TWICE、J.Y.Park作曲の「Switch to me」から繙く、K-POPブーム前夜90~00年代の“韓国製”NJS楽曲紹介

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。

今月の1曲:DAHYUN and CHAEYOUNG (TWICE) - 나로 바꾸자 Switch to me

 TWICEのメンバーが1人単位で、ほかのアーティストの曲をカバーする「Melody Project」という企画で発表された楽曲です。昨年大みそかにリリースされたRainとJ.Y.Parkの楽曲「나로 바꾸자 Switch to me」をダヒョンとチェヨンがカバーしました。原曲は、君には自分のほうが似合ってる、自分のほうが良い男だ、とRainとJ.Y.Parkが女性を取り合う曲です。ダヒョンとチェヨンのカバーは歌詞の性別が男から女に入れ替えられており、原曲よりも楽曲のテイストの90年代を意識したスタイリングになっています。

 J.Y.Parkは言わずもがなですが、2020年にRainはMBCの『遊ぶなら何する?』という番組の企画でユ・ジェソク、イ・ヒョリと共にSSAK3(サクスリー)という期間限定ユニットを結成し、90年代に主流だった夏のダンスミュージック楽曲をリバイバルするという趣旨で当時の曲をカバーしたり、新曲をリリースし、大ヒットしました。

 今までの連載を見てくださった方には聞いてわかる通り、「나로 바꾸자 Switch to me」はNJS(New Jack Swing)楽曲です。NJSについては一昨年、PENTAGONの「HAPPINESS」がリリースされた際に音楽的な面から解説しましたが、この記事では韓国にNJSが入ってきてから、2010年代までの間をかなり省いて書きました。

 またJ-Popに関しては、NJSの歴史に沿った読み物が探せば見つかりますが、日本語で韓国のNJSについて書いてある読み物があまり見つからなかったので、今回はNJSという切り口から、年代に沿ってアーティストや当時の韓国を取り巻く現状などを紹介していきたいと思います。以前の記事にも書いた、서태지와 아이들(ソテジワアイドゥル)と듀스(DEUX、デュース)については省いて、時系列順に紹介します。

90年代~00年代初頭の韓国のNJS楽曲

■이승철 (Lee Seung Chul) - 방황 (The Wandering、彷徨) (1992/11)

 イ・スンチョルは부활(復活)というバンドの2代目ボーカルとしてデビューし、アイドル級の人気を博します。イ・スンチョルがあまりに人気だったため、当時バンドの「復活」と言うより「イ・スンチョルのバンド」という認識を持っている人が多かったそうです。リーダーでプロデューサー兼作詞作曲家のキム・テウォンとの意見のすれ違いや彼の逮捕によりグループは解散し、1989年にイ・スンチョルはソロデビューします。

 この楽曲は作編曲を김홍순(キム・ホンスン)がやっており、後述するUptownの「다시 만나줘」(Back to me)にも彼の名前があります。

 ただこの曲は後に盗作疑惑がかけられ、作詞作曲の著作権者に関しては「無」という表記になります。Bobby Brownの「Humping Around」が原曲ではないかと言われていますが真相は闇の中です。94年にリリースされたアルバム『The Secret of Color』収録の「착각」(錯覚、勘違い)もNJSです。

 近年はMnetのオーディション番組『Super Star K』シリーズに審査員として出演したり、昨年35周年記念アルバムをリリースし、少女時代のテヨンとデュエットをしています。

■양준일 (Yang Joon-il) - Dance With Me 아가씨 (Dance With Me Lady) (1992/11)

 ヤン・ジュンイルの「Dance with me 아가씨」(アガシ、お嬢さん)です。この曲の収録されている2枚目のアルバム『나의 호기심을 잡은 그대 뒷모습』(僕の好奇心をつかんだ君の後ろ姿)に入っている「가나다라마바사」(Pass Word、カナダラマバサ)もNJSです。

 ヤン・ジュンイルは韓国系アメリカ人で、91年に「리베카」(レベッカ)という曲でステージデビューします。しかし93年に、「レベッカ」が公演倫理委員会(※1)によって盗作曲と判定を受け、ビザの更新もうまくいかず、しばらく姿を消すこととなります。「レベッカ」はJanet Jacksonの「Miss You Much」を盗作した疑惑がかけられていたそうですが、公演倫理委員会の判定基準は当時の専門家の間でも議論があったそうです。

 引用元は「米国の歌、日本の歌、香港の歌」とだけ記載され、具体的な引用元が明示されておらず、保守的な委員会の人たちが彼の自由奔放な姿を気に入らなかったからでは、ともいわれています。

 長い髪の毛やダボッとした服装が、まだ保守的だった当時の韓国ではだらしなく見え、英語がふんだんに散りばめられた歌詞に聞き慣れないジャンルの楽曲は「新鮮で型破り」という評価を受けますが、大ヒットとまではなりませんでした。サビに英語を持ってきて、それを繰り返す手法というのは現代のK-Popの定石ともいえますが、韓国語があまり得意ではないヤン・ジュンイルのような人が本能的にそのような曲を作ってパフォーマンスしていたというのは、今考えるととても興味深いです。

 当時の姿が、顔も含めてG-Dragonに似ていることから、2018年頃ネット上で話題になり、19年に出演した『シュガーマン』(※2)で時代の最先端を行っていたと再評価されます。番組出演のための来韓だったので、すぐにアメリカに帰国しますが、番組放送後の反響は凄まじく、最終的に韓国に移住し音楽活動をすることになります。つい先日、2月22日にもEPがリリースされ、CDの売り上げなどもアイドルグループに引けを取らない、かなり良い成績を残しています。

※1:現在の「映像物等級委員会」にあたる組織で、映像物の倫理性及び公共性を確保して青少年を保護するための等級委員会。
※2:韓国歌謡界で一世を風靡するも、いつの間にか消えてしまった、いわゆる一発屋の歌手のヒット曲にスポットライトを当て、当時のエピソードを聞いたり、最前線で活動するアイドルが彼らの楽曲をカバーするという番組。

■김건모 (Kim Gun-Mo) - 버려진 시간 (Lost time、失われた時間) (1993/10)

 韓国歌謡界の伝説と言われるキム・ゴンモの2枚目のアルバム『김건모 2』(キムゴンモ2)収録曲です。キム・ゴンモの総アルバム売り上げ数は330万枚で、19年に入って防弾少年団に339万枚で破られるまで、彼がこのギネス記録をずっと保持していたことを考えると、どれだけすごいことかわかると思います。

 デビューアルバムのタイトル曲はソウルミュージックで、『김건모 2』(キムゴンモ2)のタイトル曲「핑계」(ピンゲ、言い訳)はレゲエのリズムを取り入れたり、「버려진 시간」(Lost time)ではNJSをやったり、ハウス曲「어떤 기다림」(Waiting For)があったりと、この時代にダンスミュージックをうまくポップスに取り入れているアーティストです。

 90年代前半のラップはどの曲もまだしゃべる延長という感じがしますが、彼のラップは頭ひとつ抜けている印象です。96年リリースのアルバム「Exchange kg. M4」収録の「악몽」(悪夢)もNJS寄りの楽曲です。

■김성재 (Kim Sung Jae) - 말하자면 (As I Told You、言わば) (1995/11)

 DEUXの片割れキム・ソンジェのソロデビュー曲「말하자면」(マルハジミョン、言ったとおり)です。キム・ソンジェは小学生の終わり頃から日本に住み、BAE173のナム・ドヒョンやm-floのVERBALが通ったセント・メリーズ・インターナショナルスクールや、ZICOが通った東京韓国学校に通っていたそうです。

 SBSの『생방송 TV 가요20』(生放送TV歌謡20)という、現在日曜日に放送している音楽番組『人気歌謡』の前身番組でソロデビューしますが、次の日の11月20日にホテルで死んでいるところをマネジャーが発見します。腕にはたくさんの注射の跡があり、遺体からは動物に使う麻酔薬が検出されたそうで、交際していた歯学部生の彼女が逮捕されますが、最終的には無罪になるなど未解決事件となります。この事件をモチーフにした『真実ゲーム』という映画も、00年に公開されています。

 16年にBTSがカバーしたことで知っている人もいるかもしれません。

■룰라 (Roo'Ra) - 3!4! (1996/06)

 DEUXのキム・ソンジェの相方、イ・ヒョンドがプロデュースしたルーラの4枚目のアルバムタイトル曲、「3!4!」です。グループ名は彼らのデビューアルバムのタイトルにもなった「Roots Of Reggae」から来ており、文字通りレゲエを軸に活動するというコンセプトでした。

 当初、男性3人でのデビューが企画されますが、当時大人気だったソテジワアイドゥルと同じ構成になるため、男女混合グループの男性3人・女性1人でデビューします。その後男性1人が兵役のため脱退し、女性ボーカルが1人入り、この映像と同じ男女2人ずつのグループとなります。

 デビュー時から人気があり、日に日に人気は増していきますが、3枚目のアルバムタイトル曲「천상유애」(天上遺愛)がジャニーズ事務所所属・忍者が歌った美空ひばりのカバー「お祭り忍者」の盗作疑惑が出ると一変、世間の目が厳しくなり、音楽番組等に出られなくなります。キム・ソンジェの葬儀場で距離の縮まったイ・ヒョンドとルーラのメンバーですが、この状況だったルーラのためにイ・ヒョンドが曲を提供し、それがこの「3!4!」でした。この4枚目のアルバムでルーラは人気を取り戻します。

 ルーラのあまりの人気に当時「꼬마 룰라」(ちびっ子ルーラ)が結成され、幼少期のG-Dragonがメンバーに選ばれ、これがYGエンタテインメントからスカウトされるきっかけになったそうです。

 YGエンタテインメント第一号アーティストとしてデビューした、男性3人組グループKeep Sixのデビューアルバム『Six In The Cambah』のタイトル曲で、デビュー曲です。同じアルバムに入っている後続曲「어떻게」(オットケ、どうしよう)もNJS楽曲です。

 メンバーのうち2人はソテジワアイドゥルのバックダンサー出身で、メインボーカルのイ・セヨンは韓国系ブラジル人です。ソテジワアイドゥルのメンバーでYGエンタテインメント創始者、ヤン・ヒョンソクがソテジワアイドゥル解散後に作ったグループということで話題になりますが、当時NJSといえばDEUXの専売特許で、先に紹介したRoo'Raやイ・ヒョンドなどNJS楽曲で活動するアーティストが多く、無難で印象に残らなかったそうです。

 さらに96年末にはソテジワアイドゥルのメンバー、イ・ジュノが発掘したブレイクダンスができるダンサーを集めて作った男女混合グループYoung Turks Clubが大ヒットし、人気絶頂のH.O.Tが音楽授賞式で賞を総なめしたことで、大衆からは忘れられた存在になってしまいます。

 Keep Sixの商業的な失敗は今でもYGエンタテインメントの黒歴史扱いされているそうですが、その後デビューしヒットするJinuseanなどにノウハウが生かされました。

■업타운 (Uptown) - 다시 만나줘 (Back to me、やり直そう) (1997/01)

 今現在も韓国でラッパーとして活動するユン・ミレの所属していたHiphopグループ・Uptownのデビュー曲です。ユン・ミレは、アフリカ系アメリカ人の父と韓国人の母を持つアメリカ生まれの韓国系アメリカ人で、後のUptownのリーダー、チャン・ヨンジュンの目に留まり14歳でアメリカから韓国に移住することとなります。

 韓国ではインターナショナルスクールに通いますが、肌の色などで差別を受け、中退するなどつらい経験をしました。デビュー時15歳でしたが、芸能活動に支障があったため19歳と偽り活動します。途中で年齢が明らかになりますが、当時はそこまで問題視されずUptownの活動は続きます。ユン・ミレは同じ事務所の別ユニットTashannie(タシャニ)として活動するためUptownからは脱退し、ほかのメンバーが薬物疑惑で拘束されたことから、最終的には解散となりますが、後のHiphopシーンに多大な影響を与えます。

 「다시 만나줘 」(Back to me)の作曲は、先述イ・スンチョルの「방황」(彷徨)を作ったキム・ホンスンとチャン・ヨンジュンで、彼はほかにもUptownの曲をたくさん作ります。チャン・ヨンジュンは02年にKBSで放送された『Space HipHop Duck』というアニメの音楽監督も務め、OPとEDはYGエンタテインメント所属のアーティストが担当しています。

 Uptownは05年に再結成されますが、盗作疑惑などもあり「UPT」に改名し、今では韓国Hiphop界の重鎮となったラッパーSwingsなどをメンバーに迎えたものの、ヒットとまではならず、現在は解散の発表こそされていませんが、空中分解状態となっています。

■언타이틀 (Untitle) - 날개 (Wings、翼) (1997/2)

 自分たちの曲全てを作詞作曲するユ・ゴンヒョンと、作詞・ラップ・振り付けをするソ・ジョンファンの2人組グループ、アンタイトルの2枚目のアルバム『The Blue Color』のタイトル曲です。 DEUXファンだった2人はデモテープをイ・ヒョンドに送り、彼と同じ事務所に所属して音楽活動をしました。この曲はミリオンヒットを記録し、さまざまな音楽番組で1位を獲るほどの人気がありましたが、3枚目アルバムの収録曲「자살」(自殺)という曲が放送審議規定に引っかかり、プロモーション活動ができなくなり、人気は低迷します。

<韓国の音楽背景にある「健全歌謡」「セマウル歌謡」>

 韓国の“時代”を象徴する音楽は、1960年代半ば頃~70年代にかけては「貯蓄の歌」「豊かに暮らそう」「今年は働く年」など政府主導で進められる音楽統制政策の一環で作られた「健全歌謡」(政府権力者にとって望ましいものが「健全」という基準)、70年代は「勤勉」「自助」「協同」を基本精神とした農村近代化運動の「セマウル歌謡」があります。

 どちらも歌を利用して国を一丸とする、いわゆる“精神高揚運動”のようなものですが、80年代は「健全歌謡挿入義務制」が実施され、発売されるレコードやテープなどの音源全てに必ず1曲は「健全歌謡」を収録しなければいけなくなります。

 88年にその制度が廃止され、90年代はそういったものから解き放たれた時代……かと思いきや、アンタイトルのほとんどのアルバムには「奉仕」「犠牲」「愛」「正義」「礼儀」などのキーワードが散りばめられており、セマウル運動のスローガンとして掲げられた「잘 살아보세」(幸せに生きよう)を表しているようで、“ほとんどセマウル歌謡”と評価されていたりもします。

 アンタイトルの解散後もユ・ゴンヒョンはgodやPSY、オム・ジョンファ、Roo'Raなどの作曲を担当し、なんとあの江南スタイルはPSYとユ・ゴンヒョンの共作です。ついこの間リリースされたヒョナの「I'm Not Cool」を始め、PSYが設立したP NATIONの所属アーティストの楽曲は、ほとんどがユ・ゴンヒョンによるものです。

 韓国Hiphopの元祖と言えば、な2人ジヌとションで「ジヌション」です。2人ともアメリカで育った韓国系アメリカ人で、YGエンタテインメントから97年にデビューします。「말해줘」(Tell me)の収録されたデビューアルバム『Jinusean』は、Hiphopのアルバムでは異例の70万枚を売り上げます。

 このアルバムはソテジワアイドゥルのメンバーでYGの元代表ヤン・ヒョンソクとDEUXのイ・ヒョンドの共同プロデュースで、「말해줘」(Tell me)はイ・ヒョンドが、もう1つのタイトル曲「Gasoline」はヤン・ヒョンソクが作詞作曲をしています。「말해줘」(Tell me)の動画に出てくる女性ボーカルは、現在も最前線で活動する女優で歌手のオム・ジョンファです。昨年、前述の『遊ぶなら何する?』の企画でイ・ヒョリやラッパーのJessi、MAMAMOOのファサと共に「REFUND SISTERS」(払戻し遠征隊)を結成し、「DON'T TOUCH ME」という曲をリリース、大ヒットしました。

■S.E.S. - 너를 사랑해 (I Love You、君を愛してる) (1998/11)

 97年にデビューしたSMエンタテインメント所属、3人組女性グループS.E.S.の2枚目アルバム『S.E.S. 2』の後続曲「너를 사랑해」(I Love You)です。

 S.E.S.は追って紹介するFin.K.Lと共に、今までのK-Popに多大な影響を与えたグループで、90年代のガールズグループブームの主役であり出発点となりました。当時韓国にガールズグループという概念がなかったわけではないですが、ヒットを生むのは難しく、SMエンタテインメントは時間とお金をかけてS.E.S.を準備しました。

 若い女性たちがH.O.T.やSechs Kiesに熱中し、海外ではTLCやSpice Girls、日本でSPEEDなどが大ヒットしている中で登場したS.E.S.は、遠巻きでアイドルブームを見ていた男性たちにタイミング良くはまり、デビュー直後から人気は爆発します。デビュー曲の「I'm Your Girl」も少しNJSみのある曲です。

 2002年にグループは解散しますが、デビュー20周年記念として17年にアルバム『Remember - S.E.S. 20th Anniversary Special Album』がリリースされ、収録された「한 폭의 그림」(Paradise)は見事なNJS楽曲でした。

■유승준 (Steve Yoo) - 열정 (Passion、情熱) (1999/05)

 97年にデビューしたソロ歌手スティーブ・ユーの3枚目アルバム『Now Or Never』のリード曲「열정」 (Passion)です。このアルバムは、チョ・ソンモ、H.O.Tに続き99年のレコード販売枚数3位となるほど大ヒットします。

 スティーブ・ユー(ユ・スンジュン)は韓国で生まれ、13歳の時に家族でアメリカに移住します。歌手を夢見て韓国の企画会社に売り込みをし、20歳の時に契約が決まり、再び単身韓国に戻ります。97年に「가위」(悪夢)でデビューし、複数の音楽番組で1位を獲得、その後リリースする6枚目のアルバムまで連続で大ヒットします。4枚目アルバム『Over And Over』のタイトル曲「비전」(飛展)もNJSです。

 当時、一部の若者には日本のビジュアル系が流行し髪を長く伸ばす人もおり、中学高校などでは頭髪規定が厳しく、取り締まり問題も取り沙汰されましたが、スティーブ・ユーの人気が増したことで坊主が大流行します。ドラマやバラエティ番組などにもたくさん出演し、テレビ番組を通して謙虚で礼儀正しく、運動もでき何にでも熱心な姿を見せ、一方で話すとコミカルで近所のお兄さん的な身近さがある、という完璧とも言える印象で、文字通り老若男女から愛される芸能人となります。

<兵役法改正にも影響を与えた、アメリカの市民権取得>

 当時の人気を象徴するのが、2001年釜山で行われた日韓ワールドカップの組み合わせ抽選会で韓国伝統芸能やオペラなどと一緒にスティーブ・ユーがパフォーマンスをしたことでしょう。しかし02年に彼がアメリカの市民権を取得したことで、公益勤務要員(※3)が決まっていたのにもかかわらず、それを避けるためではないかとの疑惑が広がり、世論はヒートアップします。

 最終的に国は彼に韓国への入国禁止措置を取ります。普段の品行方正な印象やインタビューなどで兵役に行くと答えていたこともあったため、余計に世間の目は厳しく、これをきっかけに「ユ・スンジュン」と呼ばれていた彼は「スティーブ・ユー」と呼ばれるようになったわけですが、後の兵役法改正にも影響を与えるほどとなります。

 これまで男性芸能人は兵役免除や社会服務要員となることが多かった風潮も一変し、近年は兵役に行かなくてよい外国籍の芸能人が兵役に行ったりと、非常にデリケートな問題ではありますが、外から見ていると、どんどん生きるのに窮屈な社会になってきているように見えます。

※3:兵役に行く前に受ける徴兵検査で、健康状態などの理由から軍隊に入って役務をこなせないと判断された場合に割り振られる区分。現在は社会服務要員と呼ばれており、一般的なのは役所などに勤務するもの。自宅から通うことが義務付けられており、勤務時間も通常9時~18時なため、軍隊に入るよりはプライベートな時間を確保できるといわれている。

 ユニット名のTashannie(タシャニ)は先述のUptownのメンバー、ユン・ミレ(Tasha)とカナダ系韓国人で振付師のイ・スア(Annie)の英語名を組み合わせたものです。デビューアルバム『Parallel Prophecys』のタイトル曲「참을 수 없어」(我慢できない)に続く後続曲が「경고」(警報)です。アルバムのプロデュースはUptownのチョン・ヨンジュンが担当し、収録曲の作曲をヒット曲メイカーのパク・グンテ、Bighitエンタテインメント創始者のパン・シヒョクなどが担当しました。

 活動がH.O.T、Fin.K.L、S.E.S、Sechs Kies、Baby VOXなどの大御所とかぶり、あまり成績は振るいませんでしたが、「경고」(警報)がリズムゲーム「Pump It Up The O.B.G.」に収録され、このゲームがゲームセンターで大ヒットしたため、カラオケなどでも人気が出ます。

■브로스 (Bros) - 윈윈 (Win Win) (1999/10)

 先述のRoo'Raのメンバーであるイ・サンミンが当時のYGファミリーに対抗し、デビュー前の新人アーティストたちを広報する目的で作ったといわれるブロスのデビュー曲「Win Win」です。

 Roo'Raのメンバー4人、Roo'Raメンバーのチェ・リナを中心に作られた女性3人組グループ・디바(Diva)、男性5人組グループ・엑스라지(X-LARGE)、女性4人組グループ・샤크라(Chakra)のメンバーがおり、その後Chakraはデビュー65日で地上波音楽番組1位を獲得するなど、当時の3大ガールズグループ(S.E.S.、Fin.K.L、Baby VOX)の記録を破ります。

■2000 대한민국 (2000 Republic of Korea) - 아름다운 21C (Beautiful 21C、美しい21世紀) (2000/01)

 韓国初の正式にリリースされたHiphopコンピレーションアルバム『1999대한민국』(1999大韓民国)に続く第2弾シリーズ『2000 대한민국(大韓民國)』の収録曲です。

 『1999大韓民国』はX-Teenというユニットを中心に、ユン・ミレの夫TigerJKが所属するDrunken Tiger、Uptown、ソテジワアイドゥルのメンバーであるイ・ジュノが所属したHoney Family、現在『SMTM』(Show me the money)シリーズのMCを務めるキム・ジンピョ、Bobby Kimなどメジャーで活動していたラッパーを中心に34人が参加しています。Honey Family名義の「우리같이 해요」(一緒にやろうぜ)はマイクリレー曲にもかかわらず、音楽番組で良い成績を収め、約3年間のHiphopコンピレーションアルバム制作ブームのきっかけとなります。

 実は「2000 대한민국(大韓民國)」というタイトルのコンピレーションアルバムは、シンナラレコードから出たものと千里眼(現在のNaverのような、当時PC通信サービスを運営する会社)から出たものと2つあり、「아름다운 21C」(Beautiful 21C)が収録されているのはシンナラレコードからリリースされたものでした。

 『1999大韓民国』の時に参加したラッパーたちがどちらにも散らばり、自分たちが元祖2000大韓民国だと主張する騒動も起き、明確に勝敗が決まったわけではありませんが、千里眼からリリースされたものを元祖とすることが一般的になります。歌詞がいわゆる愛国歌のような内容で、どの国でもHiphopというジャンルにはこういう精神が反映されるものなのだな、と思わされます。

■핑클 (Fin.K.L) - 나우 (Now) (2000/10)

 98年に大成企画からデビューした女性4人組グループ、Fin.K.L(ピンクル)の3枚目アルバム『Now』のタイトル曲です。大成企画は現在のDSPmediaの前身で、Fin.K.L以外にもSechs KiesやSS501、KARAなどが所属し、90年代後半の歌謡界は“SMエンタテインメントかDSP”と言われるほどでした。現在はAPRILやKARDなどが所属しています。

 Fin.K.Lは冒頭で紹介したイ・ヒョリがリーダーを務め、女性アイドルグループとして「初」の記録を多数残すグループです。例を上げると、このNowで見られるスーツコンセプト、歌謡大賞の受賞、単独コンサート、平壌公演、ドラマOST参加、コンサートDVD発売などがあります。デビューから20年以上経った今でもロールモデルとしてFin.K.Lを挙げる人がいるぐらいで、後の「アイドル」という概念に多大な影響を与えたグループです。

 当時のプロモーション画像が見られる動画などを見ると、日本の女性グループや、主にSPEEDなどから多大な影響を受けてそうだなと感じます。

 『Now』以前は妖精、かわいさ、親近感などをコンセプトに売ってきましたが、『Now』ではセクシーでかっこいい方向にコンセプトをシフトチェンジします。今のK-Popであれば曲ごとにコンセプトを変えることはそこまで珍しいことではないですが、当時は大挑戦だったといわれています。しかしアルバム『Now』は2枚目のアルバムに劣らない大ヒットを飛ばし、コンセプトのおかげか女性ファンも増加します。

 2002年から個人活動がメインになり、メンバーそれぞれの所属事務所も別々になりますが、現在も解散という発表はしておらず、19年には「남아있는 노래처럼」(残っている歌のように)という曲をリリースします。

■디베이스 (D.BACE) - 모든것을 너에게 (Everything to you、全てを君へ) (2001/05)

 DEUXのイ・ヒョンドが作った男性5人組グループ、D.BACE(ディベース)のデビューアルバム『D.Bace』のタイトル曲です。「모든것을 너에게」 (Everything to you)はヒットし新人賞も取りますが、2枚目のアルバム『GO』では大きな反応は得られず、空中分解してしまいます。

 00年にSechs Kies、01年にH.O.T.が解散してからは、今まで紹介してきたようなHiphop、ダンスミュージック一辺倒だった歌謡界は歌い上げるバラード中心になり、音楽番組も生歌重視になったため、神話以外の歌とパフォーマンスをメインにする男性グループはほとんど受け入れられない時期だったそうです。

■주석 (Joosuk) - 정상을 향한 독주2 (Solo proceed to the top、頂上への独走2) (2003/11)

 韓国アンダーグラウンドHiphopの帝王と呼ばれたラッパーでありプロデューサーのジュソクの3枚目アルバム『Superior Vol. 1 This Iz My Life』のタイトル曲です。「2」とついているように、1の原曲は前述『2000大韓民国』の千里眼からリリースされたほうのアルバムに収録されています。聞き比べるとわかりますが、原曲の方はビートがかなりシンプルで、2のほうが聞きやすくなっています。

 幼少期に日本に住んでいたことがあり日本語が堪能で、日本のHiphop界ともつながりがあり、活動初期のアルバムにはOZROSAURUSのMACCHOやZEEBRAなどが客演しています。

 12年、Mnetで始まったラップサバイバル番組『SMTM』のシーズン1でプロデューサーを務めて、LOCOと共にWonder GirlsのLike Thisのトラックでステージを披露し、観客投票1位を獲得します。

 今回は00年代前半までを紹介しましたが、これ以降はHiphopやR&Bジャンルの楽曲でも電子音が多く取り入れられ、NJSの特徴の16分3連符が主体のスウィングビートは減り、はっきりとNJSと言える楽曲はほとんど見られなくなります。

 NJSという切り口からの特集でしたが、90年代に最低限押さえておけば大丈夫そうなアーティストは、ほとんど言及できたと思うので、いかにこの時代にNJSがはやっていたかがわかると思います。

 今回紹介した人たちのルーツが韓国だけでなく、主にアメリカなど複数国にまたがっていることが多いのも気になる点でした。そのような人たちが韓国にHiphopなどのいわゆるブラックミュージックを浸透させることにかなり寄与していそうですし、現在もK-PopがHiphopやR&Bベースな楽曲が多いことにも関係しているのではないかと思います。

 ちなみに韓国では自国外に住む韓国人・同胞のことをキョッポ(교포、僑胞)と呼び、在米の場合はチェミキョッポと言います。今回さまざまな文章を読みましたが、"キョッポ"の頻出度合いはすごかったです。

 また、現在活動するアーティストでそのような人を時々見かけていましたが、生まれてから今までずっと日本に住んでいる自分にとって、親の会社の海外赴任とかではなしにアメリカに移住し、さらにまた韓国に帰って来たり、アメリカで生まれても韓国に行ったりするという感覚がイマイチピンとこなく、そういう部分の歴史的背景、文化、心理などがわかればもう少し解像度の高い解説ができたかなと思います。

 引用したYoutubeのステージ動画はほとんどがテレビ局の公式アカウントからアップされており、アーカイブという観点から非常に有用なものだと思うので、権利関係などが難しいのはもちろんですが、いろいろな国でやって欲しい試みだなと思いました。またテレビ番組のステージ動画を中心に掲載したため、NJSじゃなくない? と思う曲もあるかもしれませんが、当時は生演奏などもあり実際の楽曲とは少し違うように聞こえることもあるので、原曲を探して聞くと納得してもらえると思います。

落選したけど……紹介したい1曲:온앤오프 (ONF) - Beautiful Beautiful

 いまさら紹介する必要もないような気もしますが、9月の記事で紹介した、ONFの正規アルバム『ONF: MY NAME』のタイトル曲です。デビュー直後の彼らの楽曲は大好きで、ここ最近のタイトル曲はそこまでピンと来ていなかったのですが、ここに来てアルバム丸ごと最高のものが来てしまいました……。

 公式の文章では、「前のアルバムが平行世界の中でもう一つの時間旅行に出たユートピアでのエピソードだったとすれば、今回は統制された未来での自由を求める少年たちの青春という名の話」となっています。コロナ禍をかなり意識したものになっており、アルバム丸ごと、是非歌詞の意味を調べながら聞いてほしいです。

<近況>

 最近はタイポップとアイドルグループが出演する映画にハマっています。PiXXiEとP1Harmonyが出演する、『P1H:新しい世界の始まり』をよろしくお願いします。

EXO・D.O映画デビュー作『明日へ』から学ぶ、“闘うこと”の苦しみと喜び――「働き方」から見える社会問題

近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。しかし作品の根底にある国民性・価値観の理解にまでは至っていないのではないだろうか。このコラムでは韓国映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。

『明日へ』

 日本に暮らして、まもなく20年。すっかり日本になじんでいる私は、たまに韓国に帰ると、異国にいるかのようにソワソワした感覚に陥ってしまう。このまま日本に骨をうずめる覚悟でいるので、これからもずっと日本にお世話になりながら、この地で生きていきたいというのが正直な気持ちだ。 
 
 だが、そんな私にも理解しがたい日本人の態度がある。それは、権力の不正や理不尽な仕打ちに対する怒りを“行動”として表明しないことだ。例を挙げればキリがないだろう。安倍政権下で起こった森友・加計問題や公文書偽造、河井克行・案里夫妻の公職選挙法違反、検察庁の不正に菅政権誕生の経緯、東京オリンピックをめぐる諸問題……。近年、後を絶たない権力側の疑惑に対して、多くの国民は納得できないものを感じているにもかかわらず、それが明確な行動として示されることはほとんどない。ごく一部の人がデモに集う一方で、「そんなことをしてもムダだ」という諦めのようなムードが国全体を覆っているように思えるのだ。 
 
 そんな様子を目にするたびに、韓国ではこれでは済まされないだろう、という思いが頭をよぎる。これまでのコラムでも言及してきたように、韓国では国民の怒りが現実を変えてきた歴史がある。光州事件に端を発する民主化運動、「トガニ法」の成立、#MeToo、セウォル号沈没事故と朴槿恵大統領の弾劾などなど。だがそれ以上に、韓国人は生活の中で権力に対して理不尽さを感じると、1人でも、たとえ勝ち目がなくても、「デモ」という形で怒りを表明する「文化」を持っている。 
 
 私自身、そんな韓国の文化から距離を置き、デモに明け暮れる大学生活に嫌気が差して軍隊に行ったクチなので、日本人にとやかく言う資格もないのだが、それでも自国で起こっている看過できない事態に対して、まるで他人事のように振る舞う日本人の姿に、納得できないものを感じてきたのは事実である。 
 
 今回は、そんな韓国の「異議申し立て」文化を如実に示した映画を取り上げたいと思う。スーパーマーケットの女性パート従業員たちが、不当解雇に立ち上がった実話を元にした『明日へ』(プ・ジヨン監督、2014年)だ。わかりづらい邦題だが、原題は『카트(カート)』といい、スーパーでのストライキを象徴的に示している。

 07年に起こった実際の出来事を映画化した本作は、社会の中で置き去りにされている非正規雇用の女性たちの姿を女性監督が描き、今の時代に大きな意味を持つ作品といえる。韓国で作られた商業映画として、初めて非正規雇用問題をテーマにしたことや、EXOのD.O(ド・ギョンス)が映画デビューを果たしたことでも、公開前から大きく注目されていた。

<物語> 

 大手スーパー「ザ・マート」のレジ系として働くソニ(ヨム・ジョンア)は、真面目に業務をこなし、サービス残業も積極的に引き受けてきたおかげで、正社員への登用が約束され幸せいっぱいだった。ところがある日、彼女を含む非正規の女性労働者たちは、会社から一方的に解雇を通報される。ろくに説明もない会社の理不尽な態度に、シングルマザーのヘミ(ムン・ジョンヒ)、清掃員のスルレ(キム・ヨンエ)らは憤り、団結して闘おうと労組を結成。ソニもリーダーの1人に抜てきされ、交渉を試みるも、会社側は彼女たちに向き合おうともしない。

 このままではらちが明かないと判断した彼女たちは、ストライキを敢行しスーパーの占拠に踏み切るが、「不法占拠」として警察から排除され、逆に会社から訴えられてしまう。仲間同士を分裂させようとする会社側のさまざまな妨害に遭いながら、人間としての尊厳を必死で守ろうとする女性たちだが、ギリギリの生活の中で、家族との関係にもひびが入ってしまう。果たしてソニらは「良き明日」を勝ち取ることができるだろうか? 

 先述したように、本作は2007年に大手スーパーチェーンのレジ系を担当する労働者たちが、会社の不当解雇に立ち向かい実際に起こしたストライキを再構成した映画作品。当初は1日で終わる予定だったそのストライキは結果、彼女たちが再びレジに戻るまで2年という歳月がかかる長い闘いになってしまった。だがそもそも、なぜ不当解雇がなされ、ストライキに至ったのだろうか? その背景を知るためには、1997年のIMF時代にまで遡らなければならない。 
 
 国家的な財政の立て直しに追われたIMF時代(詳しくは、当コラムの『国家が破産する日』を参照)、企業による大量のリストラが余儀なくされる中で、爆発的に増え始めたのが非正規労働者だった。そして同時に大きな問題となったのが、契約期間や賃金など、正社員に比べると圧倒的に不安定な非正規の雇用条件であり、そこから社会に深刻な格差が生まれていったことだ。

 当然、改善を求めるデモやストライキが韓国各地で盛んに行われ、その結果、IMFから10年がたった07年にようやく、非正規労働者への差別改善と社会の安定化を図った「非正規職保護法」が成立。その内容は、有期契約で2年以上働いた非正規労働者の正社員への転換、同一労働・同一賃金を実現し、正規と非正規の待遇差をなくそう、というものだ。 
 
 ただし、ここには盲点もあった。正社員への転換はあくまでも企業の努力義務であり、「経営上の理由」から転換が難しいと会社側が主張し、妥当であると判断されれば、そのまま非正規として雇い続けることもできるようにしたのだ。もう一つは、近年日本の「働き方改革」においても、無期契約への転換を前に雇い止めになる弊害が問題となっているが、韓国でも同様に、2年後の正社員への登用を盛り込んではいるものの、これを悪用して雇い止めにする事例が数多く発生した。

 本作の元になったストライキは、まさに法制定を前にして、直前に手を打とうとした会社側の横暴が原因となっている。法の成立とストライキが07年という同じ年に起こったのは、決して偶然ではないだろう。

 こうした背景があってストライキが起こったわけだが、当時は大きな問題として社会の注目を集めても、次第に人々の関心は遠のいていった。だが、当時の闘いを細部にわたって丁寧に再現した本作が公開されたことで、14年においてもいまだ問題が解決していない状況――ストライキの2年後、労働組合の執行部の復職放棄を条件に、労働者たちの職場復帰は果たしたが、全員の正社員転換が完了したのは18年である――を、再び韓国社会に喚起させたのである。

 映画によって、あらためて労働問題をめぐる現実を突きつけられた韓国では、公開後も、自動車工場の解雇労働者たちの復職運動や、高速道路料金所従業員たちの正社員登用をめぐるデモなどが盛んに行われてきた。とりわけ本作でも描かれたように、非正規労働者は男性に比べて女性が圧倒的に多い。ただでさえ男性を優先する社会構造が根深く、女性の声が社会に届きにくい韓国において、正規/非正規の問題のみならず、男女間の差別を明確にメッセージとして描いた本作の意義は大きいだろう。

 本作ではまた、現実においてほぼ不可視化されている、さらに深刻な問題をもう一つ取り上げている。映画が作られた2014年前後に浮かび上がってきた「若者の貧困」だ。映画で中心に描かれるのはスーパーでのストライキだが、女性たちが立ち上がる背景には必ず「家族」の存在があり、映画ではそれぞれの家庭事情についてもきちんと踏み込んでいる。

 例えば、夫が出稼ぎに出ているらしいソニの家では、息子のテヨン(EXO・D.O/ド・ギョンス)が給食費を払えずに昼ご飯を食べられなかったり、修学旅行の費用を稼ぐためにコンビニでアルバイトをすれば、店主からひどいパワハラを受けて悔しい思いをしたりする。テヨンの友人・スギョン(チウ)はさらに劣悪な貧困下にあるが、彼らは似たような境遇から次第に心を通わせていく。

 アルバイトに励む高校生は、社会の中で最も弱い立場にある労働者であり、彼らを保護するような法整備はいまだなされていない。また、スーパーの仲間の中にも、大学を卒業したものの就職ができず、非正規のレジ係として働くミジン(チョン・ウヒ)という人物がおり、彼女はまさに「若者の貧困」問題の象徴的な存在として描かれる。 
 
 韓国には「88万ウォン世代(88만원 세대)」と呼ばれる、雇用不安にさいなまれる20代を指し示す言葉がある。正社員として就職できず、非正規労働者になった若者で、その平均月収は最低限の生活を維持することもままならない「88万ウォン(約8万円)」であることから生まれた造語だ。そこには、民主化が進んだ90年代に私立大学の設立基準が緩和され、その結果、大学生の数が急増したという背景がある。

 学歴社会である韓国において大学の卒業証書は就職の必須条件であり、高校生は少しでも安定した未来を手に入れようと、必死で勉強に励む。設立基準を緩和して大学を増やし、入りやすい環境を作ることは本来、熾烈な受験戦争を解決するための政策だったはずだが、今となってみればそれが逆効果となり、実績の低い大学を政府が「リストラ」する動きにつながる。大学生の急増は就職難に直結し、さらなる非正規労働者を量産する結果となったのだ。

 入社試験に落ち、非正規労働者として闘うことを選ぶミジンは、まさに「88万ウォン世代」といえるが、この世代の現実を表す造語にもう一つ「サンポ世代(삼포세대、3つを放棄した世代)」というものがある。これは、就職難や不安定な労働環境、高騰する住宅価格、生活費の逼迫などによって「恋愛・結婚・出産」の3つを諦めざるを得ない若者たちを示すもので、韓国社会が抱える最大の課題を端的に表す用語として使われている。 
 
 こうして考えると、非正規労働者の問題は、ソニやヘミといった子どもを持つ親だけでなく、その子どもや若者、そして高齢者のスルレまで、ほぼ全世代に関わっていることがわかる。このままでは、高校生であるテヨンやスギョンの未来はミジンであり、ミジンの未来は子どもを育てながら必死で働くソニやヘミであり、ソニやヘミの未来は孤独な一人暮らしのスルレである可能性が非常に高い。

 これほどまでにつらく厳しい現実を、どうすれば次の世代に受け継がせずに断ち切れるのか。その答えこそが、デモでありストライキではないだろうか。社会から守られていない彼らは、理不尽な仕打ちに立ち向かい、不当な解雇と闘い、自らの権利を自らの手で勝ち取るしかないのだ。

 『明日へ』は、韓国で「11月13日」に公開された。この日は、韓国における労働運動の歴史を象徴する運動家「チョン・テイル(全泰壹)」の命日である。彼は1970年、劣悪な労働環境の改善を訴える運動の中で軍事政権から弾圧を受け、抗議の焼身自殺を果たした人物だ。「労働者は機械ではない」と叫びながら散っていったチョン・テイルの精神は、その後の労働運動に大きな影響を与えたといわれている。

 命を落としたソウルの清渓川(チョンゲチョン)には、彼の銅像が立っており、その意志は今もなお多くの人に受け継がれているのだ。映画の最後で「私たちを透明人間扱いしないで」と叫ぶソニの姿には、チョン・テイルの精神がはっきりと見える。 
 
 強制排除に出た警察が無差別に放つ放水に向かって、「カート」を武器に突進するところで画面は静止し、闘いが現在進行形であることを暗示して映画は終わる。彼女たちがその闘いに勝利することは、もちろん簡単ではない。だが、諦めずに立ち向かい、その果てに己の権利や正しさを勝ち取って初めて、そのカートの中は幸せで埋め尽くされるのだろう。

 独裁政権を打破し、自分たちの手で民主化を勝ち取ることに成功した韓国人は、闘いの苦しみとその果ての喜びを知っている。私は日本人にも、闘うことの苦しみと喜びを味わってほしい、そう思うのだ。

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

EXO・D.O映画デビュー作『明日へ』から学ぶ、“闘うこと”の苦しみと喜び――「働き方」から見える社会問題

近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。しかし作品の根底にある国民性・価値観の理解にまでは至っていないのではないだろうか。このコラムでは韓国映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。

『明日へ』

 日本に暮らして、まもなく20年。すっかり日本になじんでいる私は、たまに韓国に帰ると、異国にいるかのようにソワソワした感覚に陥ってしまう。このまま日本に骨をうずめる覚悟でいるので、これからもずっと日本にお世話になりながら、この地で生きていきたいというのが正直な気持ちだ。 
 
 だが、そんな私にも理解しがたい日本人の態度がある。それは、権力の不正や理不尽な仕打ちに対する怒りを“行動”として表明しないことだ。例を挙げればキリがないだろう。安倍政権下で起こった森友・加計問題や公文書偽造、河井克行・案里夫妻の公職選挙法違反、検察庁の不正に菅政権誕生の経緯、東京オリンピックをめぐる諸問題……。近年、後を絶たない権力側の疑惑に対して、多くの国民は納得できないものを感じているにもかかわらず、それが明確な行動として示されることはほとんどない。ごく一部の人がデモに集う一方で、「そんなことをしてもムダだ」という諦めのようなムードが国全体を覆っているように思えるのだ。 
 
 そんな様子を目にするたびに、韓国ではこれでは済まされないだろう、という思いが頭をよぎる。これまでのコラムでも言及してきたように、韓国では国民の怒りが現実を変えてきた歴史がある。光州事件に端を発する民主化運動、「トガニ法」の成立、#MeToo、セウォル号沈没事故と朴槿恵大統領の弾劾などなど。だがそれ以上に、韓国人は生活の中で権力に対して理不尽さを感じると、1人でも、たとえ勝ち目がなくても、「デモ」という形で怒りを表明する「文化」を持っている。 
 
 私自身、そんな韓国の文化から距離を置き、デモに明け暮れる大学生活に嫌気が差して軍隊に行ったクチなので、日本人にとやかく言う資格もないのだが、それでも自国で起こっている看過できない事態に対して、まるで他人事のように振る舞う日本人の姿に、納得できないものを感じてきたのは事実である。 
 
 今回は、そんな韓国の「異議申し立て」文化を如実に示した映画を取り上げたいと思う。スーパーマーケットの女性パート従業員たちが、不当解雇に立ち上がった実話を元にした『明日へ』(プ・ジヨン監督、2014年)だ。わかりづらい邦題だが、原題は『카트(カート)』といい、スーパーでのストライキを象徴的に示している。

 07年に起こった実際の出来事を映画化した本作は、社会の中で置き去りにされている非正規雇用の女性たちの姿を女性監督が描き、今の時代に大きな意味を持つ作品といえる。韓国で作られた商業映画として、初めて非正規雇用問題をテーマにしたことや、EXOのD.O(ド・ギョンス)が映画デビューを果たしたことでも、公開前から大きく注目されていた。

<物語> 

 大手スーパー「ザ・マート」のレジ系として働くソニ(ヨム・ジョンア)は、真面目に業務をこなし、サービス残業も積極的に引き受けてきたおかげで、正社員への登用が約束され幸せいっぱいだった。ところがある日、彼女を含む非正規の女性労働者たちは、会社から一方的に解雇を通報される。ろくに説明もない会社の理不尽な態度に、シングルマザーのヘミ(ムン・ジョンヒ)、清掃員のスルレ(キム・ヨンエ)らは憤り、団結して闘おうと労組を結成。ソニもリーダーの1人に抜てきされ、交渉を試みるも、会社側は彼女たちに向き合おうともしない。

 このままではらちが明かないと判断した彼女たちは、ストライキを敢行しスーパーの占拠に踏み切るが、「不法占拠」として警察から排除され、逆に会社から訴えられてしまう。仲間同士を分裂させようとする会社側のさまざまな妨害に遭いながら、人間としての尊厳を必死で守ろうとする女性たちだが、ギリギリの生活の中で、家族との関係にもひびが入ってしまう。果たしてソニらは「良き明日」を勝ち取ることができるだろうか? 

 先述したように、本作は2007年に大手スーパーチェーンのレジ系を担当する労働者たちが、会社の不当解雇に立ち向かい実際に起こしたストライキを再構成した映画作品。当初は1日で終わる予定だったそのストライキは結果、彼女たちが再びレジに戻るまで2年という歳月がかかる長い闘いになってしまった。だがそもそも、なぜ不当解雇がなされ、ストライキに至ったのだろうか? その背景を知るためには、1997年のIMF時代にまで遡らなければならない。 
 
 国家的な財政の立て直しに追われたIMF時代(詳しくは、当コラムの『国家が破産する日』を参照)、企業による大量のリストラが余儀なくされる中で、爆発的に増え始めたのが非正規労働者だった。そして同時に大きな問題となったのが、契約期間や賃金など、正社員に比べると圧倒的に不安定な非正規の雇用条件であり、そこから社会に深刻な格差が生まれていったことだ。

 当然、改善を求めるデモやストライキが韓国各地で盛んに行われ、その結果、IMFから10年がたった07年にようやく、非正規労働者への差別改善と社会の安定化を図った「非正規職保護法」が成立。その内容は、有期契約で2年以上働いた非正規労働者の正社員への転換、同一労働・同一賃金を実現し、正規と非正規の待遇差をなくそう、というものだ。 
 
 ただし、ここには盲点もあった。正社員への転換はあくまでも企業の努力義務であり、「経営上の理由」から転換が難しいと会社側が主張し、妥当であると判断されれば、そのまま非正規として雇い続けることもできるようにしたのだ。もう一つは、近年日本の「働き方改革」においても、無期契約への転換を前に雇い止めになる弊害が問題となっているが、韓国でも同様に、2年後の正社員への登用を盛り込んではいるものの、これを悪用して雇い止めにする事例が数多く発生した。

 本作の元になったストライキは、まさに法制定を前にして、直前に手を打とうとした会社側の横暴が原因となっている。法の成立とストライキが07年という同じ年に起こったのは、決して偶然ではないだろう。

 こうした背景があってストライキが起こったわけだが、当時は大きな問題として社会の注目を集めても、次第に人々の関心は遠のいていった。だが、当時の闘いを細部にわたって丁寧に再現した本作が公開されたことで、14年においてもいまだ問題が解決していない状況――ストライキの2年後、労働組合の執行部の復職放棄を条件に、労働者たちの職場復帰は果たしたが、全員の正社員転換が完了したのは18年である――を、再び韓国社会に喚起させたのである。

 映画によって、あらためて労働問題をめぐる現実を突きつけられた韓国では、公開後も、自動車工場の解雇労働者たちの復職運動や、高速道路料金所従業員たちの正社員登用をめぐるデモなどが盛んに行われてきた。とりわけ本作でも描かれたように、非正規労働者は男性に比べて女性が圧倒的に多い。ただでさえ男性を優先する社会構造が根深く、女性の声が社会に届きにくい韓国において、正規/非正規の問題のみならず、男女間の差別を明確にメッセージとして描いた本作の意義は大きいだろう。

 本作ではまた、現実においてほぼ不可視化されている、さらに深刻な問題をもう一つ取り上げている。映画が作られた2014年前後に浮かび上がってきた「若者の貧困」だ。映画で中心に描かれるのはスーパーでのストライキだが、女性たちが立ち上がる背景には必ず「家族」の存在があり、映画ではそれぞれの家庭事情についてもきちんと踏み込んでいる。

 例えば、夫が出稼ぎに出ているらしいソニの家では、息子のテヨン(EXO・D.O/ド・ギョンス)が給食費を払えずに昼ご飯を食べられなかったり、修学旅行の費用を稼ぐためにコンビニでアルバイトをすれば、店主からひどいパワハラを受けて悔しい思いをしたりする。テヨンの友人・スギョン(チウ)はさらに劣悪な貧困下にあるが、彼らは似たような境遇から次第に心を通わせていく。

 アルバイトに励む高校生は、社会の中で最も弱い立場にある労働者であり、彼らを保護するような法整備はいまだなされていない。また、スーパーの仲間の中にも、大学を卒業したものの就職ができず、非正規のレジ係として働くミジン(チョン・ウヒ)という人物がおり、彼女はまさに「若者の貧困」問題の象徴的な存在として描かれる。 
 
 韓国には「88万ウォン世代(88만원 세대)」と呼ばれる、雇用不安にさいなまれる20代を指し示す言葉がある。正社員として就職できず、非正規労働者になった若者で、その平均月収は最低限の生活を維持することもままならない「88万ウォン(約8万円)」であることから生まれた造語だ。そこには、民主化が進んだ90年代に私立大学の設立基準が緩和され、その結果、大学生の数が急増したという背景がある。

 学歴社会である韓国において大学の卒業証書は就職の必須条件であり、高校生は少しでも安定した未来を手に入れようと、必死で勉強に励む。設立基準を緩和して大学を増やし、入りやすい環境を作ることは本来、熾烈な受験戦争を解決するための政策だったはずだが、今となってみればそれが逆効果となり、実績の低い大学を政府が「リストラ」する動きにつながる。大学生の急増は就職難に直結し、さらなる非正規労働者を量産する結果となったのだ。

 入社試験に落ち、非正規労働者として闘うことを選ぶミジンは、まさに「88万ウォン世代」といえるが、この世代の現実を表す造語にもう一つ「サンポ世代(삼포세대、3つを放棄した世代)」というものがある。これは、就職難や不安定な労働環境、高騰する住宅価格、生活費の逼迫などによって「恋愛・結婚・出産」の3つを諦めざるを得ない若者たちを示すもので、韓国社会が抱える最大の課題を端的に表す用語として使われている。 
 
 こうして考えると、非正規労働者の問題は、ソニやヘミといった子どもを持つ親だけでなく、その子どもや若者、そして高齢者のスルレまで、ほぼ全世代に関わっていることがわかる。このままでは、高校生であるテヨンやスギョンの未来はミジンであり、ミジンの未来は子どもを育てながら必死で働くソニやヘミであり、ソニやヘミの未来は孤独な一人暮らしのスルレである可能性が非常に高い。

 これほどまでにつらく厳しい現実を、どうすれば次の世代に受け継がせずに断ち切れるのか。その答えこそが、デモでありストライキではないだろうか。社会から守られていない彼らは、理不尽な仕打ちに立ち向かい、不当な解雇と闘い、自らの権利を自らの手で勝ち取るしかないのだ。

 『明日へ』は、韓国で「11月13日」に公開された。この日は、韓国における労働運動の歴史を象徴する運動家「チョン・テイル(全泰壹)」の命日である。彼は1970年、劣悪な労働環境の改善を訴える運動の中で軍事政権から弾圧を受け、抗議の焼身自殺を果たした人物だ。「労働者は機械ではない」と叫びながら散っていったチョン・テイルの精神は、その後の労働運動に大きな影響を与えたといわれている。

 命を落としたソウルの清渓川(チョンゲチョン)には、彼の銅像が立っており、その意志は今もなお多くの人に受け継がれているのだ。映画の最後で「私たちを透明人間扱いしないで」と叫ぶソニの姿には、チョン・テイルの精神がはっきりと見える。 
 
 強制排除に出た警察が無差別に放つ放水に向かって、「カート」を武器に突進するところで画面は静止し、闘いが現在進行形であることを暗示して映画は終わる。彼女たちがその闘いに勝利することは、もちろん簡単ではない。だが、諦めずに立ち向かい、その果てに己の権利や正しさを勝ち取って初めて、そのカートの中は幸せで埋め尽くされるのだろう。

 独裁政権を打破し、自分たちの手で民主化を勝ち取ることに成功した韓国人は、闘いの苦しみとその果ての喜びを知っている。私は日本人にも、闘うことの苦しみと喜びを味わってほしい、そう思うのだ。

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

R-18韓国映画『お嬢さん』が“画期的”とされる理由――女性同士のラブシーンが描いた「連帯」と「男性支配」からの脱出

近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。しかし作品の根底にある国民性・価値観の理解にまでは至っていないのではないだろうか。このコラムでは韓国映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。

『お嬢さん』

 1950年代末に、映画における作家主義を前面に出してフランスで起こった映画運動「ヌーヴェルヴァーグ」。ジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォーといった映画作家たちを輩出し、彼らはシネフィル(「映画マニア」とでも言い換えられようか)が高じて映画評論家となり、その自然な帰結として自ら映画を作るようになっていった。韓国にもまた、同じような出自を持つ「巨匠」がいる。パク・チャヌクだ。『JSA』(2000)や『オールド・ボーイ』(03)『親切なクムジャさん』(05)『渇き』(09)など、韓国映画が国際的な評価を得るようになった立役者の一人であり、近年ではハリウッドやイギリスでも活躍。韓国映画を世界に知らしめる「21世紀の韓国映画ルネサンス」を、『パラサイト 半地下の家族』(19)のポン・ジュノと共に先導する役割を果たしている。 
 
 ポン・ジュノがエンターテインメントの中に大いなる社会性を潜ませる作風であるとするならば、パク・チャヌクは、リアリズムとはかけ離れた画面作りの中に、タブーや罪意識に基づく贖罪と救済(ただし、勧善懲悪とは全く無縁の)の過程を、過激に、時に過剰に、そして転覆的に描き出し、高い評価を得ている作家だ。近親相姦や宗教的な堕落を、視覚的に強烈な、美術的な表現で提示するその芸術性は、「カンヌ・パク」とも呼ばれるほど、カンヌ国際映画祭で高く評価されていることからも明らかだ。

 『オールド・ボーイ』がカンヌで審査員長を務めたタランティーノを熱狂させ、韓国映画初の審査員特別グランプリを受賞。さらに『渇き』も審査員賞を受賞している。ポン・ジュノがどちらかというとアメリカで熱狂を生んだのに対し、パク・チャヌクはヨーロッパでより好まれる傾向にあり、そこに両者の作家性の違いが見え隠れする。だが2人はライバルというよりも、実際は非常に仲が良く、パク・チャヌクはポン・ジュノがハリウッドで手がけた『スノーピアサー』(13)の製作者に名を連ねたほか、ポン・ジュノが『パラサイト 半地下の家族』でアカデミー賞を受賞した際には、パク・チャヌクが真っ先に祝辞を送っていた。 

 今回のコラムでは、そんなパク・チャヌクがハリウッドに招かれて監督した『イノセント・ガーデン』(13)以来、3年ぶりに発表した『お嬢さん』(16)を取り上げたいと思う。本作もまた、観客の想像を超える「過激で転覆的」な物語と女性同士のベッドシーンが話題を呼び、日本ではR-18作品に指定されたにもかかわらず、世界中で多くの観客を動員したヒット作となった。パク自身はカンヌでの受賞には至らなかったが、「ミザンセン(画面演出)」を高く評価され、パクと長きにわたってコンビを組んできた美術監督のリュ・ソンヒが、技術賞にあたる「バルカン賞」を受賞。また本作は、世界176カ国へ輸出されるなど、海外でもそのエンターテインメント性と作家性が認められる結果となった。 
 
<物語> 

 1930年代の植民地朝鮮。幼い頃に両親を失い、叔父・上月(チョ・ジヌン)の厳しい保護の下で暮らしている秀子(キム・ミニ)。ある日、藤原伯爵(ハ・ジョンウ)の紹介で朝鮮人の少女・スッキ(キム・テリ)が、「珠子」の名で侍女として秀子に仕えることになる。毎日のように叔父の書斎で本を朗読するのが日常の全てだった秀子は、いつしか純真なスッキを頼るように。だがスッキの正体は、有名な女泥棒の娘で、詐欺集団によって育てられたスリだった。そして藤原伯爵もまた、秀子を誘惑して結婚し、彼女が相続する莫大な財産を横取りしようとする詐欺師。スッキはそんな伯爵の企みに乗り、秀子と伯爵が結ばれるよう仕向けるために送り込まれたのだ。秀子の心を揺さぶるため、藤原伯爵とスッキの陰謀が始まるが、3人の関係は予想だにしない方向へと進んでいく。 

 本作は3部構成になっており、1部はスッキの視点から、2部では1部と同じ出来事を秀子の視点から描き、3部ではその結果が映し出される。これは、サラ・ウォーターズの原作小説『荊の城』(創元推理文庫)に沿った構成であるものの、映画を見たサラが「あくまで小説からインスピレーションを受けたにすぎない」と明かすほど、物語そのものはだいぶ異なっている。パク・チャヌク自身、「原作を読みながら僕なりに想像したものを軸にした」と述べているが、それでも主要人物の設定や物語の大きな流れは原作をもとにしている。とりわけ「女性同士の同性愛的関係」という主題が、原作同様、映画においても核となっている点は重要であり、韓国での公開時に本作が大きな注目を浴びて話題をさらったのも、まさに「秀子とスッキの過激なラブシーン」であった。 
 
 ここ数年で、ジェンダーの主題やLGBTQの描き方など、映画における性の多様性の表現は世界的に大きく進んだ感があるが、韓国では儒教的伝統により、いまだ「同性愛」に対して保守的な側面が強い。LGBTQの集会に猛反対する教育界・宗教界関係者のホモフォビア的批判の声が、新聞の社会面をにぎわせているほどだ。だがそんな韓国において、低予算のインディーズ映画ならまだしも、莫大な製作費をかけた商業映画としてこのような映画が作られたこと自体が画期的であり、本作はその意味でも先駆的であったといえる。

 そして本作に対して、もちろん拒否反応や否定的な意見はあり、女性同士のラブシーンに対する興味本位なまなざしも目立ったが、それ以上に興味深いのが、本作で描かれる同性愛は、セックス以上にさまざまなレベルで象徴的な解釈ができるのではないかという、フェミニズム的観点からの議論である。こうした議論の背景には、巨匠パク・チャヌクが同性愛を単純には描かないだろうという、監督への期待が込められているのと同時に、映画の主な観客が若者世代であり、性的な議論に対して柔軟な観客に見られた作品であることが大きかったと考えられる。彼らにとって秀子とスッキのラブシーンは、ただのセックスではなく女性同士の「連帯」と捉えられた。

 以下に、映画から読み取れる「連帯」の要素を挙げてみよう。 

 第1部でまず強調されるのは、秀子とスッキの「母性愛」的な関係性だ。映画の冒頭、捨てられた赤ん坊を拾って面倒を見、その後売りさばく生活を送っているスッキはすでに母親的な役割を果たしており、社会から隔絶された世界で1人では何もできない秀子には、まるで赤ん坊のように接する。スッキに頼りっぱなしの秀子も、実は彼女の演技であったことが後から明らかになるのだが、母親を早くに亡くしたという共通点を持つ2人が、「あなたの母はきっとあなたを産んでよかったと思っているはず」というスッキの言葉を通して真の感情を芽生えさせることからも、彼女たちがまず「母性」によって連帯していくことがわかる。そして、時間をかけて反復的に描かれるセックスシーンが、素晴らしいエロティシズムにあふれているのは作り手たちの力量だが、手を握り合うといった行為を見せることで、2人の連帯感がより伝わってくる場面になっている。 
 
 また、最初は女同士がだまし合っているように見せるからこそ、それが次第に「女性対男性」の構図に変化し、最終的には女が男に気持ちよく勝利する結末に痛快さを感じるという、映画自体の構成の魅力も大きいだろう。それまで完全に男性の支配下に置かれていた秀子とスッキは、連帯することで、上月や藤原との関係をぶち壊して転覆させ、2人だけの自由を手に入れる。そしてその過程で、上月の春画コレクションや「蛇の像」を叩き潰し、藤原の「指」は切断され、それぞれ「男根」のメタファーともいえるものが具体的に破壊されていく。

 こうしたさまや、だまし合いのゲームにおいて次第に女たちが主体的な地位を確立し、男たちをバカにしながら勝利を収めるという展開を考えると、2人の同性愛的連帯は、もはや必然とさえいえる気がする。上月の家から脱出する際の「私の人生を壊しに来た救世主、私の珠子」という秀子のセリフは、そうした2人の関係性を決定的に示すものである。

 パク・チャヌクは、男性による一方的な性的視線を見事に転覆させる女性たちの反撃を描くための装置として、同性愛を必要としたのだろう。だからこそ本作は、スキャンダルなベッドシーンの話題を超えて、フェミニズムに根差した議論が活性化したのである。 

 その一方で、多くの日本人観客が「なぜ本作は日本統治下の朝鮮を舞台にし、登場人物たちにたどたどしい日本語を言わせたのか」という疑問を感じるのではないだろうか。日本人ではない私さえも、それがずっと気になったくらいである。もちろん、原作の雰囲気に合わせて「伯爵」という朝鮮にはなかった身分を取り入れるためといった要因もあるかもしれないし、パク・チャヌク自身「こんなにいやらしい話を韓国語で聞かされるのは……」とためらったように、劇中で発せられる数々の卑猥な言葉を外国語にすることで、衝撃が和らぐといった戦略もあっただろう。だがそれ以上に、そこには長年韓国が抱いてきた、日本のポルノへのフェティシズムがあるのではないかと思う。

 実は、いまだに法律でポルノ映画が禁止されている韓国では、国産ポルノを見ることのかなわない男たちが、長年欲望のはけ口を日本産ポルノに求めてきたという実態があった。そして、今でこそなくなっているが、韓国には、違法にもかかわらず日本のポルノ映画をこっそり上映する“闇のビデオ室”なるものまであったのだ。 
 
 恥ずかしい告白になるが、私自身、高校時代に何度もビデオ室に通ったし、軍隊から除隊した帰り道にソウル駅近くのビデオ室に入ったのが最後だったこともよく覚えている。表向きは漫画喫茶として営業している店に入り、「見に来た」と暗号のように一言伝えると、奥の密室に案内される。そして、本作で秀子が朗読する淫乱小説にかたずをのみながら聞き入る男たちのように、狭い部屋に集まった男たちは、日本のポルノに見入ったのだった。

 西洋ポルノは見た目も異なって現実感がないし、まるでスポーツのようなセックスで色気を感じられなかったが、日本ポルノはその点親近感もあり、またジャンルも多様で断然好まれたのだ。だいぶ前、韓国で公開されたある映画の物語にどうしても既視感があると思ったら、それはビデオ室で見た日本ポルノのパクリだったこともあり、韓国のパクリ文化を恥ずかしく思いながらも、ビデオ室の浸透ぶりに苦笑してしまう自分がいたことも告白しておこう。パク・チャヌクをおとしめるつもりはさらさらないが、韓国男性が共有する経験と認識を、彼も多かれ少なかれ持っていたと考えるのは自然だし、良くも悪くも日本と朝鮮が共存していた時代設定をもってくることで、本作の物語は見事に成立したといえるだろう。 

 
 また、日本と韓国という構図が持ち込まれている点から考えるならば、本作を「ポスト・コロニアリズム」分野における「視線と凝視」の概念から捉えられるかもしれない。ホミ・K・バーバという文化理論家が著書『文化の場所』(法政大学出版局)の中で提唱したこの用語は、帝国の植民地へのステレオタイプ化(視線)と、それに対する植民地の現実(凝視)を分析するために用いられ、支配者の視線が作り出した「良き植民地」のイメージは、必ずしも植民地の現実と一致しないという、ステレオタイプの無意味な虚妄性を暴いた概念である。

 だが帝国/植民地の対立を、同じような支配関係を持ちやすい男女のそれに置き換えることは、十分に可能だろう。支配者である男たちの性的な「視線」によってステレオタイプ化された秀子が、実際の彼女と異なるのは明白であり、スッキと連帯して復讐を遂げるその後の展開は、まさに男たちの身勝手な視線に対する女たちの「凝視」といえるからだ。いずれにせよ本作は、あらゆる抑圧――男性による女性への抑圧と、国家レベルでの性的抑圧――に対して転覆的な問いを投げかけた、儒教的な「性」意識へのカウンターパンチとなった快作だと評価できるものである。 
 
 新型コロナウイルスにより映画界も暗い話題ばかりだが、最近、パク・チャヌクが新作の製作を開始したといううれしいニュースが飛び込んできた。ここのところポン・ジュノの名前ばかりが目立っていたので、早くパク・チャヌクの新作を拝見したいものだ。次は一体、どんなタブーに切り込んでくれるだろうか。 

崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

K-POP 2020年下半期ベスト15曲! SM・JYP・Big Hitエンタのほか、所属アーティスト1組の事務所もランクイン

――毎月リリースされるK-POPの楽曲。それらを楽しみ尽くす“視点”を、さまざまなジャンルのDJを経て現在はK-POPのクラブイベントを主宰するe_e_li_c_a氏がレクチャー。今回は2020年下半期に発表された楽曲を振り返ります!

 今月は2020年下半期(7月~12月)のリリースから私の好みの15曲をピックアップして紹介します。特に順位はなく、7月からリリース順に挙げています。上半期についてはこちらを参照ください。

레드벨벳 - 아이린&슬기 (Red Velvet - IRENE & SEULGI) - 놀이 (Naughty) (2020.07.06)

 SM Entertainment所属Red Velvetの年上メンバー2人、アイリーンとスルギによるユニット曲です。先にタイトル曲である「Monster」で音楽番組等出演し、「Naughty」は後続曲という扱いです。

 メンバーのウェンディが昨年末の事故によりしばらく活動できなくなってしまった状態で、昔のSMならしれっと4人で活動させていた気もしますが、この2人でユニットをできたことでさらにRed Velvetというグループに奥行きが出たと思います。やはりSMはこういう曲をやらせるとうまいな、と思うのと本人たちの雰囲気に合ったFuture HouseとDeep Houseの良いところ取りのようなハネた曲にヴォーギングをあわせているのも最高です。

여자친구 (GFRIEND) - Apple (2020.07.13)

 SOURCE MUSIC所属、6人組グループヨジャチングの9枚目EP『回:Song of the Sirens』のタイトル曲です。SOURCE MUSICは2019年にBTSの所属するBig Hit Entertainmentに吸収され、現在はBig Hitの子会社という立ち位置です。ガールクラッシュに食傷気味になっていたところに、ガツガツした感じでもニュートロでもない、妖艶に真正面から攻めて来たのが個人的にとてもハマりました。

 ヨジャチングは学校コンセプトでデビューし、いわゆる清純派として大ヒットし、段々と大人っぽい方向にシフトしてきました。K-Popアイドルは年齢を重ねるとコンセプトも段々と大人っぽくなっていくのが一般的ですが、Big Hitに吸収されていなくても今回の「Apple」のようなクオリティのコンセプト、楽曲が出てきたのかは少し気になります。例によってKBSの年末歌謡祭でのステージが(メンバー1人不在ですが)最高なのでよかったら見てみてください。

한승우 (HAN SEUNG WOO) - 답장해 (Reply) (2020.8.10)

 Play M Entertainment所属、7人組グループVICTON(ビクトン)のリーダー、ハンスンウのソロ・デビューEPから、サブタイトル曲()的な立ち位置の曲です。

 「Reply」はVICTONの初期を感じさせるようなハネた、少しポップな雰囲気がありつつ、彼の少し独特で気持ちの良い高音を生かした楽曲です。EPの『Fame』もアルバムとしてのクオリティが高く、4曲目の「원해(I Just Want Love)」とどちらを選ぶかとても悩みました。VICTONはやはりラップといえばハンセというイメージですが、『Fame』ではオールラウンダーなハンスンウが見られ、上半期に挙げた、同じく『Produce』シリーズに出演していたハソンウン・チョスンヨンと共に、グループとして活動しているだけでは見られない新たな一面が発見できた良いソロデビューだったと思います。

 上半期に挙げたApinkも同じPlay M所属ですが、Play Mはこういう“良い曲”に強いイメージがあります。

タイトル曲は1カ月前後の活動期間中に音楽番組などで披露する曲ですが、アーティストによっては初週に音楽番組でタイトル曲と一緒に披露する、1分半~2分程度に短く編集した曲があり、それを私が勝手に「サブタイトル曲」としています。後続曲とはまた違うものです。

루시 (LUCY) - 수박깨러가 (Watermelon) (2020.8.13)

 Mystic Story所属、4人組グループLUCYのEP『PANORAMA』のアルバム収録曲です。英語のタイトルは「Watermelon」となっていますが、ハングルの「수박깨러가」は「スイカ割りに行こう」という意味で、夏の情景を描いた真夏のリリースにぴったりの楽曲です。

 LUCYは9月の記事で紹介済みですが、「PANORAMA」に収録されている曲がどれもとても良く、1曲を選ぶのが大変でした。アルバムコメンタリーの冒頭で、EPの楽曲が「Jogging」の朝から「Flare」の夜のお祭りの雰囲気まで時間順に並んでいると説明していて、夏の1日の朝から晩までを感じて楽しめるEPになっています。

 サビ後に聞こえる水に潜るような音と、スティールパンのようなシンセ、リワインドの音が中毒的でとても好きです。コメンタリーでウォンサンが「ぶくぶくという音と一緒に水に潜って、出てくるとグァンイルのパートが始まる」と言っていますが、確かにこのサビの後の音は少しフィルターがかかっているようなはっきりとしない音になっていて、それがうまく水の中いることを表しているなと感じました。

에이스 (A.C.E) - 황홀경 (Baby Tonight) (2020.09.02)

 BEAT INTERACTIVE所属、5人組グループA.C.E(エイス)の3枚目EP『胡蝶之夢(HJZM : The Butterfly Phantasy)』のアルバム収録曲で、後続曲でもあります。タイトルの「황홀경」(ハンホルギョン)は漢字で書くとそのまま「恍惚境」(こうこつきょう)となります。

 2020年は恍惚境の年。私がようやくA.C.Eの良さに気付けた1年でもありました。11月の記事ですでに紹介しているため言うことはあまりありません……。ダンス付きで披露する音楽番組などのステージは、動画が残るのでうれしくはあるのですが、曲全てが好きすぎて真剣に歌って欲しいので、あまり踊ってほしくないという矛盾があり、いつも心で戦っています。

 年上メンバー2人の兵役が迫っているため、あまり時間が残っていませんが、せめてあと1回カムバして……と思う日々です。

 Warner Music Korea所属、シンガーのJamie(ジェイミー、パクジミン)のシングルで、Warnerに移籍してから初めてリリースする楽曲です。20年4月まではJYP Entertainment所属でしたが、契約期間が終わり、Warnerと契約しました。

 JYPにいる時から楽曲は大好きで、自分のブログで長々と紹介したこともありました。Numbersは「jiminxjamie」に収録された「뭐니(What)」や「하나 빼기 둘(Count You Out)」と似た方向性の楽曲で、3曲とも私が大好きな00年代前半R&Bの雰囲気を感じさせる楽曲です。客演に迎えたチャンモのラップを引き継ぐようにそのままJamieのラップに入るところで「さすが!!!!」となり、こんな状況じゃなければソウルの野外で開催されるHiphopフェスで2人のステージが見れたんじゃないかな……と思いを馳せるばかりです。

유아 (YooA) - 자각몽 (Abracadabra) (2020.09.07)

 上半期に挙げたOH MY GIRLのメンバー、ユアのソロ・デビューEPから、ダブルタイトル曲扱い的なサブタイトル曲です(音楽番組でも何度かフルで披露しているため)。

 元々振付師になりたかったところをOH MY GIRLのメインダンサーとして抜てきされたこともあり、どんなダンスも消化できる印象が強いですが、タイトル曲の「숲의 아이 (Bon voyage)」のようなコンテンポラリーダンスや「Abracadabra」のジャズやヴォーギングのようなダンスが、顔が小さく手足の長い彼女にとても合っていて、完璧なソロデビューだったと思います。

 曲はDeep Houseのような音色に彼女の真っ直ぐと伸びる声がマッチしていて、BPMは106というHouseほど速くなくHiphopやR&Bよりは速い絶妙な速さで、私が一番好きなBPM帯です(恍惚境も103で同じBPM帯です)。

스트레이 키즈 (Stray Kids) - Back Door (2020.09.14)

 JYP Entertainment所属、8人組グループStray Kidsのリパッケージアルバム『IN生』のタイトル曲です。

 1カ月弱あった活動期間中は、ほぼ毎日音楽番組でパフォーマンスを見ていたため、曲に慣れすぎて、褒められるポイントはいくらでもあるのに最初は15曲の中に入れないでいました。曲のリリース前からいろいろな情報が耳に入ってきていたため、コケないか本当に心配でしたが、EDMをうまく取り入れた楽曲で、CDの売り上げなどの成績も良く、ファンも増えた大成功のカムバックとなりました。これからも(良い意味での)トンチキ曲を高いスキルで真面目にやっていってほしいです。

 Stray Kidsが参加するMnetのサバイバル番組『キングダム』の先行きが心配すぎて、2月から収録が始まるのですがあまり先のことを考えたくない状態になっています。

아스트로 문빈&산하 (ASTRO MOONBIN&SANHA) - Bad Idea (2020.09.14)

 Fantagio所属、6人組グループASTROのムンビンとサナによるユニットのデビューEP『IN-OUT』のタイトル曲です。

 終始聞こえるギターのカッティングと、サビになると入ってくるベースが最高の曲で、2020年は先述のA.C.Eの「恍惚境」やBDCの「Shoot The Moon」、NATTYの「Nineteen」などこのぐらいのBPMのギターカッティング曲が豊作でした。「Bad Idea」があまりにも良すぎてしばらくこればかり聞いていましたが、EP『IN-OUT』のそれ以外の曲もとても良く、特に1曲目の「Eyez On U」がグルーヴいっぱいのR&Bで大好きです。

 ステージ衣装の露出が多く、トップスの丈がクロップされていたり、胸が深めに開いていたり、毎日音楽番組では目のやり場に困っていました。そしてサナくんのせいでパーツで色が違うヘアスタイルが好きになってしまいました。ついでに私が一番好きなステージを共有しておきます。

펜타곤 (PENTAGON) - Twenty Twenty (2020.09.16)

 上半期にも挙げたPENTAGONです。この曲は『Twenty Twenty』というWebドラマのOST曲としてリリースされたもので、MVもドラマのシーンの抜粋になっています。A-TEENという高校を舞台にした青春ラブストーリーのWebドラマのシリーズで、今回は大学を舞台に恋や友情、夢、そして家族との関係など、子どもと大人の間で揺れ動く心情にフォーカスしています。

 作詞をメンバーのキノとウソク、作曲をキノが担当しており、イントロの切ない雰囲気、歌詞もドラマの内容に沿ったものになっています。なので本当はドラマを見た上でこの曲を聞いて欲しい……というワガママな願望がありますが、興味があったら歌詞とドラマを見てみてください(21年2月現在、Abemaで視聴できます)。A.C.Eのチャンが絶妙な役柄で出てきて、主人公よりもそちらに気を取られたドラマでした。劇中に出てくるEDMエディットの「Twenty-Twenty」が良すぎて、自分でエディットを作ってしまいました。

 生バンドでパフォーマンスをするYoutubeの「it's live」という企画で彼らが披露したBLACKPINKの「Lovesick Girls」のカバー「Lovesick Boys」が非常に良く、その曲と「Twenty-Twenty」のどちらにするか最後までとても迷いました。

 OFF THE RECORD ENTERTAINMENT所属、9人組グループfromis_9 (プロミスナイン)の3枚目EP『My Little Society』のアルバム収録曲です。fromis_9はMnetのサバイバル番組『アイドル学校』から生まれたグループですが、こちらは『Produce』シリーズのように期限のあるグループではありません。

 タイトルがローマ字でそのままハングルの音「ムルコギ」と書いてありますが、「魚」という意味です。魚が水の中を泳ぐように想像の中を泳いで楽しむという内容の歌詞で、曲調にもその楽しさが反映されたポップな曲になっています。タイトル曲の「Feel Good」はもちろん、EP収録の「Weather」、「Somebody to love」も良い曲で、4曲の中からどれを選ぶか迷ったほど、すごいEPです。同じくOFF THE RECORD所属に『Produce 48』から結成されたIZ*ONEがいますが、どちらのグループも共通して曲が(お金をかけて丁寧に作られているように感じて)とても良いです。

 「Feel Good」は練習動画が何種類もありますが、スタッフたちがその場で掛け声をしてくれたFan Chant Ver.があり、コロナ禍でオンライン上ではファンと交流ができても音楽番組に観客を入れられない状態が長く続いている先の見えない不安な中で、彼女たちの支えになったのではないでしょうか。

세븐틴 (SEVENTEEN) - HOME;RUN (2020.10.19)

 Pledis Entertainment所属13人組グループ、SEVENTEENのSpecial Album『; [Semicolon]』のタイトル曲です。この曲については以前の記事で取りあげ、長々と語っているためあまり説明は必要ないでしょう。

 例によって年末の歌謡祭でのステージが最高すぎて、最後の花火が打ち上がったのと同時に、これが放送されたのはまだ12月の頭だったのに明けていない年が明けました。1月にあったオンラインコンサートは5,000円近く払う価値のあった念入りに準備されたもので、早く大きい会場で見たい……と強く思ったコンサートでした。

투모로우바이투게더 (TOMORROW X TOGETHER) - 5시 53분의 하늘에서 발견한 너와 나 (Blue Hour) (2020.10.26)

 Big Hit Entertainment所属、5人組グループTOMORROW X TOGETHER(トゥモローバイトゥギャザー)の3枚目EP『minisode1 : Blue Hour』のタイトル曲です。タイトルのハングルが読めない方でも、ハングルと英語全然違わない? と思うかもしれませんが、ハングルは「5時53分の空で見つけた君と僕」という意味です。

 ティーザー動画を見た時に、Michael Jacksonの「Rock With Youだ…」とつぶやいたのですが、さらに途中からカウベルが追加され、多幸感の増した「強化版Rock With You」のような曲になっています。

 この曲のすごいところはもちろん曲の良さもあるのですが、しっかりとしたラップパートがないところだと思っています。昨今はデビュー時からとてもラップがうまい人も増えていますが、(へたではないがグループ内で比較すると)歌がそこまで得意ではなく、ラップもそこまでうまくないメンバーが無理矢理ラップをやらされている状況もあるため、いろんなグループがラップを入れなくても良いんだ! と思えるような、固定観念の破壊につながったら良いなと密かに思っています(と思っていたら、つい先日出たCIXの「Cinema」もラップパートがありませんでした。しっかりラップができる人がいるグループですが、今後こういうパターンも増えていくのでしょうか)。

 EPの5曲目「하굣길 (Way Home)」も好きな曲で、始まりから和音が気持ち悪く、音がスライドする上に揺れていて不安になる雰囲気ですが、学校からの1人の帰り道に寂しさを感じる少年の物語をイメージして作られた曲とのことで、イメージを曲から感じ取れる良い楽曲だなと思いました。

트와이스 (TWICE) - BELIEVER (2020.10.26)

 JYP Entertainment所属9人組グループTWICEの2枚目正規アルバム『Eyes wide open』のアルバム収録曲です。

 1音目の伴奏のシンセ、その後に入るピーヒャラシンセ()の音でもう良い曲だな……と思いましたが、その後にジヒョの声で入ってくる「I'm a believer」がダメ押しになりました。ハネたビートでサビまで行き、サビで4つ打ちになる展開も良く、ユアの「Abracadabra」とほぼ同じBPMの105というのも私の好きな要素が揃っています。こういう曲を、ジヒョの耳目を引くソウルフルで強い声を中心に全員が支える構成は、楽曲の内容とも合っていて説得力が高く、見せかけではなく芯から強いというような印象を与える楽曲になっているのではないでしょうか。

 今回のアルバムは今までよりもターゲットの年齢が上になったと言われていますが、次にどんなアルバムが来るのか楽しみです。

Hiphopのサブジャンルの一つ、West Coast Hiphopがカリフォルニアで確立されたあとに起こったムーブメント「G-Funk」によく使われた高い音のシンセで、初期の頃はOhio Playersの「Funky Worm」がサンプリングされていた。

갓세븐 (GOT7) - Breath (넌 날 숨 쉬게 해) (2020.11.30)

 JYP Entertainment所属……ではなくなってしまった(つい先日JYPとの7年の契約が終了し全員JYP所属ではなくなりました)7人組グループGOT7の4枚目正規アルバム『Breath of Love:Last Piece』のダブルタイトル曲のうちの1つです。作詞作曲にはメンバーのヨンジェと私の大好きなトラックメイカー・プロデューサー・ラッパーとマルチタレントなNiiHWAも参加しています。

 JB、ジニョン、ユギョムと続く曲の始まりからヨンジェのサビまでの段々と高まっていく流れが完璧すぎて、ここだけ何回も聞きたいぐらいです。昔からGOT7の爽やかでポップな雰囲気が好きだったので、最後にダブルタイトル曲のもう1曲である「Last Piece」のようなかっこいい雰囲気の曲だけでなく、「Breath」をダブルタイトルとして持ってきてくれたことにとても感謝しています。

 ここ1年ぐらいは、リリースがあっても事務所がプロモーション活動に全く力を入れてくれないとファンの間では問題になっていました。もちろん本人たちがどうしたいのかというのが一番にありますが、これだけ世界的に売れているなら真夜中から準備をするような音楽番組などに毎日出たり、過酷なスケジュールを無理にこなす必要はないし、健康にほどほどでやっていけるならそれが一番良いのではと思うのは私の横暴でしょうか……。

 上半期と同じようにメジャーな楽曲を中心に選びましたが、インディーなものについてはTwitterで#e_e_li_c_a良い曲タグ2020というハッシュタグを使ってつぶやいているので気になった方はチェックしてみてください。

■ONEUS - 식은 음식 (Leftover)

 RBW所属6人組グループONEUS(ワンアス、韓国語発音でウォノス)の初正規アルバム『DEVIL』のアルバム曲です。

 タイトル曲「반박불가 (No diggity)」は自分的にはそんなに……という感じでしたが、アルバムでその次に流れてきた曲が良すぎてビックリしてその場でツイートしました。上記で挙げたJamieの「Numbers」系統のR&Bで、軽やかなピアノのサンプルが気持ち良い、1月にリリースされた中ではAB6IXの「BLIND FOR LOVE (Nu Disco Mix)」、VICTONの「Up To You」と並ぶ一番好きな曲です。

 ハングルは「식은 음식(シグン ウンシッ)」と回文のようなタイトルで、冷めた料理という意味です。料理の温かさを2人の関係性になぞらえて、以前は温かった2人の関係が冷めて修復できない状態を後悔する内容の歌詞で、歌詞の内容を知ると途端にピアノが切なく聞こえてきます。実はイドくんの低音ラップ(0:29~)があまり得意ではないのですが、この曲にはバッチリハマっており、オンラインコンサートで1度ステージが披露されたことがあるので、今後もっとやる機会が増えたら良いなと思いました。

<近況>
『キングダム』は見たくないし『Produce 101 Japanシーズン2』も見たくない…サバイバル番組はもう嫌だ……。

e_e_li_c_a
1987年生まれ。18歳からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

Twitter @e_e_li_c_a TodakTodak 
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イ・ビョンホン主演『KCIA 南山の部長たち』の背景にある、2つの大きな事件――「暴露本」と「寵愛」をめぐる物語

近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。しかし作品の根底にある国民性・価値観の理解にまでは至っていないのではないだろうか。このコラムでは韓国映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。

『KCIA 南山の部長たち』

 軍事クーデター後、18年という長きにわたって韓国の大統領に君臨した朴正煕(パク・チョンヒ)は、1979年10月26日、実質“政権ナンバー2”であったKCIA(「大韓民国中央情報部」の略)の部長・金載圭(キム・ジェギュ)によって暗殺された。パク・チョンヒの死は韓国国民に衝撃を与え、ヒステリックな悲しみをもたらしたが、暴圧的な長期独裁の終焉に、喜びの「万歳」を(密かに)叫んだ人も少なからずいたに違いない。だが多くの国民は、誰彼なしに街に飛び出して慟哭し、その様子はテレビを通して中継されたものだ。

 当時小学校4年生だった私には正直、パク・チョンヒの死そのものよりも、「閣下!」と目の前で泣き叫ぶ父の姿のほうが遥かにショックだった。そんな大人たちの異様さに違和感を覚えつつも、徹底した反共教育で育った私は、このどさくさに紛れて北朝鮮が攻めてくるのではないかと恐怖に慄いたのをよく覚えている。

 だが、国の混乱ぶりに乗じて登場したのは、北の人民軍ではなく、全斗煥(チョン・ドファン)率いる新軍部だった。彼は、パク・チョンヒ暗殺の犯人たちを素早く逮捕すると、「大統領になりたいという誇大妄想に囚われたジェギュが犯した内乱目的の殺人事件」と発表。裁判から死刑までをあっという間に終わらせると、早々と事件の終結を宣言し、パク・チョンヒに代わって権力を掌握していったのは、その後の歴史の通りである。

 以来韓国では、ドファンの発表がパク・チョンヒ暗殺事件の顛末として「定説」とされてきたが、この事件をジェギュの「誇大妄想」だけで片付けるには、あまりにも謎が多かった。肝心のジェギュが速戦即決で死刑にされ、「なぜ殺人に至ったのか」が明らかにされないままだったため、事件をめぐっては、時間がたつとともにさまざまな説や噂が飛び交うようになった。

 例えば、「政権内での権力争いに敗れた」という説や、「パク・チョンヒの悪政への反感から殺害を計画した」という説、中には当時の核開発計画に反発するアメリカが画策したという、米韓関係の悪化を踏まえた具体的な説もあった。暗殺直後、ジェギュが米軍基地に逃げ込んだという噂もあり、“アメリカ黒幕説”は長らく消えなかった。真相究明を目論んだ書籍がいくつも書かれたが、自らの手で終わらせたはずの事件に触れられるのを嫌ったからか、チョン・ドファン政権下では発売を禁止され、結果的に、民主化が進んだ90年代まで出版を待つことに。

 そんな中、「東亜(トンア)日報」で1990年に始まった連載が、世間の大きな関心を集めた。それまで実態がほとんど表に出ていなかった軍事政権下でのKCIAの部長たちに焦点を合わせ、権力の暗部に迫る内容で、2年にわたる連載後には『남산의 부장들(南山の部長たち)』という題名で出版されてベストセラーに(講談社から邦訳『実録KCIA―「南山と呼ばれた男たち」』が出ているので、ぜひ手に取ってみてほしい)。

 ちなみに、KCIAの本部がソウルの中心に立つ「南山(ナムサン)」という山にあったため、通称として使われている。今ではソウルの観光スポットになっているが、独裁政権下、数々の拷問が行われていたことから、当時は国家権力による“暴力の象徴”として悪名高い場所だったのだ。

 この本でとりわけ注目されたのは、膨大な資料と取材に基づき、パク・チョンヒ暗殺に至るまでのジェギュの心境の変化を具体的に描き出している点。今回のコラムでは、これを原作にしたウ・ミンホ監督の『KCIA 南山の部長たち』(2019)を取り上げ、日本の観客にとってはやや複雑な構成になっている事件の背景や、人物たちの関係に触れながら紹介したい。

<物語>

 1979年10月26日、大韓民国中央情報部(KCIA)部長のキム・ギュピョン(イ・ビョンホン)は、パク大統領(イ・ソンミン)を暗殺。この事件の40日前、大統領に切り捨てられ恨みを抱いていた元KCIA部長のパク・ヨンガク(クァク・ドウォン)が、亡命先のアメリカで国会の聴聞会に出席。世界に向けてパク大統領の悪政の実態を暴露し、波乱を巻き起こしていた。

 怒り狂ったパク大統領の命令でアメリカに渡ったギュピョンは、回顧録を執筆中だというヨンガクから原稿を奪い、出版を阻止しようとする。一方、ギュピョンを差し置いてパク大統領に取り入ろうとする警護部長のクァク・サンチョン(イ・ヒジュン)も、事態を収拾するために動き出す。しかし、2人はことあるごとに衝突し、パク大統領への忠誠争いは次第にエスカレートしていく……。

※以下、映画のネタバレを含みます。

 本作の特徴は、これまで「ただの殺人者」とレッテルを貼られてきたキム・ジェギュの人間性に重きを置き、「キム・ギュピョン」という架空の人物に彼の感情や内面の動きを丁寧に落とし込んでいる点だ。とはいえ、近年の韓国映画に多く見られるような「ファクション」(歴史的事実に映画的想像力でフィクションを混ぜたジャンル)としてではなく、原作者が「8割は忠実な再現」と映画に太鼓判を押すほど、ノンフィクションに寄り添う姿勢をとっている。

 また、最近は「パク大統領による独裁を終わらせた英断」とジェギュの暗殺を再評価しようとする動きも出てきているが、映画は彼を英雄視することなく淡々としており、演じたイ・ビョンホンもまた、「自分は政治的な要素にはまったく興味がないので、ひたすら人間としてのキムを演じることに集中した」と語っている。

 ただし、映画では実名を用いず、「パク大統領」さえも「パク・チョンヒ」と呼ぶことがないのは、ここで描かれていること自体も本当かどうか明らかではなく、真実は謎のままであるという事実を示すためではないかと思われる。

 それでは以下に、映画を構成している大きな2つの事件を中心に見ていこう。

 1つ目は、KCIA部長のキム・ジェギュ(映画内ではキム・ギュピョン/以下、括弧は映画内の役名)と、警護室長のチャ・ジチョル(クァク・サンチョン)が対立する発端として描かれる、元KCIA部長キム・ヒョンウク(パク・ヨンガク)事件である。

 ヒョンウクはもともと、パク・チョンヒが権力を掌握した際のクーデターにも参加していた部下であり、どんな手を使っても命令を実行する人物だった。拷問や捏造を繰り返して多くの犠牲者を出し、その手口があまりにも汚かったので、政権内部からも批判されたほど。それゆえ、パク政権の維持にとっては功労者であったにもかかわらず、あまりにも多くを知りすぎてしまったため、次第にパク・チョンヒからも疎まれることとなった。

 その後の冷遇によってヒョンウクが不満を抱き亡命し、パク政権の実態をアメリカで告発したのは、映画で描かれている通り。中でもパク・チョンヒを怒らせたのが、政権の暗部を詳細に記述した原稿(『キム・ヒョンウク回顧録』として、韓国では1985年に出版)だった。

 誰よりもパク・チョンヒに忠誠を誓った部下が暴露本を出すという背信行為は皮肉なものだが、ヒョンウクにとっては、金銭目的だけではなく、報復から自らを守る最後の手段でもあったのだろう。何人もの政府関係者が出版をやめさせようと説得を試みたものの、彼は応じなかった。焦ったパク政権は、説得を諦めてヒョンウクの暗殺を画策し、映画では緊迫感たっぷりの攻防が前半のクライマックスとなっている。

 この一連の流れは、映画では非常に具体的に描かれているが、実は長年にわたりヒョンウクは「パリで行方不明になった」としか伝えられていなかった。暗殺されたのだろうと臆測だけが広がる中、2005年に「元KCIAの要員」と名乗る人物が突如現れ、韓国社会を驚かせた。ある政治週刊誌の記者が半年にわたり説得し、ようやくインタビューにこぎつけたというその人物は、「私がパリでキム・ヒョンウクを拉致し、養鶏場で殺した」と告白。映画はその証言を元にしている。

 事件から26年もたって証言者が現れた背景には、韓国で05年に発足した「真実・和解のための過去史整理委員会(過去史委)」という組織の存在が挙げられるだろう。植民地時代から朝鮮戦争、軍事独裁と目まぐるしい歴史をたどった韓国では、権力による人権の蹂躙や暴力、虐殺、疑問死があとを絶たなかった。どれほど多くの人が理不尽な死を遂げ、その事実が時の権力者によって隠されてきたことだろう。「過去史委」はそんな歴史を検証し直し、権力の横暴を認め、犠牲者たちの名誉回復と補償という目的で設立され、今日までに一定の成果を残している。

 そして、検証すべき対象の一つとして、「キム・ヒョンウク行方不明事件」が含まれていたことから、このタイミングでの登場となったのだろう。

 この元KCIA要員は調査にも積極的に協力したのだが、「過去史委」とともに真相究明に取り組んだ国家情報院(KCIAの後身)が出した結論は、養鶏場ではなく「山に捨てて枯れ葉で隠した」という、最初の証言とはやや異なるものだった。フランスとの外交問題を避けるため、韓国側が配慮したともいわれており、新たな疑問が残る形にはなったものの、長年「行方不明」とされてきたヒョンウクが、「キム・ジェギュの命令で拉致され、殺された」という事実だけは明らかになったのである。パク政権時代のKCIAは、国家という名の下では殺人も簡単に正当化する、恐ろしい集団だったのだ。

 2つ目は、映画の中心でもあるキム・ジェギュによる「パク・チョンヒ大統領暗殺事件」だ。先述したように、ジェギュ自身が多くを語らないまま死刑となり、さまざまな説が飛び交う中で、現在最も真実に近いといわれているのが、「警護室長のチャ・ジチョルとの権力争い(パク・チョンヒへの忠誠争い)に負けつつあったことへの憤り」と、「パク・チョンヒの独裁に対する反発」の2つである。

 対立の背景には、パク政権成立時のクーデターに参加していたジチョルと、不参加だったジェギュという出発点の違いが大きく影響しているとされ、クーデターの一員として貢献し、パク・チョンヒに最も近いのは自分だと自負していたジチョルは、警護室長の権限を越える行為を平気で行っていた。パク・チョンヒもそれを見て見ぬふりしていたため、ジェギュが不満を持ったといわれている。

 また、軍人としての階級も年齢も上だったにもかかわらず、ジチョルは基本的なマナーを微塵も示さなかったため、ジェギュのプライドはズタズタだったとか。側近2人が大統領の寵愛をめぐって衝突するのは幼稚なようにも見えるが、当時、国民の間でも2人の仲の悪さは有名だったというから、よっぽどのことだったのだろう。パク・チョンヒはまた、国会議員の3分の1を大統領が任命できるという信じられない憲法の改悪も行っているのだが、ジェギュがその制度によって抜てきされて政界に入ったという経緯も、ジチョルとの関係に影響したと思われる。

 さらに、私たちにとってより身近なエピソードに、次のようなものがある。パク・チョンヒの娘であり韓国の前大統領・朴槿恵(パク・クネ)が、親友のチェ・スンシルを国政に介入させたとして大スキャンダルとなった事件は記憶に新しいが、パク・クネはかつて、スンシルの父で怪しい宗教団体の教祖であったチェ・テミンと親密な関係にあった。パク・チョンヒがテミンの調査をさせたところ、ジェギュが一刻も早く排除すべきだと進言したのに対し、ジチョルは擁護するような報告をした。結局、パク・チョンヒはジチョルの意見を採用したため、ジェギュは不信を募らせたといわれる。パク・クネが後に、スンシルによって意のままに操られることを思うと、どうやらジェギュが正しかったと考えてよいだろう。

 このようなことが積み重なって、ジェギュはパク・チョンヒに不満を募らせていったようだ。そんな彼の感情の変化や起伏を絶妙に表現しているイ・ビョンホンの演技は必見である。

 そして、もう一つの動機とされる「パク・チョンヒ独裁への反発」(より正確には“うんざりしていた”というニュアンス)は、裁判でのキム・ジェギュの陳述から推測されたものだ。短い裁判ではあったが、そこで彼は、民主主義を破壊する独裁を終わらせるために暗殺に及んだと主張し、自分の行いを「10.26革命」とまで称した。

 それに対し、自らの行為を正当化するための言い訳にすぎないという批判もあるものの、この時期のパク・チョンヒは、野党代表だった金泳三(キム・ヨンサム、後の大統領)を議員から除名しようとして国民の怒りを買ったり、不当な労働環境の改善を求める女性労働者たちを暴力的に鎮圧し、その結果、死亡事件に至ったりと国内外から批判に晒されていた。中でも、映画に登場する釜山と馬山(マサン)で起こった大規模な反政府デモと、それに対する武力的な鎮圧は、パク・チョンヒ暗殺を覚悟させる決定的な理由になったともいわれ、ジェギュの主張も十分に理解できる。

 また本作には描かれていないが、パク・チョンヒは女優やモデルなど、大勢の女性たちを自分の性欲解消のために犠牲にしていたことが、今では事実として知られており、その被害者は数百名にのぼるといわれている。こうなると、ジェギュによる暗殺は正当な行為のようにも思われ、実際に再評価する動きもあるが、映画は決して暗殺への正当性を与えず、またそれを批判することもしていない。

 ジェギュの感情や行動の変化を丁寧に見せることで、「なぜ殺したか」を観客に問いかけるばかりだ。私的な感情によるものなのか、国家のための正義心がさせたことなのか、その判断は観客に委ねられたまま、映画は終わる。だが人間というものは複雑な生き物であり、その行動の裏にはさまざまな要素が絡み合っているものだ。暗殺の要因を限定したり、単純化せずに描いたこの映画は、その意味で非常に誠実な姿勢を貫いていると思う。

 パク・チョンヒという人物は、経済発展への貢献よりもはるかに多くの悪行を成してきたにもかかわらず、保守派とその支持層はいまだに「パク大統領閣下時代は良かった」とはばからない。韓国現代史上、最大の存在ともいえる彼の影響力には正直驚きを禁じ得ないが、それだけ国民の関心も強いということだろう。

 なお、昨年「過去史委」の第2期がスタートした。今後、また新たな真相が究明されることを期待して待ちたい。

■崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

『パラサイト 半地下の家族』を理解する“3つのキーワード”――「階段」「におい」「マナー」の意味を徹底解説

 1月8日午後9時から『金曜ロードショー』(日本テレビ系)にて、韓国映画『パラサイト 半地下の家族』が地上波初放送されている。昨年のアカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞の最多4部門を受賞した作品とあって、Twitterでは放送前から「パラサイト」がトレンド入りし、注目度の高さを証明した。

 日本では昨年1月10日に封切られ、興行収入45億円を突破する大ヒットを記録。映画レビューサイトなどでも好評だったものの、韓国ならではの文化や、社会的な背景を理解していないと難解な場面もあり、ネット上では「話が難しい」「1回見ただけじゃよくわからない」などと困惑する声も少なくなかった。

 サイゾーウーマンでは、映画研究者・崔盛旭氏の連載「崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』」にて、同作を3つのキーワードに分けて解説をしていた。作品をより楽しんでほしいという思いから、地上波初放送のタイミングで同記事を再掲する。
(編集部)


(初出:2020年1月17日)

『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ監督が尊敬する“怪物”――キム・ギヨンが『下女』で描いた「韓国社会の歪み」

 昨年のカンヌ国際映画祭でのパルム・ドール受賞をはじめ、今年のアカデミー賞で作品賞、監督賞など6部門にノミネートされるなど、世界中で快進撃を続けるポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』(以下『パラサイト』)が、いよいよ日本でも公開された。前回のコラムでは、監督の過去作『グエムル―漢江の怪物―』を取り上げ、彼の出自からつながる「反権力的なまなざし」について紹介したが、今回はいよいよ最新作である『パラサイト』を見ながら、この映画に描かれている「韓国」を考えていきたい。ただし本作は“ネタバレ厳禁”の箝口令が敷かれており、監督自身も観客へのメッセージで繰り返し注意を呼びかけているため、その点については本コラムでも“マナー”を守るよう努力したいと思う。

 ネタバレすることなく映画の鍵を伝えるには、何をどう語るべきだろうか悩んだ挙げ句に思いついたのが、ポン・ジュノ監督自らが提示した3つのキーワードを手がかりにする方法だ。韓国での公開を前に、監督はこの映画のキーワードは「階段」「におい」、そして「マナー」だと語っている。すでに映画を見た人なら納得しているであろう、これらのワードを掘り下げることで見えてくる「韓国社会」への理解を深めた上で、映画をより楽しんでもらいたい。

<物語>
 ソウルの半地下の部屋に暮らすキム一家は、全員が失業中。ある日、名門大学に通う友人の紹介で、長男のギウ(チェ・ウシク)が、IT企業のパク社長(イ・ソンギュン)の娘ダヘ(チョン・ジソ)の家庭教師になった。それを皮切りに、キム一家は次々とパク社長の家に「就職」することになる。ギウの妹ギジョン(パク・ソダム)は、社長の息子ダソン(チョン・ヒョンジュン)の美術教師に、母チュンスク(チャン・ヘジン)は家政婦に、父ギテク(ソン・ガンホ)は社長の運転手に。こうして、出会うはずのない社会の頂点と底辺に位置する家族が出会ったとき、事態は思わぬ方向へと転回していく。

 では、最初のキーワードから見てみよう。「階段」について、ポン・ジュノ監督は次のように説明する。

「この映画には階段がたくさん出てくるので、スタッフみんなで“階段映画”と呼んでいた。それぞれ自分はどの階段が一番好きかを語り合う、階段コンテストなるものも開いたりしたんだ。階段といえば、やはりキム・ギヨン監督の『下女』(1960)からは多大な影響を受けているよ」

 監督の言葉通り、この映画は階段だらけだ。大事な場面では必ずと言っていいほど、階段が登場する。ここで着目したいのは『下女』から影響を受けたということだろう。“韓国映画界の怪物”と呼ばれたキム・ギヨン監督の代表作『下女』は、下女(家政婦)によって脅かされ、破滅していく家族を描き、当時大きなセンセーションを巻き起こした。下女役の女優が「悪女」とバッシングされるほど観客たちにショックと恐怖を与えたこの映画において、大きな役割を果たすのがまさに「階段」である。

 昔から映画に登場する階段は、しばしば身分の「上昇」と「転落」を象徴するものとして使われてきた。『下女』で、家のど真ん中に置かれた階段も同様だ。主人を誘惑し妊娠することで、「奥様」の地位を奪う欲望を抱いた下女が階段を上がっていく場面や、その欲望が達成できずに階段から転がり落ちて死に至る場面において、舞台となる階段は映画の主役そのものであった。とりわけ、足の不自由な娘の部屋が階段の上にある不自然な設定ゆえ、足を引きずりながら階段を行き来する娘を観客に何度も見せることで、必然的に階段の存在を強く意識させる。その上でキム・ギヨン監督は、人間の欲望、社会的身分の上昇と転落の物語を、階段を舞台に展開していくのだ。

 『パラサイト』での階段は、同じソウルとは思えない格差のある二つの空間をつないでいる。ギテクたちは、階段のはるか上の世界で見た夢が泡のように消える瞬間、果てしなく長い階段を下りなければならず、ついには最悪な現実を目の当たりにすることになる。まさしく階段は、「上昇」したギテク一家を現実に突き落とす「転落」の装置であるといえるのだ。ポン監督の言葉通り、この映画には多くの階段が登場するので、それぞれがいかに物語と関わっているかに注目するのもおもしろいかもしれない。

 続いて2つ目のキーワードである「におい」について、監督はこう語る。

「においはこの映画の最も重要なモチーフなのだが、そもそもにおいのことは親密な間柄でも言いづらい、攻撃的で無礼なものといえるだろう。この映画では大きな画面を通して、私的で内密なところにまでカメラを向けているので、ためらうことなくにおいの話ができたんだ。実際のところ、生きる空間がそもそも違う金持ちと貧乏人は、互いににおいを嗅ぎ合う機会がない。飛行機でさえ、ファーストクラスとエコノミークラスに分かれている。家庭教師や家政婦、運転手といったこの映画に出てくる仕事での状況が、互いのにおいに触れる唯一の機会ではないだろうか」

 階段が視覚的に空間の上下を決定しているのに対して、においは目には見えないけれど、セリフや演技、演出によって、同じ空間にいるパク社長とギテクの関係を「軽蔑と屈辱」の中に追い込んでいく。だが、監督が「最も重要」と語るにおいとは、どんなものなのか。それは、映画にも度々登場する、「半地下」の独特なにおいだ。

 実は私自身、大学4年生のころに半年間、半地下の部屋で自炊生活をしたことがあるので、においをよく覚えている。文章で伝えるのは困難だが、湿気とカビ、これらを防ぐための「ナフタリン」が混ざって放つ奇怪なにおいだ。ナフタリンとは消臭・防虫効果があるとされる化学物質だが、そのまま商品名になって販売されている。近くで嗅ぐと鼻を刺すような強烈なにおいがして、ひと昔前までは公衆トイレなどでもよく見かけたが、最近は家庭用のみ出回っているらしい。これらの入り混じったにおいが服や布団についてしまうと、自分では気づかなくても周りから「臭い」と言われたりして、それがなんともいえない屈辱感となるのだ。

 そもそも「半地下の部屋」という日本にはあまりない、珍しい形態の部屋は、韓国ではソウルを中心とする首都圏でよく見られるものだ。日本でも人口の東京一極集中が社会問題となっているが、ソウルは面積が東京の3分の1ほどにもかかわらず、人口は東京とほぼ同じ1,000万近くに達しており、東京以上に住宅不足が深刻化している。そこで不動産業者や家主らが考え出したのが、「半地下」だった。ソウルの場合、エリアによって建物の階数制限があるのだが、半地下は法律上は地下として扱われるため、制限の対象にはならない。つまりその分、業者側は部屋数を増やして貸すことができるという点で、半地下は住宅不足を解決するための民間の知恵だったわけだ。半地下なので当然日当たりは悪く、排水など水回りの設備は劣悪な場合が多いが、家賃が安いのでニーズは高い。最近では一人暮らしの高齢者の孤独死や、地方から上京した苦学生の“青年貧困”が新たな問題として浮上している。

 「半地下」と「におい」は、ギテク一家がソウルの最貧困層であることを象徴する設定にほかならない。

 3つ目のキーワードである「マナー」について、監督は次のように述べている。

「社会の二極化や、経済・社会的な問題に結びつけなくても、金持ちのことを幅広く語りたいという思いがあったんだ。最近考えるのは、お互いのマナーの問題だ。金持ちにしろ貧乏人にしろ、人間の尊厳を傷つけるかどうかが重要なのではないだろうか。寄生か共生かの分かれ目は、そこにあるように思っている」

 「人間の尊厳」という言葉から私は、韓国経済を指して度々批判的に使われてきた「賎民資本主義」という用語を思い出した。多少理屈っぽくなってしまうが、これはドイツの社会学者マックス・ヴェーバーが、労働と生産を通して利益を得るのではなく、高い利息で金を貸して利益を得ようとする高利貸し業者を批判して使った概念である。ここで問題視されているのは、労働によって生じた利益を福祉や投資などの形で労働者に還元するという経済的倫理観からかけ離れた、高利貸したちの拝金主義である。

 拝金主義がまん延すると、「金=権力」「金さえあれば何でもできる」といった考え方がまかり通り、人間の尊厳は踏みにじられる。とりわけ近代の韓国においては、金を必要とした軍事政権と、金稼ぎに有利な政策を望んだ一部の財閥との癒着が経済の土台になっており、そこには人間の尊厳などという概念はさらさらなく、権力を得るための金稼ぎ、権力を維持するための拝金主義しかない、というのが韓国を「賎民資本主義」と批判する人たちの見解だ。極端だがわかりやすい例としては、日本でも大きく報道された大韓航空のいわゆる「ナッツ・リターン事件」(※)がある。この時のオーナーの娘の行動に、他者への尊重は毛頭もなかったばかりか、後から発覚した母親による社員への暴行・暴言に至るまで、彼らの振る舞いは、「人間の尊厳」を踏みにじった賎民資本主義的金持ちの横暴だったのである。

※ナッツ・リターン事件 2014年12月、アメリカのジョン・F・ケネディ国際空港発、韓国・仁川国際空港行きの大韓航空機内において、乗客として席に座っていた同社副社長チョ・ヒョナ氏が、客室乗務員のマカデミア・ナッツの提供の仕方に激怒。離陸準備のために搭乗ゲートから離れていた機体を、搭乗ゲートに引き返させ、該当乗務員を機内から降ろさせた。韓国を代表する財閥「韓進グループ」の一員であるヒョナ氏の、その社会的立場を利用した横暴な振る舞いに、韓国国内外を問わずに問題視された。18年には、ヒョナ氏の実母、イ・ミョンヒ氏による、系列会社の社員や自宅のリフォームを担当した作業員、運転手などへの暴行・暴言が次々と明らかになった。

 こうした賤民資本主義の下での貧富の二極化は、貧乏人にとってはとうてい乗り越えられない「壁」のようなものでもある。パク社長の会社名が、イングランド出身のロックバンド「ピンクフロイド」の名曲「another brick in the wall」から取ったであろう「another brick」なのは、金持ちと貧乏人の間の「壁」をひそかに表しているのかもしれない。映画の中でパク社長は何度も「度を超す/超さない」といったセリフを口にする。その「度」こそ「壁」にほかならない。パク社長とギテクの間に、果たして「人間の尊厳」は存在するのだろうか。ここにも「におい」は大きく関わってくることになる。

 これらのキーワードをめぐって韓国では、映画評論家のみならず、経済学者から精神科医、寄生虫学者まで、さまざまな分野の専門家による分析がメディアの紙面を飾った。ネットでも観客同士の熱い論争が繰り広げられたのは言うまでもない。その議論は、朝鮮半島をめぐる東アジアの外交的力関係にまで広がりを見せていった。階段によって区切られた空間の構図や、「北朝鮮のニュースキャスターの真似ごっこ」の場面からは、確かに北朝鮮との関係を考えさせるものがあるだろう。これだけ多様な反応をもたらしていること自体が、この映画が評価される何よりの証拠である。いずれまた、映画全体について私自身の解釈についても細かくお伝えする機会があればありがたい。

 最後に、ささやかなウンチクをひとつ。ギテクの娘ギジョンが、不思議なリズムの歌に乗せて、偽りの身分を自分で確認するように復唱する場面があるのだが、それは韓国人なら誰もが知っている 「독도는 우리땅(独島<竹島>は我が領土)」という歌だ。日本人には少し複雑な気持ちを起こさせてしまうだろうか。だが、この替え歌を使ったことに、政治的な意図はまったく感じられない。ポップで親しみやすい、替え歌にまでなってしまうほど韓国人になじんでいる歌なので使ったのだろう。

■崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正  戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻  スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

『パラサイト 半地下の家族』
出演: ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
監督ポン・ジュノ(『殺人の追憶』『グエムル -漢江の怪物-』)
撮影:ホン・ギョンピョ 音楽:チョン・ジェイル
提供:バップ、ビターズ・エンド、テレビ東京、巖本金属、クオラス、朝日新聞社、Filmarks
/配給:ビターズ・エンド
(C)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED /2019 年/韓国/132 分/PG-12/2.35:1/英題:PARASITE/原題:GISAENGCHUNG/ www.parasite-mv.jp

カン・ドンウォン主演『新感染半島』は“分断された韓国”を描いた? 「K-ゾンビ」ヒットの背景を探る

近年、K-POPや映画・ドラマを通じて韓国カルチャーの認知度は高まっている。しかし作品の根底にある国民性・価値観の理解にまでは至っていないのではないだろうか。このコラムでは韓国映画を通じて韓国近現代史を振り返り、社会として抱える問題、日本へのまなざし、価値観の変化を学んでみたい。

『新感染半島 ファイナル・ステージ』

 最近韓国では、「ゾンビ」をテーマにした映画やドラマが相次いで作られ、人気を集めている。これまでもゾンビ映画がまったくなかったわけではないが、それらはマニアックなファンに向けた低予算オカルト映画の位置づけであり、また西洋(特にアメリカ)のホラーというイメージが強く、韓国的な情緒とは程遠いと思われてきた。そんな世間の認識を一気に覆したのが、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(ヨン・サンホ監督、2016年)である。「猛スピードで走り続ける特急列車」という閉鎖空間の中でゾンビとの死闘を描き、韓国で観客動員1000万人を超える大ヒットを記録、日本を含め世界各国でも高い評価と興行的な成功を収めて、K-POPならぬ「K-ゾンビ」なる流行語まで生まれた。 
 
 以前このコラムでも取り上げた、新興宗教によって人間の弱さと暴力性があらわになる問題作『フェイク~我は神なり』のヨン・サンホ監督は、アニメーションと実写の両方で活躍する、韓国では珍しい“二刀流”の監督である。エンターテインメント性と作家性を兼ね備えたその才能は、アニメ映画『豚の王』(11年)、実写映画『新感染』、そして今回取り上げる『新感染半島 ファイナル・ステージ』と3作にわたってカンヌ国際映画祭に出品されたことからも明らかだが、『新感染』『新感染半島』の大ヒットにより、名実共に韓国映画界を背負う存在となった。次回作には、死神と人間社会を題材にしたNetflixのオリジナルドラマ『地獄』が控え、今後の更なる活躍が期待されている。 
 
 そんなヨン監督が『新感染』の成功を受けて発表した本作は、前作から4年後の廃墟と化した「半島=韓国」を舞台にしている。「理性が崩壊した世界、野蛮性が支配する世界で人間的であるとは何かについて語りたかった」との監督の言葉通り、一瞬でゾンビと化す恐怖の中での人間VSゾンビを描いた前作とは異なり、本作は終末を迎えた半島での生き残りと脱出をかけた人間VS人間の構図を中心に据えている。前作からはるかにスケールアップしたアクション・ブロックバスターに驚嘆させられる一方で、本作が新型コロナウイルス感染拡大以前に構想されたとはにわかに信じがたいほど、今まさに私たちが直面しているコロナ禍の時代を映し出してしまっているのは、社会性に敏感なヨン監督ならではの予知能力だったのだろうか。 
 
 映画を見るとつい新型コロナと絡めて考えてしまうが、今回のコラムでは、ゾンビたちが意味するものを韓国社会の中で考えてみたい。それはきっと、最近になってゾンビ物がもてはやされ、ゾンビに熱狂する韓国の観客たちと無関係ではないだろう。 

<物語> 
 
 人間をゾンビにしてしまうウイルスによって崩壊した韓国(半島)から脱出しようと、姉家族と船に乗り込んだジョンソク大尉(カン・ドンウォン)。だが客室に感染者が発生、姉と甥はゾンビに襲われてしまう。――それから4年後、亡命先の香港でひどい差別を受け、惨めな日々を送るジョンソクと義兄のチョルミン(キム・ドユン)に、大金を積んだまま半島に残されたトラックを持ち出すという闇組織からの計画が舞い込む。彼らは半島に潜入し、任務の遂行までもう少しというところで、襲いかかるゾンビの大群に加えて、半島に残る得体の知れない人間たちとも対峙することになる……。 
 
 巨大なセットで作られた韓国の荒廃した街並みや、容赦のないゾンビたちとのアクション、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年)を彷彿とさせる、女性たちが魅せる骨太なカーチェイス、そして家族愛と、エンターテインメントのあらゆる要素をてんこ盛りにした本作は、退屈する暇を与えずに観客を楽しませる文句なしの大作だ。だが私には、スクリーンに映し出される地獄絵図のような光景とその中を徘徊するゾンビの姿が、新型コロナの感染拡大に見舞われた今の世界とはまた別に、「韓国の現実」を提示しているように見えて仕方がなかった。そしてそれは、事あるごとに真っ二つに分断されて互いに排除し合おうとする韓国の姿なのだった。 
 
 韓国にはいつからか「좌좀(ザゾム=左翼ゾンビ)」と「우좀(ウゾム=右翼ゾンビ)」なる言葉が存在する。政治的・社会的な問題が起こるたびに、社会が真っ二つに分断されてぶつかり合う現象を皮肉った表現だ。このような「左・右」の「ゾンビ」の起源をたどるには、2008年に韓国社会を揺るがした李明博(イ・ミョンバク)政権による「アメリカ産牛肉の輸入」問題に遡らねばならない。 
 
 一連の経緯については、『共犯者たち』を取り上げた第1回目のコラムでも紹介したので参考にしてほしいが、要するに、政府が「BSE(牛海線状脳症=狂牛病)」の恐れがある牛肉を輸入しようとしているとして、多くの韓国人が広場に集いデモを起こした結果、輸入基準を「安全な牛肉」に限定することを政府が約束し、事態は収束したものの李政権は支持率が急落、大統領の弾劾危機にまで追い込まれることになったというものだ。

 そして、こうした反政府デモに強い不満を持つ李政権の支持者=保守派(とネトウヨ)が、デモの参加者たちを罵倒して「ザゾム」と呼んだのがこの名称の始まりとなった。彼らの目には、デモ隊が「ゾンビのように群がり、政権をかみちぎっている」ように見えたのだろう。 
 
 その背景には、朝鮮戦争によって南北に分断され、現在に至るまで北朝鮮と対峙してきた韓国ならではの「反共」の呪縛も大きいといえる。反共とその弊害についてはこのコラムでも幾度となく取り上げてきたが、「反共」はとりわけ軍事政権下においては天下無敵の「正義」であり、「政権に抗うすべての者」を「アカ」と決めつけ弾圧するための、これ以上ない武器として君臨してきた。民主化が進んだ90年代以降も、弾圧自体はほぼ姿を消したものの、人々の意識の底には「政権に抗う者=アカ」という図式が刷り込まれていたのかもしれない。だからこそ、保守派の人々はデモの参加者たちの行動の意味を問うことなしに、彼らを「アカ=ゾンビ」とさげすんだのだ。

 近年は日本でも、内閣への支持・不支持に始まる分断が顕著となり、互いへの攻撃が取り沙汰されているが、韓国では政治的意見を異にする者への弾圧を当然のように捉える視線が、「反共」によって歴史的に醸成されてしまったといえる。 

 さてその後、「ザゾム」はネットやメディアを通して広まっていき、進歩派(とその支持者)への批判や当てつけの表現として定着するのだが、その浸透ぶりを如実に語るのが、朴槿恵(パク・クネ)政権下で作成されたという、悪名高い「ブラックリスト」である。その報告書では、現在では国民的な監督として揺るぎない地位を築いているポン・ジュノ監督作品に対しても「国民をザゾム化させる映画」と記載していたのだ。なんと、保守政権の支持者のみならず、政権の中枢までもが自分たちに反対する国民を「ゾンビ」と捉えていたのである。 
 
 一方「ウゾム」はどうだろうか? もともと左翼は右翼を「수꼴(スコル、頭の悪い保守派の意)」とバカにしていたが、右翼からの「サゾム」呼ばわりに対して左翼側も「ウゾム」を使うようになった。とりわけ、セウォル号沈没事故後に起こった朴槿恵大統領の弾劾に反対し、暴動化した保守派を「スコルのウゾム」と皮肉ってからは、左翼の間でも保守派を見下す「ウゾム」が広まった。 
 
 国全体が左と右に分かれ、「サゾム」「ウゾム」と罵倒し合う状態はいまだに続いており、本作での半島にゾンビしか残っていないように、もはや韓国は右も左もゾンビだらけの国になってしまったようだ。ここで思い浮かぶのが、「헬조선(ヘル朝鮮)」という自虐的な用語だ。2010年代以降、悪化の一途をたどる失業率や若者の貧困、格差が社会問題となる中、ネットを中心に生まれたこの言葉は、文字通り「地獄のような韓国」を意味している。あえて「朝鮮」と呼ぶのは、今の韓国社会が、絶対的な身分格差があった朝鮮時代と変わらないという批判が込められているからだ。 
 
 このように考えてみると本作は、奇しくも新型コロナの世界的蔓延により普遍性を獲得してしまったものの、もともとは「ザゾムとウゾム」が右往左往する「ヘル朝鮮」からの脱出をもくろむ、韓国にとってきわめて現実的な映画であるといえるのではないだろうか。本作を含む一連の「K‐ゾンビもの」がこの時代の観客たちに受け入れられたのは、エンターテインメントとしての完成度もさることながら、文化評論家のキム・ヒョンシクが著書『ゾンビ学』(カルムリ)で述べているように、ゾンビたちの姿が韓国の現実に対する隠喩になっているからでもあるのだろう。 
 
 だが忘れてはいけないのは、善悪の方向性にかかわらず、ゾンビたちはただ「利用されている」だけであることだ。本作のゾンビは人間として考える能力を失い、光や音にのみ反応して人間を攻撃するが、現実世界でゾンビ化して利用されたくなければ、「サゾム」も「ウゾム」もイデオロギーからは一歩下がって、せめて「考えるゾンビ」に進化してもらいたいものだ。 

■崔盛旭(チェ・ソンウク)
1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。

2020年、K-Popに氾濫した「ドゥンバキ」楽曲はなぜ生まれた? 音楽的側面から解説! 21年はaespaとStray Kidsに注目!? 

 BTSが米国進出で大成功を収め、日本ではNiziUが話題を集めた2020年。「K-Pop」というコンテンツが世界的に評価される動きがあった20年は、どんな1年だったのだろうか。K-Popに関するメディア出演や、イベントを主催するキーパーソン3名に、20年のK-Pop動向を音楽面から振り返ってもらった。

<座談会出席者プロフィール>

■e_e_li_c_a 2006年からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

■DJ DJ機器 K-POPオタク。現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」「Liar Liar」をe_e_li_c_a と主催。block. fmのK-POP番組『HB STUDIO』にレギュラー出演中。

■ラブ子 K-POPオタク。昨年K-POPファンの間で広まった「ドゥンバキ」というワードを最初に言い出した人。主なオタ活拠点は現場とTwitter。

“安直な”K-Popが目についた20年

ーーe_e_li_c_aさんとDJ機器さんが、昨年12月に出演されたTBSラジオ『アフター6ジャンクション』で、2020年のK-POPにおける音楽的な傾向に触れていましたが、あらためて全体的な潮流はどうでしたか?

e_e_li_c_a BTSの「Dynamite」によってディスコに火がつきましたが、K-POPアイドルはディスコサウンドの楽曲は今までもたくさんリリースしていましたよね。ディスコ以外だと「ニュートロ」の傾向もありました。EVERGLOW 「LA DI DA」とかTWICE 「 I CAN'T STOP ME」あたりでしょうか。

ラブ子 ディスコもニュートロもそうですが、全体的に2010年代頃のいわゆる「K-POP」の原点に戻ったように感じました。BTSが売れすぎて、各事務所も何が正解なのかわからない状態なのかもしれません。

DJ機器 そうですね。楽曲として何が売れるかわからなくなっている。世界的に見てもどんなジャンルがはやっているのか本当にわからない時代だと思います。だって、ビルボードでBTSの「Dynamite」の下に「WAP」(Cardi B feat. Megan Thee Stallion)があるわけで(笑)。

ラブ子 BTSが売れた理由を明確に説明できる人はほとんどいないですよね。私はBTSが成功した要因として、メンバーの個性とバックグラウンドがストーリーとして作品とリンクし、共感を得たことが大きいと思っているんですけど、2020年はストーリーではなく「K-POP」という「音楽ジャンル」の正解を見つけようとして各自奮闘していた1年だったのではないかと思うんですよね。ストーリーを効果的に生み出せるサバイバル番組が不祥事などもあり、大々的にやりづらくなったというのもあるかもしれません。

 その流れの中で、ガールズグループはK-POPとして満遍なく面白いものを全部やってくれたのかなと思っています。コロナの渦中でも、ちゃんとエンパワメントしてくれた。次のブームを予感させるような斬新な楽曲もリリースされたし、今までと路線を変えて頑張っているグループも自分らしさを失わなかったように感じます。Weeeklyの新人アイドルらしい王道のK-POPも良かったですね。

ーーボーイズグループの難しさというのは、楽曲としてヒットがなかったということでしょうか?

ラブ子 やっぱりBTSが“上がっちゃった”感じはありますよね。BTSとアワードを争い続けてきたEXOも兵役でグループとしては活動が制限されしまった。

DJ機器 BTS、 EXOの下の椅子に座る明確な2番手グループがいないように感じますね。3、4番手あたりに固まっているように見えます。

e_e_li_c_a 世代的な話ではなく、売り上げやコンサートをやる規模みたいなものを考えると、2番手にはGOT7とSEVENTEEN、MONSTA X、NCTあたりが入ってくるとは思いますし、世代的な話でいうとVIXXやBlock Bなどのメンバーは兵役に行っていて、残っているメンバーでソロ活動をできる人がしているという印象です。

ラブ子 K-POPアイドルって昔から「3年目ぐらいで殻を破らなきゃいけない」という意識が、どのグループにもあると思うんですけど、まさにその3、4番手の世代を中心に、多くのアイドルが同じ方向性ーー「ドゥンバキ」に走ったイメージがあるんですよ。

ーー20年、SNS上で「赤黒ドゥンバキ」「ドゥンバキ」という、いわゆる「K-POPぽい」ドゥーン、バキバキーッとした印象の楽曲を表現するワードが多用されていました。ラブ子さんがネーミングされたそうですね?

ラブ子 まずビジュアルのコンセプトとして、19年の年末から20年の年明けにかけて、複数のグループが割と似通ったダークなイメージ――「赤」と「黒」の2色でカムバックして、今までのイメージを打ち破ろうとしていたんです。THE BOYZの「REVEAL」や、PENTAGONの「Dr.BEBE」、イ・デフィ(AB6IX)のソロ楽曲「ROSE, SCENT, KISS」等がそうですね。

 4月に始まったMnetの『Road to Kingdom』という番組では、その世代周辺のアイドルが集められて、お互いに競いながら色々なステージを披露していたのですが、そこでもやはりダークなコンセプトがほとんどでした。もちろん印象に残る良いステージもたくさんありましたが、どちらかといえば楽曲そのものよりも、ステージでの見せ方を追求するパフォーマンスの多さに違和感がありました。

 元々自分は歌謡祭やアワードで見せるような「見せ場」として唐突に挟まれるダンスブレイクに食傷気味だったのですが、言ってしまえば『Road to Kingdom』はそれが延々と続く番組だったんです。そこで出てきた言葉が、原曲をTrap風にアレンジしてバキバキに踊ればカッコいいんだ、という安直さを揶揄した「ドゥーンバキバキ」だったんです。

 番組が終わった後も「赤と黒」や「ドゥンバキ」のイメージを打ち出してカムバックするアイドルが続々出てきて、2つを組み合わせた「赤黒ドゥンバキ」という言葉もいつのまにか生まれていました(笑)。

ーー3番手の世代が、そうした方向性にいったんですね。印象的なグループはいますか?

ラブ子 やっぱり自分の中ではTHE BOYZですね。彼らは楽曲を自作したり、制作面で苦悩するグループというよりは、与えられた楽曲で元気に活動するタイプのグループで、個々のキャリアやスキルの成長をストーリーとして見せていくグループではなかったんです。そこに「赤と黒」や「ドゥンバキ」というダークでシリアスなコンセプトを打ち出されても、“借りてきた感”が否めなかったんです。方向性の転換が唐突すぎたように感じたんですね。

e_e_li_c_a たしかに。でもTHE BOYZに関しては、その方向性でアルバム売上枚数や音源チャート、音楽番組での1位獲得など成功と言っても良い成績でしたからね……。

DJ機器 VERIVERYも、今年は<Face>シリーズでダークな路線を打ち出してきてはいたけど、「G.B.T.B」でトドメを刺した感じでしたね。

ラブ子 「ドゥンバキ」で検索するとVERIVERYファンが一番動揺していたように感じました。シリーズとして見ても、ここまで培ってきたコンセプトを変えてまでやる曲なのか、という疑問があるんですよね。VERIVERYに限らず、ドゥンバキに走ったグループの中には音楽的素養に恵まれたアイドルもたくさんいるのに、安直な戦略に巻き込まれて、こぞって赤と黒に乗ってしまったんではないかと。イメージ脱却のツールとして、ダークなコンセプトを安易に使わないでほしかったなと私は思いますね。特に今年はコロナで大変な年だったから、シリアスな路線より元気をもらいたかったです。

ーーいわゆる「K-POPっぽさ」という定型が完成した、ともいえるんでしょうか?

DJ機器 「K-POP」をやりたい人たちからすると、ああいう感じがいいのかもしれませんね。

ラブ子 手堅いというのもあると思うんですが、アイドル本人にもそれが大衆にウケるという認識があるのかもしれないですね。先日見た、『YG宝石箱』というサバイバル番組では、評価の過程でいろいろなステージを用意するのですが、どの練習生もちゃんと自分の持ち味を生かした素敵な楽曲を選ぶんですよね。その中でラッパーとしてもクリエイターとしても才能に溢れたヒョンソクという、一見アイドル的な楽曲とは無縁そうな練習生が、最終評価の直前で真っ先に何の迷いもなくWanna Oneの「Boomerang」を選んだことが本当に印象に残っているんです。洋楽が好きで、本格的なソウルやヒップホップの素養を持った練習生でも「勝つためのK-POP」というイメージを持っていたり、みんなの頭の中になんとなくひな形となる「K-POP」のイメージがあるんだなと思って。

DJ機器 なんらかのぼんやりした「K-POP像」みたいなものができてしまっているのかもしれません。先日、出演したラジオ番組でドゥンバキ系の曲が流れたときにパーソナリティの方から「なんかK-POPって感じですね!」っていうコメントが出た際に、いつもK-POPをそこまで聞いていない人からしても「最近よくあるK-POP」という認識があるんだなと思ったんです。ということは、韓国の事務所や業界内の人たちにも「外から見たかっこいいK-POP」のイメージになりつつあるのではないでしょうか。

ーー逆にドゥンバキが様になる人たちはいますか?

DJ機器 声質など楽曲との相性はもちろんあると思いますが、説得力をもたせる何かが重要だと思います。東方神起は元々テーマカラーがパールレッドというのもあるのですが、もうオーラと言うか迫力がすごいですし、MONSTA Xはジュホンの声質の他にも、ヒップホップの濃い部分をやってきているので、良い意味で治安の悪さと相性がいいように感じます。一見線が細く見えるグループは、どうせなら爽やかなほうが似合うのではないかと思ってしまうんです。

ラブ子 K-POPにはいわゆる「トンチキ」と呼ばれるようなユーモアやユニークな部分も大事ですよね。ドゥンバキにもそういった部分がもっとあっても良いんじゃないかと考えていて、私自身はSHINeeの「Everybody」がドゥンバキの最高峰だと思っているんですよ。初めて見た時は本当にものすごい衝撃で。この衣装で、こんな面白い動きで踊っていいの? って。でも、ちゃんとステージの上では成り立っているんですよね。純粋にかっこいいものとして。

ーー20年、3年目の葛藤をドゥンバキを使わずに乗り越えた人たちはいますか?

DJ機器 年数としてはデビューからもう少したっていますが、SEVENTEENの「HOME;RUN」は素晴らしかったですね。青年期から大人になるという成長の仕方がうまくいった好例なのではないでしょうか。

ラブ子 素晴らしいエンターテインメントでしたね。1曲見ただけでお金を払いたいくらいで。18~19年くらいがひたすらずっと悩んで葛藤しているイメージで、ステージもシリアスなパフォーマンスが多かったのですが、20年は急に一周回って「俺たちはSEVENTEENだぜ~!」というのをかっこいい楽曲でやってくれましたね。

ーー『Road to Kingdom』や、これから始まる『Kingdom』に出演するグループで、今後伸びそうな存在はいますか?

e_e_li_c_a どのグループにも売れてほしい気持ちはありますが、これから『Kingdom』に出演する予定のStray Kidsですかね。個人的にデビューからずっと追っていて、正直言うと『Road to Kingdom』にあまり良い印象がないので、出演してほしくない気持ちも大きいのですが、韓国内での人気や知名度があまりないので、これが何かのきっかけになれば良いなと思っています。ATEEZもデビュー前から追っていて、Stray Kidsと同じように海外人気はすごくあるのですが、国内での知名度はStray Kidsと同程度だと思うので、良いきっかけになることを願っています。

ラブ子 そう考えるとやっぱりJYPはすごいですよね。Stray Kidsが今年、謎のアングラテクノとか彼らが元々持っていた音楽的なエッセンスを全部掘り返して、楽曲にフィードバックしてカムバックしたのは本当に偉い。「神메뉴(神Menu)」のような、キャッチーで面白くてかっこいい楽曲とパフォーマンスは、絶対Stray Kidsしかできないじゃないですか。今年のアワードはSEVENTEENかStray Kidsですね。

DJ機器 あのノリをもう少し軽い感じにして明るく楽しくやっているのがSEVENTEENですよね。こういうパフォーマンスができるのは、今のところSEVENTEENかStray Kidsぐらいしか思い浮かばないです。

ラブ子 ラップに関しても、本来メインラッパーではないヒョンジン君を見ていても、鍛えられた子じゃないとあの説得力って出ないと思うんですよ。本当にStray Kidsらしい楽曲。

e_e_li_c_a 熱心に追っていない人から見てもそういうふうに見えるのであれば、Cooking Video(「神Menu」リリース前のティーザー動画)やBack Door Opening Video(Back Door リリース前のティーザー動画)の方向性に振り切った甲斐があったんじゃないかと思います。

ーー安泰したグループでいうと、BTSがあげられると思いますが。

e_e_li_c_a BTSはもう日本の音楽番組などでの扱いは「K-Popアイドル」というよりアメリカのポップスターみたいな「外タレ」枠のようになってる気がします。何しても全肯定される状態ですよね。今までの積み重ねがあったからですが、何をしても売れる。韓国語曲の「Life goes on」をこのタイミングでリリースしたのも戦略の一部かもしれないですが、ビルボード1位にもなりましたしね。

ラブ子 20年は番組数もステージ数も少なく、働き方としてはいったん落ち着きましたよね。兵役前とは思えない焦らなさ。もはや無我の境地ですよ。アメリカ進出した時にファンを辞めちゃった人もいっぱいいるけど、新規の人たちと、以前からちゃんと見守っている人たちが、温かく育ててくれている成功事例なのではないでしょうか。なんだかんだ「Dynamite」と「Life goes on」って覚えやすい、良質なポップスですよね。そういう楽曲でカムバしたのはすごいですね。

DJ機器 あれが出せて、ちゃんと売れるのは現状ではBTSしかいないですからね。そういえば1カ月ぐらい長期休養がありましたよね。

ラブ子 ありましたね。ご褒美みたいな休暇が。BTSはもうガッツかなくていいですし、テレビ番組も全部出演しなくていい。労働環境でいうと、そういう良い面を見せてくれた。ここまで売れれば国も動いて兵役も延長になるという(笑)。

ーー21年に注目したい傾向やグループはありますか?

DJ機器 SMからデビューしたばかりのaespa(エスパ)ですかね。アバター設定等も作り手側からすると、色々なことを体現できて楽しいだろうなと思うんですよ。

ラブ子 これだけバズると、多分21年は前面に打ち出してきますよね。

e_e_li_c_a 最初からあんまりK-POP的じゃないですよね。「このグループのファンです!」っていう層を私はあまり見つけられないんですが、大衆的にはそれなりの認知度も得ていて、音楽番組で1位候補になったりして。イ・スマン(SMエンターテインメント創始者)が昔目指していた「セレブ」という存在に、ハマってきているのではないでしょうか。それこそBTSのような。

ラブ子 裾野が広い感じがします。ガールズグループって、デビューに際して特定の層を狙って、そこでまずバズってから広げていく印象なので、最初から風呂敷が大きい感じはありますね。本人たちもつかみどころないですしね。

DJ機器 あくが強いんだか弱いんだかわからないですよね。fromis_9(プロミスナイン)とかが、ゆるい感じでワイワイやっているのはニコニコしながら眺められるんですが、なんだかそれとは違う感じですよね(笑)。

ラブ子 そうなんですよ。TikTokの本当にゆるいこと……(笑)。SMからめちゃくちゃ気張ってデビューした子たちが、こんなゆるいTikTokをやるんだと思って衝撃でした。別にナチュラルな雰囲気を押し出しているわけでもないし、ビジュアルも強いのに、本人たちの雰囲気や言動はあまり気張っていない。新世代ですかね? すごくいい流れだと思います。

DJ機器 音楽ジャンル的にもいろいろできるグループな気はするんですよね。レトロ方面をやっている先輩方がたくさんいると思うので、それこそHyperpopみたいな、Charli XCXや100 gecsみたいな音が割れまくっている楽曲でカムバックしてほしいですね。

ラブ子 エレクトロな方面に向かっても絶対に面白いですよね。NCTの妹分みたいな匂わせもしていますから、楽曲的には攻めてほしい感じはありますよね。コンセプトもちゃんと消化できそうです。

ーー男性グループはどうでしょうか?

ラブ子 『Road to Kingdom』に出演したグループが、20年は迷走して終わっちゃったイメージが強いですよね。ドゥンバキでカムバしたグループも、タイトル以外の清涼曲で活動したり、真逆のコンセプトでカムバックしたり、結局のところ、どっちの路線を打ち出すのか見えてこないですが、Stray Kidsが日本も本国も含めて、21年はもうちょっと爆発するかな? というのは感じますね。

e_e_li_c_a たしかにStray Kidsが頭一つ出ているように感じますが、『Kingdom』でドゥンバキに飲まれて終わるか、Stray Kidsっぽいことをしっかりやって「やっぱスキズだね」という方向に評価されるかという心配はあります。

ラブ子 『Road to Kingdom』は、かっこいいドス黒いラップをすると、褒めてもらえるんですよね。Stray Kidsはラップもうまいから、ギャングスタ路線にいこうと思えばいくらでもいけちゃうんですよね。アイドルを忘れて(笑)。なので、せっかくJYPに入ったんだから、ちゃんとJYPのマインドを良い方向に使ってほしいところです。私は、やっぱりYGのTREASUREに期待します。デビュー3曲目にして超かっこいい、20年にはなかったヒップホップ曲の「음 (MMM)」を出してくれたので。全員の個性がちゃんと出せる楽曲を着実にやり始めています。

DJ機器 YGのいいところが出ている気がしますね。

ラブ子 そうですね。優等生でした。来年もこの調子で頑張ってください!

 20年リリースの楽曲から、3名が「聞いてほしかった」楽曲をそれぞれ選出。K-Popアイドル曲と、そうでない曲をそれぞれ1曲セレクトしてもらった。

ラブ子セレクト!

WOODZ『BUMP BUMP』

 紆余曲折を得て再びソロとして再始動したWOODZことスンヨンくんの2作目。前作とはガラッと印象が変わって、MVもステージもとびきりキュートな作品に仕上がっていますが、聞けば聞くほどWOODZらしい野心と葛藤が伝わる骨太な1曲になっております。前作でも見せていたROCKとHIPHOPを融合したMIXTURE的なサウンドを基盤としながら、PUNKやBRIT POPなどUK ROCKのエッセンスがさらに色濃く反映されていて、彼が「アイドル」として目指している音楽性の幅広さに感心すると同時に、K-POPというジャンルにおける土壌のふくよかさと多様な可能性にあらためて感動しました。この曲が収録されているアルバムも、音楽的なチャレンジを感じる一方でデモ音源のような素朴な風合いもあり、ミックステープ感のあるザラッとした手触りがとてもファニーで人間味あふれる1枚となっていて、大変オススメです。機会があれば歌詞を読み解きながら楽しんでみてください。

■NOA『TAXI fear. tofubeats』

 K-POP……ではないんですが、元YG練習生のNOAくんとtofubeatsがタッグを組んで挑んだデジタル世代のネオソウル。2人ともガッツリ歌っているのに3分以内にカチッと終わるコンパクトな構成に時代を感じて、聞いた瞬間仰け反りました。情景と孤独を鮮やかに切り取る手腕と軽妙洒脱な雰囲気はまるで短歌のように軽やかでミニマルなリズム感があり、流れるような聞き心地と余韻のキレが最高に素晴らしいです。K-POPとJ-POPのハイブリッド的サウンドと言われると確かにその雰囲気もあるんですが、最低限の和音と情緒が香る転調の配置には和製R&BやTECHNOにも繋がってゆく「ルーツ」の確かな煌めきを感じられたりもして、自分にとってはこれが「J-POP」なのかなあと思ったりもします。MVもめちゃくちゃ素敵ですね。

DJ DJ機器がセレクト!

■Dreamcatcher 『Scream』

 どうしてもK-POP好きからはイロモノとして見えてしまうDreamcatcherですが、この「Scream」はフェスティバルロック+メタル要素という今までのようなアプローチに対して、もう少しEDMのようなクラブ要素の割合を増やした楽曲でとてもよかったです。楽曲ジャンル的には違いますが、迫力としては女性版ドゥンバキのようなものだと思って聞くといいのではないかと思います。この楽曲が収録されたファーストアルバム『Dystopia : The Tree of Language』は、世界観の作り込みと楽曲のバランスがものすごく良かったです。「Jazz Bar」や「Red Sun」、「Black Or White」などの収録曲も必聴です。

■GXXD (Girlnexxtdoor)  『춤사위 (Feat. MOON, Blase)』

 Sik-KやRAVI、HAONなどにトラックを提供してきたGXXDのEPに、急にBasslineジャンルの曲が収録されていて驚きました。韓国のトラックメイカーは本当に器用ですね……。GXXDとMOONは何回もコラボしていますが、MOONに関しては20年にはZion.TやSEHUN & CHANYEOL、Vince、Coogieなど、かなりいろいろなアーティストとコラボしており注目度がさらに上がったように感じます。Blaseの歌詞に Dave - Funky Friday (ft. Fredo) がサンプリングされているところもいいですね。

e_e_li_c_aがセレクト!

■P1Harmony(피원하모니) - Nemonade(네모네이드) 

 FNC Entertainment所属、6人組グループのP1Harmony(ピーワンハーモニー)のデビューEP収録曲です。20年10月28日にデビューし、Sirenというタイトル曲で活動したあと、後続曲として「Nemonade」で活動しました。韓国、カナダ、日本国籍のメンバーがいる多国籍グループで、平均年齢はなんと満年齢で17.3歳です。15歳のメンバーが2人いることを知った時は本当に驚きました。年齢を加味しなくてもデビュー直後のグループとは思えないほど、ボーカル・ラップ・ダンスのスキルが高く、特に最年少ジョンソプ(動画内の赤髪のメンバー)のラップは本当にすごいです。個人的にタイトル曲があまりピンと来なかったためリアルタイムでは活動を追っていなかったのですが、早いうちに彼らに気付けて良かったです。今後の活動に今一番期待しているグループです。

■Silica Gel (실리카겔) 『Kyo181』

 シリカゲルは15年にデビューした4人組のバンドで、デビュー時に韓国大衆音楽賞「今年の新人賞」を始めとする新人賞3冠を受賞しました。2017年12月のアルバムリリース、その後の東京公演をあとにメンバーの兵役のため活動休止期間に入り、2年半がたってのシングルがこの「kyo181」です。本人たちも「空白期間の間に新しい方向を眺めるようになり、そのような意味でkyo181はシリカゲルの新しいデビュー曲とすることができる」と語っており、確かに今までの楽曲に比べてエレクトロニクス色の強い楽曲になっています。4分20秒の間、全てのフレーズの頭に「kyoヤ」という単語がついた状態で曲が展開され、その繰り返しとメロディラインがとても耳に残りやすく、何度も聞いた楽曲です。

※e_e_li_c_aとDJ DJ機器が出演するK-Popイベント『NEXT BOWL 2021presented by TodakTodak』が東京・豊洲PITにて開催決定!
【配信日時】 2021年1月10日(日)17:00~21:00 ※追いかけ再生やアーカイブ配信はありません
【出演】 tofubeats, e_e_li_c_a, DJ DJ 機器, hoverboard, 310
【配信チャンネル】 PIA LIVE STREAM
【チケット料金】
・視聴券:¥2,000(税込)

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<解説:e_e_li_c_a・ DJ機器>

 もともとラブ子さんが示した「ドゥーンバキバキ」は、曲中のダンスブレイクのDubstepにおけるワブルベースやTrapのような部分を指しており、例えば、この動画の3:59~が該当します。

■2018 MAMA in KOREA Stray Kids/THE BOYZ

 その後、実際に「ドゥンバキ」と呼ばれた楽曲や「ドゥンバキ」のイメージに近い楽曲について音楽的側面から少し説明をしたいと思います。今回は海外のEDMなどフェスシーンに詳しいライターの高岡謙太郎さん(@takaoka)にもご協力いただきました。

 まずは、対談中にも名前が出たグループもありますが、20年にリリースされた「ドゥンバキ」楽曲例です。

■VERIVERY - G.B.T.B

■GHOST9 - Think of Dawn

■D-CRUNCH _ Across The Universe(비상(飛上))

 音楽的な下地としては12年、Hudson MohawkeとLuniceのユニット「TNGHT」がリリースした、Trapを取り入れたこの曲がダンスミュージックシーンとしてもインパクトが大きく、その後のポップミュージックのトレンドに影響を与えたといわれています。

 それまではTrapはアメリカのHiphopの中の1ジャンルという認識でしたが、この曲によってダンスミュージック(EDM)にもTrapが取り入れられ始めます。太いホーンのダークな印象やドラムの打ち方に何となくドゥンバキっぽさを感じられるでしょうか。

■TNGHT - Higher Ground

 楽曲の参照元としてはYellow Clawというオランダ人2人のデュオがやっていたEDM Trapとポップスの融合が起点ではないかという予想です。DJ SnakeやDiplo、Chainsmokersなどが2012年頃から同時多発的にそのような楽曲をリリースしています。

 あわせて、この曲を参照してそうだなと思われるK-POP楽曲を下に記載します。

■Yellow Claw - Shotgun ft. Rochelle (2013)

■몬스타엑스 (MONSTAX) - 히어로 (HERO) (2015)

■DJ Snake, Lil Jon - Turn Down for What (2013)

BTS(방탄소년단) - FIRE (불타오르네) (2016)

 

■The Chainsmokers - Don't Let Me Down ft. Daya (2016)

2PM - Promise (I'll be) (2016)

■Yellow Claw - Good Day ft. DJ Snake & Elliphant (2017)

JBJ - Say My Name (2017)

 K-POP側の流れとしては、16年頃にBass MusicとTrapジャンルを混ぜたような楽曲(BTSの「Fire」やEXOの「Monster」など)が上記の楽曲などを参照しリリースされたのが始まりのように思います。

 また、EDMとトラップの折衷を目指しているという点では、Steve Aokiの楽曲も近いのではないでしょうか。彼自身、BTSやMONSTA XなどのK-POPアーティストとのコラボをしています。この曲の0:50~に注意して聞くとわかりやすいと思います。

■Steve Aoki - Kolony Anthem feat. ILoveMakonnen & Bok Nero (2017)

 2016年の同時期にリリースされたNU'ESTの「Overcome」やBTSの「Save Me」などにみられる「Future Bass」と先程のBass Music+Trapが融合して、現在のいわゆる「ドゥンバキ」を表すような楽曲に進化して行ったのではないかと思いましたが、高岡さんからはどんどんとエモーショナルな方向に進んでいったTrapやEDMがそのままK-POPに参照されているのではないかという話もありました。

 ちなみにK-POPを追っていると、Future Bassというジャンルはダンスミュージックのメインストリームと感じるかもしれませんが、EDMシーンではどちらかというとクラブなどに行かない人でもSoundcloud上にアップして楽しむものだったり、少しアングラなイメージがあるものです。

TrapやEDMがエモーショナルな方向に進んだ楽曲例:

ODESZA - Loyal (2018)

 ODESZA(オデッザ)のSpotifyやYoutubeでの楽曲総再生数は億を優に超えており、グラミー賞にもノミネートされています。

ちなみに18年のCoachellaのライブは圧巻で、これをライブで目の当たりにしたら正直テンションが上がって飛び跳ねてしまう自信があります。

■Illenium - Afterlife (feat. ECHOS) (2016)

 上ネタに気が取られると、ドゥンバキ? となりますが、ドラムやベースなどのリズムセクションに注意して聞くとわかりやすいと思います。

 Dubstepはベース部分の音色がジャンルを規定しているため、あまりほかに使い回しがきかず、Trapはビート部分がジャンルを規定しているため使いやすくポップスに転用しやすいことから、上記のTrapが進化した形のような楽曲がたくさん生まれ、さらにそこからK-POPに落とし込みやすかったのではないでしょうか。

 また上記の楽曲は、Youtubeでの再生数が1千万回以上だったり、グラミー賞など音楽賞を取っている楽曲なので探し出しやすく、事務所やA&Rが参照元として挙げ、作曲を依頼しているのではないかという予想が立てられます。

 対談の中にも出てきましたが、「様になるドゥンバキ」と「そうでないドゥンバキ」があり、説得力を持たせる要素があるかどうかという点が出ましたが、それ以外にも前編のJO1のところで書いたような、表面をなぞっている楽曲(参照元が今まで挙げたEDM本場の楽曲なのか、それを参照したK-POP楽曲を参照しているのか)かどうかというのもあるでしょう。「2020年のドゥンバキはドゥンバキしか感じない」という感想が対談の中で出ましたが、これは既存のK-POP楽曲を参照してできたK-POP楽曲が多い印象にもつながるかと思います。

 本編の後編に『Kingdom』に出演するStray Kidsの話が出てきましたが、彼らはメンバーたちが組んだユニット「3Racha」を中心に自分たちで楽曲を作成しており、歌詞にもイギリスのラッパーでトラックメイカーである「Skepta」の名前が出てきます。

■3RACHA - P.A.C.E. (2017)

 この曲は、聞けば明らかにこれを参照元としていることがわかると思います。

■Skepta ft. JME - That's Not Me (2014)

 この曲に関しては、明確にどの曲というのはないですが、ラップも含めてStray Kidsの楽曲を聞いたことがある方には「Stray Kidsっぽい」というのが分かってもらえるのではないでしょうか。

■NEFFEX - Fight Back

 自分たちで楽曲制作をしてパフォーマンスする人たちは「表面をなぞる」の部分が自分たちでコントロールできるところに強みがあるため、この部分をどう『Kingdom』にうまく生かせるかが、今後にもつながってくると思います。

 これは『Road to Kingdom』のせいもあるかもしれないですが、その曲を通して何かを伝えたり自分たちの立ち位置を上げるというよりも、パフォーマンスをかっこよくこなしてファンに頑張っているところを見せたい、ー勝負感が内向きに感じるという話も対談の中で出ました。

 また、ドゥンバキ楽曲でパフォーマンスをすると実際はラップやボーカル、ダンスだったり何かしらのスキルが少し足りない状態でもパッと見は本格感が出せることから、経験が浅くスキルがまだ少し足りていない新人グループが手を出しやすいのではないかという予想も出ました。

 なぜこのような楽曲がリリースされるかについては、K-POPにありがちなビジュアルや世界観(ダークでシリアス、若者の葛藤、若干の暴力性など)を体現しやすいのではないか、BPMや曲の構造などが本格派に見えるダンスパフォーマンスと相性がいいのではないか、などが考えられ、ドゥンバキと呼ばれるような楽曲がK-POP的な要素との相性が良く、「パフォーマンス楽曲」として便利なのではないかということが考えられます。

 今は「ドゥンバキ」=「ダサい」というイメージがついてしまっている方が多いかもしれないですが、一概にダメなものではなく、パフォーマンスを裏付ける経験やスキルを兼ね揃えているグループがやればかっこいいものになるということも認識してもらえたら、今回の企画をやった甲斐があります。

 

2020年K-POPシーンを総まとめ! JYP、SMエンタ他4大事務所と、NiziU・JO1のポジションを考察

 BTSが米国進出で大成功を収め、日本ではNiziUが話題を集めた2020年。「K-Pop」というコンテンツが世界的に評価される動きがあった20年は、どんな1年だったのだろうか。K-Popに関するメディア出演や、イベントを主催するキーパーソン3名に、20年のK-Pop動向を振り返ってもらった。

<座談会出席者プロフィール>

■e_e_li_c_a 2006年からDJを始めヒップホップ、ソウル、 ファンク、ジャズ、中東音楽、 タイポップスなどさまざまなジャンルを経て現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」を主催。楽曲的な面白さとアイドルとしての魅力の双方からK-POPを紹介して人気を集める。

■DJ機器 K-POPオタク。現在K-POPをかけるクラブイベント「Todak Todak」「Liar Liar」をe_e_li_c_a と主催。block. fmのK-POP番組『HB STUDIO』にレギュラー出演中。

■ラブ子 K-POPオタク。昨年K-POPファンの間で広まった「ドゥンバキ」というワードを最初に言い出した人。主なオタ活拠点は現場とTwitter。

Big HitとSM、YGの動きは?

――2020年のK-POP4大事務所の動向を振り返っていきたいんですが、まずはBig Hitエンターテインメントはどうでしたか?

DJ機器 Big Hitが2019年のSOURCE MUSICに続きPLEDIS Entertainmentを買収して、なんだかGoogleみたいに大きくなってきました。昨年末のファミリーコンサートにむけて少し無理やりではありましたがファミリー感を出したりしていますね。

e_e_li_c_a BTSが事務所の一強の存在だから、彼らが兵役に行くことを考えていろいろと準備をしているように見えますね。

ラブ子 絶妙なポジションの事務所を狙って吸収しているのが怖い事務所だなと(笑)。企業的戦略でガシガシ動いてる感じがしました。

――SMエンターテインメントはいかがでしたか?

ラブ子 SMは珍しく乱れた1年だったかと(笑)。2020年の後半にaespaのデビューやNCTの活動がいきなりぶち込まれたイメージがすごいありました。ひとつひとつのビックプロジェクトが、事務所の中であっちにいったりこっちにいったり。

DJ機器 NCTのアルバム『THE 2ND ALBUM RESONANCE Pt.2』が、印刷ミスにより発売延期になったりしました。いつも以上に無茶なスケジュールで制作していたんでしょう。

e_e_li_c_a スケジュールに関してはどこの事務所も新型コロナの関係で調整が難しかったのもあると思います。SMはここ1〜2年は特にグループ間でも印象を似せてきているのか、似てきてしまっているのか……。

DJ機器 ビジュアル面に関してはディレクターの趣味なのかもしれません。そういえばMARVELと絡むような動きもありましたが、SuperM然り、最終的には『アベンジャーズ』みたいなのをやりたいんですかね。

e_e_li_c_a ミュージックビデオの端々で、ほかのグループに繋がる謎のモチーフをいれてきたりするのも、その布石なのかもしれない。

ラブ子 ただ新型コロナの影響でアメリカなど海外展開ができなくなってしまいました。逆に日本では、地上波の歌番組に出演したりと一応、知名度を上げようという意図は感じました。

e_e_li_c_a もともとSuperMは東京ドームで公演をやる予定でしたが、それぞれのメンバーのグループやソロ活動などがあってしばらく音沙汰がなく、クリスマスか何かに挨拶の動画が突然公開されて、「そういえばまた続いていたんだ、このプロジェクト!」となりました(笑)。

――YGエンタはどんな動向でしたか?

e_e_li_c_a YGは事務所がバーニング・サン事件で一度足場が崩れてしまったから、その立て直しが大変な1年でしたね。ただTREASURE(トレジャー)は頑張っていますね。

ラブ子 そうですね、TREASUREのおかげで持ち直していると思います。マシホのおかげで株価も上がったので。でも国内でしっかり活動しているグループはTREASUREだけみたいな感じになっていますよね。あとは、ブラピン(BLACKPINK)。

DJ機器 BIGBANGも2020年にCoachella(コーチェラ)でカムバック公演の予定がありましたが、フェス自体が新型コロナの影響でなくなってしまいました。新しいアルバムのレコーディングに取り組むという話もありましたがどうなったんでしょうね……。

ラブ子 YGとJYPも、今年は手堅いというか、特殊な活動はしてないですよね。YGがブラピン、JYPはTWICEが目立って活動していたという印象でした。

――JYPエンターテインメントは、Nizi Projectによって日本での知名度が抜群に上がりました。

ラブ子 JYPは社長のJ.Y.Parkが一番目立っていました(笑)。こんなに社長の名前を聞いた1年は本当にかつてないことなのではないでしょうか。『スッキリ』(日本テレビ系)などに出演していたので、うちの母親まで「NiziUでしょ?」みたいに言い出して。

e_e_li_c_a 毎朝出ていたのは影響力として大きいですよね。

ラブ子 社長が偉人みたいなことになっちゃって。韓国の大統領よりメディアに出ていたと思います。

――今までKPOPファンの人が見てきたJ.Y.Parkと、今回で知った人の間で、彼に抱くイメージに乖離はありますか?

ラブ子 韓国では、自分もアイドル時代があったところを含めての「いじられキャラ」ですよね。

e_e_li_c_a たしかに、韓国だと自分が90年代から活動していたのが認識されていますからね。日本はそこの部分がすっぽりない。

DJ機器 K-POPのファンからしたら、いじられキャラなのになんで名言製造機みたいになっているんだと思っている人が多そうですよね。日本で注目されたのは、ああいう前に出てくるタイプのメンターみたいな人があまりいなかったのではないかと。ジャニー喜多川さんとかはあんまり表に出てくる感じではなかったですし、つんくさんのような立ち位置の人の席が空いたところに収まったようにもみえます。

e_e_li_c_a 事務所として気になる動きは、ITZY(イッジ)の「Not Shy」の英語版が出るんですよね。TWICE(トゥワイス)も最近、英語版楽曲を出していて。TWICEとかは今まで欧米圏よりも日本のが優先! って感じだったと思うんですけど、新型コロナのこともあって現地に行けなくても案外プロモーション出来るのかも? となって、ついでじゃないけど英語版楽曲を出してるように見えます。

DJ機器 TWICEは2019年には全世界9都市を巡回するツアーを開催していますね。「現地化」の足がかりを作りたいのかもしれないですね。

ラブ子 ワンガ(Wonder Girls)が米国進出に挑戦するも一度は諦めているからなのか、それ以降はグローバル向けのアイドルを養成するイメージがありませんでしたが、もしかしたら来年はガールズグループがグローバル路線にいくのかもしれないですね。

――日本でのJYPのイメージでは、NiziUが代名詞になったといえますが、K-POP風の日本アイドルという立ち位置をどう見ていますか? K-POPを聞いてきた人たちには違和感を持つ層もありますが。

ラブ子 K-POPファンとNiziUファンは、住み分けができているように思います。曲がりなりにもサバイバル番組出身の子たちなのでちゃんとスキルもあるし、JYPのDNAも感じますし、路線としてはうまくいっているのではないでしょうか。サバイバル番組自体は追わなかったのですが、デビューしたメンバーは可愛いし、「Make you happy」は、「世界中が夢見る日本のアイドル」みたいな感じじゃないですか。覚えやすいし。どこにも傷をつけない、角がないプレデビュー曲で。JYPって偉い(笑)。

DJ機器 「Make you happy」はいつもK-POPしか聞いてない人からすると物足りなさもあるんだと思うんですけど、いきなり「本格派グループ」みたいな打ち出しをされても、おそらくお茶の間には受け入れられない気はしますよね。個人的にはいい塩梅だなと思いました。

e_e_li_c_a 楽曲としてはTWICEの日本語曲と印象が近いところがありましたね。あとはデビューEPを聞くと、ラップがうまかったんです。日本で売ってくことを考えるとダントツなのではないでしょうか。

――「世界中が夢見る日本のアイドル」という言葉が出ましたが、それは日本人が考える日本の女性アイドルとは違うところがあるんでしょうか?

ラブ子 「海外から見た日本」という感じでしょうか。ハロー!プロジェクトやAKBグループはもっと変則というか、サウンドにもロックマインドがあると思っています。「Make you happy」に関しては「K-POPのひな型を使ったJ-POPっぽいもの」という、恐ろしいバランスになっている。日本のアイドルでJ-POPかと言われるとちょっと違う気もしますが、かと言って「K-POP」かと言われると難しいですよね。デビューして、全員が揃った次の曲が大事になってくるのではないでしょうか。

DJ機器 あとは新型コロナでコンサート等の現場がないから、どれだけお金を使ってくれるファンがついているのかもわからないですよね。ファンが若年層に集中しているような気もするので、NiziUカフェみたいなものをやったら来場者は多いとはと思うのですが。

e_e_li_c_a 確かに、コラボカフェ開催したら小中学生がたくさん押し寄せそうですね。ただ、コンサートをちゃんと開催する際に、一人では来られない層が多いので集客がわからないですね。

ラブ子 その点で、TWICEは本国の活動から応援しているファンが流入しているから、ガッツリ追う人、お金を落とす人が多いイメージがあります。

DJ機器 TWICEの東京ドーム公演に行ったのですが、親子で来ている人が多いし、普通に中年男性グループが客席にいるのが衝撃的でしたね。K-POPアイドルの初来日公演等だと明らかに服装や雰囲気などで「K-POPオタクっぽい人」が多いのですが、TWICEはもう全然関係なく色々な人がいるんですよね。

ラブ子 日本の現場でカメラの金額と腕力を活かせる現場ってそれほど多くないから、中年男性はハマっちゃうんだと思います。財力もありますし。ただNiziUは……あんまり、そうならないでほしいところもあるかな(笑)。やっぱり若い子に支持されてほしいですよね。あとはTWICEの妹分で、ITZYとも住み分けができているので、JYPとしても動かしやすいグループなのではないでしょうか。

 ボーカルやラップのスキルもあるのでもっとダークな雰囲気の楽曲もこなせるはずですし、そのような激しい楽曲も日本ではE-girlsなどの前例があるので、受け入れられる間口はあると思います。

――男性アイドルでいうと、JO1もK-POPコンテンツを輸入した形の存在です。吉本興業と韓国のCJ ENMが共同出資した事務所というのも新しかったですね。

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e_e_li_c_a 12月にあった、JO1の1stオンラインコンサートに対して「メンバーたちは頑張っているのにその努力を形にしてくれる人がいない」という、運営への不満を見かけました。

ラブ子 自分にもファンの方から報告が来ました。「コンサートなのに10曲しかやらないんですけどどういうこと?」とか「吉本燃やしていいですか?」という……。

DJ機器 単純に予算の問題な気もします。国によってエンタメに対しての力の入れ具合やリソースが違いますからね……。楽曲に関しては、リファレンス元がなんらかの「K-POP楽曲」で、一次ソースの楽曲を直接参照していないように感じました。K-POPっぽいことをしようとしているのではないかと思うのですが、コアな側面というよりも表面をなぞっている感じがして個人的には物足りなさを感じました。

ラブ子 そうですね……。ちょっと前の「K-POPっぽさ」を楽曲にしている感じはありますね。あえてNiziUと比べると、Nizi ProjectはJ.Y.Parkが個人のスキルを見ながらパフォーマンスを重視する「実力派」サバイバルグループ。一方、JO1は日プ(『Produce101 Japan』)という、大半の練習生が歌もダンスも未経験の状態で集められたサバイバル番組出身なので「実力派」とは違うのかなと。

e_e_li_c_a ただ売り方として、「グローバルボーイズグループ」とか「世界を目指す」的なことを打ち出すので違和感があるのではないでしょうか。

ラブ子 ファンや周りで遠巻きに見ている人が引っかかっている部分は「世界狙いなら、もっと育てるところがあるんじゃない?」とか、「楽曲もだんだんレベルアップしていってもいいんじゃない?」というところだと思うんですよね。ここから認知度、パフォーマンス、ビジュアルのクオリティもどんどん上がっていくという成長物語を見せてくれるなら自分は楽しいかなと。ただ、日本の芸能界における立ち位置で考えると、ジャニーズとLDHの中間的の存在としてJO1というアイドルがいてもいいんじゃないかと思っています。バラエティも出るし、楽曲も歌うという路線は、日本では間違っていないと思う。

DJ機器 日本で男性アイドルの本格派だと、LDHや三浦大知さんというパフォーマンスが強い存在がいるので、いきなりそういう人たちと比べられてしまうと大変ですよね。

ラブ子 でも、K-POPのコアなファンの中には、JO1がそこで止まっちゃうんだったら……と、揺れ動いている人がいるのかなと。それが1stコンサートへの不満につながったのかもしれません。でも、実績というか売れていらっしゃるから、よろしいのでは。売れればいいんじゃない?

e_e_li_c_a 『Produce101 Japan』は2も決まりましたしね。それも、きっと良い商売だと思ったから2をやるわけで。

DJ機器 メンバーやプロダクション側にお金が入ってくると、制作面でもさまざまなことが実現できたり解決できたりしますからね。

――K-POPは毎年、脱退者や活動休止などが多発していて、その理由に過酷な労働環境がよく語られていますよね。それこそ奴隷契約と揶揄されるような状態ですが、この問題は、今後どう解消されるのでしょうか?

DJ機器 お国柄はあると思いますね。兵役がある国ですから……。

ラブ子 「2年だったら兵役も我慢できるだろう」という感覚が備わっているので、時限をつけたものはちょっと体を壊しても頑張りきる! みたいな発想につながっているような気もします。

e_e_li_c_a これって、日本の企業でも同じような風潮があると思っていて。法令を違反してても、そういう雰囲気がないから有給が取れないみたいな。

ラブ子 現場の人たちもみんな、「それが芸能活動でしょ?」みたいなことになってしまっていると思うので、一度その歯車が動き出してしまうともう止められないのがエンターテインメント業界の闇というか。でも、私は韓国のアイドルビジネスの収益構造をわかっているわけじゃないから、やめろとも言えないです。そのサイクルを止めたことによって、結局アイドルたちの収益がなくったら、アイドルも生活ができなくなる。

e_e_li_c_a でもそれって商売として成り立ってないということじゃないですか。結局、無理して成立させてるものは長くは続かないし、体調を崩したりする原因にもなる。

ラブ子 成り立たせちゃいけないという意識を、エンタメを享受している側も、ある種の搾取になっているという構造を胸に置いておいたほうが健全なのではないでしょうか。あとは、メンバーが傷ついたら、事務所とファンが守る。

DJ機器 年々、素行監視が厳しくなっているようにも感じますね。ものすごいハードスケジュールで働いて、外で遊ぶこともできないし、私生活でも気が抜けない。スタイリストにブチ切れて毛布を投げつけたくなる気持ちもわかりますよ(笑)。

ラブ子 本当にそうなりますよ。だって、あんな過酷な練習とスケジュールをこなして、それで何か起きたときには本人が叩かれるんだから、事務所が守ってあげないと。海外のファンからエデュケーションを受ける流れがあったり、グローバルな視点を求められながら働かなきゃいけないのに、働き方はブラックって……(笑)。

e_e_li_c_a コロナ禍で少しはスケジュールに余裕が出るかと思いきや、オンラインライブなどで収録現場が増えているグループもあったり、接触を減らすためにより変な時間に稼働しているようにも見えますね。ここ1~2年ぐらいは昔に比べて休業するケースが増えてきているような気もしますね。

DJ機器 ただ、逆に休みたいと申告したら休ませてもらえるようになったんだなとは思いますけどね。

ラブ子 私はそれならカムバもやめてねと思いますけど。グループの人数を減らしてまでやる必要はない。そういえばイドン(Triple H)とヒョナ(同)は全然カムバしないですね。あれぐらいの働き方で食えているんだったら、健全じゃないですか?

e_e_li_c_a その2人はP NATION(ピーネーション)と契約したことが大きいんじゃないですかね。

DJ機器 カンナムスタイルマネーが……(笑)。

ラブ子 P NATIONか!JessiもP NATIONでしたっけ? Jessiは年末すごく頑張ってるじゃないですか。

DJ機器 CrushもP NATIONですしね、やはり原資が豊富だと余裕があるんですよ。お金がもっといろいろなところに回ってほしいですね、本当に(笑)。

ラブ子 今年はP NATIONに注目ですね(笑)。

――続きは1月4日公開!