「盛り上がらないことも尊い気がする」Awesome City Club×髭×吉田ヨウヘイgroupが語る”ライブ中に感じること”

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左から、吉田ヨウヘイ、マツザカタクミ、須藤寿。

【リアルサウンドより】  4月3日に東京・Shibuya WWWで行われるライブイベント『Awesome Talk -vol.1-』に出演する、Awesome City Clubのマツザカタクミ(ベース・シンセサイザー・ラップ)と、髭の須藤寿(ボーカル・ギター)、吉田ヨウヘイgroupの吉田ヨウヘイ(ボーカル・ギター・アルトサックス)が集った座談会。前編【Awesome City Club×髭×吉田ヨウヘイgroupが語る、気持ちのよい音楽の作り方「3組とも少しハズしているところがある」】では、イベント開催の経緯や、それぞれのバンドとの出会い、多人数グループならではのバランスの取り方などについて語り合ってもらった。後編では、それぞれのバンドでメンバーが担う役割や、日本語詞へのこだわり、ライブへの考え方などについて、じっくり話を訊いた。

「バンド組んだ時に日本語をメインにすると決めていた」(マツザカ)

――前編の最後には須藤さんによる歌詞への言及がありました。マツザカさんと吉田さんも、それぞれバンド内で歌詞を担当していますが、お二人の作り方はどのようなものでしょうか。 マツザカ:僕は、ボーカル兼ギターのatagiがメロディとコードで作った曲に対して、語感の良い言葉を嵌めていきます。彼の作るメロディは洋楽的な譜割りなので、そこを崩さないけど、日本語で書くようにしていると、自然に発語して気持ち良いものを選んでいる。ただ、一人でやっていると、須藤さんみたいにジメジメしてくるので、メンバーの横で「今こんな感じなんだよね」と言ってみて、会話している中で閃いたものも採用しています。あとは、ボーカルが二人いるので、PORINが歌う場合は「あの子が言ってたら良いよね」という言葉を考えます。 吉田:本当は難しい単語とかを組み合わせて作りたいんですけど、頑張っても全然できるようにならなかったので……。今は簡単なストーリーを作って、それに肉付けするような形で歌詞を書いています。気を付けているのは、「この話、自分にしか当て嵌まってなさそう」という人がいっぱいいるような話にしようと。たとえば「ブールヴァード」という曲は知り合った女の子が、好きかどうかもわからない人から夜中に呼び出されて、自分の感情がわからないまま車で行っちゃう、という話をしてて。僕はそういう体験をしたことはないですが、実際に体験した人の話を軸にして、ディティールとして車の中で見える風景や小物を足していくと、面白くなっていきますね。 マツザカタクミ:須藤さんって、歌詞の中で結構固有名詞を出してますけど、パッと思いついたものなんですか? それともストックしてあるやつですか。 須藤:ずっとストックはしてあるんだけど無くしちゃうね。あと、そのやり方で一番初めに僕が影響を受けたのはビートルズの「Come Together」で、コカコーラとか、曲のなかに出てくる単語がとにかく面白い。当時は翻訳がないと意味がわからなかったんですけど、自分がもってかれちゃうような感じがあった。あとは一番初めだと、J・D・サリンジャーとか太宰治とか。サリンジャーも『バナナフィッシュにうってつけの日』みたいな、よくわからないけど言葉に魔法がかかっているようなものが好きかな。あとは、プロットの中から作っていくっていうのは、俺もぜひやってみたいんだけど、なぜかその才能に恵まれていなくて……。海外の人たちの音楽を聴いていると「俺、振られちまったぜ」とか「ちくしょう、夜通し泣いていたんだ」みたいな良い曲が多いじゃないですか。でも、日本語って語感がすごく固いから、どうしてもそこに妨げられちゃうことがあるんだよね。「~でした」とは言えないからさ。 吉田:本当に語尾だけで変わっちゃうし、「Like a Rolling Stone」(ボブ・ディラン)みたいなのを書いても、語尾だけで格好よくなるかどうかが決まる。言い切ると強すぎるし……(笑)。狙ってもはっきり言いすぎると強くなるから、落ち着きが良いやつを選ぶんですよね。 須藤:逃げ方がかっこいいのが重要だよね。「〜だったんだよな、〜を」みたいな倒置法が上手くいくと「キタぜ!」って思う(笑)。
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マツザカタクミ(Awesome City Club)。

――それでも、日本語で歌詞を書く理由はあるのでしょうか。 マツザカ:僕はもともとこのバンド組んだ時に日本語をメインにすると決めていたんです。昔、デンマークとスウェーデンに住んでいた時期があって、リンプ・ビズキットやウータン・クランなどを聴いていたのですが、日本に帰ってきたら、周囲の友達は誰もそのアーティストたちを知らなくて。その時、友達とカラオケに行ったら、ゆずやBUMP OF CHICKENを歌っていたので、勉強するためにTSUTAYAに毎週通って聞いていたんですよ。そうすると、コードの移り変わりとかと言葉がリンクして、情景が浮かぶ感じがしたんです。英語ももちろんわかるんですけど、日本語の方がそのまま入ってくるので、単純に日本人として気持ちいい方を選んでいます。 須藤:僕の場合は単純に英語が喋れないから……。喋れていたら、英詞を書いていたと思う。受信する側は英語を知っていても知らなくても良いんだけど、発信するならわかってないとね。僕、基本的には自分のわかる武器を使いたいんですよね。 吉田ヨウヘイ:僕は、洋楽も好きですけど、一方でユーミンとかが好きなんですよ。日本語のねちゃねちゃした部分を上手く出していて、メロディの形にも関わっている。下はどこからでも取ってこれるけど、メロディと歌詞は日本語に合うものにしようと思っていましたね。須藤さんは今まで沢山の歌詞を書かれていますが、書き続けると次第に苦しくなっていくものでしょうか? 須藤:悩みずぎると、曲自体を捨てちゃうときもあるよ。締め切りに間に合わせるか、捨てるかと言ったら捨てる。 マツザカ:僕は、書くのが結構遅いんですけど、今のところは「もうできない!」と思っても、本当にギリギリになったらできるという事態に助けてもらってますね。自分のなかでは「結局最後には出来るんでしょ?」と思いつつ、本当に書けないまま終わってしまうことがいつかあるんじゃないかとビクビクしているんですけど(笑) 須藤:いつかそうなるよ(笑)。アーティストとして問題なのは、ギリギリになったときに、それができるかできないかじゃなくて、アイデアが出なかったときに、締め切りを守れるか、締め切りをぶち切れるか。「なんとかみんなのニーズに応えているので、納得いきませんが出します」なのか、「すいません、出せません」という二手に分かれてくると思う。これから、Awesome City Clubも忙しくなっていって、ツアーやりながらレコーディングをしたりするわけだから、歌詞を書く時間を取るために眠れないなんてこともあるだろうね。
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吉田ヨウヘイ(吉田ヨウヘイgroup)。

「適度に不安がないと嫌になっちゃう」(吉田)

――ここまで二人から須藤さんへの質問が続いていますが、須藤さんから二人に聴きたいことはありますか。 須藤:セットリストについてなんだけど、二人は決まってきちゃうタイプ? 例えば、30分を構成する7曲が「いつみてもその7曲」となるバンドなのか、「1曲目から新曲やれちゃうよ、ここであえて育てるよ」と言えるバンドなのか。 マツザカ:僕は波を作ってお客さんをコントロールしたいという欲求と、やりたい楽曲を出してあげたいという感情がケンカします(笑)。30分セットだと、どれをはずしたら良いかわからなくて、一緒になってしまう。ただ、今回の企画では、もう少し日の目を見ない曲をやりたいですね。 吉田:僕は結構、適度に不安がないと嫌になっちゃうんですよね。 須藤:あぁ、リスクを負いながらやる方ね(笑)。 吉田:新しい曲も、しばらくするとできるようになってくるじゃないですか。同じことは嫌じゃないんですけど、演奏に怖さがなくなると、流してプレイしてしまうような気もしてくるので、完成度に不安があったとしても新曲を入れてしまう。 須藤:でもお客さんは喜ぶよね。この間テレビで見たんだけど、Mr.Childrenって、ギターソロまで絶対音源通りにするらしいよ。「チョーキングまで一緒にしないと、あれだけの人を喜ばせられない」っていうのを聞いて、ああいうモンスターバンドが背負った宿命なんだと思ったし、かっこいいなとも感じたね。 マツザカ:でも、キャリアを積み重ねていって、代表曲みたいなものが出来たら、それをずっと続けなきゃいけないわけですよね。そこに曲の強度がついていかなかったらどうしようとも思います。 吉田:自分の中の曲の完成度より、お客さんの反応の方を気にするんですか? マツザカ:今日、ライブをやっていて思ったんですけど、自分って、どうやらフィジカルな反応をお客さんに求めているみたいで。だからといって直接的に踊らせる曲はやりたくないんですけどね。 ――クールにやるけど、熱狂してほしいと。 マツザカ:全員が同じ振付をしてくれ! みたいなのは無いんですけど、アッパーな感じとかビート感の強い曲をやっていたりするので、そこらへんには反応してほしい。一方で、盛り上がらないことも尊いような気がして。すごいアッパーであがってくれると嬉しいんですけど、「これは本当じゃない」みたいな。両方の自分たちを大事にしたいなと思ってます。 吉田:映像でみると、結構盛り上がっているライブだったのに、ステージにいる時は「盛り上がりが足りない」と感じている自分もいたりしますね。 須藤:ハードコアとかメロコアの人たちはわーってダイブとかしているけど、あれはひとつの様式美みたいなもので、普通は揺れながら心で泣いたりさ、気づいたら両腕に力が入っていたりするわけじゃない。でも、ライブに出る側の自分たちとしては「その盛り上がり方はやめてよ」と思ったりもする(笑)。
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須藤寿(髭)。

「お客さんも合わせてヒップな夜になればいい」(須藤)

――最近のライブでなにか感じたことはありますか? マツザカ:土地土地で反応が違うなと感じました。東京だと「自由に」っていったら、自由に楽しんでくれている気がしているんですが、地方に行って、僕らを知らないような人たちに初めて見てもらったときに、延々とハンドクラップをしてくれたところがあって。ノリ方の違いがあると実感させられました。 須藤:恋愛みたいな感じだよね。場所によってシャイなところと、シャイじゃないところがあったり。僕らはシャイだから、シャイなお客さんが来たら、最後に乗せるために駆け引きをしようと思うし、すごい着火点が早いところだと、それはそれで僕たちも嬉しい。一番良くないのが、1〜2曲目がすごい熱くて、あとで取り返せないというやつ。ああいうときはドキドキしますよね。ここのタイミングでこのくらいテンポを落としたほうがいいけど、その後に速い曲をやったときにお客さんのテンションが戻ってこないみたいな(笑)。セットリストもその感覚で作るよね。途中BPMをこのくらいに落として、ここ2曲くらいで戻るか、3〜4曲突っ込んじゃうか。BPM80くらいのところで、ホットな感じにするわけですよ。そこで、どう120に戻していくとか。120に戻した時に思っていた反応が得られなかったら「俺、間違えたかな~」って思ったり。 吉田:自分のせいだと思ってしまうんですね。 須藤:自分がセットリスト作ったりするからね……。なんとなく、バンドの中でも「須藤が作るだろう」みたいな共通認識があるし。最終的にバンドのヒエラルキーは自分を頂点としてあるから、だったら、初めから作ってきなよっていうね。最近はBPM70くらいまで落として始めるのが好きなんですよ。 マツザカ:Awecome City Clubは、始まってからある程度の期間まで、それくらいのBPMからスタートしていました。前のバンドが盛り上がれば盛り上がるほどいいですよね! 須藤:そう、スリリングなのよ(笑)。「こいつら違うな」って思わせられるし。 吉田:ウチは勝手に決まっていることが多いですけど、僕のアルトサックスとギターの持ち替えがあるので、ある程度の制限はありますね。
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――ライブ当日は、どう楽しんでもらいたいですか? マツザカ:まず、根本としてこのイベントは、ライブを観に来るというよりは、社交場みたいになったらいいなって思っていて。良い社交場には良いBGMがあるし、そのBGMが僕らのライブになればいい。気になる女の子がいたらナンパしてくれてもいいし、その空間で自分の一番楽しいことをやって欲しいです。  あと、3バンドの組み合わせとしては、髭先輩と同世代的な吉田ヨウヘイgroupっていうのがいて、3つともやっていることは全然違うから、コントラストを楽しんでもらいたいですね。この対談で話した「ロックバンドっぽくなさ」みたいなのはハッキリと出るんじゃないかな。 須藤:間違いなく出るだろうね。今日、二人と初めてゆっくり話して、ヒップな二人なんだって思った。そういう、「自分たちがヒップだ!」なんて感じられることはあまりないから、お客さんも合わせてヒップな夜になればいいですね。 吉田:Awesome City Clubは、もともと面識もなかったけど、こういう場を用意してくれたり、尊敬する先輩バンドの髭を呼んだりとか、とにかくイベントを面白くしようとしている気概を感じます。この熱量はイベントに来てくれた人にはそのまま伝わるだろうし、当日の会場でも色々仕掛けがあると聞きました。だから間違いなく良いイベントになるんだろうなと確信しています。 (取材・文=中村拓海/写真=竹内洋平) ■イベント情報 『Awesome Talks -vol.1-』 日時:4月3日(金)OPEN/START 18:15/19:00 場所:shibuya WWW 出演:Awesome City Club / 吉田ヨウヘイgroup / 髭 GUEST DJ:木下理樹 チケット料金:前売3,000円/当日3,500円(各税込、Drink代別) お問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999 チケットはこちら→http://acc-at1.peatix.com/ ■リリース情報 『Awesome City Tracks』 発売:2015年4月8日(水) 価格:¥2,000+税 <CD収録内容> 1.Children 2.4月のマーチ 3.Jungle 4.Lesson 5.P 6.It’s So Fine 7.涙の上海ナイト

“失恋ソングの女王”奥華子と、音楽聴き放題アプリ「スマホでUSEN」との親和性とは?

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奥華子『冬花火』(ポニーキャニオン)

【リアルサウンドより】  日本最大手の音楽放送サービス・USENが手がける、スマートフォンに向けたアプリ「スマホでUSEN」が好調だ。  USENと言えば、ゆうに300万曲以上と国内最大級の音源保有数を誇る有線ラジオ放送局。50年を超える歴史と、音楽放送業界シェアNo.1を誇るチャンネル編成力で、店舗やオフィスを中心に利用されてきた。そんな老舗のノウハウを活かした個人向けの新サービス「スマホでUSEN」は、1000以上のチャンネルの中から手軽に良質な音楽を聴くことができる点が、大きな魅力となっている。  中でも話題のアーティストをフィーチャーしたり、テーマに沿った楽曲を集めた特集チャンネルは好評で、期間中は好きなアーティストの楽曲がエンドレスで聴き放題。現在は石野卓球がセレクトしたランニングを楽しむためのチャンネルや、春らしい桜ソング特集などバラエティ豊かな企画を配信中だが、中でも注目したいのが女性シンガーソングライター・奥華子の特集だ。  楽曲の傾向から、“失恋ソングの女王”という異名をとる奥は、実は有線と非常に親和性の高いアーティストでもある。有線の特徴のひとつにリクエスト方式があるが、奥はかねてより積極的に有線リクエストを推奨している歌い手のひとり。昨年1月には、当時発売前だったシングル『冬花火』が「USEN HIT J-POPランキング」と「週間USEN HIT J-POP/洋楽ランキング」でそれぞれ1位を獲得。楽曲の発売前に2冠を達成するという離れ技をやってのけた。アニメ映画『時をかける少女』で使用され、ロングランヒットを記録した『ガーネット』と『変わらないもの』も、リクエストされることの多い楽曲。どちらも叶わぬ恋との決別を歌った曲で、切ないメロディラインは聴くたびに胸が締め付けられるようだ。また、ファンの間でもとりわけ名曲と名高い『初恋』も、奥の有線リクエストの定番曲。“あなたは友達 今日から友達…”というサビの歌詞に失恋後の女性の決意がにじむ。音源をセットして、またはセレクトして、主体的に聴こうとする音楽との付き合い方もあれば、一方で何気ない作業中または街中を歩いている時に、ふと出会う音楽というものもある。たまたま耳にしたワンフレーズが色濃く心に刻まれ、耳から離れないという体験は、多くの人に覚えがあるはず。奥の楽曲は、そんな聴き方によくマッチしている。まず伸びやかで透き通るような歌声。そして繊細なピアノの弾き語りスタイル。それらは雑踏の中でもよく響き、楽曲に存在感を与えている。加えて、てらいのない普遍的でシンプルな構成は、誰の耳にもなじみやすい。それが有線やラジオといった場で強さを発揮する奥の武器。世代を超え、男女の差を超え、彼女の楽曲に惹かれる人が多いという理由には、こんな背景があるからではないだろうか。「スマホでUSEN」は、まさに彼女の楽曲にうってつけのツールだと言える。  近年、各社で音楽配信アプリのリリースが相次ぐ中、「スマホでUSEN」最大のウリは、ユーザーそれぞれのライフスタイルによって多様な使い方が可能なこと。じっくり音楽を聴くにも、作業中のBGMにするにも、また語学を学んだりトーク番組を楽しんだりと、さまざまな場面で取り入れることができる。好みの音楽が必ず見つかるという、豊富なデータ量も心強い。「スマホでUSEN」を使って、新たな音楽との出会いを楽しんでみてはいかがだろうか。 (文=板橋不死子) ■音楽聴き放題アプリ「スマホでUSEN」 http://smart.usen.com/ ※3日間無料体験実施中

乃木坂46、11thシングルから読み取れる「懐古と再出発」とは? バラエティに富んだ収録曲を読み解く

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乃木坂46『命は美しい(初回生産限定盤B)』(SMR)

【リアルサウンドより】  乃木坂46が待望の1stアルバム発売後、新たな出発を高らかに告げるのがこの11thシングル『命は美しい』だ。生駒里奈、白石麻衣、生田絵梨花など主要メンバーはもちろん、アンダーライブを引っ張ってきた伊藤万理華と次世代エース候補・齋藤飛鳥がアンダーメンバーから昇格するかたちになったほか、研究生からは大型新人・相楽伊織を、そしてセンターには三度(みたび)西野七瀬を迎えている。この布陣でリリースされるシングルは私たちにどのような衝撃を与えてくれるのだろうか。

乃木坂流ダンスミュージックの完成形

 表題曲の「命は美しい」はズバリ“乃木坂流クラブミュージック”の一つの完成形といえる楽曲だ。乃木坂とクラブミュージックとの出会いは4thシングル「制服のマネキン」にさかのぼる。その後、「世界で一番 孤独なLover」、「ここにいる理由」「傾斜する」などバラエティに富んだアイドル×クラブミュージックの形を見せてくれている。また、5thシングル「君の名は希望」は四つ打ちにピアノの旋律をのせたミドルバラードで、10thシングル「何度目の青空か?」アルバムで選抜メンバーが歌う「僕がいる場所」も同じ特徴がみられる。  クラブミュージックへの接近は4th以降徐々にあらわれていた傾向だが、その中でもこの四つ打ち+ピアノの旋律という組合わせは、フレンチポップ志向だった初期の楽曲からの変化を語る上で必要なキーワードとなっている。先にあげた人気曲「君の名は希望」や昨年の勝負曲「何度目の青空か?」がその代表である。  さらにこのような四つ打ち+ピアノの旋律でミドルバラードよりもよりダンスチューンに寄せたのが10thアンダー曲「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」だった。切ない世界観でありながらも踊りは激しく、イントロから強いビートが胸を打つ。そしてこの曲の路線を継続しつつさらにダンスチューンに寄せたのがこの表題曲「命は美しい」だ。イントロは美しく切ないものでありながら、サビではビートに乗った跳ねるピアノのリフレインが印象的だ。ダンスもガールズルール以降振り付けを担当しているWARNERによるもので、髪を振り乱し、一心不乱に踊る彼女たちの姿は美しく力強い。表題曲でダンスチューンといえば、「君の名は希望」と共にトップクラスの人気をもつ4thシングル「制服のマネキン」があげられる。「制服のマネキン」がリリースされた際、当時の乃木坂のイメージとは大きく異なる楽曲として驚きとともに迎えられたわけだが、6枚のシングルを経て、乃木坂46らしいダンスチューンとして完成したのがこの「命は美しい」なのである。

彼女たちはなぜ「命」について歌うのか

 詞に目を向けてみると、「何度目の青空か?」「僕がいる場所」から継続して「命」や「時」がテーマになっている。多くのアイドルの詞のテーマが「青春」や「恋愛」であり(乃木坂もその例にもれるわけではないが)、聴く側の理想や想像を掻き立てるものであるなか、「命」や「時」というよりリアリティーのあるものをテーマとするのか。それは、乃木坂46を「美しさ」や「清さ」の象徴としたとき、さらにその輝きを増すために必要なことは「命」や「時」といった抗えないものに目を向け、その現実を受け入れることなのだからかもしれない。想像や理想という非リアルなものを追求するのも1つの道だが、彼女たちはリアルを受け入れて得る輝きを求める道を選んだ。そういう意味で、ものすごくアイドル的でありながらも、同時にものすごく切なく儚い西野七瀬は、センターにふさわしい存在といえるだろう。彼女たちが「命」について歌うのは、それを受け入れ進む先に更なる成長が待っていると信じているからなのかもしれない。

カップリング曲が映す様々な乃木坂46の姿

 実は、今回「命は美しい」に収録されている計6曲の中で、選抜メンバーが歌っているのは表題曲のみ。その他のカップリング曲は「選抜年少メンバー6名」「選抜大人メンバー7名」「ソロ曲」「アンダー曲」「研究生曲」と歌唱メンバーはバラエティーに富んでいる。  「立ち直り中」は大人メンバーが歌う楽曲ではあるが、白石が出演しているCMのテーマソングでもあり、彼女のソロパートが多く割り振られている。「偶然を言い訳にして」「でこぴん」「革命の馬」など等身大の内容を歌うことの多い大人メンバー楽曲だが、今回はどこか懐かしいメロディーが優しく心に寄り添うノスタルジックな楽曲となっている。 「ごめんね ずっと…」は西野七瀬の2度目のソロ曲となる。前作「ひとりよがり」に負けず劣らず西野のキャラクターや声質を活かした楽曲で、その切なさと愛おしさが全面に押し出されている。さらにこの曲はMVの公開によって、男女の別れの歌という視点だけでなく、以前の西野七瀬と現在の西野七瀬の別離と再出発という視点を提示し、さらに誰もが考える今とは異なる道を選択した自分の姿を映し出す鏡にもなっている。  アンダーライブの盛況により注目度を高めるアンダー曲「君は僕と会わないほうがよかったのかな」は久々の歌モノ。楽曲のタイトルは“きゅんきゅん王国のお姫様”でありながら、同時に乃木坂随一のリアリスト齋藤飛鳥と“格差社会コンビ”を組むセンター中元日芽香がまさに口にしそうなセリフだ。詞だけ見るとひたすら後悔を重ねる僕のストーリーでしかないのだが、それでも爽やかに聴こえるのはアコースティックギターとブルースハープの力であり、それもまた中身と外身にギャップのある中元らしいと言えるかもしれない。アンダーメンバーがどのように楽曲を飲み込みアンダーライブで表現してくれるのか今から楽しみでならない。  乃木坂唯一の研究生のみの曲であり、2期生のみの曲であるこの「ボーダー」が歌うのは、文字通り研究生と正規メンバーとの境界線を飛び越えていく彼女たちの姿だ。サウンドはエレクトロでエモーショナル。今までの乃木坂にはあまりなかったタイプのものだと言えるかもしれない。  以上の楽曲たちはいずれも「懐古と再出発」というテーマが多かれ少なかれ含まれているのだが、その中で全くの異色を放つのが共通カップリング曲の「あらかじめ語られるロマンス」である。最近の乃木坂46の楽曲はリアリティーや切なさ、影のある楽曲が多かったが、ここまでひたすらキラキラした恋愛ソングは9th「夏のFree&Easy」以来かもしれない。星野みなみと齋藤飛鳥がダブルセンターを務め、堀未央奈も参加するこの曲は10thシングルに収録されている「私、起きる。」、1stアルバム収録の「なぞの落書き」に続く若手主体の楽曲だ。先の2曲もそうであるように、この枠は表題曲やアンダー曲とはまた別の路線をひた走っているようだ。

新たなステージへの幕開け

 11thシングル「命は美しい」は1stアルバムをリリース後初のシングルとなる。今回のシングルは、表題曲で現在の乃木坂のサウンドを提示しつつも、カップリング曲で“こんなメンバーでこんな曲が歌えます、また別の組合わせならこんなこともできます”という振り幅もみせている。10thシングル、1stアルバムのリリース、3rd Birthday Liveを終え、一つの時代の幕を閉じた乃木坂46が、現状ベストの選抜メンバーで臨む11thシングル「命は美しい」。彼女たちはこの自信作とともに次のステージへの幕を堂々と開けるだろう。 ■ポップス 平成生まれ、音楽業界勤務。Nogizaka Journalにて『乃木坂をよむ!』を寄稿。

UQiYOが語る、音楽を“体験”する意味「『ひとりの人に届けるパーソナルな音楽』を作る」

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【リアルサウンドより】  新鋭音楽ユニットのUQiYOが、3月18日に2ndアルバム『TWiLiGHT』をリリースする。メンバーはシカゴ育ちのYuqi(ボーカル・ギター・ピアノ&ループプログラミング・ミックス&マスタリング)と、幼少期からピアノを習得し、ジャズに造詣の深いPhantao(ピアノ・キーボード)。2013年5月にリリースした1stアルバム『UQiYO』で浮遊感のあるベッドルームミュージックを生み出し、多くのファンを獲得した彼らは、最新作『TWiLiGHT』でそのきめ細かな音作りはそのままに、より開放的で親しみやすいエレクトロミュージックへと移行。北欧の音楽のようなキュートさと、日本的ともいえるメロディセンスで表舞台へと打って出る。今回リアルサウンドでは、ロングインタビューを2回に渡って掲載。前編ではユニットが生まれたきっかけや音楽的ルーツ、作品の作り方と届け方について大いに語ってもらった。

「金髪の工場長に怒られながらとか仕事してました(笑)」(Phantao)

――今回のアルバム『TWiLiGHT』は、前作と比べてより開けた印象の作品で、ポップミュージックとして秀逸な仕上がりと感じました。まずは初登場ということで、どういうきっかけでこのユニットが生まれたのかを教えてください。 Yuqi:僕は、2007年くらいに前のバンドを解散していて。その後、スピーカー製造を行っている老舗のスピーカーの会社に就職しました。僕は音響一筋で、大学でも音響工学の修士課程を卒業していたので、この会社でエンジニア開発などを担当していました。Phantaoはその会社の同僚で、製造技術を担当している人間だったんです。はじめは社内でお互いに音楽をやっているということを知っていたので、ちょっと意識をしつつ、なんか不気味な笑いを浮かべるやつだなあと思っていました(笑)。 Phantao:気持ち悪いなと思ってたんでしょ(笑)。 Yuqi:就職して何年か経ったとき、会社主催の忘年会で社内にある軽音楽部の一員として、James Bluntの「You’re beautiful」をカバーしたんですよ。僕は風邪を引いてしまって、鼻声で咳が出る中でなんとか一生懸命歌ったんですが、ひどいもんだったんですよね。そしたら終わったあとに彼が歩いてきて、一言「がんばれ」って。 Phantao:上からね。 Yuqi:かなり上から言われてました。その時は少しムカついただけで終わったんですけど、数年後に軽音部内で結成したバンドメンバーの中にPhantaoがいて、そこでじっくりお互いのパフォーマンスを見て、尊敬し合えるようになりました。そんなタイミングで、彼は「ジャズ一本で食っていく。専門学校に入り直す」と言って会社を辞めたんです。 Phantao:すげえバカですよね(笑)。 Yuqi:会社に一回入って、やっぱり音楽で食っていくって、なかなか思えないですよ。その時は「頑張って!」って感じだったんですけど、他の機会で生バンド演奏をやってもらったのを期に、だんだん一緒に音合わせなどをするようになって。 ――スピーカーの会社というと、音にうるさい先輩とかもいそうな熱い環境ですね。 Yuqi:そうですね。もともとその会社っていうのは、体育会系のノリで「おい、気合でこのスピーカーを作るんだ!」くらいの感じだったんですけど、世代が若くなればなるほど、ちょっとインテリっぽい人たちが増えてきた。なので、理論でこれまでやってきた自分にとって、職人的な音の捉え方としての面白い意見もたくさんあって、良い刺激になりました。 Phantao:僕は現場に近い仕事をしていたんで、金髪の工場長にちょっと怒られながらとか仕事してました(笑)。 ――そうした環境で仕事をしていたことは、現在の音作りにどう影響していますか。 Yuqi:僕は、エンジニアをしながら、Hi-Fiスピーカーにも携わっていました。もちろんスピーカーもいっぱい作って聴いていましたし、エンジニアなので毎年秋に開かれている「東京インターナショナルオーディオショウ」で最高級のセットを体感していたりするわけでして。この世界を体感した以上、そういったセットで聴いてもらえるような音楽でありたいと思います。

Music Video "Twilight" | UQiYO ウキヨ

「音と出会う体験がすごく重要になってくる」(Yuqi)

――今の二人を形成している音楽は、それぞれどんなものでしょうか。 Yuqi:僕の場合は、北欧やノルウェー、ロンドンやフランスなどに行った経験があったり、90年代の音響系がバックボーンにあって、そこからは北欧の優しくて温かくてちょっと寂しいようなものへと流れ、今に至ります。具体的にアーティスト名を挙げると、Sigur RosやBon Iver、It's A Musicalとかですかね。特にBon Iverなどの、アメリカ系の土臭さや激しさを持った、それでいて優しい音楽にはズキュンときますね。 Phantao:僕は高校くらいからずっとジャズしか聴いていなかったんですが、大学に入ったくらいから色んなバンドをやるようになって、最初にやったのはBrian Switzerのコピーバンドですね。その後はアシッド・ジャズにハマったりという経緯があって、全くロックを通ってないんですよ。バンドもそもそもロックが全然よくわからない状態で始めましたし、今だによくわかっていない。だけど、確認しながらやっているので、今のスタイルは何とか編み出したものという感じです(笑)。 Yuqi:面白いんですよね。ロックじゃないのに、ロックをやろうとしてる感じが逆に。 ――今回のアルバムについては、あまりロックという意識では聴かなかったんですが、二人はロックバンドであるという意識はあるのでしょうか。 Yuqi:制作物ではそうでもないんですが、ライブをしているときにはロックっぽさは出ると思います。 ――Phantaoさんは現行のジャズも聴くんですか? Phantao:最近のものよりも古いもの中心です。大学時代にラテンジャズにのめりこんだ時代があって、その時は、ブラジルとかカリブ系のジャズピアニストを思いっきり聴きあさっていたんですけどね…。 ――そんな音楽的教養のある二人が今回作った作品は、すごくポップで、開かれた良質な音楽です。どのようなリスナーに聴かれることを想定して作ったのでしょうか。 Yuqi:最終的にこうなっちゃった、みたいな感じが強いですね。というのも、僕らはこの二年間かけていろいろなプロジェクトに関わっており、「どういうアプローチで音楽を作っていくが面白いのか」ということは考えていたんです。その結果、「これで稼いで金持ちになってやるぞ」というものを幸せの着地点にすると、おそらく不幸せになるんじゃないかなと思って。どういうところへ行こうかと考えた時に、音楽業界と深くは関わっていないけど、面白いものを作っているクリエイターが沢山いることは知っていたので、その人たちに知ってもらうために、レコードレーベルではなく、デザインスタジオやコワーキングスペースにデモ音源を送っていました。その中から何人か反応があり、一緒に映像作品を作ったことから様々なクリエイターと関わることになりました。 ――そこからUQiYOの特徴でもある、ボトルシップに入れた楽曲やバレンタインソングなどの「一味違った音楽の届け方」が生まれていくわけですね。 Yuqi:音楽という枠に囚われず、何をやるかから考えて、それをやるために最終的に音に落とし込めればいいという考え方になってきたんでしょうね。例えば、今挙げてもらったバレンタインソングは、二ヶ月間かけて、毎週金曜日に男の子の歌と女の子の歌をアップしていって、バレンタイン当日に二つの歌を組みあわせると、一つの楽曲になるというものです。それをきっかけに注目していただいたこともあり、様々なコラボを続けながら曲を作っていって、最終的にできたアルバムの曲がポップになっていたというような感覚なんですよね。 ――現在のように届け方を工夫している背景とは? Yuqi:例えば、今海外でリスニングスタイルのメインになりつつあるSpotifyというものがありますよね。このツールが登場したことにより、全体の4%くらいしかいないメジャーの人だけが、音楽業界における90%ほどの利益を得ている状況になりえるわけです。もしかしたら日本も近いうちにそうなるかもしれない。そうなってくるのであれば、音と出会う体験がすごく重要になってくる気がするんです。もちろん、Spotifyは便利なツールですが、世界では「便利じゃない方がいいものって世の中いっぱいあるよね」という考え方が徐々に広まってきているし、音楽も大量生産大量消費ではなく、一人一人が自分たちにとって“パーソナルな体験としての音楽”を聴くだけではなく経験として受容するというのが、あり方として自然なんですよね。「ポップミュージック」という言葉は、英語で「ポピュラー」、つまり大衆という意味合いになってくるわけですが、近年の音楽は大衆というより公衆のものになりつつあります。公衆って基本的にはお金払わないことが多いじゃないですか。公衆トイレが分かりやすい例だと思うんですけど、音楽もそういう感覚になっているのかもしれない。 ――音楽が公共=パブリックなものになりつつあると。 Yuqi:そうなると、ユーザーはお金を払う感覚がなくなってくると思いますし、現に罪の意識も持たずに「ダウンロードすればいいんじゃないの?」という若者も多い。僕らはそんな中で、「ひとりの人に届けるパーソナルな音楽」であるべきなのかなって思いました。だって、みんなそれぞれ、個人的なストライクゾーンに入ってきた音や作品は、全く躊躇せずにお金を払う気がしていて。たとえばジブリ映画。彼らの作品は興行収入も良いため、ポップだと思う方も多いですが、実際はすごくパーソナルな映画だと思うんですよ。宮崎駿の個人的な趣味趣向や哲学が盛り込まれまくっているものの、トータルクオリティーで全部持って行く感じも含めて。ただ、彼らの映画って、見る人見る人で感想は全然違うし。それぞれの人がパーソナルな感想を抱いているわけです。
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「みんながハッピーでいられるような形を目指したい」(Yuqi)

――では、さまざまな趣向を凝らした届け方も、パーソナルな体験を生み出すためのきっかけ作りだと。 Yuqi:そうだと思います。例えばボトルを使った届け方に関しては、秋口に注文してくれた方の手元に届くように、柑橘系の香水とQRコード付きの手紙を入れました。香りを柑橘系にしたのは、「夏に作って、秋に届くように海に投げました」という設定で作っていたからです。実物に関しては、ボトルを開けたら少し夏の香りがして、手紙を取ると、中にQRコードが入っていて音楽が聴ける。その体験っていうのが、音楽には大事なのかなと思い、やってみた企画ではあります。ボトルは買ってきたものをエイジング加工したり、コンクリートに擦り付けたりして、百本限定で作ったものは、ありがたいことにすぐ売り切れました。 ――かつては、「音源が全てを支える」という考え方が音楽ビジネスの根本にありましたが、今はそうとは言い切れない状況があります。そんな中、改めてアルバムと向き合って「作品を作る意味」についてどう考えますか。 Yuqi:僕らは、やはりまだポピュラリティーとしての力が弱いので、どれだけ面白いことをやろうとも、それを知ってもらうことが難しい。ただ、これをみんなに伝えるのが僕らの仕事であり、なにより一緒に僕らとやってくれている方にも申し訳がない。なので、そのためには気合を入れて、見つけてもらう数を増やしたい。そういったことが今回のアルバムの位置づけなんです。 Phantao:今回のアルバムは音楽的にも開放されているものなので、そういう意味でいろんな人に聴いてほしいです。 Yuqi:こんな音楽もあるんだよ、こんな映像もあるんだよっていういろんな人への投げかけという意味もありますね。あと、音源って僕らにとって広告の一つでもあると思うんです。僕らのファンクラブには、『ウキヨノヲト』というサービスがあって、加入すれば僕らの音源を過去作から聴き放題ができる。ただ、今作をいきなりタダで配信しちゃうかといえばそうではなく、次のアルバムが出た時に前のアルバムのやつをタダで出すとか、そういう仕組みをちょっと作って、みんながハッピーでいられるような形を目指したいですね。 ――それがまたファンクラブ加入のきっかけになってくると。Spotify をはじめとしたサブスクリプションサービスは大変便利ですが、あれは公衆=パブリック的な意味合いを持つサービスという捉え方でしょうか? Yuqi:まさに、まさに。かといってね、不便にすればいいっていうものではないじゃないですか。なので、携帯端末でアクセスすれば聴けるというものなどにしていくと良い落としどころになるのかもしれません。 Phantao:何でも簡単に聞けちゃうと、そんな聞かなくなりますよね。(後編に続く) (取材・文=神谷弘一、中村拓海)
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UQiYO『TWiLiGHT』

■リリース情報 『TWiLiGHT』 発売:3月18日(水) 価格:¥2,315 (税抜価格)+税 <収録内容> 1. Dawn of Life 2. Twilight 3. Blessing 4. June 5. Summer Sun 6. THYLUV 7. Saihate 8. Snow White 9. Arakawa 10. Drums of Atacama 11. Dirtball 12. Dessert Flower 13. Ordinary Scene 14. Into the Cove 15. Under Skies of Heaven ■ツアー情報 『2015 Tour TWiLiGHT~夕陽と雨と虹とキラキラと~』 4/25(土)名古屋 夜空に星のあるように 4/26(日)三重 四日市MONACA 4/29(水)福岡 TAGSTA 5/6(水)札幌 provo 5/16(土)山梨 酒蔵櫂 5/17(日)静岡 cafe sofari 5/18(月)京都 さらさ花遊小路 5/19(火)大阪 梅田シャングリラ 5/29(金)宮城 co-ba kesennuma 5/30(土)仙台 arrondissement 5/31(日)群馬 桐生Club Block 6/13(土)東京 SHIBUYA O-nest

lyrical schoolが更新するアイドルラップ最前線 ニューアルバムで見せた音楽的成長を読む

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lyrical school『SPOT』

【リアルサウンドより】  2010年にヒップホップアイドルユニットとして結成され(当初のグループ名は「tengal6」)、当時まだ舗装されていなかった「アイドルラップ」というジャンルを開拓しながら、グループアイドルシーンに独特のポジションを築いてきたlyrical school。昨年10月リリースのシングル『PRIDE』ではそれまでのパーティーチューンや可愛さ中心のシングル楽曲とは一味違うハードコアな側面を見せ、続く11月2日のワンマンライブでは恵比寿リキッドルームを満杯にするなど、「アイドルラップ」の先駆けかつトップランナーとしての自らの歩みを誇るように、目覚ましい成果を出し続けている。  その流れに乗って今月、3月10日にリリースされたのがおよそ一年半ぶりとなるフルアルバム『SPOT』だ。冒頭、日本語ラップのクラシックからの引用を散りばめたROMANCREWのALI-KICK提供の「I.D.O.L.R.A.P」、昨年リリースのシングル曲「PRIDE」、餓鬼レンジャーのGPが参加した「OMG」と続く流れは、最近のlyrical schoolの力強さを強調するようなタイトな展開になっている。ただし重要なのは、そのハードコアサイドの楽曲は、以前のlyrical schoolのカジュアルな可愛さからの単なる方向転換ではなく、自らの個性に沿って無理なく成長してきた結果獲得した、新たな幅の広さのひとつであるということだ。  その成長ぶりは、初期活動から恵比寿リキッドルームへの歩みを振り返るスキット「-4years-」から繋がる「FRESH!!!」、そして「レインボーディスコ」、「brand new day」へと続く、このアルバム中のいわば第二部にあたる部分で確認できる。lyrical schoolのカラーからすればなじみ深い、パーティーチューンを揃えたアルバム中盤の流れだが、従来の彼女たちのイメージを踏襲する楽曲群だからこそ、初期に比べてメンバー一人一人が自信をつけ、それぞれのフロウも輪郭が際立っていることが明確にわかる。メンバーのキャラクターに似つかわしい、これらパーティーサイドの楽曲のレベルを着実に上げてきたからこそ、アルバム冒頭の硬派な面を打ち出した曲を高らかに世に問うだけの実力が伴うようになった。つまり、自身のキャラクターや身の丈から不自然に逸脱せずに歩んできた結果、必然的にセルフボーストを交えたハードコアな曲を発表する機運も導かれたのだ。だから、冒頭の3曲とアルバム中盤の3曲とは、テイストを異にしながらも切断されたものではなく、むしろ強く結びついたものといえるだろう。  ライブ会場のアンコールの声をフィーチャーしたスキット「-8 p.m.-」を挟んで、アルバム終盤は再び色を変える。「CAR」、「月下美人」、そしてアルバムのリード曲になったtofubeatsによる「ゆめであいたいね」へと続く終盤の3曲が綴るのは、ステージの高揚から一歩降りたメンバーたちの夜のワンシーンを切り取ったようなメロウな情景。シングル表題曲に多く見られるパーティーチューンとは対照的なメロウな楽曲もまたlyrical schoolがかねてから特徴にしてきた一側面だが、ここでもメンバーたちの成熟がうかがえる。勢いで畳み掛けることができないスローなラップに対してはこれまで、こなれた歌い方をするのに苦労しているような局面も少なからず見られた。今作のメロウパートもまた模索の跡は感じられるが、各メンバーがそれぞれ自らのフロウを見つけながら、要求されるスキルが決して低くないこれらの楽曲にきちんと対応している。  今作『SPOT』はこれまでのアルバムに比べても、序盤、中盤、終盤をはっきりと色分けし、それぞれにlyrical schoolが持つ様々な顔を見せている。それらが独立した三つの顔ではなく、アルバム総体として確かな統一感を持っているのは、そのいずれの側面も、グループおよび各メンバーの地に足の着いた成長の結果、自然に引き出されたものだからだろう。だからこそ、lyrical schoolはどんな曲を発表しても、趣向の妙よりも彼女たちの日常とも繋がったキャラクターの方が強くにじむ。アルバム一曲目の「I.D.O.L.R.A.P」は、ともすれば「アイドルがHIPHOPを意識すること」という趣向に埋没しかねない曲である。RHYMESTERのアンセム「B-BOYイズム」を引用した「イビツに歪む私たちイズムのイビツこそがリ・リ・ス・ク!」というフレーズから、細かな単語レベルに至るまで、ALI-KICKのリリックは日本のHIPHOPからの参照をあえて多く織り込んでいる。しかしこの曲は、近年ますます強くなってきたように見えるメンバーたちのHIPHOPへの敬意は活かしながらも、トータルとしてHIPHOPというジャンルへのあからさまな目配せといった感は不思議と薄い。むしろ、昨年の「PRIDE」から繋がったグループの現在地を示す、ごくナチュラルな楽曲に仕上がっている。堅実にレベルアップしてきた彼女たちが、ALI-KICKの課したハードルを見事に超えてきたということだろう。ALI-KICKが捧げた詞の通り、「借り物だったヒップホップ」が「借り物」でなくなった瞬間が垣間見える。その成長は、アルバムのラストを飾る既発曲の再録音、アコースティックアレンジの「わらって.net」および「S.T.A.G.E take2」での自由度の高くなった各メンバーのラップで、最後に今一度確認できる。とりわけこの一年で力強さを幾重にも増したayakaのラップに驚かされる。  LITTLEやイルリメなど、他にもバラエティに富んだ顔ぶれが『SPOT』には参加している。こうした楽曲提供陣のバラエティもまたlyrical schoolの作品の楽しさではあるが、最後にここではグループのスタッフとして欠かせない岩渕竜也に一言触れておきたい。ステージ上でメンバーと細やかに呼吸を合わせるlyrical schoolが誇る唯一無二のDJ岩渕だが、同時にメンバーにあててもっとも古くからリリックを書いてきた人物でもある。スタッフとしてオン/オフのメンバーを見守りながら詞を紡ぐ岩渕の視点は、lyrical schoolが身の丈にぴったり合ったラップを続ける上で非常に重要な役割を果たしている。現在の彼女たちのステージ上での力強さを象徴する「PRIDE」も、ステージを降りて帰路につく車中のメンバーを静かにスナップしたような「CAR」も、その優れた詞は岩渕の手によるものである。ラッパー本人がリリックを書いているかどうかに拘泥せず、ラップという歌唱法の楽しさを浸透させることができるのもアイドルラップの大いなる美点だが、この時リリックを担当する者がこれだけメンバーに寄り添うことができるというのはやはり大きい。lyrical schoolが、アイドルラップの旗手という前例のないポジションを自ら開拓しながらも順調にその存在感を増してきたことには、メンバーとスタッフとのこうした幸せな歯車のかみ合わせも不可欠だったはずだ。昨年、恵比寿リキッドルームでのライブが発表された時、メンバー、スタッフ、ファンの誰もが、集客できるのかどうかに不安を抱えていたに違いない。気がつけばその高みをクリアしてしまったlyrical schoolは今年、7月25日にZeppダイバーシティ東京でのワンマンライブ開催を発表した。昨年リキッドルームのワンマンを発表した時同様、現段階では集客に不安を感じるのが正直なところだろう。目標はさらに飛躍度的に高い場所に移った。しかし、メンバーとスタッフが互いに実力を引き出し合うような連携で支持者を獲得してきた現在のlyrical schoolならば、それさえ杞憂にしてしまうのではないか。そんな希望を抱かせるのが、今の彼女たちなのだ。 ■香月孝史(Twitter) ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

THE TURTLES JAPAN、1stアルバム全曲ダイジェスト音源公開&最速レビュー(後編)

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【リアルサウンド】  KAMEDA(音楽プロデューサー・亀田誠治)、YAMAMURA(flumpool山村隆太)、SAKAI(flumpool阪井一生)によって結成された、THE TURTLES JAPANが4月8日に1stアルバム『ELECTRONIC HUMANITY』をリリースして3日限りのZepp Tourを開催する。リアルサウンドではいち早くアルバム収録曲のダイジェストとともに各曲のレビューを掲載。書き手は前編「THE TURTLES JAPAN、1stアルバム全曲ダイジェスト音源公開&最速レビュー(前編)」と同じく三宅正一氏。(編集部)

「十二単」

 イントロから際立つギターとシンセのフレーズがサウンドを掌握するゴシックテイストのスリリングな楽曲。攻めのマインドを示すうえで、こういったハードに疾走する楽曲の存在は必要不可欠。その一方で、タイトルにも顕著なように、「風花」同様、和の要素をモチーフにしたリリックは、YAMAMURAの新たなラブソングの筆致を提示している。

「AB LOVE LOVE」

 陽性のデジタルポップサウンドをエネルギッシュに解放する1曲。続く7曲目「JAPANESE SPIRITS pile-up」もそうだが、ニューウェーブにも通じるシンセ使いやビート感が印象的なKAMEDAのアレンジからは、刺激的なロックとポップな新たな境界線を突き止めようとする意志がうかがえる。底抜けに楽しいサウンドだからこそ、〈そうさ「何年何月何日 僕らの出逢いにも意味がある」と言うには世間はまだ暗い〉というフレーズも切実に迫ってくる。

「JAPANESE SPIRITS pile-up」

 シングルカットされても違和感のない求心力を誇る1曲。そして、「It’s Alright!」のテーマ性を最もダイレクトに引き継ぐ“日本と現代”を真っ向から射抜く楽曲でもある。ライブでもオーディエンスから大きな反応があったのを覚えている。こんな時代にあって、〈日出ずる国 此処が僕らの 夢出ずる場所なんだよ〉と言い切るのは相当な勇気と覚悟が必要だったと思うが、THE TURTLES JAPANの信念が「“心の表面張力”を突き破ること」である以上、こういった楽曲を高らかに鳴らすのはバンドの使命でもある。

「ELE!!!」

 タブラやシタール風の神秘的な音をサンプリング的にフィーチャーしつつ、突き抜けたダンスポップを構築したラストナンバー。平易な日本語で綴られたリリックは、どこまでもポジティブにリスナーを鼓舞する。ラストにここまで曇りのないメッセージ性をたたえた楽曲をもってくることができたのは、それまでの楽曲でシリアスな時代の空気もしっかり捉えてきた自負があるからだろう。ラスト1分の展開は、THE TURTLES JAPANは本作で完結するのではなく、“ネクスト”があることを予感させる。  YAMAMURAとSAKAIにとっては、flumpoolでは鳴らせなかった音楽性を追い求め、ソングライターとしての新たな可能性を見出だす。 KAMEDAにとっては、プロデューサーではなくひとりのバンドメンバーだからこそ表現できる作曲やアレンジ、プレイに没頭する。  THE TURTLES JAPANが掲げる"心の表面張力を突き破る”というテーマは、現代日本に向かうだけではなく、各メンバーのミュージシャンシップにも自浄作用をもたらしている。  本作を聴けば、それは明白だ。とても自由で気勢のある音と歌が鳴っている。 (文=三宅正一)
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THE TURTLES JAPAN『ELECTRONIC HUMANITY』(A-Sketch)

■リリース情報 『ELECTRONIC HUMANITY』 発売:2015年4月8日  品番:AZCS-1044 価格:¥2,300(税抜) 収録曲: M1. It's Alright! M2. 10/10 M3. Jerassic M4. 風花 M5. 十二単 M6. AB LOVE LOVE M7. JAPANESE SPIRITS pile-up M8. ELE!!! ■ライブ情報 THE TURTLES JAPAN Zepp Tour 2015 「ELECTRONIC HUMANITY」 4月15日(水) Zepp NAGOYA (問)サンデーフォークプロモーション 052-320-9100 4月17日(金) Zepp NAMBA (問)キョードーインフォメーション 06-7732-8888 4月21日(火) Zepp DiverCity Tokyo (問)ディスクガレージ 050-5533-0888(SOLD OUT) 【全公演共通】前売料金:5,800円(税込)※ドリンク代別 OPEN/START:18:00/19:00 ■Official HP http://www.theturtles.jp/ ■Official FACEBOOK http://www.facebook.com/THETURTLESJAPAN

漫画家・福本伸行が語るフラワーカンパニーズの魅力「人間は生きている限り情熱は捨てられない」

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【リアルサウンドより】  昨年4月で結成25周年を迎えたロックバンド・フラワーカンパニーズが、12月19日に初の武道館公演を行うと発表した。結成以来メンバー変更も活動休止もなく、ライブバンドとして自分たちの音楽を追求し続けてきた彼らは、業界内にもファンが多いことで知られる。『賭博黙示録カイジ』『アカギ ~闇に降り立った天才~』などの人気作で、人間の本質を鋭く描いてきた漫画家・福本伸行氏もそのひとりだ。楽曲のテーマに共感し、勇気づけられることも多いという福本氏に、フラワーカンパニーズの魅力を聞いた。

「人生はまさに『生きててよかった』という瞬間を探す旅だ」

――学生時代を含めて、福本さんはこれまでどんな音楽を聴いてこられたのでしょうか。 福本伸行(以下、福本):本当に特別なものはないんだよね。歌謡曲、フォークソング、ロック――当時はニューミュージックと呼ばれていたけれど、そういう時流に乗って日本の歌を聴いてきました。吉田拓郎、泉谷しげる、浜田省吾、井上陽水に中島みゆき。洋楽は、ビートルズやサイモン&ガーファンクルのような超メジャーなものくらいですね。ハードなロックやヒップホップは、ノリがいいだけで言葉が上滑りしているようなものが多い気がして、あんまり聴いてこなかったかな。 ――連載中の『賭博堕天録カイジ ワン・ポーカー編』や『新黒沢 最強伝説』は、静かながら熱い心理戦や緊迫したシーンも多いと思いますが、お仕事中に音楽を聴かれることもあるのでしょうか? 福本:聴きますよ。ファミレスで話を考えている時はイヤフォンをして、外界の音をシャットアウトするんです。シャッフルで聴いてると、ポッとフラワーカンパニーズの曲が流れてきて、つい耳を傾けたり、ということもあって。 ――そんなフラワーカンパニーズの音楽に出会ったきっかけとは? 福本:2年くらい前、NHKの番組に出演していた彼らが「深夜高速」(2004年)を演奏しているのを偶然目にして、「なんだこの曲は!」と衝撃を受けました。〈生きててよかった そんな夜を探してる〉という歌詞があるけれど、人生はまさに「生きててよかった」という瞬間を探す旅みたいなものだから。すぐにメモって、2枚のベスト(『フラカン入門』『新・フラカン入門』)を買いました。ベスト盤だから当然かもしれないけれど、両方、本当に素晴らしいなと思った。
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――福本作品も「言葉」が大きな魅力ですが、やはり「歌詞」が刺さったということですね。 福本:そうですね。奇をてらわずに、ごくありふれた日本語の組み合わせでメッセージを光らせているというか。心から感じている言葉、あるいは自分が伝えたいことに一番近い言葉、その組み合わせを探して、(鈴木)圭介さんが本当に一生懸命がんばってるんだと思う。フラカンはジャンル的にはロックなんだろうけれど、俺にとってはフォークの精神を持っているバンドなんですよ。歌詞でやたら煽ることもないし、リスナーを無理に励まそうともしない。もっとこう、生活のなかでうまくいかないことがあったり、社会とうまく折り合えない人間に響くような、フォーク調の歌詞ですよね。言葉はわるいかもしれないけれど、「しょっぱい」歌詞も多いじゃない。 ――フラカンの“負けない負け犬”というイメージは、福本さんの作品『カイジ』や『最強伝説 黒沢』のキャラクターや世界観に通じるものがあると思います。ご自身の作品と重なるものを感じることもありますか? 福本:ありますよ。やっぱり、うまくいっていない人への応援歌というか。ある日、鏡に映る自分にがっかり…したり、安月給で働いて、終電を逃してトボトボ歩いて帰ったりしたことがある人――「情けない」という気分を知っている人には、伝わるものがあると思う。そして彼らは、青春を歌い続けているんですよ。年を取っても、人は誰もが心のどこかに“青春の塊”のようなものを持っているじゃないですか。フラカンはそれを嘘のない、ちょうどいい温度の言葉で語ってくれる。あんまり熱く語られても、ちょっと引いちゃうしね(笑)。 ――メッセージ性がありながら、熱すぎない。 福本:かと言って、冷めてもいない。“諦念情熱”というか、諦めているところもありつつも、どうしようもなく抑えきれないパトスもある。そういう意味も含めて、「深夜高速」は痛々しくもあり、励まされるというより“打たれる”曲だと思う。本物のミュージシャンが生涯をかけて1つか2つ作れたらいい、という曲なんじゃないかな。連載中の『新黒沢 最強伝説』のなかでチェ・ゲバラのエピソードを描いたのだけれど、彼はキューバ革命で、まさに「生きててよかった」と思える国を求めて、真っ暗な海に飛び出したんだと思う。そういう根源的な覚悟というか、純粋な瞬間のきらめきをすくい取ったような曲ですね。 ――フラカンメンバーも、福本さんが『ヤングマガジン』の巻末コメントに書かれた「最近、フラカンを聴いてます」との言葉を読んだそうで、実際に顔を合わせたことはあるのでしょうか? 福本:昨年、初めてライブに行かせてもらいました。ライブでタオルをぐるぐる回したりして、みんなで盛り上がるのは苦手なんだけど、いい席で立ったり座ったりしながら曲を聴かせてもらって、とてもよかった。さすがに「真冬の盆踊り」(03年)で大騒ぎ…という感じじゃなくね(笑)。実際に目の前で聴いて、自分も含めて多くの観客が「自分だけに歌ってくれている」という感覚になっているんじゃないかなと思った。誰の胸にも自分だけの「深夜高速」があって、それぞれの風景を思い浮かべながら聴いているというか。トークも面白かったし、圭介さんだけじゃなく、メンバーのキャラクターがわかったのもうれしかったですね。
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「ヒットチャートに辟易している人も、フラカンなら絶対に聴ける」

――福本さんにとってフラカンとの出会いの曲、「深夜高速」への思いを伺いました。その他に、お気に入りの曲はありますか? 福本:たくさんありますよ。例えば、「元少年の歌」(10年)。この曲も大人が聴くと、誰もが痛みを感じるでしょう。「ああ、そうだよな。俺もこうやって疲れて、いつの間にか挑戦しなくなって…」って。でも、この曲はそれをダメだというのではなくて、打ちひしがれながらも、ちょっと前を向こうという気分にしてくれる。ヒットチャートはアイドルソングばかりで、それもいいんだろうけれど、30代から50代くらいで「最近、音楽を聴いていない」という人も少なくないと思う。そういう人たちでも、フラカンなら絶対に聴けると思うんですよね。「元少年の歌」は本当にじわっときて、心が昂ぶる曲ですよ。 ――これも福本さんの作品に通じるところですが、“時代に左右されない”音楽を続けてきたフラカンの強みでしょうか。 福本:そうそう。時代に迎合しないというか、したくてもできないというか。根幹がしっかりし過ぎている(笑)。「売れる曲」のセオリーがあったとしても、彼らはそれに乗れない。乗らないんじゃなくて、乗れないんじゃないのかな? 「突っ走れ!」「君のためなら死ねる!」みたいな煽り方もしないし、聴いていて本当に癒されますよ。そして、またちょっと頑張ろうかな、と思う。俺、本当によく聴いているんだよ(笑)。
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「脳内百景」(06年)や「たましいによろしく」(08年)もいい。普通、何度も聴くと疲れてしまうセリフ入りの曲も、フラカンはいいね。例えば、「東京タワー」(03年)は“打たれる”という意味では「深夜高速」と双璧だし、小学生時代の自分との掛け合いに心揺さぶられる「この胸の中だけ」(08年)も好きで。 「東京ヌードポエム」(00年)、「日々のあぶく」(10年)、「なれのはて」(12年)…と、挙げればきりがないけれど、忘れちゃいけないのが「人生GOES ON」(12年)。この曲にはフラカンが言いたいことが概ね詰まっていると思うし、俺が言いたいのもそれだ!という感じ。<楽しむ事って案外難しい><努力をしないと楽しめないんだ>って、本当にそうだと思いますね。 ――最新アルバム『Stayin' Alive』についてはいかがですか? 福本:もう15枚目だというのに、新鮮な曲がたくさん入っているのがすごいと思った。1曲目の「short hope」から心をつかまれたし、<何回こけても出直すよ 手遅れの馬鹿だもの>から始まる3曲目の「星に見離された男」も面白い。「地下室」「死に際のメロディー」「祭壇」と、死を連想させる曲が入っているのも印象的でしたね。 ――「星に見離された男」は、何度人に出し抜かれても食らいつく『カイジ』のイメージにピッタリの曲だと思いました。「地下室」は、年齢を重ねたメンバーが初めて“死”というものに正面から向き合って作った曲だそうです。 福本:「short hope」がまるで遺言のようで、本気で心配になっちゃったよ(笑)。圭介さん、何か重たい病気でも抱えているのかな、って。曲を生み出すことにまだ全然、飽きていない。新しい心の粉がまだちゃんと入っている感じ。いろいろとイメージが湧き出てくるなかで、今回は死がひとつのテーマになったのかなと。
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――25周年にしてまた新しいテーマを見つけたことが、新鮮な印象につながっているのかもしれませんね。 福本:稀にそういうことを続けられる人たちがいるんだよね。フラカンは、例えばサザンオールスターズみたいに長年ずっと売れ続けているわけじゃないけれど、いい曲をポン、ポンって出し続けている。これまでは「前へ、前へ」という感じだったところから、今作はなんとなくだけれど、自分の最期から逆算して、「どうせ死んで骨になっちゃうんだから、こう生きよう」みたいなイメージが伝わってきました。「こんな切り口で考えれば、自分の何かが刺激されて、新しい曲ができるな」という発想がうまくいったパターンだと思う。普通、アルバムを買うと気に入るのは3曲くらいで、他の曲は聴き流しちゃうけれど、このアルバムは聴きどころがたくさんあったよ。本当。

「落ち込んでいる人がいたら、『とりあえず聴け』と言いたい」

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――福本さんはインタビューなどで、よく「過去にこだわるより、前だけを見据えて一歩一歩進める人間が成功する」という趣旨の発言をされています。25年間、メンバーチェンジも活動休止もなく、ライブ活動を続けてきたフラカンは、まさにその例のように思えるのですが。 福本:いや、フラカンの歩みはもっとじれったくて、一歩一歩というより、たぶん「三歩進んで二歩下がる」を繰り返してきたんじゃないかな。メジャー契約が打ち切りになったこともあったそうだし、CDの売上も観客動員も含めて、音楽活動を続ける上での危機もたくさんあったはず。そして、彼らにはそれを「コツコツ地道に乗り越えてきた」という意識もあまりないと思う。つまり「やるしかなかった」んじゃないかと思うんです。 フラカンはきっと、燃えて燃えて、超前向きにガンガンやってきたわけではない。「死に際のメロディー」にも、<もうやめようか なんて口に出してみる 他に出来る事なんか ないくせに>という歌詞がありますね。俺も漫画以外やることなんてないから、これがよく分かる。へこたれてヘロヘロになることがあっても、それでもやっぱり足を止めなかった。ペースが落ちたときはあったかもしれないけれど、走り続けた結果として、今があるんじゃないかと思います。 ――移ろいやすい音楽業界で、稀有なバンドだと思います。 福本:フラカンの音楽はある種、王道なんだと思う。それを続けているから、ある時代には全然相手にされなくなることもある。でも、負けないで自分が信じる道を進んでいたら、世の中の方がグルッと回って戻ってきたんですよ。「こういう世界って、やっぱりいいよね」って。時代に合わせて変わらざるを得なくなって、ダメになってしまうミュージシャンもいるでしょう? フラカンはそういうポシャり方はしないし、長く続けていることが魅力につながっているんだと思います。それがようやく多くの人に気づかれて、ピークはこれからなんじゃないかと。
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俺も『カイジ』シリーズが19年目だし、週刊ペースで漫画を描き始めてから、だいたいフラカンと同じ25年くらい。やり続けた人の蓄積って、やっぱり効いてくるんですよ。1回でも疲れて休んでしまうと、これがまったく変わってくる。漫画も、休んでしまったらこの作業にはなかなか戻れないですから。 ――できればこれからも走り続けてもらって、還暦を超えた「深夜高速」も聴いてみたいですね。 福本:いいですね。40代も半ばになって、これから10年というのも大変だろうし、疲れちゃったりもすると思うけれど、いい具合に力が抜けた作品もフラカンの魅力。ロックミュージシャンだからってステージを走り回らなくても、その場で揺れていればそれでいいと思う(笑)。還暦と言わず、80歳くらいになって「深夜高速」を歌ったら、さらにカッコいいんじゃないかな。フォークシンガー・友川カズキの「生きてるって言ってみろ」という曲だって、年を重ねてから歌ったものの方が断然カッコいい。フラカンも、その境地に達するまで続けてくれたらうれしいですね。 ――さて、そんなフラカンが今年の12月19日、初の武道館公演を行います。 福本:フラカンに「1(あい)2(に)19(いく)日」か。多くのファンが観に行くと思うけれど、その時々で刺さる曲が違うというか、「ああ、この曲もいいなあ」と思うことが多いから、どの曲をやるのか楽しみですね。
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――今回、フラカンに対する共感も多く語っていただきました。福本さんの作品が好きなフラカンファンも多いと思いますので、最後にメッセージをお願いします。 福本:フラカンの曲、あるいは『カイジ』や『黒沢』は、浪人生とか、学校に行けない人とか、あるいは就職したけど辞めちゃった人とか、人生がいろいろとうまくいっていない人の応援団なんです。冒頭でも“諦念情熱”という言葉を出したけれど、人間はいろいろと諦めていくなかで、それでも、生きている限り情熱は捨てられない。だから、俺もフラカンも、「白けたふりをしても、あんた、本当はそうじゃないだろう?」「いろいろあるけどさ、楽しむために頑張ろうな」ということを伝えているんだと思う。もし、フラカンを聴いていない30~50代くらいの落ち込んでいる人がいたら、「とりあえず聴け」と言いたいですね。本当、これは、もう、是非聴いていただきたい!! 聴けばわかるって!! (取材・文=橋川良寛/写真=石川真魚)
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フラワーカンパニーズ『Stayin’ Alive(初回盤)』(SMAR)

■リリース情報 『Stayin’Alive』 発売:2015年1月21日(水) 初回盤(CD+DVD):AICL 2805-6 ¥3200(税抜)  通常盤(CD):AICL 2807 ¥2800(税抜) 収録曲 Disc-1(CD) 01. short hopes 02. 地下室 03. 星に見離された男 04. 死に際のメロディー 05. 東京の朝 06. 祭壇 07. この世は好物だらけだぜ 08. 感じてくれ 09. 未明のサンバ 10. マイ・スウィート・ソウル 11(bonus track). ファンキーヴァイブレーション Disc-2(DVD) *初回盤のみ フラカン結成25周年ワンマンツアー「4人で100才」(2014.04.23 at京都磔磔)より 01.小さな巨人 02.ロックンロール 03.東京ヌードポエム 04.終わらないツアー
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フラワーカンパニーズ『Stayin’ Alive(通常盤)』(SMAR)

『Stayin’ Alive』特設サイト http://www.flowercompanyz.com/25sp/alive ■ツアー情報 フラワーカンパニーズワンマンツアー「Stayin’ Alive」 3月1日(日)北海道@札幌PENNY LANE24 open17:30/start18:00 3月7日(土)愛知@名古屋Electric Lady Land open17:00/start18:00 3月8日(日)愛知@名古屋Electric Lady Land open17:00/start18:00 3月13日(金)福岡@BEAT STATION open18:30/start19:00 3月14日(土)広島@CLUB QUATTRO open18:00/start18:30 3月28日(土)宮城@仙台darwin open17:30/start18:00 3月29日(日)宮城@仙台darwin open17:30/start18:00 4月10日(金)石川@金沢AZ open19:00/start19:30 4月12日(日)長野@長野CLUB JUNK BOX open17:00/start17:30 4月18日(土)東京@日比谷野外大音楽堂 open16:45/start17:30 5月30日(土)大阪@大阪城音楽堂 open16:30/start17:00 6月8日(月)岡山@ペパーランド open18:30/start19:00 6月10日(水)鹿児島@SR HALL  open18:30/start19:00 6月12日(金)長崎@STUDIO DO open18:30/start19:00 6月14日(日)高知@X-pt. open17:30/start18:00 6月21日(日)福島@郡山HIP SHOT JAPAN open18:00/start18:30 6月23日(火)新潟@CLUB RIVERST  open18:30/start19:00 6月28日(日)沖縄@桜坂セントラル open18:30/start19:00 チケット料金: 前売¥3600(税込/ドリンク代別) ※東京、大阪公演除く ※東京公演:前売¥4200(税込/全席指定)  ※大阪公演:前売¥4000(税込/自由席/整理番号有)  一般チケット発売日: 札幌、名古屋、広島、仙台公演:2014年12月13日(土)10時 福岡公演:2015年1月17日(土)10時 金沢、長野公演:2015年2月7日(土)10時 東京公演:2015年1月25日(日)10時 大阪公演:2015年3月28日(土)10時 岡山、鹿児島、長崎、高知、福島、新潟、沖縄公演:2015年4月4日(土)10時 ■ライブ情報 「フラカンの日本武道館~生きててよかった、そんな夜はココだ!~」 2015年12月19日(土) 会場:日本武道館 開場16:00 開演17:00 全席指定:5,800円(税込) 一般チケット発売日:2015年6月6日(土) ☆ファンクラブ会員先行受付 2/26(木)~スタート ファンクラブ「ヤングフラワーズ」入会はコチラ ■フラワーカンパニーズオフィシャルサイト http://www.flowercompanyz.com/ ■25周年特設サイト http://www.flowercompanyz.com/25sp/ ■フラワーカンパニーズ公式twitter https://twitter.com/FlowerCompanyz ■フラワーカンパニーズ公式Facebook https://www.facebook.com/FlowerCompanyz

AKB48は『恋チュン』を超える国民的ヒットを生み出せるか? 新曲『Green Flash』のポテンシャルを検証

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AKB48『Green Flash(初回限定盤Type A)』(キングレコード)

【リアルサウンドより】 参考:2015年3月2日~2015年3月8日のCDシングル週間ランキング(2015年3月16日付)  今週のオリコンランキングはAKB48『Green Flash』が100.1万枚でダントツの1位。20作連続のミリオンセールス、2009年の『RIVER』から26作連続の首位獲得となった。シングルの連続首位は女性アーティストとしては浜崎あゆみを抜き新記録を達成、連続ミリオンセールスは自らが持つ歴代記録を更新した。  AKB48にとっては、今作が2015年第一弾シングルとなる。今年12月に結成10周年を迎えるグループのアニバーサリーイヤーの華々しいスタートをきった形だ。  では、今のAKB48の現状は果たしてどういうものなのか。このチャート分析連載でAKB48について書くのは久しぶりなので、メンバーの動向、総選挙や組閣、48Gグループの力関係など様々な要素は全部置いておいて、「楽曲の一般層への認知」という一点に絞って2014年のAKB48の歩みと今回のシングルを分析してみたい。  まず2014年のAKB48の歩みについては、最初に結論を言うと、「恋するフォーチュンクッキー」を超える楽曲を送り出すことはできなかった――ということになる。シングル売り上げ成績以外のあらゆる指標がそれを証明している。2014年にリリースされたシングルは以下の通り。 『前しか向かねえ』(2月26日発売、初週109.1万枚) 『ラブラドール・レトリバー』(5月21日発売、初週166.2万枚) 『心のプラカード』(8月27日発売、初週100.6万枚) 『希望的リフレイン』(11月26日発売、初週113.0万枚)  どれもミリオンセールスを達成している。しかし、iTunesチャートを見てみると、2014年のトップセラーにこれらの楽曲は登場せず、AKB48の楽曲で最も上位にランクしているのが16位の「恋するフォーチュンクッキー」だ(ちなみに2013年のiTUNES年間ランキングでは3位)。また、2014年のJOYSOUNDカラオケ総合ランキングでは1位の「Let It Go 〜ありのままで〜」に続く2位に「恋するフォーチュンクッキー」がランクイン。しかしTOP30位以内に2014年リリースの楽曲は登場しない。  また、YouTubeの公式MV動画の再生数の推移は、この記事を執筆している3月12日現在で以下のようになっている。 「前しか向かねえ」 ダイジェスト映像:約160万回、MV:約160万回 「ラブラドール・レトリバー」 ダイジェスト映像:約470万回、MV:約390万回 「心のプラカード」 ダイジェスト映像:約230万回 MV:約170万回 「希望的リフレイン」 Shot ver.:約230万回 MV:約14万回  基本的には次作のシングルの発売タイミングでフルMVが公開されているので、3月3日公開の「希望的リフレイン」MVの再生回数が低いのはしょうがないとして、それ以外は基本的にダイジェスト映像もフルMVも大体100万回〜数百万回の再生数となっている。対して「恋するフォーチュンクッキー」MVの再生回数は約7千万回。文字通り桁違いだ。  というわけで、まさしく国民的ヒットとなった「恋チュン」以降、AKB48はそのスケールに匹敵するような一般層への認知を持った楽曲を送り出すことはできていないことになる。では、これを踏まえて「Green Flash」はどうか。  筆者の見解では、やはりこの曲がAKB48のファン層を超えて広まっていくのは今の状況を見る限り、難しいと言わざるを得ない。「Green Flash」はミドルテンポの失恋ソングで、高橋みなみと山本彩のラップがフィーチャーされた楽曲になっている。二人はラップパートを無難にこなしていると言えるが、J-POPシーンにヒップホップが定着してから10年以上経つ今、「日本語ラップ」としてのライムやフロウのあり方は、どうしても見劣りするものになっている。MVのShort Ver.のYouTube再生回数は現段階で約66万回。2月14日の公開日から一ヶ月近く経過した上での数字だ。言ってしまえば、この数字は「100万枚売れているが100万回聴かれていない」曲である、ということを皮肉にも証明していることになる。  一方で、シングルには複数のタイアップ曲がカップリングとして収録されている。NHK『みんなのうた』に起用された「履物と傘の物語」、日本テレビ系ドラマ『マジすか学園4』主題歌の「マジすかFight」に、同ドラマのエンディング・テーマ「ヤンキーロック」だ。  特に「マジすかFight」は四つ打ちのビートと80年代の歌謡曲を彷彿とさせるマイナーキーのメロディに乗せて《1秒でフルボッコ》《瞬殺でフルボッコ》と刺激の強い歌詞が歌われる一曲。楽曲の持つキャッチーさ、フックの強さは「Green Flash」以上と言っていい。「ヤンキーロック」もその世界観を踏襲した、やはりマイナーキーのメロディが印象的なナンバー。《ぶっ倒れるまで うちらの夕焼け!》というサビのラスト一行が耳に残る。  今回のシングルは「Type A」「Type S」「Type N」「Type H」の4種類の仕様があり、カップリングも含めると全部で9曲が収録されている。それを全部聴いた正直な感想としては、今回のタイミングではむしろ「Green Flash」よりも「マジすかFight」を表題曲にし、TVの歌番組でもこちらをメインに披露して意図的なヤンキー・アナクロニズムを打ち出していった方がロングヒットに繋がったのではないか、と感じてしまうのだ。 ■柴 那典 1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

UQiYOが体現する、新しいポップミュージックとは? 二人の論客がサウンドと活動スタイルを分析

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【リアルサウンドより】  新鋭音楽ユニットのUQiYOが、3月18日に2ndアルバム『TWiLiGHT』をリリースする。  UQiYOはシカゴ育ちのYuqi(ボーカル・ギター・ピアノ&ループプログラミング・ミックス&マスタリング)と、幼少期からジャズピアニストとしての経験を積んできたPhantao(ピアノ・キーボード)からなるユニット。2013年5月にリリースした1stアルバム『UQiYO』では、浮遊感のあるベッドルームミュージックで多くのファンを獲得したが、最新作『TWiLiGHT』ではそのきめ細かな音作りはそのままに、開放感のあるエレクトロミュージックへと変化した。また、UQiYOは今作よりオフィスオーガスタが新たに立ち上げるインディーズ・レーベル<FORE RECORDS>から、いよいよ表舞台へ打って出ることとなる。  同ユニットの音楽的魅力については、音楽ジャーナリストの柴那典氏は“ノルウェーのアーティストに近い音像”だと語る。 「UQiYOの音楽性を語る上で北欧のアーティストが比較対象に上がることも多いですが、彼らはキャッチーで可愛いポップソングを多数生み出しているスウェーデンよりも、音響系のアーティストを数多く輩出しているノルウェーの音楽に近いように思います。ノルウェーの音楽シーンでは近年、ロイクソップやトッド・テリエが代表的なアーティストとして挙げられており、どちらもドリーミーでカラフルな音像と、ミニマルなダンスサウンドが特徴的です。もともと海外に住んでおり、旅行などを通して世界中の音楽を見てきたYuqiさんが楽曲を手掛けるUQiYOは恐らくその影響を独自に消化し、その空気感をうまく楽曲に反映させています」  続けて同氏は、UQiYOが今作で見せた親しみやすいポップさについてこう続ける。 「メロディに関しては、日本らしい情緒を感じさせるものに仕上げており、海外の音楽をそのまま持ってきたわけではないということが一聴してわかるのも彼らの魅力です。海外の音楽シーンに敏感であり、ノルウェーの音楽と通ずるサウンドテクスチャと英詞を使いつつも、上手くハイブリッドな形に落とし込んでいます」

Music Video "Twilight" | UQiYO ウキヨ

 また、UQiYOはその独自の活動スタイルでも話題を集めるユニットだ。コワーキングスペースや寺院でのライブなどを通じて、音楽以外の分野を手掛ける若手クリエイターと積極的に交流を持っているほか、これまでのCDも多様な形態でリリースしている。音楽とITの関わりに詳しい音楽コンシェルジュのふくりゅう氏は、これらの活動について近年のアーティストの動きをふまえてこう語る。 「UQIYOは、クオリティの高い音楽クリエイティヴはもちろん、その届け方にもこだわっている新世代なバンドです。ライブ一本一本に独自のこだわりを持っており、ライブハウスというよりコワーキングスペースを中心に展開しています。5/10には、クリエイティブ・コワーキングスペースco-lab西麻布とUQiYOが共同企画をしたライヴイベント『音水 -onsui- vol.1「音と、水と、五感で楽しむ浮き夜」』を実施するのですが、水槽を用いてつくりだす映像で空間演出を行うVJ Waterとのコラボレーションに注目ですね。その他にも、新作CDを1枚だけ制作して、それをトランクに入れて、メッセージによってミッション(自分より南の人へつないでいく/写真を撮ってSNSで投稿など)を与えてリスナー経由で北から南へ楽曲に旅をさせるという企画にも驚かされました。ゴールである沖縄に辿り着いたら全国リリースするのだそうです」  最後に、同氏は彼ら独自のやり方である『note』を使ったファンとの交流について、こう説明した。 「注目したいのは、加藤貞顕氏率いるcakesがはじめたクリエイターとユーザーをつなぐサービス『note』の使い方です。UQIYOの『note』はまだ登録者は多くはないのですが、クラウドファンディング的というか、リスナーに便利にやさしい使い勝手で、ファンクラブ的なスポンサーとして月額1万円プラン、ライブ情報を割引クーポンやライブ映像フォローでサポートする月額2千円プラン、さらにグッズや楽曲プレゼント等で楽しめる月額2千円プランという3種類を用意しているのですね。しかも素晴らしい企画力で魅力的に運営されていることに感銘を受けました。これらは、今後のバンドマンの生き方の参考になると思います。クラウドファンディングだと、企画から実施まで時間がかかるタイムラグが気になる中、継続的な未来系システム運営の発明として、この『note』の使い方は絶妙だと思いました」  デジタルで洋楽ライクなサウンドを展開しつつ、体験をしっかりと届けているUQiYO。今後活躍の舞台を広げることで、彼らは若手バンドにとって新たな指針となりそうだ。 (文=編集部)

さやわかが語る、2015年の音楽文化と全体性「強度を一番先に取り戻したのはポピュラー音楽」

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さやわか『僕たちとアイドルの時代』(星海社新書)

【リアルサウンドより】  リアルサウンドでも執筆中のライター・物語評論家のさやわか氏が、2015年1月22日に新書『僕たちとアイドルの時代』(星海社新書)を発表した。同書は、さやわか氏が2013年6月3日に世に送り出し、大きな反響を呼んだ『AKB商法とは何だったのか』(大洋図書)に、ここ1年半余りの音楽シーンの情勢を踏まえて大幅に加筆・修正をしたもの。総選挙や握手会といったさまざまなシステムを作り出し、音楽チャートで注目を集める一方、激しい批判にもあってきた“AKB商法”にスポットを当て、その批判の妥当性を検証するとともに、これまであまり語られてこなかったその功績を浮き彫りにしたのが前書だった。今回の書籍では、刊行の後に起こった「恋するフォーチュンクッキー」のムーブメントや、世間を大きく騒がせた“AKB襲撃事件”にも言及、あらためてその理論の有用性を主張している。リアルサウンドでは今回、さやわか氏本人に登場してもらい、同書の狙いや主張についてたっぷりと語ってもらった。(編集部)

「アイドルは全体性をカバーしようとしている」

——今回の新書『僕たちとアイドルの時代』は、2013年6月に出版された前書『AKB商法とは何だったのか』に加筆されたものですね。この1年半の間に、前書で提示していたことが実証された手応えはありましたか。 さやわか:そうですね。『僕たちとアイドルの時代』は、前書を踏まえて「ほら、僕が考えていた通りになったよね」という本ではあります。新書化にあたって本のタイトルを変えた一番の理由は、前書で「日本はアイドルの時代だ」って書いたんですけど、いまはアイドルカルチャー以外にもそこで僕が「アイドルの時代」と書いたものが拡大しているので、そのニュアンスを込めたかったというのがあります。 ——前書では、一般的にいう“AKB商法”への批判に対し、さやわかさんは異議を申し立てしていますよね。その異議の背景にあるのは、ポップミュージックはビジネスも含めて一体としたカルチャーとして捉えたほうがより有意義である、という考え方でしょうか。 さやわか:その通りです。ただ僕が言いたいのは、ビジネス側からポップミュージックを捉えましょうというだけの話でもないんです。まず前提としているのが、ポップミュージック以外のカルチャーであってもそうなんですが、全体性を見通すのは難しいということ。しかし一部の人々は、全体性がないにも関わらず自分の好きなもの、興味のあるものだけにしぼって、文化や社会全体を語ろうとする。しかしお互いにそういうことをやっていると、何が本当に重要なのか決められないまま、価値観のぶつけ合いになることがすごく多いんです。わかりやすく言うと、それはインターネット上での不毛な議論などに表れていますよね。漫画でもアニメでも映画でも「俺はあれが好きだ」「あれはダメだ」「あれが良いんだ」という、特に根拠のない水掛け論ばかり繰り広げられるようになる。しかし歴史を参照すれば、どんな文化にも価値を認められたものがあったと思うんです。でも特にアイドルの場合はそうした権威付けがされずにきたものだから、内部でも外部でも、とにかく「あれが好きだ」「これはダメだ」という不毛な議論に終始してしまう。僕が指摘したかったのは、そこなんです。 ——なるほど、AKB商法への批判も倫理的なものに終始するものが多く、それはカルチャー全体を見通すものにはなっていない、という見方ですね。 さやわか:実際、僕がアイドルについて書き始めたのは06〜07年頃のことなんですが、その時は編集者に「アイドルが面白い」と訴えても「さやわかさんはそういうのが好きなんですね……」と気持ち悪がられることのほうが多かったんですよ(苦笑)。要するに、僕が「アイドル好き」で、その人は「アイドル嫌い」という、好き嫌いでの判断ばかりがされたわけです。しかし、アイドルという存在が面白いのはそこでもあって、それだけ好き嫌いだけが横行する社会を前提として受け入れつつ、そこでなお「いかにしてポピュラリティを得るかが仕事」という人たちなんですよね。それはつまり、価値観を対立させるよりも、なんとかして社会全体をカバーすることを目指すという意味でもある。だからこそ、いまの社会を語る上での一つの鍵となり得ると思うんです。AKB48がまさにそうなんですけど、彼女たちは売上げを指標として使うことによって全体性をカバーしようとしていて、しかもチャートの売上げ順位やランキングのような構造を、自分たちの作品あるいは表現を届かせるためのインフラとしても使っています。倫理的な好き嫌いでそれを非難するよりは、そのことが今の社会にとって何を意味するのかを考えるほうがよほど有意義です。 ——この本では、アイドルグループがチャートをジャンプボードにして、次の段階にいくルートが想定されていますね。 さやわか:そうですね。チャートで上位になって目立つことによって、AKB48のシステムはうまく循環してきたと思います。 ——4章「AKB商法とは何だったのか」では、ここ2年くらいの新しい事象についても書かれていますが、さやわかさんが2013年までに立てた見立ての中で、特に予見が当たったと感じる事象とは。 さやわか:前書が出たのが2013年の6月で、ちょうどAKB48の総選挙があって、そこで指原莉乃さんが1位になりました。そして『恋するフォーチュンクッキー』がヒットした。これはもう、僕が書いた通りになったなと思いました。指原さんは恋愛スキャンダルがあってバッシングを受けたメンバーであり、またAKB48の中ではどちらかというとコメディリリーフとしてのキャラクター性を与えられている。にも関わらず、AKB商法の権化であるような総選挙という場で1位になることができた。つまりこれは、アイドルがかつてのようにスキャンダルを犯して失敗したらもうアウト、というシステムではなくて、違う仕組みが働いているというべきでしょう。また『恋するフォーチュンクッキー』は、曲としても非常によく出来ていて、それこそロック界隈のミュージシャンにも評価された。つまり「AKB48は握手券を売っているだけで、音楽性は伴っていない」という批判はもはや必ずしも成り立つものではありません。さらに同曲は、YouTubeなどを通じてみんながダンスする動画を投稿し、そのムーブメントが広がっていくという流れがあった。今のアイドルは疑似恋愛の対象として好きになる人を中心とした文化ではなく、曲の中身だけが重視されるのでもなく、そのアイドルがいて、その曲があることによって人々が繋がっていく、そういう文化になっているわけです。『恋チュン』のムーブメントは完全に狙って起こされたものだと思うんですけど、それがまるで前書で指摘したことをトレースするような仕掛け方だったので、我が意を得たり、と思いました。言い換えると、AKB48は現状を俯瞰した上で、次にどういう風にコマを進めていくべきかをちゃんと考えているユニットで、それを見事に当ててきている。だからこれは「だからAKB48はすごい」っていう話ですらなくて、今のポップミュージックの状況を踏まえたらこういうやり方がある、ということで、僕の本はそれを知ってほしいという気持ちを込めたものになっています。

「倫理的な批判よりも、歴史やシステムについての理解を」

——本書では2014年に起きたAKB48の握手会襲撃事件も取り上げています。その際には、やはり倫理観と結びつけられながらAKB商法までもが猛烈に批判された、と言及していますね。 さやわか:アイドルについてなにかネガティヴな事件が起こると、一部では「アイドルという文化そのものがよくないのだ」というところへ急に直結されてしまいます。女の子を無理やり働かせている、という風に捉えられがちだから、叩きやすいものなんですよね。特に2014年の襲撃事件の場合は、握手会という、いまもっともAKB48がうまく使っているシステムを突いたものだったからこそ、余計に反対派が盛り上がったとは思う。ただ、インターネットではやはり倫理的な批判が主であって、特に検証主義的ではなかったんですよ。つまり襲撃したのが誰で、その時の状況がどうだったかが注目されたわけではなくて、まず最初に言われたのは、「熱狂的なファンがやったんだろう」とか「あれだけ金を使わせているんだからそういう奴も現れるだろう」みたいな意見だった。要するに恋愛ストーカーまがいの事件だと思われたんですけど、事実は全くそうでなかった。でも、こういう見方をされるのは、AKBなど今のアイドルがまだまだ誤解されているせいですよね。そうすると、あの事件の本質がどこにあるのかも見過ごされてしまうでしょう。ただ、そこで僕が難しいと思ったのは、「事実はそうじゃないんだ、AKB48は潔白なんだ」と主張すると、自分まで価値観の対立に絡めとられてしまう。だからあの事件について、僕はそういう発言はできなかった。でも僕の本に答えは書いてあるので、読んでくれたらいいのになー、とはずっと思っていました(笑)。ああいう事件を期に、握手会を支える歴史やシステムについてちゃんと考えたほうが有意義だと思うんです。 ——なにか問題が起こったときに建設的な議論ではなく、倫理的な闘争に発展してしまう。これを乗り越える手立てはあるのでしょうか。 さやわか:カール・シュミットっていうドイツの政治学者が、友敵理論——つまり政治というものが「あいつは敵か味方か」ということだけに収斂されていく——という考え方を示しましたが、僕はカルチャーについて書きながら、ずっとそれについて考えています。アレについて褒めているからこいつは味方、けなしているから敵、というのが際限なく進んでいくと、最終的には「敵だからけなさなければいけない」「味方だから褒めねばならない」という論理にまでなって、自分と価値観の合わない人と批判をぶつけ合うだけになっていくんですよね。それは本当に不毛。アイドルについても、「アイドルだからダメだ」というレッテル貼りをする人もいれば、「アイドルだから褒める」という人も出てくるわけじゃないですか。それは本当に文化について語っていることになるんでしょうか? 僕はそうは思いません。 ——まさに剥き出しの政治があると。 さやわか:本書の中でトマス・ホッブズの「万人の万人に対する闘争」という言葉にインスパイアされて、「アイドルのアイドルに対する闘争」という言葉を使っているんですけど、それも同じ含意なんです。“アイドル戦国時代”といわれる状況は、私たちの社会の写し鏡のようなもので、それは闘争状態であってすごく危険なものだ、ということを指摘したかったんです。そして、それをうまく軟着陸させるようなやり方を、当のアイドルの中から探すことができるんだよ、ということが書きたかった。 ——チャートというのは、観念同士がぶつかり合う状況に対する唯物論的な介入ではありますよね。 さやわか:そうそう。結局、価値観をどれだけ対立させたとしても、そこには抗い難く自分たち全体を規定している力が働いている、という話に持っていったわけです。そして、それを参照先とすることで闘争をするんじゃなくて、むしろ互いをつなぐハブとして有益に使うようなことができたらいいなと思っています。もちろんAKB商法的なものを使っているアーティストばかりが上位にいる今のチャートに、批判されるポイントはあると思うんですよね。「唯物論的介入をうまく利用しているんだよ」って言っても、それをしていない人にとっては「何言ってんだコイツ」ってなると思う。ただひとつ思うのは、僕が前書を書いた頃にはまだ「AKB48だけがそういう商法を使っている、だから許せない」という言い方が多かった。だけど実はジャニーズもやっていたし、EXILEも、ビジュアル系の人もかなりやっていたわけじゃないですか。AKB商法への批判が始まって、そうした売り方が可視化されたからこそ、そういうものを嫌いな人が「アイドルは許せない」じゃなくて、「そういう商法を使う人たち全般が許せない」という言い方になってきた。それはいまだに残念なことですけど、状況としては進んだのかなと思います。 ——昨年11月、Mr.ChildrenがSexyZoneにシングル売上げランキングで負けるという象徴的な出来事がありました。本書では、SexyZoneの商法に対して批判が集まったけれど、とはいえミスチルもまた別の商法を使って売上げを伸ばしてきたバンドだということを指摘しています。(参考:SexyZoneがミスチルを抜いたCDシングルランキングをどう考える? さやわかが歴史的視点から提言) さやわか:僕は1995年に『ROCKIN'ON JAPAN』が行った、ミスチルの桜井さんに対するインタビューをたまたま当時読んでいたんですが、それを読むとわかるのは、ミスチルこそ、一貫してどうやって売っていくかを考えてきたバンドで、とりわけタイアップを頑張って売れてきた人たちなんです。桜井さんの言葉には、「自分は大衆音楽に打って出るんだ」という強い決意があって、それ自体はすごく健全な考え方で、何も間違っていない。しかし、いろんな経緯があって、音楽シーン全体にアーティスト信仰みたいなものが根付いてしまった。これはミスチルが悪いわけではなくて、音楽が売れるということとアーティスト性みたいなものが乖離していった結果、逆に「売れない音楽を作っている人はアーティスティックに作品性を追求しているんだ」という奇妙な見方が出てきた結果だと思います。つまり、たとえば日本のヒップホップなんかでもまれに見られたような、ある種の清貧志向が台頭してしまった。するとミスチルなんかは「売れる音楽を作っているんだけど、決して売れるために作っているわけではない」という、すごく奇妙なロジックでほめられたりする。しかしポップミュージックであるというならば、それは本来ショービジネスの一環なわけで、やっぱりそういうほめ方はおかしいと僕は思っていました。ミスチルはタイアップで成功したからこそ、タイアップの手法を繰り返しているんですよね。「自分たちはタイアップでやってきたんだ」というのは彼らの旗印であって、それを伝家の宝刀としながらゼロ年代以降のAKB商法、特典商法とも戦おうとしてきたわけです。それは素晴らしいことだと思う。しかしそれがSexyZoneに敗れたというのは、タイアップ商法よりも複数枚+特典商法という商法のほうが現代にマッチしていたという意味だと思います。そうしたトレンドを知るためのものとして、チャートはちゃんと機能したと僕は捉えています。 ——そうしたチャートの機能を捉えた上で、SexyZoneやAKB48を写し鏡として、ミスチルが純粋に音楽性を追求している、とする見方は訂正したい、と? さやわか:それはどうしても言っておきたかったことです。一部のひとは、「いや、ミスチルのほうが音楽として良いんだ」とか「SexyZoneのほうが売れたのだから音楽的にも良いんだ」という形で友敵理論を押し広げていこうとするんですけど、どっちだって良いし、どっちが上という話でもないんです。単に今の時代がどうなっているかを計るものとして、チャートが機能すれば良い。それともうひとつ、この本でも指摘したことで重要なのは、本当に人が音楽性の高さを重視しているのであれば、じゃあ別に売れなくても良いじゃん、ということになっちゃうんですよね。たとえばオリコンチャートは、これまで一回も音楽性の高さについて計ったことはないんです。常に売れているかどうかを計っている。なのに、そのチャートのなかでミスチルが1位にならなかったといって怒るのはおかしいと思う。もし本当に音楽だけが大事なのであれば、自分の耳に心地よく響くとか、あるいは桜井さんが好き、ということだけで満足できるはずなのに、結局はポピュラリティを求めているわけですよね。 ——良い音楽はチャート上でも高い位置にいるべきである、という考え方は昔から根強くあるように思います。 さやわか:これはすごく難しい問題ではありますよね。90年代の半ばですかね、ピチカート・ファイヴの野宮真貴さんが、「フリッパーズギターが『恋とマシンガン』でオリコンチャートに入ったときに、やっと自分たちの好きな音楽がチャートに入ったと思った」という話をされていたんです。僕はそれってすごく象徴的な言葉だと思う。自分たちの信じた「良い音楽」があって、それでオーバーグラウンドに打って出ようってことをハッキリ志向したのが、90年代のあの辺の人たちだと思うんです。つまり従来の音楽家は「大衆音楽は大衆音楽としてあるが、そうではないハードコアな音楽はこちら側にある」という形で自分たちの価値を主張していたと思うんですけど、90年代に「これで世の中変えてやろう」といって出た結果、今のアーティスト信仰みたいなものと結びつく結果になった。 ——たしかに1995年に小沢健二が紅白出場を果たした時、それを一つの達成とみなす意見はよく聞いたし、私も納得していたように思います。一方でさやわかさんの本では、2000年代以降は紅白に出ることのカウンター性が、あやふやなものになっていったと指摘しています。 さやわか:そうしたカウンター性は、小沢健二さんみたいな人が紅白に出たり、『Hey! Hey! Hey!』に出たりした頃には、まだ成立していたと思うんです。しかし亀田誠治さんがプロデューサーとして出てくる辺りから何かが変わっていったように思います。亀田さんは対立軸などはあまり重視していなくて、オーバーグラウンドの領域で単純に良い音楽を作れば良いじゃん、ということを信じているように思うんですよ。別にそこに政治性みたいなものはなくていい。もしくは、シーンの内部から変えていければそれでいい。彼の仕事は椎名林檎さんのものなんかが有名ですけど、彼女の音楽もそうだと思うんです。彼女はカウンター性みたいなものを、キャラクターとしてまとってはいるんだけど、それはみんなに望まれる価値としてのカウンター性ですよね。結果として、そのカウンター性というのは言ってみれば「カウンターキャラ」として、キャラクター化したものでもある。それは時代の産物なんだと思います。そうした変遷を踏まえた上で、アイドルがなぜ面白いかというと、かつてのカウンターカルチャー的な物語をやり直そうとしたからなんですよ。つまり、ライブハウスから出てきて、インディのレーベルと契約し、その後はメジャーのレコード会社からCDを出して、それがオリコンチャートの上位に駆け上り、最後は紅白に出るんだ、みたいな。これは矢沢永吉の「成り上がり」みたいなモデルであって、そんなフィクション性の高い、泥臭いものはダメだ、という考え方が90年代後半からゼロ年代頭くらいまでは支配的だった。ところが、いまのアイドルなんかは、紅白に出たいとか、オリコンの上位に入ったらすごいとか、普通に言っちゃう。音楽性を追究しようという流れが退潮した後に、みんなが感動する音楽の物語、成り上がりの物語を再生産するアイドルというジャンルが盛り上がったのは、すごく面白いことだと思います。

「音楽は一番先に危機的な状況を迎えたが、一番先に独自の方法で回復していった」

——最終章では、そうしてシーンが盛り上がってくると、楽曲自体「も」良くなってくる、と指摘してますね。 さやわか:そのことは『AKB商法とは何だったのか』を書いた時には、まだ十分に可視化されていなかったから書くことはできなかったのですが、かなり重要なポイントなので慌てて書き足しました。つまり「アイドルは作品重視ではない」というのが前の本の結論だったけれど、「作品がなんでもいいのなら、逆に良質な音楽を作ったって構わない」という風潮が強くなってきた。「何でもいい」ところに「一番良い」ものを置くことができるようになったんですね。結局、それは音楽チャートみたいなインフラをうまく使えば、多くの人にきちんと作品を届けられるって言ったことと同時並行の動きとしてある。つまり、それを利用してお金を稼いでいれば、それだけ予算が使えるようになるし、そのおかげで良い作品を作ることもできる。だから「アイドルソングだからダメ」だみたいな言い方が通用しなくなった。むしろアイドル自身も楽曲のクオリティが高いくらいでは差別化できなくなってきたほどなんです。もうひとつ言えるのは、そういう風にアイドル界隈が良い曲を望んだことによって、楽曲提供側も「じゃあアイドルのための曲を作ろうか」と積極的になったんです。アイドルカルチャーに対する理解が深まって、それに当て込んだ曲を作るようにもなってきました。その結果、音楽を好きであることと、アイドルを好きだということが、矛盾しなくなってきている。そういう音楽ファンが増えている。僕はもともと音楽が好きなので(笑)、これは喜ばしいことだと思います。 ——最後に今後の予測として、日本の音楽文化はどのように推移していくと考えていますか。 さやわか:この本の最初の方でも触れていますが、商品としての音楽の動向を追っていくと、00年代の中頃は音楽産業が単純に停滞していくのではないかと思われていたんですね。つまりゼロ年代を通して、CDがどんどん売れなくなっていった。それはインターネットのせいだ、違法コピーが蔓延しているせいだとか言われていたんだけど、同時並行した流れとして、フェスやライブが伸びてもいた。それはやがて注目されるようになって、今はライブ指向なんだと言われたりもしてますけど、じゃあその本質は何なんだと考えるべきですよね。たとえばフェスがどう流行っているかというと、やっぱり音楽を通じて人と楽しく過ごすということが大事にされているんです。前に朝の情報番組『ZIP!』でフジロックに行ってフェス飯を女の子3人で食べるという企画をやっていて、すごく驚いたんですよ。それってもう、音楽とは関係ないじゃないですか。じゃあ、そういう現象は音楽の敗北を意味するのかというと、そうではない。なぜなら、そうした空間は音楽がないと成立しないからです。音楽っていうのはすごく面白いカルチャーで、空間に常に漂うことができて、その場所にいる全員を束ねることが可能です。視覚のメディアだと全員を同じ方向に向かせないといけないけれど、音楽というのは勝手に耳に入ってくるものなので、どういう状態にあっても、その場にいる全員に、それぞれの形で与えることができる。その良さが今、伸びてきていると思うんですよ。そう考えると、たしかに音楽が売れなくなったっていう言い方もできるんですが、それでも映画にもゲームにも音楽は使われているし、ゲームの中で使った音楽をCDにすると売れたりもする。そんな感じで他のジャンルに、音楽は常につきまとっていて、むしろいろんなジャンルやいろんな人を結びつけるものになっている。そういう形で、音楽というのはすごく価値を持っているということに、今みんながようやく気付いてきているところだと思うんです。今は東京オリンピックの話で、AKB48が出てくるんじゃないかとか、EXILEが出てくるんじゃないかという話があります。その是非について、楽しみだとか許せないだとかいろんなことが言われていますが、少なくともそういう時に、彼らの名前が出てくること自体が、音楽にとってはすごいことなんだと僕は思います。 ーー最初のお話に沿っていえば、ポップミュージックがある種の全体性を回復しつつあり、それゆえに社会的な文脈のなかで取り上げられている、との見方もできます。 さやわか:ポップミュージックは全体性をカバーできなかったはずなのに、いつの間にかカルチャーの中心にあって、東京オリンピックで何かをやるとなったらAKB48やEXILEのような名前を出さざるを得ない。ポピュラー音楽が自分たちのハブとして機能していることを認めざるを得なくなっている。そこがやっぱり音楽の良いところだと思う。AKB48やEXILEが何を成したかというと、CDをバンバン売ってあちこちで人の目に触れさせたこと。それをウンザリするような話だと感じる人もいると思うんですが、言い方を変えると、彼らはそうして音楽を人に届けていったんです。今の時代——映画も文学も漫画も、細分化していって人々を繋げられなくなってきた時代——にあって、文化としての強度を一番先に取り戻したのは、ほかでもなくポピュラー音楽だったと思います。音楽はインターネット以降、一番先に危機的な状況を迎えましたが、一番先に独自の方法で回復していった。そう考えると、AKB商法と揶揄されたアイドルたちの方法論には、ほかのカルチャーにとっても学ぶべきものがあるといえるし、このやり方は是非を問われつつ、他のジャンルにもさらに波及していくのではないでしょうか。 (取材=神谷弘一/構成=松田広宣) ■さやわか ライター、物語評論家。『クイック・ジャパン』『ユリイカ』などで執筆。『朝日新聞』『ゲームラボ』などで連載中。単著に『僕たちのゲーム史』『AKB商法とは何だったのか』『一〇年代文化論』『僕たちとアイドルの時代』がある。Twitter