6月に入り、4月にスタートした春クールアニメの大半が早くも折り返し地点に到達。近年まれに見る豊作だった今クールのアニメ群も、クライマックスに向けてますます勢いを増すこと必至です。そんな中、どこまでもマイペースに淡々とエロスを追求し続けるのが『フォトカノ』です。 父から一眼レフカメラを譲り受け、ファインダーの向こうに広がる世界に没頭するようになったルーキーカメラ小僧の主人公・前田一也と、彼の被写体となる美少女たちの恋模様を描く本作は、『キミキス』『アマガミ』の流れをくむエンターブレイン制作の恋愛シミュレーションゲームのアニメ化作品。 『キミキス』『アマガミ』といえば、下半身と脳が直結した思春期男子の煩悩を刺激してやまないお色気成分高めの恋愛ゲームであり、そのアニメ版もまた原作のテイストをさらに増幅させるようなエロスほとばしる仕上がりとなっていました。とりわけ、2度もアニメ化された『アマガミ』はヒロイン人気もさることながら、主人公・橘純一の変態的な行動に話題が集中。変態紳士としてファンから高い人気を獲得する怪作となったことを覚えているアニメファンも多いことでしょう。 こうなると『フォトカノ』の主人公の活躍に期待してしまうのが人の性。満を持してスタートした最新作の主人公・前田一也君は、一体どんなキャラクターなのかというと、あの手この手でヒロインたちを撮影。紆余曲折ありながらも、最終的にはヒロイン自らセクシーショットの撮影を希望させた挙げ句、自分の恋人にしてしまうという篠山紀信バリの凄腕カメラ小僧だったのだ! 本作は複数のヒロインを攻略する恋愛シミュレーションゲームが原作ということで、一つのスタート地点から複数のエンディングが存在する作品です。誰か一人と主人公がくっついてハッピーエンド……とはならない、なかなかに扱いの難しい題材です。そんな原作のテイストをアニメに再現するべくスタッフが選んだ構成は、第1話から第4話までを登場人物紹介やストーリーの基礎設定を解説するエピソードに充てて(=共通ルート)、そこから先は各ヒロインのルートに分岐させていく(=個別ルート)というアクロバチックなもの。つまり1人目のヒロインとのストーリーが終了すると、再び物語は第4話終了時点にリセットされ2人目のヒロイン、3人目のヒロイン……という具合に異なる世界線の物語が描かれるというわけです。これが今はやりの並行世界モノってことですね! 違いますか。そうですか。 そんなわけで、各ヒロインを続々と攻略していく第5話以降は、毎回のごとくヒロインのお色気シーンと思わず赤面必至の告白シーンがノンストップで押し寄せてきて、ピンク成分がオーバードーズ。学園のヒロインにして幼なじみ・新見遙佳を撮影すれば、なぜか泣きながら告白されつつおっぱいを主人公に揉ませてくれるわ、真面目な風紀委員長・室戸亜岐の弱みを握った主人公はそれをネタにセクシーショットを撮影しまくるのみならず、地面に四つん這いになり「俺の上に乗って!さぁ!」と絶叫するわ(ちゃんと理由もあるんだけど、どう見ても変態紳士です)、巨乳スポーツ少女・間咲ののかと海に行けば彼女は自ら手ブラ撮影を希望。最後は水着のブラに手を突っ込んではにかみつつ「手ブラ風ってことで……」と上目遣い。全体的にどうかしています(褒め言葉)。 しかも、メインヒロインということで攻略に2話使っている新見遙佳以外のヒロインは、1話でカタをつけないといけないので展開スピードもジェットコースターのごとし。休む間もなくモニタ上を肌色が駆け抜けていくのです。 そんなピュアでゲスなパッションが炸裂する本作ですが、映像的にも見どころ満載。まずはエロ漫画直系の思い切りパースを利かせたアングルと、セクシーポイントをこれでもかと拡大したセクシーショットが挙げられます。エロ漫画では「ここぞ!」という見せ場(つまり「抜きどころ」)では、思い切りお尻やおっぱいを強調した絵を用意します。ともすればデッサンが狂っているともいわれがちな演出ではありますが、だがそれがいい! エロスの前にデッサン狂いなど些細な問題なのだ。そんなスタッフの思い切りが伝わってくるかのようです。 さらに、毎回なんだかんだと描かれる水着撮影シーンですが、ここではほぼ必ず3D映像を加工したダイナミックなセクシーショットが挿入されます。なめるようなカメラワークでヒロインの肢体を描くカットは、本作のハイライトシーンといえるでしょう(余談ですが、実原氷里との恋模様を描く第7話では『マインド・ゲーム』監督の湯浅政明が絵コンテで参加。いきなり背景が三次元的にグリグリと動くカットで視聴者の度肝を抜いたことも忘れられません)。 というわけで、ホワイトバランスもISO感度も気にせず、煩悩と情熱のみで美少女たちの眩しい青春をフィルムに収め続ける『フォトカノ』は、間違いなく『キミキス』『アマガミ』の流れをくむ立派な「変態アニメ」といえます。さらに「エロス」をキーワードに、様々な映像的な挑戦をするスタッフの心意気にも脱帽するばかりです。いや~、本当に日本のアニメって懐が深いですね。(前回も似たようなことを言った気がしますが)この表現の自由がいつまでも守られることを、願わずにはいられない今日この頃です。ニヤケ顔を晒しつつこんなことを言っても、全然説得力ないんですけど。 (文=龍崎珠樹)『フォトカノ』公式ホームページより
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一日の最後に見るならこれ! 癒やしの日常アニメ『ゆゆ式』
かっこいいロボットがガンガン戦う『翠星のガルガンティア』『革命機ヴァルヴレイヴ』『銀河機攻隊 マジェスティックプリンス』(個人的には『マジェスティックプリンス』が好きです!)。ロトスコープとアクの強い物語がなんだか心地悪い『惡の華』。ダイナミックなアクションと危機的な制作状況が作品に妙な緊迫感をもたらす『進撃の巨人』などなど、この連載でも紹介してきたように、今クールは制作側の気合がビシバシ感じられるアニメが数多く放送されています。 ここ数年続いた「日常系アニメ」ブームの反動ともいえる物語回帰を果たした上記の作品群はいずれも見応え十分な半面、立て続けに見ていると少しおなかいっぱいになってしまうのも事実。ヘヴィな作品の合間にライトな作品を見て、箸休めをしたいのも人の性。そんな欲しがり屋さんな我々アニメファンの心を癒やしてくれるのが、現在TOKYO MX、AT-Xなどで放送中のアニメ『ゆゆ式』です。 野々原ゆずこ、櫟井唯、日向縁の女子高校生3人が繰り広げる、まったりした学園生活を描く本作。ここから何か物語が動き出すのかというとそんなことは一切なく、終始のんびりした雰囲気の中でとりとめのないガールズトークが展開するのです。正直「ここが斬新だ!」とか「この演出がすごい!」みたいな要素は皆無なのですが、何気ない日常を本当に楽しそうに過ごすヒロインたちの姿は、仕事や学業に疲れた現代人の心を癒やしてくれるような気がします。 ちなみに本作のメインキャラクター3人を演じるのは、同年代の若手女性声優たち。まず、ゆずこ役に大久保瑠美、唯役に津田美波が登板していますが、彼女らは日常系百合アニメとしてヒットした『ゆるゆり』でもメインキャラを演じていたというのは、声優ファンならもはや常識。本作でもノリノリのボケ&ツッコミを披露してくれるのも、声ヲタ的には高ポイントです。 そしてもう1人のメインキャラ・縁を演じるのは、昨年『新世界より』でヒロイン・早季を演じた種田梨沙。ほかの2人と一緒に、愉快なガールズトークを繰り広げます。その脇を固めるのが、茅野愛衣、潘めぐみに堀江由衣。爽やかで耳触りのいい女性声優の声が作品に彩りを添えます。 環境映像のようにぼんやりと映像を眺めるもよし。環境音楽のようになんとなく流しているだけでもよし。まさに一日の最後に楽しむのにぴったりなアニメが『ゆゆ式』なのです。 それにしても、世界の命運をかけて戦う大作アニメから、とりとめのない日常を描くアニメまで網羅する今クールのテレビアニメは、言うなれば日本のアニメの持つ懐の深さを象徴するようなラインナップといったところでしょうか。テレビ番組表をチェックするのが妙に楽しい今日この頃です。 (文=龍崎珠樹)テレビアニメ「ゆゆ式」公式サイトより
異例のアニメーター募集に、未完成バージョンの放映……アニメ版『進撃の巨人』は大丈夫か
もはや撤退不可能。されど進めば地獄。そんな進退極まる状況にあるのが、現在放送中のアニメ『進撃の巨人』だ。2009年10月より「別冊少年マガジン」(講談社)で連載をスタートした本作は、謎の巨大生物・巨人に蹂躙(じゅうりん)される人類の絶望的な戦いを描く、ファンタジーアクション作品。単行本が発売されるやいなや、「このマンガがすごい!」2011年版オトコ編1位。「全国書店員が選んだおすすめコミック2011」1位。第4回マンガ大賞第7位。第35回講談社漫画賞少年部門受賞といった具合に次々と高評価を獲得。最新巻10巻までに累計発行部数1200万部を突破している大ヒット作である。 そんな本作のテレビアニメが4月よりMBSほかで放送を開始。いろいろな意味で話題を呼んでいる。原作者・諫山創の荒削りながら緊迫感あふれる描線を残しつつも、アニメらしい洗練されたキャラデザインや、CGを駆使することでワイヤーアクションとガス噴出を組み合わせた本作ならではの「立体機動アクション」が乱舞する第1話は、Linked Horizonの壮大な主題歌「紅蓮の弓矢」の迫力も相まって、アニメファンの間で高い評価を獲得。すぐさま主題歌のMADムービーがニコニコ動画に投稿されるなど、ちょっとしたフィーバーとなった。 しかし、第1話放送後に総作画監督・浅野恭司がTwitter上でアニメーターの募集を訴えるツイートを投稿。放送開始早々、本作のアニメ制作体制に対する不安がアニメファンの間でささやかれていた。ついで、先日放送された第4話から不穏な空気が作品に漂い始める。福岡放送で番組をチェックした視聴者の間から、妙に静止画や使い回しのカットが多いという声がネット上で上がり始めたのだ。その後、ファンの手によって福岡放送版と全国放送版の比較動画が制作され、アクションシーンを中心に福岡放送版は画像が差し替えられていることが発覚。そして先週放送された第5話で、事態はより深刻さを増してくる。先述の福岡放送に加え、北海道テレビ、テレビ大分でも静止画像、風景カットなどを多用した未完成バージョンが放送されてしまったのだ。 局によって異なる内容が放送されてしまったという事態に対して、公式サイト上には「制作上及び放送局納品期限の都合」と謝罪文が掲載されたが、果たしてこのまま無事に2クールを乗り切ることができるのか、ファンとしては戦々恐々といったところだろう(『進撃の巨人』の制作元請を担当するのは、『ギルティクラウン』などを制作したProduction I.G 6課のスタッフが2012年に独立し、設立したばかりの制作会社・WIT STUDIOである)。 これまでも、制作スケジュールの遅延や、制作体制の破たんでオンエアに影響を及ぼした作品がなかったわけではない。制作スケジュールの破たんによる動画枚数の削減、ストップモーションの多用。さらに線画の使用まで演出に昇華してしまった『新世紀エヴァンゲリオン』(95年)や、韓国スタジオに丸投げした結果、壮絶な紙芝居を放送する羽目になった『ロスト・ユニバース』(98年)は有名なところだろう。それ以外にも、ここ数年に限るなら、第7話の納品が間に合わず第6話を2週連続で放送せざるを得なくなってしまった『ガドガード』(03年)(本作は全26話のうち、20話で打ち切りとなってしまった)。主にシナリオ面、設定面での作り込みに時間をかけ過ぎたために、あまり作画に時間を割くことができなくなりお粗末な作画でオンエア。その後、ファンからのブーイングを受けてDVDの単品発売が中止。全面的に作画リテイクを施し、放送開始から1年後にBOX形態でようやくソフト化を実現した『咎狗の血』(10年)(BLゲームを原作とする本作において、キャラクターの作画崩壊はもっともクリティカルな問題だったようである)。はたまた超絶低クオリティー映像でアニメファンを震撼させた『MUSASHI -GUN道-』(06年)。「制作会社の都合」により、第6話で放送が中断してしまった『RGBアドベンチャー』(06年)など一連のACCプロダクション作品など、華やかなアニメブームの裏側では惜しくも討ち死にしてしまったアニメたちが死屍累々である。 この中に『進撃の巨人』が新たにリストアップされるのか。それとも、ここで見事踏みとどまり、アクションアニメ大作として歴史に名を残すのか。図らずも本編に負けず劣らずの危機的状況となってしまった(と思われる)『進撃の巨人』の制作状況だが、スタッフの奮戦に期待したいところである。 (文=龍崎珠樹)アニメ『進撃の巨人』公式サイトより
『惡の華 ~ハナガサイタヨ会~』徹底詳報 「原作ファンはこれを待ち望んでいると信じてた」
第1回(※正式な話数表示は「回」)オンエア直後から、絶大な賛辞と同時に強烈な拒否反応を呼び起こしたアニメ『惡の華』。ロトスコープの画が気持ち悪い、エンディングテーマ曲が怖すぎる……。しかし非難をよそに、評価の声も確実に増えてきている。緊張感あふれる日本映画的な第1回ののち、事態は仲村佐和の怖さと春日高男の挙動不審をもって笑いのターンに入り、大天使っぷりがたまらない佐伯奈々子の物語への本格参入によって恋愛の要素も醸しだされ、1話ごとにコロコロと表情を変えてきた。後述するスタッフの言葉によれば、今後も変転は続くという。最後まで見ないことには評価ができない作品であることは明白だ。 なぜこの作品はめまぐるしく表情を変え、見る者によって評価が著しく異なるのか? それもそのはず、スタッフやキャストも、第1回が完成するまでは着地点が見えていなかったのだ。 4月27日、パセラリゾーツ銀座店B3 BENOAにて開催されたイベント『惡の華 ~ハナガサイタヨ会~』には、監督の長濱博史、原作者の押見修造、春日高男役の植田慎一郎、それに飛び入りで仲村佐和役の伊瀬茉莉也、音響調整の名倉靖(SonoPower)、そして司会として山田役の松崎克俊(やさしい雨)が登壇。メイキング要素たっぷりのトークを繰り広げ、映像の元になった実写映像(第3回)の上映を行った。時系列に沿って言葉やリアクションを拾いつつ、『惡の華』考察の材料を積み上げていこう。 まず登壇したのは長濱、押見、松崎の三氏。長濱によれば、スターチャイルドの中西豪プロデューサーから「やってもらいたい作品がある」と声をかけられたことが、アニメ版『惡の華』制作のきっかけだったという。意欲的な中西に対し、長澤は否定的だった。これなら、と採用したのはロトスコープ。 「すごく原始的なアニメーションですね。今の進化したアニメーションとは違って、退化している」(長濱) ■絵柄が違う! 「原作と絵柄が違うので、原作のファンに生卵をぶつけられるのではないかと、長濱監督はずっと心配していたんです」とは司会を務めた山田役、松崎の弁。幸い、会場に卵を手にした原作ファンはいなかったが、実は初期の画は長濱自身が恐縮する出来だった。洗練されてきている現在とは、トレースの仕方が異なっていたのだという。 「唇とか眼の下のたるみ、鼻の小鼻を全部取った。試しに先生(押見)に見てもらって『実際はもっとかわいくなる、もっと格好よくなるはずだ』と。先生は『すでにかわいく見えてますよ』を言ってくれましたが」(長濱) 自分でもトレースしてみた押見は「適当に線を拾ったら、ああはならない」ことを確認。絵描きとして、その可能性を感じていたようだ。 「トレースは人によってバラバラでした。それをまとめるのが一番大変でした。今でも」(長濱) たとえば山田。演じる松崎のパーマヘアのラインを全部克明に取ると、存在感が半端なくなってしまう。そのためフォルムを整理し、髪の毛ではなくエフェクトのようなものだと考え、輪郭線を取っているのだという。 ■奥深い録音調整 登壇した3人ともロフトプラスワンのノリでビールを頼むが、それが運ばれて来る前に水を運んできたのは、なんと仲村佐和役の伊瀬。遊びに来たはずが急遽出演することになり、「後で戻ってくるから」と一度退散する。 ここで登壇したのは、録音調整の名倉だった。彼も飛び入りである。 「『蟲師』からずっと録音調整をお願いしています。録音調整は奥が深い!」(長濱) 『惡の華』の場合、たとえば学校の廊下で話すとして、建物の材質、窓がどちら側についていてどのくらいの大きさかといった空間情報を考慮しつつ反響をつけ、まるでその場で話しているかのように加工していく。ほかにも、アフレコ中に声優の声を画の口パクに合わせて調整するなど、作業は多岐にわたる。 「基本的にセリフに関する音周りのすべてと、深田さんがお持ちになられる音楽のバランスを調整しています。効果音は音響効果さんが作ってこられるので、録音現場では効果さんと2人でミックスしていくという作業です」(名倉) 音響制作についてはロトスコープということで、大きくは二段階に分かれている。あらかじめ編集された実写版にアフレコをしてセリフを載せるヴァージョンと、最終的にアニメーションになった画に対してさまざまな音源を搭載、ミックスした最終ヴァージョンだ。この日に上映された実写版は最終ヴァージョンだった。 原作の押見は「通っていた通学路で聞いた音がまざまざと甦る。あのカーブミラーのところ、すっげえ静かなんですよ。車の音もあまりしていなくて、烏の声と、3人の声が反響しているんですけど、それを僕は知っている」と、アニメ版『惡の華』の音響を評価する。「この人が要です。この人がいなかったら、薄っぺらい音になってる」と長濱が称賛する名倉ら音響制作スタッフの労苦の賜物だ。 ■植田慎一郎登場 そして、春日高男役の植田が登壇する。現場では「カス」「バッカス(馬鹿カスの略)」「負けカス」と呼ばれて散々な植田だが、それは愛されていることの証であるようだ。長濱はチャラいジュノンボーイの植田を、オーディションで落とす気まんまんだったという。 「最初にオーディションに来たときは、今よりチャラっチャラな男だったんです。絶対にコイツだけは選ばない、と思っていた。いや、そりゃそうですよ。ジュノンボーイですよ。絶対ダメ。春日じゃない。外す気満々だったんですよ。でも、真面目なんです。あと弱い。芝居がものすごく弱い。オーディションで、男の子の役は順繰りに全部やったんです。山田をやっても弱い。小島をやっても弱いんだ、これが。もう、ヘロヘロなんです。人一倍奥にいる」(長濱) 「ナイスガイだと思いました。すごく人懐っこかったですよ。一番先に来て話しかけてきてくださって『僕のお姉ちゃんの写メ見ますか?』とか」(押見) 1時間半早くオーディション会場に着き、無音に耐えられない植田は、自分から長濱や植田に話しかけた。 「いいヤツだなと。最終的にすべてを賭けてくれるんじゃないかとね。『髪を切るのも裸になるのもブルマを履くのも、問題ないです。なんでもやります』と言ったから、じゃあと、春日くん(役)に決めました」(長濱) ■伊瀬茉莉也登場 そして春日にブルマを履かせた変態類友、仲村佐和役の声優キャスト伊瀬が登壇した。伊瀬が仲村の役を射止めたことには、タイミングが大きく関わっていた。昨年、長濱に再会した伊瀬は「長濱監督の現場に帰りたい」と号泣。胸のうちをさらけ出したとき『伊瀬ちゃんにピッタリの役があるよ』と言われたという。 「“ピッタリ”とは、どういう意味なんだろうと思って原作を読ませていただいて『うおー……長濱監督はなぜわかってしまったんだろう? ピッタリじゃないか』と。『仲村の役は私でしか演じられません。演じさせてください』と、こちらからもお願いしました」(伊瀬) このときの伊瀬は、仲村のように髪を短くし、何かをぶつけたいという力が出ていたという。「今、この役の時期なんじゃないかと思った」と長濱。 自分の役者人生をすべてかけようと、伊瀬は原作を読み始めてから1年、心の中で仲村を育ててきた。仲村に「なる」作業は、もちろん現場でも継続してきた。 「アフレコ現場では、それぞれが役に入る準備をしているんです。植田くんはだいたい膝を抱えている。『俺は春日、俺は春日』と。ひよっち(日笠陽子)はソファーに体育座りして、ぼーっと抜け殻みたいになっていて。私は仲村の気持ちを作るために『おはよう』って、(植田に)近づいていくんですよ。でも彼は逃げていく。それを追いかけることから始まりました」(伊瀬) ■押見修造の指摘する「向こう側」 ノロウイルスで倒れた2回を除き、ブースの後ろで漫画の原稿を書きながらアフレコに立ち会った押見は、原作者として、演技の監修に当たる一言を、時折放っていた。 「伊瀬ちゃんが植田くんに何かをぶつけたり叫んだりするとき、それが春日に向かっている仲村の言葉だった場合、必ず先生は『違和感』があると言うんですよ。『今のは、春日に向いていたから』と。1話の『うっせえ、クソムシが』は(担任の)先生に言うんじゃなく、虚空に言う感じ、と押見先生は言ったんですよね。中村は、春日の後ろにある向こう側に向かって言っている。『自分をよく見ろよ』と言うときも、同じです。春日と中村は同じ方向を向いているから、お互いを見つめ合うことはない。『私が見る向こう側をあなたも見なさいよ。あなたにも見えるはずなんだから』というのが仲村だと」(長濱) 第1回「クソムシが」の本番テイクは、力が入りすぎ、向こう側ではなく手前の担任に向かってしまったため、テストのテイクが採用された。 ■実写版第3回上映へのリアクション そして、この日の目玉である実写版第3回上映の時間がやってきた。ロトスコープ方式でアニメーションを制作するための「素材」である実写版は、しかし尺も合わせて一度かっちりとしたフイルムになっている。映像はモノクローム。ときに某「ボ○ギノール」CM調の静止画カットが入る。ほぼそのまま実写映画として見られる出来になっているが、あくまでもロトスコープのベースとなる映像であるため、一部にいかにも制作中という感じの痕跡が残っていた。 ・お母さんの実写キャスト、茶髪の若い役者さん。 ・図書室で返却カウンターの上に助監督が立っている。 ・『惡の華』の本の表面はテクスチャを貼り込むため、マーカー仕様になっている。 ・いっしょに下校するシーンの仲村佐和実写キャストの佐々木南は、就活中で髪の毛の色が黒くなっている。 これらは逐一、長濱監督によって解説された。 冒頭、ブルマを手に挙動不審な春日のシーンから笑いが漏れる。これはこれでアリだ。十分鑑賞に耐え得る。OPを歌う「の子」の声に、「植田くんの声に似てません?」と伊瀬。その通り。ついでに言えば、第4回OPの後藤まりこ(元ミドリ)の声は、伊瀬に似ている。 春日が佐伯奈々子の体操着を捨て、証拠隠滅を図ろうとするカットの背後に見えるおばさんを「ここむちゃくちゃ怖いですよね」という松崎に、長濱監督は「『桐盛館』という俺たちがお世話になった旅館の女将さんなんですよ」と説明。 「うぉい春日、ドゥクシ」と山田が春日をいじるところでは場内から笑い。「春日、面白いことになってきたな」(山田)でまた笑い。とにかく山田はいるだけで笑える。 第3回のクライマックスは図書室で仲村が春日の服を脱がし、佐伯の体操着を着せる場面である。 「佐々木さんは一旦、ここで手を(体操着の袖に)通すんですよ。アドリブでやってくれたんです」 春日(海パンを履いた植田)を脱がして体操着を着せブルマを履かせるところは、本気で抵抗された状態で着替えさせ、かなり時間がかかったという。このシーンが終わり「先生どうですか?」と訊ねられた押見は「うらやましい!」を素直な感想をもらした。 満月に佐伯が浮かぶシーンでも笑いが起こる。 「今どきやらないですよね。これがシュールギャグたるゆえん」(長濱) フィリップ・K・ディックの『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』を手に持ち冷や汗をかく春日の背後で、山田が口笛を吹いて平静を装っているところでも、また笑いが起こった。完成したアニメ版ではピントをぼかした背後に山田がいたためわかりにくかったが、くっきりした山田(松崎)の顔に場内が和む。 ■ずれと想定外 気になるのは、この上映中、そして上映後に長濱から出てきたいくつかの言葉だ。 「(新人)は、昔の日本映画で必ず入れていたんです。縦書きだったらこれだろうと思って入れたんだけど、このギャグわからないかなぁ」 「これエンディング怖いですか? みんな格好いいと言ってくれると思っていたから」 「実写どうですか? 実写だけでもあり? そう言われると複雑な気持ち」 どうも視聴者と長濱の読みがズレているようなのだ。しかしズレているということは、想定外の作品を届けているということでもある。それが新鮮な驚きと捉えられれば賞賛に、期待していない要素を捉えられれば非難に、それぞれ転換されるのだろう。 賛否それぞれの要因となっている「実写でやらなかった理由」を松崎に訊かれた長濱は次のように答えた。 「実写でやったら、要は佐々木南(仲村佐和役)さん、三品優里子(佐伯奈々子役)さん、植田慎一郎です。でもどうしても、フイルムの中にしか存在しない人にしたかったんですよ、仲村佐和も佐伯奈々子も。だから、三品さんだけがいたら佐伯奈々子になるわけじゃない、日笠(陽子)さんの声が加わって佐伯奈々子になる。伊勢ちゃんの声がはまってようやく仲村佐和になるという方向に、持っていきたかったんですよね。だからどうしてロトスコープかと言われてもわからない。それが一番原作が求めていることだと思ったし、先生もそうだそうだと言った。俺たち2人は、原作ファンは絶対これを待ち望んでいると信じて疑わなかった。だから原作ファンの人が『なんじゃこりゃ?』となったと聞いて、『あれ?』って。俺は原作を読み間違えたのか? でも先生と俺はズレがないんですよね。そこが不思議なところです」 これに対して「僕がズレていたんですよ」と押見。伊瀬は次のように肯定した。 「あれが2次元の原作の画をそのまま描いたアニメーションだったら、また全然別物になっていたと思うんですよね。先生は最初に『惡の華』はジャンルに分けられないものだとおっしゃっていたじゃないですか。変態だけを描いている漫画ではないし、仲村に罵倒されてキュンキュンする作品ではない。それを提示するには、アニメでもない実写でもない2.5次元的なところで描いているこのロトスコープはすごいと思いました」 音響でもロトスコープは効果的に働いていた。 「実写の画は見られるんですが、最終的な画がどうなっていくかまったくわからない状態です。音をどう作り上げていくか、音響監督のたなか(かずや)監督と音響効果の川田(清貴)さんと3人で話して、わからないね、というのが、実は最初の結論だったんですよ。ただ実写をもとに画を描いていくということは、一度実写の画に対して説得力のある音を作っていこうという方向性があり、セリフのアンビエンス(背景音)とか、効果音の付け方も全部決まっていった。第1回の後に、初めからロトスコープの画でやっていたらこの音にはならなかったよね、という話をしました。その場合、アニメ的な方向に作りを寄せていくことになったんだろうなと。実写の音のままロトスコープに当てて逆にマッチした加減が面白い」(名倉) 「アニメでこの音出せるんですね」という長濱の言葉に、名倉は「アニメじゃねえもん、実写につけてんだもん」と返したという。 「こんなにリアルな音を作れるんだなと。全部が組み上がるまでは想像しきれなかった」(長濱) スタッフにも予測不可能な着地点が視聴者にわかるわけがない。なんともライヴな作りだが、それもある程度は狙いのうちだ。ホラーのように始まり、ギャグに転化した第3回を、松崎は「僕は仲村さんがかわいい回。河原でかわいい回」と評している。 「滑稽に見えるところから恋愛の要素が出てきて、いろいろ形が変わっていくところが面白い」と長濱が言えば、「主人公も一貫していないですしね」と押見。 人間とはそういうものだ。ちょっとの付き合いで表面はわかっても、心の深奥まではわからない。そのドロドロをえぐり出すことがテーマであれば、1話ごとに作品が表情を変えていくのも当然だ。『惡の華』は生き物のようなアニメであるらしい。 ●登壇者コメント 伊瀬茉莉也 「すみません、飛び入りで参加させていただいちゃいました。この思いがどれだけ伝わるかわからないんですが、この『惡の華』に携わっている人は、みんな同じ思いだと思います。特別なんですよ。どれだけ特別かって? むちゃくちゃ特別(笑)。最終回のアフレコが終わったときは寂しくて、自分の半身が持っていかれた気分。だからこうやってイベントに遊びに来て飛び入りしちゃうし、アフレコは終わったけど、来週からダビングのほうに……そういうこと、今までにないから。仕事として割り切っていない。本当に特別な作品なので、どうぞみなさんも、オンエアを最後まで見てください。ものすごい衝撃が待ってます」 名倉靖 「飛び入りでごめんなさい。本当にすいませんでした。アフレコも全部終わっちゃって、音響作業が概ね真ん中くらい。アフレコも衝撃なんですが、毎回毎回ダビングも『ああ~っ』と……。冷静な部分を持って現場に臨んでいるんですが、そこを超えた衝撃が毎回出来上がっていて。各話微妙にニュアンスが違うんですが、回を追ってすごくなる。この先、すっごく楽しみにしていてください」 植田慎一郎 「今日は実写の映像を見ていただいたんですが、僕のあられもない姿を見た責任として、最後まで見ていただきたいなと思います。今日放送の4話、5話と進むにつれて、春日が気持ち悪くなっていくので」 長濱博史 「特別なものにはなっていると思います。現場は毎回変なテンションになるんです。出来上がってくるものはまったく予想がついていない。毎回先が楽しみで。自分の中では最終回が一番大きな意味を持っているんですよね。最終回は相当すごいです。自分でハードルを上げるみたいであれなんですが、ないです。最終回は、本当にない最終回です。本当にない。(※それ、まったく伝わってこないですよ、と松崎に言われて)俺は見たことがないんです。最終回でロトスコープにしてよかったなと思ったんですよね。ロトスコープでしかできないことをやった。それを楽しみに、ずーっと見ていってくれたら、最終回はすごいものになります。最終回だけ見てもすごいですけど。またイベントも何回かやらせていただけるみたいなので、これからも『惡の華』をよろしくお願いします」 押見修造 「オンエアのたびに、監督に感想メールを送るようにしていたんですが、3話目くらいから素直に送れなくなってきて。悔しくて。漫画より面白いじゃないかと思って、あまりテンションの高いメールが送れなくなってきた(苦笑)。4話目も嫉妬して。しかもここからもっとすごい回ばっかりなので、これは自分も頑張って漫画を描かないとと、決意を新たにしました。これは、いち視聴者として見ないともったいない作品だと思っています。ぜひ見てください。漫画も読んでください」 ※なお、この実写版第3回はイベントのみの限定上映の予定だったが、ファンからの反響に応える形で後日配信された。 (取材・文=後藤勝)左から司会の松崎、飛び入りの伊瀬、主演の植田、原作の押見、監督の長濱、音響調整の名倉。
賛否両論巻き起こす、アニメ版『惡の華』ロトスコープの功罪
「ハ・ナ・ガ・ハナガ・サイタヨー」のエンディングテーマがいやでも耳に残るアニメ『惡の華』。皆さん、見てます? 「別冊少年マガジン」(講談社)連載中のコミックを原作とした本作は、全編にわたって実写映像をトレースする「ロトスコープ」という技法で制作された日本初のテレビアニメとして、TOKYO MXなどU系局やネットで4月より放送開始。記号的表現の真逆をいくような写実的な映像は、現在主流のアニメ表現に慣れ切ったアニメファンのみならず業界人にも大きな衝撃を与え、「すごい表現だ!」「いやいや、気持ち悪い!」「仲村さんがかわいくないブヒー!」と賛否両論を巻き起こしています。 本作を語る上で、ロトスコープという手法について触れないわけにはいけません。冒頭で触れたように、ロトスコープはモデルの動きをトレースした作画をアニメーションさせる手法で、その制作の手間は通常のアニメの比ではありません。全編ロトスコープで制作されたアニメはディズニー映画『白雪姫』(1937年)や『ガリバー旅行記』(39年)、キアヌ・リーブス主演の『スキャナー・ダークリー』(06年)などが挙げられますが、その多くは特撮映画のVFX表現やアニメ『坂道のアポロン』の楽器演奏シーンなどのように、一部で使用されるのみにとどまっています。ただその分、キャラクターを演じる役者の微妙な表情や何気ない仕種、息遣いまでもが生々しくアニメーションに再現されるのです。 そんな『惡の華』がいかにして作られているのか。この疑問に応えるかのように、4月30日よりニコニコ動画にて第3話の実写パートが公開されています(http://live.nicovideo.jp/watch/lv136003444)。この動画を見ると、本物の映画同様にセットが作られて、その中で役者が迫真の演技を繰り広げていることに、まず誰もが驚くことだと思います。 アニメの素材として使用される、というレベルではないあまりのガチっぷりに「もうこのまま実写ドラマにしちゃえばいいじゃない」というコメントが流れていました。確かに自分もそう感じたのですが、しかし、何かが物足りない。すでにアニメ『惡の華』の世界を覗いてしまった自分としては、この実写映像は『惡の華』の映像化作品としては安定しすぎている、と感じてしまったのです。 シリアスなドラマでは等身が高めキャラデザになるし、ほのぼのした作風なら柔らかそうで丸いタッチのキャラデザになる……といった具合に、作画やキャラクターデザインが演出に直結しがちなのがアニメというジャンルです(これは相当乱暴な解釈ですが)。 その中で『惡の華』はロトスコープという手法を用い、秒間24コマの実写映像を秒間8コマのリミテッドアニメに変換することで、「三次元」と「二次元」、「現実」と「非現実」の狭間で揺らぐ不安定なビジュアルを描き出しています。この独特の揺らぐビジュアルが、本作の持つ「正気」と「狂気」の狭間で揺らぐ主人公たちの不安定な心象風景を、非常にうまく演出しているのです。『惡の華』の世界観は、従来の記号的なアニメ表現でも、滑らかに動き回る実写映像だけでも描き出すことはできなかったと言えます。 おそらく本作は、Blu-ray&DVDのパッケージ販売という数字の上では成功するとは言い難いでしょう。しかし、アニメ表現における「想像力」という点で、莫大な遺産を残すことになるはずです。これから中学生たちの歪んだ青春は、どんな暴走をみせるのか。ASA-CHANG&巡礼による不穏なエンディングテーマを聴きながら楽しませてもらいましょう! ドゥクシ! (文=龍崎珠樹)アニメ『惡の華』公式サイトより
オッサン世代も大興奮! 今期の本命ロボットアニメ『革命機ヴァルヴレイヴ』
例年になく豊作といわれている2013年春クールアニメ。個人的には、その中でもロボットアニメの充実ぶりに感激しまくりなんですが、皆さんはどのロボットアニメがお気に入りでしょうか。 近年のロボットアニメというと、『ガンダム』『マクロス』『ヱヴァンゲリヲン』のような定番シリーズもの以外は、『アクエリオンEVOL』のようなネタ方面に振り切れた変化球タイプや、社会問題への意識が高すぎた『エウレカセブンAO』のような作品。はたまた美少女アニメとロボットアニメのいいとこどりをしようとした『輪廻のラグランジェ』『トータル・イクリプス』など、「ロボットがガッツンガッツン活躍するアニメ」を期待していた自分としては、ちょいとばかり物足りない作品が多かったような印象がなきにしもあらず。 それはそれで面白かったりするんですが、やっぱり少年が戦闘状況にいきなり巻き込まれて、最新型ロボットに乗り込んで悪戦苦闘しながらもエースパイロットへと成長していく王道ロボットアニメっていうのも見てみたいじゃないですか! そんなオールドタイプなロートルアニメファンな自分としては、今期の新作ロボットアニメには、まるで80年代前半から中盤にかけてのロボットアニメブームを思い出させてくれるような懐かしさと、現代ならではの新しさをビシバシと感じられてうれしい限りです。 というわけで、今回はオッサン視点で今期のおすすめロボットアニメを紹介します。 ■『革命機ヴァルヴレイヴ』 『ガンダム』『ボトムズ』『バイファム』など、数多くのロボットアニメを生み出したサンライズが送る最新ロボットアニメが『革命機ヴァルヴレイヴ』です。あらすじは以下の通り。 人類が宇宙に進出し70年。人口の大半が宇宙都市に移住した時代、小国・ジオールに住む高校生・時縞ハルトはドルシア軍事盟約連邦と環大西洋合衆国の戦争に巻き込まれてしまい、謎の新型ロボットであるヴァルヴレイヴに乗り込んでドルシア軍との戦いに身を投じるようになります。(ちなみにヴァルヴレイヴ登場シーンは、プールが割れてその下から出現!というもの) この最初の戦闘に先駆けて登場するのが、ドルシア軍の特務機関に所属する美少年5人組。彼らはジオールに潜入し、ヴァルヴレイヴ確保をもくろみます。結果的にその作戦は失敗。美少年5人組の一人・エルエルフは、ヴァルヴレイヴに乗り込むことで噛みついた相手の体内に人格を移植することができるという能力を手に入れてしまったハルトに体を支配されてしまい、ドルシア軍に戻れなくなってしまう。 そんな感じで、過去の名作ロボットアニメをオマージュしたシーンが続出! それらのシーンを気まずそうにこっそり盛り込むのではなく、堂々と、かつ超ハイクオリティな作画で描くのが本作のすごいところ。「だって、面白い要素を全部ぶち込んだら面白くなるに決まってんじゃん!」とでもいうような、突き抜けた割り切りが実に心地いい限りです。 肝心のメカアクションもバッチリです。CGで描かれながらも手描きのようなニュアンスのロボットが、バリバリグリグリとアニメーションする様は圧巻。さらにリアルロボット的なドルシア軍メカと、スーパーロボット的なデザイン&アクションを見せるヴァルヴレイヴの絶妙な対比のおかげで、『レイズナー』や『ガリアン』を思わせる一対多数のバトルが展開。毎回、手に汗握るバトルを繰り広げます。 あからさまなオマージュネタや、SFマニアの神経を逆なでするSF設定にツッコミを入れるもよし! ガチなロボットアニメとして、真剣に楽しむもよし! 美形男子&女子にブヒるもよし! な『革命機ヴァルヴレイヴ』は、今期の本命ロボットアニメといえるでしょう。 ■『銀河機攻隊マジェスティックプリンス』 もう一つの注目ロボットアニメが『マジェスティックプリンス』です。キャラクターデザインは『無限のリヴァイアス』『スクライド』『ガンダムSEED』『蒼穹のファフナー』でおなじみの平井久司。個人的に「平井キャラデザのアニメに外れなし!」と思っているのですが(異論は認める!)、今回もその期待を裏切りません。 宇宙に進出した人類が、謎の勢力・ウルガルの襲撃で絶滅の危機に瀕する中、落ちこぼれチーム「ザンネン5」の少年少女パイロットたちが次々と戦果を上げていく、という本作。ザンネン5の5人は、戦闘に勝つために遺伝子操作された子どもたち、というけっこう悲劇的な出自にもかかわらず、揃いもそろって天然というか緊張感ゼロで微笑ましい限り。そんな彼らが、ゆる~いチームワークを発揮して成果を上げていく姿は実に痛快。 割とヘビーな世界観の中、マイペースになんとなく状況を打破していく主人公たちの物語は、どことなく90年代ロボットアニメ的で、ライトに楽しむにはちょうどいい感じだといえます。 ちなみに『ヴァルヴレイヴ』は分割2クール。『マジェスティックプリンス』も2クール制作することが、すでに明らかになっています。じっくりと描かれるドラマにも期待が高まります。 ■『翠星のガルガンティア』 最後におススメするのが『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCO-PASS』などで話題を呼んだヒットメーカー・虚淵玄がシリーズ構成を手掛ける『翠星のガルガンティア』です。はるか未来、主人公・レドは宇宙生命体との激しい戦闘のさなかにAIで会話をすることができる人型マシーン・チェインバーと共に、かつて人類が住めなくなってしまったといわれていた地球に転移してしまう。そこでレドは、言葉の通じない現地の人々との共生の道を探っていくというストーリーの本作。映画『ウォーターワールド』を思わせるスチームパンク×世紀末な世界に生きる地球人と、高度な科学技術を誇る時代から転移してきたレドの交流は、時にシリアスでシビアなシーンも。それゆえに少しずつ歩み寄る両者の姿は、感動的でもあり微笑ましくもあります。 メカ描写も見どころ満載。単騎で無双できる性能を誇るチェインバーと、質より量で押し寄せる地球の作業用ロボット・ユンボロイドのバトルは、まるで懐かしの『ザブングル』。オーバーテクノロジーのチェインバーが最強の名をほしいままにするのか。はたまた数で勝るローテクロボットが押し勝つのか。一筋縄ではいかない物語と合わせて、そこにも注目したいところです。 それぞれ独自のストーリーとキャラが登場しながらも、しっかりとメカが物語の中心となって活躍する今期のロボットアニメ。その内容も前評判にたがわぬ見ごたえあるものばかりです。これまでロボットアニメを見たことのない皆さんも、この機会にその魅力を味わってみてはいかがでしょうか! (文=龍崎珠樹)『革命機ヴァルヴレイヴ』
野川さくら、宮崎羽衣らが一斉退所 “消えた”声優プロダクション・ラムズの謎を追う!
サヨナラだけが人生だ。 というわけで、年度切り替わりのタイミングで有名・無名を問わず多くの声優がプロダクションから独立、移籍した。茅原実里がエイベックス・プランニング&デベロップメントを退所し個人プロダクション「株式会社M-Peace」を設立、櫻井孝宏が81プロデュースから独立しフリーとなったというニュースは、ニュースサイトにも記事が掲載され大きな注目を浴びた。 その一方で、野川さくら、宮崎羽衣ら声優プロダクション・制作会社のラムズに所属する声優が3月31日に一斉に退所。その後、ラムズのサイトが「メンテナンス中」となりすべてのページが見られなくなってしまっていることから、声優ファンの間では「一体ラムズに何があったんだ?」とさまざまな臆測が飛び交っている。 もともとラムズは制作会社としてスタートしたものの、2000年頃に野川さくらの所属をきっかけに声優プロダクションとしても活動するようになり、04年に付属養成所「RAMS Professional Education」(通称・RPE)、06年に劇団「RAMS ACTORS THEATER」を設立。ゼロ年代半ばにはRPE出身の若手女性声優たちによるアイドル声優ユニット・クローバーを結成し、一時代を築いた存在だ。 クローバーはかなりの人気を獲得し、現在のアイドル声優ブームに至る地ならし的役割を果たしたが、ゼロ年代後半よりクローバーのメンバーをはじめとする所属声優が続々と離脱。設立当初は事務所を牽引し、養成所の宣伝塔として大きな存在感を放っていたアイドル声優たちも世代交代の波にのまれてしまい、次第に「アイドル売り」することが困難になってきたことから、ラムズは徐々に失速。そこで発生したのが今回の騒動だが……。 「結論から言って、ラムズは3月末で倒産しました。ビルのワンフロアを借りて事務所、制作会社と同時に声優の養成所・イベントスペースを運営していたラムズは、他のテナントたちから騒音・振動について頻繁に苦情を受けていたそうです。そこでビルのオーナーとの協議の結果、退去・移転することになりました。しかし、フロアを大改造していたラムズには原状復帰の義務が発生。その費用は莫大な金額で、それが捻出できずに倒産したそうです」 そう語るのは、ラムズの元関係者。アイドル声優を宣伝塔として自前で養成所を運営。そこで育てた若手をアイドル声優として売り出し、自社のスペースでイベントを打つ、というビジネスモデルで勢力を急拡大させたラムズだが、肝心のアイドル声優がいなくなってしまったことでかつての投資が不良債権化。最終的に移転費用も捻出できずに倒産してしまったというのは、なんとも皮肉な話である。 ラムズの栄枯盛衰、そして消滅というニュースは、現在の声優ビジネスに一石を投じる事件だといえる。 (文=龍崎珠樹)『HAPPY HARMONICS』
(エイベックス・エンタテインメント)
「蟹蟹蟹蟹……」なんてどうかしてるぜ! SAN値がみるみる減少『あいうら』
春アニメも一通り出そろった今日この頃、アニメフリークの皆さんもお気に入りの作品が多数見つかったはず。しかし、乗り遅れてしまった! このビッグウェーブに! というあなたのために、ボチボチとオススメアニメを紹介しよう。というわけで、今回はギャグアニメ編だ! ●『ジュエルペット ハッピネス』 サンリオとセガトイズによるファンシーキャラ・ジュエルペットを題材としたシリーズ第5弾の本作。その監督を務めるのは桜井弘明。古くは『こどものおもちゃ』(絵コンテ・演出)、『セクシーコマンドー外伝 すごいよ!!マサルさん』(助監督・絵コンテ)、『機動戦艦ナデシコ』(助監督・絵コンテ・演出)、『デ・ジ・キャラット』シリーズ(監督)を手掛け、近作は『探偵オペラ ミルキィホームズ』『這いよれ!ニャル子さん』(絵コンテ)『猫神やおよろず』(監督)を手掛けたベテランである。 このラインナップを見ただけで「ピン!」ときた方もいるかもしれないが、桜井監督作品といえばシュールなギャグと畳みかけるようなセリフの波状攻撃が持ち味。『ジュエルペット ハッピネス』でもその作風は健在だ。ゴム人間なモブキャラや、突如出現する謎のオブジェ。間断なく流れ続けるキャラクターたちのセリフ。連続する超展開ならぬ超絶展開。第1話から、朝9時枠のアニメとは思えないほどハイテンションでハードコアなコメディが展開し、桜井弘明ファンを歓喜させてくれた(そういえば、桜井監督が手掛けた『デ・ジ・キャラットにょ』も同じ枠でしたね)。 ちなみにキャストも豪華絢爛。従来のシリーズから継続して出演する豊崎愛生、平野綾、沢城みゆきに加え、新キャラクター・ローサ役の茅野愛衣をはじめ、イケメン先輩キャラ役として細谷佳正、福山潤、木村良平ら人気男性声優がラインナップ。彼らが繰り広げる、ドライブ感満点の演技にも注目だ! ●『波打際のむろみさん』 「週刊少年マガジン」(講談社)連載のコミックをアニメ化した本作。なぜか博多弁をしゃべる人魚のむろみさん(演じるのは、福岡県出身の田村ゆかりだ!)と、彼女を釣り上げてしまいがちな少年・向島拓朗が繰り広げるドツキ漫才チックなコメディだ。15分枠ながら他のアニメに比べて倍以上のテンポで展開する本作。おかげで見終えた後の疲労感と満足感はかなりのものだ。また、『もってけ!セーラーふく』や『化物語』主題歌などでおなじみのヒットメーカー・神前暁が作曲を手掛け、サブカル声優・上坂すみれが歌う主題歌もインパクト大だ。往年の戸川純を思わせるエキセントリックでプログレッシブなサウンドは中毒性抜群。暴走特急のような一本である。 ●『あいうら』 今期最大の問題作というか、見ているこちらがどうリアクションを取ればいいのかまったく分からなくて、じわじわとSAN値が下がっていくのが『あいうら』だ。スライドショー形式で画像を連続表示するサービス「ニコニコ静画」や「4コマnanoエース」(角川書店)で連載中の本作は、女子高校生たちの日常を描く4コマ漫画であり、アニメ版も原作のテイストを生かしたほんわか日常系アニメに仕上がっている。ここまで聞いて、「普通の日常系アニメか」と思うなかれ。 アニメ版『あいうら』の本当のヤバさは、メインヒロインを演じる中島唯、飯田友子、田村奈央が歌うオープニングテーマ&エンディングテーマにあるのだ! オープニングテーマ「カニ☆Do-Luck!」は、ハイテンションなサウンドに乗せて「蟹蟹蟹蟹!」と、蟹の味わいについて歌ういわゆる電波ソング。それに乗せて、実写映像の「蟹」やアンディー・ウォーホル調にデザインされた「蟹」、画面を覆う無数の「蟹」の文字などが速いテンポで次々と切り替わるのだ。「蟹」がゲシュタルト崩壊しそうである。もちろん本編に蟹は一切絡んでこない。 一方、エンディングテーマ「いちごいちえ」は、パンク調のバンドサウンドをバックにパラパラ漫画の棒人間が猛ダッシュする動画に、飛行機やイカ、セミ、フンコロガシなどの映像がオーバーラップするというまったく持って意味不明なもの。オープニングとエンディングのどちらも、音声を消して映像だけ見ていると、そこはかとない不安感にかられるのは僕だけですか? 強烈なインパクトの主題歌とまったりムードの本編のギャップは、一見の価値ありだ。 という感じで、今期もいい感じに「どうかしちゃってるアニメ」が放送されてうれしい限り。突き抜けたマイ・ワールドを持つアニメを見て、ぜひ読者諸兄も煙に巻かれてはいかがだろうか!? (文=龍崎珠樹) ◆「週刊アニメ時評」過去記事はこちらからテレビ東京・あにてれ『あいうら』
残酷すぎる退屈な日常から生まれるドラマ アニメ『悪の華』第1回先行上映会レポート
3月21日、東京・科学技術館にてテレビアニメーション『悪の華』第1回先行上映会が行われた(この作品は、話数を「回」で数える)。上映の前後には長濱博史監督、出演者の植田慎一郎(春日高男役、第24回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストファイナリスト)、伊瀬茉莉也(仲村佐和役)、日笠陽子(佐伯奈々子役)が登壇してトークを繰り広げ、イベント終了後は報道陣の取材に応じた。 『悪の華』は「週刊少年マガジン」(講談社)で連載中の同名漫画(原作・押見修造)のアニメ化。4月から放映を開始する。 技術的には、ロトスコープを採用している点が大きな特徴だ。ロトスコープ自体は既存の手法だが、それを全編、テレビシリーズの頭から最後までやり通した例はほかにない。実写撮影→手描きでアニメ化→アフレコという過程を踏むのは当然として、全編がロトスコープであるため、まず原作者の生地であり、原作の舞台である群馬県桐生市で3カ月間に渡り、実写専門のキャストを起用しての撮影が行われた。その上でアニメの画として描き、音を響かせ、声を載せる。最終的に声優の声が載ると、それは実写でもアニメでもない何かになっていた。 上映前、壇上に立った長濱監督は「ちょっとポカン、としてしまうかもしれない。普通のアニメーションの映像とは違うので」と言った。 ちょっとどころではなかった。 「第1回」はボードレールに心酔する読書好きの少年、春日高男が登下校する何気ない様子に始まり、この物語の発端となる事件の直前までの「何も起こらない時間」を執拗に描いていく。 「うっせぇ クソムシが」。おそらく仲村佐和のその言葉以外は、何も起こらない日常を映しているだけなのに、不吉な音楽、音響と共に、緊迫した濃密な時間が続く。エンドロールでようやく解放されると、ほっとすると同時に、その20数分への充足感も生まれ、早く次を見たいという気にさせられる。 スクールカーストを頭で捉えた程度のものではなく、リアルな学生生活の今、あるいは記憶を、そのまま呼び起こされるような完璧な生々しさがある。放映開始前から問題作と言ってもいいかもしれない。間違いなく、新しい何かを提起している。 すべてにおいてテンションが高い映像の中で、特に光っていたのは実写と声の演技の両方で主人公の春日高男を演じた植田慎一郎の芝居だ。その貢献は、作品が完結していない現時点でも称賛に値する。 この先、春日高男は密かに想い焦がれる佐伯奈々子の体操着に手をかけたところを仲村佐和に目撃され、心の闇を共有する間柄になっていく。そして「いい子」を演じ続けることに違和感を覚える佐伯も、次第に春日に惹かれていく。3人の関係はどうなるのか。この世界の圧力はどこまで高まるのか――。 上映後に再び登壇した長濱監督は最初「原作と一緒です。漫画と一緒です。それしか言わないです(笑)」と言っていたが、徐々に言葉の洪水が止まらなくなっていく。 「(ロトスコープは)コントロールが利かないんですよね。髪の毛とか。服のシワとか。コントロールしようとすればするほど、記号に落ち着けようとすればするほど、ウソになっていく。どこまでやっていくかを一話で感じ取り、模索して、方向性が見えてきている」 「これ以降、どんどん色が変わっていく。カテゴライズされたくないんですとにかく。『悪の華』はなんとかいうジャンルです、とか、あれみたいだとならないようにしようと」 「アニメになりすまそうとしているんです。スターチャイルドから普通のアニメとしてリリースしようとしている」 「桐生の試写会でも司会の松崎(克俊、山田役)さんから、犯行声明みたいだと言われたんですが」 「アニメの世界にしか存在しない仲村とか佐伯にしたかった。原作のキャラクターをそのまま出しても。原作を読めばいいんですよね。そういう意味では原作に戻れるつくりになっている」 そして植田慎一郎、伊瀬茉莉也、日笠陽子が登壇。ここからおよそ1時間、熱の入ったトークが続く。 「2回目すごいですよ。放送を見てほしいですね。1回見ると画に慣れるので」(植田)司会のニッポン放送・吉田アナウンサー(左)と長濱博史監督。
「アフレコをしているときは、いわゆる外画の吹き替えをやっているような感覚だったんですが、これを見たときに“あ、やっぱりアニメだ”と。でも滑らかに動くし、なんだろう、これは。ジャンルがない」(伊瀬) 「私はいい作品やいい曲に出逢うと、胸がキュン♪ とする性癖の持ち主なんですが、これを見た瞬間はキュンとしなかったんですよ。ギューっとして、ずっとざわざわ、ざわざわしているんですよ。なんか、すっごくて……(長濱「要領得ないな、あなたは(笑)」)そうなの、今日はうまく言えないの、衝撃が大きすぎて」(日笠) あまりに長尺の会話ゆえにそのすべてを起こすことは差し控えるが、異様にも映ったのは、登壇者の姿勢だ。明らかに「お仕事」の域を脱していた。商業用に体裁を整えよう、時間内に収めようといった調整の意識は最低限にとどめ、飾り気のない言葉で熱く語り続ける。心の底から作品に共感し、情熱を持って取り組んでいる様子が伝わってきた。上映後のトークは最初の質問の時点で残りわずかとなっていて、当然、終了予定時刻を大幅に超過する。それを一向に意に介さなかったことからも、『悪の華』が特別な何かであるということはわかる。
アフレコの現場はガンマイクが上方から垂らされるように役者に向かってセッティングされ、声優は本を持たずに、実写のように演技をしていた。役に入り込んだ伊瀬と日笠の間には、劇中の仲村と佐伯の間に漂うのに似た空気が張り詰めるのだという。その芝居の迫力は、確かに映像に乗り移っていた。 登壇者4人はイベント終了後も約45分間の囲み取材に応じた。テンションはまったく落ちず、じっくりとわれわれ報道陣に付き合ってくれた。その一部をご紹介しよう。 イベントを終えての感想を問われると、各々、次のように答えた。 日笠 「ちょーお楽しかったです! いつもアフレコが終わると呑み会をするんですけど、今日は(伊瀬)茉莉也がそういう感じで行こうと言っていて。むき出しにしないと『悪の華』に対する思いは伝わらないから、できるだけ変なベールを被せるのはやめようとやっていたら、素で楽しくなっちゃって。でもでも全然しゃべり足りなくて、3時間でも足りないんじゃないかと思っています。会場の様子がわからないほど作品にすい込まれていました」 伊瀬 「しゃべり足りないですね。短いな~! と思いました。だいぶオーバーしてるんだけど、それでもしゃべり足りないということは……いや、もちろん、どの作品にも愛情を持って全力投球なんですよ。だけど、この『悪の華』は特別なんですよね。そう思わせられる原作の力と、監督の熱意と……美術さんだったり音響さんだったり、プロフェッショナルな方々が一切手を抜かないんですよね。だから、私たちキャスト陣も絶対に手を抜けない。ちょっとでも手を抜いた瞬間に負ける気がするので、監督の熱意、画、音、すべてに負けないように立ち向かっていかないと、この作品の本当の意図する、一番奥の深い深い伝えたいところが伝わらないんじゃないかと思うので。それ……ですね……何言いたかったんだろう。(長濱監督「感想だよ(笑)」)感想か。そういう思いで望んでいるので、やっぱりそれは伝えきれない! 短いから。(上映中)後ろで見させてもらったときは、もう映画を見ているような感覚になっちゃって。(日笠「かっこいい~もう」)かっこいい。センスがいい。面白い!(日笠「天才だって!」)それに尽きます」 植田 「ずっと言っているんですけど(トークショー中でも言及した)、2回目を見ると本当にすごい。1度目は「こんな動き方をするんだ」とか画のほうに集中するんですけど、2回目以降だと自然に見ることができて、話がすっと入ってくる。ロトスコープという手法で去年の夏に撮影して、暑い中、実写キャストみんなで必死に頑張りました。声優キャストも合わせて作品に向き合い、全力でぶつかってきたことがこういう形で見られると、間違っていなかったんだという思いで、本当に幸せです。 2人(日笠、伊瀬)から聴く話はすべて刺激になります。こういう言い方をするとよくないのかもしれないけれど、すごい声優さんたちもこんなに悩んで作品に取り組んでいる姿を見ると、自分には今まで(声優経験は)何もないので、全力でぶつかっていくしかない。全力でぶつかっていかないと、関わったみなさんに悪いと思って……話がずれてしまいましたが、(共演が)この2人で本当によかったです。 長濱監督 「たくさんの方と一緒に見られたことが、すごくうれしかったです。先生(押見修造)や、実写キャストのみなさん、声優さん、たくさん来てくださって。みんな「すごかった」と言ってくれました。今まで映像を見ていないので、今日見て『すごかった』と言ってくれたことが、何よりうれしい。みんなが、自分がやった役、自分が参加した作品がどうなるのかを、ここで見てもらえたことと。それに関わった役者の口から、この作品に命をかけているとか、けっこうウソの話も出てきたんですが、死ぬ死なないとか。ただ、そのくらいの気持ちで、わたしたちはこの作品に関わったのだ、ということを、それこそ伊瀬茉莉也や日笠陽子の口から聞けたら、現場のスタッフはますますやらないといけないな、と思うし。 伊瀬がさっき、みんなすごいプロフェッショナルだと言っていたけれども、そのひとりですからね、あなたも。あなた方はその一部なんだから。あなたたちの芝居を見て、だからこそ画を起こしているアニメーターは、佐伯奈々子の顔がぐちゃぐちゃになっちゃいけない、かわいくないように見えてはいけない、と思うし。仲村のちょっとした鋭い視線や立ち居振る舞いというものに、ブレがあってはならないとみんなが思って、つくり上げている、そのピースのひとつなので。植田くんもそうですけれどもね。そういう意味では、みんなが志を同じくするというか、角合わせをする時期だったと思うんですね。ずっと積み重ねてきたものはあったんですけど、ピシっと形を一回合わせる意味でも、今日の試写会はとんとん、と角を合わせて『あー、きれいに揃ってるね。こんなんなっちゃってる』と、一度みんなで再確認できた、素晴らしいイベントだと思います。ありがとうございます」
この発言を受けて、長濱監督に質問した。
――基準を合わせるという意味では、主人公がひとつの基準になると思います。春日の春日らしさ、あるいは、思い返すと決して学校って楽しいことばかりじゃない、学生らしさ、学生の会話のレベルみたいなもののライヴ感を出すにあたり、ちょっと難しいとは思うんですが、実写と声の両方で春日を演じた植田さんへの評価は?
長濱監督 「植田くんの評価ですか。相当難しいですが。植田くんのやった役、春日高男のなんでもないことを追体験するところから始めているんです、1話は。だから何も起こらない。わざわざ2回、同じ登校シーンを繰り返すんですよ。でも見ていただけるとわかるんですが、背景美術は別の日なので、微妙に光の感じも雲の感じも天気も違うんですね。その中で、だけど見ている人間にとっては『同じ日じゃん。同じ画をくり返しているんじゃないの?』と見えてほしかったんです。そのくらい退屈なんです、たぶん。春日にとっては当たり前の生活で、それを、その桐生というところで生きている中学生『春日高男』を、まず知るところから始めないと、春日が仲村と出逢ってどう変わっていくのか、どうしてこうなったんだろうという感情が生まれづらくなるので。そこに持っていくために今回、1話をていねいに、何も起こらない日常をずっとやった。その中で、つくり笑いをしたり、話を合わせたりする春日高男というのは、みんな誰もが身に覚えのある瞬間だったりするし。友だちがいないわけでもない。いじめられているわけでもない。優等生でもない。なんの変哲もないことがどれだけ残酷かものなのか、自分というのはいったいなんなのか、というのをどこに求めていくかと言ったら、本しかなかった。それをずっと見せていき、描きたいことを描こうとしていた一話なんですが、原作には描かれていない、前日談みたいなものを描いているんですけれども。植田くんがやはり、ちゃんと春日高男というキャラクターに寄り添って、春日高男に向き合ったからこそあの表情が出てくるし、あの世界で春日高男がどんな笑い方をして、どんなクラスに、どんなふうに座っているのか。みたいなことを彼がまず1話で示してくれたことで、今後の展開に大きく影響を及ぼしてくる。
全力でぶつかってくれた植田慎一郎という人間は、素晴らしかった……というチープな言い方しかできないですが、素晴らしかったですね。撮影は本当に過酷だったので。参加してくれた役者さんたちはみんな大変な思いをしたんですね、夏の陽射しのもとを歩いたりとか。その先頭を引っ張っていたのが、経験値もなんにもない、ジュノンボーイで、春日高男とはまったく正反対のリア充真っ盛りみたいなね、やつなんじゃないかと言われている植田くんが、いちばん春日高男になっていたという。あの瞬間は、なんだろうな、役者って面白いいな、と思うんですね。自分は役者ではないですけれど、役者という仕事は面白いいな、彼が春日になれるんだものな、と。サッカーをやっていた人間が、本しか読まない、なんの変哲もないやつになれるんだよな、と思って。それを彼は愛しいと思っていると思うんですよ、きっと。一生自分のものだと思って手放したくないと思う(だろう)し。役者はみんな、この役を誰にも渡したくないと思うだろう。春日高男というキャラクターが、そこでやっと人になり、生きているのだと思うと、感慨深いですよね。それにちょっとでも関われたのは、幸せですね」
この上映会と付随する取材だけで、とにかくすごいということはわかった。しかし、まだ本放映が始まったわけでもない。最後まで見届けたい作品になりそうな予感がする。
(取材・文=後藤勝)
30年の時を超えた伝説的ヒロイン“ラムちゃん”『うる星やつら』が愛される3つのワケ

さらに、アニメ『うる星やつら』の魅力を生んだのは、いまや大御所となった若き日の押井守監督による、当時としては斬新な演出の数々なのだという。
「押井監督は初期のチーフ演出として関わっていました。ラムちゃんが空を自由に飛び回る動きや、飛ぶときにあてた効果音。また、物語や舞台展開のスピード感など、『うる星やつら』はアニメ演出の世界に大きな影響を与えました。その集大成として作られたのが、映画監督・押井守の名を不動のものにした劇場版『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』なんです」(同)
また声優陣も豪華そのもの。あたる役に古川登志夫、ラムに平野文、面堂終太郎に神谷明と、“レジェンド級”が勢ぞろいしている。
そんな『うる星やつら』のすべてが詰まったBlu-ray Box。最終話まで観終わったころには、きっとまた第1話の、地球に降り立ったばかりのラムちゃんに会いたくなっているはずだ。耳を澄ませば、あのテーマ曲が聞こえてくる。










