
TBSラジオ『えのきどいちろうの水曜Wanted!!』
しゃべりと笑いと音楽があふれる“少数派”メディアの魅力を再発掘! ラジオ好きライターが贈る、必聴ラジオコラム。
えのきどいちろうは、気づきの人である。しかし彼の書くコラムには、何も特別な事件は起こっていないように読めるし、彼のラジオは何も有意義なことは言っていないように聞こえるかもしれない。だがそれは、受け手が気づく前に、まだ彼だけしか気づいてない面白さについて書いたりしゃべったりしているからで、そのポップな文体やゆるい口調とは裏腹に、受け手は彼が見つけた面白さに必死についていくことで、数々の発見や幅広い視野を手に入れることができる。面白さとは本来、そういう発見の過程にこそあるもので、すでに知っていることを再確認して安心する作業ではない。
この10月に始まった新番組『えのきどいちろうの水曜Wanted!!』(TBSラジオ 水曜20:00~21:50)は、まさにそんなえのきどいちろうの面白さが、尻尾の先まで詰まった番組だ。ラジオでは、『BATTLE TALK RADIO アクセス』や『ミミガク』(いずれもTBSラジオ)のパーソナリティー、そして『くにまるジャパン』(文化放送)へのコメンテーター出演等、近年はわりと報道方面の役割を担うことが多く、それはそれでお堅い話題に柔らかな切り口を持ち込むという意味で面白いのだが、『Wanted!!』といういよいよ完全に無意味なことができる場を与えられたことで、彼の異様なまでの「気づき力」が、感触的にはあくまでも彼らしくゆるゆると、しかし内容的には全開、そして濃密に発揮されている。
えのきどの「気づき力」の根底にはもちろん精度の高い観察眼があるが、その眼にはめ込まれたレンズは天体望遠鏡的なそれではなく、むしろ虫めがね的なものだ。遠くよりも近くを見る視力がズバ抜けている。たとえば初回の番組冒頭で彼は、「新番組はいつぐらいまで新しいのだ?」という、普通に考えればものすごくどうでもいいテーマを掲げた。開始1時間までが新番組なのか、半年たっても新番組と呼んでいいのか。そんなこと、ほかのパーソナリティーはきっと誰も気にしていない。新番組を始めるにあたっては、自己紹介をしたり、番組で何をしていきたいかという抱負を語ったり、あるいは最近あった面白い話をしたりというのが定番であり、それでも十分にパーソナリティーにとって目の前にある題材だといえる。さらに、番組名自体について疑問を持ったり、思い入れを語ったりするというのもよくある話だ。
しかしえのきどは、おそらく台本や企画書であれば番組タイトルの前になんとなくついている、そして新聞のラジオ欄であれば、やはり番組名の前に燦然と輝いている、「新」の字に真っ先に引っかかりを覚え、居ても立ってもいられなくなってしまったのである。番組名よりも手前でとどまって考えてしまう。いちいちそんなところで立ち止まってしまったら、一向に前に進むことなどできない。毎朝起きて、「ベッドからの起き上がり方」について考えたり、「なぜ人は二足歩行をするのか」を考えていたら社会生活が立ちゆかない。そうやって大人は無意識のうちに、手前のことを考えないようになる。しかし、これこそが本物の好奇心であり観察眼であって、だから好奇心旺盛な子どもはすべての角をあみだくじのように曲がって寄り道をして迷子になり、目の前のボールを追いかけて遠くから来る車に気づかず飛びだしてしまうのだ。
だが、その小学生のような目線で見つけた疑問が、そのまま手前にとどまっているのではなく、いつの間にかはるか遠くまで飛躍していくのがえのきどの真骨頂。「新聞はいつまで『新』聞なのか?」「古新聞という言い方は古いのか新しいのか?」「新幹線はいつまで『新』幹線なのか?」「京成は新京成のことを、『アイツいい気になりやがって!』『いつになったら大人になるんだ』と思ってるはず」などと、この世に蔓延するさまざまな「新」に疑問を投げかけていく。そこまで来ると、聴いているこちらも、「新番組がいつまで新番組かはどうでもいいにしても、新幹線がまだ新幹線なのはなんだか納得いかないぞ」とか、「いくらなんでも新京成にバカにされる京成はかわいそうだ!」(完全にイメージだが)という気分になってくる。実際にリスナーからも、「考えてみれば新宿や新橋も全然新しくない」「みなとみらいはいつか『みなと過去』になるのか?」なんて抜き差しならない疑問が数々噴出してきて、コーナーをいくつか挟みつつも、気づけば「新」に関する話題のみで2時間弱の番組が終わるという、おそらくは史上もっとも小さいテーマから飛躍的な盛り上がりを見せるという稀有な事態が起こっていた。
そして、先日の4回目の放送(3回目はTBSでは裏送りのため放送がなかったが、Podcastで聴取可能)では、アシスタントの川瀬良子という、これまた文字どおり手前にいる人間にスポットを当て、「川瀬良子が悲しみを受け止めるのだ」というテーマで、リスナーからの悲しい報告をアシスタントにひたすら投げ続ける千本ノックのようなことをやり、川瀬のポテンシャルを見事に引きだしていた。
リスナーからの「道ばたの黄色いゴミネットが秋田犬に見えた」という疲れきったメールに対し、「それは悲しい。ゆっくり休もう」という優しさあふれる回答の後、突如「犬がネットをかぶっていたのかもしれない」と急角度から新たな可能性を疑う川瀬は、たしかに落ち着いた番組進行能力と天然由来の率直さを兼ね備えた「知的なローラ」とも言うべきキャラクターを感じさせる逸材で、最後にはえのきども「川瀬さんのキャパシティに感動した」「川瀬にぶん投げときゃ間違いない」と半ば降参するように、その予測不可能な能力を確信するほど。わからないことを「わからない」とはっきり言ってしまうその素直さは、何よりもわからないものに興味を抱くえのきどにとってまさにお宝であり、彼女が「わからない」という反応を示したことを突き詰めていけば面白くなる、という試金石でもある。
わからないことの中に飛び込んでいって、面白さを発見する。それが大事なことは誰もがわかっているはずだが、そのわからなさが、どこか遠くの、目の届かないはるか先のどこかにあるような気がして、面白さを探すことをあきらめてしまう。ネット社会になって以降、あふれる情報の海の前で、漠然と遠くを見つめてやり過ごすことが増えているような気配があるが、実は我々が見落としがちな面白さとは、遠く視野の外にあるものではなくて、目の前の、近すぎてちょうど死角になっているような場所に隠れているのかもしれない。近くを見るというのは、「近視眼的」という言葉もあるように悪い意味で捉えられがちだが、遠い目をしているだけでは何も見つけられない。えのきどいちろうはそんな大事なことを、教える気なんてさらさらないとぼけた口調と鋭い観察眼でこっそり示してくれる。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)
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【第4回】「おもしろくてあたりまえ」という壁を越える、若手コント師の傍若無人ぶり『ANNお笑いオールスターウィーク』
【第3回】五輪なでしこ戦の裏で炸裂した、ラジオの王様の誠実な毒『JUNK 伊集院光 深夜の馬鹿力』
【第2回】局アナの枠を飛び出した、マジカルな思考回路の冒険『安住紳一郎の日曜天国』
【第1回】予測不能な「集団的笑い」の境地『JUNKサタデー エレ片のコント太郎』
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「安住二世」と呼ばれたくないTBS若手アナが解き放つ、暗黒のポテンシャル『ザ・トップ5~リターンズ』

TBSラジオ『ザ・トップ5~リターンズ』
しゃべりと笑いと音楽があふれる“少数派”メディアの魅力を再発掘! ラジオ好きライターが贈る、必聴ラジオコラム。
ラジオは時に、人の印象を反転させる力を持つ。またしても、テレビでの爽やかなイメージを覆すことで、ひとりのモンスターを目覚めさせてしまった。怪物の名は、山本匠晃。その端正なルックスから「安住二世」ともいわれている、入社5年目のTBSアナウンサーである。そんな彼が、初めてのラジオ・パーソナリティーを務める10月開始の生放送新番組『ザ・トップ5~リターンズ』(TBSラジオ 毎週火曜~金曜18:00~20:00 山本は水曜担当)で、隠されていたネガティブ・パワーを存分に炸裂させているのである。
『ひるおび!』や『さんまのスーパーからくりTV』等の番組で見かける彼は、基本的に清く正しい。だが一方では、なぜだか常時テンパっている感触が画面からにじみ出ていて、司会者にツッコまれると何も返せずにただあたふたする、という場面も多く、どうにも空気が読めていない感じが常に漂っている。それが若さや不慣れによるものなのか、あるいは本人の性質によるものなのか判別できぬままに、時おり見かけてはもどかしい気分に陥っていたのだが、ラジオでのしゃべりにより、このたび完全に後者だと判明した。彼は極度の「緊張しい」なのである。それゆえに、緊張が一瞬解けたときには、雪崩のごとく本音が流れ出して止まらない。そのギャップから来る解放感があまりにスリリングで、一瞬たりともラジオから耳が離せない。
そして、その緊張感をさらに増幅させる装置が、『トップ5』独特のスタート形式である。『ザ・トップ5~リターンズ』は、昨年10月から今年3月まで放送された『ザ・トップ5』からパーソナリティーを一新した、いわば2ndシーズンに当たる番組であり、曜日ごとにパーソナリティーとパートナーを替えた二人編成で進行される。しかし、出演者の二人は事前の顔合わせが一切なく、初回放送中に初めましての挨拶と名刺交換をするという、非常に珍しいぶっつけ本番形式を取っている。そのため各曜日ともに、初対面の緊張感から互いの探り合いを経て、回を重ねるごと徐々に二人の息が合っていく過程を楽しむ番組でもあるのだが、特に水曜日に関しては、その緊張感増幅装置が山本の緊張を完全にオーバーヒートさせ、前シーズン経験者で謎の経歴を持つパートナーのコンバットREC(ビデオ考古学者)をあきれさせながらも驚嘆させるほどの、意外な後ろ向き発言が繰り出され続けるという異常事態を生んでいる。
番組は、「新感覚“残業支援系”ランキングトークバラエティ」と銘打っているように、世の中にあふれるさまざまなランキングを紹介しながら進んでいくのだが、正直そんな企画書的な体裁はどうでもいいとばかりに、初回から山本のネガティブな個性が噴出。冒頭のタイトルコールで「残業」を「塹壕」と噛む不穏なスタートから、「アナウンサー間にイジメはあるのか?」というコンバットRECの質問に対し、「距離を置きたい先輩はたくさんいる」という期待以上の返答。さらに「『ロッキー』が好きな人とは仲良くなれる」という年輩のコンバットRECに対し、「特に思い入れはないです」という空気の読めない正直すぎる答えの後、すぐに自らの過ちに気づいて「ごめんなさい」と謝ったかと思えば、「曲は好きなんですけど……」というむしろマイナスでしかないフォロー。そして、トークが一段落した後の曲明けには、突如として自省モードに突入し、「聴いているすべての皆さんにお知らせします。冒頭から気分を暗くさせてしまいまして、申し訳ございませんでした」という正式謝罪が前触れもなく飛び出すという、完全に錯乱した展開。その後も、「両手の痺れと手汗が止まらない」「安住二世とはいわれたくない」「仕事終わりはすごい一人になりたくなる」などとネガティブ発言を連発しつつ、試食のコーナーでは、「僕、今日なんにも喉を通らなくて」とつぶやきながら豚かばやき丼をしゃべれなくなるほど頬張り、「まさかRECさんの前で、こんなに食べられるとは思わなかった」と自分に驚いてみせるという、まったく先の読めない小悪魔的言動に、聴き手は振り回されっぱなしなのである。
2回目の放送でも、緊張している山本のためにと、コンバットRECが持ってきたハーブティー各種を次々飲みながら、そんなスピードで効くはずないだろというテンポで、飲んだ端から「落ち着きます」「包まれるような感じ」などと信用できないコメントを連発。「先週よりリラックスしてる感じがする」といわれれば、「リラックスはしていない」と即座に否定し、かと思えば「最近、耳たぶの吹き出物と寝違えに悩んでいる」などと唐突に自分語りを始めるマイペース&ネガティブっぷり。しかし、その突然すぎる寝違えの話題が、コンバットRECも首に痛みを抱えているという話につながると、その痛みの原因となった「中学生時代に自転車に乗っていて車に轢かれたが、恥ずかしくて自転車を担いで逃げた」という秀逸なエピソードを引き出すなど、早くも二人の化学反応を感じさせる展開を見せ始めている。表面的にはしばしば行き違っているように聞こえる二人の会話も、一を訊けば十答える博識のコンバットRECが辛抱強く山本を鍛え上げている構図にも見えて、まるで『ドラゴンボール』でピッコロが孫悟空の息子である孫悟飯に稽古をつけるような(そういえば、山本の品のある甘えん坊キャラクターは悟飯に似ている)微笑ましい光景にも思えてくる。
そんな極度にマイペースかつネガティブな山本の面白さは、初回の番組後半に本人の口から飛び出した「人に嫌われたくない。かといってあんまり人のこと好きじゃない」という、「自己愛の強さ」に根っこがあるのだと思う。だが、この「自己愛の強さ」というのは、実はラジオリスナーが安住紳一郎を讃える際のキーワードでもあって、本人はそう呼ばれることを快く思っていないとはいえ、やはり彼が「安住二世」と呼ばれるにふさわしいポテンシャルを感じさせるのは間違いない。過剰な「自己愛」の表明は、ラジオにおいては反転して「可愛げ」として受け入れられることがしばしばある。ただし、安住が若い時分から新人離れした落ち着きを見せていたのに比べると、その点において大いに不安を感じるのもまた確かで、そこを「何が飛び出すかわからない面白さ」ととるか、「不安定すぎて面白さどころではない」と感じるかで、評価は大きく分かれるところだろう。個人的には、「何が飛び出すかわからない」度合いの大きさにおいて安住よりも勝っているところに、「安住二世」の枠には収まらない得体の知れぬ可能性を感じるのだが、それもこの番組をどう乗り切っていくのかで変わってくるだろう。
しかし、彼のネガティブさが、“残業支援系”という番組キャッチコピーにある通り、結果として疲れたサラリーマン(というより、OLや主婦かもしれないが)への癒やしをもたらしてくれることもまた間違いない。もちろん方向性はちょっと違うが、近ごろ話題のネガティブ・モデル栗原類が万人に大いなる癒やしを結果的に与えているように、正直と不器用を由来とするネガティブさは、時にウソをつき常に器用な振る舞いを求められる現代の大人にとって、数少ない心の支えとなる。
(文=井上智公<http://arsenal4.blog65.fc2.com/>)
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