池松壮亮の役者バカぶりがさらに激しさを増す!! 美人OLと現実逃避の旅『宮本から君へ』第3話

 社会のルールを守ることは大人の常識ですが、ルールに縛られすぎていては生きていくことが面白くも何ともありません。退屈な社会のルールなら平然と破ってしまう男、それが宮本浩です。新井英樹原作コミックのTVドラマ化『宮本から君へ』(テレビ東京系)を観ていると、裸になった池松壮亮がサウナ風呂のロウリュのような熱風をテレビの中からこちらに向けて吹き込んできます。テレビを観ているだけなのに、視聴者の心は汗だくです。池松演じる宮本の熱さがますますヒートアップした『宮本から君へ』第3話を振り返りましょう。

(前回までのレビューはこちらから)

 都内の弱小文具メーカーに勤める宮本浩(池松壮亮)は仕事や生きることに価値を見出すことができずに悩んでいます。大手自動車メーカーの受付嬢である甲田美沙子(華村あすか)と朝の通勤電車で会話を交わすことだけが唯一の楽しみです。美沙子に会うために、毎日出社しているようなものでした。社会人になって初めての秋。24歳になった宮本は美沙子からマフラーをプレゼントされます。美沙子ともっと深い仲になりたいと願う一方、今のお友達づきあいも壊したくありません。恋に仕事に、宮本は宙ぶらりんな状態でした。

 11月の終わりの金曜日、いつになく美沙子が駅に姿を見せません。そろそろ電車に乗らないと会社に遅刻してしまうなというタイミングで、ようやく美沙子は現われました。でも、いつもとちょっと様子が違います。宮本の手を握って「どこか行きませんか、会社をサボって。海とか……」。美沙子がどこまで本気なのか、冗談を言っているだけなのか、宮本は女心を計りかねてしまいます。

 電車の発車メロディが流れ、意を決した宮本は美沙子と共に会社とは反対方向へ向かう電車に乗り換えるのでした。社会人1年生として仕事のルールを学ぶことに明け暮れていた毎日が、美沙子と会社をサボったことで刺激的でロマンティックな、非日常的な世界へと変貌していきます。

 原作コミックが連載されたのは1990年代前半。サラリーマンたちはバブルの世を謳歌していましたが、まだ当時はケータイ電話が一般には普及していませんでした。ある意味、その頃のサラリーマンは会社からも恋人からも首輪を繋がれていない時代でもあったわけです。時代設定は明確にされていないTVドラマ版『宮本から君へ』ですが、宮本も美沙子もケータイ電話は持っていないようです。会社に「急にお腹が痛くなりました」「身内に不幸があったので」などバレバレな嘘電話をすることなく、2人は外房あたりの海へと繰り出していきます。

 ガラガラの電車の中、美沙子と2人っきりという駆け落ち気分を宮本は味わい、見知らぬ駅で買った駅弁を半分っこします。美沙子から「あーん」してもらい、宮本はサイコーの浮かれ具合です。これが政治家や官僚なら「ハニートラップかな?」と疑わなくてはいけませんが、小さな文具メーカーの平社員である宮本は、浮かれたい放題に浮かれるのでした。まだ何者にもなれずにいる宮本は、その分だけとても自由な生き物です。

 駅弁で食欲を満たした後は、浜辺に出て海を眺める宮本と美沙子でした。平日の海には2人以外に誰も人影がありません。流木に腰掛けた宮本は、隣にいる美沙子の肩を抱き寄せようとしますが、誤って美沙子の頭を叩いてしまいます。「なんで叩くんですか!?」とちょっと怒った美沙子がサイコーにかわいく思えてきます。「肩を、肩を(抱くつもりがね)……」と言いよどむ宮本の言葉尻を美沙子は繋いで「肩を、ちょっと貸してくださいね」としなだれ掛かります。ついに宮本は惚れた女を手中に収める瞬間を迎えたのです。

 

■華村あすかのたどたどしさが男心をくすぐる!?

 

 美沙子が会社をサボって海を見たがったのには、明確な理由がありました。残念ながら、宮本とデートがしたかったわけではありません。昨晩、交際していた彼と別れ、思いっきり泣くために海を訪れたのでした。宮本はそれに付き合わされていたのです。美沙子からそのことを知らされた宮本は、座っていた流木からまるでワイヤーで引っ張られたかのように後方へビョ~ンと跳び退きます。後ろ跳び世界選手権があれば、確実にメダルを獲得したことでしょう。ここからの宮本は尋常ではない行動に移ります。いよいよ、アブノーマルパーソン・宮本の本領発揮です。

 おもむろにスーツを脱ぎ出した宮本は、パンツ一丁になります。「付き合っている人がいたこと、隠すつもりはなかったんです」と謝る美沙子を浜辺に残し、波が高い海へ狂ったように駆け出す宮本。どうやら失恋で気落ちしている美沙子の心のスキに付け込んで、エロい関係になろうとしていた自分自身が許せないようです。会社はズル休みしたくせに、自分の頭の中にある恋愛哲学には厳格な宮本でした。「甲田美沙子がフツーの奴に捨てられちゃダメだろ!」「泣くなら、ひとりで泣け!!」と波にさらわれながら、ズブ濡れになった宮本は叫び続けます。宮本の叫び声は波の音に掻き消され、半分も美沙子の耳には届きません。美沙子は宮本の言動に励まされたというより、むしろあっけにとられています。きっと美沙子は「男はみんなバカだ」と痛感したに違いありません。

 季節はずれの海で寒中水泳に励んだその夜、宮本は同期入社の田島(柄本時生)のアパートを訪ねました。会社をサボった宮本のために、田島は2人分のナポリタンを作ってやります。「人間ひとり、大した意味もっとらんて。つまらん意地を張っとったら後悔するぜ」と助言する田島に向かって、宮本は「でも人間に意味なし、なんて思ってないだろう?」と聞き返すのでした。「それ、本気で聞いとる?」と答えるときの田島、いや柄本時生の人生を半分達観したような表情がすごくいいんですよ。

 週明けの月曜、出社した宮本は無断欠席したことで岡崎部長(古舘寛治)から小言を言われますが、小田課長(星田英利)や田島がフォローしてくれたお陰で思いのほかあっさりと解放されました。こんなことで激怒していては、新入社員がいなくなってしまうからでしょうか。宮本が勤める文具メーカーは、良くも悪くも緊張感というものがありません。でも、美沙子と一緒にズル休みしたことで、2人の心の距離は確実に縮まりました。終業後も美沙子と待ち合わせて、アフターファイブを楽しむようになります。あの日以来、美沙子は髪型を変え、香水も変えました。「(彼と別れて)ひと月も経っていないのに、薄情でしょう?」と笑いながら宮本と夜の街をデートする美沙子。気が付けば、東京はもう初冬。夜風に震える美沙子のために、宮本は彼女からプレゼントされたマフラーを手渡します。宮本の体温をマフラーごしに感じる美沙子でした。

 美沙子が「東京でいちばん好きな場所」という神宮外苑のベンチに腰掛ける2人。短い沈黙の後、宮本は「甲田さん、本気で好きになるよ」と低い声で囁き、美沙子と唇を重ねます。友達の関係から初キスまでずいぶん回り道しましたが、会社を1日ズル休みした収穫がようやく実ったのです。

 宮本の憧れのヒロイン・甲田美沙子を演じる華村あすかは、本作がデビュー作となる山形出身19歳の新人女優です。まだお芝居はうまくありませんが、たどたどしい感じが逆に「守ってあげたい!」という男心をくすぐるタイプのようです。所属事務所はかつて石田ゆり子・ひかり姉妹らが活躍したボックスコーポレーション。先輩女優たちと同様に小悪魔的な魅力をこれから発揮していくことでしょう。それにしても、美沙子に振り回される宮本に徹底的になりきる池松壮亮の熱いこと熱いこと。番組エンディングに流れたメイキング映像を見ると、本当に波に呑まれて海難事故になるギリギリまで芝居を続けています。ハードな撮影続きで「何回か記憶が飛んだ」そうです。原作で描かれた宮本の熱さに真っ正面からぶつかっていく池松の役者バカぶりは、一体どこまでエスカレートしていくのか。宮本&池松のクレージーさにますます拍車が掛かる第4話も楽しみです。
(文=長野辰次)

“据え膳”を食べない独自美学に酔う池松壮亮! 自己チュー男のこだわり『宮本から君へ』第2話

 経済効率が最優先される現代社会において、いちばん真逆な方向へ突き進んでいるのが宮本浩という男です。大学を卒業して、小さな文具メーカーの営業マンとして働き始めた宮本ですが、彼のやることなすこと無駄だらけです。漫画家の新井英樹が漫画家デビュー以前に文具メーカーに勤めていた体験をベースにした同名コミックのドラマ化『宮本から君へ』(テレビ東京系)は、そんな無駄だらけの男・宮本の青春の日々が描かれます。深夜0時52分からのオンエアにもかかわらず、主演俳優・池松壮亮の宮本になりきった暑苦しい演技に感化された視聴者は少なくないようで、第1話の視聴率は「ドラマ25」枠の初回としては過去最高となる2.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)という好記録でした。第2話はどうでしょうか?

 大手自動車メーカーに勤める甲田美沙子(華村あすか)たちとの合コンに臨んだ宮本浩(池松壮亮)でしたが、テーブルに置かれたフルーツポンチの鉢の中に“宮本”と名前の書かれたコンドーム(開封前)が落ちたところで第1話は終わりました。いまどきの婚活パーティーだったら「宮本さんったら、準備よすぎ!」と爆笑ネタになるのでしょうが、大学を出たばかりの宮本はギャグに転嫁させることができません。毎朝、美沙子と通勤電車の中で会話するのを楽しみにしていた宮本ですが、フルーツポンチ事件の後は気まずくて、出社時間をずらしていました。職場でも同僚たちから「宮本」ではなく「ポンチ!」と呼ばれるようになり、散々な毎日です。

 美沙子のことで頭がいっぱいな宮本は、仕事でも大ポカをやってしまいます。京橋のお得意先である文具店に2カ月間顔を出していなかったことが部長の岡崎(古舘寛治)にバレてしまったのです。京橋の文具店へ詫びにいく宮本でしたが、店長(綾田俊樹)は説教を滔々と垂れるものの、目すら合わせてくれません。ここで何と宮本は「人と話すときは相手の目を見て話してはどうですか?」と説教返しをするのでした。自分の職務怠慢ぶりを棚に上げて、お得意先の態度を平気であげつらう宮本。シリーズ後半から爆発することになるクレージー営業マンの片鱗さを早くも感じさせます。

 当然ながらこの一件も岡崎部長の耳に入り、今度は小田課長(星田英利)に付き添われて再び謝罪に行くことになります。多分、小田課長も別にこの会社が好きで入ったわけじゃないはずです。でも、人生経験が豊富な分、小田課長は世間知らずの新人・宮本に対してもすっごく寛容なのです。一緒に詫びに行くのにイヤな顔ひとつせず、「営業マンはみんな、俺のために命を投げ出してくれる」と自慢げに語る店長を懸命にヨイショしまくります。部下思いの小田課長の熱心さにほだされ、宮本もぎこちないながらに店長の太鼓持ちに徹するのでした。合コンの席と違って、宮本はホッとします。見習うべき先輩がここにいました。ちっぽけな会社に勤める小田課長が、とても頼もしく思えるエピソードでした。

 謝罪の帰り道、煙草をふかしながら小田課長は、愛想笑いもできない愚直すぎる宮本を「わかってて、損するのは利口やないなぁ」と関西弁でやんわりと諭すのでした。仕事はつまんなくても、こういう情の深い上司や先輩がいたら、ついつい職場って居着いてしまうものですよね。チュパチャップス時代からずいぶん時間は掛かったけど、ほっしゃんって脇役俳優としていい味出すようになったなぁと、しみじみさせるシーンです。ところが、後輩の尻拭いで無駄な時間を費やしたほっしゃん、いや小田課長に対して、「(損な性格の自分たちを)かっこいいと思っているんですよー」と笑顔で返す宮本は、途方もない大バカ者です。

■いまいちな女の子が、無性に愛おしく思えた瞬間

 

 前回の合コンでは、駅のホームで面識のない美沙子に声を掛けた宮本のことを「すごいと思う」とうっとりした表情で語っていた暗くて地味な女の子・裕奈(三浦透子)に、宮本は夜の渋谷駅でばったり遭遇します。同居しているお姉さんの彼氏が遊びに来る日なので、大して好きでもない映画を観て時間を潰していたそうです。どちらからともなく、夜の街へと流れていく2人。バーで慣れないカクテルを口にした裕奈は、いつになく上機嫌です。美人偏差値の高い美沙子は口説き落とすのに手間ひまが掛かりそうですが、宮本に気があることが痛いほどわかる裕奈は、鼻毛を抜くよりも簡単に落ちそうです。あくまでも理想の女性への一点勝負か、それともハードルの低い女の子で手を打つのか。夜のバーで宮本は自問自答し、気持ちよく酔っぱらうことができません。

 バーを出たときは、すでに終電間際でした。急いで駅に向かえば終電に間に合うのに、裕奈は帰ろうとしません。酔いに任せて宮本と手をつなぎ、「私、今まででいちばん楽しい日です」とはしゃいでいます。宮本はとうとう裕奈を連れて、ラブホテルへと入ってしまいます。薄っぺらなバスローブに着替え、同じベッドに入る2人ですが、悶々とした時間だけがジリジリと流れていきます。眠れずにいる裕奈は宮本が頼んでもいないのに、小学校時代の思い出話を始めます。学級会で裕奈は何度か議題になったという、まったくエロさを感じさせない話題でした。クラスでイジメに遭っていた裕奈は、担任の教師から「彼女もみんなと同じ人間なのよ」と言われ、クラスメイトたちは泣きながら謝罪したそうです。

 無駄に熱い男・宮本はベッドの中で呟きます。「それって、何か悔しいよね。そんなところで謝るのなら、最初っからいじめるなよって」と返す宮本に、裕奈は「優しすぎますよ、宮本さん」と微笑むのでした。エロさをまるで感じさせない女の子・裕奈が無性に愛おしく思えた瞬間でした。思わず、宮本は裕奈のことを抱き寄せてしまいます。

 この後、宮本はてっきり裕奈と朝までエッチしたんだろうなぁと思っていたら、出社した宮本の言動を見る限りではエッチはしていないそうです。据え膳に手を出さずにラブホから会社に出社した自分のことを「立派! よく耐えた!!」と自画自賛する宮本でした。処女を奪ってほしかっただろう裕奈の心情はまったく無視され、「自分が惚れた女以外とはエッチしない」という中学の頃からの独自の哲学を貫いた宮本がニヤニヤしながら鼻血を流す姿がカメラに映し出されます。宮本は優しそうに見えて、超弩級な自己チュー野郎です。

 ラブホで裕奈と朝までハグしあい、京橋の文具店への謝罪も済ませ、いつになく充実感で満たされる宮本でした。客観的に見れば、恋も仕事も何ひとつ成果を上げていないのですが、本人はそのことに気づいていません。でも、こういうポジティブ思考の人間って、往々にして幸運を呼び込んでしまうものです。今度は大物です。夜の街で、美沙子とばったり遭遇するのでした。

 合コン以来となる久々の再会でしたが、夜の雑踏の中でも美沙子は3D映像のように宮本の目にグ~ンと飛び込んでくるのでした。しかも、同期入社の田島(柄本時生)から「ポンチ!」と宮本が呼ばれていることから、美沙子は「ポンチじゃ、かわいそう」と笑ってフォローしてくれるではありませんか。フルーツポンチ事件のことは水に流してくれるそうです。しかも、「電車の中で学校時代のことを話す宮本さんはすごく生き生きした表情をしていて、そういう宮本さんをいつも見ていたい」とまで語っています。美女が気まぐれに発する思わせぶりな台詞に、どれだけ数多くの男たちが舞い上がった挙げ句に轟沈したことでしょう。

 田島が気を利かせて去ったその夜、宮本にはまだツキが残っていました。駅での別れ際、美沙子は通行人に押され、宮本の胸の中へと倒れ込んできたのです。宮本の鼻先に、美沙子のうなじ部分がありました。このときの宮本には美沙子が愛用している香水プアゾンが、彼女のフェロモン臭に感じられたに違いありません。もう迷うことなく、美沙子にロックオンです。

 次回の宮本は美沙子に誘われて会社をサボり、海へと繰り出します。回り道ばかりしている宮本は、ついに「エッチするのは惚れた女だけ」という中学以来の大願成就を果たすのでしょうか? 無駄だらけの宮本ですが、どうやらそんな無駄な部分にこそ、その人の人間性が色濃くにじみ出るようです。経済効率に反して、損をして得をする男・宮本の独自哲学がさらに炸裂する第3話も見逃せません。
(文=長野辰次)

世界一うざい男・宮本はもう1人の自分なのか!? 恋も仕事も失敗だらけ『宮本から君へ』第1話

 常にクールでスマートでいることが求められる現代社会において、そこからいちばん遠い遠い存在が宮本浩という男です。新井英樹の同名コミックを原作にしたドラマ24『宮本から君へ』(テレビ東京系)の主人公・宮本浩は、とにかく暑苦しくて、面倒くさいことこの上ありません。中小企業に就職した社会人1年目の宮本は、恋に仕事に100%全力でぶつかり、そのたびに七転八倒します。そんな超うざいキャラクター・宮本役に、若手演技派の筆頭格である池松壮亮。脚本・演出が暴力青春映画『ディストラクション・ベイビーズ』(16)で注目を集めた新鋭・真利子哲也監督というタッグで、1クールにわたってオンエアされることに。モヤモヤモヤ~とした寝苦しい3カ月間になりそうですね。

 原作コミックは1990~94年に青年漫画誌「モーニング」(講談社)で連載され、バブル景気で浮かれまくっていた世相に、冷や水を差しまくるような異質な内容でした。小さな文具メーカーの営業部に配属された宮本(池松壮亮)の真っすぐすぎて、超かっこ悪い、痛~い青春の日々が描かれます。

 さて、テレビ版第1話のオープニング、駅のホームで電車を待つ若いOLの姿が映し出されます。宮本にとって憧れの女性となる甲田美沙子(華村あすか)の登場です。入社1年目で仕事が楽しくない宮本は、朝の通勤時に見かける美沙子だけが毎日の楽しみでした。電車の中で同僚たちとの会話を盗み聞きし、美沙子は大手自動車メーカーの受付嬢であることが判明。超美人な美沙子は、ちっぽけな文具メーカーに勤める宮本にとっては高嶺の花。さりげなく声を掛けたいけど、きっかけがつかめません。自分の持てる欲望と情熱をどう形にすればいいのか分からない宮本浩、22歳の新人営業マンでした。

 宮本のうざったさがむっちりみっちりと描かれたのが、職場の同僚たちと繰り出した居酒屋シーンでした。小田課長(星田英利)の面倒見のよさに甘え、愚痴をこぼしまくる宮本。「学校に行ってるうちはよかった。学校を出たら、夢も自信もなくなったなぁ~」と上司に向かってタメ口で愚痴るダメダメな宮本でした。「学校出たらから失う自信を、何か持ってたん?」と関西弁でやんわりと宮本に釘を刺す小田課長ですが、酔っぱらった宮本には馬の耳に念仏でした。「自宅通いのボンボンは生活を考えんでええなぁ」と同期入社の田島(柄本時生)にディスられ、店の中でつかみ合いのケンカに。「何か俺、デカいことやりたいんです~!」と居酒屋で叫ぶ宮本は自己チューな大バカ野郎です。

 翌朝、二日酔い状態で出社する宮本。同僚たちに向かって「デカいことやりたいんです」と叫んだ手前、田島が手渡すスポーツ飲料を飲んでまったりすることは宮本自身が許せません。ホームに立つ可憐な一輪の花・美沙子を見つけるや、ツカツカと歩み寄り、「僕の、僕の名前は宮本浩ですッ!!」とホーム中に響くようなハイトーンボイスで自己紹介するのでした。

 何かデカいこと=通勤電車で見かける美女に声を掛けること、というエピソードにほんの少しでも共感した人は、この先も『宮本から君へ』を見続けるでしょうし、まるで響かなかった人は、さっさとチャンネルを変えるか、SNSの世界に没頭することでしょう。

 まずはバットを振ってみなくちゃ、ボールは前には転がりません。ひどくかっこ悪いスイングでしたが、宮本の振ったバットにボールが当たり、運よくポテンヒットになりました。美沙子と毎朝、電車の中で世間話をする仲になったのです。出社前に超ラブリーなOLとお話ができるという、モテない男にとっては至高の喜びを手に入れた宮本でした。女神・美沙子はさらなる福音を宮本に与えます。「総務部の女の子が宮本さんに会ってみたいって」と合コンすることを持ち掛けてきたのです。俄然、やる気まんまんになる宮本、そして同僚の田島でした。

■美人OLが合コンに連れてきた女友達がつらかった!

 

 通勤中に出会う美人OLと仲良くなり、合コンにまでありつけるという美味しい展開。原作コミックが連載されたバブル時代のイケイケ感を彷彿させるじゃないですか。原作者の新井英樹自身も漫画家になる前は文具メーカーに勤めていたそうですが、バブル時代に流行したトレンディードラマのようなおしゃれな方向には、このドラマはこの先、間違っても転がりません。宮本たちは営業部の新人3人でこの合コンに臨みますが、そこで待っていたのは「女性幹事マックスの法則」でした。

 美人受付け嬢の美沙子がどんなかわいい友達を選抜して連れてくるのか? 浮かれ気分で渋谷の雑居ビル地下にある微妙な雰囲気のパブの扉を開けた宮本たちですが、美沙子が連れてきた女の子たちも微妙なランクでした。ひとりは乗りがよくて合コン向きですが、総務部の裕奈(三浦透子)は全身から暗いオーラを漂わせ、ねっとりとした視線を宮本に注ぐのでした。このメンバーの中では、どうしようもなく美沙子のルックスが際立ちます。無意識なのかもしれませんが、自分がいちばんかわいいことを美沙子はアピールしているようで、男性陣は一抹の侘しさを覚えるのでした。

 楽しいはずの合コンなのに、そこは男の度量の大きさが試される修練の場でした。懸命に場を盛り上げようとする田島。できれば美沙子と2人っきりになりたい宮本ですが、「宮本さんに会ってみたい」と言い出した裕奈のフォローもしなくてはいけません。口数が少ない裕奈は彼女なりに気を遣って、宮本たちのグラスにピッチャーからビールを注ぎ足そうとしますのが、その度にグラスを倒してしまい、「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きながら謝るばかりです。いましたよね、クラスに1人はマジメなんだけど、すっごい不器用な子が。要領よく人生を生きることができない裕奈は、社会人になってもつらい思いをしているのではないでしょうか。宮本や田島たちは、まるで鏡を見せられているようなブルーな気分です。宮本たちももっと要領がよければ、大きな会社に入社していたでしょうから。男の欲望としては美沙子に向かいながらも、心の中では裕奈にシンパシーを感じてしまう宮本でした。

 盛り下がり気味の合コンの雰囲気を変えようと、パブの店長がサービスで大きな鉢に入ったフルーツポンチを運んできました。ここでもやっぱり裕奈がやらかしてしまいます。宮本に上着を渡そうとする裕奈でしたが、宮本の上着のポケットに入っていた小さな包みを誤ってフルーツポンチの鉢の中に落としてしまいます。小さな包みは、「宮本」とサインペンで名前が書かれたコンドームでした。コンドームの包みだけが甘く濡れた、とってもしょっぱい合コンはこうして終わりを告げたのです。

 合コンの後もしばらくは美沙子や裕奈に振り回されることになる宮本ですが、やがて先輩営業マンの神保(松山ケンイチ)と一緒に得意先回りをするようになり、仕事の厳しさと面白さを同時に学ぶようになっていきます。さらには、年上の女性・靖子(蒼井優)との出逢いも待っています。原作コミックでは、宮本と靖子との濃厚なSEXシーンが激しい筆使いで描かれ、思わず読者が引いてしまったほどです。ベッドの上でもやっぱり宮本はクドくて、暑苦しい男なのです。R18映画『愛の渦』(14)でリアルなSEXシーンを見せつけた池松壮亮と、最近は『オーバー・フェンス』(16)や『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)で濡れ場に挑んでいる蒼井優ですが、テレビ版『宮本から君へ』ではどこまで描いてみせるのか興味津々です。

 いかがだったでしょうか、『宮本から君へ』第1話。見終わった視聴者は「だせえよ、宮本」「コンドームをネタに渾身のギャグで切り返せよ」と宮本に向かって叫びたくなったんじゃないでしょうか。そうです、社会人1年生の宮本は実はかつての視聴者自身なのです。仕事や恋愛に失敗した恥ずかしい体験の数々を、テレビの中の宮本はこれからも生々しく再現してみせるのです。あのとき彼女にもっと違う言葉を掛けていれば、あの職場でもう少し要領よく立ち回っていたら……。忘れかけていた記憶のドロドロした部分を宮本は呼び起こすのです。やっぱり、宮本は超うざい奴です。これから、ひどく寝苦しい3カ月間になりそうです。
(文=長野辰次)

世界一うざい男・宮本はもう1人の自分なのか!? 恋も仕事も失敗だらけ『宮本から君へ』第1話

 常にクールでスマートでいることが求められる現代社会において、そこからいちばん遠い遠い存在が宮本浩という男です。新井英樹の同名コミックを原作にしたドラマ24『宮本から君へ』(テレビ東京系)の主人公・宮本浩は、とにかく暑苦しくて、面倒くさいことこの上ありません。中小企業に就職した社会人1年目の宮本は、恋に仕事に100%全力でぶつかり、そのたびに七転八倒します。そんな超うざいキャラクター・宮本役に、若手演技派の筆頭格である池松壮亮。脚本・演出が暴力青春映画『ディストラクション・ベイビーズ』(16)で注目を集めた新鋭・真利子哲也監督というタッグで、1クールにわたってオンエアされることに。モヤモヤモヤ~とした寝苦しい3カ月間になりそうですね。

 原作コミックは1990~94年に青年漫画誌「モーニング」(講談社)で連載され、バブル景気で浮かれまくっていた世相に、冷や水を差しまくるような異質な内容でした。小さな文具メーカーの営業部に配属された宮本(池松壮亮)の真っすぐすぎて、超かっこ悪い、痛~い青春の日々が描かれます。

 さて、テレビ版第1話のオープニング、駅のホームで電車を待つ若いOLの姿が映し出されます。宮本にとって憧れの女性となる甲田美沙子(華村あすか)の登場です。入社1年目で仕事が楽しくない宮本は、朝の通勤時に見かける美沙子だけが毎日の楽しみでした。電車の中で同僚たちとの会話を盗み聞きし、美沙子は大手自動車メーカーの受付嬢であることが判明。超美人な美沙子は、ちっぽけな文具メーカーに勤める宮本にとっては高嶺の花。さりげなく声を掛けたいけど、きっかけがつかめません。自分の持てる欲望と情熱をどう形にすればいいのか分からない宮本浩、22歳の新人営業マンでした。

 宮本のうざったさがむっちりみっちりと描かれたのが、職場の同僚たちと繰り出した居酒屋シーンでした。小田課長(星田英利)の面倒見のよさに甘え、愚痴をこぼしまくる宮本。「学校に行ってるうちはよかった。学校を出たら、夢も自信もなくなったなぁ~」と上司に向かってタメ口で愚痴るダメダメな宮本でした。「学校出たらから失う自信を、何か持ってたん?」と関西弁でやんわりと宮本に釘を刺す小田課長ですが、酔っぱらった宮本には馬の耳に念仏でした。「自宅通いのボンボンは生活を考えんでええなぁ」と同期入社の田島(柄本時生)にディスられ、店の中でつかみ合いのケンカに。「何か俺、デカいことやりたいんです~!」と居酒屋で叫ぶ宮本は自己チューな大バカ野郎です。

 翌朝、二日酔い状態で出社する宮本。同僚たちに向かって「デカいことやりたいんです」と叫んだ手前、田島が手渡すスポーツ飲料を飲んでまったりすることは宮本自身が許せません。ホームに立つ可憐な一輪の花・美沙子を見つけるや、ツカツカと歩み寄り、「僕の、僕の名前は宮本浩ですッ!!」とホーム中に響くようなハイトーンボイスで自己紹介するのでした。

 何かデカいこと=通勤電車で見かける美女に声を掛けること、というエピソードにほんの少しでも共感した人は、この先も『宮本から君へ』を見続けるでしょうし、まるで響かなかった人は、さっさとチャンネルを変えるか、SNSの世界に没頭することでしょう。

 まずはバットを振ってみなくちゃ、ボールは前には転がりません。ひどくかっこ悪いスイングでしたが、宮本の振ったバットにボールが当たり、運よくポテンヒットになりました。美沙子と毎朝、電車の中で世間話をする仲になったのです。出社前に超ラブリーなOLとお話ができるという、モテない男にとっては至高の喜びを手に入れた宮本でした。女神・美沙子はさらなる福音を宮本に与えます。「総務部の女の子が宮本さんに会ってみたいって」と合コンすることを持ち掛けてきたのです。俄然、やる気まんまんになる宮本、そして同僚の田島でした。

■美人OLが合コンに連れてきた女友達がつらかった!

 

 通勤中に出会う美人OLと仲良くなり、合コンにまでありつけるという美味しい展開。原作コミックが連載されたバブル時代のイケイケ感を彷彿させるじゃないですか。原作者の新井英樹自身も漫画家になる前は文具メーカーに勤めていたそうですが、バブル時代に流行したトレンディードラマのようなおしゃれな方向には、このドラマはこの先、間違っても転がりません。宮本たちは営業部の新人3人でこの合コンに臨みますが、そこで待っていたのは「女性幹事マックスの法則」でした。

 美人受付け嬢の美沙子がどんなかわいい友達を選抜して連れてくるのか? 浮かれ気分で渋谷の雑居ビル地下にある微妙な雰囲気のパブの扉を開けた宮本たちですが、美沙子が連れてきた女の子たちも微妙なランクでした。ひとりは乗りがよくて合コン向きですが、総務部の裕奈(三浦透子)は全身から暗いオーラを漂わせ、ねっとりとした視線を宮本に注ぐのでした。このメンバーの中では、どうしようもなく美沙子のルックスが際立ちます。無意識なのかもしれませんが、自分がいちばんかわいいことを美沙子はアピールしているようで、男性陣は一抹の侘しさを覚えるのでした。

 楽しいはずの合コンなのに、そこは男の度量の大きさが試される修練の場でした。懸命に場を盛り上げようとする田島。できれば美沙子と2人っきりになりたい宮本ですが、「宮本さんに会ってみたい」と言い出した裕奈のフォローもしなくてはいけません。口数が少ない裕奈は彼女なりに気を遣って、宮本たちのグラスにピッチャーからビールを注ぎ足そうとしますのが、その度にグラスを倒してしまい、「ごめんなさい、ごめんなさい」と泣きながら謝るばかりです。いましたよね、クラスに1人はマジメなんだけど、すっごい不器用な子が。要領よく人生を生きることができない裕奈は、社会人になってもつらい思いをしているのではないでしょうか。宮本や田島たちは、まるで鏡を見せられているようなブルーな気分です。宮本たちももっと要領がよければ、大きな会社に入社していたでしょうから。男の欲望としては美沙子に向かいながらも、心の中では裕奈にシンパシーを感じてしまう宮本でした。

 盛り下がり気味の合コンの雰囲気を変えようと、パブの店長がサービスで大きな鉢に入ったフルーツポンチを運んできました。ここでもやっぱり裕奈がやらかしてしまいます。宮本に上着を渡そうとする裕奈でしたが、宮本の上着のポケットに入っていた小さな包みを誤ってフルーツポンチの鉢の中に落としてしまいます。小さな包みは、「宮本」とサインペンで名前が書かれたコンドームでした。コンドームの包みだけが甘く濡れた、とってもしょっぱい合コンはこうして終わりを告げたのです。

 合コンの後もしばらくは美沙子や裕奈に振り回されることになる宮本ですが、やがて先輩営業マンの神保(松山ケンイチ)と一緒に得意先回りをするようになり、仕事の厳しさと面白さを同時に学ぶようになっていきます。さらには、年上の女性・靖子(蒼井優)との出逢いも待っています。原作コミックでは、宮本と靖子との濃厚なSEXシーンが激しい筆使いで描かれ、思わず読者が引いてしまったほどです。ベッドの上でもやっぱり宮本はクドくて、暑苦しい男なのです。R18映画『愛の渦』(14)でリアルなSEXシーンを見せつけた池松壮亮と、最近は『オーバー・フェンス』(16)や『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)で濡れ場に挑んでいる蒼井優ですが、テレビ版『宮本から君へ』ではどこまで描いてみせるのか興味津々です。

 いかがだったでしょうか、『宮本から君へ』第1話。見終わった視聴者は「だせえよ、宮本」「コンドームをネタに渾身のギャグで切り返せよ」と宮本に向かって叫びたくなったんじゃないでしょうか。そうです、社会人1年生の宮本は実はかつての視聴者自身なのです。仕事や恋愛に失敗した恥ずかしい体験の数々を、テレビの中の宮本はこれからも生々しく再現してみせるのです。あのとき彼女にもっと違う言葉を掛けていれば、あの職場でもう少し要領よく立ち回っていたら……。忘れかけていた記憶のドロドロした部分を宮本は呼び起こすのです。やっぱり、宮本は超うざい奴です。これから、ひどく寝苦しい3カ月間になりそうです。
(文=長野辰次)

吉岡里帆演じるキョドコは死んでしまったのか!? 走馬灯のようにめぐる淡い幸せ『きみ棲み』最終話

 吉岡里帆が連続ドラマ初主演を果たした『きみが心に棲みついた』(TBS系)の最終回の視聴率は8.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)でした。後半では最も高い数字でしたが、全10話をとおして一度も10%台に乗せることはできませんでした。ヒット作とは呼べませんが、数字以上に吉岡演じるキョドコが心に棲みついてしまった視聴者も少なくないのではないでしょうか。『きみ棲み』最終話とキョドコ&星名がドラマ界に残したものについて振り返りたいと思います。

 第9話で漫画誌編集者の吉崎(桐谷健太)から別れを告げられた小川今日子(吉岡里帆)ことキョドコでした。恋愛相手に依存しているというのが、吉崎の言い分でした。シリーズ序盤のキョドコだったら、失恋のショックで会社も休んでいたはずですが、新ブランドの発売日が迫っていたのが幸いでした。仕事に打ち込むキョドコを見て、彼女をずっと見守ってきた先輩の堀田(瀬戸朝香)は「オガちゃん、変わったね」と温かい言葉を掛けるのでした。相性がまるで合わなかった八木(鈴木紗理奈)の「振った男に感謝やな」という憎まれ口にも「はい」と笑って返すことがキョドコはできるようになったのです。

 数々のパワハラ&セクハラがバレて停職処分となったゲス上司・星名(向井理)のいない職場で、キョドコはせっせと働きます。そんなとき、星名の姉・祥子(星野園美)が会社に電話を掛けてきます。星名の母(岡江久美子)が入院したので、星名に誰か連絡してほしいというものでした。

 星名とはすっぱり縁を切ったキョドコですが、自分の母親(中島ひろ子)に別離宣言した後ろめたさもあって、星名の母親が入院している病院へお見舞いに訪ねます。そんな余計な気遣いこそが、キョドコらしさです。病床の星名の母親が言った「優しいのね。あなたみたいな人があの子の周りにいるのなら、よかった」という言葉が胸に沁みるキョドコでした。

 タワーマンションの自宅で酒浸りの日々を送っていた星名に、キョドコは「お母さんに会いに行ってください」と電話で伝えますが、途中で切られてしまいます。結局、星名は母親の見舞いに行くことはありませんでした。新ブランドの発売日という晴れやかな日に、星名の母親はこの世を去るのでした。星名が完全に音信不通になったことに不吉な予感を感じたキョドコは、星名がひとりで行きそうな場所を探して回ります。星名はいました。大学の部室に篭って、練炭自殺をしようとしているところでした。

「キョドコかよ。あんただけだよ、このクソみたいな世界に。じゃあ、いいや。お前もつきあえよ」

 星名は父親を刺殺したのは母親ではなく、実は自分だったことをキョドコに打ち明け、キョドコとの心中を図るのでした。「星名さんをただ助けにきたんです」というキョドコでしたが、2人とも一酸化炭素中毒に陥り、お互いに心のキズを舐め合った大学の部室で重なるように倒れ込んでしまいます。

 

■ドラマを脇で支え続けたムロツヨシ。こちら側の人間に幸あれ!

 

 キョドコが目を覚ますと、そこは天国でした。というか、天国みたいなメルヘンワールドでした。別れたはずの吉崎がギリギリのところで現われ、病院へ搬送してくれたのです。キョドコが一度死んでからは、素晴しいことばかりが次々と起こります。星名は姿を消し、吉崎が担当した漫画家のスズキ先生(ムロツヨシ)は日本漫画大賞を受賞。その受賞パーティーの帰り道、吉崎は路上に転がっていた靴を拾います。見覚えのある靴でした。すっかり元気になったキョドコがまた盛大に路上でコケていたのです。灰かぶり姫のような悲惨な人生を歩んできたキョドコは、こうして無事に吉崎王子との再会を果たしたのでした。晴れてキョドコは純白のウェディングドレスに身を包み、幸せなエンディングを迎えます。結婚パーティーには仲の悪かった母親も出席し、キョドコとは恋敵だった飯田(石橋杏奈)や為末(田中真琴)も笑顔で参加しています。絵に描いたような大団円です。そして最後の最後に「Happy Wedding キョドコのクセに」とメッセージが添えられた星名からの花束が届くのでした。

 星名の練炭自殺騒ぎ以降、いっきに恋愛ファンタジーと化してしまった『きみ棲み』最終話でした。練炭自殺の巻き添えになったキョドコが、死ぬ間際に脳裏に浮かんだ妄想の世界なのかなと思ってしまうほど、キョドコにとってあまりに都合のいい幕切れです。まぁ、このくらいのハッピーエンドを用意しないと、キョドコの暗い人生を3か月間共にした視聴者も後味が悪いわけですけどね。

 ご都合主義で終わった最終話の中で眩しく輝いたのは、ドロドロの物語における一服の清涼剤としてコメディリリーフを務めてきたスズキ先生役のムロツヨシでした。キョドコをモデルにした『俺に届け 響け!』で漫画大賞を受賞したスズキ先生のスピーチは名言でした。

「この漫画は僕と同じような少数の、こちら側の人間の、淡々とした日常を描いたものです。普通から外れた変だと言われる人の、うれしいなぁとか、つらいなぁとか、まぁまぁだなぁとか、そんなことを思って生きている普通の人生です。最初は今の編集担当さんだけでした、分かろうとしてくれたのは。いや、分からなくても、彼が僕の味方でいてくれたから、僕はここまで描くことができたんです」

 スズキ先生にとって、編集担当の吉崎は恋人でもなければ、家族でもなく、仕事上の関係でしかありません。でも吉崎は仕事仲間として、親身になってスズキ先生と向き合い続けました。ドラマ版『きみ棲み』のいちばんのテーマが、スズキ先生のこのスピーチに凝縮されているようです。幼少期に家族の愛情を感じることができなかったキョドコと星名は、出会う人を自分のことを心から愛してくれる人か、そうでないかで選別していましたが、人と人との繋がり方はもっと多様で濃淡があっていいはずです。

 星名とキョドコが部室で倒れているのを救ったのは吉崎でしたが、その後ろにはバーテンの牧村(山岸門人)もいました。星名とキョドコがいそうな場所を思い出したのは、きっと牧村だったのでしょう。キョドコの校内ストリップを盗撮するなど、決して100%の善人ではない牧村ですが、かといって100%の悪人でもないわけです。「お前のことを一度も友達だと思ったことはない」と星名からも牧村は見下されていましたが、牧村は星名が100%の悪人ではないことを分かっていて、助けに走ったのです。

 ひとりの人間を悪人か善人かに簡単に分けられないように、人間の人生もどこからが幸せで、どこからが不幸かと線引きするのは難しいのではないでしょうか。善と悪も、幸と不幸も、とても微妙な紙一重の違いでしかないことをほのめかして『きみ棲み』全10話は終わりを告げるのでした。

 

■視聴者の心に棲みついたキョドコの正体は……?

 

 最後に『きみ棲み』がドラマ界に残したものについて考えてみたいと思います。視聴率的にはいまひとつだった『きみ棲み』ですが、2つの大きな鉱脈を探り当てたのではないでしょうか。ひとつは地上波テレビで、SMテイストなドラマが成立できたということ。吉岡里帆が下着姿やセミヌードになったことが話題となりましたが、吉岡の肌の露出以上に向井理との精神的なサド&マゾヒスティックな関係がドラマを盛り上げたように感じられます。大沢伸一のソロプロジェクトMONDO GROSSOが楽曲提供した「偽りのシンパシー」が流れると、職場が急にエロいムードになる展開は、大人の視聴者をゾクゾクさせるものがありました。

 TBSサイドは、ハリウッドが女性向けにつくったSM映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(15)っぽい世界を意識したのでしょう。ちなみにスズキ先生の描いた漫画『俺に届け 響け!』の作画・監修を担当したのはSMコメディ漫画『ナナとカオル』(白泉社)で知られる甘詰留太先生です。TBSが開発したソフトSM路線、深夜枠かBSドラマとして再挑戦すれば充分成功するのではないでしょうか。

 もうひとつ、『きみ棲み』が掘り当てた鉱脈は、アンチヒーローものには大きな可能性があるということです。向井理演じる星名が、暗い過去を封印して大学や企業内であくどい手を使いながら成り上がり人生を突き進むくだりは、松田優作主演のハードボイルド映画『蘇える金狼』(79)のようなピカレスクな魅力に溢れていました。

 大手芸能プロダクションが幅を利かせている現代のテレビ&映画界では、人気俳優たちの目標設定は、いい作品や面白い役に出会うことではなく、多くのCM契約を結ぶことになってしまっています。多くのCMに出るためには高視聴率ドラマに出演し、好感度の高いキャラクターを演じることが求められます。汚れ役や悪役に挑戦して、演技力を磨きたいという俳優本人の希望は、芸能プロダクションの方針にはなかなか反映されません。

 でも善人だらけのドラマほど、つまらないものはありません。NHKの朝ドラ『ゲゲゲの女房』のヒロインの夫役でブレイクした向井理ですが、同じく朝ドラ出身の国仲涼子と結婚し、いいタイミングでクセの強い星名役がオファーされました。女を利用するだけ利用して、ポイ捨てする星名は女性視聴者から嫌われて当然のゲスキャラクターでしたが、哀しい過去が多くの女性の母性本能を刺激するという非常に美味しい役となりました。星名のような二面性を持ったキャラクターは、今後のドラマでも大いにニーズがあるはずです。

 キョドコに振り回され続けた3カ月間でした。吉岡里帆演じるキョドコが幸せを手に入れてドラマは終わりを迎えましたが、視聴者の中には心の奥にもうひとりのキョドコの存在を感じている人もいるのではないでしょうか。キョドコはもしかしたら、視聴者の心に宿るトラウマのメタファーなのかもしれません。家族とずっと不仲だったり、学生時代の人間関係や別れた恋人のことを今も引き摺ってしまったり、みんなそれぞれ大なり小なりのキョドコを心に抱えているようです。そんなキョドコと、今後どう接すればいいのか。すごくうざいけれど、気になって仕方ない存在。その名はキョドコ。これからも長い長い付き合いとなりそうです。
(文=長野辰次)

吉岡里帆演じるキョドコは死んでしまったのか!? 走馬灯のようにめぐる淡い幸せ『きみ棲み』最終話

 吉岡里帆が連続ドラマ初主演を果たした『きみが心に棲みついた』(TBS系)の最終回の視聴率は8.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)でした。後半では最も高い数字でしたが、全10話をとおして一度も10%台に乗せることはできませんでした。ヒット作とは呼べませんが、数字以上に吉岡演じるキョドコが心に棲みついてしまった視聴者も少なくないのではないでしょうか。『きみ棲み』最終話とキョドコ&星名がドラマ界に残したものについて振り返りたいと思います。

 第9話で漫画誌編集者の吉崎(桐谷健太)から別れを告げられた小川今日子(吉岡里帆)ことキョドコでした。恋愛相手に依存しているというのが、吉崎の言い分でした。シリーズ序盤のキョドコだったら、失恋のショックで会社も休んでいたはずですが、新ブランドの発売日が迫っていたのが幸いでした。仕事に打ち込むキョドコを見て、彼女をずっと見守ってきた先輩の堀田(瀬戸朝香)は「オガちゃん、変わったね」と温かい言葉を掛けるのでした。相性がまるで合わなかった八木(鈴木紗理奈)の「振った男に感謝やな」という憎まれ口にも「はい」と笑って返すことがキョドコはできるようになったのです。

 数々のパワハラ&セクハラがバレて停職処分となったゲス上司・星名(向井理)のいない職場で、キョドコはせっせと働きます。そんなとき、星名の姉・祥子(星野園美)が会社に電話を掛けてきます。星名の母(岡江久美子)が入院したので、星名に誰か連絡してほしいというものでした。

 星名とはすっぱり縁を切ったキョドコですが、自分の母親(中島ひろ子)に別離宣言した後ろめたさもあって、星名の母親が入院している病院へお見舞いに訪ねます。そんな余計な気遣いこそが、キョドコらしさです。病床の星名の母親が言った「優しいのね。あなたみたいな人があの子の周りにいるのなら、よかった」という言葉が胸に沁みるキョドコでした。

 タワーマンションの自宅で酒浸りの日々を送っていた星名に、キョドコは「お母さんに会いに行ってください」と電話で伝えますが、途中で切られてしまいます。結局、星名は母親の見舞いに行くことはありませんでした。新ブランドの発売日という晴れやかな日に、星名の母親はこの世を去るのでした。星名が完全に音信不通になったことに不吉な予感を感じたキョドコは、星名がひとりで行きそうな場所を探して回ります。星名はいました。大学の部室に篭って、練炭自殺をしようとしているところでした。

「キョドコかよ。あんただけだよ、このクソみたいな世界に。じゃあ、いいや。お前もつきあえよ」

 星名は父親を刺殺したのは母親ではなく、実は自分だったことをキョドコに打ち明け、キョドコとの心中を図るのでした。「星名さんをただ助けにきたんです」というキョドコでしたが、2人とも一酸化炭素中毒に陥り、お互いに心のキズを舐め合った大学の部室で重なるように倒れ込んでしまいます。

 

■ドラマを脇で支え続けたムロツヨシ。こちら側の人間に幸あれ!

 

 キョドコが目を覚ますと、そこは天国でした。というか、天国みたいなメルヘンワールドでした。別れたはずの吉崎がギリギリのところで現われ、病院へ搬送してくれたのです。キョドコが一度死んでからは、素晴しいことばかりが次々と起こります。星名は姿を消し、吉崎が担当した漫画家のスズキ先生(ムロツヨシ)は日本漫画大賞を受賞。その受賞パーティーの帰り道、吉崎は路上に転がっていた靴を拾います。見覚えのある靴でした。すっかり元気になったキョドコがまた盛大に路上でコケていたのです。灰かぶり姫のような悲惨な人生を歩んできたキョドコは、こうして無事に吉崎王子との再会を果たしたのでした。晴れてキョドコは純白のウェディングドレスに身を包み、幸せなエンディングを迎えます。結婚パーティーには仲の悪かった母親も出席し、キョドコとは恋敵だった飯田(石橋杏奈)や為末(田中真琴)も笑顔で参加しています。絵に描いたような大団円です。そして最後の最後に「Happy Wedding キョドコのクセに」とメッセージが添えられた星名からの花束が届くのでした。

 星名の練炭自殺騒ぎ以降、いっきに恋愛ファンタジーと化してしまった『きみ棲み』最終話でした。練炭自殺の巻き添えになったキョドコが、死ぬ間際に脳裏に浮かんだ妄想の世界なのかなと思ってしまうほど、キョドコにとってあまりに都合のいい幕切れです。まぁ、このくらいのハッピーエンドを用意しないと、キョドコの暗い人生を3か月間共にした視聴者も後味が悪いわけですけどね。

 ご都合主義で終わった最終話の中で眩しく輝いたのは、ドロドロの物語における一服の清涼剤としてコメディリリーフを務めてきたスズキ先生役のムロツヨシでした。キョドコをモデルにした『俺に届け 響け!』で漫画大賞を受賞したスズキ先生のスピーチは名言でした。

「この漫画は僕と同じような少数の、こちら側の人間の、淡々とした日常を描いたものです。普通から外れた変だと言われる人の、うれしいなぁとか、つらいなぁとか、まぁまぁだなぁとか、そんなことを思って生きている普通の人生です。最初は今の編集担当さんだけでした、分かろうとしてくれたのは。いや、分からなくても、彼が僕の味方でいてくれたから、僕はここまで描くことができたんです」

 スズキ先生にとって、編集担当の吉崎は恋人でもなければ、家族でもなく、仕事上の関係でしかありません。でも吉崎は仕事仲間として、親身になってスズキ先生と向き合い続けました。ドラマ版『きみ棲み』のいちばんのテーマが、スズキ先生のこのスピーチに凝縮されているようです。幼少期に家族の愛情を感じることができなかったキョドコと星名は、出会う人を自分のことを心から愛してくれる人か、そうでないかで選別していましたが、人と人との繋がり方はもっと多様で濃淡があっていいはずです。

 星名とキョドコが部室で倒れているのを救ったのは吉崎でしたが、その後ろにはバーテンの牧村(山岸門人)もいました。星名とキョドコがいそうな場所を思い出したのは、きっと牧村だったのでしょう。キョドコの校内ストリップを盗撮するなど、決して100%の善人ではない牧村ですが、かといって100%の悪人でもないわけです。「お前のことを一度も友達だと思ったことはない」と星名からも牧村は見下されていましたが、牧村は星名が100%の悪人ではないことを分かっていて、助けに走ったのです。

 ひとりの人間を悪人か善人かに簡単に分けられないように、人間の人生もどこからが幸せで、どこからが不幸かと線引きするのは難しいのではないでしょうか。善と悪も、幸と不幸も、とても微妙な紙一重の違いでしかないことをほのめかして『きみ棲み』全10話は終わりを告げるのでした。

 

■視聴者の心に棲みついたキョドコの正体は……?

 

 最後に『きみ棲み』がドラマ界に残したものについて考えてみたいと思います。視聴率的にはいまひとつだった『きみ棲み』ですが、2つの大きな鉱脈を探り当てたのではないでしょうか。ひとつは地上波テレビで、SMテイストなドラマが成立できたということ。吉岡里帆が下着姿やセミヌードになったことが話題となりましたが、吉岡の肌の露出以上に向井理との精神的なサド&マゾヒスティックな関係がドラマを盛り上げたように感じられます。大沢伸一のソロプロジェクトMONDO GROSSOが楽曲提供した「偽りのシンパシー」が流れると、職場が急にエロいムードになる展開は、大人の視聴者をゾクゾクさせるものがありました。

 TBSサイドは、ハリウッドが女性向けにつくったSM映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』(15)っぽい世界を意識したのでしょう。ちなみにスズキ先生の描いた漫画『俺に届け 響け!』の作画・監修を担当したのはSMコメディ漫画『ナナとカオル』(白泉社)で知られる甘詰留太先生です。TBSが開発したソフトSM路線、深夜枠かBSドラマとして再挑戦すれば充分成功するのではないでしょうか。

 もうひとつ、『きみ棲み』が掘り当てた鉱脈は、アンチヒーローものには大きな可能性があるということです。向井理演じる星名が、暗い過去を封印して大学や企業内であくどい手を使いながら成り上がり人生を突き進むくだりは、松田優作主演のハードボイルド映画『蘇える金狼』(79)のようなピカレスクな魅力に溢れていました。

 大手芸能プロダクションが幅を利かせている現代のテレビ&映画界では、人気俳優たちの目標設定は、いい作品や面白い役に出会うことではなく、多くのCM契約を結ぶことになってしまっています。多くのCMに出るためには高視聴率ドラマに出演し、好感度の高いキャラクターを演じることが求められます。汚れ役や悪役に挑戦して、演技力を磨きたいという俳優本人の希望は、芸能プロダクションの方針にはなかなか反映されません。

 でも善人だらけのドラマほど、つまらないものはありません。NHKの朝ドラ『ゲゲゲの女房』のヒロインの夫役でブレイクした向井理ですが、同じく朝ドラ出身の国仲涼子と結婚し、いいタイミングでクセの強い星名役がオファーされました。女を利用するだけ利用して、ポイ捨てする星名は女性視聴者から嫌われて当然のゲスキャラクターでしたが、哀しい過去が多くの女性の母性本能を刺激するという非常に美味しい役となりました。星名のような二面性を持ったキャラクターは、今後のドラマでも大いにニーズがあるはずです。

 キョドコに振り回され続けた3カ月間でした。吉岡里帆演じるキョドコが幸せを手に入れてドラマは終わりを迎えましたが、視聴者の中には心の奥にもうひとりのキョドコの存在を感じている人もいるのではないでしょうか。キョドコはもしかしたら、視聴者の心に宿るトラウマのメタファーなのかもしれません。家族とずっと不仲だったり、学生時代の人間関係や別れた恋人のことを今も引き摺ってしまったり、みんなそれぞれ大なり小なりのキョドコを心に抱えているようです。そんなキョドコと、今後どう接すればいいのか。すごくうざいけれど、気になって仕方ない存在。その名はキョドコ。これからも長い長い付き合いとなりそうです。
(文=長野辰次)

愛された記憶のない人は一生幸せにはなれない? キョドコと星名が地獄へ墜ちる『きみ棲み』第9話

 3カ月にわたって慎重に築いてきた積み木の塔が、完成直前に大崩壊してしまった。そんな衝撃です。恋に仕事にトライ&エラーを繰り返しながら、少しずつ社会人として成長しつつあった吉岡里帆演じるキョドコでしたが、恋人である吉崎の口からは別れの言葉が飛び出したのでした。最終回を直前に控え、風雲急を告げる『きみが心に棲みついた』(TBS系)の第9話を振り返りましょう。

 小川今日子(吉岡里帆)は下着メーカーに勤めるOLです。子どもの頃から母親(中島ひろ子)にも、学校でも無視され続けてきました。自分に自信が持てず、いつも言動が挙動不審なため「キョドコ」と呼ばれてきました。そんなキョドコにも、漫画誌編集者の吉崎(桐谷健太)という誠実な恋人がようやくできたのです。キョドコは大学時代からずっと精神的に依存してきた会社の上司である星名(向井理)と手を切るために星名のマンションへ向かったのですが、その様子を職場の同僚である飯田(石橋杏奈)に盗撮されてしまいます。

 吉崎は匿名で郵送されてきた映像データを再生し、キョドコが星名に連れられてマンションへ入っていく姿を見てしまいました。第3話で起きたキョドコの下着姿でのランウェイウォーキング騒ぎ、吉崎が解決したばかりの大学時代の校内ストリップ映像をめぐるトラブルに続く、衝撃映像です。キョドコのあまりの脇の甘さには唖然とさせられます。我慢強い吉崎も忍耐の限界に達していました。漫画家のスズキ先生(ムロツヨシ)とのネームの打ち合わせに集中することもできません。

 夜遅くにキョドコのアパートを訪ねた吉崎は、星名のマンションに行ったことを黙っていたキョドコに本音をぶつけます。「仕事って嘘ついて、他の男と会って。俺は今日子の何を信じればいいの? おかしいだろ? 言ってることと、やってることが無茶苦茶なんだよ」。あまりにも正論です。全視聴者がキョドコに対して感じていたことを、吉崎は正しくキョドコ本人に伝えるのでした。

「俺たち付き合ってるんだよね? いや、怒ってるわけじゃないんだ。でも実際は、嫉妬で頭の中がどうかなりそうなんだよ」

 いつも自信満々で自分が正しいと思ったことしかやらない吉崎ですが、その夜はキョドコを前にして頭を掻きむしり、悶え苦しむ姿がありました。キョドコと交際するようになってから、吉崎は弱々しい男に変わってしまったようです。

 吉崎の誤解を解こうと、キョドコは小さい頃から母親の愛情を感じることがなかったこと、大学時代の星名がそんな自分を初めて受け入れてくれた存在だったことを打ち明けるのでした。吉崎から「お母さんとの関係を克服しないと、また星名さんのところに戻るんじゃない?」と指摘されたキョドコは早速有休をとり、5年ぶりに日吉にある実家を訪ねるのでした。里帰りなのに、キョドコはひどく緊張してしまいます。

 長女であるキョドコがひとり暮らしを始めて以来、久々に実家に戻ってきたのに、母親はとても冷ややかです。お茶も出さずに、「(キョドコの妹の)菜穂子が友達を連れて来るから、その前に帰ってちょうだい」と、あまりにもつれない言葉です。そんな母親に、子どもの頃から感じてきた不満をぶつけるキョドコでした。親から愛された記憶のないキョドコは、家庭でも学校でも自分の居場所を見つけることができなかったのです。「何を今さら」と聞く耳を持たない母親に、キョドコは星名に続いて決別の言葉を吐くのでした。

「私のことを嫌いでもいいけど、せめて親なら隠してほしかった。小さい頃から、ずっと傷ついてきたんだよ。でも、私は前に進むから。昔の自分とは違うから。それを言いに来ただけ」

 言うべきことを言い、実家を後にするキョドコでした。星名の10年ごしの洗脳からも、親は子どもを無条件で愛するものだという常識という名の呪縛からも解き放たれたキョドコでした。新ブランドの成功と恋人・吉崎を手に入れたことで、キョドコは自分に自信が持てるようになったのです。これで、すべてのケジメはついた。あとはもう、吉崎の胸に飛び込んでいくだけ。そう確信していたキョドコでしたが……。

 

■この世で最もつらく、哀しい誕生日

 

 一方、会社では星名のこれまでの悪行の数々が社内メールとなって暴露され、大問題となっていました。人事部の部長(阿南健治)がキョドコたち女子社員を会議室に呼び出し、星名のパワハラ&セクハラ被害の実態について聞き取り調査を行います。この席で爆弾発言をしたのは、それまでずっと星名のことを慕ってきた飯田でした。会社でエリートコースを驀進中の星名は、実は少年時代は父親から虐待されていたこと、同級生たちからもイジメられていたこと、母親は殺人罪で服役していたこと、星名は中学のときに顔を整形手術して別人になったこと。星名の過去をすべて知った飯田が、星名の企業内での生殺与奪権を握っていたのです。

 飯田が星名のセクハラ被害の証拠として開示したのは、「愛のないセックスほど興奮する」という星名の名台詞が記録されたICレコーダーでした。つい数日前までは星名への執着を見せていた飯田ですが、星名が自分には心を開かないと悟るや、星名が地獄へ墜ちていく様子を見届ける立場へとポジションチェンジしたのでした。飯田の心の中では、星名への愛情が憎しみへと反転してしまったのです。

 キョドコが下着姿でランウェイウォーキングした件も、星名に強要されたのではないかと聞き取り調査で取り上げられますが、キョドコはなぜかこれを否定します。最終的に判断したのは自分だった、断ることのできなかった自分に非があると自己批判するキョドコでしたが、この言動が取り返しのつかない悲劇を呼び寄せてしまいます。

 折しも、この日はキョドコの28歳の誕生日でした。母親、そして星名とのドロドロの過去を断ち切ったキョドコは、吉崎にプレゼントされたネックレスをつけて吉崎のマンションを訪ねます。多分、バッグの中にはお泊まりセットも忍ばせていたことでしょう。ところが2人だけの甘い甘い誕生日の夜とはなりません。吉崎からの贈り物は、キョドコの誕生日を祝うものではなく、「もう別れよう」という冷たい言葉でした。聞き取り調査で星名のことを断罪しなかったキョドコのことを、星名を庇ったと吉崎は解釈したのです。キョドコがいくら「私が好きなのは吉崎さんだけ」と主張しても、もう吉崎の心の中にはキョドコの居場所はどこにもないのでした。

「もし、この先も付き合っても、それは恋愛じゃなくて、依存する相手が俺に変わるだけじゃないかと思う」と吉崎は冷静に語るのでした。ここにきて吉崎は、キョドコへの想いは実は珍獣のようなキョドコに対する好奇心と暗い過去に悩む弱者に対する同情心だったことに気づいたのでした。吉崎の真面目さが裏目に出てしまいます。恋愛にはいろんな形があるはず。言ってみれば、恋愛のゴールのひとつでもある結婚にも、精神的もしくは経済的な依存が含まれるケースは多いのではないのでしょうか。お互いに完全に自立している男女ならば、一緒に暮らす必要はありません。でも、曲がったことが嫌いな吉崎は、そのことが受け入れられなかったのです。

 吉崎に励まされ、ここまで積み木の塔を懸命に登ってきたキョドコにとっては、いきなりハシゴを外されたような驚きしかありません。いちばん信頼していた吉崎によって、キョドコが登っていた積み木の塔はジェンガのように根底から突き崩されてしまったのです。すっかり星名のことを見限った飯田が「小川さん、すごいね。地獄まで星名さんと一緒に墜ちていくつもり?」と笑っていたとおりの展開となってしまいます。

 結局、子どもの頃に親から愛された記憶のない人間は、どれだけ努力を重ねても、本当の愛を手に入れることができないのでしょうか? 人間はその生い立ちに、一生苦しみ続けなくてはいけないのでしょうか? 漫画家のスズキ先生が言うところの「あちら側の人間」は「こちら側の人間」とは心から交わることはできないのでしょうか?

 せっかく、第8話で視聴率7.9%(ビデオリサーチ、関東地区調べ/以下同)まで盛り返したものの、キョドコの28歳の誕生日があまりにも悲惨すぎたためか、第9話は7.0%と再びダウンしてしまいました。支離滅裂な言動で吉崎だけでなく視聴者も惑わせてきたキョドコですが、最終回はどんなサプライズを見せてくれるのでしょう。星名と一緒に地獄の底まで転げ落ちるのか、吉崎を翻心させることができるのか、それとも……。キョドコ最後の決断に注目が集まります。
(文=長野辰次)

ゲスマニアたちが歓喜した向井理の外道っぷり!! 吉岡里帆が泥棒猫扱いされる『きみ棲み』第8話

 いやんいやんも好きのうちと言いますが、吉岡里帆演じるキョドコのあまりの挙動不審ぶりが気になって、ついつい火曜の夜10時になるとTBSにチャンネル設定してしまう自分がいます。吉岡里帆&TBSの思うツボ状態ですね。そんな『きみが心に棲みついた』(TBS系)も、最終回まで残すところ2話のみとなりました。ロストヴァージンを果たしたキョドコがどうなったのか、第8話をプレイバックしてみましょう。

 漫画誌編集者・吉崎(桐谷健太)の手によって、10年間にわたって貞操帯として機能してきたネジネジストールをついに解除された小川今日子(吉岡里帆)ことキョドコでした。勤務先の下着メーカーではデザイナーの八木(鈴木紗理奈)と堀田(瀬戸朝香)を中心にした新ブランドの第1弾ランジェリーの発表会が開かれ、大盛況。処女を捧げた吉崎からは、バレンタインのお返しにネックレスをプレゼントされました。恋に仕事に、キョドコは絶好調です。

 ところが、好事魔多しです。これまでの暗かった28年間の人生をストールと一緒に脱ぎ捨てたキョドコは全身から幸せオーラを発散させていたのですが、そのことで墓穴を掘ってしまいます。せっかく新ブランドチームの素材担当としての責任を担っていたものの、人気タレントの山藤アイカ(石田ニコル)とのコラボ企画のスタッフへと異動を命じられてしまうのです。キョドコが調子に乗っているのが面白くない、ゲス上司・星名(向井理)の陰謀でした。

 せっかく軌道に乗り始めた新ブランドのチームから離れたくないキョドコは、タクシーに乗ろうとしていた星名を見つけ、強引に同乗します。まさに飛んで火に入る夏の虫とは、このことです。「吉崎と別れるなら、上と掛け合ってもいい」「あいつじゃ、物足りないと思うようになる」とタクシーの後部シートで星名に迫られた挙げ句、吉崎からプレゼントされたばかりのネックレスを引きちぎられてしまいます。

 キョドコはなぜ懲りもせず、星名と2人きりになるシチュエーションを自分から作ってしまうのでしょうか。まったく学習しようとしないキョドコの行動には空いた口が塞がりません。人間は同じ過ちを何度も繰り返す生き物であるという、典型的なサンプルだとしか言いようがありません。

 星名からの「最後に1日、俺と付き合えよ。それで全部終わりにしよう」という提案にまんまと応じるキョドコでした。もちろん、交際相手である吉崎には内緒です。会社の休日、大学時代に通ったボロボロの定食屋を店先で冷やかした後、ハンバーガーをテイクアウトして、野球場へと向かう星名とキョドコ。懐かしい風景に、キョドコは星名を慕っていた大学生の頃にしばしタイムスリップするのでした。ガラガラの客席、キョドコの膝枕で昼寝する星名の無邪気な寝顔には、いつものサディストぶりは微塵も感じられません。キョドコが気を許した瞬間を狙って、星名はキョドコの唇を奪うのでした。キョドコの唇からは、きっと食べたばかりのハンバーガーの肉汁の味がしたことでしょう。

■「何もしないから」は「何かすると思う」の隠語

 

 胸騒ぎの球場を後にした星名は、キョドコを連れて立ち呑み屋へと入っていきます。コップ酒をあおりながら、星名は自分の秘密をキョドコにだけ打ち明けるのでした。星名の母親(岡江久美子)は不倫相手だった星名の実の父親を殺害し、刑務所暮らしを送っていました。大学時代、星名がひとりぼっちで泣いている姿を見て、キョドコは「私、星名さんのために生きます」と誓ったことがあります。星名が泣いていたのは、刑務所にいた母親が自殺未遂騒ぎを起こしたことが原因でした。キョドコはずっと自分は星名に支配されてきたと思い込んでいたのですが、本当は星名がキョドコに依存していたのでした。そのことに、キョドコは初めて気づきます。

 自分を洗脳し、ずっと苦しめ続けてきた星名ですが、大学時代の一時期とはいえ、子どもの頃から孤独だったキョドコに生きる希望を与えてくれた存在だったことは確かです。肉体関係こそなかったものの、キョドコが心の底から好きになった初めての男性でした。酔った星名をこのままひとりで帰すのが心配になったキョドコは、ほいほいと星名のマンションまで付いて行くのでした。何度も繰り返しますが、キョドコには学習能力がまるでありません。

 大学時代から星名は女遊びが派手でしたが、なぜかキョドコにだけは手を出しませんでした。そんな星名から「上がれよ、コーヒー淹れるから。何もしねえよ」と言われ、キョドコは部屋へと入っていきます。ちなみに「何もしない」という誘い言葉は、「多分、何かすると思うよ」の隠語です。キョドコも28歳の社会人なので、さすがにそのことは分かっていたはずです。案の定、部屋に入ったキョドコはソファーで星名に押し倒されるのでした。

 これが大学時代、いや数週前までのキョドコだったら、星名に抵抗することなく、そのまま受け入れていたことでしょう。でも、今のキョドコには吉崎という交際相手がいます。さすがに吉崎を裏切ることはできず、ギリギリのところで星名を拒絶するキョドコでした。ずっとキョドコにとってのご主人さまだった星名ですが、いつの間にかキョドコにお預けを喰らわせられる立場に逆転していたのです。「冗談だよ」と軽口を叩くのが、今の星名には精一杯でした。でも、キョドコとこの日SEXしていたら、星名はきっと行為中に大号泣していたことでしょう。

 キョドコにSEXを拒まれ、さらには「もう、星名さんとは分かりあえる日はこないと思います」と最終通告までされてしまいます。母親からも手紙で「もう私とは関わらないでください」と告げられていた星名には、誰も依存できる相手がいません。広くて、おしゃれなマンションでひとりぼっちになった星名は、「ハハハ、ハハ……。死にてぇ……」とつぶやくことしかできませんでした。

 星名のマンションを出たキョドコには、待ち人がいました。吉崎ではなく、職場の同僚である飯田(石橋杏奈)です。用済みとなって星名に棄てられた飯田は、星名のストーカーと化し、キョドコがマンションから出てくるのをじっと待っていたのです。「弱いふりして、他人の男に手を出して、どこまで卑怯な女なの!?」と見た目はお嬢さんっぽい飯田は髪を振り乱し、ハンドバッグでキョドコをバンバン叩きまくるのでした。どうも、“マゾヒスト”キョドコはいろんな業を呼び込んでしまう体質のようです。「絶対、地獄に突き落としてやる~ッ!!」という飯田の叫び声が、夜の街に響き渡る『きみ棲み』第8話のラストでした。

 さらに第8話のエンディングでは、編集部でお仕事していた吉崎のところに、郵送で映像データが届けられます。キョドコの校内ストリップに続く、衝撃映像第2弾です。映像データを吉崎が会社のパソコンで再生すると、そこには星名と連れ立ってマンションへと消えていくキョドコの姿が。交際疑惑が発覚した芸能人は、よく「部屋で一緒にゲームしていた」「演技論について語り合っていた」みたいな言い訳をしますが、キョドコは吉崎にどう説明するのでしょうか?

 デーモン星名こと向井理が、女心を弄ぶサディストぶりと母犬とはぐれた子犬のような心細そうな表情との二面性を存分に見せつけた第8話。次週予告を見ると、星名のパワハラ&セクハラが社内でようやく問題になるようです。第1話の視聴率9.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)をピークに、数字的にはなだらかに下降し、第7話では6.5%まで下がってしまいましたが、第8話は7.9%と初めて盛り返しを見せました。世の中にはイケメンの外道っぷりを、さらにはその破滅する姿までをたっぷり楽しみたいというゲスマニアがかなり多いと思われます。残り2話、向井理がゲス野郎の断末魔をどう見せてくれるのか楽しみで仕方ありません。
(文=長野辰次)

キョドコこと吉岡里帆、涙のロストヴァージン!! 巻きストール=貞操帯だった『きみ棲み』第7話

 下劣男に神の制裁!? ついに結ばれる2人──。そんなサブタイトルが謳われた『きみが心に棲みついた』(TBS系)の第7話。吉岡里帆演じるキョドコがロストヴァージンする日がやってきました。「マジかよ?」と思わず星名の口調でつぶやいた視聴者もいるかと思います。自己評価の極端に低い女子・キョドコはいかにして処女を喪失したのでしょうか。『きみ棲み』第7話を振り返りましょう。

 小川今日子(吉岡里帆)、通称キョドコは下着メーカーに勤める28歳のOLです。職場の上司である星名(向井理)とは大学時代にこじらせた関係でしたが、異性との交際経験はこれまでありませんでした。第6話で星名がプレゼン会議をうまく誘導したことで、キョドコが参加している新ブランドが正式に発足します。堀田(瀬戸朝香)と八木(鈴木紗理奈)のデザイナー2人体制と決まり、職場のみんなは万々歳です。プロジェクトから外された飯田(石橋杏奈)を除いては。

 職場での自分の居場所をようやく確保したキョドコでしたが、恋愛に関してはまだまだキャリア不足です。漫画誌編集者の吉崎(桐谷健太)と久しぶりにディナーデートしますが、吉崎と元カノである人気作家・成川(中村アン)が最近また懇意にしていることが気になって食事が楽しめません。恋愛とは相手の過去やら周囲の思惑やら、いろんなものから目を閉じて先へ先へと渡る綱渡りのようなもの。でも、キョドコの脳裏には華やかさを振りまく成川の存在がちらついてしまい、吉崎との心の距離を感じてしまうのでした。

 家族愛に溢れ、仕事にも熱心な吉崎ですが、担当する漫画家・スズキ先生(ムロツヨシ)が連載中の代表作『俺に届け 響け!』のテレビドラマ化の話を喜んでいないことが気になっています。『届け 響け』に登場する女装男子を普通の女の子にしたいとテレビ局側が言ってきたことをスズキ先生は納得できずにいたのです。女優デビューさせたい新人がいるというのがテレビ局側の言い分でした。新人を女優デビューさせたいって、つまり芸能プロダクションのゴリ押しってことですよね。大手芸能プロダクションのゴリ押しには、TBSも手を焼いているのでしょうか。しれっと自虐ネタが盛り込まれた『きみ棲み』第7話です。

 どこまで相手の立場になって親身に考えることができるか。そんな問題を突き付けられた吉崎は、さらなる衝撃映像にショックを受けます。吉崎を慕う後輩編集者の為末(田中真琴)がバーテンの牧村(山岸門人)から渡された映像には、大学時代のキョドコが部室でストリップしている姿が記録されていました。交際相手の知られざる過去を知った吉崎、どーする!?

 為末はキョドコがいかにビッチな女であるかを訴えたかったものの、これは完全に裏目に出てしまいます。過去のストリップ映像にキョドコが苦しんでいたことを理解した吉崎は、悪意渦巻く牧村のバーへとカチコミを掛けるのでした。「俺も星名もあんたが嫌いなんだよ」「目の前に悪意があったら、どこまでいい人でいられるんだろうなって」と薄ら笑いを浮かべながら牧村は挑発します。キョドコがいつも首に巻いているネジネジストールは大学時代の星名が巻いたものであることも明かします。キョドコの心は、今も星名に支配されたままだと告げるのでした。

 牧村は雑魚キャラであって、本当の敵ではありません。人間は生まれた環境や過去から逃れることができない―。そんな大きな命題に吉崎は立ち向かうのでした。折しも、元凶・星名もバーへと現れ、「若気の至りでした。まさか小川さんが本当に脱ぐとは」とまるで心のこもっていない謝罪をするのでした。でも、牧村の挑発にも、星名の逃げ口上にも吉崎は惑われません。キョドコをはじめ、みんなが吉崎のことを「いい人」と言いますが、今の世の中は「いい人」なだけで生きていけるほど甘くはないのです。牧村が10年前の盗撮映像を見てニヤつき、キョドコがひとりで落ち込んでいる間も、「いい人」でいるために人知れない努力を吉崎は払ってきたのです。暴力に訴えることなく、吉崎は懐に用意しておいた武器を取り出すのでした。

 

■原作とドラマ版では異なるキョドコの処女喪失相手

 

 場面変わって、キョドコのアパート。夜更けに予期せぬ客がドアをノックします。吉崎でした。校内ストリップをやらかした理由を吉崎に打ち明けることができずにいたキョドコですが、吉崎は過去を問いただすことなく一枚の書類を差し出すのでした。それは星名たちと交わした誓約書で、動画はすべて消去すること、脅すようなこともしないと明記されていました。「もう過去に怯える必要はない」と断言する吉崎には、後光が差しているかのようです。キョドコにとっては、神さま、仏さま、吉崎さまです。

「私、幸せです。今、死んでもいいくらい」と泣きながら喜ぶキョドコを、「今は困る」と吉崎は優しく押し倒します。このシチュエーションで、やるべきことはただひとつです。吉崎はキョドコの知恵の輪みたいにネジネジされたストールをほどき始めます。キョドコにとっては、このネジネジストール=貞操帯でした。星名によって装着された貞操帯が10年の歳月を経て、ついに外される瞬間を迎えたのです。「あっ……」「ダメ?」「ダメじゃないです……」というキョドコと吉崎のやりとりが、妙にエロティックに響いて聞こえる第7話のクライマックスでした。

 原作ではキョドコがロストヴァージンした相手は大学時代の牧村でしたが、牧村との初SEXエピソードの代わりにドラマでは校内ストリップが描かれていたので、キョドコの初体験の相手は晴れて吉崎となったのでした。地上波テレビなので露骨なベッドシーンはなく、ストールをほどかれたキョドコが吉崎のキスを受け入れ、なすがまま状態になった後は、あっさり翌朝を迎えます。出社したキョドコを見て、堀田や八木たちは驚きます。それまでずっと巻いていたネジネジストールをキョドコはしていなかったからです。ずっとストールで隠されていた首や胸元が露出しただけで、キョドコのイメージがずいぶんと変わるのでした。メガネっ子アイドルとして売り出した時東ぁみが「裸になるより、メガネを外すほうが恥ずかしい」と言いながらセミヌード写真集を出したことが、なぜか思い出されました。

「私、女の喜びを知りました」と職場のみんなに言わんばかりの勝ち誇った表情のキョドコ。彼女の首にストールがないことに気づいた星名は大ショックです。「マジかよ?」とひとりごちながら、自分が考案した貞操帯を外したキョドコの解放された姿に目を白黒させるのでした。

 落ち込む星名の心理状態に比例するかのように、視聴率は第6話の6.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)から6.5%へとさらにダウンしました。第7話のエンディングでは、殺人罪で服役していた星名の母親(岡江久美子)に星名のストーカーと化した飯田が接近するシーンが映し出されました。第8話の予告では、星名は「死にてぇ……」としょぼくれています。星名の呪縛からキョドコが解放されたのと同時に、星名はこれから転落人生を転がり落ちることになりそうです。破滅へと向かうデーモン星名にとって、“いちばんの味方”は一体誰になるのでしょうか? 幸せを手に入れたキョドコ以上に、星名が滅びの美学をどう見せてくれるのかがとても気になります。
(文=長野辰次)

吉岡里帆演じるキョドコの支離滅裂さに唖然呆然!? 向井理がキラキラ輝き出した『きみ棲み』第6話

 キョドコのキョは、恐怖のキョ! 支離滅裂な言動で周囲の男たちを散々に振り回す世にも恐ろしきヒロインとは、吉岡里帆演じる小川今日子ことキョドコに他なりません。キョドコのみならず、『きみが心に棲みついた』(TBS系)には心の歪んだキャラクターがやたらと多く、恋愛ドラマというよりはサイコサスペンスを観ているかのように背筋がゾゾッとさせられます。今週もまた、「キョドコ、それは違うだろ!!」と全視聴者がツッコミを入れてしまう火曜の夜がやってきました。まずは『きみ棲み』第6話を振り返ってみましょう。

 下着メーカーに勤める小川今日子(吉岡里帆)、通称キョドコは、野外BBQで上司である星名(向井理)とこじらせた関係だった過去が明かされます。ひとりでBBQ会場を去ったキョドコでしたが、追い掛けてきた漫画誌編集者の吉崎(桐谷健太)と初キスを交わし、ついに交際することに。かつてなくウキウキ気分のキョドコが出社する第6話の始まりです。

 一方、キョドコがアシスタントを務めている新プロジェクトのデザイナー・八木(鈴木紗理奈)ですが、大変な窮地に追い込まれます。新ブランド立ち上げの責任者である池脇部長(杉本彩)から、もう1人のデザイナー・堀田(瀬戸朝香)のサポートに八木は回るように言い渡されます。最終プレゼンを目前に控え、何と理不尽な!!

 実は池脇部長にとって八木は、10年前に米倉課長をめぐって火花を散らし合った恋敵だったのです。八木と米倉課長との社内恋愛を面白く思わない池脇部長は、八木をメンズインナーへと異動させたという因縁がありました。今回も最終プレゼンもしないまま、八木に再び煮え湯を呑ませようと企んでいたのです。下着メーカーって女性社員同士のバトルがすごいんでしょうか? 今年の入社希望者数に影響が出ないかちょっと心配です。

 あまりに露骨な池脇部長のパワハラぶりに、新ブランドのデザイナーの座を八木と争う堀田も我慢なりません。池脇部長の指示に従って荷物を片付け始める八木に向かって、「逃げるんだ、メンズに異動になったときみたいに」「つべこべ言わずに、新しいデザインを描きなよ」とハッパを掛ける堀田でした。吉崎のことで浮かれていたキョドコも動きます。できれば顔を合わせたくない星名のもとに出向き、「最終プレゼンをやらせてください」と懇願するのでした。そんなキョドコに対し、「お前、強気だな。吉崎さんと付き合ってるんだって?」と星名はキョドコがあたふたしてしまうツボをピンポイントで責めるのでした。調教師・星名は、Mっ子・キョコドのことはすべてお見通しです。

 第6話の中盤からは、もうデーモン星名の独壇場となります。ついに始まった新ブランドの最終プレゼン。八木チーム、堀田チーム、共に完成したばかりの新作ランジェリーで合否を競うのでした。ところがジャッジを下す池脇部長は、まるで興味がなさそう。八木チームのサンプルを一瞥しただけで「やっぱり堀田のデザインがいいわ。八木には重荷じゃないかしら」とプレゼン勝者を一方的に堀田へ決めようとするのです。これに「待った!」を掛けたのは勝者に選ばれた堀田でした。最終プレゼンの直前に、堀田と八木はサンプルをこっそり交換していたのです。池脇部長が「革新的だわ」と絶賛したサンプルは、八木がデザインしたものだったのです。

 堀田の種明かしに動揺する池脇部長は、開発室長である星名に救いを求めますが、このときこそデーモン星名の冷たい魅力が炸裂します。

「プロジェクトを統括する人間が、デザインの中身でなく、人間で判断していたことを私は残念に思います」

 かねてより報復人事で悪評の高かった池脇部長を、プレゼン会議の場でばっさりと斬り捨ててみせる星名でした。会社の上層部にはすでに池脇部長の不正ぶりを伝えていました。今回のデーモン星名はダークヒーローのごとく超かっこいい存在です。あえなく池脇部長は現場からの退場を余儀なくされ、新ブランドは堀田と八木の2人体制で発足することに決まります。

■天使と悪魔の顔を持つ男、その名は……!?

 

 池井戸ドラマの主人公のような大活躍を見せた星名でしたが、新ブランドの誕生を一緒に喜ぶ相手はいません。最終プレゼンが終わったことで久しぶりに吉崎に会いに行こうとするキョドコを呼び止め、いつもの星名らしくない庶民じみたラーメン店へ2人で入っていくのでした。吉崎という彼氏ができたキョドコですが、最終プレゼンの根回しをしてくれた星名に対する感謝の気持ちもあり、仲良くラーメンをすすることに。

 星名のことを「悪魔のような人」だと嫌っていたはずのキョドコなのに、この日は星名が優しい顔を見せたことから、ついつい大学時代の思い出に花を咲かせてしまいます。結局、星名の支配から完全離脱することはできないキョドコでした。これまで星名への依存から抜け出そうと努力してきたキョドコを見守ってきた視聴者は唖然呆然です。キョドコは笑顔で「今日は私が奢ります♪」とラーメンの替え玉にギョウザまで追加注文しています。職業ドラマとして展開した『きみ棲み』第6話でしたが、本心とは異なる不可解な行動をしてしまう人間の内面の多面性を描いた実に興味深いエピソードではないでしょうか?

 星名の悪魔のような魅力はこれだけでは終わりません。星名に再び心を開いたキョドコでしたが、星名は甘い飴をたっぷりキョドコに舐めさせた後には、しっかりお仕置きを用意していました。人気作家・成川(中村アン)が吉崎と夜遅くまで一緒にいるインスタグラム画像をキョドコに見せつけるのでした。星名に替え玉を強要するなど、調子に乗っていたキョドコがたちまちギャフン顔になるのを、星名は心から楽しみます。

 星名の留守中にマンションに上がり込み、「母親直伝のシチューなんです」と手料理を作って奥さんぶる飯田(石橋杏奈)にも、星名は冷たいムチを振るいます。飯田に預けていたマンションの合鍵を返させた挙げ句に、「僕、愛のないセックスほど興奮しちゃうようです」と田舎のお嬢さん育ちの飯田に言い放つのでした。『君が心に棲みついた』という題名ですが、視聴者の心に棲みついてしまったのは、天使の顔と悪魔の顔を持つ二重人格者・星名なのかもしれません。

 視聴率は第4話・第5話の7.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)からさらにポイントを下げ、過去ワーストの6.9%に。登場キャラクターたちの一貫性のない行動に、視聴者も付いていくのが大変です。予告を見ると第7話では殺人罪で刑務所送りになっていた星名の母親がついに登場し、さらにはキョドコの処女喪失シーンも用意されているようです。大学時代の星名とキョドコに肉体関係がなかったというのも驚きですが、まだまだサプライズが残されているようです。

 星名に棄てられた飯田、狙っていた吉崎をキョドコに奪われた為末(田中真琴)、星名を憎むあまりに心を病んでしまった一ノ瀬(西村元基)といったサブキャラたちの伏線は最終回までに回収できるのでしょうか? キョドコも『きみ棲み』の後半戦も、絶望という名のクライマックスへ雪崩れ込むことになりそうです。
(文=長野辰次)