による「M4EVER」や、清水ミチコとの共作曲「Off The Wall」、ロボ宙とかせきさいだぁを迎えた「ワープトンネル」など、インディーズ活動の中で自主制作盤として発売した楽曲からピックアップしたものが収録されている。今回リアルサウンドでは、スチャダラパーにインタビューを実施。聞き手には、10年ぶりのスチャダラパー取材という音楽評論家の小野島大氏を迎え、インディーズ活動を通して味わった体験やスチャ流ヒップホップのあり方、今後の展開などを語ってもらった。

「僕らはクール・Jみたいな正統派じゃない。お笑い芸人の次、スペースシャワー的な(笑)」(Bose)

Bose:お久しぶりです(笑)。 ANI:ご無沙汰してます(笑)。 ーー(笑)ご無沙汰してます。取材という形でお会いするのは『The 9th Sense』(2004)の時以来だから、10年ぶりですよ(取材日は2014年12月29日)。 Bose:お互いまだやってるのが間違ってるよね(笑)。お互いやめてないっていう怖さ(笑)。だってライター歴何年なんですか? ーースチャの活動歴と同じぐらいですよ。 Bose:ですよね。25,6年ってことですよね。怖くないそれ?(笑) 絶対そんな風に(それだけ長いこと続けるとは)思ってなかったじゃないですか。 ーーお互いね(笑)。 Bose:(そんなに)やってるはずないって思ったもん。 ーーねえ。まあ私は日々食っていくので精一杯ですけど(笑)。 Bose:それはお互い様ですよ(笑)。 ANI:同じく!ですよ(笑) Bose:ラッパーだってさ、始まったあとどういうフィニッシュがあるのかわからないじゃん。 ーーロールモデルがないもんね。 Bose:ないもん。 ANI:豪邸? Bose:いやいや。LL・クール・Jとかは司会やってるじゃんね。 ーーああ、グラミー賞とかね。 ANI:すっげえうまい。 Bose:上手だよね、ちょっとウィットに富んだことを言いつつ…。 ANI:「最高だぜ!」みたいにうまく持ち上げて。 ーーでもBoseも司会の道を着々と歩んでるじゃないですか(フジテレビ系『ムチャブリ!スタンパー』)。 Bose:いませんよっ!それに僕らはクール・Jみたいな正統派じゃないからね。お笑い芸人の次というか。スペースシャワー的な(笑)。 ANI:よくお似合いっていう(笑)(注:スチャダラパーの新作のレーベルはスペースシャワーネットワーク)。 Bose:CSだとのびのびできるっていう(笑)。 ーーでもスチャは結成以来27年、全然スタンスを変えないでやってるでしょう。それはすごいと思いますけど。 Bose:いやあ…(浮かない顔)。 ANI:本人たち的にはスタンス変えていきたいと思ってるんですけどねえ。 ーーあ、思ってるんですか。 ANI:思ってますよ。 ーーどういう風に? SHINCO:昼の帯でラジオ。 ANI:くくくく(笑)。 Bose:それ、あんまりスタンス変わってないから(笑)。 ANI:もうちょいなんか…。 Bose:売れる売れない的な? ANI:うん。 Bose:たとえばさ、ライヴ年間100本やるミュージシャンになる、みたいな。そういう道にいってもよかったんだけど、なんかそっちにならなかったですねえ。

「『マジでスチャ好きなんすよ』みたいな奴に限って、聴いてねえし見てもいねえ(笑)」(Bose)

ーー確かにね。今回も6年ぶりのアルバムでしょう。なぜそんなに時間がかかったのか…。 Bose:まとめてちゃんとアルバムにしないと、世間からは何もやってないと思われるっていう。ずっと音源は作ってて、自分達なりのやり方でリリースはしてたんですよ。 ーーライヴ会場とかでね。 Bose:だけどそれは世の中的にはカウントされないっていうのに4年ぐらいたって気づいて(笑)。TVの仕事とかするとさ、「音楽のほうは最近どうしてらっしゃるんですか?」とかマジで聞かれるから(笑)。けっこう「マジでスチャ好きなんすよ」みたいな奴に限って(笑)。ほんとかよ?っていう。聴いてねえし見てもいねえみたいな(笑)。そこで反省するわけですよ。結局アルバム出してこうやって取材受けたり、雑誌に載ったりしないとカウントされないんだと思って。 ーー逆にいうとアルバムを作る必然性みたいなものは、それ以外に感じてなかったってことですか。 Bose:前のレコード会社と契約が終わったあとに、こういう形態が面白いんじゃないかと考えたんですよ。自分らのライヴで(ライヴ物販用に作った)ミニ・アルバムみたいなのがTシャツとかと同じように売ってて、来てくれた人の多くが買ってくれる、という。そういうやり方の方が、レコード会社と契約して活動するよりも、作り方としても自由にできるし、お金の面でもむしろいいぐらいだったりする。レコード会社と契約してるメリットも、僕らはあんまりないから。広いスタジオとかも必要無いし、僕らとしては今の形でやって続けていければ、それでいいなと思ってたんですよ。 ーーインディペンデントでやったほうが。 Bose:完全にインディだし…レコード会社の目が入ると、曲を作って、そんなに直接的に怒られるようなことは書いてないけど、なんか難癖つけられたりすることはあるもんね。 ANI:なんでもないことでもね。 Bose:歌詞もそうだし曲でも。「この部分ちょっと…一応確認します」みたいな。鼻歌のようになんかの曲の一部を歌ってるのでもダメだったり。メジャーだと普通にあるからね。僕らが作るものって、そういうのが自然に入ってくるからさ。ANIが勝手に沢田研二の歌詞を引用したりとか(笑)。平気でやるからね。 SHINCO:やや問題になったけどね。 Bose:問題になったねえ。 ーーでもラップはそういう文化だから。 Bose:そう。もちろん許可とらなきゃいけないのはあるけどさ。ラップってそもそも人のやつを替え歌したりするのが面白いから。そういうのが好きなんだよ。ほんのちょっとした引用の範囲内なのに、それを「カバー申請しなきゃ」とかそこまでなってくると、もういいや、ってことになる。 ーー90年代の頭ぐらいと比べるとずいぶんうるさくなってるよね。 Bose:すごいあると思うよ。まあ昔のディレクターがユルすぎただけなのかもしれないけどさ(笑)。そういうのもあって、レコード会社を通さずにやってたわけ。だから僕らがちゃんとライヴ・ツアーをいっぱいやって、レコード会社とやるのを上回るぐらいの売り上げがあれば、それがいちばん良かったと思う。レコード会社とやるよりもCD売れてるじゃんって! SHINCO:マドンナも既存のレコード会社じゃなくツアー制作会社と契約してるじゃないですか(ライヴ・ネーションとの包括契約)。それに近い。 ANI:近くないけど(笑)。全然スケール小さいけど(笑)。 Bose:主流でほんとに売れてる人がやれば、絶対こっちのほうがうまくいくんだけど。だから僕らのノウハウで売れてるやつがやれ!っていう(笑)。だから…これでいいと思ってたんですよ。これで成功すれば勝ち!みたいな。でも僕らだと(売り上げの)マルが一桁少なくて話題にならない、みたいな(笑)。 ーー今作はそうしてこれまでライヴ等で販売していた曲を集めたってことですよね。 Bose:そう。こうして自分らがインディーズで作ってライヴで売ってた音源をまとめてアルバムにする、っていうのはいいモデルだよね。6年だとちょっと長すぎるけど(笑)。2~3年ぐらいのスパンでまとめられれば。制作に関しても、僕らとロボ宙ぐらいしか必要ないからね。 ANI:あとエンジニアとね。 Bose:超節約型でいけるし。 ーー録音はホームスタジオ? Bose:うちと、あとはいつも使ってる歌入れの小さなスタジオ。 ーー結局レコーディングもヴォーカルのブースだけあればいいってことだよね、スチャの場合。 Bose:そうなんですよ。ちょっと楽器…ベースや鍵盤が入るぐらいだから。それも全部ラインで録れるから。部屋で鳴らすことはほぼないし。

「もうSHINCOがラップするぐらいじゃないと驚いてもらえない」(Bose)

ーーつまりアルバムとして出す必要性も感じていなかったし、レコード会社とやるのも制約が多いからやる気もなかったけど、アルバムという形で出さないと世間の認知みたいなものがなかなか…。 Bose:なかなかね…自分らとしてはそれまで出してたミニ・アルバムみたいなものでいいし、なにも変わらないんだけど、でも「出てることになってない」みたいな感じだもんね。 ーーライブ会場とスチャのホームページのみの販売だと、ライヴに通う熱心なファン以外にはなかなか広がっていかないですよね。 Bose:それもあるね。(一般には)売ってないしね。それも問題なんだよね。地方にいくと「普通にレコード屋で売ってるCD出してください」って言われるし。ライヴで売ってると言ってもフェスやイベントは出演は多いけど、ワンマンは東京や大阪みたいな大都市中心だからね。 ーーなるほどね。となると、今作はこの6年のスチャの活動の抜粋・報告というか、ベストみたいな感じ。 Bose:そうだね。ベスト・プラス新曲4曲。 ーーまとめるにあたって考えたことは? Bose:特にこれと言ってないよね。最近ライヴでよくやってるような定番曲、自分たちで気に入っている曲を並びがいいように選んだという。 ANI:12曲にしようというのはあった。 Bose:タイトルが『1212』だしね。 SHINCO:前のアルバムが『11』だったから。 Bose:よく言ってるしね。「ワンツー・ワンツー」って。のちに気づいたのは、ANIの結婚記念日が12月12日で、こないだ12回目だったんだっけ? そういうのがぴたっと…。 ーーじゃあ12月12日に出さなきゃ(笑)。 Bose:そうなんですよ!(笑)。そこが詰めの甘いところで…(笑)。 SHINCO:12月12日にマスタリングしてた(笑)。それでスタッフが「ANIさんケツがありますんで」「何?」「結婚記念日なんで(奥さんと)メシがあるんです」(笑)。 Bose:なのでマスタリングの最後にいなかったっていう(笑)。そういうユルさが…。 ーースチャですねえ(笑)。新曲はどれなんですか? Bose:タイアップ絡みの曲がそうですね。「ゲームボーイズ2」(『ゼルダの伝説 神々のトライフォース2』CF曲)「中庸平凡パンチ」(テレビ東京系ドラマ『山田孝之の東京都北区赤羽』主題歌)「恋のペネトレイト」(WOWOW NBAイメージソング)ですね。 ーーなるほど。つまり強いアルバム・コンセプトがあったわけではない、と。でも統一性なんか考えてなくても、ちゃんとスチャダラパーらしい作品になってますね。 Bose:まあねえ。例えば「哀しみturn it up」って曲があって、ライヴ用にシングルで出したんですけど、全然(それまでのスチャと)違うものにしようと思ったんですよ。ANIの歌もので昔のエレクトロ風、っていう時点でギャグとしてレベル高いなと思ったんですけど、やってみたらスッと収まっちゃったという(笑)。そんな想定外じゃないというか、こんなの前もなかったっけ、みたいな感じになっちゃった。 ーースチャって今までも制約なくいろんなことを自由にやってきたから、何をやっても驚かれないっていうか、すんなり受け止められちゃうのかもしれませんね。 Bose:そう。だからそうやっていつも外してるつもりでも…。 SHINCO:やりそう、って言われる。 Bose:前にやってそう、って。やってなくて、けっこう挑戦したつもりだったのに(笑)。チャットモンチーとやってるやつも(スチャットモンチー「M4EVER」)我ながらヘンだなーと思うんだけど、やってみたら「前にやってなかったっけ?」って言われる(笑)。清水ミチコさんと(「Off The Wall」)だって、やったことないんだから…。 ーーあれ、やってなかったっけ? Bose:ないですよ!(怒) ーーそれは失礼しました(笑)。自分たちとしては常に新しいことをやって切り拓いてるつもりでも、みんなスチャはなんでもアリだと思ってるから、何をやっても新しいとは思ってくれないと。 Bose:あるかもしれないですねえ。25年もやってると。 ーーANIの歌でも驚かれないから…。 Bose:もうSHINCOがラップするぐらいじゃないと驚いてもらえないかも(笑)。 SHINCO:アカペラで…。 Bose:ハモリの…。 一同:(乾いた笑い) ーーそこまでいくともうラップじゃない(笑)。 Bose:でもまあ、自分たちとしては毎回、ちょっとずつはみ出していってる感じはあるんですけどね。 ANI:でも自分たちが思うほどはみ出してないのかも。 Bose:ああ、もっともっといかないとね。 ANI:あとまあ、好みみたいなのが決まってきてますからねえ。今の新しいヒップホップの感じとかあるじゃないですか。 Bose:それに挑戦!みたいなのはないもんなあ。すごい速い曲をやったり、オートチューン使ったり…。

「最近はバンドでやり直すってことも考える」(SHINCO)

ーー6年前のアルバムと比べることにどれだけ意味があるかわかりませんが、トラックはよりシンプルになってきた気がします。 SHINCO:ああ、そうですかねえ。 ーーシンプルなトラックでちゃんとリリックを聴かせる。王道、と言っていいのかわからないけど。 Bose:ああ、そこはもう基本的な好みが変わらないからなあ。 SHINCO:最近はバンドでやり直すってことも考えるんですよ。バンドでもできるといいなあ、と思いながら作ってる。 Bose:ここ1~2年バンドを入れるライヴをよくやってるんですけど、ターンテーブルでビートを出してバンドが乗っかるとか、完全にバンドでやるとか、そういうのが面白くて。ヒップホップ的な、ターンテーブルだけで制約がある状態と、少し自由なのが混ざってるぐらいのバランスがちょうどよくて。音源を作りながらも、これをバンドでやるときはどうするか想像しながら作る、という部分は変わってきたかも。 ーーああ、そういうバッファを残して作ると。 Bose:うん、だからシンプルになってるのはそういうのもあるかも。ベースとか入る隙を考えながら作ったりね。 ーーなるほどね。スチャの前ってバンドやってた経験とかあるんでしたっけ? Bose:全然ないですね。僕ら楽器が演奏できないから、もともと。持ったことないし。 ANI:レコードしか聴いてないっていう。 ーーレコードしか聴いてない奴ができる音楽がラップだった。 Bose:ですねえ。ターンテーブルやサンプラーは楽器だといえば楽器なんですけど…SHINCOとか、いいキーボード一杯持ってるけど、直には弾けないからね。指一本ずつでこう… ーー単なる入力装置であると。 Bose:そうなんですよ。 SHINCO:始める前にドラムマシーンだけは持ってましたけどね。 Bose:ドラムマシーンも楽器といえば楽器だけど…。 SHINCO:LL・クール・Jのファーストみたいに、ドラムマシーンだけでできるんじゃね?と思ったから。 Bose:そこから楽器を始めたっていいのにやらなかったっていうのが、いわゆるミュージシャンとはどうも違いますよね。 ANI:(ほかのミュージシャンと)会う機会があっても、全然共通の話題がない…(笑)。だから音楽の話とかしないようにしてる(笑)。 Bose:いや、合うところもあるよ。聴く部分とかさ(笑) ANI:聴く部分は合うけどさ、聴き方も違うじゃん。「あそこブレイクやばいでしょ!」「は?ブレイク?」(笑) Bose:たぶんギターに興味を持った人とか、違いますよね。たとえば木暮(晋也)さんとか一緒にいると、いまだにギターのことをずっと考えてるもんね。エフェクターのこととか、鳴りがどうとか。その聴き方は(自分たちに)ないもんね。 ANI:鳴りとか、大きければいいじゃんて。 Bose:究極的には(弾かなくても)サンプリングすればいいじゃん、って発想になる。 ANI:サンプリングでよくね?って(笑) ーーでもそこは最近バンドでやるようになって変わってきたわけでしょ。 Bose:逆に自分たちのバンドの人たちは僕らのヒップホップ的な感覚もわかって演奏してくれてる。特に笹沼(位吉)さんとか松田(浩二)さんとか、すごいループ的なこともわかりつつやってくれるから。 ANI:話が早いすね。 Bose:サンプリングで作って演奏はしにくい曲とかあるじゃないですか。こんなところでベースは弾きにくい、というのを逆に楽しんでやってくれたりするから。そういう人だと話はできるけど。だからこれが、よそのバンドと一緒にラップやらなきゃいけない時は、やっぱり難しいですよ。バンドの感覚で演奏している人にどう説明したらいいのか。だから…ラップしてて邪魔なんだよ楽器って(笑)。いやほんとマジな話すると。ドラムだけでいいよって言いたくなるんだけど(笑)。でも演奏は必要だから。それがわかってるベースや鍵盤はなかなかいないですよ。そういう意味でいまやってるバンドの人はいいんですよ、すごく。余計なことしなくて(笑)。 ーーだったらLL・クール・Jみたくドラムマシーンだけでいいじゃん、とはならないの? Bose:なんですけど、やっぱりより自由な部分が必要なんですよ。僕ら、もともとターンテーブルでやってるほうが気持ちよかったんだけど、でもギター・ソロとかもやっぱりかっこいいし、ギター・ソロのあとにラップに戻ると盛り上がったりするんですよ。あとバンドでやってるほうが人数も増えて見所も増えるし、ライヴはラクで(笑)。 ANI:持つよね。 Bose:持つ持つ。ターンテーブルだけで2時間以上やってるとやっぱ限界があるんだよね、場を持たせるのに。だからMCとしてはすごくラクで。それを楽しめるようなゆとりが出てきたから。

「遅くするとかっこいいと思って遅くしてたけど、今はぴったり(笑)」(Bose)

ーー最近バンドと一緒にラップやる人が多いじゃないですか、環ROYくんとか。 Bose:たぶん同じような発想じゃないかな。ターンテーブルとラップだけってさ、これ2時間やるもんじゃねえなって(笑)。 ーー今さらそんなこと言うかね(笑)。 Bose:だってラップのライヴで2時間ターンテーブルだけでやる人なんてあんまりいないもんね。だいたい1時間なのは必然性があるんだよ(笑)。自分らはそれをなんとか面白がってやろうと思ってやってるけど、工夫して持たせてるとこあるもんね。そりゃバンドになったらより見やすいライヴにはなると思う。ただラップ2時間続けるのもしんどいし。 ーーなるほどね。 Bose:でも、バンドと一緒にやるのもバランスが重要なんだよね。スチャがやってる感じなんだけどバンドでできてる、という感じにするのがなかなか難しくて。 ーーチャットモンチーとやってるやつはどうだったんですか。 Bose:アッコちゃん(福岡晃子)がドラム叩いてそれをループして…って作っていきましたね。チャットも2人になってループとかを使ってやり出した時だったから、ちょうどタイミングがよかったですね。 ーーほかにキーになるような曲というと。 ANI:「ザ・ベスト」とか。すげーいい曲できたと思った。 ーー今のスチャダラパーの心境が素直に出てる歌詞ですね。 Bose:そう。歳をとってきてね。周りもみんなこういう歳になってきて。曲ももの悲しい感じがいいよね。 ーー今作はそういう年齢なりの実感を感じさせるような曲と、スチャっぽい皮肉な、ウイットに富んだ寸鉄人を刺す感じの言葉がうまく併存してますね。 Bose:ねえ。もう寅さんの年齢超えてきたでしょ?(『男はつらいよ』の主人公・車寅次郎は、映画第一作公開の時点で38歳の設定) ANI:山田洋次が『幸せの黄色いハンカチ』を作ったのが42歳ぐらいらしい。(正確には46歳) Bose:ほら、超えてきちゃったから。そりゃ哀愁も出ますよねえ。 ーー全員40代後半? Bose:うん、45,6,7… ーーへたしたら次のアルバム出す時は全員50代かも。 ANI:やばいねえ…。 Bose:やばいねえ…。 ーー高齢化社会に向けて、リリックの内容も、これから減っていくばかりの若者層に向けるよりは…。 ANI:(笑)高齢者に向けた方が。 Bose:マーケット的には正解だよ(笑)。 ーーそうか、スチャの曲のテンポが遅いのはそういう理由か(笑)。年齢的に速いのができない(笑)。 Bose:前はさ、遅くするとかっこいいと思って遅くしてたけど、今はぴったり(笑)。ほっといても93(BPM)ぐらいになるからさ(笑)。

「ヒップホップって、音だけに魅せられたんじゃない」(Bose)

ーーヒップホップも新しいものがどんどん出てきて日々更新してますが、スチャの考えるヒップホップらしさって何ですか。 Bose:いろいろあるけどなあ…味が出てないといやですよね。全てのアートに言えるんだけど、シュッとするだけだったら誰でもできるだろう、みたいな。 ANI:そうねえ、このご時世でね、デジタルで。 Bose:カッコよくするだけだったら誰でもできる。その人なりの面白み…ダサ美っていうか。味…としか言えないけどね。 SHINCO:形跡っていうか筆圧っつーか。 ーーそういうヒップホップぽさみたいなものにはこだわりたい。 ANI:こだわりたい…というよりは出ちゃうんじゃないですか。これキレイすぎるからレコード・ノイズ入れておこうか、みたいな。 Bose:なんか…若い人とやってると、こっちはすげえ頑張って若い人のテンポにあわせてシャキシャキやってるつもりなんだけど、「スチャさんとやるとユルくていいすよねえ」って言われたりして(笑)。ほんとよく言われる。どこでもそうなんだよ! だからその「味」が出ちゃってるんだろうね。こっちは隠そうと思ってるんだけどさ。なるべくシャキシャキやってるつもりなんだけど。 ーー生まれついてのものだ。 Bose:そうなってしまったし、みんなもそれを期待してる、みたいな。ちょっとずれてる感っていうか、このダサい感じがなんでかっこいいんだろう、みたいな。ヒップホップって、音だけに魅せられたんじゃないんですよ。そういう全体の美学がヒップホップだと思ってるから。なんかその…かっこいいのをかっこよくやってどうすんだよ!みたいな。 ANI:(笑)あはははは! Bose:つい思っちゃう、なんでも。そのままやってどうすんだよ!っていう。 ANI:かっこよくないじゃん!みたいな。 Bose:そうそう。いちばんかっこよくないじゃん、っていう。 ーー早川義夫ですね。「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」 ANI:そうそう。 SHINCO:ちょっとスキがあったほうがいいのかもしれない。 Bose:ANIなんかもさ、なんでもかっこよくやろうと思えばできちゃうんだけど、ファッションとかも。 SHINCO:(笑)わはははは! Bose:だけどあえてグレーっぽく(笑)。 ANI:うううう(笑)。 ーー一度かっこいいファッションでばっちり決めてくださいよ。 Bose:やろうと思えばいつでもできるよね、シュッとしたやつね。 SHINCO:そこをわざとこぼしてシミを作ったりして(笑)。 ANI:…んなことないすよ!もっとシュッと『LEON』みたいなオヤジになりたいですよ!(笑) Bose:なりたいんだ? あはははは!(笑) ANI:全然なりたい。そうしないといい女が寄ってこない(笑)。 ーー女をはべらかすのがラッパーの基本ってことですか(笑)。 Bose:なりたいんだ? ANI:ちょっとなりたい(笑)。 Bose:「ちょっと」ね。でもああいう人って「すげーなりたい」んだよ。「ちょっとなりたい」じゃなくて「すげーなりたい」じゃなきゃダメなんだよ。 ーー欲望が足りてないわけだ(笑)。 ANI:そうかあ…。 Bose:もっとハングリーにならなきゃ。 ANI:生活はだいぶハングリーですよ (笑)。 ーーANIは今作のトレーラーで「今回のアルバムはミリオン売れるのを期待する」みたいなこと言ってたじゃないですか。 ANI:いっつも思ってますよ、そんなの(笑)。 Bose:思ってても見込みが甘いっていうのがあるよね(笑)。 ANI:いや、まだわかんないよ。世の中いつ間違いが起きるかわからないから(笑)。 Bose:それはそう。売れるもんにセオリーがあるわけじゃないからね。 ーースチャのやってることに突然世の中がシンクロするかもしれない。 Bose:そうそうそう。バシッ!ヤバい!見られた!みたいな感じで。 ANI:見つかった!みたいな。 Bose:坂上忍みたいに急に脚光を浴びることもあるからさ(笑) ーー今作も世の中へのスチャの存在アピールみたいなものだから。 Bose:そうそう。それでどういう反応が来るかがまだ見えてないですからね。 ANI:「たまにはどうですか、CD? CDもいいもんですよ!」って。 (取材・文=小野島大)
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スチャダラパー『1212』(初回限定盤)

■リリース情報 『1212』(読み方:ワンツウワンツウ) 発売:2015年1月28日(水) 価格:<初回限定盤>(CD+DVD) 価格:¥3,241+税    <通常盤>(CDのみ) 価格:¥2,315+税 <CD収録内容> 1. イントロダクションワンツー 2. スチャダラメモ 3. ゲームボーイズ2 4. ワープトンネル feat.ロボ宙&かせきさいだぁ 5. M4EVER 6. ザ・ベスト 7. 哀しみturn it up 8. 中庸平凡パンチ 9. A.K.A ETC 10. Off The Wall feat.清水ミチコ 11. 恋のペネトレイト 12. Boo-Wee Dance <DVD収録内容> 2013年開催スチャダラパーワンマンライブ『23』 ※23曲+MC入り123分 ※初回限定版のみ 1. ザ・コストパフォーマンス登場 2. オープニング 3. アーバン文法 4. Under the Sun 5. ライツカメラアクション 6. From 喜怒哀楽 7. MC1 8. ヒマの過ごし方 9. Boo-Wee Dance 10. アフター ドゥービー ヌーン 11. MC2 12. 23ch FUNK 13. GET UP AND DANCE 14. FUN-KEY4-1 15. MORE FUN-KEY-WORD 16. LET IT FLOW AGAIN 17. 何処か… どっちか… 18. MC3 19. スチャダラメモ 20. MC4 21. コロコロなるまま 22. ヨゴレタヒデヲ 23. 今夜はブギー・バック 24. MC5 25. Shadows Of The Empire 26. ジャカジャ~ン 27. Good Old Future 28. ザ・ベスト 29. エンドロール 30. サマージャム2013 31. 彼方からの手紙

小嶋&柏木Wセンター、NGT48設立……AKB48グループがサプライズ連発する背景とは?

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AKB48『ここがロドスだ、ここで跳べ! (Type A)』(キングレコード)

【リアルサウンドより】  AKB48グループが、1月21日から25日の5日間TOKYO DOME CITY HALLで実施した『AKB48セットリストリクエストアワーベスト1035 2015』で、数々のサプライズ発表を行った。  まずはグループの大きな動きとして、10月1日に新潟県で新グループ・NGT48の専用劇場を設立すると発表。また、HKT48は全国ツアーに島根県・北海道・山口県と横浜アリーナ2days公演を追加することを明かし、SKE48の17thシングルとNMB48の11thシングルは3月31日に同時発売が決定、AKB48は新シングル『Green Frash』(3月4日発売)の表題曲センターを、小嶋陽菜と柏木由紀の2人が務めることが明らかになった。ほかにもSKE48のドキュメンタリー映画の予告編公開や、『マジすか学園』の舞台化、AKB48ヤングメンバーによる全国ツアーやAKB48単独でのさいたまスーパーアリーナ公演など、ビッグニュースが次々と発表された。  これら多数のサプライズから、グループの今後をどう読み解くことが出来るのだろうか。『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』の著者であり、AKB48グループに詳しいライターの香月孝史氏は、一連の動きを「それぞれのグループを目立たせるための戦略」と分析した。 「AKB48本体の選抜は、前シングル『希望的リフレイン』が表すように、“48グループ全体の選抜”になりがちです。しかし、今回は選抜を16人に絞ったうえ、AKB48オリジナルメンバーとしてグループを長く支えた柏木と小嶋をセンターに据えました。それに加え、今年は各姉妹グループが初めてドキュメンタリー映画を公開することや、HKT48の全国ツアー、SKE48とNMB48のシングル同時発売など、グループ個々としての動きがより濃くなるような展開を見せています。生駒里奈(乃木坂46との兼任)や宮脇咲良(HKT48との兼任)はAKB48の選抜に残っていますが、この2人はまだ本体の力を借りて、個々のグループにおける知名度を大きくするとともに、核を担うメンバーとしてまだ育成の時期という判断なのでしょう」  互いのファンから賛否両論の声も多いSKE48とNMB48のシングル同日リリースについては、こう続ける。 「元来、物語を作って転がしていくというのが48グループの特色ですが、そのなかで、こういう機会が出始めたということは、顔になる全国区のメンバーを介し、それぞれで頂点を競えるほどにグループが育ってきたということです。両グループともに、前シングルでセンターが世代交代したこともあり、各メディアへの露出を増やすという意味では、話題も大きくなり、新しいWセンターの顔を周知するチャンスになります。また、互いのグループを兼任として行き来するメンバーもいますが、恐らく今回は元々の所属グループに戻っていくでしょう。AKB48劇場支配人の湯浅洋氏がSKE48劇場支配人に戻るということも含め、各グループの色を濃くし、物語性を補強するための施策といえるのかもしれません」  また、同氏はNGT48発足について、グループの育成システムを踏まえたうえで以下のように述べた。 「AKB48グループ自体、元来全国的に姉妹グループを作っていこうという計画があり、様々な都市を同時進行的に検討するなかで、見通しがついたのが日本海側でも隋一の都市を持つ新潟だったのでしょう。これから発足するNGTのカギは、いかに早く全国区のオリジナルメンバーを作るかどうかです。これまで、各姉妹グループは、有力メンバーをAKB48の選抜に入れたり兼任させることによって、全国的な知名度を獲得させ人気をブーストするという、他のアイドルグループが持ちえない最良の育成システムを作り上げました。また、これまでの流れだと、他グループからの兼任メンバーや移籍メンバーも出てくると思いますが、度重なる組閣や人事異動により、ファンも耐性ができ、以前よりも悲観的なものではなくなりました。指原莉乃(HKT48)や仲川遥香(JKT48)のように、姉妹グループへ移ったことにより、花を咲かせる・活路を見出すメンバーもいるため、新たに頭角を現すメンバーが出てくることにも期待したいです」  最後に、AKB48ヤングメンバーによる全国ツアーについては、未だメンバーが明かされていないことについて、こう予測した。 「今回の『ヤング』『アダルト』という線引きですが、どこからをヤングとするのかが気になるところです。現在売り出し中の川栄李奈や入山杏奈を中心にするのか、さらに下の3銃士(西野未姫、岡田奈々、小嶋真子)や、向井地美音・大和田南那らを中心にするのかでも、見え方が変わります。また、若手メンバーだけでさいたまスーパーアリーナでの公演を行うことについては、運営側からしても、ベテランを抜いたメンバーだけでの知名度や実力を指し図る良い機会となるでしょう」  メモリアルイヤーに様々なサプライズを発表したAKB48。今年は各グループが切磋琢磨し、それぞれの実力を試す一年となるだろう。 (文=編集部)

80年代の洋楽雑誌は何を目指したか 『ロッキング・オン』渋谷陽一の動きを軸に考察

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87年に洋楽雑誌における売上げの首位を獲得した『ロッキング・オン』(1987年4月号)。

【リアルサウンドより】  80年代の洋楽カルチャーについて、当時のメディアを手がけたキーマンや、その時期に青春をすごしたミュージシャンたちの証言を中心に、各シーンに詳しい音楽ライターから寄稿されたレビューをまとめたムック本『80's洋楽読本』が、1月26日(月)に洋泉社より発刊される。  インタビュー企画には、石野卓球(電気グルーヴ)、カジ ヒデキ、片寄明人(GREAT3)、Zeebra、高木完、西寺郷太(NONA REEVES)、ハヤシ(POLYSICS)、松武秀樹といったミュージシャンのほか、大根仁(映像ディレクター)、小野島 大(音楽評論家/元『NEWSWAVE』編集長)、恩藏茂(元『FMステーション』編集長)、東郷かおる子(元『ミュージック・ライフ』編集長)、高橋芳朗(音楽ジャーナリスト/ラジオパーソナリティ)、平山善成(クリエイティブマンプロダクション)などのメディア関係者が登場。同書の編集を担当したのは、リアルサウンド編集部のある株式会社blueprintで、猪又孝、円堂都司昭、岡村詩野、小野島 大、北濱信哉、栗原裕一郎、さやわか、柴 那典、麦倉正樹、宗像明将、吉羽さおりといった、リアルサウンドでも執筆中の評論家・ライターも寄稿している。  リアルサウンドでは同書の発売に先駆け、3回に渡って掲載記事の一部を紹介。第1回【カジ ヒデキが語る、80年代UKインディシーン「レーベルもやっていたS・パステルは神様でした」】では、カジ ヒデキのインタビュー全文を公開した。第2回では、文芸・音楽評論家の円堂都司昭による、80年代の洋楽雑誌についてのコラムを掲載。新たなロック批評が模索され、雑誌間で激しい競争が繰り広げられた時代を振り返る。(編集部)

『ミュージック・ライフ』から『ロッキング・オン』へ

 80年代の洋楽雑誌事情を振り返ったさい、目立つトピックとしてあげられるのは、87年に売上げ首位の座が『ミュージック・ライフ』から『ロッキング・オン』へと交代したことだ。ロッキング・オン社長で音楽評論家の渋谷陽一は、72年に『ロッキング・オン』を創刊したことについて、既存の洋楽ジャーナリズムに不満を抱いていたことが動機だと繰り返し語ってきた。不満の矛先のひとつは、海外のロック・アーティストをスターやアイドルとして芸能のノリであつかう、『ミュージック・ライフ』的なミーハー体質だった。だが、80年代の洋楽雑誌の首位交代をミーハーに対する批評の勝利と単純化することはできない。

『ロッキング・オン』がとった戦略とは

 新たなロック批評を目指して渋谷が友人たちと創刊した『ロッキング・オン』は、初期には投稿主体の同人誌に近い内容だった。インタビューがとれない代わりに架空のインタビューを載せる奇策もとった。架空だと断ったうえで、このアーティストならこう答えるだろうという原稿を書くことは、ひとつの批評の形ではあった。だが、それは、その人にはそうあってほしいというファンタジーだし、洋楽アーティストをアイドル視してあこがれるミーハー的ファンタジーの理屈っぽいバージョンだったともいえる。  70年代から80年代に移るにつれ、『ロッキング・オン』は実際のインタビュー記事が多く載るようになり、グラビアも増えて商業誌らしくなる。「音楽を文学的に読む、これがスタート時点における僕の素朴な方法論だった」(『音楽が終った後に』/ロッキング・オン)と述懐したことのある渋谷がはじめた『ロッキング・オン』は、アーティストをある種の物語の主人公のように位置づけ、作品をその人の心理の反映ととらえる傾向がみられた。また、商業誌らしくなった80年代でも、書き手の思い入れが文章に色濃い点では、同人誌的であり続けた。  しかもページ数が増え、とりあげるアーティスト数が増えた同誌は、マニアックな路線には走らなかった。渋谷は70年代に、クイーンのなかではルックスのよさでいちばん人気だったドラムのロジャー・テイラーを表紙にして、好売上げを経験した。そして、80年代には、デュラン・デュランからはボーカルのサイモン・ル・ボンでなくベースのジョン・テイラーを多く表紙に選んだという(『ロッキング・オン』09年10月号の創刊5 0 0号記念特別号での回顧対談から/ロッキング・オン)。『ミュージック・ライフ』的なミーハー感覚もとりこむことで、同誌を追撃したのである。

『ロッキング・オン』はなぜ求められたか?

 80年代は、81年のM T V 開局からはじまったミュージック・ビデオの流行と連動して洋楽雑誌が元気だった。だが、70年代には洋楽への芸能的な興味を満たすには『ミュージック・ライフ』が第1の選択肢であったのに対し、80年代にはテレビ朝日系のミュージック・ビデオ紹介番組『ベストヒットU S A』がそれに匹敵する媒体になった。洋楽のビジュアル面を伝える手段の重点は、雑誌グラビアからビデオにシフトしたのである。  それに対し、ビジュアル重視の芸能的興味からさらにもう一歩踏みこみ、活字の多い雑誌まで読みたいと思うような洋楽ファンが求めたのが、アーティストの心理だったのではないか。青春の懊悩を屈折した詞で表現し、「マドンナは組織化された売春」、「バンド・エイドは極悪非道」などボーカルのモリッシーが物議を醸す発言を連発したザ・スミス。リーダーのイアン・カーティスが自殺したジョイ・ディヴィジョンの残りのメンバーがはじめたニュー・オーダー。このような心理的な屈折を特徴とするアーティストたちが、『ロッキング・オン』や、同誌を意識して88年に創刊された『クロスビート』の誌面で、一般レベルでの知名度以上の存在感を持った。  ただし、男の子的な理屈っぽさから出発しつつ、ミーハー感覚にも目配りして幅広い洋楽ロックをとりあげるようになった『ロッキング・オン』にも、排除したジャンルがあった。渋谷は、同誌81年1月号掲載の「ヘヴィー・メタル・ブームはゴミじゃ!!」なる原稿で「一種様式化し、ギターのたれ流し的フレーズが横行」、「その音の持つ機能を自らで限定してしまった」などとメタルを大批判した。ヘヴィ・メタル/ハード・ロックは、70年代後半に新興勢力のパンクに押されていたが、80年ごろにはイギリスでメタルのニューウェイヴがおきていたというタイミングである。以後の『ロッキング・オン』では、メタルが片隅に追いやられることになる。

過熱する洋楽雑誌の競争

 一方、続く80年代には、ボン・ジョヴィ、ガンズ・アンド・ローゼズなど新世代が台頭し、ジューダス・プリースト、エアロスミスなど70年代世代も復権して、アメリカ市場を中心にメタル・ブームが到来する。それをフォローしたのは、84年創刊のヘヴィ・メタル専門誌『バーン!』(シンコーミュージック)である。結果的に『ロッキング・オン』と『バーン!』が棲み分ける形になったが、このことは、80年代末からアメリカでおきたグランジ・ムーヴメントへの日本の反応を遅らせることにつながったように思う。90年代初頭にニルヴァーナの大ヒットを生むことになるグランジは、今から考えると『ロッキング・オン』にとってはハード・ロック的でメタル寄りの音楽であり、『バーン!』からみればパンクよりだったといえる。  『ロッキング・オン』創刊の動機には、既存の洋楽雑誌への不満があったのだが、『ミュージック・ライフ』以上の仮想敵が『ニューミュージック・マガジン』(ミュージック・マガジン)だった。渋谷は同誌やその編集長だった中村とうようの文化人的な語り口を批判した。だが、70年代の日本語ロック論争で知られる『ニューミュージック・マガジン』が、この国の洋楽文化定着に貢献したのは間違いない。同誌は80年に『ミュージック・マガジン』に誌名を変更し、80年代には米英のロックが大半を占めたほかの洋楽雑誌とは違い、ワールドミュージックやロック以外のポピュラー音楽も積極的に紹介して独自性を発揮する。  また、82年に同誌別冊の形で創刊されたのが『レコード・コレクターズ』(ミュージック・マガジン)である。のちに独立して月刊化された同誌は、当初は50年代以前のポピュラー音楽を中心にあつかうマニア向けの内容だった。だが、80年代後半からは次第に60年代以降のロックを多くとりあげるようになり、今でいうクラシック・ロックのリイシューを特集する雑誌になっていった。

80年代洋楽雑誌をめぐるさまざまな環境

 70年代後半に登場したパンクは、それ以前の世代のロックを商業化したとして否定した。パンク以後の時代のロックはニューウェイヴ、パンク以前はオールドウェイヴと呼ばれ、前者を支持する評論家、媒体が後者を全否定するごとき姿勢をみせることも珍しくなかった。そんなころに渋谷は、パンク後に発生したメタル・ルネサンスを否定したのだった。  しかし、82年にC Dという新メディアが登場し、旧来のアナログ・ディスクからの置き換えが進むなかで70年代以前のロックの再発や音源の発掘が盛んに行われた。それは、活動継続中のベテランの需要再発見にもつながった(『レコード・コレクターズ』の読者の層である)。このため、新鋭とベテラン(&旧作)が並行して聴かれる状態になり、特定の時代や世代に読者を限定しない総合的な洋楽雑誌の場合、表紙には若手と大御所が交互に登場する状態となった。それが90年代以後の洋楽雑誌では、現在進行形の新鋭と熟年か死者である大御所の時代差がどんどん開いていくようになる。  以上のとおり、80年代を回想すると、雑誌間の競争、ジャンル間のせめぎあいだけでなく、ミュージック・ビデオの流行、C Dの普及など、他メディアの動向が洋楽雑誌に大きく影響していたことに思いあたる。そういえば、F Mラジオで流れる音楽を録音(エアチェック)することが流行し、放送予定曲を載せたF M雑誌が隆盛だったのも80年代である。それは、インターネットが普及するはるか前の、洋楽をあつかう雑誌にとって幸福な時代だった。 ■円堂都司昭 文芸・音楽評論家。著書に『エンタメ小説進化論』(講談社)、『ディズニーの隣の風景』(原書房)、『ソーシャル化する音楽』(青土社)など。
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『80's洋楽読本』(洋泉社)

■書籍情報 『80's洋楽読本』 発売日:1月26日(月) 定価:本体1400円+税  発行:洋泉社 【インタビュー】 ●石野卓球(電気グルーヴ) ●カジヒデキ ●片寄明人(GREAT3) ●Zeebra ●高木完 ●西寺郷太(NONA REEVES) ●ハヤシ(POLYSICS) ●松武秀樹 ●大根仁(映像ディレクター) ●小野島大(音楽評論家/元『NEWSWAVE』編集長) ●恩藏茂(元『FMステーション』編集長) ●東郷かおる子(元『ミュージック・ライフ』編集長) ●高橋芳朗(音楽ジャーナリスト/ラジオパーソナリティ) ●平山善成(クリエイティブマンプロダクション) 【執筆者】 猪又孝 井上トシユキ 円堂都司昭 岡村詩野 小野島 大 北濱信哉 栗原裕一郎 さやわか 柴 那典 鈴木喜之 高岡洋詞 麦倉正樹 宗像明将 吉羽さおり

名ライブハウス『屋根裏』が閉店 数多くのアーティストから愛された理由とは?

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ライブハウス・下北沢屋根裏公式HP。

【リアルサウンドより】  東京・下北沢にあるライブハウス・下北沢屋根裏が3月31日をもって閉店することが決まった。  同ライブハウスは、1975年に渋谷で創業し、1986年8月には下北沢へ移転。1997年9月には再度渋谷にも店舗をオープンし、2店舗での営業を開始するものの、渋谷店は2013年6月に営業を休止、下北沢屋根裏は今回の閉店で29年の歴史に幕を閉じることになる。創業以来の40年に及ぶ営業で、浜田省吾やTHE BLUE HEARTS、KENZI&THE TRIPS、BARBEE BOYS、レピッシュなど、多くの有名アーティストを輩出した。  同ライブハウスの閉店について、過去にステージに立ったこともあるというライターの冬将軍氏は当時の思い出をこう語る。 「初期の渋谷屋根裏時代は、昼は原宿ホコ天(歩行者天国)、夜は屋根裏、というバンドブームに繋がっていくシーンが出来つつありました。有頂天やばちかぶりなど、ナゴムレコードの印象も強く、原宿で購入したフリフリの洋服を着る屋根裏のナゴムギャル、黒服で身を固める目黒の鹿鳴館のトランスギャルという対象的な関係もありました。今のヴィジュアル系ファン“バンギャル”のはしりですね。下北沢に移転後は、Queや251にブリットポップの影響を受けたようなギターロックバンドのシーンが出来はじめる中、THE BLUE HEARTSのイメージが強い屋根裏にはパンキッシュなバンドが多く出演し、『下屋根系』という独自のムーブメントを作っていました。代表的なバンドとしては、ザ・マスミサイルやHIGHWAY61、STANCE PUNKS、アカツキに藍坊主ですね。アカツキは150人くらいしか入らない屋根裏に300人ほどの観客を入れたという伝説も持っています(笑)。同シーンは同じ系列でもあるライブハウス、東高円寺二万電圧辺りに派生していきました」  続けて、同氏が印象に残ったライブについては、ベテランバンドの凱旋ライブや熱狂的すぎるがゆえのトラブルを挙げた。 「屋根裏を根城にして、巣立っていったあともライブを行うバンドが多かったですね。スキップカウズが25周年イベントを行ったり、The ピーズも20周年ライブの場所に選んでいました。また、先に挙げたHIGHWAY61のライブに、JUN SKY WALKER(S)の宮田和弥さんが乱入したり、会場も狭く、空調も換気も良いとは言えないので、藍坊主のライブで酸欠になった人を何人も見た覚えがあります」  また、屋根裏のステージに立ったことのある同氏は、舞台や楽屋の様子についてこう語る。 「あの時代に作られたライブハウスは、今と比べれば良い音響設備があるわけではないんですけれど、なぜかハコとしての音の鳴りが良かったんです。特に屋根裏はお世辞にもきれいとは言えないのに、一層良く感じましたね。あと、楽屋がステージの横ではなく、階段を上がった先にあるんですけど、靴を脱いで上がる畳部屋で、ぐちゃぐちゃになった古い畳にゴザを敷いて座ってました。あと、キックボクシングジムが下にあって、夏になると下から汗の臭いが上がってきたので、夏はすごく臭かった。あれはお客さんも結構辛かったと思います」  最後に、同ライブハウスがミュージシャンやファンから愛され続ける理由をこう代弁した。 「屋根裏は、下北がバンドマンの町と言われる前からずっとあり続けたこともあり、ベテランバンドにとっては安息の地として、若手バンドにとってはまず目指すべき憧れの場所として機能していました。また、昔は夜のライブに出るために、テープ審査や昼間のオーディションなどもあったため、出られることに喜びを感じるバンドマンも多かった。現在のノルマさえ払えば出演できるようなライブハウスとは違う、登竜門的存在がなくなるのは非常に惜しいですね」  時代の移り変わりと共に町も変化していくなか、長年バンドマンに愛されたライブハウスとして29年の歴史を終える下北沢屋根裏。今後の下北沢はどのライブハウスと共にシーンを作っていくのだろうか。 (文=編集部)

乃木坂46における「君の名は希望」と「制服のマネキン」の重要性ーー杉山勝彦の作曲力を読む

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乃木坂46の「制服のマネキン」、「君の名は希望」等の作曲を手がけた男性二人組ユニットUSAGIでも活躍する杉山勝彦(写真右)

【リアルサウンドより】  1月23日の『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に乃木坂46が出演し、「制服のマネキン」と「君の名は希望」のメドレーを披露する。  乃木坂46は2012年2月にメジャーデビューしていたものの、先述の2曲を発売したタイミングでは同番組への出演はなかったため、これらの楽曲は今回が番組初披露となる。また、「君の名は希望」に関しては、生田絵梨花がピアノ演奏をし、メンバーが歌唱する特別バージョンということも発表されている。  この2曲は乃木坂46のレパートリーの中でも特に評価が高く、アイドル論者としても知られるBase Ball Bearの小出祐介(Vo/G)が雑誌連載において2年連続で「年間アイドル楽曲ベスト」に選んでいる(2012年「制服のマネキン」、2013年「君の名は希望」)。そして、この2曲の作曲を手がけたのが男性二人組ユニットUSAGIでも活躍する杉山勝彦だ。杉山は過去には嵐やAKB48、私立恵比寿中学への楽曲提供をしているほか、乃木坂46には先述の2曲以外にも「サイコキネシスの可能性」や「私のために 誰かのために」、新アルバム『透明な色』では新録曲として「僕のいる場所」や西野七瀬のソロ曲「ひとりよがり」を手掛けており、名曲メーカーとしてファンからの信頼も厚い。AKB48グループや乃木坂46で総合プロデューサーを務める秋元康も、トークライブアプリ『755』で「杉山勝彦さんは、本当に天才だと思います。大好きな作曲家の一人です」と発信するなど、グループにとって欠かせない作曲家の一人であることを示唆している。  乃木坂46において杉山の楽曲ーー際立ってこの2曲がかねてから注目されているのは、この2曲が“乃木坂46を定義した”といえるからなのかもしれない。近年、一般的にアイドルポップスとして世の中に存在する楽曲のなかで流行しているのは、ライブで盛り上がる、アップテンポで抜けの良いもの。その王道を行くのがライバルグループであるAKB48であり、乃木坂46はこれまで同グループとは異なる道を模索してきた。初期段階では「おいでシャンプー」や「ぐるぐるカーテン」など、フレンチポップをベースとした清楚なイメージの楽曲を表題曲としてきたが、そのイメージを一変させたのが、4thシングル表題曲として発表された「制服のマネキン」だ。同曲は90'sユーロビートを彷彿させる四つ打ちサウンドとマイナーキーを多用するメロディー、6度音程内の狭い音域で歌われるサビなど、アイドルの楽曲としては異端といえるアプローチを積極的に採用。卒業や恋愛をテーマにした歌詞とも相まって、乃木坂46の新しいイメージを打ち出した。  そして、「君の名は希望」は複雑な構成を持ちながらも、独特のキャッチーさを持つ乃木坂46の代表曲の一つだ。「Aメロ→Bメロ→Aメロ→サビ→Aメロ→Bメロ→Aメロ→サビ」という複雑な“大ロンド形式”の構成を持つ同曲だが、主旋律はピアノ一本で成立するうえ、ユニゾン歌唱が活きる合唱向きの歌メロでリスナーを飽きさせない。杉山は『OVERTURE』のインタビューで同曲について「普段はフルサイズで送るんですけど、『君の名は希望』の場合は1コーラス送ったら『ほぼこれでいくから』ということになって<中略>乃木坂46にとって大切な曲になる予感がしました」と語っており、断片的にしか楽曲がなかった段階からスタッフや本人が名曲だと予感していたようだ。(参考:徳間書店『OVERTURE』)  これら2曲がファンやそれ以外の楽曲愛好家に受け入れられたことにより、乃木坂46は“楽曲が良い”アイドルとしても広く知られていった。また、杉山以外の作家がその後手掛けて採用された楽曲にも、「制服のマネキン」や「君の名は希望」の影を追いかけているようなアプローチがみられることから、その影響力の大きさが伺い知れる。  ではなぜ、杉山が2013年3月リリースの『君の名は希望』以降、「僕がいる場所」「ひとりよがり」が2015年1月リリースの『透明な色』に収録されるまで、乃木坂46への楽曲提供を控えていたのか。その答えは、現在彼が力を注いでいるUSAGIにある。  USAGIは、年間200本ものストリートライブを行っていた上田和寛の歌声を、偶然新宿の路上で聴いた杉山が一目惚れし、それまでの作家活動を投げ打ってまで組んだ音楽ユニットだ。デビュー前には『ミュージックドラゴン』や『中西哲生のクロノス』など全国のテレビ・ラジオ50局でパワープレイを獲得して注目を集め、2014年の1月に『イマジン』でメジャーデビュー。USAGIはその後も『Hello / USAGI~不昧なストーリー~』『ここから』とコンスタントにリリースを続け、2015年1月19日に赤坂BLITZで開催したデビュー1周年ワンマンライブはチケットが完売するなど、徐々にその才能が世間に認知されつつある。

 そんなUSAGIは3月18日に4thシングル『好きをこえたヒト』のリリースを控えており、先行してリリックビデオも公開されている。同曲はUSAGIにとってシングル表題曲としては初のラブソングで、杉山が手掛けるストリングスアレンジとキャッチーなメロディーや、人間味あふれる上田の熱唱が一段と胸に響く楽曲だ。赤坂BLITZのステージで初ライブ披露された。  2015年、『好きをこえたヒト』でステージに立つところから活動をスタートさせたUSAGI。作曲家として多大なる功績を残した杉山だが、2015年はUSAGIとしての飛躍にも期待したい。 (文=中村拓海)

徳永英明、ついに『VOCALIST』シリーズに終止符? 10年間の”カバー術”を検証する

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【リアルサウンドより】  徳永英明が女性アーティストのバラード系名曲を次々とカバーした『VOCALIST』シリーズは累計600万枚を超える好セールスを記録し、大病をかかえ、一度はシンガーとしての再起が危ぶまれた彼を見事に復活させた。前編【「大病で引退寸前」から「カバーブームの牽引者」へ 徳永英明の波瀾に満ちたキャリアとは?】では、そんな徳永が同シリーズに巡り会うまでの波乱のシンガー人生を振り返った。後編では、同シリーズの変遷とその音楽的功績を追うとともに、最新作『VOCALIST 6』をもって、徳永が本シリーズに区切りを付けようとしている理由を推察したい。  『VOCALIST』はそもそも、“大ヒット”を目論んでスタートした企画ではなかった。徳永が2004年にレコード会社の社長と食事をした際、社長に「カバーアルバムを作ろうかな」と話したところ、「それいいじゃない」と後押しされ、復活プロジェクトとしてアルバムを制作することになったという。当時のレコード会社スタッフの述懐によれば、ヒットよりもまず、2001年の「もやもや病」発症以降に停滞していた徳永のキャリアをもう一度盛り上げよう、という思いが強かったようだ。  ただし、徳永自身の意気込みは大きかった。シリーズの1作目を出す時点ですでに40~50曲を選曲し、映画の3部作のように、3作目までの構想を練っていたという。自身のキーに合う女性アーティストに限定し、“知る人が知る名曲”ではなく、誰もが一度は耳にしたことがあるような“時代の名曲”を集めた。  たとえば2005年に発表した1作目の『VOCALIST』には、中島みゆきの「時代」、竹内まりやの「駅」、荒井由実の「卒業写真」などが収録されている。どの曲も女性の繊細な心情ーーとくに失恋や離別の悲しみ、叶わぬ思いなどを歌った名曲で、多くの人々の心に残っている歌だろう。徳永はそれらの歌を我流でカバーするのではなく、譜割りひとつ取っても、できる限りオリジナルに忠実に、丁寧に歌っている。楽曲自体はアコースティック楽器を中心としたアレンジで柔らかなサウンドに仕立ててあるが、それも決して奇をてらったものではなく、オーソドックスな解釈といえる。  徳永のカバーの特徴とは、主人公の女性に完全に感情移入するというわけではなく、どこか淡々と、一定の距離感を持って歌っている点であろう。原曲にそっと寄り添うようなスタンスであり、そこには過剰な装飾や誇張した表現がない。だからこそリスナーは、原曲が本来持っているメロディの豊かさや温かな感情に改めて気付かされる。また、原曲を長く聴き続けてきたリスナーは、一つひとつのメロディや言葉を慈しむように歌う徳永の姿に、自身の原曲への思いを重ねる面もあるのではないだろうか。  徳永は、『VOCALIST 6』の特典DVDのインタビューで女性の心情を歌うことについて「女心が分かってたら、その感情に引っ張られてしまうので、ギトギトでべたべたに聴こえてしまうと思う。ただ、たとえば吉田美和ちゃんの『LOVE LOVE LOVE』など、コンサートで何回も歌っていると、だんだん詩の意味や、彼女がどうしてそういう詩を書いたかを理解してくる。そうしたときに気をつけなければいけないのは、感情を込めて歌ってしまうとギトギトでべたべたになってしまうので、感情を入れないように声を当てていく」と、そのスタンスについて明かしている。そして、彼のこのような一歩引いたスタンスはいつしか同シリーズの色となり、作品を重ねるごとに、むしろ徳永自身の存在感も高まってきた。そして2007年、音楽番組『うたばん』に出演したことをきっかけに、3作目『VOCALIST 3』がヒット。これまでのアルバムにも注目が集まり、同シリーズは名曲の道しるべとしての役割を果たすようになっていく。  当初より予定していた3部作をリリースした後は、徳永は「『VOCALIST』を購入してくれたたくさんのファンの方がいる。そういう方々に責任を取るではないですが、みんなが飽きるまでやってもいいのかなと思ったんです」と、2010年、『VOCALIST 4』の制作に望む。同作では、テレサ・テン「時の流れに身をまかせ」、あみん「待つわ」、和田アキ子「あの鐘を鳴らすのはあなた」など、女性の芯の強さをも表現した楽曲にも挑戦。とくに「あの鐘を鳴らすのはあなた」は出色の仕上がりを示した。同曲を力強い楽曲と捉えて情熱的にカバーする男性シンガーも多いなか、前述したような徳永ならではのアプローチで、同曲の叙情的な部分をうまく引き出しているのだ。続く5作目にあたる、2012年リリースの『VOCALIST VINTAGE』では、園まりや藤圭子が歌った「夢は夜ひらく」、美空ひばりの「悲しい酒」、いしだあゆみの「ブルー・ライト・ヨコハマ」など、60~70年代の名曲を、深い理解と親密さを持って歌い上げ、さらに表現の幅を拡げてきた。  そして今作『VOCALIST 6』は、徳永にとってカバー曲シリーズの集大成と呼べる作品に仕上がった。山口百恵が武道館で歌手を引退する際に歌った名曲「さよならの向う側」で幕を開ける本作は、薬師丸ひろ子が14年末の紅白歌合戦で披露した「Woman "Wの悲劇"より」や、中森明菜の「スローモーション」といった、往年の名曲はもちろん、テクニカルな歌唱が要求されるDREAMS COME TRUEの「サンキュ.」や、疾走感のある曲調のtrf「寒い夜だから…」など、バラードとは異なるテイストの楽曲も披露。1~3作目で作り上げてきた”誰もが知る名曲を歌う”オーソドックスさと、4~5作目で見せた音楽的な挑戦を兼ね備えた1枚であり、この10年で徳永が歩んできた道を集約したような作品となっているのだ。徳永が今作を持って同シリーズに一区切りを付けようというのは、この1枚を聞けば、十分に理解できるのではないか。  しかしながら、シンガーとしての徳永は、もちろんここで歩みを止めるわけではないだろう。この10年、カバーを歌い続けてきた徳永は「『VOCALIST』をやるということは、一度ゆっくりと歌と向き合うという時間だったのかもしれません」と語っている。古今の名曲に寄り添い、シンガーとして新たな地平に立った徳永は、今後どのような歌を生み出していくのか。ソングライターとしても新境地を示すのか。まずは『VOCALIST 6』を聴きながら、吉報を待ちたい。 (文=編集部)

乃木坂46の今後を3つの観点で予想 新選抜メンバーに期待されることは?

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乃木坂46『透明な色(Type-A)』(ソニー・ミュージックレコーズ)

【リアルサウンドより】  年明けにリリースされた1stアルバム『透明な色』がヒットを続ける中、いよいよ乃木坂46の11thシングル選抜メンバーが1月18日深夜に『乃木坂って、どこ?』で発表された。前作10thシングル『何度目の青空か?』の選抜発表が昨年8月3日だったので、5カ月強ぶりの選抜発表となり、10thシングル選抜メンバーの活動期間はそれだけ長かったということになる。実際、シングルとアルバムの2枚分を活動したことになるので、それも納得の期間と言えるだろう。  さて、すでにさまざまなメディアで取り上げられている今回の新選抜について、3つの観点から2015年前半の乃木坂46の可能性を探ってみたいと思う。

1. 「誰を選ぶ」かではなく「誰を落とすか」

 今回の新選抜は過去最多の18名編成。乃木坂46はこれまで7thシングル『バレッタ』(研究生から堀未央奈が初めてセンターに選出)、9thシングル『夏のFree&Easy』(SKE48からの交換留学生・松井玲奈が初参加)の際に17名編成を経験しており、それぞれ1名増員になった理由はなんとなく理解できる。しかし今回はそういった付加要素は見受けられず、この後言及する研究生・相楽伊織の初選抜入りについても乃木坂46復帰から半年以上経っているため、ここには当てはまらないだろう。  ではなぜこのタイミングでの選抜枠拡大なのか。それが先に見出しで上げた「『誰を選ぶ』かではなく『誰を落とすか』」に該当するように思う。節目となる前作『何度目の青空か?』でスターティングメンバーである1期生はすべて選抜を経験した。さて、では仕切り直しとなる11thシングルでは誰を選抜に入れるのか……となったとき、「選抜にいてもおかしくないメンバー」が現状多すぎる。実際、これまでの選抜メンバーの変遷を見ても、毎回入れ替わっているのは2〜3名で、それ以外のメンバーはほぼ固定のようなもの。「なんでアイツが選抜に居続けるんだよ!?」と不満を覚えるファンもいるかもしれないが、視点を変えると「グループやメディアにとってすでに必要不可欠」になっているメンバーも多いのだ。  以前とあるメンバーにインタビューした際に「選抜発表のたびに、スタッフさんは『誰を選ぶか』よりも『誰を落とすか』が難しくなっているとこぼしていた」と言っていたが、これが偽らざる事実なのだろう。落とせない / 選抜に置いておきたいメンバーが増えた結果が、今回の増枠という事実につながった可能性が高い。

2. 西野七瀬、3度目のセンター選出の意味

 今作ではセンターを務めるメンバーも変わった。前作およびアルバムでは生田絵梨花がセンターに経ち、2014年後半を牽引してきた。そして新作では8thシングル『気づいたら片想い』、9thシングル『夏のFree&Easy』でセンターを経験した西野が3回目のセンター選出。これで西野は1stシングル『ぐるぐるカーテン』から5thシングル『君の名は希望』まで5作連続でセンターを務めた生駒里奈に続いてセンターを多数経験することになる。  10枚のシングルと初のアルバムでひと区切りを付けた後、乃木坂46の第2章の幕開けを飾る新作の“顔”となるべきメンバー。あるいは、今後の乃木坂46の“顔”となるべきメンバーとも言えるだろう。ここに、すでに“乃木坂46の顔”である生駒や白石麻衣といった人気メンバーを選ばず、あえて三たび西野を選んだのにも理由があるはずだ。  昨年後半から乃木坂46に対する世間の注目は、急激に高まっている。そんなタイミングで発表される2015年最初のシングルの“顔”に選ばれたということは、間違いなく運営側は「西野を生駒や白石と同じくらい、世間に通用するメンバーにしたい」と思っているのだろう。実際、西野は今年2月に初のソロ写真集出版も控えているし、同月下旬からはWOWOWで出演ドラマも放送される。すでにファンの間ではトップクラスの人気を誇り、握手人気もTOP3の実績があるだけに、次はその勢いを外に向けて放っていく。それも、これまでのような方法とは違った形で。これまでもそのチャンスは何度もあったが、グループへの注目度がかなり高まった今だからこそ勝負を賭けるタイミングなのかもしれない。世の中的には顔と名前が一致するメンバー数がまだAKB48ほどではない乃木坂46だけに、西野がこれからどれだけ飛躍していくのかが楽しみでならない。  となると、次章のプロローグとなる本11thシングルでは何か新しい仕掛けをする必要がある。

3. アンダーメンバーの飛躍とアンダーライブの今後

 選抜枠が16枠から2枠増えたことで、少なからずアンダーメンバーにチャンスが巡ってきた。今回は研究生の相楽伊織が初選抜入り、そして伊藤万理華と齋藤飛鳥が7thシングル「バレッタ」以来の選抜復帰となる。まず相楽の選抜入りについては、「乃木坂46第2章」における研究生(2期生)の底上げ、知名度アップの布石になるのではないだろうか。もちろん彼女よりも人気、実力が上の研究生はいる。しかし話題性という意味では相楽がこのタイミングで選ばれたほうがトピックにしやすい。また、ほかの研究生よりも1年遅れてグループに加わったことでいまだに謎の面が多かった彼女だが、今後メディア露出が増えることでその見た目と違ったフワフワしたキャラが浸透していくことだろう。彼女の魅力の1つに「見た目と中身のギャップ」が挙げられるだけに、この絶好のチャンスをぜひ生かしてもらいたい。  そして齋藤と伊藤の、約1年ぶりの選抜復帰。2人は2014年は一度も選抜入りすることなく、同年にスタートしたアンダーライブに立ち上げから参加して着実に実力を高めていった。そんな“種蒔きの1年”を経てつかんだ今回のチャンスを、2人がどうモノにしていくのかにも注目が集まる。すでにアンダーライブには欠かせない、人気・実力を兼ね備えた2人が選抜常連組を脅かす存在であることは間違いない。選抜の中でも3列目という比較的目立たない(あるいはメディア露出の点でも十福神より出番が少ない)立ち位置ながらも、“種蒔きの1年”で培った実力ができるよう心から願っている。  最後に、齋藤と伊藤が抜けたアンダーメンバーがもし11thシングルタイミングでアンダーライブをやった場合、どうなってしまうのかにも注目が集まるところだろう。昨年秋の2ndシーズンではセンターとしてグループを牽引した井上小百合、そして年間を通じてアンダーメンバーをまとめてきた永島聖羅と同じくらい、齋藤と伊藤にもアンダーメンバーを引っ張ってきたという自負があるはず。見方によってはピンチともチャンスとも取れるこのタイミングに、井上や永島、さらにはほかのメンバーがどう動くのか。もしかしたらその鍵を握っているのは研究生なのかもしれない。昨年後半に数名が卒業し、さらに今回のタイミングで相楽が選抜入り。これまでの例からすると、恐らく相楽はここで正規メンバーとなるはずなので、現在の研究生から数名がアンダーメンバーに昇格するだろう。そういった研究生たち(相楽も含む)が、もっと伸び伸びと、自由に動くことで乃木坂46は変わっていく。失敗を恐れずに、もっとグループ内をかき乱してほしい。現状のグループの活性化にはそれが大きなポイントとなるはずだから。  ……以上、3つの観点から11thシングルに秘められた乃木坂46の今後の可能性について語ってみた。現時点では11thシングルの詳細は何も発表されていない。過去の例から予想すると、恐らくリリースタイミングは3月から4月の間になることは間違いない。世の中的にも新学期など新たなスタートにピッタリな時期とあって、これから乃木坂46がどんな道を歩んでいくのか。今はただ楽しみでならない。 ■西廣智一(にしびろともかず) Twitter 音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

振付師・竹中夏海インタビュー 美少女ヒロインと女性アイドルの共通点とは?

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新刊『アイドル=ヒロイン』を手にする竹中夏海。

【リアルサウンドより】  PASSPO☆やアップアップガールズ(仮)といったアイドルグループの振付を手がける振付師でありながら、熱心なアイドルファンとしても知られる竹中夏海氏が、1月20日に自身2冊目となるアイドル本『アイドル=ヒロイン~歌って踊る戦う女の子がいる限り、世界は美しい~』を上梓する。前作『IDOL DANCE!!!~歌って踊るカワイイ女の子がいる限り、世界は楽しい~』は、振付師という立場からアイドルの魅力を読み解いた一冊だった。今作ではさらに自身のアイドル論を掘り下げ、アイドル=ヒロインであるという見立てのもと、女性はどんな目線で女性アイドルに夢中になるのか、その理由を探るとともに、具体的なアイドルの楽しみ方を提示している。そんな彼女に、アイドルをファッショナブルな目線で捉えた新感覚のガールズ・フォトブック『POKER FACE』を昨年12月に上梓した編集者の上野拓朗氏が、話を聞いた。(編集部) ――前に『POKER FACE』のムック本でお仕事をご一緒させていただいた時、セーラームーンを例に出してアイドルの魅力を語っていたのが印象に残っていて、今回の『アイドル=ヒロイン』でもセーラームーンが大きなキーワードになっていますよね。 竹中:もともとはヒャダインさんから「女性ってどういう目線で女性アイドルを好きになるんですかね?」って聞かれた時、「セーラームーンですかね」って何気なく自分で答えた言葉が、凄いしっくりきて。そこから掘り下げていけばいくほど、共通点が出てきたんです。戦う美少女ヒロインみたいなものと女性アイドルって、すごく共通点が多いなって気づいて。で、本を出してみたいなって。 ――『アイドル=ヒロイン』の前作にあたる『IDOL DANCE!!!』は、まさしくアイドル・ダンスという部分にフォーカスを当てた本でしたが、今回はもうちょっとサブカルチャー的な視点でアイドルの楽しみ方を提案してますよね。 竹中:『IDOL DANCE!!!』は、アイドルのダンスについて当時文字で書かれているものがなかったので、これは一冊出しておかなきゃいけないという使命感があって。素晴らしい振付師の方はたくさんいるんですけど、私は文章を書くのも好きな方なので、ちゃんと資料にして残すという意味で、一回どこかで説明できればなというのがあったんです。でも、『IDOL DANCE!!!』を読んだ人からは、もっと技術論かと思っていたけど、半分くらいはアイドル論だったねって感想が多くて。「だよね」って(笑)。で、そのことについてもっと話したいなっていうのと、女性アイドルの女性ファンがなんで増えてきているのかを説明しているところが今あんまりないと思って、それらをカバーする時に“美少女ヒロイン”っていう補助線を使えば、今の時代に合ったものになるかな、と。 ――アイドルの見方ってところだと、いちばん最初は嵐だったという竹中さんのエピソードはインパクト大でした。 竹中:見方みたいなものは、嵐が形成した感じですね。15歳くらいの時、大野くんがタイプってところから入ったんですけど、5人のワチャワチャしている姿が未知のものというよりは、“あるある”って感じで楽しくて。その延長線上ですね、女の子のアイドルも。 ――“アイドルっていうのはヒロインのように誰でもなれるものじゃない。そこに消費されないヒントがあるんじゃないか”って書いてますけど、さっき使命感って言葉も出てきましたが、自分が女の子の側からこのことを伝えていかなきゃいけない……という竹中さんの熱い気持ちを感じました。 竹中:そうですね。両方の本に共通してるんですけど、現役でアイドルをやってる子たちに向けて書いていることは結構多いです。というのは、どんなに強い気持ちを持っていても、こうしてアイドルの数が増えてくると、ほとんどの子が“私って必要とされているのかな?”って時期に一度は入るんですよ。あとは“アイドルって何だろう?”みたいな、そういうサイクルに入ってしまう人も多いので、一つのエールみたいな気持ちを込めて書きましたね。今は量産型みたいになってきて、なかなか個性も出しにくかったりするし、夢はアイドルじゃなくて女優って子もたくさんいて、アイドルの価値がグラグラしている。それで改めてアイドルって何だろうと考えた時、それは誰でもなれるものじゃなくて、本当はもっと崇高なものというか、選ばれし者――ヒロインとかマドンナとか、そういう存在のことじゃないかって『IDOL DANCE!!!』の中で書いていたことを、さらに掘り下げたのが『アイドル=ヒロイン』ですね。 ――セーラームーンのミュージカルのオーディションに受かったものの、転入した小学校で登校拒否になったり、実際に舞台が始まってみたら大変なことばかりだったりと、この本では11歳の竹中さんの実体験にも触れています。 竹中:今、セーラームーンミュージカルの振付を少しやらせてもらえるようになって、19年ぶりに向き合ったんですよ。当時の私は、ちびうさ役だったんですけど、今回担当させてもらったのが、ちびうさ初登場の回。しかも、昔と同じダブルキャストだったんです。で、ふたりのちびうさちゃんを稽古中に見ていて、自分の中で封印していた記憶が、いろいろよみがえってきたんですよね。当時の舞台では、ちびうさをやってないシーンの時はダンサーのお姉さんと一緒にちびっこダンサーみたいな感じで、ぜんぜん違う役をやっていたんです。それは、“森のウサギザル”っていう得体のしれない動物で、茶色の全身タイツにウサギの耳を付けて、セーラー戦士たちをコミカルに襲うんです。その役に、私がすごく力を入れていて。ちびうさよりも一生懸命やっていたら、「夏海はウサギザルをやっている時の方が活き活きしている」って、みんなに言われて。たしかに、活き活きとやっていたことは覚えてたんですよ。ただ、何でそうなったのかっていうのは、この19年間忘れてたんですけど、今回のちびうさちゃんたちを見ていたら、急にそれを思い出して。 ――ウサギザルを活き活きと演じていた理由は。 竹中:要はダブルキャストだから、もう一人のちびうさ役の女の子に自分が勝てるのはそこしかなかったというか、その子が力をそんなに入れないだろうっていうところを探した結果、ウサギザルだったんだと思うんですよ。その子は一つ下の年齢だったんですけど、ハーフの子で体格も私よりしっかりしていて、ミュージカルも何回もやってきている子だったので。私は初めての舞台だったから、歌もダンスも演技もすべて私よりうまい。だから、勝てるところなんてひとつもなくて。まあ、勝ちたいというよりは逃げていたんです。でも、私の方が絶対に面白いっていうのはあって(笑)。ちびうさと主役の月野うさぎって、漫才みたいな掛け合いをするんですよ。その掛け合いは私の方が面白いって、どこかで自負してたんだと思うんです。ただ、ダブルキャストだと、お互いの芝居が影響しあうから、結局言い回しや間など似てきてしまって。で、漫才以外で私の面白いところって何で出せるかなって思った時、たぶんウサギザルに行き着いたんですよね。 ――自分が輝ける場所を無意識のうちに探していたんでしょうね。 竹中:そうなんですよ! だから、今でもやっぱりそういう少し変わった子というか、なぜか大人にかわいがられない子とかを見ると放っとけないんですよね(笑)。“頑張れ!”って思うし、自分をすごく思い出す。 ――例えば、自分の教え子から悩みを相談されたりすることも? 竹中:そうですね。「先生、聞いてください」みたいな時は、グループ全体でちょっと危機感を持っていたりする。でも本当に悩んでる時、“闇堕ち”っていうか、セーラームーンだと亜美ちゃんがダークサイドに落ちる話があるんですけど、そういう感じになっている子は逆にこちらから声をかけないと言い出してこないので、見かねて声をかけたりする場合もあります。 ――そういうのってわかるんですか? 竹中:わかります。メンバーから相談されることもあるので。「私たちの意見は耳に入ってこないみたいだから、先生が声かけてあげて」って言われたり。
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自身のアイドル論を熱心に語ってくれた。

――竹中さん自身、学生時代はクラブ活動でリーダーシップを発揮していたそうですね。 竹中:ずっと部長でした。だから、副部長タイプの人とはよく仲良くなります。なでksジャパン(竹中の友人たちで女性アイドルファン仲間。竹中の他、モデルの二宮なゆみ、小口桃子、日笠麗奈、タレントの渡賀レイチェルがいる)だと、なゆみがそのタイプです。いつも副部長だったらしいので(笑)。私は先輩とつるむよりは、後輩の子たちと接するほうが断然多かったですね。中学2年の時に演劇部ができたので、中1から入ってくる子が10人いて、わざわざ転部して演劇部に入る中2は私しかいなくて、さらに中3はゼロだったから私だけが先輩という。そうなると、もう天下じゃないですか(笑)。高校の時は新体操とチア部にいたんですけど、大会とかではそんなに強いところでもなかったので、先輩も少ししかいなくて。 ――新体操部とチア部って、演劇部とはまたぜんぜん違う。 竹中:そうですね。でも、演劇部はほぼダンス部だと思われていたし、新体操部はただストレッチしに行ってたようなものだし、チアダンスは自分でチームをつくって……どれも私がどうにかできる規模だったんです(笑)。だから、ほぼ私の色でできたっていう。 ――いずれも身体を使った表現ってところで共通していると思うんですが、大学に進学した竹中さんは、そこからさらにそれを突き詰めて勉強していった。その時の体験が今の振付のストックになっていそうですね。 竹中:だから、「ハロプロが好きなわりに、ハロプロのダンスとぜんぜん違いますよね」っていうのはよく言われます。 ――ハハハ。 竹中:私がつくる振付に関しては、アイドルからっていうよりも自分がやってきたものの影響のほうが強いと思いますね。 ――アイドルの振付を始めるようになってからは、いろんなグループのダンスをチェックするようになりました? 竹中:そうですね。でも、必要に迫られて見るというよりは、趣味ですね。Berryz工房をテレビで知ってアイドルに目覚め、PASSPO☆に出会うまでに1年間くらいあったんですけど、その間、アイドルにツテもなければ仕事もないので、よくイメージトレーニング的なことをしていたんです。AKB48のアルバムを借りてきて、曲を聴いて勝手に振付をつくる。“こういう曲だったら、私はこういう振りにする”って。その後、YouTubeでライブ映像を見ながら答え合わせをする……みたいな。“こういうふうになってたんだ!”とか、逆に自分が考えていたものに似ていたりとか、いろいろと発見があります。 ――『アイドル=ヒロイン』の「実践編」では、夢みるアドレセンスの女性向けイベントの舞台裏を書いています。竹中さんが企画の立ち上げから関わって、実際にイベントが開催されるまでを説明してくれていますけど、振付をつくる作業とはぜんぜん違いますよね。 竹中:飽きっぽいので、いろいろやっていたいんですよ。そういう意味で、私は職人気質じゃないと思うんです。作品をずっと黙ってつくり続けるというよりは、常にいろいろやっていたい。振付をつくってる時は文章を書きたくなるし、文章を書いている時は振付の仕事って楽しいなって思うし、なでksの皆でファン目線で話してる時は“中の人”として聞いたりすることもある。いろんな立場で考えるというか。 ――あらゆることが同時進行で走っている状態だと思うんですけど、例えば家にひとりでいる時とか、そういうプライベートの時も仕事のことを考えていたりしますか? 竹中:私、本当に一人暮らしが向いてなくて(笑)。というのも、頭の中でモヤっとしているものを常にアウトプットしていくことが好きで、誰か聞いてくれる人がいないとダメなんですよ。だから、実家の母とか友達とか誰かしら近くにいてくれないと、すごくストレスになるんです(笑)。誰かに話さないと、考えてることがパンクしそうで。 ――何か思いついたら、どんどん口に出して整理していきたいタイプ? 竹中:そうですね。このテーマで本をつくりたいとか、雑誌でこういう企画をやってみたいとか、手書きでバッと書くことが多いです。大学の時からそうでした。殴り書きみたいな感じです。衝動的にアウトプットして、さらに企画として成立させる。なでksジャパンでやってることは、そういうことですよね。2週間に1回、生配信をやってるので、その時に思いついたことを時間かけて皆で形にしていく。昨日も皆で遊びに行っていて、その時に私の頭の中で思っていた――まだ考えは固まってないんだけど、なんとなく面白そうだなみたいな――そういうアイデアを話すと、「じゃあ、こうじゃない?」みたいなやり取りがあったり。で、帰った後もLINEでやり取りが続いたりとか。 ――『IDOL DANCE!!!』の中で、アイドルのプロデューサーには興味がないと書いてましたけど、あれから2年が経って今はどうですか? 竹中:今は前よりもさらにそういう気持ちがないです(笑)。いろんな人を見てきて、アイドルの子が幸せになるには、やっぱり持久力のあるプロデューサーが大切だと思ったんですね。でも自分には持久力がないから、アドバイザー的なことしかできない。こうしたらいいのに、ああしたらいいのにというのはすぐに思いつくけど、長い目で見てあげて……って考えると難しいから、それだったら自分はやらなくてもいいかなと。それに今は自分の教え子もいっぱいいるので、手一杯なところもありますし。ただ、いろんなアイドルをイジってあげるテレビ番組はつくってみたいです。『Matthew’s Best Hit TV』とか『パパパパPUFFY』とか、2000年代のあの頃の番組には、例えばSPEEDのたかちゃんやあややなどが出ていましたけど、今は当時よりアイドルの数はぜんぜん多いのに、ああいう番組がないじゃないですか。ああいう感じで、アイドルが活かされる場所ができたらいいなと思ってます。 ――じゃあ、手書きで企画書を書いて……。 竹中:どこかに出しましょう(笑)。 (取材・文=上野拓朗/POKER FACE
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竹中夏海『アイドル=ヒロイン~歌って踊る戦う女の子がいる限り、世界は美しい~』(ポット出版)

■書籍情報 『アイドル=ヒロイン~歌って踊る戦う女の子がいる限り、世界は美しい~』 発売:2015年1月20日 著者:竹中夏海 版元:ポット出版 四六判/並製/144P 1,500円+税 ■イベント情報 【『アイドル=ヒロイン~歌って踊る戦う女の子がいる限り、世界は美しい~』発売記念「アイドル=ヒロイン」妄想キャスティング会議】 日時:1月21日(水) 場所:お台場・東京カルチャーカルチャー 出演: ・第1弾出演者 酒井瞳(アイドリング!!!) 安斉奈緒美(PASSPO☆) 西七海(虹のコンキスタドール)+お目付役・近藤さん(虹のコンキスタドール美人マネージャー) 竹中夏海(振付師) ・第2弾出演者 レナ(バニラビーンズ) 傍聴人:なでksジャパン(二宮なゆみ、小口桃子、日笠麗奈、渡賀レイチェル) OPEN 18:30 / START 19:30

“昭和歌謡最後の女王”の覚悟ーー中森明菜の新曲「Rojo -Tierra-」を聴く

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【リアルサウンドより】  昨年末の紅白歌合戦の最大の話題といえば、その後の騒動も含めてなんといってもサザン・オールスターズということになるが、中森明菜の出演も大きなトピックだった。ニュー・シングル「Rojo -Tierra-」のリリース(1/21発売)の発表に続き、4年5ヶ月ぶりに公の場で歌唱、新曲を披露。そして年が明けて9日には同じNHKで、LAでレコーディングを続ける中森に密着取材したドキュメンタリー『SONGSスペシャル 中森明菜 歌姫復活』も放映され、恒例のカヴァー・シリーズ『歌姫』の新作『歌姫4 -My Eggs Benedict-』のリリース(1/28発売)も発表されて、今回の復活劇が周到に計算され準備されたものであることを示していた。  とはいえ彼女は良くも悪くも2015年の現在に於いても、J-POPではない「歌謡曲」の孤塁を守り続ける女王であり、いまだ芸能マスコミのスキャンダラスな好奇心の格好の対象でもある。中途半端な復帰はマイナスな印象にしかならない。仕掛けは華々しくてもその復活が歌手としての本当の復調を告げるものなのか。  紅白での中森は極度に緊張していたように見えた。本来、歌はもちろんメイク、衣装、振り付け、さらには舞台装置も含めなどトータルなヴィジュアルのコーディネイトによって、楽曲に合わせた世界観を完璧に作り上げていくのが中森のやり方のはずだが、薄暗いレコーディング・スタジオで、振り付けもなく、衣装も平服で、なにより緊張の伝わるこわばったような声で歌う彼女は、まだ復調途上であることを伺わせた。とはいえ、80年代の全盛期の中森を捉えた映像集『中森明菜 in 夜のヒットスタジオ』や『ザ・ベストテン 中森明菜プレミアムBOX』を見ても、もともと中森はかなりのあがり症で、楽曲の初披露の時はTV越しでも緊張が伝わるようなピリピリした雰囲気を漂わせ、歌い終わったあとも手の震えが止まらないような、そんなある種の危うい初々しさが持ち味でもあった歌手である。ハラハラしながらも、あの明菜が帰ってきたという実感があったのは筆者だけではないだろう。そして歌い慣れた馴染みの大ヒットではなく、あえて初披露の新曲を歌ってみせる攻めの姿勢に、復帰に賭ける意思の強さを感じることができた。  その新曲「Rojo -Tierra-」だが、アクセスの浅倉大介の作で、今様のEDM、それに「ミ・アモーレ」に始まる明菜得意のラテン〜アフロ風味を加えたようなエキゾティックでトライバルなダンス・トラック。イケイケなエレクトロ・ディスコだった前作シングル「Crazy Love」(2010年)同様、00年代以降の中森の基本路線と言えるだろう。以前と比べるとかなりキーが低くなり、突き抜けるような華やかさがなく、やや地味な印象も受けるが、低域から中域にかけての凄みのある粘りは女王の貫禄。シンセの重低音の押し出しもかなりのものだ。楽曲はちょっと90年代のTK全盛期を思わせる浅倉らしいもので、そのあからさまなEDM仕様は今となってはいささか古くさい印象もあるが、ねっとりした(あるいは、辛気くさい)バラードではなく、こういうアグレッシヴでアップテンポの楽曲を復帰第一弾に選んだのは正解だった。  もうひとつ気づいた点を挙げるなら、以前の中森のような濃厚なエロスというよりも、もっと根源的な生命のエネルギーを感じさせるということ。「私たちはひとりじゃない/あなたはもう ひとりじゃない/つらい過去から逃げずに...夜明けをつかまえて/優しい目をした人よ 光は降り注ぐから」という歌詞も、男女の性愛というよりも、未来に向けての光や希望を歌っている。これは『SONGSスペシャル 中森明菜 歌姫復活』で中森が語っていた「支えてくれるファンの人たちを喜ばせたい。自分の歌が、みなさんのしんどい日々の生活の支えや手助けや勇気になればいい」という発言でも裏付けられるだろう。自分が歌いたい、表舞台に立ちたい、脚光を浴びたいというスター意識やアーティスト・エゴよりも(もちろん、そういうものがないはずがないが)、ファンや客を明確に意識した発言は、昭和歌謡最後の女王であり、日本の大衆芸能の伝統の衣鉢を継ぐ者としての意地と覚悟が感じられるものだった。このコメントだけでも、期待は高まるというもの。  「Rojo -Tierra-」のカプリングとなる「La Vida」は、この原稿を書いている時点では音を確認することができなかったが、歌とギターとパルマ(手拍子)だけのフラメンコ調の曲という情報から、彼女らしいしたたり落ちるようなエロスを表現した濃厚な楽曲ではないかと推測される。2002年のシングル「The Heat 〜musica fiesta〜」のカプリングだった「「Siesta 〜恋のままで〜」に近いイメージだろうか。  カヴァー楽曲集『歌姫4 -My Eggs Benedict-』に関しても、『SONGSスペシャル 中森明菜 歌姫復活』で披露され、その後先行配信された「スタンダード・ナンバー(南佳孝)」と「長い間(Kiroro)」しか聴くことができなかったが、特に「長い間」は歌手・中森明菜の本領発揮といえる素晴らしい歌唱だっただけに期待できそうだ。  だがかれこれ8作目(『歌姫』シリーズとしては4作目)となるカヴァー・アルバムは、正直もう食傷気味という思いもある。やはりアーティストとしての本格的な現役第一線への復帰は、『DIVA』(2009年)以来のオリジナル・アルバムの発表を待ちたい。『SONGSスペシャル 中森明菜 歌姫復活』ではオリジナル・アルバムを制作中という中森の発言もあったが、その新作を引っさげてのコンサート・ツアー、そしてヴィジュアルと歌が一体化した一部の隙もない明菜流世界観を披露して、初めて中森明菜は復活したと言えるのではないか。インタビューを見ても、彼女の創作意欲はまったく衰えていない。復活のその日を熱烈に待ちたい。 ■小野島大 音楽評論家。 時々DJ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『ロッキング・オン・ジャパン』『MUSICA』『ナタリー』『週刊SPA』などに執筆。著編書に『ロックがわかる超名盤100』(音楽之友社)、『NEWSWAVEと、その時代』(エイベックス)、『フィッシュマンズ全書』(小学館)『音楽配信はどこに向かう?』(インプレス)など。facebookTwitter
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中森明菜『Rojo -Tierra- (初回限定盤)(DVD付) 』(Universal Music)

■リリース情報 『Rojo -Tierra-』 発売:1月21日(水) 価格:初回限定盤(CD+DVD) ¥1,700+税    通常盤(CDのみ) ¥1,200+税 <CD収録内容> 1. Rojo -Tierra- 2. La Vida 3. Rojo -Tierra- (Instrumental) 4. La Vida (Instrumental) <DVD収録内容>※初回限定版のみ 1. Rojo -Tierra- (メイキング映像)

NEWS、和風EDMでチャート1位に 楽曲の方向性から見える戦略とは?

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NEWSの加藤シゲアキ。

【リアルサウンドより】 2014年1月5日~2014年1月12日のCDシングル週間ランキング(2014年1月19日付)(ORICON STYLE)  今週のオリコン週間シングルランキングは、NEWSの『KAGUYA』が14.0万枚で1位。2位には5人組ボーカル&ダンスグループDa-iCEの『もう一度だけ』が、3位にはポスト・ハードコアバンドFear, and loathing in Las Vegasの『Let me Hear』がランクイン。また、昨年末の「第56回 日本レコード大賞」で新人賞を受賞したシンガーソングライター大原櫻子の『瞳』も5位と健闘。女性アイドルグループの目立ったリリースがなかった週だが、バラエティある並びになっている。  というわけで、今回はまずNEWSの『KAGUYA』について分析していこう。17枚目となるシングルは、タイトル通り、竹取物語の「かぐや姫」をモチーフにした一曲。かぐや姫に恋焦がれる男の側の思いを歌ったナンバーで、キャッチコピーは「壮大なラブソング」となっているが、曲調はいわゆる「和風EDM」。琴や鼓の音色を配し、サビのメロディにヨナ抜き音階を駆使して和のテイストを醸し出し、一方で曲の骨組みはトランスのマナーに沿ったものとなっている。  半年前にリリースされた一作前のシングル『ONE -for the win-』では、表題曲が日テレ系サッカー番組『ブラジル2014』テーマソング、その前の『WORLD QUEST』が同じくサッカー番組『FIFAクラブワールドカップジャパン 2012』オフィシャルソングだったことを考えると、久々のノンタイアップでのリリース。ただ、同じくノンタイアップでリリースされた4人体制になって初のリリース『チャンカパーナ』が、「パーナさん」というファンの通称の元となるほどの代表曲となっていることをふまえても、グループにとって象徴的な曲となるべくリリースされたことは間違いないだろう。  作曲を手がけているのはクリエイターチーム「ever.y」に所属する作曲家take4(タケシ)。カップリング「バタフライ」も、「ONE -for the win-」も彼のペンによるもので、NEWSの最近の楽曲の多くを手掛けているソングライターだ。さらに「チャンカパーナ」や「WORLD QUEST」は、彼が師事する「ever.y」代表のヒロイズムが作曲を手掛けており、4人編成になってからの楽曲の方向性はほぼ統一したブランディングのもとに作られていることが伺える。  「KAGUYA」では写真家の蜷川実花が監督をつとめたMVも話題を呼び、この映像とメイキングが収録されたDVDが付属する初回盤がセールスを押し上げたということも特筆すべき点だろう。鮮やかな色合いのビジュアルと妖艶なメンバー4人の姿は、どちらかと言うと保守的な「歌謡曲+ダンス・ポップ」の曲調に対して大きなフックとなった。  そして、3位にチャートインしたFear, and Loathing in Las Vegasも見逃せない。昨年にやはりシングル『Rave-up Tonight』を3位にチャートインさせている彼らだが、着実な盛り上がりを見せているラウド〜ポスト・ハードコアのシーンの中でも、シングル曲をオリコン上位に送り込む実績を残しているのは彼らくらい。アニメ『寄生獣 セイの格率』のオープニングテーマとなっていることも大きいが、変わらぬ人気が伺える。昨年にメジャーデビューを果たし4月にニューアルバムのリリースを控えているCrossfaithも含め、この後シーンの広がりがより可視化されていく予感がする。  NEWSの『KAGUYA』とFear, and loathing in Las Vegasの『Let me Hear』は、(おそらく偶然だと思うが)どちらも毒々しいほどカラフルな色合いを打ち出したジャケットのアートワークが目を引く作品。そういうところにも時代性を感じたりする。 ■柴 那典 1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter