「さわやかなイケメン」は仮の姿に過ぎないーーディーン・フジオカに漂う危険な香り

【リアルサウンドより】  今週の『あさが来た』(NHK)は、病死する五代友厚の話題で持ち切りだ。ヒロイン・あさ(波瑠)の才能を見い出し、チャンスを与えるだけでなく、ピンチではしっかり支える。しかも、恋心を抱いているのに、その思いを胸に秘めて笑顔で接する。そんな男女を問わず多くの人々がホレる「五代様」が物語から消えるのだから、騒ぎたくなるのも当然か。  しかし、五代の持つ「さわやかな正統派イケメン」「穏やかで優しい男性」、そんな世間のイメージがどうもしっくりこないのだ。その理由は、五代を演じるディーン・フジオカという男の過去にある。ブレイクにつながった五代のキャラから、ディーンにも“英国紳士”のような印象を抱いている人は多いが、そんな簡単な男ではない。  高校卒業後、ITを学ぶためシアトルの大学に留学したディーンは、アジアに目を向けて各国を旅し、香港でモデルとしてデビューを飾る。その後、台湾やインドネシアに渡って、俳優やアーティストとして活動し、逆輸入で日本の芸能シーンに凱旋。さらに、アメリカのドラマにも出演するなど、異色の経歴を持つ。  そして目を引くのが、ディーンの公式プロフィール。「Languages Spoken」の欄には、日本語、英語、中国語、広東語、韓国語。「Hobbies」には、中国武術、キックボクシング、チェス、写真撮影、瞑想。「Special Skills」には、ギター、ドラム、作曲、作詩、スキー、バスケットボール。ここまで多いと「多才」というより、「何でもやってやる!」という肉食獣のにおいがプンプン漂う。「興味を持ったら絶対にやる」という性格なのだろう。  ディーンを語る上で避けては通れないのが、2013年の映画『I am Ichihashi 〜逮捕されるまで〜』。世間を震撼させた殺人犯の2年7か月に渡る逃亡を扱った作品で、主演として市橋達也を演じた。日本全国を偽名で逃げ続け、自らの唇をはさみで切る自己整形や、ほぼ無人島での自給自足生活を、ディーンは射るような鋭い視線で熱演。全身から絶望感を醸し出すような演技は、強烈なインパクトを残した。主演だけでなく監督と主題歌も担当したのが、いかにもディーンらしいが、「この役で見せた怖さを彼本人も持っているのでは?」と感じた人は多かったはずだ。  その意味では、『あさが来た』の「五代様」も、そこからバトンを引き継ぐようにスタートした『ダメな私に恋してください』(TBS)の毒舌メガネ男子も、あくまで“仮の姿”にしか見えない。「まだ日本凱旋の顔見せ出演をしているだけで、ディーンが本当の実力を見せているわけでも、本当にやりたい役をやっているわけでもない」、そんな気がするのだ。  そもそも、「新しい場所で勝負してナンボ」の勇気や、「誰が何と言おうが我が道を行く」信念がなければ、犯罪ドキュメントの作品に関わる必要はない。各国のエンタメシーンを渡り歩いた過去も含め、ディーンからは「一か所に留まってはいられない」「安住の地は居心地が良くない」、男としての強烈な冒険心を感じる。これからもディーンは、日本に安住することなく、人々のイメージをぶち壊す危険な役柄を演じていくのではないか。  ディーンは2012年にインドネシア人女性と国際結婚をして1歳の双子を持つ父親だが、つくづく既婚者かつ父親でよかったと思う。この前提があることで、さらなるアイドル扱いは避けられるし、妻子が海外にいることも自由な役選びや役作りにつながるだろう。とにかく、「この男、何をしでかすか分からない」、底知れぬ魅力を秘めている。 ■木村隆志 コラムニスト、テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。作品やタレントがテーマのコラムを各メディアに毎月20~30本提供するほか、番組出演を重ねる。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動し、著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。 ■ドラマ情報 『あさが来た』 NHK総合テレビ 月〜土 午前8:00〜8:15(総合テレビ) 月~土 午後0:45~1:00(総合テレビ)※再放送 BSプレミアム 月~土 午前7:30~7:45(BSプレミアム) 月~土 午後11:00~11:15(BSプレミアム)※再放送 出演:波瑠、玉木宏、ディーン・フジオカ、山内圭哉、友近、桐山照史、楠見薫、竹下健人、杉森大祐、郷原慧、畦田ひとみ、梶原善、風吹ジュン 語り:杉浦圭子 原作・脚本:大森美香 公式サイト:http://www.nhk.or.jp/asagakita/

深田恭子とディーン・フジオカは名コンビになれるのか? ふたりの“違和感”が生む化学反応

【リアルサウンドより】  深田恭子が主演を務めるTBS系火曜ドラマ枠にて放送中の『ダメな私に恋してください』が、初回放送の視聴率は2ケタに届かなかったものの、その内容に賛否様々な意見が飛び交い話題となっている。深田にとって昨年の『セカンド・ラブ』以来、1年ぶりの連続ドラマ出演となる本作は、女性漫画誌『YOU』にて連載中の中原アヤによる同名コミックを実写化したもので、アラサーダメ女とドS元上司コンビが繰り広げるツンデレラブコメディだ。相手役は、国際的に活躍し連続テレビ小説『あさが来た』の出演で話題となった逆輸入俳優、DEAN FUJIOKA(ディーン・フジオカ)が務める。  本作の第1話目を視聴したところ、役者たちのキャラクターが面白く、今後の展開次第では隠れた名作になるかもしれないと筆者は感じた。そこで、『ダメな私に恋してください』で主演を務めるふたりにスポットを当て、本作のポテンシャルを読み解いてみたい。  深田恭子が演じるのは、会社が倒産し再就職も決まらず、貯金がないどころか歳下の大学生に貢き続けて借金まみれ。なのに男性経験もない、ナイナイ尽くしのダメ女・ミチコ。そんなある日、以前の職場でミチコを非情に厳しく罵倒をしていた上司、ディーン演じる黒沢歩と偶然再会。黒沢は、金もなく行き場のないミチコを自身がマスターを務める喫茶店で雇い、住む場所や食事も与え、黒沢曰く「下僕」としてアルバイトさせる。ドSの黒沢はミチコに厳しく接するも、借金の肩代わりをしたりピンチの時にはサッと現れて助けるなど、いざという時は頼りになってくれる。ミチコはそんな黒沢の隠れた魅力に惹かれて意識していく……というのが第1話のあらすじだ。  まず特筆したいのは、30歳過ぎのダメ女役にも関わらず、とにかく柴田ミチコ役の深田恭子がアイドル的な魅力を放っていること。最近の深田は、昨年のドラマ『セカンド・ラブ』で同僚との不倫関係から抜け出せない中、歳下のダンサーとの激愛に溺れていく教師役を演じたほか、2014年の「火曜ドラマ」枠で放送された『女はそれを許さない』では女性の味方の弁護士役を務めるなど、大人の女性としての役柄が目立った。映画では堂々たるラブシーンを披露して昨年末にはセクシーな水着姿の写真集も出版、いよいよ“アダルトな深キョン”のイメージが固まってきたところだった。  ところが今回は、間の抜けたダメダメなアラサー役をコミカルに演じている。雰囲気としては映画『下妻物語』の、ロココ時代のフランスに生まれたかったロリータ少女・桃子のようなフワフワとしてちょっと不思議ちゃんな感じである。多くのファンは「あの頃の深キョンが帰って来た!」という感覚を抱くのではないだろうか。コスプレ姿でチラシを配り、20代のフリをしてメイド喫茶で働き、肉が食べたいと叫ぶ姿は一般的な30代女性ではなかなか成立し難いところだが、深田が演じると滑稽味がありつつも、その違和感を含めて好感を抱いてしまう。それは『下妻物語』の、田舎で浮いているロリータ少女にも通じる愛嬌である。本作を好意的に観ている視聴者の多くは、深田に対してこうした演技こそ求めていたのだろう。しかしリアリティ志向の視聴者にとっては、共感し難いキャラクターであるのも事実だ。だからこそ賛否両論があるのだろうが、いかにも少女漫画的な展開はラブコメの王道としては充分に楽しめるのではないか。  また、今作ではディーン・フジオカの存在も見逃せない。むしろディーンを目的に本作を観ている視聴者も多いはずだ。現在放送中のNHK連続テレビ小説『あさが来た』の五代友厚役で一躍脚光を浴びたディーンは、かなり変わった経歴の持ち主である。1980年生まれの福島県出身、シアトルの大学を卒業後、アジア諸国を巡ったのちに2004年から香港を拠点にモデルとして活動をスタート。2005年に香港映画『八月的故事』で主演を果たしたあとはアメリカドラマにも進出、日本でも2013年に『I am Ichihashi ~逮捕されるまで~』で主演だけではなく監督(!)もこなすなど国際的に活躍している。また、インドネシアではミュージシャンとして音楽制作をしているらしく、調べれば調べるほど謎が深まる人物だが、『あさが来た』出演以降の人気は絶大で、まさに彗星の如く現れた貴公子といえる。  そんな謎の貴公子がドSキャラとしてミチコを追い込むというのだから、展開が予想できないのは当然である。しかし第1話を見た限りでは、ディーンがそのイメージからは想像し得なかったドSっぷりを発揮する一方、ミチコもまた意外なほどコミカルな演技でそれに応えるなど、絶妙な掛け合いが早くも見られた。これは良い意味で“違和感”を感じさせるふたりだからこそ、起こすことができた化学反応といえるだろう。もしかしたら、このふたりは『のだめカンタービレ』の玉木宏と上野樹里、『ホタルノヒカリ』の藤木直人と綾瀬はるかに匹敵する名コンビとなるのではないだろうか。 (文=本 手)

森川葵はただの“個性派女優”ではない 『いつかこの恋を〜』で期待される役者としての地力

【リアルサウンドより】  森川葵といえば、風間志織監督の『チョコリエッタ』では、進路調査に「犬になりたい」と書いた宮永知世子役で丸坊主姿を披露し、加藤綾佳監督の『おんなのこきらい』では、自らをカワイイと公言して憚らないキリコ役を務めるなど、個性的で強烈なキャラクターをたくさん演じてきたイメージがある。  しかし、去年11月に公開された映画『通学シリーズ 通学途中』では、そうしたイメージとは異なる姿を披露してくれた。この映画で森川は、内気な性格の高校生ユキ役を演じていて、恋に不器用で、人に自分の気持ちを上手く伝えられないというユキのキャラクターを上手く表現していた。正直、これまで森川が演じてきた役と比べれば、強烈なインパクトがあるわけではない。だが、そんなインパクトに頼らずとも、ひとつひとつの表情や仕草で感情の機微を表現しきっていた姿は、とても印象的だった。  また、去年フジテレビにて放送されたドラマ『テディ・ゴー!』での山瀬和子役も良かった。物語は、フリーターの山瀬和子が、刑事だった天野康雄の魂が宿ったクマの編みぐるみと共に、天野が生前に捜査していた事件の解決に挑むというもの。このドラマで森川は、酔っぱらいすぎてリバースしてしまったり、バイト中にむしゃくしゃして着ぐるみに八つ当たりするなど、コメディエンヌとしての可能性も感じさせる姿を披露した。振りきれたところと平凡なところを織り交ぜたような演技も新鮮だった。  これまでの森川は、振りきれた個性的な役を演じられるところで“実力派”と言われてきたように思う。しかし、このような一面ばかりがフィーチャーされることで、森川が元来持つ演技力そのものになかなか注目がいかないことに、筆者はもどかしさを感じていた。もちろん、他の役者なら躊躇してしまうであろう個性的な役を演じきれるのは魅力のひとつだ。とはいえ、振りきれた役柄だけでなく、どこにでもいそうなリアリティのある役柄を演じられるのも、森川の大きな武器だろう。森川は、キャラクターの個性に頼ることなく、役柄の設定をしっかり読みとり表現するという、役者としての基礎体力でも勝負できるのだ。  そんな森川が、フジテレビで1月18日から放送されるドラマ、『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』に出演する。“月9”枠で放送されるこのドラマは、有村架純、高良健吾、高畑充希、安田顕といった、いま注目を集める役者たちが揃い、さらには『東京ラブストーリー』や『問題のあるレストラン』で知られる坂元裕二が脚本を務めるなど、放送前から話題を呼んでいる作品だ。森川は、都会の空気に馴染もうと腐心するあまり、その闇にハマってしまう市村小夏役を演じる。森川自身も、愛知で生まれ上京したという身だから、市村小夏と境遇が重なる部分もあるだろう。こうした点をどのように表現し、“月9”という大舞台で輝きを放つのか楽しみだ。 (文=近藤真弥) ■ドラマ情報 『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』 2016年1月18日(月) 21:00~放送開始 出演者:有村架純、高良健吾、高畑充希、西島隆弘、森川葵、坂口健太郎 脚本:坂元裕二 プロデュース:村瀬健 演出:並木道子 制作:フジテレビドラマ制作センター 公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/itsu_koi/index.html

SMAP・草なぎ剛が築いた俳優キャリアとは? 『いいひと。』から『スペシャリスト』へ

【リアルサウンドより】  草なぎ剛が主演を務める連続ドラマ『スペシャリスト』(テレビ朝日系)第1話が1月14日に放送され、初回視聴率17.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録し、話題となっている。SMAP解散騒動の渦中ということもあり、多くの視聴者の注目を集めている本作だが、作品での役柄も昨今の草なぎ剛らしいキャラクターだと評判だ。  アイドルとテレビドラマの関係に造詣の深いライターの西森路代氏に、俳優としての草なぎ剛がどのようなキャリアを経て、本作へと至ったのかを訊いた。 「草なぎさんは、1997年に放送され、平均視聴率20%を超えた人気ドラマ『いいひと。』(フジテレビ系列)で、連続ドラマ初主演を果たし、本格的に俳優としての活動を始めました。アイドルグループの全メンバーがドラマで主演を務めるというのは、当時はとても新鮮でしたし、草なぎくんの役柄がタイトル通り、ごく普通の日常を生きる“いいひと”だったのも目新しかったです。かつてはアイドルが主演をするというと、そのアイドル性を活かした煌びやかなキャラクターを演じることが求められる傾向が今より強くありましたが、草なぎさんがごく普通のひとを演じたことで、その後のアイドル俳優たちの役柄の幅を広げることに繋がったのではないかと思います。韓国では現在、アイドルがラブ・コメディなどにとどまらず、本格的な社会派ドラマなどでも活躍するようになってきて“演技ドル”という言葉が使われるようになってきましたが、草なぎさんが『いいひと。』に出演したときのようなことが、起こっているのだと感じます」  『いいひと。』のヒットを受けた草なぎは、その後も『成田離婚』(フジテレビ系列)や『先生知らないの?』(TBS系列)といったドラマに出演し、自身のスタイルを確立していった。 「草なぎさんは、一作ごとにキャラクターを変えるというよりも、ある程度の期間をかけてひとつの方向性をじっくりと追求していくタイプの俳優なんだと思います。『いいひと。』路線の役柄が続いた後、2003年に『僕の生きる道』(フジテレビ系列)から始まった“僕シリーズ3部作”では、「死」「絆」などのテーマのもとに、その中でアイデンティティーを模索するような役柄を務めました。そして、2009年の『任侠ヘルパー』(フジテレビ系列)からは、アウトローの世界に生きる正義漢のような役柄へとシフトしていきます。今回の『スペシャリスト』は、単発のスペシャルドラマが好評を博して連続ドラマ化したもので、元受刑者の刑事というユニークな役柄を務めていますが、それも昨今の草なぎさんが得意とするキャラクターの延長線上にあるものでしょう。いまは解散騒動でいろいろな噂も飛び交っていますが、じっくりとキャリアを積んできた方なので、今後も変わらず活躍してくれるはずだと信じています」  アイドルの常識を次々と破ってきたSMAPにおいて、独自のポジションを追求してきた草なぎ剛は、今後『スペシャリスト』でどのような演技を見せてくれるのか。そのキャリアを振り返りつつ鑑賞すると、より深く彼の役者としての魅力が味わえるのではないだろうか。 (文=松下博夫)

広末涼子と内田有紀、90年代の“ショートカット・ヒロイン”はどう変化した? 共演作『ナオミとカナコ』から考察

【リアルサウンドより】  フジテレビ系木曜夜10時枠で放送がはじまった『ナオミとカナコ』は、百貨店で働く小田直美(広末涼子)と専業主婦の服部加奈子(内田有紀)が、加奈子の夫の達郎(佐藤隆太)を殺そうとする不穏な場面から物語は始まる。そこから、物語は一か月前にさかのぼり、直美は達郎からDV(ドメスティック・バイオレンス)を受けていたことが明らかになる。ある日、直美は李朱美(高畑淳子)という中国人の女性と知り合う。百貨店から高級時計を盗み転売しようとした李から時計を取り返すために、朱美の仕事先に出向いた直美は、達郎と容姿がうり二つの男と出会う……。  原作は奥田英朗の同名小説。第一話は序盤の夫の殺害現場に向けての伏線が暗示されたところで終わっており、これから二人がどのような運命をたどるのか期待させる。  本作を見ていて思い出すのは、同じ木10枠でスマッシュヒットとなった『昼顔~平日午後3時の恋人たち~』(フジテレビ系)だ。放送当時は主婦の不倫を描いたスキャンダルな作品として話題となったが、本作の根底にあったのは、家庭に居場所のない二人の主婦の奇妙な友情を描いたガールズバディモノであり、家族の呪縛から自由になるために共犯関係を結ぶという、反社会的であるが故の美しさの追及だった。残念ながら、ガールズバディモノとしての『昼顔』の物語は不徹底なまま終わってしまったが、『昼顔』にできなかった“共犯”という名の女の友情を、どこまで追求できるかが、今後の注目ポイントだろう。  ストーリー以外の見どころとしては、何といっても内田有紀と広末涼子の共演だ。この二人、実はデビュー当初の受け入れられ方がすごく似ている。90年代前半に内田はデビューし、90年代後半に広末はデビューしたのだが、ともにショートカットのボーイッシュなアイドルとして登場し、少年と少女の中間にあるかのような中性的な魅力で一世を風靡した。  内田有紀と広末涼子、そしてアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の綾波レイを加えた三人がおそらく、90年代を象徴する三大ショートカット・ヒロインだったと思うのだが、今振り返ると、彼女らの存在は、ふつうの女性アイドルや女優の人気とは違う熱狂を持って向かえ入れられたように感じる。  それは言うなれば、理想の異性として付き合いたいとか、性的な目線で女性を消費することとは違う、自分の内側にある少年性(あるいは少女性)のようなものを仮託した自己愛のようなものだったのではないかと思う。おそらく、グラビアアイドルのグラマラスな肉体に対して欲情しながらも、気遅れしてしまう思春期の男性にとって、彼女たちは親しみやすい存在であると同時に、自分自身を自己同一化しやすい存在だったのではないか。  しかし、興味深いのは、中性的な魅力が売りだったはずの内田有紀も広末涼子も、年齢を重ねるとともに、むしろ“女の業”が、むき出しになってきているということだ。広末涼子は、二度のできちゃった結婚をして現在では3児の母となっており、内田有紀も吉岡秀隆と一度は結婚して女優業を引退したが、その後離婚して女優業を再開している。つまりプライベートでたどった運命も似ていると思っていたのだが、こうして共演してみると、女優としての業の深さ、演技に宿る闇の深さは内田の方が圧倒的だと感じた。  もちろんこれは、内田が旦那にDVを受ける主婦で、広末の役割がそんな彼女を助ける強い女性という、役割の違いから出た演技の違いとも言えるだろう。しかし、広末が演じる直美も、かつては自分の父親が母親を虐待していたという暗い過去を抱えているのだが、『聖女』(NHK)で業の深い悪女を見事に演じた広末ですら、立っているだけで全身から不幸な空気を醸し出している内田と並ぶと、演技が平坦に見える。仮に二人の演じる役柄が逆で、内田が直美を演じたとしても、絶対に拭い去れない暗い影が宿っていたのではないかと思う。    それにしても、本来は性的イメージが希薄で、健康なキャラクターの象徴であるはずのショートカット・ヒロインは、なぜ不幸なイメージを引き寄せてしまうのだろうか。かつては、少女マンガやJ-POPでも、ロングヘアーの女性が失恋して髪を切ることで、身軽で明るい女性に変身するという物語がよく描かれており、長い髪は自意識の重苦しさの象徴として扱われていた。しかし最近は、DAIGOと婚約会見を開いた北川景子のように、ロングヘアーの女性の方がサバサバとしている。もしかしたら、ロングヘアーが女らしく、ショートヘアが中性的という構造自体が崩れてきているのかもしれない。  今後は二人が犯した犯罪を追う存在として、もう一人のショートカット・ヒロインである吉田羊が演じる達郎の姉・陽子の存在がフィーチャーされることとなるのだが、「ショートカット・ヒロインの抱える女の業」という裏コードも、『ナオミとカナコ』のもう一つの見どころとなりそうだ。 ■成馬零一 76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。 ◼︎ドラマ情報 『ナオミとカナコ』(フジテレビ) 毎週木曜 22:00〜放送中 出演者:広末涼子、内田有紀、吉田羊、宮川一朗太、山路和弘、犬飼貴丈、富司純子、高畑淳子、佐藤隆太 原作:奥田英朗「ナオミとカナコ」(幻冬舎刊) 脚本:浜田秀哉 音楽:ガブリエル・ロベルト プロデュース:長部聡介、大木綾子 演出:金井紘、葉山浩樹、品田俊介 制作:フジテレビドラマ制作センター 公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/naomi-kanako/index.html

『白鳥麗子でございます!』20年ぶりドラマ化の背景と、強烈な「お嬢様」キャラの系譜

【リアルサウンドより】  「白鳥麗子」。この名前は、アラフォー世代にとっては、なんともなじみ深く懐かしいものではないだろうか。80年代後半、当時まだ10代の宮沢りえが「三井のリハウス」のCMに白鳥麗子の役名で出演しブレイク。そして、こちらも80年代末期に連載スタートし、大ヒットしたのが鈴木由美子原作のコミックス『白鳥麗子でございます!』である。  『白鳥麗子でございます!』は、美人のお嬢様で、自他共に認める高嶺の花であるがゆえに、好きな相手の前で素直になれず、高飛車な態度をとってしまう白鳥麗子が、意中の相手・哲也との恋に奮闘するラブコメディ。1989年、1993年と二回にわたって実写化され、そして、今年、約20年ぶりにドラマとして放映されることになった。なぜ、この作品は、このように繰り返しドラマ化されてきているのだろうか。  ここのところの映画、ドラマ界には、「80~90年代リメイク」の波が着実に来ている。80年代にスタートして一世を風靡した「あぶない刑事」の新作映画公開、90年代に人気を博した「南くんの恋人」の11年ぶり4度目のドラマ化などが、その顕著な例だろう。また、1月14日スタートの「ナオミとカナコ」では、90年代にアイドル的人気を集めた内田有紀と広末涼子が共演し、こちらも、ある意味90年代ドラマのリバイバルを感じさせる。  これらの中にある狙いは、おそらく「アラフォー」世代の視聴者の心をつかむことではないだろうか。若者のテレビ離れが著しいといわれる昨今であるが、一方、現在のアラフォーというと、80年代後半~90年代、ちょうどトレンディドラマ全盛期に多感な時期をすごし、数々の名作ドラマに熱中した、つまり、ドラマを楽しむことをよく知っている世代である。さらに、40代近くという年齢は、突っ走ってきた人生が少し落ちつき、若い頃好きだったものや趣味を振り返りたくなる年代でもある。そのため、彼らがかつて夢中になった作品を復活させる動きが活発になってきているのではないか。  そう考えれば、今回、「白鳥麗子でございます!」がリメイクされることになったのは、ごく自然な流れに思える。なぜなら、この作品は、原作の突き抜けた面白さや、ドラマ化の際の二代目・松雪泰子の突き抜けた演技などで、当時、とにかく強烈なインパクトを見るものに与えており、80年代~90年代のマンガ、ドラマを語るときに前述した「南くんの恋人」と並んで無視してはいけない、アラフォー世代にとって忘れられない作品の一つだからだ。  ということで、改めてこの『白鳥麗子でございます!』という作品を振り返ってみたいと思うが、この作品の魅力は、とにもかくにも主人公・麗子にある。  お金持ちのお嬢様、なおかつ美人である麗子。それゆえに、人一倍高いプライドの持ち主で、何かにつけて「私は白鳥麗子」と自負し、高飛車に振舞う。さらに、世間知らずで思い込みが激しく、勘違いにまかせてとんでもない行動に出ることもしばしば。トレードマークである「オーホッホッホ!」の高笑いをはじめとする喜怒哀楽とリアクションなど、やることなすこと無茶で強烈で、まさに目が離せないキャラクターなのだ。  ただ、わがままなお嬢様ではあるが、麗子は決して性格が悪いわけではない。過度な勘違いや突拍子もない行動は、哲也を愛するがゆえのことであり、その動機は極めて純粋でひたむき。やることなすこと派手でわがままだが、その奥には哲也を想う一途さが見え隠れする。それだけに、見ている側は、麗子の高飛車ぶりにあきれつつも、ふと見せる恋する乙女の顔に共感せずにはいられず、かくして「白鳥麗子」は多くのファンの心をつかんできたといっていい。   「お嬢様」的なキャラクターは、いつの時代にもドラマや映画の中に存在していた。ただ、強烈さという点で、白鳥麗子に勝る「お嬢様」はなかなかいないだろう。この暴走しがちで、でも中身は純粋な彼女の魅力は、原作がスタートしてかなりの年月がたっても色あせることなく、ついにそのパワーをもってして、ドラマの世界に返り咲いたのである。  さて、今回の三回目のドラマ化にあたって、白鳥麗子を演じるのは、河北麻友子。鈴木保奈美、松雪泰子に続く三代目に彼女が起用された理由を考えてみたい。  白鳥麗子を演じるために必要なのは、まずお嬢様的なスタイルがはまる美少女であることだが、そこは、河北麻友子は「全日本国民的美少女コンテスト」のグランプリ受賞者であり、そのスタイルのよさでモデルとしても活躍している、まさに“お墨付き”。加えて、本人が実際に外国育ちのお嬢様であることも、起用の理由に含まれているのではないかと推測できる。  また、白鳥麗子役に求められるもう一つの必要不可欠な要素は、思いきりのよさである。なぜなら、麗子は、美形のお嬢様であると同時に、リアクションの大きさで笑いをとる“コメディエンヌ”でもあるからだ。実際、1993年版ドラマで主役をつとめた松雪泰子は、「オーホッホッホ!」の高笑いや高飛車で大げさなリアクションなどの体当たりで麗子を演じて、視聴者に強烈な印象を残したことで知られている。  この点でも河北麻友子は、『世界の果てまでイッテQ!』でリアクション芸人・出川哲朗とともに、ときに芸人なみに身体をはる「出川ガール」として活躍しており、ポテンシャルの高さは十分といえる。つまり、お嬢様スタイルが決まる美貌と、リアクション芸に挑めるガッツの両方をかねそなえているからこそ、彼女が白鳥麗子役に抜擢されたのではないか。  新しい『白鳥麗子でございます!』は、本日1月14日よりtvkにて放映がスタートする。河北麻友子がその美しさを輝かせ、また、思いきりのよさを大いに発揮してパワフルな麗子を演じてくれることを期待したい。また、他のキャスト陣で気になるのは、麗子の母親役を演じるさとう珠緒。あの長年貫いているぶりっ子キャラを役柄に織り込んでいい味を出してくれるのではないかと、こちらも楽しみにしている。 ◼︎田下愛(たおり あい) フリーランス・ライター。雑誌、書籍、Webメディアで、幅広いジャンルの仕事をこなし、現在は、映画・マンガ・音楽などエンターテイメントを軸に活動中。著書に「選挙はエンターテイメントだ!」(HK INTERNATIONAL VISION)がある。ブログTwitter ◼︎ドラマ情報 『白鳥麗子でございます!』 出演者:河北麻友子、水野 勝、田村侑久、辻本達規、田中俊介、吉原雅斗、大西礼芳、尾高杏奈、上野優華、内藤理沙、さとう珠緒、坂田雅彦、春海四方、 松金よね子 原作:鈴木由美子「白鳥麗子でございます!」(講談社Kiss 所載) 脚本:大谷洋介 監督:久万真路 松岡達矢 水波圭太 制作:キュー・テック 製作:2016「白鳥麗子でございます!」製作委員会 公式サイト:http://www.cinemart.co.jp/shiratori/index.html 【放送日】 tvk:2016年1月14日(木)23:00~ テレ玉:2016年1月15日(金)24:30~ チバテレ:2016年1月16日(土)23:30~ メ~テレ:2016年1月18日(月)24:20~ KBS京都:2016年1月14日(木)23:00~ サンテレビ:2016年1月18日(月)23:00~ KBC九州朝日放送:2016年1月18日(月)25:50~ とちテレ:2016年1月20日(水)20:00~ RKK熊本放送:2016年1月25日(月)25:28~

NEWS・加藤シゲアキの小説は、なぜ映像化に向いていたのか?

【リアルサウンドより】  NEWSの加藤シゲアキ原作の小説が、2作品同時に映像化された。9日に公開となった映画『ピンクとグレー』は、作家・加藤にとっての処女作となる長編小説で、全4回の連続ドラマとして放送中の『傘を持たない蟻たちは』は、最新の短編集である。本稿では、アイドルという本業を持ちながら作家活動をする加藤の2作品を読み解き、作家としての加藤に迫るとともに、その作品が映像化されたことの意義を読み解きたい。  芸能界でともに生きる親友2人を主人公に、生と死について描いた処女作『ピンクとグレー』は、2012年に刊行された。加藤が所属するNEWSは、開始当初は9人グループだったものの、メンバーが次々と脱退し、2011年には、NEWSの顔とも言われていた山下智久と錦戸亮までがグループを離れ、現在の4人編成になった。加藤は、自身が小説を書くと決意したきっかけについて、グループが上手く行かなかったことを挙げており、2011年は作品の執筆時期とも重なる。二人の脱退が、作品にどれほど影響したかは本人のみぞ知るところだが、『ピンクとグレー』には芸能界の内情と抗えない格差が生々しく描かれており、アイドルとして苦悩する青春を送った加藤だからこそ生み出せた作品であることは間違いないだろう。  『ピンクとグレー』で主演を演じたのは、奇しくも加藤の後輩であり、主人公と同じように売れっ子であるHey!Say!JUMPの中島裕翔だ。2013年に高視聴率を記録し、「倍返し」などのキメ台詞も話題となった『半沢直樹』に出演して以来、単独で連続ドラマの主演を果たすなど、俳優として勢いがある。また、その親友役を菅田将暉が演じた。原作とは時系列が異なり、映像だからこその仕掛けも施され、”幕開けから62分後の衝撃”というキャッチコピーが煽るように、驚きの展開も用意されている。加えて、時系列を変えたことによって、原作では描かれていない”続き”が見られるのもポイントだ。映像化の利点を最大限に活かし、この仕掛けを生み出した映画製作陣の腕も素晴らしいが、これを可能にした加藤シゲアキの原作もまた、物語としての強度を改めて示したといえよう。原作では曖昧にされていた部分を詳細にしたり、時間軸に変更を加えてもなお、本作の本質的な魅力が損なわれないのは、加藤シゲアキが実際に芸能界で味わった苦悩が、驚くべき筆力で書き綴られていたからにほかならない。そして、後輩の現役アイドルが主演を演じたことによって、本作はフィクションを越えた、ある種のリアリティを獲得するまでに至っている。  9日から放送が始まった連続ドラマ『傘を持たない蟻たちは』でも同じことが言える。原作は、それぞれが独立した6編の短編集だが、連続ドラマではひとつの短編を軸に、他の短編の時系列を重ねることによって再構築している。原作は2015年に出版された最新作であり、初めて芸能界以外を舞台に”生と性”を描いた作品で、加藤にとっては作家としての腕が真に試される一冊である。先日放送された第1話では、主人公である落ち目のSF作家・橋本純(桐山漣)の小説(空想)として、原作のうちの1編が登場した。ほかにも、橋本がすでに出版した作品として、会話の中に6編のタイトルが出てくるなど、作中作として原作を登場させるメタ構造になっていることがわかる。また、加藤が原作、出演、主題歌と三役をこなしていることも見逃せない。加藤が作中に登場することによって、さらに虚実のあわいが混濁しているのだが、だからこそ加藤の描き出そうとするテーマはより鮮明に見えてくる仕掛けだ。  ジャニーズのアイドルが本格的に作家活動をするのは極めて異例なことである。しかも、『ピンクとグレー』は、虚実の入り混じった世界に生きるアイドル自身が、そこで感じた人生の苦悩を、脚色を加えながらも大胆に描いている。そして、虚構性の中に描かれる生と死こそが、これまでの加藤の作品に通底するテーマでもある。  今回の2作品が原作とはまた違った新鮮さを感じさせるのは、映像化にともない、物語に別次元のアプローチを加えることで、その虚構に新たな視座を与えたからだろう。たとえば、現役のアイドルである中島は今回の役柄をどんな心境で演じたのか、自らが生み出したキャラクターと対峙するとき、加藤は何を思ったのか。そこに思いを馳せたとき、加藤の作品はいとも簡単に虚実の壁を越え、作中の人物たちの言葉はさらなるリアリティとともに立ち上がるはずだ。 (文=小島由女) ◼︎ドラマ情報 『傘を持たない蟻たちは』 毎週土曜23時40分から放送中(全4回) 原作:加藤シゲアキ 出演者:桐山漣、加藤シゲアキ、阪田マサノブ、足立梨花、渡辺舞、武田玲奈、南沢奈央、竜雷太 他 脚本:小川真 編成企画:羽鳥健一 プロデュース:江森浩子 演出:河野圭太 制作:フジテレビ、共同テレビ 公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/kasaari/index.html

NEWS・加藤シゲアキの小説は、なぜ映像化に向いていたのか?

【リアルサウンドより】  NEWSの加藤シゲアキ原作の小説が、2作品同時に映像化された。9日に公開となった映画『ピンクとグレー』は、作家・加藤にとっての処女作となる長編小説で、全4回の連続ドラマとして放送中の『傘を持たない蟻たちは』は、最新の短編集である。本稿では、アイドルという本業を持ちながら作家活動をする加藤の2作品を読み解き、作家としての加藤に迫るとともに、その作品が映像化されたことの意義を読み解きたい。  芸能界でともに生きる親友2人を主人公に、生と死について描いた処女作『ピンクとグレー』は、2012年に刊行された。加藤が所属するNEWSは、開始当初は9人グループだったものの、メンバーが次々と脱退し、2011年には、NEWSの顔とも言われていた山下智久と錦戸亮までがグループを離れ、現在の4人編成になった。加藤は、自身が小説を書くと決意したきっかけについて、グループが上手く行かなかったことを挙げており、2011年は作品の執筆時期とも重なる。二人の脱退が、作品にどれほど影響したかは本人のみぞ知るところだが、『ピンクとグレー』には芸能界の内情と抗えない格差が生々しく描かれており、アイドルとして苦悩する青春を送った加藤だからこそ生み出せた作品であることは間違いないだろう。  『ピンクとグレー』で主演を演じたのは、奇しくも加藤の後輩であり、主人公と同じように売れっ子であるHey!Say!JUMPの中島裕翔だ。2013年に高視聴率を記録し、「倍返し」などのキメ台詞も話題となった『半沢直樹』に出演して以来、単独で連続ドラマの主演を果たすなど、俳優として勢いがある。また、その親友役を菅田将暉が演じた。原作とは時系列が異なり、映像だからこその仕掛けも施され、”幕開けから62分後の衝撃”というキャッチコピーが煽るように、驚きの展開も用意されている。加えて、時系列を変えたことによって、原作では描かれていない”続き”が見られるのもポイントだ。映像化の利点を最大限に活かし、この仕掛けを生み出した映画製作陣の腕も素晴らしいが、これを可能にした加藤シゲアキの原作もまた、物語としての強度を改めて示したといえよう。原作では曖昧にされていた部分を詳細にしたり、時間軸に変更を加えてもなお、本作の本質的な魅力が損なわれないのは、加藤シゲアキが実際に芸能界で味わった苦悩が、驚くべき筆力で書き綴られていたからにほかならない。そして、後輩の現役アイドルが主演を演じたことによって、本作はフィクションを越えた、ある種のリアリティを獲得するまでに至っている。  9日から放送が始まった連続ドラマ『傘を持たない蟻たちは』でも同じことが言える。原作は、それぞれが独立した6編の短編集だが、連続ドラマではひとつの短編を軸に、他の短編の時系列を重ねることによって再構築している。原作は2015年に出版された最新作であり、初めて芸能界以外を舞台に”生と性”を描いた作品で、加藤にとっては作家としての腕が真に試される一冊である。先日放送された第1話では、主人公である落ち目のSF作家・橋本純(桐山漣)の小説(空想)として、原作のうちの1編が登場した。ほかにも、橋本がすでに出版した作品として、会話の中に6編のタイトルが出てくるなど、作中作として原作を登場させるメタ構造になっていることがわかる。また、加藤が原作、出演、主題歌と三役をこなしていることも見逃せない。加藤が作中に登場することによって、さらに虚実のあわいが混濁しているのだが、だからこそ加藤の描き出そうとするテーマはより鮮明に見えてくる仕掛けだ。  ジャニーズのアイドルが本格的に作家活動をするのは極めて異例なことである。しかも、『ピンクとグレー』は、虚実の入り混じった世界に生きるアイドル自身が、そこで感じた人生の苦悩を、脚色を加えながらも大胆に描いている。そして、虚構性の中に描かれる生と死こそが、これまでの加藤の作品に通底するテーマでもある。  今回の2作品が原作とはまた違った新鮮さを感じさせるのは、映像化にともない、物語に別次元のアプローチを加えることで、その虚構に新たな視座を与えたからだろう。たとえば、現役のアイドルである中島は今回の役柄をどんな心境で演じたのか、自らが生み出したキャラクターと対峙するとき、加藤は何を思ったのか。そこに思いを馳せたとき、加藤の作品はいとも簡単に虚実の壁を越え、作中の人物たちの言葉はさらなるリアリティとともに立ち上がるはずだ。 (文=小島由女) ◼︎ドラマ情報 『傘を持たない蟻たちは』 毎週土曜23時40分から放送中(全4回) 原作:加藤シゲアキ 出演者:桐山漣、加藤シゲアキ、阪田マサノブ、足立梨花、渡辺舞、武田玲奈、南沢奈央、竜雷太 他 脚本:小川真 編成企画:羽鳥健一 プロデュース:江森浩子 演出:河野圭太 制作:フジテレビ、共同テレビ 公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/kasaari/index.html

TOKIO・長瀬智也主演のドラマはなぜハズレがないのか? 役者としての個性を考察

【リアルサウンドより】  TOKIOの長瀬智也が、2016年1月13日からフジテレビ系水曜22時枠で始まる連続ドラマ『フラジャイル』にて、同局ドラマとしては『ムコ殿2003』以来13年ぶりとなる主演を務める。『フラジャイル』は、漫画誌「月刊アフタヌーン」で連載中の草水敏氏原作、恵三朗作画の同名漫画を実写化したもので、病気の原因を解明し、患者への診断を科学的に確定させる「病理医」に焦点を当てた医療ドラマだ。  長瀬はこれまで数多くの名作ドラマに出演し、「長瀬智也が主演するドラマはハズレがない」と言われるほど、ドラマファンからの厚い信頼を築いてきた。それは長瀬自身が、単純に作品に恵まれてきただけではなく、彼が持つ俳優としてのポテンシャルが、名作を生み出す要因のひとつだったからだろう。そこで本稿では、長瀬の俳優キャリアを振り返るとともに、その実力を検証し、新作『フラジャイル』の見どころを明らかにしていきたい。  俳優としてターニングポイントになった作品に、まずは1996年から始まるフジテレビで放送された『白線流し』が挙げられる。長野県松本市を舞台に、高校卒業間近の男女7人の青春を描いたこの作品は、“ポスト北の国から”とも呼ばれ、彼らの成長とともに定期的にスペシャルドラマが作られた名作だ。丁寧でノスタルジックなドラマ作りの中で、長瀬は定時制に通う純粋で哀愁のある男の役を演じ、俳優としての認知度を高めた。  2000年にTBSで放送され、若者にカルト的人気を誇った『池袋ウエストゲートパーク』での真島誠役も、長瀬にとって転機となった作品だ。元は有名だった不良少年が、池袋のトラブルシューター的役割として「めんどくせえ!」と言いつつも、様々なトラブルやカラーギャングの抗争を解決していく物語で、長瀬の代表作とも言われている。脚本家の宮藤官九郎と出逢い、窪塚洋介や妻夫木聡など同世代の役者と共演したことで、従来のジャニーズ俳優の枠にとどまらない刺激的な演技を披露するに至った。カリスマ的な存在感を放つ役柄だったことから、多くの男性ファンも獲得している。この作品以降、ワイルドだけどちょっとヤンチャで変わり者の役が定着した長瀬は、その後、『ビッグマネー』、『タイガー&ドラゴン』、『マイ★ボス マイ★ヒーロー』、『クロコーチ』などの作品でも、そうした役柄を演じている。  2001年フジテレビで放送された『ムコ殿』では、天涯孤独の抱かれたい男NO.1のシンガーソングライター・桜庭裕一郎役を演じた。温かい家庭のある一般人の彼女とのラブストーリーである本作では、芸能人としての顔と私生活の顔、その硬軟使い分ける演技を披露したほか、本職であるボーカリストとしての魅力も発揮した。  上記の作品群で一貫して言えるのは、長瀬が演じるのは、芯を曲げない男の役柄が多く、そのキャラクターの強さが物語を動かす原動力となっていることだ。今回の『フラジャイル』で長瀬演じる岸京一郎は、「強烈な変人だが極めて優秀」と評される病理医で、患者の命を救うため、そして己が信じる医療の正義のために行動をする偏屈イケメン天才医師だ。強烈な個性を備えた役柄は、まさに長瀬に打ってつけといえよう。長瀬もまた公式ホームページで、「自分なりの個性で主人公の個性を紐解いて、いい意味での偏屈さを出しながらつくっていければ、と思っています。僕自身、主人公のキャラクターは大好きで、魅力的に映ります。自分がそういう風に感じているところを、ドラマを見てくださる方にも同じように感じてもらえたら嬉しいです」とコメントしている。  共演者には、武井咲、野村周平、北大路欣也、そして長瀬とは『池袋ウエストゲートパーク』や『ムコ殿』のほか、2010年に宮藤官九郎脚本のドラマ『うぬぼれ刑事』などで数多く共演している小雪が名を連ねている。小雪は出産後初となるドラマで、いまの長瀬とどんな掛け合いを見せてくれるのかにも注目だ。また、脚本家の橋部敦子は、『僕の生きる道』、『僕と彼女と彼女の生きる道』、『僕の歩く道』の「僕シリーズ3部作」や、『不毛地帯』、『フリーター、家を買う。』などを手がけてきた、フジテレビドラマきってのヒットメーカー。医療ドラマは数あれど、医療上最も重要とされる病理医を題材にするということからも、挑戦的な作品であることが伺える。長瀬の強烈なキャラクターが、この物語をどう動かしていくのか、期待が高まるところだ。 (文=本 手) ◼︎ドラマ情報 『フラジャイル』 出演者:長瀬智也、武井咲、野村周平、小雪、北大路欣也ほか 原作:草水敏(「フラジャイル」)、恵三朗(講談社「アフタヌーン」連載) 脚本:橋部敦子 制作:フジテレビ 制作著作:共同テレビ 公式サイト:http://www.fujitv.co.jp/FG/index.html

西尾維新原作『傷物語〈Ⅰ鉄血篇〉』はいかにして”映画らしいアニメ映画”を超えたか

【リアルサウンドより】  昨年10月から日本テレビ系で放送されていたテレビドラマ『掟上今日子の備忘録』で、異様なほどの文字情報の氾濫に違和感を感じてしまったものの、原作クレジットに西尾維新の名前が記されていては、納得しないわけにはいかない。彼の作品ではおなじみの、言葉遊びで組み立てられた台詞回しやキャラクター名のインパクトは、実写では妙に浮いて見えてしまうが、これがアニメーションという舞台に立てば、作品の世界観として不思議とすんなり受け入れてしまえるものだ。  2009年にアニメ化された『化物語』に始まる「<物語>シリーズ」は、現在では19巻まで刊行されており、1月15日には最新刊である『業物語』が発売となる人気シリーズなのだ。『傷物語』はその3巻目であり、2つ目の物語に当たるが、最初にアニメ化の話が出たのは、もう5年以上前に遡る。それから一度、2012年に劇場公開されると決定したものの延期が決まり、それ以後に発売した作品も含め、シリーズ作のほとんどすべてがアニメ化される中で、気が付いたらもう2016年になっているではないか。主人公が怪異なものと遭遇する、シリーズを通して見ても極めて重要な部分を描いているこの『傷物語』は、追いかけてきたファンにとっては待望のアニメ化である。もっとも、エピソードゼロとも呼べる位置付けにあるから、これまでこのシリーズに触れたことがない人が、本作から入ることもまったく問題がない。  まさにようやく、という感じで昨年の秋に映画版公開の情報が出ると、それが3部作として公開されるという喜びもさることながら、第1弾予告編のあまりのスタイリッシュさに心を奪われたものである。この予告編の段階から、ちょっとした違和感に気付いた人も少なくないだろう。他の多くのアニメーション映画がテレビ向けの画郭で作られている中で、この作品だけシネスコの画郭で制作されているのだ。日本のアニメ映画で全編シネスコを採用した作品というと、古くは『少年猿飛佐助』が思い浮かぶが、それ以降では2012年公開された『エヴァンゲリヲン新劇場版:Q』ぐらいで、ほとんどが4:3のスタンダードかビスタ(もしくは16:9のHD画郭)で制作されているのだ。  本作の制作会社であるシャフトはこれまでテレビアニメでもこのシネスコの画郭を何度も採用してきた。同社の前作『劇場版魔法少女まどかマギカ〔新編〕叛逆の物語』ではオープニングシーンに上下黒みを帯びたレターボックスのシネスコ画面にしていたはずだ。元々4:3の画面で作られていたアニメーションでは、横のレイアウトがかなり狭まってしまい、キャラクターを動かすためには必然的にカメラを振らなければならなかった。それが16:9の画面になったことで、カメラを振る必要が減り、その分フレーム内でのキャラクターの動きの自由度が増したのである。それがさらに横長のレイアウトが取れるシネスコになれば、自由度を活かすために、そのモーションの正確さがより重要となり、その労力は計り知れないものがある。単に上下に黒みを加えた擬似的なシネスコでは、映画としての画面に耐えうるものが完成しないのだ。  そういった点で、『傷物語 Ⅰ鉄血篇』の公開がここまで遅れたことを受け入れないわけにはいかない。しかも、これほどの期間を要して作り上げられた、わずか1時間ほどの第1章が、あまりにも見事に「映画」としてのスケールを保っているのだから、驚愕である。セリフを排して映像だけで見せつける数分間の冒頭シーンに始まり、蝋燭の火を消すかのように一瞬で切られる章末まで、映画館の巨大なシネスコ画面いっぱいに映し出される西尾維新ワールドに、ただただ身を任すことしかできないだろう。突然実写を加工した背景が登場したり、画のタッチが激しくなったりすることも、恒例の文字の羅列も、この画面のスケールで味わえるのだから面白みが増す。  主人公・阿良々木暦と羽川翼が出会う序盤のシーンから、画面の奥行きに加えて、その大きな横幅を存分に活かし、キャラクター同士の距離感を描き出すと、中盤の見せ場であるキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと遭遇する場面で、シネスコ画面の真価を発揮する。地下の駅のホーム中央に横たわるキスショットを見る阿良々木の背後に映るエスカレーター、そのショットのカットバックで画面のどこまでも奥に続くプラットフォームによってもたらされる虚無感を描き出すだけでなく、横幅に対する縦の狭さによって、ひどく閉鎖的な空間を演出するのである。  それだけではない。この駅のホームで繰り広げられる一連のシーンは、極めて映画的な一場面であると思える。そもそも駅という舞台設定が物語の始まりの場所として描き出されるということは、リュミエール兄弟のラ・シオタ駅に始まる映画史そのものである。さらに、手足を失ったキスショットの周囲を囲う血液の赤色には光の当たり具合や、その赤が乗る場所によって微妙に色のタッチが異なり、まるでフィルムによって色のバリエーションが豊かになることを想起してしまうほど、想像力を掻き立てられてしまうのである。そもそも『化物語』の時点で、ジャン=リュック・ゴダール作品へのオマージュを捧げているという話は聞いたことがあったが、顕著にそれが窺えることがあまりなかったので、本作で僅かばかりでも映画的なオマージュを感じることができたのはとても嬉しく思える。  昨今の日本のアニメ映画では、数多くのオマージュなどでアニメーションの枠を超えた「映画らしさ」を全面的に打ち出そうとする工夫が多くなされていると見てとれる。しかし本作に限っては、内容面も規格面も両方でそれをやってのけることにより、従来の主流を打ち壊すことに成功した。この挑戦的なチョイスによって、圧倒的な存在感を確立して、「映画らしいアニメ映画」ではなく、毅然とした「映画」であることを証明したのだ。  今回の『鉄血篇』、そして夏に公開する『熱血篇』と、公開時期が未定となる『冷血篇』の3作に分かれるだけあって、まだ「起」の部分である本作では物語が大きく進むことはない。とはいえ、それぞれのキャラクターの巡り合わせを描き、また実質的にわずか4人という極めて少ない登場キャラクターの対話を軸に進めることで、その体感時間は非常に短く思える。そう考えると、あえて3部に分ける必要性があったのか、とも思ってしまうのだが、1作を作るために費やす時間を考えたら致し方ないことであろう。いずれこの3作が1本の映画として再上映されたら、それも面白そうな予感がする。  エンドロールの最後に次作『熱血篇』の予告編が登場する。これもまた、シネスコの画面ギリギリまでいっぱいに張り巡らされた文字情報の洪水で、観客を圧倒するパワフルな予告編であった。とりあえずは、残りの2作が延期されることなく無事に公開されることを願うばかりである。 ■久保田和馬 映画ライター。1989年生まれ。現在、監督業準備中。好きな映画監督は、アラン・レネ、アンドレ・カイヤット、ジャン=ガブリエル・アルビコッコ、ルイス・ブニュエル、ロベール・ブレッソンなど。Twitter ■公開情報 『傷物語〈Ⅰ鉄血篇〉』 公開中 原作:西尾維新「傷物語」(講談社BOX) 総監督:新房昭之 監督:尾石達也 キャラクターデザイン:渡辺明夫 守岡英行 音響監督:鶴岡陽太 音楽:神前 暁 アニメーション制作:シャフト キャスト 阿良々木暦:神谷浩史 キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード:坂本真綾 羽川翼:堀江由衣 忍野メメ:櫻井孝宏 配給:東宝映像事業部 公式サイト:http://www.kizumonogatari-movie.com/