「Perfumeのクールな表現は、熱い思いに裏打ちされている」佐渡監督が明かすアメリカ公演の裏側

【リアルサウンドより】  Perfumeにとって初となるドキュメンタリー映画『WE ARE Perfume –WORLD TOUR 3rd DOCUMENT』が、本日10月31日より全国で公開されている。同作は、昨年リリースされたアルバム『LEVEL3』を提げて行われたアメリカ公演の模様に迫ったもので、これまでNHKの歌番組『MUSIC JAPAN』などでも彼女たちのライブを追ってきた佐渡岳利監督がメガホンを取っている。最新技術を用いて世界的にも高く評価されている彼女たちのライブはもちろん、その裏側の努力や、メンバーそれぞれのパーソナリティまで捉えた本作は、どのように制作されたのか。ライターのさやわか氏が、佐渡岳利監督に話を聞いた。

メンバーの個性に踏み込むドキュメンタリー

20151031-perfume-02.jpg

――『WE ARE Perfume-WORLD TOUR 3rd DOCUMENT』は、Perfumeにとって3回目のワールドツアーを追ったドキュメンタリーです。なぜこのタイミングで映画が作られることに決まったのでしょうか? 佐渡 僕はもともとNHKの職員なので、Perfumeさんとは『MUSIC JAPAN』などで長いお付き合いがあるんです。テレビでは東京ドームでの初公演とか、ワールドツアー1stとか、カンヌの国際広告祭で賞をとったときとか、節目節目でドキュメントをやらせていただいていたんですね。今年はメジャーデビュー10周年で、しかも結成15周年という節目なので「何かやりますか」みたいな感じだったんですが、今まで映画ではやってないよねということで、企画がスタートしました。 ――映画とテレビで、作り方に違いはあるのでしょうか? 佐渡 テレビは不特定多数の方がご覧になるので、Perfumeに興味のない方にも分かるように作らなきゃいけないですよね。でも映画だと、全く興味のない方は、多分観にいらっしゃらない。貴重な時間を使って映画館に足を運んでくださった方が満足できるようなものにするため、「皆さんPerfumeは知っている」という前提で、テレビで扱うより、もう少しメンバーの個性に踏み込んでコアな部分を出すことは心がけました。 ――そこが「ファンの方ならここが見たいはずだ」というポイントだったわけですか? 佐渡 そうですね。そんな意識でいながら今回とった手法は、どちらかというと、ワールドツアーをかなり素直にドキュメントしたというか、あったことをほぼそのまま紹介している感じに近いんですよ。内容的にも、今までのドキュメントと大きく変わったことをやっているわけではないですね。車の中のオフショットみたいな映像とかも、もちろん前にテレビでもやらせてもらっていますので。だから、「コア」の意味は外面的な手法のことではなくて、今回のツアーでどういうことがあったかを、ちゃんとご覧いただこう。そこにこそメンバーのパーソナルがあるということですね。 ――しかしたとえば街角に書かれた「LEVEL3」という文字がバッと出てきたりするのは、ファンの方が見て喜ぶサービス的なものですよね? 佐渡 あれは完全にファンサービスですね(笑)。分からない人は「なんでこんな意味の分からない看板が映されるのかな」と思うはずですけど、「おっ」って気付いてくれる人もいるでしょうし。『LEVEL3』は、Perfumeのアルバムとしては、海外で本格的にリリースした初めてのものなので、そういう意味もあってやってみました。

初めてのアメリカに挑むPerfume

――では、監督は今回のワールドツアーをどういう意味のあるものだと考えていらっしゃいましたか? 佐渡 今回大きかったのは、初めてアメリカでライブをするということだったと思います。もともとメンバーが海外で活動しようと思ったのは『カーズ2』が大きなきっかけだったので、彼女たちの頭の中に最初に浮かんだのはアメリカだったんです。三回目のワールドツアーで、初めてそのアメリカに行く。いきなりではなく、きちっと力を蓄えて、万全な体制で行くことになったわけです。アーティストとして本当に充実した上での「初アメリカ」というのは、大きかったと思います。そうでないと、飲み込まれてしまいますよね。 ――過去の海外ツアーとの違いはありましたか? 佐渡 アジアやヨーロッパなら、行ったことがあって反応がなんとなく分かっているので、どこをブラッシュアップしていけば、お客さんが喜んでくれるかという肌感覚がメンバーにもあったと思うんです。でも、やっぱりアメリカではすごく緊張してましたね。お客さんがどういう反応をするのかとか、どういう空気感の会場か、手応えが分からないですから。現地の方も「大丈夫。問題ない」みたいに言うのですが、たぶん本人たちは、自分たちがそんなにイケてるとは思ってないんですよね(笑)。不安でいっぱいだったんじゃないでしょうか。彼女たちは、常にいい意味で謙虚なんですよね。 ――ライブに同行するスタッフの雰囲気はどうでしたか? メンバーと同じように緊張感がありましたか? 佐渡 ライブのチームは、もうずっと長年一緒にやっている人たちなので、みんな自分たちの作業を淡々とやりながら、だけど内には燃える闘志があるみたいな感じでしたね。緊張云々ではなく、できる限り3人をサポートしたいという気持ちが強かったと思います。海外ツアーは、だいたい機材が遅れて到着するんですよ。最初からスケジュールが狂いますよね。そもそも言葉も通じないし(笑)。でも、うまくいかないことにも慣れていて、臨機応変に乗り切っていましたね。 ――たしかにPerfumeのスタッフは長くやられている方が多いですよね。その団結感みたいなものをフィルムの中にうまく盛り込んでいこうという意図はあったのでしょうか? 佐渡 そうですね。もちろんメンバー3人が中心なんですけど、よく「チームPerfume」って呼ばれるように、スタッフ全体でPerfumeという気持ちがやっぱりすごく強いですから。そういうスタッフたちの気持ちも、表現したいなとは思いました。

現実と非現実を行き交うライブ映像

20151031-perfume-01.jpg

――ドキュメンタリーのオフショットっぽい部分もありつつ、映画の冒頭はCGをバキバキに使いまくったカッコいいライブ映像になっていますよね。会場全体をカメラが縦横無尽に動き回って。 佐渡 あれは真鍋大度さんが手がけられた部分ですが、メンバーのダンスとか会場とかを3Dスキャンして、それがリアルタイムでトランジションしていくんですよ。現実と非現実が、継ぎ目なく行ったり来たりしてる感じで、もう、すごいとしか言いようがない(笑)。 ――Perfumeはまさに、その現実と非現実が行ったり来たりする感じが面白いですね。ライブのシーンもただCGなどを多用するわけではなくて、わざとステージの裏側からとか、オフ気味に撮った映像もインサートされているように感じました。 佐渡 「SXSW」はYouTubeで生配信されていたので、ご覧になったファンも多いと思うんですよ。そして、実際のライブは、もちろん会場の客席で体験できますよね。だけど、舞台袖からみたいな別角度ていうのはなかなか見る機会がないですし、特に、照明があたる前、ステージで動き出す直前の、ぐっと気持ちの入り込んだ表情なんて貴重ですよね。たとえ背中から撮った映像だったとしても、メンバーの感情が入りこんでいるのがわかるから、そういうメンバーの息遣いが表現できるといいなあと思いました。 ――いかにも無機質な感じを前面に出すのではなく、むしろ3人の感情であるとか、チームの熱意を表現する方がよいと思ったわけですね。 佐渡 そうですね。彼女たちのカッコいいクールな表現は、実はとても熱い情熱に裏打ちされているものであって、たゆまぬ努力であるとか、メンバーの想いとか、そういうものが内包されてこそ、あのグルーヴが出ていると思うんですよ。最先端のことだけをバンバンやってればいいやという考え方だと、あまり人に訴えかけるものにならないと思うんですよね。僕は長くお付き合いさせていただく中で、そんなふうに感じていましたので、その部分こそを表現したいなと思ったんです。 ――のっちがミスをしたシーンもありますよね。有名アーティストのショーを映像化した作品では、ああいう映像は使わない場合も多いと思うんですが、それを見せるというのもPerfumeに血が通って感じられる部分ですね。 佐渡 そうですね。あまりにも面白いので編集のときに勢いでバーンって入れておいたんですが、試写でメンバーも大笑いして見ていましたからね。のっちは、複雑だったかもしれないですが、覚悟をしてくれましたね。肝が座ってますよ。ミスじたいも非常にワイルドだったし(笑)。ネタばれしちゃうので、この辺にしておきますが、ここは是非ご覧いただきたい(笑)。

にじみ出る15年の積み重ね

――Perfumeを長年ご覧になっていて、彼女たちのそういう部分は昔から変わらないと思いますか? それとも大きな変化を感じますか? 佐渡 人間的には全然変わらないですね。もう最初っから今まで、ずっと同じなので「なんか変わっちゃったなあ」なんてガッカリすることもないです。だけどアーティストとしての実力はいろんな局面で本当に上がってきていて、より客観的に、冷静に自分たちのショーを見られるようになってきていると思います。ライブの反省点とかも、微細なところまで気がつくんですよね。『MUSIC JAPAN』のMCをやっていたので毎週のように会っていましたから、彼女たちの実力が「あっ、また上がってるな」と思うことは多かったんです。だけど今回は特にそれを感じましたね。ライブ後のダメ出し会議なんて、僕も初めて撮らせてもらったんですが、すごく時間をかけてやっているんですよね。「マイクの位置についてだけでそんなに話すんですか……」みたいな(笑)。 ――見ていると、かなり細かくセットリストも検討していましたね。 佐渡 そうですね。どれだけスムーズに、いい形で次の曲入れるか。だからセットリストやマイクの位置も重視するんですね。間を空けすぎてもいけないし、逆に空けなすぎてもいけない。そういう絶妙なお客さんの肌感覚みたいなものを、ものすごく考えているんです。もちろん、それ以外にも本当にいろいろなことを話すので、なんだかんだでずーっとやっていますね。 ――演出・振付のMIKIKOさんが舞台進行を決めるというのではなく、ほとんどメンバーが、共同作業で作っているのように見えました。 佐渡 もう本当にそんな感じです。先生が「こうしなさい」と言うのでは全くないですね。4人で話し合いながら内容を詰めていく感じです。客席側でチェックしているMIKIKO先生と、舞台の側で、パフォーマンスをしているメンバーの意見を付き合わせて、お客さんのリアルな反応を、両方の目線から、濃密に分析していくんです。 ――すごく高度なことをやっているのに、雰囲気はフランクというか、暖かい感じなのがすごいですよね。 佐渡 そうですよね(笑)。言ってみれば彼女たちは、もうセレブだと思うんですよ。だけど全然昔からの親しみやすい感じが変わらないですからね。そんな人間味溢れる愛すべき人たちが、一生懸命、心を込めてやってきたのがPerfumeなんだということを、映画から感じてもらえるといいなあと思います。 ――監督にとってPerfumeの本質とは、まさにそこにあるのでしょうか。 佐渡 そうですね。Perfumeは、一朝一夕に出来たものじゃなくて、ちょっとずつ、ずっと成長を続けて、今ここにいるんですよね。結成15年でメジャーデビュー10周年ですけど、その間に積み上げて積み上げて、少しずつ少しずつ、実力を蓄えてきた。その年月みたいなものが、今回のツアーには表れていると思うんです。だから、映画では、今回のツアーの様子だけを描いているんですが、そこににじみ出る彼女たちの15年みたいものが、ふわっと届けられるといいなと思いますね。 (取材・文=さやわか) ■公開情報 『WE ARE Perfume -WORLD TOUR 3rd DOCUMENT』 10月31日(土)よりTOHOシネマズ 新宿ほか全国ロードショー 出演/Perfume(a-chan、KASHIYUKA、NOCCHi) 監督/佐渡岳利 音楽/中田ヤスタカ(CAPSULE) 主題歌/Perfume「STAR TRAIN」(ユニバーサルミュージック) 配給・宣伝/日活 (C)2015“WE ARE Perfume”Film Partners. 公式HP:www.we-are-perfume.com

大野いと、ツンデレ演技をどうこなすか? 『馬子先輩の言う通り』先輩キャラに期待すること

20151029-mako.jpg

『馬子先輩の言う通り』公式サイト

【リアルサウンドより】  毎週金曜日にフジテレビで放送されている『馬子先輩の言う通り』で、大野いとがついに連ドラ初主演を果たしたというので観てみると、なんと放送枠が15分しかない。しかも、CMを挟むので実質尺が11分弱しかないので、はたして連ドラと呼んでいいものかと悩ましい。  競馬好きで馬にしか興味のない美人OL馬子と、彼女に恋をする若手社員の岡部豊(この名前のチョイスに、どうしても笑えてしまう。ちなみに他の登場人物の役名には、有名馬主が使う冠名が用いられているので、競馬ファンは間違いなくニヤリとしてしまうであろう)。この二人の恋模様が描かれるこのドラマは、放送された週末に行われるJRAのメインレースの結果によって翌週の放送内容が変わるという、なんとも突拍子もない試みに挑んでいるのである。  そのような試みがあるがため、必然的に幾つかのパターンを用意して撮影しなければならないともなれば、1話の短さも納得である。そういえば、昨年夏にフジテレビ深夜枠で放送された『おわらないものがたり』でも、各回終了時に、その後の展開に関わる選択肢から視聴者がデータ放送やインターネットを介して投票し、次週放送される回にその結果が反映されるという視聴者参加型ドラマを作り上げていた。  元々フィクションの世界は、視聴者は制作者から提示された情報を単純に受け止めるほかなかっただけに、このような視聴者参加型の取り組みは視聴者自身にとって、ドラマの世界に影響をもたらすという優越感を得ることができるので今後増加していきそうな予感がする。ところが今回は物語をどちらに転ばせるか選ぶことができるのは、視聴者ではなく競走馬であるというのだ。フィクションの世界に現実が介入するという、これまであまりなかった面白みがドラマに加えられたのである。ただ困ったことは、放送の2日後の夕方にレース結果が判明するので視聴者は翌週の大筋を知ってしまい、連続ドラマに欠かせない「次週はどういう展開が待っているのだろう」というドキドキ感が持続しないのではないだろうか。それはかなりリスキーなようにも思える。  先週放送された第3話では、岡部豊が馬子に菊花賞の予想を提示し、「この馬が勝ったら僕と付き合ってください」と告白をしたのだが、その本命馬であったスティーグリッツが惨敗を喫してしまったので、第4話では振り出しに戻るのであろう。一番危惧されるのは、このまま岡部豊の予想が一度も的中せずに、物語が何も進まずに終わることである。とはいえ、年末の有馬記念までほぼ毎週のように大レースが続く中で、第8話でのジャパンカップ、第11話での朝日杯FSと、限られたレースでのみこのような試みを実施するとのことなので、途中途中である程度の調整をしていくのであろう。  肝心のドラマ自体を競馬ファンの視点から観てみると、初心者向けの知識紹介をしながらも、少しコアな競馬ジョークも登場させ、さらに第1話と第2話でフィーチャーした夏の小倉記念のアズマシャトルといい、今回の鍵になったスティーグリッツといい、人気の中心にいる馬を選ばずに、なかなかのギャンブルをしてくるあたり興味深く思える。他の競馬番組で取り上げられるようなビギナー臭を感じさせないだけに、競馬に少しでも関心がある人間ならば誰でも観賞に耐えうる作品となっている。  そして何より興味深く見えるのは、大野いとの使い方である。実年齢の割に落ち着いて見えるにもかかわらず、意外にもこれまで彼女が演じてきた役は、実年齢とほぼ変わらない役か、ハッキリと年がわからない役ばかりであった。今回は94年の菊花賞を現地で観戦していたと劇中で話しているように(彼女自身は95年生まれ)、確実に実年齢より上の設定であり、しかもタイトルロールでもある通りの“先輩キャラ”だ。  “先輩キャラ”の役は昨年の1月に放送された『巫女に恋して』で務めているとはいえ、今回の馬子という役どころは、簡単そうに見えて非常に難しい役であろう。前回の記事でも書いたように、大きな動作と表情によって喜劇を体現できる彼女にとって、喜劇というフィールドは同じであっても、今回は満遍なく喜劇演技を要求されているのではなく、ある種のツンデレ演技が求められているのである。会社で真面目に仕事をしているときなどの人間に対する「ツン」と、競馬に熱中しているときに出現させる馬に対しての「デレ」とのギャップによって笑いを引き出さなくてはならず、なかなかハードルが高い。  もっとも、競馬のレース実況を観ながら北海道弁でテレビに語りかける「デレ」の姿は、『高校デビュー』でのヒロイン・長島晴菜役の頃から継続して発揮される、画面全体の緊張感を一瞬で緩和させる彼女の演技の持ち味が活かされている。一方で、松島庄汰演じる岡部豊に向けられた、人間に興味のなさそうな冷たい口調で構築される「ツン」の演技には、まだ彼女の課題として残る台詞読みに大きな比重が寄せられているように見える。  今回と同様に喜劇の中での乾いた演技をしていた一昨年の『山田くんと7人の魔女』の頃と比べると、確実に表情の硬さはなくなってきているだけに、視線の乾きは台詞をかろうじてカバーできるだけのものへと成長していると見える。おそらく彼女の自然体の表情とは対照的である、この乾いた演技を突き詰めることによって、今回のドラマにおける喜劇としての面白さが増していくのであろう。ともあれ、これから年末まで毎週彼女の喜劇が観られるのだから、それだけで満足感が高い。 ■久保田和馬 映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

松坂桃李、ブレイクの理由は“正統派ヒーロー感” 『サイレーン』に見る俳優としての強み

20151029-sireen.jpg

『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』公式サイト

【リアルサウンドより】  俳優・松坂桃李の活躍がめざましい。2015年はすでに『日本のいちばん長い日』『ピース オブ ケイク』『図書館戦争 THE LAST MISSION』など、6本の映画に出演しているほか、10月20日に放送開始したドラマ『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』(フジテレビ系)にて、刑事役の主人公・里見偲役を演じている。  若手俳優の登竜門とも呼ばれる“戦隊ヒーローもの”である『侍戦隊シンケンジャー』(テレビ朝日/09年)で俳優デビューを果たし、その後、連続テレビ小説『梅ちゃん先生』(NHK/12年)の安岡信郎役や、大河ドラマ『軍師官兵衛』(NHK/14年)の黒田長政役で、存在感を示してきた松坂桃李。『サイレーン 刑事×彼女×完全悪女』では、ゴールデン・プライム帯民放連続ドラマ初主演となり、いわゆる正統派ヒーロー役で華麗なアクションも披露している。同ドラマでは、悪女・橘カラを演じる菜々緒と対照的な役割を演じている松坂だが、なぜ彼は今回、ヒーローとして配役されたのか。  ドラマ評論家の成馬零一氏に、松坂の役者としての特性からその理由を語ってもらった。 「松坂はいわゆる戦隊ヒーローものからキャリアをスタートさせた俳優ですが、主演を務めた『侍戦隊シンケンジャー』は侍をモチーフとした少し変わった作品でした。松坂演じる主人公の志葉丈瑠 / シンケンレッドが「殿」で、ほかのメンバーが「家臣」という設定になっていて、メンバーの中に明確な上下関係があり、松坂は超正統派のヒーローともいえる圧倒的な存在感を放っていたんです。正義感の強い真面目な青年で、だけどどこか少し惚けているキャラクターのイメージは、その後の役柄にも影響を与えました。現在放送中のドラマ『サイレーン』では、菜々緒演じる悪女を追い詰める刑事役を演じています。こうした正義のヒーロー役は、まさに彼のイメージにぴったりだと思います。特に今作は菜々緒の悪女ぶりが際立っていて、かなりやりたい放題に演じています。悪役が大暴れするためには、それに対峙する正義の役がしっかりとしていなければ、物語が機能しません。そういった意味でも、松坂の正統派ヒーローぶりはうまくハマっているといえるでしょう」  また、彼のこうした特性は、現在のドラマ界においても貴重だという。 「最近は染谷将太や濱田岳といった個性の強い俳優が目立つ傾向があり、彼のような正統派ヒーロータイプのイケメン俳優は、意外と少ないです。たとえば福士蒼汰とか菅田将暉などもイケメンですが、しかし正統派というと少し違和感があり、個性の強さが目立ちます。堂々と正統派のポジションに居座り、ほかの個性派たちを際立たせることができる松坂のような俳優は、物語を展開するうえで必要不可欠な存在なので、今後も幅広い作品で重宝されると思います」  一方で、コメディリリーフとしての素質にも期待できると、同氏は指摘する。 「松坂演じるヒーロー役は正統派ですが、たとえば少年漫画の主人公がそうであるように、どこかユーモラスな部分も持っています。今回の『サイレーン』でも、松坂はいまどき、それはないだろうというオタク的な変装で追跡調査をしたりと、クスリと笑える一面を披露しています。こうしたコメディリリーフとしての側面も追求すると、キャラクターに幅が出て、さらに味わい深い俳優となるのではないでしょうか。現在、松坂は27歳なので、30代の頃には脂の乗った名優になっているかもしれませんね」  正統派ヒーロー・松坂桃李は今後『サイレーン』でどんな一面を見せてくれるのか。悪女・菜々緒との対峙の中で見出される新たな一面にも目を向けたい。 (文=編集部)

三谷幸喜、不敗神話崩壊!? 『ギャラクシー街道』にファンからも失望の声

20151027-rank.jpg

【リアルサウンドより】
20151027-galaxy-th.jpg

『ギャラクシー街道』公式サイト

 2006年の『有頂天ホテル』、2008年の『ザ・マジックアワー』、2011年の『ステキな金縛り』、2013年の『清須会議』。この10年間、東宝&フジテレビがタッグを組んだ製作体制によって、2〜3年に1本の間隔でコンスタントに新作映画を発表してきた三谷幸喜。『有頂天ホテル』の60.8億を頂点に、どんなに悪くても30億近くは稼いできた、この日本映画界屈指の(ヒットという意味における)テッパンの座組が根底から揺らいでいる。  先週末に433スクリーンで公開された香取慎吾主演の『ギャラクシー街道』は土日2日間で動員19万9340人、興収2億7045万7900円。もちろん初登場1位ではあるのだが、注目すべきは2年前の前作『清須会議』との対比だ。三谷作品としては少々物足りない数字の29.6億の最終興収だった『清須会議』と比べても、今回の『ギャラクシー街道』は動員比で51.5%、興収比で55.9%。つまり、ほぼ半減してしまっているのだ。  ヒット作連発とはいえ近年は下降傾向にあった三谷幸喜作品。ここ数年間、映画でもテレビドラマでもヒットから遠ざかっている香取慎吾の主演作。これまで洪水のような番宣をたれ流してきたフジテレビの急速な影響力低下。副次的な理由はいろいろと考えられるが、今回の『ギャラクシー街道』における大失速に関して言うなら、最大の原因は「作品の出来そのもの」と分析するしかない。  既にここ数日ネット界隈で話題になっているように、各映画情報サイトの観客満足度において稀に見る低水準の数値を叩き出している『ギャラクシー街道』。個人的には、そうした得点集計形式の映画情報サイトの数値やレビューをあまり参考にしすぎるのもどうかと思うが、実際に確認してみると「さすがにこれは……」な結果となっている。  その中でもよく目につくのは、三谷ファンを自認する観客からの悲鳴にも似たリアクションだ。先週末の「動員19万9340人」はかなりの比率で「三谷作品だったらなにがなんでも初日か二日目に駆けつける」という熱心なファンだろう。逆に言えば、「宇宙空間を舞台にしたコメディ」という、外国映画だと『ギャラクシー・クエスト』のように絶対に日本では当たらないような題材でも、三谷作品のブランドがあればとりあえず1位にはなるのだ。もし、『ギャラクシー街道』でその最も大切な三谷幸喜ファンの信頼を裏切ってしまったのだとしたら、これは結構深刻な事態かもしれない(すみません、自分は『みんなのいえ』を最後に、それ以降の三谷幸喜作品にまったく感心したことがないので、ファンの立場や気持ちを想像してみるしかないのです)。  来年はNHK大河ドラマ『真田丸』の脚本に専念することになる三谷幸喜。となると、おそらく次の映画は早くても3年後の2018年になるだろうが、どこかでいいかたちでリセットをしない限り(フジテレビと一度離れる? あの極めてテレビ的な「オールスターキャスト」を一度やめてみる?)、今回失ってしまった信頼を取り戻すのは難しいのではないか。 ■宇野維正 音楽・映画ジャーナリスト。「リアルサウンド映画部」主筆。「MUSICA」「クイック・ジャパン」「装苑」「GLOW」「NAVI CARS」「ワールドサッカーダイジェスト」ほかで批評/コラム/対談を連載中。今冬、新潮新書より初の単著を上梓。Twitter

紗栄子、なぜ同性から支持され続ける?『5→9~私に恋したお坊さん~』の役柄から読む

20151026-bousan-01.jpg

『5→9~私に恋したお坊さん~』公式サイト

【リアルサウンドより】  月9ドラマ『5→9~私に恋したお坊さん~』(フジテレビ)に出演中の紗栄子に、改めて注目が集まっている。同作は、石原さとみ演じる英会話講師・桜庭潤子と、山下智久演じる僧侶・星川高嶺の恋愛模様を描いたラブコメディで、紗栄子は桜庭潤子の同僚・毛利まさこを演じている。紗栄子にとって、約8年半ぶりとなる連続ドラマ出演作だ。  先日、大手ファッション通販サイト「ZOZOTOWN」の社長・前澤友作氏との交際が報じられたこともあり、ネットではさまざまな反応が見られるが、特に若い女性の間では、彼女を支持する声が大きいという。  ライターの岡野里衣子氏に、ドラマでの役柄を踏まえた上で、彼女の魅力について語ってもらった。 「今回の彼女の役柄である毛利まさこという女性は、有名企業に勤める男性の名刺を集めるのが趣味という、まさに彼女のパブリックイメージを体現したようなキャラクターですが、同世代の女性からすると決して嫌味な印象はなく、むしろ清々しささえ感じます。その開き直りっぷりに、紗栄子自身の“我が道を行く”イメージが重なって痛快なんですよね。また、彼女は『Sweet』や『美人百花』、『MORE』といった雑誌でモデルを務めていて、ブログやインスタグラムでも手の届きやすい庶民派の洋服ではなく、ハイブランドの洋服を着ていることが多いんですが、彼女自身は決して背が高いわけではなく、別世界に住むモデルというイメージはあまりありません。どちらかというと、普通のかわいい女の子が頑張った結果として、成功を手にしているという印象です。その”若い女性にとっての“お手本にできそう感”こそが、彼女が憧れられるポイントで、いまなお支持される理由なのでは」  ドラマ内の紗栄子のポジションもまた、絶妙だという。 「今作は石原さとみを主人公に、脇を固める形で中村アンや紗栄子が出演しています。彼女たちはみんな、若い女性にとってのカリスマで、まるでファッション誌を見るような感覚でも楽しむことができるのが、本作の魅力のひとつでしょう。着ている洋服も、それぞれ可愛いんですよね。正直、ドラマ自体はあまり評判がよくありませんが、タイプの異なる女性がそれぞれに魅力を発揮した作品として見ると面白いですし、その並びの中での紗栄子の役柄は、ほかの二人としっかり住み分けされていて、面白い役どころだと思います。同性としては、なぜ彼女があんなにモテるのかも気になるところですし、だからこそ目が離せないんですよ」  なお、本日放送される第三話では、紗栄子演じる毛利まさこが、古川雄輝演じる三嶋聡と関係を持つことが、公式ホームページにて告知されている。その恋愛の行く末は、果たしてハッピーエンドとなるのだろうか。 (文=松下博夫)

三吉彩花、『エンジェル・ハート』で示した身体能力の高さーーアイドル出身女優の強みを読む

20151025-enjel-main.jpg

『エンジェル・ハート』公式サイトより

【リアルサウンドより】  初回視聴率12.5%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)を記録するなど、好スタートを切ったドラマ『エンジェル・ハート』(毎週日曜22時半~/日本テレビ系)。『キャッツ・アイ』や『シティーハンター』などで知られる漫画家・北条司の人気コミックの実写ドラマ化だけに、原作ファンからそのクオリティが大いに心配されていた本作だが、第二話の放送を終えた現時点の評判は、概ね上々と言っていいだろう。  そのいちばんの理由は、“シティハンター”冴羽獠を演じる上川隆也の「違和感のなさ」にある。硬軟織り交ぜた幅広い演技力を持った上川が、原作に最大限のリスペクトを払いながら、隆々とした胸筋をはじめ、肉体改造をして臨んだという今回の役どころ。その熱演は、「原作そのまま!」という声も多い“海坊主”ファルコン役のブラザートムともども、一見の価値があるものとなっている。しかし、このドラマで個人的に最も目を引いたのは、ヒロイン・香瑩(シャンイン)を演じる新鋭・三吉彩花の好演であった。  1996年生まれの19歳。小学生の頃からファッション誌などでモデルを務め、2010年5月からはアイドル・ユニット「さくら学院」のメンバーとして活動していた三吉彩花(同い年の武藤彩未と松井愛梨は、彼女の同期にあたる)。2012年3月に「さくら学院」を卒業して以降は、女優としての活動を本格化させ、数多くのドラマやCMのほか、『グッモーエビアン!』(2012年)、『旅立ちの島唄~十五の春~』(2013年)といった映画にも出演した。特に、麻生久美子の娘役を演じた『グッモーエビアン!』は高い評価を獲得し、その年の「毎日映画コンクール」スポニチグランプリ新人賞およびヨコハマ映画祭最優秀新人賞に輝くなど、期待の若手女優のひとりなのである。  そんな彼女が、連ドラ初ヒロインとして今回の『エンジェル・ハート』に臨んだ。彼女が演じる香瑩は、幼少時より「殺し屋」として育てられた殺人マシーンであると同時に、自らの宿命に心を痛め続けているという難しい役どころだ。さらには、冴羽獠の最愛の女性である槇村香(相武紗季)の心臓を移植されたことによって、身に覚えのない記憶と内なる“声”に苛まれるという複雑さ。しかし、そんな難役を、彼女は見事に演じているのだった。特に、10月18日(日)に放送された第二話で彼女が見せた演技は、観ているこちらが思わず身を乗り出してしまうほどの吸引力を打ち放っていた。香の心臓を移植された後、変化しつつある自分に戸惑いつつも、冴羽に向かって「生きるって何なの?」「私は、どう生きたらいい?」と涙ながらに訴え掛ける。長い黒髪と大きな瞳、そして身長171センチというスラリとした体躯。そんな凛とした容姿の内面から溢れ出す感情と、時折見せる表情のあどけなさ……そのアンバランスな雰囲気に、とにかく目が釘付けになってしまったのだ。  だが、それ以上に驚いたのは、彼女が見せるダイナミックなアクション・シーンの数々であった。長い手足をしなやかに操りながら、屈強な男たちと対等に渡り合う迫力の格闘シーン。そしてクールな拳銃さばき。香瑩は、組織の「殺し屋」たちのなかでも1、2を争うエリートなのだ。これまで、「しっかりものの娘」や「何でもできる優等生」といった役どころが多かった彼女にとってみれば、まさしく驚きとも言えるハードボイルドな役どころ。これが非常にハマっていた。そこで注目すべきは、彼女の身体能力の高さである。  佐藤健、福士蒼汰など、『仮面ライダー』出身の俳優の活躍が目覚ましい昨今。彼らが映画やドラマで重宝される理由のひとつとして、その身体能力の高さが挙げられるだろう。いわゆる「アクション俳優」ではないものの、『仮面ライダー』を通じて身に付けたしなやかな身体性は、彼らの芝居の幅を間違いなく押し広げているのだ。そして近年、その波は、若手女優たちにもやって来ているように思う。たとば、映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(2014年)で披露した身体能力の高さが各方面で絶賛され、その後NHKの朝ドラ『まれ』の主役に抜擢された土屋太鳳。あるいは、園子温の映画『TOKYO TRIBE』(2014年)以降めきめきと頭角を現し、押井守の映画『東京無国籍少女』(2015年)では、ガン・アクションを含む激しい格闘シーンを見事に演じ切った清野菜名。“動ける女優”のニーズは、これまで以上に高まっている。  そこで、三吉彩花である。「さくら学院」のメンバーとして、中学時代は歌と踊りのレッスンに明け暮れ、客前でのステージ経験も豊富な三吉。プロフィールの「特技」の欄に、「ダンス」と書いてあることからも、その身体能力の高さは本人も自信を持っているところなのだろう。しかし、それは「女優」という仕事においては、これまであまり披露される機会がなかった。そんな彼女の身体能力が、いよいよ全開になろうとしているのが、今回の『エンジェル・ハート』である。回が進むにつれて、さらに激しさを増していくであろう『エンジェル・ハート』のアクション・シーン。初めて演じるヒロイン役としての繊細な芝居はもちろん、恵まれた容姿と体躯を活かしたダイナミックなアクションという意味でも、注目の作品と言えるだろう。 (文=麦倉正樹)

まさに歩く治外法権!? 『ジョン・ウィック』が描く“顔パス・アクション”の痛快さ

【リアルサウンドより】  引退した伝説の殺し屋ジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)が、妻が遺した犬を殺したロシアンマフィアへ復讐を遂げる……! このシンプルなストーリーを、スタイリッシュかつパワフルなアクションで見せ切るのが本作『ジョン・ウィック』である。  普段は平凡な(場合によっては平凡以下の)人間に見えて、実は超人的な戦闘能力を秘めている主人公が、ある事件をキッカケに、その本質を開放する……近年では『96時間』『アジョシ』『イコライザー』など、世界中で定番となっているジャンルである。なぜ、この手の映画は定番なのか? その魅力を端的に表現するなら、圧倒的な強さで悪党を制裁する爽快感の疑似体験だ。前半部分の平凡な生活パートで主人公に感情移入し、後半の大暴れで溜飲を下げる。そして劇場を出る頃には、すっかり主人公になりきって、自分まで強くなった気になっている。あの感覚こそ、このジャンルの最大の魅力だ。そして、『ジョン・ウィック』はこの手のジャンルの新たなる名作だと言える。
20150919-jw-03th_.jpg

 本作の見どころは二つある。一つは、様々な工夫をこらした銃撃戦だ。カルト的な人気を誇る傑作『リベリオン 反逆者』のガン=カタを彷彿とさせる、近接格闘技+銃というアプローチをしつつ、ガン=カタにはなかった投げ技や寝技を取り入れ、より立体的なアクションを創りだしている。そのケレン味も見事だが、銃の持ち方や、素早いリロードのアクション、寝技の取り合いなど、細かいがリアリティのある動作もツボを押さえている。このアクションは、ドラマの文脈から切り取って観ても、十分に興奮できるクオリティだ。
20150919-jw-08th_.jpg

 しかし、本作の見どころはそれだけではない。もう一つの見どころは、その独特な世界観設定だ。本作の斬新なところに、魅力的な裏社会の設定と、その裏社会の人間なら誰もが主人公を知っているという点がある。  たとえば先にあげたように、『96時間』などは、同作と同系統の映画ではある。しかし、これらの主人公の特殊なスキルは「知る人ぞ知る」という範疇に収まっていた。協力者や、主人公の過去を知る者たちは存在するが、彼らはいずれも「個人」のレベルだった。
20150919-jw-07th_.jpg

 だが、『ジョン・ウィック』は違う。同作の世界には、表の社会とは別に、殺し屋やマフィアが蠢き、独自のルールに支配された「裏の社会」が存在しているのだ。その世界の描写は極めて漫画的だ。殺し屋たちが集まるホテルや、様々な場面で使用される謎の金貨など、魅力的な設定が随所に用意されている。しかし、それらはあくまでスパイス程度に留めてある。設定はあくまで設定として、押しつけがましくない程度に描かれる。このバランス感覚が心地よい。
20150919-jw-02th_.jpg

 そして、そんな悪人が蠢く裏の社会において、ジョン・ウィックの名前は絶対なのだ。彼が名前を出しただけで、悪の親玉であるロシアンマフィアのボスは恐怖する。さらに裏の社会の様々な人間たちが「ジョン・ウィック」というだけで協力してくれる。まさに歩く治外法権。普通の映画なら厄介なしがらみとなるであろうことが、「ジョン・ウィックである」というだけで、すべて解決していく。いわば顔パス・アクションだ。壮絶な銃撃アクションも魅力的だが、この顔パス・アクションの痛快さも、本作の大きな魅力の一つだと言えるだろう。  本作を観終わった後、きっと自分まで強くなった気になるはずだ。そして、街中の何気ない風景が「あのホテルは、実は犯罪組織の建物かも?」「あそこのおじさんは殺し屋かも?」と思えてくるだろう。そんな夢を見せてくれる映画である。本作は、優れたアクション映画であると同時に、血と硝煙にまみれたファンタジー映画の快作だ。 ■加藤ヨシキ ライター。1986年生まれ。暴力的な映画が主な守備範囲です。 『別冊映画秘宝 90年代狂い咲きVシネマ地獄』に記事を数本書いています。 ■公開情報 『ジョン・ウィック』(原題:JOHN WICK) TOHOシネマズ新宿ほか全国公開中 出演:キアヌ・リーブス、ウィレム・デフォー、イアン・マクシェーン 監督:チャド・スタエルスキ 製作:デヴィッド・リーチ スタントコーディネーター/第二班監督:ダリン・プレスコット 公式サイト: johnwick.jp Motion Picture Artwork(C)2015 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved.(C)David Lee 配給:ポニーキャニオン R15+

ドラマ『コウノドリ』は「生まれる」現場をどう描いたか? 現役看護師が分析

20151022-kounodori.jpg

『コウノドリ』公式サイトより

【リアルサウンドより】  産婦人科の医療現場を舞台に、その人間模様を描いたドラマ『コウノドリ』。鈴ノ木ユウの同名漫画を原作としたこの作品は、新鮮な顔ぶれが揃ったキャストはもちろん、綿密な取材によりリアルに現場の模様を再現していることでも話題だ。そこで、現役の看護師としても活躍するライターの内藤裕子氏に、医療現場の知見をもとに観た同作の魅力を考察してもらった。(編集部)

『コウノドリ』が伝える、産婦人科のリアル

 綾野剛連続ドラマ単独初主演として注目を集めた本作、10月16日(金)の初回放送(10分拡大)は、視聴率12.4%にてスタートした。  『コウノドリ』第1話は、ネットカフェで破水した若い「未受診妊婦」がペルソナ総合医療センターに搬送されるシーンから展開する。「未受診妊婦」とは、妊婦健診を受けていない妊婦のことだ。出産まで健診を行っていないため、妊娠合併症やウイルス性肝炎、HIVなどの深刻な感染症を患っていることも想定される。よって院内感染のリスク回避のため、医療機関によっては受け入れを拒否されるケースもあり、いわゆる「たらい回し」の対象となってしまいかねない。  平成23年12月、東京都保険局医療政策部によると、調査対象者となった「未受診妊婦」の約半数が25歳未満であり、全体の7割が婚姻しておらず、3分の1以上がパートナーとの連絡が取れないという。なぜ「未受診妊婦」になってしまうのか。主な理由は経済的な問題という。  今回、「未受診妊婦」が、物語の核となる清水富美加演ずるところの矢野夏希という女性である。パートナーの借金を背負い、妊娠が発覚するとあっさりと捨てられ、途方にくれるうちにお腹の子どもはどんどん大きくなってしまう。幼い頃に父親が愛人をつくって出ていってしまい、育児ノイローゼに陥った母親にモラルハラスメントを受けながら育ったため、家族とは疎遠で頼る人もいない。病院に受診するにも、金融業者に足がついてしまうため、役所にも行けず、そのまま臨月を迎えてしまうのだ。  そんな矢野の受け入れのオンコールが、熱烈演奏中の謎のピアニスト・BABYのもとに届く。ライブを中断して、壇上を去る銀髪の男性こそ、主人公、綾野剛演ずる産科医鴻鳥サクラである。  現場に到着したコウノトリ先生の指示は、実に鮮やかだ。まず看護師に新生児室NICU(新生児集中治療室)に連絡するように指示、研修医の下屋加江(松岡茉優)に手術室の空き状況を確認、帝王切開手術中の産科医の四ノ宮春樹(星野源)の終了時間を想定し、受け入れを決定する。動揺を隠せない下屋に対して検査科に連絡を指示、「未受診妊婦」のサポートも想定し、メディカルソーシャルワーカー向井祥子(江口のりこ)の手配もした。連絡を受けNICU、周産期医療センター長の今橋貴之(大森南朋)は新生児の感染リスクに備え、もしものときに他院でのフォローも想定し、搬送用の保育器を用意するよう、新生児科の研修医白川領(坂口健太郎)に手配する。そこに「未受診妊婦」が到着し、偶然BABYのライブを観にきていた、助産師の小松ルミ子(吉田羊)が駆けつけるという設定だ。  ドラマ開始15分あまりで産婦人科医、研修医、看護師、助産師、メディカルソーシャルワーカーと「生まれる」現場の立役者は揃った。  この作品の見どころは、産む人のいまを映し出したバックグラウンドと「生まれる」現場のチーム医療を忠実に描いたリアルな視点だ。  原作者の漫画家鈴ノ木ユウは妻の出産を担当した産科医などの密な取材をもとに作品を描いている。産婦人科という、ともすれば女性や子供の聖域と認知されやすい領域を医療現場として俯瞰的かつ多角的に捉え、そこに他の作品にはない「生まれる」現場の客観性と説得力を感じる。  かくいうわたしも医療者のはしくれとして日々現場に立つ。その視点でこのドラマを評するとすれば、江口のりこ演ずるメディカルソーシャルワーカーという職業にスポットが当たっているのも特筆したい点である。メディカルソーシャルワーカーとは保健医療機関において、社会福祉の立場から患者やその家族の方々の抱える経済的・心理的・社会的問題の解決、調整を援助し、社会復帰の促進を図る仕事だ。今回の「未受診妊婦」においては、借金を抱え、頼る人もおらず、自らの今後を案じているうちに出産に至ってしまった矢野という若い女性にとって、実に大きな支えとなった。医療現場においてのメディカルソーシャルワーカーの果たす役割はいまの世の中において注目されていることが伺える。  「普通とは実はものすごく恵まれている」「すべては平等ではないから、恵まれない環境で生まれてくる命もある」。この作品の核となる台詞が詰め込まれた第1話。今橋が鴻鳥に言った「僕らは崖っぷちから転がり落ちそうな親子をここで精一杯受け止めよう」という言葉は、まさに「生まれる」現場のいまを象徴し、これからのストーリー展開を示唆するものだ。  幼い頃から児童養護施設で育った背景を持つ産科医鴻鳥を演ずる綾野剛、同僚にも妊婦にも冷徹な態度をとる四ノ宮演ずる星野源、家族を省みる時間もなく、NICUで生命と向き合う今村演ずる大森南朋……核となる3名の医師たちの徐々に表出していく人間像は、今後出会うさまざまな生命の場面で、どんなドラマを紡いでいくのだろうか。 ■内藤裕子 ライター。2004年より雑誌の編集、WEB企画、商品企画をメインに、イベント企画、総務、人事、広報を経てクリエイターのマネージメントに携わる。現在看護師として働く傍ら、写真関連のUstreamの企画構成にも携わる。 引用文献 http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2011/12/DATA/60lcr200.pdf https://www.jaswhs.or.jp/guide/sw.php

『孤独のグルメ』が支持され続ける理由とは? 淡々と紡がれる物語の魅力を読む

20151022-kodoku.jpg

ドラマ24『孤独のグルメ Season5』ホームページ

【リアルサウンドより】  2012年にはじまった深夜ドラマ『孤独のグルメ』(テレビ東京系)は、今期でSeason5となる。登場人物が料理をひたすら食べるグルメドラマは深夜ドラマの1ジャンルとして完全に定着した感があるが、その先駆けとなったのは『深夜食堂』(TBS系)と本作だろう。  原作:久住昌之、作画:谷口ジローによる同名漫画をドラマ化した『孤独のグルメ』の世界で起こることは実に淡々としている。  輸入雑貨の販売を生業としている井之頭五郎(松重豊)は、仕事を終えた後で立ち寄った街で毎回、食事をする。入る店は家族や個人で経営しているような場所がほとんど。メニューには、名前だけではわからない料理が載っていたり、馴染みの客が、その店独自の食べ方をしていたりする。五郎は料理を食べながら、店の中で起きていることや料理の味についてモノローグ(心の声)でつぶやく。  他のグルメドラマや情報バラエティ番組がやるような、大げさなリアクションは本作にはない。五郎は黙々と料理を食べているだけだ。  こんな地味なドラマがSeason5まで続き、ついにはテレビ東京の看板ドラマ枠(といっても深夜だが)であるドラマ24に登板するまでに至ったのはなぜだろうか。  あまりに当たり前に続いているために、中々考えることの少ない本作の魅力について改めて考えてみたい。  『孤独のグルメ』について考える時、もっとも重要な存在は原作者の久住昌之だろう。  久住は作画の泉晴紀(現在は和泉晴紀)とコンビを組んで泉昌之というペンネームで81年に月刊誌「ガロ」に持ち込む。デビュー作となった『夜行』はトレンチコートを着た渋い男が、夜行列車の中で、駅弁の幕の内弁当を「どういう順番で食べたら美味しくいただけるか」を、モノローグで淡々と実況する作品だった。いわゆる、ハードボイルド小説のパロディなのだが『孤独のグルメ』でも展開されている「ごはんを食べている自分の実況」というスタイルは、デビュー作ですでに完成されていたものだった。  久住は自身の所属するバンド「The Screen Tones」として『孤独のグルメ』の劇伴を担当し、脚本の協力もしている。  そして、当初は3回だけの予定ということではじめた、番組終了後に劇中に登場したお店のモデルとなった料理店を紹介する「ふらっとQUSUMI」にも毎回出演。毎シーズンの最終話にはカメオ出演もしている。  ここまで原作者が関わっているからこそ、原作の細かいニュアンスをドラマに持ち込めたのだろう。  原作者や料理店などフィクションでありながら実在するものが多数登場する本作は、ドラマというジャンルに属しているが情報バラエティ番組のように見られている側面も大きい。近年のバラエティは、予算をかけた盛大な番組が視聴率をとれなくなってきている一方で、タモリが特定の街を歩きながらその街の歴史に触れる『ブラタモリ』(NHK)や、蛭子能収と大川陽介が出演する『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』(テレビ東京系)のような出演者があまり力まずに淡々と楽しんでいるような番組が支持されている。  『孤独のグルメ』の人気も、そういった側面があるのではないだろうか。  劇中で登場した料理店に視聴者が訪れることも多いという。もちろん、劇中に登場したおいしい料理が食べたいから多くの視聴者はお店を訪ねているのだろうが、そこにいけば井之頭五郎が実在するかのような地に足のついたリアリティが常に存在するため、アニメで背景に使われたロケ地を訪ねる聖地巡礼のような面白さが、本作にはあるのだろう。それにしても、本作で一番謎なのは井之頭五郎の存在だ。  本作は毎回、様々な料理が登場するグルメドラマであり、五郎は料理を紹介するナビゲーター的存在である。そのため、彼自身の物語が大きく展開されることはほとんどない。  せいぜい、仕事でお世話になっている客から愚痴を言われて落ち込んだりするくらいだ。しかし、五郎が仕事とで関わる人々との人間関係を見ていると時々、彼の物語がこぼれ出すことがある。  つまり一話一話はグルメドラマとして美味しい料理を楽しめる一方で、ロングスパンで見た時には、井之頭五郎という人物の輪郭が少しずつ浮かび上がってくるのだ。これは、長く続けてきたことで出てきた、もう一つの面白さだと言える。  今年でSeason15を向かえる刑事ドラマ『相棒』(テレビ朝日系)にも同じことが起きている。『相棒』もまた、毎回一話完結の良質のミステリーのような物語が展開され、主人公の刑事・杉下右京(水谷豊)は、物語の進行役である。しかし、長く続くことで右京をとりまく人間関係はどんどん変わっていき、今では、杉下右京サーガとでも言うような物語となっている。これは、長く続けば続くほど厚みが増していくテレビドラマならではの物語性だろう。  次回放送の第4話と第5話では舞台が台湾となり、ドラマ初の海外ロケとなる。出てくる料理も楽しみだが、海外を舞台にすることで立ち現れる五郎の物語も注目だ。 ■成馬零一 76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

名もなき乳母は名写真家だったーー『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』が導き出す真実とは?

【リアルサウンドより】  今年のアカデミー賞で長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた話題作が、待望の日本公開を迎えた。  筆者はこの映画を昨夏、イギリスの地方都市のアートシアターで鑑賞したのだが、常時7、8本の映画を上映するその劇場では本作をイチオシ作としてプッシュしており、客席は映画好きの学生からアートに関心の高そうなミドル層、さらに仲間どうしで連れ添った奥様方や上品そうな高齢のご夫婦など、実に多彩な客層で彩られていたように思う。いざ映画が始まると「事実は小説よりも奇なり」な展開に深いため息がたびたび聞かれ、上映後は館内に貼られたポスターの前で多くの人が感想を語り合い、なかなか帰途に就こうとしなかった。  この映画は極めてユニークだ。人を深遠な気持ちにさせる不思議な魅力を持っている。メインとなるのは、ひとりの女性写真家と、彼女が撮りためた15万点にもおよぶ作品たち。興味深いことに彼女は、生涯にわたってそれらの写真を誰にも見せることがなかったという。
20151020-vivian-02_th.jpg

 事態が動き出すのは彼女の死後しばらく経ってから。この映画の監督でもある青年ジョン・マルーフが、とあるガラクタ市のオークションで大量の古い写真のネガを競り落としたのだ。それらをスキャンしてパソコンで読み込むと、そこには目を疑うほどの素晴らしい画像が映し出された。彼はこの写真をネットで紹介すると同時に、自らもネガの束に含まれていたメモを手がかりに撮影者について調べ始める。そこで辿り着いた「ヴィヴィアン・マイヤー」という名前。実は彼女は女性写真家ではなく、ナニー(乳母)として生きた女性だった――。  本作では静かな驚きが幾つも押し寄せる。まずはファースト・インプレッション。つまり彼女の写真をまっさらな状態で目にした時の瞬発的な感動。スクリーンを介してモノクロの画像が胸に沁み込んできた時、不覚にも涙がこぼれてしまった。特に40年代、50年代のストリートを切り取ったショットの数々は、構図といい、被写体の表情といい、実に味わい深くて、なおかつユーモアに満ちている。もちろん当時の文化を克明に伝えるという記録資料的な価値も極めて高いのだろう。  その意味で本作は、「誰も知らなかった写真家の作品を劇場で共有する」という密かな楽しみと高揚にあふれている。名もなきナニーが素晴らしい写真家であったなんて、こんなにも素敵な神秘には滅多に立ち会えるもんじゃない。  と同時に、マルーフ監督が明らかにしていくのはヴィヴィアンの素顔だ。こういった展開は一昨年のアカデミー賞長編ドキュメンタリー部門のオスカー受賞作『シュガーマン 奇跡に愛された男』とも通じるものがあるだろう。ひとつの伝説を切り口に、作り手が探偵のような執念で真相を解き明かそうとするわけだ。
20151020-vivian-03_th.jpg

 これがもう一つの静かな驚きとなる。実際に乳母としての彼女の世話になった「かつての子供ら」は、それぞれに思い出を口にする。いつも首からカメラをぶら下げ、街の変わった場所や通りに連れて行かれたこと。様々な人にカメラを向けるので子供ながらに気まずい思いをすることも多かったこと。そして時にはヴィヴィアンが子供らに行き過ぎたしつけを行ったり、なおかつエキセントリックで、ミステリアスな側面も強かったこと……。どうやら少なからず彼女は複雑な人間性を抱えた人物でもあったようだ。  私を含めた身勝手な観客にとってみれば「素晴らしい写真を遺したナニーは性格も素晴らしい、まるで聖人のような人物でした」とならないところこそ、この映画のたまらない魅力だし、まさに「事実は小説よりも奇なり」な部分。僕らはヴィヴィアンの影を知ることで、よりいっそう光を意識することができるようになる。  だが一方、このあたりに差し掛かると、監督の表情がうっすらと曇り始めているのが伺える。それはいわゆる発見者の苦悩というやつなのだろう。「彼女の写真を公表したのは正しかったのか?」。そんな自問に苛まれている様子が伝わってくるのだ。  そんな中、マルーフ監督が中盤、フランスの田舎町で辿り着くひとつの「答え」は、観客にとって「ナニーは名写真家」というキャッチーな要素に匹敵するほどのインパクトでは決してないものの、しかしマルーフ自身にとっては非常に大事な核心部分だったのだと思う。ここで確証が得られたからこそ彼は、亡きヴィヴィアンの意志を見極め、彼女の存在と作品そのものを世界に向けて紹介しようと腹をくくったに違いない。
20151020-vivian-04_th.jpg

 そうした意味でも、本作は紛れもなくヴィヴィアン・マイヤーの物語でありながら、同時にジョン・マルーフという青年の「発見から決断まで」の物語でもあると思うのだ。  歴史書を紐解くと、そこには存命中に正当に評価されたなかった大勢の芸術家の名前が満ちている。物事の真価は歴史が証明してくれるなどと人は言うが、ことヴィヴィアン・マイヤーに関して言うならば、ヴィヴィアンとマルーフというふたりの人間が時空を超えて繋がったからこそ、歴史は初めて重い腰を上げて物事の真価を証明し始めたことになる。  ヴィヴィアンの伝説はまだまだ世界中に、多くの目撃者を必要としているはず。もちろん、この日本にも。ぜひ劇場でこの静かな驚きの物語に身を浸してみてほしい。『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』はそうやって観客と共に真価を見つめようとするドキュメンタリーなのだ。 ■牛津厚信 映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。Twitter ■公開情報 『ヴィヴィアン・マイヤーを探して』 10月 シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー 監督・脚本:ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル 製作総指揮:ジェフ・ガーリン プロデューサー:ジョン・マルーフ、チャーリー・シスケル 音楽:J・ラルフ 撮影:ジョン・マルーフ 編集:アーロン・ウィッケンデン 2013年/アメリカ映画/83分/原題:Finding Vivian Maier 提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム (C)Vivian Maier_Maloof Collection (C)2013 RAVINE PICTURES, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.