日本でもついに大ヒット! 『ワイルド・スピード』現象の鍵はマイルドヤンキー層へのリーチ?

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『ワイルド・スピード SKY MISSION』

【リアルサウンドより】  『ワイルド・スピード SKY MISSION』が映画、サントラCDともに大ヒットである。本国公開の2週後、4月17日に日本で公開された同作は公開週に『ドラゴンボールZ 復活の「F」』、『名探偵コナン 業火の向日葵』といった同週公開の人気アニメ作品に次ぐ興行成績3位(実写1位/洋画1位)。と、ここまでは本作の世界中での異常な盛り上がりを考えたら当然のスマッシュヒットではあったが、公開から約1ヶ月経った先週も前週の6位から4位とランクを再び上げ、完全にロングヒットのゾーンに突入。これまで日本では興行収入20億をギリギリ超えた前作『ワイルド・スピード EURO MISSION』がシリーズ最大のヒットであったが、早々とその20億を超えて、シリーズ大化けの30億超えを射程に収めつつある。さらに、ある意味それ以上に目を見張るのがサントラCDのチャートアクション。4月8日にリリースされて初週18位だった同作のサントラは、その後、9位→8位→3位と右肩上がりに上昇し続け、今週のオリコンのアルバムチャートでは2位にまで上り詰めている。低予算B級作品でありながら世界各国でその年の最大のサプライズヒットとなった2001年公開のシリーズ1作目から15年、遂にというか、ようやくというか、日本でも完全に『ワイルド・スピード』熱に火がついた状況だ。  もちろんその背景として、シリーズ7作目となる本作『ワイルド・スピード SKY MISSION』が現在進行形で世界各国においてとんでもない記録を打ち立てていることに触れる必要があるだろう。本国アメリカでは4週連続1位、もっとすごいのは中国で、公開から8日間で約2億5,000万ドル(約300億円)を稼ぎ出す爆発的ヒットを記録(あっという間に中国の歴代興収1位を塗り替えた)。現在、世界興収は14億ドル(約1700億円、Box office mojo調べ)を突破して世界興収歴代4位。3位の『アベンジャーズ』1作目を抜くも時間の問題で、その上にいるのは『アバター』と『タイタニック』のみという、まさに歴史的大ヒットとなっている。サントラCDも当然のように全米チャート1位、中でも本作の撮影中に亡くなったポール・ウォーカーに捧げられ、本編の感動的なフィナーレを飾っているウィズ・カリファ「See You Again ft. Charlie Puth」は現在5週連続でビルボードのシングルチャート1位を記録中。映画だけでなく、音楽界でも本年度最大のヒットソングの栄冠を確実なものとしている。  さて、ここまでケタ外れのヒットを世界中で記録していれば日本でも大ヒットするのも当然と思う人もいるかもしれないが、そうはならないのが21世紀に入ってからの映画界(特に実写映画)だった。『トランスフォーマー』シリーズも、『アベンジャーズ』及びマーベル・ユニバース各作品も、どんな世界的なメガヒット作品も日本ではぼちぼちというのが常態化。そのせいか、『トランスフォーマー』シリーズは完全に中国資本に取り込まれ、ソウルで大々的にロケ撮影が行われた(羨ましい!)『アベンジャーズ』2作目は世界中で日本が最も公開日が遅いという由々しき事態に。そんな中、『ワイルド・スピード』シリーズが遅ればせながら日本で大ブレイクを果たした意義は大きいのだ。
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『ワイルド・スピード スカイミッション Soundtrack』(ワーナーミュージック・ジャパン)

 そもそも日本の走り屋文化&カスタム文化をルーツに持ち、作中では新旧GT-RやWRXやスープラといった日本車が毎回大活躍、3作目(ちなみに今回の『ワイルド・スピード SKY MISSION』の時間軸は3作目の直後のエピソードという設定だ)の『ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT』の舞台は文字通り東京で、妻夫木聡や北川景子や真木よう子ら日本の人気俳優もキャスティングされていた(みんなチョイ役だけど)『ワイルド・スピード』が、これまで日本ではあまりヒットしなかったというのが、なにか大きなボタンを掛け違えていたとしか言い様がないのだ。で、今回そのボタンの掛け違えを「正した」、その原動力となったのが郊外や地方での興行であるという点に注目したい。ここ数年、映画業界では「あの作品、調子はどう?」「いやぁ、都市部では入ってるけど地方は苦戦だね」というような会話が挨拶代わりになっている。もちろん超娯楽大作以外は地方では公開館数が少ない/公開が遅いという問題もあるが、その洋画の超娯楽大作がアニメ作品や日本のマンガ原作映画などに食われて、以前ほどお客さんが入らなくなってきているのだ。そんな中、『ワイルド・スピード SKY MISSON』の上映館に駆けつけている(中でも公開直後に観た洋画ファン/シリーズファンではなく、何週も後になってから今まさに観ている)層は、近年実写洋画作品が取りこぼしてきた郊外や地方の観客、もっと言うなら、いわゆるマイルドヤンキー層なのだ。彼らは流行にはそれほど敏感ではないかもしれないが、一端そこにリーチすれば洋画でも大ヒットするということが今回証明されたと言えるだろう。  マーケティング用語として生まれた「マイルドヤンキー」という言葉には、「もともと昔からいた層だ」だとか「都市生活者が地方を見下ろした言葉だ」だとかいろいろ批判があるのも承知している。しかし、「もともと昔からいた層」だとしたら、どうして『ワイルド・スピード』シリーズの日本での大ブレイクまで15年もかかったのか?(むしろ日本で走り屋文化やカスタム文化が盛り上がっていたのは10年以上前だ) また、「都市で映画や音楽に関わっている業界人はもっと地方に目を向けるべき」という教訓を与えた上で、見下ろすどころか見上げる対象として再定義する必要があるのではないか? 今回の『ワイルド・スピード SKY MISSION』の大ヒットは「マイルドヤンキー」層の影響力を改めて証明したトピックだと思うのだ。実際のところ、『ワイルド・スピード SKY MISSION』では「何よりも大切なのは仲間だ」「仲間というより、それはもはや家族だ」「スポーツカーを捨てて家族のためにミニバンに乗るようになったブライアン(ポール・ウォーカー)」「なにかにつけてみんなで集まってバーベキューをやる」といった、もうそのまま「マイルドヤンキー」の定義そのもののようなセリフやシーンが頻出している。日本だけでなく世界中でCDがバカ売れしている(もちろん配信でも大ヒットしているが相対的に)のも、「ITへの関心やスキルが低い」という「マイルドヤンキー」の定義にすっぽりと収まる。『ワイルド・スピード』シリーズの大ヒットが示しているのは、先進国ではなく新興国において、都市ではなく郊外や地方において、ホワイトカラーではなくブルーカラーにおいて、世界と思想やライフスタイルがよりダイレクトに繋がっているのは都市生活者ではなく「マイルドヤンキー」だという重要な事実なのではないだろうか。そう考えると、以前から「なんて野暮ったい邦題をつけたんだろう」と思っていた『ワイルド・スピード』(原題は『The Fast & The Furious』)というシリーズの名前も、とても相応しいものに思えてくるから不思議だ。 ■宇野維正 音楽・映画ジャーナリスト。音楽誌、映画誌、サッカー誌などの編集を経て独立。現在、「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「BRUTUS」「ワールドサッカーダイジェスト」「ナタリー」など、各種メディアで執筆中。Twitter
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■作品情報 『ワイルド・スピード SKY MISSION』 公開:4月17日(金) 全国ロードショー (C) 2014 Universal Pictures ■原題 … FAST & FURIOUS 7 (全米公開:2015 年4月3日) ■監督 … ジェームズ・ワン 「ソウ」シリーズ、「デッド・サイレンス」「インシディアス」 ■脚本 … クリス・モーガン ■製作 … ニール・モリッツ、ヴィン・ディーゼル、マイケル・フォトレル ■製作総指揮 … サマンサ・ヴィンセント、アマンダ・ルイス、クリス・モーガン ■キャスト ※()内は役名… ヴィン・ディーゼル(ドミニク)、ポール・ウォーカー(ブライアン)、ドウェイン・ジョンソン(ホブス)、ミシェル・ロドリゲス(レティ)、ジョーダナ・ブリュースター(ミア)、タイリース・ギブソン(ローマン)、クリス・リュダクリス・ブリッジス(テズ)、エルサ・パタキー(エレナ)、ルーカス・ブラック(ショーン)、ジェイソン・ステイサム、ジャイモン・フンス―、トニー・ジャー、ロンダ・ラウジー、カート・ラッセル (C) 2014 Universal Pictures/http://wildspeed-official.jp/

geek sleep sheepが体現する、バンドの楽しさと醍醐味「音のやりとり、コミュニケーションがすごくある」

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【リアルサウンドより】  yukihiro(Dr/L‘Arc〜en〜Ciel)、kazuhiro momo(Vo, G/MO’SOME TONEBENDER)、345(Vo,B/凛として時雨)によるスリーピースバンド、geek sleep sheepが2ndアルバム『candy』を完成させた。前作『nightpoter』から約1年半ぶりとなる本作は、メンバーのルーツであるオルタナティヴロック、ニューウェイヴ、シューゲイザー、グランジなどのテイストを織り込みながら、卓越したプレイヤーでもある3人の音がさらに深く融合した作品に仕上がっている。純粋に音楽と向き合うことで、バンドの固有の音へたどり着いた本作について、メンバー3人に語ってもらった。

「(1stアルバムで)止まりたくないという気持ちがあった」(yukihiro)

ーー2ndアルバム『candy』が完成しました。1stアルバム『nightporter』から約1年半ぶりの新作ですが、メンバーのみなさんの活動を考えると、かなり早いペースだと思うのですが。 momo:出来ちゃいましたね(笑)。2~3ヵ月に1回くらいですけど、1枚目の後もコンスタントに曲作りとリハをやってたんですよ。その間もデモのやり取りをしたり。 yukihiro:1枚目が作れた段階で「出来過ぎだな」という感じだったんですね。「アルバム1枚作っただけで、ここまで来れた」という達成感があったんですけど、そこで止まりたくないという気持ちがあって。すぐに次の活動に向かいたいなと思いましたね。 345:ライヴをやったことで「もっとこういうふうにしたい」というところも出てきたし、メンバーそれぞれ、グッと近づいた感じもあって。その感じのまま、今回の作品も作れたのかなって。 ーー「近づけた」というのは、演奏のことですか? 345:それもですし、人間的にも。お互いに心を許してきたというか(笑)。 momo:「音のやりとりを楽しむ」という感じは最初からあったんですけど、ふだんの会話だったり、人間的な部分、3人でいるときの空気感も、バンドにとってはすごく大事で。どれだけ「こういう感じでやりましょう」と決めたとしても、その通りにはいかないですからね。geek sleep sheepとしてはまだそんなにライヴの本数もやってないですけど、1本やるたびにメシ食いながら話したり、「いますぐ、もう1回やりたいね」みたいなことを言い合って…。 そういう会話を続けていくことで、「あ、そういうふうに感じてるんだ?」とか「その着眼点はおもしろいな」ということにも気づいて。要は気兼ねなくやり取りできるようになってたんですけど、その状態は今回のレコーディングもまったく変わらなかったんですよ。バンドっぽさが増しているなって思いながらやってました。 ーーもともと通じ合うものがあるんでしょうね。3人に共通するコードみたいなものが。 momo:そうなんですかね? キャラ的には、yukihiroさんと僕はぜんぜん近くないですけど。 yukihiro:(笑)。 momo:音楽的なところでは「こういう感じでやりたいんだけど」「じゃあ、ギターはこうですよね」って感じになるんですけど、それ以外はほぼ新鮮なことばかりですね。趣味とかもぜんぜん違うし。 yukihiro:僕はお酒も飲まないので、geek sleep sheepが動いていないときは会う機会も少ないですからね。 momo:その違いが良かったんだと思います。いい塩梅で距離感が取れてるというか。
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「3人で演奏するときの気持ち良さをもっと追求したい」(momo)

ーーなるほど。geek sleep sheepのメインソングライターはmomoさんだと思うのですが、今回のアルバムの曲作りに関して、前作との違いはありましたか? momo:3人で演奏するときの気持ち良さをもっと追求したい、というのはありましたね。デモはすごくザックリしていて、曲の流れだったり、「ギターと歌メロはこんな感じ」ということだけがわかる程度なんですね。あとは3人でスタジオに入って、何度も演奏しながらアレンジを組立てていくので。 ーー実際にセッションすることで、演奏の気持ち良さを高められる? momo:そうですね。その場で細かい説明をすることもなくて、ベース、ドラムに関しても「お好きにどうぞ」という感じなので。 345:曲作りの時に何回も同じ曲を演奏するんですけど、yukihiroさんが突然、まったく違うドラムを叩いたりして。それに対して「じゃあ、私はこうやろう」と反応していく感じですね。 ーー「次はこういう感じでやろう」みたいな話はなく? 345:ないですね。いきなり来ます(笑)。 momo:「ドラムってそんな楽器だったっけ?」って思うくらい、ガラッと変えてくるよね。 345:しかも、すごい無表情で。 yukihiro:(笑)。 momo:それはね、yukihiroさんの照れ隠しも入ってると思うよ。「どうだ」って顔するのもアレだし…。 ーーyukihiroさんとしては、思い付いたアイデアをどんどん試そうということなんですか? yukihiro:早くポイントを見つけたいんですよね。そのときに演奏している曲に対して「何がポイントなのかな?」というのを探りたいので。 momo:なるほど。 yukihiro:自分なりに曲のポイントをピックアップしながら演奏して、「どういう反応が来るかな?」って。それが上手くハマればカッコ良くアレンジできるだろうし、反応があまり良くなければ、違うことをやってみる。セッションしながら曲を作っているんだから、そういうことをやらないと意味がないと思うので。練習しているわけではないから、閃いたアイデアは試していかないと。 ーーいきなりまったく違うドラムを叩くことには、明確な意図があると。 yukihiro:そうですね。たぶんドラムって、「そこが決まらないと、次に進めるのが難しい」というパートだと思うんですよ。だからこそ、僕が早い段階でアプローチしたほうがいいかな、と。そういうやりとりも楽しいですからね。 ーー確かにドラムが軸になっている曲も多いですよね。特にyukihiroさんが作曲した「kakurenbo」のドラムは素晴らしいと思います。リズムと歌だけで曲が成立しているというか。 momo:そうなんですよね。メロディ楽器にもなるんですよ、yukihiroさんのドラムは。 yukihiro:その曲はタイム感を掴むのが難しかったですけどね。レコーディングのときも、ふたり(momo、345)に延々と付き合ってもらって。

「ライヴなどを重ねて、掴めてきてるところもある」(345)

ーーmomoさんのギターも前作以上に激しさを増していて。たとえば「feedback」のフィードバック・ノイズもそうですけど、ギタリストとしての個性がさらに発揮されているな、と。 momo:1stのときは少し“余所行き”だったかなっていうのもあって。これもライヴをやってみて感じたことなんですけど、もっと激しく弾きたくなったんですよね。ノイジーなんだけど、美しく聴かせられるような曲を増やしたいっていうのもあったし。 ーー「ノイジーで美しい」というのは、このバンドのひとつの特徴ですよね。ギターに関しても、意見のやり取りがあるんですか? yukihiro:momoくんに任せてます。たまに口出します(笑)。 momo:今回のレコーディングでも、「この3人でやれば、ギターはいかようにも出来るな」っていう感じがあったんですよね。(曲を作り始める)スタートの時点では、たとえば「スマパンみたいな感じ」とか「バックのギターはシューゲイザーっぽく」という話もしてるんですけど、歌メロと歌詞が乗って出来上がってみると、まったく違うところに行けているような手応えがあって。 最終的にはちゃんとgeek sleep sheepの曲になるというか。知ってる人が聴けば、ニヤッと出来るポイントも入れてるんですけどね。 ーー確かに(笑)。345さんのベースラインも前作以上に個性が出ている印象を受けました。全体的にメロディ感が増しているというか。 345: geekの曲は構成がしっかりあるので、(Aメロ、Bメロ、サビなどの)段階に合わせたフレーズを意識してますね。 momo:フレーズの当て方が独特だなって思ってたんだよね。そうか、そういうことなのか。 ーーmomoさん、345さんのヴォーカルについても聞かせてください。今回はさらにデュエット感がアップしていると思うんですが…。 momo:デュエット感(笑)。 345:(笑)。ライヴなどを重ねて、掴めてきてるところもありますからね。あと、momoさんが私の声の出しやすいポイントを汲み取ってくれて、「ここらへん(の音域)が歌いやすいでしょ」っていうのを探ってくれてる感じもあって。 momo:1stアルバムを聴き直して、ふたりのハーモニーが気持ちよく響くところを確認したんですよね。いくつか方程式も見つかったので、それもかなり使ってます。僕がダークなギターを弾いても、345ちゃんが歌えばピュアな感じになるし。 345:(笑)。 momo:345ちゃんが歌う曲に関しては、声を思い浮かべながら歌詞を書いたんですよ。それも前作との違いだと思いますね。 ーーアルバムの最後に収録されている「color of dream」は345さんの作詞ですね。 momo:アルバムの最後は厳かで静かな曲にしようって話してたんですけど、すごくネイキッドな感じになったから、345ちゃんの心から出てくる言葉で歌ってもらったほうが、よりグッとくるだろうなと思って。 345:タイトルはyukihiroさんに付けてもらったんです。歌詞を書いて、歌を録ったあとで、yukihiroさんから「これでどう?」という提案があって。 momo:けっこうタイトルを付けてもらったんですよね、yukihiroさんに。「planet ghost」「floating in your shine」もそうだし。ドラマーとしての役割と同じくらい、名付け親として活躍してもらいました。 ーーアルバムタイトルの「candy」は…? momo:それもyukihiroさんです。それが最初なんですよ、じつは 345:そこから怒涛のタイトル付けが始まりました(笑)。 ーーちなみに「candy」というタイトルの意味は? yukihiro:意味というよりは、イメージですね。 momo:シンプルなタイトルがいいって話してたし、いろんなニュアンスがある言葉ですからね。 ーー「candy」というと、ジーザス&ザ・メリーチェインの名盤『PSYCHO CANDY』を思い出したりもしますが。 momo:ですよね(笑)。まあ、それもありつつ。

「バンドらしくイチからやりたい」(momo)

ーー曲の作り方もタイトルの付け方も、やりたいことをやってるという手ごたえが感じられますね。純粋にバンドを楽しんでいるというか。 momo:そうですね。無理せず、自分がいままで聴いてきた音楽とか、好きなものをそのまま出してもいいっていう感じなので。 345:おふたりに受け止めてもらってます。 ーー素晴らしいと思います。最近のバンドって、シーンの流れとかトレンドを分析したうえで、音楽性や活動のスタイルを決めている人たちも多くて。そういうスタンスとは違いますよね、geek sleep sheepは。もっとピュアに音楽と向き合ってるというか…。 yukihiro:…なんかバカっぽい(笑)? ーーいやいやいや、そういうことではなくて。 yukihiro:わかってます(笑)。褒め言葉として受け取ります。 momo:この年齢で新しいバンドを組めたこともすごく幸せだと思いますからね。ある程度は知恵も付いてるけど、あえてそれに頼らず、バンドらしくイチからやりたいというか…。yukihiroさんもこっちの出方をちゃんと受け止めてくれるし、音のやりとり、コミュニケーションがすごくあるんですよ。初めてスタジオに入ったときの緊張感はハンパなかったし、「ああしろ、こうしろ」って言われるんだろうなと思っていたというか…。 345:「こうやって弾いて!」とか。 momo:そういうことは一切言われたことないですからね。身も蓋もない言い方ですけど、「バンドをやりたいんだな」っていうか。 ーーメンバーの関係性は完全にフラットですからね。 yukihiro:うん、バンドをやろうと思ったので。スタジオにメンバー募集の紙を貼っても良かったんですけどね。「当方ドラマー。オルタナやりたし」って。 345:「ギター、ヴォーカル、ベース募集」(笑)。 momo:「完全プロ志向」(笑)。脱線しちゃいますけど、地方に行ったときにすごいメンバー募集を見たんですよ。「当方ドラマー、U2やりたし。ボノ、エッジ求む」って。 yukihiro:すごいね(笑)。 momo:もともとバンドって、それくらいの勢いで始めるものですからね。 ーーバンドの楽しさがもっと伝わるといいですよね、ホントに。最後に東名阪3か所で行われる「tour geeks 2015」について聞かせてください。ヒトリエ、People In The Box、ストレイテナーをゲストに招いてのツアーとなりますが、どんな内容になりそうですか? momo:いまちょうどそれを話しているところなんですけど、お互いのバンドがより絡めるようにしたいですね。セッションなのかカバーなのかわからないけど、化学反応が生まれるようなイベントにしたいので。 ーーyukihiroさんは対バンというのは珍しいのでは? yukihiroそうですね。geek sleep sheepを始めるまで、対バンは久しくやってなかったので。 momo:あ、そうか。 yukihiro:他のバンドのドラマーがいるってだけで、こんなに緊張するのかと。リハを(他のバンドのメンバーに)見られることもなかったし、新鮮ですね。 (取材・文=森朋之)
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geek sleep sheep『candy』(ビクターエンタテインメント)

■リリース情報 『candy』 発売:2015年5月20日 価格:【初回限定盤(CD+DVD)】¥3,800(+tax)【通常盤(CD)】¥2,800(+tax) <収録楽曲> 1. kaleidoscope (Words & Music : kazuhiro momo) 2. feedback (Words & Music : kazuhiro momo) 3. planet ghost (Words & Music : kazuhiro momo) 4. night cruising (Words : kazuhiro momo, yukihiro/Music : kazuhiro momo) 5. rain song (Words : geek sleep sheep/Music : kazuhiro momo) 6. floating in your shine (Words : 345/Music : kazuhiro momo) 7. lost song (Words & Music : yukihiro) 8. happy end (Words & Music : kazuhiro momo) 9. Addicted (Words & Music : kazuhiro momo) 10. Candy,I love you (Words : kazuhiro momo, yukihiro/Music : kazuhiro momo) 11. kakurenbo (Words : kazuhiro momo/Music : yukihiro) 12. color of dream (Words : 345/Music : kazuhiro momo) -BONUS TRACK- MOTORCYCLE(初回限定盤のみ収録・LOVE AND ROCKETSのカバー) <初回限定盤DVD> 1. kaleidoscope(Music Video) 2. feedback(Music Video) 3. hitsuji(LIVE at LIQUIDROOM) 4. Weekend Parade(LIVE at LIQUIDROOM) ■特典情報 TOWER RECORDS、TSUTAYA RECORDS、HMVチェーン限定 下記対象商品を、特典対象店でご購入の方にgeek sleep sheepオリジナルグッズを先着でプレゼント <対象商品> 『candy』 初回限定盤(CD+DVD)・通常盤(CD) <特典対象店> ○タワーレコード 全国各店/タワーレコードオンライン ○TSUTAYA RECORDS 全国各店/TSUTAYA オンラインショッピング ※TSUTAYAオンラインショッピングは予約分のみ対象 ○HMV 全国各店/HMV ONLINE  「タワーレコード全国各店/タワーレコードオンライン」→オリジナルB3ポスター  「TSUTAYA RECORDS 全国各店/TSUTAYA オンラインショッピング」→オリジナルステッカー  「HMV全国各店/HMV ONLINE」→オリジナルポストカード ※特典は無くなり次第終了 ※一部取扱いの無い店舗等もあり ■ライブ情報 geek sleep sheep『tour geeks 2015』 5月29日(金) 愛知・名古屋Electric Lady Land (w/ヒトリエ) 開場18:30/開演19:00 (問い合わせ) サンデーフォークプロモーション 052-320-9100 2015年5月30日(土) 大阪・梅田クラブクアトロ(w/People In The Box) 開場17:00/開演18:00(問い合わせ) キョードーインフォメーション 0570-200-888(全日10:00~18:00) 2015年6月7日(日)東京・赤坂BLITZ (w/ストレイテナー) 開場17:00/開演 18:00 (問い合わせ) DISK GARAGE 050-5533-0888(平日12:00~19:00) ※各会場、高校生以下は学生証提示で当日会場で500円のキャッシュバックを受けることができる学割サービスを実施 geek sleep sheep オフィシャルサイト

チャットモンチーが語る“音楽と寄り添う人生”「その時の自分の状態によって、音楽は変わっていく」

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【リアルサウンドより】  チャットモンチーが6枚目のオリジナルアルバム『共鳴』を5月13日にリリースした。本作は、サポートメンバーを迎えて4人体制として生み出した初のアルバム。「男陣」として恒岡章(Dr. / Hi-STANDARD、CUBISMO GRAFICO FIVE)、下村亮介(Key. & Cho. / the chef cooks me)、「乙女団」として世武裕子(Piano, Synthesizer)、北野愛子(Dr. / DQS, nelca / ex. your gold, my pink)が参加しているほか、チャットモンチーと恒岡章のスリーピース、チャットモンチーのふたりという、計4パターンのメンバー編成による楽曲が収録されている。それぞれの楽器編成を反映し、新機軸と呼ぶべきサウンドをたっぷりと収めた充実作『共鳴』について、また一つの転換点を迎えたバンドキャリアについて、二人が大いに語ってくれた。(編集部)

「ずっとギターが鳴ってなくてもいいと気づいた」(橋本)

――シングル『ときめき/隣の女』のインタビュー(チャットモンチーが明かす、デビュー10周年の現在地「やりたいことが進化しているのはすごく幸せ」)では、当時制作中の本作について「ヒッピーもいればボンテージの人もいる、アイドルもいればラッパーもいる」と語っていました。実際のアルバムは、4パターンの編成による多彩なサウンドで、まさに新機軸を打ち出した作品になりましたね。 福岡晃子(以下、福岡):チャットモンチーは3ピースのときからずっと“引き算”ばかりしてきたから、音が増えることやメンバー以外の人とやること自体がまず大きな変化でした。でも『こころとあたま/いたちごっこ』あたりから音を重ねる作業にも興味が出て。そうすると、やりたいジャンルが次々に出てきて、それで今回、いろんなものに挑戦してみたんです。だから、自分が個人的に好きな音も入れられて。そういう意味でもかなり好きなアルバムになりましたね。 ――具体的に、好きな音を入れた曲とは? 福岡:アルバムの曲で最初にできた、3曲目の「ぜんぶカン」というラップの曲です。ああいう曲は今までのチャットにはなかったので、作ってみたいという思いがありました。まず、えっちゃんがラップの詞を作ってきて、それをアコギで披露してくれて。そこでメロディがわかったから、もう一度作り直した、という感じです。 ――絵莉子さんご自身の中に、ラップという引き出しがあったのでしょうか? 橋本絵莉子(以下、橋本):いや、ほぼないです(笑)。スチャダラパーさんとコラボして曲を作ったり(「M4EVER」/スチャダラパー『1212』収録)、group_inouさんとライブしたりして、その頃から芽生えてきたくらい。この曲はギターを弾いてないんですけど、アルバムとしても今回はギターの居所を考えたというか、ずっとギターが鳴ってなくてもいいということに気づいたんです。“あたしが鳴らさなくてもいい”という意識を持てたのは初めてでした。 ――なるほど、ギターのポジションが大きく違うわけですね。晃子さんはトラックを作る際、どんなサウンドをイメージしました? 福岡:ヒップホップの作り方を全く知らなかったから、「どうやって作ってるんやろ?」っていうところからのスタートでしたね。とりあえず、ビースティ(・ボーイズ)っぽいのがいいなと思いつつ、ドラムから作ってみて。本当はドラムの一音一音をサンプリングしてビートを作るんでしょうけど、本当にわからないので、自分で叩いたドラムを変換して、後で音を乗せ変えてみたりしたんです。そういう作業も初めてでしたね。 ――ビースティ・ボーイズの『イル・コミュニケーション』あたりの感覚ですね。 福岡:そうですね。なんか、上手さよりもワクワクする感じのビートのほうが生っぽくていいいかなって思いました。一方で、ウワモノはけっこう機械っぽくてもいいのかなと。 ――パンキッシュなバンドっぽい部分とダンスミュージックがミックスされていて、ヒップホップでもあるし違うものでもある、斬新なダンスナンバーになっていると思います。 橋本:この曲ができたから、またギターをちゃんと使った曲をやりたいと思いました。最後まで「これやったから今度はこっち」って、幅を感じながらアルバムを作っていきましたね。
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「一貫していることは、ふたりともポップが好き」(福岡)

――その点、1曲目の「きみがその気なら」はロックナンバーで、アルバムの“強さ”を印象づけている曲ではないでしょうか。 福岡:この曲はもともと人に提供するつもりで、2ピースのときに作ったんです。けっこう思い切った曲で、チャットでは歌わないような歌詞を書いてみたんですよ。でも結果的に提供するという話がなくなって、チャットでやるなら歌詞を変えようと思ったんですけど、えっちゃんが「そのままでええんちゃう?」って。 ――<この地球で生き残るのだ><生命力が響いている きみがその気なら>というフレーズはインパクトありますね。「そのままで」となったのは、チャットでも歌えると思ったからでしょうか。 橋本:この『共鳴』っていうアルバムにぴったりだと思ったからです。歌詞に「乙女」が出てきたり「男」が出てきたりっていうのが、このアルバムを物語っているようで「すごい、予言者!」って思ったし、メロディもすごくいいなと思えたので。 ――男陣と乙女団のアレンジに関して、乙女団は「あ・うん」の呼吸で仕上げが早いけれど、男陣は理想形をとことん追求するので時間が掛かる…と、前回お聞きしました。この曲に関してはじっくりと練り上げていったのでしょうか。 橋本:レコーディングの終わりのほうで作った曲で。それで、この曲を男陣でやるか乙女団でやるか、それともみんなでやるかってすごく悩んだんです。結局、男陣でやるって決めて。もともと2ピースのときに作ってた曲だけれど、提供するつもりだったから、ベースもギターもドラムもリフも全部入ってたんですよ。なんとなくの完成型もあって、「こんな感じ。これをみんなで」というイメージだったので、方向性はそんなに迷わなかった気がします。 ――今作の収録曲では、男陣と乙女団の楽曲のサウンドが割と分かれている印象があったのですが、この曲に関してはフラットな感じがしました。それぞれのサウンドを改めて振り返ってみるとどうでしょう? 橋本:男陣は“四角とか三角とか定規で測る”みたいな感じで、乙女団は“布とか丸とか、ちょっと測れない”感じ。やっていくうちに、そんなイメージになりました。 ――確かに乙女団による「最後の果実」には、布のイメージを感じます。 橋本:はごろも感がありますよね。天女みたいな、そんな感じがします。 福岡:男と女の音の差がこんなに顕著に音に出るんやって、すごく強く思いました。もちろん、個人の性格の違いはあるんですけど、統計して「男と女ってこんな感じなんやな」っていうのが思いっきり音に出てるんちゃうかなって。そのぶん、私たちが中性的やったんやなって思いました。男陣といるときは男性寄りになれるし、乙女団といるときは女だったことを思い出すんですよね(笑)。 ――なるほど。男陣、乙女団それぞれの楽曲で見えてきた、チャットモンチーらしさというものがあるのではないでしょうか。 福岡:一貫していることは、ふたりともポップが好きなんですよね。だから、人に伝わらないことはあまりしない。でも、「こうしたい」という気持ちが毎日変わるんですよ、ライブでも、アレンジでも。ふたりとも思いつきが多いというか、バンドをどうしていくか、どうあったほうがいいかと考えている時間が長いんでしょうね。日々「もっとこうやったほうが面白いんじゃないか」って思ってるから、そのスピードが早くて。考えが先に及ぶから、ここ数年のアルバムは以前と全然違うことになってきてるんです(笑)。 橋本:私はこういう内容のアルバムになると思ってなかったんです。『変身』から考えると。チャットモンチーには、いつもいま思っていることじゃないことが起こるんですよ。だから、どうなるか自分でもわからない。いいことを言うと、“計り知れない”というか。 ――『変身』のときに考えていた未来のチャット像とは変わってきていると。 福岡:とりあえず、“えっちゃんが子どもを産んでからじゃないとわからへん”ということもありました。それで全く変わってもいいし、そのままでもいいって。とにかくその時の自分たちの状態によって音楽が変わるのはすごくいいことだと思っていて。特に私は、チャットがこうあり続けなきゃいけない…って思いすぎることが多いので、それはもう自分たちの身に任せようと。自分たちの歩むべき人生に音楽を寄り添わせるのが、いちばん自然なんじゃないかと思うんです。 橋本:高校から音楽をやっていて、出産前後は、これまででいちばん音楽活動をしなかった時期なんです。十何年ぶりに、音楽に携わらない、端から見てるという時期だったから、その間はすごく不思議な感覚でした。 ――音楽やチャットのことは常に頭の中に? 橋本:バンドをやっている感覚が鈍るんじゃないかという思いがいちばん強かったです。でも、一日くらいで戻った気がします。久しぶりにスタジオに入って、最初は、少しだけ戸惑ったけれど、やっぱり大きい音出すっていいなと思って。そういうのって、ずっとやってたらわからないことですよね。バンドでジャーンってやる感じとか、わぁって思いましたね(笑)。 ――お休み中は、おふたりのなかで創作意欲は継続していたのでしょうか。それとも一区切りがあったのでしょうか。 福岡:どうだったんだろう。でも、演奏とか、音楽と離れることがなかなかないから、それが逆にいい機会だと思ってお互い過ごそうと。私は海外に行きまくってましたね。外国でどうやって音楽が鳴っているかというのが気になって。それもすごく勉強になりました。外国だったら、BGMが生演奏だったりとか、ストリートミュージシャンにお金を払う感覚が日本と違っていたりとか。プロでもその辺で演奏していたり。「やっぱり自由やな」というのは、海外に行って思って、それと自分たちがどうということは直接的にはないけど、「こうあるべき」というのを思いすぎなくてもいいんやなと思いました。それが男陣とか乙女団とか新体制にも表れたんだと思います。

「徳島に帰ると、かなりフラットに戻れる」(福岡)

――なるほど。作品のお話に戻りますが、5曲目の「毒の花」は晃子さんが作詞の新しいタイプの曲。前作の『ときめき/隣の女』に引き続き、静かな鋭さがある曲ですね。 福岡:この曲は徳島で書いたんですけど、故郷にいると、東京にいる自分を客観的に見れるというか。徳島に帰ると、かなりフラットに戻れるんですよ。普段こんな感じだなって。例えば、自分自身が毒というものだとしたらどうだろうと考えると、すごく孤立しているものに思えますよね。でも、自分より強力な毒に会うと抑制される…人ってそういうものかなって、自分のことを考えたときにそう思ったんです。 ――より大きな毒の前だと飲み込まれてしまうというのは、人間の一種の悲哀みたいなものでもありますよね。 福岡:でも、滅多に毒同士で会うことってないし、自分も他人を刺してしまうこともあったりする。(毒とは)滅多に交われないけど、制されるときがあるというか。とはいえ、人として生きるみんなのことを「花」って例えている曲でもあるんですよね。そういう感じで、なんかうまく言えんから歌詞にしてます(笑)。 ――そうしたユーモラスな毒っ気のようなものは、チャットモンチーのこれまでの曲にも見え隠れしていましたが、今度のアルバムではかなり全編に散りばめられている印象でした。 橋本:毒っ気があるからこうやって曲にもなるし、「これ私のこと!」って言ってる人も多いんですね。みんなが思っていることなんだな、みんな毒を持っているんだなっていうことも、今回感じました。 ――みんなが思ってるけど、普段は言わないことを歌う。 福岡:そういうのを歌ってる人が少なすぎるだけかも。私にとってはけっこう普通のことだと思うから、言っちゃえと思って書いてるんですけど、「毒がありますよね」「グロテスクですよね」ってすっごい言われて、「そんなにか」と思って、けっこう反省したり(笑)。本当に普通に恋愛や家族の曲を書くように出てきただけなので、取り立ててそれにメッセージを込めたってことじゃないんですよ。 ――先ほど自分を客観視するという話が出ましたが、6曲目の「私が証」にも自分自身と向き合うような印象がありました。 橋本:「私が証」の歌詞は2年くらい前の歌詞で、いろいろ考える期間もあった時期のものだから、“今までとこれから”みたいな感じがありますよね。チャットモンチーとしてやっていく上での気持ちというか。 ――音楽を作り続けることに重圧を感じることもありますか? 福岡:音楽を作るということは苦ではないんですけど、作る期間は、やっぱり定時で仕事する人たちがその時に見聞きするものを全部インプットするような気持ちでいます。全部見て、それを何かに変えてやろうと思うから、そういう意味でちょっと疲れることはありますね。あと、自分が傷つかずに歌詞を書くのは難しいなと、今回すごく思いました。毒というか、自分が周りにどういう人って思われてもいいというか、作品が良ければそれでいいと思えるようにはなりました。 ――普段言わないことも、創作の種となるというか。 福岡:そうですね。もういいかなと思って(笑)。チャットモンチーはあまり自分たちとかけ離れたことは歌わないバンドなので、フィクション、ノンフィクションでいくと、ノンフィクションのことが多いんです。いま現在の自分がそういう人間なんだと認識されてもいいから、そのときしか書けないことを書いたほうがミュージシャン的には嬉しいというか。そのまま出せるのは自分とバンドの状態がいいということですからね。 ――今回、西 加奈子さんが歌詞を書かれた曲(9曲目の「例えば、」)もあって、ある意味では異なる血が入っていますよね。でも、すごくチャットモンチーらしい曲でした。 橋本:ちゃんとチャットモンチーの曲になりました。もともとすごく好きな作家さんだから、交わらないはずはないとは思います。もちろん、「大好きな西さんの歌詞や! わぁっ」て思ったけど、好きやからこうなるよねって。 ――交わる部分というのは、どういうところで感じましたか? 橋本:サビの<僕らにまつわるすべてのことは ひとつも欠けてはいけなかった>という部分は、10周年のチャットにすごく交わるなと思いました。 福岡:私も歌詞を見たときに“自分たちのことかな”って思いましたね。あと、作家さんというのがすごくいいハードルになったというか。西さんの本が好きな人も、チャットの音楽を好きな人もいいと思えるものを作りたいとすごく思ったんです。「やって良かった」と思えるものになるには、その歌詞にそって、ふたりで演奏するのがいいかなと思いました。 ――だからこそ、この曲はチャットモンチーのふたりで作ったと。おふたりの考える西さんの言葉や作品の魅力とは? 橋本:歌詞と作品とではまた違うんですけど、文字を読んでいて想像が広がるし、「こういうことを文章にしてくれたんだ!」という感覚があります。きっと、チャットの歌詞の「毒」もそうやって思ってくれている人が多いと思うんです。「こういう気持ち、こうやって書くんや」「でも、難しくなく書いてるから、思いつかなかった」っていうことが多々起こって、西さんの本は特にそれのくり返しというか。「わっ」って驚くことばっかりだから、そういうのが好きなんでしょうね。 ――さて、対バンツアーが発表になりましたが、これもかなり自由ですよね。たとえば、広島公演で共演する柳沢慎吾さんが何をするんだろうとか。 福岡:柳沢慎吾さんは何をしてくれるのかまだわかんないです。ダメもとでお願いしたらOKを頂けました。とにかく人を引きつける魅力が百人力くらいある人なので、そういう意味ではめちゃくちゃ強力、バンド並みに音圧がすごいと思うんですよ。このツアーは基本的に、チャットが好きなバンドをお客さんに好きになってもらったり、個々で見たことがあっても、一緒にいるのは見たことがないとか、組み合わせ的に面白いものを見てもらったり、というポイントをすごく大事にしています。イベントを組むのも、出るのもアマチュアのときから多くて、一日6組くらいのイベントに出る世代だったので、どうしてもイベントをやりたがるところがあって(笑)。あの感じって絶対に楽しかったし、ワンマンで見るのももちろんいいけれど、そこでしか出会えないこともすごく大事やでって思いますね。 ――チャットモンチーの編成としてはどうなるんですか? 福岡:男陣、乙女団、チャットの6人のミックスですね。とにかく聴いても見ても楽しめるライブにしたいと思っているので、絶対に一回はライブに来てほしいです。 橋本:うん。フェスにミックスで出るのも初めてなので、楽しみたいです。 (取材=神谷弘一/構成=橋川良寛)
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チャットモンチー『共鳴』(Ki/oon Music)

■リリース情報 『共鳴』 発売:2015年5月13日 <CD> 01. きみがその気なら 02. こころとあたま 03. ぜんぶカン 04. 隣の女 05. 毒の花 06. 私が証 07. 楽園天国 08. 最後の果実 09. 例えば、 10. いたちごっこ 11. ときめき 12. ドライブ <DVD> ※初回生産限定盤のみ 「共鳴なう」 Music Video 01.こころとあたま 02.いたちごっこ 03.ときめき 04.隣の女 特典映像 05.「男女六人ないものねだり~『共鳴』完成パーティー~ 」 初回生産限定盤(CD+DVD / 2枚組) KSCL-2610~2611 ¥3,400(税抜) ①DVD付2枚組 ②デジパック仕様 ③シングル (『ときめき / 隣の女』) とのW購入者特典抽選応募券封入 初回仕様限定盤 (CD / 1枚組) KSCL-2612 ¥2,900(税抜) シングル (『ときめき / 隣の女』) とのW購入者特典抽選応募券封入 ■ライブ情報 全国対バンツアー「チャットモンチーの求愛 ツアー♡2015」 2015年 6月04日(木) 広島CLUB QUATTRO <出演者> チャットモンチー、柳沢慎吾 6月05日(金) Zepp Fukuoka <出演者> チャットモンチー、ハナレグミ 6月10日(水) Zepp Namba (OSAKA) <出演者> チャットモンチー、Ken Yokoyama 6月11日(木) Zepp Nagoya <出演者> チャットモンチー、GRAPEVINE 6月20日(土) 仙台Rensa <出演者> チャットモンチー、YOUR SONG IS GOOD 6月26日(金) Zepp Sapporo <出演者> チャットモンチー、スチャダラパー 7月01日(水) Zepp Tokyo <出演者> チャットモンチー、ほか(※後日発表) 開場:18:00 / 開演:19:00 (※仙台公演のみ 開場17:00 / 開演18:00) 一般チケット:¥4,860 (税込) チケット一般発売:4月25日(土) *東京公演のみ6月20日(土)一般発売 ワンマンライブ「チャットモンチーのすごい10周年 in 日本武道館!!!!」 11月11日 (水) 日本武道館 開場:17:30 / 開演:18:30 一般チケット:¥6,700(税込) ワンダフルチケット~お土産付き~:¥11,111(税込) http://www.chatmonchy.com/

ななみ、1stアルバムに込めた“人生の感情”を語る 「たぶん一生、愛を叫んでるんだろうな」

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【リアルサウンドより】  この人が歩んできた生きざまが透けて見える、強烈な作品である。ななみのデビュー・アルバム『ななみ』の完成だ。あまりに深い感情を含んだバラードの「愛が叫んでる」、リズミカルでポップな「I’ll wake up」と2曲のシングルをリリースしてきたななみだが、本作ではその両極をつなぐような曲たちが並び、さらにはそうした枠をはみ出すイメージの楽曲もある。ことにヴォーカルとソングライティングにおいては、このアーティストの高いポテンシャルがしっかりと表現されている。中学時代からシンガーを目指してきた彼女にとって、21歳の今ようやく自分のアルバムを形にできたことは感慨もひとしおだろうと思う。ここには、それだけの努力の積み重ねが反映されている。  そして感じるのは、ななみがかねてから表明している「愛」というテーマ性の大きさと、その周りに重なって見えるいくつかのワードの存在だ。それは「夢」であり、「恋」であり、「青春」である。こうした言葉たちが指し示すものをたどればこのアルバムを浮かび上がらせることになり、ひいては彼女の人生を貫く何かにもつながるに違いないと考えた。というわけで今回のインタビューでは、13の楽曲群に触れながら、ななみが抱える感性や価値観、さらには生きざまの一端を射抜こうと思った次第だ。  取材を終えた今は、ななみの歌が持つ深みと厚みは、やはり今どきの21歳にしては稀有であろう壮絶な半生を送ってきたからこそ生まれたのだと強く感じている。ただ、そんな中でも女の子としてのかわいらしさものぞかせているのが印象的だった。彼女には、これからも悩みながら、苦しみながら、転がりながら、多くの人の心を救う歌を歌っていってほしい。アルバム『ななみ』は、その尊い第1章になる。(青木優)

「『ななみという人間はこういう人間なんだよ』っていう色のアルバムにしたかった」

――このアルバムはあなたが21年間生きてきた、その人生のさまざまな感情が詰まっている作品だなと思います。 ななみ:ありがとうございます。私のことを知ってる上で聴いてくださると、全然違いますよね。 ――そう、ななみさんの生きてきた背景をね。そのアルバム・タイトルは『ななみ』と、ストレートですね。 ななみ:はい。私は人間らしいアルバムを作りたいと思ってたんです。ただ、そうすると明るい曲ばかりじゃなくて、イヤなことも歌うし、毒もあるし……それを詰め込みすぎたら虹色のように色が多すぎて、バランスがとれないかなと思ったんですけど。でも実際に私が経験してきたことはこんな感じだったし、それは何も偽りないことだなと思いました。「ななみという人間はこういう人間なんだよ」っていう色のアルバムにしたかったですね。 ――ほんとにその通りで、あなたらしさが全面に出ているアルバムだと思います。で、ライヴを観ていた身としては、そんなにビートが強い曲が多い人ではない印象があったんですよ。それがこのアルバムでは……。 ななみ:覆せました? やったぁ!(笑) それは私がひとりで演奏してるわけではないから、豪華になりますよね。どんなに明るい曲でも、弾き語りだとちょっとスローに聴こえたり、バラードっぽく聴こえたりしますから。このアルバムは、アレンジも全部気に入ってますね。 ――しかも、明るい曲調のものもありますよね。 ななみ:「ななみは毒があるから明るい歌は唄わないんだ」みたいなイメージを持たれても仕方ないし。自分は薬よりも毒のほうが好きなんですよ(笑)。だけどまだ21歳だし、自分だって恋をした時とか毎日メイクする前にかわいい曲を聴いてテンション上げたりするので、そこは今にしかできないこと……この先、25歳とかになってそんな曲を出してもリアルタイムじゃないし、出すなら今だと思ったし。あと、恋があって愛になるわけだから、そこもちゃんと共感してほしいなというのもありましたね。 ――うん、僕も同じことを考えました。恋についての歌をこういうふうに唄えるのは、21歳の今だからだろうなって。 ななみ:うん、そうですね。きっと私は、愛について歌っているけど、この愛に対しての価値観も、今、21歳らしさの愛だと思うんですよ。もしかしたら30歳になって振り返った時に「全然そんなの愛じゃないよ」って思うかもしれない。だから、「愛が叫んでる」とかもそうですけど、何やかんや言って、21歳らしいんじゃないのかなと思うんですけどね。

【ななみ】「I'll wake up」MUSIC VIDEO Full ver.

「やっぱり私は音楽以外なかった」

――ではここからは、それぞれの曲について聞いていきますね。アルバムは、前回お話を聞いた「I’ll wake up」で幕を開けて、2曲目は「去れ負け犬よ」。以前からライヴでもやっている曲ですが、この歌詞は自分自身に向けていますね。 ななみ:そう、自分に言ってますね。これを書いた当時は引きこもりだったり、ヤンキーだったり、そういう自分が本当にイヤだったんでしょうね。でも最近、この歌に助けられることが自分自身にあって……。たとえば全国で弾き語りでライヴしてると、聴いてくれる人が全然いなかったり、お客さんがいても、私のことを知らないから携帯いじってたりするんですよ。そういう自分が負けそうな時に歌いますね(笑)。お客さんだって、みんなが自分が勝ち犬だとは思ってないと思うし。「人に言うけど自分にも言う」みたいな感じで今は歌ってます。 ――<結局人は簡単に裏切るし/どうせなら最初から 疑おうと思ってしまう>という歌詞はななみさんらしいと思います。人間観が出ていますね。 ななみ:(笑)そうですね、ヒネくれてますかね? ここの歌詞が一番気持ちいいですよ。ライヴを観てくれないお客さんの顔見て「お前だよ!」みたいな感じで歌うと、携帯をしまって「ごめんなさい!」みたいな感じで聴いてくれる人もいて(笑)。でもそこからファンになってくれる方も多かったので、ぶつからないとダメだなと思います。 ――たくましいですね(笑)。次の「約束を果たすその日まで」は別れの場面を描いた、かなりグッと来る曲ですけど。これはきっとこういう場面が本当にあったんじゃないかと思いながら聴きました。 ななみ:そうですね。17歳の、まあ、ヤンキーの時に、結婚してもいいかなというぐらい好きな人に出会えたんですよ。それで「もしかしたら音楽をやらずに、この人と結婚して家庭を築いて……」とか考えだしちゃったんです。その時はオーディションとかも受けてたけど、先が見えなかったので、ほんとに未来について一番悩んでて。で、結局「音楽をやりたい、でもこの人と付き合いながらはムリだ、別れよう」という話をこっちから切り出して、別れたんです。そのあとにMusic Revolution(ヤマハの全国大会のグランプリ)を獲れたので、「あの時のさよならがなかったら今の自分もないんだろうな」って思いますけど……その時、「あんなに素敵な人と別れたんだから、絶対夢を諦めちゃいけない」って思えたんですよ。だからこれは「いつか夢をかなえて約束を果たすその日まであなたには会わない」っていう曲なんですけど、ただデビューできた今、向こうはもう結婚して、子供もいるんですね(笑)。夢を目指してる自分と恋をしたい自分がいて、そこで何かを選ばなきゃいけない時ってあると思うので、そこを共感してもらえたらなと思いますね。 ――そうですね。ただ、17歳でそこまでの決断を迫られる人って、あまりいないと思います。 ななみ:うーん……やっぱり私は音楽以外なかったんですよね。だって自分で決めたのに、「あなたと結婚したから私は夢をかなえられなかった」とか言いたくないじゃないですか(笑)。わかってたんですよ、恋なんて一瞬だって。でも夢は、音楽は永遠だって思ってたから、そっちを選びましたね。 ――4曲目は「I live for love」。これもタイトルに愛があります。 ななみ:これはあとで話す「悲しみはありがとう」の次の曲だな、という気がします。誰かにキズつけられて、誰も人を信じられない。キズを負うのが怖い。でも「誰かを愛することって素晴らしいんだな」と気づけた気持ちというか。私からすればファンの人だったり、最後まで見放さなかった家族だったり、そういう存在なんですけど。 ――つまり、広い意味での愛なんですね。 ななみ:そうですね、うん。電車とかスクランブル交差点とか、人が多いところで、イヤホンで聴いてほしいと思います。うるさいところだからこそ静かな曲を聴いて、考えてほしいですね。いろいろ。 ――続いては「愛してる」。これもバラードですね。 ななみ:これは、さっきの人と違うんですけど、ある人と別れた時のことで……その時はその人の幸せを願えないじゃないですか? 「ほかに取られたらどうしよう」とか「こんなに愛しているのに!」と思って別れたんですけど、でも「それって愛じゃないな」って気づいたんです。別れてから半年ぐらいまでは「新しい彼女できたかな」と思ってFacebookを調べたり、「どんな日常を送ってるのかな?」とか、気になったりしません? そのうちは全然愛じゃないんだな、自分を愛してるんだな、と思って。 ――ああ、執着してるうちは? ななみ:うん。でも2ヵ月、3ヵ月、半年経った時に「もうどうでもいいや」と思ってきちゃうじゃないですか。で、ひさしぶりに電話来てもうれしいわけでもなく、「元気? 幸せになってね」って、ほんとに言えるようになってからが愛なんだなって。それが男女じゃなくて、人間としての愛……相手の幸せを願えることが愛と呼べるのだろうな、という歌です。 ――歌詞の一番最後の<この穏やかな気持ちを/『愛』と呼ぶのでしょう>というところですね。 ななみ:そうです。歌を入れる時も、最後は笑顔で唄って、ちゃんと出口に向かえるようにしました。ただ、この曲みたいに、自分のイヤなところがわかりながらも手放せないという女の子の気持ちを、世の中の男性には気付いてほしいですね(笑)。

【ななみ】「I live for love」(1stアルバム「ななみ」収録)動画作品

「母親のような曲を作りたかった」

――わかりました(笑)。で、このアルバムは曲調に幅があって、そのぶん、いろんな歌い方もしてますよね? とくに次の「出逢えたのはあの店で」は、かなりかわいくて。 ななみ:ああ、そうですね。これは自分のかわいいと思える場所を全部出しました。出しきって、何も残ってないぐらい(笑)。これも経験したことで……田舎娘なので、上京したての頃は東京の人って、みんなカッコ良く見えるんですよね。すごい!オシャレ!カリスマ!みたいな(笑)。で、あるお店に行った時に店員さんがすごいカッコ良くて、ひと目惚れをしたんです。ほんとにひと目惚れをした時って、しばらく考えません? 5日とか1週間とか。 ――(笑)1週間も? ……ああー、でも引きずるかもなあ。 ななみ:ですよね? やっぱり魅力的な人って。で、ひと目惚れをして、最初から最後までそのことをずっと歌ってる曲ってなかなかないなと思ったから、今のうちに作ろうと思ったんですよ。ひと目惚れをしてる女の子たちがこの曲でその気持ちを盛り上げてくれたらいいなと思って。でもさっきの人、そのあとも「どこかでまた会えないかな?」「いないかな?」と思ったんですけど……あとで気づいたんですけど、東京では2回目会える偶然は、なかなかないですね。それぐらい一瞬の出会いというか。 ――そうですね(笑)。ななみさんに恋の歌って、あんまり多くないですよね? ななみ:いや、ありますあります! 実はあるんですよ? でも唄いながら、自分でも超恥ずかしいんですけどね(笑)。若い子にも聴いてもらえたらと思います。 ――次は「許されざる愛」。これはまた一転して……タイトル通りのね。 ななみ:そうですね。これは最初のメロディを適当な英語で作ってたので、とことん洋楽チックに振り切って作ろうと思いました。洋楽ではR&Bが好きだったので、歌ってて、一番気持ちいいです。この曲は、それこそ女性がツラい経験を……他人から認めてもらえない恋やかなわない恋をしても、キレイになっていってほしいなと思って作りましたね。メイクをする時とかショッピングをする時とか、その人のことを思いながらキレイに、強くなっていけるような……そういう曲にしたかったです。 ――そうですか。いやあ、視点が大人ですね。 ななみ:いえいえ(笑)、そんなそんな。 ――そう思いますけどね。「ポケットの恋花火」もかわいい曲ですね。 ななみ:はい、自分の中のジャンルで言うと「出逢えたのはあの店で」と同じですね。これは大分にいた時から作っていました。<放課後>とか<グランド>っていう言葉からもわかるように中学時代の思い出なんですけど、花火を見た時に「好きな人のことを思う鼓動を<心の中の花火が打ち上がる>みたいに比喩できないかな」と思ってて。「恋桜」(シングル「I’ll wake up」のカップリング)と一緒で、恋と花火が視点を変えてマッチできないかな、と。その時に歌詞はできてて、かわいいメロディはちょっと大人になってから固めました。 ――この<いぢらしい夏よ>という表現には、その頃の自分を今の視点で見て、書いてる感じがします。 ななみ:うん、そうですね。はっきりしない、ウジウジしてる若者の背中をドンと押せるような片思いソングになればいいな、と。まあこの曲は、結局最後は両思いになるんですけどね。だからリア充なんですけど(笑)。 ――9曲目の「君という宝物」は、またまた一転して、切実なバラードですね。 ななみ:これは私の親友……というか、友達が地元にはひとりしかいないんですけど。その子がある日、すごく大切な人をこの世から失くしてしまったことがありまして。でもあんまり弱みを出してくれる子じゃないから、なかなか教えてくれないんですよね。それで私は気づいてはいたんですけど、向こうが言ってこないから、言えなくて……で、私にできるのは曲を作ることだなと思って、作りました。それでワンマンライヴにその子が来るのは知ってたので、この曲を歌ったら、最近になって「気づいてたよ」って、やっと教えてくれたんです。命にかかわらず、<君という宝物>はみんなにあると思うので、置き換えて聴いてもらえたらと思います。 ――その話はライヴの時にしていましたね。そして10曲目は、「悲しみはありがとう」なんですが。いきなり<嘘つき。やっぱり離れていくのね>から始まるという……。 ななみ:これはもう、このままですね(笑)。これを書いた時の自分は、ほんとに人間が大っ嫌いだったんだなと思います。今思うと、よくもこんなマイナスなことを書けるなって。まあマイナスなように見えて、最後はプラスに行ってるんですけど。 ――うん。プラスに思おうとしてるんじゃないでしょうか? ななみ:そうですね、うん……って、私が気づかされた(笑)。もちろん男女でもそうなんですけど、誰だって裏切られることはあるじゃないですか? 向こうは裏切ってるつもりじゃなくても、全部信じられなくなる時ってあるし……。それで私、悲しい時にはすぐに母親の顔が浮かんで、いつも実家に泣きながら電話するんですよ。そういう存在の曲があったらいいなと思って作りました。私にとってのその歌は、中島みゆきさんの「ファイト!」なんですけどね。誰かが悲しい時にイヤホンつけて「これ聴こう」って、パッて勝手に指が動く、そんな母親のような曲を作りたかったですね。 ――うんうん。で、これはあなたにとってのそういう曲にもなっていってます? ななみ:そうですね。たまにツラいと、聴いてますね(笑)。<嘘つき。やっぱり離れていくのね/分かっていたのに忘れかけてた>……Aメロがそういう「ひどいわ!」っていう、ツラい!悔しい!悲しい!ってところから入ってくれると、聴くほうは楽なんですよね。キレイごとばっかりじゃなく、ほんとにキズをさすってくれるような曲じゃないかと、自分で勝手にそう思ってます。

【ななみ】「愛が叫んでる」MUSIC VIDEO Full ver.

「普通に勉強できて、社会的に支障がない人がうらやましい」

――そう、すごく吐き出してますもんね。そして次の「Dahlia」は、あなたの毒の部分が出ていますね。 ななみ:周りを見ても、男性に振り回される女性が多い気がするんですよね。電話してくれない、メールしてくれない、私のこと好きじゃないの?みたいな、捨てられる女、浮気される女ソングが多くて。それも事実だと思うんですけど、もうちょっと考え方を変えたら大人になれるんじゃないかな、と思ってるんです。この曲、最後の最後まで、恨みを晴らそうと思ってたんですよ。でも詞を1ヵ月ぐらいかけて仕上げたんですけど、書いてる途中で恨みがどうでもよくなったんですよね。「ちょっと待てよ? いや、この男、くだらねえな!」と思って。これが女性の成長の速さなのかなと(笑)。聴いてくれる女性にも、この曲の5分ぐらいの間に「そうだ!」と思ってほしいなと。いつまでも泣くんじゃなくて、「恨んでたら同類なんだよな、男は子供だ!」ぐらいの上から目線で楽になってほしいなと思って(笑)。もちろんキズつく恋も大事だと思うんですけど、こういう曲が一番自分らしいですね。 ――いやあ、こういう時の女性は強いというか、怖いですね。 ななみ:そうですね。ライヴの時に「出逢えたのはあの店で」のあとに絶対にこれをやっちゃいけないなって思います(笑)。並べるべきじゃないですね。 ――わかります(笑)。12曲目は「涙レンズ」。これはしみますね。 ななみ:これは自分が普通じゃない人間っていうことがわかってるという歌なんです。私は音楽がないと生きていけなくて、恋愛は音楽の下というか、完全に次なんですよね。だから音楽のことによって不安定になる時期もあるし、つき合った人に迷惑をかけたこともよくあったんです。でもそういう時に、強がって助けを求めることができないんだけども、ただただ見守っていてほしい、という曲です。強がっているようで、弱いんですね。それはファンに対してもそうで、私は不器用だから考えることも変わるし、「ななみ、それは違うんじゃないの?」って思うことがこの先あるかもしれないんですけど、涙のレンズ越しで見守っていてほしいんだ、って。自分をこれからも愛してください、と言ってる曲ですね。 ――そう、ここにも「愛されたい」という気持ちがありますね。 ななみ:そうですね。私、普通に勉強できて、社会的に支障がない人がうらやましいなって思うんです。私が経験してきたことや生き方に共感できる人は少ないと思うし、白い目で見る人もいるかもしれない。でも自分を信じて、前を向いて歩いていこうと思う。その隣にいてくれる人に「迷惑をかけてごめんね」という曲ですね。 ――わかりました。そして最後が「愛が叫んでる」ですね。 ななみ:そうですね。この曲で終わった、眠ったように見えるけど、アルバムをリピートすると「I’ll wake up」のイントロが始まるので、また目覚めた!みたいに聴いてほしいと思います。あと、このアルバムの曲たちを陣取ってまとめられるやつは「愛が叫んでる」しかいないなって思ったんですよね。ボスっていうか(笑)。こんなに愛だのどうだの言ってるわがままな曲たちの中で、唯一ブレずに唄えてきた歌なので。 ――こうしてアルバムを聴くとあらためてよくわかるけど、やはりななみさんの歌は愛が大きなテーマになってますよね。まず、そこにたどり着いてしまうのは、なぜだと思います? ななみ:えーっ、何でだろう? ……べつに愛に満たされてるわけでもないと思うんですけどねえ。だから、かな? ――そうそう、だからだと思うんです。 ななみ:うん、たぶん、いまだに満たされてはいないんでしょうね。たぶん満たされたら、人間ってないものねだりだから、どんどん違うものを求めるようになるんでしょうけど。私、家族もちゃんといるし、ファンもすごく愛してくれてるし、スタッフの方々も仕事という形で愛を返してくれるし、孤独に思うことなんて、ないですけど。でもたぶん一生、子どもを産んだとしても、愛を叫んでるんだろうなと思います(笑)。それが幸せなんだろうなと思います。ただ、逆に幸せになったら、愛に満たされたら、自分はどうするんだろう?と思いますね。まあ満たされることなんて、ないでしょうけど……。 ――それと愛と同じように「夢」という言葉もものすごく大事ですよね。さっきの話でも出てきましたけど、愛情を求めながら、夢に向かっていく自分もいるわけじゃないですか。その狭間でななみさんは生きてきたんだろうなと思いました。 ななみ:うん、そうですね。ただただ自分に期待をしていくしか、ほかに目を向けるところがなかったです。それが自分にあげられる愛だったので……夢があって、ほんと良かったなと思いますね。

「愛を求めてるのは(素顔の)ななみちゃんで、(アーティストの)ななみは夢を目指してる」

――それからこれを訊いてみたいんですけど。ななみさんの青春って、どんなものだったと思います? ななみ:ええ~っ! 青春ですか……!? ――まあ今もまだ青春の真っただ中だと思うんですけど。 ななみ:えっ、全然、青春、ないですよ。超乾いてますよ! 干からびてます(笑)。ええーっ、青春かあ……青春ねえ……。 ――そんなに答えに困るの? ななみ:困りますよ! だって学校行ってないんだもん。学校ってイメージあります、青春って。部活で県大会目指して、汗水流して……まだ汗が臭くない時期、みたいな(笑)。私の青春はたぶん、反抗期かな。 ――反抗期だった頃? 17歳ぐらいの? ななみ:やっぱりヤンキーだった頃ですね。ヤンキーの時期は一番音楽と離れて、ひとりの女の子として生きてたので、それが青春だったかなと思いますね。それまでは「夢を見なきゃダメなんだ!」っていう自分がどっかでいたけど、でもヤンキーの時はそれがなくて……結婚を考えるぐらいだったんで。 ――じゃあ、その後にまた音楽への夢を持つようになって、ここまで来たわけじゃないですか。ここまでの過程は青春だとは思ってないんですか? ななみ:全然思ってないですね。夢を追いかけることが青春かもしれないですけど、私はそれが当たり前だったから、青春だとは思ってなくて。どちらかというと、恋愛だけが青春だと思ってるかな……それ以外のことがなかったから。(青春は)青いってことですもんね? ――そう、未成熟がゆえの感性だったりね。ただ、そういうのとは違うところで生きてきたような感じがあるんですね。 ななみ:そうですね、文化祭も1回しか出たことないし……運動会も1回しか出たことないし。みんなで「おう!」とかすごい嫌いだし(笑)、そのぐらい熱さがなくて。「夢は信じればかなうんだ!」みたいなのが、全然ないですね。ディズニーのようなのは。 ――夢は実現させていくべきもの、ということ? ななみ:どうなんでしょうね……夢か。夢が自分、みたいな感じでしたもんね。あまりに現実が見たくなくて(音楽をすることに)夢を見てた感じですかね。ほかに見るものがなさすぎて。 ――それだけ自分の生きる道を音楽に見出そうとしてたということですね。 ななみ:音楽がなかったら生きていけなかったですからね。<音楽=夢>だったので、それ以外のものは夢じゃないというか。 ――うん。そして今はまだその夢を手に入れようとしている渦中なんですよね。そこでは愛も欲しがるけども、ただそれは、夢と一緒にはなかなか成立するものではない、ということなんですよね。 ななみ:そうですね、違う自分って感じです。愛を求めてるのは(素顔の)ななみちゃんで、(アーティストの)ななみは夢を目指してる。そこがパッキリ割れてますね。 ――その両方が混在してるのがアルバムに出てると思います。 ななみ:あ、ほんとですか? 自分じゃわかんないです、何も(笑)。 ――僕も今日、話していてわかりました。うん、今日はありがとうございました。これからも頑張ってください。期待しています。 ななみ:頑張ります! そう、頑張るしかないんですよね(笑)。どうもありがとうございました。 (取材・文=青木優)
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ななみ『ななみ』(e-stretch RECORDS / 日本クラウン)

■リリース情報 『ななみ』 発売:2015年5月13日 価格:¥2,778(税抜) 品番:CRCP-40407 〈収録曲〉 M1:I’ll wake up M2:去れ負け犬よ M3:約束を果たすその日まで M4:I live for love M5 :愛してる M6:出逢えたのはあの店で M7:許されざる愛 M8:ポケットの恋花火 M9:君という宝物 M10:悲しみにありがとう M11:Dahlia M12:涙レンズ M13:愛が叫んでる 全13曲収録 ■ストリートライブツアー情報 “~73 Street Mission 2015~” 5月13日(水)九州予定 5月14日(木)九州予定 5月15日(金)九州予定 5月16日(土)九州予定 5月17日(日)九州予定 5月23日(土)東京都 新宿駅、渋谷駅周辺予定 5月27日(水)愛知県 名古屋駅周辺予定 5月28日(木)愛知県 名古屋市内予定 5月30日(土)埼玉県 大宮駅、川口駅周辺予定  ...and more 以降、6月、7月も"73 street mission 2015"は全国に展開予定。 詳細は、オフィシャルHP・ななみスタッフTwitter・facebookで随時更新。 http://73music.jp/

『ひらけ!ポンキッキ』の背景にある驚きの音楽史とは? 史上初のテレビ童謡研究書を読む

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小島豊美とアヴァンデザイン活字楽団『昭和のテレビ童謡クロニクル 『ひらけ! ポンキッキ』から『ピッカピカ音楽館』まで』(DU BOOKS)

【リアルサウンドより】  大変な労作。一言で説明すると、テレビ童謡の歴史を関係者の証言と資料から描き出した史上初の研究書・資料集となるが、それだけじゃなく、同時にアニメソングの展開史の側面もあり、さらには日本フォーク、ロックの裏面史でもあるのだ。  著者にクレジットされている小島豊美は、フジテレビの児童向け番組『ひらけ!ポンキッキ』のオリジナル楽曲のほとんどを最初期から担当したディレクターである。  つまり、「およげ!たいやきくん」も「いっぽんでもニンジン」も「パタパタママ」も「まる・さんかく・しかく」も「おふろのかぞえうた」も「カンフーレディー」もあれもこれも、当時、子供のみならず大人たちまでも口ずさみ、今もって歌い継がれている同番組の楽曲群のほとんどは、小島が手掛け、世に送り出してきたものなのだ。  本書は、小島へのインタビューを軸に、彼の仕事に関わった重要人物への取材も交えて、『ひらけ!ポンキッキ』、そして同番組リタイア後、小島が手掛けたテレビ朝日『ピッカピカ音楽館』を中心にテレビ童謡の歴史をクロニクルに編纂したものだ。  小島以外にインタビューされているのは、主力作編曲家だった佐瀬寿一、『ひらけ!ポンキッキ』の名物スポットの音響選曲を手掛けた長谷川龍、四人囃子のマネージャー内田宜政、『ピッカピカ音楽館』の楽曲制作を主に引き受けていた加冶木剛(ダディ竹千代)という面々である。  アヴァンデザイン活字楽団としてクレジットされている聞き手は、田中雄二。日本の電子音楽の歴史をまとめた『電子音楽 in Japan』といった著作、テクノ歌謡のコンピCD『テクノマジック歌謡曲』ほかの監修などで知られる人物である。といえばピンとくる人も多いだろう。  田中の仕事を知っている人ならば想像がつくとおり、インタビューをもとに構成されているとはいっても、よくある聞き書きの新書のようなお手軽なものではまったくない。データ収集や調査はあらかじめ入念になされており、外堀を埋めた状態で、資料などからでは知ることのできない当事者の証言を引き出し欠落を補完して、完全なものを目指したという印象である。  小島はあとがきで、本を書かないかという依頼は何度ももらったものの「ディレクターという仕事は何をする人なのか、リスナーにそれを説明するのは難しい」と二の足を踏んできたと書いている。本書は編集者(田中のことと思われる)からの打診で始まったそうだが、これまで踏ん切りのつかなかった小島をその気にさせたのは、田中の、良い意味での偏執気質が手応えを感じさせたからではないかと思われる。  また田中は、レコード会社や音楽出版社、制作会社といった産業、メディアや楽器といったテクノロジーなど、インフラによって音楽は発展を左右されてきたものだという視点を強く持っている人であり、とりわけその側面の大きいテレビ童謡の歴史をまとめる人材としてドンピシャだったということもあっただろう。

レコード会社学芸部という部署

 焦点を当てられるのは、レコード会社における学芸部という部署だ。レコード会社には邦楽部、洋楽部という区別があるが、学芸部はそのどちらにも属さない、音にまつわる商品全般を受け持つ部署で、童謡やアニメ、映画音楽、落語などは学芸部が担当する商品だった。 『ひらけ!ポンキッキ』の音楽は、ごく初期を除き、小島が参加してからはキャニオンレコードの学芸部が制作を受け持つことになるのだが、フジテレビ系列の会社がいくつも関わっており、経緯がなかなか複雑である。  そもそも小島が入社したのはキャニオンではなく、ニッポン放送の子会社でテープ販売会社であるポニーなのだ。音楽テープ市場に新規参入が増えてきて苦しくなったために、ポニーをサポートするべくレコード会社のキャニオンが作られたという流れなのだが、なぜそういう話になるのかというと、音楽原盤の問題が生じてきたからで……という具合に、60年代から70年代にかけての音楽産業のちょっと特殊な構造や地殻変動が『ポンキッキ』楽曲の背景には横たわっているのである。そのあたりももちろん本書では詳述されている。  要点だけ簡単に記すと、『ひらけ!ポンキッキ』の番組を制作していたのはフジテレビ傘下の制作会社フジポニーで、音楽も最初はフジポニーが制作していたが、74年から小島がキャニオンの学芸部ディレクターとして手掛けるようになった。  小島は71年にポニーに入社、営業を経て73年に企画部に異動となるのだが、同時にキャニオンの学芸部ディレクターも兼任することになる。キャニオンは70年に設立されたものの業績不振で社員の半数がリストラされており、制作部はポニーとほぼイコールになっていたためだ。 『ポンキッキ』楽曲の制作費は、フジテレビの版権管理業務を行うフジ音楽出版から出ていたそうで、版権と原盤も同社が持っていた。フジ系列にはもう一つ、ニッポン放送が作ったパシフィック音楽出版という音楽出版社もあって、85年に両者は合併してフジパシフィック音楽出版となる。  音楽テープビジネスは60年代に隆盛したのだが、それは、あまりに閉鎖的だったレコードビジネスの隙を突いて市場を広げたかたちだった。原盤の使用権についてもレコードとテープは別だったため、音楽テープは複数のレコード会社と取り引きすることができた。キャニオンが設立されたのも自社原盤をポニーに提供するのが目的だったのだが、そのへんの事情については本書に当たられたい。  キングレコードや日本コロムビアは老舗の学芸部を抱えていることで知られていた。彼らから見ればキャニオンは商売敵だが、片やポニーは原盤を貸し出すビジネスパートナーということになる。双方に籍を置く小島は、ポニー社員としてキングやコロムビアの先輩ディレクターらと親交を重ねることができ、そこで得たものをキャニオンのディレクターとして制作に反映することができるという特殊な立場にあったわけだ。新興レコード会社であるキャニオンの学芸部の蓄積はゼロ、小島もまた童謡など子供向けの音楽を制作した経験を持っていなかったという。

微に入り細を穿ち歴史の空白を埋める

『ひらけ!ポンキッキ』は新しいタイプの教育番組としてスタートし、当初は有料会員を募って、毎月発行されるテキストや絵本と番組を連動させる仕組みになっていた。番組内の音楽も初期は市販はされず、会員向けのレコードとして配布されていた。小島は3枚目のアルバムから関わるのだが、1枚目、2枚目のアルバムはこれら会員向けの楽曲を集めて作られたものだった。  1、2枚目の作詞に多くクレジットされている高見映は、NHK『できるかな』のあのノッポさんだ。高見は最初期から長年のあいだ『ひらけ!ポンキッキ』の構成作家を務めていたのだ。  また、この時点ですでに、伊藤アキラ、吉岡治(オサム)、桜井順といった大御所となる人たちが作家として参加している。歌謡曲の作家陣が多く起用されていたことについて、小島は、「子供向けに作ってないですからね。子供は大人になる通過点でしかないという意識があった。子供だって小賢しいから、物事の本質はわかってるわけ」と述べている。  73年『ママとあそぼう!ピンポンパン』のオリジナル曲「ピンポンパン体操」が260万枚の大ヒットを記録、それを受けて各局で児童番組が乱立し始める。 『ひらけ!ポンキッキ』も75年4月から「今月の歌」という新曲オリジナルコーナーを開始した。小島が制作に本格的に関わり始めるのはここからだ。『ピンポンパン』は『ポンキッキ』より先に放映されていた、やはりフジテレビの子供向け番組なのだが、局内ではライバル関係にあったのである。  第1弾シングルは、視聴者のお母さんから募った歌詞を岡本おさみが補作詞し、吉田拓郎が作曲した「たべちゃうぞ」。第2弾が「およげ!たいやきくん」で、これが460万枚という超特大のヒットとなる。この売上記録は現在に至るまで破られていない。「たいやきくん」を書いた高田ひろお(作詞)と佐瀬寿一(作編曲)のコンビは、以後「『ポンキッキ』のレノン=マッカートニー」として主戦力となる。

beポンキッキーズ40th ソングス 「およげ! たいやきくん」

 このあたりから、田中のインタビューは微に入り細を穿つ様相になっていく。曲ごとのデータをあらため、作家や歌手たちのプロフィールや、参加に至った経緯を問い、制作の背景や秘話を聞き出し、歴史の空白を埋めていくのである。  大衆文化のなかでも、子供向け音楽のようなジャンルはことに軽んじられてきたため、残された資料も限られている。詳細不明の作家や歌手も少なくない。当事者の記憶にだけ留められている情報は、他のジャンルに比してかなり多いだろう。  たとえば「およげ!たいやきくん」の子門真人の歌は5万円の買い取りだったというのは本当かといったトリビアから、『ポンキッキ』ソングにフォーク系歌手がよく起用されていた理由、クレジットには登場しないが実は関わっていた重要人物の存在などなど、謎や知られざる事実が次々に詳らかにされていく様は圧巻である。  Charや高中正義がギターを弾いている曲があるというのは初耳だったし、プラスティックスを結成する前の佐久間正英が関わっていたというのもほとんど知られていないのではないか。  ここ数年で立て続けに復刻された、山下達郎人脈のシンガーである真宮貴子や池田典代が歌唱している曲があるというのも意外だったし、これは『ピッカピカ音楽館』での話になるが、松田聖子の影に埋もれた不遇のアイドル中山圭子(圭以子)が歌唱している曲があるというのも驚きだった。もっとも、この本に書かれていることの大半は知らないことばかりなのですが。

『ポンキッキ』ソングの尖鋭性

『ひらけ!ポンキッキ』の楽曲をあらためて聴くと、子供の頃にはぜんぜんわからなかったのだけれど、その時代時代の先端とされる音楽を実に素早く取り込んでいたことに気づかされる。シンセサイザーの導入もかなり早くからなされていて、75年の「たいやきくん」ですでにアープ・オデッセイが使われていたという。  それはしかし、流行に乗るというより、面白そうなことはやってみるという興味本位から実現されていたことだったようだ。佐瀬寿一のインタビューを読むとそれが確認できる。  佐瀬のインタビューで特に注目されているのは、80年の「おふろのかぞえうた」だ。全編打ち込み+シンセで録音された、クラフトワーク+バグルスみたいな曲で、ハーモナイザーでピッチをびょーんと上げられるボーカルが印象的である。

beポンキッキーズ40th ソングス 「おふろのかぞえうた」

   ——「おふろのかぞえうた」のエレクトロニクス導入だって、大きな決断だと思うんですね。
佐瀬 それをやらせてくれる番組だったんです。お金も出してくれて。スタジオを一日ロックアウトしないと、今みたいにプロ・トゥールスがあるわけじゃないから、まずテンポ信号を入れてからですから(笑)。
(…)
——でも、あの詞自体はテクノとは関わりないですよね。
佐瀬 悪ノリですよ(笑)。高田さん〔作詞の高田ひろお〕にいちいち説明もしなかったし。数え歌っていうとさ、すごく古いイメージがあるじゃない。「ひっとつっとせー」って。そういうところを払拭したいなってのがあったと思う。それであっちに逃げたのかもしれない。
——それでドイツのミュンヘンサウンドになると。『ポンキッキ』自体がすごくバタ臭い番組でしたから。クラフトワークとか平気でかけてましたし。ある意味、子供ウケのことを考えずに、大人が楽しめるノリで作ってる。
佐瀬 観る側も免疫ができてたと思うんです、『ポンキッキ』という番組に対して。いきなり何もないところにポーンと出したら、絶対拒絶されるよね。だから抵抗なく、「おふろのかぞえうた」とかが受け入れられたんだと思う。
「元々悪食だから。自分の感性のフィルターに通ったものなら、ギター1本だろうが電子音楽だろうがなんでもいいから」という小島の懐の広さによって、こうした悪ノリの実験意識がスポイルすることなく生かされることで、『ポンキッキ』の音楽は他のテレビ童謡とはひと味違う現代性を獲得できていたということだろう。

『ピッカピカ音楽館』へ

 85年にフジ音楽出版がパシフィック出版に吸収され、フジパシフィック音楽出版が誕生する。フジパは原盤制作もしており、『ひらけ!ポンキッキ』の音楽制作もフジパのディレクターが手掛けるようになっていく。小島の担当する割合は減っていき、86年の「からだ元気?」を最後に番組から外れた。  小島は87年にポニーとキャニオンを退社し、それ以前から誘われていた小学館—テレビ朝日の『ピッカピッカ音楽館』の音楽監督を務めることになる。この番組での最大の片腕は、ダディ竹千代こと加治木剛だったそうだ。  思いがけない名前が出てきて、ええーっ!と驚いたのだが、加治木は、ダディ竹千代&東京おとぼけCats解散後にプレイという音楽制作会社を興しており、『ピッカピカ音楽館』の音楽は主にプレイが手掛けていたのだという。 『ピッカピカ音楽館』は3年間続いたが、小学館の社員が制作に入り込んできて、小島はイニシアチブを取れなくなっていき、小島が抜けると同時に終了した。アルバムは1枚出たきりで未リリース作品がたくさん残されたのだが、本書はそれらのデータもすべて網羅している。
***
 本の性質的に紹介に徹するのがいちばんの書評だと考えてまとめてみたのだけれど、たぶんまだ10分の1も紹介できていないだろう。ともかく登場する楽曲や人物の数が膨大で、索引を見るとクラクラする。あの人がこんなところに!?という意外な発見も読者それぞれにあるに違いないから、ぜひ本に当たってみていただきたい。  ひたすら情報の確認をしているようなインタビュー本編はちょっと取っつきが悪い面もあるけれど、通史+資料集という性格の本であり、一度読んでそれで終わりという類のものではない。立ち読みはほとんど意味がないので、気になった人はとっとと買うのが得策である。 ■栗原裕一郎 評論家。文芸、音楽、芸能、経済学あたりで文筆活動を行う。『〈盗作〉の文学史』で日本推理作家協会賞受賞。近著に『石原慎太郎を読んでみた』(豊崎由美氏との共著)。Twitter

KIRINJI・弓木英梨乃、楽曲重視のギターテクとは? ゲス乙女。や『けいおん!』をリアレンジ

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弓木英梨乃

【リアルサウンドより】  KIRINJIメンバーであり、ギタリストの弓木英梨乃が、5月1日よりYouTubeにて「YUMIKI’s GuitArrange Studio」という番組をスタートした。定評のあるギターテクニックと独自のセンスを持って、原曲とは別のベクトルへとリアレンジするという試みの番組である。  先日公開になった第一回目は、ゲスの極み乙女。「猟奇的なキスを私にして」。呪文的に耳に残るタイトル詞と、同バンドの持ち味であるエキセントリックな楽曲展開が聴く者にインパクトを与える同曲であるが、ファンク&ディスコ調アレンジを施し、耳に馴染みのよい軽快なポップスに昇華させている。

#1「猟奇的なキスを私にして」(YUMIKI's GuitArrange Studio)

 右チャンネルでは軽快なカッティングを中心としたコードワーク、左チャンネルではピック弾きと指弾きを使い分けながら、単音弾きのオブリガードと時折フックとして入る小技フレーズが盛り込まれている。ヘッドフォンで聴くとその違いがより解るだろう。ヤマハの銘器、SA(セミアコ)とSG(ソリッド)の使い分けによる音色の違いも注目だ。

ゲスの極み乙女。 - 猟奇的なキスを私にして

 原曲ではAメロの無機質なピアノの分散和音とスラップ・ベースの後ノリ具合の絡みが独特の味となっているが、弓木アレンジではそのニュアンスは残しつつもスマートにまとめている。対になっているように感じられる2本のギターだが、小節アタマに右のギターがジャストに入っているのに対し、それを追うように左のギターが微妙にアタックをずらしながら、というように右から左へと流れていくようなフレージングが絶妙だ。  KIRINJIのメンバーとしても活躍する弓木だが、特に派手なプレイを魅せるわけでもなく、技巧派というわけでもない。元々シンガーソングライターという部分もあってか、あくまで歌を邪魔しない、楽曲を重視したアレンジの一環としてのギタープレイという趣である。  ビートルズを聴いて、ロックに興味を持ち、ギターを始め、ジョージ・ハリスンを完全コピーすることに没頭したという。ジョージといえば、「もっと評価されるべきギタリスト」として必ずといっていいほど名前があがる人物。歌のバックとして、楽曲に彩りを与えるサウンド・コンポーザーとしてのギターは絶品なのである。  そんな彼女であるが、一方でスティーヴ・ヴァイやスティーヴィー・レイ・ヴォーンなどのギターヒーローもフェイバリットとして上げており、インストゥルメンタル曲もある。

弓木英梨乃 - New World

 2歳半からヴァイオリンの経験があるという彼女であるが、それもあってか、左指の運指が美しいのだ。フレットに対して並行に近く、指板に対しても指を寝かせないよう角度をつけて押弦している。指の腹ではなく、指の先でしっかり押さえ込む。フレットのないヴァイオリンでは押弦する指先で音程も音色もニュアンスのコントロールするため、ギターにおいてもそうした押さえ方になるのだろう。それもあってか、ストレスのないポジショニング、なだらかな音運び、ゆったりとしたフレーズに表情とニュアンスが流麗に響くのである。

弓木英梨乃(ERINO YUMIKI)のギターセミナー けいおん!!(K-ON!!)GO! GO! MANIAC」(ゴー・ゴー・マニアック)

 どこか控えめな印象の強い彼女のギターではあるが、根はやはりロックギタリストだ。アニメ『けいおん!』のナンバーとして有名な「GO! GO! MANIAC」では、縦横無尽に駆け巡るギタープレイを見せる。ラフに見えて、メリハリを利かせたカッティングと単音弾きの使い分けで、絶妙なタイム感を操っている。  海外では昔から楽器演奏、特にギターに関していえば、楽器店を始めとしたセミナーやデモンストレーション、教則に関する文化は深く根付いており、近年では現役アーティストによる動画サイトでの模範演奏やSkypeを使ったレッスンも頻繁に行われている。日本においてはそうした動きはあまり一般化されていないのが現状だ。そんな中、こうしたギタープレイを堪能できる番組というのも興味深い。弓木は過去にも、MySpaceを使った「女の子による女の子のためのギター講座」などを積極的に行ってきた経緯もある。  最近では吉澤嘉代子といった個性的なアーティストのサポートを務める彼女。相川七瀬の作品ではアレンジャーとしての才覚も見せている。アーティストとして、ギタリストとして、アレンジャーとして、そして、ギターを弾く楽しさを伝える伝道師として、今後の彼女の活動に注目したい。 ■冬将軍 音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter ■関連情報 公式Twitter ⇒ https://twitter.com/yumikierino 公式Facebook⇒ https://www.facebook.com/erinoyumiki マネジメント窓口⇒http://www.yamaha-ma.co.jp/ 【ラジオレギュラー番組】 FMヨコハマ「Loco Spirits!」(毎週金曜日26時~ *30分) ■ライブ情報 ★KIRINJI 5月24日(日)GREENROOM FESTIVAL’15 @横浜・赤レンガ地区野外特設会場 6月23日(火)KIRINJI PREMIUM 2015 at Billboard Live TOKYO @ビルボードライブ東京 6月24日(水)KIRINJI PREMIUM 2015 at Billboard Live TOKYO @ビルボードライブ東京 ★弓木サポートライブ情報 「吉澤嘉代子 箒星ツアー’15」*サポートメンバー(Gt) 5月12日(火)名古屋・NAGOYA CLUB QUATTRO *完売 5月15日(金)大阪・UMEDA CLUB QUATTRO 5月16日(土)東京・赤坂BLITZ *完売

Gacharic Spinが見せた、唯一無二のエンターテインメント「みんなと作るこのライブが一番好き」

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【リアルサウンドより】  Gacharic Spinはわけがわからないバンドだ。もちろん、良い意味で。今年2月にリリースした『赤裸ライアー/溶けないCANDY』をひっさげたツアーファイナル、渋谷公会堂はまさに笑いあり、涙あり、何でもありの、ハチャメチャで最高の夜となった。  SE「GS Gacha2015」に合わせて湧き上がる“GS”コール。メンバーが順次登場すると同時に会場は一気に臨戦態勢に突入する。オープニングナンバーは2010年リリースの初シングル、「Lock On!!」でスタート。色とりどりのLED照明に彩られ、客席にレーザーが走り、上空には、これまた電飾が施されたマルチコプターが舞う、いかにもガチャピンらしいド派手なステージだ。4人から現在の6人編成になってから、アレンジが大きく変わった「More Power」、そしてキラーチューン「爆弾娘(ボンバーガール)」へ。のっけから飛ばしまくりのセットリスト。ステージ上の至るところで噴く火柱は、会場の熱を噴射しているようである。  頭を振りながら超絶なスラップを炸裂させるF チョッパー KOGA(Ba.)、にこやかな笑顔を振りまきながら爆音を掻き鳴らす“魔法使い”改め、1億14歳の“にこりん星の宇宙人”TOMO-ZO(Gt.)、セクシー担当だが、それよりも“お笑い・オチ担当”な印象が強いオレオレオナ(Vo.&Key.)はキーボードにまたがりながら流麗に鍵盤を奏で、時にヘッドセットマイクでステージ中央に躍り出る。真っ青な髪と派手なドラミングを見せるはな(Vo.&Dr.)は、パワフルで手数が多いドラムを叩きながら、こんなに歌が歌えるのかと疑ってしまうほどにエモーショナル。そんな強者プレイヤーたちの演奏に、ガチャガチャダンサーズの1号 まいと2号 ありさが音にシンクロし、ダンサブルにライブの高揚感を煽っていく。ステージのどこを見ていいのかわからない、誰を見ても熱く、どこを見ても楽しめるのである。  「ヌーディリズム」「好きな人、だけど…」ではアコースティックなガチャピン、“アコピン”でしっとり聴かせる。奇抜さと爆音ロックの印象が強いが、聴かせるところはしっとりと聴かせてくれるのも魅力の一つだ。レオナがくわえたゴムの端をステージ前のカメラマンに渡し、「絶対に離したらダメですよ」からの“ゴムパッチン”、恋愛トークからの“たらい落とし”など、往年のベタなコントもしっかり突っ込んでくる。先ほどまでの尋常じゃない熱量と確かな技量によって作られるライブとは裏腹に、バカバカしい要素も全力でブチかましてくるのがガチャピンだ。  どこに目をやっても派手なステージ上でひと際目立つのは、はなのドラムセットだろう。打面側にしか張られていないヘッド、タムの胴が配管のように曲がった強烈なインパクトを与える造形美は正面から見ればアルプホルンのようでもある。1970年代に短命で散った幻のドラムメーカー“NORTH”社のセットだ。今現在、これを使用しているドラマーは世界中探しても彼女だけだろう。それだけ、希少な楽器であるにも関わらず話題に上らないのは、ドラマーはおろか、楽器マニアにすらその存在は知られていないからである。現物どころか、写真ですらほとんど存在せず、インターネット上にもほとんど情報がない。あまりに個性的な音であり、チューニングも相当困難であるため、市場には受け入れられずに消えてしまった。そんな取り回しの難しい個性的なドラムですら、自分の音にしてしまうところに、彼女の力量とこだわりをうかがうことが出来るのである。ドラムプレイに明るくない人ですら、彼女のプレイの凄さはわかるはずだ。  デジロックなサウンドと、オートチューンを掛けたレオナのヴォーカルに印象的なライティングが華を添えた新曲「夢喰いザメ」、パラパラダンスの「JUICY BEATS」。会場全体に赤、青、緑…と、“光る手袋”が舞う。ステージ前方に設置されたVドラムに座り、右手をぐるぐると大きく旋回させ確実にビートを刻みながら歌うはな。こんなにも圧倒的な存在感を放つボーカル&ドラムが他にいるだろうか。
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 『赤裸ライアー/溶けないCANDY』のガチャガチャダンサーズと楽器チームによる、ジャケット別売上げ対決は、楽器チームが勝利を収めた。しかし、2014年に恵比寿LIQUIDROOMのワンマンライブのソールドアウト公約を期に、ライブ要員から正式メンバーとなったガチャガチャダンサーズの1号 まいと2号 ありさは、いまやガチャピンのメンバーとして欠かせない存在だ。時に可愛いらしく、時に激しく、汗ぐっしょりのアスリート並みの運動量で舞う姿は、ライブにおける大きな起爆剤になっている。  「ソールドアウトできなくてごめんなさい」アンコールでKOGAはそう口火を開いた。何がなんでもこの日をソールドさせることを目標にしてきた。ガチャピンが主催する、選りすぐりのガールズバンドだけを集めた恒例イベント〈JUICY GIRLS〉をはじめ、多くのライブを行ってきたのは、渋谷公会堂の向かいにある、shibuya egg manだった。それゆえ、渋谷公会堂への思い入れは強かっただろう。それは長年彼女たちを応援し続けてきたファンも同じはずだ。「あと76席」だったという。通常であるなら「ソールドアウト」と発表してもよい数字。だが、どんな事でも妥協を許さない熱血リーダー、KOGAの生真面目さはそれを許さなかった。 「レコーディングより、練習より、イベントより、みんなと作るこのライブが一番好き」  そう語るKOGAの言葉、気持ちを体現するかのような「宝物」を、はなが独唱で歌い始める。〈みんなと過ごす時間は なんでこんなに早く過ぎちゃうのかな〉思わず、会場からも歌声が発せられ、大合唱へと変わって行く。  「ハッピーに終わらなきゃいけないのに泣きそう」しんみりとした雰囲気を払拭するかのごとく、6月3日リリースの「Don’t Let Me Down」(フジテレビ系TVアニメ『ドラゴンボール改』エンディングテーマ)を披露し、続く5分間1本勝負「WINNER」では、会場が一体となるランニングで渋谷公会堂が揺れ動き、そのまま「GS Gacha2012」のGSダンスで、3時間におよぶ熱狂と爆笑に包まれた夜は幕を閉じた。  しっかりとした演奏技術と音楽性を持ちつつも、そこにとどまることなく、アイドル性やバラエティ要素をも色濃く打ち出し、見るものを圧倒し、捩じ伏せていく。それが通常のロックバンドでは絶対に見ることのできない、ガチャピンの唯一無二のエンターテインメントなのである。  この日、ソールドアウト出来なかった悔しさをバネに、秋より始まるワンマンツアー、11月29日のZepp Tokyoに向かって怒濤の快進撃を見せてくれることだろう。 (文=冬将軍)

Perfumeとももクロ、今の共通点は? 同時チャートインの楽曲から分析

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Perfume『Relax In The City / Pick Me Up(完全生産限定盤)(DVD付)』

【リアルサウンドより】 参考:2015年4月27日~2015年5月3日のCDシングル週間ランキング(2015年5月11日付)(ORICON STYLE)  今週のシングルランキングは、1位にHey!Say!JUMPの『Chau#/我 I Need You』、2位にPerfume『Relax In The City/Pick Me Up』、3位にINFINITE『24時間』、4位にももいろクローバーZ『『Z』の誓い』、5位にAAA『GAME OVER?』という並び。ジャニーズ、K-POP、女性アイドルグループが交互に並び、5位は男女混合ユニットという、バランスのいいラインナップとなった。  特に今週のポイントは、PerfumeとももいろクローバーZという、今のJ-POPシーンを代表する2つの女性グループの新曲がチャートに揃っていること。あまりない機会なので、今回の記事では、楽曲分析を通して2つのグループの今について考えてみようと思う。  最初に結論めいたことから書くと、どちらも曲の傾向は「保守」である。大型タイアップを獲得したシングルということもあり、求められる役割やグループのイメージにしっかり応えるようなサウンドに徹している。  まずはPerfumeの『Relax In The City/Pick Me Up』について。「Relax In The City」は「サッポロ グリーンアロマ」のCMソング、「Pick Me Up」は伊勢丹新宿店とのコラボレーションソングとなった。カップリングの「透明人間」もエーザイ「チョコラBBプラス」CMソングとなり、全曲タイアップの3曲入りとなっている。  「Relax In The City」は、ビート感を抑えて生声に誓い歌を中心にしたナチュラルで爽やかなナンバー。ピアノの音色をフィーチャーし、リスニングに対応したサウンドに徹している。

[MV] Perfume 「Relax In The City」(short ver.)

 「Pick Me Up」はEDM的なシンセを配したパーティーチューン。とはいえ、歌のメロディにもサウンドのテクスチャーにも、どことなく上品さを匂わせている。「透明人間」も同じ方向性だ。転調を駆使したコード進行とヨナ抜き音階のメロディで不思議なオリエンタリズムを打ち出した前作シングル「Cling Cling」に比べると、日常の消費生活のBGMに近いイメージがある。

[MV] Perfume 「Pick Me Up」

 Perfumeは今年が結成15周年&メジャーデビュー10周年のアニバーサリーイヤー。楽曲を手掛ける中田ヤスタカも、このタイミングでは新たな方向性よりも、これまで積み上げてきたキャリアを示すことを意識しているのではないだろうか。
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ももいろクローバーZ『『Z』の誓い(『F』盤)』

 一方、ももいろクローバーZ「『Z』の誓い」は、映画『ドラゴンボールZ 復活の『F』』の主題歌となっている。こちらも大型タイアップだ。  2015年に入ってからのももクロは、KISSとのコラボシングル「夢の浮き世に咲いてみな」と東京ドームでの共演、平田オリザ原作の主演映画『幕があがる』とその主題歌「青春賦」、さらには同作の舞台上演と、とにかく大きなコラボの話題がたて続けに届けられる状況となっている。もちろん、この曲もそう。MVでも『ドラゴンボール』の孫悟空やベジータにメンバー5人成りきってかめはめ波や魔貫光殺砲を放つという内容になっている。  作詞を手掛けたのは「CHA-LA HEAD-CHA-LA」など数々の『ドラゴンボール』の主題歌を手掛けてきた森雪之丞。作曲はNARASAKI、編曲はNARASAKIとゆよゆっぺが担当し、アニソンらしいヒロイックなメロディを得意のヘヴィ・ロックのテイストに料理している。「ドラゴンボール×ももクロ」というコラボから想像される通りの、「様式美」と言っていい仕上がりと言える。  CDシングルのランキングこそ4位であるが、公開されたばかりの映画『ドラゴンボールZ 復活の『F』』は興行収入30億を超え前作を上回る大ヒット、自身が主役をつとめた『幕が上がる』も興行収入1億を超えるスマッシュヒットを記録している。2ヶ月連続で主題歌をつとめた映画がヒットしている状況は、やはりももクロの衰えぬ勢いを象徴していると言えるだろう。  楽曲から見えてくるのは、どちらも「保守」で「盤石」な2つのグループの今、なのである。 ■柴 那典 1976年神奈川県生まれ。ライター、編集者。音楽ジャーナリスト。出版社ロッキング・オンを経て独立。ブログ「日々の音色とことば:」Twitter

藤巻亮太が「ニコニコ超会議2015」に降臨 カオスなイベントでなぜ主役に?

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【リアルサウンドより】  4月25、26日に千葉・幕張メッセで開催され、15万人以上が詰めかけた「ニコニコ超会議2015」。その初日、レミオロメンのボーカルで現在はソロ活動を行う藤巻亮太が“降臨”し、弾き語りで会場をひとつにした。音楽だけでなく、ゲームあり、アニメあり、自衛隊ブースから大相撲にプロレス…と、オープンスペースでさまざまな催しが行われるカオスすぎるイベントで、なぜ藤巻が主役になったのか?  ニコニコ動画に親しんだユーザーなら誰もが知るところだが、それはレミオロメンの「粉雪」(05年11月リリース)が、同サイト随一とも言える人気曲だからだ。06年にプレオープンしたニコニコ動画上に、当時ロングヒットを記録していた「粉雪」の動画がアップロードされると、印象的なサビのフレーズに合わせて、多くのユーザーが「こなああああああああゆきいいいいいいい」とコメントを投稿。いまではおなじみになった、ユーザーが声(コメント)を合わせる“弾幕”の発祥ともされ、多くのMAD動画が作られるなど話題を広げてきた。  きゃりーぱみゅぱみゅの「PONPONPON」やSEKAI NO OWARIの「Dragon Night」にも多くの投稿が集まったが、「粉雪」ほど長く話題になり続けてきた曲は他にないのではないか。「粉雪」は、一時的に面白がられるだけでなく、サイト黎明期から現在に至るまで愛され続けている。生のイベントでは“弾幕曲”から“合唱曲”となり、昨年まで「超会議」の後夜祭的に行われていた「ニコニコ超パーティー」では、運営スタッフ、エンジニア、プロデューサーらがステージに上って、涙ながらに熱唱したこともあった。とにもかくにも、そんなニコニコ動画のイベントに満を持して“ご本人”が登場するというのだから、ユーザーの期待も高まるというもの。当日の現場はどんな盛り上がりを見せたのか――。  会場の一角に設営された「超音楽祭」のステージでは、開場直後からライブがスタート。ニコニコ発の人気ボーカルグループ・ROOT FIVE、アニメソングを数多く手がける藍井エイルやGARNiDELiA、すべてボカロ曲のカバーで臨んだ松岡充(MICHAEL)など、ゆかりのアーティストたちが会場を沸かせ、残すところ3組に。“踊ってみた”カテゴリで絶大な人気を誇るアイドルグループ・℃-uteと、大ヒットゲーム&アニメから飛び出した声優ユニット・THE IDOLM@STERに挟まれる形で出番を迎えたのが、藤巻だった。  アコースティックギター1本で登場した藤巻は、観客に「レミオのある曲が、(ニコニコに)縁があるんですよね。違いましたっけ?」と呼びかける。大歓声のなか、続けて「♪むなしいだけ~ ハイ!」と促すと、割れんばかりの合唱が始まった。サビの1フレーズが終わったところで、「お前ら、サイコー!」の一言とともに演奏を開始。思わず目頭を熱くする観客も見られた。ネット配信で映像を見ていたユーザーたちも、「やっぱイントロから神だわ」「名曲は色あせることはない」「涙が…」「最高!!」などのコメントを打ち、サビではもちろん、配信画面が処理落ちで停止するほどの“弾幕”で応えている。  藤巻がこの日、披露したのは計2曲。1曲目に新曲「旅立ちの日」を演奏すると、最初こそ「粉雪」を期待するユーザーの「こな(ゆき)…こな(ゆき)…」と催促するようなコメントも見られたが、曲が始まれば「やっぱいい声だなあ」「心にしみる曲だね」「圧倒的歌唱力!」とのコメントが流れた。本人が弾くアコースティックギターと、鍵盤だけというシンプルな構成だからこそ、歌の力がダイレクトに伝わってくる。レミオロメンの活動休止後、2年間にわたって全国のライブハウスをまわり、弾き語りのライブを敢行してきた藤巻だからこそ、趣味の幅が広すぎるリスナーたちを釘付けにできたのだろう。5月13日リリースのミニアルバム『旅立ちの日』には、その他にもJリーグ・ヴァンフォーレ甲府のアンセム(応援歌)「ゆらせ」など、アーティストとしての充実ぶりがわかる計6曲が収録されており、大きな話題になりそうだ。  ニコニコ動画は若者にとって、クリエイターやその作品との出会いと別れを繰り返す場でもあり、いまや卒業式の定番ソングになったボカロ曲「桜ノ雨」に代表されるように、卒業ソングや旅立ちをテーマにした楽曲も人気を博している。旅立ちを前に、臆病な心を奮い立たせ、過去を抱きしめながら、まだ見ぬ明日へ進んでいく――そんなメッセージが込められた「旅立ちの日」も、多くのユーザーの心に届いたに違いない。 (文=橋川良寛)
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藤巻亮太『旅立ちの日(初回限定盤)』(ビクターエンタテインメント)

■リリース情報 『旅立ちの日』 【初回限定盤】CD+写真 VIZL-844 ¥2,600(税込) 【通常盤】(CD) VICL-64444 ¥2,200(税込) ※初回限定盤は特典として藤巻亮太自身が撮り下ろした写真集付 <収録曲> 01. 旅立ちの日 02. ゆらせ Jリーグ"ヴァンフォーレ甲府"アンセム(応援歌) 03. 春の嵐 04. 指先 05. born 06. 名もなき道
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初回限定盤特典の写真集

■ツアー情報 藤巻亮太 TOUR 2015「旅立ちの日」 5月14日(木)愛知・名古屋ダイアモンドホール 5月15日(金)東京・中野サンプラザホール 5月28日(木)大阪・なんばHatch http://fujimakiryota.jp/tour/tour2015/ ■オフィシャルHP http://www.fujimakiryota.jp/

Alfred Beach Sandalと王舟が語り合うソロ活動のスタンス 「自然に開けていたら一番いいなと思う」

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王舟(左)とAlfred Beach Sandal(右)。

【リアルサウンドより】  Alfred Beach Sandal(以下:ABS)が、4月22日にEP『Honeymoon』をリリースした。同作はフィッシュマンズやUAを手掛けるzAkをプロデューサーに迎え、ABSのキャリアにおいて最も開放的でポップな一作に仕上がっている。今回リアルサウンドでは、ABSこと北里彰久と、彼と同日にアナログ盤『Wang LP』を発売したレーベルメイト・王舟との対談を実施。お互いの音楽遍歴や初めて邂逅した際の思い出、互いの音楽やライブ活動、5月から実施するツアー『Wang’s Honeymoon』について、大いに語り合ってもらった。

「王舟のことバンド名だと思っていた」(北里)

――最初に2人の音楽遍歴を聞かせてください。王舟さんが音楽を始めたのは中学生のときということですが。 王舟:友達のエレキギターをもらって、早弾きに挑戦してましたね。周りではギターヒーローが一番カッコいいと言われていたし、弾くのが速ければ速いほど褒められた。 ――今の音楽からは想像つかないですね(笑)。歌モノに触れたきっかけは? 王舟:スピッツですかね。あとは高校生のころにボサノヴァバンドを組むため、女の子のボーカルをオーディションしたり、ラウンジ系のDJしたりしてました。 ――なるほど。北里さんはいかがでしょう。 北里:中学生の時、おじいちゃんが持っていたクラシックギターを貰ってギターを触り始めました。エレキギターを買ってからは、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTの「ゲット・アップ・ルーシー」のリフをずっと弾いたりしてました。Hi-STANDARDの「STAY GOLD」は難しすぎて断念しました。そこからプライマル・スクリームとか、UKロックにハマったんですけど、ある日たまたまケーブルテレビで『True People's Celebration』っていう、よみうりランドでやってたフェスの映像を見て。それに出てたのが、日本人はボアダムスとかUA、あとはサン・ラのアーケストラ、エルメート・パスコアール、フアナ・モリーナとか、ブラックフレイムスで、「こんな音楽あるんだ!」ってかなりショックで。そこから、ロック以外にも色々聴いていった感じです。 ――2人が初共演したのは2009年に八丁堀・七針で行われたライブですが、初めて会ったのもこの時ですか? 王舟:そう。僕は出る前から客として遊びに行ってました。このときの対バン相手には星ト獣と金田貴和子さんがいたよね。 北里:俺は演者で出たのが初めて。 ――お互い初対面の印象は? 王舟:事前にMyspaceでビーサンの音源を聴いていて良いイメージを持ったままでライブを見たら、緊張してたせいもあるだろうけど、音源の方が良いと感じたんです。 北里:終わった後に本人から直接言われました(笑)。 王舟:でも、面白いとは思っていたんです。歌物で変なことをやっている人ってあんまりいなかったから。 北里:俺は、王舟のことバンド名だと思っていたことと、ライブが良かったのが記憶に残っている。 王舟:当日はボソっと「良かったです」と言われただけだから、「気に入らないのかな…」と思っていたけど、次の日のブログに「すごく感動した」って書いていて、安心したのを覚えています。ビーサンはまだソロ始めたてだったよね? 北里:2回目くらいかな。前にやっていたバンドが存続しているのかどうかフワフワした状態になった時だったので。緊張していたかどうかはわからないけど。 王舟:ブログに「緊張した」って書いてたよ。 ――全部ブログ情報(笑)。 北里:なんで覚えてんだよ。
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王舟。

「ソロのライブは結局何やったらいいのか未だにわからない」(王舟)

――2人ともシンガーとしてソロキャリアをずっと積んできたというよりは、バンド活動もあって今に至っているわけですが、ソロ活動の中ではバンドセットでの演奏を行っている。この2つにはどういう感覚の違いがありますか? 北里:もともと「一人でやりたい」と思ったことは無かったので、アーティスト名も個人の名前にしていないんです。音楽の作り方は、作業工程だけ見ると完全にバンドのやり方なんですけどね。1人でやる曲みたいなものも出来るけど、それもスタジオに持って行って岩見(継吾・サポートベース)さんや光永(渉・サポートドラム)くんに投げたら、バンドっぽくなる。 王舟:うちはメンバーの入れ替わりも結構あるし、新曲をスタジオに入って練るような形ではないから、当たり前だけど自分が何か言わないと進まない。みんなは「ワイワイ音楽がやりたい」というシンプルな動機で集まっているから、受け皿みたいなものだけ作っておいて、あとは自由にやるという形態だった。でも、アルバムをレコーディングするようになってから、ようやく何をやっていくべきか見えてきたんです。今度のビーサンとのツアー以降は形を変えて、やり方を変えてやろうかなと。ソロは伴奏が薄いので、自分が目立つっていうのがちょっとやりづらいなって。 ――どういう部分がやりづらいのでしょうか。 王舟:わりと裏方にいる方が好きなので。だから学校で生徒会とかやる奴すごいなって思いますし。ソロのライブは結局何やったらいいのか未だにわからないんですよね。 北里:バンドのライブの時の方が、やった時に良かった・悪かったという基準がわかりやすいかもね。グルーヴが生まれているから、そこに溶け込めているかどうかで判断できるけど、ソロだとフリーフォームでやってる感じだもんね。 ――自由な分、客観視ができないと。 北里:そう。別に「こう見せたい」とかもないし。
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「パッションだけでやっているとだんだん飽きてくる」(北里)

――同じ発売日ということで、お互いの作品についての感想を聞かせてください。 王舟:『Honeymoon』って、前より輪郭がはっきりしてて、zAkさんがプロデュースしてるということもあるけど、音が届くスピードが前より速いと感じた。ビーサンがこの路線をやるのは少し前だとあんまり想像できなかったけど、やったらやったで結構いいなっていう感じはすごくあります(笑)。 ――音の届くスピードが速くなったというのは、よりストレートになったということですよね? 王舟:素直な感じだけど、アンサンブルもかなり良くなっている。前はもう少しモヤ掛かった印象があったけど、「仕上げてきたなー」と。これまでは、フィギュアスケートで言うとエキシビションだったけど、しっかり試合用にしてきた感じ。 北里:自然にやってきていることだから、変わったのか自分じゃよくわからないですけどね…。でも、サウンド的にはかなりビルドアップされたと思います。バンドのアンサンブルは一緒にやってきている中で、どんどん纏まってきているし、これまでは自主でやっていたけど、最近は音楽のことだけに集中できる度合いも増えたので。 ――音楽を作ることに集中できる時間が増えたことで、自分の中でこういうものを作ろうという考え方は変わりましたか? 北里:それはあんまり変わってないです。もともとそういう、何か思い描いた完成形に向かっていくみたいなタイプじゃないんですけど、その時思いついたことをどうするかという感じで。自分が曲を作る段階で、刷り込みみたいに影響を受けてきた音楽とかは出ているし、基本的には曲の作り方も大体一緒だし。ギターだったらギターで、フレーズをループとしてまず組んで、それをどう発展させていくかっていう。だからサンプラーは使ってないけど、ヒップホップとかに考え方は近いような気がします。 王舟:ビーサンがやっていること自体は全然変わってないもんね。 北里:変わった部分って、zAkさんとか、サポートメンバーからフィードバックされたなかで気付いたところだったりするかも。でも、俺はこれでいいやっていうわけでも全然なくて、去年、ギターの教則本とか初めて買いましたもん。上手くなった方がいいかなと思って(笑)。普通に運指の練習とかもしたかったし、音楽の幅がそれで広がったりするかなって。パッションだけでやっているとだんだん飽きてくるし、同じことばっかりになってくるから。 ――4曲目に収録しているNOKKOさんのカバー「人魚」はどういう経緯で選曲したのでしょうか。 北里:バンドの忘年会をやっていた時に、光永くんが酔っぱらいながら「いいよねーこの曲」って言ってて、その場のノリでやろうかってなりました。でも、そのままやっても面白くないから、ロバート・グラスパーだったかなんだったかの曲のリズムパターンのイメージでやってみようってアイデアが出て。あと、カバーする前に「バラードっぽく歌うのは無し」って決めていて。だって歌詞とか一つも共感できないから、情感たっぷりのアプローチが出来ないし。ミックスもはじめはもっとモヤがかったウェットな感じになっていたんですけど、僕の要望でもっとドライにしました。
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Alfred Beach Sandalこと北里彰久。

「『一体にならないだろう』と思っていた人と、瞬間的に握手しちゃった時は嬉しい」(北里)

――北里さんは王舟さんの『Wang』についてはどう思いますか? CD版は発売からもうすぐ1年になりますが。 北里:『Wang』自体はずっと作っていて、なかなかできない過程も見てたので、客観視できない(笑)。「出てよかったな」という気持ちが一番強いです。勝手に感慨深い、みたいな。アルバムが出た後は、誰かがDJで掛けているのを聴いて、「良い感じにチャラくて面白いな」と思ったり。 ――「チャラい」って面白い表現ですね。 北里:気持ちが乗っかりやすいというか…。 王舟:それは気に入っているところなんですよ。カントリーやフォークのようにシビアな音楽を形式だけ踏襲して、“スタイルの良さ”だけを見せたかったから。だからチャラかったりユルい感じで今っぽい雰囲気に出来ていると思うんです。60年代のイギリスの人たちがブルースのカバーをやってポップな感じにしているとか、そういう感覚に近いですね。 ――収録曲の「瞬間」は北里さんがカバーした際に出来たフレーズを王舟さんがアルバムの音源に使った曲ですよね。 北里:そうそう、最初の宅録バージョンで聴いていい曲だなって思っていたけどライブとかで全然やらないから、「なんでやらないの?」って聞いたら「ベースリフ一発だからやりようがない」みたいなことを言っていて。「そうかな」って思って。それでコード進行とかフレーズとか、ちょっとだけアレンジしてカバーしたんですけど。 王舟:すごくポップな感じになったよね。その時のコードを後で教えてもらって、バンドに持っていったら、かなり馴染んだんです。 ――ちなみに、2人は録音物とライブの意識の違いをどう捉えられますか? 王舟:相撲で言ったら録音物は稽古で、ライブは試合(笑)。 北里:それはちょっとわかんない(笑)。どっちも試合だけど、種類が違うっていうか。でも球技っていうくらいは一緒かな? わりとライブ感みたいなのがある録音物の方がいいのかなって考えた時期もあったけど、それは全然違うものだと今は思うようになったし。 王舟:録音物はちょっと誇張してやろうと思ったらできるし、わりと自由度は高いけど、ライブは場所も来る人も毎回違うから臨機応変にやらないといけない。でもそれがいいんですけど。もちろん録音物は事前に準備ができるんですが、それが良い方向にも悪い方向にも転がることはあるし。 ――2人はライブで観客の反応を見るタイプですか? 王舟:お客さんの楽しそうな雰囲気が伝わってきて、次第に演奏が良くなっていくライブが何回ありました。言葉に出さないけど、本当少しだけ一体感を共有する感じが心地いい。 北里:全然見ないです。もちろん、お互いの感覚が交差した瞬間はすごい快感だけど、煽ったりできるタイプじゃないし、別に何かするわけではないから…。 ――緩やかな空気感で繋がるという感覚は、2人のライブを見ていると何となく伝わってきます。 北里:それでも、「一体にならないだろう」と思っていた人と、瞬間的に握手しちゃった時は嬉しい。そのためにやっているようなところはあるけど、だからといってこっちから両手を広げて迎えに行くわけではないし。別に閉じたいわけでもないから、自然に開けていたら一番いいなと思います。
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「意識を変えるために簡単にメンバーを入れ替えるのも違う」(王舟)

――5月から2人はライブツアーをともに回るわけですが、お互いのバンド編成についてはどう思います? 北里:3人以外の編成も流動的にやってましたけど、落ち着いた先は自分の音楽、作り方でやった音楽を発展させていくための3人編成で。だからこれがしっくりくるし、その先が思い浮かぶので、王舟のような大人数の編成に憧れることはなくなりましたね。 王舟:見ていると「制約をつけて上手くやっている感」があるんだよ。 北里:どうなんだろうね。今の3人にサポートが1人入っただけでもかなりバランスは変わるから…。もうこの3人で共有している空気感みたいなものもあるし、スタジオとか部活っぽいから(笑)。 ――ソロバンドだからこそ、幕間で人数の増減も可能だと思うのですが、その辺はどうでしょう。 北里:いいんだけど、それだとやっぱり自分がちゃんと設計図を示していないとダメだと思ったからやらなくなったので。毎回セッションに近い形だと、どうしてもモヤがかる部分がある。アンサンブルの精度を高めるのって、譜面で示すか同じメンバーで何回も練習するかだと思うんだけと、王舟はどうやって進めてるの? 王舟:「なあなあっぽくやってる奴らだけど、実はすごく良い演奏をしている」というのが理想的で(笑)。“ゆるい雰囲気=ストイックじゃない”ということじゃなく、上手い具合に色々反応しあって、良いアンサンブルになると思ってるので。だから細かい演出とかは指示したりしないですね。 北里:バンドメンバーを反応させるために、自分が具体的なことを言わなくても成り立つ方向に意識的に持っていってる? 王舟:意識はしてるね。ある時期はガチガチに合わせていたけど、そうすると「良くしよう」という意識がどこかへ行ってしまって「これで完成だからいいや」となってしまった。楽曲の強度を上げるためにそう作用するのは嫌だなと考えていたんですが、意識を変えるために簡単にメンバーを入れ替えるのも違うなと思って。 北里:そうなんだ。フレーズの指定とかはしたりする? 王舟:指定したいところは指定する。ここまでかなり「ゆるい雰囲気」とか言ってますけど、それで上手くいくっていうことがやりたいというわけではないんですよ。何と言うか、必死でガチガチに合わせるのとは違う頑張り方を提示したいんです。やり方はみんな人それぞれだけど、それを肯定的な意味で言ってるのと、投げやりな感じで言ってるのではまた響き方が違うと思うので。ひとつ具体的な目標を定めて、そこを突き詰めていくというやり方は自分に向いていないので、模索中と言ったところですね。一回一回のライブを見ると、ライブの中で流動的な動きがあった方が理想なんですけど、それとは別に、例えば10本のライブを通して、自分たちのなかで流れができるような空気感を目指したい。 ――ツアーはこの2組のツーマンだからこそできる空気感があると思うんですが、どういう展開を想像しますか。 王舟:ライブの前後も一緒に回るわけなので、移動中に雰囲気がどう変わるか楽しみです。いつものライブよりも、もうちょっとゆるい感じになると思うけど。 北里:さらにゆるくなるんだ(笑)。僕らは、音源をどうライブで表現するかなって感じで。まあ、ライブはライブでいい演奏をして、グルーヴが出れば良いと思ってます。 王舟:ツーマンライブって、対バン相手によって客層が変わるわけですが、ビーサンが好きなお客さんに来てもらえるのは嬉しいです。アウェイな感じも好きだけど、今回はアウェイ感があるのかないのかちょっとよくわからない感じ。 北里:それはあまりないと思うよ。 王舟:そうだよね。どっちかしか知らない人に来てもらえるとやりがいがあるんだけどな。 北里:両方知らなくても来て欲しいんだけど(笑)。 (取材・文・撮影=中村拓海) ■リリース情報 ・Alfred Beach Sandal 『Honeymoon』 発売中 価格:¥1,200+税 <収録内容> 1.Honeymoon 2.Dynamo Cycle 3.Soulfood feat. STUTS 4.人魚 ・王舟 『Wang LP』 発売中 価格:¥2,500+税 <収録内容> SIDE-A 1.瞬間 2.New Song 3.boat 4.uguisu 5.windy 6.dixi SIDE-B 1.tatebue 2.ill Communication 3.My first ragtime 4.Thailand 5.とうもろこし畑 6.Ward(Bonus Track) ■ライブ情報 Alfred Beach Sandal「Honeymoon」&王舟「Wang LP」ダブルリリースツアー 『Wang’s Honeymoon (ワンズ・ハネムーン)』 2015年5月8日(金) @渋谷クアトロ 出演:Alfred Beach Sandal/王舟 OPEN 18:30/START 19:30 前売 2,800/当日 3,300 ※ドリンク代別途 2015年5月16日(土) @大阪梅田Shangri-La 出演:Alfred Beach Sandal/王舟 OPEN 18:00/START 18:30 前売 2,800/当日 3,300 ※ドリンク代別途 2015年5月17日(日) @名古屋今池TOKUZO 出演:Alfred Beach Sandal/王舟 OPEN 18:00/START 19:00 前売 2,800/当日 3,300 ※ドリンク代別途 TOTAL INFORMATION → VINTAGE ROCK TEL.03-3770-6900/http://www.vintage-rock.com/