
撮影=尾藤能暢
『フリースタイルダンジョン』(以下、FSD/テレビ朝日系)をきっかけに、いまや空前の盛り上がりを見せているフリースタイルバトル。その半面、浮かれてばかりもいられない。というのも、「さんぴんCAMP」が着火剤となり、「Grateful days / DragonAsh feat,zeebra&ACO」が大ヒットして一躍注目を浴びた日本語ラップシーンだが、その後、セールス的にメジャーシーンで成功したといえるのは、KICK THE CAN CREW、KREVA、RIP SLYMEくらいだった(参考記事:月刊サイゾー『
フリースタイルダンジョン』に至る30年のウラ側)。もちろん、THA BLUE HERBなど、インディーズながら成功を収めたアーティストもいるが、日本語ラップがメジャーシーンで日の目を見ることは少なくなっていった。
そんな時代を経て、久々に何かやってくれそうなラッパーが現れた。渋谷サイファー(註:路上や公園などに集まり、輪になってフリースタイルでラップし合うこと)という新たなカルチャーを確立した、ブラジル生まれ新宿育ちのラッパー・ACEである。アニメとASIAN KUNG-FU GENERATIONをこよなく愛し、「もっとテレビに出たい」と声高に叫ぶ、これまでにいないタイプのラッパーが、現在の日本語ラップシーンをどのように見ているか、話を聞いた。
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――ACEさんは、般若さんから『FSD』への出演を依頼されるきっかけとなった「アドレナリン」をはじめ、クラブイベントを主催されていますが、その中でなぜ、渋谷サイファーを始めようと思ったんですか?
ACE もともとは、高田馬場でやってたんです。当時、フリースタイルバトルで勝ちまくるというのを目標にしていたこともあって、練習の場としてもそうだし、単純にサイファーは楽しい。でも、サイファーやってるやつは少ないから、“じゃあ、ゲリラでやろう”と思って、たまに渋谷のハチ公前とかでもやってたんです。それで、ひょんなことからスピーカーとマイクを入手して。ある時、「高校生ラップ選手権」の前夜祭サイファーをやっていたんですけど、遅い時間だったんで一回解散して、TSUTAYA前に移動して大人の部をやることにしたんです。そこに偶然、ドラムのユージ・レルレ・カワグチさんがいて、その音を聞いていたらビートが合いそうだなと思ったんで、なんなら一緒にやっちゃおうと(笑)。スピーカー置いて、ドーンってやったら、化学反応が起きたんです。路上ライブスタイルのサイファーってこれまでなかったから、新しいなって。もうね、TSUTAYA前がフェス状態でしたからね。これはヤバイと思って、「掌幻、お前も味わったほうがいいぞ! ラップうまくなるぞ。来いよ」って誘って、今の掌幻がある(笑)。そこからCHARLESとかギターのユースケ・ローレンスも加わり、今の渋谷サイファーの形になりました。最近では、トランペットやサックスから、ディジュリドゥ(アボリジニの管楽器)まで、いろいろな楽器が飛び入りで入ってきたり、ダンサーもいたり、みんな自由にやってますよ。
――渋谷でやることの意義って、何かあるんですか?
ACE 僕の家から近いから(笑)。もちろん、一緒にやってるやつらには、それぞれ思い入れはあると思います。でも、北海道でも沖縄でも、どこでだってやりますよ。最近は『FSD』の影響もあって、サイファーをやっていれば足を止めて見てくれる人もいますけど、僕らがサイファーを始めた頃って、今ほどHIP HOPに日が当たっていなかった。当時は「黒人が日本語でラップしてる」くらいの関心度で、人も集まらないし、内々のものだったんです。

――そんな渋谷サイファーが、なぜここまで広まったと思いますか?
ACE 「すごいから」じゃないですか? 「なにこれ?」って、驚きがある。黒人が日本語ラップしている。腕の細いドラマーが、ぶっとい音で叩いている。ギターはめっちゃオタクなのに、なんか色っぽい。女の子のラッパーもいて、ジャンルの幅がめちゃくちゃ広い――。視覚にも聴覚にも、響きますよね。そんなごちゃまぜ感に加え、まぁ僕らのエンタメスキルですかね(笑)。
――そのエンタメスキルが、ACEさん最大の持ち味でもありますよね。
ACE やっぱり『FSD』の影響は大きいですね。ここで初めて言いますけど、山下新治名義(ACEは『FSD』に般若の通訳役・山下として出演している)で、結構なビッグネームの映画出演オファーが来たんですよ(笑)。結局、スケジュールが合わなくて出られなかったんですが、山下名義でオファー来るって、すごい影響力ですよね。でも、僕らがやっていることって、本当にずっと変わっていない。内容的には進化し続けているけど、方向性やメッセージはブレていない。にもかかわらず、『FSD』やるまで、メディアは見向きもしなかった。遅いよ、日本のメディアは! 何年待ったか……(笑)。
――その『FSD』がきっかけで、現在のさまざまなバラエティ番組への出演につながったと思うんですが、DOTAMAさんと一緒に出演した『ヒルナンデス!』(日本テレビ系)の生放送でのフリースタイルは、かなりリスクがありましたよね。撮り直しができないし、禁止ワードを言ったらアウトです。さらに、情報バラエティだと、番組側がACEさんの見せ方を作るので、本来のACEさんのスタイルと齟齬が生じる。
ACE もちろん、リスクはありました。でも、単純に面白そうだなと思って。だって、『ヒルナンデス!』で俺がラップしてるって、おかしいじゃないですか?(笑) ただ、バトルをテレビでやると、当然、禁止ワードがある。自由表現じゃないって嫌がるラッパーもいますが、僕はそのルールの中で、どれだけ自分がうまくやれるかというスリルを楽しむのも一興かなと思っています。最近は「口説きMCバトル」とか、お題のあるバトルも多くなってきていますし、そういったテーマの中で、いかに格好良く見せられるかというのが大事になってくる。おちゃらけて伝わるのは僕たちの本意ではないですが、決められたルールの中で、どれだけ言葉遊びを楽しめるか、ですね。
――一方で、テレビに出て“タレント性”を求められるのを嫌がるアーティストも多いですよね。
ACE 僕はぜんぜん嫌じゃないです。もっとテレビに出たい! だって、テレビに出たらモテるもん(笑)。曲のイメージが崩れるのを懸念する気持ちはわかります。でも、ある程度、露出をしているのに、中途半端にメディアに出るのを嫌がるのは、本人がアーティスティックじゃないから。般若さんの『FSD』での振り切り方がいい例で、逆に彼のアーティスト性を高めている。僕は、ラッパーっていう職業が、もっと芸能界に食い込んでいったほうがいいと思います。テレビで出し尽くしちゃって、飽きられる怖さっていうのもあるかもしれない。ただ、それはスキルの問題ですよね。フリースタイルなんて、毎回変わるワケで、飽きられるはずがない。僕のフリースタイルは一生続くから、今のフリースタイルブームに対しても「仕事増えるぜ」「ありがとー!」って程度で、僕のスタイル自体は何も変わってない。
――現在、日本語ラップシーンはこのまま行けば爆発しそうな雰囲気もあって、そのためには「Grateful days」のようなスマッシュヒットが必要だ、という意見も多いですが、ACEさんはそのあたり、どう思われますか?
ACE いや、“エミネムを超えてやる”っていう覚悟のあるラッパーが、あと15人はいないと、変わらないんじゃないですか? スマッシュヒットごときを狙ってちゃ、ダメでしょ。結局、フリースタイルがはやっているっていったって、「日本のラッパー、誰知ってる?」って聞いても、答えられる人は実はそんなに多くない。やっぱり、エミネムくらい有名なやつが出ないと、何も変わらない。
――その覚悟を持っている人は少ない?
ACE 少ないと思います。長くやっている人ほど、その覚悟が削がれていくっていうか。現実を見れば、そう簡単には食っていけないし、業界のしがらみもある。もしくは、やってみたら意外と行けたけど、そこで行き止まり。「エミネムはアメリカで、日本と市場が違うもんなー」と、あきらめてしまう。そういったさまざまな要因にくじけず、「エミネムを超えるんだ」っていう覚悟と実力と行動が伴っている人がもう何人かいれば、変えられるんじゃないですかね。ここでドカーンと残しておかないと、10年後に「一発屋だった」って言われますからね。ここから先、戦国時代ですよ。
――ACEさん、別のインタビューで「シーンのこととか考えていない」とおっしゃられていましたけど、なにげにいろいろと考えていますよね。
ACE シーンのことは考えていないですよ。というか、先輩たちが頑張ってくれたから今があって、先輩たちがやらかしてしまったからできなくなったこともある。ただ言えるのは、団結する時だということですかね。城を建てないといけないんじゃないですか? きちんとお金の流れをつくって、マネジメントではなく、エージェントのような形でラッパーを守るような組織ができてもいい時期なのかなとは思います。HIP HOPというくくりでは、表には出ず、シーン周辺のビジネスで稼ぎたい人もいる。だから、城を造り、その城の中でラップするアーティストもいれば、HIP HOPに生きる人もいる。その城のラップアーティストに属するなら、『FSD』で盛り上がった今が前に出る時です。客目線でいうと、KICK THE CAN CREWみたいな、ヒットを続けるラップグループが出れば楽しいと思います。そういったユニットがボーンって出て、引っ張っていくっていう可能性はあるかもしれない。
――では最後に、エミネムを超えるのはもちろんですが、今後の目標を教えてください。
ACE フリースタイルもラップもタレント性も、全部ナンバーワンを目指してます。去年「フェスに出たい」って言っていたら、今年はフェスにたくさん出演できたので、今のところは作戦通りですね。今後もフェスに出続けつつ、12月7日にセカンドアルバム『LIGHT DOWN』、来年の上半期にサードアルバム、その後に新曲を出す予定で、その新曲はセルアウトとかではなく、皆の心に届くホームランを狙います。その曲で『ミュージックステーション』(テレビ朝日系)に出たい。あとは『ワイドナショー』(フジテレビ系)で前園(真聖)さんの隣に山下として出て、ラップでコメントしたい(笑)。そういった意味で、僕はHIP HOPアーティストではないのかもしれません。ラップっていう歌唱法を使っている、ブラジル人ACEなんですよ。それが死んだ時に、HIP HOPアーティストになるのかもしれないですね。
(取材・文=石井紘人@hayato_fbrj)
●ACE DVD『ACEのフリースタイルマップ Vol.2』
発売日11月16日
価格:2,000円(税抜)
●ACE 2nd Album『LIGHT DOWN(ライト・ダウン)』
レーベル: 戦極CAICA
発売日: 2016/12/07(水)
品番: SGKC-012
価格: 2,315円(税抜)
ブログ <http://ameblo.jp/aceofficial/>
Twitter <https://twitter.com/ace0317?lang=ja>