闇金社長が暴露! 悲惨な末路を辿った名優、テレビから消えたワイドショー司会者とは?

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

 平成初期。この会社に就職してから、さまざまな社会の闇を目の当たりにしました。一番初めに驚かされたのは、信用情報端末の存在です。名前と生年月日を入れるだけで、他社からの借入状況や取引情報が瞬時に開示されるもので、延滞はもちろん貸倒れや法的処置などのブラック情報も併せて入手することができました。いわゆるブラックリストの正体を知った時には、誰に対してかはわかりませんが、得体の知れない優越感を覚えたことを思い出します。

 また、暴力団系闇金業者からの要請に応じて、彼らのところに申し込みのあった客の信用情報も照会していました。もちろん禁止行為ではありますが、占有現場の留守番をお願いするなど、関わりが深い親分さんの頼みを断われるわけもなく、要請に応じることで歓心を得ていたのでしょう。

 いまであれば大問題になるような話ですが、まだ個人情報保護法が成立していなかった時期の話なので、情報機関から注意されることすらありませんでした。振り返れば、いかにも平成初期らしい話だと、その意識の低さに苦笑するばかりです。

 今回は、当時の忘年会で偶然耳にした親分さんと社長たちの会話の一部を、ここに再現したいと思います。

闇金に右翼の名前をちらつかせ再融資させようとした“名優”

 毎年の仕事納めは、銀行の営業日に合わせて12月30日と決まっており、この日は朝から事務所の大掃除をして、不渡速報の配信を待ちます。貸付金の返済は、あらかじめ28日に設定しており、直撃の不渡を食らう心配はありません。

 不渡速報の配信業者も仕事納めのため、この日に限っては情報の配信が早く、午前中には異常のないことが確認され、気の抜けた状態になりました。事務所内の緊張感は一気に緩和し、一通りの掃除を済ませたところで、夕方からは向かいにあるホテルの宴会場で「金田グループ大忘年会」が開催されます。

 グループを形成するのは、貸金業者の仲間やその社員をはじめ、ケツ持ちである組関係の方々と取引のある事件屋さんたちで、みなさんを招待して仲間意識を高めていました。どうしても女性の割合が少ないため、私と愛子さんは、ほかの会社の女子社員ともども、各テーブルにお酌して回るホステスのような役割を担います(これも時代ですね……)。

 そのうちに、金田社長と大学時代の後輩で貸金業者でもある安田社長、それに某組の親分さんがおられるテーブルに落ち着くと、皆さんの口から次々と過去の強烈エピソードが披露されました。

「なあ、安田。年末になるとT(自殺した俳優)のことを思い出すよな」
「ええ。好きな役者でしたし、亡くなる何日か前に事務所で見かけていたこともあって、あれは衝撃でしたよ。先輩の担当でしたよね? あの人、たくさんテレビにも出ていたのに、なんでカネに詰まっちゃったんですか?」

 人気俳優であったTさんの自殺は、日本では特殊といえる方法でされたことから非常に衝撃的な事件となり、ワイドショーでも連日大きく取り上げられました。当時、まだ小学生だった私ですら、自殺の原因や女性関係、金銭トラブルなど、さまざまな臆測が過熱気味に報じられていたことを鮮明に記憶しているほどです。

「不動産、いいところにたくさん持っていたんだけど、全部(抵当権などが)目一杯ついていてな。M資金の話を力説されたこともあったし、結果として、いろんなヤツの食い物にされたんじゃないか」
「いい役者だったのに、もったいなかったですよね」
「ああ、でも中身は最悪だったぞ。亡くなる1週間くらい前のことだったかな。あいつ、再貸付を断ると、右翼の名前を出して脅してきてさ。それを社長(金田社長が下積みしていた頃の会社の社長)に報告したら、会長(有名暴力団組織の方)が抑えてくれて、慌てて謝りにきたのが最後だったんだよ。この話、親分も、ご存じでしょう?」

 ギラギラと輝いてみえるほどに、切れ味の鋭い目つきを持つ50代前半の親分さんが、タバコを片手に低いダミ声で答えます。

「ええ、自分は会ったことないですけど、オヤジから聞いています。見た目と違って、癖の悪いヤツだったみたいですね。そういえば話は変わりますけど、いま安田社長のところ、ワイドショーの司会をやっている男にカネを出していませんか?」
「え? なぜ、それをご存じで……」
「ウチの若いのがやっているトイチ屋(10日で1割の金利で融資する闇金業者のこと)で、いま出していましてね。申し込みの時に本人の口から聞いたんですよ。あいつ、毎日テレビに出てしゃべっているけど、相当に摘んでいる(多くの業者から金を借りているということ)ようで……」

 話を聞いた途端に顔色を変えた安田社長は、宴会に参加している男性司会者の担当者を呼びつけて、早めに回収するよう指示していました。親分さんのところと取り合うわけにはいかないからと、頭を搔きながら恐縮していた姿を思い出します。

 その数カ月後、件の司会者が借金まみれであることがスポーツ新聞で報じられると、彼の姿はブラウン管から消失することになりました。後に自己破産されたと聞きましたが、親分さんのところは完済されたそうで、その力を見せつけられた次第です。

※本記事は事実をもとに再構成しています

(著=るり子、監修=伊東ゆう)

大女優の息子がグラビアアイドルを借金のカタに! 闇金事務員が見た地獄の“入り口”

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

 貸金業者を利用するお客さんのほとんどは、法人個人の関係なく、公庫や銀行から融資を受けられない人ばかりです。また、金融業者をはじめ、不動産業、風俗業、飲食業、芸能事務所など、公的な金融機関では信用取引が難しいとされる業種もあって、そうした方々も私たちのような街金融を利用されていました。

 融資依頼の申込書を基に、代表者の信用情報を問い合わせれば、サラ金や大手商工ローン会社を複数利用する多重債務者ばかり。いくら審査が甘い街金融であっても、信用取引などできる状況にありません。特に、私の勤めていた会社は、都知事登録業者ながらも法定金利以上の金利を徴収していたので、まっさらな客が来ることは滅多にありませんでした。

 その一方、連帯保証人として名前が挙がってしまう方の信用情報は真逆で、直近に複数回の信用照会があっても、利用履歴や貸付残高がない方が多かったと記憶しています。短期間に複数回の信用照会を受けている事実は、この連帯保証人での借り入れを複数社同時に申し込んでいる事実を示します。

「この保証人をつけたら、いくら借りられるのか」

 資金繰りに窮した多重債務者が、連帯保証人候補の名前と生年月日が書かれたメモを片手に、複数の会社に打診しているわけです。そのような人の信用情報に接するたび、人生崩壊の入口を見た気になりましたが、取引を断るわけにもいきません。いずれ、私たちに大きな利益をもたらしてくれるのは、こうした連帯保証人の有する資産なのです。今回は、有名女優の長男を名乗る芸能プロダクションの社長が、複数の連帯保証人を残して行方をくらました時のことについて、お話ししたいと思います。

「母は大女優」芸能プロダクション経営者が「300万円」を借りに来た

「この田中社長、とある大女優の息子さんなんだ。ほら、あの夫婦で温泉につかるCMに出ていた昭和を代表する有名な女優さん。社長も、わかるでしょ? いまは、ゴルフ場開発と芸能プロダクションを経営されていてね。運転資金として300万ほど用立ててもらいたいんですよ」

 入社から1年ほど経過した頃、金田社長お抱えのブローカー(顧客の資金繰りを手伝って手数料を取る人たちのこと、紹介屋)である佐々木さんが、50歳くらいに見えるスタイルの良いお客さんを連れてきました。もう70歳近いだろう佐々木さんは、体が大きく脂気の強いガマガエルのようなタイプの人で、社長と長年の付き合いがあることを楯に偉そうに振る舞うことから、私はもちろん従業員のみんなからも嫌われています。

 特に、伊東部長の持つ佐々木さんに対する拒絶反応は強く、あいさつも返さない間柄になっていました。それを知っている社長は、イケメン営業マンである佐藤さんを脇侍において対応されます。

「田中と申します。こちらが、ご指示された申込書と決算書、それに自宅の不動産謄本です」

 資料を受け取り、早速に信用情報を照会された佐藤さんが、排出されたレシートを手に言いました。

「やっぱり目一杯つまんでいるよ。ブロ―カー使って、自分から資料持ってくるヤツに、信用で貸せるわけがないよな」

 ブツブツ言いながらも、さわやかな笑顔で応接室に戻った佐藤さんが、田中社長の信用情報が記載されたレシートを手に商談を進めます。佐藤さんが席を外している間、少し前に亡くなられた大女優の実子だと社長に告白した田中社長は、とある女性タレントと交際している時、写真週刊誌に撮られたことがあるのだと自慢気に話していました。

「融資希望額を満たすには、ある程度強い連帯保証人さんをご用意いただかないといけません。不動産持ちが条件になりますけど、お心当たりはありますでしょうか?」
「ウチのタレントで、いいとこのお嬢ちゃんがいるから、ちょっと頼んでみますよ」

 翌日、グラビアアイドルとして売り出し中の女性が、保証人候補に上がりました。その方の名前と生年月日を打ち込んで信用情報を取得すると、すでに数件の信用照会が入っています。所有しているとされた自宅不動産は都内の一等地にある商業ビル一棟ですが、家族との共有名義で、本人の持ち分は4分の1しかありません。揃った書類をまとめて佐藤さんに渡すと、その結果を稟議書にまとめて社長の決裁を仰ぎます。

「乙区(不動産謄本の所有権以外の権利を示すページ)がサラ(不動産担保による借り入れなどがないこと)でも、この女だけでは出せないな。名義人全員の書類が入ったら、満額出してやるって伝えとけ」

 社長室から出てきた佐藤さんは、すぐ佐々木さんに電話をかけて、その結果を早速に伝えました。

「100万でもいいから、この女で出してくれないかと、佐々木が言ってきています。いかがしましょう?」
「こいつ、すぐ飛ぶぞ。佐々木も(連帯保証人に)入れて100万。それでいいなら、やってやれ」

ギャル文字で書かれた連帯保証契約

 契約当日の朝一番、待ちきれないといった様子の佐々木さんが、田中社長と露出度の高いブルーのワンピースを着たスタイルの良い女性を連れて来社されました。どことなく小池栄子さんに似ている気の強そうな女性です。事務所に入ってこられた途端、甘く淫靡な香水の香りが事務所内に充満すると、男性社員の視線が小さな顔の下にある大きな乳房に集まりました。

 人目を気にすることなく、いちゃいちゃと腕を組んで来社されたところを見れば、田中社長の恋人なのでしょうか。何を言うにも、甘え口調で話す女性の振る舞いに軽薄さを感じます。

「失礼いたします。いらっしゃいませ……」

 応接室にコーヒーをお持ちすると、あろうことか憧れの佐藤さんまでデレデレと上気した顔で接客されており、この女性のことがますます嫌いになりました。でも、さすがは芸能人。その美しさは目を見張るほどで、周囲の男が骨抜きになってしまうのも無理のないことと思い直します。

(あの人、子どもみたいな字を書くのね……)

 契約終了後、債権書類をファイルに閉じていると、連帯保証人欄にある彼女の署名が目に入りました。住所氏名共に、いまでいうギャル文字で書かれており、きちんと契約内容を理解されていないであろうことが伝わってきます。2カ月後、その予感は、図らずも的中することとなりました。

「社長。佐々木の紹介で出した田中社長、電話が止まっていて連絡が取れません。債権は100万です」
「佐々木も連絡取れないか?」
「はい。全然電話に出ないので、保証人の女に連絡したところ、2日前から社長と連絡が取れず心配していると。佐々木とは連絡を取る間柄になく、なにもわからないそうです」
「飛んだな。佐藤と藤原は、女のところに行ってこい。小田は、債務者(田中社長のこと)の事務所と自宅の確認だ。伊東は事務所に残って、不動産登記を進めるように。俺は、佐々木に連絡を入れてみる」

 社長の指示をホワイトボードに書き出し、保管庫から書類一式を取り出した伊東部長は、全員が出払ったところで言いました。

「佐々木みたいな質の悪いブローカーを使うと、ろくなことにならないんだよな。言わんこっちゃないよ」

 しばらくすると、連帯保証人のところに向かった藤原さんから連絡が入り、進捗状況が報告されます。

「本人と会えて話ができました。まだ接触はないみたいですけど、ウチのほかに3社ほど名前を書いちゃっている(他社でも連帯保証人になっているという意味)ようなので、とりあえず車を預かる方向で話しています」
「一番でよかったじゃない。車は何? 評価、足りそう?」
「はい、とかし(ローン中などで名義変更ができない車のこと。金融車ともいう)ですけどポルシェなので、大丈夫かと」

 それからまもなく、ポルシェの車検証と、車両の詳細(車種、色、走行距離、装備、傷の有無など)が、コンビニのファックスから送られてきました。その資料を、とかし屋(名義変更できない車を闇で売買する業者のこと)の井上さんにファックスして、早速に買取評価額を出してもらいます。

「ちょっと状態が悪くても250万円、問題なければ300万円で取りますよ」

 佐藤さんの席に座って一連のことを把握しながら、何度も執拗に佐々木さんの携帯電話を鳴らし続けていた社長が、電話を切って言いました。

「女で取れるなら、それでいいな。もう田中と佐々木は放っておこう。小田も引き上げさせろ」

 会社に戻るよう小田さんに連絡を入れると、ちょうど田中社長の自宅に到着したところのようで、夜逃げしているのが明らかな状況だそうです。

 それからまもなく、連帯保証人の女性が、佐藤さんたちに連れられて来社されました。いきなりのことで、出かける準備ができなかったのでしょう。ノーメイクのスウェット姿でこられましたが、相当な美形であることは変わりません。今回は、車両を担保に金を貸し付け、田中社長の債務を弁済させる形なので、女性との間で新規契約同様の手続きが行われます。スウェットを着ているため、魅力が半減しているのか、この日の男性陣は鼻の下を伸ばすことなく、事務的に処理を進めていました。

男性社員とグラドルが乗った担保のポルシェはホテルへと消えていった―――

「その状態で電車に乗るの、嫌ですよね? これで仕事も終わりだし、僕も同じ方向だから、よかったら自宅まで送りますよ」
「本当ですか? 助かります!」

 佐藤さんからの提案に、揉み手をして、うれしそうに応じる女の様子を目の当たりにして、言い知れぬ憎悪を抱いたことは言うまでもないでしょう。

「明日、全額決済しますから、預けているクルマを用意しておいてください」

 数日後、ポルシェを担保に取られた連帯保証人の女性から、全額決済する旨の連絡が入りました。車担保のお客さんは上客とされるため、決済時には機械洗車をしてからお返しすることになっています。ところが担当の佐藤さんは、高級車だからと手洗い洗車を選択し、ガソリンまで満タンにして返却するサービスぶりを見せました。どこかうれしそうに決済の段取りをする佐藤さんの様子が、いちいち怪しく、気に入らなかったことを覚えています。

「こんにちは」

 大きく胸元を開いた白のタンクトップに、淡いグリーンのシャツを羽織って来社された女性は、佐藤さんの姿を認めると友達に会ったような感じで小さく手を振りました。初回契約時と比べれば、2人の雰囲気から随分と関係が深まっているのは明らかで、ゲスな話ではありますが男女の関係さえ疑ってしまうほどです。

「ほかの保証先には弁護士を入れました。ここのことは内緒にしています」
「なんで内緒に?」
「いろいろ教えてくれて、良くしてくれたからですよ」

 その数日後、出社するべく事務所前の道を歩いていると、前方からきた真っ赤なポルシェが対面にあるホテルの駐車場に入っていくところを見ました。女が運転する車の助手席には、あろうことか佐藤さんの姿があって、しばらく呆然とした次第です。

※本記事は事実をもとに再構成しています

(著=るり子、監修=伊東ゆう)

闇金の本当にあったコワい話――社員を青ざめさせた、債務者の“呪詛”とは?

 こんにちは、元闇金おばさんことるり子です。以前、全10回の短期連載を行いましたが、今回、あらためて新連載としてスタートすることになりました。

 金融屋の事務員として生活していた当時、通勤先の本社事務所は、都内有名繁華街の最寄り駅から徒歩3分くらいのところにありました。事務所の対面には、有名ホテルがそびえ立っており、心と財布に余裕があるときには早起きして、豪華な朝食ブュッフェを満喫してから出勤したものです。

 男性営業社員のみなさんも、商談の際には案件を抱えるブローカーとラウンジで耳を寄せ合い、クルマを担保に預かるときにはホテルの地下駐車場で引き渡しを行うなど、頻繁に出入りを繰り返していました。少し潔癖なところがあって、日々のトイレをホテルで済ませていた伊東部長は、それをカムフラージュするためなのか、ランチや接待でもよく使っていたと記憶しています。

 とある冬の日のこと。始業前の朝礼中に、伊東部長の担当するお客さんから電話がかかってきました。ここ2年ほど取引のあるデイリー広告社の中尾社長(仮名)です。

「お世話になります。ただいま朝礼中ですので、すぐに折り返しいたします」
「いや、ちょっと急ぎなので、今すぐにつないでください。お願いします」

 おそらくは、今日の当座が足りていないのでしょう。切羽詰まった様子なので、朝礼中の部長にメモを渡すと、すぐに社長が言いました。

「出てやれ」
「はい、失礼します」

 朝礼が中断され、社員の皆が注目する中、電話のスピーカー機能をオンにした部長が、みんなの前で会話を始めます。

取引先の倒産で切羽詰まった債務者のSOS

「もしもし! 社長、いま朝礼中なんだよね。急ぎって、どうしたの?」
「忙しいところ、すみません。今日、不渡を出しちゃいそうなんです。ここで潰れたら、伊東さんのところにも返せなくなっちゃうし、どうにか助けてもらえないかと思いまして」
「はあ? まだ時間あるのに、なにを言っているんですか。いくら足りないのよ?」
「今日入金予定があった取引先が、急に弁護士を入れてきて、倒産しちゃったんですよ。いま手元に300万ほどあるんですけど、今日の当座、あと200万ほど足りないんです」

 その瞬間、デスクの袖から1冊の顧客ファイルを取り出した伊東部長は、それを佐藤さんに手渡しました。同時に、中尾社長を呼び出すよう社長から耳打ちされた部長は、目を合わせてうなずくと事務所に来るよう誘導を始めます。

「なんだ、社長。水臭いな。早く言ってくださいよ。ウチが用意してあげるから、いますぐおいで」
「本当に貸していただけるんですか? 家族も車も、みんな伊東さんのところに入れちゃっているから、これ以上は何も用意できないですけど……」
「大丈夫。手持ちのお金と印鑑、それに通帳と手形帳を持って、ウチの事務所まで来てください」
「ありがとうございます。やっぱり伊東さんに相談してよかった。1時間もかからないと思いますので、よろしくお願いいたします」

 デイリー広告社に対する貸付残高は、350万円。その内訳は、奥さんと義父母を連帯保証人にした信用融資の貸付残高が200万円と、自動車担保による貸付残高が150万円で、金利や車庫代の支払いに遅れはありません。手慣れた様子でファイルを開いた佐藤さんが、関係先一覧をホワイトボードに書き始めると、デイリー広告社の保全状況が明らかになりました。

 都内にある40坪ほどの自宅不動産は、社長夫婦と義父母の共有名義で、どうやら奥さん方の両親と2世帯住宅で暮らしているようです。担保に預かっている車は、トヨタのクラウン。ほとんど新車ながらも、いわゆるとかしの車(自動車販売店やローン会社の所有権が留保されて名義変更できない車、名変不可車、金融車ともいう)で、とかし屋(名変できない車を買い取って転売する闇稼業)による買取評価は180万円とされていました。

「ウチを頼って一番に相談してくるとは、ありがたい話だな。いままで、いい付き合いをしてきたかもしれんが、飛ぶ(倒産するということ)のは時間の問題だろう。こいつの自宅、家族と4分の1ずつの共有名義だから、占有はしんどいぞ。いまあるカネは全額入金させて、信用分は決済させろ。最近は、トヨタもうるさいから、クラウンの残高も減らしておけ」
「はい。とかし屋の井上は、上物のクラウンだから、もう少し(値段を)つけられるかもと言ってくれています。デイリー広告社にも、できるだけ多く入金させますので」

追い込まれた社長を待つ闇金の罠

 おそらくは全額回収できる自信があるのでしょう。冷酷すぎる社長の指示に、まるで動じることなく応じた部長は、300万円を内入れさせる内容の計算書を用意するよう私に指示しました。どうやら再貸付に応じることなく、所持金すべてを取り上げると決めたようで、これから来社される中尾社長のことを思うと胸が痛みます。どのように説得するのかわかりませんが、まもなく展開されるだろう修羅場を目前にして、この場から立ち去りたい気持ちに駆られました。

 その一方、もうすぐ来るからとホワイトボードを裏返しにした伊東部長は、感情を失くした顔で中尾社長の来社を待ち受けています。

「ごめんください。伊東部長とお約束しているデイリー広告の中尾と申します」
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

 53歳だという中尾社長は、白いポロシャツに赤いダウンジャケットという軽装で、テレビマンのような雰囲気を持つ方でした。服装の影響なのか、年齢よりはお若く見えますが、資金繰りに奔走し、憔悴した顔に生気はありません。応接室に案内してから、熱いコーヒーを入れて差しあげると、テーブル上に会社のゴム版や実印、手形帳を出し終えていた中尾社長は、腕を組んで黙想したまま動じませんでした。

「社長、お疲れのようですね。大丈夫?」
「はい、大丈夫です。ここは暖かいし、ちょっと安心したら眠くなってしまいました」
「形だけでも一度決済しないと再貸付はできないので、用意できた300万円、とりあえずお預かりしてよろしいですか」
「はい、お願いします」

「話が違うじゃないですか! ウチの会社、倒産しちゃいますよ!」

 私の席は、間仕切りに囲まれた応接室の隣にあるため、意識せずとも2人の会話が耳に入ってきます。いつにも増して堅苦しい雰囲気を醸し出している伊東部長が、300万円の領収証を持って応接室に戻りました。それからまもなく、再貸付ができない旨を伝えると、中尾社長が大きな声を出されて状況が一変します。

「伊東さん、話が違うじゃないですか! いま貸してもらえないんじゃ、ウチの会社、倒産しちゃいますよ!」
「社長、申し訳ない。うまくやるつもりでいたけど、御社の信用状況が急激に悪化していてさ。もう隠しきれない状況なんだよね」
「そんな、ひどい! じゃあ、せめていまの300万だけでも戻してくださいよ。それが私の全財産なんです。お願いします」
「本当は、急に信用状況が悪化したから、今すぐ全額決済してもらえって言われているところでさ。本音を言えば、残りの50万円も片付けてもらって、とかしの車もお返ししたいところなの。社長、申し訳ないけど、私の立場もわかってよ」

 ひどい、なんとかしてくれと繰り返す中尾社長に、ごめん、できないと返し続ける伊東部長の押し問答は、それから1時間ほど続きました。その間、ほかの営業社員たちは聞き耳を立てるでもなく、新規顧客を獲得するべくテレアポに集中しています。

「こんなのひどい。伊東さん、恨みますよ」
「恨むのはいいけどさ。クラウンも、なるべく早く決済してくださいね。もし不渡を出したら、期限の利益が喪失されて、すぐに売らなきゃいけなくなっちゃうから」
「400万で買ったばかりの車を、たった50万で取り上げるんですか? 伊東さん、あんた本当にひどい人だな」

 眉間にしわを寄せ、目を三角にした中尾社長は、怒りに体を震わせながら事務所をあとにしました。きっと、内心はつらかったのでしょう。エレベーターに乗り込む中尾社長を見送り、一連のことを社長に報告した伊東部長は、私にコーヒーを入れるよう頼むと、どこか不機嫌な様子でタバコに火をつけました。目を閉じたまま、煙を深く吸い込む姿を見て、少し心配になったことを覚えています。

「デイリー広告だけど、伊東さん出して」

 午後3時を少し回った頃、中尾社長から電話がかかってきました。すでに銀行の営業時間は終わっており、その口調から、最悪の事態を迎えただろうことが容易に想像できます。少し面倒くさそうな顔をした伊東部長が、スピーカー機能をオンにして電話を受けると、中尾社長が嫌味たっぷりな口調で言いました。

「伊東さん、長いことお世話になりましたね。今日は助けてほしかったけど、結局、不渡を出しちゃったから、おれの人生も終わりです」
「社長、不渡出しちゃったの? 参ったなあ。クラウンは、どうするのよ? あと50万で出せるよ」
「伊東さん。私は、あんたのことを一生恨みますよ。今日のことは、絶対に忘れないし、許さないから」
「そんなこと言わないで。とりあえず車だけ出しにきなよ。それでまた、カネ作ればいいじゃない」

 おそらくは中尾社長にかける言葉が見つからなかったのでしょう。憎まれ口を叩いてはいますが、本心ではないようで、少し悲しげな顔で話されていたことを思い出します。

ドゴォン!

 いつもより重く長い1日が終わり、退社前に事務所内のごみを集めていると、目の前にあるホテルのほうから交通事故と思しき大きな衝突音が聞こえました。何事かと、音に反応した佐藤さんがベランダに飛び出して、早速に状況を確認します。すると、少し青ざめた顔をした佐藤さんが、振り返ると同時に声を震わせて言いました。

「部長、飛び降りです。赤いダウンジャケットを着た人が倒れていますけど、まさか違いますよね?」
「おい、ウソだろ」

「死にたい奴は、死なせてやればいいんだ」社長の慰めの言葉

 入れ替わるようにベランダに飛び出して、階下の状況を確認した伊東部長は、すぐエレベーターに乗り込みました。ほかの社員たちと一緒にベランダから首を伸ばせば、取り囲む人たちをかき分けて、倒れている人の傍らに跪いて声をかける伊東部長の姿が見えます。倒れている人の肩に手を置き、祈るようにアゴを引いた伊東部長は、救急車が到着するまで寄り添っていました。しばらくのあいだ警察と話して、まさに苦虫を噛み潰したような顔で事務所に戻ってきた伊東部長が、自嘲気味に吐き捨てます。

「中尾社長だったよ。あれじゃあ、即死だな」
「恨むって、こういう意味で言っていたんですかね?」
「そうだろうな。まさか目の前で飛ばれるとは思わなかったよ。本当に参ったな。もうホテルにも行きたくないよ」

 平静を装いつつも、明らかに動揺している様子の伊東部長を見かねた社長が、慰めの言葉をかけます。

「回収しておいて正解だったな。あまり気にすることないぞ。死にたい奴は、死なせてやればいいんだ」

 社長の言葉を無視して、再度ベランダに出た伊東部長は、しばらくのあいだ中尾社長が倒れていた路上を見つめていました。

 後日、告別式に参加して、心の中で許しを請うたそうです。それから変わることなくホテルを利用し続けた私も、あの現場を通過する度に心の中で手を合わせて、中尾社長のご冥福をお祈りしています。

(著=るり子、監修=伊東ゆう)

「闇金王国」はどのように最期を迎えたか? 金に執着した社長の情けない姿

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。今回は前回に引き続き、かつて私が働いていたの“闇金”の終焉についてお話していきたいと思います。

 警察の強制捜査の翌日、事務所に到着すると鍵が開いていたので恐る恐る中を覗くと、社長の奥さんが事務所内で待ち受けていました。お目にかかるのは、2年前の社員旅行以来で、あまり話したこともないため緊張します。

「おはようございます。今回は、ご迷惑をおかけして、ごめんなさいね」
「いえ、私は大丈夫です。奥様は、大丈夫ですか?」
「しっかりしないといけないときだから、なんとかね」

 奥様も眠れなかったのでしょう。憔悴しながらも、悟られぬよう気丈に振る舞う姿は痛々しく、どこか寂し気に見えました。昨日は、社長の自宅にも家宅捜索が入り、それが夕方遅くまでかかってしまったために、これから留置される警察署まで差し入れに行くそうです。しばらくは接見禁止が続く見込みですが、弁護士と一緒に行くため、なにかあれば聞いてもらえるとのことでした。

「お客さんからいただく金利の計算は、どうしましょうか? 法定金利内に収めないと、また事件にされちゃうかもしれませんよ」
「そうね。問題にならないように正しくやってください」
「不渡が出たらどうします? 私たちにできることは、なにもないんですけど」
「そこは聞いてくるわね。いろいろとご心労かけて、本当にごめんなさい」

 その結果、できないことは放置しておいて構わないと指示されましたが、まるで想定外のことが起こります。

社員の横領が発覚。顧客が次々と手のひら返し――疲弊したるり子を助けたのは?

 事件を起こした社員2人が担当する顧客の期日が到来し、再貸付の依頼をいただくと、月に3割もの利息を支払わせていたことが露見したのです。正規の貸付(といっても違法な金利ですが)であれば、100万円をひと月間借りた時の金利は6分で、金額でいうと6万円程度の話になります。

 ところが2人は、その5倍――月に30万もの金利を取っていました。つまりは一回の貸付で、1件あたり24万円も着服していたことになり、その悪質さは極まりないものといえるでしょう。2人の管理する債権は、合計で2000万円ほど。すべての顧客に設定金利を確認して回ると、ほとんどの客から月3割の利息を徴収しており、さらには一部の客と半使い(貸金を折半して使うこと)して踏み倒している事実も明らかとなって、その悪質さに愕然としました。

 お客さんは疑いすぎるほどなのに、身内は完全に信用してしまう。そんなところが社長らしいといえばそれまでですが、昔からの社員に退職された寂しさにつけ込まれた感も否めず、どこか残念な気がします。

 さらに悲しいかな、当社の立件報道を見て、態度を変えてくるお客さんも現れました。高利を支払ってきたことを理由に返済を拒む客や、過去の取り立てについて被害届を出すと脅してくる人が続出して、その対応に苦慮したのです。

「あんたらがウチにやったことが、いま事件になったら大変だろ? あの時の金、全部返せよ」
「これ以上請求するなら、ウチからも刑事告訴するよ」

 いままで丁寧な口調で電話をかけてきていた人が、突然に脅迫的な態度で接してくるので困惑しましたが、ウチの会社が人の不幸に付け込む仕事をしてきた結果で、何も言い返すことはできません。仕方なく、退職された佐藤さんに電話をかけて相談すると、以前と変わらず親身に話を聞いてくれました。本音を明かせば不安でたまらず、とてもつらい気持ちでいたので、話を聞いてほしかったのです。

「さっきニュースで見て、連絡を入れようと思っていました。いろいろと大変でしょう?」
「はい。いま愛子さんと2人きりなので、もうどうしたらいいかわからなくて」
「そうでしょうね。こちらの仕事もあるので、空いている時間だけになってしまいますけど、できるだけ協力しますよ」

 退社されてから不動産会社を興した佐藤さんは、ある程度、時間の自由が利くそうで、不法行為には関わらないことを条件に、社長が保釈されるまでの間に限って手伝ってくれることになりました。取り急ぎ、態度を急変させた客への対応について相談したところ、とにかく刑事告訴されないことを一番に考え、民事での和解を促すべきだと進言されます。

「費用もかかるし書類集めも大変だから、本気で訴えてくる客は、そんなにいないと思いますよ」

 結局、訴訟まで起こしてきたお客さんはなく、思いのほか簡単に事態を収束することができました。

「心配かけて悪かったな」

 逮捕から3週間ほど経過した後、600万円の保証金を支払って保釈された社長は、随分と痩せた状態で事務所に現れました。留置場における日々が思いのほか厳しく、精神的に参ってしまったらしく、毎日の食事も思うようにとれなかったそうです。保釈されたことを聞いて、事務所に駆けつけた佐藤さんから留守中の報告を受けた社長は、入出金状況の照合をした後に50万円の現金を用意するよう言いました。それを佐藤さんに手渡して、これからも手伝ってもらえるよう懇願すると、違法行為には携わらないことを条件に快諾されます。

 先に逮捕された2人は、前日に保釈されており、明朝に出社される予定だと聞きました。不正行為が発覚している件は、なにひとつ伝えていないそうで、修羅場になること必至の状況といえるでしょう。

「あいつら、ふざけやがって。本当に舐めているな」

 翌日、事件のきっかけを作った2人の社員は、約束の時間が過ぎても姿を現しませんでした。その代わりに弁護士から介入通知が届いて、退職の意思表示と合わせて、法廷における全面対決の意向が伝えられます。

 2人ともに、会社の指示で仕方なくやったと供述しており、完全に裏切られた形となりました。不当に受領していた金利も、そもそもの貸付契約が違法のため、返還を求めることすらできません。刑事裁判の成り行きも気になるところで、従業員の立場にいた2人に口裏を合わせられているため、社長一人が不利になる様相になってきました。はっきり言ってしまえば、いいようにやられてしまっており、今後の展開が不安になります。

 結局、その不安は的中することになり、件の2人は、すべてを社長の責任にして執行猶予付きの判決を勝ち取りました。主犯として扱われ、ただ一人だけ実刑判決となった社長には、懲役4年の判決が下されてしまいます。

 即日に控訴保釈され、実刑判決を免れるべく新旧の債務者に和解金を提示した社長は、積極的に和解書を集めて証拠申請する作戦で対抗しました。大いに反省して、これまでの不当利得分を返したのだから、刑務所行きだけは勘弁してくれという主張です。返金総額は、合計で2000万円ほど。

 お金に執着して、ひどい取り立てをしてきた人が、刑務所行きを恐れて返金する姿は情けなく、社長に対する気持ちは日を追うごとに薄れていきました。

「被告人を懲役3年に処する。ただし、その執行を5年間猶予する」

 控訴審で、念願の執行猶予判決を得た社長は、これを機に廃業することを決めました。もはや片手間でできるくらいの仕事しか残っておらず、これ以上続けてもリスクしかないと判断したそうです。これからは不動産の賃貸収入で細々とやっていくと、毒気の抜けた顔で話していましたが、それ以後のことはわかりません。

 愛子さんと私には、給料3カ月分の退職金が支給され、至極円満に退社することになりました。その後、都内の不動産業者に就職した私は、そこで出会ったふた回り年上でバツイチの役員と結婚して、現在は幸せに暮らしております。

※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)

「金を返さないまま死んだら成仏できないぞ」病院での取り立てで社長逮捕……闇金王国がついに崩壊へ!

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

 2010年、出資法と貸金業法が改正されたことにより、行政や警察による取り締まりも厳しくなりました。それにもかかわらず、うちの会社は高利での貸付や強めの取り立てを継続したため、ついていけない社員が次々と退職してしまったのです。

 その筆頭は佐藤さんで、体をかけてまではできないと、至極当然なことを理由に退職されました。入社してから現在まで、秘かに抱いていた私の恋心も、ここに終了。最強タッグのパートナーである藤原さんも、その後に続き、それからまもなく小田さんや伊東部長まで退職してしまいます。そのままなし崩しの状態に落ち入り、まるで会社の事業に見切りをつけたように営業社員の退職が相次ぎ、一時期は愛子さんと私、それに社長の3人で事務所を運営した時期もありました。

 新規貸付は行わずに、ひたすら決済を待つ後ろ向きの営業スタイルで、不渡り時には社長一人で対応されます。今まで受け持っていた仕事のほか、登記書類の作成や現場の確認なども任されるようになったため、お給料は上がったものの、常に不機嫌な顔でピリピリしている社長と過ごす時間が苦痛でなりませんでした。

 退職者の穴埋めをするべく、就職情報誌で募集をかけると、中学校からの同級生だという20代前半の男性2名が採用されることになりました。人事は社長の独断で、私が口出しをするわけにはいきませんが、どう見ても営業向きではないタイプなため不安になります。

 2人ともに体格が良く、パンチパーマをかけているので、はっきり言えばヤクザにしか見えないのです。体に入れ墨も入れており、親指の付け根にある点で描かれた三角形は、服役経験を誇示するためと聞いてあきれました。10代の頃には暴走族をやっていたらしく、その時代の逮捕歴が、親指の付け根に反映されているそうです。

 彼らの前職は、10日で3割という暴利で金を貸すヤクザ系の闇金融業者の一員で、今でいう半グレの人といったところでしょうか。前勤務先の顧客リストを持ち出してきており、入社直後から新規の貸付先を多数獲得してみせましたが、筋悪客(信用状態の悪い先のこと)ばかりで、社員の質に合わせて客層も変わっていきました。

「きっと近いうちに、なにか大きなトラブルが起きる」

 社員の出入りに伴い、自然と湧き出る不吉な胸騒ぎを抱えながら日常業務をこなしていくと、その予感は意外と早くに的中することになりました。彼らが入社してから3カ月ほど経過したところだったでしょうか。心臓を悪くして緊急入院している間に、やむなく不渡りを出してしまった電気工事屋の債権を回収するべく病院まで取り立てにいき、そこで事件を起こしてしまったのです。

「どうせ死ぬなら借りた金を返してから死んでくれ」
「ウチの金を返さないまま死んだら成仏できないぞ」

 見舞客を装って難なく病室に入った2人は、病床につく社長の耳元で脅迫的な物言いを繰り返しました。

「今、いくら持っているんだ? 財布を出してみろ」

 ベッド脇にある私物入れから財布を取り出させて、嫌がる債務者の手を振り払って財布の中に手を突っ込み、病院代として持っていた8万円の現金を抜き取ってしまったのです。すぐに2人は病院を後にしましたが、隣のベッドを使う患者がやりとりの一部始終を見ており、警察に相談するよう社長に進言したことで事件が発覚。財布に手を入れる時、揉みあいの中で社長の手首をつかんだようで、そこが赤黒く痣となっていたことから強盗致傷の容疑で捜査が開始されてしまいます。

「警察だ。そのまま動かないで。なにも触るなよ」

 翌日、事務所を開けてまもなく、警察の強制捜査が入りました。捜査員の中には、女性の姿もあり、皆一様に「捜査」と書かれたえんじ色の腕章をつけています。事務所に入ってくるなり、3人1組の体制で社員2人を取り囲んだ捜査員は、それぞれの氏名を確認した後、その場で逮捕状を読み上げました。

「これからね、強盗致傷の容疑でね、あなたたちに出ている逮捕状を執行しますね。時間はね、午前8時50分ね。何か言いたいことは、ありますか?」
「強盗致傷って、なんだよ? ウチは、貸した金を返してもらっただけだ」
「あなたの話も、後でゆっくり聞きますからね。それではね、手を出していただけますか」

 語尾に「ね」をつける癖のある捜査員が2人に対する逮捕状を読み上げると、すぐに手錠がはめられ、あっという間に連行されていきました。

「これから強制捜査を開始しますので、協力してください」

 数人の刑事が社長室に入ると、私と愛子さんは経理部で、女性捜査員のコンビに両脇を挟まれました。身分証明書を確認された後、台帳や現金、預金通帳などの保管場所を指差した写真を撮られて、その中身を全部出すように指示されます。

 手許の現金を数え、通帳や手形小切手の詳細を書きとった女性捜査員は、それらを警視庁と書かれた封筒に詰めていきました。事件の発端となった電気工事屋の関係書類だけは、別の箱に集められて、厳重に封印されていたことを覚えています。

「貸金業規制法と出資法違反の容疑で、あなたを逮捕します」

 それからまもなく、年配の捜査員によって社長に対する逮捕状が読み上げられると、その場で手錠がはめられました。手錠姿で俯きながら連行される社長の哀愁漂う姿を見て、自然と涙があふれ出たことを思い出します。

「もしかして、私たちも逮捕されるんですか?」
「それはないと思いますけど、あなたたちからも話を聞かないといけないから、警察署までは同行してもらいます。すぐに出かける準備をしてください」

 みんなが別々の警察署に連行されたことで、取り調べ中も不安な気持ちでいっぱいでしたが、その日の夜に帰宅を許されて安堵しました。すぐに愛子さんに電話をかけると、今しがた解放されたそうで、事務所で落ち合おうと提案されます。

「大変だったわね。私たちまで連れて行かれるとは思わなかったわよ」
「はい、びっくりしました。社長、すぐに帰ってきますよね?」
「どうかしら。顧問の弁護士先生とは面識あるから、明日確認してみるわね。ねえ、おなかすいてない? 少し片づけたら、食事に行きましょうよ」
「そういえば、お昼を食べ損ねました。かつ丼とか、出前でも取ってくれるのかと思ったけど、取調室は飲食禁止みたいで」

 廃棄するべく、社員2人の机上に残された食べかけの総菜パンを手に取ると、朝に食べたきり何も食べていないことを思い出しました。軽く掃除を済ませて、事務所近くの中華料理店に入り、お酒を飲みながら食事を取ります。食事中は、もっぱら取り調べの話題で、担当の刑事に聞かれたことを照合しました。

「金利のことと取り立てのことが中心だったけど、ヤクザ関係の話をしつこく聞かれて困ったわよ。名前と顔は知っているけど、どこの組の人かなんて、1人もわからないから」
「そうですよね。私は、社長との関係を勘繰られて、なにか預かっているものはないか執拗に聞かれました」
「へえ、そんなのあり得ない話よね。るりちゃんは、若いから仕方ないか」
「彼氏もできたことないのに、社長の愛人だなんて、ひどい話ですよ」

 いつもよりお酒が進みましたが、ドラマのような1日を過ごして興奮していたらしく、少しも酔うことはありません。先のことを考えると夜も眠れず、そのまま朝を迎えてテレビをつけると、しばらくして見覚えのあるビルが映し出されました。

 昨日、会社に強制捜査が入り、社長たちが逮捕されたことが報道されていたのです。それによると当該事件のほか、某指定暴力団の企業舎弟であると警視庁に疑われているそうで、さらに詳しい調査が進められるとのこと。それが事実だとしても驚きはありませんが、そうなれば私自身も暴力団関係者になってしまう気がして、とても嫌な気持ちになりました。

 正直に言えば、もう退職したい。そんな気持ちにもなりましたが、愛子さんだけを残して辞めるわけにもいきません。社長が帰ってくるまでの間は、細かいことを気にしないようにして、通常通り朝一番の出勤を続けることに決めました。

※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)

玄関に並べられた「夫婦の遺骨」――闇金社員が走って逃げ出した“恐怖の現場”

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

 貸付残高のあるうちは、債務者や連帯保証人が名義を有する不動産謄本を、月に一度、必ず定期閲覧することになっていました。いわゆる与信管理というやつで、名義の変更や借り入れの追加、差押や仮登記など、大きな変更があった場合には、すぐに保全を取る決まりになっています。

 謄本を郵送請求して法務局から送ってもらい、変更の有無を確認するのは私の仕事。もし変更があった場合には、すぐ担当者に伝えなければならず、その知らせが回収業務開始の合図になっていました。そのほとんどが、行政からの差押や他業者からの根抵当権設定仮登記で、業界最大手だった日栄や商工ファンドによるものが最も多かったと記憶しています。他業者からの登記は、不渡発生と同様の扱いとなるため、変更を見つけるたびにドキリとさせられました。

「佐藤さん、小林製作所(債務者、仮名)さんの不動産謄本に変更がありました。個人名の賃借権が仮登記されています」
「本当? それは、まずいな」

 小林製作所に対する貸付残高は、150万円。個人名での賃借権設定仮登記は、闇金業者か暴力団関係者よるものといったところで、営業社員からすれば最悪の事態といえるでしょう。取り寄せた不動産謄本を渡すと、すぐに内容を確認した佐藤さんは、早速に受話器を上げて電話をかけ始めます。

「会社と自宅の電話が、両方とも止まっているから、現地に行かないとダメだ」

 社長が留守のため、一連のことを伊東部長に報告した佐藤さんは、いつも通り藤原さんを連れて債務者の事務所に向かいました。重要確認事項と各担当者をホワイトボードに書き終えた部長は、極真空手の有段者である小田さんと一緒に、代表者の自宅にいくそうです。連帯保証人も、債務者宅の近所に住む社長の幼なじみらしく、そちらの状況も合わせて確認することになりました。

「ねえ、小田君。現場に面倒なのがいたら、君の空手で、ぶっ飛ばしちゃってくれるかな」
「いやいや、暴力はダメです。空手に私闘なし。そう師範に教えられているものですから」
「じゃあ、向こうから来たら、どうするよ?」
「それは、いきますよ。極真空手は、背中を見せない。これも師範の教えです」

 取り立て部隊が出かけてから1時間ほど経過すると、現場(債務者の会社)に到着した佐藤さんから状況報告が入ってきました。もぬけの殻となった事務所は、すでに荒らされた様子で、従業員の姿もないそうです。これから部長たちと合流するというので、帰社された社長に伝えて、続報を待ちました。

 しばらくすると、珍しく慌てた様子の伊東部長が、息を荒らげながら電話をかけてきました。少し前に戻って来た社長に電話をつなぐと、スピーカーマイクで通話するため、その会話は必然的に社内で共有されます。

「小林の社長、女房と一緒に死んでいました」
「どうしてわかった? 死体があるのか?」
「2人分の骨壷が、玄関に安置されています。位牌の名前も確認したので、間違いないです」

 鍵屋を呼んで家に入ったところ、玄関ホールにお骨が並んで安置されていたそうで、その場から走って逃げ出したほどに驚かれたとのことでした。ケンカ自慢であろう小田さんも同様、こうした状況には弱いらしく、ここで寝るのは嫌だと駄々をこねているようです。

 家の中に入った2人が突如逃げ出したことで、それに釣られた鍵屋も全速力で走り出したと聞き、その情景が可笑しくてニヤついていると愛子さんが言いました。

「遺骨くらいで怖がって、部長たちも情けないわね」
「私の実家は葬儀屋なので、見慣れているから、なんとも思わないですけど」
「るりちゃんは、現場向きかもね。何事にも動じなさそうだから、きっと向いているわよ」
「それは絶対に無理ですよ。私、他人の家に泊まることできないので、占有できないし」

 結局、その社長の自宅は占有することになり、担当の佐藤さんと藤原さんが現場に入ることになりました。伊東部長と小田さんは、そのまま連帯保証人の自宅に向かい、取り立てを継続されます。

「いま、保証人さんに会えました。聞いたところ、先週、2人が自宅の風呂場で首を吊っていたのを、息子が見つけたみたいです。本人が保証しているのは、ウチともう一社だけみたいで、昨日、そこは完済したと話しています」
「そいつ、いくら持っているの?」
「すぐには用意できないみたいですけど、カードで借りられるし、車を売って作ることもできると話しています。車は、3年落ちのクラウンですね」
「ATMに行かせて、足りなかったらカード割だな。連絡しておくから、春田のところで率のいいものを買って、換金してもらえ」

 主に、中古時計やブランド物の買取販売を行う春田さんは、質屋も営む社長の仲間で「カード割」もやっていました。実際には買っていない商品を買ったことにしてクレジットカードを切らせて、手数料を引いた代金を手渡す商売です。

 売ったことにした商品は、別の日に買い取ったことにして、商品棚に戻します。例えば、保証人が100万円の時計をカードで買ったことにして、春田さんは手数料20万円を引いた80万円をうちの社長に手渡しします。その後、春田さんはその時計を買い取ったことにして、再度100万円で売り出すわけです。

 その80万円が、債権回収に充てられるわけで、体よくカード会社に現金化させる仕組みになっていました。このように二重の利益が生まれる仕組みを知った時には、とても理にかなった儲け方だと、金融屋さんの思いつく悪知恵に感心したものです。

 カード割が成功して、債権回収に成功したので連帯保証人とは和解しましたが、他社に持っていかれるならと社長自宅の占有を継続したところ、その日の夜に大きな事件が起こります。

 帰宅した債務者の息子さんと藤原さんが揉み合いになり警察を呼ばれ、社員2人ともが連行されてしまったのです。どうやら前日にも、取り立てにきた他業者と息子さんが派手に揉めていたらしく、警察から強行的な取り立ての即時中止を勧告されました。この業者によって事務所が荒らされていることも把握されており、重点警戒しているから事務所にも近づくなと釘を刺されます。

「強行的な取り立てを続けるのであれば代表も含めて逮捕する」

 いつになく強く警告されたため、警察の本気を感じた社長は占有を諦めて、すぐに手を引きました。ギリギリのところで逮捕を免れ、翌日も無事に出社した佐藤さんが、事務所の掃除をしながら昨夜の模様を語ります。

「揉み合いになった息子、元相撲取りなんだって。ものすごく力が強くて、ちょっと押されただけで、壁まで吹っ飛ばされてさ。前の日には、業者の乗ってきたセルシオのフロントガラスを素手で叩き割っているみたいなんだけど、なかなか素手で割れるもんじゃないし、そんなの検事に送っても信用されないって不問にしたらしいんだ。両親に心中されてね、俺らのことを逆恨みしているみたいだから気をつけろって、刑事に言われたよ。本気でやられたら、きっと死ぬぞって……」
「何時に出られたんですか?」
「夜中の1時くらいまでかかったかな。危うくパクられるところだったのに、一言の労いもなくてさ。この仕事に逮捕はつきものだから仕方ないって言うんだよ。ヤクザじゃあるまいし、ほんと困っちゃうよね」

 いつもならしつこく取り立てを続ける社長も、今回ばかりは太刀打ちできず、元金以外の利益を出すことはできませんでした。弱者に強く、強者に弱い。ビジネスのことを考えれば当然のことかもしれませんが、自身の逮捕を恐れて逆らうことなく警察の指示に従ったことは意外で、この件以降、社内における社長の威厳が小さくなったように思います。

 自分の利益を第一に考え、現場の社員に体を張らせておきながら我が身の保身を図った事実が、社長に対する忠誠心を大きく奪ってしまったのです。

※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)

「強盗でもなんでもやって金を作る」倒産寸前の社長が、ついに一線を越えた! 闇金社員が見た衝撃の結末

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。今回も、かつて闇金で働いていた頃の印象深いお話をしていこうと思います。

「ごめんください」

 午前8時半。誰もいない事務所で朝の掃除をしていると、60歳くらいに見える痩せた薄毛の男性が、ビジネスバッグを片手に怯えた様子で入ってきました。

「朝早くから、すみません。私、北西印刷の北西と申します。伊東部長様は、いらっしゃいますでしょうか」
「伊東はまだですが、お約束でしょうか?」
「いえ、今日決済があるんですけど、その件でご相談に参りました」
「そうでしたか。もうまもなくだと思いますので、どうぞ、こちらでお待ちください」

 今日、当座に回している北西印刷の手形は、100万円。昨日、手形を銀行に持ち込んで、取り立てに回したのは私なので、その状況は把握しています。応接室に案内して、お茶を入れてから部屋に戻ると、北西社長が床に正座していて驚きました。

「ちょっと、なにをされているんですか!? イスにお座りください」
「いえ、大丈夫です。そんな立場にないものですから、部長様が来られるまで、このままでいさせてください」

 座れ座らないの押し問答を繰り返していると、先に出社された金田社長が、なにごとかと応接室に顔を出してくれました。説明するまでもなく、すぐに状況を飲み込んだ様子で、まるで相手にすることなく社長室に戻っていきます。

「少々お待ちください」

 後を追うように応接室を出て、お茶を入れて差しあげると、少し楽しげな様子の社長が言いました。

「あの客、まだ正座しているのか?」
「はい。今日決済があって、その件で相談に来たと仰っていました」
「そりゃあ、そうだろう。それ以外、ないよなあ」

 ほどなくして部長が出社されたので、手短に状況を伝えると、そのまま社長室に入られました。まもなくして出てきた部長が、そのまま応接室に入ると同時に、北西社長の悲痛な声が聞こえてきます。

「伊東さん、申し訳ない。今回だけ、助けてください! お願いします!」

 応接室の扉を開けると、北西社長は床に額をつけて、部長に哀願していました。

「で、いくら用意できているの?」
「30万です。本当にすみません」
「なんだ、半分も用意できてないのか。ウチはさ、依頼返却(一度取り立てに回した手形を所持人が銀行から返還してもらうこと)かけない主義なんだよね」
「そこをなんとか、お願いします! でないと、ウチ倒産しちゃいますよ。すぐに作りますから、3日だけ時間ください」

 血の気を失くした顔で、床に正座したまま懇願する北西社長を見下ろす部長の目は冷たく、まるで助ける気配は感じられません。社員全員が出社したところで、応接室から出てきた部長は、北西印刷の 債権譲渡や不動産登記の準備をするよう指示した後、回収要員である藤原さんを連れて北西社長と一緒に出かけていきました。出がけに、債権の保全が取れ次第、依頼返却をかけるからと予告されます。

「伊東部長、依頼返却は午後2時までだからね。銀行がうるさいから、時間厳守でお願いしますよ」

 先輩事務員の愛子さんが声をかけると、部長は、

「ああ、早めに連絡するから」

と約束していました。

 愛子さんによれば、依頼返却は銀行が嫌がる手続きらしく、基本的にはお断りしているそうです。そのため、やむなくお願いする場合には、顧客から「ジャンプ手数料」として一律10万円を徴収していました。言ってしまえば、不渡回避につけ込んだ脅迫みたいなもので、当座決済を条件とする意味深さを思い知ります。口では助けてやると言いながら、必死に作ってきたであろう手元資金を吸い上げ、その裏で回収準備に入る。そんな現実があるのです。

 結局、午後一番で連絡が入り、北西社長の奥さんを連帯保証人に取り込むことで、依頼返却をかけることになりました。銀行で手続きするため、印鑑を借りるべく社長室に入ると、すでに部長から報告を受けていた社長が言います。

「もう時間の問題だから、ここで飛ばして、回収に入っちゃってもいいんだけどな。女房の保証をもらったって、状況は変わらんだろう」
「他業者の利用もたくさんある方だから、また大変なことになるんじゃないですか?」
「不渡情報が世間に出回るのは、早くとも2日後だから、その間に全部取れるよ。倒産情報を一番に知ることで、客を抱き込むこともできるから、不渡の直撃は有利なことなんだ」
「確かに。巻き込まれる奥さんが、かわいそうですね」

 この日、部長が会社に持って帰ってきたのは、30万円の現金と額面80万円の差し替え手形、それに奥さんの債権書類一式です。朝から出かけて、随分とお疲れ気味に見えたため、社長に報告を終えて席に着いたところで甘めのコーヒーを入れて差し上げました。

「ありがとう。北西さん、きっと飛ぶから、決済確認を至急で取るよう銀行に伝えといてくれるかな」

 決済確認とは、取り立てに回した手形が決済されたか銀行に確認してもらうことで、お願いすると支払期日の午後3時半過ぎくらいまでには情報を入れてくれます。いただいた指示を、忘れないうちに愛子さんと共有して、その日に備えました。

 2日後の夕方、銀行における用事を済ませて事務所に戻ると、従業員が社長室に集まってテレビを見ていました。何か大きな事件があったのかと思い、帰社のあいさつがてら画面をのぞき込むと、都内の繁華街にある交差点で現金輸送車が襲撃されたというニュースが、事件現場から生中継される形で放送されています。

 犯人は現金輸送車を襲撃したそうですが、その場で被害車両を運転する警備員に取り押さえられて、すでに逮捕されているとのことでした。

「逮捕された男は、金に困ってやったと話しています。警察の発表によると、犯人は〇×区の印刷業、北西……」

 テレビから聞こえるリポーターの声に聞き耳を立てていると、さすがに驚いた様子の部長が社長に言いました。

「確かに、強盗でもなんでもやって金を作ると話してはいたんですが、まさか本当にやるとは思いませんでした。どうしましょうか?」
「あのおっさん、やるなあ。この前も正座していたし、おそらくは根が真面目なヤツなんだろう。警察が入っているから、占有するのは難しいかもしれないけど、状況を確認してこい」

 自宅の状況を確認にいくと、マスコミ対策のためか規制線が張られており、警察の手によって封印されている状況だと、現場に出向いた部長から電話連絡が入りました。債権者らしき人物の姿もあるようですが、多くのマスコミと黄色いテープが張られた玄関を見て、一様に引き返していくそうです。その報告を聞いた藤原さんが、腕を組んで思案する社長に言いました。

「破りますか? どうなりますかね?」
「バカ。そんなことしたら、すぐパクられるに決まっているだろう。警察が引くのを待って入るしかないな。ほかの債権者も狙ってくるだろうから、封印が解けるまで、午前と午後で状況を確認しに行け」

 その数日後、封印が解けないうちに弁護士介入となり、なぜだかすぐに決済されました。なんでも過去に別件であたったことがある弁護士だそうで、おたくだけは面倒だからと、債務整理における債権者平等の原則を破ってまで優先的に決済することを決めたそうです。

「債権者名簿にウチの名前を見つけて、初めは断るつもりでいたらしいんだけど、先に片付けるならという条件で受けたらしい。おたくとは二度と関わりたくないからと、弁護士に言われたよ」

 北西社長に下された判決は、懲役7年。一銭も奪えずに終わった事件とはいえ、その代償は重く、追い詰められて暴走した北西社長の後悔は計り知れません。すでに社会復帰されていることと思いますが、その後の暮らしぶりを知る由はなく、安寧に過ごされていることを願うばかりです。

※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)

ゴミ屋敷の2階は水槽だらけ、異形の魚が悠々と泳ぎ――闇金社員が怖くなった“初現場”

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

 今回は前回に引き続き、私の体験した初の債権回収の現場についてお話ししたいと思います。

 少しでも値段のつくものが残されていれば、なんでも換金してやろうと、夜逃げした債務者の自宅を確認する2人について回ると、部屋にあるタンスの引き出しやクローゼットの扉などを次々に開いていきます。特に目ぼしいものは見つからず、続いてみんなで2階に上がると、部屋の扉を開いた途端に佐藤さんが呻きました。

「なんだ、この部屋は?」
「うわあ、スゲエ!」

 部屋の中を見ると、多くの水槽が並べられており、見たこともない異形の魚が悠々と泳いでいました。ゴミ屋敷状態だった1階の汚さを忘れさせるほどきれいな部屋で、精魂を込めて面倒をみていたであろうことが伝わってきます。

「小さな水族館って感じだな」
「珍しいのがいれば、売れるかもしれないっすね。ペットショップに聞いてみますか」

 室内を物色する藤原さんの姿は、まるで泥棒のようで、現場で行動を共にしている自分が怖くなってきました。飼い主が手塩に育てた可愛いペットも、債権者からすれば、ただの動産(財産)でしかないのです。ここから出たい気持ちが強まり、居ても立っても居られない気持ちになった私は、平静を装って佐藤さんに申し入れます。

「熱帯魚屋さん、ウチの近くにありますよ。食事の用意もしないといけないし、ついでに聞いてきましょうか?」
「それは、助かります。お願いしてもいいですか?」

 早速に階段を降りて、玄関で靴を履いていると、すぐ後ろからついてきた藤原さんが、ドアスコープを覗いて周囲の様子を確認してくれました。

「前ね、買い出しに出ようと玄関を開けた瞬間に、ほかの債権者に突入されたことがあったっすよ」
「いやだあ。このタイミングで、そんな怖いこと言わないでくださいよ。で、どうなったんですか?」
「相手の若い奴が、ナイフで切りつけてきたっす。その時の傷が、これ……」

 どこか自慢気に、左腕の袖口をめくった藤原さんは、その時に切られた傷跡を誇示してきました。その後、救急車を呼んだことから警察沙汰になったそうですが、うちが現場を占有することを相手に約束させ、決着したそうです。

「ケガの功名ってことでしょうか?」
「そうっすね。自分は売り上げも悪いし、体を張るくらいしかできないっすから……」

 現場の住所を書いたメモを片手に熱帯魚屋に行き、生体の買取が可能か店主に尋ねると、「モノによっては」と回答されました。どんな魚を売りたいのか問われて答えに窮してしまいましたが、現場で見たのと同じような魚が展示されていたので、水槽を指さして説明します。

「アロワナとプレコ、それにポリプテルスですね。状態によっては引き取れるので、あとでうかがってもよろしいですか」

 現場まで見に来てくれるというので、メモを見ながら住所を伝えると、訝し気な表情を浮かべた店主が言いました。

「あれ? ここって、花輪(仮名)さんのお宅じゃないですか?」
「え、ええ……」
「花輪さん、どうされたんですか? この前、来ていただいたばかりだけど、なにも言ってなかったですよ。あなたは、娘さん?」
「いえ、取引先の者です。ちょっと事情があって、急に引っ越すことになったモノですから、ご協力いただけたらと……」

 熱心に育てていたのにと、ブツブツ言いながらも来訪を承諾してくれたので、携帯電話の番号を交換してから近くのスーパーに立ち寄ります。弁当や飲み物を多めに買いつけて現場に戻ると、すでに熱帯魚屋の店主が到着しており、2階の水族館部屋で買い取りの交渉が始まっていました。

 飼育器具も含めて引き取ってもらえることになりましたが、その額面は2万円ほど。熱帯魚屋の店主は「成魚や中古器具は買い手が少なく、本来であれば逆に費用をいただくところだ」と話しています。アシが出るよりはマシと、正式に引き取りを依頼した佐藤さんに、店主が言いました。

「花輪さんは、どうしちゃったんですか?」
「ここだけの話ですけど、夜逃げしちゃったんですよ」
「許可なく片づけて大丈夫ですかね? 熱心に面倒をみていたし、ウチの常連さんだから心配ですよ」
「大丈夫ですよ。書類もあるし、なにかあれば我々が対応しますから」

 厚手のビニール袋に水槽の水を移して、網ですくった生体を入れた店主は、スプレー缶で酸素を注入すると輪ゴムで縛って密封しました。飼育器具の搬出を終えた店主を見送り、空になった部屋の掃除をしていると、玄関扉を乱暴に叩く音が聞こえてきます。

「ヒシ(山口組のこと)の、トネ(仮名)じゃあ。お前ら誰に断って入ってんじゃあ。早よ、開けんかい!」

 階段の上から玄関の様子を覗き見ると、静かな動きで玄関扉の前に陣取った2人は、顔を見合わせて外の様子をうかがっています。ドアスコープから屋外の様子を確認したいところですが、間髪入れずに扉を激しく叩いてくるので、目をあてることができません。扉がひずむほど激しく叩いてくるため、音が出るたび、ご近所の反応が気になりました。

「いないなら、壊して入るぞ。いるなら、早く開けんかい!」

 仕方なくといった様子で佐藤さんが外に出ると、中に残った藤原さんは、すぐに施錠してバールを片手に身構えています。玄関先で、「(家の中に)入れろ、入れない」の押し問答が始まると、相手方の怒号が家の中まで聞こえてきました。

 どうやら組織の話を出して脅迫されているようで、閑静な住宅街に不穏な言葉が響き渡っています。するとまもなく、弊社の社長をはじめ、社員のみんなが現場に到着しました。現場前の道路には、多くの車両が並び、ただならぬ空気が漂っています。

「近所迷惑になるから、中で話しましょうか」

 散らかったままのダイニングで交渉が始まったので、急いでグラスを洗って、買ってきたばかりのお茶を入れて出すと、トネ氏の風貌を見て驚きました。

 ウエットジェルでテカらせた長めのパンチパーマに、薄茶色のレンズが入った大きなサングラスをかけて、太い金のネックレスとブレスレット、それに大きな金の指輪までつけています。しかし、上下の服は、それらに不釣り合いな可愛い犬のイラストが刺繍された白いスウェット。左手首にもダイヤをちりばめた金時計をはめており、もしかしたらゴールドラッシュを表現しているつもりなのかもしれないと思いました。

 その姿はヤクザにしか見えませんが、社長と対峙してからは大声を出すことなく、冷静に話を聞いてくれています。さっきまでとはまるで別人のようで、その変貌ぶりにヤクザの正体を見た気がしました。話をすること、およそ15分。納得した様子で、にこやかに頭を下げて出ていくトネ氏を見送った社長に、バールを置いて警戒態勢を解除した藤原さんが聞きました。

「お疲れさまです。社長、どうやって話つけたんすか?」
「あいつ、前にも揉めていて、債権を買ってやったことあるんだよ。だから、今回も安心しろって、そう話しただけだ」

 以前にやり合ったときには、ケツ持ちに頼んで和解したそうで、それ以来、不毛な争いはしない約束をしている関係にあるそうです。

 結局、担保として預かっていた小切手の一部は不渡になりましたが、自宅の賃借権を売却したことで回収は終了。現場で怒鳴っていたトネ氏の債権も、持ち込まれた債権書類一式と引き換えに事務所で決済されました。

「社長さん、今回は恩に着まっせ。今後も、よろしゅう頼んます」

 その数日後。夜のニュースを見ていると、世間を大きく騒がせた殺人事件の関係者として逮捕され、警察署に連行されるトネ氏の姿がありました。一歩間違えていたらと、ぞっとする思いをした次第です。

※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)

闇金社員、初の現場は「ゴミ屋敷」! コバエが弁当にたかる臭い部屋……仏壇の位牌が消えていた

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

 いまから30年近く前の話になりますが、私の勤めていた金融会社は20年以上の業歴を誇る老舗で、“金融問屋”の立場にもありました。業歴浅く、資金力のない金融業者などを相手に、その債権を担保に資金を貸し付けていたのです。その利率は、年36.5%。通常のお客さんより安く設定されているのは同業者だからで、有事の際は取り立てを代行して、自分たちで回収する目論見も透けて見えます。

 その貸し付けていた金融業者の一つが「〇×インターナショナル」。名前からして、そこそこ大きな会社だと思っていたのですが、その実態は社長と社員1人の極小企業と聞いて驚いたことを覚えています。

 ある日、「〇×インターナショナル」の客から担保に預かっていた小切手が不渡となり、それに合わせて「〇×インターナショナル」とも連絡が取れなくなったことがありました。その残高は、200万円。社長からは、担保として預かっている小切手は、すべて現金化して強制回収しろと指示されました。

 「〇×インターナショナル」の客の立場になれば、見知らぬ金融業者から、突然小切手分の金額を回収されることになり、急な資金繰りを余儀なくされます。当座決済のリミットは、翌日の午後3時。不渡を避けるには、小切手を所持する当社が、金融機関に「決済をしなくてよい」と連絡するか、「〇×インターナショナル」の客がお金を作って決済するほかありません。

「振出人(手形を発行した人=「〇×インターナショナル」の客)の会社と自宅がどうなっているか、確認してこい」

 ホワイトボードに書かれた代表者の自宅住所は、私の家から徒歩3分くらいのところでした。それを社長に話すと、いい機会だから現場を見てこいと進言されます。業務終了まで、あと1時間ほどありますが直帰を許され、イケメン営業マンの佐藤さんと元プロボクサーである藤原さんのコンビと一緒に、社用車で債務者の自宅に向かうことになりました。

 このコンビは、社内で取り立て最強タッグといわれており、いつも先陣を切って現場に飛んでいきます。なんでも武闘派の藤原さんが暴れ、優男の佐藤さんがなだめて客に取り入るやり方が、うまく型にハマるという評判でした。

 社用車は、ランドクルーザー。手荷物を入れるべくトランクを開くと、バールやドライバーといった工具のほか、レトルト食品やカップ麺、2つの布団袋が積まれています。それらの使途が気になって、すぐ隣でバッグを積み込む佐藤さんに尋ねると、さわやかに答えてくれました。

「バールなんて、何に使うんですか?」
「現場が遠かったりして、鍵屋が用意できないときは、壊して入ることもあるからさ。いつでも占有できるように、きれいな布団と食料も常備してあるの」
「知らない人の家で寝るって、どんな気分なんですか? 怖くないです?」
「怖くはないけど、気持ち悪いよね。俺は、トイレとかお風呂とか、水回りを使うのが嫌だな。食器とかも使いたくない」

 車に乗り込みドアを閉めると、傍らで話を聞いていた藤原さんが、車を発進させながら口を開きました。

「俺は現場に入ると、緊張しちゃってダメっすね。他業者や警察が、いつ来るかわからないし、全然油断できないっす」
「何か怖い思いをしたこともあるんですか?」
「夜中に、債権回収に来た同業のKグループの奴らに物件の周りを取り囲まれて、一斉にノックされたときが一番焦ったっすね。少なくとも50人くらいは来ていたんじゃないかなあ。すごい人数で来ているのがわかったし、逃げ場がないから、あの時は参ったすよ」

 結局、その時は人が集まりすぎて現場で揉めてしまい、警察沙汰になったとのこと。パトカーはもちろん、護送車が3台もきたそうで、関係者全員がそれに乗せられて、いくつかの警察署に振り分けられたと話しています。

「あの時は、パクられるのを覚悟したけど、誰も手を出していないから厳重注意ですんだっすよ。殴られたら有利になるからって、社長にいわれて仕向けてみたけど、手の内を知る向こうも、さすがに手は出してこなかったっす。結局、口げんかで終わって、拍子抜けしたっすね」
「殴られろと指示されるなんて……。そんな会社、聞いたことないです」
「そうっすよね? ウチは普通の会社じゃないっすから……。まあ、でも、そういうところが楽しくて、お世話になってるっす」

 細いながらもがっちりとした体格を有する藤原さんは、パンチパーマをかけていることもあって、一見すれば暴力団員にしか見えません。その風貌が影響しているのかはわかりませんが、営業成績は常に振るわず、事務所で話す機会もほとんどありませんでした。本人も自覚されているようで、自分が活躍するのは回収の現場なのだと、自嘲するように話しています。

「自分なんかは、スーパー営業マンの佐藤先輩がいるから、クビにならずに済んでいるようなもんですよ。本当に助かっているっす」

 これほど饒舌な方とは思わず、そのイメージは大きく変わりましたが、見かけによらず良い人で好感が持てました。

「ここだ」

 見覚えのある住宅街に入り、航空地図を頼りに車を走らせると、その物件はすぐに見つかりました。弁護士の介入通知などは、玄関扉に貼られておらず、呼び鈴を鳴らしても反応はありません。郵便ポストや電気メーターを確認した後、迷うことなく敷地内に入った2人は、小さな庭から家の中を覗き込んでいます。

「メーターは少し回っているけど、中(屋内)の感じからすると、間違いなく飛んで(夜逃げして)いるよ。会社に報告入れたら、鍵屋を呼んで中に入ろう」

 玄関前に車を横付けして、周囲を警戒しながら鍵屋の到着を待っていると、しばらくして60歳くらいにみえるホームレス風の男性が小さなトランクを引いて現れました。あまり目立つのはよくないということで、私と藤原さんは車から降りることなく、車内から状況を見守ります。

「お疲れさま。今日も頼むね」
「目立っちゃうから、大きな声出さないでよ。悪いことしにきているんだからさ」
「ごめん、ごめん。ここを開けてもらいたいんだけど、大丈夫?」
「このタイプなら、すぐ開くと思うよ。周り、注意して」

 玄関前にトランクを広げ、ライト付きの独眼鏡を左目につけた鍵屋は、糸鋸の刃に似た道具で鍵穴をほじり始めます。

「開いた」

 作業開始から、およそ2分。いとも簡単に扉は開かれました。一刻を争うように道具を片付けた鍵屋は、領収証と引き換えに3万円の現金を受け取ると、そそくさと帰っていきます。

 車から降りて、玄関扉に看板(A3のコピー用紙に社名と電話番号が書かれたもの)を貼り出し、急いで家屋の中に入ります。すぐに戸締りをしてリビングに入ると、部屋中に下着や洋服などが散乱しており、素人目で見ても夜逃げした感じが伝わってきました。

 ダイニングテーブルの上には、使用済みの食器やグラスが放置されたままで、食べ残したコンビニ弁当にコバエがたかっている有様です。雨戸(仏壇の扉のこと)が開いたままの仏壇が目に入り、ごあいさつするべく中を覗くと、位牌や仏像の姿は見当たりませんでした。

「仏様がいらっしゃらないですね」
「夜逃げ確定ですね。仏壇なんて、どうして覗くんですか?」
「知らない方のお宅だし、お邪魔するから、ごあいさつしようと思って。実家が葬儀屋なもので、お宅にあがるときは、必ずご焼香させていただくものですから、つい……」

 キッチン周りを見れば、パンパンに膨らんだゴミ袋が多数積まれていて、足の踏み場もないまさにゴミ屋敷。室内の臭気は強く、すぐにも立ち去りたい気持ちになりました。

 次回は、この債権回収の現場について、引き続きつづっていきたいと思います。

※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)

元闇金おばさんが見た「過払い金請求」ブーム――「ふざけた野郎だ」と社長は激怒するけれど……

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

「社長いる?」

 勤務2日目。夕方になると、左目に昔のタモリさんのような黒い眼帯をつけた髭の長い小柄の男が、慣れた様子で事務所に入ってきました。その風貌は見るからに怪しく、只者でない雰囲気が漂っています。見た目に圧倒されて、怖気づいて言葉を失っているうち、先輩・愛子さんが応対に出て応接室に案内されました。

「コーヒーを入れて差しあげて。社長のと、2つね」

 給湯室でコーヒーを入れ、少し緊張しながら扉をノックして応接室に入ると、帯のついた百万円の束が3つ、テーブルの上に積まれています。現金の受領と引き換えに、各物件のカギと賃借権関係の書類を引き渡しているので、占有している債務者の物件を売却したと思われました。

「これ、数えてくれるか」

 書類を避けてテーブルの端にコーヒーを置くと、社長から札束を渡され、それを数えるように指示されます。これほど多額の現金を手にするのは、生まれて初めてのこと。緊張しながら愛子さんに手渡すと、その場で「お札カウンター」(紙幣計数機のこと)にかけて、その操作方法と合わせて入金伝票の書き方を教わりました。

「あの人は、不動産屋さんですか?」
「ああ、高木さん? あの人は、事件屋さんよ」
「事件屋さん?」
「そう。正規に売れないものを専門に売買する人。あの人は、不動産の事件屋さんね。よく来る人だから、名前と顔、覚えておいて」

 あとでわかったことですが、事件屋にも種類があって、金策に詰まった客を連れまわす金融ブローカーをはじめ、不動産の賃借権を取り扱う人、資金繰りに使うための架空手形を用意する人、ローン中や盗難届が出されていることを理由に名義変更できない車を売買する人、顧客のクレジットカードでお金を作る人、顧客名簿を売買する人、不良債権を安価で買い取り強烈な取り立てをする人など、さまざまなタイプの事件屋さんがいました。

 地面師(土地の所有者になりすまして不動産の売却を持ち掛け、多額の代金をだまし取る詐欺を行う人物)や整理屋(倒産しそうな企業に乗り込んで債権回収を図り、高額な手数料を巻き上げる人物)、提携弁護士、エセ司法書士、保険金詐欺師のほか、女性を風俗に沈めてお金に換えるスカウトマンなどの出入りもあって、半年に一度は、会社に出入りする人の逮捕報道に接していたように思います。

 深く関わったら、いいようにされる――その道のプロといわれる方ばかりだからか、どこか不思議な雰囲気をまとうクセの強い人が多く、お土産をいただくなど優しくされても、怖い気持ちが消えることはなかったです。

M自動車の件、今日で無事に片付いた。みんなの頑張りで、かなり取れたから、臨時ボーナスを支給します」

 その後、残置物の売却や売掛金の回収を続けた結果、総額で350万円あまりの入金が確認されました。貸付金の2倍以上も多く回収できたため、全社員に報奨金が支給され、入社したばかりの私も恩恵に授かります。金額は、3万円。夜逃げした債務者一家のことを思えば、とても悪いことをしている気になりますが、借りたものを返さないまま失踪しているのも事実です。

 予想外の臨時収入を得て、寄り道してから帰宅することにした私は、最寄り駅の前にあるデパートで通勤用のバッグを買って帰りました。初めての不渡事故を忘れないよう、会社がなくなるまで愛用して、つい最近になって廃棄したことを申し添えておきます。

 日々の業務に慣れ、お客さんの顔を覚えてくると、その人の懐具合や人間性まで見えてきます。中には、20年以上にわたって毎週欠かさずに来社するお客さんもおられて、どんな会社の社長なのか気になりました。

 台帳を見れば、これまでに1000万円以上の金利を払っているのに、200万円ほどの債務が残っています。その貸方は、第3者の連帯保証人がついていない単名貸付で、月6分(年利72パーセント)の金利を徴収していました。本来であれば、月1割の金利をいただく内容ですが、取引歴が長い分、安く貸しているようです。

「いらっしゃいませ。今日も暑いですね。いま、おしぼりと麦茶をお持ちしますので、少しお待ちください」
「おお、ありがとよ。今日も優しいねえ」

 何度か接客しているうち、軽口をたたかれるまでの関係になった立山社長(当時64歳)は、手形集金があるたび、ウチの会社で割引(受け取った手形を支払期日より前に現金化すること)をしていました。手形を発行する振出人は上場企業で、倒産の心配はほとんどなく、どこに持ち込んでも割り引ける銘柄といえるでしょう。

 その割引料(買取日から支払期日に至るまでの利息のこと)は年10%で、物的担保なしに行う信用貸付と比べれば安く感じますが、銀行の5倍以上といえるレベルの料率です。

「立山社長は、どんなご商売をやられているんですか?」
「ウチは、輸入卸業者だよ。ヨーロッパから衣類や雑貨、インテリア小物なんかを輸入して小売店に卸しているの。ここの社長とは、創業以来の付き合いでさ。銀行と違って、苦しいとき世話になったから、いまもこうしてお付き合いしているってわけ」

 この日の取引は120万円。金銭消費貸借契約書(借用書のこと)と裏書された手形を受け取り、4カ月先とされた支払期日までの割引料を天引きした金額を、立山社長の接客にあたる社長に手渡します。

 応接室の中は、薄毛をなでつけるポマードと入れ歯装着者特有の口臭が混ざり合った立山社長の臭いが充満しており、息を止めながらトレーを差し出しました。現金を受け取り、すぐに席を立った立山社長をエレベーターで見送ると、ぼそぼそと社長が話し始めます。

「立山社長は、前に不渡りを出していてね。銀行には相手にしてもらえないから、仕方なくウチを使っているんだ」
「そうなんですか。こういってはなんですけど、もったいないですね」
「ああ。日本は、1度失敗すると、2度と信用されないからな。世間なんて冷たいもんだよ」

 それから15年ほど、同じような取引を反復継続して繰り返した結果、立山社長の会社は倒産。折しも、過払い金請求訴訟がブームになっていた時期であったため、手のひらを返される形で訴訟を起こされました。刑事事件にしたくなければ、これまで支払った金利を返せというのです。

「あんなに世話してやったのにケンカを売ってくるとは、ふざけた野郎だ」

 そう社長は怒っていましたが、この頃は貸金業者に対する取り締まりが厳しく、いままでのように反撃するわけにもいきません。法改正がなされたことを理由に退社する社員も多く、いままでの力を失っていたことも事実です。

 結局、不法な高利を請求していた事実は認めることなく、表向きの帳簿を基に話を進めた結果、600万円ほど返還することで和解となりました。先方からは、2000万円以上も請求されていたので、悪い結果ではなかったように思います。

「苦しいとき世話になったから、いまもこうしてお付き合いしているってわけ……」

 あの時に聞いた社長に対する感謝の気持ちは、同じように助けてもらえなかったことで、すべて忘れられたのでしょう。金の切れ目は、縁の切れ目。会社がなくなるまでの数年は、借りた金を返すことなく過払い請求してくる客ばかりで、私自身も人間不信に陥りました。

※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)