ルックスやキャラクターも相まって、圧倒的な人気を博している羽生だが、そうなるとその人気にあやかろうとする者も出てくる。事実、彼の関連書籍やDVD、“オフィシャル”で特集した雑誌の売り上げは軒並み好調で、雑誌、新聞関係者が手を出したくなるのも仕方がない。しかし、人気者だけに取材のハードルは高い。
「フィギュアの選手に取材する方法はいろいろあります。関係者にコネがあるとか、大会の運営にも関わる日本スケート連盟に申請するとかね。しかし、彼らはアスリートですから、広報活動よりトレーニングを優先します。そうなると取材できるのは、選手や連盟と信頼関係があるスポーツ誌や老舗の雑誌などになります。それなのに、堂々と羽生を表紙にしている雑誌は多いですよね。あれは、報道という名目のもと選手や連盟にも許可をとらず、ろくな取材もせず、勝手に出しているんです」
そう教えてくれたのは、フリー編集者のN氏。N氏によれば、羽生が14年のソチオリンピックで金メダルを取った時から、出版界の“羽生フィーバー”は始まったという。
「当時、『羽生に取材したいけどコネはないか?』といくつかの版元(出版社)から連絡がありましたが、私は芸能の方が専門なのでお断りしました。でも、昔お世話になったニュース系雑誌の編集長に頼まれて、伝手を頼ってスポーツ雑誌の編集者に聞いてみたところ、どの雑誌も独占取材は順番待ちの状態だったようです。それなら仕方がないと、急きょフィギュア専門のライターさんに執筆をお願いし、通信社の写真を使って大会の模様を10ページほど掲載しました。報道としてね。それでも普段より10%ほど実売が伸びたそうです。しかし、そこでいくつかの出版社が、通信社の写真をメインに使って、ほとんど文字がない、ほぼ羽生の写真だけの雑誌を出したから、同業者たちは『どうやって許可をとったんだ!?』と驚いていましたよ」
その後、大会ごとに2号目、3号目が発売され、N氏が印刷会社から聞いたところでは、ある雑誌は1号目で2万部ほどだった発行部数が、号を重ねるごとに3万、4万と増えていったという。
「出版不況の影響で、定期発行誌でも2万部以下の媒体が多い中、この部数は異常でした。また、2号目、3号目と出せるということは、実売は少なくとも5割か6割を超えていたはず。重版(増刷)した号もあったそうなので、実際はもっと売れていたでしょうね」(元編プロ社員)
そうしたお祭り状態の中で羽生関連の雑誌は増えていったが、その中で、如実に差が現れ始めた。
「普通の神経を持った編集者なら、特集ならともかく、いくら売れるといっても同じ人間を表紙にし続けることはありません。芸能誌でいえば、いくら売れるといってもジャニタレばかりを表紙にしないようにね。それに、予算をケチって専門のライターではなく、にわかファンやネットで情報を集めただけの人間に記事を書かせるから間違いも多いし、内容の厚みにも差が出ます。実際、フィギュア専門のライターからも、この手の雑誌は見放されていましたね」(出版社社員)
正規で羽生の特集を作っている編集者たちの苦労や努力を知っただけに、N氏はそうした“非正規”の雑誌を見るたびに、苦々しい気持ちになるという。では、それらを正規の本と、どのように見分ければいいのだろうか?
「主な見分け方は2つ。ひとつ目は写真のクレジットです。海外での大会ならともかく、スポーツ関連の出版社なら、国内の大会では必ずリンクで自分たちの写真を撮ります。アフロなど通信社系の写真だけで誌面を構成している本は、クレジットに通信社名が入っています。自分たちではリンクでの取材に許可をもらえない、あるいは許可を取る気がないということです。もうひとつは、関係者の取材記事がまるでないこと。羽生本人の取材は難しいにしても、彼の後輩である宇野昌磨のように、一緒にフィギュア人気を支える選手や、裏方で活躍している人はたくさんいます。そうした人たちに取材もせず、申し訳程度に『注目選手』とかいうタイトルで、取材コメントのないペラペラの記事を書き、羽生の写真ばかり載せている本は、彼の人気にあやかり金もうけをしようとしているだけです。ネットでは羽生の悪口を面白おかしく書き、雑誌では彼をほめたたえている出版社なんかもその手合いでしょうね。その出版社は、日本スケート連盟から警告を受けていたというウワサですよ」(N氏)
スポーツ誌、老舗雑誌が正規の手段で取材した羽生の特集雑誌を出版し始めた時期、無許可で羽生の特集雑誌を作っていた出版社、編プロの中には「真似しやがって」とあきれるようなことを言う編集者もいたという。
羽生を応援している人々にとっては、雑誌を通じて彼の活躍を見ることができるのはうれしいだろう。しかし、彼の人気や活躍に便乗して不誠実な本が出版されていることを知り、見極める目も養ってほしい。
