世界第2位の映画大国に自由はない! 突如公安が乗り込んできて検閲! 中国映画1兆円市場・真の良作

――映画の本場アメリカに迫る勢いで世界随一の映画大国になりつつある中国。しかし、そこには政府による「検閲」という他国にはない事情が横たわっている。この検閲をくぐり抜けるべく、かつて若手映画人たちは死闘を繰り広げていたが……。

 2018年、中国における映画の興行収入は609億元(約9700億円)を記録した。12年には、日本と同程度の2000億円強という市場規模だったものの、わずか6年でその規模は5倍近くに急拡大。世界最大の映画大国である北米の1兆2000億円を抜き去るのも時間の問題とみられている。

 そんな映画大国に成長した中国の映画産業において、いまだ大きな壁として横たわっているのが「検閲」という制度。グーグルやフェイスブック、ツイッターといったサイトへのアクセスを遮断しているインターネット上の検閲は有名だが、映画においても、検閲によって暴力描写や同性愛描写、そして天安門やチベットをはじめとする政治問題などを描くことは徹底的に禁止されている。

 いったい、中国における映画検閲とはどのような仕組みになっているのだろうか? そして、映画関係者は、どのようにして厳しい検閲をくぐり抜けているのだろうか?

 検閲に触れる前に、まずは、中国映画産業の現状について確認してみよう。

 かつては中国の庶民にとって贅沢な娯楽であった映画鑑賞だが、近年の急速な経済成長に伴う生活水準の向上によって、観客の数も爆発的に増加。特に、ここ数年は全国あちこちにシネコンが建設され、スクリーン数は中国全土で6万にまで膨れ上がっている。この数字は、アメリカの4万スクリーンを抜き去り世界一。このような同国の「映画バブル」はすでに、日本でも話題となっている。作品別の興行収入では、1位を獲得した中国映画『オペレーション:レッド・シー』は36・5億元(約589億円)、外国映画でも『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』が23・9億元(約386億円)『ジュラシック・ワールド/炎の王国』が16・9億元(約273億円)というまさにケタ違いの興行成績をあげており、このうち、中国国外の映画会社に対しては興収の25%を分配する取り決めが行われている。

 そんな爆買いならぬ「爆見」状態の中国の映画市場に対して、ハリウッドの映画関係者は熱視線を注いでいる。近年製作された映画のうち少なくない作品が中国市場に食い込むために、さまざまな方法を駆使しているのだ。『映画は中国を目指す─中国映像ビジネス最前線─』(洋泉社)などの著書がある北海学園大学教授・中根研一氏は中国映画に対するハリウッドの姿勢を次のように解説する。

「以前はハリウッド映画において、中国人俳優は端役程度の存在として起用されることが多かったのですが、近年は、ストーリーにしっかり絡んだ役柄で登場することが増えていますね。16年1月に中国企業、大連万達グループに買収されたレジェンダリー・ピクチャーズが制作を手がけた『パシフィック・リム:アップライジング』ではジン・ティエン、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』ではチャン・ツィイーといった中国人女優が作品の中でも重要なキャラクターを演じ、中国の観客に対してアピールをしているほか、マーベル・シネマティック・ユニバースでは、初のアジア系スーパーヒーローを主人公とする『シャン・チー』を準備しています。ハリウッドの中にある出演者の民族的多様性を重視する流れにも後押しされ、主要登場人物としての中国人俳優の起用がかつてよりも明らかに多くなっていますね。

 また、作品の内容だけでなく、中国国内で展開されるプロモーション活動も、以前に増して活発化しています。19年だけでも、『デッドプール2』、『アベンジャーズ/エンドゲーム』、『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』、『Xメン/ダーク・フェニックス』といった大作映画の監督やキャストが映画の公開前に訪中し、サービス過剰なほどさまざまな話題作りのイベントに積極的に参加。また、昨年大ヒットを記録した『アクアマン』や、今年公開の『スパイダーマン/ファー・フロム・ホーム』などは、本国よりも早い封切り日を設定しています」

 しかし、中国市場に参入しようともくろむ外国映画の前に立ちはだかるのが、中国政府が設定する「映画輸入制限」という制度。中国では、年間に上映される外国映画の本数が当局によって決められており、18年に公開されたのはわずか40本。10年代を通じてその数は徐々に拡大傾向にあるものの、他国に比較すると、ほとんどその門戸は開かれていない。

 また、この映画輸入制限本数については政治的な状況にも大きく左右され、近年の規制緩和の流れがいつ途絶えるかは定かではない。

「日中間が領土問題に揺れた13~14年には、日本映画が公開されませんでした。また、16年、韓国がTHAADミサイル配備を決定すると、中国政府は韓国文化の輸入規制を実施し、ドラマや映画の放送・上映ができなった過去もあります。現在、輸入制限は規制緩和の方向に動いていますが、今後、政府間の関係が緊張すれば特定の国の映画を輸入規制によって排除するといった対策をとることも十分にあり得るでしょう」(前出・中根氏)

 日本やアメリカのような国家とは異なり、伸長する中国映画市場の背景には、国家の思惑が強く影響する。トランプと習近平が繰り広げる貿易戦争を、映画関係者はヒヤヒヤした目で見つめているのだ。

 そんな「政府の思惑」が、輸入規制以上にダイレクトに反映されるのが検閲制度だ。

 中国では、すべての映画に対して検閲が義務付けられており、「暴力描写」「同性愛描写」「オカルト表現」「公序良俗に反する描写」「政治的にデリケートな問題」といった項目で問題があると見なされると、削除や修正指示が出され、従わなければ制作や上映は許可されない。中国国内で製作された映画はもちろん、中国国内で上映される外国映画も検閲の対象となっており、昨年世界的な大ヒットを記録した『ボヘミアン・ラプソディ』は公開こそされたものの、同性愛についての描写がすべてカットされてしまった。同様に、数々の映画が検閲によって上映禁止や修正処理という苦汁をなめてきたのだ(※コラム参照)。

 東京フィルメックスのディレクターであり、中国の映画祭でもコンペティション審査員を務めている市山尚三氏は、中国の検閲事情を次のように語る。

「中国では、検閲の基準が明文化されておらず、上映禁止になったとしても『技術的な問題』としか発表されません。おそらく、内部では基準があるはずですが、一般には公開されていないんです。その結果、検閲の基準は、検閲委員会に集められた審査員によって、あるいは検閲を受ける都市によってもまちまちという状況になっています。

 今年のカンヌ国際映画祭に出品されたディアオ・イーナン監督『ザ・ワイルド・グース・レイク』の劇中には、バイクに乗っているキャラクターの首がヘルメットごと吹き飛ぶという残酷描写がありました。日本ならばR指定を免れないそんな描写が含まれているにもかかわらず、中国では検閲を通過している。おそらく、この映画を担当した検閲委員会の基準が緩かったのでしょうね」

 そして昨年、そんな検閲制度をめぐって、大きな変更があった。これまで、国家新聞出版広電総局に属していた検閲を担当する部署「国家映画局」が、共産党中央宣伝部の管轄下へと移行したのだ。この制度改変によって割を食ったといわれるのが、『HERO』や『LOVERS』『初恋のきた道』といった作品で知られる中国映画の巨匠チャン・イーモウ。今年のベルリン国際映画祭で、その事件は勃発した。

「これまでの検閲は、映画界の実情を知っている人間が窓口を担当していたため、『カンヌに出品することが決まったので、早く委員会を招集して検閲を行ってほしい』といった融通は利いていた。しかし、共産党宣伝部が窓口になることで、そんな融通すらも難しくなってきているようです。

 今年5月、チャン・イーモウの作品『ワン・セカンド』がベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品される予定だったものの、直前になって“技術的な問題”から、上映が取りやめになったと発表されました。チャン・イーモウはこれまで、文化大革命を扱った『活きる』が許可を得る前にカンヌ映画祭で上映されたため、その後の国内での公開が禁止されてしまうなど検閲によって辛酸をなめてきた人物。検閲制度の事情は知悉しているはず。そんな彼の作品も、新たな検閲制度を前に、上映中止という事態に陥ってしまったんです。

 ただ、検閲そのものの基準が変更されたのかについては、まだ定かではありません。今後、どのような作品が出てくるかによって、現在の基準が明らかになってくるのではないかと思います」

 インターネット上の検閲に目を移せば、中国国内での規制は年々厳しくなっており、これまで抜け道となっていたVPNの使用も危ぶまれている。今後、共産党政権が映画産業に対してもこれまで以上に強い規制をかけていくという流れは十分に考えられるだろう。

 では、中国の映画作家たちは、そんな検閲に対抗するために、どのような手段を取っているのだろうか?

 90年代以降、中国では「独立電影」と呼ばれるインディーズ映画が製作されてきた。検閲を受けない代わりに、中国国内の映画館における上映を諦め、自主的な上映会や、国外の映画祭への出品といった方法に活路を見いだしてきたこのシーンは、デジタル機器の発達も相まって、00年代以降急速に盛り上がっていった。ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞を獲得したジャ・ジャンクーや、天安門事件を描いた『天安門、恋人たち』を未検閲のままカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出品したことから5年間の活動禁止処分を受けたロウ・イエ、これまでカメラが入ったことのない中国の精神病院内部を映した『収容病棟』などで知られるワン・ビンなど、国際的な映画祭で活躍する監督たちもこのシーンの出身だ。

 しかし、シーンが盛り上がりを見せるにつれて、当局は独立電影に対しても厳しい目を向けるようになる。特に、その弾圧が強まっていったのが、11~12年にかけて。北京インディペンデント映画祭は開催前日に当局によって中止を言い渡された。また、別の映画祭では突如公安が乗り込んできて検閲を要求したり、映画祭を中止にする代わりに会場となる地域一帯を停電にするといった、他国では考えられない妨害を繰り返した。

 そんな当局による執拗な圧力が成功したのか、ここ数年、独立電影シーンの存在感は徐々に薄れつつあるという。また、独立電影が下火になった一因として前出・市山氏は、「当局の圧力だけではなく、中国映画のバブル的な状況も関係があるのではないか」と指摘する。

「近年の映画バブル的な状況は、独立電影の作家たちをも変えつつあります。資金があふれている中国では、無名の作品であっても制作資金を集めやすい環境になっており、1億円の製作費を集めることも可能です。また、乱立するネット配信企業がコンテンツを探しているため、配信契約を結べば最低3000万円を保証するといった条件が提示されることも珍しくない。ただ、出資を受けるためには検閲を通して一般公開をすることによって資金を回収するのが条件となります。そんな状況が、独立電影の映画監督たちに検閲から自由になるために無理して自己資金で映画を製作するよりも、検閲を受ける代わりに資金的な自由を獲得してクオリティの高い映画づくりを優先させる流れを生んでいるのではないか。映画をめぐる環境の変化も、独立電影が勢いをなくしていった一因でしょうね」

 検閲に対抗するのではなく、あえて体制の監視下に入って映画づくりを行う道を選んでいる中国の若手映画監督たち。では、今後、中国において体制に抵抗するような作品はますます生まれにくくなってしまうのだろうか? そんな疑問に対して、前出の中根氏は、こんな兆候に一筋の光明を見いだす。

「近年、商業映画の中でも、これまで描くことがタブーとされてきた中越戦争(79年に勃発した中国とベトナムの戦争。事実上、中国軍の敗退)を描いた『芳華―Youth―』や、コメディながら実際の事件をモチーフにして中国国内における高額薬の問題を描いた『ニセ薬じゃない!』といった社会派の作品も検閲を通過し、興行的にもヒットしています。目の肥えてきた観客がこのような作品を求め、積極的に評価するようになれば、今後も骨太なテーマを持つ作品が上映されていくのではないでしょうか」

 とはいえ、検閲の枠組み内で活動する以上、天安門事件やチベット問題など、国家の根幹を揺るがす事件をテーマとした作品を制作することは絶対に不可能であり、同性愛を直接的に描くことも現状では難しいだろう。

 不明瞭な基準による検閲制度のもとで、拡大の一途をたどる中国の映画産業。これを支配する中国政府の意向が、全世界の映画産業に大きな影響を及ぼしていくのも時間の問題だ。

LGBTペンギンを棚から外せ! 米国で禁書扱いされる創作童話・児童文学

――前記事では海外での童話の規制事情を紹介してきたが、実は創作童話や児童文学の締め付けも厳しいみたいで……。

 何百年も前の童話の中には今の価値観だと許されないような表現や描写もあるだろう。その結果、前記事でも紹介したような排除運動が起きているわけだが、憂き目にあっているのは童話だけではない。

 米国では図書館や学校に対して行政ではなく、保護者がクレームを申し立て、特定の地域だけで禁書にされた創作童話や児童文学がある。わかりやすいのは、人種差別的だという『ハックルベリー・フィンの冒険』や、反キリスト教的だとしてやり玉に挙げられていた『ハリー・ポッター』シリーズだろう。一方で、イマイチよくわからない理由で禁書に指定された本もある。

 例えばディズニー映画でもおなじみの『クマのプーさん』は06年にカンザス州の一部地域において「動物が人間の言葉を話すという表現は神への侮辱」という理由で、禁書になっている。また、カンザスつながりでいえば『オズの魔法使い』は「子どもに無利益であり、子どもを臆病にさせる」という理由で、シカゴやテネシーなどの図書館や学校で禁止されたこともある。

 さらに、ニューヨークの動物園で赤ちゃんペンギンを育てる2羽の雄ペンギンの実話を描いた『タンタンタンゴはパパふたり』(日本語版・ポッド出版)という絵本は、05年の出版以降、多くの保守的な地域で「LGBTQIA+コンテンツだから」という理由で禁書となった。ちなみに、シンガポールでは14年に国立図書館で破棄処分されている。

 そして昨年も同じような理由で、『にじいろのしあわせ~マーロン・ブンドのあるいちにち~』など、LGBT理解と個性の尊重を訴える児童書や絵本が何冊も禁書扱いされた。「宗教」や「教育」という名目なのかもしれないが、大人の思惑で子どもたちから本を取り上げていいのだろうか。

――学校や図書館から童話を取り上げる動きはスペインに限ったことではない。ここでは各地で行われている童話の追放運動を見ていこう。

●ディズニー版ですらNGなの?

カタール

2016年、SEKインターナショナル・スクール・カタールという私立学校に通う生徒の保護者が、学校の図書館に置いてあったディズニー版『白雪姫』は「性的な描写を連想させ、イラストや文章が教育上好ましくない」という理由(どのシーンかは不明)で、カタール最高教育審議会(SEC)にクレームを申し立て、SECは学校側に本を撤去するように命じた。「The Guardian」紙によると、性的、もしくは品位を欠くという理由で、コンテンツに検閲が入ることはカタールでは珍しくないという。


●「相手の同意なしのキス」は有害

イギリス
 

2017年、ニューカッスルの学校に通う息子が借りてきた『いばら姫』を現代版に描いた児童文学を見た保護者が、同書で描かれている「眠っていて意思表示ができない女性にキスをするという行為は、『相手の同意なしに性的行為に及ぶ』というレイプの根本的問題と重なる」として、学校の教材から外すべきだと主張。ツイッターでも問題のページを開いた写真と「#MeToo」のハッシュタグを用いて問題提起したが、彼女のクレームに対しては多くの反対意見が上がった。


●行政が主導して童話を排除?

オーストラリア 

2017年、メルボルンがあるビクトリア州政府は、学校や幼児教育にジェンダーバイアスを見直す教育プログラムの一環として、教室内にあるおもちゃや絵本の中に、男女のステレオタイプを助長するようなものがあれば排除すると、一部報道で伝えられた。このプログラムが実行されることで『シンデレラ』、『美女と野獣』、『ラプンツェル』などの童話が教室から撤去されると問題視されたが、州政府は「童話を締め出すことはあり得ない」と説明した。


●そもそも禁書が多すぎる!

米国各地 

上のコラムでもいくつか紹介しているが、米国では図書館に対して、「この本を置くな」と市民団体からクレームが寄せられたり、学校が指定する課題図書にも「こんな本を子どもに読ませるな」と保護者が噛みつくことがあり、これまでに数多くの本が禁書扱いされてきた。童話もご多分に漏れず、90年にはカリフォルニア州の2つの校区で『赤ずきん』の「子どもなのにワインを持っている」イラストが問題視されて禁書となった。(月刊サイゾー7月号『ヤバい本150冊』より)

あいちトリエンナーレはまだマシ? 表現の不自由国家・中国で「日本カブレ」が一斉摘発される

 愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が、従軍慰安婦を象徴する「平和の少女像」を展示していたことに対する抗議や脅迫が殺到したことを受け、中止に追い込まれた。

 いわゆる慰安婦像についてはさまざまな意見があるとはいえ、まさに「表現の不自由」を顕在化させる皮肉な結末となった。

 とはいえ、お隣中国の不自由さに比べれば、まだまだマシといえるかもしれない。

 7月28日、安徽省当局が公式SNS上で「精日分子と結託し、中国を侮辱する内容の漫画を制作していた22歳の女を逮捕した」と発表した。当局が指摘する精日分子とは、ネット用語で“精神的日本人”を意味する略語で、日本の軍国主義や日本の歴史観を崇拝し、日本人のように振る舞う中国の若者を指している。「日本カブレ」と訳せば自然かもしれない。

「新京報」(同31日付)によると、逮捕された漫画家の女性は主にネット上で自作の漫画を公開しており、ファンも多くいたようだ。女性の描く漫画には、頭部が豚、体が人間の豚人間が登場し、中国の歴史観や習慣などを自虐的に表現する風刺漫画をこれまでに300以上描いてきたのだという。また、女性が大の日本漫画好きだったこともあり、当局にとって精日分子の危険人物として認識され、捜査のターゲットとなってしまったのだ。当局は「中華民族の感情を大きく傷つけ、民族感情を踏みにじった。中国社会へ与えた悪影響を考え、侮辱罪での逮捕に踏み切った」と、逮捕理由を明かしている。

 ちなみに同日、中国各地では、ほかにも8人が精日分子として警察に身柄拘束されている。

 中国がここまで精日分子に敏感になっている背景には、今年が中国建国70周年の節目の年となることも関係している。10月1日の建国記念日に合わせて、愛国主義思想の強化に努めたいという思惑があるのだ。風刺漫画さえも許さない当局のこうした動きは、今後も強まっていくのだろうか?

(文=青山大樹)

千葉市に続き、新たな“コンビニのエロ本規制”を要求……「新日本婦人の会」の正体とは

 コンビニのエロ本規制が、全国へと拡大していくことになるのだろうか。

 昨年、千葉市の主導で始まった、コンビニチェーン「ミニストップ」全店でのエロ本撤去は、新たな形での「言論/表現の自由」への介入として注目を集めた。これは「子どもへの配慮のほか、2020年東京オリンピック・パラリンピックで外国人旅行客が増える」ことを理由に計画されたもの。当初、千葉市では、大阪府堺市が実施している「有害図書を店頭に陳列する際に、市が独自に定めたフィルムで覆う」施策を計画。だが、計画を持ち込んだ市内のセブン-イレブンから断られたことで、計画を再考した結果が、このような形になったのである。

 あくまで「民間企業の判断」として、責任の所在を曖昧にする千葉市の姿勢に批判が殺到したことは記憶に新しい。だが、ミニストップを除くコンビニチェーンでは「あくまで、ミニストップの判断」として、追従する姿勢は見せず、自体は一段落しようとしていた。

 ところが、ここにきて千葉市の規制に便乗する形で、全国レベルの規制を要求する新たな動きが始まっている。

「新日本婦人の会」による「『成人向け雑誌』を全店から撤去、販売を中止してください」という呼びかけがそれだ。同組織の発表によれば、すでに昨年末には、セブン-イレブン本社に対して「成人誌の撤去、販売中止を申し入れ」を実施。さらに、各地域の組織に、近くのコンビニに同様の申し入れを行うように呼びかけている。

 この新日本婦人の会は、日本共産党傘下の女性組織だ。近年では、東京都の青少年健全育成条例や児童ポルノ法をめぐる問題などで「言論/表現の自由」を擁護する意見を発することもある日本共産党だが、エロ本やオタク文化に対して真に理解する姿勢であるかは疑わしい。

 というのも、日本共産党は長らく「ポルノ」に対して時の政府以上に、弾圧する姿勢を見せ、マンガを「低俗な文化」として切り捨ててきた歴史がある。

 筆者の記憶でも、2010年以前は、マンガやポルノの「言論/表現の自由」に対して意見を求めると、拒否されている。それ以降でも、“中央”に近いメンバーに「いつから態度を改めたのか?」と問うと「いつからでしょうか……」と言葉を濁されたことがある。

 意見はさまざまあるだろうが、日本共産党が、この問題に対して日和見を貫いていることは、紛れもない事実である。昨年の衆院選での議席の激減を経て、再び旧来の姿勢へと移行したということであろうか。

 過去「言論/表現の自由」に強い関心を抱く人々の間では、日本共産党はこれを擁護する政党であるとして、投票の選択肢とすべきだという意見も多々見られた。しかし、事ここに及んで、その抑圧的な体質はなんら変化がないことが暴露されつつある。改めて、議会制民主主義に頼ることの空虚さを感じている人も多いのではなかろうか。
(文=昼間たかし)

雑誌が売れない……今“レイアウト変更”で、コンビニからエロ本の消滅が近づいている!!

 千葉市からの働きかけを発端として、同市に本社のあるコンビニチェーン・ミニストップがエロ本の取り扱いを全面的に取りやめるというニュースは、まだ批判と賛同の論争の中にある。この騒動の中で、コンビニ事情を知る人々が指摘しているのが、コンビニで雑誌や本が、不人気商品となっていること。売れないものを置いても仕方がない。ならば、どの段階で縮小を図るかというところに、エロ本を規制したい千葉市の意向は幸いしたというわけだ。

 本音としては、エロ本のみならず雑誌や本のすべてを、ほかの売れ筋商品へと置き換えたいと、コンビニチェーンは考えているのだ。

 その動きは、すでに始まっている。先日、都内のオフィス街にあるコンビニに入って違和感を感じた。普段使っているさまざまなコンビニとレイアウトが違う。オフィス街だからだろうか、食べ物や飲料のコーナーはやたらに広い。では、雑誌や本はどこに陳列しているのか。店内をグルグルと回っていると、まだ消滅してはいなかった。でも、極めて狭い棚で売られているのは、限られた週刊誌やマンガ雑誌だけだったのである。

 コンビニの客導線として、雑誌を買いに来た客が、ついでに飲み物やおにぎりを買っていくというスタイルは過去のものになった。これから先、雑誌や本のスペースは縮小されていくのは必然だ。

 中でも業界で注目されているのが、最大手であるセブン-イレブンの動きだ。今年に入り、セブン-イレブンは店内のレイアウト変更を積極的に展開している。このレイアウト変更では、冷凍食品や、コーヒー、そのほか食べ物を扱うスペースが大幅に拡大。その代わりに、雑誌・本の棚が大幅に縮小されているのである。

 店舗の間取りによって違いはあるが、雑誌と本のスペースが縮小しているのは、どこも一緒だ。店舗によるが、新レイアウトでは雑誌・本が6割程度減少している。

 セブン-イレブンでは、今期中に新レイアウトを1,800店舗で実施。2021年までに全店舗のレイアウト変更を完了させるとみられている。

「もはや、コンビニにとって雑誌や本が売れ筋の商品でないことは明らかです。今回、問題になったエロ本にしても、購入する層は老人やネットを用いることのできない限られた人々にすぎない。千葉市の件がなくても、いずれは消えていったでしょう」(アダルト系編集者)

 ミニストップのエロ本排除は、問題にはなっているが、一方で出版業界からの批判の声は思いの外少ない。ここにはもはや、コンビニの動向にガタガタ言ってもしようがないという諦念もうかがえる。

「オリンピックでエロ規制が強まる云々よりも、目下の問題は、コンビニがどの段階で『もう、雑誌はいらない』と言い出すかですよね。考えても仕方がないので、目を背けて仕事している人が多いんじゃないでしょうか。一部のマニア誌やマンガ誌を除けば、エロ本はもう終わりですよ」(同)

 電子書籍が存在感を増す現在。もう、ドキドキしながらレジに持っていくエロ本の時代は終わりか。
(文=昼間たかし)

ミニストップの「排除」で近づく“エロ本絶滅の危機”廃業して無職になる編集者たちの嘆き

 コンビニのミニストップが、来年1月から国内全店約2,200店で成人向け雑誌の販売を中止すると発表した。これには、いわゆる「エロ雑誌」を作る側の業界から「絶滅に近づいた」との悲鳴も聞かれる。

 あるエロ雑誌をひとりで制作している56歳の編集者男性は、売り上げが今後も下がり続けると「廃業して無職になる」と明かす。

「全盛期8人いた編集者は、売り上げが減るたびに雇う費用がなくなってクビになり、2年前から僕ひとりだけ。エロ雑誌しかやってこなかったので、いまさら転職先もない。なんとか自分の給料が出る環境を守ろうと必死ですよ。発売元からは『赤字になったら休刊』と言われていますが、制作予算は過去最低の数十万円で、次の号の制作費を捻出できるギリギリの線でやっています」

 イオングループ傘下のミニストップは、コンビニ最大手のセブン-イレブンなどとは違った独自色の濃い運営で知られる。早くから食事スペースを作るなどの路線で他社との差別化を進めてきたが、今回の決定は、まさにその食事スペースの利用客でもある子ども連れの女性客からの声に対応した結果だとされる。

 ただ、もともとエロ雑誌がミニストップで大きな売り上げをあげていたわけではなく、インターネット普及以来、雑誌全体のセールスが右肩下がりで、弱小雑誌はいつ取り扱いがなくなってもおかしくない状態が続いていた。

 店によっては「エロ雑誌を置く場所を、ほかの商品に使いたい」という要望を出すところもあったという。ましてチェーン全体のイメージに関わるエロ雑誌については、小さな売り上げにこだわるより、全廃して評判を上げ、新規客を獲得する方が正常な経営判断という声も多く、小売業者としては当たり前の話かもしれない。

 セブン-イレブン、ローソン、ファミリーマートのコンビニ大手3社は現時点で今後の対応を決めてはいないが、前出編集者は「エロ雑誌の業界シェアは大手3社で8割以上あって、ミニストップの市場占有率は小さいんですが、イオングループがそういう判断をしたというニュースのインパクトは大きい」という。30年以上もエロ雑誌の制作だけ飯を食ってきたからこそ「いよいよ失業を覚悟しなくてはいけなくなってきた」と諦めムード。

「いまや大手の書店チェーンでもエロ雑誌は置いてくれなくなりましたからね。わずかな部数で成り立つ中途半端なマニア本は、僕みたいに編集者ひとりふたりで細々やってますが、書店流通が全滅状態なので、最後の生命線はコンビニ。これがなくなったら営業終了以外に道はないです」(同)

 この編集者は過去、一部コンビニに対して「プライベートブランド」の独自エロ雑誌の企画を交渉していたことがあるという。

「昔はまだ、そんな話も検討はしてくれましたが、今じゃ打ち合わせのテーブルにもついてくれないです。エロ雑誌の編集部の多くは都内にあるんですが、その東京都には『青少年健全育成条例』があるので、条例に引っかけて潰すのも知事の裁量ですぐやれる話。もしかすると、支持率急落の小池(百合子)知事が人気取りでそこまでやるかもしれないですよ。前に石原(慎太郎)都政でも、歌舞伎町の浄化作戦とかで風俗店が一掃されたでしょう?」(同)

 過去、1冊に数百万円の予算があったエロ雑誌も、「いまでは10分の1以下で、女性の写真や動画を撮る余裕すらもなくなり、AVメーカーなどから素材を借りて作っている状態」と編集者。

「そのAVも出演強要問題が出てから、それまで緩かった出演者の権利保護が厳しくなって、出演作品の二次使用も許可が必要になり、使用しにくくなっています。だから素材供給と流通経路、まさに八方塞がりなんですよ。さらにエロ雑誌は作り手も買い手も高齢化しているので、いずれは絶滅するんでしょうけどね」(同)

 これも止められない時代の流れか。

(文=高山登/NEWSIDER Tokyo)

「上から目線の権力の介入」千葉市が主導するミニストップの“エロ本規制”に、日本雑誌協会からも批判

 コンビニチェーンのミニストップが、来年1月から「成人誌」の取扱を中止することを発表し、出版業界に波紋が広がっている。

 ミニストップの発表では「女性がコンビニを利用する機会が増えているのを受け、中食・内食商品の強化やWAON POINTカードの導入など女性により利便性の高いコンビニエンスストアへの変化」を進めてきたとし「成人誌の陳列対策に取り組んでいた千葉市からの働きかけをきっかけ」として、取扱の中止を判断したとしている。

 千葉市では今年2月、大阪府堺市が一部コンビニで実施している施策と同様に、陳列棚の成人誌に不透明のフィルムを巻いて、表紙の一部を隠す取り組みを試験的に行う方針を発表。しかし、6月になって打診を受けたセブン-イレブンが、この取り組みを断っていたことが明らかになっていた。

 これを受け、筆者の取材に応じた千葉市こども未来局こども未来部健全育成課の小倉哲也氏は「ほかのチェーン店……イオン系列のミニストップさんなどとも話はしている」と、フィルム包装以外の取り組みを企図していることを明らかにしていた。

 千葉市が模倣を目論んだ堺市のフィルム包装は、大阪府が青少年健全育成条例で行っている規制と、出版社側の自主規制を逸脱した施策だと批判の対象になり、日本雑誌協会と日本書籍出版協会が「図書を選択する自由を奪い『表現の自由』を侵害する行為。大阪府の青少年健全育成条例も逸脱している」として繰り返し批判しているもの。そうした批判を知りながらも同様の施策を行おうとした背景には、なんらかの形で目に見える「規制」の成果を挙げたいという意図が見え隠れしている。

 千葉市の熊谷俊人市長は、この件に関して自身のTwitterでコメント。ここで熊谷市長は、次のように記している。

 これまで、出版業界ではコンビニに陳列される「グレーゾーン誌」に2点シール止めを施すなど、さまざまな自主規制を実施している。熊谷市長の「業界の自主改革を期待します」という言葉には、こうした取組の積み重ねが理解できているのか疑問を感じるところだ。

 日本雑誌協会編集倫理委員長の高沼英樹氏は、熊谷市長のツイートに憤りを隠さない。

「熊谷市長のツイートは、上から目線。民間の判断とはいうが、権力の介入ではありませんか」

 高沼氏が問題点として指摘するのは、ミニストップがリリースで記している「成人誌」の基準だ。リリースでは「成人誌」の基準として、日本フランチャイズチェーン協会のガイドラインを「参考」として掲げている。

 

「成人誌」の定義
※(社)日本フランチャイズチェーン協会の自主基準(ガイドライン)より抜粋

1.各都道府県の指定図書類及び出版倫理協議会の表示図書類は取り扱わない。

2.それ以外の雑誌については、各都道府県青少年保護育成条例で定められた未成年者(18歳未満者)への販売・閲覧等の禁止に該当する雑誌及びそれらに類似する雑誌類を「成人誌」と呼称する。

 

 ここで問題となるのは、2の部分だ。

「このガイドラインでは、どの雑誌が成人雑誌に該当するか基準が曖昧です。『FLASH』(光文社)のような一般週刊誌から『ヤングマガジン』(講談社)のようなマンガ雑誌までもが対象になりかねません」(高沼氏)

 高沼氏が危惧は、すぐにはないとしても、この曖昧な規制がやがて一般誌まで広がっていくことにある。

「条例でやると<表現の自由>にひっかかるから、あくまで民間からという形で、動きを規制したにすぎません」と、実態としては公権力の規制であるとする高沼氏。ミニストップの記者会見は熊谷市長も同席し共同で行われたもの。これを「民間の取組」とするのには、無理がある。

 新たな形の規制強化に、どのような対応をしていけばよいのか?
(文=昼間たかし)

「上から目線の権力の介入」千葉市が主導するミニストップの“エロ本規制”に、日本雑誌協会からも批判

 コンビニチェーンのミニストップが、来年1月から「成人誌」の取扱を中止することを発表し、出版業界に波紋が広がっている。

 ミニストップの発表では「女性がコンビニを利用する機会が増えているのを受け、中食・内食商品の強化やWAON POINTカードの導入など女性により利便性の高いコンビニエンスストアへの変化」を進めてきたとし「成人誌の陳列対策に取り組んでいた千葉市からの働きかけをきっかけ」として、取扱の中止を判断したとしている。

 千葉市では今年2月、大阪府堺市が一部コンビニで実施している施策と同様に、陳列棚の成人誌に不透明のフィルムを巻いて、表紙の一部を隠す取り組みを試験的に行う方針を発表。しかし、6月になって打診を受けたセブン-イレブンが、この取り組みを断っていたことが明らかになっていた。

 これを受け、筆者の取材に応じた千葉市こども未来局こども未来部健全育成課の小倉哲也氏は「ほかのチェーン店……イオン系列のミニストップさんなどとも話はしている」と、フィルム包装以外の取り組みを企図していることを明らかにしていた。

 千葉市が模倣を目論んだ堺市のフィルム包装は、大阪府が青少年健全育成条例で行っている規制と、出版社側の自主規制を逸脱した施策だと批判の対象になり、日本雑誌協会と日本書籍出版協会が「図書を選択する自由を奪い『表現の自由』を侵害する行為。大阪府の青少年健全育成条例も逸脱している」として繰り返し批判しているもの。そうした批判を知りながらも同様の施策を行おうとした背景には、なんらかの形で目に見える「規制」の成果を挙げたいという意図が見え隠れしている。

 千葉市の熊谷俊人市長は、この件に関して自身のTwitterでコメント。ここで熊谷市長は、次のように記している。

 これまで、出版業界ではコンビニに陳列される「グレーゾーン誌」に2点シール止めを施すなど、さまざまな自主規制を実施している。熊谷市長の「業界の自主改革を期待します」という言葉には、こうした取組の積み重ねが理解できているのか疑問を感じるところだ。

 日本雑誌協会編集倫理委員長の高沼英樹氏は、熊谷市長のツイートに憤りを隠さない。

「熊谷市長のツイートは、上から目線。民間の判断とはいうが、権力の介入ではありませんか」

 高沼氏が問題点として指摘するのは、ミニストップがリリースで記している「成人誌」の基準だ。リリースでは「成人誌」の基準として、日本フランチャイズチェーン協会のガイドラインを「参考」として掲げている。

 

「成人誌」の定義
※(社)日本フランチャイズチェーン協会の自主基準(ガイドライン)より抜粋

1.各都道府県の指定図書類及び出版倫理協議会の表示図書類は取り扱わない。

2.それ以外の雑誌については、各都道府県青少年保護育成条例で定められた未成年者(18歳未満者)への販売・閲覧等の禁止に該当する雑誌及びそれらに類似する雑誌類を「成人誌」と呼称する。

 

 ここで問題となるのは、2の部分だ。

「このガイドラインでは、どの雑誌が成人雑誌に該当するか基準が曖昧です。『FLASH』(光文社)のような一般週刊誌から『ヤングマガジン』(講談社)のようなマンガ雑誌までもが対象になりかねません」(高沼氏)

 高沼氏が危惧は、すぐにはないとしても、この曖昧な規制がやがて一般誌まで広がっていくことにある。

「条例でやると<表現の自由>にひっかかるから、あくまで民間からという形で、動きを規制したにすぎません」と、実態としては公権力の規制であるとする高沼氏。ミニストップの記者会見は熊谷市長も同席し共同で行われたもの。これを「民間の取組」とするのには、無理がある。

 新たな形の規制強化に、どのような対応をしていけばよいのか?
(文=昼間たかし)