ムロツヨシの真骨頂は“切り替えの速さ”にアリ? 『悪党たちは千里を走る』に見る役者としての実力

【リアルサウンドより】  
akutou-mainth.jpg

『悪党たちは千里を走る』公式サイト

 気がつけばドラマや映画、バラエティー番組などで目にする機会がすっかり多くなった俳優、ムロツヨシ。映画『サマータイムマシン・ブルース』(2005年)でデビューして以来、本広克行監督作品の常連キャストとして知る人ぞ知る存在であった彼が、満を持して連ドラの「主演」を張ることで話題のドラマ『悪党たちは千里を走る』(毎週水曜23時53分〜/)が、1月20日よりスタートした。  今から5年ほど前、山田孝之主演のドラマ『勇者ヨシヒコと魔王の城』(2011年)で、金髪マッシュルームカットの魔法使い「メレブ」役を怪演し、注目を集めたムロツヨシ。その後、同作の監督である福田雄一作品の常連キャストとなり、個性的な脇役としてドラマに舞台に活躍する一方、内村光良のコント番組『LIFE!』(2013年〜)の出演をきっかけに、バラエティー番組にも登場するようになった彼のイメージは、「ウザいけど、どこか可愛らしい」……そんな感じではなかっただろうか。しかし、今回のドラマで彼が演じるのは、『勇者ヨシヒコ』の「メレブ」役が典型的であったような、コミカルでアクの強いキャラクターではなく、ふとしたことで犯罪に巻き込まれてしまう、ごく普通の人物だ。それだけに、「役者」としての真価が問われる作品になると思われるのだが……まずは、そのストーリーを見ていくことにしよう。  「ある日突然、自分が悪の道に足を踏み入れたとしたら、それでもまだ俺の声は誰かに届くのだろうか」……そんなムロツヨシのシリアスな独白のもと、巻き戻される時間軸。彼が演じる主人公・高杉は、自身の企画をパクッた上司の態度にブチ切れて、衝動的に会社を辞めてしまったテレビ・ディレクターだ。しかも、以前の企画で高杉が会社に被らせた1000万の借金付きで。しかし、フリーで仕事をしようにも、会社を離れた高杉のことなど、誰も相手にしてくれない。彼の身を案じてくれるのは、後輩のAD園部(山崎育三郎)ただひとり。八方塞がりの現実に直面した高杉は、園部との会話の中で、「ある計画」を思いつく。親が大金持ちで有名な子役・巧(大西利空)の飼い犬を誘拐して、身代金をせしめるのだ。  そう思いついた矢先、「高杉と昨夜一晩過ごした」と言う謎の女・菜摘子(黒川芽以)が、高杉の家を訪れる。高杉たちの「愛犬誘拐計画」を瞬時に察した彼女は、自身も計画に参加することを表明。というか、彼女は何者なのか? その疑問が解決されぬまま、今度はなぜか子役の巧が、ひとり高杉の家にやって来る。そして言うのだ。「犬よりも僕を誘拐してよ。僕は僕自身の価値を知りたいんだ」。犬を誘拐するならまだしも、子どもの誘拐なんてもってのほか。巧の願いを却下し、家に送り返す高杉だが、そんな彼の元に今度は「ジョン・レノン」と名乗る謎の人物から電話が掛かってくる。「巧を誘拐した」。なぜか高杉や園部、さらには菜摘子のことまで知っている「ジョン・レノン」は、さらに続けて言う。「今から犯人は私ではなく“あなた”です」と。  初回にして、まるでジェットコースターのように目まぐるしい展開を見せる物語。ムロツヨシ演じる主人公・高杉は、理想を持った熱い男でありながら、その熱さがときに自己中心的で他人を受け入れない偏屈さのようにも見える人物だ。ムロツヨシの十八番であるエクストリームなコメディ調の芝居は影を潜め……とまでは言わないが、その「滑稽さ」が、ある種の「痛さ」に転じているところが、今回の役どころの面白い点だろう。そんな彼がふとした瞬間に見せる、「虚無」と「孤独」の表情。それは確かに観る者を惹きつける何かがある。しかし、それ以上に印象的だったのは、そんな表情の変化も含めた彼の「切り替えの速さ」だろう。コメディからシリアスへと目まぐるしく変わる荒唐無稽なプロットを、持ち前の反射神経とキレのある動きによって乗りこなす、役者・ムロツヨシの真骨頂。  そこで大きな役割を担っているのは、高杉の相棒・園田役を演じる山崎育三郎、謎の女・菜摘子を演じる黒川芽以という共演者たちの存在だ。貫井徳郎の同名タイトルの小説を原作としつつも、細かな設定に変更を加え、高杉・園田・菜摘子という3人の会話劇となるようアレンジされた脚本。高杉(黄色)・園田(緑)・菜摘子(赤)といった具合に、そのアンサンブルが映えるよう明確に定められた衣装ともども、「誘拐犯」の濡れ衣を着せられたこの3人が、謎の「犯人」からの要求に、チームとしてどう対処しながら、ことの真相に辿り着いてゆくのか。それが、このドラマの「肝」なのだろう。  ミュージカルや舞台で活躍し、初の本格的な連ドラ出演となった『下町ロケット』の好演で評価を高めた山崎育三郎。そして、28歳にして芸歴20年を超える演技派であり、近年は「キレイなお姉さん」役もすっかり板についてきた黒川芽以。主演のムロツヨシをはじめ、舞台経験も豊富なこの3人による小気味いいセリフの応酬は、観るものを飽きさせない。ただし、その展開の速さと会話のテンポ感によって忘れそうになるけれど、このドラマ、第1回の時点で、実は大小様々な「謎」が散りばめられていることも指摘しておくべきだろう。というか、当たり前のように高杉たちと行動を共にするようになった「菜摘子」とは、そもそも何者なのか? そして、園部の嫁が高杉の元カノという設定は、今後物語にどう影響していくのか。さらには、一瞬挿入された高杉の15年前の回想シーン。彼が自主制作した映画に好感を持った少女……高杉の心の拠り所となっている少女とは、果たして何者なのか? そして、何よりも「ジョン・レノン」を名乗る犯人の正体とは? さまざまな謎を撒き散らしながら猛スピードで走り始めたドラマ『悪党たちは千里を走る』。それは一体、どんな結末を迎えるのだろうか? そして、そのときムロツヨシ演じる高杉は、そして3人の関係性は、どんなふうに変化を遂げているのだろうか? コメディリリーフとしての役割から、物語を推進する主人公へ。ムロツヨシのキャリア的にもひとつの転換点となるであろう本作に、引き続き注目したい。 ■麦倉正樹 ライター/インタビュアー/編集者。「CUT」、「ROCKIN’ON JAPAN」誌の編集を経てフリーランス。映画、音楽、その他諸々について、あちらこちらに書いてます。 ■ドラマ情報 『悪党たちは千里を走る』 毎週水曜日23時53分〜TBS系で放送中 出演:ムロツヨシ、山崎育三郎、黒川芽以、光石研、紺野まひる、堀部圭亮、大西利空、林みなほ(TBSアナウンサー) 原作:貫井徳郎 脚本:渡邉真子 音楽:木村秀彬 プロデュース:池田克彦 演出:岡本伸吾 田中健太 製作著作:TBS 番組公式サイト:http://www.tbs.co.jp/akuto2016/

嵐・大野智がラブコメディーに挑戦する意義は? 明治大学の名物講師に訊く

【リアルサウンドより】  嵐の大野智が4月スタートの日テレ系連続ドラマ『世界一難しい恋』にて、自身初のラブコメディーに挑戦することを発表し、話題となっている。大野が演じるのは、老舗旅館の後継ぎでホテル業界に進出した若社長で、客を満足させることにかけては天才的な資質を持つものの、女性を喜ばせる才能は一切ないという変わり者。恋に奮闘する姿をコミカルに演じることについて、大野は「ラブコメは初めてですが『コメディー』がついていて安心した。純粋なラブストーリーは恥ずかしくて出来ないですから」とコメントしている。  これまで『怪物くん』(日テレ系)や『死神くん』(テレビ朝日系)といった作品で、漫画的なキャラクターを演じて好評を博してきた大野がラブコメディーに挑戦することには、どんな意義があるのか。明治大学法学部で嵐を題材にした講義を行っている関修氏に訊いた。 「大野さんは嵐というグループの中でも特殊なポジションにいるひとで、リーダーではあるものの率先してメンバーを引っ張っていくのではなく、一歩引いてグループを後ろから眺めているような、どこか達観したようなところがあります。そうした立ち振る舞いは彼の役者としてのスタンスにも通じていて、自らの個性を前面に出してリアリティのある演技をするというより、非日常的なキャラクターとして存在感を発揮するほうが得意です。『怪物くん』や『死神くん』などの役柄は、だからこそハマり役となったのでしょう。今回はラブコメディーに挑戦するということですが、大野さん自身が言っているように“コメディー”であることが重要で、リアリティを求められるシリアスな役柄ではないところがポイントになると思います。大野さん本来の性格を出すのではなく、非日常的なキャラクターを演じるという点においては、これまでの作品の延長線上にあるものですし、彼にとっても演じやすい役柄なのでは。コメディーという枠組みの中でなら、ラブシーンでも振り切った演技が期待できるかもしれません」  また今回、大野が新たな役どころに挑戦することは、嵐というグループの新たな方向性も示唆していると、同氏は続ける。 「2014年にグループ結成15周年を迎えて以降、嵐はこれまでとは違ったフェーズに入ったのではないかと思います。これまで嵐はメンバーの主演ドラマで主題歌を歌ってきましたが、2015年1月のドラマ『ウロボロス〜この愛こそ、正義。』(TBS)では、同期である生田斗真さんをサポートするような形で主題歌『Sakura』を提供しました。おそらく、アイドルとして頂点を極めた彼らは、新たなことに挑戦しなければいけない段階にあるのだと思います。相葉雅紀さんは2015年4月のドラマ『ようこそ、わが家へ』(フジテレビ)でストーカーに立ち向かう青年を演じ、役者として新境地を開きましたが、今回大野さんがラブコメディーに挑むのも、新しい嵐を象徴する事象のひとつなのかもしれません」  大野智のコメディー路線は果たしてどう評価されるのか。4月の放送を楽しみに待ちたい。 (文=松下 博夫)

アイドルとJホラーの“密接な関係”はどう変化してきた? 70年代〜10年代の潮流を考察

【リアルサウンドより】  アイドルとホラー映画の相性が良いことはこれまでも多く論じられてきた。「演技力が見えにくい」「画として美しい」「通常とのギャップがいい」「低予算ゆえのビジネス戦略」などが理由にあがるが、それだけでは語りきれない「宿命」の歴史がある。(なお本稿での「アイドル」とは主に女性アイドルを指す)  スターの時代が終焉に近づき、テレビ番組でタレントオーディションが相次いで開催されるようになった70年代の末、大林宣彦監督がデビュー作『HOUSE』で池上季実子や大場久美子たちを絶叫させたのがアイドルホラー映画の本格的な始まりだろう。このとき大林監督はプロモーションとして7人の18歳の出演者を週刊マガジンのグラビアに売り込んだ。映画のためにアイドルが作り出されたのだ。  続く80年代はアイドルが黄金時代を迎え、薬師丸ひろ子の『セーラー服と機関銃』以降の角川映画のようにファンのために作られるアイドル映画が増えた。しかし90年代になるとアイドルブームは氷河期を迎え、日本映画もまた不遇にあった。その流れを変えたのが90年代末に起こった「Jホラー」ブームだ。そのさきがけとなった『女優霊』の名が予期したように、ホラーはアイドルから女優に変貌する舞台となり、『リング』シリーズの松嶋菜々子や『死国』の栗山千明、『富江』の菅野美穂らを覚醒させた。  一時国産ホラーの勢いが減退するも、2000年代後半からアイドル戦国時代に突入し、2つの関係はまた密接になった。メジャー作では元AKB前田敦子が主演した『クロユリ団地』がヒットし、一方でももいろクローバーが白石晃士監督のフェイクドキュメンタリーホラー『シロメ』で映画初主演を果たした、などなど……こうして振り返ってみるとアイドルとホラーはもはや理屈を超えた運命共同体であるように思える。アイドルあるところにホラーあり、その逆も然り。今や劇場公開されないものも含めれば作られていない日はないと言える。  そんなアイドルとホラーが共に飽和状態とも言われている近年、「アイドル」×「ホラー」×「フリーゲーム原作」を配信するという形がみられる。これまでもホラーゲームの映画化はあったが、劇場公開と同時にニコニコ動画で本編を有料放送することが特徴だ。2014年7月に公開された『青鬼』は、既にプレイ動画で人気を獲得していた無料ゲームを原作として、AKB48の入山杏奈が主演を務めたことで話題になり、先述の配信方法で新たな観客層を取り入れることに成功した。  この低予算ホラーの大ヒットを皮切りに、同様の「アイドル」×「ホラー」×「フリーゲーム原作」配信の法則による映画化は一気に定番化し、生駒里奈(乃木坂46/AKB48)の『コープスパーティ』や緑川百々子と倉持由香らの『デスフォレスト 恐怖の森』シリーズ、朝倉あきと武田玲奈の『ハロウィンナイトメア』シリーズなどが続いた。いずれのタイトルも怪物が主人公らに襲いかかってくるというシンプルなパニックホラーで、ニコニコ動画のコメントでツッコミを受けつつ愛されていたアメリカのB級Z級映画的な趣もあって、たしかにネット配信で観ると楽しみが増す。ホラーにとっては怯えるのと同等にツッコミも正しいリアクションだと思うし、よくよく考えてみれば元祖『HOUSE』もじっくり観るより実況鑑賞する方に適していたのではないか。  少女らが次々に食われてしまう点も共通しており、これらフリーゲーム原作ホラーは図らずもアイドルホラーの系譜を正当に受け継いでしまっているかもしれない。ちなみに1月30日に公開された水谷果穂主演『バレンタインナイトメア』(今野恭成監督)はかつて自殺した少女が蘇って高校生らを次々と襲っていくものだが、そこに青春劇とラブストーリーがうまく絡まっており、フリーゲーム原作の系列が徐々に成長していることの証明とも言える作品だ。今後このラインからどのようなものが生まれてくるのか、決して無視できない。  他にも現在のアイドルホラーには、作家性の強い監督と個性的なインディーズアイドルがコラボレートしたものがある。たとえばデビュー長編『クソすばらしいこの世界』が話題になった朝倉加葉子が監督し「ゆるめるモ!」主演の『女の子よ死体と踊れ』もそれだ。こちらの類もジャンルの枠をはみ出した突然変異的なものができる可能性を秘めている。  こうした状況下、アイドルや原作の人気にあやかり続ける業界への批判は常にある。実際、本来ホラー映画にあるべき恐怖への探究心を完全に忘れ、ただ安く早く売るためにアイドルとホラーが利用されていることも多々ある。しかしアイドルの力を借りて大胆に冒険する新たなホラー映画が生まれることにも希望を抱きたい。 ■嶋田 一 映画ライター。87年生まれ。精力的に執筆活動中。 ■公開情報 『バレンタインナイトメア』 公開中 監督:今野恭成 原作:IVORY DICE 脚本:今野恭成 撮影:今野恭成 照明:稲葉俊充 出演者:水谷果穂、芋生悠、宮城孔明、櫻井圭佑、熊谷魁人 公式フェイスブック

ウィル・スミスらによるアカデミー賞批判の背景 映画業界は多様性を実現できるか?

【リアルサウンドより】  第88回アカデミー賞の俳優部門にノミネートされた20人が全て白人だったことを受け、アフリカ系米国人の映画監督スパイク・リーや俳優ウィル・スミスらが、来月28日に開かれる授賞式をボイコットすることを発表。アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーはこうした意見に対して22日、賞の投票権を持つ会員について、2020年までに女性や黒人などマイノリティの数を倍に増やす計画を明らかにするなど、波紋を呼んでいる。  一方でアカデミー賞主演女優賞にノミネートされたシャーロット・ランプリングは、黒人監督や黒人俳優によるアカデミー賞のボイコットは「白人に対するレイシズム」と発言し、物議を醸している。  一連の流れについて、専門家はどのように見ているのか。米国のドラマ・映画事情に詳しいライターの今祥枝氏に話を訊いた。 「アカデミー賞のこうした体制に対する批判は以前からあって、たとえば同性愛を題材にした2005年の映画『ブロークバック・マウンテン』が同年作品中最多の8部門にノミネートされたものの、実際には3部門の受賞にとどまった際にも、ダイバーシティ=多様性への意識の足りなさが指摘されていました。一方でテレビ業界に目を向けると、昨年、ヴィオラ・デイヴィスが『殺人を無罪にする方法』で黒人女性として初めてエミー賞主演女優賞を獲得したほか、LGBTを題材にした米Amazonのオリジナルドラマシリーズ『トランスペアレント』がゴールデングローブ賞のテレビ・コメディー部門で最優秀作品賞と最優秀主演男優賞を獲得するなど、ダイバーシティを実現する土壌が育まれていることが伺えます。スティーブン・ソダーバーグのような優れた監督は、だからこそテレビ界へと活躍の場を移したのであって、才能の流出という視点から見ても、今回の批判によって映画業界の閉鎖性や保守性が改めて露呈したことは意義深かったのではないでしょうか」  ただし、今回ノミネートされている作品の評価については、騒動とは切り離して考えるべきだと同氏は続ける。 「たしかにアフリカ系アメリカ人のマイケル・B・ジョーダンが主演を務めた『クリード チャンプを継ぐ男』や、同性愛を描いた『キャロル』などについては、その評価に異論もあるでしょう。しかし、それはダイバーシティの問題とはまた別の話であって、少なくとも今回の騒動によってノミネートされた作品が貶められることになってはいけないと思います。ただ、結果としてそういった作品が浮上してこなかったのは、やはりアカデミー賞の選出の仕方に歪みがあったからだと思いますし、それは改善されて然るべきだと考えます。2013年にアフリカ系アメリカ人女性であるシェリル・ブーン・アイザックス氏がアカデミー賞の会長に就任した際にも、改革を推し進めようという意思はあったはずなので、今回の批判を正しく受けてアカデミー賞が真のダイバーシティを実現することを期待したいです」  また、シャーロット・ランプリングの発言に対しては、次のように指摘している。 「今回の騒動では、アフリカ系アメリカ人の声が大きかったため、人種差別の問題として捉える向きもありますが、そもそもダイバーシティは人種だけの問題ではなく、女性やLGBT、ハンディキャッパーなども含めて活躍する場があるということ、題材に対する自由があるということが大切です。そう考えると、今回の騒動を逆差別と発言するのはいささか感情的に過ぎる気がしますし、あまり建設的ではないと思います。こうした問題に対しては影響力を持ったひとが声を上げていく必要がありますし、それが今回、人気スターであるアフリカ系アメリカ人だっただけのことで、彼ら自身も今回の抗議を人種の問題に限定したいとは考えていないはずです」  今回の騒動を経て、アカデミー賞の体制はどこまで変わるのか。テレビ業界のほか、NetflixやAmazonといった新たなサービスでもダイバーシティを意識した優れた作品が生まれているいま、映画業界全体の体制が改めて問われそうだ。 (文=編集部)

上野樹里、なぜ30代バツイチのキャリアウーマンに? 女優としての現在地を考察

【リアルサウンドより】  上野樹里がヒロインを務める『家族ノカタチ』(TBS)の第2話が1月24日21時から放送される。『スウィングガールズ』や『のだめカンタービレ』といった代表作から、“元気で明るい女の子”とのイメージも強い上野だが、本作では30代バツイチのキャリアウーマンを演じている。  現在上映中の韓国映画『ビューティー・インサイド』にも出演するなど、国外でもその高い演技力が評価されている上野だが、現在はどのようなスタンスで活動をしているのか。ドラマ評論家の成馬零一氏に、上野のキャリアから『家族ノカタチ』の役どころを紐解いてもらった。 「上野樹里は、デビュー当初から演技力が高いと評価されている女優です。初の映画出演作『ジョゼと虎と魚たち』では、当時17歳にも関わらず22歳の女子大生役を見事に演じきり、業界内外を問わず注目を集めました。その後も、確かな実力を武器にキャリアを重ね、『のだめカンタービレ』がきっかけとなり大ブレイク、一躍メジャー女優の仲間入りを果たしました。等身大のリアルな役柄と漫画的なキャラクターの両方を演じられる、稀な女優と言えるでしょう。ただ、大河ドラマ『江〜姫たちの戦国〜』は、作品のリアリティラインが混乱した作品で、上野も『のだめカンタービレ』でのイメージを踏襲するかたちでコミカルに演じたため、演技のバランスを大きく崩してしまったように見えて、上野自身も苦しそうでした。2011年の『江〜姫たちの戦国〜』放映後はドラマや映画への露出が少なくなりましたが、もしかしたら一度、パブリックイメージをリセットしようという意図があったのかもしれません。2013年からは活動を再開していますが、近年の出演作ではリアリティのある大人っぽい役柄が多く、実力を発揮できているように思います」  そのリアリティのある演技について、同氏は次のように評している。 「上野の演技力は極めて高いため、主演はもちろん務められるのですが、それよりも繊細な演技力が求められる二番手三番手の方が輝く女優かもしれません。言ってみれば、玄人ウケするタイプというか。俳優のパブリックイメージありきで作られるドラマもありますが、上野は、自身のキャラクター先行で演じるのではなく、役に自分自身を近づけていくことで演じる女優です。例えば、『ラスト・フレンズ』や『アリスの棘』で見せたシリアスな演技は非常に上手く、上野の名を知らない人が見ても、その演技力に圧倒されるはずです。名前に頼らずとも存在感を示すことができる確かな実力があるからこそ、海外からもオファーが来るのでしょう」  現在出演中のドラマ『家族ノカタチ』では、一見すると上野樹里と気付かないような地味な役作りをしているものの、演技は注目すべきものがあると、同氏は続ける。 「今回出演している『家族ノカタチ』は、30代の男女が抱える結婚や家族への生々しい問題を題材にした現実味のあるドラマです。同世代の人が見ると危機感を覚えるシリアスな設定を、心温まるコメディに仕上げています。上野が演じるのは、32歳バツイチのキャリアウーマンという役どころ。本当に身近にいそうな雰囲気を醸し出しているため、同世代の方にとっては共感しやすいのではないでしょうか。今後しばらくは、こうした役柄が続くのではないかと思います」  『のだめカンタービレ』とは異なる方向性で、その演技力を発揮している上野樹里。演技の細かなニュアンスに注目すると、よりその上手さを堪能することができるのではないだろうか。 
 (文=泉夏音) ■ドラマ情報 『家族ノカタチ』 毎週日曜日 夜9時から放送中 出演者:香取慎吾、上野樹里、西田敏行、水原希子 脚本:後藤法子 監督:平野俊一、酒井聖博、松田礼人 製作:ドリマックス・テレビジョン、TBS 公式サイト:http://goo.gl/AYBYWb

間宮祥太郎のエロスは“声色”にアリ? 『ニーチェ先生』の浮世離れした役どころを紐解く

【リアルサウンドより】  坂口健太郎、山崎賢人、千葉雄大など、モデルとしてキャリアをスタートして現在、多くのドラマや映画で活躍する俳優は少なくない。彼らの多くは正統派のイケメンとしての役柄が多く、ときには20代後半にもかかわらずに学生役を務めるなど、甘いベビーフェイスを武器にした演技が目立つ。そんな中、大人びたルックスで浮世離れした色気を放ち、個性的な役柄でも注目を集めている俳優がいる。現在、読売テレビと日本テレビ、そしてインターネット配信サービスのHuluでも放送されている『ニーチェ先生』で主演を務める間宮祥太郎だ。  間宮翔太郎は、主婦の友社の雑誌『Hana*chu→』で大人気モデルとして活躍したのちに俳優業へと進出、数々のドラマ出演を経て着実にキャリアを積み、嵐・二宮和也主演のドラマ『弱くても勝てます〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望〜』(2014)や、水球部を舞台にした『水球ヤンキース』(2014)で独自の存在感を放ち、注目を集めた。この2作はともに弱小の運動部が仲間たちと切磋琢磨し、力をつけていく学園青春ドラマで、さわやかで可愛らしいタイプの俳優が多い中、『弱くても勝てます』では俊足を活かし緻密な計算ができる高校球児を、『水球ヤンキース』では水球部の顧問(大政絢)に恋をする男子高校生を演じるなど、ほかの部員とは一味違うポジションを務めた。同級生の中にひとりはいる、妙に大人びた男の子ーー間宮翔太郎のそうしたイメージに淡い恋心を抱いた視聴者も少なくなかっただろう。  彼のそうした色気が、端正なルックスから醸し出されているのは自明だが、さらに印象的なのはその“声色”だ。間宮は声でも演技ができる俳優として知られており、前出の2作は短いスパンで続けて部活モノに出演したものの、『弱くても勝てます』では威勢の良い張り上げた声を、『水球ヤンキース』では顧問教師を口説こうと艶っぽい声を聞かせ、見事にふたつのキャラクターを演じ分けた。さらに、生徒会長(広瀬すず)のスピーチによって学校の不正を正していく『学校のカイダン』では、絶対的権限を持つ”プラチナ8”の中でも中心的存在として、常に鋭く冷めた声で感情を前面に出さない高校生を演じた。役柄によって声色を変えるのはもちろんだが、それによって一層、生来の声の艶かしさが際立つのが、間宮のニクいところである。  間宮がそのただならぬ色気を発揮するのは、もちろん学園モノだけではない。ホテルマンのおもてなしを描いた『ホテルコンシェルジュ』では、鼻に付くキザな話し方でゲスト出演ながら強い印象を残した。主人公・天野塔子(西内まりや)が耐えきれず怒るシーンでは、西内まりやが本気で怒るのではないかと思うほど、余裕のある声と表情で嫌みたらしい台詞を言い放っていた。弱冠23歳にして、サディスティックな物言いがこれほどナチュラルにハマる俳優も珍しい。ひとによっては、たまらない魅力として映ったに違いないだろう。  現在放送中の『ニーチェ先生』では、妙に悟りきった哲学的な雰囲気のコンビニ店員を演じている。無表情で感情の起伏が表に出ない浮世離れしたキャラクターは、間宮にとっては新たな役どころであると同時に絶妙なハマり役だ。第1話では朗々と般若心経を唱えるシーンがあったが、低音がよく響くその声は一般的にイメージする般若心経そのものであり、つい笑ってしまう。同じコンビニで働く就職浪人中のお調子者の店員(浦井健治)との掛け合いもシュールで、今後の展開が非常に楽しみである。  昨今のモデル出身俳優というと、どちらかといえば千葉雄大のような可愛いタイプが目立っているが、だからこそ間宮のようなタイプもまた重宝されるのだろう。同じくモデル出身の先駆者として竹野内豊や反町隆史がいるが、間宮はその系譜に連なる“色気”を持った俳優といえそうである。そのイメージを逆手にとってシュールな笑いも取る様も、缶コーヒー「ROOTS」のCMでの竹野内を彷彿とさせる。それでいて、23歳にしてあの“声”である。成熟につれてますますエロスが匂い立ちそうで、末恐ろしい限りだ。 (文=小島由女) ◼︎ドラマ情報 『ニーチェ先生』 Hulu 毎週木曜配信 読売テレビ 毎週水曜25:29~ 日本テレビ 2016年1月23日スタート 毎週土曜26:55~(初回は27:00~) 出演者:間宮祥太朗、浦井健治、松井玲奈、内田理央、松田凌、菅裕輔、シソンヌじろう、佐藤二朗、シソンヌ長谷川、ムロツヨシ 脚本・演出:福田雄一 公式サイト:http://ni-chesensei.com/

綾瀬はるか、極限に置かれた男女の「生」にどう挑む? 『わたしを離さないで』の意図

【リアルサウンドより】  キャリー・マリガン主演で映画化もされた、日系イギリス人作家カズオ・イシグロのベストセラー小説『わたしを離さないで』。その連続ドラマ化ということで大きな注目を集めていた『わたしを離さないで』(毎週金曜22時~/TBS系)が、1月15日よりスタートした。初回の視聴率は、6.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。同時間帯に、15回目のテレビ放送にして視聴率17.9%を記録した映画『天空の城ラピュタ』(「バルス!」)の放送があっとはいえ、これは由々しき事態だろう。「思った以上に暗い」、「子役のシーンが長い」、「原作のテイストと違う」など、さまざまな意見が聞こえてきた初回。しかし、肝心の「物語」は、まだまだ始まったとは言い難い状況にある。今夜はその第2回の放送。まずは、初回の内容と、その感想から述べていくことにしよう。  手術室のベッドに横たわる男性と、それをガラス越しに見守る主人公・保科恭子(綾瀬はるか)。移植のため臓器を抜き取られた男性を「特別な部屋」に運び込んだ彼女は、「ある処置」を男性に施す。やがて絶命した男性を焼却炉に入れ、「焼却」ボタンを押す。これが彼女の「仕事」なのだろう。自ら車を運転して帰宅した彼女は、ベッドの下から年季の入ったバスケット・ケースを取り出す。外国人歌手のCDをはじめ、さまざまな思い出の品が詰まった「宝箱」。そして、綾瀬のモノローグ。「宝箱にはいろんなものが詰まっている。楽しかったこと。嬉しかったこと。辛かったこと。悲しかったこと。(中略)これは私にとって、たったひとつの明るい調べを持つ音楽だ。私がまだ何も知らなかった頃。私たちがただの子どもでいられた頃の、抱きしめたくなるような黄金色のとき……」。  そこから物語は20年前に遡り、彼女の幼少期が描き出されてゆく。人里離れた山奥にひっそりと建てられた「特殊法人・陽光学苑」。恭子(鈴木梨央/綾瀬はるか)、友彦(中川翼/三浦春馬)、美和(瑞城さくら/水川あさみ)は、寄宿制の学校「陽光学苑」の同級生だ。しかし、通常の勉強以上に絵を描くことが推奨されること、「社会」の代わりに「心」という科目が設置されていること、さらには「健康」に細心の注意が払われることなど、この学校は校長・神川恵美子(麻生祐未)、教師・山崎次郎(甲本雅裕)の立ち居振る舞いを含め、何かが決定的におかしなことになっている。初回の最後、校長が生徒に向けて行ったスピーチ曰く、「あなたたちは、普通の人間ではありません。(中略)あなたたちには、生まれながらにして果たさなければならない、ある“使命”を負っています。それは、“提供”という“使命”です。あなたたちは、病気になったり怪我をした人のために自らの身体の一部を提供する。そういう使命のもとに作り出された特別な存在。言ってみれば、“天使”なのです」。  以前、「本作には、大きな“ネタバレ”が含まれている」と書いたけれど(参考:『いつかこの恋を〜』『わたしを離さないで』『家族ノカタチ』……2016年1月期注目の連ドラは?)、今回の連続ドラマ版は、その「ネタバレ」部分を、初回からいきなり明示してみせたのだった(冒頭の綾瀬はるかのシーンも含めて)。まどろっこしいので端的に言うけれど、この物語は、臓器移植のために作られた、クローン人間たちの青春群像劇なのだ。いつか誰かに臓器を提供し、やがて死を迎えるという「宿命」を負った者たちの、切実な「生」の物語。原作者であるカズオ・イシグロは言う。「短い人生のなかで避けられない死に直面したときに何が重要なのか。そういうテーマについて書きたいと思いました」。とはいえ、その「ネタバレ」部分……特殊な状況設定が徐々に明らかとなってゆくところが、原作小説の何よりの醍醐味のひとつだったはず。マーク・ロマネク監督の映画版も、その「謎解き」の部分に関しては、かなり慎重に取り扱っていた記憶がある。にもかかわらず、それを初回から大胆に提示してしまうとは、いったいどういうことなのだろう。そこには、今回のドラマ制作スタッフの明確な意図があるような気がしてならない。  そこで、はたと気づいたことがある。コメディエンヌではなく、どこか影のあるシリアスな雰囲気を持った綾瀬はるかを主演としたTBSドラマであること、その脚本を担当しているのが森下佳子であること……そう、この作品は、イシグロの人気小説のドラマ化である以前に、2004年のドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』(原作:片山恭一)、2006年のドラマ『白夜行』(原作:東野圭吾)という綾瀬×森下作品の第三弾という、大きな流れのなかに位置する作品なのだ。原作のエッセンスを凝縮しながら、それを大胆に翻案し、ある「宿命」を負った男女の切実な「生」を、シリアス&サスペンスフルに描き出してみせること。初回の状況説明は、本作の「肝」が、その「謎解き」ではなく、極限状態に置かれた男女の「生」をリアルに描くことにあるという、制作者側からのメッセージなのかもしれない。その意味でも、綾瀬、三浦、水川という3人の役者が相対する場面が注目されるのだが……初回の最後になってようやく登場した水川を含め、同じ運命を共有する彼女たち3人の「希望」と「絶望」、そして「愛憎」の物語が描き出されるのは、次回以降に持ち越しとのこと。普通ではない使命を持った、普通ではない男女の宿命の物語は、果たして普通の人々の心の琴線に触れることができるのだろうか? 引き続き注目したい。 ■麦倉正樹 ライター/インタビュアー/編集者。「CUT」、「ROCKIN’ON JAPAN」誌の編集を経てフリーランス。映画、音楽、その他諸々について、あちらこちらに書いてます。 ■ドラマ情報 『わたしを離さないで』 毎週金曜日22時〜TBS系で放送中 出演:綾瀬はるか、三浦春馬、水川あさみ、鈴木梨央、中川翼、瑞城さくら、ほか 原作:「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ 脚本:森下佳子 音楽:やまだ豊 プロデュース:渡瀬暁彦、飯田和孝 演出:吉田健、山本剛義、平川雄一朗 製作著作:TBS 公式サイト:http://www.tbs.co.jp/never-let-me-go/

綾瀬はるか、極限に置かれた男女の「生」にどう挑む? 『わたしを離さないで』の意図

【リアルサウンドより】  キャリー・マリガン主演で映画化もされた、日系イギリス人作家カズオ・イシグロのベストセラー小説『わたしを離さないで』。その連続ドラマ化ということで大きな注目を集めていた『わたしを離さないで』(毎週金曜22時~/TBS系)が、1月15日よりスタートした。初回の視聴率は、6.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。同時間帯に、15回目のテレビ放送にして視聴率17.9%を記録した映画『天空の城ラピュタ』(「バルス!」)の放送があっとはいえ、これは由々しき事態だろう。「思った以上に暗い」、「子役のシーンが長い」、「原作のテイストと違う」など、さまざまな意見が聞こえてきた初回。しかし、肝心の「物語」は、まだまだ始まったとは言い難い状況にある。今夜はその第2回の放送。まずは、初回の内容と、その感想から述べていくことにしよう。  手術室のベッドに横たわる男性と、それをガラス越しに見守る主人公・保科恭子(綾瀬はるか)。移植のため臓器を抜き取られた男性を「特別な部屋」に運び込んだ彼女は、「ある処置」を男性に施す。やがて絶命した男性を焼却炉に入れ、「焼却」ボタンを押す。これが彼女の「仕事」なのだろう。自ら車を運転して帰宅した彼女は、ベッドの下から年季の入ったバスケット・ケースを取り出す。外国人歌手のCDをはじめ、さまざまな思い出の品が詰まった「宝箱」。そして、綾瀬のモノローグ。「宝箱にはいろんなものが詰まっている。楽しかったこと。嬉しかったこと。辛かったこと。悲しかったこと。(中略)これは私にとって、たったひとつの明るい調べを持つ音楽だ。私がまだ何も知らなかった頃。私たちがただの子どもでいられた頃の、抱きしめたくなるような黄金色のとき……」。  そこから物語は20年前に遡り、彼女の幼少期が描き出されてゆく。人里離れた山奥にひっそりと建てられた「特殊法人・陽光学苑」。恭子(鈴木梨央/綾瀬はるか)、友彦(中川翼/三浦春馬)、美和(瑞城さくら/水川あさみ)は、寄宿制の学校「陽光学苑」の同級生だ。しかし、通常の勉強以上に絵を描くことが推奨されること、「社会」の代わりに「心」という科目が設置されていること、さらには「健康」に細心の注意が払われることなど、この学校は校長・神川恵美子(麻生祐未)、教師・山崎次郎(甲本雅裕)の立ち居振る舞いを含め、何かが決定的におかしなことになっている。初回の最後、校長が生徒に向けて行ったスピーチ曰く、「あなたたちは、普通の人間ではありません。(中略)あなたたちには、生まれながらにして果たさなければならない、ある“使命”を負っています。それは、“提供”という“使命”です。あなたたちは、病気になったり怪我をした人のために自らの身体の一部を提供する。そういう使命のもとに作り出された特別な存在。言ってみれば、“天使”なのです」。  以前、「本作には、大きな“ネタバレ”が含まれている」と書いたけれど(参考:『いつかこの恋を〜』『わたしを離さないで』『家族ノカタチ』……2016年1月期注目の連ドラは?)、今回の連続ドラマ版は、その「ネタバレ」部分を、初回からいきなり明示してみせたのだった(冒頭の綾瀬はるかのシーンも含めて)。まどろっこしいので端的に言うけれど、この物語は、臓器移植のために作られた、クローン人間たちの青春群像劇なのだ。いつか誰かに臓器を提供し、やがて死を迎えるという「宿命」を負った者たちの、切実な「生」の物語。原作者であるカズオ・イシグロは言う。「短い人生のなかで避けられない死に直面したときに何が重要なのか。そういうテーマについて書きたいと思いました」。とはいえ、その「ネタバレ」部分……特殊な状況設定が徐々に明らかとなってゆくところが、原作小説の何よりの醍醐味のひとつだったはず。マーク・ロマネク監督の映画版も、その「謎解き」の部分に関しては、かなり慎重に取り扱っていた記憶がある。にもかかわらず、それを初回から大胆に提示してしまうとは、いったいどういうことなのだろう。そこには、今回のドラマ制作スタッフの明確な意図があるような気がしてならない。  そこで、はたと気づいたことがある。コメディエンヌではなく、どこか影のあるシリアスな雰囲気を持った綾瀬はるかを主演としたTBSドラマであること、その脚本を担当しているのが森下佳子であること……そう、この作品は、イシグロの人気小説のドラマ化である以前に、2004年のドラマ『世界の中心で、愛をさけぶ』(原作:片山恭一)、2006年のドラマ『白夜行』(原作:東野圭吾)という綾瀬×森下作品の第三弾という、大きな流れのなかに位置する作品なのだ。原作のエッセンスを凝縮しながら、それを大胆に翻案し、ある「宿命」を負った男女の切実な「生」を、シリアス&サスペンスフルに描き出してみせること。初回の状況説明は、本作の「肝」が、その「謎解き」ではなく、極限状態に置かれた男女の「生」をリアルに描くことにあるという、制作者側からのメッセージなのかもしれない。その意味でも、綾瀬、三浦、水川という3人の役者が相対する場面が注目されるのだが……初回の最後になってようやく登場した水川を含め、同じ運命を共有する彼女たち3人の「希望」と「絶望」、そして「愛憎」の物語が描き出されるのは、次回以降に持ち越しとのこと。普通ではない使命を持った、普通ではない男女の宿命の物語は、果たして普通の人々の心の琴線に触れることができるのだろうか? 引き続き注目したい。 ■麦倉正樹 ライター/インタビュアー/編集者。「CUT」、「ROCKIN’ON JAPAN」誌の編集を経てフリーランス。映画、音楽、その他諸々について、あちらこちらに書いてます。 ■ドラマ情報 『わたしを離さないで』 毎週金曜日22時〜TBS系で放送中 出演:綾瀬はるか、三浦春馬、水川あさみ、鈴木梨央、中川翼、瑞城さくら、ほか 原作:「わたしを離さないで」カズオ・イシグロ 脚本:森下佳子 音楽:やまだ豊 プロデュース:渡瀬暁彦、飯田和孝 演出:吉田健、山本剛義、平川雄一朗 製作著作:TBS 公式サイト:http://www.tbs.co.jp/never-let-me-go/

武田梨奈の魅力はアクションだけではない 近作に見る“実力派女優”への成長

【リアルサウンドより】  武田梨奈はほとんどのメディアで、“アクション女優”と紹介される役者だ。これまで武田は、空手の黒帯有段者という特技を活かし、『ハイキック・ガール!』や『少女は異世界で戦った』など、数多くのアクション映画に出演してきた。さらに、こうした作品群での活躍が評価され、2013年の第1回ジャパンアクションアワードでは、ベストアクション女優最優秀賞を受賞している。名実ともに武田は、“アクション女優”と呼ぶにふさわしい役者だと言える。  しかし、ここ最近の武田は、アクションだけにとどまらない総合力が高い役者として花開きつつある。たとえば、去年10月に公開された映画『木屋町DARUMA』では、感情むき出しのヒステリックな姿や、父親に向かって卑猥なセリフを連発するなど、人が持つ負の部分を上手く表現していた。ドラマや映画で見る武田は、凛々しい姿であることが多いため、この変貌には大変驚かされた。そのインパクトは、共演した遠藤憲一、木下ほうか、寺島進といった強烈なキャラクターを持つ役者陣と比べても、遜色がないものだった。ひとりの役者が一皮むけていくさまを間近で目撃できるという意味でも、『木屋町DARUMA』は必見の作品である。(参考:武田梨奈が明かす、過激シーンを乗り越えた心境「落ちる所まで落ちて、見いだせる強さもある」)  また、今年放送された『相棒 Season14』の元日スペシャルでも秀逸な演技を披露してくれた。このスペシャルに武田は植村明梨役で出演していたが、暗い過去を秘めながらも村役場に勤める女性という役柄を見事に演じきっていた。特に、物語の終盤で見せる号泣シーンは、『木屋町DARUMA』で感情むき出しの演技をした経験が活かされているように思えた。その号泣する演技からは、役者として着実に成長する武田の姿を感じることができた。  そんな武田が出演するドラマ、『ワカコ酒 Season2』がBSジャパンで放送中だ。『ワカコ酒』は、吞ん兵衛のOL・村崎ワカコが、ふらりと入った居酒屋で酒とつまみを堪能する姿を描いた作品。登場する酒やつまみに関する解説も交え、終始ほのぼのとした雰囲気を漂わせているのが魅力だ。新久千映による同名漫画を原作としているが、こちらも“全国書店員が選んだおすすめコミック2014”で10位にランクインするなど、人気が高い作品なのでぜひ読んでほしい。  『ワカコ酒』で武田が演じるのは、主人公の村崎ワカコ役だ。OLということもあって、親しみやすい素朴な空気を上手く醸している。そしてなにより、美味そうにつまみを食べ酒を呑む姿。この姿を見たら、ひとり居酒屋巡りをしたくなってしまう。それは、いままで出演してきたアクション作品でも、『木屋町DARUMA』でも見ることができないものだ。  前述からわかるように武田は、役者として多彩な表情を開拓しつつある。そしてその多彩さは、今年もより豊かになっていくだろう。『ドクムシ』『Yangon Runway』『海すずめ』など、多くの出演映画も公開を控えている。武田の進化と深化を追っていきたい。 (文=近藤真弥) ■ドラマ情報 『ワカコ酒 Season2』 毎週金曜 夜11時30分からBSジャパンにて放送中 出演:武田梨奈、野添義弘、鎌苅健太 原作者:新久千映 監督:湯浅弘章、久万真路、千村利光、岩渕崇 公式サイト:http://www.bs-j.co.jp/wakako_zake/

KAT-TUN亀梨和也の演技はなぜ変化に富むのか 主演作『怪盗 山猫』に見る“身体性の高さ”

【リアルサウンドより】  KAT-TUNの亀梨和也が主演を務める連続ドラマ『怪盗 山猫』(日本テレビ系)の放送が1月16日より開始された。亀梨は、アクションシーンもこなし、軽快な動きと口調が特徴的な謎の窃盗犯”山猫”を演じている。本稿では、亀梨が原作をどう汲み取って芝居に反映させているかに注目しながら、俳優としての魅力に迫りたい。  先日1話の放送を終えた『怪盗 山猫』では、”どう盗むのか”よりも”なぜ盗むのか”に重点を置く、失敗知らずの大怪盗”山猫”のビジュアルを高いレベルで再現しているのが印象的だった。原作(神永学『怪盗探偵 山猫』)の表紙に描かれたイラストと同じようにニット帽を愛用し、タバコやウィスキーを片手に鋭い視線を送る表情には、ミステリアスな魅力が漂っている。それに加えドラマでは、カップラーメンを愛し、青いサングラスやピアス、リングなどを身につけることによって、その個性をさらに強調している。また、怪盗を行う際には後頭部に猫のお面を付けており、正面から見ると亀梨が”ネコ耳”を付けているように見えるのも、コスプレ的な楽しさがある。  もちろん、そのビジュアルに負けないくらい、亀梨自身もしっかりと役作りをしている。その口調や立ち振る舞いも、まさに”山猫”のイメージそのものだ。彼が現実離れしたビジュアルにも寄り沿って役作りをできるようになったのは、主演した映画『俺俺』(2013)の影響が大きいのではないだろうか。33人の”俺”を演じ分けた同作では、大学生からサラリーマンまで幅広く演じ、マッシュルームカットからロン毛、ジャージ姿やスーツ、全身刺青とビジュアルを大胆に変更し、なんと女性役にも挑戦している。劇中では人物同士がリンクし、時には入れ替わることもあったが、外股、内股といった歩き方や笑った時の口角の上げ方などの細部に変化をつける事で、見事に演じ分けていた。ドラマ『山猫』では演じる人物こそ一役だが、お調子者な一面から、怪盗する際には余裕のある勝ち誇った表情を見せ、天才ハッカー”魔王”(広瀬すず)と対峙する場面では、声を荒げて感情をむき出しにするなど、振れ幅の大きい演技を披露している。一つの作品で何役をも演じ分けた経験は、一役での感情表現をも豊かにしたのではないか。  原作のイメージを引き継ぎつつも、プラスアルファで亀梨らしさを付け加えるのも、役者としての魅力のひとつだ。原作のキャラクターの再現にとどまらない演技は、身体能力の高さゆえの余裕から生まれているように思う。亀梨は、ジャニーズの中でもとくに野球が上手く、ピッチング、バッティングともに秀でた実力者である。また、アイドルとして長年ダンスに磨きをかけたことも、その身のこなしに一役買っているのは言うまでもない。その運動神経を存分に発揮したのが、邦画では珍しいとされるスパイ映画『ジョーカーゲーム』(2015)だ。亀梨は、小説や脚本などの文章では伝わりづらいリズム感を、その身体性を通じて表現していた。いわゆる”間の取り方”が優れていて、その演技にはまるでダンスをしてリズムに乗っているような軽やかさがあった。  その疾走感のあるスパイシーンは、『怪盗 山猫』の怪盗シーンにも通じるが、今作では山猫を追っていたライターである勝村(成宮寛貴)との掛け合いによって、新たなリズムが生まれているのも興味深いところだ。作品によって芝居のリズム感を変えられるのも、亀梨が多彩な役どころを演じられる理由のひとつだろう。  第1話の終盤では、山猫のダークな部分が垣間見え、正義や悪に対して疑問を呈するようなシーンがあった。おそらくは、ストーリーの軸となる”なぜ盗むのか”に関する伏線である可能性が高い。華麗な怪盗アクションシーンはもちろんだが、今後、山猫の人間性をどう表現していくのかも気になるポイントだ。細部まで作り上げたキャラクターを、亀梨はその高い身体能力によってどのように動かし、新たな物語を刻んでいくのか。役者としての進化とともに見守りたい。 (文=小島由女) ■ドラマ情報 『怪盗 山猫』 毎週土曜日 夜9時から放送中 出演者:亀梨和也、成宮寛貴、広瀬すず、菜々緒、北村有起哉、大塚寧々、佐々木蔵之介 脚本:武藤将吾 原作:神永学「怪盗山猫シリーズ」 プロデューサー:福井雄太 製作著作:日本テレビ 公式サイト:http://www.ntv.co.jp/yamaneko/