パク・チャヌク監督、ハリウッド進出作を語る!「狭い世界を脱したい。人間の原始的欲求だよ」

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巨匠ながら物腰の柔らかいパク・チャヌク監督。
「ハリウッド進出第1作ということで気兼ねした?」という無礼な質問にも笑顔で回答した。
 肌と肌が触れ合うほどの息苦しい空間から、ひとりの“オールド・ボーイ”が広い世界へと飛び出していった。そのオールド・ボーイの名前はパク・チャヌク。現在49歳。『JSA』(00)の大ヒットで韓流映画ブームを呼び、15年間にわたって監禁され続けた男の復讐談『オールド・ボーイ』(03)でカンヌ映画祭審査員特別グランプリを受賞した、韓国映画界が誇る国際派監督だ。妥協なきバイオレンス描写と人間の本能を目覚めさせるような官能美を描くことを得意とするパク・チャヌク監督は、最新作『イノセント・ガーデン』でハリウッド進出を果たした。『アリス・イン・ワンダーランド』(10)『永遠の僕たち』(11)のミア・ワシコウスカが少女から大人の女へと変貌していく様子を、チャヌク監督らしい独自の肉体言語で謳い上げている。日本での公開を直前に控え、チャヌク監督が日刊サイゾーの単独インタビューに応えた。  『イノセント・ガーデン』は鋭敏な感覚を持つ少女インディア・ストーカー(ミア・ワシコウスカ)が主人公。毎年謎の人物からの誕生プレゼントを受け取っていたインディアだが、18歳の誕生日に最愛の父親を交通事故で亡くしてしまう。美人すぎる母親エヴィ(ニコール・キッドマン)とはウマが合わず、広い屋敷の中でインディアはひとりぼっち。そして父親と入れ替わるように現れたのが叔父のチャーリー(マシュー・グード)だった。ミステリアスで博学なチャーリーにエヴィもインディアも魅了されていく。だが、チャーリーの出現と同時に、なぜかインディアの周囲からは次々と人が消えていく……。人気ドラマ『プリズン・ブレイク』の主演俳優ウェントワース・ミラーが匿名で書いたオリジナル脚本をベースに、チャヌク監督がこれまでの作品とはまるで異なる洗練された色彩美の世界を構築したことに驚かされる。 ──パク・チャヌク作品というと、ソン・ガンホ、チェ・ミンシクといった体臭がぷんぷん漂うような男優たちがひしめく汗まみれな世界という印象が強かったのですが、今回の撮影現場ではミア・ワシコウスカとニコール・キッドマンという美女たちが待ち構えていたわけですよね。これまでになく新鮮な気分で演出できたんじゃないでしょうか? パク・チャヌク 確かに、その通りだね(笑)。韓国と米国では撮影スタイルに幾つかの違いがあったけれども、撮影スタイルの違いよりも普段の顔ぶれとまるで違うことが僕にとってはとても刺激的だった。しかも、ミアとニコールという演技のタイプも年齢も異なる2人の美人女優を演出できたんだからね(笑)。韓国ではどうしても、いつも同じようなキャストとスタッフの顔ぶれにならざるを得ない。韓国がいい、米国がいい、ということではなく、新しい顔ぶれと仕事ができたということが僕にとっては特別な体験だったんだ。
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広い屋敷を舞台にしたサイコミステリー『イノセント・ガーデン』。
18歳になるインディア(ミア・ワシコウスカ)は母エヴィ(ニコール・キッドマン)に
愛情を感じることができない。
──これまでのパク・チャヌク作品は、軍事境界線を題材にした『JSA』、監禁そのものを描いた『オールド・ボーイ』、家庭の中に押し込められた若妻が吸血鬼に変身する『渇き』(09)など、結界や壁によって閉じ込められた人々が主人公になってきました。『イノセント・ガーデン』も生まれ育った屋敷から出ていくことができない少女の物語。狭い世界に閉じ込められた主人公が自由を求める―これはパク・チャヌク作品のメインテーマと受け取っていいでしょうか? チャヌク (うなずきながら)僕が閉じ込められた人々を描き続けているのには、2つの理由があるんです。ひとつは、狭い空間を脱して広い世界を目指すという行為は人間の原始的欲求だということです。社会で暮らしている人間は誰しも社会から拘束され、束縛を受けている存在です。束縛を嫌って自由を求めることは、肉体が発するとても自然な欲求なんです。もうひとつの理由は、閉じた狭い世界を舞台にすることで、それをひとつの宇宙として描くことができるということです。映画において、ひとつの宇宙を設定することはとても効果的。空間を限定することで、人間の本質により迫ることができる。また空間を狭めることで、空気の密度を濃くすることもでき、より凝縮した形でシンボリックに事象を描くこともできるんです。観客のみなさんは僕の作品を「あっ、これは小さな宇宙なんだな。この世界に人生が凝縮して詰まっているんだな」と鑑賞することができるんじゃないでしょうか。 ──そんなチャヌク監督のハリウッド進出第1作の脚本を、脱獄ドラマ『プリズン・ブレイク』の主演俳優ウェントワース・ミラーが書いたというのも面白い合致ですね。 チャヌク ミラーが書いた脚本を渡されたとき、赤の他人が書いたストーリーだとは感じられなかった(笑)。米国で撮った作品なんだけど、まったく新しいテーマに挑戦した、という気にはならなかったね。 ■脚フェチは必見。ミア・ワシコウスカの官能的な戴冠シーン ──韓国ではチャヌク監督が脚本から手掛けていたわけですが、ウェントワース・ミラーの脚本には今回かなりアレンジを加えたんですか? チャヌク 僕の作品はオリジナル性が高いように思われているけど、実はそうでもないんです。それこそ『オールド・ボーイ』は日本のコミックが原作でした。『JSA』も原作小説があり、『渇き』はエミール・ゾラの不倫小説『テレーズ・ラカン』を下敷きにしています。まぁ、完成した作品は、原作からずいぶん違ったものになってますけどね。今回の『イノセント・ガーデン』も同じようなスタンス。ウェントワース・ミラーのオリジナル脚本を原作として位置づけ、そこから自分で脚本に手を加えていった。かなり僕のアイデアも盛り込んだけど、完成した作品を観たら、思っていたよりもミラーの書いた世界から大きく逸脱したものにはならなかった。ミラーが植えた根っこや幹の部分をしっかり残して、そこから伸びてきた枝や葉っぱを僕が自由に刈り込んで作ったのが今回の『イノセント・ガーデン』だと言えるだろうね。
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「劇中で何度か卵が登場します。ヒロインはまだ孵化する前のひな鳥の状態で
あることを示したものです」とチャヌク監督は自作を語った。
──ミア・ワシコウスカの脚をフェティッシュに捉えているカメラワークが実に印象的です。サドルシューズを脱ぎ捨て、ハイヒールに履き替えるシーンは脚フェチにはたまらないものがあります(笑)。少女の成熟を足元から描こうとした狙いについて教えてください。 チャヌク 足元へのこだわりは、ミラーのオリジナル脚本の段階からあったんだよ(笑)。主人公のインディアは風変わりな女の子で、いつもサドルシューズばかり履いていて、母親のエヴィがうんざりしているというシーンがあったんだ。それで「インディアは、なぜサドルシューズにこだわるんだろう?」と考えて、大事な人からのプレゼントという設定を思い付いたんだ。逢ったことのない人物から、毎年必ず誕生日に彼女の足のサイズにぴったりなサドルシューズが贈られてくる。少女の足のサイズって年々変わるものだから、ぴったりのサイズのシューズを用意できる贈り主はかなりミステリアスな存在。靴を使って少女の成長過程が描ければ面白いと思ったんだ。さらにインディアは18歳の誕生日を迎え、サドルシューズを脱いでハイヒールを履くことで完璧な大人の女へと変身する。ハイヒールを履くシーンは、王女が王妃になる戴冠式のイメージで撮影したんだよ。 ──叔父チャーリーと出会ったことで、インディアの中に潜む特殊な才能が覚醒していく。インディアは特別な女の子なんでしょうか、それとも18歳の女の子は誰もが特別な存在なのでしょうか? チャヌク 実は僕には、18歳になる娘がいるんです(笑)。やっぱり女性にとって18歳という年齢は特別なもの。インディアは映画の中では特別な女の子のように映っているけれど、他の18歳の女の子と変わらない部分も持っている。あの年齢の女の子は、みんな特別な存在なんじゃないかな。美しいものに惹かれながらも、それと同時に怖いもの、邪悪なものにも惹かれてしまう。思春期の女の子の中に潜んでいる様々なものが、インディアには投影されている。独特な存在であり、かつ普遍的な存在。それがインディアなんです。 ■パク・チャヌク作品史上、最高に残酷なシーンとは……? ──ファンというのはとても身勝手です。チャヌク監督が初めてのハリウッドでこんなにも美しい作品を撮り上げたことに驚く一方、「チャヌク監督なら、もっと流血ドロドロな過激シーンも撮れたはず。ハリウッドに対して気兼ねしたんじゃないのか」なんてことも思ってしまいます。 チャヌク 今回、そのことは僕もよく耳にします(笑)。米国作品だったから暴力描写が控えめになったんだろうとね。でも実際は、その逆だったんです。今回の作品は物語の世界観に合わせて静かな抑えたものを考えていたんですが、製作サイドからは「もっとやってくれ!」と煽られたんです(笑)。具体的なシーンで言うと、最初に描かれる殺人シーンでは、殺人犯がベルトを外すショットでシーンが切り替わるというのが僕の考えた最初のイメージでした。脚本がそうでしたし、イメージボードもそうしていたんです。ですが製作サイドから「それじゃ生ぬるい。首を絞めるシーンまで見せよう」と強く言われ、「じゃあ、とりあえずそのシーンも撮っておきます。編集の段階でどっちがいいか決めましょう」ということになったんです。それで、製作陣がみんな「やっぱり殺人シーンがあったほうがいい」と言うので、このような形になったんです(苦笑)。
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脚フェチには堪らないシーンがいろいろ。
ミア・ワシコウスカのシャワーシーンも見逃せませんよ!
──やっぱり、人間の残酷な部分、おぞましい部分もきっちり描いてこそ、パク・チャヌク作品ですからねぇ。 チャヌク 米国の製作サイドもそのように思っていたみたいですね(笑)。今回、僕が暴力描写をなるべく抑えたいと思ったのは、米国作品だからということではなかったんです。作品の世界観に合わせようと思ったことが大きかった。『イノセント・ガーデン』は18歳の女の子から見た世界なんです。だから、インディアと同世代の10代の女の子たちがこの作品を観たときに顔を背けてしまうようなグロい描写は、なるべく避けたかった。やっぱり、あの頃の年齢の女の子は基本的に美しいもの、優雅なものが大好きですからね。そのため「今回のパク・チャヌクは残酷描写が控えめだ」と思われているようですが、でも僕自身は必ずしもそうは思わないんです。後半のインディアがシャワーを浴びるシーンでは、その日に目撃した事件の様子を思い出しながら彼女はエクスタシーを感じるんです。僕の作品の中で、こんなにも女性の残酷さ、恐ろしさを描いたシーンは今までになったはずですよ(笑)。 ──確かにそうですね。『イノセント・ガーデン』は、チャヌク監督の18歳になる娘さんへの最高のプレゼントになったようですね。 チャヌク えぇ、僕の娘も喜んでくれています。「お父さんが撮った作品の中で、今回のがいちばん好き」と言ってくれました(笑)。  * * *  子煩悩なところも、どこか『オールド・ボーイ』の主人公と重なるパク・チャヌク監督だった。パク・チャヌク作品の主人公たちは自由を求めて広い世界へと解放されていくのが常だが、彼らは思いがけない事態へと巻き込まれていき、やがて衝撃的な真実に触れることになる。韓国映画界を飛び出した鬼才を、これから待ち構えているのは一体何だろうか。 (取材・文=長野辰次/撮影=名鹿祥史) innocentgardenmain.jpg 『イノセント・ガーデン』 監督/パク・チャヌク 脚本/ウェントワース・ミラー 撮影監督/チョン・ジョンフン 出演/ミア・ワシコウスカ、ニコール・キッドマン、マシュー・グード PG12 配給/20世紀フォックス映画 5月31日(金)TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー <http://www.foxmovies.jp/innocent-garden●パク・チャヌク 1963年韓国ソウル生まれ。映画製作と映画評論を並行して活動した後、『JSA』(00)が記録的大ヒットに。続いて『復讐者に憐れみを』(02)『オールド・ボーイ』(03)『親切なクムジャさん』(05)を“復讐三部作”として発表し、世界の注目を集めた。その他にカンヌ映画祭審査員賞を受賞した『渇き』(09)、精神病院を舞台にしたラブコメ『サイボーグでも大丈夫』(06)、iPhoneで撮影した短編『Night Fishing』(11)などがある。