「日本人お断り」ラーメン店は氷山の一角? 沖縄離島ブームに便乗する“半グレ流入者”に地元民が困惑

 バブル経済の影が南国リゾートを浸食している。

 舞台となっているのは、石垣、宮古の両島。観光地や投資先としての人気が高まる一方で、島外から流れ込む「ヒト」と「カネ」がさまざまなハレーションを引き起こしているのだ。

「大型クルーズ船が沖縄に寄港するようになってから、石垣と宮古には外国人を含めて多くの観光客がやってくるようになった。加えて、宮古に陸上自衛隊の基地が新設されたこともあり、地価が高騰。バブルを当て込んだ内地の不動産業者やブローカーも入り込んでいる。彼ら『よそ者』が島に大挙してやってきたのに伴って、地元住民との間で軋轢が生じる場面が増えている」(地元関係者)

 こうした事態を象徴しているのが、いまネットで話題になっている石垣島のラーメン店をめぐる騒動だ。同島のラーメン店「麺屋 八重山style」がこの7月から「日本人の観光客のマナーが年々、悪化の為 海外のお客様のみの対応となってます」と記した張り紙を掲出し、9月末まで日本人客を排除して営業すると宣言したのだ。

 地元メディアの取材に応じた店主によると、店外で買ったものを店に持ち込んで食べたり、注意したスタッフに激高したりする「トンデモ」な行動に出る日本人観光客が続出。理不尽な接客を強いられ、ストレスなどからアルバイトが辞めてしまい、店主1人で切り盛りする事態に追い込まれてしまったのだという。

 この騒動を報じたニュースはSNSで拡散され、賛否両論のコメントが噴出した。店主に同情する声がある一方で、「日本人客を排除」という部分に過剰反応したり、店主の態度を問題視する書き込みもみられるなど波紋を広げている。

「離島バブル」の副産物ともいえる騒動だが、実はこうしたトラブルが最近、宮古・石垣両島では頻発しているのだという。

「県外からやってくる、いわゆる内地の人間の中にはタチの悪いヤカラもいる。その中には半グレも混じっており、地元の飲食店からみかじめ料と称してカネをふんだくったり、暴力沙汰を起こしたりして地元住民ともめている。内地の不動産業者やブローカーが転売目的で島の土地を買いあさったために地価が暴騰し、アパートの家賃も東京並みに跳ね上がったりもしている。利権あさりのためにやってくるそうした連中に対して『島を食い物にしている』と憤っている島民は少なくない」(前出の地元関係者)

 沖縄県は今月、2018年度の観光収入が初めて7,000億円を突破したと発表。6年連続で過去最高益を更新しており、「沖縄バブルはまだまだ続く」(県政関係者)と見る向きは多い。好調な経済の裏側では、島民の平穏な暮らしが犠牲になっているのもまた事実のようだ。

日本海沿岸を埋め尽くす、韓国からの漂着ごみの実態「周辺はキムチの腐敗臭が……」

 6月に大阪市で開かれたG20首脳会議(サミット)では、加盟国が海洋プラスチックごみ対策の国際枠組み構築に合意した。各国がレジ袋の廃止や植物由来の原料への切り替えにより、プラごみの排出を削減する方針が決まったが、日本と関係が悪化している韓国からプラごみだけでなく生ごみも漂着し、日本海沿岸の住民が迷惑を被っている。悪臭を放つ迷惑ごみの現場に入った――。

 細分化したプラスチックの粒が魚類の内臓から検出されるなど、海洋プラごみ問題が深刻化している。国際的な推計によると、韓国が排出する海洋ごみは世界ランキングで20位以内に入っていない。

 しかし、環境省が漂着ペットボトルを全国各地で調査したところ、山口県下関市と長崎県対馬市では、およそ半数が韓国製と判明。漂着ごみの被害は排出国の総量以外にも、距離の近さが深く関係しているようだ。

「早ければ1週間前に捨てたごみが流れ着く。暑くなると臭いがひどい」と憤るのは、西日本の日本海沿岸に住む住民の男性。実際に海岸を案内してもらったが、梅雨明けで間もなく海水浴客がやってくるというのに、砂浜のそこかしこに漂着ごみがたまっていた。

 漂着ごみは、地元自治体が環境省から補助金を受けて、業者に回収を発注する。自治体関係者に聞くと、「農薬の空き瓶、過酸化水素水など化学物質の溶液が残ったポリタンク、医療廃棄物といった危険物のほか、生ごみが流れ着く」という。回収した漂着ごみは、まとめて産廃処理場に持ち込まれるが、生ごみは漂着した時点ですでに腐っているため、処理場でも悪臭の原因になる。

 住民が撮影した漂着生ごみの写真を見ると、プラごみと食品のカスを分別せずに捨てられたごみ袋、ネットに入ったニンニク、弁当の残り、瓶やタッパーに入ったキムチ、ヤクルトをパクッたような容器に入った健康飲料と多種多様。

 前出の男性は「特にキムチ入りの容器をよく見る。沿岸の人が捨てるのか、それとも漁船の乗組員が誤って落としたものなのか……」といぶかしがる。原因はどうあれ、キムチの容器が漂着した場所の周辺は、異様に酸っぱい臭いに包まれるという。

 こうした迷惑な漂着ごみの回収は、国と自治体の税金で賄うか、ボランティアに頼る以外ない。元徴用工への賠償をに日本企業に対して求める韓国の当局だが、ごみ排出の尻ぬぐいを日本がしていることなど、つゆほども知らないことだろう。

(文・写真=金正太郎)

日本海沿岸を埋め尽くす、韓国からの漂着ごみの実態「周辺はキムチの腐敗臭が……」

 6月に大阪市で開かれたG20首脳会議(サミット)では、加盟国が海洋プラスチックごみ対策の国際枠組み構築に合意した。各国がレジ袋の廃止や植物由来の原料への切り替えにより、プラごみの排出を削減する方針が決まったが、日本と関係が悪化している韓国からプラごみだけでなく生ごみも漂着し、日本海沿岸の住民が迷惑を被っている。悪臭を放つ迷惑ごみの現場に入った――。

 細分化したプラスチックの粒が魚類の内臓から検出されるなど、海洋プラごみ問題が深刻化している。国際的な推計によると、韓国が排出する海洋ごみは世界ランキングで20位以内に入っていない。

 しかし、環境省が漂着ペットボトルを全国各地で調査したところ、山口県下関市と長崎県対馬市では、およそ半数が韓国製と判明。漂着ごみの被害は排出国の総量以外にも、距離の近さが深く関係しているようだ。

「早ければ1週間前に捨てたごみが流れ着く。暑くなると臭いがひどい」と憤るのは、西日本の日本海沿岸に住む住民の男性。実際に海岸を案内してもらったが、梅雨明けで間もなく海水浴客がやってくるというのに、砂浜のそこかしこに漂着ごみがたまっていた。

 漂着ごみは、地元自治体が環境省から補助金を受けて、業者に回収を発注する。自治体関係者に聞くと、「農薬の空き瓶、過酸化水素水など化学物質の溶液が残ったポリタンク、医療廃棄物といった危険物のほか、生ごみが流れ着く」という。回収した漂着ごみは、まとめて産廃処理場に持ち込まれるが、生ごみは漂着した時点ですでに腐っているため、処理場でも悪臭の原因になる。

 住民が撮影した漂着生ごみの写真を見ると、プラごみと食品のカスを分別せずに捨てられたごみ袋、ネットに入ったニンニク、弁当の残り、瓶やタッパーに入ったキムチ、ヤクルトをパクッたような容器に入った健康飲料と多種多様。

 前出の男性は「特にキムチ入りの容器をよく見る。沿岸の人が捨てるのか、それとも漁船の乗組員が誤って落としたものなのか……」といぶかしがる。原因はどうあれ、キムチの容器が漂着した場所の周辺は、異様に酸っぱい臭いに包まれるという。

 こうした迷惑な漂着ごみの回収は、国と自治体の税金で賄うか、ボランティアに頼る以外ない。元徴用工への賠償をに日本企業に対して求める韓国の当局だが、ごみ排出の尻ぬぐいを日本がしていることなど、つゆほども知らないことだろう。

(文・写真=金正太郎)

眞子さまと小室圭さんの結婚は、なぜ不安視される? 「現代日本の結婚」が孕む問題点

 秋篠宮家の長女・眞子さまと小室圭さんの“結婚騒動”が、いまだ国民の注目を集めている。一昨年9月、二人は婚約内定会見を行ったものの、その後、昨年2月に宮内庁から「2020年まで結婚延期」が発表されることに。その背景には、小室さんの母親が、元婚約者との間に借金トラブルを抱えているとの週刊誌報道が関係しているとされ、現在、報道を見る限り、借金トラブルの解決の見通しは立っていない状況だ。

 しかし、眞子さまと小室さんの結婚は、借金トラブル報道の前から国民の間で先行きを不安視されている面があった。というのも、小室さんは婚約内定の一報が流れた当初、一部で「弁護士事務所にパラリーガルとして週3日ほどの勤務し、大学院に通っている」と報じられ、「アルバイトという立場で、眞子さまと結婚しようとしているのか」と物議を醸したのだ。会見で小室さんは、「正規職員として働いているかたわら、社会人入学した大学院に夜間で通っている」と説明したものの、「将来のことにつきましては、みなさまとご相談しながら考えてまいりたいと思います」と述べ、将来設計が不透明なことに、国民から「結婚後の経済面は大丈夫なのか」と疑問の声が噴出。加えて、結婚延期発表後の昨年8月、国際弁護士資格取得のため米フォーダム大学に留学したことが伝えられると、ますます「将来についてどう考えているのだろうか」「結婚自体を取りやめにした方がいいのでは」といった声が飛び交う事態となった。

 戦後、「日本の家族のモデル」となった皇室。今回の結婚騒動にも、「現代の結婚」が孕む問題点が隠されているということはないか。『結婚不要社会』(朝日新聞出版)などの著者である中央大学教授の山田昌弘氏に、「家族社会学」(家族という形態や機能、またその問題を研究する社会学)の視点から、眞子さまと小室さんの結婚騒動を語ってもらった。

眞子さまとの小室圭さんは「現代の結婚が抱える矛盾」の象徴

――眞子さまと小室圭さんの一連の結婚騒動をどのようにご覧になっていましたか。

山田昌弘氏(以下、山田) 社会学者として興味深く見ていました。結婚には「好きな人と一緒になる」「新しい経済生活を始める」という2つの側面があり、1990年くらいまでは、どちらもうまくかなう形になっていたのですが、近年はいわゆる「好きな相手が経済的にふさわしいとは限らない」「経済的にふさわしい相手を好きになるとは限らない」といった矛盾が現れてきました。眞子さまと小室さんの結婚騒動は、まさにその矛盾の象徴なのではないでしょうか。

 結婚に関する研究を行う中で、現在でも「女性は結婚に『経済の安定』を最も望む」ことがわかっており、例えば「好きな人と結婚できれば生活が苦しくても構わないか」というアンケートでも、男性は「構わない」との回答が多い一方、女性は少ないといった調査結果もありました。そのため世間から、眞子さまの結婚に対して「大丈夫なのか?」といった声が出ることも頷けます。

――結婚における“矛盾”が現れてきた理由は何でしょうか。

山田 男性の収入に格差が生じたことです。昔は中卒でも企業に就職すれば収入は安定し、年功序列で収入も増えていきました。昔は、いつまでも収入が安定しないというのはごく一部の男性だけでしたが、現在は結構な割合にのぼっています。一生涯にわたる生活の安定を保障できる男性が少なくなったのです。

――そんな中、妹の佳子さまが「私は、結婚においては当人の気持ちが重要であると考えています」「姉の一個人としての希望がかなう形になってほしい」というお気持ちを表明され、話題を集めました。

山田 若い人たちの間では、眞子さまと小室さんの結婚を応援するという人も多いようです。以前、ゼミの学生たちにもアンケートを取ったのですが、4分の3がお二人の結婚を応援すると回答していました。恐らく、まだ結婚生活をリアルに想像できないからでしょう。

――小室さんは、国際基督教大学卒で、前職は三菱東京UFJ銀行、さらに一橋大学大学院国際企業戦略研究科(経営法務専攻)にも通っていました。現在も、米フォーダム大学に留学し、国際弁護士資格の取得を目指しており、こうした経歴等を見ると、今後の経済生活は安定しそうだとも考えられますが……。

山田 確かに本人の経歴を見れば一般的には文句は言えないとは思いますが、ご実家が借金トラブルを抱えているとのこと。日本では、結婚において「いざとなった時のバックアップがあるか」、つまりフローよりストックの方が重要視される面があります。眞子さまは結婚によって民間人になると、ご実家から金銭的支援を受けることができなくなります。国民の税金を使うことになってしまうからです。そのため、男性側の実家の経済力に注目が集まり、「いざとなった時、皇室の女性としての体裁を保てるだけの支えはあるのか」と、結婚が不安視されるのではないでしょうか。なお、中国でも、結婚において夫側の実家の経済力を見られる傾向があります。「新居の頭金は夫の実家が払うもの」という空気があるのです。

――確かに一般的な結婚でも、「相手の実家」を見るということはあると思います。

山田 雅子さまが天皇陛下とご結婚されたとき、キャリアウーマンである点が話題になりましたが、世間的に「驚かれる」「拒否される」といった空気はありませんでした。なぜなら、ご実家の小和田家が名家だったからではないでしょうか。

 ただ、眞子さまは“生活水準が落ちても好きな人と結婚したい”といったスタンスのようにも見受けられますし、若い人たちはその点を支持して、「応援したい」と感じているようにも思います。

――皇族の方々は、たいへん質素な生活をされていると言いますが、一般世間の金銭感覚とは異なるであろうことは想像に難くありません。

山田 最近では、老後の金銭計画まで考えて結婚するという人もいますが、眞子さまがそこまで考えられていたかと言われると、どうなのでしょうか。先ほど、「女性は結婚に『経済の安定』を最も望む」という話をしましたが、中には「男性の経済面は関係ない」「愛情だけで結婚したい」という若い女性も2割くらいはいるのです。ただし、その場合、女性は「結婚後も自分が働き続けること」、つまり、「共働きで生活費を稼ぐこと」を考えています。私が最も最も注目しているのは、ここです。皇室に生まれ育った眞子さまが、今後小室さんと結婚して民間人になり、経済的に厳しい状況に陥った場合、果たして「働く」のだろうか、と。

――世間では「果たして二人は結婚すべきか否か」という議論が活発です。

山田 私は社会学者なので、「結婚すべきか否か」について判断言及することはありませんが、「いくら好きでも、経済的に苦労するような相手との結婚はやめた方がいい」と考える人は多いだろうなというのはわかります。特に親の立場だと、そう思うでしょう。しかし今の日本には、そうやって考えているうちに「結婚したいけど、一生独身」となる人が大勢いるのです。皇族の女性を迎えるとなると人の目にもさらされますので、眞子さまと付き合いたいという男性が将来現れるかどうか……また、眞子さまご自身も「たとえ経済的に安定していたとしても、彼以上に好きになるの相手が現れるか」と考えている可能性はあると思います。

――「結婚したいけど、経済的に安定しないから、独身を選択する」というケースが増えている中、小室さんは、それと逆行するように「収入は不安定だけれど、皇族の女性にプロポーズ」したのですね。

山田 確かにそれは日本のスタンダードではなく、「カップルの愛情」に絶対的な価値を置く欧米のスタンダードと言えます。だからこそ世間の「何かウラがあるのではないか、もしくはよっぽどの自信過剰か」といった疑念を巻き起こしたのではないでしょうか。しかし、それでも眞子さまが小室さんとご結婚され、その後、お金を稼ぐ労働を行うとなれば、それは日本の結婚の「新しいモデル」の一つになると思います。

山田昌弘(やまだ・まさひろ)
1957年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業。社会学者。専門は、家族社会学。東京学芸大学教育学部教授を経て、現在、中央大学文学部教授。「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」といった言葉の生みの親として知られている。『パラサイト・シングルの時代』(筑摩書房)『少子社会日本―もうひとつの格差のゆくえ』(岩波書店)『結婚不要社会』(朝日新聞出版)など著書多数。

若者の「政治アレルギー」とどう向き合う? 「ViVi」炎上を経た、ファッション誌編集者の葛藤

 7月21日に参議院議員選挙を控える前月(6月)のこと、講談社が発行するファッション誌「ViVi」のWeb版が、自民党とのタイアップ広告記事を掲載し物議を醸した。現在はすでに特設サイトも閉鎖されているが、極めて異例な企画だけに大きな波紋を呼んだ。

 6月10日、「ViVi」のWeb版が「わたしたちの時代がやってくる! 権利平等、動物保護、文化共生。みんなはどんな世の中にしたい?」というタイトルのPR記事を公開。この呼びかけに、同誌の公認インフルエンサーである“ViVi girl”が、「ハッピーに生きていける社会にしたい!」「いろんな文化が共生できる社会に」「自分らしくいられる世界にしたい」など、それぞれの思いを語り、また、同誌の公式Twitterアカウントは、PR記事のリンク先とともに、「みんなはどんな世の中にしたい? 自分の想いを #自民党2019 #メッセージTシャツプレゼントのハッシュタグ2つをつけてツイートすると、メッセージTシャツがもらえるよ!」と投稿。瞬く間にツイートは拡散され、反応があったが、そのほとんどが「若い人に自民党に対する良いイメージだけを植え付けようとしている」「自民党の広報誌?」「自民党の政策と相反している」というような批判や疑問の声だった。

 そんな中、女性向けファッション誌の作り手側である編集部員A氏も、この「ViVi」の自民党タイアップには「凄まじい衝撃を受けた」という。「クライアントである自民党の政策を企画内で何ら説明していないだけでなく、ほかの政党との比較も行っていない。モデルに党のロゴマークが入ったTシャツを着させて、理想とする未来を語らせるという『雰囲気』だけでバックアップしていることに疑問を抱きました」と企画意図には疑問を隠せない様子だが、一方でファッション誌において「若い読者に向けた、政治への関心を高める企画」を実現することの難しさを実感したという。今回、その内情を明かしてくれた。

「自社がもし特定の政党に絞った企画が上がってきたら、それは断固拒否します。特に『#自民党2019』のように、一党に絞った揚げ句『なんか良さそうな雰囲気』で読者を誘導することが嫌です。また、出版社をはじめその企画に携わった人々が、漏れなくその“思想”を支持するということを意味しているので、もし自分たちが知らない間に自社からそのような発行物やキャンペーンがあったとしたら純粋にショックですし、内容によっては反対・抗議を考えますね」

「ViVi」自民党タイアップ企画をめぐる炎上を見て、もしこの事態がわが身に降り掛かったら……を想像し、あらためて「あの企画はあり得ない」と感じたというA氏。しかし一方で、この騒動において「ファッション誌が政治を取り扱うこと自体は賛成」といった声が世間から上がった点には、思うところがあったようだ。

「『今後、政治を取り上げる予定はあるか?』と問われると、正直なところ“政治”を前面に押し出した企画は考えていません。例えば、いまだに日本は、芸能人が政治的発言をするとアレルギー反応が出るような環境なので……」

 芸能人の政治的発言は疎まれる傾向にあるというのは事実だろう。実際、NEWSのメンバーで、小説家や情報番組のコメンテーターなど文化人としての顔を持つ加藤シゲアキが、「朝日ジャーナル」(緊急復刊2016年7月7日号、朝日新聞出版)の中で、学生団体「SEALDs」に賛同の意を表明した際、一部ファンから「個人の思想の自由は認められるべきだけど、ジャニーズの看板を背負っているなら発言を控えてほしい」「アイドルに政治的発言はしてほしくない」という批判の声が上がった。また、モデルのローラが昨年末、自身のインスタグラムに「We the people Okinawa で検索してみて。美しい沖縄の埋め立てをみんなの声が集まれば止めることができるかもしれないの。名前とアドレスを登録するだけでできちゃうから、ホワイトハウスにこの声を届けよう」と投稿、さらに沖縄県宜野湾市・米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設工事中止について署名活動を行ったところ、「芸能人はイメージ商売だし、政治的な発言ばかりしているとCMで使いにくくなりそう」「浅い知識で行動するのはやめてほしい」と非難の言葉が相次いだ。

 A氏は「政治について語る機会を提案することや、選択肢を提示することは大切という認識はあります。しかし、こうしたアレルギー反応を恐れている面も確かにあるのです」と語る。「ファッション誌が政治を取り扱うこと自体は賛成」という声がある一方、現実問題、政治について語ること=「過激」「危険」といったイメージも根強く、A氏はその狭間で頭を悩ませているようだ。

海外に根付く、「語ることがクール、気にしない方がダサい」という価値観

 しかし、海外に目を向けてみると事情は異なってくる。10~20代の若者が集まる米国内のコンサートで、来場者に有権者登録(アメリカで投票前に必須となる登録)を呼びかけた歌手のアリアナ・グランデが、「若い世代の政治への関心を高めている」と称賛されているほか、A氏いわく「パリコレクションなどのランウェイでは、女性の権利やトランプ政治への反対意見など、世の中のムードやそれに対する表明が大きくされている」とのこと。日本でそういった土壌を育むには何が必要なのだろうか。

「海外には、政治や時事について『語ることがクール、気にしない方がダサい』という価値観があるんですね。それを、いかに日本の若年層に浸透させるか……といった点を考えていくことが大事だと思います。その前段階として、“アレルギー反応を起こさせない”ことに留意すべきなのかもしれません」

 A氏はこうした実感から、「突然、真正面から政治問題を扱う」ことは得策ではないと感じているようだ。

「例えば、『反戦』などは、若い読者でも取っつきやすいのではないかと思っています。直接的ではなく、“間接的”なテーマから始めること。それが、特に若者向けのファッション誌で政治を扱うために必要なことだと感じます」

 2016年の6月より、公職選挙の選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下げられ、若者による積極的な政治への参加が期待されている。一方で、若年層の投票率はいまだに低いのが現状。7月21日に参院選が行われるが、今後の在り方として、ファッション誌やSNSなど若者が目にしやすいメディアが、政治意識を高める役を買って出ることが重要になってくるのかもしれない。

京アニ放火事件、33人死亡のショックーー「心神喪失で無罪は許さない」の声に弁護士の見解は?

 7月18日、京都市にあるアニメ制作会社「京都アニメーション」(以下、京アニ)のスタジオが爆発炎上し、33人が死亡するという痛ましい事件が起こった。放火したとみられる男・青葉真司容疑者は、現在京都市内の病院で治療を受けているといい、「意識不明、重体」と報じられている。

 『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』(TOKYO MXほか)『けいおん!』(TBS系)など、数多くの人気作品を世に送り出してきた京アニで起こった今回の大火災。放火事件の犠牲者数としては「平成以降最悪」だといい、世間はその凄惨さに大きなショックを受けるとともに、深い悲しみに暮れている。また、テレビや新聞の報道から、放火疑いの青葉容疑者の情報が徐々に明らかになるにつれ、ネット上には、強い怒りの感情をむき出しにする者がみられるように。そんな中、特に印象的なのが、次のような言葉だ。

「心神喪失、心神耗弱状態だったと認められ、無罪や減刑になってほしくない」
「責任能力がないと判断されないことを祈る」

 今回のような、多くの犠牲者を出す“テロ”とも言える事件が発生した場合、こうしたコメントがネット上でみられることは少なくない。2001年に起こった「附属池田小事件」の裁判で、弁護人が宅間守元死刑囚(04年9月執行)について「心神喪失もしくは心神耗弱の状態にあった」と主張したことなどが、強く印象に残っている人が多いということだろうが、果たして今回の事件の裁判をめぐって、同様の事態が展開される可能性はあるのか。弁護士法人ALG&Associatesの山岸純弁護士に話を聞いた。

警察官2人をナイフで突き刺した男が「無罪」の例も

 心神喪失者及び心神耗弱者の責任能力に関しては、刑法第39条に、「1.心神喪失者の行為は、罰しない」「2.心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」と規定されている。山岸氏は、「刑法第39条が適応された事例」を次のように語る。

「2017年8月、警察官2人をナイフで突き刺すなどした罪(殺人未遂)で起訴された被告に対し、今年3月、金沢地裁が、鑑定の結果『心神喪失』として、無罪を言い渡した事件がありました。詳しくはわからないものの、『ナイフで人を刺す』という行為が『悪いことなのかどうなのかわからない』とは、一体どういう精神状態なのか……私個人としては理解できないところでしたので、印象に残っています」

 この心神喪失、及び心神耗弱の「鑑定」また「判断」とは、どのように行われるものなのか。刑法第39条を適用するのは裁判所・裁判官のみであるため、「責任能力がある/ない」を“判断”するのは、当然裁判官だが、「裁判官は医学・生物学・心理学等については素人であるため、“鑑定”を行う」という。

「この鑑定において、医師等が専門的見地から、『まさに罪を犯そうとしているときに、精神の障害により物事の善悪を判断できる状況にあったか』を検証し、裁判所に意見を提出します。裁判官はこの意見を踏まえて、法律的見地から『この人物に刑を適用して罰するべきかどうか』を判断するわけです。なお、起訴するかしないかを判断する検察官が、起訴する前に科捜研などで被疑者に検査を行い、『この人物は心神喪失だ』と判断した場合には、そもそも『起訴しない』こともあります。この場合は、刑法第39条を適用するわけではなく、『起訴しない』という判断になります」

 京アニ放火事件に関しても同様に、裁判で弁護側が心神喪失・心神耗弱状態を主張するのではないかと、ネット上で指摘されている。

「今回の事件においては、犯人性(犯人ではないこと)を争うような弁護活動は無理ですし、情状を酌んでもらうような弁護活動も無理でしょう。となると、“お決まり”のように、心神喪失・心神耗弱を主張するなどといった弁護活動がなされるでしょうが、報道によれば、青葉容疑者は犯行直後に『パクられた(真似された)』と、動機のようなことを口にしていたとのこと。そのような状況であったならば、心神喪失・心神耗弱を主張するような弁護活動も、まず無理でしょう。公判において、もし青葉容疑者が罪を認めるのであれば、弁護人は余計な弁護活動をするべきではないと考えます」

 また、33人もの犠牲者を出した重大な事件という点において、「刑法第39条の適用」に反対する声も出ているが、「事件の大きさと刑法第39条適用の有無は関係ないので、心神喪失が認められるなら、無罪にもなり得るでしょう」と山岸氏は言う。

「検察官は、起訴するにあたり『刑法第39条が適用され、無罪にならないこと』『刑事責任を問えること』をしっかりと検証した上で、起訴しているのです。つまり、無罪になることを避けるため、検察官は“精神的に問題がある”人物を『あえて起訴しないこと』ができるのです。もちろんその場合、精神病院への強制入院など、その他の措置がありますが、こうした背景から、刑事裁判において刑法第39条が適用されるケースは稀になります」

 なお、現在、青葉容疑者は、重体であると報じられている。もし今後、死亡した場合だが、それでも「事件」は存在するため、警察はその終了処理を行うといい、「被疑者死亡のまま書類送検、要するに、まず、一連の捜査を行った警察が証拠などの関係書類一式を検察庁に送検し、その後、検察庁が不起訴として終了することになる」そうだ。

 青葉容疑者に関しては、事件発生の数日前に近隣住人とトラブルになっていたという報道も。近隣住人はマスコミの取材に対し、青葉容疑者に胸ぐらをつかまれ「殺すぞ。こっちは余裕がないんだ」とすごまれたことを、明かしていた。

「昨今、鬱屈した環境にある成人が、突然、このような重大事件を引き起こすことが繰り返されています。基本的人権の尊重と社会的正義を実現する立場にある弁護士である以上、なかなかはっきりとは言えませんが、重大事件を引き起こす可能性のある人間に対しては、警察職員が注意を怠らないようにすべきだと私は考えます。具体的にそういった人物を定義することは非常に難しい問題ではあるものの、周辺住民からの当該人物に関する連絡や相談などを真剣に聞き、早い段階から訪問するなどして把握することは必要と感じます」

 事件の全貌が明らかになるには、まだ時間がかかりそうだが、真相が解明されること、そして何より今回負傷された方々の一日も早い回復を祈らずにはいられない。

「『東京ガールズコレクション』に政治家が出るかも」――文化服装学院生が抱く、“政治と表現”への不安

 ファッション誌「ViVi」(講談社)が自民党の“PR記事”をウェブで公開し、大きな議論を呼んだことが記憶に新しい。ネットでは、「ファッション誌が特定政党の宣伝をするのはおかしい」などと大炎上していたが、「ViVi」世代であり、ファッションを学んでいる学生たちは、これをどう捉えていたのだろうか。リアルな声を聞くべく、文化服装学院・グローバルビジネスデザイン科4年の学生さん5名と、文化服装学院の非常勤講師である、国際政治学者・五野井郁夫氏を交えて話を聞いた。その中で見えてきた、「『ViVi』×自民党の問題点」そして「“PR広告”が雑誌にもたらした弊害」とは。

ファッションが政治の“宣伝”をすることで待ち受ける未来

――今回の「ViVi」の広告に何を思ったか、率直な意見を聞かせてください。

学生Aさん ファッション誌が政治広告を出すことに“違和感”がありました。今までこういったものを、見たことがなかったので。

学生Bさん グロテスク、ですね。まずファッションって、「表現をする」っていう側面があるので、仕事として政治と関わっちゃうと、音楽や芸術にも影響が出るんじゃないかと思います。

五野井氏 表現を自粛しちゃう、みたいなことかな。「この広告に出ちゃったから、もう自民党の悪口は言えない」とか。別に今のところ、自民党がファッションを脅かすようなことはしてないんだけど、「ViVi」はこれから「言えないメディア」になる可能性はありますよね。

学生Bさん それってエンターテインメントからすると、脅威ですよね。批判的な表現ができなくなるって、すごく怖いことだと思う。ここを取っ掛かりに、例えば『東京ガールズコレクション』とかに政治家が出てきそうだと思って……。そうなったら、もうファッションの危機ですよ。でも、あり得ない話じゃないからグロテスクだな、と。

学生Aさん ファッション誌が政治について何かを言うことは悪いことじゃないけど、“自民党”に限ってしまってるから、違和感があります。“自発性”の問題じゃないですかね。誰かから頼まれた“PR”だから、変な感じがするんです。

学生Cさん 自発的に政治を取り上げるなら、内容は批判的でも肯定的でも問題ないと思います。ダサいかカッコいいかは別として。特定政党の要望に応じて記事を出したことが、モヤモヤするポイントなんだと思います。

――ファッションと政治が関わることについては、肯定的ですか。

学生Bさん 政治的なメッセージを伝えるのは、ファッションの役割のひとつだと思います。ファッションは、政治的な主張を抽象的に表現できる力があるじゃないですか。それって、政治にとってはある意味“脅威”だと思うんですよね。

五野井氏 ディオールが2017年の春夏コレクションで発表した「We Should All Be Feminists(私たちはみなフェミニストであるべき)」みたいなメッセージとか。同年には、ミッソーニのショーでプッシーハット(編注:全米各地で行われた反トランプデモ「ウィメンズ・マーチ」で女性たちが身につけていた帽子)をかぶったモデルも登場していました。これらは極めて抽象化されたメッセージとして、政治へ意見を伝えられている。「みんなフェミニストであるべき」というだけで、だから何をしろということではない。そういうメッセージを伝える機能が、ファッションにはありますよね。そう考えると、今回の「ViVi」広告もファッション業界にとっては“脅威”だったのだろうか。

学生Aさん 私たちが唯一表現できる世界に踏み込まれたという点では、危機感を覚えましたね。これが進んでいくと、ランウェイはつまらなくなると思う。言われたものだけを作るみたいな。すでに『東京コレクション』がそんな感じになってるけど。

五野井氏 たしかに、リトゥンアフターワーズが18年春夏コレクションで「戦争反対」的なことを表現してたじゃないですか。棺桶引っ張ったりとか、焼かれた服が使われていたりとか。我々は「すごいな」と思うんだけど、基本的に日本のメディアは黙殺していく。たぶんこういった政治的メッセージを歓迎してないよね、『東京コレクション』自体が。

 1980年代以降のモードの服は、単なる服である以上に「メッセージを伝えたい」とか「コンセプトを伝えたい」といった目的があって、それが当たり前。けれども、今の状態のままだとファッションは「とりあえず服を作っておけ」「文化服装学院は洋裁学校のままでいろ」という旧態依然としたことにもなりかねない。ファッションとそれを扱う雑誌自体の意思ではなく、ファッション雑誌が政権与党の“宣伝”をするような状況が続くと「ファッションで主張するなら、我々に従え」と言われる未来が来るかもしれない。

――みなさんが「ViVi」の編集者だったとして、今回ような広告の依頼が来たらどうしますか。

学生Dさん 私はファッションに関わる人間として、プライドを持って「受けない」という選択をしたいけど……。やるとしたら、広告を掲載した次号で自民党以外の政党について取り上げるとか、一つの政党に偏らないようにします。

学生Bさん 依頼を受けざるを得ない状況だったら、すでに「自民党2019」キャンペーンに参加している人たちをモデルに使えば、「ViVi」としてのダメージは少なそう。芸能人でも自民党を支持してる人はいるし、そういう人を使えば、雑誌が自民党に加担したとはイメージされないのかな。

学生Dさん でも、「ViVi」読者に政治への関心を持ってもらうことが目的だとしたら、「ViVi」のモデルを使わなきゃ意味ないよね。となるとやっぱり、“三方よし”にすることは無理なんだと思う(笑)。そもそも私は、この広告、100%失敗だったと思います。

学生Aさん 話題になったからいいんじゃない?

学生Dさん でも本来の目的は、「ViVi」読者のような若い世代の女性に政治に関心を持ってもらうことだよ? これだけ炎上したら、いい印象ないんじゃない?

学生Cさん 炎上したことで目に留まって、自民党に疑問を持ったり肯定したりしたなら、それは政治参加なんじゃないかな。“宣伝”としてはどうなのかと思うけど、「興味を持ってもらう」という点では、失敗だったと言い切れないような気もする。

――今回、選挙の時にこの広告が頭をよぎったりすると思いますか。

学生Bさん 多分、忘れてると思います(笑)。ネットでは炎上してたけど、自民党が伝えたいメッセージとかは、何も印象に残らなかったし。

学生Eさん でも、「ViVi」を読む世代である高校生から大学に入りたての子たちにとっては、“自民党”って言葉はすごく印象に残ったと思います。親と一緒に投票に行ったときに、「あ、『ViVi』で見たな」って思い出すのは自民党だと思う。政策の中身ではなくて、名前を覚えさせるための広告だったら、ある意味成功してしまってるんじゃないかな。

五野井氏 “AKB選抜総選挙”とか、「ViVi」が主催している“タピオカドリンク総選挙”とか、それくらいしか”選挙”なるものに触れていない子たちにとっては、“自民党”というだけでもインパクトがあったかもしれない。

学生Dさん でもこの“タピオカドリンク総選挙”もさ、お金払って1位にしてもらったんじゃない? って思う(笑)。

学生Aさん 確かに、今回の「ViVi」広告があると、見方が変わっちゃうよね。このランキングも広告なんじゃないかな? とか。

学生Dさん 雑誌の信頼を落としただけじゃなく、政治の知識がまだ浅い自分たちの読者に向けて特定政党の広告を出すって、「『ViVi』は読者をどう思ってるんだろう?」と疑問ですね。

五野井氏 ある種の“擦り込み”ですよね。そういう「ViVi」の見識を疑うきっかけにもなってしまった。

学生Dさん そういえば“コスメランキング”とか、「ViVi」の世代が選ぶようなブランドじゃなくない!?

学生Bさん うわ、どんどん怪しく見えてきた(笑)。

学生Eさん 自分たちの意思じゃなく、サポートしてもらったから真実じゃないことを伝えてるとしたなら、何のために雑誌を作ってるかわからないよね。雑誌としての意義は何なんだろう、って感じ。

学生Bさん そういうふうに広告ばっかりやってるから、雑誌はつまらなくなるんだよ。「恥を知れ!」と言いたいです。

五野井氏 となると、自民党的には名前を覚えてもらっておいしかったけど、「ViVi」は信頼を落としているし、たとえお金をもらっていたとしても、ダメージの方がデカいだろうとも言えますね。

学生Eさん 私、高校生の時「ViVi」を読んでたんですけど、ただファッションを見せるだけじゃなくて、知識を与えるような読み物ページが結構多かったんですよね。周りでも読んでる子が多かったし、「これ『ViVi』に載ってたよね」って話題になることもあったなって、今振り返ると思います。

 そういう大事な雑誌のはずだったのに、今回の件があってから、雑誌に書いてあることを鵜呑みにしていたことが怖いなって……。「ViVi」編集部の人たちには、ネットの炎上以上に、自分たちが作る雑誌の読者に大きなショックを与えたことを、重く受け止めてほしいです。

「『東京ガールズコレクション』に政治家が出るかも」――文化服装学院生が抱く、“政治と表現”への不安

 ファッション誌「ViVi」(講談社)が自民党の“PR記事”をウェブで公開し、大きな議論を呼んだことが記憶に新しい。ネットでは、「ファッション誌が特定政党の宣伝をするのはおかしい」などと大炎上していたが、「ViVi」世代であり、ファッションを学んでいる学生たちは、これをどう捉えていたのだろうか。リアルな声を聞くべく、文化服装学院・グローバルビジネスデザイン科4年の学生さん5名と、文化服装学院の非常勤講師である、国際政治学者・五野井郁夫氏を交えて話を聞いた。その中で見えてきた、「『ViVi』×自民党の問題点」そして「“PR広告”が雑誌にもたらした弊害」とは。

ファッションが政治の“宣伝”をすることで待ち受ける未来

――今回の「ViVi」の広告に何を思ったか、率直な意見を聞かせてください。

学生Aさん ファッション誌が政治広告を出すことに“違和感”がありました。今までこういったものを、見たことがなかったので。

学生Bさん グロテスク、ですね。まずファッションって、「表現をする」っていう側面があるので、仕事として政治と関わっちゃうと、音楽や芸術にも影響が出るんじゃないかと思います。

五野井氏 表現を自粛しちゃう、みたいなことかな。「この広告に出ちゃったから、もう自民党の悪口は言えない」とか。別に今のところ、自民党がファッションを脅かすようなことはしてないんだけど、「ViVi」はこれから「言えないメディア」になる可能性はありますよね。

学生Bさん それってエンターテインメントからすると、脅威ですよね。批判的な表現ができなくなるって、すごく怖いことだと思う。ここを取っ掛かりに、例えば『東京ガールズコレクション』とかに政治家が出てきそうだと思って……。そうなったら、もうファッションの危機ですよ。でも、あり得ない話じゃないからグロテスクだな、と。

学生Aさん ファッション誌が政治について何かを言うことは悪いことじゃないけど、“自民党”に限ってしまってるから、違和感があります。“自発性”の問題じゃないですかね。誰かから頼まれた“PR”だから、変な感じがするんです。

学生Cさん 自発的に政治を取り上げるなら、内容は批判的でも肯定的でも問題ないと思います。ダサいかカッコいいかは別として。特定政党の要望に応じて記事を出したことが、モヤモヤするポイントなんだと思います。

――ファッションと政治が関わることについては、肯定的ですか。

学生Bさん 政治的なメッセージを伝えるのは、ファッションの役割のひとつだと思います。ファッションは、政治的な主張を抽象的に表現できる力があるじゃないですか。それって、政治にとってはある意味“脅威”だと思うんですよね。

五野井氏 ディオールが2017年の春夏コレクションで発表した「We Should All Be Feminists(私たちはみなフェミニストであるべき)」みたいなメッセージとか。同年には、ミッソーニのショーでプッシーハット(編注:全米各地で行われた反トランプデモ「ウィメンズ・マーチ」で女性たちが身につけていた帽子)をかぶったモデルも登場していました。これらは極めて抽象化されたメッセージとして、政治へ意見を伝えられている。「みんなフェミニストであるべき」というだけで、だから何をしろということではない。そういうメッセージを伝える機能が、ファッションにはありますよね。そう考えると、今回の「ViVi」広告もファッション業界にとっては“脅威”だったのだろうか。

学生Aさん 私たちが唯一表現できる世界に踏み込まれたという点では、危機感を覚えましたね。これが進んでいくと、ランウェイはつまらなくなると思う。言われたものだけを作るみたいな。すでに『東京コレクション』がそんな感じになってるけど。

五野井氏 たしかに、リトゥンアフターワーズが18年春夏コレクションで「戦争反対」的なことを表現してたじゃないですか。棺桶引っ張ったりとか、焼かれた服が使われていたりとか。我々は「すごいな」と思うんだけど、基本的に日本のメディアは黙殺していく。たぶんこういった政治的メッセージを歓迎してないよね、『東京コレクション』自体が。

 1980年代以降のモードの服は、単なる服である以上に「メッセージを伝えたい」とか「コンセプトを伝えたい」といった目的があって、それが当たり前。けれども、今の状態のままだとファッションは「とりあえず服を作っておけ」「文化服装学院は洋裁学校のままでいろ」という旧態依然としたことにもなりかねない。ファッションとそれを扱う雑誌自体の意思ではなく、ファッション雑誌が政権与党の“宣伝”をするような状況が続くと「ファッションで主張するなら、我々に従え」と言われる未来が来るかもしれない。

――みなさんが「ViVi」の編集者だったとして、今回ような広告の依頼が来たらどうしますか。

学生Dさん 私はファッションに関わる人間として、プライドを持って「受けない」という選択をしたいけど……。やるとしたら、広告を掲載した次号で自民党以外の政党について取り上げるとか、一つの政党に偏らないようにします。

学生Bさん 依頼を受けざるを得ない状況だったら、すでに「自民党2019」キャンペーンに参加している人たちをモデルに使えば、「ViVi」としてのダメージは少なそう。芸能人でも自民党を支持してる人はいるし、そういう人を使えば、雑誌が自民党に加担したとはイメージされないのかな。

学生Dさん でも、「ViVi」読者に政治への関心を持ってもらうことが目的だとしたら、「ViVi」のモデルを使わなきゃ意味ないよね。となるとやっぱり、“三方よし”にすることは無理なんだと思う(笑)。そもそも私は、この広告、100%失敗だったと思います。

学生Aさん 話題になったからいいんじゃない?

学生Dさん でも本来の目的は、「ViVi」読者のような若い世代の女性に政治に関心を持ってもらうことだよ? これだけ炎上したら、いい印象ないんじゃない?

学生Cさん 炎上したことで目に留まって、自民党に疑問を持ったり肯定したりしたなら、それは政治参加なんじゃないかな。“宣伝”としてはどうなのかと思うけど、「興味を持ってもらう」という点では、失敗だったと言い切れないような気もする。

――今回、選挙の時にこの広告が頭をよぎったりすると思いますか。

学生Bさん 多分、忘れてると思います(笑)。ネットでは炎上してたけど、自民党が伝えたいメッセージとかは、何も印象に残らなかったし。

学生Eさん でも、「ViVi」を読む世代である高校生から大学に入りたての子たちにとっては、“自民党”って言葉はすごく印象に残ったと思います。親と一緒に投票に行ったときに、「あ、『ViVi』で見たな」って思い出すのは自民党だと思う。政策の中身ではなくて、名前を覚えさせるための広告だったら、ある意味成功してしまってるんじゃないかな。

五野井氏 “AKB選抜総選挙”とか、「ViVi」が主催している“タピオカドリンク総選挙”とか、それくらいしか”選挙”なるものに触れていない子たちにとっては、“自民党”というだけでもインパクトがあったかもしれない。

学生Dさん でもこの“タピオカドリンク総選挙”もさ、お金払って1位にしてもらったんじゃない? って思う(笑)。

学生Aさん 確かに、今回の「ViVi」広告があると、見方が変わっちゃうよね。このランキングも広告なんじゃないかな? とか。

学生Dさん 雑誌の信頼を落としただけじゃなく、政治の知識がまだ浅い自分たちの読者に向けて特定政党の広告を出すって、「『ViVi』は読者をどう思ってるんだろう?」と疑問ですね。

五野井氏 ある種の“擦り込み”ですよね。そういう「ViVi」の見識を疑うきっかけにもなってしまった。

学生Dさん そういえば“コスメランキング”とか、「ViVi」の世代が選ぶようなブランドじゃなくない!?

学生Bさん うわ、どんどん怪しく見えてきた(笑)。

学生Eさん 自分たちの意思じゃなく、サポートしてもらったから真実じゃないことを伝えてるとしたなら、何のために雑誌を作ってるかわからないよね。雑誌としての意義は何なんだろう、って感じ。

学生Bさん そういうふうに広告ばっかりやってるから、雑誌はつまらなくなるんだよ。「恥を知れ!」と言いたいです。

五野井氏 となると、自民党的には名前を覚えてもらっておいしかったけど、「ViVi」は信頼を落としているし、たとえお金をもらっていたとしても、ダメージの方がデカいだろうとも言えますね。

学生Eさん 私、高校生の時「ViVi」を読んでたんですけど、ただファッションを見せるだけじゃなくて、知識を与えるような読み物ページが結構多かったんですよね。周りでも読んでる子が多かったし、「これ『ViVi』に載ってたよね」って話題になることもあったなって、今振り返ると思います。

 そういう大事な雑誌のはずだったのに、今回の件があってから、雑誌に書いてあることを鵜呑みにしていたことが怖いなって……。「ViVi」編集部の人たちには、ネットの炎上以上に、自分たちが作る雑誌の読者に大きなショックを与えたことを、重く受け止めてほしいです。

「民主主義の下で同じ事例は見たことない」――文化服装学院・服飾史の専門家が「ViVi」×自民党に警鐘

 ファッション誌「ViVi」(講談社)が自民党の“宣伝”をしたとして、先月ネット上で大きな波紋を呼んだ。同誌公認のインフルエンサーである“ViVigirl”たちが、「ハッピーに生きていける社会にしたい!」「自分らしくいられる世界にしたい」などと“理想の未来”を語り、記事の最後には、「#自民党2019」「#メッセージTシャツプレゼント」のハッシュタグとともに、「どんな世の中にしたいか」という自身の思いをSNSに投稿するよう促し、抽選で“ViVigirl”がデザインしたTシャツがプレゼントされる、との内容が記載されていた。

 このコラボPR記事が出回ると、ネット上では「政治の知識がまだ浅い子に向けて広告を出すのが気持ち悪い」「『ViVi』はファッション誌じゃなくて自民党の“広報誌”に成り下がった」と厳しい声が続出。ファッションが政治的なメッセージを発信することは珍しくないが、それは“反体制的”な意見であることが多い。例えば、クリスチャン・ディオールの2017年春夏コレクションでは、「We Should All Be Feminists(男も女もみんなフェミニストでなきゃ)」というメッセージが書かれたTシャツが登場し、ファッションで「男女平等」を訴えている。

 これまでのファッションと政治の関わり方とは“真逆”の流れともいえる「ViVi」騒動。これは、ファッションの歴史の中でどのような意味を持つのだろうか。文化服装学院専任講師で、近現代西洋服飾史・ファッション文化論を専門とする、朝日真氏に話を聞いた。

ファッションは常に“反体制”の象徴だった

――「ViVi」のPR広告の件について、いつどこで知りましたか。

朝日真氏(以下、朝日) 「朝日新聞」の記事でした。最初に抱いたのは、「なぜ講談社? なぜ『ViVi』だけ?」という疑問でしたね。政治に少しでも興味のあるファッション業界人は、総じてネガティブなイメージを持っているようで、「愉快な話ではないよね」「気味が悪い」と言っています。

――政権与党が特定のファッション雑誌を使いPRを行うといった、「ViVi」のような例は過去にもありましたか?

朝日 私が知る限りではないですね。政権与党がファッションに“擦り寄る”なんて、初めて聞いた気がします。歴史を振り返ると、ファッションは常に、“反体制”の象徴としてありました。一番最初の事例が、1960年代後半、ベトナム戦争下にアメリカで起こった「反戦運動」です。このときは、純粋な反戦の意思表示が大きなムーブメントとなり、ピースマークのTシャツなどファッションも“ヒッピームーブメント”につながっていきました。

――ヒッピームーブメントとは、どのようなものだったのでしょうか。

朝日 一般社会人が着るスーツではなくジーパンをはいたり、襟のあるシャツではなくTシャツを着たり、いわゆる“体制”への反発から、新しい若者のファッションが生まれました。体制側の保守的な格好にアンチテーゼを示しめすためだけでなく、“仲間意識”を高めるために、若者の間で自然発生的に共通のアイテムを持つようになったのではないでしょうか。最近でも、2014年に香港で起きた民主化要求デモ「雨傘革命」や、18年にフランスで起きた「イエローベスト運動」も、やはり共通アイテムを効果的に使って運動を推し進めました。

――ヒッピー以外にも、反体制的な動きがムーブメントにつながった例はありますか。

朝日 イギリスでは70年代に、経済状況の悪化から大学生の就職難など、保守政権に対する批判が相次ぎ、そうした怒りから“パンクムーブメント”が生まれました。ヒッピームーブメントとの違いは、それにデザイナーなどファッションのプロが目をつけたことです。マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドは、パンクムーブメントをファッションの手法としてうまく利用したのです。

――反体制的なことが大衆に受け入れられた、ということでしょうか。

朝日 そもそも“おしゃれ”というのは、“反体制”的なんですよ。大きな権力に対するアンチは、カッコよく見えますよね。だからこそ、マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドは、意図的にビジネスとして仕掛けたのだと思います。

 今年6月に発表されたGUCCIの2020年リゾートコレクションが掲げたテーマは、人工中絶を制限する法制度に反対を示す「My Body My Choice(私の体、私の選択)」で、これはローマン・カトリックという体制への批判です。このように、「体制に反抗することがおしゃれ・カッコいい」というファッションの歴史的な前提を踏まえると、「ViVi」と自民党のしたことは、全然おしゃれじゃない。ファッションらしくないわけです。

――世界的に見て、「体制がファッションを取り込む」ような出来事はありましたか。

朝日 アドルフ・ヒトラーの「ナチス」は、ファッションをプロパガンダに使いましたね。ベニート・ムッソリーニの「ファシスト党」もそう。もっと言えば、ナポレオンもそうです。彼らは“カッコいい軍服”をデザインさせて、軍隊に若者を引き込む手法を用いていました。そうしたファシズム的な、絶対的権力下には、ファッションのプロパガンダ利用がありました。しかし、日本のような民主主義の下では、同じような事例を見たことがありません。もしかしたら、自民党の「メッセージTシャツ」は、党を支持する人たちが着る“ユニフォーム”を意図していたのかもしれませんね。

――日本では、「反体制としてのファッション」が生まれにくいような気がします。

朝日 新しいファッションは若者から生まれますが、日本の若者は諸外国に比べると、政治に対する興味関心が薄い気がします。それが、反体制とファッションが結びつかない理由のひとつかもしれません。

――日本は政治とファッションの関わりが薄いのでしょうか。

朝日 60年代のヒッピームーブメントの時代、日本人も「ベトナム反戦運動」や「フォークゲリラ」に参加し、70年代には日米安保により「学生運動」が起こりました。でも、80年代以降の日本の若者は、体制に逆らわなくなった。2015年に安全保障関連法案に反対する大規模デモが行われましたが、あれが久しぶりだったのではないでしょうか。日本のファッションは基本的に、政治とはあまり関係ない場所で流行が生まれてきたと思うのですが、しかし、影響はされているでしょうね。

――どういった影響が見られますか。

朝日 日本のファッションは60年代~90年代まで、「ヒッピー」とか「コギャル」とか、流行がわかりやすくはっきりしていたんです。でも、2000年代以降って何がはやったかカテゴライズするのが難しくて、10年代になると、流行なんだか流行じゃないんだか、わかりにくいファッションが多くなってしまいました。そんな時代だからこそ「ViVi」の広告が掲載できたとも言えるでしょう。ファッションが好きでこだわりのある人から見れば、これはおしゃれじゃないですから。今までの歴史では、あり得ないことです。

 しかし裏を返せば、これは日本の若者のファッションに対する意識がレベルアップしたということでもあります。「流行の服を着てないと不安」とか、「みんなと同じ横並びという安心感」から脱却したんですよね。

――このPRは、成功したといえるのでしょうか。

朝日 これだけ話題になれば、炎上商法的には成功したんじゃないでしょうか。それに、さほど政治に興味のない人にとっては、印象に残ったという意味で、自民党にプラスに働いているようにも思います。この記事に嫌悪感を抱いた人は、そもそも政治に関心を持っている人でしょうし。ただ、今までの価値観から見ると、“ダサい”ですけどね。

――ファッションと政治は、どのような距離感が最適だと思われますか。

朝日 政治とファッションがつながること自体は、悪いことではないと思います。政治に興味のない人も、ファッションによって興味を持つ入り口になるから。でも今回の件に、「ViVi」読者に対して「政治の興味を持ってほしい」という意図があったとするなら、自民党だけじゃなくほかの政党の話題も取り上げる誌面を作るべきですね。現状だと、“偏り”がありますから。

――こうした現状がいきすぎて、ファッションが体制に取り込まれる可能性はあるのでしょうか。

朝日 それはないと思います。ファッションは、“アンチ”じゃないとファッションじゃない。おしゃれじゃないと、ファッションにはならないです。今も昔も、そこは絶対に揺るぎません。
(番田アミ)

■朝日真(あさひ・しん)
文化服装学院専任教授、専門は西洋服飾史、ファッション文化論。1988年、早稲田大学卒業後、文化服装学院服飾研究科にて学ぶ。『もっとも影響力を持つ50人ファッションデザイナー』(グラフィック社)共同監修。NHK『テレビでフランス語』(NHK出版)テキスト「あなたの知らないファッション史」連載。NHK『美の壺』他テレビ出演。

「民主主義の下で同じ事例は見たことない」――文化服装学院・服飾史の専門家が「ViVi」×自民党に警鐘

 ファッション誌「ViVi」(講談社)が自民党の“宣伝”をしたとして、先月ネット上で大きな波紋を呼んだ。同誌公認のインフルエンサーである“ViVigirl”たちが、「ハッピーに生きていける社会にしたい!」「自分らしくいられる世界にしたい」などと“理想の未来”を語り、記事の最後には、「#自民党2019」「#メッセージTシャツプレゼント」のハッシュタグとともに、「どんな世の中にしたいか」という自身の思いをSNSに投稿するよう促し、抽選で“ViVigirl”がデザインしたTシャツがプレゼントされる、との内容が記載されていた。

 このコラボPR記事が出回ると、ネット上では「政治の知識がまだ浅い子に向けて広告を出すのが気持ち悪い」「『ViVi』はファッション誌じゃなくて自民党の“広報誌”に成り下がった」と厳しい声が続出。ファッションが政治的なメッセージを発信することは珍しくないが、それは“反体制的”な意見であることが多い。例えば、クリスチャン・ディオールの2017年春夏コレクションでは、「We Should All Be Feminists(男も女もみんなフェミニストでなきゃ)」というメッセージが書かれたTシャツが登場し、ファッションで「男女平等」を訴えている。

 これまでのファッションと政治の関わり方とは“真逆”の流れともいえる「ViVi」騒動。これは、ファッションの歴史の中でどのような意味を持つのだろうか。文化服装学院専任講師で、近現代西洋服飾史・ファッション文化論を専門とする、朝日真氏に話を聞いた。

ファッションは常に“反体制”の象徴だった

――「ViVi」のPR広告の件について、いつどこで知りましたか。

朝日真氏(以下、朝日) 「朝日新聞」の記事でした。最初に抱いたのは、「なぜ講談社? なぜ『ViVi』だけ?」という疑問でしたね。政治に少しでも興味のあるファッション業界人は、総じてネガティブなイメージを持っているようで、「愉快な話ではないよね」「気味が悪い」と言っています。

――政権与党が特定のファッション雑誌を使いPRを行うといった、「ViVi」のような例は過去にもありましたか?

朝日 私が知る限りではないですね。政権与党がファッションに“擦り寄る”なんて、初めて聞いた気がします。歴史を振り返ると、ファッションは常に、“反体制”の象徴としてありました。一番最初の事例が、1960年代後半、ベトナム戦争下にアメリカで起こった「反戦運動」です。このときは、純粋な反戦の意思表示が大きなムーブメントとなり、ピースマークのTシャツなどファッションも“ヒッピームーブメント”につながっていきました。

――ヒッピームーブメントとは、どのようなものだったのでしょうか。

朝日 一般社会人が着るスーツではなくジーパンをはいたり、襟のあるシャツではなくTシャツを着たり、いわゆる“体制”への反発から、新しい若者のファッションが生まれました。体制側の保守的な格好にアンチテーゼを示しめすためだけでなく、“仲間意識”を高めるために、若者の間で自然発生的に共通のアイテムを持つようになったのではないでしょうか。最近でも、2014年に香港で起きた民主化要求デモ「雨傘革命」や、18年にフランスで起きた「イエローベスト運動」も、やはり共通アイテムを効果的に使って運動を推し進めました。

――ヒッピー以外にも、反体制的な動きがムーブメントにつながった例はありますか。

朝日 イギリスでは70年代に、経済状況の悪化から大学生の就職難など、保守政権に対する批判が相次ぎ、そうした怒りから“パンクムーブメント”が生まれました。ヒッピームーブメントとの違いは、それにデザイナーなどファッションのプロが目をつけたことです。マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドは、パンクムーブメントをファッションの手法としてうまく利用したのです。

――反体制的なことが大衆に受け入れられた、ということでしょうか。

朝日 そもそも“おしゃれ”というのは、“反体制”的なんですよ。大きな権力に対するアンチは、カッコよく見えますよね。だからこそ、マルコム・マクラーレンとヴィヴィアン・ウエストウッドは、意図的にビジネスとして仕掛けたのだと思います。

 今年6月に発表されたGUCCIの2020年リゾートコレクションが掲げたテーマは、人工中絶を制限する法制度に反対を示す「My Body My Choice(私の体、私の選択)」で、これはローマン・カトリックという体制への批判です。このように、「体制に反抗することがおしゃれ・カッコいい」というファッションの歴史的な前提を踏まえると、「ViVi」と自民党のしたことは、全然おしゃれじゃない。ファッションらしくないわけです。

――世界的に見て、「体制がファッションを取り込む」ような出来事はありましたか。

朝日 アドルフ・ヒトラーの「ナチス」は、ファッションをプロパガンダに使いましたね。ベニート・ムッソリーニの「ファシスト党」もそう。もっと言えば、ナポレオンもそうです。彼らは“カッコいい軍服”をデザインさせて、軍隊に若者を引き込む手法を用いていました。そうしたファシズム的な、絶対的権力下には、ファッションのプロパガンダ利用がありました。しかし、日本のような民主主義の下では、同じような事例を見たことがありません。もしかしたら、自民党の「メッセージTシャツ」は、党を支持する人たちが着る“ユニフォーム”を意図していたのかもしれませんね。

――日本では、「反体制としてのファッション」が生まれにくいような気がします。

朝日 新しいファッションは若者から生まれますが、日本の若者は諸外国に比べると、政治に対する興味関心が薄い気がします。それが、反体制とファッションが結びつかない理由のひとつかもしれません。

――日本は政治とファッションの関わりが薄いのでしょうか。

朝日 60年代のヒッピームーブメントの時代、日本人も「ベトナム反戦運動」や「フォークゲリラ」に参加し、70年代には日米安保により「学生運動」が起こりました。でも、80年代以降の日本の若者は、体制に逆らわなくなった。2015年に安全保障関連法案に反対する大規模デモが行われましたが、あれが久しぶりだったのではないでしょうか。日本のファッションは基本的に、政治とはあまり関係ない場所で流行が生まれてきたと思うのですが、しかし、影響はされているでしょうね。

――どういった影響が見られますか。

朝日 日本のファッションは60年代~90年代まで、「ヒッピー」とか「コギャル」とか、流行がわかりやすくはっきりしていたんです。でも、2000年代以降って何がはやったかカテゴライズするのが難しくて、10年代になると、流行なんだか流行じゃないんだか、わかりにくいファッションが多くなってしまいました。そんな時代だからこそ「ViVi」の広告が掲載できたとも言えるでしょう。ファッションが好きでこだわりのある人から見れば、これはおしゃれじゃないですから。今までの歴史では、あり得ないことです。

 しかし裏を返せば、これは日本の若者のファッションに対する意識がレベルアップしたということでもあります。「流行の服を着てないと不安」とか、「みんなと同じ横並びという安心感」から脱却したんですよね。

――このPRは、成功したといえるのでしょうか。

朝日 これだけ話題になれば、炎上商法的には成功したんじゃないでしょうか。それに、さほど政治に興味のない人にとっては、印象に残ったという意味で、自民党にプラスに働いているようにも思います。この記事に嫌悪感を抱いた人は、そもそも政治に関心を持っている人でしょうし。ただ、今までの価値観から見ると、“ダサい”ですけどね。

――ファッションと政治は、どのような距離感が最適だと思われますか。

朝日 政治とファッションがつながること自体は、悪いことではないと思います。政治に興味のない人も、ファッションによって興味を持つ入り口になるから。でも今回の件に、「ViVi」読者に対して「政治の興味を持ってほしい」という意図があったとするなら、自民党だけじゃなくほかの政党の話題も取り上げる誌面を作るべきですね。現状だと、“偏り”がありますから。

――こうした現状がいきすぎて、ファッションが体制に取り込まれる可能性はあるのでしょうか。

朝日 それはないと思います。ファッションは、“アンチ”じゃないとファッションじゃない。おしゃれじゃないと、ファッションにはならないです。今も昔も、そこは絶対に揺るぎません。
(番田アミ)

■朝日真(あさひ・しん)
文化服装学院専任教授、専門は西洋服飾史、ファッション文化論。1988年、早稲田大学卒業後、文化服装学院服飾研究科にて学ぶ。『もっとも影響力を持つ50人ファッションデザイナー』(グラフィック社)共同監修。NHK『テレビでフランス語』(NHK出版)テキスト「あなたの知らないファッション史」連載。NHK『美の壺』他テレビ出演。