CAPSULE 14年の歴史を横断 初ワンマン・ツアーで中田ヤスタカが見せた“ピュアな一面”とは

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【リアルサウンドより】  Perfume、きゃりーぱみゅぱみゅのプロデュースはもちろん、名実ともに日本を代表する音楽家としてシーンに君臨する中田ヤスタカとこしじまとしこによる2人組ユニットCAPSULE。2001年にメジャーデビューしたCAPSULEが、今年デビュー14年目にして初のワンマン・ツアー『CAPSULE -"WAVE RUNNER" RELEASE LIVE-』をおこなった。ソールドアウトした最終公演が2015年6月5日に東京・赤坂BLITZにて開催されたので、その模様をレポートしたい。  CAPSULEは、これまでライブをまったくやってこなかったワケではない。アルバム作品のリリース・パーティーを含め、クラブイベントや、ロックフェスではライブをおこなっていた。だが、完全なるワンマン・ツアーははじめてであることに注目したい。  バンドマンであればアルバム作品をもとに、ライブツアーによって表現を完結させるストーリーがあるが、中田ヤスタカはバンドマン志向は皆無だった。アルバム作品を最終目標に掲げていた根っからのクリエイターなのだ。  かつて、13枚目のアルバム『STEREO WORXXX』のリリースの際、「僕らの作品のヴォーカリストはリスナーが使っているスピーカー」と発言をしていたことに着目したい。作品主義であることへのこだわり、アルバム作品ですべて完結しているのがCAPSULEの世界観だ。そんなこともあり、今回のツアーでも生バンドでの楽器演奏ではなく、ヴォーカリストこしじまとしこが生で歌唱してはいるが、生演奏にこだわることなく中田ヤスタカのDJプレイに主軸が置かれていた。  Perfumeのブレイク前夜、まだcapsuleが小文字時代だった頃に中田ヤスタカが、六本木ヒルズの高層階でDJした際、彼のDJプレイは「自分の曲ばかりかけている!」とネット上で揶揄されたことがあった。しかし、21世紀のクラブカルチャーの主流であるEDMムーヴメント以降、フェス的なDJは自らクリエイトした作品をDJ感覚でライブ的にプレイするエンタテインメント表現が主流となっている。中田ヤスタカの考え方は図らずも世界の潮流とシンクロしていたのだ。
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 そんなCAPSULEの『“WAVE RUNNER” RELEASE LIVE- 追加公演』会場で開演前に流れていたSE(音楽)は、特撮テレビ番組「サンダーバード」のテーマだった。中田ヤスタカはCAPSULEの過去作において「ポータブル空港」、「宇宙エレベーター」、「space station No.9」などSFライクなナンバーを生み出しており、SF三部作として、スタジオジブリとともにSFアニメなミュージックビデオを制作していたことがある。そんなことを鑑みると、今回のライブの裏コンセプトは、中田ヤスタカによるDJブースを操縦席として、添乗員こしじまとしことともに宇宙船に乗って旅する様を描かれていたのかもしれない。  定刻を過ぎた19時15分。場内は暗転し、最新アルバム『WAVE RUNNER』のイントロチューン「Wave Runner」が鳴り響き、続いてリード曲「Another World」へと流れていく。中田ヤスタカがオーディエンスを煽り、スモークが焚かれ、こしじまとしこが登場してフロアの熱気は早くも最高潮に。人気曲「more more more」では、「CAPSULE『WAVE RUNNER』リリースツアーへようこそ。今日はいっしょに楽しもうね!」とオーディエンスへ笑顔で呼びかけた。  様々な時代からピックアップされる「WORLD OF FANTASY」、「Dreamin' Boy」、「JUMPER」など選りすぐりの選曲が楽しい。さらに、完全にサウンドとシンクロするエッジーでスキルフルな照明やレーザーが感情をアップリフトしてくれる。そして音の素晴らしさに耳を奪われたのだ。低音が身体に響き、歌声がはっきり聴こえてくる。サウンドへのこだわりが感じられるステージワークだ。
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 途中、二人がステージから去り、LEDモニターにはインターミッションとして惑星の映像が映し出された。赤坂BLITZの地球上での座標軸“E13973 N3567”が表示され、ここで、プログレッシヴにミニマルな作風が印象的だった前作アルバム『CAPS LOCK』より「SPACE」がBGM的に流れる。中田ヤスタカは「『CAPS LOCK』は文化部というイメージなのでライブではやらない」と語っていたが、まさかの絶妙なる楽曲の使い方にテンションがあがった。  再び、ステージに二人があらわれアルバム『PLAYER』よりキュートな歌ものチューン「Stay With You」。そして、新作より、ヘヴィなイントロから一変してメロウになる変幻自在な「White As Snow」、王道感あふれるビートがたまらない「Hero」へ。こしじまとしこがオーディエンスへ向けてCO2を発射することでさらなる盛り上がりをみせていく。  新作に収録されたインスト・ナンバー「Dancing Planet」では、サプライズなスペシャル・ゲストとしてVERBALが登場。この日のためにリアレンジされたナンバーとして攻撃的なラップでオーディエンスを扇情しまくり、ステージを去っていった。続くは、ドラマティックにスケールの大きな「Eternity」、「In The Rain」によって、CAPSULEのセンチメンタルな魅力が解き放たれていく。
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VERBAL

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 ここで、再びインターミッションとしてCAPSULEの二人のプロフィール、そして歴代のアルバム・アーカイヴが「Beyond The Sky」に乗せてLEDモニターに順に表示されていく。最新作『WAVE RUNNER』が表示された後は、カウントダウンがはじまりライブは終盤に突入。最新作『WAVE RUNNER』収録ナンバーを聴いていると、フロアにおいて快楽ポイントの高さが映える楽曲が多いと感じた。ダンスミュージックとしての機能性とメロディアスな作品性の優れたバランスがCAPSULEのオリジナリティを生み出しているのだと確信した。  ラストスパートは、まず中田ヤスタカのみがステージにあがり「FLASH BACK」。その後、こしじまとしこがあらわれ「まだまだいくよ!」とテンションを上げまくり「LIAR GAME」とマッシュアップした「Love or Lies」へ。さらにCAPSULEアンセムと言っても過言ではない「Starry Sky」が投入され、オーディエンス大熱狂な「Prime Time」、新作における最強ポップナンバー「Feel Again」へと大団円を迎えていく。  アンコールでは、LEDモニターにて新作アルバム『WAVE RUNNER』のデラックス・エディションが9月2日にリリースされることを発表。当日お披露目した「Dancing Planet feat. VERBAL(仮)」やリミックスをCDに、ライブ映像をDVDで追加収録するという。  そして、ツアーグッズのTシャツに着替えて登場した二人。こしじまとしこが「今日は本当にありがとうございます! 皆さんのおかげで14年も続けてこれました。こんな素敵な場所を与えていただき感謝しています!」と感謝の言葉を。さらに、こしじまに煽られ、話す予定ではなかった中田ヤスタカは、照れ隠しに声にエフェクトをかけて喋りだした。「初めは遊びのつもりだったんですけど、だんだんやる気が出て14年たちました(※ここでエフェクト外す)。今までこんなツアーをやったことはなかったんですけど、ようやく僕はミュージシャンになれた気がします。これからもCAPSULEをよろしくお願いします!!!」。今もなおフレッシュであり続けるCAPSULEの二人。もしかしたら、中田ヤスタカは今回の全国ツアーでライブならではの魅力に目覚めたのだろうか? そんなピュアな一面を垣間みれた瞬間だった。  アンコールでは、懐かしのポップチューン「Sugarless GiRL」と、知る人ぞ知る大名曲「グライダー」を奏でることでオーディエンスへの感謝を表現。やはりCAPSULEは良い曲が多いなと感動。中田ヤスタカ曰く「オファーされなくとも自分がやりたいことをやるのがCAPSULE」というフレーズは名言だ。新旧楽曲を交えながらも、違和感無く盛り上がりまくった全21曲の音楽旅行。そんな宇宙船CAPSULE号の歴史を横断した、時空を超えていくBEST的な内容に大満足な一夜だった。 (文=ふくりゅう(音楽コンシェルジュ/Twitter)) ■セットリスト Wave Runner Another World more more more World Of Fantasy Dreamin'Boy JUMPER SPACE Stay With You White As Snow Hero Dancing Planet Eternity In The Rain Beyond The Sky FLASH BACK Love or Lies Starry Sky Prime Time Feel Again <アンコール> Sugarless GiRL グライダー ■リリース情報 『WAVE RUNNER(DELUXE EDITION)』 発売:2015年9月2日(水) DISC1(CD) 01 Wave Runner 02 Another World 03 Dreamin’ Boy 04 Hero 05 Dancing Planet 06 Depth(vocal dub mix) 07 Feel Again 08 Unrequited Love 09 White As Snow 10 Beyond The Sky 11 Dancing Planet feat. VERBAL(タイトル未定) 12 タイトル未定 DISC2(DVD) 2015.06.05 @赤坂BLITZのライブ映像を数曲 CAPSULE オフィシャルHP http://capsule-official.com

ミオヤマザキ、感覚ピエロ、R指定……ネガティブな歌詞表現を昇華するバンドたち

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ミオヤマザキ『大人がダメって言ったヤツ』(ERJ)

【リアルサウンドより】  「歌が勇気をくれた、共感した、価値観や人生観が変わった」といった言葉が聞かれるように、音楽は生きるうえで絶対に必要なものではないかもしれないが、人の心を動かす力がある。心に響く歌、現実を忘れさせてくれる歌、背中を押してくれる歌……そうした歌に突き動かされることも多いだろう。だが、実際に落ち込んだときには、優しさや励ましの言葉をかけられるよりも、同じ悩みを抱えているのは自分だけではないということを知ることで、妙な安堵感を得られることがある。苦悩、葛藤、不安、劣等感といった“負の感情”を、詞(ことば)に、音楽に、サウンドに、昇華していくバンドは、決して万人受けするとはいえないが、悩みを抱えたひとには深く訴えるものがあるのではないか。必要とする人は必要とするだろうし、要らない人にはずっと要らないまま、そんな存在の音楽を紹介したい。

悶々とした気持ちを言葉にするネガティブ系ロック

 Coccoは〈太陽まぶしかった 泣くことさえできなくて 雨ならきっと泣けてた〉と歌い、syrup16gは〈したいことも無くて する気もないなら 無理して生きてる事も無い〉と叫んだ。悶々とした感情を綴る歌は、90年代に台頭したオルタナティブ・ロック〜ラウド・ロックの影響もあり、メジャー感とは一線を画すサウンドとの親和性とともに、いつしかロックシーンの一端を担っていった。そして数々のネガティブな、しかし優れた表現が紡がれる。

Lyu:Lyu

Lyu:Lyu "メシア" (Official Music Video / Directors cut ver.)

 死にたくなるくらいつらい、でも死ぬのは怖い。明日に怯え、未来に絶望する。そんなやり場のない焦燥感を赤裸々に歌うのが、Lyu:Lyuだ。野太い声ながらどこか切なさを感じるコヤマヒデカズのボーカル。絶望的な言葉を力強く歌う声が心に深く突き刺さる。彼らの演奏は、すべてを吐き出すことによってこそ、見いだせるものがあるのかもしれないと思わせてくれるのだ。3ピースならでは荒々しさと、絶妙に作り込まれたバンドアンサンブルが同居した、高い完成度の楽曲が魅力的なバンドだ。

Lyu:Lyu “ディストーテッド・アガペー”(Official Music Video)

シニカルな音楽ビジネス風刺

 反体制的な思想は、ロックのスタイルとして古くから確立されている。そうした態度は、社会や政治に対してはもちろん、固定観念の多い音楽ビジネスや市場に対しても示されてきた。斬新かつ自由な発想で、既存の価値観に反抗するのが彼らのやり方だ。

感覚ピエロ

感覚ピエロ「A-Han!!」MV

 感覚ピエロは、ヒットチャートに迎合するだけの音楽や、それに抗う姿勢を見せながらもどこか媚びているような音楽を痛切に批判する。「リア充を爆発」させようと、他愛のないどうでもいいことをあえてテーマに据えながらも、高い演奏力と音楽センスで打ちのめすのだ。上記楽曲「A-Han!!」では、〈4つ打ち待って頂戴 テンポが足りない 4つ打ちばかりでなんだかうんざりだ〉と近年のロックシーンでは供給過多気味とも思える常套手段を、軽快なテンポに乗せた4つ打ちダンスビートで皮肉る。プロモーションはライブとクチコミがメインという、昨今の音楽ビジネスの潮流に逆らうような独自のスタンスで多くの音楽ファンを唸らせてきたが、6月9日、ついに全国流通盤をリリース。今、もっとも注目すべきバンドのひとつといえよう。

ミオヤマザキ

ミオヤマザキ STUDIO LIVE “初めまして、ミオヤマザキです。私達、ちゃんとバンドです。”

 メンヘラの彼女とその彼氏にまつわる謎解き脱出ゲーム『マヂヤミ彼女』をご存知だろうか。同作は旅行中に、彼女が温泉に入っている最中の彼氏のスマホを覗き見するという、今どきのリアルな恋愛事情が垣間見れる設定の面白さから、若い女性を中心に爆発的なヒットを飛ばしたiPhoneアプリだが、これはミオヤマザキのプロモーションとして作られたものだ。ミオヤマザキは、“メンヘラ”や“屈折した偏愛”といったフレーズが飛び出すキレキレの歌詞と、ぶっ飛んだオルタナロック・サウンドで胸ぐらをつかんでくるバンドだ。露出はほとんどなし、“スレ(ライブ)”でも顔はほとんど見えないという謎めいたバンドであるが、先日アップされたスタジオライブ動画ではバンドとしての真価を発揮。圧倒的な存在感を放つボーカルを擁し、その歌声を支える重厚なバンドサウンドは緊迫感に満ちている。自主規制のミュージックビデオなど、奇抜なプロモーションが話題になることが多いが、やさぐれた不良性のロック、ラウドロック、オリエンタルなオルタナティブ性など、ロックバンドとして多大なるポテンシャルを秘めた猟奇的なバンドだ。

ナルシズム、狂気、中二病……ヴィジュアル系の世界

DIR EN GREY

 堕天使、薔薇、十字架、生と死……良くも悪くも“中二病”ともいわれるナルシズムを色濃く演出するのがヴィジュアル系シーンである。元来『ジキル博士とハイド氏』や『ジキルとハイド』といったゴシック・ロマンス小説をベースとして生まれたゴシック・ロックの影響下が強く、幻想的、耽美的ともいえる徹底した非現実的世界観を構築してきた。そんなシーンの中でも特に異彩を放ち、独自の道を切り開いたのはDIR EN GREYだろう。痛み、苦しみ、憎しみ……感情を叩きつけるような言葉と狂気性を帯びたサウンドは、単純にジャンルで括るのは難しい。また、海外進出するには英語で歌わなければならない、という既成概念を崩したのも、彼らの功績のひとつだろう。

2011年のパリ公演。「激しさと、この胸の中で絡み付いた灼熱の闇」という、日本人でも難しく感じそうな言葉を大合唱するフランスのオーディエンス。

Plastic Tree

 彼らとは対象的に、陰鬱な退廃美を醸し出すのはPlastic Treeである。幻想文学的な文体、儚さを感じさせる中毒性の高いボーカルと、シューゲイザーやドリーム・ポップといったイギリスのサウンドをいちはやく取り入れたサウンドは、シーンにおいて孤高感を漂わせる。孤独から生まれる壮絶なる破壊衝動がDIR EN GREYなら、からっぽな世界の孤独感「誰にも知られずに消えてなくなりたい」のが、Plastic Treeだろう。

3拍子と文学的言葉遊びの絡み方が絶妙な「影絵」

R指定

【公式】R指定『病ンデル彼女』PVSPOT

 そんなダークな印象の強い同シーンだが、反面、きらびやかなバンドも現れ、多様化も目立っている。中でも独特の彩りで歪んだ病的さを演出しているのが、R指定である。「病ンデル彼女」「青春はリストカット」「毒盛る」など、いかにもな楽曲タイトルが目立つが、メロディーはキャッチーで「死にたい」とリズミカルに歌っているのが印象的だ。ロック、ポップス、歌謡曲といった様々な要素を融合し、高いアレンジ力でおいしいリフを巧みに組み立てたバンドアンサンブルは、一聴の価値があるといえる。「重い、痛い」とも言われるこの分野に、ある種の親しみやすさを持ち込んでしまったそのセンスは、特筆すべきだろう。

独自の視点で表現するバンドたち

 ひとの心に訴える歌詞を書こうとすると、どうしても直接的な表現、インパクトのある言葉になりがちであるが、少し視点を変えて独自の表現を紡ぐバンドもいる。ひとつのことを伝えるのに、十人十色の表現方法があるというのも日本語の深いところである。

arrival art

arrival art 『独り舞台』

 人との出会い、交わされる言葉……苦悩や渋難というほどでもないが、ふとした日常に思うこと、誰もが抱えるような葛藤、揺れ動く心情変化を淡々と紡ぎ出すバンドが、arrival artだ。決してありきたりではない言葉の数々は、優しく語りかけるように、時にストレートに聴くもの心の隙間にスッと入ってくるのである。3ピースのストレートなギターロックながらも、クリーンサウンドを主としたギターサウンドだけで静と動を操るサウンドメイクは圧巻である。

BUGY CRAXONE

BUGY CRAXONE「ナポリタン・レモネード・ウィー アー ハッピー」Music Video

 メジャー時代はアルバム『歪んだ青と吐けない感情の底』に見られるような、痛切なメッセージと感情を吐き捨てるようなバンドだった。鈴木由紀子の歌は、うかうかしていると刺されるかと思うくらい鬼気迫るものがあった。しかし、インディーズに活動を移し、いつからか肩の力の抜けたボーカルスタイルに変わっていった。楽曲タイトルも歌詞も、漢字を極力使わず、平仮名、カタカナになり、誰もが口ずさめる簡単な言葉選びをするようになった。「ナポリタン、レモネード」といったなんの変哲もないように思える言葉も、素朴な残りもので作る料理、酸っぱい果物で作る甘い飲み物、といったささやかな日常で作り出せる小さなしあわせだ。そこには、音楽シーンの表と裏を見てきたからこそ、音楽を奏でることの喜びを見いだしたバンドならではの達観した価値観があるのではないか。字詰めの多い日本語ロックの中では珍しい、少ない言葉選びによるメロディーが、絡み合うギターサウンドとともにイギリスでもアメリカでもない、アイリッシュ〜ケルティック・パンクに通ずる独特のバンドサウンドを構築している。

今注目される、“リリック・ビデオ”という存在

 近年世界的に広まっていているのが、音楽と歌詞で構成される、“Lyric Video(リリック・ビデオ)”である。フォントやタイポグラフィといったデザイン主体で、元はグレイトフル・デッドのマーケティングさながら、ファンによる自主制作で広まったものである。海外では動画サイトにおけるプロモーションの主力として、ミュージックビデオとは別に導入されることも多いが、そうした映像はここ最近日本においても増えてきている。

MERRY

独特の言葉選びが文字による強烈なインパクトを与え、レトロなデザインがこのバンドの色を強く打ち出している、MERRY「千代田線デモクラシー」

ハルカトミユキ

リリック・ビデオとミュージック・ビデオの間にあるような、ハルカトミユキ「春の雨」。断片的な言葉の羅列ながらも“刺さる”の日本語の美しさを感じる。

 ここ数年で音楽の聴き方は大きく変わっている。日本でも本格的に定額制音楽配信サービスの機運が高まった。CDだってパソコンに取り込んだら、すぐにラックに仕舞ってしまうことも少なくない。お気に入りのアーティストや楽曲を、歌詞カードを眺めながらじっくり聴くという行為は減っているのかもしれないが、一方で リリック・ビデオのように、歌詞を楽しむ新たな方法も提示されている。そんな時代だからこそ、音楽における詞(ことば)の重要性は高まっているのかもしれない。 ■冬将軍 音楽専門学校での新人開発、音楽事務所で制作ディレクター、A&R、マネジメント、レーベル運営などを経る。ブログtwitter

渡辺淳之介×松隈ケンタが語る、音楽プロデュース論「僕らはアーティストより超人じゃなきゃいけない」

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左・松隈ケンタ氏、右・渡辺淳之介氏

【リアルサウンドより】  アイドルグループのBiSが2014年7月に解散した後、仕掛人としてマネージャーを務めた渡辺淳之介氏と、サウンドプロデューサーを務めた松隈ケンタ氏はそれぞれ、ミュージシャンのA&Rやマネジメントを行う事務所WACKと音楽制作プロダクションのSCRAMBLESを設立、タッグを組んで新たな道を歩んできた。そして2015年3月、BiSの系譜を受け継ぐ新たなアイドルグループ・BiSHを始動させ、5月27日にはデビュー作であり1stフルアルバム『Brand-new idol SHiT』を発表。アイドルファンを中心に話題を呼んでいる。8ヶ月前にふたりを取材したインタビュー【BiSの仕掛人、渡辺淳之介×松隈ケンタ対談 2人が別々に起業した理由とは?】では、会社設立の理由や今後のビジョンなどについて語ってもらったが、その後、ふたりの環境はどのように変わったのか。そして、新たなプロジェクト・BiSHやPOPではどのようなプロデュースを行っているのか。6月に移転したばかりのスタジオにて、じっくりと話を聞いた。聞き手は、前回に引き続き編集者の上野拓朗氏。(編集部)

渡辺「ネットに全曲公開したからこそ売れたんじゃないかなって」

――前回のインタビューから8カ月経ちましたが、2人ともオフィスとスタジオを移転して、制作の環境もそうですけど、担当されている案件にも変化がありました。 渡辺:順調……ってことなんじゃないですかね。 松隈:バンドもグループも激変してますけど(笑)。前回は僕がまだLUI◇FRONTiC◇松隈JAPAN(現LUI FRONTiC 赤羽JAPAN)にいた頃で、BiSHをやる話もなかったから。 渡辺:松隈さん! あの壁にかかってるデカいモニター、何ですか? 松隈:ああ、55型やろ。 渡辺:さっき初めて見てビックリしたんですけど、松隈さん、ああいうところにこだわりますよね。 松隈:スタジオって雰囲気が大事だと思うんですよ。例えば、このリハーサルルームの端っこに間仕切りのカーテンがあるじゃないですか。あれは散らかった荷物が隠せるように付けたんです。リハスタって、ギターのケースとか個人の荷物とかすぐに散らかるので、そういうのが目につくとプレイヤーもイラついてくるんです(笑)。だったら隠してスッキリしようと。気持ち良くリハーサルしてもらう。大きいモニターを付けたのもそういうことで、エンジニアやプロデューサーから歌ってる人の様子がよく見えるようにすることで、“今のテイクを気に入ってるんだな”とか“今日は機嫌がいいな”とか、そういう表情がよくわかる。プロデュースしやすいという意味で大きいモニターにしているわけで、見栄じゃないからね(笑)。 渡辺:(笑)でも、あのモニターが松隈さんを表してるなぁと思いました。 松隈:まあ、ちょっとデカいくらいなら、すごくデカい方がいいなとは思うけど(笑)。僕は高価なビンテージギターとかいらないんです。高価な機材を買うんだったら、プレイヤーが演奏していて気持ちいい環境にお金を使いたい。スタジオって普通は巨大なミキサーの卓を買ったりするんですけど、ウチは敢えて買わないという斬新なスタンスなんです。今の若い人たちは大きいミキサーは使わずに、家のパソコンでレコーディングまでしちゃう。そういうところと同じ感覚でありたいというか、“今の機材”でつくることを大事にしているので。 ――それにしても、制作のスピードがめちゃくちゃ速いですよね。BiSHのオーディション告知~音源制作~ライブの流れ、また松隈さんのフェイスブックとか見てるとレコーディングの一連の作業もかなり集中して臨んでいたんじゃないかなと。 渡辺:本当にあっという間でした。今回、アルバムがオリコンのウィークリーで20位になったんです。アルバムってシングルに比べると高くて何枚も買えないから、アイドルは苦戦することが多くて。なので、いきなり20位になったことには驚いたし、しかも全曲ネットで聴けちゃうんですよ。アルバム発売前に「BiSH-星が瞬く夜に」という曲を除いてSoundCloudに全曲アップしていて、今も聴ける。「BiSH-星が瞬く夜に」もYouTubeにアップしてるので、結果的にアルバム収録曲すべてフル尺で聴けるんです。それなのにアルバムが売れたのはすごいなと。もちろん、それで買わなかった人もいると思うんですけど、僕の実感としてはネットに公開したからこそ売れたんじゃないかなって。 松隈:渡辺くんは前からネットで全曲公開したいって言ってて。僕も自分のバンドで以前は無料で試聴とかやってたんです。でも、ファンは買ってくれるんですよね。CDを買わない人は無料でも聴かないだろうし、そういう意味では公開してもあまり変わらないのかもしれないねって話はずっとしていて。 渡辺:メジャーだとできないことも多いんですけど、BiSHはインディーズで初めて出すタイミングだし、失敗してもいいから(ネットでの無料試聴を)をやらせてほしいと松隈さんに話して。松隈さんも最後まで悩んだんですけど、「いいか、淳之介。こんなことして許されるの、俺くらいだぞ」って(笑)。 松隈:怒ってたわけじゃないよ。面白いなと思って。 渡辺:僕がBiSHのスタートアップでうれしかったのは、全曲試聴のおかげで、アルバム発売前の初ライブでお客さんが一緒に歌ってくれたことなんです。“何だこの状況は?”って思ったんですけど、よくよく考えると、何回も試聴して覚えてきてくれたんだなって。 ――今回、そうやって一つ結果を残すことができたわけじゃないですか。ある種、衝動的にやったことが認められたと考えると、その次にどうしようか悩むことはないですか? 「う~ん、う~ん」と頭をひねって絞り出したアイデアよりも、「うぉりゃ!」と勢いでやった方が上手くいったりする……みたいなケースもあるじゃないですか。 渡辺:普段の仕事のスタイルもそうなんですけど、時間をかけてコンセプトを練りに練るというよりは、締め切りギリギリになんとか間に合わすタイプで。言い換えるなら、誤魔化すみたいな(笑)。例えば、何かハプニングが起こったとき、それをどうやって見せようかなってことは得意ですね。BiSHもデビュー前にメンバーが脱退しちゃいましたけど、いろんな人から「脱退も織り込み済みで進めてたんでしょ?」って言われるんですけど、逆にそんなことはできないので(笑)。 松隈:ほんとの事故だからね(笑)。 渡辺:まさかのハプニングだったので。そういう不測の事態があったとき、もしコンセプトを事前にしっかり考えていたとしたら、対応できないと思うんですよね。僕的には「そのコンセプトはズラしたくない!」というのはないので、突発的に起こったことに対して、どう振り切っていくのかが楽しい。問題があった方が楽しいんです。松隈さんもそういうタイプですよね? 松隈:うん。でも、大きい目標はブレないからね。 渡辺:僕が感じるのは、何か一つダメだったときに「もうダメだ!」って諦めちゃう人が多くて、そういうのって残念だなと。「いや、ダメじゃないでしょ!」って僕は思うし、もっとどうするか考えようよと。でも、こう見えて普段から心配しかしてないタイプなので、何があっても動じないっていうのは強いかもしれないですね。

松隈「僕のフィルターを通させてもらってるところが、BiSHらしさになってるかも」

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BiSH

――BiSHに関して、音楽的な方向性は決まっていたんですか? 松隈:今回、渡辺くんから最初に言われていたのは「音のオモチャ箱にしたい」ってことで。BiSの一枚目のアルバム(『Brand-new idol Society』)が、そうだったんですよ。14曲14ジャンル詰めこんで、とにかくハチャメチャにしようと。で、それをもう一回やろうと。ただ、曲をバラバラなものにするというよりは、方向性を一つに決めないでつくっていたところはあります。あと渡辺くんが言ってたのは、シンセを減らしたいと。バンドの生音を活かしたサウンドにしたい。だから、必要最小限の要素しか入ってない。いい意味で音がスカスカというか。その点は結構こだわりました。 ――渡辺さんは松隈さんに「こういうサウンドがいいです」みたいに、いろいろ聴かせるわけですか? 渡辺:楽曲コンペをやるんです。僕が「こういう曲がいいです」って資料用の曲をリストアップして松隈さんに渡して、そこから松隈さんがSCRAMBLES(松隈をリーダーとするクリエイター&プレイヤーのチーム)とか周りの人に声をかけて……みたいな。 松隈:だから、僕の曲が不採用になることも当然あります(笑)。ただ、渡辺くんはみんなの得意なところを活かすタイプだから、例えばジョンスペ(ザ・ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン)みたいな曲を渡辺くんが欲しいと言って、そういう曲が集まらなかったとしても、それぞれのクリエイターの良さを伸ばしてくれる。これが他の人だったら、「こいつら違うな」って別のクリエイターに頼んじゃうんですけど、渡辺くんは意見を出しながら一緒につくりこんでいく感じ。 ――BiSのときもコンペはあった? 松隈:ありましたね。SCRAMBLESのメンツも当時とは少し変わってるんですけど、僕の周りの連中だけじゃなくて、バンド仲間とかにも声をかけたりしてました。今回も集まった曲を僕の中で精査して、それを渡辺くんに渡すという感じです。 ――SCRAMBLESのクリエイターたちを見て、以前に比べて成長してるなと感じることも多かったのでは? 松隈:そうですね。田仲圭太はエビ中さん(私立恵比寿中学)や夢アドさん(夢見るアドレセンス)にも曲を書いてるし、井口イチロウは“つばさFLY”っていうアイドルさんからメインソングライター的に起用していただいたり。少しずつ実績が出てきてます。でも、BiSHでは彼らの曲は使われなかったんだけど(笑)、編曲ではそれぞれ参加してるので。 渡辺:あと、今回は制作期間がほとんどなかったので、曲を書き直したりする余裕がなかったですね。 松隈:トラックダウンの日にギター弾いた曲が何曲かありましたからね(笑)。 渡辺:いい意味で時間がなかったことが幸いしたというか、僕はこのアルバムのギザギザした感じが好きです。ソリッドというか。 松隈:いろんな人の曲が入ってるんですけど、すべて僕のフィルターを通させてもらってるところが、BiSHらしさになってるかもしれないです。ボーカル録りは僕が全部やりましたし、最初から最後まで何らかの形で携わってるので。

渡辺「僕は必要悪でいい、ヒールでいいんです」

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スタジオには新しいドラムセットがあった

――ところで、渡辺さんはツイッターとかでのディスりとかは気にならないタイプですか? 渡辺:めっちゃ気にしますよ。僕はずっと褒められていたいタイプなので(笑)。BiSのときは全裸PVだったり、BiSHのときはネットで全曲無料試聴とか、これまでヘンなことばっかりしてきたじゃないですか。BiSのときからよく言われるのは、「楽曲はいいのに、プロモーションはどうなの?」って。そりゃ僕もきれいにプロモーションやりたいですよ。でも、BiSの前にやってたプー・ルイのソロのときに「楽曲いいね!」って言ってきてくれた人はいなかったですからね(笑)。鶏が先か、卵が先かって話にも通じると思うんですけど、これくらいインパクトのあることしなかったら聴いてすらくれなかったでしょって。まあでも、ぜんぜん褒めてくれないです。お客さんも僕のことは褒めてくれないですね(笑)。僕は必要悪でいい、ヒールでいいんです。 松隈:でも、表立って「すごい!」って渡辺くんが持ち上げられるよりは、今の方がいいと思う。渡辺くんがすごいのはみんなわかってることで、わかってる人は表に出してハッキリ言わないんだよ。渡辺くんは「私は偉いんです」みたいな空気を一切出さないところがすごいんですよ。だから、初対面の人に「もっと凶悪な人だと思ってました」と言われたりするし(笑)。「意外と人格者なんですね」って(笑)。 渡辺:あの……ほんとにみんな失礼ですよね(笑)。 ――アハハ。BiSHのメンバーは渡辺さんに対して、どんな感じなんですか? 渡辺:BiSHに関しては、もともとBiSを見てきた子たちなので、僕へのちょっとした尊敬があったりするんです。そこが逆に難しいところでもあるんですけど。BiSのときは完全に言われ放題だったので(笑)。 松隈:でも、レコーディングのときの渡辺くんは、その場の空気を悪くしないようにする天才ですよ。BiSのときもBiSHのときも。レコーディングのとき、どうしてもイライラしてきてしまって厳しいことを言ってしまうときが時々あるんですけど、そんなときは渡辺くんがアホなことを言って空気をつくってくれるので、すごくやりやすい。ただ、渡辺くんが唯一ピリっとするのは、彼のアシスタントが何かミスしたとき。そのときはレコーディング中だろうが何だろうが怒鳴り散らすので(笑)、僕もメンバーも怒りが収まるのを黙って待つしかない(笑)。 ――温厚そうな渡辺さんしか知らない自分にとっては意外な一面です。 渡辺:アシスタントには厳しいです。アーティストがあってこその自分たちなわけだから、僕たちはアーティストよりも超人じゃなきゃいけない。極端な話、「この人、アーティストよりも寝てないんだな」って思われるくらい頑張るのが当たり前だし、アーティスト本人にも「この人、私たちのために死ぬほど頑張ってくれてる」と思ってもらわなきゃいけない。だから、自分本位で何か言ったりしたときは怒ります。疲れて眠たかったので寝てしまって遅刻したとか、相手から連絡が来ないので保留にしてあるとか。これはBiSHのメンバーにも言ってあることなんですけど、口に出す前に自分で一度考えろよと。これでいいんだろうか?って。当然、仕方のないときもあると思うんですよ。でも、それをリカバリーしようとするヤツがなかなかいないので。まあ、わかってもらえないことが多いんですけど(笑)。例えば、電車が遅延して現場に遅れることがあるとしたら、それに対してどれだけリカバリーできるかだと思うんです。ちょっとしたウソでもいいんですよ。「今、電車が止まって閉じ込められちゃってるんですけど、扉をこじ開けて外に出ようと思って!」くらいの話をしなくちゃいけないのに、冷静に「電車遅れてるんで、すみません」みたいなのって違うなと。 松隈:今の話、クリエイターにも通じるところがあるね。例えば「手持ちの機材が少ないんですよ」とか「すべて打ち込みだから、これが限界なんです」って言ってくるのは、やっぱりそういう音なんです。機材足りないんだったら、それを逆に活かしたサウンドにすればいいのにって。カゼひいて声があんまり出ないとか、でも、そういう声でカッコよく録れる方法を探せばいいと思うんです。 ――BiSHのプロジェクトの次はPOPが控えています。こちらもプラニメから引き続き松隈さんが携わっていく感じですか? 松隈:そうですね。基本的にはプラニメの方向性を踏襲しようと思っていて、アルバムで世界観をがっつりつくれたらなと。 ――BiSH、POPの動向もそうですけど、元BiSのメンバーの順調そうな活動ぶりも含めて、改めてBiSを解散して良かったと言える状況と言えるんじゃないですか? 松隈:もし続いてたら渡辺くん、今頃は死んでたよね。忙しすぎて。 渡辺:たぶん、あのまま続けてたら普通のダサいオジさんになってたと思うんですよ。 ――僕はここ3年くらいしか見てませんが、渡辺さん、いい意味でぜんぜん変わらないじゃないですか。年齢を重ねてキャリアを積んでくると、「風格出てきたね」「なんか大物っぽいね」みたいに言われることもあるかもしれないけど、自分の好きなようにやってるからなのか、見た目や雰囲気がまったく変わってない。簡単に言うと“若い”ですよね。それって今の道を選んだからなんだろうなと思います。 松隈:うん、それはあるかもな。 渡辺:僕の中でBISは伝説なんです。でも、BiSHのリリースがあったことで、BiSの旧譜が売れてるらしいんですよ。 松隈:BiSHやPOPのファンになった人は、そのルーツに戻ることができるという。 渡辺:今、BiSが過大評価されてるので、ほめられるのが好きな自分にとっては最高にいい時期であるとも言えます(笑)。 (取材・文=上野拓朗/POKER FACE/写真=編集部)

ライブシーンは1年でこれほど動いた KEYTALK、[Alexandros]、BLUE ENCOUNTらの大躍進

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04 Limited Sazabys『CAVU(通常盤)』(日本コロムビア)

【リアルサウンドより】  音楽雑誌やウェブサイトを中心に活躍するライター、高橋美穂氏による連載企画「ライブシーン狙い撃ち」が今回からスタートする。当連載では、ライブハウスを主な取材対象としてきた同氏が、リアルタイムで注目するライブバンドやシーンを紹介。一児の母でもある同氏らしい視点で、ライブやバンドの新たな楽しみ方を伝えていく。(リアルサウンド編集部)  はい、浦島太郎です! ……そう、恥ずかしくも言わざるをえないくらい、1年振りの現場復帰で目が回っている。そもそも「若手バンドを追い掛ける」、「ライブハウスに通う」というスタイルで築いてきた私のライター人生。そのスタイルを変えなければならない事情が、1年前に起きた。子供を授かったのだ。どんな仕事をしていたって、女性ならブチ当たりがちなこの現実。しかも音楽業界の流れが早いことは、身をもってわかっている。子供を産み育てることは夢だったし、三十路半ばだし、ずっと覚悟は固めてきた。少し立ち止まってみて、そこから見えるもの、聴こえるものも、面白いかもしれない。そう気持ちに落としどころをつけて、出産後は子供が寝た後で細々とディスクレビューを執筆し、音楽シーンの流れはどうにか把握。子供が起きている時間は音楽と言えばEテレ。『ブンバ・ボーン!』を歌い踊りながら子供をあやし、こんな人やあんな人が子供番組に音楽を提供しているのね!?と驚いたり、歌のおねえさんとおにいさんの上手さやパフォーマンス力に感動したり……と、刺激はめいっぱい受けていた、一応。そして、赤ちゃんの成長の早さに合わせて、私自身もすんなりと変化出来てしまった。今まで居場所だったライブハウスの酒臭さや汗臭さではない、赤ちゃんの石鹸の匂いやウンチの臭いを嗅ぐ日々に慣れ、ライブをやっている時間に寝てしまう生活が、すっかり居心地良くなってしまったのだ。  しかし、4月を迎えて、そうは言っていられなくなる。子供を保育園に預けて、ライターに復帰しなければならなかったからだ。訊きたい書きたい欲がウズウズしていたというのもあり、育児、家事、仕事、フル稼働しないと生活していけない状況というところもあり。じゃあ、片足母ちゃん、片足ライター、二足のわらじをはいてガツガツ走っていきますか!と意気込んでみたものの……はっ! 最近のライブハウスはどうなってるんだ!? とキョロキョロ。そうしたら、あんなバンドがこんなに成長していて、こんなバンドが世の中に出てきている!と、驚きのオンパレードだったのだ。  まずはKEYTALKの大躍進。ダンサブルなサウンドとテクニカルなプレイが魅力的な彼らはインディーズ時代から取材してきたけれど、こんなにフェスの申し子のようになり、今秋の日本武道館公演まで決定しているとは! 音楽バカでピュアなキャラクターであるが故に(もちろん褒め言葉)、ここまでのし上がるとは思っていなかったけれど、時代と見事にシンクロした結果だと思う。また、いよいよ“スター”と呼びたくなるような存在になってきたのが、[Alexandros]。ちょうど[Champagne]から改名する頃に産休に入った身としては、メジャーデビューが似合う華やかさをまとっている今の彼らは、本当に別バンドのように見えてならない。いや、元々実力派ではあったけれど、ビジュアルもサウンドも、改名後にぐっと色気が増した気がするのだ。お茶の間まで、世界じゅうまで、オーバーグラウンドにロックを届ける際には、色気は必須。これからが楽しみでしかない。そして、最初の「これは何と喩えていいのやら!?」という印象のままで、ズンズン名と音を広めてしまっているのがBLUE ENCOUNT。ラップに速弾き、ストリングスから真っ直ぐな歌詞まで、全てをブチ込んでスマートにまとめてしまっている、まさに現代版ミクスチャーバンド。“●●系”とかどうでもよくなった時代の象徴的存在だろう。あと、何よりもライブが重要な今の時代において、いちバンドなのにいろいろな角度で楽しめるところも魅力なのかもしれない。さらに、違った方向性で、現代版ミクスチャーバンドと言えるのが、WANIMA。産休中に取材した数少ないバンドなのだが、レゲエやメロディック・パンクというジャンルだけではなく、エロに郷愁に熱いメッセージまで、感情もミクスチャーして放出しているところが彼らの特徴だ。そこが格別に人間臭くて気持ちいい。最後に、最も驚いたのが04 Limited Sazabys。昨年のPIZZA OF DEATH主催イベント『SATANIC CARNIVAL 14'』に出演してから、どんどん評判が評判を呼ぶようになっていったと思うのだが、ちょうどその時期から産休に入っていたため、かなり彼らからは浦島太郎感を食らわせられた。クセのあるボーカル、ポップなメロディ、心弾む疾走感、メロディック・パンク育ちのヤンチャな空気感……惹かれる要素が満載。しかも、瞬く間にメジャーデビューを果たすとは、追いかけないと置いていかれそうになるくらい、意志を持ったバンドなのだと思う。ぜひ、何処かで出会いたい。  今度いつライブハウスに行けるかはまったくわからない。でも、今まで磨き上げてきたアンテナは、1年くらいで錆びちゃいないはず。私のような母ちゃんに限らず、なかなかライブハウスに行けない人たちも多いはずだから、そんな状況でも音楽は楽しめるのよ、新しいバンドを知れるのよ、そしてライブハウスに行っている感覚に近付けるのよ、というような連載にしていけたらと思っています。これから、どうぞよろしく。 ■高橋美穂 仙台市出身のライター。㈱ロッキング・オンにて、ロッキング・オン・ジャパンやロック・イン・ジャパン・フェスティバルに携わった後、独立。音楽誌、音楽サイトを中心に、ライヴハウス育ちのアンテナを生かしてバンドを追い掛け続けている。一児の母。

高田渡の音楽が聴き継がれる背景とは? 社会派ソングを支えるモダンな音楽性

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高田渡『イキテル・ソング~オールタイム・ベスト~』(キングレコード)

【リアルサウンドより】  いきなりしみったれた話で恐縮ですが、ある日、ラジオから聴こえてきた歌が、なかなか心に沁みてしまいました。それは高田渡の「系図」という曲。子供が生まれ、死ぬほど働いてくたばった父親を描写した歌詞には、ユーモアと悲哀がにじみ出ていて、日々仕事と育児に追われている自分に重ね合わせてみたりしてしまったわけです。若い頃は、高田渡なんてなんだか貧乏くさい歌を歌う人だなあと思っていたんですが、いつの間にかリアリティを感じてしまうようになってしまったのは、世相なのか年齢のせいなのか。いずれにしても、先日コンパイルされたベスト・アルバム『イキテル・ソング~オールタイム・ベスト~』を聴いていると、いろいろと考えさせられるのです。  高田渡というアーティストに関しては、少し説明が必要かもしれません。1949年に生まれ、60年代後半のフォーク・ブームで脚光を浴びたシンガー・ソングライターなのですが、山之口獏や谷川俊太郎といった現代詩にメロディを付けるという試みによって評価されている一方で、時事ネタを扱った皮肉たっぷりの歌でも定評があります。その代表的なものが、「自衛隊に入ろう」でしょう。〈男の中の男は自衛隊に入って花と散る〉とか〈日本の平和を守るためにゃ鉄砲やロケットがいりますよ〉なんていうフレーズにドキッとさせられるこの名曲は、日米安保条約で騒がしかった当時に書かれたものですが、集団的自衛権が取り沙汰されている今こそ改めて聴かれるべきではないでしょうか。  他にも、労働者の視点から家族や政治家を描写した「鉱夫の祈り」や、物価が上がるのに生活が追いつかない庶民をテーマにした「当世平和節」などは、40年ほど前に作られた楽曲にも関わらず、まるで消費税の増税を予見していたかのように現代と重なっていきます。決して声高らかに主張するわけでもなく、淡々とつぶやくように歌う彼のたたずまいが、さらに説得力を増しているというのもあるでしょう。  ただ、そういう社会的な内容だけを歌っているのではありません。例えば、なんでもない穏やかな日常を綴った「自転車にのって」、京都の名喫茶店であるイノダコーヒーが登場する「コーヒーブルース」、静かな夜に火吹竹を作るというミニマムな歌詞が印象深い「火吹竹」といった名曲群には、高田渡という人の朴訥さや優しさがにじみ出ています。そして、こういう楽曲をどこか脱力した歌声や、カントリーやフォークに影響を受けたアコースティックなサウンドでコーティングしていくのです。 こういった絶妙な感性は、現在のポップ・シーンにも脈々と受け継がれているのではないでしょうか。社会性と日常風景をたくみに織り交ぜ、モダンなアレンジでオブラートに包みこむという点においては、斉藤和義や曽我部恵一に影響を与えているでしょうし、力を抜いた歌声でありながら説得力を持つというバランス感はハナレグミにも通じます。

斉藤和義/ウエディング・ソング

 残念なことに、高田渡は2005年に56歳という若さで亡くなりました。しかし、このほんわかとしながらもピリッとスパイスを効かせたテイストは、前述の通り次世代に引き継がれており、〝古くさい〟と一言で片付けることはできないでしょう。また、彼の息子であるマルチ楽器奏者の高田漣にも注目しておきたいところです。10周忌のタイミングで、初めて父親の楽曲だけをカヴァーしたアルバム『コーヒーブルース~高田渡を歌う~』を発表し、話題を呼んでいます。丁寧に歌い込まれた名曲群は、やはり古びておらず新鮮に聴こえてくることに、改めて感心させられるでしょう。

曽我部恵一/6月の歌

 世知辛い世の中ではありますが、高田渡が残した名曲群を聴けばこの時代を生き抜く励みになるのではないでしょうか。 ■栗本 斉 旅&音楽ライターとして活躍するかたわら、選曲家やDJ、ビルボードライブのブッキング・プランナーとしても活躍。著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、共著に『Light Mellow 和モノ Special -more 160 item-』(ラトルズ)がある。 Blog: http://blog.livedoor.jp/tabi_rhythm Twitter: http://twitter.com/tabirhythm Facebook: http://www.facebook.com/tabirhythm

ナオト・インティライミはなぜ愛される? “太陽のお祭り男”のアーティスト性に迫る

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【リアルサウンドより】  ナオト・インティライミが6月10日、デビュー5周年を記念した初のベストアルバム『THE BEST!』をリリースした。本作には1stシングルの「カーニバる?」から、4月にリリースされた最新シングル「いつかきっと」まで15曲を収録。ミリオンダウンロードを記録した「今のキミを忘れない」「タカラモノ ~この声がなくなるまで~」など、いずれも劣らぬ人気曲がラインナップされている。  あらためてヒット曲を並べて聴いてみると、中毒性のあるEDM系のアッパーチューンから、哀愁のあるメロウなバラードまで、作風は幅広い。しかしいずれの曲も、人への優しさに溢れ、時に熱くリスナーを鼓舞しながら、心に寄り添ってくれる作品であることが伝わってくる。実直で陽気――愛すべき人間性がにじみ出ており、CM、ドラマと、多くのタイアップに恵まれているのも納得だ。  彼の“愛されっぷり”は、今回のリリースに合わせて展開中の特別企画にも表れている。「ナオト・イン○○企画 ~あなたのこころにもきっとインする~」と題し、思い思いの場所やモノと、ナオトの写真をコラージュして、TwitterなどSNSに投稿する…という内容の企画で、ハッシュタグ「#ナオトインXX」をチェックしてみると、これがなかなかの力作ぞろい。“ナオト・インティライミが、ファンにとってどんなアーティストなのか”ということが伝わってきて面白い。  象徴的なのは、著名人のコラージュ画像としてそれほど多く見かけない「食べ物」との組み合わせが多く見られること。おにぎりにラーメン、たこ焼き、パフェなどなど。「食べちゃいたインティライミ♡」とかわいらしいメッセージが添えられた写真もあったが、シャツのポケットに“イン”してみたり、コーヒーカップに入れてみたり、何気ない日常を楽しく彩ってくれるアーティストとして受け入れられているように思える。  また、「太陽のお祭り男=インティライミ」らしく、燦々と照りつける太陽と重ねたり、青い空や海などの大自然と合わせた画像も多数。「The World is ours!」では<まだこんな僕だけど いつの日にか あなたを照らすLight ヒカリになりたい>と歌った彼だが、ファンにとってはまさに明るく、あたたかな光のような存在になっているようだ。世界を一周しながら各地でライブ活動を行ったというエピソードからか、海外の景勝地や“地球(地球儀)”など、ワールドワイドなコラボレーションも見られた。    そしてリリース日の6月10日より、テレビCMもオンエア中だ。

ナオト・インティライミ『THE BEST!』TV SPOT 堤真一編

ナオト・インティライミ『THE BEST!』TV SPOT 尾野真千子編

 その内容もSNS企画と重なるもので、堤真一のシャツの中からナオトが「タカラモノ ~この声がなくなるまで~」を歌いながら登場し、無理やりボタンを閉められてしまう「堤真一編(ナオト・インシンイチ)」、尾野真千子が急にYシャツのボタンを外したと思ったら、胸の中からナオトが「恋する季節」を歌いながら登場する「尾野真千子編(ナオト・インマチコ)」の2パターンで展開。ツイッター上でも「ナオト ベストアルバムのCM おもろすぎじゃろ!!」「ナオトCM最高」と、早くも評判になっている。  それにしてもこのCM、ファンが作るコラージュ写真と比較しても、よりコミカルで“遊んだ”印象がある。ベストアルバムのリリースという節目に、自分を素材にして遊んでしまえるナオト・インティライミ。名曲を振り返りつつ、愛されキャラとしてのさらなる進化に期待してしまう、さすがのアニバーサリー企画だった。 (文=橋川良寛) ■リリース情報 Debut 5th Anniversary BEST ALBUM 『THE BEST!』 発売:6月10日(水) 価格:通常盤(CD) ¥2,800+税    初回限定盤(CD+DVD) ¥3,800+税 <CD収録内容> 1.タカラモノ ~この声がなくなるまで~ 2.恋する季節 3.今のキミを忘れない 4.君に逢いたかった 5.いつかきっと 6.LIFE 7.ありったけのLove Song 8.Brave 9.愛してた 10.しあわせになるために 11.ナイテタッテ 12.カーニバる? 13.The World is ours! 14.Hello 15.手紙 <「初回限定盤」DVD収録内容> ・カーニバる? ・タカラモノ ~この声がなくなるまで~ ・ありったけのLove Song ・今のキミを忘れない ・Brave ・Hello ・君に逢いたかった ・愛してた ・ナイテタッテ ・しあわせになるために ・恋する季節 ・手紙 ・The World is ours! ・LIFE ・いつかきっと (ナオトver.) ■5周年イヤースペシャルサイト http://sp.universal-music.co.jp/naoto/5th/ ■オフィシャルサイト http://www.nananaoto.com/

AKB48高橋みなみ、『選抜総選挙』を語る 「指原の2連覇は確実だと思う」

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AKB48『僕たちは戦わない(Type-D【初回限定盤】)』(キングレコード)

【リアルサウンドより】  土田晃之とAKB48の指原莉乃がMCを務める深夜の番組『僕らが考える夜』(フジテレビ系)。6月11日放送回では、『選抜総選挙』の反省会が行われた。  同番組はAKB48のメンバーが“現代を生きる若者代表”として、ゲストや気鋭の論客と掲げられたテーマを元に議論を交わす、ソフトでポップな討論番組。今回は6月6日に発表を終えた『選抜総選挙』について、ゲストに上島竜兵とミッツ・マングローブを迎え、各メンバーが意見を交わした。  まずは番組からの「総選挙を悔いなく戦い切りましたか?」という質問からスタート。高橋みなみが「終わった今、めちゃくちゃ清々しい」とコメントすると、木崎ゆりあは「速報の57位を受けて、入れないと意識していたけど、ファンの方が頑張ってくれた」と語り、北原里英は「NGT48も設立するし、自分たちだけの問題じゃなくて、選抜に入れてよかった」と、それぞれがスピーチで語っていたことの一部を引用する形で感想を述べた。また、圏外となった島田晴香は「出ること自体に意味があったと思っている。でも悔しかった」と素直な気持ちを明かした。  また、卒業を控えて今回が最後の総選挙となった高橋が「今までは総監督として出馬していて、今回は初めて一位宣言をした。そうしたことで緊張感が増したし、はじめて過呼吸になった」とプレッシャーに負けそうになったことを語ると、番組では各メンバーのスピーチの様子を紹介。島田は、同期の島崎遥香が涙ながらにファンへと訴えかけたスピーチについて「何万人もいる前で人にお願いするのを聴いてびっくりしたし、その決意をしたのに私が(呼ばれてないメンバーとして)壇上にいたのが悔しい」と告白すると、指原は後輩の神志那結衣がスピーチで震えていたり、手鏡を取り出すなどの奇行を働いたことについて「呼ばれる前から痙攣してて、しまいには司会の方からマイクを取っていた」と舞台裏を語った。  続いてのテーマである「今回の総選挙で見えてきたこととは?」について、高橋が「50位くらいまでAKB48が4人くらいしかいなくて、スタッフさんに『これマズいっすね』と話しに行った。グループ全体を推している人たちが協力していて、姉妹グループの勢いを感じた」と語ると、指原は1位の公約である「水着でコンサート」について「6月の後半に横浜アリーナでHKT48がコンサートをするので、その時かな…」と具体的な時期を示唆。これにミッツが「あんたの水着を見て喜ぶファンはいるの?」と挑発し、土田も「指原にセクシーさは求めていない」と語ると、指原は「求められてなくても、私、脱ぎます」と大胆発言をした。  最後のテーマである「来年の選挙はどうなるか?」については、北原が「NGT48という新しいグループが増えるので、参加メンバーが増える」と語ると、AKB48勢について高橋は「頑張らないと11年目はキツいですね」と分析。今回1位に輝いた指原は「来年のことは考えてないけど、出ざるを得ないだろうから」と語ると、高橋は「指原の2連覇は確実だと思う」と断言したが、指原は「今年はファンの方に『無理してください』ってお願いしていたので、それが2年続くかどうか…」とこれを否定した。また、指原は「たかみなの13万票は誰かに動く。そうなると唯一のオリジナルメンバーであるみぃちゃん(峯岸みなみ)に集まるんじゃないか」と、高橋の卒業が及ぼす影響を推察すると、高橋も「半分くらいは誰かに動くと思う」とこれに同意した。  そして、高橋が「今回の総選挙は笑った子もいれば泣いた子もいた。自分の頑張りが評価されるのは1年先だったりする。来年は卒業した身として見に行くので、11年目のAKB48を楽しみにしています」と総括し、番組が終了した。  総選挙を巡るメンバーの様々な思惑が明らかになった今回の放送。次回は『整形』をテーマに議論が行われる予定だ。 (文=向原康太)

浜端ヨウヘイが語る、“大きな音楽”が生まれる場所「旅を続けるなかで新しいテーマに出会う」

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【リアルサウンドより】  シンガーソングライターの浜端ヨウヘイが、1stアルバム『BIG MUSIC』を6月10日にリリースした。プロデューサーに江川ゲンタを迎えた同作は、ラグタイムやロカビリー、フォークといったルーツ・ミュージックから、ビートルズ的なエッセンスまで消化し、浜端らしい大らかな歌声と豊かなメロディで奏でた、まさに“BIG MUSIC”と呼ぶにふさわしい作品だ。地元の京都・鴨川から宮古島、果てはボルネオ島の原生林まで、各地を旅した経験を軸に紡ぎ出したという楽曲たちには、どんな思いが込められているのか。そして本作の制作を通じて見えた、シンガーソングライター・浜端ヨウヘイの音楽的展望とは。『BIG MUSIC』にまつわる話を、たっぷりと語ってもらった。

「ずっと丼ものが出続けるコースみたいなアルバムになった」

ーーこれまでシングルで浜端さんの音楽を聴いてきましたが、アルバムとなると印象が違ってきて、サウンド全体に奥行きや幅広さを感じることができました。今作をどんなコンセプトで制作したのか、改めて教えてください。 浜端:シングルの時から、1枚を通して聞いた際に、僕の音楽が全体的に伝えられれば……というコンセプトでやってきたんですけど、それをもっと凝縮して、より具体的に伝わるようにしたのが今回のアルバムです。ひたすら自分の音楽を詰め込んだ、ずっと丼ものが出続けるコースみたいな勢いですね(笑)。結果として、キャラクターが強い曲ばかりになりました。とはいっても、ライブではお馴染みのずっと歌い続けてきた曲が半分くらい、書き下ろした曲が半分くらいで、そういう意味ではバランスよくまとまったと思います。これまでずっとやってきたことの到達点であり、これからの出発点でもあるというイメージですね。最初はもうちょっとさらっと聞ける曲があってもいいかなと思ったんですが、結果としてベストアルバムを聞いているようなボリューム感で、聴きごたえのあるものに仕上がって良かったと思っています。 ーー全曲がメインディッシュみたいなアルバムであると。もともと200曲近いストックがあるということでしたが、そこからどういうプロセスで曲を選んだのですか。 浜端:ライブでやってきた曲を中心に組み立てていったので、スムーズに決まりました。曲順もライブに沿う感じで、冒頭から徐々に盛り上がって、そこでいったんトーンを落として、もう一度盛り上がりの曲があって、そしてフィナーレに流れ込んでいくという構成になっています。だから必然的に1枚を通して聞くと、ライブをひとつ見終わったくらいの満足感になっていると思います。 ーー今回のアルバムには、ブルース的な曲もあれば50年代のロックンロールっぽい曲もあるし、アコースティックな曲もあります。改めて浜端さんの音楽ルーツについて聞かせてください。 浜端:こういう風に並べると、僕は本当になんでもありなんやなという感じです。「BELONG-BELONG」とか「スーパーマン」、あとは「限りなく空」、「ノラリクラリ」、「大男のブルース」なんかは、ラグタイムやロカビリー、あるいはフォークといった音楽と通じていますし、一方で「群青ホライズン」とか「結-yui-」みたいな王道J-POPもあって、“俺にはこういうのもあるんだ”という発見になりました。でも、やっぱり根幹として、僕の真ん中にはビートルズがあると思います。 ーー「MUSIC!!」はまさにそんな曲ですね。 浜端:「MUSIC!!」は、ビートルズへの思いを全部出したという感覚がありますね。ビートルズの楽曲って、どんなシチュエーションにも必ず合うと思っていて、大きいことを言うようですが、そんな風に人々の暮らしとか生活の中に馴染む音楽が作れたらいいなと思っています。

「旅先で見たものを書くのは、僕にとって揺るぎないもの」

浜端ヨウヘイ / MUSIC!!

ーー「MUSIC!!」は、浜端さんのメロディメーカーとしての良さが出ている曲だと思いました。この曲はいつ頃、作ったのでしょう。 浜端:2、3年くらい前です。会社を辞めて音楽だけでやっていくことを決心した時期で、セカンドシングルの「無責任」を書くちょっと前くらいですね。1曲目の「Starting over」もそうなんですけど、僕はこれまで“命”とか“音楽”とか“愛”みたいな、大きいテーマから逃げてきたところがあるんです。そういうのを歌うのは、ちょっと気恥ずかしくて。でも、その時期は「そんなこと言うとる場合じゃないやろ」と思って、頑張って書いたんですが、やはりやりきれる自信がなくて、なかなかライブでは出来なかった。今は頼りになる先輩やバンドメンバーがいて、ようやく形にすることができたという感じです。 ーー浜端さんの中でようやく、機が熟したわけですね。「これから自分は音楽をやっていくんだ」という宣言文のような曲でもあります。 浜端:そうですね、本当にそう思って書いた歌だったので。ボルネオで書いた「Starting over」も、僕にとっては“命”という大きなものをテーマにした新しいアプローチの曲でした。 ーー「Starting over」はどんなシチュエーションで書いたのですか。 浜端:環境問題をレポートするという招待でボルネオ島に行ったんですけど、その滞在期間中に作りました。ボルネオ島のダナンバレーという原生林の中を、夜明け前から歩き始めて、そこから二時間、ガタガタの道をバスで走って、また日が沈むまで歩いて……。日付が変わるころに寝たら、次の日はまた早朝から起きるっていうスケジュールの中で、だんだんみんな口数が減っていくんですよ。最後はみんな白目をむきながらバスに揺られている感じで(笑)。でも、夜明け前には素晴らしい光景にも出会えました。ジャングルにはキャノピーウォークっていう、10数メートルもある木の真ん中にかかった吊り橋があって、その吊り橋をわたっている最中に、夜がどんどん明けていくんですね。夜中にはずっと虫の声が大きくて、星があって、それは美しい夜なんですけど、だんだんと日が昇るに連れて、空が白んで、虫の声が小さくなっていって、今度は鳥とか動物たちの声に変わっていくんです。何かが変わっていく瞬間の光景で、これをちゃんと歌にできたら、それは“命”というものに目を向けることになるじゃないかと感じました。これまで書けなかったテーマに挑戦するきっかけになる、すごく有意義な体験で、やっぱり「旅せなあかんな」と思いましたね。 ーー浜端さんの楽曲は、訪れた土地ごとに作られるものが多いですね。 浜端:旅先とかで見たものを、写真のように切り取って書くというのは、僕にとって揺ぎないものだと思うので、旅をしながら歌を書いて、それを聞いてもらう旅をして、その旅の中でまた歌を書く、ということを続けていきたいと思っています。「旅」は大きなキーワードで、きっと僕の足が動かなくなるまではずっと旅を続けていくんでしょうね。 ーー実際の体験を通して、何かを生み出すタイプなのかもしれませんね。作ってから時間が経っている曲もあると思いますが、それぞれに思い出はありますか? 浜端:あります。どこで書いたとか、全部覚えていますよ。たとえば「BELONG-BELONG」は僕が今、暮らしている近所の焼き鳥屋さんで書いたんです。上京してきてそれほど用事もない時に、日が暮れるまで部屋にいて、夜になったら焼き鳥屋に行って、ごはんを食べさせてもらうという生活が毎日続いていて。ママから「あんたそろそろうちの歌書きなさいよ」って言われて書いた曲です(笑)。「鴨川」もそんな感じで、地元の街を出歩いた時にできた歌ですね。7曲目の「群青ホライズン」は、宮崎県の雲海酒造さんのタイアップで書き下ろしたんですけど、日向灘っていう宮崎の海をテーマにした歌です。実際に山さんの前座で宮崎に連れて行ってもらった時に、朝ひとりでジョギングして海の前に立って、その時のことを思い出したりしながら書きました。僕、海や空の曲がすごく好きなんですよ。 ーーたしかに海や空がいくつか出てきますね。空はその時々の心境によって、映すものも違うでしょうし。 浜端:そうですね。ほんまモヤモヤしてる時に見る空は濁って映ったりもするし、逆にどうしようもないほど落ち込みきった時は、すごく救われるような色にも見える。いろいろな空を思い出しますね。 ーーアルバムを作り終えた今は、空を見上げてどんな風に思いますか? 浜端:空を飛びたいですね(笑)。前は下を向いて歩いてたんですけど、今はちゃんと見上げられた気がするので。手を広げて高く飛んでいけるようなイメージです。 ーー浜端さんは開放的というか、おおらかな感じがするから、「無責任」のような繊細な曲を書いていた時代ってあまり想像がつかないんですが、それはだんだんと乗り越えてきたものでしょうか。 浜端:乗り越えたというよりは、その時代の上に立っているという感じです。今になって、すべてが糧になっているのではと思います。当時はきっと、ひどい顔をしていたと思いますよ(笑)。

「今作のレコーディングで一発録りが好きになった」

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ーー先ほど話に出ていたように、大きいテーマが歌われているのも、このアルバムの特徴ですね。こうした歌を歌えるようなきっかけは? 浜端:それはやっぱり、音楽だけでやっていくんだと決めて、環境も大きく変化したからだと思います。上京したこともそうですし、オフィス オーガスタに所属したことも、山崎まさよしさんの前座を務めるようになったことも、すべてが影響していますね。そうした環境の変化があったからこそ、歌ってもええんやぞと、背中を押されたというか。 ーー共演している熟練のメンバーによるアンサンブルも、浜端さんの歌を前に押し出していく力になっていると思います。レコーディングはどんな様子だったんですか? 浜端:基本的には、一発録りに近い状態で、そこに西慎嗣さんのギターを重ねてもらったりしています。「ラブソングみたいに」では、ヴァイオリニストの金原千恵子さんに入ってもらっていますが、これも一発録りですね。「BELONG-BELONG」と「スーパーマン」の2曲はライブハウスで「せーの」で録っていて、笑い声とかもそのまま入っています。よく聞くと、お店の電話の音が鳴っているんじゃないの?っていうところもあるんですけど、そういうのも全部含めて、宮古島の空気感の構成要素なので、あえてそのままにしています。たぶん東京のスタジオでセッションしても、この雰囲気は出なかったんじゃないかな。僕はもともと、一発撮りは間違えたりするから苦手だったんですけど、今作のレコーディングを経てからは、むしろみんなで一緒に音を出すほうが好きになりましたね。 ーープロデューサーの江川ゲンタさんとはどんなやり取りがありましたか。 浜端:リーダーシップを発揮してみんなを引っ張ってくれて、メンバーをきちんと同じ方向に向けてくれたのが素晴らしかったですね。「Starting over」の時はスタジオに入ってから「どうする、どうする」って言ってたんですけど、3回目くらいの合わせで、ちゃんと同じ着地点をイメージしながら音を出せた気がします。クリックを外れたところで鳴らすギターも、西さんと僕のギターはバッチリ揃いましたし。 ーー浜端さんとみなさんが共通して目指していた音楽というのは、言葉で表現するとどういうものでしょう。 浜端:今作では「BELONG-BELONG」のように、ほぼ一発録りの曲がある一方、「ノラリクラリ」などは、実はすごく作りこんでいるんですね。そのコントラストははっきり出したいと思っていました。そのため、録るまでにいろいろと試行錯誤をしているのですが、逆にマイキングなどの細かいところが決まれば、プロフェッショナルな方々が揃っているので、録音自体は早かったです。アコースティックギターの音色ひとつ取っても工夫を凝らしていて、そうしたことが思った以上の効果を生んだのは良かったですね。僕自身が目指していたところでいうと、今回はビートルズというテーマがあって、このギターを使うと近い音が出るよとか、この曲はジョンのこんな弾き方で……といったコツを、西さん達に教えてもらいました。 ーー目指したのはいつ頃のビートルズのサウンドですか。 浜端:僕は初期の頃、いわゆる赤盤のサウンドが好きで、先ほども言いましたが、それは暮らしのどのシチュエーションにも合う音楽だと思っていて。歌の内容ももちろんですけど、サウンド面においてもそれは言えて、鳴っているだけで体が動いてくる感覚というか、大きい意味での“音楽”という感じがします。そうやって目指したものは、最後の「MUSIC!!」という曲に全部詰め込むことができた感じで、思った以上の仕上がりになりました。

「30代のシンガーとして等身大で歌える歌を増やしていきたい」

ーー以前のインタビューで、宮古島で一緒に暮らしている人たちや、数人のお客さんの前で歌っていたのが原点だと言っていましたが、今は多くの人の前でライブを行ったりしているので、かつてとは異なる感覚もあるのではないかと思います。 浜端:そうですね。たとえば「鴨川」とかは、僕の言いたいことはひとつも入ってない。「Starting over」もそうですけど、「だからこうしようぜ」とか、「こう思うよ」みたいなことってほとんどないんですよね。見たままをそのまま書くとか、あとは全然関係ない物語を書くとか、そういうのは山さんの前座をさせてもらう中で「こうやっていきたいな」と思えたテーマだったし、そこにちゃんと挑戦して、うまく形にできてきたと思います。 ーーさきほど、J-POP的なルーツも持っていると言っていましたが、そういう意味で“みんなが口ずさめる歌”というのは、目指していくもの? 浜端:僕はそこが大前提というか、根幹にそれがありますね。もちろん、それ以外の歌も歌っていきたいと思うんですけど、基本的にはみんなで歌える歌がいいですね。ひとりで色んなところを回っていた頃から、日本中に知り合いとか、応援してくれる人がいるし、そういう人たちがふと入ったコンビニで聴いたりとか、ラジオで聴いたり、テレビで聴いたりできるような、広く受け入れられる音楽を作りたいと思っています。山さんの前座で見てくれた人たちも、1年以上経って自分のライブで行っても、「楽しみにしてました」って言って来てくれるようなお客さんたちいっぱいいるし。早くそういう人たちのところに歌が届いたら嬉しいですね。僕が現地に行って歌うのももちろん大事なんですけど、そんな風にしてその人たちの耳に僕の歌が届くっていうのは、良い報告というか、「頑張ってるで」っていうのを見せられるひとつの手段やと思うから。そういう意味で一番挑戦したのは、やはり「MUSIC!!」で、これまでで最も大きなテーマの歌です。なにしろ「僕は音楽が好きやねんで」「いいやろ音楽」っていうだけの歌ですから。 ーーなるほど。いい意味で夢がある曲ですよね。今後、浜端さんはシンガーとして、こうした方向性を目指すのでしょうか。 浜端:そうですね、自分の思っていることを素直に吐き出すということは、これまでずっとやってきたのですが、今後はそれを超えていって、30代のシンガーとして等身大で歌えるような歌を増やしていきたいと思っています。今回、課題としたところでいうと、物語を書くことだったり、写真を見てそれを歌にすることだったり、歌に温度感を出すということですね。それと、今後はもうちょっと大人な恋愛の歌も歌ってみたいです(笑)。「ラブソングみたいに」みたいなストレートな歌もあるんですけど、結局これもね、ほんまのことを言うと女の子じゃなくて、音楽に対してラブソングを書いたという感じがあるので。そうじゃなくてもっと、大人の恋愛の曲(笑)。僕の歌はちょっと日記的な部分があったんですけど、そこからもう少し、年を重ねたなりの表現の工夫をしたいと思いますね。今回の「MUSIC!!」みたいに単純なことをでっかい声で、小さなことを大きく歌っていけるようになりたいと思います。でも、体はこれ以上大きくならないですよ(笑)。 (取材=神谷弘一/構成=松田広宣)
hamabata_BIGMUSIC_shokaiJKth_.jpg浜端ヨウヘイ

『BIG MUSIC(初回盤)』

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浜端ヨウヘイ『BIG MUSIC(通常盤)』

■リリース情報 『BIG MUSIC』 発売:6月10日 初回生産限定盤(CD+DVD):¥3,500 通常盤(CD):¥3,000 ≪収録楽曲≫ 1.Starting over 2.結-yui- 3.ノラリクラリ 4.限りなく空 5.大男のブルース 6.鴨川 7.群青ホライズン 8.ラブソングみたいに 9.BELONG-BELONG 10.スーパーマン 11.無責任 12.MUSIC!! [初回限定生産盤DVD内容] ≪Music Video≫ ・結-yui- ・無責任 ≪Live at ZUBIZUBAR in MIYAKOisl.≫ ・ノラリクラリ ・限りなく空 ・BELONG-BELONG ・Traveler

AKB48『選抜総選挙』は“変化の季節”を迎えた? 各メンバーの参加スタンスから考える

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『41thシングル選抜総選挙』開票結果

【リアルサウンドより】  AKB48グループの『41thシングル選抜総選挙』は6月6日、福岡・ヤフオク!ドームで開票イベントが行なわれた。今年の総選挙に関して特に注目すべきは、この恒例となった一大イベントに対する個々のスタンスが、例年にもまして多様化してみえたことだろう。その兆候はまず、松井玲奈や小嶋陽菜らの「不参加」という選択にうかがえた。彼女たちは、戦いから「降りる」という選択肢が、「戦う」という選択肢と同等に存在することを、自らの不在をもって提示した。もちろん、過去にも辞退したメンバーはいたし、今回の不参加者も松井や小嶋ばかりではない。しかし、とりわけ通常なら選抜入りが確実視された松井と小嶋の軽やかな離脱は、48グループの外にも広い世界があること、どのメンバーも永遠にこの組織内で戦い続けるわけではないことを示すものだった。それは、すでにグループ外でも地歩を固めつつある二人だからこそできた行動である。総選挙を絶対的なものにしない視野を提案してみせたことは、長期的にみても大きな動きだったように思う。  また今回、すでに卒業を発表している高橋みなみを1位に押し上げようとするファンの高まりがあったことも、メンバーおよびファンの側も含めてのスタンスの多様性をうかがわせた。従来、AKB48の総選挙1位は、次回選抜シングル曲のセンターであると同時に、その先のグループの顔を託す意味合いも込められるものだった。しかし、来年以降グループにいない高橋が1位を取るとすれば、それは彼女のAKB48でのキャリアの集大成かつはなむけとしての意味を持つ。高橋の順位にまつわる盛り上がりは、総選挙にこれまでなかった機能を見出すものだった。 また、今年の選挙期間中に目についたのは、メンバーが上位を目指せば目指すだけ、ファンに「負担」をかけることになるというこのイベントの一側面を、メンバー個々が自覚したような発言の数々だった。開票イベントのスピーチでは、特にアンダーガールズ以下のメンバーがしばしば、自身の獲得順位を「素敵な順位」と表現した。それは上位を目指すこととファンに負担を強いることとの間で揺れる当事者たちの葛藤を感じさせる言葉だった。立候補者数も投票数も巨大化していく中で決定される「序列」は、その数字の意味をどう受け取ればよいのか、年を追って解釈が難しくなっていく。AKB48の総選挙が、しばしば喧伝されるほどシンプルな「戦い」ではなく、参与する人々もまたそうした悩ましさに対して超然としているわけではないことを象徴する一例だったといえる。列記したような事象の数々は、選抜総選挙というものがひとつやふたつのベクトルで解釈できるほどたやすいものでないことを示している。だからこそ、特に近年の総選挙には「祭り」という、殺伐としがちな空気を和らげるような解釈が選ばれることが多くなっているのだろう。  一方で、16位に入り選抜を勝ち取った武藤十夢は、スピーチでその「祭り」としての見方をはっきりと否定し、上位に食い込んだメンバーがチャンスを掴むという、この総選挙のシンプルかつ重要な役割を強調してみせた。それは総選挙をステップアップの機会にしてきた武藤にとっては自然な視野なのだろう。彼女の迷いのない清々しいスピーチは、選抜総選挙を「祭り」というクッション的な言葉のみでまとめてしまわない説得力があった。このようなメンバーごとの総選挙に対する意味付けはまた、各々のグループ内での、あるいはキャリア途上での現在地を浮き彫りにするものでもある。ようやく主役の一人になる足がかりを掴みつつあるメンバーにとっては、今も昔もこのイベントは勝負をかける重要な大一番である。選抜に食い込み、あるいはトップをうかがおうとするメンバーたちの、己を前面に出す野心的なスピーチもまた印象に強い。「戦い」としての機能は、当然ながらいまだ有力なものである。  しかし何より、総選挙はAKB48グループの「顔」が現在、どのような形で存在しているのかを指し示す場所である。今年の1~3位は、指原莉乃、柏木由紀、渡辺麻友の3人だった。形式の上ではもちろん、昨年2位だった指原が2年ぶりにトップに返り咲いたことが刻まれるべき結果である。しかし実際にはこの上位3人にとって、数字上の結果は何かを絶対的に決定づけるものではないのではないか。各人がそれぞれを認め合いながら共闘しているような姿に、そんなことを感じた。  AKB48グループがある意味で日本を取り巻くような超巨大規模になった今、そこでトップをとることは、一組織の中で首位に立つだけの話ではなくなっている。決して小さくない影響力を持つこのグループをいかに位置づけ、維持していくのか。開票イベントでの彼女たち3人の姿勢には、そこまでを含んだ視野が備わっているように見えた。スピーチの際、それぞれに歓喜や悔しさを忍ばせながらも、3人には順位に対する執着がさほどないように見えたことが印象的だった。指原、柏木、渡辺の3人は、それぞれの仕方でアイドルに愛着を持ち、「アイドル」というジャンルに自覚的なメンバーたちである。この3人は個人のパフォーマーとしても、随所にクレバーさを発揮して各々の「アイドル」像を模索し、体現しながら現在のポジションを築いている。ただしまた、48グループの中枢メンバーとしての彼女たちは、個人の数字や序列以上に、この巨大なアイドルグループをどう担い、社会に対してどう見せていくのかを常時意識しているようにみえる。つまり、総選挙という組織の内側のダイナミズムの上では互いに戦うことにはなっているが、より長期的な目標としては、組織を背負って歩んでいくという同一の使命を自覚的に共有しているのではないだろうか。  それは1位を獲得した指原の言葉に垣間見える。指原はスピーチで、自身のグループ内での来歴を冷静に分析したうえで、もはや現在の彼女にはそぐわない日陰者的なキャラクターを今あえて再度背負い、そんな彼女が1位をとったことの意義を宣言してみせた。それは、選抜総選挙で「指原莉乃」という個人が1位を獲得したというストーリーと、AKB48グループが全体の活動を通じて描くことのできる普遍的な夢とを見事に重ね合わせるものだった。一見、ごくパーソナルなストーリーを語っていたようにも見えたこのスピーチは、決して彼女個人のみに収斂するミクロなものではない。これまでのグループの歴史と総選挙というイベントの大きさを背負って、トップアイドルが世に向けて放った、より射程の大きいメッセージだった。  前田敦子と大島優子が総選挙で1位を競っていた頃は、1対1という構図も手伝って否が応でも「戦い」としてのアングルが強調されていた。しかし現在の指原、柏木、渡辺の場合、あえて言えば誰が1位になったとしても、3人で背負う役割はさほど変わらない。1位という数字を誰が取るかよりも、この3人で今の48グループを背負い、有象無象の雑音の矢面に立ち、社会の中で勢いを維持するべく立ち回っていく。そんな「3人のトップ」の三者三様のバランスが確かなものになったのが、今回の選抜総選挙だった。そしてまた、逆説というべきか必然というべきか、組織内のみの順位に拘泥しない視野に立った3人だからこそ、他を寄せつけないほどの支持を受け、トップ3を獲得しえたということなのだろう。現在の48グループにとって、中心を託すことのできるメンバーが「束」として存在していることは、何より頼もしいことなのかもしれない。 ■香月孝史(Twitter) ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

YouTube再生回数は楽曲ランキングにどう反映? ビルボード総合チャートの新指標導入を読む

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AKB48『僕たちは戦わない Type A【初回限定盤】』(キングレコード)

【リアルサウンドより】  国内唯一の複合音楽チャートとして知られる「Billboard Japan Hot 100」が、新たにYouTubeの国内再生回数および歌詞表示サービス「プチリリ」による歌詞表示回数から推定するストリーミング数を指標に加え、6月3日より公開している。あわせて、複数のデータの関連性を示すため、チャート解析サービス「CHART insight」をフリーミアムで開始した。  これまで同チャートは、サウンドスキャンジャパンによるリアルストア・Eコマース約3900店舗における パッケージ実売データをもとにした全国推定売上枚数、ニールセンが提供するダウンロード回数、プランテックの提供する全国主要エリアAM/FM32局のラジオ放送回数、PCでCDを読み込んだ際にグレースノート・メディアデータベースにアクセスするLook Up回数、NTT データの提供する楽曲とアーティスト名のツイート数の5つを指標としていたが、マーケット動向を見守るうえで、リスナーがYouTubeを通じて音楽と接触する機会も重視したいとの考えから、今回のリニューアルが実施されたという。  6月3日に公開されたランキングのベスト10は以下となる。(参考:Billboard Japan Hot 100/2015年6月8日付け) 1位:「シュガーソングとビターステップ」UNISON SQUARE GARDEN 2位:「僕たちは戦わない」AKB48 3位:「僕の言葉ではない これは僕達の言葉」UVERworld 4位:「SUN」星野源 5位:「SISTER」back number 6位:「Beautiful」Superfly 7位:「Rally Go Round」LiSA 8位:「私以外私じゃないの」ゲスの極み乙女。 9位:「Anniversary!!」E-Girls 10位:「HER」Block B  「Billboard Japan Hot 100」のこうした取り組みは、音楽シーンにどのような影響を与えるのか。音楽チャートに詳しいライター・物語評論家のさやわか氏は同チャートを次のように分析する。 「このチャートは売上げだけに偏らない結果が出ているのと、各指標それぞれの順位も出ているので、いろんな観点からチャート動向を分析できるのが良いですね。これまでのチャートは基本的に盤の売上げを重視しているものがほとんどでしたが、このチャートではラジオのオンエアの回数とかPCへの読み込みの数まで集計し、音楽との“接触”という新しい観点を提供しています。アメリカのビルボードはジュークボックスの再生回数の集計から始まっているチャートで、販売数を重視してきた日本のチャートに対し一日の長があるので、学べるところは多いでしょう」  実際、このチャートからは様々なことが読み取れるという。 「たとえば2位のAKB48「僕たちは戦わない」は、ちょうど総選挙の時期だったので、そのためにみんながCDを買っていると思われがちですが、実はPCへの取り込みもちゃんとされている、つまりは音楽としてちゃんと聴かれているということが推測できます。総選挙などで販売数を伸ばすのは“AKB商法”などと揶揄されたりもしますが、この複合チャートを見ると多くのリスナーは必ずしも選挙のためだけにCDを買っているというわけではないことがわかり、そうした偏見が少しは是正される可能性もあるでしょう。一方、8位のゲスの極み乙女。「私以外私じゃないの」は、売上げは発売時からだんだん下がっていっていますが、取り込み数やYouTubeの再生回数は高いままで、これは曲自体がちゃんと支持されているということの現れだと考えられます。これまではロングヒット=ロングセールスだったのですが、YouTubeなどの再生回数やTwitterへのつぶやきを集計することで、新たなロングヒットの指標ができたといえるのではないでしょうか。また、UNISON SQUARE GARDEN「シュガーソングとビターステップ」が1位になっているのも興味深いところ。この楽曲は平均的にいろいろな指標で上位になり、結果として1位になっているのかと推測していますが、新しい音楽シーンの動向を世に示すという、チャート本来の役割が機能していることを伺わせる結果といえるでしょう」  また、同チャートが世に浸透すると、音楽シーンやアーティストの作品にも影響を与える可能性があると、同氏は続ける。 「現在、人々による音楽の消費行動はかつてと異なり、多くの人がCDを買わなくなったものの、かといって日本ではまだダウンロードやストリーミングの時代へ本格的に意向しているわけでもなく、その結果としてYouTubeやライブなどで音楽と接触する機会が増えている状況です。にも関わらず、日本ではいまだに盤の販売数が指標としてもっとも支持されているという捩じれた構造になっていて、それを巧く利用してプロモーションに使ったのがAKB48やEXILEでした。CDの販売数が重視されるからこそ、彼らはCDの販売数を増やす施策を取り、音楽シーンで存在感を示すことができました。しかし、このチャートが浸透して音楽との接触が重視されるようになれば、特典などで販売数を重ねる必要はなくなるのかもしれません。これはアーティストや所属事務所、プロモーターにとっては喜ばしいことでしょう。しかし、レコード会社やレコード屋などのCDベンダーにとっては、ソフトウェア産業として成り立たなくなってしまうので、大きな方向転換を迫られるかもしれません。おそらくはアニメ産業などと一緒で、ネット配信で十分な利益をあげることができなければライセンスビジネス、グッズビジネス、イベントビジネスに転換していくしかないのではないかと思います」  リスナーの消費行動が変化している今、CDの売上げを重視してきた日本の音楽シーンにとって、新たな指標となる可能性を持った「Billboard Japan Hot 100」。同チャートが浸透し、社会的に信頼性の高いランキングとして人々に重視される日も近いのかもしれない。 (文=松田広宣)