光宗薫、ベッドシーンで見せた微笑みの破壊力 姫乃たまが『ピース オブ ケイク』の濡れ場を考える

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8月25日に開催された『ピース オブ ケイク』記者会見にて、ベッドシーンについて語る光宗薫

【リアルサウンドより】  いつかテレビで見た、アイドル然としていない女の子の姿を思い出していました。 「元AKB48の光宗薫が映画で濡れ場に挑戦していますが、同じアイドルとしてどう思いますか」と、聞かれたからです。男性への媚びを感じさせまいとする態度が、禁欲的で逆に魅力的だった彼女。中性的な印象から、濡れ場がイメージできません。  しかも「同じアイドル」と言っても、こちとら人前で歌うのが本業なのに、ライターを兼業してなんとか活動している程度の地下アイドルです。彼女と自分を同列に考えられるわけもなし、どういう気持ちだったのかなあ、撮影どうだったのかなあ、程度の、凡庸な好奇心しか湧きません。  当連載はそんな地下アイドルが、映画の“濡れ場”についての感想を綴っていくものです。  ジョージ朝倉原作の「ピース オブ ケイク」は、多部未華子が演じる25歳の主人公、梅宮志乃と彼女をとりまく同世代の男女の「等身大の恋愛感覚」(と、パンフレットに書いてあるのですが、流されるがまま異性と関係を持ってしまったり、恋人のいる異性にダメ元で告白したり、恋人のケータイから勝手にリダイヤルして怒ったり等々……のことのようです)が描かれた作品です。下北沢のほか、阿佐ヶ谷、高円寺などの中央線沿線を舞台に撮影されています。  光宗薫の濡れ場は、恋人役である綾野剛との絡み、それから少しだけお隣さんである主人公の家に漏れる喘ぎ声の演技があります。後者は誰とも絡まない状態で、正座して音声だけ収録したことが取材で明かされており、現場を思うとシュールな恥ずかしさがあります。  絡みのシーンはほとんど布団に覆われているため露出は多くないのですが、時折、画面に現われるすらりとスレンダーな手脚や、低めの喘ぎ声は中性的で、特別に性的な欲求が掻き立てられることもなく、彼女の毅然としたイメージは保たれたままでした。唯一、ギャップがあったのは「どうやってやったら気持ちいい?」と聞いたあと、掛け布団の中に潜り、綾野剛の股間に顔を寄せてから、さっと顔を出して「いってもいいのに」と、いたずらに微笑んだ瞬間でした。あの可愛さはなんというか、見てはいけないものを見たようなドキドキがあったのです。
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同作では、多部未華子と綾野剛もラブシーンを演じている

 AKB48から離れて3年ほどたった今もなお、元アイドルと称されがちな彼女ですが、ベッドシーンはアイドルから脱皮する過程に感じられました。あのいたずらな笑顔は、テレビで見かける彼女の毅然とした態度、雑誌で見かける中性的な印象の写真とは違って、プライベートだとこんな風なのかな、と思ってしまう生々しい愛らしさがあります。  ちなみに元アイドルということで彼女の濡れ場ばかり話題になっていますが、今作では主演の多部未華子さんの方が肌の露出も濡れ場も多いです。しかし、最近はアダルトビデオの女優さんも細いなあと思っていたのですが、映画女優さんって本当に細いですね……。 ■姫乃たま(ひめの たま) 地下アイドル/ライター。1993年2月12日、下北沢生まれ、エロ本育ち。アイドルファンよりも、生きるのが苦手な人へ向けて活動している、地下アイドル界の隙間産業。16才よりフリーランスで開始した地下アイドルを経て、ライター業を開始。アイドルとアダルトを中心に、幅広い分野を手掛ける。以降、地下アイドルとしてのライブ活動を中心に、文章を書きながら、モデル、DJ、司会などを30点くらいでこなす。ゆるく、ながく、推されることを望んでいる。 [HP] http://himeeeno.wix.com/tama [ブログ]姫乃たまのあしたまにゃーな http://ameblo.jp/love-himeno/ Twitter https://twitter.com/Himeeeno

ファブリーズの長男=高杉真宙の魅力は“品格”と“ちょいダサ”にあり!?

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『高杉真宙 Photo Collection METAMORPHOSIS』

【リアルサウンドより】  あるときは何でもかんでも消臭スプレーぶっかける松岡修造一家の長男、またあるときは堀北真希の仲良すぎる弟、またあるときは親友に恋する合唱部員、またあるときは料理上手で優しい理想のお兄ちゃん……。今一番「名前は知らないけど顔は知ってる」男子、そして今一番おばちゃん界隈をアツくさせている「長男」、それが高杉真宙である。  彼の名、いや顔を全国に知らしめたのは、やはりファブリーズのCMだろう。やたらハイテンションな修造お父さんと、このお父さんとどこで知り合ったのか、全身にアングラ感を匂わす平岩紙お母さんの間に生まれし長男。黒髪をきれいな七三に整え、華奢な身体をトレードマークのチルデンセーターに包む。雄の成分をとことん抑えた仕上がりである。世の中にこんなにも「除菌」という言葉が似合う少年がいるのかと度肝を抜かれた方も多いのではないだろうか。  もちろんこの逸材をアノ人たちが放っておくわけもない。そう、天下の東海テレビである。今年『明日もきっと、おいしいご飯~銀のスプーン~』で見事主演をゲット。昼ドラというおばちゃんたちの心のグルコサミンで、高杉真宙のそんな魅力は一気に開花した。容姿は淡麗、成績は優秀、そして優しいお兄ちゃん。母の入院に際し、きょうだいのために一生懸命料理を作るエプロン真宙に、昼ドラ視聴者は完全にノックダウンされた。  昼ドラで求められるのはいわゆる「イケメン」ではない。LDH系の黒光り感もジャニーズのチャラっぽさもなぜかここではその役割を満たせない。昼ドラ男子に必要なのは絶対的な品と、そこに漂うちょいダサ感。「男前なのにいまだにお母さんが買ってきたしまむらの服着てるわ~」という甘酸っぱい残念さが、女たちの心を癒しすり減った膝軟骨を再生させる。東海ドラマ制作の名ドラマ『幸せの時間』をご存知だろうか。西村和彦と田中美奈子夫妻に神楽坂恵がバイ~ンと割って入るドロドロドラマだが、その西村と田中の長男役として輝いていたのが、上遠野太洸だった。この上遠野もまた高杉と同じく抜群のツラの良さにしまむら要素が合わさり、昼ドラツイッター界では圧倒的な人気を誇っていた。上遠野と高杉、この両エースがいれば昼ドラはしばし安泰のはずである。しかし悲しいかな、みんな活躍するとメジャーに行ってしまう……。  さて話を戻して高杉くん。現在は『表参道高校合唱部!』で男子合唱部員として出演している。高杉の武器の一つであるナチュラルにビブラートがかかった声。それを合唱という形でストレートに堪能できるだけでもファンとしては嬉しい限りだが、宮崎祐という役柄がこれまた非常に高杉の「品」と「ちょいダサ」を引き立てている。『銀のスプーン』でも、品行方正・成績優秀・眉目秀麗なお兄ちゃんに「お母さんだと思っていた人と本当は血が繋がっていなかった」という過酷な運命が待ち受けていた。宮崎祐も、性格穏やかな隠れイケメンでありながら、クラスのリーダー各女子に窃盗の濡れ衣を着せられて登校拒否になってしまったり、親友男子を好きになり合唱部を辞めようとしたり、部員の中でも圧倒的に波乱万丈な物語を課せられている。これはもう「そういうことさせたくなる顔」としか言いようがない。人生の荒波にポンっと放り出したくなるような、そんなS心をくすぐられる男、それが高杉真宙なのかもしれない。しかし言い換えればどんな荒波にも揺るがない気高さが、彼にはあるということだ。人知れず親友に恋して「自分は異常なのではないか」と悩む宮崎。告白したものの「キモイ」と言われ、深く傷つくその姿に何人の視聴者が「キモくない! キモくない!」と絶叫したことだろう。ライトめな若手イケメン俳優では出せない(妙な)説得力が観る側の人間を宮崎祐に引きずり込む。ダメなのよ、志尊淳くんじゃおそらくダメなのよ!!  初の写真集『METAMORPHOSIS』では妖艶な女装姿も披露した高杉。そういえば上遠野もニューヨーク女装バレエ団「グランディーバ」に武者修行に行ってたな……。品とダサさ、清潔感と倒錯性。一人称「僕」が誰よりも似合う高杉には、いつかまた昼ドラの世界に戻ってきて筆者の膝関節痛を癒して欲しいと願うばかりである。 ■西澤 千央(にしざわ ちひろ) フリーランスライター。好きな言葉は情熱です。ツイッターアカウントは@chihiro_nishi

「ゲオチャンネル」は定額制動画配信サービス競争にどう挑む? 成人向けコンテンツの価値を検証

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「ゲオチャンネル」公式サイト

【リアルサウンドより】  HuluやNetflix、Amazonの「プライム・ビデオ」など、外資の定額制動画配信サービスが続々と日本でも開始し、dTVやU-NEXTなどの国内サービスと競合するなか、新たに国内でビデオレンタル店などを手がけるゲオが、定額制動画配信サービス「ゲオチャンネル」を、2016年2月より開始することを発表し、話題となっている。  ゲオチャンネルは月額590円で見放題で、映画、海外ドラマ、アニメといった定番ジャンルだけではなく、成人向けコンテンツも提供するほか、実店舗との提携でより充実したサービスを目指すという。  かつて成人向けコンテンツは、VHS対ベータなど、ビデオに関する規格争いにおいて、勝敗を決する要因のひとつとなったとも見られているため、今回のゲオチャンネルの施策も注目を集めている。実際に同サービスは、競争が激化する市場において強力なプレイヤーとなりうるのだろうか。  アダルト業界とビデオの歴史に詳しい、ライターの安田理央氏に話を聞いた。 「たしかに以前は、成人向けコンテンツの充実が、規格あるいはサービスの競争力を高めることもありましたが、インターネットの普及以降はそうした図式が単純には成り立たなくなっています。ネットで無料のアダルト動画が氾濫しているため、そもそもお金を払って成人向けコンテンツを鑑賞するという習慣自体が失われつつある。現に、Blu-ray Discの成人向けコンテンツはほとんど普及していません。また、過激かつクオリティの高いオリジナルコンテンツの見放題サービスという面では、すでにカリビアンコムや一本道といった海外サイトが一歩先を行っていますし、国内のメーカーも独自に配信サービスを行っています。ゲオチャンネルは月額590円で見放題なので、価格競争力という面では、月に3,000円程度かかる既存の成人向けコンテンツ専門チャンネルより優れていますが、作品数が月50本と少なく、熱心なファンにとっては物足りないラインナップといえそうです」  成人向けコンテンツが少ない背景には、アダルト業界の勢力図が関係しているという。今回、ゲオチャンネルが配信するのは、プレステージというメーカーの作品のみで、同メーカーは独立系といわれるAVメーカーのひとつだ。アダルト業界では、DMM.comグループの1社で、S1やムーディーズなどの有名レーベルを擁する株式会社CAが最大手とされ、DMM系列の流通やサービスと根強い関係性がある。一方、カルチュア・コンビニエンス・クラブが運営するTSUTAYA系列は、K.M.ProduceというAVメーカーを抱えている。大手メーカーとしてはほかに独立系のソフト・オン・デマンドなどが挙げられるが、同社は近年、DMM系列と接近しており、ゲオで配信サービスを展開することは考え難い。 「HuluやNetflixなどの定額制動画配信サービスは、オリジナルコンテンツの充実で差別化を図ろうとしていて、日本向けコンテンツの制作にも意欲的です。ゲオチャンネルは、それに対し安めの価格設定と成人向けコンテンツで戦おうとしているように見えますが、先に述べたようにそれはプレステージの作品のみなので、AVファンに訴求するには弱いと思います。DMM系列などの協力を得られれば、コンテンツ面での競争力も生まれると思いますが、AVメーカーが現在の独自サービスの価格設定を見直すには時期尚早ですから、それも難しいでしょう。ただ、ある程度の映画やアニメを観ることができて、時々は無料動画ではない、ちゃんとしたAVを観ることができれば良いというライトユーザーにとっては、価格も安いですし、嬉しいサービスかもしれません。プレステージの作品自体も、ライトユーザー向けのものが多く、サービスとマッチしています。今後、適切にユーザー設定ができるか否かが、ゲオチャンネルにとっての課題となるのでは」  ライトユーザーに向けた商品・サービスの安価提供で業績を伸ばしたゲオは、競争が激化する定額制動画配信サービスでも、その手腕を発揮することができるのだろうか。 (取材・文=松田広宣)

クラムボン・ミトが解説する、『心が叫びたがってるんだ。』の音と風景「何気ない毎日をエンターテイメントに」

【リアルサウンドより】  9月19日(土)から全国公開される話題の劇場アニメ映画『心が叫びたがってるんだ。』。作中で登場人物たちが演じるミュージカルの音楽や、印象的な劇伴を手がけたのは、技巧派ポスト・ロックバンドとして知られるクラムボンのベーシストとして活躍するミト。音楽愛はもちろんのこと、マンガやアニメにも造詣の深い彼に、今作の魅力と、自身の仕事について語ってもらった。

「オリジナルを作るよりも再構築をするほうが長けているかも」

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クラムボン・ミト

――まず本作への参加のきっかけからうかがわせてください。 ミト:二年前、ぼんぼり祭り(※アニメ『花咲くいろは』の舞台のモデルとなった石川県金沢市で開催されるイベント。クラムボンは同作の後期EDテーマを担当)で金沢へ行く飛行機の中で、『ここさけ』の脚本の岡田麿里ちゃんと一緒になったんです。麿里ちゃんとはその前から、『いろは』がきっかけで知り合って、ほかのところでもちょこちょこ会ったりしていたんですけど、そのとき突然「実は今、映画をやろうと思っていて、ミュージカルをテーマにしたいんですけど、ミトさんってミュージカルとかって詳しかったりします?」という話をされて。で、本当に偶然なんですけど、僕の両親は、ミュージカルの曲も含む、スタンダード・ナンバーを演奏するお店をやっているんです。そんなこともあって、同世代の音楽家の中でもスタンダード・ナンバーには詳しい方だと思ったので、「選曲アドバイスくらいならいくらでもできるよ」っていって、その話に乗ったんですよ。で、そのときには、劇中に登場するミュージカルのプロットがある程度できていたので、それにあわせて使えそうな曲を羅列していたら、「ミトさん、もしあれだったら、劇伴もやらない?」みたいな話がどこかから出て。じゃあ、もう、言われるままにぜひぜひ、と(笑)。 ――ミトさんが参加された時点で、ミュージカルパートのプロットはあったんですね。ということは、全体のシナリオもほぼ決まっていた? ミト:そうですね。でも「ミュージカル部分にはこの曲を使ったら面白くなるかも」とかアイデアを出していくにつれて、音楽にあわせてシナリオもどんどん変わっていったんです。クライマックスの仕掛けも、最初からあったアイデアではなかったですよ。また自分の家族の話になってしまいますけど、親父がスタンダード・ナンバーを演奏するようになったきっかけというのが、『五つの銅貨』という映画がきっかけだったそうなんです。自分も家族を持ったら、『五つの銅貨』のクライマックスみたいな演奏がやりたいと思ったのが、音楽を始めた最初の動機だったらしくて。たしかに僕も小さいころからそのシーンを見ていて、ミュージカルといったら、クライマックスはそれだよな、と。で、そのアイデアを出したら、麿里ちゃんがすごく興味を示してくれて、結果的に今あるクライマックスのシーンができた。だから、この映画のミュージカルパートに関しては、麿里ちゃんの書いた替え歌的な歌詞もそうなんですけど、遊びの延長みたいなことをずっとやっていた気持ちなんです。もちろん、やっていることは「遊び」なんていえないくらい、高度なことをやっているつもりなんですけど(笑)。

「心が叫びたがってるんだ。」特報映像第2弾

――ミトさんはついこのあいだ、アイドルの夢みるアドレセンスに提供した曲で、「サマーヌード」の再構築をされてましたよね。 ミト:そうですね。あれはまた、この作品の音楽とは違う方法論で作ったものですけど、そういう「リコンストラクションもの」は自分の仕事の中で結構あって、そっちの方がオリジナルを作るよりも長けているかもな、という自覚もあるんです。クラムボンでも、『LOVER ALBUM』というカバーアルバムシリーズの方が、オリジナル楽曲のアルバムより確実に売れちゃいますから(笑)。 ――いやいや、そんな。それにしても、ただ作品に音楽をあてはめるという形ではなく、作品に刺激されて生まれたミトさんの仕事が、逆に作品に影響を与えるような、相互作用的な形で今作ではお仕事をされていたんですね。 ミト:あくまで選曲をしただけなんですけど、結果的にはそうなってくれました。ありがたいことにシナリオでも絵コンテでも、曲や劇伴が入れ込みやすい隙間がいっぱいありましたし。「こんなに曲を入れたら食傷気味になっちゃうんじゃないかな」って心配になるくらい、強い音楽が使われているのに、それが気になりすぎないものになっているのが、長井監督や麿里ちゃんの演出力、そして音響監督の明田川(仁)さんのスキルですよね。 ――長井監督の作品は、今作に参加する前からご覧になられていたわけですよね。 ミト:ええ。『とらドラ!』から何から、たくさん観てますね。

「長井監督や岡田麿里ちゃんとは“75年世代”の共通した感覚がある」

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――今回スタッフの一員として関わられて、あらためて見えてきた魅力みたいなものはありましたか? ミト:麿里ちゃんと長井監督と僕って同い年なんですね。だからなのか、会話の齟齬が起こり難い。同じ世代で、同じものを見て、聴いて育っているからなのか、使う語彙の感じが近いんです。それどころか、話さなくても大体、求めている雰囲気がわかった。75年生まれのクリエイターって、びっくりするくらい少ないんですよね。ちょうどベビーブームとベビーブームのあいだに挟まれているせいか、いつも年下か、ちょっと上の人と仕事をすることが多いんです。だからこういうことって、これまで関わった現場だとなかなかなくて、新鮮でした。世代の嗜好感みたいなものが、手に取るようにわかる。僕が『とらドラ!』や『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』が好きなのは、そういう理由も大きいのかもしれないなと、『ここさけ』で仕事を一緒にしたことで思いました。どこがどう通じているのか、というのは説明しづらいんですけど。 ――そこをあえて、75年世代のみなさんの共通項を具体的に思い浮かべていただくと、たとえばどのような? ミト:そうですね……この世代は、タツノコプロのアニメは再放送でひととおり見ているんですよね。『機動戦士ガンダム』も再放送で触れて、『風の谷のナウシカ』が小学校の三年か四年のときに劇場で公開されて、『ナウシカ』の表紙に惹かれて「アニメージュ」を買うんですよ(笑)。そのあと、『コンプティーク』が創刊されて、パソコンを持っていなくても手にとって、その流れでアスキーから出た『ハッカーズ大辞典』に触れたり、MSX2 Plusを買ったり……そういうカルチャーの流れがあった。一方で、いまよりもワイドショーが過激で、写真週刊誌が過剰な写真をいっぱい載せて、ビートたけしがそれに抗議する意味で講談社を襲撃したこともあって。……どれも、思いついたネタを言っているだけに聞こえるかもしれないですけど、そうしたひとつひとつの出来事から子供ながらに受けた世の中の印象というのが、どこか作品を作るときに出てしまう。そんなことを長井監督や岡田麿里ちゃんの作品に感じますね。  たとえばこの作品でいったら、チアリーダーの女の子たちが会話の途中でいきなり「栄冠は君に輝く」を歌いだして、そのまま踊り出しちゃうシーンとか、「わかる!」って感じなんですよ。このシーン、見ていただくとわかると思うんですが、冷静に考えるとちょっとおかしい(笑)。でも、あそこって75年世代が見ていたテレビ番組にあった雰囲気だよな、と。ああいう演出がグッとくるというのは、世代的なものだと思いますね。 ――映像のテンションの持って行き方、みたいなところに、同世代感覚があるんですね。 ミト:そうですね。長井監督の演出って、基本はものすごくキャッチーなんですよ。マニアックなところが一切ない。それが表情に対してしっかりフォーカスをあわせることで、すごく普通のものと違う、アップトゥデートされたものに見える。  それから、日常のささやかな出来事からイマジネーションをふくらませて、ファンタジーに近いところまで持って行こうとするところがありますよね。これは僕がクラムボンでやっていることと同じなんですよ。クラムボンも日常にフォーカスして、日常の、2秒間くらいの出来事を、どれだけエンターテイメントにまで持っていけるか、みたいなことを考えながら音楽を作っているんですね。十何年間、ずっとそうやってきた。そこもすごく価値観が似ているのかなと思いました。
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――長井監督がフィルムで表現しようとしているものと、クラムボンが音楽で表現しようとしているものには、近さがある。 ミト:そう思います。だから一緒に仕事をしていて、違和感がないのかもしれないですね。もちろんそれだけじゃないけど。それは麿里ちゃんも同じような気がします。『花咲くいろは』のときも、若い子たちの何気ない毎日の風景をエンターテイメントにしていた。そこが麿里ちゃんのすごいところで、シンパシーを感じるところです。  この映画にも、音楽が生活と普通にリンクしていく瞬間というか、日常の中に音楽が何かをもたらす瞬間が数多く潜んでいます。ちょっとつらかったり、大変だったりするときに、なんかしらないけど思いついた歌を口ずさんだりするじゃないですか。なんてことなく。まさに『心が叫びたがってるんだ。』というのはそういうことで、音楽というのは別に特別なものじゃなくて、身近にあって、身近な世界をスペシャルにしてくれるものなんだ。そういうことをとてもロマンチックに、二時間弱の映画で、エンターテイメントとして成立させている。そこを見てほしいです。 ――音楽は日常に奇跡を起こしている、みたいな。 ミト:やっている方は、そんなにスペシャルなことをするつもりはないんですけど、自然とスペシャルになっていくんですよね。そうじゃなかったらやってないと思いますし、音楽を。 (取材・文=前田久)
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■公開情報 『心が叫びたがってるんだ。』 9月19日より全国公開 キャスト:成瀬順:水瀬いのり/坂上拓実:内山昂輝/仁藤菜月:雨宮 天/田崎大樹:細谷佳正/城嶋一基:藤原啓治/成瀬泉:吉田羊 監督:長井龍雪 脚本:岡田麿里 キャラクターデザイン・総作画監督:田中将賀 音楽:ミト(クラムボン) 横山 克 主題歌:乃木坂46 「今、話したい誰かがいる」 (ソニー・ミュージックレコーズ) 原作:超平和バスターズ 制作:A-1 Pictures 配給:アニブレックス 製作:「心が叫びたがってるんだ。」製作委員会 (アニブレックス/フジテレビジョン/電通/小学館/A-1 Pictures/ローソンHMVエンタテイメント) (C)KOKOSAKE PROJECT 公式HP:http://kokosake.jp
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『心が叫びたがってるんだ。』オリジナルサウンドトラック

■リリース情報 『心が叫びたがってるんだ。』オリジナルサウンドトラック 2015年9月16日(水)発売 3,240円(税込)/SVWC 70100-70101(Disc2枚組) 2015年9月19日公開のオリジナル劇場アニメ「心が叫びたがってるんだ。」のオリジナルサウンドトラック。 本編を彩る珠玉の楽曲を収録。 初回仕様限定特典:三方背ケース 公式ホームページ:http://www.kokosake.jp/music/

芳根京子は大女優の器か? 隠れた名作『表参道高校合唱部!』に見る可能性

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『表参道高校合唱部!』公式サイト

【リアルサウンドより】  現在TBSの金曜22時枠で放送されている『表参道高校合唱部!』。地方から転校してきた合唱好きの少女が、廃部寸前の合唱部を立て直していく様を、毎週週替わりでポップスから往年の名曲まで幅広い選択肢の中から選ばれた楽曲の合唱アレンジと共に描く学園ドラマだ。  2001年に宮崎あおい主演でドラマ化された日本テレビシナリオ登竜門受賞作『青と白で水色』をはじめ、『マルモのおきて』や『PRICELESS~あるわけねぇだろ、んなもん!〜』といった人気ドラマを手掛けた櫻井剛による脚本だけあって、オールドファッションな筋書きながらも、人物描写の描き方が安定していて、ここ数年の連続ドラマの中でも秀でた出来映えの一本である。  とりわけ、このドラマの第1話を観たときに衝撃を受けたのは、主人公・香川真琴を演じている女優である。芳根京子という、その名前を、それまでノーマークだったことを後悔しつつ、CMに入った途端に慌てて調べてみると、昨年放送されていたNHKの朝の連続テレビ小説『花子とアン』の終盤に出演し、また今年公開された本広克行監督の『幕が上がる』にも出演しているではないか。どちらも観ていたにもかかわらず、この女優の存在を意識していなかったことに、若手女優ウォッチャーとして反省するしかできなかった。  『表参道高校合唱部!』の中で、彼女が演じる真琴というキャラクターは、天真爛漫で、どこか抜けたところのある少女。合唱が好きで、転校先の学校内のスクールカーストなど気にもせず突っ走り、歌い、笑い、飛び跳ねる。常に彼女の見せる芝居には動きがあって、動きに表情があるのだ。こんなにも理想的な女優がいただろうか。極端な話、彼女が自由に歩いている姿を二時間映し続けていても、それだけで一本の映画が完成する予感がする。例えて言うなら、歴代の大林宣彦の映画のヒロインや、相米慎二の『東京上空いらっしゃいませ』の牧瀬里穂を彷彿とさせるような、動きのバランスの良さと驚異的な存在感に、とてもドラマ初主演とは思えない堂々たる演技を見せつけられたのである。  是が非でも彼女をじっくりとスクリーンで観てみたいと思っていた矢先、『向日葵の丘 1983年・夏』が公開された。常盤貴子演じる主人公の高校時代の役柄を演じ、ほぼ主役級の活躍を見せる。名画座に通いつめて懐かしのハリウッド映画に涙する姿や、『雨に唄えば』のシーンなど、随所で見せる彼女のパワフルな演技力は、友人役で共演している同世代の女優(二人とも非常に巧い。とくに田中美里の高校時代を演じる藤井武美は、韓国映画界の実力派クァク・ジヨンの新作ヒロインに抜擢されたのだから、その実力は言うまでもないだろう)を軽々と超えていき、この映画全体を独占してしまうほどに魅力的であった。
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『向日葵の丘 1983年・夏』場面写真。左が芳根京子

 なんとも幸福な偶然というべきか、同作が大林宣彦の弟子にあたる太田隆文監督の演出ということもあって、どことなく大林映画を観ているような錯覚に囚われ、ますます彼女が映画で輝く姿が見たいという気持ちにさせられたのである。  昨年秋に公開された初主演映画『物置のピアノ』は時々上映会が行われているようだが、現時点で容易に観る術が無いことが悔やまれる。ソフト化の予定が無いだけに、これは頻繁に上映会情報をチェックしておく必要があるだろう。だが10月には主演映画『先輩と彼女』が全国公開されるのだから、再び彼女の姿をスクリーンで観ることができる日がすぐ近くまで来ているのである。  『表参道高校合唱部!』は25日に最終回を迎えるので、放映はあと2回。数多くの人気ドラマが生み出されてきたこの枠ではあるが、同ドラマはその中でも不遇な位置にいる。ドラマ人気が落ち込んでいる昨今とはいえ、初回視聴率が1桁台からスタートしたのは、この枠では過去10年間で4本しかない。このままでは2007年10月クールに放映されていた『歌姫』以来の、全回1桁台という可能性もゼロではない。  ドラマ自体の内容の良さが視聴率と結びつかないことよりも、将来確実に大女優になる芳根京子の出世作であるドラマが、失敗作という扱いを受けてしまうのではないかということが、ただただ心配でならない。 ■久保田和馬 映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter ■公開情報 『向日葵の丘 1983年・夏』 公開中 公式サイト:http://himawarinooka.net/

AKB48『マジすか学園5』にやべきょうすけが出演する意味とは? 「ごっこ」から「マジ」への転換

 8月末よりAKBグループの宮脇咲良などが出演する『マジすか学園5』が、1・2話のみ地上波放送、それ以降は動画配信サービス「Hulu」にて配信という異例の形で放映が始まった。その第一話の衝撃的な展開に、度肝を抜かれたファンも多かったのではないか。『マジすか学園』はシーズン5まで続く人気シリーズだが、ここにきてある変化が起きつつある。 参考:日本で一番ロッカールームが似合う女優!? 大島優子が語る、卒業後初主演映画『ロマンス』の手応え  いきなりヤクザの若頭が、少女の前で、自身の舎弟をリンチするシーンで『マジすか学園5』の第一話は幕を開ける。こう書くと民放のドラマでもよくあるシーンだと思うだろう。しかし、若頭を演じる俳優・やべきょうすけは、そのドス黒く輝く綺羅星のごときキャリアで培ったドちんぴら演技で、地上波の限界を超えた「本物」にしか見えない迫力を見せつける。飛び交うやべの怒声。沸騰した熱湯をかけられ絶叫する舎弟。悶絶する舎弟たちに執拗にヤクザキックを連打した後、やべは縛られて吊るされている少女にこう凄む。 「ヤンキーごっこはしまいや!」  この一言に、制作サイドが本作で何をやろうとしているか、そのメッセージが込められていると私は感じた。これは鬼ごっこに本物の鬼が出ることを意味しているのだ。  
『マジすか学園』は、AKBグループのアイドルたちが演じるヤンキー女子高生たちが、俗にいう不良の“テッペン”を巡り戦う姿を描いた青春ドラマシリーズである。題材こそヤンキーと物騒ではあるが、暴力の陰惨さを描くようなアプローチではなく、「戦いを通じて絆を深める」という少年ジャンプ的ノリの爽やかな世界観であり、キャラクターも男装やロリータ、歌舞伎メイクなど、かなりマンガ寄りに造形されていた。本編の前に「これは学芸会の延長です」「登場人物の一部にお見苦しい演技がございます」的なテロップを出すなど、イイ意味での「ゆるさ」があるドラマだ。シーズン3で刑務所モノになるなどの設定変更はあれど、そういうゆるい部分は一貫していた。
そんな「マジすか」に、シーズン5にして起きた異変。それは先のやべの台詞で端的に表現されている。「ヤンキーごっこ」を放棄して、「マジになった」ことである。
  実はこの変化はキャスティングの時点から始まっていた。これまで主要キャストは当然ながらAKBグループのメンバーで固められていた。しかし、今回は重要な役どころに外部の俳優陣が大量投入されている。その面子が凄い。麻雀Vシネ 『むこうぶち』シリーズでクールな魅力を発揮する袴田吉彦、個性派・岡田義徳、実録犯罪映画の傑作『凶悪』にて、爆笑しながら老人にウォッカを一気飲みさせて急性アルコール中毒で殺害するなど、文字通り凶悪な演技を披露したリリー・フランキー。「その筋」で一枚看板を張れる役者たちである。そして、最も特筆すべきは、日本ヤンキー映画の生き字引・ やべきょうすけの参戦だ。この点に、制作サイドの「ヤンキーごっこ」をやめてやる!という決意を感じる。
やべきょうすけは、映画・Vシネマなどでアウトローを演じ続けている俳優である。そのキャリアはまさしく日本ヤンキー映画の歴史そのもの。『キッズ・リターン』『クローズZERO』『闇金ウシジマくん』…など、90年代から現在に至るまで、ヤンキー系の映画の重要作・人気シリーズのほとんどに出演している名バイプレイヤーである。決して美男子というわけではないが、チンピラを演じたときの圧倒的なリアリティと、それと同時に、どこかに漂うコミカルさが彼の持ち味である。さらに、やべのキャリアと、日本ヤンキー映画史を語る上で、絶対に欠かせない点がある。やべは映画 『クローズZERO』シリーズを大ヒットへと導いた立役者でもあるのだ。  やべは、『クローズ』の作者である高橋ヒロシと個人的に親交があり、彼の映画への参戦は、長年に渡って実写化を断り続けていた高橋ヒロシに、『クローズ』実写化を了承させる決定打となった。さらに自身も主人公を導くチンピラ役を好演。『クローズZERO』は大ヒットとなり、やべの熱演も高い評価を受けた。  同作の大ヒットは、日本の映画・ドラマ界にヤンキーものブームを巻き起こすことになる。そして、そんなヤンキーブームの中で生まれたのが、『マジすか学園』だったのだ。やべがいたから『クローズZERO』は生まれ、『クローズZERO』の大ヒットによって『マジすか学園』は誕生。つまり、やべがいなければ『マジすか学園』も存在しなかったのだ。

そんなやべが『マジすか学園』に出る。繰り返すが、これは鬼ごっこに本物の鬼が出るようなものである。もちろん、『マジすか学園』に非AKBグループの役者を重要な役どころでキャスティングするということ自体が、非常に危険な賭けである。もう「学芸会の延長」では許されない。この方針の転換に伴うリスクは、制作サイドも重々承知だろうが、やべまでもキャスティングしたことに、並々ならぬ気合いが感じられる。  その気合の表れが、冒頭で触れたキレまくるやべで幕を開ける第一話だといえるだろう。このシーンに示された通り、『マジすか5』はそれまでの 「ヤンキーごっこ」とは一線を画す、陰惨なヴァイオレンス描写とシリアスなストーリーが展開する。そのため、ここまで築いてきた世界観と、新たな要素が衝突を始めている感も否めない。しかし、それはすべて「マジ」になった代償であり、代償を支払っただけの、ドラマとしての加速があるのも事実だ。  「ヤンキーごっこ」をやめて、マジになった『マジすか学園』。このドラマは、どういう形で決着を迎えるのか。成功か、あるいは…それはまだわからない。しかし、破壊なくして創造なし。危険な挑戦をおかしてでも、ドラマを飛翔させようとする制作陣の姿勢にはエールを送りたい。(加藤ヨシキ)

『私たちのハァハァ』が“ファン向け映画”を超えた理由 プロデューサーが制作の裏側明かす

【リアルサウンドより】  福岡県北九州市に住む、ロックバンド・クリープハイプの熱烈なファンの女子高生4人が、自転車で東京のライブに向かう青春映画『私たちのハァハァ』が、9月12日より公開された。同作は、スペースシャワーTV開局25周年記念映画として製作されたもので、これまでクリープハイプのMVを手がけたほか、映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』でも同バンドとタッグを組んだ松居大悟監督がメガホンを取っている。プロデューサーを務めたのは、スペースシャワーネットワークに勤務し、『フラッシュバックメモリーズ3D』や『劇場版BiSキャノンボール2014』といった話題作にも携わってきた高根順次氏。音楽ファンの青春をリアルに捉えた映画として、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭などでも高く評価された同作は、どのようにして作られたのか。高根氏に、アイデアの発端から映画制作のプロセス、さらにはインディー映画でヒット作を生み出す意義についてまで、話を聞いた。

「この映画を単なるファン映画にはしたくなかった」

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ーーこれまで数多くの音楽映画が作られてきた中で、あるアーティストのファンの女の子たちの青春をリアルに描いているという点で、とても新鮮な印象を受けました。こうした作品を作ることになったきっかけから教えて下さい。 高根:松居(大悟監督)さんが音楽ファンを主人公にした映画を作りたがっていることを、スポッテッド・プロダクションズの直井(卓俊)さんが教えてくれて、興味を抱いたのがきっかけです。昨今は音楽映画が増えていますが、その多くはアーティストのドキュメンタリー的なもので、ファンに向けた作品になりがちです。でも、せっかく映画を作るのであれば、広く誰にでも楽しんでもらえる作品にしたいですし、アーティスト自身もそう考えているはずだと思い、松居さんらと映画化に向けて動き出しました。また、クリープハイプの尾崎(世界観)さんがこの映画のコンセプトを気に入ってくれたのも大きかったです。松居さんとクリープハイプは、映画『自分の事ばかりで情けなくなるよ』でもタッグを組んでいて絆も深いですし、彼らのファンが持っている熱気は、今作で表現したいことにもピッタリでした。 ーー主演の4人は良い意味で素人感があって、リアリティがありましたね。 高根:そこに関しては、もっと著名な役者さんでやったほうがいいんじゃないかという声もありました。でも松居さんは、三浦透子さんを軸にして、あとはほとんど未経験の役者さんでやりたい、と。それで彼は、スマホの6秒動画アプリ『Vine』で人気のある大関れいかさんを見つけてきて、自ら出演オファーをかけて口説いてきた。彼女は当初、女優をやる気も興味もなかったそうですが、松居さんが実際に彼女と話して、映画に出ることを決心したそうです。真山朔さんは、オーディションの中ではある意味一番、役者っぽくなくて、押しも弱かったのですが、映画の中では主体性のない役柄の子でもありましたので、満場一致で選ばせていただきました。井上苑子さんは、もともと別のミュージシャンを起用する予定だったところ、なんとクランクイン2週間前に出演がNGになっちゃって、制作プロデューサーの林武志さんという方が、「この井上苑子さんって良いと思うんですけど……」という感じで、ウェブで探して見つけてくれました。その時点で彼女は、メジャーデビューが決まったタイミングだったらしいのですが、実は僕らはそういう情報を一切知らずにオファーしたんです。いま、彼女はちょうど音楽ファンの間でブレイクし始めていて、まるでタイミングを狙ったように見えるかもしれませんが、実はまったくの偶然なんですよね。 ーーなるほど。ドキュメンタリー的な撮り方の作品となったことについては? 高根:それに関しては当初からの狙い通りでして、僕もこれまでドキュメンタリーしか作っていませんし、松居さん自身も「全部手持ちカメラでやりたい」と言っていたくらいです。ただ、松居さんと尾崎さんが話し合う中で、全編手持ちは厳しいだろうということになり、客観的なカメラと主観の手持ちを混ぜようか、という結論になったんです。ただ、主観と客観が入り混じってしまうと、観る人に違和感を与えてしまうのではないかという心配もありました。でも、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭で上映して、皆さんの感想を聞いたところ、そこはあまり気にならないということでした。
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ーーでは、ほかにどんな指摘がありましたか? 高根:面白いなと思ったのは、とある外国人の審査員の「この主人公の4人は最後まで何も成長していないですね」という指摘ですね。彼女たちが旅を終えて、始まりと同じ状態で元に戻って行くのは、よくわからないというんです。僕は、松居さんが表現するそういうリアリティがすごく好きなんですが、ひとによっては成長物語を求めてしまうのだな、と感じました。ひとは簡単に成長するものではないし、むしろ退化することもあるわけで、僕はそれでも別に構わないと思うんですけどね。そういうところがむしろ、刹那的でキラキラしているし、それだけでも充分、彼女たちは魅力的なんじゃないかな。 ーーそこは同感ですね、いつの時代にもあった普遍的なファン心理を描いていて、クリープハイプのファンではない人が観ても楽しめる作品に仕上がっています。 高根:この映画を単なるファン映画にはしたくない、ということは、宣伝の段階からかなり気をつけていましたね。普通だったらクリープハイプをもっと前面に押し出したかもしれないけれども、あくまで映画として、だれが見ても面白い青春映画だということをきちんと伝えようと、キャッチコピーからビジュアルの作り方までかなりこだわりました。もちろん、クリープハイプのファンにも観てもらいたいですが、場合によっては「何だ、この映画は」と思うところもあるかもしれない。ただ、お客さんの賛否があって映画は育つものだと思うので、どんな反応が来るのか楽しみです。

「継続可能なやり方で面白い作品を生み出す成功例を作りたかった」

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プロデューサーの高根順次氏。

ーー高根さん自身が映画に携わるのは、ディジュリドゥ奏者のGOMAさんの半生を松江哲明監督が描いた『フラッシュバックメモリーズ 3D』、アイドルグループのBiSとカンパニー松尾らAV監督のぶつかり合いを捉えた『劇場版BiSキャノンボール2014』に続き、3本目ですね。どちらもかなり話題となった作品ですが、いまは映画の仕事がメインとなっているのですか。 高根:そうですね……映画の世界では、劇場公開の作品を10本作ったとして、利益を出せるのはその中の1本か2本だけと言われていて、その少ないアタリ作品の利益でほかの映画を作っているんですね。先の2作品は低予算で作ったこともあり、ちゃんと収益化できたので、ここ最近は映画がメインといっても良いかもしれません。僕の場合、映画会社の人間でもないし、映画を作ろうとしていまの会社に入ったわけではないのですが、結果的にそうなっている状況ですね。僕はこれまでテレビの世界でやってきたけれど、それとはまったく違う種類のプレッシャーを感じています。テレビの場合、放送が終わった後にソフト化されるのはほんの一部だし、感想もツイッターなどでつぶやかれるくらいで、そのまま終わっていくけれど、映画の場合は一生残るもので、いたるところに評論家がいて、厳しい目で評価されます。だからこそ総合芸術として素晴らしいものだとも思うけれど、成功と失敗がはっきりしてる世界ですし、ちゃんと結果を出さなければ継続出来ません。今回の映画は前の2作に比べて、使う予算も桁外れに違うので、ちゃんとヒットさせなければいけないから、挑戦するのに躊躇はありました。 ーーなるほど。リスクヘッジの面でも、予算規模が大きいだけに難しい面があるのでは。 高根:そうですね。映画会社の場合、リスクヘッジに関してはスキームが確立されていて、豊富なノウハウがありますが、スペースシャワーは映画会社ではないので、新しいやり方を考える必要がありました。正直、『私たちのハァハァ』が黒字になるかどうかは、今の段階では分かりません。映画作りの素人が、そのリスクの大きさにたじろいでいるというのが、いまの状況ですね(笑)。でも、素人としてやってきたからこそ、できたこともたくさんあって、たとえば『フラッシュバックメモリーズ3D』みたいな作品は、映画会社にいたらおそらく作れなかった。 ーーそれは、どういった面で? 高根:『フラッシュバックメモリーズ3D』は、GOMAさんが交通事故にあって記憶を失う前と、現在の状況を3Dのレイヤー構造で表現した作品なのですが、普通に制作しようとすると編集だけで数千万円かかってしまうんです。それで、グーグルで3D編集について調べたら、格安で請け負ってくれる個人がいたので、頼むことにしました。でも、その人は技術的には編集ができるけれども、70分もの映像の編集はやったことがなく、マシンのパワー不足もあって作業が進まないんです。東京国際映画祭のコンペに出品するのにあわせて締め切りを決めたんですが、出来上がったのは映画祭の3日前の深夜でした。もし、その編集が間に合わなければ、GOMAさんや松江監督のこれからの人生に対するマイナスが大きすぎて、僕が土下座して済む問題ではなくなっていたでしょう。企画そのものが、まともな映画会社だったら通っていなかったと思います。 ーー聞いているだけで胃が痛くなりそうです(笑)。 高根:でも、結果的に非常に安い価格で3D映画を作ることができました。ほかにも大幅にコストカットをできたところがあります。映画は通常、DCPと呼ばれる上映用のデジタルデータを作らなくてはいけないのですが、映画以外にはまったく汎用性のないデータなので、2011年当時は業者に頼むとデータの変換だけで100万円もかかると言われました。結局、それなりの大手の会社と交渉して、なんとか安く仕上げてもらいました。そして、そのデータのコピーに関しては、ウェブでいろいろ調べた結果、どうやらLinuxのOSを使えばできるらしいということで、自分のパソコンにLinuxを入れてコピーしてみたんです。そうしたら、ちゃんとコピーデータができて、本来ならコピー1本15万円かかるところ、ほぼコストゼロで済みました。今ではアドビの編集ソフトにも「DCP書き出し」という機能がついてますし、数年間に100万円かかったものが、やり方次第で無料にもなってしまうのがこの世界で、たとえば宣伝や広告費にも、ドンブリ勘定な部分がたくさんあります。 ーーなるほど。では、そういう費用を抑えるやり方もあると。 高根:そうですね、配給宣伝費なども数千万かかるといいますが、内訳を詳しく見ていくと、先ほどのDCPのように、実はそんなに費用がかからないところがたくさんある。そうして無駄に大金をはたいて、しかも映画が転けたりしたら、企業も出資しようと思わなくなりますよね。だから『私たちのハァハァ』は、新しいタイプの製作委員会を作って、各社の利益構造も透明性が高いものにしました。参画しているのはスポッテッド・プロダクションズさんと、ユニバーサルミュージックさんと、もう一つ、エイベックス・ピクチャーズさんですが、それぞれの会社の権利関係を明確かつメリットがあるようにして、誠実な予算表を作ってやっています。もちろん、幹事であるスペースシャワーは一番お金を出資していて、リスクも一番高いのですが(笑)。従来の製作委員会のように、幹事会社がグレイ・ゾーンを作ってリスクヘッジしていくということも、ビジネスのやり方としては正しいとは思いますが、僕としては出資してくれた会社がかなりの確率でリクープし、継続可能なやり方で面白い作品を生み出す成功例を作りたかったので。
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ーー具体的には、今作にどれくらいの予算をかけているのですか? 高根:制作費や配給宣伝費など全部込みで2000万円ほどでやっています。その2000万円をペイしようと思うと、映画の上映だけで考えたら、おそらく3万人くらいの観客が必要でしょう。インディー映画でその数字を出すのは、かなり難しいところですが、レンタルやグッズの販売、さらにテレビの放映権などトータルで考えたら、なんとかできるのではないかと思います。予算の面では、文化庁が出してくれる補助金を狙う方法もありますが、あいにく低予算映画には使いにくい仕組みなのです。あれも不思議な制度で、インディペンデントなことや実験的なことをする映画を応援するために付くというなら理解できるのですが、“超”大手の会社のエンタテインメント大作にお金が出ることも多くて。しかも、本当はリクープしたら補助金は返さなければいけないのですが、ほぼ誰も返していない件が数年前にニュースになってました。補助金の元は税金ですから。映画というものは総合芸術だと思うけれども、その芸術の名のもとに甘えすぎているんじゃないか。そういう現状を変えようと努力している映画関係者もいますし、僕らも僕らのやり方で、メジャー作品では作れない企画で、さらに結果を出していく必要性を感じています。そうしないと、十何億円もかかるメジャー映画と数百万で製作されたインディー映画という二極化になってしまい、僕らが学生時代に見ていた、いわば“とんがった”イメージのある映画は、日本国内では適切な予算ではもうできないということにもなりかねません。 ーー日本映画のこれからを考えるうえでも、気概を持って良質なインディー作品を生み出していくのは大切なんですね。 高根:たとえば、スポッテッド・プロダクションズの直井さんや、松竹ブロードキャスティングのオリジナル映画製作プロジェクト(『滝を見にいく』(沖田修一監督)、『恋人たち』(橋口亮輔監督))は、そうしたことに意識的だと思います。特に後者は大手映画会社である松竹さんの中で、よくある大作映画のように原作や主役を先に決めて、監督はそのあとに決めるようなやり方ではなく、少ない予算でも監督主導の映画を作ろうというプロジェクトをやっているんです。そのうえで、やはり大事なのは、きちんと結果を出してビジネスとして継続していくことですよね。僕自身は、映画界全体を変えようなんていうつもりはまったくないけれど、少なくとも自分が関わる映画については、面白い作品を作ったうえで、ビジネス的にもきちんと結果を出していきたい。そもそも映画は監督ありきのものですし、素晴らしい才能だと思える監督の出す企画は、十中八九の確率で素晴らしいものなんです。でも、大きな会社の場合だと、莫大な利益を出さなければいけないため、通らない企画も多い。だからこそ、我々のような野武士軍団が、面白い作品を生み出せる監督との話し合いの中で出てきた企画を、できるだけスポイルせずに実現するということが、大きな意味を持ってくると思います。そのためにもプロデューサーとして「面白い映画だったけれども、お客さんは入らなかったね」ではなくて、次回作へつなげられる結果を出していきたいですね。 (取材・文=編集部) ■公開情報 『私たちのハァハァ』 9月12日、テアトル新宿ほか全国公開 監督:松居大悟 出演:井上苑子 大関れいか 真山朔 三浦透子 クリープハイプ / 武田杏香 中村映里子 池松壮亮 satellite blue metro 佐藤太一郎 茜チーフ 池浦さだ夢(男肉 du Soleil) 土佐和成(ヨーロッパ企画) 中村まこと 音楽・主題歌『わすれもの』:クリープハイプ (C)2015『私たちのハァハァ』製作委員会 公式サイト:haa-haa.jp

KGDRが解説する、ヒップホップ名作映画とその影響 Kダブ「『ワイルド・スタイル』には歴史的価値がある」

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KGDR。左から

Zeebra、DJ OASIS、Kダブシャイン
【リアルサウンドより】  1982年に公開され、その後のヒップホップカルチャーに多大な影響を及ぼした映画『ワイルド・スタイル』が、30年余りの時を経て、7月3日にDVD作品『ワイルド・スタイル HDニューマスター 30周年記念スペシャル・エディション』として発売された。また、90年代以降の音楽シーンに大きな足跡を残してきたラッパー・Nasのドキュメンタリー映画『Nas/タイム・イズ・イルマティック』(2014年公開)のDVD作品も、6月2日に発売された。ヒップホップの歴史を語るうえで重要な両作の発売を記念し、7月5日にHMV record shop 渋谷にて、日本のヒップホップシーンを牽引してきたKGDRがトークイベントを開催。その終了後、KGDRのメンバーにインタビューを行い、改めて両作の見どころやその影響について語ってもらった。

Kダブ「バトルの要素があるのは、ずっと変わらないヒップホップの根幹」

ーーまずは『ワイルド・スタイル』について、それぞれどのようにしてこの映画と出会ったかを教えてください。 Kダブシャイン(以下、Kダブ):俺の場合は観たタイミングがけっこう遅くて、VHSテープ版がアメリカで発売された91~92年頃。レトロな雰囲気も感じられる映像だったので、はじめは一世代前のヒップホップ映画だと思ってそれほど関心を抱かなかったのですが、何回も観ているうちにその映像の歴史的な価値を実感していきました。ちなみに劇中の音がNASの「The Genesis」という曲でサンプリングされてますね。 ーー「一世代前のヒップホップ」と感じたのは、具体的にどんなところでしょうか。 Kダブ:服装やサウンドの傾向が、当時の自分たちが求めていたヒップホップとは異なっていたところです。ヒップホップの原点ともいうべき映画なので、そこから次第にモードが変化していったということでしょう。この映画ではパーティーラップが主流で、ファンタスティック・フォーやコールド・クラッシュが、「みんなで楽しい時間を過ごそうぜ」と盛り上げる曲が多かった。ただ、映画の中で人が出演しない、ストリートの映像だけを見せるような画面では、グランドマスター・キャズのシリアスなラップが流れたりしていて、そこは印象深かったですね。一方でバトルの要素があるのは、ずっと変わらないヒップホップの根幹だということを感じました。バスケットボールをしながらラップバトルをするシーンがあって、「俺たちはスポーツマンシップに乗っ取った上で、自分たちの優位性を誇示しながら相手と戦っているんだぞ」、というイメージでした。ちなみにバスケのシーンは18回も撮り直ししたそうです。 Zeebra:自分は当時、VHDで観ました。VHDというのはレーザーディスクと同じビデオディスクの一種で、LDとは規格が違い長方形のケースにディスクが収納されていたものです。当時はブレイクダンスに関心があったので、その延長でこの映画に辿り着いたという感じ。ハービー・ハンコックが1984年にグラミー賞を受賞して、そのときのライブパフォーマンスの中に出てきたブレイクダンスに魅せられたのが興味のきっかけで、それが放送された翌日は学校でも話題になったし、つるつるですべりのよい学校の廊下で、セーター姿でクルクルと回ったりしていました。その後に『ワイルド・スタイル』を観たので、映画館で上映されてから1年遅れくらいですね。 Kダブ:『フラッシュダンス』(1983年公開)もほぼ同じ時期に上映されたので、ブレイクダンスというものが日本で認知され出したのはこの頃。 Zeebra:ちなみに「笑っていいとも!」に『ワイルド・スタイル』のダンサーが出演し、中国語もどきのラップを披露するタモリさんと共演している動画があって、YouTubeで観ることができます。ブレイクダンスはとても特異な動きをしますよね。ロボットみたいになったり、くるくる回ってみたり、アクロバティックな動きで、見る人を魅了して、それで日本でも注目されたんだと思います。 Kダブ:はじめはロボット的な動きというか、パントマイムのような動きのダンスが流行したけれど、それらもブレイクダンスのカテゴリのひとつだと、当時のフェイズツーが語っていました。ブレイクダンスというと、どうしてもアグレッシブな動きをするものだと一般には思われがちですが、この映画の中でも、手袋をした二人組みがポーズだけ決めている場面があります。 Zeebra:自分も以前、アメリカのロック・ステディ・アニヴァーサリーでロック・ステディ・ジャパンのMCとしてライブをしたことがありますが、そこで出演していたダンサーはパワームーブよりむしろフットワークに美的感覚を求めているような印象でした。どちらかというと、パワームーブはロサンゼルスを中心としたウエストモードなんですよね。 Kダブ:なるほど。ところでやっぱり、日本のヒップホップのアーティストたちがラップやDJを始めたのは、この映画がきっかけだったのかな。 Zeebra:そうだと思いますよ。みんな、あの頃にはじめたはず。 Kダブ:DJ KRUSHさんは『ワイルド・スタイル』を見て、スクラッチをはじめたみたいだね。実は81年に『ワイルド・スタイル』が制作されて、はじめて上映されたのは日本だったんです。葛井さんという方が82年秋に開催予定の映画祭で公開しようと企画して、出演者も大勢日本に呼び寄せて30日ほど日本に滞在してもらったんですけど、彼らは東京の日本人DJたちがすぐにスクラッチするのを見て驚いたそうです。「こいつら早い!」って。 ――DJ OASISさんはどのようにして本作と出会いましたか。 DJ OASIS:自分は家にあったVHSテープで『ワイルド・スタイル』をはじめて観たんですけど、そのときにまず感じたのは「この人たちは命がけですごいなあ」ということ。パーティの中にもやはりバトルっぽい場面があり、その中に身をおくということは、常に自分が一番だというプライドを持つべきものなんだという印象を受けました。ヒップホップを志す人、特にラッパーにとっては、そのことはかなり重要だと思います。

Kダブ「当時はレコードを発表することが、あまり格好いいと思われていなかった」

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『ワイルド・スタイル』場面写真

Kダブ:ところで今作に出てくるラッパーは、実は音源ではあまり作品を残していないんですよね。当時はラッパーがレコードを発表するということは、あまり格好いいものとは思われていなくて、映画のようにブロックパーティーにみんなを集めて、そこでラップを見せることのほうが本流だという考え方があったようです。 Zeebra:現場でラップを披露するときは、リズム&ブルースとかジャズ、ファンクなどのレコードを2枚使ってライブしていたんですけど、ラップの音楽をレコードに収録する際にはバンドに同じフレーズを弾きなおさせていたので、ブレイクビーツの雰囲気が出せず、それほどかっこよく仕上げられなかったんじゃないかと、自分は思います。 Kダブ:ライブシーンの豆知識をいうと、グランドマスターフラッシュが行ったライブの様子は、音声の調子が悪くて使われなかったんだけど、そのあとにもう一度撮影しなおした場面が映画に使われた。 Zeebra:ダブルトラブルは、ライブのシーンなどで本気で怒っているように見えるけど、あれは撮り直しをさせられたせいなのかな。 Kダブ:彼らは当初からこの映画に出演することは決まっていたものの、シュガーヒルレコードの女性社長だったシルビア・ロビンソンが、自分の会社の契約アーティストの自由を束縛するようなタイプの人間で、彼女は映画監督に出演拒否の意向を示した。そこで怒ったダブルトラブルが自分たちの意思でグループを辞めて映画に出演したという経緯があるので、本来ならば不機嫌な様子はないと思うけれども、映画のラップのシーンでは、俺たちの自由にやらせてもらうぜ、という女社長へのメッセージのような歌詞がある。その辺の怒りがリアルに現れているのかも。 Zeebra:ちょうど83年くらいからヒップホップの映画がたくさんできて、ミュージシャンたちも出演しまくっていたけど、その先駆け的な存在が『ワイルド・スタイル』でしたね。 Kダブ:ただ、たしかに『ワイルド・スタイル』がヒップホップの黎明期、創成期の映画だとはよくいわれますが、実際にヒップホップが誕生したのは1973年くらいで、これが上映される10年くらい前なんですよ。映画に出演している人たちの演技から滲み出ている文化的・技術的なイメージを見ると、ちょうどヒップホップというカテゴリーがある程度、完成されたのがその頃だということがわかります。そこから新たに広がるきっかけとなったのがこの作品だったのでしょう。ただ、先ほども少し触れましたが、この映画に出演したミュージシャンたちがこれほど脚光を浴びたのに、そこからはまったくヒット作品を出していないのは、少しさびしく感じます。映画が発表された後からは、デフジャムレコードのようにドラムマシーンやブレイクビーツで曲作りをするような、今までとは違うスタイルが主流になり、シュガーヒルレコードのような音源は時代遅れとされたんです。 Zeebra:出演者にヒット作がないということも、この映画の資料的な価値を高めているようにも思います。『ビート・ストリート』や『フラッシュダンス』などの同時期の映画は、ハリウッドでエンターテイメントとして作られたものですが、『ワイルド・スタイル』はドキュメンタリー色も濃いです。 Kダブ:ほぼ、ドキュメンタリーといって良いと思います。実際のアーティストたちが演じていますから。32年余り経ったいま、この映画を観ると、当時のサウスブロンクスのヒップホップシーンすべてを見てまわれるような、まるで博物館を見ているような印象を受けます。その頃のサウスブロンクスは、荒れてて、貧しくて、本当に何もなくて。そこからヒップホップが育っていったことを捉えたという意味でも、歴史的な価値がある作品といえるのでは。

Kダブ「Nasはヒップホップの正統な継承者という印象だった」

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『Nas/タイム・イズ・イルマティック』場面写真

――『Nas/タイム・イズ・イルマティック』は、1994年にリリースされたNasの名盤『illmatic』を巡るドキュメンタリーで、こちらもヒップホップ史を語るうえで重要な映画といえそうです。 Zeebra:とにかく『ワイルド・スタイル』は、80年代から90年代にかけて自分たちにとってはバイブル的な存在だったんですが、Nasに関しては「同世代の中にとんでもない才能の人間が現れた」と評判でした。 Kダブ:『illmatic』がリリースされた頃、ちょうど自分たち3人はアルバム作成のためにオークランドにいて、ヒップホップの正統な継承者が現れたという印象を受けた。Nasのラッパーとしての才能を開花させたのは、ラージ・プロフェッサーというプロデューサーで、彼はほかにも様々なプロデューサーを紹介したらしく、いわばNasにとっての恩人のような存在だそう。Nasは高1くらいの年齢で学校を中退しているんだけど、ラージ・プロフェッサーが学校に彼を迎えに行き、そのままスタジオでデモテープを作ったといわれています。ほかのミュージシャンのアルバムを製作する空き時間を利用して86~87年頃からデモを作りはじめたんですが、まだNASも年齢が若かったので、デモ製作に飽きてスタジオに来なかった時期もありました。そんな紆余曲折を経て、ようやくアルバムをリリースするところまで来たんですが、一時期は「自分はこのままアルバムを出せずに終わるのかも」と心配になったこともあったようです。 Zeebra:10代の頃って本当に何が起こるかわからないから、大変だっただろうね。 Kダブ:大変だよね。ただ、Nasはデモテープを作っていた頃から、ある程度の評判を得ていたそうで。 ――当時からNasの存在を意識していたということですが、ラップのスタイルなどで影響を受けた部分はありますか。 Kダブ:当時のニューヨークのヒップホップのトレンドは、すでに『ワイルド・スタイル』の時とは異なり、シリアスな作品が主流だったので、自分たちもそのトレンドを受け継いでいた。ラップにしてもリリカルな表現にこだわっていた時期でもあったので、そういった部分で共通点はあるかも。でも、直接影響を受けたという感じではない。 DJ OASIS:自分たちもヒップホップをやり始めた時期でもあったので。 Zeebra:Nasをアイドル視したことはないですね。年齢も自分たちとほぼ同じくらいですし。 Kダブ:LL・クール・Jあたりまではアイドル視していたけれど、それ以降に活躍した人たちは同世代という感覚が強いかな。たしかにセンスの良さは認めていたけれど、その時は憧れの存在というわけではなかった。 Zeebra:違いを感じたのは、アメリカでは10代でデビューできるけれど、日本ではそれは難しいというくらいで。たとえば、彼に挨拶するために廊下で待つなどということはしなかったです。

DJ OASIS「『ワイルド・スタイル』の再リリースは、ヒップホップが定着した証拠」

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イベント当日、渋谷HMVには多くのファンが訪れた

――『ワイルド・スタイル』に話を戻したいと思います。KGDRとして活動するうえで、文化的な側面で影響を受けた部分を教えてください。 Zeebra:自分の場合は本当に何度も観ているので、ほとんど無意識にまでその世界観が浸透していると思います。たとえば映画内で、主人公が裏通りでいきなりホールドアップされるシーンがありますが、そういう緊張感も含めてヒップホップというか。戦闘的なイメージではないヒップホップももちろん存在しますが、アメリカのメロウなヒップホップだって、日本におけるそれと比べれば、格段にマッチョだと思います。つまり、弱い存在では普通にさえ生きていけないアメリカで、ギリギリのラインをキープしながら、彼らはインテリジェントなラップをしているという印象ですね。 Kダブ:当時のブロックパーティなどは、まわりの人間から目立ってリスペクトされるような存在でなければ、マイクを握ることはできなかったみたいで、そういう意味では勝ち上がってきた地元の人間たちの集まりでした。 Zeebra:自分の存在の強さを証明しなければいけなくて、しかもそれを証明することで、ぶっ飛ばされるならまだしも、最悪は殺されてしまうかもしれない。そういうヒリヒリした側面もヒップホップにはあると思います。 Kダブ:自分たちのヒップホップにも、そういう意味で『ワイルド・スタイル』の潜在的なエッセンスは込められてはいますが、オリジナルのものではなく、自分たちでフィルターをかけてアレンジしたものだと思います。 ――なるほど、やはり根底にはバトルの精神があるのですね。そうした姿勢の中で、先ほどNasについては、同世代のためフラットな視点で捉えていたと仰っていました。文化的なところでいうと、日本のヒップホップシーンでも、アメリカのようにフラットな関係性――たとえば年上でもあまり敬語を使わないといった風習があるように思いますが、その辺りはどう捉えていますか。 Kダブ:音楽の世界においては、スポーツにおける上下関係のようなものがないほうが、より良い意思の疎通ができると思うし、瞬間的に指図しなければいけないような場面では、相手が自分より上の立場であるという意識があると遠慮して言い辛くなってしまい、グループの活動内容や曲作りのレベルが落ちてしまうという、自分なりの哲学があります。だからKGDRの活動を始めるときには、そういう上下関係はあまり厳しくない方針でやろうと提案しました。でも、自分は体育会系の感覚が染み付いているので、年上にはきちんとした態度になりますね。 Zeebra:自分だって、はじめはきちんとした上下関係を心がけてはいるんですよ。でも、だんだんとタメ口が普通になってしまう後輩、というタイプですね。(一同笑) Kダブ:昨日までは「さん」付けだったのに、今日になったらいきなり「くん」付けになるような。 Zeebra:たぶん4~5歳上くらいまでは、そういうことが通用するのかなと。でもヒップホップシーンに入ると、たしかにそういうこともあまり気にしなくなる。 Kダブ:相手のキャラクターも関係しますね。普通に「くん」付けできる人もいれば、到底できない人もいるし。DJ KRUSHさんに、「KRUSHくん」とは言えないもん(笑)。 Zeebra:でも、ユタカくん(DJ YUTAKA)にはいえるよね。年上なのに年下のようなイメージがあるし、彼の場合はアメリカでの生活も長かったし、付き合いもすごく長いから。1学年だけの差なら先輩、後輩の意識があるけれど、3~4歳も違うと弟のような感覚で甘え口調になってしまい、そこから段々とタメ口になってしまうという。(一同笑) Kダブ:日本人には敬語を使うことが美しいものであるという感情があるので、相手を敬うような話し方をしたいという意識もあるものの、その一方でざっくばらんな口調で話もしたいというときもあるし。日本でフラットな感覚を持つのは難しいですね。 Zeebra:いずれにしても大切なのは、根底で相手に対してリスペクトしているという感情があるかどうかということで、リスペクトの意識がないのに敬語を使ってペコペコした態度をとられるのも嫌です。 ――アメリカのそうした感覚は、臨機応変に取り入れているということですね。では最後に、『ワイルド・スタイル』が発表されて30数年が経過し、その後、90年代にはNasとほぼ時を同じくしてキングギドラが世に出たわけですが、当時から比べて日本のヒップホップシーンはどう進化したと思いますか。 Kダブ:自分が思うには、日本の場合はひとつの文化が流入されて、それがある程度、世の中に浸透するのに20年くらいはかかるのではないでしょうか。ZOOではじまった日本のヒップホップダンスも、EXILEの登場の頃から一気に浸透してきたと思うし。自分たちがデビューした1995年には、他のヒップホップのグループもデビューした、いわばビッグバンのようなタイミングで、それから今年でちょうど20年目になります。自分たちも20周年記念アルバムを発売したし、若手のラッパーも増えてきていて、今まさに、ヒップホップの世界の広がりが実感できています。 Zeebra:これが10年前や20年前だったら、KOHHみたいなアーティストがメディアに取り上げられることもなかったし。以前はヒップホップアーティストが、もうひとつ上のメディアで紹介してもらおうとしたら、そのメディア向けの何かをしなければいけなかったけれど、今はその必要もなくなった。そういう意味では本当に良い時代になったのではないかと思います。 DJ OASIS:ヒップホップシーンの世界は本当に大きくなったと思うけれど、それに伴い、良い部分も悪い部分も両方増えているとも思う。上辺だけの作品が増えたりね。でも、『ワイルド・スタイル』が再リリースされること自体が、ヒップホップが定着して大きくなっているという証拠で、そういうことができているうちはまだまだシーンは大丈夫なんじゃないかな。 Zeebra:そうそう。『ワイルド・スタイル』なんて知らないよ、ということになってしまったら問題だと思いますが。 Kダブ:映画関係者たちが、ヒップホップ関連の映画をもっと上映したがっているということも、昔ではなかったことだし、以前からヒップホップを聴いていた人たちが、いろいろな業界の重要なポジションにつき始めているということも、自分たちにとって心強く感じられますね。 DJ OASIS:10年前や20年前では、ヒップホップを好んで聴いている人たちはせいぜい30歳くらいまでのひとたちだったと思いますが、今では50歳以上のひとたちにまでフィールドが広がっています。ブルーノートやビルボードのようなライブ会場でもイベントがありますし、ヒップホップは単に若者のためだけの音楽ではなくなりました。 Kダブ:『ワイルド・スタイル』を観て、『Nas/タイム・イズ・イルマティック』を観て、さらに僕ら3人が作ったファーストアルバム『空からの力』を聴くと、アメリカのヒップホップが日本に上陸する過程がイメージしやすいと思います。歴史を踏まえると、いまのヒップホップシーンもより奥深く楽しめると思うので、ぜひ色んなひとに観て聴いてほしいですね。 (取材・文=松田広宣/写真提供=TCエンタテインメント) ■作品情報 『ワイルド・スタイル HDニューマスター 30周年記念スペシャル・エディション』 発売中 時間:82分 出演:リー・ジョージ・キュノネス、ファブ・ファイブ・フレディ(フレッド・ブラズウェイト)、サンドラ・ピンク・ファーバラ、パティ・アスター、グランドマスター・フラッシュ、ビジー・ビー、コールド・クラッシュ・ブラザーズ、ラメルジー、ロック・ステディ・クルー 監督・製作・脚本:チャーリー・エーハン 音楽:ファブ・ファイブ・フレディ(フレッド・ブラズウェイト)クリス・スタイン 撮影:クライブ・デヴィッドソン 『Nas/タイム・イズ・イルマティック』 発売中 時間:145分 出演:Nas、DJプレミア、ラージ・プロフェッサー、ピート・ロック、Qティップ 監督: One9 『空からの力』 発売中 レーベル:Pヴァイン・レコード 収録時間:74分

地下アイドルシーンはいかにして生まれたか? 姫乃たまが秋葉原の大先輩に聞く

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(C)Kunio Hirayama

【リアルサウンドより】  地下アイドル兼ライターとして活躍する姫乃たまが、9月22日に発売する初の単著『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』の予約受付が、本日よりAmazonにて開始した。(予約はこちらから)  リアルサウンドでは本書の発売に先がけて、書き下ろしコンテンツの一部を抜粋して掲載。第一弾は、秋葉原を発信源とする“ヲタク文化”がいまのように盛り上がる以前から、秋葉原の歩行者天国でパフォーマンスを行なっていたFICEと、彼女らとともにシーンを盛り上げてきたいちご姫を招いてトークを行なった『FICE×いちご姫×姫乃たま座談会』を紹介する。

~“地下アイドル”という言葉が生まれる前~

 まだ秋葉原が純粋な電気街で、歩行者天国は純粋に歩きやすい道で、地下アイドルが発生する前のこと。パフォーマンスユニット・FICEのふたり(炎と氷)は活動の場を求めて、まだ誰もいない秋葉原のホコ天に立ちました。彼女達の活動は大阪で同じように活動していたいちご姫さんにも届き、以降、ともにシーンを切り開いていくことになります。ゼロ年代中頃、秋葉原にドン・キホーテが建ち、AKB48の常設劇場ができて、地下アイドル文化が定着していく渦中に彼女達は立ち続けていました。ゼロ年代の終わりに彼女達と出会い、地下アイドルとして育ててもらった姫乃たまが、改めて活動遍歴とともに、現在の地下アイドルシーンについても尋ねてみました。

「自分がチヤホヤされたいだけのアイドルが多すぎる」(炎)

姫乃:みなさんは“地下アイドル”という言葉が生まれる前から、自分たちで活動の場を開拓してきて、主催イベントに集まってきた数多くの地下アイドルに居場所を与えて育ててきたわけですが、すっかり地下アイドル文化が浸透した現状をどう見ていますか? 炎:一回パンクして崩壊しちゃえば良いと思うよ。最近は誰でも「アイドルです」って名乗ったらアイドル出来ちゃうから、自分がチヤホヤされたいだけの子が多すぎる。そういう子は、思ったほど盛り上がらないとか、ちょっと気に入らなかったくらいですぐ辞めちゃうんだよね。ウチらは出る場所もないところから始めているから、毎回のイベントを大事にしているし、何よりお客さんに楽しんでもらえることを一番に考えているの。だから、そういう考え方ができる子、人を楽しませたいという気持ちを持った子は良いけれど、そうじゃない子は淘汰されれば良いんじゃない? 氷:最近の子はドタキャンも多いよね。 炎:本来は一度でもドタキャンなんかしたら次はないのにね。あと、最近ひどいなと思うのが、オファーのやり取り。普通、メール来たらちゃんと返事するのが当たり前でしょう。でも、最近は単なる寄せ集めイベントをやっているイベンターが一括メールで募集をかけるから、返事しないのが当たり前みたいに思っている子もいる。つまり、募集と依頼の区別さえついてないんだよね、あの人たちは。寄せ集めのイベントは何組出演するかも決まってないから、とにかく応募が来たら全員出しちまえ!みたいな感じでしょ。それでモラルが崩壊している。 氷:イベント飽和状態の弊害だよね。 炎:イベントが多すぎて、ドタキャン常習犯にも依頼が来るから、調子こいてんだよ。ラインでメッセージ送っても既読スルーするからね、あいつら。 氷:ありえないよ。 いちご姫:とくにここ数年はヒドいよね。 姫乃:わはは、秋葉原のホコ天を体験していない世代の地下アイドルは根性がないとよく言われます。みなさんが活動を始めた頃は、まだ“アキバ系”という言葉さえなかったと聞いていますが、当時はどんな状況だったんですか。 炎:ウチらは勝手にそう名乗っていたけど、活動を開始した01年頃はそんな呼び方なかったよ。 氷:2004年の『電車男』ブームで“アキバ系”って言葉が一般化したよね。でも、それはウチらがもうストリートのパフォーマンスを辞める時だった。 炎:最初は秋葉原でストリートやってる人ってウチらしかいなかったし、そもそも秋葉原にそれほど人がいなかった。当時はドンキもなかったし、もうちょっと“家電の街”だったよ。駅前にはバスケットゴールがあって、ホコ天はやっていたけど普通にテキ屋が出ていただけで、ストリートミュージシャンとかはまったくいない状況。 姫乃:その頃の秋葉原をパフォーマンスの場に選んだのは、なぜですか? 炎:当時はアニソンとかのカバーをしてたから「それならアキバでしょ」って思って。ホコ天あるから、やってもいいんかなと。とりあえずテキ屋のおっちゃんに、「ここでやったら捕まるんですか?」って聞いたら、「たぶんやる人がいないだけじゃない?」って言われたから、やってみたの。その後、テレ朝の『ストリートファイターズ』っていう番組の秋葉原特集にウチが出演したのをきっかけに、一気にパフォーマーが増えた。でも、番組に出るまでの3年間は本当にウチらしかいなかったよ。 いちご姫:私も『ストリートファイターズ』でふたりのことを知った。 氷:番組出演後に、原宿とか大宮でやっていた人たちが流れてきた感じだよね。だからV系みたいな人も多かったし、逆にメイドさんとかは街にいなかった。 姫乃:いちご姫さんはどんな経緯で活動を始めたんですか? いちご姫:黒歴史が長いからどこが最初かはよくわからないんやけど、芸能という枠で考えると『小学6年生』っていう雑誌の美少女コンテストで入賞したのが始まりやね。その後、15歳で京都のラジオ番組に出たりしたんやけど、当時はキャラがぶれぶれで「天使やけど妖精やねん」って言ってた(笑)。FICEみたいな髪の色で7色にして、指輪もジャラジャラ付けて。とにかく目立たなって思って一生懸命塗りたくってたわな。で、大阪で漫才師の人らと一緒にライブ活動するようになって、岡本真夜とか鈴木蘭々とか、相川七瀬のカバー曲を歌うようになった。 炎:セレクトに時代を感じる(笑)。 いちご姫:その時に、YOUが『デートしましょ/スイート』っていうCDを出してて、いちごを食べようとしているジャケットやって。じゃあ、いちごの服でも着てみようかなって、雑貨屋に行ったらいちごのレインコートあるわ、髪飾りもあるわ、指輪もあるわで、そのまま気づいたらいちごグッズを集めていて、それがいまだに続いてる。いちご姫の名義で活動し始めたのは01年からやね。 姫乃:FICEさんと知り合った経緯は? 炎:会ったのは錦糸町の「ドレミファ館」っていうカラオケ屋のパーティールームで、ウチが「AKIBA net BANK」っていう主催イベントをやっていた頃だから、00年代の始め頃だよね。ある日、突然「いちご姫です」みたいな変なメールがウチのもとに届いて……。 いちご姫:当時はどういう方向性にいけば良いか迷ってて、ネットでいろいろ調べていたらFICEのホームページにたどり着いて。「私、ここと一緒ちゃうか?」って思って連絡した。間違ってなかったやろ? 氷:間違ってない。たぶん、この界隈で最初に知り合ったのがいっちー(いちご姫)だよね。
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FICE(協力:ビッグファイタープロジェクト)

姫乃:ライブハウスでなく、カラオケ屋で主催イベントとは……? 炎:当時のライブハウスはオーディション制で、ウチらみたいな活動スタイルだと出ることができなかったの。オリジナル曲ありきで、まずはデモテープを持っていって、デモテープが通ったら生演奏でオーディションを受けて、それが認められて初めて出ることができる。 氷:そう、だからバンドじゃない時点で出られなかったの。 炎:オケバンドがライブハウスに出るっていうのは、事務所の力で箱を押さえない限り無理だった。でも今みたいにイベンターとかはいなかったから、事務所のショーケースしかない感じで。 氷:出るとこがまったくなかったから、カラオケ屋でやるしかなかった。 炎:でも、「ドレミファ館」のパーティールームは100人くらい入るし、ステージの照明も派手だし、ドラムセットまであって、下手なライブハウスよりずっと立派だった。しかも、カラオケ屋だから時間借りもできる。 氷:当時はアニソンバンドのコピーが流行っていたから、そういうバンドにネットの掲示板で声をかけて集めて。 炎:掲示板全盛期の頃だよね。当時は『マジンガーZ』とかのロボットものをやってる人が多かったかな。あとは桃井はるこさんとかをやる人も多かった。 姫乃:秋葉原のホコ天は、08年に起きた通り魔事件で中止になっているけれど、みなさんはそれより前に活動の拠点をストリートから移していたんですね。 炎:事件が起こる前から、ホコ天の取り締まりは厳しくなっていたんだよね。コスプレイヤーが注目を集めるために過激な露出をしたり、マナーが悪いアーティストが増えたりして、警察がしょっちゅう出るようになっていた。ウチが始めた頃は、電気街のお店の邪魔にならないように、必ずホコ天の車道のど真ん中で、ラジカセと生声だけでやっていたんだけど……。 氷:店頭のマイクパフォーマンスとかぶらないように気を付けていたよね。だから、お店のおっちゃんとかもジュースとか差し入れしてくれたのよ。 炎:そのうち、原宿の方から流れてきたバンドとかがアンプ積んで爆音でやるようになって、お店のおっちゃんと正面から喧嘩したりして。ウチはそういう悪質な奴らと一緒にされたくないし、だんだんとライブハウスでもできるようになったから、08年にPVの撮影をしたのを最後に、それ以来はいっさいストリートではやっていないんだ。 氷:この格好で歩いているだけで職質されるようになっていたからね。 姫乃:いわゆる地下アイドルの子達が一気に増えたのは、ちょうどその頃ですよね。私も09年から活動を始めました。 炎:05年頃に『電車男』のブームがあって、AKB劇場もできて、アキバカルチャーがすごく盛り上がった。その後押しもあって、地下アイドルもライブハウスで活動できるようになっていって、08~09年くらいには一気に増えてね。ちなみにAKB劇場ができる前に、あのビルの5階で「アキバちゃんねる」っていう番組をやっていて、ウチらはレギュラーで出ていたんだよ。劇場のあるフロアは更衣室になっていて、ウチらもそこで着替えていた。それである日、「なんだかたくさん子どもたちがいるな」と思ってたんだけど、それがAKB48の一期生オーディションで集まった子たちだったんだ。いま思うと、あの中に前田敦子や高橋みなみもいたんだなって。(続きは書籍で
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『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』(C)blueprint

■出版概要 『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』 著者:姫乃たま 版元:サイゾー 発売日:9月22日 価格:1400円(税抜) 予約はこちら ■イベント情報 『潜行 ~地下アイドルの人に言えない生活』出版記念イベント 2015年9月27日(日曜日) 会場/2.5D(渋谷PARCO part1 6F) 〒150-8377 東京都渋谷区宇田川町15-1パルコパート1 open/start 18:00/18:30 ticket:¥1500+1D 【30席限定】2000+1D(先着で会場前方の座席をお取りできます。) 出演:姫乃たま and more! ※チケットは下記2.5Dのウェブサイト上のPeatixで予約可能です。 http://2-5-d.jp/tama/

峯田和伸、『ピース オブ ケイク』単独インタビュー 役者業のこと、仕事論、銀杏BOYZの現在

【リアルサウンドより】  先週末に公開されて、興収でもトップ10に入るスマッシュヒットを記録中の『ピース オブ ケイク』。伝説的なパンクミュージシャンであり、1989年『鉄男』の主役で俳優デビューして以降、役者としても高い評価を受けている田口トモロヲによる3作目の監督作品であること。ジョージ朝倉の大人気恋愛マンガの映画化作品であること。多部未華子、綾野剛、松坂桃李、木村文乃、光宗薫、菅田将暉といった超豪華かつフレッシュなキャストが一同に集結していること。本作において注目すべきポイントは数々あるのだが、リアルサウンド映画部では、作中で一癖も二癖もある劇団の座長役を演じ、加藤ミリヤとのデュエットで主題歌も歌っている峯田和伸にフォーカスを当てた。  『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』に続いて、今回で田口トモロヲ監督作品では3作連続で重要な役を任され、『少年メリケンサック』や『ボーイズ・オン・ザ・ラン』などの映画作品にも出演、さらに昨年は舞台『母に欲す』で池松壮亮とダブル主演を務めるなど、このところ役者としての実績も着実に積んでいるように側からは見える峯田和伸。はたして、彼にとって「役者業」とは何なのか? というか、そもそも「仕事」とは何なのか? この取材の数日後には、大阪の人気フェスRUSH BALLのクロージングアクトで、銀杏BOYZとして久々の「バンド編成」でステージに立った峯田和伸だが、必然的に会話はそんな「銀杏BOYZの現在」にまで及んだ。(宇野維正)

「自分ではまだ、自分のことを役者ではないと思ってる」

——峯田さんには、以前、リアルサウンドで豊田道倫さんとの対談をしてもらいましたが(参考:峯田和伸と豊田道倫が語る、音楽の生まれる場所「街は静かだけど、心のノイズは増えている」)、今回、新たにリアルサウンド映画部を立ち上げたんですよ。 峯田和伸(以下、峯田):あっ、そうなんだ。へぇー。 ——それで、今回の『ピース オブ ケイク』の公開を機に、是非、役者峯田和伸にインタビューしたいなと思い。 峯田:(笑)。 ——とは言っても、個人的にも峯田さんにインタビューするのは久々なんで、いろいろと脱線していくことになると思うんですけど(笑)。あ、そういえば見ましたよ、加藤ミリヤさんとの映画主題歌(「ピース オブ ケイク −愛を叫ぼう−」)のミュージックビデオ。メチャクチャ絡み合ってましたね(笑)。 峯田:ああいう、リップシンクっていうんですか? 現場で曲を流して、それに合わせて口を動かすっていう、ああいうミュージックビデオの撮影、やったの初めてかもしれない(笑)。 ——最初、字面だけで「加藤ミリヤ feat.峯田和伸」って見たときは、「え? 清水翔太のポジション?」って感じで驚いたんですけど、すっごくいい曲だし、作中でも効果的に使われていて。ちゃんと作詞にも関わっているんですね。 峯田:まぁ、こういう機会でもないとなかなかできないことですからね。 ——これも、(田口)トモロヲさんからの提案で? 峯田:そう。電話がかかってきて。「こういう話があるんだけど、ミリヤさんと一緒にどうかな?」って。で、大友(良英)さんが作曲をされるということもあって、おもしろいことになりそうだなって思って。実際、すごく新鮮な体験でしたね。 ——今回の『ピース オブ ケイク』で、『アイデン&ティティ』、『色即ぜねれいしょん』に続いて田口トモロヲ監督作品への出演は3作目、いわば皆勤となるわけですが。最初に今回も峯田さんが出るって聞いた時は、「まぁ、トモロヲさんの作品だしね」って思ったんですけど、作品を観てみると、峯田さんが演じることにメチャクチャ必然性があるキャラクターを演じていて、しかも、今回もかなり重要な役ですね。 峯田:どんな役でもいいので、トモロヲさんの監督作品には出たいと思っていて。で、トモロヲさんからも「次の作品も出てほしいな」って言われてて。今回も、かなり早い段階で脚本を読ませてもらって。「千葉(劇中で峯田和伸が演じている劇団の座長)の役はどう?」「うん、この役だったらできます」って感じで。その後、原作もすぐに読んで、「うんうん、この役だったらできる」と。トモロヲさんもそれをわかって配役してくれたと思うから、そこはもう信頼関係ができてる感じですね。 ——「この役だったらできる」というのは、やはり役者の仕事をする上では重要なポイントなんですか? 峯田:まぁ、シュッとしたスーツを着ていつも青山あたりにいそうな役だったり、弁護士の役だったり、そういうのはできないし、そもそも話もこないですよね(笑)。 ——見てみたい気もしますが(笑)。 峯田:自分は役者として中途半端だから。もちろん、受けた仕事はしっかりしますけど、自分ではまだ、自分のことを役者ではないと思ってる。役者……うーん、少なくとも俳優ではないですよね。 ——それこそ監督のトモロヲさん自身も、本業はミュージシャンでありバンドマンで、最初の頃はご本人のイメージに合った範囲で役者の仕事をされていましたけど、そこからだんだん役者として演じる役の幅を広げてきた方ですよね。そういう道筋は、峯田さんはまだ見えない? 峯田:どうなんだろう。全然わからない。まだ胸をはって「役者をやらせていただいてます」って言えない自分がいて。役者って、基本的に与えられた役だったらなんでもできなきゃダメだと思うんですね。自分の場合は、やれることだったらやりますってだけで。そういう意味では、プロの役者ではないんでしょうね。そこはトモロヲさんとは違いますね。

「本当はなんもしたくない。なんもしないで生きていきたい。曲も作りたくない」

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——ある意味、ミュージシャンの仕事とは真逆ですもんね。ミュージシャン、少なくとも峯田さんのようなミュージシャンは基本的に自分の中にあるものをゼロから発信していくのが仕事だけど、役者の仕事は監督になって自作自演でもしない限り、すべて「受ける」ところから始まりますからね。 峯田:でも、考えてみたら最近は「受けて」ばっかりなんですよ。ミュージシャンとしての仕事も。 ——それは、昨年1月に銀杏BOYZの『光のなかに立っていてね』と『BEACH』をリリースしてからは、ってことですか? 峯田:そう。全部受けてる。自分から何かを歌いたい、ステージに立ちたいって思ったことは一回もなくて。考えたら。 ——そうだったんだ。 峯田:昨年出したアルバム以外は、基本、全部「受け」。ドラマで「銀杏の曲を使わせてください」って言われたりすることも含めて。 ——あぁ、『恋仲』ですね。うん、あれはビックリした(笑)。あのドラマ大好きなんだけど。 峯田:ああいうのって、普通はレコード会社の方からテレビ局にプレゼンをするわけでしょ? 「こういうアーティストがいます」「こういう曲があります」「是非ドラマの中で使ってください」って。 ——峯田さんサイドから、そんなことを言ってないことはわかります(笑)。 峯田:全部向こうから「お願いします」だもん。こっちから「お願いします」って言ったことなんて一度もない。来たものに関してはちゃんと返すけど、自分からはまったくなにも動いてない。ライブだって、本当はやりたくないもん。嫌で嫌でしょうがないもん、人前で歌うのなんて。しょうがないからやってるだけで。 ——それは昔から? 峯田:うん。人前で歌いたいなんて、一回も思ったことがない。 ——もちろん、昨年のアルバムに関しては、あれは「しょうがないからやってる」人が作るような作品ではないということは聴けば誰でもわかりますが、それ以外に関しては、なんにもやらないってわけにはいかないからやってるということ? 峯田:なんもしないとお金も入ってこないし、生きられないし。そこはだから、生活のためにやってるって部分もありますよ。あとは……まぁ、とは言っても、本当にやりたくないような仕事は来ないんですよ。自分が「あ、おもしろそうだな」と思える仕事しか来ない感じはする。別に仕事を選んでるわけじゃなくて。おもしろそうな仕事ばかりが、ヒューって向こうからやってきてる感じ。それは、ずっと自分がそういうスタンスでこれまでやってきたからかもしれないけど。でも、基本的にはなんもやりたくないからさ、俺。 ——そうなの?(笑) 峯田:なんもしたくない。なんもしないで生きていきたい。 ——だって、曲は作りたいでしょ? 峯田:作りたくない。 ——(笑)。 峯田:なんとなく「曲作んなきゃな」「音楽やんなきゃな」ってだけでやってるから。 ——本当に?(笑) 峯田:だって、宇野さんどう、やりたい? こんな仕事? ——こんな仕事って(笑)。 峯田:本当にやりたいと思ってやってる? ——峯田さんと同じレベルで仕事について語れるわけがないけど(笑)。うーん、最近ようやくですね、あんまりやりたくない仕事を断るようになったのは。もちろん、スケジュールの都合が合わなくて断ることもありますけど。それだけで、自分の中では大きな進歩。 峯田:へぇー。 ——だって、フリーの人間って、仕事は全部受けるのが基本だから。 峯田:そっか。 ——理想は「自分じゃなきゃできない」と思える仕事だけをやっていくことですけどね。「これは他の人でもできるんじゃないの?」って仕事と、「これは自分が一番うまくできるかもしれないな」って仕事の違いは、自分の中では常に意識しながらやってますね。 峯田:あぁ、「自分じゃなきゃできない」ってのはそうかも。 ——だから、峯田さんのやってる仕事は、「峯田さんじゃなきゃできない」ことだけなんですよ。今回の『ピース オブ ケイク』も含めて。 峯田:あぁ、そうですね。まぁ、20代の頃に「やりたくないことはやりたくないです」って言うのは大変だったけど、自分も37歳になって。もうみんなわかってくれてるんでしょうね。だから、そういう仕事しか来ない。 ——ただ、そうなってくると、たとえば今回のトモロヲさんであったり、三浦(大輔)さんであったり、リリー(・フランキー)さんであったり、あるいはかつての自分の上司でもある鹿野(淳)でもいいですけど、そういう以前から付き合いのあった人からのオファーに限られてきちゃいませんか? 若くてこれまで峯田さんと接点のなかった人にとって、峯田さんに何かをオファーするのはなかなかハードルがあるんじゃないかと。 峯田:いや、それが最近、若い人とつるむことが増えてるんですよ。 ——あ、そうなんだ。 峯田:音楽では、クリープハイプとも今度一緒にやるし、どついたるねんのイベントにも呼ばれてるし。一昨年までのレコーディングがやっと終わって。あの最中はさ、年上も同年代も含めて、誰とも会おうと思えなかったから。レコーディングが終わってから、やっと穴倉から出てきた感じで。「あー、世の中こんなことになってるんだー」って思って。若い人とも知り合えるようになって。だから、楽しい感じですね、今は。やっぱり新しいことをやってる若い人たちと一緒にいるとおもしろくて。刺激になる。だから、むしろそういう若い人たちとこれからは仕事をしていきたいと思ってますね。

「ジョージ朝倉先生の作品は、ハードボイルドの中に、ちゃんとロマンの要素もある」

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——なるほど。あと、これは今回の『ピース オブ ケイク』を観た感想なんですけどね、トモロヲさんのこれまでの監督作品と違って、今回の作品って本当に普通の女子大生やOLさんがスッと作品の中に入っていける作品で。もちろん、原作がそういう原作だからというのもあるんですけど、それだけじゃなく、すごく開かれた作品の作り方をしていることが印象的だったんですよ。 峯田:僕もそう思いました。「こういう作品も撮れるんだなー」「すごいなー」って。 ——恋愛マンガの映画化作品って、昨今たくさん作られていますけど、どっちが優れているかとかではなく、それらの作品と並べても普通にシネコンとかで機能する作品っていう。そこにちゃんと踏み込んでる。 峯田:一口に日本映画って言っても、作品によって色合いが全然違うと思うんですね。バジェットもそうだし、キャストの集め方もそうだし。そんな中で、今回トモロヲさんの作品としては規模も大きい作品で、そこでトモロヲさんができたことも、できなかったこともあったと思うんですけど、側でその姿を見てて「すごく頑張ってるなぁ」って思ったし。結果、すごくいい作品になってよかったなって。 ——そう。作品の足腰がすごくしっかりしているから、峯田さんがスクリーンに出てきたときの異物感も、ちゃんと作品世界の中に吸収されているというか。 峯田:異物感ってどういうことですか!? ——だって、異物じゃないですか。松坂桃李くんとか、木村文乃さんとかと並んだら、異物でしょ(笑)。 峯田:そうなんですかね。僕はもう、そういうことはまったく考えずに、僕ができることをやっただけです! ——いや、別に悪く言ってるわけじゃないですよ(笑)。最初は異物感があったけど、観てるうちに作品の中にちゃんと溶け込んできて、それでも存在感があって、素晴らしかったですよ。 峯田:ありがとうございます(笑)。 ——さっきの仕事の「受け」の話じゃないですけど、この『ピース オブ ケーク』で綾野剛さんが演じている主人公の京志郎って、基本、恋愛に関して「受け」の人じゃないですか。相手に惚れられて、それで付き合って、別の2人を相手にそれをズルズルと引きずって三角関係をこじらせるという。そこに、なにか共感するようなところはありましたか? 峯田:共感ってのはないですけど、最初に原作のマンガを読んだとき、すごくおもしろくて。女性が描いたマンガなのに、なんでこんなに男のやりきれない感じがわかるんだろうって。本当に男性の心理を描くのが上手だなって思って。他の女性向けのマンガを読んだりすると、「男は、こんなときにこんなこと思わないし、普通は、ガーッとヤッちゃうんだよ」とかって思ったりするんだけど、ジョージ(朝倉)先生のマンガだと、そういうとき、ちゃんとヤッちゃうんですよね(笑)。 ——確かに(笑)。逆に、男の表現者で、女性の心理描写に長けた人ってジャンルを問わず本当に少ないですよね。 峯田:男の人の場合はね、やっぱりどこかにロマンが漂っちゃうんですよね。で、女性の場合は、わりとハードボイルドになっちゃうんですよ。でも、ジョージ先生の作品は、ハードボイルドの中に、ちゃんとロマンの要素もあって。多分、一歩間違ったらね、ただのチャラい恋愛ものになっちゃうんだけど、ジョージ先生の執念というか、魂というのが、それで終わらせないっていう。その部分に感動したんですよね。 ——峯田さんが主人公の京志郎の立場だったら、志乃(多部未華子)とあかり(光宗薫)、どっちにいっちゃいます? 自分は、観ながら「あぁ、完全にあかりにやられちゃうわ」と思ったんですけど。 峯田:どうだろうなぁ? ……でも、アパートの隣の部屋に住み始めた子が、偶然バイト先も一緒になったりしたら、そこに勝手に運命を感じて志乃の方にいっちゃうかな。いいじゃないですか、バイト帰りに2人で一緒に帰るとか(笑)。 ——峯田さんって、バイトとかやってた時期ってあります? 峯田:大学に通ってた頃はずっとやってましたよ。パン屋の工場とか、焼肉屋とか、派遣の仕事で埼京線の線路に砂利撒いたりとか。 ——バイト先で知り合って、付き合ったりとかは? 峯田:ないないない。派遣の仕事で、ワゴンに乗って現場に行くんですけど、そこで隣に座るおばちゃんに毎朝ゆで卵をもらったりとか、そのくらいの思い出しかない(笑)。だから、憧れますね。今でも、コンビニとかで女の子と一緒にバイトしてみたいですよ。

「これからはセックスフレンドと一緒に音楽をやっていきたい」

——えっと……このインタビューはあくまでも役者峯田和伸へのインタビューということで、あんまり音楽活動のことを訊くつもりはなかったんですけど、やっぱり気になるのでちょっと訊かせてください。先ほど、昨年アルバムをリリースした後に穴倉から出てきたと言ってましたけど、もう同じような穴倉に入るつもりはない? 峯田:曲は作ってるんですよ。で、曲ができてくると、やっぱりレコーディングしたいと思ってきていて。でも、前みたいな感じにはならないと思いますね。もうちょっと風通しのいい環境を作って、その中でやっていきたいなって今は思っていて。もう、前みたいな感じではできないと思うな。もう嫌だもん、人が泣いたり怒ったりする現場。そんなの、もう見たくないもん。 ——動き出してはいるんですね。 峯田:いや、ずっと動いてるよ(笑)。ただ、前のメンバー3人とは、同じ家の中で愛し合って、いがみ合って、結婚生活を送ってたと思っているのね。でも、それは失敗しちゃったから。これからはセックスフレンドと一緒に音楽をやっていきたいと思ってる。お互いの都合がいい時に、お互いが気持ちいい感じで、一緒にやろうよっていう。こっちにもあっちにも本命はいてもいいからって。 ——随分と都合のいい話に聞こえるなぁ(笑)。 峯田:自分が気持ちよくなるだけじゃなくてね、お互いが気持ちよくなれればいいなって。 ——じゃあ、またある時期を境に音楽だけに専念するって感じでもなく、音楽は音楽で、今回のような役者業も含めた他の仕事は他の仕事で、並行してやっていこうって感じ? 峯田:うん。どっかに余裕はもっておきたいと思ってる。でも、今一番楽しいのは曲を作ることだから、これから当面は、音楽中心。 ——そんなにうまくいくかなぁ(笑)。いざ音楽をやるとなると、結局また同じようなことになるんじゃないかって心配してる人も多いと思うんだけど。 峯田:あれでしょ? そんなこと言いながら、宇野さんはまた僕に穴倉に入って欲しいんでしょ? で、そうじゃないとできないような作品を聴きたいんでしょ? ——ははははは(笑)。バレてる。でも、また5年も6年も待つのは嫌ですよ。 峯田:すぐ作るよ、すぐ。 ——すごく勝手なことを言うなら、1年だけ穴倉に入って、そこで作られたものを聴きたい。でも、穴倉に入ったら1年じゃ出てこれないですよね。 峯田:いや、もう反省してますからね。反省すべきところはすごく反省してる。前のアルバムは「ここまできたら、もうとことんやろうぜ」ってことに途中からなっちゃったから。7年くらい経った時点で、「これでも出せるんだけど、ここまできたらもうちょっとやろうぜ」って、自分たちからすすんで入り込んじゃったから。でも、もうああいうことにはなんないと思う。 ——今回の『ピース オブ ケイク』がすごくいいなって思うのは、さっきも言ったように、本当に普通の——まぁ「普通」ってなんだって話でもありますが——女子大生とかOLさんとかが観る作品の中に、ポツンと峯田さんがいることなんですよね。穴倉から出てきた峯田さんがこれからは違う方法で音楽をやろうと思っているタイミングで、それとはまた別のベクトルですけど、すごく広がりのある場所に立っているという。そこが、すごくいい感じがする。 峯田:うん。それは、トモロヲさんにとっても、この作品でやりたかったことの一つなんじゃないですかね。柄本(祐)くんの役もそうだけど、そうやって作品の中の何%かの割合でそういう、宇野さんが言うところの「異物」を入れておくことで作品の幅が出るっていうのは、トモロヲさんが意図したことだと思うし。そういう役に少しでも立てたならよかったなって。 ——いや、でも銀杏としての活動も、今後いろいろ動きがありそうなのがわかって今日はよかったです。いろいろ楽しみにしてます。 峯田:うん。近いうちにいい報告ができると思います。 (取材・文=宇野維正/写真=下屋敷和文)
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■公開情報 『ピース オブ ケイク』 公開中 新宿バルト9他 全国ロードショー 配給:ショウゲート 公式サイトURL:http://pieceofcake-movie.jp/ (C)2015 ジョージ朝倉/祥伝社/「ピース オブ ケイク」製作委員会 原作:ジョージ朝倉「ピース オブ ケイク」(祥伝社 フィールコミックス)   監督:田口トモロヲ 『アイデン&ティティ』『色即ぜねれいしょん』 脚本:向井康介  音楽:大友良英 出演:多部未華子 綾野剛 松坂桃李 木村文乃 光宗薫 菅田将暉 柄本佑 峯田和伸