Perpetual Dreamerが目指す、J-POPシーンの突き抜け方「僕たちが求められてる場所は必ずある」

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【リアルサウンドより】  大阪出身の4人組バンド、Perpetual Dreamer(パーペチュアル・ドリーマー。通称パペドリ)がアルバム『NIGHTMARE THEATER/ナイトメア妖画劇場』でメジャーデビューを果たした。今作のプロデュースを手がけたのは、筋肉少女帯やX.Y.Z.→Aのギタリスト・橘高文彦。パペドリは今作で、おどろおどろしさとユーモアを織り交ぜた歌詞、テクニカルなメロディックHR/HM(ハードロック / ヘヴィメタル)サウンドを融合させた“妄想(メルヘン)メタル”を武器に、橘高と完成度の高い世界観を作り上げることに成功している。リアルサウンド初登場となる今回は、メインコンポーザーのkissy(Gu / Cho)と紅一点のNozomi(Vo)に、その個性的な音楽スタイルの成り立ちや橘高との共同作業についてじっくり語ってもらった。

「お告げ」を機にギター開始!?

──まずはお2人の音楽的ルーツを聞かせてください。最初はkissyさんから。 kissy:僕は実家が寺でして、不思議な現象に遭遇することがたまにあったんです。で、中学生の頃に自転車で派手に転倒したんですけど、目の前に星が見える代わりに頭の中になぜか弾いたこともないギターが浮かびまして。「なんでこのタイミングにギターなんだ!? そうか、これはお告げに違いない」って勘違いをしたことが、ギターを始めるきっかけなんです(笑)。 ──ええっ!?(笑) kissy:いろんなジャンルの曲のコピーから始めて、すごく効率は悪かったと思うんですけど。そのぶん1つのジャンルに縛られることなく、古今東西いろんなジャンルに先入観なく接することができました。その中でメタルに出会って、最終的にどっぷり傾倒していったんです。 ──ギタリストとしてはどういう人に影響を受けましたか? kissy:橘高文彦さんが一番のギターヒーローなんです。ほかにもMR.BIGのポール・ギルバートとかEXTREMEのヌーノ・ベッテンコートとかハードロック系のギタリストに影響を受けて、そこから彼らのルーツをたどってマイケル・シェンカーやゲイリー・ムーア、ランディ・ローズを知って。ギターヒーロー然としていながらも、歌を大事にして弾くギタリストがすごく好きなんです。そういう影響は自分たちの音にも出てるんじゃないかと思います。

趣味はバラバラだけど目指してる世界観は一緒

──ではNozomiさんは? Nozomi:私は幼少の頃に少しだけピアノを習ったほかに、学校の部活動で合唱部に入ってソプラノパートを担当してました。実は私、kissyとは違ってキリスト教系の学校に通っていたんです(笑)。そこでは毎朝礼拝があって、賛美歌を歌って「アーメン」と言って終わるんですけど、その影響が自分の歌やパペドリのコーラスに生かされてるのかなと思ってます。 ──そうだったんですね。 Nozomi:はい。それまでは母の影響で昭和歌謡とか宝塚歌劇とかが好きで、よく歌って踊ったりしてました。今やってるような激しい音楽については、アニメや映画の主題歌を聴いて興味を持ったのがきっかけで、そこから徐々にHR/HMにハマって今に至る感じです。 ──そういう音楽との出会いを経て、kissyさんとNozomiさんが出会ったと。 kissy:はい。僕は同級生とは音楽の趣味がちょっと合わなかったので、自分の父親と同年代のおじさんやおねえさま方とバンドを始めました。いろんなライブハウスに出入りしていたときにNozomiと出会いまして。最初は普通に話していただけだったんですけど、音楽以外にも映画やアニメの趣味が共通していることや、お互い童話とかおとぎ話とか、そういった世界観も好きだということがわかったんです。じゃあ、そういうものを表現できるバンドを一緒にやってみようかと。今日いないほかのメンバーとは趣味はバラバラなんですけど、目指してる世界観だったり好きな表現方法が共通しているので、バンドとして強いカラーが打ち出せているのかなと思います。

どのイベントでも奇異の目で見られてた

──Perpetual Dreamerは2009年に結成されました。当時のライブハウスでのリアクションは? kissy:今でこそいわゆる“嬢メタルブーム”みたいなものでメタルシーンが賑わっていると思うんですけど、当時はその直前ぐらいだったので、僕たちみたいなバンドはどのイベントに行っても浮いていて。同じメタル系にしても革ジャン、革パンのお兄さんたちに混じってやっていたので、奇異の目で見られてたと思います(笑)。 ──どんなお客さんが多いんですか? kissy: 80年代のHR/HM全盛期を知ってる方もいれば若い方もいて、幅広い年齢層の方々が応援してくださってる印象があります。 Nozomi:パペドリはライブ中にお菓子を投げたり私と同じ振り付けで踊ったり、コールアンドレスポンスで「お・か・し」と言ったりと、ほかのバンドさんがあまりやってないようなことをするので、共鳴する人が増えれば増えるほど、ステージから観てる光景は面白いです(笑)。

Perpetual Dreamer/Heartless Horseman - 騎士 騎士 666

ダークな要素と同時にコミカルな要素も大事

──今回のアルバム『NIGHTMARE THEATER/ナイトメア妖画劇場』を聴くと、Perpetual Dreamerはおとぎ話や童話のメルヘンさの裏側にあるダークな部分を強く表現しているところが個性的だなと感じました。 kissy:ありがとうございます。おっしゃる通り、童話ってロマンチックな夢物語であると同時に、すごく残酷な面も兼ね備えていますよね。今回のアルバムではそういった部分により焦点を当てていて、残虐性や猟奇性といった狂気の世界を強く表現できたんじゃないかなと思います。 ──それでいて、楽曲タイトルや歌詞には思わずクスッとしてしまうような要素が必ず含まれていますよね。 kissy:はい(笑)。ダークな要素と同時にコミカルな要素も大事にしているのがPerpetual Dreamerのコンセプトで、そういった部分もわりと時間を割いて考えてるんです(笑)。例えば曲名でもちょっとしたフレーズでもいいですけど、「これ、元ネタがあったよな?」っていうふうに探してもらうもよし、鼻で笑ってもらうもよし。皆さんなりの楽しみ方をしていただければ、僕はうれしいです。 ──ボーカルも賛美歌を思わせるボーカルワークが生かされていて、本当に独特の世界が構築されてますよね。 Nozomi:アルバムにはいろんなタイプの曲があるので、その曲ごとにキャラクターを変えて歌い分けてます。橘高さんにも言われたんですけど、今回の場合は特にちょっとしたニュアンスでも注意して歌うように意識しました。 kissy:「○○ごっこをして遊んでいるNozomiにバンドが付き合っている」という感じに捉えていただければと(笑)。

リップサービスを真に受けてプロデュース依頼

──アルバムはその橘高さんがプロデューサーです。まさにkissyさんが大好きなギタリストなわけですが、どういう経緯でご一緒することになったんですか? kissy:とあるライブの楽屋でご挨拶をさせていただく機会があったんですけど、そのときは本当にただの1ファンとして『100%橘高文彦』っていう本を持って「サインしてください! 握手してください!」みたいにファン丸出しだったんです(笑)。で、「もしよかったら聴いてください」と自分たちの自主制作盤をお渡しして。そこで「最近プロデュース業もやってるから、もし機会があったら一緒に仕事できたらいいね」とリップサービスで言っていただいたんですけど、僕はそれを真に受けちゃったんですよ(笑)。その翌年にインディーズからアルバムを出したときも聴いていただいたんですけど、そこで「次回作はぜひ橘高さんにプロデュースしていただきたいです」とアプローチをしましたら、「ちょっと興味があるから、詳しい話をしてみませんか?」っていうリアクションが返ってきまして。そこからさらに交流を深めて、気が付いたらレコーディングが始まっていたという感じです(笑)。 ──積極的にアプローチした結果が今回のプロデュースにつながったわけですね。ちなみに橘高さんが、Perpetual Dreamerのライブを観たり音源を聴いたりした感想はどうでしたか? kissy:もともと僕が橘高さんからすごく影響を受けているのもあって、開口一番「家族だ。俺の遺伝子が詰まってる」と言ってくださったんです。と同時に「でも俺ならこうするけどね」とも言ってました(笑)。

「そこは小人さんががんばって歌ってる感じで」

──念願の橘高さんとの作業はいかがでしたか? kissy:最初はバンドのやることにちょっとアドバイスするぐらいかなと思ってたんですけど、実際にはギターを弾いてるときもほぼ横にいらっしゃるような感じで(笑)。曲作りに関してはわりと自由にさせてもらったんですけど、アレンジや世界観の演出の部分ではアイデアを出し合って、完成度を高めていきました。化学反応を起こすことも多かったし、本当に贅沢で幸せな時間でした。 Nozomi:インディーズの頃は限られた時間と環境の中で精一杯やってたんですけど、今回はすごくいい環境でやらせていただけて。橘高さんもやさしくって、こうしろと指示されるのではなくてアドバイスをもらう感じでした。その際の例え方も「ここは浜田麻里さんみたいにカッコよく」とか「松田聖子さんみたいにかわいく」とか、いつもわかりやすい。そういうアドバイスをもらいながら、迷うことなく自信を持って歌うことができました。中には「そこは小人さんががんばって歌ってる感じで」みたいに面白い例え方もあったので、それはどの部分のことなのか曲を聴いていただいた方に当ててほしいですね(笑)。 kissy:そのユニークな例え方は演奏面でもありまして。「入れ墨がいっぱい入った外国人のつもりになって弾いて」とか「アリーナ席満員のお客さんを前に、解放感いっぱいに弾いてくれ」とか(笑)。 ──なるほど(笑)。どの曲もアレンジが複雑ですが、どうやって決めていくんですか? kissy:基本的に僕が作詞作曲をして。歌詞とメロディを同時進行で作るんですけど、メロディを第一に優先して、そこから歌詞に合わせたリフとかバッキングとか構成を組み立てていく。デモの段階で構成もほぼ仕上げた状態でメンバーに持っていくんですけど、それを聴いてもらってバンドで演奏する形です。 ──そうなんですね。歌詞については、Nozomiさんに内容を説明するんですか? Nozomi:こういうことをテーマにしているとは事前に聞かされるので、それを自分なりに消化して歌ってます。 kissy:あまり細かい指示を出し過ぎると、どうしても自分の枠の中だけで収まってしまうので。最終的には僕の期待以上の仕上がりになるし、そのあたりは信頼してます。

僕たちのような音楽が求められてる場所は必ずある

──皆さんのようなスタイルのバンドから、今のJ-POPシーンはどう映りますか? kissy:ギターの存在感が強いバンドサウンドの人気は以前よりも低くなってるのかもしれない。でも、例えばアニメソングやアイドルソングのバックでツーバスがドコドコ鳴っていたり、ギターが速弾きしていたり、そういう音楽をよく耳にするので、僕たちがやっているような音楽が求められてる場所は必ずどこかにあるんじゃないかと。時代時代で流行が変わっても、こういう音楽は普遍的なものだと信じてますし、どこかで求めている人たちに対して「ここにいますよ!」とアピールできたらいいなと思います。 ──思えばPerpetual Dreamerというバンド名自体、メタルとアニメの要素をあわせ持った名前ですものね(注:バンド名の“Perpetual”はメタル系ギタリスト、ジェイソン・ベッカーのアルバム『Perpetual Burn』、“Dreamer”はアニメ映画『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』より)。将来アニメソングを担当して、子供たちがパぺドリの曲を口ずさむ日も来るかもしれないですし。 kissy:そうですね(笑)。 Nozomi:実はファンの方の子供さんがパペドリの歌を口ずさんでるというのをよく聞くんです。歌詞の面では教育上よくないのかもしれないですけど(笑)。 kissy:でもロックって刺激的なものでなくてはならないと思うし、ある意味では正解なのかも(笑)。とにかく、HR/HMの枠だけにとらわれないで“パペドリというジャンル”を確立したいです。例えば「○○みたいなバンド」って例えたり説明ができないようなサウンド、世界観を表現できればと常に考えています。やっぱり広い層に聴いていただきたいですしね。 ──では最後に、バンドとして将来の目標を聞かせてください。 Nozomi:まずは『NIGHTMARE THEATER/ナイトメア妖画劇場』を聴いていただいて、それからライブに来てパペドリが見せる夢の世界に浸っていただいて、夢の住人をどんどん増やしていきたいです。パペドリのライブはお客さん参加型の楽しいライブを目指していますので、皆さんにライブに来ていただきたいと思います。 kissy:Perpetual Dreamerというバンド名には「常に夢見ることを絶やさない人」みたいな意味が込められているんです。そのためにはよりいいライブ、よりいい演奏、よりいい楽曲、よりいい活動を求めてどんどん進化していければいいなと思います。 (取材・文=西廣智一)
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Perpetual Dreamer『NIGHTMARE THEATER/ナイトメア妖画劇場』(キングレコード)

■リリース情報 『NIGHTMARE THEATER/ナイトメア妖画劇場』 発売:2015年4月22日 KICS 3188 ¥2,700(税抜) 《収録曲》 01.Raising The Curtain - まくあけはいつも夢 02.Welcome To The Haunted Rock Kingdom - オイデヤス墓場 03.Kiss Of Mermaid - マーメイドキッス 04.Heartless Horseman - 騎士騎士666 05.Dream Candy House - ちょこっとキャンディハウス 06.Flowers For Franken - 哀しみの怪人達 07.Screamin' In The Boy's Room - ゾッとして!ROOM 08.Space Attacks! - 宇宙より愛をこめて 09.Dirty Hot Pie - うれないホットパイ 10.Nightmare Before Churushimimas - いつでもベリークルシミマス 11.Fish Tales Rhapsody - 法螺吹驚詩曲 12.Cum On Feel The Marchen - なんてったってメルヘン ■オフィシャルHP http://perpetualdreamer.net/pdindex.htm

嵐の分析本がAmazon総合ランキング2位に! 現役ミュージシャンが「A・RA・SHI」の構造を分析

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『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』

【リアルサウンドより】  嵐が日本一の男性アイドルグループとなった理由を、音楽性、演技・バラエティ、キャラクター、パフォーマンスという4つの視点から読み解いた書籍『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』が、4月16日から17日にかけて、全国書店やネット書店で発売した。同書はリアルサウンド編集部が制作を手がけ、青井サンマ氏、柴 那典氏、関修氏、田幸和歌子氏、成馬零一氏、矢野利裕氏など、嵐に詳しい気鋭の評論家・ライターが寄稿。嵐の魅力を多彩な角度から解き明かしている。  本日、同書がAmazon.co.jpの“本のベストセラー”で2位にランクインしたことを受け、内容の一部を公開。東京を拠点に活動するバンド、トレモロイドのシンセサイザー・小林郁太氏が、嵐の名曲「A・RA・SHI」の構造を分析したコラムを掲載する。 参考1:【嵐が次にめざす方向性とは? “日本一のエンタメ集団”を徹底分析する書籍登場】 参考2:【嵐の楽曲はどう“面白い”のか? 柴 那典×矢野利裕がその魅力を語り合う】 参考3:【嵐がジャニーズの後輩に与えた影響 各メンバーの姿勢はどう引き継がれていったか(前篇)】 参考4:【嵐がジャニーズの後輩に与えた影響 各メンバーの姿勢はどう引き継がれていったか(後篇)】 参考5:嵐が描いてきたゼロ年代の情景とは? ドラマ作品における軌跡をたどる(前編) 参考6:嵐が描いてきたゼロ年代の情景とは? ドラマ作品における軌跡をたどる(後編) 参考7:嵐はいかにしてバラエティ番組で活躍の場を拡げたか 萌芽期からサブカル期の足跡を辿る 参考8:嵐はいかにしてバラエティ番組で活躍の場を拡げたか サブカル期から王道への移行期の足跡を辿る

「A・RA・SHI」は黒っぽい“要素”を取り入れたポップス

 この曲の面白さは、構成とアレンジに注目するとよくわかりますので、まずは下のよう整理してみました。Aはラップ部分、Bは「Step by step」から始まる歌セクション、Cがいわゆるサビで「You are my SOUL! SOUL!」で始まるセクションです。( )内は代表的なパート、[ ]内はキー(全て長調)です。

構成

Intro (パーカッション、ベース、ギターリフ、「Take it so so」) A1 (ラップ、ブラスシンセサイザーリフ、ランニングベース)[A] C1 (サビ、ブラスシンセサイザーリフ、ギターリフ)[A] A2 (ギターリフ、ギターカッティング、ボイス)[A → Bb] B1 (ブラスシンセサイザーリフ、コーラス、ギターリフ)[G] C2 (C1と同じ)[A] break 間奏 テンポアップ (ディストーションギター)[A] 間奏2 (Introと同じフレーズ)[G] A'(「Take it so so」ラップ、ワウギター)[G] B2 (ブラスシンセサイザー、ディストーションギター)[G] C3 (ロック的な打ちっぱなしのキメ)[A] C4 (ラップが重なる)[A] C5 (歌が抜けてラップ)[A] C5 (ゴスペル風R&B調、パーカッションとベースのみ)[A]  順に見ていくと、ブレイクのIntroから、A1で唐突にラップが始まります。そしてこちらも唐突にブレイクし、C1(サビ)に入ります。その間わずか28秒です。その後すぐにA2、B1、C2と続きます。ここまでで一応サビが2回訪れたことになりますが、セクション間をきれいにつなぐための、いわゆるブリッジとなるセクションが一切登場しません。A、B、Cがそれぞれ全く雰囲気の異なるセクションであることは、セクションの境目にリズムブレイクが入ることからもわかります。一度仕切り直さないとつながらない、ということです。また、ベースのフレーズに注目してみるとAはうねるランニングベース、Bはリズムフックのある深めのフレーズ、Cはルート(コードの基音)の8分音符弾き、とやっていることがかなり変わります。  そして、C2後のブレイクからテンポアップし、ディストーションギターのソロが続きますが、A'で一旦雰囲気を落としてラップを挟み、改めてB2で盛り上がってその後はCの連続です。Cの連続といっても、上記のように実にいろいろなことをやっています。  このようにして改めて順を追って見ていくと、少なくとも歌謡曲としてはなかなか変わった構成だということがわかります。もちろん単にラップセクションと歌セクションを並べただけ、というわけではなく、細かな工夫はされています。例えばA2のラストからB1の最初のコード進行は「D(レ) C#(ド#)CM7(ド)」と半音ずつ下がって自然につながります。しかし大きな目で見てこの曲の矢継ぎ早な構成からは、歌謡曲に重視される物語性や曲としての雰囲気の一貫性というよりは、「5分の間にやりたいことを全部詰め込んじゃおう」というような、勢いとコンセプトを重視している、と言えるでしょう。  次にアレンジに注目します。横ノリ、ブラックミュージック的である、ということがどういうことかは『WISH』の分析で詳しく書きますが、この曲は実は、一見ブラックミュージック風のようでいて、実は縦ノリのストレートなリズムです。ドラムのパターンにそれがよく表れています。イントロのキック(ドン * * * ドンドン * * *)が唯一横ノリを持っていますが、A1からキックは4つ打ちになり、その後は基本的にストレートなリズムです。ラップはもちろん、太くうねるベースの存在感、きらびやかなシンセブラス、B1のR&Bっぽいコーラス、C5のゴスペル感など、道具立てとしてはいかにもそれっぽいものをいろいろと集めておきながら、リズムフックやタメはあまりなく、基本的に前に前に進んでノリが掴みやすい構造になっています。  そのような構造を考えると、結局本編とは異なるリズムを提示しているイントロも「実際は縦ノリだけど、イメージとしてはこういう感じ」と言っているように聞こえてきますし、A'までのギターリフはいろいろと形を変えながらも、エアロスミスの『Walk This Way』(86年にRun D.M.Cがモチーフに使用して大ヒット)を思わせます。従って、制作陣が何を狙ったかは予想するしかありませんが、「黒っぽい曲にしようとしたけどできていない」というよりは、「本質的には黒いグルーヴ感を持っていない人たちがフォーマットを模倣して遊んでいる」という表現を意図的にしているように感じます。(続きは書籍で)
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リアルサウンド編集部『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』

■書籍情報 『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』 リアルサウンド編集部・篇 価格:¥ 1,500(+税) 予約はこちらから 内容紹介:ごく普通の青年たちがエンタメ界のトップに君臨したのはなぜか? 音楽性、演技・バラエティ、キャラクター、パフォーマンス…… 時代が嵐を求めた理由を、4つの視点から読み解いた最強の嵐本! 嵐の音楽はポップ・ミュージックとしてどんな可能性を持っている? 現代思想で読み解く各メンバーのキャラクターとは? 嵐ドラマは00年代の情景をどう描いてきた? 青井サンマ、柴那典、関修、田幸和歌子、成馬零一、矢野利裕など、気鋭の評論家・ライターが“エンターテイナーとしての嵐”を語り尽くす。総合音楽情報サイト『リアルサウンド』から生まれた、まったく新しい嵐エンタメ読本。

高田漣が教えてくれる、高田渡の音楽的豊かさーー父子の絆を感じさせるアルバム2枚を聴く

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【リアルサウンドより】  2005年4月16日に56歳という若さで高田渡がこの世を去ってから早10年。そのタイミングで、高田渡のベスト盤『イキテル・ソング〜オールタイム・ベスト〜』と、彼の息子である高田漣によるトリビュート・アルバム『コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜』がリリースされた。この2枚は、ともに音楽の道を歩んだ父子のそれぞれの音楽人生を感じさせるかのような関係性のアルバムだ。  高田渡の『イキテル・ソング〜オールタイム・ベスト〜』は、その名の通り初のオールタイム・ベスト盤。選曲、監修は高田漣によるものだ。高田渡といえば世間的には「自衛隊に入ろう」で知られる「フォーク歌手」だろうが、高田漣によってここにまとめられた高田渡というミュージシャンはとてもモダンだ。「フォーク歌手」という先入観を吹き飛ばすには充分だろう。  たとえば「この世に住む家とてなく」や「鉱夫の祈り」のギター・プレイ、「自転車にのって」のバンド演奏はカントリー・テイスト。また、「私は私よ」や「私の青空」は、管楽器も入ったニューオリンズ風味のバンド演奏だ。特に「私の青空」では、間奏での「柳田ヒロさんよろしく」「もっと陽気に」「もっと力強く」といった高田渡の声がユーモラス。「ヴァーボン・ストリート・ブルース」はスウィング・ジャズで、高田渡もひときわ力強く歌っている。「フィッシング・オン・サンデー」ではスティールパンも響く。この楽曲でピアノとアコーディオンを弾いているのはヴァン・ダイク・パークスだ。  「当世平和節」は、添田知道の「東京節」などを下敷きに世相を歌ったものだ。添田唖蝉坊や添田知道のような明治〜大正演歌の要素もしっかりと収録されている。このベスト盤では、高田渡のアメリカ志向が明確になっており、同時に彼が過去の日本へアプローチしていたことも記録されているのだ。  こうした楽曲群は、高田渡の音楽性の豊かさをしっかりと教えてくれる。また、歌手としての高田渡は飄々としたイメージがあるが、彼のヴォーカルの表現の幅広さも実感させてくれる。  「コーヒーブルース」は改めて聴くと非常に洗練された楽曲だ。コード進行といい、歌詞を語りっぽくするタイミングといい、まったく無駄のない弾き語りである。1971年の名盤「ごあいさつ」の収録曲はどれもまぶしい。  最後は代表曲「生活の柄」のライヴ・ヴァージョン。このベスト盤には、やはり代表曲である「自衛隊に入ろう」もしっかりと収録されている。ここでの「自衛隊に入ろう」の冒頭には、「非常に誤解されてる歌でございます」というMCが収録されている。この楽曲の持つアイロニーを明確に伝えているヴァージョンだ。  同時に、やはり代表曲と言えるであろう「鎮静剤」や「値上げ」といった楽曲を収録していない大胆さもこのベスト盤の特徴だ。それは、前述したような高田漣による編集の意図ゆえだろう。このベスト盤を入門編として、ぜひオリジナル・アルバムにも触れてほしい。
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高田漣

 高田漣は、Yellow Magic Orchestraのライヴ・サポートをしたり、メンバーの関連作品にも参加したりと、シーンで大活躍しているマルチ弦楽器奏者だ。その高田漣による高田渡のトリビュート・アルバム『コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜』は、まず声質の違いに驚くことになった。父親に比べるとかなりソフトなヴォーカルなのだ。  そしてサウンド面でも大胆な解釈を展開している。「フィッシング・オン・サンデー」はアコースティック・ギターによる弾き語りで、ブルースのような渋い味わいへと変貌している。ここでの演奏のニュアンスの豊かさ、複雑さには唸った。「コーヒーブルース」もストレートなカヴァーのようだが、原曲以上にブルースだ。「ブラザー軒」も弦の響きの寂寥感が歌を浮き立たせ、原曲とまるで違う味わいになっている。「生活の柄」での繊細な弦楽器のアレンジは、まさにマルチ弦楽器奏者である高田漣らしい。「おなじみの短い手紙」での揺らぐかのようなギターは、マルチ弦楽器奏者としての真骨頂。高田漣のヴォーカルの魅力をも引き出している。  また、『イキテル・ソング〜オールタイム・ベスト〜』には収録されていない高田渡の楽曲のカヴァーも「コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜」には複数あり、そのなかでも最後に収録されている「くつが一足あったなら」は7分にも及ぶ。『イキテル・ソング〜オールタイム・ベスト〜』の選曲がサウンドを重視しているとするなら、『コーヒーブルース〜高田渡を歌う〜』の選曲は「歌」を重視しているように感じられた。高田漣の歌は、そう感じさせるほど深みがあるのだ。  高田渡と高田漣は父子の関係であり、2006年には共演盤『27/03/03』もリリースしているが、音楽的には同じ道を歩んできたわけではない。しかし高田漣がこうして父に捧げるベスト盤とトリビュート・アルバムを制作したことは、ともにミュージシャンである父子の関係において理想的な「親孝行」と感じられた。 ■宗像明将 1972年生まれ。「MUSIC MAGAZINE」「レコード・コレクターズ」などで、はっぴいえんど以降の日本のロックやポップス、ビーチ・ボーイズの流れをくむ欧米のロックやポップス、ワールドミュージックや民俗音楽について執筆する音楽評論家。近年は時流に押され、趣味の範囲にしておきたかったアイドルに関しての原稿執筆も多い。Twitter
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高田渡『イキテル・ソング~オールタイム・ベスト』(キングレコード)

■リリース情報 高田渡『イキテル・ソング~オールタイム・ベスト』 発売日:4月15日 価格:¥2,500+税 【収録曲】 1この世に住む家とてなく 2自衛隊に入ろう 3ごあいさつ 4自転車に乗って 5おなじみの短い手紙 6コーヒーブルース 7系図 8鉱夫の祈り 9私は私よ 10私の青空 11当世平和節 12火吹竹 13フィッシング・オン・サンデー 14ヴァーボン・ストリート・ブルース 15冬の夜の子供の為の子守唄 16ホントはみんな 17夕暮れ 18ブラザー軒 19生活の柄
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高田漣『コーヒーブルース~高田渡を歌う~』(キングレコード)

高田漣『コーヒーブルース~高田渡を歌う~』 発売日:4月15日 価格:¥2,778+税 【収録曲】 1仕事さがし 2自転車にのって 3フィッシング・オン・サンデー 4ヴァーボン・ストリート・ブルース 5コーヒーブルース 6銭がなけりゃ 7ひまわり 8系図 9ブラザー軒 10生活の柄 11雨の日 12私の青空 13ホントはみんな 14おなじみの短い手紙 15くつが一足あったなら トリビュート・プロジェクトオフィシャル

CMJKが明かす、J-POPのサウンド制作最前線「アイドルの仕事こそやりたいことができる」

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CMJKオフィシャルブログ『LOST CONTROL』

【リアルサウンドより】  CMJKは主にJ-POPの世界を舞台に活躍するサウンド・プロデューサー/編曲家/作曲家である。手がけたアーティストは浜崎あゆみ、SMAP、DREAMS COME TRUE、Kis-My-Ft2、N'夙川BOYS、佐野元春、少年隊、PENICILLIN、V6、ユースケ・サンタマリア、猿岩石、キャイ~ン、篠原ともえ、KICK THE CAN CREW、東京パフォーマンスドール、FLIP-FLAP、片瀬那奈、THC!!、アニメサントラ「マクロスプラス」など膨大な数に上る。  最近では女性アイドルの仕事も数多く手がけており、チームしゃちほこ「シャンプーハット」(作詞曲:川谷絵音)、アンジェルム「乙女の逆襲」(作詞:児玉雨子、作曲:川辺ヒロシ・上田禎)、Juice=Juice『Ça va ? Ça va ?(サヴァサヴァ)』(作詞:三浦徳子、作曲:川辺ヒロシ・上田禎)などが話題になった。5月13日にはアレンジを手がけたチームしゃちほこの「天才バカボン」のカバーもリリースされる。  そもそも電気グルーヴのメンバーとしてデビュー、ファースト・アルバム『FLASH PAPA』に参加し、電気脱退後はCUTEMEN、CONFUSION、ALEX incといったバンド/ユニットでテクノとニュー・ウエイヴの接点にあるような独自の音楽性で活動、一方でCT-SCAN名義のシングル『COLD SLEEP』ではデトロイト・テクノに通じる静謐で美しい世界を展開し世界的にも高い評価を受けるなど、その活動は非常に幅広い。  彼はまたブログやフェイスブック、ツイッター、「ザ・インタビューズ」といったSNSメディアを通じての情報発信にも熱心で、膨大な量のテキストを残している。今回のインタビューでは、そこで彼自身の口から語られるさまざまな情報をもとに、彼の仕事原理や哲学、現在のJ-POPシーンに思うことなどを縦横に語ってもらった。また先日リアルサウンドで公開されたクラムボン・ミトのインタビューの内容を踏まえての質問もしており、できれば合わせて読むことをおすすめしたい。(小野島大) 参考:クラムボン・ミトが語る、バンド活動への危機意識「楽曲の強度を上げないと戦えない」

「去年からずっとアイドル以外ほとんどやってない」

ーー最近はアイドル関係のお仕事も増えてますね。 CMJK:そうですねえ。去年からずっとアイドル以外ほとんどやってないぐらいの感じですね。 ーーザ・インタビューズを読ませていただくと、最初のころ(2012年ぐらい)は、アイドルの仕事はやりたくない、と書かれてましたよね。自分のやりたいことをちゃんと自分で表現できるアーティストならやりたいけど、アイドルは商品あるいは産業であって、そういうのは興味がない、と。 CMJK:はい、そうですね。それを答えた時点ではそうだったんですけど、今は状況が逆転してるような気がしてまして。アイドルこそやりたいことができる。 ーーおお。ツイッターでも書かれてましたね。かなり自由にやらせてもらっている、と。 CMJK:そうなんですよ。ちょっとネガティヴな言い方になるかもしれないですけど、市場が飽和状態だと思うんで、みんな新しいものを求めてますから。僕にオーダーを振ってくるってことは、みんな横並びの中から、ちょっと刺激的で面白い、というものを求めてると思うんで、クライアントさんも。 ーー今回アイドルを手がけるようになったのはどういう経緯だったんですか。 CMJK:近所の飲み屋で後輩のエンジニアと飲んでいたら、たまたまチームしゃちほこのディレクターも飲んでいて、紹介されたんです。ちょうどその時チームしゃちほこは何か新しいことをやりたい、アレンジャーをどうしようか悩んでたというんですね。で、ここで会ったら百年目、ぜひお願いしますと。そうしたら翌日にどーんと(デモ音源の)MP3が来て。 ーー当然、JKさんがどういう音楽家かというのは承知の上で。 CMJK:そうです。MC-ATさんとかリップ・スライムの制作をやられていた方なんで、年齢も同世代で洋楽も詳しいですし。 ーーチームしゃちほこは、JKさんがもっているような要素を導入したいと考えていた。 CMJK:そうじゃないですかね。チームしゃちほこはメーカーがワーナーのunBORDE (きゃりーぱみゅぱみゅ、ゲスの極み乙女、神聖かまってちゃんなど)なんですよ。レーベルのカラーがある。そこで初めてやるアイドルがチームしゃちほこ。事務所がスターダストでももクロと同じセクションの後輩なんで、ちょっとやそっとの普通のことじゃ、頭一個抜けない。変わったことするのが<らしさ>みたいな、そういう風潮もあると思うので。 ーーやるにあたって特に注文のようなものは。 CMJK:具体的な、こういう音を足してみて引いてみて、というのはありましたけど、大元はそんなにはないですね。 ーーデモ音源を受け取った時はどんな感想を持たれました? CMJK:しゃちほこに限らずなんでもそうなんですけど、まずメロディを拾うんです。それが一番嫌いな作業で(笑)。作曲家の人の”念”というか、そういうものをまず吸い取ってあげなきゃいけない。作曲家の人が物凄く苦労してデモテープ作っても、使うのはメロディラインだけですから。作曲家に恨まれるんじゃねえかみたいなこととも考えつつ、ゴメン!と思いながらコードを変えたり。 ーー作曲家がどこにこだわりをもっていようが、自分の耳で判断する。 CMJK:作曲家の人はここにこだわったんだろうな、ディレクターの人はここに引っかかったんだろうなっていうのはある程度わかるんですよ、長いことやってると。でも自分がそこにピンとこないことがあるんで。オレはこの曲のここは嫌いじゃないな、というところを必死に見つけますね。 ーー「好きなところ」じゃなく「嫌いじゃないところ」ですか(笑)。 CMJK:そうしないとモチベーション・スイッチがオンにならないですから(笑)。でも最近は面白い曲ばかりいただいてるんで、いつも楽しくやってますけど…(小声で)って言っとかないと(笑)。去年とかは、僕に来る曲がアーティストものばかりだったんで面白かったですよ。しゃちほこだったらゲス極の川谷君とか、SMAPだったらMIYAVI君とか、TK氏(凛として時雨)とか。

チームしゃちほこ – シャンプーハット / Team Syachihoko – Shampoo Hat [OFFICIAL VIDEO]

ーー川辺ヒロシさんも。 CMJK:そうですね。おーなるほど面白いっていうデモテープが来ますから。 ーーアーティストが作った曲って職業作曲家が作った曲と何が違うんですか。 CMJK:(笑)そもそも、いい意味で荒いですよ。それが素晴らしいです。 ーー荒いって、デモテープがってことですか。 CMJK:そうです。 ーー川谷さんのデモは弾き語りだったそうですね。 CMJK:はい。顔色を窺ってないっていうか。それが素晴らしいですよ。だからこっちも最初からやる気のスイッチがオンになる。 ーーアーティスト性の強いものって、合う合わないがありそうですけど。 CMJK:そこをなんとか合わせるために我々がいるんじゃないですかね。ゴボウでフレンチ作ってくれ、みたいな(笑)。 ーー川谷さんの場合は弾き語りだから、特に何のヒントもないまま一から作業を進めていくわけですか。
 CMJK:そうですね。ある程度進めていって、上モノで悩んだ時に、この曲をヒントにしたらどうかって途中会議みたいなものには出ましたけど。 
ーーそれはどんな参考曲だったんですか。 
CMJK:秘密です(笑)。参考曲ってJ-POPが挙げられることが多いんですけど、洋楽の曲だったんで、やる気もどんどんあがっていきますし。 ーーJ-POPが参考曲だとやる気が出ませんか(笑)。 CMJK:(笑)なるほどと思うんですけど、すこーしやる気がなくなる(笑)。参考曲を上回ってやるぞって気持ちも少しは湧くんですけど。 ーーなるほど(笑)。CMJKさんは日本の音楽はあまり聞いてないと「ザ・インタビューズ」でも再三書かれてますね。 CMJK:はい。滅多に聞かないですね。でも最近怖い目に遭ったので、ある程度勉強しなきゃいけないなとは思います(以降、芸能界の派閥のオフレコ話)。 ーーそれは怖い(笑)。ほんとにあるんだそんな話。 CMJK:あるんですよ(笑)。知らないよりは知ってたほうがいいかと思って。後輩に言われて、Mステぐらいは見ることにしてます。それぐらいでいいかなって。 ーーつまり音楽的ではなく政治的な理由で聞く。 CMJK:あとは、今こういうのが流行ってるんだっていうのを、ある程度は把握しようと。 ーー現実問題としてJ-POPの世界で仕事をしていると、同業のクリエイターが何をやってるのか、何が流行っているのか知っておかないとまずくないですか。 CMJK:知っておかないと、と思ってチェックしますけど、まったく気にはならないですね(笑)。 ーー小室哲哉とかつんくとか中田ヤスタカとか、その時代ごとに売れっ子の人たちはいますが…。 CMJK:気になったことがない(笑)。日本人の先輩も後輩も、同年代の誰でも。 ーーでも今のシーンで何がトレンドなのかということは…。 CMJK:ある程度は肌で感じてますけどね。 ーーたとえばアニメとかボーカロイドものとか。 CMJK:はいはい、そうですね。 ーーそういうものも気にならないし、積極的な関心もないということですか。 CMJK:やれと言われればやりますけど(笑)。

「ローカライズの大事さがちょっとわかってきました」

ーーマクロスプラスの主題歌(「INFORMATION HIGH」1995年)をやった時も、マクロスのほかの曲を全然聞かなかったんですよね。 CMJK:(笑)そうなんですよ。仕事がくれば喜んでやりますけど、勉強しようって気はないですね。 ーーザ・インビューズで「自分は、クライアントのアーティストの過去作品を聴いてそのアーティストの志向性や方向性、特徴を分析・勉強して、これまでの作風を壊さないようアレンジするようなタイプの編曲家ではない」と書かれてますね。 CMJK:そういう方もいますけど、僕はやらないです。それをやっちゃうと僕に来た意味がないと思うんで。 ーーそれまでの流れや常識やセオリーとは違うものをやる。 CMJK:それが求められてるんだろうなと思ってます。 ーーなるほど、わかる気がします。最近アイドル仕事をやられていて、仕事として普通のJ-POPとは何が違いますか。 CMJK:これがですね、アイドルだからって舐めたもんじゃなくて、今までの仕事よりもっと大変です。1曲の中に、今までの3曲分ぐらいの労力が必要です。 ーーフックがたくさん必要だということですか。 CMJK:も、そうです。今までの3曲を合体させたぐらい。データの量もトラックの数もかかる時間も今までの3倍ぐらいですね。それが普通だと思います。 ーーアイディアが一杯詰まっていて、楽曲の密度が高くて…。 CMJK:そうです。情報量の多さですね。みんなそれに慣れてますから。でもそれはいいことだと思うんです。 ーーアイドルとかアニソンとかボーカロイドが、その情報量の多さと密度の高さで日本のシーンを変えたっていう意見もありますね。私の身の回りでも、耳が変わった、意識が変わったという人も多いんですよ。その感覚は理解できますか。 CMJK:そうですね。僕らは世代的に非常に洋楽コンプレックスが強いと思うんです。僕もわりと洋楽純粋培養で来たと思うんですけど…。 ーーわりと? CMJK:(笑)かなり。なので海外で勝負しようかと思った時期もありましたけど、やっぱり日本にいて良かったなあと思うんです。向こうの目をこっちに向けさせることがようやくできるようになった。よく飲むと話すんですけど、インドに修行に行ってカレーの作り方を会得してきた、イタリアに修行に行って窯焼きピッツアの作り方会得してきた、それで中目黒の一歩入った裏通りに店を出せばモテるだろうしそこそこ流行るだろうけど、お茶の間までは浸透しない。なのでその技術を生かして、インドカレーまんとかナポリピッツァまんを作ってコンビニに下ろさなきゃいけないんだろうなって気がしてまして。 ーーでも「ザ・インタビューズ」にある通りCMJKさんの仕事は「こだわりのラーメン屋」なんですよね。 CMJK:そう。でもそんなに手を広げるわけじゃない。ローカライズって意味では、ラーメンだって中国発祥のものが日本食としてローカライズされてるわけですから。ようやくここ数年で、ローカライズみたいなものの大事さがちょっとわかってきました。それまでは、あまり日本に寄せてもなーと思ってましたから。 ーー洋楽文化をどうローカライズして根付かせるかっていう意味では、それこそ明治になって西洋音楽が入ってきてからずっと課題としてあったと思うんです。音楽に限ったことではないですが。そこあたりの重要性が、JKさんの中で改めて認識されてきた。 CMJK:そうですね。トシをとったのかわからないですけど。若い頃は外人になりたかったんですけど、今はこのまま日本産の音楽も面白いなと思ってもらえることの方が、チャンスとしてはあるんじゃないかなと。 ーーどうしてそういう意識になったんですか。 CMJK:ブログにも書きましたが、震災はひとつのきっかけでした。あとやっぱりね、日本のクリエイターが<本場に挑戦>とか言っても、一部熱狂的に受け入れられる事はあってもビルボードのトップに食い込むほどまでにはなかなか行けないじゃないですか。なんでもかんでも。我々みたいなトラックメーカーでも、求められるのは日本的なことなんですよ。 ーー洋楽の仕事もおやりになりますよね。 CMJK:はい、年に1回ぐらい。最近ではリンゴ・デススターのリミックスとかさせてもらいました。そこでもやっぱり日本的なものを求められると思ったので、オリジナルはロックなんだけど、緻密なエレクトロニカにしてあげなきゃな、と思って。 ーーテイ・トーワさんや屋敷豪太さんみたいに向こうのバンドに加わって成功した方もいますね。 CMJK:はい、僕もマッシヴ・アタックに入ろうと思いました、本気で(笑)。 ーーらしいですね。マッシュルームが辞めたタイミングですか?(1998年) CMJK:はい。打ち込みできるし、ブラック・ミュージックもニュー・ウエイヴも好きだし、ギターも弾けるし、オレしかいないだろうって、その時は本気で思ってました。へへへへ(笑)。 ーーダメ元でアプローチしてみればよかったのに。 CMJK:いえいえ。みなさんそう言いますけど。やっぱりね、日本でこんなことやった、って実績がまだないなって思ったんですよ。 ーーローカライズの作業として、邦楽とかJ-POP的なメロディやコード進行と、最新のトラックを融合するような音楽をやっていきたいとJKさんは書かれてましたね。それを今実践しつつあることということですか? CMJK:そうだと思います。ようやくできてきてるんじゃないかなと。

「まず自分で笑えるものを思いついてから機材に向かう」

ーーたとえば? CMJK:いつも言うことなんですが、最新作が一番自信があるんです。だから、それこそ、もうすぐ出る(取材は4月7日)Juice=Juiceの『Ça va ? Ça va ?(サヴァサヴァ)』ってことになりますね。あとは来月に出るチームしゃちほこの『天才バカボン』。日本人なら誰でも知ってるあの曲のカバーなんです。カバーとかリミックスって編曲家の腕とセンスが試されるものなんで、気合いが入りましたね。赤塚先生自体ぶっとんでますから、さらっと今風にした程度じゃダメで。どうしたら笑ってもらえるようなインパクトのあるものになるか。やる気が出ましたねえ。

Juice=Juice『Ça va ? Ça va ?(サヴァサヴァ)』(Promotion edit)

ーーどういう発想からの作業になったんですか。 CMJK:僕は新しいものも聞きますけど、同じぐらい、古いものも聞くんですよ。たとえば80年代にリアルタイムで聞いてなかった、売れてたから毛嫌いしてたようなものとか。60年代の、ビートルズやストーンズになれなかったC級ガレージサイケとか。そういうのをよく聴くんですけど、「バカボン」のオリジナルはガレージサイケだなと。年代的にもね。ファズギターが入ってて、ベースがすごく動いて。それをそのままやってもダメだから、ひら歌はガレージサイケのままで、サビになったらガバとかアタリ・ティーネイジ・ライオットになればいいかなと(笑)。プラス、エイフェックス(・ツイン)で。 ーーなんですかそれ(笑)。 CMJK:いや、本気で(笑)。最初からディレクターにそうしますって言ったんで(笑)。笑ってましたけどね。いいんだこの人たちって。どうせカップリング曲だし、めちゃくちゃやってやれと(笑)。それをまさかA面にするとは、このチームイカれてるなと(笑)。 ーー確かに好きにやってるようですね(笑)。 CMJK:Juice=Juice『Ça va ? Ça va ?(サヴァサヴァ)』は、フレンチ・ポップというコンセプトだったんですけど、クライアントから、バンドネオンかアコーディオンを入れてくれというオーダーがあったんです。でもフレンチ・ポップでバンドネオンやアコーディオンが全面的にフィーチャーされてる曲って意外にないんですよ。なので言われてはいなかったけど、バート・バカラック的なアプローチも入れてみようかな、とか。そういうのは自分で判断して。 ーーどういう新しいアイディアを入れ、面白い発想をするか、それをどうやって繋げていくか。それは自分の中にどれだけいろんな引き出しがあるか、ですね。 CMJK:そうですね。僕、機材をいじりながら作っていくタイプじゃないんで。ギリギリまでサボるので(笑)。頭の中で全部できあがってから機材に向かうので。どうしても〆切り前にやる気が出ない場合は、まずリズムから組むか、みたいなことはありますけど。 ーーどんな曲でも、まず完成形が頭に浮かんで、そこに近づけていく作業。 CMJK:そうです。脳内の設計図に近づけていく。まず自分で「なんだそりゃワハハハ!」と笑えるものを思いついてから機材に向かうんです。 ーーそういう作業で、たとえば初音ミクを使うことはあるんですか。 CMJK:ソフトをいただいたんですけど、作業してるとちょっとストレスがたまるんですね。プロ・ユースとしては、もう少しサクサク動いてくれないかと。広く一般の人がいじれるようなソフトなんで、時間がかかるんですよ。走らせている間にほかのことをエディットしたりできないんですよね。やってて嫌いじゃないですけど。 ーーなるほど。あくまでもアマチュア向けで、プロユースには使えないと。 CMJK:そうそう。Singer Song Writer(初心者向けDAWソフト)よりは面白いかな、みたいな。 ーーあれによっていろんな人たちが音楽のクリエイティヴに参加して、それが大きな動きになって日本の音楽シーンを変えている、という意見もあります。そうして作られた作品などはお聞きになりますか。 CMJK:動画サイトでチェックはしたことあります。ああ、すごく情報量が多いなと。あと、あまり洋楽の動きとか関係ないんだろうなと。こういうものの中で純粋培養されて出てきた新しい人たちなんだなと。 ーー初音ミクに限らず、最近の若い人の作る音楽はそういう傾向がありますね。洋楽の影響があまりない。 CMJK:だから打ち込みやってても、この人たちはケンイシイも石野卓球も知らないんだろうなっていう。 ーーその時点で興味が薄れてしまう。 CMJK:いや、なかにはよくできてるのもあるんですよ。勘がいいんでしょうね。音楽的な運動能力が高いんだろうなと。 ーーその情報量の多さゆえに、クラムボンのミトさんなどは衝撃を受けて、音楽シーンが大きく変わったと言っているわけですが、そういう変化を感じることはありますか。 CMJK:…変化は感じますけど…外国の人が歌舞伎町にきて、ネオンがごちゃごちゃしてる光景にびっくりしたとか、そういう一種の猥雑さにポップを感じるのは理解できますけど、でもだからって”スゲえかなわねえ参りました!”とは全然思わないですけどね(笑)。ボーカロイドとかニコニコ系に対して。 ーーそこで学ぶべきことは何もない? CMJK:うーん、難しいなあ…うーん…やっぱり子供の頃からアニソンとか聴いて育った人たちが、ある程度大人になってやってる音楽だと思うんです。そこですごく完結した世界じゃないですか。僕がやりたいのは、「なんじゃそりゃ!」みたいなものを「こういうのがあるよ」ともってくるのが役割だと思うので。 ーー完結した世界からはみ出す、あるいはぶち壊すような。 CMJK:面白いのもあるなとは思いますけど、刺激にはならないし、意識もしないです、正直言って(笑)。 ーーなるほど。よくわかりました(笑)。それはオタクっぽいのがあまり好きじゃないってことですか? CMJK:(笑)そうですねえ…。 ーーアニメとかボカロものから一歩引いてるのはそれが理由なのかなと。 CMJK:うん、それはありますね正直。正直若いころはリア充じゃなくて不良少年に近かったですから。パンクでしたし。 ーーヤンキー? CMJK:ヤンキーっていうよりは…パンク?(笑)。言い訳がましいな(笑)。 ーーアナーキーがヤンキーかパンクかっていう問題みたいな(笑)。 CMJK:そうそう。世代的にわかっていただけますよね?(笑) バンドで東京に出てきたんですけど、すぐにクラブにハマっちゃって。あんまりオタク・カルチャー的なものは縁がなかったんですよ。そういう知り合いは一杯いましたけど。クラブとライヴハウスだけで育ってきたんで。

「今ほんと、自己表現なんてしたくないんですよ」

ーー初期のテクノでも、たとえばケンイシイがアニメ・カルチャーと結びついて、特に海外にアピールしていてましたね。(CMJKもCT-SCANとしてシングルを出した)テクノ・レーベルの「FROGMAN」を、渡辺健吾とやっていた佐藤大は、その後アニメやゲームの脚本家になるし。 CMJK:あの頃はオタク~サブ・カルチャーとテクノってすごく親和性が高くて、あんまりオタクが気にならなかった時代だったんですね(笑)。そういうフィールドの友達がいっぱいいて、いやじゃなかったんですよ、90年代頭ぐらいは。今はそういう雰囲気に近くなってるのかな、とは思わなくもないですね。 ーーアニメに関しては以前と比べてはるかに市民権を得てますよね。 CMJK:そうですね。僕もモノによってはいやじゃないものもあるんだろうなと思います。勉強不足なだけで。 ーーなぜ好きじゃないんです? CMJK:うーん…だいたい日本に来る外国の方って、シュッとした小ぎれいな方でも、日本のアニメとかマンガで育った人がたくさんいて。凄いな、と、外人のフィルターを通してようやく気づいてるというか。子供の頃は人並みにアニメとか見てましたけど、中2ぐらいから一切やめて。邦楽も聞かなくなりましたね。 ーーアニメの世界観やオタク的なイメージがイヤだったとか? CMJK:……ものすごく冷静に自己分析すると…バブル世代ーーと言われるはイヤですけどーーなんで、とにかく新しいものが好きなんですよ。だから1カ所にずっといて執着するのがイヤで。オタクの人たちって、情報に左右されず何かを徹底的に掘り下げる人たちじゃないですか。僕は最新情報をチェックして、広く浅く、ハイ次のもの、ハイ次のものってタイプなんで。そこが合わないだけだと思います。今これがキテる!とか。人が言ってるのを聞くとムカッとしますけど、自分もそういうタイプなんで。もちろん、結局ジョイ・ディヴィジョンが好きだとか、そういうのは根っことしてあるんですけけどね。 ーーその「最新情報」は、JKさんの場合やはり洋楽ってことになるわけですね。 CMJK:はい。J-POPでもアイドルでも、ディレクターが売れてるJ-POPの参考曲を3~4曲あげてくるんですよ。なるほどなあと思い、半分嫌々ながらやるんですよ。でもそれだと悔しいから、僕なりの洋楽的アプローチを加えるじゃないですか。そうすると必ずいやがられるんですよ。売れてるものを真似して手堅く稼ごうという人の方が多いんで。でも実はそういうものって大して売れないんです。そういう手堅いだけのアプローチを続けていくと目減りしていくし、確変も起きないじゃないですか。 ーー縮小再生産していくだけ。 CMJK:そうそう。手堅く同じようなことをずっとやってる人たち、そういうグレート・マンネリズムみたいなものも素晴らしいと思うんですよ。「笑点」とか「水戸黄門」みたいなの(笑)。日本人はそういうの大好きですし。でも僕が「笑点」のメンバーになるのはおかしいかなと(笑)。ありえないですよね。 ーー常にプラスアルファがあって、予想もできないような変化があって、新しい刺激があって、まったく違う方向に進化していくような音楽を目指している。 CMJK:いろんな人がいる中で、そういう役割の人がいてもいいと思ってます。 ーーそしてそれが独りよがりのマニアックなものになっては、JKさんの活躍するJ-POPの世界では意味がないわけですが、浜崎あゆみのライヴに行ったら、自分がフェイクで入れたアレンジの部分で気の利いた演出が施されていて感動した、とブログに書かれてましたね。 CMJK:はいはい、ありましたね ーー最先端のつもりでやったことが、ちゃんと彼女のフィルターを通して普通のポップスとして翻訳され、それが受け入れられている。 CMJK:それは嬉しいですよね。僕はいつも言ってるんですけど、僕は世の中をアッと言わせることはできないけど、エッと言わせることはできると思うんで(笑)。その「エッ!」というものがいつのまにか一般に受けいられているなら嬉しいですよね。また次の「エッ!」とやらなきゃと思うし。 ーー浜崎さん以外でそういう例はありますか。 CMJK:たとえば去年出たSMAPの「トップ・オブ・ザ・ワールド」て曲はMIYAVI君が曲で、僕がアレンジなんですけど、あるお店にいたら、その曲が流れていて、仕事終わりのキャバ嬢が踊りながら店内に入ってきたんですよ。あ、こんな難しい7拍子の曲でキャバ嬢踊るか!やった!って(笑)。 ーーそのあたりはアーティスト時代のJKさんとは変わってきたんですかね。つまり、アーティスト時代は自分のやりたいことをやって、それが実際にどういう風に受けいられるかに関しては無頓着な面もあったわけですよね CMJK:あっ、それはもちろん。アーティストって自己表現しなくちゃいけないじゃないですか。今ほんと、自己表現なんてしたくないんですよ。 ーーあ、そうなんですか。 CMJK:ええ。自己表現って、音楽を通じて自分のことをわかってくれって作業じゃないですか。ふざけるな!という気がしてまして。 ーーほお。 CMJK:今は逆なんですよ。自分を使って音楽を表現したい。そうシフトしたら、こんなに気持ちがラクになるんだ、っていう。音楽に恩返しもしなきゃいけないですし。自分が若いころに味わったドキドキを今の若い子にも味わってもらいたい、と思ったら、この先何年も続けていけるなって気持ちになりましたね。歌詞もたまに書きますけど、人が歌うのはいいけど自分で歌うなんて、もう死んだ方がマシってぐらい(笑)。 ーーへえ、そうですか。じゃあアーティスト活動への執着みたいなものは…。 CMJK:ないですね。ま、今もバンドやってますし、たまに欲求不満のはけ口としてはありますけど。売れるわけないと思ってるし、それでいいと思ってます。 ーー自己表現はしたくないけど、自己表現をしている人のサポートはしたい。 CMJK:うーん、そうでもないんですよね。なんか…子供の頃から音楽の聴き方として、最終的に一番かっこいいのはプロデューサーだと思ってたんですよ。 ーー若いころから人生設計を考えてたんですよね、30代で表から退いてサウンド・プロデューサーに専念する、って。 CMJK:そうそう。子供の頃から憧れの人はプロデューサーばっかりでしたから。 ーー理想のプロデューサー像とは? CMJK:うーん…やっぱり楽曲ありきなんで。楽曲が求心力になって、いっぱいいいブレーンが集まってきて、というのが理想的なんですよ。凄い曲がどーんとあれば、自ずとうまくいくんじゃないかな、ぐらいしか思ってないですけどね。 ーー「凄い曲」ってどういう曲ですか。 CMJK:難しい質問だな…わかりません(笑)。 ーーじゃ訊き方を変えると、凄いと思った曲の共通点は? CMJK:あ、いい質問ですね(笑)。それはですね、最初に笑うんです。絶対。なるほどね、じゃないんです。絶対笑うはずなんです。 ーーなんじゃこりゃ!という。なにか新しい、突拍子もないものがある。 CMJK:そうそう。たとえバラードであろうが、ビートがない曲であろうが。絶対笑うんです、「凄い曲」は。 ーー一番最近笑ったのは? CMJK:一杯笑ってますよ。ミトさんも言ってたけど、Arcaは僕もハマってるし。FKAツイッグスもビョークもArca本人のも。

Arca - Xen (Official Video)

ーーFKAツイッグスの新曲のPVが凄かったですね。 CMJK:あれ笑いましたね! ーーあれヒドいですよね(笑)。 CMJK:やってくれましたねえ(笑)。いきなり妊娠してますからねえ(笑)。そういうことですよ、うん。

「みんな「歌詞が好き」とか言いますけど、まずはイントロなんですよ」

ーー既存の価値観や常識をぶっ壊してこそ「凄い曲」である。 CMJK:やっぱり(自分は)根がパンクですからね。やっぱりポスト・何とかが好きなんですよ。PILの1曲目の「パブリック・イメージ」のPVで、ジョニー・ロットン改めジョン・ライドンが、ジャケットを着て踊り出すんですよ。あのジョニー・ロットンがジャケット着て踊るってことが、そもそももうポスト・パンクじゃないですか。そこで笑うわけですよ、我々は。そういう感動をお届けしたい(笑)。えへへへ、ちょっとわかりづらいかな? ーーその場合の「楽曲」は、メロディや詞だけではなく、アレンジも含むわけですよね。 CMJK:もちろん。どういうビートか、とか。ファッションも映像も全部入ってますよね。 ーーたとえば川谷さんが弾き語りのデモテープを作って、それにJKさんがいいアレンジを施すことで「凄い曲」になる。 CMJK:もちろんメロディや詞がいいから、いい曲になるんですよ。でもあのデモテープだと音質も良くないし、モノラル録音だったから、あのまま出しても昔のフォークソングみたいになっちゃうかも。 ーー楽曲の向かってる方向とか表現してるものをサポートして、自分なりのものを加えていく、という作業。 CMJK:うーん…今サポートとおっしゃいましたけど、メロディ以外全部やるわけじゃないですか、我々サウンド・プロデューサーーー日本ではアレンジャーと言いますが、要はレコーディングの現場を仕切る者ですねーーっていうのは。だから…メロディをよく聞かせるために、という役割もありますけど、でもね、イントロとか死ぬほど大事なんですよ。たとえばU2の「サンデイ・ブラディ・サンデイ」ってどういう曲、って聞かれたら、ダカダカッ、っていうスティーヴ・リリーホワイトが仕切るところのドラムの音が出てくるじゃないですか。ローリング・ストーンズの「スタート・ミー・アップ」だったら、ジャーララ、ていうギターのリフが出てくるでしょ。そういうことなんですよ。それを作るのが我々の仕事なんです。

U2 - Sunday Bloody Sunday

ーー単なるサポートではない。 CMJK:昔の歌謡曲も素晴らしいですよ。都倉俊一先生とか馬飼野康二先生とか。特に馬飼野先生は、最初はアレンジャーだったんですよ。のちに(西条)秀樹の「傷だらけのローラ」とか作曲もやるようになりますけど。とにかくイントロがぶっ飛んでますもん。たとえば沢田研二の「六番目のユ・ウ・ウ・ツ」は、白井良明さんがアレンジなんですけど、あのイントロだけが凄い好きで、繰り返し繰り返しイントロだけを聴いてたんです、子供の頃。あれぶっ飛んでるじゃないですか。最初に買ったレコードは「およげ!たいやきくん」なんですけど、イントロのストリングスが好きで、♪まーい(にち)♪ぐらいで戻してずっとイントロを聞いてましたね。サビとか歌詞とか…みんな「歌詞が好き」とか言いますけど、まずはイントロなんですよ、とっかかり、第一印象は。その第一印象を決めるのは僕らの仕事なんで。メイクさんとかスタイリストさんと近いものがあると思うんです。トレンドも知ってなきゃいけないし、その人の魅力を引き出さなきゃいけないし。だからサポートっていうのとちょっと違うんです。こっちからもどんどん提案していくし。その人(アーティスト)が、ここぐらいまでできるかなー、というのを、もう少し上までもっていってあげなきゃいけない。 ーーそういうアレンジャー/サウンド・プロデューサーの役割は、昔の歌謡曲の時代に比べ、今のJ-POPの時代になって、より重要になってきたと言えるんでしょうか。 CMJK:昭和歌謡の頃は凄く重要だったと思うんですよ。その後バンド・ブームとかあって、またプロフェッショナルの手に戻ってきてる、ということだと思います。今ユーザーはリアルを求めてないんで、エンタテインメントにおいて。ファンタジーが欲しいんです。そこそこキレイな姉ちゃんが日記みたいな歌詞をダラダラ歌っても、そういうのはもういいんです。いらないんです。それだったらボカロとか「レリゴー」の方がいいんです。我々もいろんな「業」を作品に出しますけど、それを<可愛い子ちゃんの歌>っていうフィルターを通すことによって、ファンタジーにしてくれてるじゃないですか。 ーーああ、CMJKのもつ闇や孤独や空虚をチームしゃちほこがファンタジーにしてくれる、と(笑)。 CMJK:(笑)そうそうそうそう。その方が、よりやりたいことができるってことに、ようやく気がついてきたんです。フィルターがあった方いいと。 ーー自分自身はフィルターになりえない。 CMJK:自分自身の闇をそのままばらまいたらテロですから!(笑)。 ーーでも闇を闇のままぶちまけてる人も一杯いますよね。 CMJK:それで売れればいいですけどねえ。絶対長続きしないんですよ、一瞬売れても(笑)。闇をぶちまけ続けて何十年、なんて人、そんなにいないじゃないですか。 ーー精神がもたないですよね。 CMJK:そうなんです。イアン・カーティスみたいにね。「ビジネス闇」の人はすぐバレますし(笑)。やっぱり今、みんな疲れてると思うんです。作品の意図してるところの裏を読もうとか、そういうの絶対やらないですよ、みんな。パッとわかりやすい方に飛びつく。 ーーそういう風潮はご自分としてはどうなんですか。あまり歓迎できないのか、それとも当然のこととして受け止めているんですか。 CMJK:うーん…単純に、エロスとタナトスが繰り返し来るものだと思ってます。いずれ揺り戻しが来るのかもしれないし。本格アーティストの時代みたいなものが。でも3~5年は今のままなんじゃないですかね。 ーーたとえばこないだのミトさんのインタビューで、バンドものはもう現代のポップ・ミュージックとして、決定的にスピード感が足りないと言ってましたよね。たぶん意思決定の速度や制作・宣伝などの対応の速度、コミュニケーションの問題としてそういう現状認識があると思うんです。だからそういう意味でひとりで何もかもできるボカロの方がはるかにスピード感があると。そういう傾向もまた揺り戻しが来る、とお考えですか。 CMJK:いやあ…どうなんだろう。今のバンドものを見てると、悪くないなあと思うんですけど、なにもかも。でも…今ヴォーカルとかソングライターが凄いってバンドはいくつかあると思うんですけど、僕が気になるのはベースとドラムなんですね。ものすごく一生懸命練習したんだろうなあ、っていう感じのプレイを丁寧にやってるんですよ。そこそこみんな上手いんだけど、でも完全に置きにいってる。まったく面白くない。 ーークリック聞きながら、外れないように叩いてるだけ。 CMJK:それもそうですし、ゆとり・さとり世代と言われてる人たちは、突出した個性を良しとしない世代だと思うんですよ。こういう服を着てカラオケでこういう歌を歌っていれば、そこそこ周りとうまくやれるよ、みたいなことが大事だった世代。そういうマニュアル化された感性が演奏にも反映されてて、途方もない個性のある若手のミュージシャンってあまりいない気がするんです。ヴォーカルが凄いんだったらベースもドラムもぶっ飛んでてもいいと思うんですけど、そういうバンドっていないんですよ。わりと丁寧に折り目正しくやってる。洋楽だと結構いるんですよ。すげえこのドラム、みたいな。 ーー破天荒さがない、逸脱しない。 CMJK:そうですね、うん。あ、’N夙川BOYZは面白いです。上手い下手はおいといて(笑)。発想がぶっ飛んでて面白ければ、多少荒くて未完成な方が好きですけどね。バンドであれボーカロイドであれ。なんじゃこりゃ、みたいな。今や、みんな一生懸命練習したんだろうな、っていう小ぎれいにまとまってるのばかりだから。

N'夙川BOYS/ジーザスフレンド inclメイキングver.

「ベテランが70%の力しか出さないのも正義」

ーー確かに型通りの音楽性をなぞっているだけで満足してる人たちも多い。 CMJK:だからバンドやってる今の子たちって、将来どう考えてるのか、こっちが聞きたいですね。そんな型にはまったバンドを10年20年やりたいのか、ディレクターになりたいのか、僕らみたいにサウンド・プロデューサーになりたいのか、とか。ミュージシャンとしての人生設計。 ーーそういうの、若い人で考えてる人の方が珍しいんじゃないですか?(笑) CMJK:僕は考えてましたよ!(笑) 30代40代になってまで「僕のことをわかってくれ!」なんてやっても痛いかなと、若いころから思ってましたから。だから、その時ににしかできないことをやろうと思ってました。それは今でも。今だからこそやれることがある。 ーーたとえば? CMJK:日テレ系ドラマ『バーチャルガール』の劇伴の仕事でロンドンにレコーディングに行ったとき、たまたま隣でスティーヴ・アルビニが新人のバンドをやっていたんです。まだ時間が早くバンドは来てなくて、アルビニがひとりでスタジオであれこれセッティングしてるんです。見たら、マイクの立て方とかアンプの位置決めとか、あれこれごちゃごちゃやってて、何をやってるのかよくわからない。いろいろ独自の施しがしてあって。それでバンド・メンバーがきたらウワーッとテンションあげて、2回しか演奏しないんですよ。それで卓も何も調整しない。フェーダーもほとんどフラットのまま。それでもう、CDのようなできあがった完璧な音になってるんですよ。録りが素晴らしくて。アルビニ・マジックですよ。それがもう、僕にとっては物凄くエポックメイキングな出来事で。自分のやらなきゃいけないのはこれだと。バンドのプロデュースをやったら、そういう体験をさせてあげたい。だめ出しして1000本ノック方式じゃなくて。 ーー思いきり演奏してみろ、あとはあこっちに任せろと。 CMJK:お前らがここまでできるなら、オレがここまでにしてやるってプロデュースをやってみたいですね。置きにいくような演奏じゃなくて、荒くてもいいから、思いきりやってもらう。細かい注文をあれこれつけるんじゃなくてね。あとはプロがなんとかするからっていう。歌もそうなんですけどね。 ーーなるほど。それはやりがいがありそう。 CMJK:あと、今の自分のキャリアだからこそできることといえばもうひとつ。だいぶ前に猿岩石の仕事をしたんですね(1997年「コンビニ」)。プロデューサーが高井良斉さんていう、秋元康さんの変名なんですけど、レコーディングの時に、すごくいい言葉をいただいて、今でも残ってるんですけど、「これから君もどんどんキャリアを重ねていくだろうけど、ほんとはドミソのCでバーンと弾きたいのに、ちょっと変わったコード弾いて、どうだオレの音楽性は高いだろう、みたいなことはやるな」と言われたんですよ。キャリアを積めば積むほど簡単なことをしていきなさいと。若者が120%の力で頑張るのも正義だけど、ベテランが70%の力しか出さないのも正義なんだよって言われたんですよ。何を言ってるんだこの人、と思ったんですけど、今はものすごくそれがわかります。ベテランが引き算割り算ようやく覚えて、ほんとはすごいできちゃうんだけど、6~7割の力でやる残りの30~40%の「余白」が、ポップなんですよ。それが最近ようやくわかってきました。 ーー余白が想像力をかきたてる。 CMJK:そうですね。あと、むかしトラックダウンの時、自分の上げてほしい音がさがって、下げてほしい音があがってたりすると、昔だったらキーッ!となってたんですけど、今は、まいっかと(笑)。まいっかと思った作品の方が売れてるんですよね。要は自分の脳内の解像度と同じものをみなさんに求めるのは無理なんです。自分がこだわっているここのトーンがエンジニアには重要に聞こえないなら、まいっかと。言ってみればそのエンジニアは僕の作品の初めてのリスナーですよ。彼にはそう聞こえた。それでいいじゃないか。すごい苦労して作ったとしても捨てていいんですよ。理解してもらいたいと思ってる時点でダメ。一生懸命作ったトラックに(相手が)乗ってこないってことはざらにありますからね(笑)。 ーーでもJKさんは自分の脳内に理想型があって、それに近づけるように音を作っていくわけですよね。エンジニアにそれとは違うものを提示されてもかまわないと? CMJK:しょうがないから次いってみようと思います。100%の満足しちゃったら終わりですからね。 ーーそこで自分の理想型とエンジニアの提案が一致するのが理想? CMJK:いや、そこは難しくて、完全に一致しちゃったら売れないんですよ、僕の場合(笑)。たとえばリミックスだと自分だけで完結しますよね。それをニューヨークのマスタリング・スタジオにもっていって作業したりするんですけど、「かっこいいけど難しいね」って言われます。僕が100%やりきっちゃうと、そうなるんです。寝っ転がって鼻くそほじって足で作ったようなものの方が、売れます(笑)。それはもう、しょうがない。だから…若者の足し算かけ算も正義だけど、ベテランの引き算割り算も正義なんですよ。今のトシだからわかるんですよ。昔はわかんなかったです。でも自分の周りの同世代のミュージシャンが、いい感じで等身大で引き算割り算をやってるのは、見てて気持ちがいいですね。スチャダラパーにしても電気グルーヴにしても。みんなが求めているものをやってあげようか、という余裕もありますよね ーーそうなんだよね~。そこに至るまでの長く曲がりくねった道が…(笑)。 CMJK:そうそう。スチャダラアニなんて、その権化ですからね(笑)。反抗心の固まりみたいなところから出てきた我々の世代が、みんなが求めてるならやるよ~って境地になって。ついにはピエール瀧というモンスターを生み出したわけですよ(笑)。 ーーモンスターですか(笑)。 CMJK:僕、尊敬する人物は関根勤さんなんですけど、関根さんてピークを目指したことがない。でも誰と絡んでも自分を見失うことがない。タモリと絡んでもダウンタウンと絡んでも。ずーっと低空飛行で自分の好きなことを延々とやっている。70%の力でやっている。だから、この時代の椅子に座ってください、というふうにはなりたくないと思ってるんです。ピークに達したらあとは下るだけなんで。それじゃつまらない。 ーー実際にプロの第一線で活躍されていると、CDが売れないとかダウンロードも伸び悩んでいるとか、肌で感じることも多いと思いますが、そういう状況でご自分がやるべきことはなんだと思いますか。 CMJK:…いやー…仕事がなくならないように頑張るしかないんですけど…そのためにどうするか。僕が出した答えは、ますますこれまで以上に顔色を窺わないで仕事をしようと。 ーー自分の個性を大事にする。 CMJK:そうです。こだわりのラーメン屋であり続けようと。こないだミトさんのインタビューで、アルバムを出す意味みたいな話になってたじゃないですか。いまや一曲一曲の機能性が求められる時代になってると思うんで、フラれたから悲しい曲を聴きたいとか、あいつをぶっ飛ばしたいからそういう気持ちを盛り上げてくれる過激な曲を聴きたいとか。探せばその曲だけダウンロードできますからね。アルバム・トータルの作品性みたいなのは、今の時代にはめんどくさいだけじゃないか。 ーーああ、さっきの話のように、裏の意味を探るとか、そういうのは求められてないと。 CMJK:そう。僕、後輩の音楽家によくいうんですけど、お前またこれかと。すごくよくできてるけど、お前は1週間3食、同じ幕の内弁当作ってるようなものだと。 ーー無難なだけの総花的なものではもうだめだと。 CMJK:今回はハンバーグ弁当、次はカレー、みたいなものが作り方をしないと、今はダメだと思います。 ーーそういう意味で好き勝手やらせてもらえるのが、実はアイドルであるということですね。 CMJK:そうです。去年の暮れにチームしゃちほこのプロデューサーと飲んでいた時に、JKさん最近なに聞いてますかって訊かれて、ちょっとマニアックなエレクトロニカ、ちょっとポップなものでもせいぜいフォー・テット、せいぜいブリアルぐらい…。 ーーブリアルがポップですか(笑)。 CMJK:ま、そこそこ有名?(笑) “ふだんはそういうのをばっかり聞いてますよ、本当はこういうのをやりたいけど、やっても絶対ボツですよ~”とぼやいていると、”アイドルならできます”と。”B級C級のガレージサイケみたいなのも好きですけど、一生やる機会ないですよね~”と言うと”アイドルならできます”と。だんだんこっちもその気になってきちゃって(笑)。 ーーそれに最近のお仕事は、JKさんのクラシック・ルーツを感じるような曲が多くなってますね。子供のころお母様にたくさん聞かされたんですよね。 CMJK:そうなんですよ。今やってる曲もそういう要素があって。生きててムダなことって何もないんだなって思いますよ。 ーー以前後輩の作曲家に、JKさんの作る曲はクラシック・ルーツが強すぎてヒット曲のストライクゾーンからは微妙に外れている、と指摘されたんですよね。 CMJK:そうそう!そうなんですよ。 ーー状況が変わってきたってことでしょうか。 CMJK:ちょっとネガティヴな言い方をすると、それだけ飽和状態なのかもしれないですね、アイドルシーンとか。でもグラミーをとったクリーン・バンドィットの「ラザー・ビー」とか、アヴィーチーとかもそうですけど、弦楽器とかアコースティックなどオーガニックな要素と最先端なエレクトロニカの融合はトレンドですから。冷静に見ればそういうことなのかなと思いますけど。

Clean Bandit - Rather Be ft. Jess Glynne [Official Video]

ーーついに自分の時代が来たと(笑)。 CMJK:そんなこと自分では言えないですよ(笑)。でも得意なこと、好きなことができてる状態なので、非常に幸せを感じてます。ぶっ飛んだ打ち込みと、ギーギーガーガーいうシンセサイザーと、アコースティック、オーガニックなものをなんとか合わせようという。だから昔に比べればお金は儲かってないですけど、楽しいですよ(笑)。さっき昭和歌謡の話をしましたけど、今ちょっと状況が似てるなと思って。あの時もバンドものはあったわけですよ。ゴダイゴとかツイストとか。でも結局「ザ・ベストテン」に出たら、もう全部歌謡曲じゃないですか。わりと今そういう感じになってきてるのかなと。やれアイドルだアニソンだバンドだっていうけど、全部まとめて「今の歌謡曲」みたいなフィールドになってきてるんじゃないか。だから新しい歌謡番組も増えてきてるじゃないですか。それだけプロの手によるファンタジーみたいなものをみんなが求めてるんじゃないか。 ーー歌謡曲=エンタテインメントというファンタジー、ですね。 CMJK:お前のリアルなんて知らねえよ!みたいになってきてるんじゃないですかね。もっと練りに練られたUSJのハリーポッターに乗るみたいな感覚を、みんな求めてる気がします。 (取材・文=小野島大)
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■CMJK 1991年、石野卓球、ピエール瀧と共に電気グルーヴとしてデビュー。電気グルーヴ脱退後はCutemen〜Confusion〜Alex incとユニットを経て活躍し、90年代初頭の黎明期の日本のクラブ/テクノ・シーンの礎を築いた。また自身のソロ・ユニットC.T.Scan名義ではデリック・メイ、カール・クレイグ、UR 等と共演。日本初の国産テクノ・レーベルFROGMAN RECORDS第1弾リリースとなった名曲“COLD SLEEP” は、英国を始め欧州各地で話題となり、英欧の主要ラジオ局でのパワープレイと好セールスを記録した。現在は浜崎あゆみ、SMAP他多数のアーティストのサウンドプロデュースを手掛ける傍ら、自身のバンドClockwork yellowの他、DJとしても活動中。多忙な日々を送る。

Mellowhead深沼元昭が語る、音楽家としての信条とサヴァイヴ術「『周りが見えない力』も大事」

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【リアルサウンドより】  深沼元昭のソロユニットMellowheadが、6年ぶりのオリジナルアルバム『Kanata』をリリースする。自身のヴォーカルに加えて、片寄明人(GREAT3)、西寺郷太(NONA REEVES)、堀込泰行(ex.キリンジ)がゲストに参加。彼の持つ卓越したセンスが、独特の乾いた味わいを持つAOR〜ソウル・ミュージックに結実した一枚となっている。  93年にバンドPLAGUESのボーカル&ギターとしてメジャーデビュー、02年の活動休止後にはソロと並行してプロデューサーとしてのキャリアも重ねてきた彼。現在では、Mellowheadに加え、元PEALOUTの近藤智洋らと結成したバンドGHEEE、2010年に再始動したPLAGUESも含め様々なプロジェクトで活動を続けている。そして、プロデューサーとしてchayなど数多くの新鋭を手がける一方、ギタリストとして佐野元春や浅井健一の作品やライブなどにも参加。46歳となった今も八面六臂の活躍を続ける彼に、ミュージシャンとしての信条とサヴァイブの秘訣を訊いた。(柴那典)

「もともと自分一人で音楽を完成させるということに意欲があった」

――Mellowheadとしての新作アルバムは6年ぶりとなりますが、どういうところがスタート地点になって作り始めたんでしょうか。 深沼元昭(以下、深沼):6年ぶりとは言っても、その間には2010年のPLAGUES再始動もあったし、GHEEEも2作品出していて。ずっと僕としては毎年一生懸命何かしらをリリースしてきたんですよ。そうして、気付いたら6年経ってたという。 ――いくつものプロジェクトが同時進行で進んでいるゆえ仕方ない、と。 深沼:自分としてはMellowheadがメインのプロジェクトだと思ってるんです。でも、PLAGUESやGHEEEは他のメンバーがいるし、ライブの話もある。そういうことがきっかけになって曲を書いたり、リリースしたりすることになるわけですね。でも、Mellowheadはパーマネントなメンバーがいないので。なので、結果的にこうなってしまったっていう感じです。 ――Mellowheadはそもそも2002年に始まった深沼さんのソロプロジェクトで、それがスタートしたのはデビュー以来活動してきたPLAGUESというバンドの活動が止まった後だった。その時点では打ち込みとかスタジオワーク中心でやっていくイメージだったんですよね。 深沼:そうですね。最初はライヴをやるつもりもなかったです。僕自身、もともと自分一人で音楽を完成させるということに意欲があったんですよ。音楽を始めたのも、小学生の時に従兄弟に影響を受けたのがきっかけで。彼がカセットMTRを使って自宅で音楽を作ってたんですよ。薄暗い中でレベルメーターが光ってるのを見て、松本零士みたいで格好いいと思った。それが音楽をやりたいと思った原体験だったんです。 ――バンドというよりも宅録が原点にあった。 深沼:もちろんPLAGUESでデビューしたので、自分がバンドの人と思われてもよかったんですけれど。その後99年に深田恭子さんの「イージーライダー」というシングルを作ったのも一つの転機になりました。それが運よく売れたこともあって、その後たくさんのオファーがくるようになった。そこからプロデュース業を始めるようになったんです。その頃はちょうどレコーディング機材がPro Tools中心になっていく時代で。僕も自分の家である程度は同じことができないと時間も無駄だということで、仕事で稼いだお金を自宅スタジオに投資した。それもあって、最初は完全に個人のスタジオワークで完結できるものとしてMellowheadを始めたんです。 ――そこから10年以上経ち、今の深沼さんは、MellowheadとPLAGUESとGHEEEだけでなく、プロデューサーもやり、一方で佐野元春さんのバンドのギタリストも務めている。音楽活動の幅が大きく広がっています。 深沼:今は全部が楽しいし、やり甲斐がありますね。いろんな仕事を与えてくれた人に感謝したいです。デビューして22年経って、ホントにここ数年でミュージシャンになれた気がします。もともとは30歳くらいでミュージシャン辞めるつもりでしたから。 ――そうなんですか? 深沼:PLAGUESでデビューした時は、アルバムを3枚くらい作って解散するのがバンドとして一番美しいと思ってたんです。その後は引退しようと考えていた。当時の自分が憧れた格好いいミュージシャン像というものはそういうものだったし、それでいいと思ってたんです。でも、そこから長く続けて、いろんな局面があって、いろんな立場で音楽に携わるようになった。ただ自分のやりたいようにやっているわけじゃなく、責任を持って期待に応える状況の中でやっていくようになった。そういう中で「ミュージシャンって楽しいな」と思うようになった。第二の喜びがあったんですね。最初にPLAGUESをやっていた頃と今では考え方は全然違うと思います。
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「前に進んでいく感じというのは出したいと思った」

――そういう喜びの感覚は、このアルバムのテイストにも繋がっているように思います。 深沼:まさにそうですね。アルバムは、すごく自分に近いところから出ている。こんなにも自分に近いのは初めてなんじゃないかと思うくらいですね。今回のアルバムの中では、自分の人生の時間軸を描いているんだと思います。昔に思い描いていた未来と、今になって自分が立っている場所はずいぶん違う。でも、そこに喜びも感じている。 ――「その予感」という曲で《何かを諦めたみたいに見えてたかもしれない それは間違いだったと証明しよう》と歌ってますね。これは自分自身のミュージシャンとしての今の実感を表している。 深沼:そうですね。だから、すごく素直なアルバムだというか。それこそ、こんなに長く音楽をやるとは思いもしなかったわけですから。あと、PLAGUESの頃はメジャーレーベル的進行のプレッシャーもあってツアーもあんまり好きじゃなかったんです。でも、今は佐野元春さんや浅井健一さんと長いツアーをやっている。そこにミュージシャン冥利を感じている。当たり前のことをここ5、6年とかで改めて感じていますね。 ――歌詞だけじゃなく曲調も含めて、ペシミズムよりポジティブさが印象的なアルバムになっていると思います 深沼:そうですね。前に進んでいく感じというのは出したいと思った。ここまで長くやってきて、それこそ音楽業界自体が非常にそんなに調子いいわけでもないし、震災もあって、人が絶対に必要としているものを作って生きているわけではないということを考えたりもした。でも、そこに喜びがあるし、できることならそれを続けていきたいという気持ちを再確認できたというのはありました。 ――バカみたいな質問ですけど、改めて、なぜ今音楽をやることがこんなに楽しいんでしょう? 深沼:そうだなあ……基本的に音楽は自分で歌ったり演奏するだけでも楽しいんですよ。長くやってきたことでスキルも上がっていると思うし。ただ、自分としてはやっぱり職業音楽家としての喜びがあって成り立っているという部分がありますね。たとえば、佐野さんや浅井さんのツアーではサポートの立場であって、その人を光らせてお客さんを楽しませることに徹する。プロデュース業だと、本人は自分の曲を良くしてほしい、メーカーの人は売れるものを作ってほしい、ファンの人の期待もある。いろんな要求に、より近い距離で接することが多くなった。そういう要求に応えられた実感は大きいと思います。 ――バンドマンとしての自己表現とは違う満足感があった。 深沼:そうですね。自分のバンドをやって、売れた、売れなかっただけでは出会えなかったことがたくさんある。と同時に、純粋な音楽としての楽しさももちろんある。いろんな達成感と喜びがある、という感じですね。 ――アルバムには片寄明人さん、西寺郷太さん、堀込泰行さんが参加されています。特に片寄さんと西寺さんとは共作のような形で制作した曲が収録されている。お二人とも世代は近いですよね。 深沼:近いですね。 ――実は深沼さんと片寄さん、西寺さんのスタンスは共通していると思うんです。それぞれプロデューサーとしても、片寄明人さんはDAOKO、西寺郷太さんは吉田凛音と新世代女性ラッパーやシンガーのデビュー作を手掛けています。そして深沼さんはchayのアルバム「ハートクチュール」でプロデュースを手掛けた。 深沼:そうですね。去年は一年中chayのことをやっていました。 ――その一方で、完全に裏方になったわけでもないですよね。片寄さんはGREAT3、西寺さんはNONA REEVESやソロの活動も活発になっている。同世代のクリエイターを見て、どういうところに共通点があるんでしょう。 深沼:やっぱり二人ともアーティストとしてすごいんですよ。クリエイターとしても才能がある。それに、郷太くんは小説を書いたり、みんないろんなことをやっているように見えるんですけれど、きっと意識はシンプルだと思うんですよね。音楽や、音楽を取り巻く文化そのものに対して、あふれんばかりの愛情がある。だから、いろんな場所でそれを使いたくなる。いろんな場所に飛び込んでいくし、そこで期待に応える才能を持っている。僕はエンジニア的なこともやるので、もう少し技術屋に近い感覚もあるんですけれど。 ――アルバムの中では、片寄さん、西寺さん、堀込泰行さん、それぞれがボーカリストを務めています。これはどういう狙いで作っていったんでしょう? 深沼:僕としては、やっぱり彼らが光ってこそ成功なんです。たとえば「Memory Man」は今まで見てきた片寄くんのいい部分を脳内で必死に再生して、もうモノマネまでして作るというか(笑)。それは泰行くんも一緒で、「未完成」という曲は完全に泰行くんをイメージして作った。キリンジとしてやってきた時も今も、彼みたいな声は他にないですからね。そうやって曲を作って、うちのスタジオで彼らが歌う。そこで「ああ、良かった」って思うところを目指して作っている感じなんです。 ――その人自身の魅力を引き出すという意味では、Mellowheadというソロプロジェクトでありながらも、プロデュース的な発想もある。
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深沼:そう思って僕はやってるんだけど、面白いのは、歌詞を共作で書いていたりすると、彼らにしても上手く距離感をはかってMellowheadに合わせてくれるところがあるんです。たとえば郷太くんは「こういう感じの歌詞で、こういう歌い回しをするとMellowheadのハードボイルドな感じにすごい合うと思うんですよね」と言ったりする。そこで「ハードボイルドなんだ、俺って!」って気付く(笑)。片寄くんも「こういうところがMellowheadっぽいね」と言って、世界観を合わせてくれている。 ――ハードボイルドというのは、確かにMellowheadの音楽性のキーワードかもしれませんね。洗練された無骨さというか、スタイリッシュだけどフレンドリーではない。 深沼:確かにそうなんですよ。サウンドはソフトなんだけれど、苦味がある。甘くなりきれない。自分でも「わかる、わかる」って思いました。さすが、言語化するのが上手いなって。
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「新しい古いを気にしているところから本当に新しいものは生まれて来ないんじゃないか」

――ボーナスディスクでは、それぞれが歌った曲をご自身で歌ったバージョンも収録されています。 深沼:そこは僕が歌っても成立してないでしょ?っていうのをむしろ見てほしいというか(笑)。作曲家が歌ったとしても、なかなかさまにならない。これだけ難しいんだよっていう。 ――一方、アルバムでは1曲目に「逆光のせい」が、そしてラストの13曲目に「逆光のせい(reprise)」として堀込泰行さんが同じ曲を歌うバージョンが収録されています。これは他3曲のフィーチャリング曲とは違う意味合いがあるのではないでしょうか。 深沼:そうですね。これは最初から二つのバージョンを作って最初と最後に置こうと思ったんです。この曲の歌詞は、ひたすら前向きなわけではなくて、どちらかというと憂いや迷いも出てるんです。でも、最後に泰行くんが歌うと、全く違う響きになる。魔法のような声だと思うんですよね。アレンジも変えて、彼が歌うことでより明るく響くような演出にした。一枚のアルバムの中でそういうことに挑戦したかったんです。 ――Melloheadの作品にはご自身のそういった感覚が反映されているわけですね。音楽を巡る状況は様々に変わっているわけですが、深沼さんとしては今の音楽シーンをどう見ていますか? 深沼:そうだなあ、今はあまり見えてないんですよね。むしろ20代の頃のほうがシーン全体を見据えてたと思います。そこから自分の立ち位置をどうしようか考えていた。でも、やっぱり20年も見てきてるから、いろんな人がいろんな場所で活躍しているし、ずっと続けて実力を証明している人もいるし、消えていく人もいる。いろんなことがあるから、とにかく自分のことを考えようという感じなんです。 ――20代の頃、30代の頃、そして今とマインドはどう変わってきた感じでしょう? 深沼:さっきも言ったように、20代前半の頃はどうせすぐに食えなくなるから、パッと気分よく辞めようと思ってたんです。潔く引退しようと考えていた。でも、やっぱり20代後半になって、いろんなことがやりたくなった。原体験が宅録だったのもあって、クリエイターとしての発想が出てきた。で、30代直前ぐらいで深田恭子さんの曲を書いて、運よくヒットしたこともあってたくさんの仕事が来て、収入も上がっていった。そうなった時に、いわゆるレコーディング・スタジオに負けないくらいの環境を自宅に整えようと思ったんですね。Pro Tools一式も含めて、何百万っていう世界だったんですけど。 ――数百万の車を買うよりも数百万のスタジオセットを買って、自分への投資をした、と。 深沼:いや、投資というより、もうとにかく欲しいから買ったっていうのも大きいんですけれど。実際、その時に車も買ったし(笑)。 ――ははは、そうなんですね。 深沼:まあ、そこで自分の出発点に戻ったんですよね。MTRを使ってた10代の頃と同じように、サウンドメイキングの主導権を取り戻した感覚があったんです。その頃に仕事が一気に増えて。当時はわからないことだらけだったんですけど、とにかく「できる」って言って、その後に必死で勉強したり。たくさんの人たちに助けてもらいました。30代は、ひたすらそういう勉強の期間だったと思いますね。自分ができるって言ったことを本当にやれるようになるまで頑張る、という。 ――とはいえ、いわゆるエンジニアやサウンドプロデューサー専業にはならなかった。 深沼:ならなかったですね。Mellowheadも個人のスタジオで作っていたんですけど、結局、そういうことをやりつつも、ライブがやりたくなった。軽い気持ちで、ライヴハウスに出たいなと思ってGHEEEを始めたんですよ。で、近藤(智洋/元PEALOUT)さんに声をかけた。そこでバンドとしての、ライブをやっていく楽しさも改めて知って。GHEEEはみんな90年代から活躍してきたメンバーだし、Hisayoちゃんも今はa flood of circleでもすごいベーシストになってきていて。そういうメンバーの中で4分の1でいられる楽しさがあるんですよね。で、その頃に佐野さんのコヨーテバンドに呼ばれて、レコーディングとツアーをやった。で、その後に浅井さんと知り合って、レコーディングの音を任せてもらいツアーにも参加した。そういう中で、ライブの楽しさみたいなものを、30代の終わりから40代にかけて改めて知るようになっていった感じです。 ――一方で、深沼さんはchayや戸渡陽大、The Cold Tommyのような若い世代のシンガーソングライターやバンドのプロデュースも手掛けています。そういう、年下の世代の感覚はどう捉えていますか? 深沼:そこはあんまり考えたことないんです。よくよく考えたら自分の子供くらいの歳なのに、そういう自覚もあんまりない。いつもと同じようにやってるんですよ。「これ、どう?」って言うと「ああ、いいですね」とか「ここはこっちのほうがいいです」みたいな、そういうコミュニケーションなんです。 ――フラットに同じミュージシャンとして接している。 深沼:そう、同じミュージシャン同士なんですよね。そういう共通言語で接しているから、世代の違いを感じないんだと思います。あとは、世代的なものを含めて、新しい古いを気にしているところから本当に新しいものは生まれて来ないんじゃないか、とも思っています。
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「とりあえずポジティブなほうに今はベットする」

――では、深沼さんとしては、たとえば5年後、10年後を見据えて、この先のビジョンをどう捉えていますか? 深沼:5年後、10年後も同じようなことをやっていければいいなと思ってますね。ほんとに。こういうことを言うとディフェンシブに聞こえるかもしれないんですけど(笑)、同じことをやっていくだけでも大変なんですよ。同じような情熱を持って、やれる環境を整えて、全部ちゃんと仕事にする。そのバランス感覚を失わずに、体力的にも精神的にもやれていければ、僕の中でそれは勝ちだと思ってます。 ――なるほど。同じことをやり続けるって言っても、そのためには変わり続けないといけないわけですしね。 深沼:そうなんです。これまでを振り返っても、やっている仕事自体もどんどん変わっている。最初はアレンジャーとして、基本的なことだけ考えてスタジオに行っていた。そのスタジオ作業を自分でやるようになって、今は録りやミキシングまで自分でやるようになった。結局自分の音楽をそのまま作りたいだけというのはずっと同じなんだけども、やってる仕事は全然変わってる。だから、自分の音を作りたいという感覚で、この先もやっていけたらいいなと思っている感じです。 ――そういう根底の部分は変えずに、できることが徐々に増えている。 深沼:うん。そうするのが結果的に最後の到達点に辿り着くのが早いというかね。だから僕のスタジオは、とても小さく保つことを心がけているんです。椅子に座ったら全部の機材に手が届いて、全部の楽器が弾けるようになっているんですよね。たとえ10億あったとしても、商業スタジオみたいな巨大なスタジオは僕の欲しいものとは違うんです。規模を大きくすると別のものになってしまう。管理するために誰か別の人を呼ばなきゃいけなくなったりすると、全部に手が届かなくなる。そのスピード感みたいなものはあんまり失いたくないという。 ――深沼さんとしては、これからアーティストがサヴァイブしていくために必要なものはどういうものだと考えていますか? 深沼:今の時代って、バランスがとりやすいですよね。いろんな意見も見れるし、いろんなやり方も調べられるし、自分の立ち位置もわかる。バランスがとれた考え方になりやすい。でも、ここぞという時は、ある意味「周りが見えない力」っていうのも大事だと思います。冷静に考えない。脇目もふらず、もうとにかくこれを完成させるしかないという、そういう推進力が必要なのかなって思います。だって、冷静にバランスよく客観的に突き詰めて考えたら、そもそも音楽なんかやらなくてもいいんですよ。今のところそんなに大儲けできるようなビジネスでもないし。 ――手っ取り早く儲けたいなら、ソーシャルゲームなり何なり、別の商売を始めたほうがいい。 深沼:ほんとに。理性的に考えたらビジネスとしては効率は悪いですよ。でも、作りたいから作る。やりたいからやる。この音楽を聴く人は絶対にたくさんいるはずだ、お金を払う人だっているはずだって思い込む。それくらいの気持ちを持ってないと、面白いものは出てこない。それを否定しないようにするのがいいんじゃないかと思います。とりあえずポジティブなほうに今はベットするというか。そこに賭けないと始まらない。バランス悪く生きるしかないって感じですね(笑)。 (取材・文=柴那典/撮影=石川 真魚)
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Mellowhead『Kanata』(LAVAFLOW RECORDS)

■リリース情報 『Kanata』 発売:2015年4月22日 価格:¥3,500(税抜)  (disc 1 ) 1.逆光のせい 2.その予感 3.Silent bliss 4.未完成 (feat.堀込泰行) 5.スパムの森 6.Come together 7.Memory man (feat.片寄明人) 8.残像の部屋 (feat.西寺郷太) 9.乾いた涙無駄にならないように 10.5秒前のゴースト 11.栞 12.手の温度 13.逆光のせい (reprise / feat.堀込泰行) (disc 2 ) 1.Better days (feat.佐野元春 2015 New mix) 2.Convertible (feat.片寄明人 2015 New mix) 3.ラハイナ (feat.TURNER CAR 2015 New mix) 4.MABATAKI Rewind (feat.竹内宏美 English ver.) 5.Leviathan (未発表曲) 6.未完成 (FKNM Vocal ver.) 7.残像の部屋 (FKNM Vocal ver.) 8.Memory man (FKNM Vocal ver.) ・Musicians Vocal&Guitar:深沼元昭(PLAGUES/GHEEE) Bass:林幸治(TRICERATOPS) Drums:小松シゲル(NONA REEVES) Keyborads:渡辺シュンスケ(Schroeder-Headz) ・Featuring Vocals 片寄明人(Great 3) 西寺郷太(NONA REEVES) 堀込泰行(ex.キリンジ) ■ライブ情報 「"Kanata" Release Tour 2015 Mellowhead ONE-MAN LIVE」 5月9日(土)@名古屋・栄TIGHT ROPE 5月10日(日)@大阪・心斎橋Live House Pangea 5月16日(土)@渋谷club asia http://www.mellowhead.com/

音楽の街=渋谷は復活するか? 『HMV』新店舗出店がもたらす効果

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『HMV&ブックストーキョー』公式サイト

【リアルサウンドより】  音楽ソフト販売のローソンHMVエンタテイメントが、東京・渋谷に新たな旗艦店『HMV&ブックストーキョー』を今秋にもオープンすることが決定した。同社はかつて出店していた『HMV渋谷店』(平成22年に閉店)以来、5年ぶりの旗艦店復活であり、場所は『マルイシティ渋谷』がリニューアルし開業する専門店ビル『渋谷モディ』の5階から7階の3フロアとなる予定。約50万点の書籍や音楽CD、映像ソフトを販売するほか、店頭でのライブイベントなども催し、音楽や映像を融合した新施設とし、今後3年間で大阪など全国10カ所に同様の店舗を開設する方針だ。  同社は2014年8月、宇田川町に『HMV record shop 渋谷』を開店している。同店においてレコードユーザーから一定の支持を得たうえで今回の出店に至った形だが、一連の施策はどう展開していくのだろうか? 音楽コンシェルジュのふくりゅう氏は以前の『HMV渋谷店』が果たしていた役割を振り返りながらこう語る。 「30代以上にとって全盛期の渋谷HMVは、90年代にはじまった渋谷系ムーヴメントや、ダンスミュージック文化など思い入れの強いCDショップでした。新店舗は、書籍多めな複合店がコンセプトだそうですが、カフェやイベント集客を目的に専用スペースを設けるなど、真向かいに位置するタワーレコードの戦略と近く感じます。かつてはロックのタワー、ダンスミュージックのHMVなど渋谷では差別化されていたイメージがありましたが、新店舗となるHMVのキュレーターとなるバイヤーの目利き、ポップなど独自な情報発信体制が気になりますね。現在のHMVローソンには出版社機能、そして子会社にユナイテッド・シネマがあるので、そういった異業種連携も気になるポイントです」  現在の『タワーレコード渋谷店』はカフェや書店、イベントスペースも併設しており、長時間店舗内で楽しめる“テーマパーク的な構造”を持ち合わせているが、『HMV&ブックストーキョー』も同様の形態をとることで、ユーザーにどのような効果をもたらすのだろうか。ふくりゅう氏はこう定義する。 「テーマパーク的な複合店となることで、渋谷での空き時間、休日の時間の使い方がエンタメ利用にシフトすることを期待したいです。そう考えると、タワレコが真向かいなのはメリットですよね。HMVは先行して、アナログを軸としたショップ『HMV record shop 渋谷』を宇田川町に構えています。そんな意味でも、ファッション的な意味合いの強いアナログや7インチ、カセットテープの充実。専用プレイヤー、ヘッドホン&イヤホンの販売。ハイレゾ関連商品の充実など、今の時代に即した音楽の新しい楽しみ方、周辺機器の選び方や扱い方をわかりやすくサポートする“ライフスタイルの提案”がなされる店作り、ショップ発のヒットに期待したいです」  東京・渋谷が再び“音楽の街”として活気づくかもしれない今回の動き。当時のレコード文化とはまた違った形でライフスタイルに音楽が組み込まれることを期待したい。 (文=編集部)

鈴木雅之がデビュー35周年にしてメガブレイク そのSUZUKI FEVERの要因とは?

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【リアルサウンドより】  鈴木雅之の最新アルバム『ALL TIME BEST ~Martini Dictionary~』のセールスが好調だ。シャネルズのデビュー35周年を記念して制作された本作は、シャネルズ~ラッツ&スターのグループ時代とソロ時代の代表曲を収録したベストアルバム。3月4日の発売後、オリコンのウィークリーアルバムランキングで3週連続トップ10入りし、3月22日付の同デイリーアルバムランキングではB’zや久保田利伸、SEKAI NO OWARIを抑えて遂に1位を獲得。自他共に認める「ラブソングの王様」が、文字通り王座を獲得した。  リリースから3週間も経て1位を獲得した理由のひとつには、積極的なテレビ出演が考えられる。2月15日放送の『行列ができる法律相談所』(日本テレビ系)に出演し、「夢で逢えたら」を歌唱したところ19%もの視聴率を獲得。3月5日放送の『スッキリ』(日本テレビ系)にも生出演して15分以上の大特集が組まれたほか、3月7日放送の『MUSIC FAIR』(フジテレビ系)でも出演者と鈴木雅之の代表曲を共演した。  シャネルズのデビューは1980年。当時、彼らに夢中になった20~30代のファンは、今やすっかり中高年だ。彼らが日々、スマホやネットを駆使して積極的に新譜をチェックしているとは考えにくいし、正直、彼らの情報源はテレビの占める割合が大きいだろう。果たして、現在主婦になった女性は朝のワイドショーで、会社に務めるお父さんは休日に夕飯を食べながら、青春を共にしたスターのアルバムリリースを知ったのではないか。さりとて、さほど慌てることもなく、次の週末に街に出掛けてCDを購入。またはゆっくりネットを見られる休日にポチッとクリックしたのだろう。その証拠に本作が1位を獲った3月22日は日曜日。チャートには前日のデータが反映されるので、このベスト盤は土曜日に日本でいちばん売れたアルバムということになる。  好セールスを後押ししたもうひとつの理由は、長いキャリアにして本作が初のオールタイムベストだということ。これまでにもベスト盤は数種リリースされているが、ソロ時代とグループ時代それぞれに焦点を当てた超豪華仕様の限定生産のボックスセットだったり(『Martini Box』『The Complete ~History of RATS & STAR~』)、ライブベストだったり(『LIVE THE ROOTS~could be the night~』)、テーマセレクションだったり(『Martini Duet』『Medium Slow』)と、シャネルズもラッツもソロも全部がいっぺんに楽しめるヒット曲ベストがなかった。そんなところにリリースされた本作は、ファンならずとも手にしたくなる、「これを持っておけば安心」的なベストアルバムだったに違いない。  キャリア初期は日本におけるソウルシンガーの草分けとして活躍し、ソロになってからはソウル音楽を巧みにJ-POPに取り入れ、大人が楽しめるアーバンな音楽を追求してきた鈴木雅之。海外のR&B/ロックにも造詣が深く、キャリアを通じて洋楽のカバーを度々披露。一方で日本の著名アーティストのペンによる楽曲も数多く歌ってきた。そうして多種多様な歌を表現できるところが彼の武器/魅力であり、本作は35年間で歌い紡いできたあらゆるラブソングを網羅した「ラブソングの大辞典」なわけだが、本作の録り下ろし新曲「純愛」は斉藤和義が作詞作曲。他にも、竹内まりやが作詞、山下達郎が作曲した「Guilty」、小田和正の作詞作曲による「別れの街」、槇原敬之が作詞作曲した「Boy, I'm gonna try so hard.」、さだまさしの作詞作曲による「十三夜」も収録されている。  そして、鈴木雅之のキャリアを語る上で欠かせないのが大瀧詠一だ。もともとコーラスグループ好きな大瀧はアマチュア時代のシャネルズに惚れ込み、自らのアルバム『LET'S ONDO AGAIN』(78年)のレコーディングに鈴木を招集。鈴木は収録曲「禁煙音頭」を“竜ヶ崎宇童”という変名で歌っている。以降、両者は交流を続け、「Tシャツに口紅」を含むラッツ&スターのデビューアルバム『SOUL VACATION』は大瀧がプロデュース。ラッツが再結集したときも大瀧をスーパーバイザーに迎えて氏の作詞作曲による「夢が逢えたら」をカバーした。  そんな大瀧が参加したシャネルズの79年の未発表ライブ音源「クリスマス音頭」「Who Put The Bomp "In The Bomp Bomp Bomp"」が収録された初回限定盤も本作の目玉のひとつ。大瀧の歌声が聞けるとあって、大瀧ファンの多くが本作を買い求めたことも、今回のチャートアクションに一役買っているだろう。  4月1日には2004年に発売された鈴木雅之へのトリビュートアルバムの新装盤『SUZUKI MANIA DELUXE』が発売。こちらにはBENIによる「RUN AWAY」、怒髪天×SCOOBIE DOOによる「め組のひと」、シェネルによる「ガラス越しに消えた夏」が追加収録されている。中高年だけではなく、今度はもう少し若い年齢層の音楽ファンを巻き込んで、まだまだSUZUKI FEVERは続きそうだ。 ■猪又 孝 音楽ライター、ときどき編集者。日本のソウル/R&B/ヒップホップを中心に執筆しつつ、カワイイ&カッコイイ女の子もダイスキ。音楽サイトMUSICSHELFで「猪又孝のvoice and beats」を連載中。三浦大知のアーティストブック『SHOW TIME!!』ではメインライターを担当。
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鈴木雅之『ALL TIME BEST ~Martini Dictionary~』

■リリース情報 『ALL TIME BEST ~Martini Dictionary~』 発売:3月4日(水) 価格: 初回生産限定盤(CD4枚組)  ¥4,500(税込) 通常盤(CD3枚組)  ¥4,000(税込) <収録内容> Disc1(シャネルズ~ラッツ&スター) 1.You’ll Be Mine <ラッツ&スター> 2.ランナウェイ <シャネルズ> 3.トゥナイト <シャネルズ> 4.街角トワイライト <シャネルズ> 5.夢見る16歳 <シャネルズ> 6.ハリケーン <シャネルズ> 7.涙のスウィート・チェリー <シャネルズ> 8.MAMMA <シャネルズ> 9.憧れのスレンダー・ガール <シャネルズ> 10.サマー・ホリデー <シャネルズ> 11.週末ダイナマイト <シャネルズ> 12.涙でハッピー・バースデー <シャネルズ> 13.星くずのダンス・ホール <シャネルズ> 14.め組のひと <ラッツ&スター> 15.Tシャツに口紅 <ラッツ&スター> 16.星空のサーカス <ラッツ&スター> 17.夢で逢えたら <ラッツ&スター> Disc2(鈴木雅之) 1.ガラス越しに消えた夏 2.Liberty 3.ロンリー・チャップリン 4.DRY・DRY 5.Guilty 6.別れの街 7.プライベート ホテル 8.もう涙はいらない 9.出会えてよかった 10.さよならいとしのBaby Blues 11.恋人 12.渋谷で5時 13.MIDNIGHT TLAVELER 14.違う、そうじゃない Disc3(鈴木雅之) 1.白夜~離したくない~ 2.きみがきみであるために 3.路(交差点) 4.DUNK 5.SO LONG 6.Boy, I’m gonna try so hard. 7.これから 8.君を抱いて眠りたい 9.Champagne 10. 愛しているのに 11.キミの街にゆくよ 12.十三夜 13.運命の人 ~Anytime You Need Me~ 14.純愛 ※作詞・作曲・編曲:斉藤和義 Disc4(ボーナス・ディスク)【レアトラック・未発表ライヴトラックス】 1 鈴木雅之 「When We Are Made As One(A Cappella)」(レアトラック) 2. ラッツ&スター 「Bad Blood」(Live)  1985 ラッツ&スター Live at 新宿RUIDO 3. ラッツ&スター 「Boogie Woogie Teenage」(Live) 1985 ラッツ&スター Live at 新宿RUIDO 4. 鈴木雅之 「SAY YOU, SAY ME」(Live)  1986.10 mother of pearl 1st Concerto at 札幌 5. 鈴木雅之 「Do What You Do」(Live) 1988.9.21 Sexual Healing Vol.1 at Nissin Power Station 6. 鈴木雅之 「Are You Ready」(Live) 1989.3.24 Sexual Healing Vol.3 Part2 at Club Quattro 7. 鈴木雅之 「Our Love is Special」(Live) 1991.2.22 Anthology ~in the mood~ at 渋谷 ON AIR 8. シャネルズ with 大滝詠一 「クリスマス音頭」(Live)  1979.12.25 Christmas Live at 新宿RUIDO  9. シャネルズ with 大滝詠一 「Who Put The Bomp“In The Bomp Bomp Bomp”」(Live) 1979.12.25 Christmas Live at 新宿RUIDO
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鈴木雅之『SUZUKI MANIA DELUXE』

『SUZUKI MANIA DELUXE』 発売:4月1日(水) 価格:¥3,200(税込) <収録内容> 1.RUN AWAY / BENI  2.Tシャツに口紅 / ゴスペラーズ 3.Liberty / Crystal Key 4.Guilty / 小田和正 with 山弦 5.DRY・DRY / Miss Monday feat. 鈴木雅之 6.FIRST LOVE / Skoop On Somebody 7.め組のひと / a-bra:z 8.別れの街 / AJI 9.ガラス越しに消えた夏 / Clementine with 中塚 武 10. 恋人 / SALT & SUGAR 11. ハリケーン / PUFFY 12.め組のひと / 怒髪天×SCOOBIE DO 13.ガラス越しに消えた夏 / Che’Nelle

SKE48とNMB48の同時発売に見る、AKBグループの最新戦略 次世代台頭をうながす仕掛けとは?

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NMB48『Don't look back!(限定盤Type-A)』(laugh out loud records)

【リアルサウンドより】  3月31日に同日発売となったSKE48の17thシングル『コケティッシュ渋滞中』とNMB48の11thシングル『Don’t look back!』の初週売上は、『コケティッシュ渋滞中』が64万451枚、『Don’t look back!』が44万7282枚となり、4月13日付オリコン週間CDシングルランキングの1、2位にランクインした(参考:2015年03月30日~2015年04月05日のCDシングル週間ランキング(2015年04月13日付))。先日の柴那典氏のチャート分析記事【SKE48とNMB48、同日リリースの楽曲を徹底比較 両グループの傾向を読む】でも述べられていたように、この両者の同日発売は期末を目前にしたレコード会社の思惑が先行した結果という色合いが強く、当初話題になったような姉妹グループ同士の「対決」という趣きは、日を追うにつれて後退していったように思える。  SKE48は絶対的なWエースだった松井珠理奈、松井玲奈をセンターに戻したシフトでグループ結成以来最高の初週売上枚数を記録し、他方NMB48は前作『らしくない』のカップリング曲「友達」から続く、山田菜々卒業に向けたリリースの集大成として、表題曲のセンターに山田を据えてそのはなむけとした。『Don’t look back!』は、このシングル単体というよりは、山田菜々という稀有なポジションにいたメンバーの卒業を飾る一連の盛り上がりのピースのひとつという感覚も強く、その意味でも同日発売による「対決」の志向にはなじみにくいものだった。一見するとこうした状況は、グループごとの対抗という当初の見立てに対しては肩透かしだったようにも感じられる。  ただ、今回の両グループの同日発売は、タイミングとしては新たにグループごとを対抗させる機運をつくっていく、そのはじまりに位置すると考えることもできる。上述した山田菜々は、今回のシングルリリースが決定した時点で、NMB48とSKE48の両グループを兼任していた。同じくNMB48の渡辺美優紀もSKE48を兼任、またSKE48の高柳明音もNMB48を兼任していたため、同日発売決定に際して彼女たちがどのような活動スタンスになるのかが問われた。結局は『コケティッシュ渋滞中』および『Don’t look back!』に関しては、双方を兼任しているメンバーは本所属のグループのみの選抜となり、両グループ内での混交は避ける格好となった。双方の選抜メンバーが発表された際にはまだ、この措置は「対決」をよりすっきりさせるためのものと見られたし、実際そうした意図も少なからずあっただろう。しかし、両シングルリリース直前の3月26日に行なわれた『AKB48 春の単独コンサート~ジキソー未だ修行中!~』で発表された「AKB48 春の人事異動」では、そうした姉妹グループ同士の混交を一旦まとめてリセットするような意思が感じられた。
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SKE48『コケティッシュ渋滞中(初回生産限定)(Type-A)』(avex trax)

 川栄李奈の卒業発表やNGT48への北原里英の移籍および柏木由紀の兼任など、大きな動きが相次いだ先の人事異動だが、それらの動きのひとつに兼任メンバーの相次ぐ兼任解除があった。とりわけ特徴的なのがAKB48以外の、姉妹グループ同士での兼任メンバーがことごとく解除されたことだ。AKB48本体と姉妹グループとの兼任は引き続き行なわれ、AKB48は引き続き「中央」として機能していくものと思われるが、SKE48、NMB48、HKT48といった姉妹グループ間での往還は整理され、よりグループとしての独立性が強くなる方針へと切り替わっているように見える。本来、一線を引くものとして存在している乃木坂46との交換留学終了も含めて、姉妹グループ間の交流を制限し、各グループが独自のカラーを鮮明にしやすくする格好になっているのだ。そう考えると、『コケティッシュ渋滞中』と『Don’t look back!』で本来ならば両方の選抜に入っておかしくない兼任の人気メンバーの配属が整理され、本来の所属に専念するかたちになったことは、結果的にではあるが2015年の48グループの方針に先駆けた動きになっていたとも考えられる。  メンバーの移籍や兼任、特に48グループが巨大組織になった現在の「大組閣」では、発表当初にはその意図が読み取れないものも少なくない。先月の人事異動もまた、一聴して全容が把握できるようなものではなかったし、それはこれからも続くのだろう。兼任を活発にさせた昨年の組閣から一年での、今回の姉妹グループ兼任の整理からは、運営のひとつひとつの采配もまた、確信を持った上のものではなく、試行錯誤の一環であることがうかがえる。もちろん、交換留学生として乃木坂46に配属された松井玲奈が、グループとしてまだ若い乃木坂46にプロ意識を伝導する役目を果たし、最終的にメンバーからもファンからも大きな感謝をもって見送られているような例を考えれば、人事異動当初のメンバーやファンの反応や感慨がそのまま正しいのかどうかもわからない。しかし、ともかくも2015年が過去一年よりも各グループのカラーを示しやすいシフトになるのであれば、それぞれのグループが対照をなして拮抗する姿が見てみたいし、兼任がシンプルになった今回の方針の中で、SKE48、NMB48の次世代メンバーがより台頭しやすくなるならば、48グループ全体にとってもさしあたりの成功といえるのだろう。 ■香月孝史(Twitter) ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

嵐が描いてきたゼロ年代の情景とは? ドラマ作品における軌跡をたどる(後編)

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『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』

【リアルサウンドより】  嵐が日本一の男性アイドルグループとなった理由を、音楽性、演技・バラエティ、キャラクター、パフォーマンスという4つの視点から読み解いた書籍『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』が、4月16日から17日にかけて、全国書店やネット書店で発売される。同書はリアルサウンド編集部が制作を手がけ、青井サンマ氏、柴 那典氏、関修氏、田幸和歌子氏、成馬零一氏、矢野利裕氏など、嵐に詳しい気鋭の評論家・ライターが寄稿。嵐の魅力を多彩な角度から解き明かしている。  書籍の発売に先がけ、掲載記事の一部を紹介してきた同シリーズ。前回に続き、嵐がドラマ作品を通じてゼロ年代の情景をどのように描いてきたかを、ドラマ評論家の成馬零一氏が読み解いたコラムの後編をお届けする。(編集部) 参考1:【嵐が次にめざす方向性とは? “日本一のエンタメ集団”を徹底分析する書籍登場】 参考2:【嵐の楽曲はどう“面白い”のか? 柴 那典×矢野利裕がその魅力を語り合う】 参考3:【嵐がジャニーズの後輩に与えた影響 各メンバーの姿勢はどう引き継がれていったか(前篇)】 参考4:【嵐がジャニーズの後輩に与えた影響 各メンバーの姿勢はどう引き継がれていったか(後篇)】 参考5:嵐が描いてきたゼロ年代の情景とは? ドラマ作品における軌跡をたどる(前編)

二宮和也と格差社会

 王子様性を一身に引き受けた松本潤や、クドカンドラマに出演し00年代の若者像を引き受けた櫻井翔が時代と並走したのだとしたら、本流とは違う立ち位置から生々しい若者像を演じ続けてきたのが二宮和也だろう。  蜷川幸雄の『青い炎』(03年)やクリント・イーストウッドの『硫黄島からの手紙』(05年)といった映画に出演し、嵐の中では、若手俳優として高い評価を受けた二宮だが、テレビドラマでは『北の国から』シリーズ(81~02年・フジテレビ)で知られる巨匠・倉本聰が脚本を執筆した『優しい時間』(05年・フジテレビ)と『拝啓、父上様』(07年・フジテレビ)に出演したことが大きかったと言える。  二宮が演じたのは、陶芸職人の見習いや料理人見習いといった寡黙な男たち。倉本聰が繰り返し描いてきた寡黙な青年像とストイックに役に没入する二宮の演技はとても相性がよかった。  どちらも決して00年代ドラマの代表作というわけではないが、当時の二宮にはおじさんクリエイターが引きつけられる玄人受けする魅力が存在した。  また、アイドルでありながらも、傍若無人なチンピラ性が見え隠れするのも二宮の魅力だろう。長瀬智也が演じる元不良の新人医師の弟分にあたる、チンピラのノブを演じた『ハンドク!!!』(03年・TBS)では、堤幸彦の乾いた映像とも相まって、二宮の中にある暗い迫力が刻印されていた。  松本や櫻井が00年代の明るい部分を担ったのに対し、二宮が担ったのはグローバル化が進むことで若者の非正規雇用が進み、経済格差が国内で広がっていく不安定な時代に苛立つ気分だった。  東野圭吾の原作小説を宮藤官九郎が脚色した『流星の絆』(08年・TBS)では、家族を惨殺した犯人を追う3兄妹の長男を演じ、『フリーター、家を買う。』(10年・フジテレビ)では、会社をなんとなく合わないという理由で3か月で辞めてしまった25歳の青年を演じ、建設会社で働くことで、自分の軸足を少しずつ獲得していく姿を好演した。  どちらも決して明るい作品ではないが、高い支持を受けたのは、二宮の説得力のある演技によるところが大きいだろう。褒め言葉になるのかわからないが、二宮のような、どこにでもいそうなあんちゃんが、国民的アイドルグループにいるという幅の広さこそが嵐の最大の魅力ではないかと思う。

大野智とキャラクタードラマ

 00年代後半に入り、嵐が国民的アイドルとして盛り上がっていく中、二宮、櫻井、松本に遅れる形で大野智、相葉雅紀もテレビドラマで主演を務めるようになっていく。  なかでも大きな伸びを見せたのが、リーダーの大野智だ。  彼の魅力は無愛想な顔からにじみ出るヒール(悪役)性と、漫画のキャラクターを演じられることだろう。どちらの役柄にも共通するのは、役者としての自分をどこか突き放した視線で見つめているかのような強い客観性だ。  タロットカードに見立てた復讐殺人をおこなっていく弁護士の成瀬領を演じた『魔王』(08年・TBS)は、そんな大野のクールなヒール性が強く出た作品で、どこか達観したように見える大野のカラーの根幹となっている。  だが、何より大野の存在感を示したのは土9で放送された『怪物くん』(10年・日本テレビ)だろう。  言わずとしれた藤子不二雄Aの人気漫画のドラマ化だが、放送前は「絶対に失敗する」と批判の方が多かったのだが、怪物くんを演じた大野の好演もあってか、放送されると同時にみるみる評価が高まっていった。  イケメンドラマと同じくらい、00年代のドラマを象徴するのは、漫画やアニメを原作とするドラマ、あるいは漫画やアニメのエッセンスを取り入れた“キャラクタードラマ”の隆盛だろう。  ほかの嵐のメンバーもまた、多数の漫画原作のドラマに出演しているが、元をたどれば、これらの流れを確立したのは『金田一少年の事件簿』からはじまった漫画/アニメを実写ドラマに落とし込むさいの試行錯誤の果てに生まれたものだ。  ジャニーズドラマがおこなってきた試行錯誤が、一方でクドカンドラマやイケメンドラマに向かい、もう一方でキャラクタードラマへと向かっていったのだ。  漫画のキャラクターを演じるキャラクター芝居は、演技を定型化させた記号性が必要となり、生身の人間を演じるのとは別のセンスが要求される。  嵐のなかでは櫻井翔がキャラクター芝居を得意としており、クールな執事を演じた『謎解きはディナーの後で』(11年・フジテレビ)では自身を記号化することで、独自のポップな味わいを役柄にもたらしていた。対して、大野のキャラクター芝居は櫻井とは違う暗くて重いよどみのようなものがあり、それが『怪物くん』や『死神くん』(14年・テレビ朝日)のようなダークなテイストのドラマにうまくハマっていたと言える。

相葉雅紀と空気系

 一方、相葉雅紀は、『天才!志村どうぶつ園』(04年~・日本テレビ)などのバラエティ番組を主戦場としていることもあってか、ドラマの主演作はほかの四人に比べると少なく、俳優としての評価も必ずしも高いとは言えない。個人的には『マイガール』(09年・テレビ朝日)のハートウォーミングなムードは悪くなかったと思うのだが、あまり同系統の作品が作られていないのを見るに、今は、相葉の明るい個性を活かすようなドラマが作りにくい時代なのかもしれない。  だが、ここはまだ掘り下げることができるのではないかと思う。  たとえばアニメでは『けいおん!』(09年・TBS)のような、軽音部の女子高生たちのゆるふわな日常を描いた“空気系”と呼ばれる作品群がある。作中では派手な物語が起こらずに、同性間でのゆるいやりとりが延々と繰り返されるのだが、例えば嵐が出演するゲームのCMや、『嵐にしやがれ』(10年~・日本テレビ)などのバラエティで見せる男の子がぐだぐだとじゃれている感じは、まさに“空気系”のソレであり、その中心にあるのは相葉が持つピースフルな空気だろう。そういったエッセンスを相葉主演のドラマに持ち込めればまだまだ可能性はあるのではないかと思う。   

10年代の嵐

 00年代を一気に駆け抜けた嵐は、その後も順調にキャリアを積み重ねている。  代表作をいくつか振り返ってみよう。   櫻井翔は『家族ゲーム』(13年・フジテレビ)で、謎の家庭教師・吉本荒野を演じ不気味な存在感を見せた。かつては松田優作や長淵剛も演じたことのある家庭教師役だが、櫻井翔が演じた吉本は、何を考えているのか解らないつるんとした男で、櫻井の持つライトな明るさが、むしろ平坦な薄気味悪さへと裏がっている悪夢のような作品だった。慶応義塾大学を卒業し、ニュース番組の司会も務める櫻井は、過去にも『ザ・クイズショウ』(09年・日本テレビ)で、インテリ然としたトリックスター的なクイズ司会者を演じたことがあったものの、その時はまだ演技力が追い付いてなかった。しかし役者としてのキャリアを重ねたことで、本作の吉本荒野は、櫻井の持つインテリジェンスに裏付けされたどこか冷たい客観的な態度が見事に役柄にも反映されていた。  松本潤は、『夏の恋は虹色に輝く』(10年・フジテレビ)以降、『ラッキーセブン』(12年・フジテレビ)、『失恋ショコラティエ』(14年・フジテレビ)に出演し、今や月9の常連となっている。  なかでも意欲作だったのは、『失恋ショコラティエ』だろう。  水城せとなの少女漫画を原作とする本作は、チーフディレクターの松山博昭による作りこんだ演出によるスピード感溢れる何でもありの音楽的映像によって、めくるめく恋愛が、チェスのような心理戦として描かれた。松本は、ショコラティエ(チョコレート菓子専門の職人)の小動爽太を演じ、人妻の高橋沙絵子(石原さとみ)に翻弄される一方で、モデルの加藤エレナ(水原希子)とセックスフレンドの関係にあるという、今までのキャリアの総決算のような王子様役だったと言える。  二宮和也は24時間テレビ内で放送されたスペシャルドラマ『車イスで僕は空を飛ぶ』(12年・日本テレビ)が圧巻だった。『野ブタ。をプロデュース』(05年・日本テレビ)や『Q10』(10年・日本テレビ)で知られる河野英裕がプロデュースした本作は普通の人が何となくイメージしている前向きに生きる障がい者を主人公にした闘病モノだと思っていると痛い目を見る問題作で、二宮はチンピラとの喧嘩の最中に脊髄を損傷して車椅子の生活を余儀なくされた青年を演じた。  ドラマ終盤に展開される母親役の薬師丸ひろ子とのぶつかり合いは壮絶の一言で、近作ではもっとも二宮のポテンシャルが発揮された作品である。  大野智はミステリードラマ『鍵のかかった部屋』(12年)で初の月9出演を果たした。本作で大野が演じたのは榎本径という警備会社に勤める防犯に精通した鍵マニア。鍵にまつわる密室トリックを冷静な分析によって解き明かす榎本の無機質な佇まいは、『怪物くん』などでの漫画キャラクターとは別の意味での非人間的な魅力があり、役者としての大野の可能性をより広げることとなった。  相葉雅紀は高度先端医療センターを舞台にした『ラストホープ』(13年・フジテレビ)で、町医者の父を持つ優しい医師を好演したものの、まだ決定的な代表作には出会えていない。しかし、15年4月からの月9ドラマ『ようこそ我が家へ』の主演が決定している。原作は『半沢直樹』(13年・TBS)で知られる池井戸潤の同名小説で、相葉は売れない商業デザイナーを演じる。物語はある事件をきっかけに家族に対する嫌がらせが次々と起こるサスペンスドラマとなるらしいが、相葉のピースフルな雰囲気を、むしろサスペンスのスパイスに使うというアイデアは悪くないと思うので、放送が楽しみだ。  このように各人の俳優活動は順調だが、今後の課題は嵐の各メンバーが青年役からどのように中年役へとスライドしていくかだろう。  現在の嵐は全員30代。見た目こそ全員若いものの、今後はさすがに青年役を演じることは年々難しくなっていく。そんな中で年相応の大人に成熟していくのか、それとも今のまま仲間同士で戯れ続けるのか? その試行錯誤のむずかしさが垣間見えたのが二宮和也が主演を務めた土9の『弱くても勝てます~青志先生とへっぽこ高校球児の野望~』(14年・日本テレビ)だ。  『車椅子で僕は空を飛ぶ』と同じ河野英裕プロデュース作品で、二宮は進学校の野球部のコーチを演じた。しかし、先生役を演じるには少し早すぎるが、生徒役の福士蒼汰や本郷奏多と見比べると学生の側にも入れない中途半端な役柄で、そのためか二宮もどう演じていいのか、最後まで迷っていたように感じた。このあたり、ドラマの出来や演技力とは別に、今後、国民的アイドルでありながら、等身大の男の子として生きてきた嵐がどのように年をとっていけばいいのか? という難しい課題が表れている。  先駆者としてのSMAPは、00年代に30代に突入したときにドラマで演じられる役柄の幅が狭まっていった。  今のSMAPは年齢相応のリアルな中年というよりは、年齢不詳のスターや、非人間的なキャラクターばかりを演じている。おそらくSMAPは最後のテレビスターとして、同世代のファンとともに、行けるところまで今のまま突き進むのだろう。その姿にはどこか悲壮なものすら感じる。  では、嵐はどうなるのだろうか。  『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)の著者・原田曜平は、地方で充足し、仲間内だけでつるむ若者たちをマイルドヤンキーと名付けたが、彼らのような若者たちの姿をポジティブな意味で体現していたのが、『木更津キャッツアイ』であり『嵐にしやがれ』等のバラエティ番組で見せる嵐の5人が見せる緩いやりとりだった。  『木更津キャッツアイ』では、30代となったバンビたちの姿は描かれることはなかったが、嵐の5人が30代になった今、試されているのは、今までのようなマイルドヤンキー的な緩さを維持し続けるのか。それとも、居心地のいいモラトリアム空間に別れを告げるのかということだ。  ドラマの配役というのは、無意識下の視聴者の欲望を引き受けてしまうところがある。もしもファンが嵐のメンバーに強いヒーロー性を望むようであれば、今の少し頼りないが故の自由さは少しずつ失われていくのかもしれない。  個人的には、今の緩さを失わずに30代に入った嵐ならではの、緩さを見せてほしいと思う。その意味で、今後の課題はポスト『木更津キャッツアイ』とでも言うような30代男子グループの新しいロールモデルをテレビドラマという形で、どのように提示できるかだろう。そしてその役割を担うのは、やはり嵐の5人しかいないのではないかと思う。 ■成馬零一 76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
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リアルサウンド編集部『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』

■書籍情報 『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』 リアルサウンド編集部・篇 価格:¥ 1,500(+税) 予約はこちらから 内容紹介:ごく普通の青年たちがエンタメ界のトップに君臨したのはなぜか? 音楽性、演技・バラエティ、キャラクター、パフォーマンス…… 時代が嵐を求めた理由を、4つの視点から読み解いた最強の嵐本! 嵐の音楽はポップ・ミュージックとしてどんな可能性を持っている? 現代思想で読み解く各メンバーのキャラクターとは? 嵐ドラマは00年代の情景をどう描いてきた? 青井サンマ、柴那典、関修、田幸和歌子、成馬零一、矢野利裕など、気鋭の評論家・ライターが“エンターテイナーとしての嵐”を語り尽くす。総合音楽情報サイト『リアルサウンド』から生まれた、まったく新しい嵐エンタメ読本。

「ラップとポエトリーの融合の究極形ができた」自閉症とともに生きるハタチのラッパー、GOMESS登場

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【リアルサウンドより】  自閉症とともに生きるハタチのラッパー・GOMESS。NHKのゴールデン帯で特集番組が組まれるなど、ヒップホップシーンだけでなく、一般的にも多大な注目と期待を集めているアーティストだ。  昨年7月にリリースされた1stアルバム「あい」に収録された、自閉症と宣告された日のことを歌った彼の代表曲「人間失格」には、こんな強烈なリリックが綴られている。「普通じゃねえって 並外れてる 人が呼んでる 障害者のクズです」「バカにしてる カモにしてる あいつはアタマがイカレテル」。  そして先月18日には、この「人間失格」の続編的内容の曲「LIFE」が収められた、2ndアルバム「し」がリリースされた。今回はこの2ndアルバム「し」についてだけでなく、自閉症のこと、そして明日4月12日(日)に開催される初単独ライブについてまで、じっくり語って貰った。(岡島紳士)

ラップよりも先にDTM(作曲)を12歳の頃からやってたんです

--リアルサウンド初登場ということで、そもそもデビューのきっかけから聞かせて貰えますか? GOMESS:2012年10月、高3の時にBSスカパーの番組「BAZOOKA!!!」の「高校生ラップ選手権」(全国の高校生ラッパーたちがラップバトルをする企画)で準優勝して。そこからいろんな人を伝って、今所属しているレーベル「LOW HIGH WHO?」のオーナー・Paranelさんに出会ったのがきっかけです。最初は「同じ静岡だから遊びましょう」ってだけで会ったんですけど、その時にLOW HIGH WHO?のパーカーを貰って。そのタイミングで「人間失格」のMVを撮ることになったんですよ。レーベルは全く関係なしに。それをYouTubeの自分のアカウントにアップしたら結構反響があって。そこから1ヶ月もしないうちに1stアルバムをLOW HIGH WHO?から出すことになりました。

GOMESS『人間失格』PV

--いつからラップを始めたんですか? GOMESS:中2の10月27日が、初めてリリックを書いた日です。ラップ自体は11歳から聴いてたんですけど、急に自分でもやろうと思って。理由は、はっきりとは覚えてないんですけど、たぶんライムスターのライブDVDを観て感動したから。リリックは最初からパソコンで書いてました。小5から中3まで引きこもってて勉強してなかったから、漢字がちゃんと書けなかったので。でも、ラップより先にDTM(デスクトップミュージック)は12歳からやってて。ラップやるよりも、作曲の方が先なんですよね。 --トラックやラップはどこかに発表しなかった? GOMESS:ネットにアップしてました。名前は今と違うんですけど、YouTubeとかニコ動とかMyspaceとかAudioleafとか。あと自作のホームページにも。1ヶ月に3アクセスくらいしかなかったけど。中学の校長先生とか見に来てくれてました。 --自閉症って分かったのはいつですか? GOMESS:小4の冬ですね。地元の静岡の青葉通りでバザーをやってて、お母さんとお姉ちゃんがお店を出してて。家に1人でいるのが怖かったから、仕方なしについて行って。オレ、高校に入るまでに1人でトイレに行けなかったんですよ。ドアを開けて、確認できる場所に誰かいないと無理で。お風呂も17歳くらいまでお父さんと入ってました。寝るのも1人は無理で。で、バザーでヒマだったから、道に座って柱にもたれたんですよ。したら体に毛虫がついて、ビックリして。気づいたら車道にいて、身体が動かなくなってて。警察官とか救急車とか来て、病院に行ったら、自閉症という診断でした。知的障害はない、高機能自閉症です。 --ひきこもったのはいつから? GOMESS:小5の夏なんで、10歳からですね。そこから高校に通い出すまで4、5年間、ひきこもってました。

1stでは日本語ラップ的なことより、内面を描こうとした

--去年の7月にリリースした1stアルバム「あい」には自分にとってはどんな作品でしたか? GOMESS:初期衝動だけで、後先考えずに作った感じです。自分では恥ずかしくて聴けないんですよね。でもそのくらいがいいなって、あえてそう作ったんですけど。いわゆる音色的にはヒップホップではない。でも、結構マニアックなこともやってるんですよ。YOU THE ROCKやMUROのリリックをサンプリングしたり。実は10代が作ったにしてはマニアックなことをしてます。 --日本語ラップ的なことはどこまで意識してた? GOMESS:すごい好きだし、その方向はいくらでもできるから、だからこそできるだけ内面を描こうとしました。オレ、家の中で聴く音楽が好きなんですよ。クラブやストリートでだけ聴けるものじゃなくて。でもオシャレじゃなくて、泥臭くもあってっていう。その微妙なラインで作ったつもりです。それを目指して14歳からやって来たから。 --レコーディングの方法が変わってて、即興のフリースタイルで何度もデモを録って、その中でいいものを採用するやり方なんですよね? 歌詞を書かないことが多いっていう。 GOMESS:アメリカとかならあるけど、日本人ラッパーではあまりいないみたいですね。ライブだと、目の前にお客さんがいるし、一回性のものだから、そこに嘘は混ぜられないですよね。レコーディングって何度でも直せちゃうから、緩いんですよ。だからレコーディングでもどこまでライブ感を出せるかが、今後の課題かなと思ってます。
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基盤にラップのリズムやグルーヴがあるポエトリーを目指した

--そして2ndアルバム「し」が先月リリースされました。これは全体的にはどんなアルバムですか? GOMESS:もっとポップなものを作りたくて。元々キングギドラも、Dragon Ashも、RIP SLYMEも、J-POPも好きだしっていうタイプだから。 --どういう内容を目指しましたか? GOMESS:1stを出した後にしんどくなっちゃったんですよ。欲しかったものを全部手に入れちゃった気がして。友達と、友達と遊ぶ時間、笑う・泣くっていう感情、家族が仲良くなるっていうこと、自分の新譜を自分のお金で買うとか。全部叶っちゃって、夢がなかったら生きる活力がないって、病んだんですよね。CDのギャラを貰って、なんか怖くなっちゃって、周りに現金で配ったりしちゃったんですよ。バカですよね(笑)。今思えばあれでMacとか買えば良かった。そんな時期に「し」というアルバムを作ろうと思いました。日本ってみんな今はネガティブだから、自然な内容かなと思います。オレが無理してハッピーミュージックをやってる方が不自然だし。 --ラップ的にも変わりましたよね。 GOMESS:作り始めた時はもうちょっとラップっぽくなる予定だったけど、かなりポエトリーリーディングっぽくなりました。ラップ的なフロウのつけ方って、あくまでリズムの取り方であって、ラップ的なリズムを重視するかどうかなんですよ。今回は感情の込め方を重視しての表現を考えたアルバムになりました。 --自己分析すると、何故そっちに行ったんだと思いますか? GOMESS:単純に飽きたっていうのと、誰もやってないことをやりたかった。ポエトリー寄りなんだけど、でも基盤にラップのリズムやグルーヴがちゃんと常にあるっていうのを。

中原中也の「盲目の秋」でポエトリーの良さに気づいたんです

--具体的に曲について聞せて下さい。「LIFE」はリリック的に「人間失格」の続きの曲なんですよね? GOMESS:そうですね。それは最初から決めてました。トラックは、元ライムベリーのプロデューサーのE TICKET PRODUCTION(桑島由一)です。ライムベリーのサウンドがすごく好きだったので。桑島さん、センスいいですよね、構成のつけ方とか。でもこの「LIFE」のトラックを自信なさげに持って来たんですよ。「たぶんGOMESS君のイメージと全然違うものができちゃったから、気にいらなかったら全然いらないって言ってね!」って。すごすぎるし、いらないわけないじゃないですかっていう(笑)。 構成も最初から完成してて。

【MV】GOMESS - LIFE

--「笑わないで」はサクライケンタ(元いずこねこ、現Maison book girlプロデューサー)さんのトラックです。サクライさんの曲に言葉を乗せるのって苦労したんじゃないですか? GOMESS 苦労しました。普通のラップを乗せるテンポの速さじゃないんですよね。試行錯誤した結果、あのスタイルを見つけて。あれは結構ラップとポエトリーの融合の究極形だと思うんですよ。リズムは完全にラップなんだけど、歌ってる内容やアクセントのつけ方はポエトリー。あれは結構斬新なはず。日本語ラップファンは、好きになるかどうかはおいといて「へー、こんなのやってるんだ」って思ってくれるんじゃないかと。気づいて欲しい、この曲の違和感に!ボーカルのいな(QQIQ)さんは元々好きだったので、一緒にやれて嬉しかったですね。もう1曲作りたい。次はしっとりとした曲を。 --「海月」はミスiD出身の木村仁美さん、「KEEP」は姫乃たまさんと、アイドル畑の方がフィーチャーされています。 GOMESS 木村さんはTwitterの文章が人を癒す力のある言葉をチョイスをするなって思ったのと、ミスiDのステージでバレエを踊っててカッコ良かったから。姫乃さんは、心の根っこにある暗闇が似てるって思って。だから詞は、2人で会話してるようにも、自分と会話してるようにも取れるような、あやふやなものにしました。こういう自問自答のような曲にできたのは、姫乃さんだからだと思います。 --「盲目の秋」は中原中也の詩がそのままリリックになってるんですよね。 GOMESS 中原中也記念館と山口情報芸術センター(YCAM)とのコラボレーション企画でできた曲なんですけど、これがきっかけでポエトリーの良さに気づいたんですよね。元々ポエトリーリーディングって好きじゃなかったので。人間って、感情的になればなるほど、基本的に早口になるじゃないですか。バースワン、バースツーは普通に読んで、トラックに文字数がきっちりはまるんです。でもバーススリーって、普通に読むと文字量が多いんですよ。ただ実際やってみると、バーススリーで感情のスイッチが入って、自然と早口になって、トラックにもちょうど入って。面白かったですね。

【MV】盲目の秋 (原作 : 中原中也) / GOMESS

--「ゆうかい」にはBOKUGOさんがボーカルでフィーチャーされています。 GOMESS 普段ノイズミュージックとかをやってる、10代の子です。外で録ったんですけど、iPhoneで曲を聴かせて、アドリブで歌って貰いました。彼女の歌ってるところはたぶん日本語じゃなくて、何語でもないです。「BOKUGO=僕語」ってことなんだろうと思います。 --ラストの「箱庭」はこれまでの曲の流れをブチ壊すような、ヘビーな曲調と内容ですよね。 GOMESS 一番最初に完成した曲で、初めから一番最後の曲って決めてました。「鳥が食べれるんなら、人も食べれるでしょ」「鶏はダメでインコはダメなの?」「おかしくない?差別じゃない?」っていう。自分が差別されて、こじらせた結果の思考ですね。オレはそんなに綺麗な人間じゃないから、っていうのを最後に見せておきたくて。
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「自閉症」というコピーでメディアに出ることについて

--自閉症というコピーがGOMESS君を紹介するときにメディアで使われるじゃないですか?そこはどう受け止めてますか? GOMESS:そういうのに過剰反応する人には「余計なお世話だ」くらいに正直思ってます。 --「人間失格」に「カモにして」っていう歌詞がありますけど、どういう気持ちが込められてるんでしょうか。 GOMESS:あの辺のリリックって自虐で言ってるように勘違いされるけど、あれは「人間って滑稽」だなっていう意味もあるんですよ。「人間失格」っていう言葉は自分に対してでもあるし、周りの人間みんなにも言ってるんです。あれがテレビとかでオンエアされてるのって、そういうことなんですよ。「カモにしてるよね、視聴率取れるでしょ?」って。 やったな、みたいな。それはすごい嬉しいですよね。 --そうしたコピーについては、利用しようと思うのか、それとも別にそれは頭にはあるけど、やってるのは音楽なんだから届きさえすれば関係ないという気持ちなのか、聞きたいです。 GOMESS:今となっては、多少利用しようという気持ちが頭の中にあるかもしれない。でも、喋りが上手いって言われたりすると、ちょっとムカつくんです。そうなるためにすごい努力して来たから。そんな易々と評価しないで欲しいって。オレ、バラエティ番組とかドラマとか観て、人と喋る練習のためにメモを取ったりして、ずっといちから勉強して来たんですよ。人が自然にやってきたことができなかったから。すっごい努力して。引きこもりをやめて高校に通い出しても、すぐに実践できなくて。人と笑いのツボも違うから、浮いちゃって。人生で一番努力したのが、「人の喋りに合わせる」ってことだから。「自閉症に感じないね」って言われることに昔は憧れてたけど。嬉しい反面、反発しちゃう気持ちもある。 --今こうやって話をしてると、たしかにトークをするのは上手いなって感じます。 GOMESS:それを言われるのが本当にビックリで。うちのお母さんに言うと喜びますよ。人と喋れない子だったんで。 誰と喋っても噛み合わなくて、全然会話できなかったので。中学生の時に書いた歌詞に「ここは日本なのに言葉が通じない」ってあるくらいで。家族はオレがこうやって社会で人と普通に交わって生きて行く、って思ってなかったみたいだから。長い文章も最近は読めるようになって来たんですよ。ここ1年でできることがめちゃめちゃ増えてきました。人と話してもイライラしなくなって来たし。あらゆる書籍に、努力でどうにかなるなんて書いてなかったんですよ。どうして治すかじゃなくて、どう寄り添って付き合って行くか、っていうことなので。今のオレはかなりレアな状況みたいです。

初単独ライブ「人間失格」について

--今回のアルバムにはアイドル関係の人が多く関わってますが、ご自身はアイドルというものをどう見てますか? GOMESS:かわいそう、かな。みんな必死だし、競争率高いし。全然有名じゃなくてもすぐ注目されてニュースになっちゃうし。オレ、ほんとに女の子にときめかないので、わかんないんですよ、ファンの人の感覚が。推すっていうのも。でもカルチャーとしては面白いなって思いますね。プロデューサーに作られてるところとか。昔から裏方志向なので。 --明日4月12日に代官山LOOPにて初めての単独ライブ「人間失格」が開催されます。どんなものになりそうですか? GOMESS:ステージにはどう頑張っても孤独はつきまとうものだから、今回はあえて仲間を総動員でやってみようかなって。アルバムに関わった人たちとか、たくさんゲストに呼びます。でも、それで公演が終わった時に、オレはどういうテンションになるのかなって。みんなといたいと思うのか、ひとりになりたいと思うのか。初単独だし、全部自分で演出もやるし。楽しみですね。 (取材・構成=岡島紳士)
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■ライブ情報 単独ライブ『人間失格』 日時:2015年4月12日(日) 開場 19:00 / 開演 19:30 場所:代官山LOOP チケット:前売2800円+D代/当日3300円+D代 http://eplus.jp/sys/T1U14P0010163P0108P002152206P0050001P006001P0030001 ゲスト:いな(QQIQ)、木村仁美、サクライケンタ、センチメンタル岡田、姫乃たま、緑川マリナ、矢車、A.Y.A.、BOKUGO、E TICKET PRODUCTION、Nej…。
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GOMESS『し』(LOW HIGH WHO? PRODUCTION)

■リリース情報 『し』 発売中 <収録内容> 01. LIFE 02. 笑わないで with いな (QQIQ) 03. 海月 with 木村仁美 04. keep with 姫乃たま 05. 盲目の秋 06. THE MOON 07. Alien 08. カーテンのない部屋 09. 終焉 10. ゆうかい with BOKUGO 11. し 12. 時間 13. 箱庭 ■GOMESS 1994年生まれ、静岡出身。「BAZOOKA!!! 第二回高校生ラップ選手権」に出場し準優勝を勝ち取る。 以降、自閉症と共に生きるラッパーとして注目され、Youtubeにアップされた楽曲「人間失格」 で脚光を浴びる。 また2014年ファーストアルバム「あい」を発表。フリースタイルで生まれる独自の作詞方法や、彼が手にする題材や手法は 聞く人の心を捕らえていく。またGOMESSのドキュメンタリー映画「遊びのあと」(太田達成監督)やNHK番組に出演、 アイドルのミスiDに作詞提供、中原中也「盲目の秋」を朗読カバーするなどヒップホップの土壌を超えて幅広く活動している。 ■関連リンク オフィシャルサイト http://www.lowhighwho.com/GOMESS/ Twitter https://twitter.com/gomessthealien Twitter(インフォメーション) https://twitter.com/gomessmane