誰にでも、心が弱ってしまう時はあります。救いを求める先が、信頼できる家族や友人ではないこともあるでしょう。「こうすれば幸せになる」と語りかける心理カウンセラー、スピリチュアリスト、霊能力者。彼らを見ていると、「私を救ってくれそう」「この人たちのようになれるかも」と、次第にそんな気持ちが膨らみ……ちょっと待って! それ、本当に信じて大丈夫? スピリチュアルウォッチャー・黒猫ドラネコが、無責任なことばかり言っている“教祖様”を、鋭い爪でひっかきます。
コラム連載が10回目を迎えた今回、タイミングを合わせるかのように「スピリチュアル観光大使」の問題に終止符が打たれました。8月20日、長崎県壱岐市は公式ホームページ上で、前田紗智氏(以下、happy)の同市観光大使の職を解嘱したことを発表したのです。
happy はこのコラムでもおなじみのスピリチュアリストで、「引き寄せの法則」を取り入れた『“奇跡"は自分で起こせる! 3日後「引き寄せ」日記』(大和出版)といった著書を出したり、スピリチュアル・ブロガーとして活動したり、スピ好きな若い世代から支持を集めている人物。一昨年から『シンデレラ・プロジェクト』といった大規模イベントを主催し、「自分との結婚式」なる“謎の儀式”を行うなどしていました。そんな人物がなぜ市の観光大使を務めていたか、これまでの経緯を振り返ってみましょう。
壱岐市に“引き寄せ”られたhappy
happyと壱岐市の関わりは、2016年夏頃から始まったよう。ちょうど、彼女の名前がスピ界隈にじわじわと広まり始めた頃です。壱岐市は九州北部の玄界灘にある島で、今年7月の時点で人口は約2万6,000人。この小さな島にhappyがやってきたきっかけが、16年10月27日に更新されたブログの中で明かされています(現在はブログごと削除)。
「8月に急に 『月の神様にお参りに行きなさい』と頭の中にメッセージが来て それでご縁が繋がった不思議な島」
「観光会社や不動産会社の社長さんや宮司さん、女将さん いろんな方と急速にご縁が繋がってますが 純粋な気持ちで動いてると そんな同じ想いの人たちばかりと引き合うので 仕事を超えて同じ志で、日本を良くして行きたいね 神様を近くに心で生きてた時代に戻して行きたいねと そんな話が出来ること自体が今幸せです 直感に従って動いてこの島にたどり着いて本当に良かった」(すべて原文ママ)
このブログでは、happyが壱岐市内の「研修センター」を購入したことも公表。「土地買うとか初めてなもんでドキドキしましたよ」というコメントとともに、happyとスーツ姿の男性3人がかしこまった様子で写った写真が添えられています。
安倍昭恵夫人とhappy、そして「女将」の不可解な交流
happyは壱岐市に滞在している間、決まって同じ旅館に宿泊していました。前述のブログでhappyが「島の名物女将とはもう家族のような仲です」とつづっているように、とにかくこの旅館の女将とウマが合ったよう。18年2月には、happyの大親友で吉本興業所属の脚本家・旺季志ずか氏が手掛けたミュージカルを壱岐市内で上演しているのですが、なんと安倍昭恵総理夫人が観劇に訪れています。その際、昭恵夫人はhappyがご贔屓にしている旅館の女将と交流したようで、訪問時の様子が女将のブログで明かされていました。
その中で、「光栄な事に、ラインを交換してくださり、写真もみんなと写ってくださいましたよ~」との報告がありhappyや女将に囲まれながら、笑顔を浮かべる昭恵夫人の写真が、何枚も掲載されていました。さらに、女将のブログによると、「総理直々にお電話」があったらしく、「色々珍しい美味しいものをたくさん頂いたそうで、お世話になりました」と伝えられたとか。電話の内容について、どこまで真実なのかは知るすべもありませんが、本当だったら(いろいろと)すごい話です。
昭恵夫人が壱岐市を訪れた翌月の18年3月、happyは同市の「観光大使」に任命されます。地元紙「壱岐新報」によると、任命は白川博一市長の判断だったとか。ファーストレディーを島に“引き寄せる”力に目が眩んでしまったのかもしれませんが、市民感情を考えれば、内幕については検証する必要があるでしょう。
その後、18年10月に観光大使・happy主導による『縄文祭』が、壱岐市で開催されます。happyファンが約2,000人も一気に来島したかと思えば、会場となった公園の芝生を荒らし、深夜までどんちゃん騒ぎをしていたことで、騒音問題まで起こしたイベントです。市民の大ひんしゅくを買ったことは、以前もコラムで触れました。(該当記事リンク)
この一件は、市議会や地元メディアで批判的に取り上げられており、そこから「観光大使」解嘱までは1年足らず。今年7月31日付で、happyは観光大使としての役割を終えました。その後、8月30日付の地元紙「壱岐新報」は、happyの解嘱を一面で取り上げ、「島外での公序良俗に反するイベント開催」が理由だったとしています。「島外」となると、『縄文祭』とは別のイベントということになりますから、おそらく市側はhappyの動向に、四六時中目を光らせていたのでしょう。
壱岐市を引っかき回したhappyですが、『縄文祭』での問題についても、観光大使を降ろされたことについても、現時点では何もコメントを出していません。happyがこのままフェードアウトして、壱岐市と怪しいスピリチュアルの関係も断ち切れるかと思いきや、いま壱岐島には、元「子宮委員長」八木さやが住んでいるのです(どこにでも出てくるな、この人!?)。happyとのつながりもあって、昨年末に移住した八木さやは、最近「総理大臣になりたい」「まずは壱岐市長選に出る」と自身のブログで豪語しており、“信者”の心を躍らせています。
八木さやはhappyから壱岐市内の「旧・研修センター」の施設を買い取り、今年8月31日に信者を集めてそこでイベントを開催しました。熱心な信者のSNSにアップされた打ち上げパーティーの動画を見ると、意気揚々とスピーチをするhappyの姿も。彼女は八木さやの市長選出馬にあたって「ウグイス嬢をやりたい」そうで、「終身雇用も何のその!」「老後も心配いらず!」などとシミュレーションをしていました。そして、信者と一緒に「八木市長」誕生の瞬間を想定し、“万歳三唱”まで……。前日に地元紙一面で観光大使の解嘱を大きく報じられ、「連絡が不通」「(解嘱通知の)返答はない」と書かれていたhappy本人が、市内で大はしゃぎしているのです。このメンタルの強さ、本当に驚きます。
「子宮委員長」に“狙われた”壱岐市のいま
「元・子宮委員長が市長選に」。これを多くの人は「冗談」だと捉えていると思います。しかし、彼女は「移住支援ビジネス」展開のため、市内の不動産を買い漁っていることを公表しており、すでに動き始めているのです。移住者が増えること自体は、過疎化に悩む市にとって喜ばしいことかもしれません。しかし、『縄文祭』で痛い目を見たはずの行政サイドとして、高額スピ商材などの販売を生業としている八木さやや、彼女を追って移住してくるかもしれない“信者”たちを歓迎すべきかどうかは、一考しなければならないでしょう。
これだけでなく、八木さやは壱岐市内の神社二社にそれぞれ1,000万円を“奉納”しており、「来年は3千万円目標です」と宣言しています。「神社密度No.1の壱岐島の 神社の全部を活性化したい」とブログでその理由をつづっていますが、金を積むことに市長選の地盤固めの意図がないと言い切れるのでしょうか。スピリチュアル色の強い高額商品販売や、「自分ビジネス講座」なる情報商材で稼いだ軍資金は潤沢。「当選するはずない」と笑っていられないかもしれません。
八木さやはこの夏、市内で行われた花火大会の大口スポンサーにもなっており、着実に市との距離を縮めています。夜空に咲く大輪を楽しんだ市民のほとんどは、こういった現状を知らないはず。果たして壱岐市は、「スピリチュアル観光大使」の騒動を教訓に、「スピリチュアル市長」の誕生を阻止できるのか。今後も注視していきたいと思います。
■黒猫ドラネコ
大分県生まれ、大阪を経て東京都内在住の36歳。職業、性別は非公表。身内が「子宮系女子」となって壊れた経験から、怪しいスピリチュアルや自己啓発セミナーなどの監視と注意喚起を開始。本当の趣味はスポーツ観戦、漫画・アニメ鑑賞。3食スイーツでもいい甘党。
Twitter/ブログ「黒猫ドラネコのブログ(仮)」