中村蒼、“食われるイケメン”から“食う個性派”へ 『無痛~診える眼』で見せる同世代俳優への反撃

【リアルサウンドより】  「これが中村蒼?」「ガチなのか?」、目を疑った人も多かっただろう。『無痛~診える眼~』(以下、『無痛』)で中村が演じるイバラは、先天性無痛症で無毛症の清掃員。当初は「髪どころか眉さえもない」衝撃のビジュアルに好奇の目が集まっていたが、徐々に「痛みを感じない」ことによる戸惑いや、薬の副作用による狂気の演技に、称賛の声が挙がりつつある。  とりわけ先週放送された第8話では、佐田(加藤虎ノ助)の殺害を「覚えていない」と繰り返しつぶやき、留置場では筋骨隆々の上半身裸で苦悩し、あげくに脱走。さらに、精神的に不安定なサトミ(浜辺美波)を連れ去るなど、まさにイバラのワンマンショー。主人公の為頼(西島秀俊)、早瀬(伊藤淳史)、白神(伊藤英明)を上回る存在感を放っていた。  すでに芸歴10年で10本を超える主演作を持ちながら、なぜか中村の知名度は実績ほど上がっていかない。その理由は何なのか? そして、突然変異にも見える『無痛』での姿は何が影響しているのか?  中村は『ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト』でグランプリに輝き、初主演作『BOYSエステ』(テレビ東京系)で演じたエステティシャン、『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス』(フジテレビ系)で演じた走り高跳び選手、『アリスの棘』(TBS)で演じた温厚な研修医などから、「さわやかなイケメン」「正統派ベビーフェース」というイメージを持つ人は多いが、実はこれまでもクセのある難役が多かった。『学校じゃ教えられない!』(日本テレビ系)では同性の親友を好きになる高校生、『Q.E.D. 証明終了』(NHK)では完璧主義の天才少年、『息もできない夏』(フジテレビ系)では男性相手に売春する無戸籍児を、中村らしい静かな役作りで熱演した。  今年に入ってからは、さらなる難役ラッシュ。『洞窟おじさん』(NHK BSプレミアム)で演じたのは、真っ黒に汚れた顔で、イノシシの毛皮を身にまとう不気味なホームレス男の役だった。さらに『かぶき者 慶次』(NHK)では前田慶次の子と偽って育てられる石田三成の子。『永遠の0』(テレビ東京系)では主人公・宮部(向井理)から妻を託されるキーマン・大石。そして、12月5日公開の映画『春子超常現象研究所』では体と心を持つテレビという特異な役を演じる。  つまり、難役は『無痛』にはじまったことではなかったのだ。さわやかなルックスにだまされてはいけない。いや、むしろさわやかなルックスをベースに、相反するクセの強い役をかけ合わせて何気ない異物感を放つのも、中村のスタイルなのだろう。「俳優は常に壁を壊していかなければいけない仕事」というコメントからも、さわやかなイケメン役だけでなく、クセのある難役と意欲的に向き合っていることがわかる。  そして、もう1つ見逃せないのは、中村の演技スタンス。失礼ながらこれまで中村は、「主演なのにそれほど印象が残らない」「脇役俳優のほうが目立っていた」ということが何度かあった。たとえば、昨年放送された『なぞの転校生』(テレビ東京)は主演ながら、アンドロイド転校生・山沢(本郷奏多)や別世界の姫(杉咲花)のほうが存在感は大きかったし、実質的な主演だった『学校じゃ教えてられない!』、30人を超えるイケメンのトップだった『花ざかりの君たちへ~イケメン☆パラダイス』でも、他の生徒役に食われるシーンが散見された。  正直なところ、それが「周囲を生かす懐の深さなのか」、それとも「単に淡々とした人柄なのか」、つかみどころがなかったのだが、『無痛』でのイバラを見ていると、これまでにない自己主張を感じる。実際、西島、伊藤らの先輩俳優を食っているシーンもあるし、それはもしかしたら“食われるイケメンから食う個性派への進化”なのかもしれない。  『MOZU』(TBS系)の池松壮亮、『デスノート』(日本テレビ系)の窪田正孝、『みんな!エスパーだよ!』(テレビ東京系)の染谷将太、『民王』(テレビ朝日系)の菅田将暉など、同世代の俳優たちは、振り切った役作りと爆発させるような感情表現で、「若き演技派」との声も多い。しかし今年の中村が見せる、胸の奥で魂を焦がすような演技は、十分彼らに対抗できている。もしかしたら今の中村は、どんな難役が訪れても嬉々として演じるのではないか。その意味で、演じることに対して中村本人が“後天的”無痛症なのもしれない。中村の進化を実証するために、より過酷なオファーをぶつけてほしいと思う。 ■木村隆志 コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。番組やタレントがテーマのコラムを各メディアに毎月20~30本提供するほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。

『Re:LIFE〜リライフ〜』が映画好きの心を掴む理由ーー作中に散りばめられたエピソードを読む

【リアルサウンドより】  ビンガムトンという都市をご存知だろうか。アメリカ合衆国ニューヨーク州にあり、ロサンゼルスから4,432キロ、ニューヨーク市からも北西に277キロと離れた雨と曇りが多い都市である。全米で1959年から放送された大ヒットTVドラマ『トワイライトゾーン』の生みの親ロッド・サーリングの故郷でもあり、第1話の核となるシーンは、世界一、回転木馬が多いとされるこの場所で撮影された。マーク・ローレンス監督は青春時代を過ごしたこの土地を今作の舞台として意図的に決めたという。  『Re:LIFE〜リライフ〜』の舞台はニューヨーク北部の田舎街に、ヒュー・グラント演じるキース・マイケルズがロサンゼルスから都落ちするシーンから始まる。栄冠から15年、オスカー賞を受賞したはずの脚本家は妻子に逃げられ、仕事を選り好みし続けた結果、電気まで止められるほどの生活苦を強いられていた。エージェントの勧めでしぶしぶ、脚本を教える大学の講師として赴任するも、あくまでもハリウッドで活躍する脚本家として大見得を切る。無論、「脚本家は才能あってこそ」の持論を貫き、教えることに何の興味をもたず、教職を毛嫌いするほどだった。開講にあたって提出された脚本には一切目を通さず、受講希望者をSNSでリサーチをかけ、好みの女子生徒と冴えない男子生徒10名を選出した。ビンガムトンに到着するなり、意気投合し、一夜をともにした女子学生カレン・ギャブニーもそのひとりだ。就任早々、調子に乗ったキースは講義を5分で切り上げるという事実上の放棄に加え、懇親会では大学の倫理委員長でもあるメアリー・ウェルドン教授が敬愛しているイギリスの女流作家、ジェイン・オースティンについて無礼な批評をし、最悪なスタートを切ってしまう。そこに、講義の選抜から漏れたものの復学した生徒ホリー・カーペンターが、直接脚本の講評をキースに依頼したのをきっかけに「ハリウッドの一脚本家」から第二の人生を歩み始める。  今作で注目したいのは、「映画の脚本」という講義を展開するにあたって具体的な映画作品や文学作品が取り上げられていることだ。キースが堅物なウェルドン教授にオースティンの『エマ』をパロディ化した『クルーレス』をプレゼントしたり、ロビン・ウイリアムズが教師役を演じ「教科書なんか破り捨てろ」と教えた『いまを生きる』を持ち出して皮肉ったりなど、映画好きにはたまらないギミックが散りばめられている。なかでもシングルマザーとして働きながら復学を果たしたホリー・カーペンターが愛読していた『遅咲きの人々』は、いくつになっても努力すれば実を結ぶというエピソードが満載であり、のちのキースの人生に大きな意味をもたらし、ストーリーの核心へと導く。また、劇中にも使用された『トワイライトゾーン』のワンシーン「過去ばかりを振り返らずに前へすすめ」というセリフは、暗に迷えるキースの背中を後押ししている。  「ラブコメの帝王」とも呼ばれるヒュー・グラントの新境地という触れ込みのもとに公開された今作だが、人生を切り開くための葛藤と哀愁という、一見重くなりがちなテーマを、軽快に後腐れなく演じきれたのは、これまでの彼のキャリアがあってこそという印象を受けた。一方、元海兵隊のガタイのよさをもちながら家族を愛しすぎるあまり、その話題に触れただけですぐに涙ぐんでしまう心優しいハロルド・ラーナー学科長をJ・K・シモンズが好演しており、『セッション』で見せた鬼教師ぶりとは真逆の魅力を放っている。その他、シングルマザーでキースの気になる存在になっていくホリー・カーペンターには『いとこのビニー』のマリサ・トメイ、初対面からキースと敵対関係になるメアリー・ウェルドン教授は『JUNO/ジュノ』のアリソン・ジャネイ、小悪魔的魅力でキースを翻弄する女子大生のカレン・ギャブニーには『ダーク・シャドウ』のベラ・ヒースコートが配役されている。キャスティングもまた、映画好きの心をくすぐること間違いないだろう。  人生はいつだってリライトできる。キースが第二の人生を決めた時、雨続きのビンガムトンに青空が広がる心憎い演出にも注目だ。 ■内藤裕子 ライター。2004年より雑誌の編集、WEB企画、商品企画をメインに、イベント企画、総務、人事、広報を経てクリエイターのマネージメントに携わる。現在看護師として働く傍ら、写真関連のUstreamの企画構成にも携わる。 ■公開情報 『Re:LIFE〜リライフ〜』 TOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー中 監督・脚本:マーク・ローレンス 出演:ヒュー・グラント、マリサ・トメイ、ベラ・ヒースコート、J・K・シモンズほか 配給:キノフィルムズ (c)2014 PROFESSOR PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED. 公式サイト

あの巨匠が月面着陸をねつ造 !? 『ムーン・ウォーカーズ』が紡ぐキューブリック愛

【リアルサウンドより】  ‘69年7月20日、アポロ11号が月面着陸。それは人類史上、忘れがたい歴史的な一日となった。「ひとりの人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな飛躍」というアームストロング船長の名言が今にもノイズまじりで聴こえてきそうだが、この言葉を誰よりも切実に噛み締めていたのはCIA諜報員のキッドマンと、売れないバンドのマネージャー、ジョニーだったろう。なにしろ彼らは、アメリカ政府の要請に応じ、あの有名なスタンリー・キューブリック監督を招聘した月面着陸映像の「ねつ造」に携わっていたのだから……!!  もちろん、これはフィクションである(だよね?)。今や都市伝説化したエピソードをベースに、イマジネーションをフルスロットルで炸裂させながら歴史の裏側を駆け抜けるのがこの『ムーン・ウォーカーズ』。あらすじだけでこんなに「見たい!」と感じてしまうのは、「馬鹿げている」と一蹴されがちな陰謀説というものが、その大胆な発想とディテールゆえに映画の語り口として抜群な鮮度を持っているからなのだろう。  この映画では、密命を帯びた諜報員キッドマン(ロン・パールマン)がハリウッドの大物プロデューサーに扮して60年代のイギリスに降り立つ。ちょうど68年にはキューブリックの『2001年 宇宙の旅』が公開されており、これを観たCIAの高官が「内容は意味不明だが、この映像は見事」と分析(?)し、キューブリックに白羽の矢が立ったのだ。これはいわゆる冷戦期における保険のようなもの。万が一にもアポロ11号がミスった時に備えて、あらかじめ彼に差し替え映像をねつ造してもらおうというわけ。しかも「プロジェクトに関わった者は全て抹殺せよ!」とのお達し付き。  うーん、いかにもピーター・ハイアムズの77年の映画『カプリコン・1』をコメディ化したような設定だが(そのハイアムズは84年に『2001年』の続編にあたる『2010』の監督に抜擢されている)、いずれにせよ米政府によるこのイカれた計画が、60年代のスウィンギング・ロンドンのぶっ飛んだ喧噪と掛け合わされることによって、事態はドラッグを一発決めたみたいな混沌化の一途を辿っていく。  『ヘル・ボーイ』シリーズのロン・パールマンがそのパワフルな存在感で猪突猛進すれば、一方『ハリー・ポッター』シリーズのメインキャストの中でいちばんの芸達者と評されるルパート・グリントが、器用にストーリーの小脇へと道案内。彼の演じるバンド・マネージャーは、金欲しさに自らエージェントを名乗り、自分のルームメイトがヒゲモジャという理由だけで彼をキューブリックに仕立て上げる。こんなドタバタをきちんとコメディとして成立させる力量もまた、ルパートならでは。米英の大作ではなく、こんな意表を突くインディペンデント映画に出演するところが彼の人の良さと言うべきか。  これが初監督作となるアントワーヌ・バルド=ジャケ監督も結構なキューブリック好きなのだろう。だって、ちょっとしたシーンの演出や小道具に、名作のデジャブ感をほとばしらせるのだ。『時計じかけのオレンジ』(1971年)的な調度品、『アイズ・ワイド・シャット』(1999年)を思わせる怪し気な邸宅、『博士の異常な愛情』(1964年)的な政府高官の暴走、『フルメタル・ジャケット』(1987年)的なベトナム戦争の記憶……終盤にはロン・パールマンがおもむろに斧を手にするだけで筆者の頭の中には反射的に『シャイニング』(1980)の図が思い起こされる始末だった(この見方は正しいのだろうか?)。  とはいえ、本作にはキューブリック作品に付きもののキリキリと感性を挑発するような狙いは毛頭なく、むしろ分かりやすく小気味のいいエンタテインメントに徹している点は大いに評価できる。  なにしろタイトルバックから『イエロー・サブマリン』(1968)のようなサイケデリックな作り。さらに当時の空気を濃厚に盛り込んだ『欲望』(1967)や、『パフォーマンス』(1970)、もっと言えば『オースティン・パワーズ』シリーズ(これはかなり過剰だが)のようなスウィンギング・ロンドンの空気で楽しませつつ、いつしかCIAとギャングとヒッピーな映画撮影チームとが相まみえて血まみれの総力戦を繰り広げるという、定番の“せわしなさ”もはらんでいる。  また、インチキ臭いアートな映画監督が撮った『跳ねる』という映像は、太った男が半裸でビヨーン、ビヨーンと跳ね回るというだけの実験映像だが、ロン・パールマンが頭を抱えてしまうほどの意味不明なクダラナさながらも、この時代なりの自由な空気を表しているというか。アンディ・ウォーホールの『眠り』(1963年)さえも思い出してしまった。  ともあれ『ムーン・ウォーカーズ』を観ると、やっぱり『2001年 宇宙の旅』をもう一度見返したくなる。「3回観て理解できるくらいなら、私の試みは失敗」とキューブリックは語っているが、観客側からすれば、先のCIA高官の発言同様、何回観ても「内容はサッパリわからんが、映像は最高!」。だからこそ、ある種の長期的な中毒性を持って、2001年をとうに過ぎた今もなお、人々を魅了し続けているのだ。  これまでキューブリック作品に縁のなかった人も、この『ムーン・ウォーカーズ』がポンと背中を押し出してくれるに違いない。純然たるエンタテインメントを楽しみながら、文化や映画に対する興味の扉を提示してくれる、そんな痛快作である。 ■牛津厚信 映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。 Twitter ◼︎公開情報 『ムーン・ウォーカーズ』 11月14日(土)新宿シネマカリテほか ロードショー 製作:ジョルジュ・ベルマン 監督:アントワーヌ・バルドー=ジャケ 出演:ルバート・グリント、ロン・バールマン、ロバート・シーハン (c)Partizan Films- Nexus Factory - Potemkino 2015

世界中の有名アーティストが手がけてきた『スター・ウォーズ』ポスターのアートブックが発売!

【リアルサウンドより】  『フォースの覚醒』公開まで一ヶ月をきった11月26日、株式会社パイ インターナショナルより『スター・ウォーズ』歴代シリーズ(エピソードⅣ〜Ⅵ、エピソードⅠ〜Ⅲ)の宣伝用ポスターやコンセプトアートを集めたアート集『スター・ウォーズ アート:ポスターズ』が発売された。  これまでの6エピソードの映画公開時に使われた世界各国の宣伝用ポスターを集めたルーカスフィルム公認のアート集となる本書。ハワード・チェイキン、トム・ユング、さらには先月残念ながら他界してしまった生頼範義をはじめとする日本人アーティストなど、これまでルーカスフィルムが世界中から選んできた一流アーティストたちによる120点余りの作品を掲載。中には、これまで日本のファンの目にしたことがないであろうレアな図版やコンセプトアートなども収められている。なお、ドリュー・ストルーザン、ロバート・カステルによる序文、及び各アーティストのプロフィールの翻訳監修を本サイト主筆・宇野維正が務めている。
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■商品情報 『スター・ウォーズ アート:ポスターズ』 著者:ルーカスフィルム 判型:A4判変型(299mm×226mm)/ハードカバー/180頁(フルカラー) ISBN:978-4-7562-4727-8 C0074 価格:本体3,900円+税 発売日:2015年11月26日 発売元:パイ インターナショナル

世界中の有名アーティストが手がけてきた『スター・ウォーズ』ポスターのアートブックが発売!

【リアルサウンドより】  『フォースの覚醒』公開まで一ヶ月をきった11月26日、株式会社パイ インターナショナルより『スター・ウォーズ』歴代シリーズ(エピソードⅣ〜Ⅵ、エピソードⅠ〜Ⅲ)の宣伝用ポスターやコンセプトアートを集めたアート集『スター・ウォーズ アート:ポスターズ』が発売された。  これまでの6エピソードの映画公開時に使われた世界各国の宣伝用ポスターを集めたルーカスフィルム公認のアート集となる本書。ハワード・チェイキン、トム・ユング、さらには先月残念ながら他界してしまった生頼範義をはじめとする日本人アーティストなど、これまでルーカスフィルムが世界中から選んできた一流アーティストたちによる120点余りの作品を掲載。中には、これまで日本のファンの目にしたことがないであろうレアな図版やコンセプトアートなども収められている。なお、ドリュー・ストルーザン、ロバート・カステルによる序文、及び各アーティストのプロフィールの翻訳監修を本サイト主筆・宇野維正が務めている。
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■商品情報 『スター・ウォーズ アート:ポスターズ』 著者:ルーカスフィルム 判型:A4判変型(299mm×226mm)/ハードカバー/180頁(フルカラー) ISBN:978-4-7562-4727-8 C0074 価格:本体3,900円+税 発売日:2015年11月26日 発売元:パイ インターナショナル

女優・原節子が我々に残したものーー若手映画ライターが見た、色褪せないその魅力

【リアルサウンドより】  原節子という女優は、筆者のような若僧の映画フリークにとって、銀幕の中に映し出される、半世紀以上前の映画で美しく輝いている姿しか想起することができない。彼女が映画界から突然引退した衝撃など、噂程度にしか聞いたことがなく、ましてや初めて『東京物語』を観たときに、この紀子という役を演じていた女優が、まだ存命であったということさえ知るはずもなかった。  山中貞雄、伊丹万作、衣笠貞之助、島津保次郎、マキノ正博、今井正、吉村公三郎、黒澤明、成瀬巳喜男、そして小津安二郎。彼女のフィルモグラフィーを見てみると、我々が憧れを持ち続けてきた、日本映画界を築き上げた偉大な作家たちの名前が並ぶ。この作家たちと共に仕事をした、原節子という女優そのものが、日本映画史であることは言うまでもなく、改めてその功績を語る必要もないであろう。15歳の頃に日活の『ためらふ勿れ若人よ』で銀幕デビューを果たした彼女は、それから30年足らずの女優人生で、100本を超える作品に出演した。早すぎる引退と、その徹底された隠遁生活は、まさに「伝説の女優」と呼ばれるに相応しい経歴であり、そんな彼女が鎌倉のどこかでひっそりと暮らしているということを知ったときには、一度でいいからお会いしてみたいと、誰もが一度は思ったことであろう。  友人らと日本映画の話をしていると、必ずと言っていいほど彼女の名前を挙げ、今頃どうしていらっしゃるのかとよく想像を巡らしたものだ。ここ数年の間に、多くの偉大な映画人がこの世を去っていく度に、否が応でも「次はもしかしたらあの人では」と悪い想像を浮かべてしまう。それでも、原節子という女優だけは、常に何処かで生きているものだと思い込んでしまっていた。95歳という年齢は、女性の平均寿命よりも長い、まさに大往生と言ってもいい。それでも、彼女が9月に亡くなっていたということを知らずに、この2ヶ月半の間、我々は原節子がいないこの国で、何も知らずに映画を観ていたのかと思うと、言いようのない虚しさがこみ上げてくる。  『東京物語』を筆頭に、『青い山脈』や『山の音』など彼女の代表作がある中で、今回の訃報を受けて筆者が真っ先に再生した映画は吉村公三郎の『安城家の舞踏會』であった。華族制度の崩壊とともに没落していく一家の姿を映し出したその映画で、安城家の次女・敦子を演じる彼女は、当時26歳か27歳であろうか、今の筆者と同じ年齢のはずだ。そこに映し出される、凛々しくも気高いその姿は、もう彼女がこの世にいないとわかっていても、初めて観た数年前と決して印象が変わることはない。70年近くも前に作られ、関わったスタッフやキャストのほとんどがこの世を去っていても、色褪せることのない力強さと美しさが、当時の日本映画には確実にあったのだ。それが、我々の愛してやまない「映画」というものの魅力であると改めて認識することになった。  原節子という女優が銀幕を離れて半世紀以上、会田昌江というひとりの女性が旅立って2ヶ月以上経ち、ようやく我々は原節子という女優がもうこの世にいないのだと、実感することになった。向こうで小津監督や、あの頃の映画界を輝かせた皆さんにお会いできたのでしょうか。とても秋日和とは呼べない季節になってしまいましたが、一度鎌倉の街を散策し、円覚寺に眠る小津監督の墓前にお伺いしたく思います。 ■久保田和馬 映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

『サンローラン』が描く、奇才にとらわれた男の人生ーー鮮烈な描写はなぜ生まれたか?

【リアルサウンドより】  21歳の若さでクリスチャン・ディオールの後継デザイナーとして就任し、独自のメゾンを展開、以来2002年に引退するまで「モードの帝王」としてファッション業界に君臨したイヴ・サンローラン。彼を描いた作品は2000年代だけで3作も公開されている。(参考:FASHION-PRESS「イヴ・サンローラン」)  1作目は公私ともにパートナーだったピエール・ベルジェにスポットを当て、イヴ・サンローランが築いてきた名声と富と軌跡を綴ったドキュメント『イヴ・サンローラン』、2作目はイヴ・サンローラン財団に全面的にバックアップされたジャリル・レスペール監督の伝記映画『イヴ・サンローラン』、そして今作、ベルトラン・ボネロ監督の『サンローラン』だ。
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 イヴ・サンローランの映画と聞いて、「去年観たばかり」と応える人は多いだろう。それもそのはず、2作目、3作目は同時期に製作されているのだ。  当初、イヴ・サンローランを題材にした映画をつくりたいとプロデューサーから声をかけられていたのは、今作『サンローラン』のベルトラン・ボネロ監督だった。イヴ・サンローランの世界観に共感し、快諾したボネロは、早速構想を練り、製作にとりかかる。しかし、依頼から数ヶ月後、事態は急展開を迎える。なんと、別人が監督に抜擢されたというのだ。その人物こそジャリル・レスペール監督である。イヴ・サンローラン財団からの公認を受け、いわゆる映画製作権を獲得したレスペール監督は、シックで上品なイメージはそのままに伝記的要素が強い『イヴ・サンローラン』を撮った。
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 対して、イヴ・サンローラン財団からは一切の支援を受けることなく、製作を続行したベルトラン・ボネロ監督は、色彩、質感、感触にこだわり抜き、35mmフィルムで「見たことのないイヴ・サンローラン」を描くことに成功した。  見どころのひとつとして挙げられるデザイン制作現場のシーンでは、サンローランの代名詞とも言える1971年の春夏コレクションと、1976年のバレエ・リュスを取り上げ、シルクなど素材は本物を使用し、オートクチュールに至っては全てハンドメイドで一から再現した。結果、時代の最先端のファッションを緻密につくりあげていく緊迫感をよりリアルに演出し、サンローランの優美かつ、こだわり抜いた美意識をそのままに、現代のキラメキをもまとってスクリーンに描き出した。その艶やかさは実に圧巻である。こうしたシーンは支援を受けなかったからこそ生み出されたもので、第40回セザール賞最優秀衣装デザイン賞受賞の獲得にも繋がった。  さらに、ボネロ監督が最も描きたがったサンローランの派手で退廃的な一面においては、パートナーであるピエール・ベルジュが神秘のベールでひた隠そうとしたであろう、奔放な性愛、日常から逃れるために溺れていったドラッグ、生涯苛まれ続けた精神の病をもあますことなく表現し、ストーリーはより鮮烈かつショッキング、華麗でありながら刹那的な印象を強める。  これは、イヴ・サンローランを「ファッション界における歴史的人物」ではなく「奇才に囚われたひとりの男」として遠慮なく迫った成果だ。  「責任感から逃れて若さを味わいたい」「自分に素直にバカなことばかりやってみたい」、かつてサンローランがインタビューで口にしていた願望は、歪んだカタチで果たされることとなる。逃げ道に迷い込み、堕落寸前まで追い込まれる様子からは、もはや世界を席巻した有名デザイナーの片鱗はなく、もろすぎたひとりの青年の物悲しささえ如実にあらわした。
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 繊細さと大胆さの両面を持ったサンローランを『ハンニバル・ライジング』で主演を務めたギャスパー・ウリエルが演じる。パートナーのピエール・ベルジェには『ある子供』のジェレニー・レニエが抜擢された。また、サンローランの親友であり、ミューズのルル・ドゥ・ラファレーズには『アデル、ブルーは熱い色』のレア・セドゥ、モデルであり悪友のベティー・カトルにはシャネルやクロエのトップモデルとして活躍するエイメリン・バラデが起用された。  そして、この作品の核となる人物で、サンローランの隠された本性を危険な魅力で引き出し、堕落の道にいざなう愛人ジャック・ド・バーシャスを『ドリーマーズ』のルイ・ガレルが熱演している。  華やかなファッションという舞台に立ち続け、富と名声をも手にしたサンローランという男の隠され続けられた真実が、いまここに描かれる。 ■内藤裕子 ライター。2004年より雑誌の編集、WEB企画、商品企画をメインに、イベント企画、総務、人事、広報を経てクリエイターのマネージメントに携わる。現在看護師として働く傍ら、写真関連のUstreamの企画構成にも携わる。
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■公開情報 『サンローラン』 12月4日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開 監督:ベルトラン・ボネロ 出演:ギャスパー・ウリエル、ジェレミー・レニエ、ルイ・ガレル、レア・セドゥ、ヘルムート・バーガー 原題:Saint Laurent/2014年/フランス/151分/カラー/ビスタ/5.1ch デジタル 字幕翻訳:松浦美奈 後援:在日フランス大使館、アンスティチュフランセ日本 (C)2014 MANDARIN CINEMA - EUROPACORP - ORANGE STUDIO - ARTE FRANCE CINEMA - SCOPE PICTURES / CAROLE BETHUEL

『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』主要キャスト&エイブラムス監督の来日が決定

【リアルサウンドより】  12月18日の公開まで1ヶ月を切った『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』の主要キャストとJ.J.エイブラムス監督の来日が決定した。  このたび来日が決定したキャストは、新3部作のスタートを切る『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』のキャラクターたちの中でも、最も注目され、物語の中心人物となると噂されている3名。今年4月に「『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』 KICK OFF MEETING」で来日を果たした、レイ役のデイジー・リドリーが今年2度目の来日を果たすほか、フィン役のジョン・ボイエガとカイロ・レン役のアダム・ドライバーが来日する。  さらに、ジョージ・ルーカスから「スター・ウォーズ」を受け継いだ、J.J.エイブラムス監督もキャストの3人と一緒に来日。大の親日家としても知られ「機会があれば日本に引っ越したい」と過去に語っているエイブラムスは、「ジョージ・ルーカスが創り出した世界のパワーを、もう一度、皆さんに信じてもらいたい。「善」VS「悪」のパワー、そして、フォースのパワーを」と語っている。  リドリー、ボイエガ、ドライバー、エイブラムスの4人が来日するのは、12月10日と11日。彼らは2日間の滞在中、ジャパンプレミアや特別映像上映会、シークレットイベント、記者会見に出席する予定だ。
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J.J.エイブラムスとキャスリーン・ケネディ (C) 2015Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved

■公開情報 『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』 12月18日(金)18時30分 全国一斉公開 監督:J.J.エイブラムス 脚本:ローレンス・カスダン 配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン (c)2015 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved

園子温最新作『ひそひそ星』で東京フィルメックス開幕「今の福島にはもうない、幻の町を撮った」

【リアルサウンドより】  第16回東京フィルメックスが、昨日11月21日に開幕。オープニング作品として、園子温監督の最新作『ひそひそ星』が上映され、上映後のQ&Aに園と主演を務めた神楽坂恵が登壇した。  『ひそひそ星』は、2014年に園が自ら設立したシオンプロダクション製作による第1作。ロボットが8割、人類が2割になった未来の宇宙を舞台に、宇宙宅配便の配達アンドロイド鈴木洋子が、様々な星を巡りながら人間たちに荷物を届ける模様を描いたSF映画。  『ひそひそ星』上映前には開会式が行われ、林加奈子ディレクターによる開会宣言のあと、釜山映画祭ディレクターのイ・ヨンガンのほか、映画監督の塩田明彦、映画評論家で字幕翻訳家の齋藤敦子、映画配給会社アド・ヴィタムで買付・編成を担当するグレゴリー・ガジョスが登壇(シルヴィア・チャンは欠席)。
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林加奈子ディレクター

 本年度の審査委員長を務めるイ・ヨンガンは「東京フィルメックスに審査員として招待してくださり、ありがとうございます。ここにいらっしゃる審査員の皆さんと楽しく映画を観させていただき、話し合いながら、いい作品を選ぶように努めさせていただきます」とコメントした。
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グレゴリー・ガジョス、齋藤敦子、イ・ヨンガン、塩田明彦

 『ひそひそ星』の上映が終わると、園子温と神楽坂恵が観客からの拍手に迎えられ登壇。司会の林が、本作は園自身が1990年に書いた脚本を基に映画化されたことについて触れると、園は「当時、自分たちで自主映画のプロダクションを作って製作しようとしたんですけど、予算的に都合がつかなくて途中で断念したんです。その代わりに、ベルリン国際映画祭のフォーラム部門でも上映された『部屋 THE ROOM』を作ったんです」と、当時を振り返る。会場には、ベルリン国際映画祭フォーラム部門創設者であるグレゴール夫妻の姿も。本作にプロデューサーとしても参加した神楽坂は「プロデューサーとしては、お金のこととかはちょっとやったりしましたけど、そこはそこで…」と謙遜しながら、「(園と)監督と女優って関係になったときは、プロデューサーとかは関係なく、いつも通り厳しく追い込んでいただきました」と語った。
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エリカ・グレゴールと握手をする園子温

 25年前の企画を映画化するにあたり、園は「奥さんでもあり、プロデューサーでもあり、僕の作品の常連女優でもある彼女は、25年前の僕の脚本をスゴく尊重してくれて。僕自身もそうですけど、20代の頃の考え方に対して、今はどう考えているかというよりは、もう僕にとっては既に“彼”である当時の自分に、『なるほど、君はそう思ってるんだ。そういう純粋に映画を作ろうとする本能的な衝動に対して、リスペクトをする』っていう立場で作りました」と想いを語ると、神楽坂も「引っ越しをする度に脚本や絵コンテを見ていた」とコメント。
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園子温

 25年前の脚本との違いについては、「ロケーション的には変わらざるを得ないんですけど、宇宙船のシーンは忠実に絵コンテ通りに再現しました」といい、「当時は地球に対して過ちを繰り返してきた人類が通る場所っていうことで、例えば夢の島をロケハンしたりして、撮影場所を探していました」と振り返った。今回、結果的に福島が舞台になったことについては「そこにマッチさせる気は毛頭なかったんですけど、そうせざるを得なかった」と語りながら、「『希望の国』を撮ったときに取材でお会いした、仮設住宅に住んでいる人々、被害を受けた人々、人生が変わってしまったような人々に、あえて出演してもらった」と明かした。また、福島での撮影については、「ロケハンでここで撮影しようと思った場所が、ブルドーザーが入ってなくなっちゃったりするんですよ。今の福島を記録させようという意識があるんだけど、どんどん変わっていっちゃう。なので、今の福島にはもうない、まさにカゲロウであり、幻の町を撮ったと思っています」と語った。
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神楽坂恵

 客席から作品内での音の使われ方について問われた園は、「当時、ベルリン国際映画祭でアレクサンドル・ソクーロフの特集がやってて、その音使いにめっちゃショックを受けた。そこから、音は映画の半分ぐらい重要だというぐらいに意識が高まっていった」と答えつつ、「(『ひそひそ星』は)1年間ダビングしていた。なおかつ、まだやりたいと思っている」と、音へのこだわりを明かした。  「物語の途中で出てくるミドリガメは『ラブ&ピース』のミドリガメでしょうか?」という質問が客席から飛ぶと、「よくわかりましたね(笑)」と答えながら、「あれは『ラブ&ピース』の主役をやった亀です。もう園組なんで。引き続き今もスタッフが飼ってます」と裏話が披露されるも、なぜあのシーンで出てきたのかという追加の質問に対しては、「僕はこういうときに理詰めで物を言うんだけど、だいたい間違ってるので、今日は言いません(笑)」と戯けてみせ、神楽坂が「絵コンテに書いてなくても、亀が出るってことでみんな納得していたので、自然な流れでした」とフォローした。
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園子温、神楽坂恵

 最後に、福島県の郡山市出身の観客から、今後も福島をテーマに作品を作る構想はあるのかという質問が出ると、園は「もちろんあります」と答え、「可能な限り、福島のドラマを、映画を撮りたいと思っている」と答えた。Q&Aが終わると、司会の林から、『ひそひそ星』が2016年5月にシネマカリテで公開されることが発表され、観客からは拍手が沸き起こる中、園と神楽坂は舞台を後にした。 (取材=宮川翔) ■公開情報 『ひそひそ星』 2016年5月、シネマカリテにて公開 出演:神楽坂恵、遠藤賢司、池田優斗、森康子 監督・脚本・プロデュース:園子温 プロデューサー:鈴木剛、園いづみ 企画・制作:シオンプロダクション 配給:日活

橋口亮輔監督が傑作『恋人たち』で描く不安と絶望、そして微かな希望

【リアルサウンドより】  「00年代におけるベストな邦画は?」と問われると、いつも個人的に是枝裕和監督の『歩いても 歩いても』と、それから橋口亮輔監督の『ぐるりのこと。』を挙げてしまう。これらが映画的に優れているかどうか以前に、私はある意味、この二作に人生を救われたとすら感じており、その気持ちはいまも変わらない。  後から気づいたのだが、『歩いても 歩いても』の公開日は08年6月28日。『ぐるりのこと。』は同年6月7日。これらがほぼ同時に世に出た08年6月とはいったい何だったのか。つい昨日のようでもあり、また、とてつもなく昔のような気もする。  とにもかくにも、あれから7年の月日が経過した。そしてコンスタントに映画を作り続ける是枝監督が『海街diary』を贈り出した今年、橋口監督は『ぐるりのこと。』以来7年ぶりとなる長編映画を完成させた。長きに渡る葛藤を乗り越えて生まれた待望の最新作。それが『恋人たち』だ。
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 この映画に正直、度肝を抜かれた。なにか「映画とはこうあるべき」とする概念や尺度が全く通用しない境地に到達したというべきか。一瞬一瞬の密度に心がどうしようもなく震え、そして役者たちの「剥き出しの凄み」に激しく圧倒された。  まず映画が幕を開けると、観た事もないひとりの役者が、独白を続ける。真剣な眼差しで妻との思い出について話し続けるのである。  たどたどしくて、演技なのか即興なのか分からないほどリアルな語調だ。もちろん我々は彼のセリフ回しや語りのリズムを初めて耳にするわけだし、それに九州弁のイントネーションも入ってくる。彼は何を言わんとしているのか。なぜこんな独白をしているのか。そもそも彼の身の上には何が起こったというのか。セリフは決して線形には進まない。道草をするかのように蛇行を繰り返す。でもこうしているうちに、我々の心はすっかりと橋口亮輔の新しい語り口の中に、深く深く入り込んでいる。  我々はここから3つの「愛」のかたちが群像劇として立ち上がっていくのを目撃する。主人公は3人。彼らはワークショップで才能を見出された新人俳優たちだという。登場人物のひとりは、かつて通り魔に妻を殺され、心が壊れかけてしまったアツシ(篠原篤)。ひとりは夫と姑との同居生活に愛も干上がり、別の男のもとへ走っていく瞳子(成嶋瞳子)。ひとりは完璧主義で自分本位な弁護士にして、長きに渡って同性の親友への愛を秘め続けている四ノ宮(池田良)。彼ら3人の物語が交互に描かれ(時に少しだけ交錯しながら)140分間という一瞬を織り成していく。  『恋人たち』と題してはいるものの、そこに際立つのはむしろ、愛する者の「不在」だ。とりわけ先の「冒頭で話し続ける」アツシには胸を引き裂かれるほどの深い哀しみが付きまとう。  哀しみはいまだ癒されることはなく、他人の何気ない一言によって心をズタズタに切り刻まれることもある。人知を超えるほどの巨大な悲劇に見舞われた時、私たちは一体どうやって乗り越えればよいのか。主人公の心をいまもなお席巻する不安や絶望。それらが本当に苦しい。誰も守ってはくれない。彼を取り巻く社会は極めて無情なやり方で彼を社会の隅っこへと弾き飛ばしていく。この日本をとりまく「空気」は深刻だ。
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 『ぐるりのこと。』と同様、この映画には主人公たちを取り巻く人間関係や社会を通して、現代日本に充満する空気を映し撮ろうとする姿勢が貫かれている。  その中でもアツシが橋梁の強度を確かめる仕事に従事しているという設定が、本作の寓意性を強めることになる。三面鏡のような群像劇の構造に、さらなる立体的な深みが加わったというべきか。彼は作業服を着て仲間と共に小型ボートに乗り込み、東京の高速道路の足元にあるコンクリートをハンマーで叩いて回る。そうやって反響する音に耳を澄まし、破損箇所がないか、それが後何年耐えられそうかを診断するのだ。  このシーンには二つの意味が見てとれるだろう。ひとつはさながら深い傷を負った自らの心理構造へと降り立ち、ボートを静かに漕ぎ進めながら、自らの心の柱の強度を確かめるというもの。これは誰もが自己防衛のために自ずとやっていることなのかもしれない。もうひとつは、我々が生きる日本を支える深部構造をチェックするという意味合い。だからこそ彼が口にする「すべてぶっ壊れている!」という言葉は同時代を生きる我々にとっても非常に深刻なものとして重く伸し掛かってくる。  ただ、本作は決して負の力に苛まれて終わるような脆い構造ではないのだ。人間の力を極限まで信じている。たとえば神懸かり的な「一匙」と言うべきか、本作は息の止まるほどの慟哭のシーンであっても、深刻なセリフの合間にサッと一瞬だけユーモアの光を挿し込ませることがある。この化学反応を受けて、観客の心には絶望ではなく、何かこそばゆくすら思える不思議な感情が芽生えてくることだろう。
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 Akeboshiの奏でる音楽も相変わらずいい。深く沈みがちな主人公たちのこころに、日が昇り、また暮れていくといった日常のささやかなリズムと、微かな祝福を注いでくれる。  そうやってだんだんと視野が広がり、まるで精魂込めて花を育てるかのように、希望の気配がおぼろげに顔を出し始める。この映画は具体的な結末を描くことは無いが、かといって絶対に希望を放棄することもないのである。  ちなみに『滝を見にいく』(14)、TVドラマ「天皇の料理番」(15)でも知られる黒田大輔(役名も黒田)が、ずっとアツシのことを見守っている善意のかたまりのような役を演じている。その役柄には片腕がない。きっと壮絶な過去を抱えているのだろう。でも終始ニコニコと菩薩みたいに笑っている。彼は言う。「俺はあなたと、もっと話がしたいよ」。何気ないセリフに思えるが、人を優しく包み込み、そして力強く救う言葉だ。  きっと今度は、アツシが黒田のような存在になっていくのだろうなと、ふと思った。希望のともしびとはそうやって大切に受け継がれ、次第に強度を増しながら繋がっていくものなのかもしれない。 ■牛津厚信 映画ライター。明治大学政治経済学部を卒業後、某映画放送専門局の勤務を経てフリーランスに転身。現在、「映画.com」、「EYESCREAM」、「パーフェクトムービーガイド」など、さまざまな媒体で映画レビュー執筆やインタビュー記事を手掛ける。また、劇場用パンフレットへの寄稿も行っている。 Twitter ■公開情報 『恋人たち』 テアトル新宿ほかにて大ヒット上映中 原作・監督・脚本:橋口亮輔(『ぐるりのこと。』『ハッシュ!』) 主題歌:「Usual life_Special Ver.」明星/Akeboshi 出演:篠原篤 成嶋瞳子 池田良 / 安藤玉恵 黒田大輔 山中崇 内田慈 山中聡 / リリー・フランキー 木野花 光石研 宣伝:シャントラパ/ビターズ・エンド  配給:松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ  製作:松竹ブロードキャスティング ©松竹ブロードキャスティング/アーク・フィルムズ 公式サイト