日本で外国人労働者の受け入れが拡大する中、技能実習生の処遇をめぐる問題が浮き彫りになっている。『奴隷労働―ベトナム人技能実習生の実態』(花伝社)の著者・巣内尚子さんに、外国人技能実習生の実情と、我々に何ができるかを聞いた。
(前編「『奴隷労働』著者・巣内尚子氏に聞く、ベトナム技能実習生の現実(前編)――奴隷生む闇の“産業”」はこちら)
知らない間に福島で除染作業をさせられ……
――外国人技能実習生や労働者をめぐる問題は、低賃金と長時間労働のほかにもあるようです。
巣内尚子さん(以下、巣内) たくさんあります。問題が絶えないのは、根本には、「日本では移民は受け入れない」という考えがあるからではないでしょうか。
実際に、「3年後には帰るお前に教えることなどない」と怒鳴られ、何も教えてもらえなかった実習生がいます。実際に、聞き取りでは、来日前の職業が技能実習の職種と異なる例、帰国後の職業が技能実習の職種と異なる例が大半でした。今回の入管法では、外国人労働者の受け入れ拡大が図られていますが、実習生については「長居をせずに単純労働だけをして、技能実習の期間が終われば早く帰国してほしい」ということです。
一方で、技能実習生は決められた職種でしか働けないはずなのに、事前の説明のないまま、福島で除染作業をさせられていた例もあります。この技能実習生はもともと建設の職種で来日していました。自身の仕事が除染作業だとわかり、健康面の不安を抱き、ベトナムの送り出し機関、日本の監理団体などに説明を求めたのですが、誰にも取り合ってもらえませんでした。
この技能実習生の賃金は、基本給が13万円ほどで、そこから寮費の1万5000円と税金・社会保険料などを引くと、手取りは8~9万円だけでした。この金額から、生活費として3万円を使うと、残りはわずか5万円。それが除染労働で得た対価というわけです。このようなことが行われたということの背景には、技能実習生はあくまで「入れ替え可能な労働者」であり、いつか帰国する存在として企業がとらえているからではないでしょうか。
――技能実習生の中には、雇用先から性暴力の被害に遭う人もいると報じられいます。
巣内 性暴力については被害者が泣き寝入りしていることもあると思うので、それらを含めればもっと多いのではないかと思います。佐賀県で技能実習生を支援されている越田舞子さん(「国際コミュニケーションネットワークかけはし」代表)から聞いた事例では、性暴力被害に遭った女性技能実習生がいたものの、受け入れ企業に帰国させられることを恐れ、警察に行けなかったということがありました。
性暴力の被害者が泣き寝入りをすることについて、私は、前述したように技能実習生が交渉力の弱い労働者であり、声を上げにくい状況にあることに加え、ベトナムの社会的状況も影響しているのではないかと考えています。
ベトナムでは、性暴力やセクハラなどの被害者が声を上げることは難しい状況にあります。被害者の側に問題があると見られてしまうことがあるためです。日本でも以前は「セクハラ」という概念は一般的ではなく、フェミニストや研究者が尽力したことで、この言葉が定着した経緯がありますが、ベトナムでは今も十分に浸透していませんので、技能実習生の中にも、その概念をきちんと理解していない人もいるでしょう。聞き取り対象者の中には、「職場で性的嫌がらせを受けたことがありますか」という質問に対し、最初は「ない」と答えた人が、具体的なセクハラの事例を挙げたところ、「会社の人から体を触られて嫌な思いをした。ほかの技能実習生も被害に遭った。でも、何も言わなかった」と説明してくれました。
こうした事例からは、技能実習生に対し、事前にセクハラを含む職場でのハラスメントについての理解を促すとともに、相談しやすい環境を整備することが求められているといえます。
――だから「失踪」する実習生も多いのですね。2018年には前年から1963人増の9052人が失踪し、政府も問題視しています。
巣内 私は、実習先企業などから実習生が逃げることを「失踪」と呼ぶことには違和感があります。むしろ生命の危険を感じたり、やむにやまれず追い詰められて「逃げた」「避難した」のではないかと考えています。詳しくは本書に書きましたが、私が聞き取りをした実習生たちは、劣悪な労働環境や暴言、暴力、低賃金といった搾取などを受け、悩みぬいた末に、「逃げる」ことを決意していました。
――借金を背負っているのに逃げるのは、よほどのことでしょうね。
巣内 はい。繰り返しになりますが、技能実習生は制度的に在留資格、住まい、仕事が一体化している状況の中、日本で就労・生活していますから、会社から逃げてしまうと、在留資格、住まい、仕事を一度に失うリスクがあります。さらにご指摘のように、借金もあります。それでもわざわざ逃げるということは、その決断に至るまでに、よほどのことがあったのだと考えています。
ある建設の技能実習生は、日ごろから暴言、暴力を受けていた上、ある日、上司から叱責され、雨の中で立たされたショックで、会社を出ました。この技能実習生は継続する暴言、暴力ですでに疲れ果てていたところ、さらに雨の中で立たされて、耐えられなくなってしまい、あてもなく、会社を出たと話していました。
朝3時までの長時間労働、残業代未払い、暴言、不衛生な寮での共同生活、外出の制限などの状況を受け、悩み抜いた末に、会社を出た技能実習生もいます。この技能実習生は、休みは月に3日程度、朝8時から翌朝3時までの就労が継続し、体調不良もありましたから、緊急避難といえる状況ですよね。
技能実習生は来日までに、ベトナム側で数カ月間の来日前研修を受け、さらに正規の手続きを経て来日します。そのために高額の渡航前費用を支払っています。これだけの手間と時間とお金をかけて来日した技能実習生の中に、逃げたくて逃げる人がどれだけいるのでしょうか? 聞き取りをすると、逃げた経験を持つ人はみな、「本当は逃げたくなかった」と答えています。
――そうして逃げた実習生は、国にどう扱われるのですか?
巣内 日本政府は逃げた技能実習生を「失踪者」と呼び、さらにその人たちが就労すれば「不法就労」と位置づけ、取り締まり対象にします。逃げた技能実習生は、拘束、強制送還の対象になりますから、犯罪者のように扱われるわけです。ですが、その人たちが逃げるという決断をした事情を丁寧に見なければいけません。同時に、逃げるという重い選択をさせた技能実習制度の在り方を見なければいけません。
――そんな日本に来たいと思う人はいませんね。英金融大手HSBCホールディングスが毎年行う各国の駐在員の「働きたい国ランキング」では、日本は調査可能な33カ国(地域含む)のうち32位とワースト2位になったことが報じられています。賃金と労働時間、子育てのしやすさが最下位と、今の日本の問題がそのまま指摘される形となりました。このままでは、日本に誰も来なくなってしまいます。
巣内 たしかに今のままでは、日本で働くこと、暮らすことをネガティブにとらえる人は増えるのではないでしょうか。ベトナムは「フェイスブック大国」でもあり、日本の技能実習生や留学生が抱える課題はSNSを通じてベトナム側にも知らされつつあると思います。またベトナム人の移住労働先には台湾や韓国もあるわけですから、そちらのほうがいいとなれば、日本に来る理由がなくなるのではないかと思います。
――日本は、どうすればいいのでしょうか?
巣内 問題が多い技能実習制度を廃止し、仲介組織を排除することが必要だと思います。その上で、外国人をきちんとした労働者として受け入れ、転職の自由を認めることをはじめ、労働者としての権利保護を進めるとともに、定着に向けた仕組みを整備する必要があります。
特に、受け入れに当たり、労働者の相談窓口の整備を進めるなど、支援体制を強化する必要があります。7月後半から2カ月ほど台湾で移住労働者の調査をしたのですが、台湾には移住労働者が無料で相談できる公的なホットライン「1955」があります。このホットラインは1年中、24時間運営されており、日中就労している移住労働者も夜間や休日に相談できます。タイ語、インドネシア語、ベトナム語、英語、中国語などの多言語対応ですので、移住労働者は母語での相談が可能です。台湾の移住労働者受け入れにも課題が多く、搾取や虐待の被害に遭う人が後を絶ちませんが、それでも公的相談窓口があることで、相談はしやすくなっています。ホットラインは一例にすぎませんが、公的部門が責任をもって移住労働者の支援体制を整えることが急務です。
もう一つ私たちができることは、社会との連帯です。例えば、労働者が一人で戦うのは容易ではありませんので、外国人労働者が組織化して戦えるような状況が生まれることが期待されます。例えば日本では、移住労働者の権利のための行動 「マーチ・イン・マーチ March in March」が毎年実施されています。こうした運動は外国人だけではなく、日本人労働者にも必要ですよね。連帯できるところで、つながりを持ち、協力しながら国籍に関係なく、労働者全体の処遇改善を求めて動くことができるのではと思います。
もし労働運動に参加するのはハードルが高いというのであれば、私たちが日常生活の中で可能なことは、まず外国人労働者の実情を知るということだと思います。技能実習生は日本社会とのつながりが希薄な人もおり、なかなかその実情が知られていないところがまだあると思います。外国人労働者の実情を知ることで、それが投票行動に影響するなどして状況が変わっていくこともあるのではないでしょうか。
そして、身近な外国人の方と日常生活の中で交流を持つことも大事だと思います。例えば、コンビニエンスストアや飲食店などで働く外国人の方を見かけたとき、あるいは工場などに自転車で通勤する技能実習生を見かけた時には、挨拶をし合ったり、言葉を交わすなどしたりしてみてはいかがでしょうか。そうした小さな交流の中で、もしかしたら、外国出身の方を取り巻く状況や課題が見えてくるかもしれません。
巣内尚子(すない・なおこ)
1981年生まれ。フリージャーナリスト。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。現在はカナダ・ケベック州のラバル大学博士課程に在籍、2015年3月から16年2月まではベトナム社会科学院・家族ジェンダー研究所に客員研究員として滞在するなど、国内外で記者、研究者として活動。研究分野は国際社会学と移住現象のジェンダー分析。