11月15日、国立感染症研究所が、「インフルエンザが全国的な流行期に入った」と発表。例年より数週間から1カ月ほど早く流行期が訪れたといい、早めのインフルエンザ対策が呼びかけられている。
インフルエンザ対策として、最も一般的なのは「予防接種」だろうが、一方で、毎年この時期になると、テレビや雑誌などでは食べ物や飲み物によって「インフルエンザを撃破しよう」といった情報が飛び交うことも。最近では、紅茶や緑茶、ヨーグルト、はちみつなどが、インフルエンザ予防に効果的とされ、世間でちょっとしたブームになっているといった話も耳にする。
しかし、ネット上では、こうしたメディアの情報は「ニセ医学」だと、医師から注意喚起されることが珍しくない。そこで今回、ちまたでうわさされるインフルエンザ予防に効果的な食品や飲み物に関して、“感染症のプロ”である、神戸大学病院感染症内科教授・岩田健太郎氏に話をうかがった。
「紅茶」「緑茶」はインフルエンザを予防しない!?
――ここ数年、紅茶がインフルエンザウイルスを“無効化”する説が話題になっています。なんでも、紅茶ポリフェノール「テアフラビン」にそのような効果があるそうで、10月27日付の「食品産業新聞社ニュースWEB」で「紅茶市場が復調 “抗インフルエンザ活性”報道で特需、“タピオカミルクティー”も追い風に」といった記事が掲載されたほどです。
岩田健太郎氏(以下、岩田) 実際に「予防のために紅茶を飲んでいる」という患者さんはいらっしゃいますが、紅茶に関しては「説」以上でも以下でもないといったところですね。本当にインフルエンザウイルスが無効化されるか、立証はされていないので、「そういった意見もある」程度の話と言えるでしょう。
――緑茶はかなり昔から、緑茶のポリフェノール成分の一種「カテキン」に、抗ウイルス作用があると言われていますが、こちらも怪しいのでしょうか。
岩田 緑茶に関しては、飲むというより「うがいをする」と、インフルエンザ予防に役立つのではないかという研究は確かにされています。しかし、それほど質の高い研究ではなく、現状、「緑茶は紅茶に比べて、ちょっとマシな研究データはあるものの、たいしたデータはない」「どれほど予防できるかはさっぱりわからない」というのが実際のところでしょう。少なくとも私は、自分の患者さんに、紅茶や緑茶でインフルエンザを予防しようとは言わないですね。
――実験データを用いながら「紅茶や緑茶が効果的」と説明する番組や雑誌なども数多く見かけますが……。
岩田 それは、実験室内で得られた「インフルエンザウイルスを抑制する」というデータを、あたかも「人間のインフルエンザという病気を予防する」と錯覚させるように伝えているということでは。詳しく説明すると、インフルエンザウイルスは「モノ」であり、インフルエンザは「病気」であって、ウイルスは病気の原因ではあるけれど、病気そのものではありません。また、「実験室内」と「人間の体」というのも、また別物なのです。多くの方がその2つを勘違いしているのではないでしょうか。
紅茶や緑茶に、「人間のインフルエンザという病気を予防する」というデータは、全然ないかほとんどない。したがって、プロの医者であれば、そんなものは勧めないのです。実験室内でのウイルス抑制に関するデータを針小棒大に語る研究者もよくないし、それを「インフルエンザ対策にもってこい」などとテロップで流すメディアもよくありませんね。ちなみにインフルエンザ治療に関しても、「インフルエンザウイルスを抑える薬がある」のと、「それを飲むとインフルエンザが治る」というのは、全然意味が違います。
――ハチミツも「インフルエンザウイルスの増殖を抑制する働きがある」などと言われているのですが、これも同様に、インフルエンザという「病気」に利益があるかどうかはわからないですね。
岩田 そうですね。ただハチミツは、咳が出る際、咳を抑える効果があるというのは立証されています。理由はよくわかっていないのですが。
――ほかにも、ヨーグルトなどに含まれる乳酸菌を摂取すると、免疫力がアップし、インフルエンザ予防に役立つと言われています。
岩田 まず「免疫力が高まる」というキーワードを使っている人がいたら、ほぼ「インチキ」と思ってもらって構いません。というのも、免疫力はいわば「調整機能」なので、そもそも「高まる」ことはあまりなく、高まりすぎると、自分の体を攻撃し始め、リウマチなどの自己免疫疾患の原因にもなります。一方、免疫力が低くなることはあり、典型的な例で言うと、エイズは免疫力が低すぎる状態になる病気です。つまり免疫力は高すぎても低すぎてもよくないもので、「免疫力が高まる」ことを「よいこと」という前提で話している時点で、それはほぼインチキと言えるでしょう。「免疫力を上げよう」という書籍や雑誌、また自費診療のクリニックもありますが、これらはほぼインチキでぼったくり。しかしそんな中、唯一わかっている免疫力を上げるものが、ワクチン。これは、「ある病原体」に対する免疫力を上げることによって、その病気にかからなくすることが立証されているのです。
――ということは、乳酸菌は「免疫力を整える」効果はあるのでしょうか。
岩田 多少はあります。しかし、そもそも乳酸菌という名前の単一の菌は存在しません。乳酸をつくる菌の総称を「乳酸菌」と呼んでいるに過ぎず、どの乳酸菌なのかによって、それぞれ作用が違うものなのです。乳酸菌の一つである菌が、確かに健康に利益をもたらすという研究はあるのですが、一方で利益はないとの研究もある。どの菌がどの病気のどういうことに利益があったり不利益があるかは、一つひとつの論文を検証しなければならず、ざっくり「乳酸菌がインフルエンザ予防にいい」と言われても、いいか悪いかは判断できません。
――ちなみに、食品以外にも、インフルエンザ予防として推奨されているさまざまなものがあります。例えば、体を温かくすること。ただ、これも結局、「それによって免疫力が上がる」と言われているのですが……。
岩田 人間の体温は一定の範囲に調整されていて、極端に体温が上がったり下がったりしないようになっています。しかし、例えば冬の海に長時間浸かっていたりした場合、極端に体温が下がり、免疫力も下がって、病気にかかりやすい状態になることはわかっています。ただそういう方は、救急車で運ばれてくるような状況の人であり、日常生活を送っている人が、一定の範囲内で、体温を少し上げたところで、何かあるのか……というのは、その人の基礎体温にもよりますし、一概には言えないこと。「体を温めれば、インフルエンザを予防できる」というのは、真っ赤なウソと言えます。
――そのほかに、先生がよく見聞きする「インフルエンザ予防」で、「効果があまり望めない」と感じるものはありますか。
岩田 「手洗い」「うがい」「マスク」は、インフルエンザ予防にほとんど役に立たないでしょうね。感染症の予防で一番大事なのは、感染経路を遮断すること。病原体がやって来る場所をブロックするのです。例えば、性感染症は、感染経路がセックスなので、コンドームで予防しますよね。とてもシンプルな話なのです。
インフルエンザは、持つ人の咳やくしゃみなどによって、ウイルスが口や鼻に入ってきて、感染する。手から感染することもありますが、めったにないので、手洗いは予防としてあまり意味がない。また、ウイルスは鼻の奥に定着し、のどだけにウイルスがいることはないので、うがいも有効とは言えません。それに、一度体内に入ってしまったら、すぐにのどの奥に進んでいくので、うがいをしたところで、焼け石に水なのです。
そして、マスクについても、鼻の横やあごの下にすき間がたくさんあるので、ウイルスをブロックできていません。よく花粉やウイルスなどを99.9%ブロックする、などと喧伝するマスクが売られていますが、あれも全然ブロックしていない。実験室において、使用されている布そのものは99.9%花粉やウイルスを遮断したかもしれませんが、実際には、すき間から入ってきてしまいます。じゃあ、すき間を全て塞ごうとすると、今度は息ができなくなります。なので、基本的に、予防のためにマスクをすることには、何の意味もないのです。むしろマスクは、病気になった人が、自分の咳やくしゃみを広げないためにするためのものと言えるでしょう。
――やはり、インフルエンザ対策には、予防接種を打つというのが一番なのでしょうか。
岩田 そういうことです。インフルエンザ予防には、ワクチンが最も効果的だとわかっています。私には小学生の娘がいるのですが、学校から「手洗い、うがい、マスクでインフルエンザを予防しましょう」との呼びかけがあり、「なぜ、『インフルエンザワクチンを打ちましょう』と言わないのか?」と、疑問を抱いてしまいます。経済的にワクチンを打つことができないご家庭に配慮しているようなのですが、私は、助かる人がいるのであれば、助かるように推奨すべきだと考えます。全員横並びで助からない、という変な平等思考は間違っています。
――なぜ、食品や生活習慣からインフルエンザを予防しようという動きがなくならないのでしょうか。
岩田 そうしたネタは、“セクシー”だからです。アメリカでもそのような言い方がされています。「病院で予防接種を打つ」より「自然食品で病気の予防をする」方が、何だかファッショナブルでカッコいいし、もっと言うと、人に「意識が高い裕福な人が実践しているようなイメージ」を抱かせるのです。この世には、有名人しか知らない特殊な健康法があるなどと言われますが、そんなことはあり得ませんし、有名人発信の健康法がデマであることもよくあります。健康に効くことは全部公開されており、「みんなが知っていること」の方が、確実なのです。現実世界は、そんなセクシーにできていないということを、心に留めておいてほしいと思います。
岩田健太郎(いわた・けんたろう)
神戸大学医学部感染症内科教授。1997年島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院研修医、コロンビア大学セントルークス・ルーズベルト病院内科研修医を経て、アルバートアインシュタイン大学ベス・イスラエル・メディカルセンター感染症フェローとなる。2003年に中国へ渡り北京インターナショナルSOSクリニックで勤務。04年に帰国、亀田総合病院(千葉県)で感染内科部長、同総合診療・感染症科部長歴任。08年より現職。
リラックス効果やデトックス効果が期待できるといわれるサウナ。昨今、そんなサウナを舞台にした漫画やテレビドラマが登場し、情報番組などでも特集を組まれるなど、空前の“サウナブーム”になっている。サウナ愛好者を「サウナー」と呼び、そうしたサウナ―が使う「整う」といった言葉がネット上で散見されることも。しかし一方で、サウナの利用が原因となった死亡事故なども報告されており、その危険性も見逃せない。そこで今回、『最高の入浴法~お風呂研究20年、3万人を調査した医師が考案』(大和書房)『たった1℃が体を変える ほんとうに健康になる入浴法』(KADOKAWA)など、お風呂・温泉と健康にまつわる著書を執筆している温泉療法専門医・早坂信哉氏に、サウナによる健康効果と危険性についてうかがった。
近頃、美白効果が得られるとされる成分「グルタチオン」配合のサプリメントや点滴が、美容意識の高い女性の間でブームになっているのをご存じだろうか。人気有名人がオススメしていることもあってか、経口用サプリ「リプライセル リポソーム GSH グルタチオン」が飛ぶように売れ、また美容クリニックではグルタチオン配合の「白玉点滴」が人気を博しているという。ネット上には、実際に「肌が白くなった」「シミ対策に最適」といった声が飛び交っているが、一方で、その効果や安全性に疑問を抱く人も少なくない様子。そこで今回、『「ニセ医学」に騙されないために』(内外出版社)の著者であり、世にはびこる「医学のデマ情報」に鋭い目を向けている内科医・名取宏氏に取材を行い、グルタチオンの効果や安全性について、話をお聞きした。












