本格防音環境を実現する「ドラえもん戦法」とは? 防音グッズ専門店が解説!【後編】

【「おたぽる」より】

「幹線道路が近い」「居酒屋やコンビニが目の前にある」「隣人や上階、階下の人間がうるさい」など、騒音での睡眠不足に悩んでいる人は少なくない。筆者も耳栓の欠かせない生活を送っているが、できれば耳栓なしでぐっすり眠りたい。当連載では今回防音専門店ピアリビング室水房子代表取締役と、梶原栄二東京支店長に話を伺っている。最終回となる今回は、本格的な防音対策について話を伺う。

*これまでのインタビューはこちらから!【前編】 【中編】

 

防音カーテンでは効果を感じられない人に向けた「防音パネル」とは?

――前回は防音カーテンについてお話いただきましたが、カーテンの場合窓との間にできてしまう「隙間問題」がなかなか悩ましいことがわかりました。

室水房子氏(以下、室水) 当社は「窓からの防音」においては、カーテンとパネルを提供していますが、効果を求める場合はやはり、より厚く、重くて、かつ隙間をふさぎやすいパネルの方ですね。

 当社ではさまざまなサイズの通常パネルのほか、窓のサイズに合わせたオーダーメイドのパネルもご用意しています(写真1)。

――オーダーメイドのパネルと、通常パネルなら、窓につける場合どちらがいいのでしょうか?

梶原栄二氏(以下、梶原) オーダーメイドは受注生産になり、パネルの周囲にゴムをつけ、さらに取っ手がついきますので、通常のパネルよりお値段は1.5倍ほど高くなってしまいます。

 ですので、窓を完全につぶしてしまって、パネルを一度はめこんだらもう動かさない場合でしたら何もオーダーメイドにせず、通常のパネルにした方が安価で済みます。

 ただ、窓を普段も使うなら、毎日複数のパネルを「出し入れ」することになりますよね。そうしていくうちに、パネルとパネルの間に「隙間」ができ、そこから音が漏れてしまう可能性があります。

 さらに、その家にいつまで住むかという問題もありますね。窓枠に沿って作るオーダーメイドはずっとその家に住み続けるならいいのですが、引っ越すと使えなくなってしまいます。

 

低コストで防音対策できる必殺技「ドラえもん戦法」とは?

梶原 高い防音効果を求め、防音パネル(写真1)でカスタマイズした押入れの下段で寝ていらっしゃるお客様もいらっしゃいますね。押し入れの壁と天井を防音パネルでふさぐんです。押し入れなら高さがないので、使うパネルの量も少なく済みます。

 さらに押し入れはもともと「塞がれる」空間なので、防音効果も高くなります。防音対策は「隙間を作らない」ことが大切ですから。

――ドラえもん戦法ですね。ただ、押し入れの引き戸側にも防音効果が欲しい場合、どうすればいいでしょうか。引き戸にパネルを設置すると、ドアの開け閉めが難しくなってしまいますよね。

梶原 その場合、押し入れの手前に突っ張り式のカーテンレールを設置し、防音カーテンを引くといいですね。

――なるほど。防音パネルを組み合わせ棺桶のような形状にして、寝るときに入る、という製品があったら理想的なのですが。

梶原 そういったお声はよくいただいているのですが、狭い空間に密閉する形になるので心配なところもあって。

――窒息してしまうと。「隙間は防音の敵」ですから隙間を開けるわけにもいかないですし、難しいですね。

梶原 また、冬はいいのでしょうけれど、夏は暑いでしょうね。

梶原 安価で導入しやすい防音対策の一つとして、今「快適防音ボックス」を開発中です(写真2)。机の上に薄手の防音パネルで作った箱状のブースを置くというものです。

 こちらは写真の通り、勉強や仕事中、より静かな環境で集中できるように作ったのですが、これを、寝るときに頭周辺を覆うようにすれば、睡眠時の騒音が気になる人や、また、いびきの音を弱めることができるということで、形状をさらに工夫し睡眠用の提供も検討しています。

――(快適防音ボックスに頭を入れる)こちらは形状的に隙間が空いているので「徹底防音」ではないですが、吸音効果で、入るとたしかに明らかに「しーん」としますね。 真後ろでお話している声も、遠くから聞こえてくる感じになります。

梶原 徹底的な防音を求められる方は、パネルを使い窓を埋める方法がお勧めです。ですがこちらのボックスなら、手ごろな値段で利用できます(価格は現時点では未定だが、2万円程度を予定)。

――3回にわたってお話を伺ってきましたが、防音にはさまざまな選択肢があることがわかりました。押し入れを活用するなど、意外な方法も含めやりようはあるのだなと。最後に、防音のコツについて改めて教えていただけないでしょうか。

梶原 何かひとつの単体の防音グッズで全ての音を防ぐとなると難しいんですよね。窓も防音カーテン1枚では防げなくても、2枚になると防音効果が上がります。「層」で対策することが大切です。これはカーペットでも同様です。

 ですので、すでに購入された防音グッズで、今効果をあまり感じられないものも、組み合わせて使うことで効果を発揮することもあります。

―――あとはお話いただいたとおり「とにかく隙間をなくすこと」なんでしょうね。

梶原 はい。そして、そもそも音の感じ方には個人差があります。人の声が気になる人もいれば車の音が気になる人もいます。

――効果においても「とにかく徹底的に静かにならないとイヤ」な人もいれば、「ある程度改善されればOK」人もいるでしょうし、感じ方は人の数だけありますよね。

梶原 そうなんです。ですので、防音対策に「万人がこれでなければいけない」というものはないんです。よって、防音は「いっぺんに全部」やるのではなく、ちょっとずつ継ぎ足していった方がいいかと思います。満足できるところでやめれば、それほど大掛かりな予算をかけずにすみますから。

* *

 この取材はピアリビングが期間限定のブースを出していた東急ハンズ渋谷店で行われ、ブースには、四方と天井を防音パネルで作った箱型の体感コーナーもあった。中は明らかに「しーん」とした別世界で気持ちがとても落ち着き、ここで生活したいと思うほど安らいだ。にぎやかな店内の音をすべてシャットアウトするわけではなく、声などは聞こえるのだが、かなり遠くから聞こえてくるのだ。

 しかし、一度この体感コーナーの引き戸のドアがほんの少しだけずれてしまったときは、最初は気づかなかったくらいのほんのわずかなずれにもかかわらず「しーん」とした感じはかなりうすれてしまった。しみじみと防音対策は、水をも漏らさぬ隙間との闘いなのだと理解した。

(文/石徹白未亜 [https://itoshiromia.com/])

◆石徹白未亜の過去記事はこちらから◆

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9割以上が間違っている「防音カーテンの正しい使い方」とは? 防音グッズ専門店が解説!【中編】

【「おたぽる」より】

「幹線道路が近い」「居酒屋やコンビニが目の前にある」「隣人や上階、階下の人間がうるさい」など、騒音での睡眠不足に悩んでいる人は少なくない。筆者も耳栓の欠かせない生活を送っているが、できれば耳栓なしでぐっすり眠りたい。当連載では今回防音専門店ピアリビング室水房子代表取締役と、梶原栄二東京支店長に話を伺っている。今回は手軽に導入できる「防音カーテン」の正しい利用方法について聞いた。

*インタビュー前編はこちらから!

 

9割の人が間違っている防音カーテンの使い方

――窓からの騒音を何とかしたい場合に手軽に導入できるものとして「防音カーテン」がありますよね。

室水房子氏(以下、室水) はい。ただ防音カーテンは正しく使わないとなかなか効果を感じにくいんです。例えば、防音カーテンは窓にぴったりくっつけて使えば効果的なのかと考えられる方が多いのですが、大切なのはむしろ「空気層を作ること」であり、窓からちょっと離した方がいいんです。

 例えば出窓の場合、窓にピッタリのところにカーテンを引くより、窓から離したところにカーテンを引いたほうが防音効果が増します。

――今までずっと誤解していましたし、私に限らず多くの人が勘違いしているところだと思います。でも、そもそも手前にカーテンをつけたくても、もともとカーテンレールが窓のそばに設置されている家が多いですよね。

梶原栄二氏(以下、梶原) その場合、突っ張り式の後付けのカーテンレールなどを使って手前にカーテンレールをつけると効果的です。突っ張り式のレールを使えば、障子の部屋などカーテンレールがない部屋でも防音カーテンを使えるようになります。

 

防音カーテンを買っても、前のカーテンを捨てない方がいい理由

室水 さらに、防音は「層」が大切です。先ほど出窓のケースを挙げましたが「もともとあったカーテンレール」と「新しくより手前に作ったカーテンレール」に、2枚カーテンを引くとより防音効果がアップします。

 ですので、防音カーテンを購入しても、ももともとお使いのカーテンを捨てず、もとあったカーテンに、さらに防音カーテンを足すとより防音効果が上がります。カーテンの枚数があるほど吸音していきますから。

 そして、住環境的に難しい方も多いかとは思いますが、2枚カーテンを引く場合でも「カーテン間をできるだけ離して、間に空気層を作る」とより効果的です。

梶原 よく「隣の家からの音が気になる。隣と面する壁に防音カーテンを張り付けたら効果があるのでしょうか?」という質問をいただきますが、直接壁にカーテンを張り付けてもあまり意味がないんです。その間に空気層を作らないといけないんです。

 なお、ライブハウスなど大きな音を出す施設を作るときは40センチ以上の空気層を作っています。外壁、40センチの空気層、壁、空気層、壁、といったように層をいくつも作ることが防音効果を高めるんです。

――「空気層」の存在が、防音においてとても大切なんですね。

室水 「空気層を作る」が防音カーテンのポイントの一点目ですが、二点目は「カーテンを引くときは、音が漏れる隙間を絶対作らない」ことです。

 ただ、たいていのカーテンレールは上に隙間がありますよね。あの隙間から音が漏れてしまうんです。ですのでカーテンは天井から下げるのが理想ですね。

――「防音カーテンを引いたのに全然改善しない」という人は「カーテンレールの上から漏れてる」というケースが多いのでしょうね。でもカーテンレールの上の部分って、そもそも隙間が空いていますよね。

室水 はい。ですので当社ではカーテンレールの上を箱状に「ふさぐ」部分もセットにしたカーテン販売しています(図1)。また「ふさぐ」部分だけも販売しています。

 また、カーテンのドレープ(ひだ)の「隙間」からも音は漏れるので、ここも気を付けてください。防音カーテンは「しっかりふさぐ」ことが基本です。ですので、窓が床までない「腰窓」であっても、高い防音効果を求めるなら床まで長さのあるカーテンを引くことをお勧めします。

――それほどまでの「徹底隙間対策」なんですね。そうなると素人が素人考えのままで防音カーテンを買ったら、隙間だらけで効果を感じられないケースは多いでしょうね。

室水 そうなんです。また、防音カーテンを選ぶときのポイントは「層と重さ」です。より層があり、より重いほど、防音効果は高まります。

* *

 家に防音カーテンがあるが、効き目を感じられない人は「もとあったカーテンも追加する」「隙間をとにかく塞ぐ」など工夫をすることで防音効果がアップする可能性もあるのだ。

 原稿後編では引き続き室水氏、梶原氏に、本格防音対策について話を伺う。比較的低コストで安眠環境を実現する必殺技「ドラえもん戦法」について伺う。

(文/石徹白未亜 [https://itoshiromia.com/])

◆石徹白未亜の過去記事はこちらから◆

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モラハラ夫だった僕がそれに気づくまで――解決に向けた手掛かり(後編)

 農林水産省の元事務次官の熊澤英昭容疑者が44歳の長男を殺害した事件では、息子による家族への暴力が背景にあったと報道されている。悲惨なDV、虐待のニュースは後を絶たない。また、配偶者からのモラハラで苦しんでいる家庭は多いはずだ。しかし、その時「加害者側」は何を考えているのだろうか? モラハラ夫として妻に去られた経験から回復し、現在は日本家族再生センターでカウンセラーとして被害者、加害者双方の支援活動を行っており『DVはなおる 続』(ジャパンマシニスト社・味沢道明著)の共著者でもある中村カズノリ氏に話を聞く。最終回の今回も前回に続き「解決に向けた手掛かり」について伺う。 

*これまでのインタビューはこちらから(1) (2) (3)

 

 

SNSは「おしゃべり」として有効?

――第3回で「自己肯定、自己受容を養い、頭の中の地雷原を減らすためにはおしゃべり、雑談が有効」と伺いました。ですが、そもそもおしゃべりできる相手がいないのだ、という人は多いですよね。そのような場合、SNSは有効でしょうか?

中村カズノリ氏(以下、中村) DV、虐待、モラハラの加害者がSNSをやる場合はメリットとデメリットがありますね。

 まずデメリットからですが、SNSに書く以上反発のリプライが届く可能性は当然あります。加害側が書くならなおさらですよね。僕自身もよくそういったリプライをもらいます。僕自身はそれでいい、と思ったうえで発信していますが、もちろんこれは全ての加害当事者にお勧めするものではありません。

――誹謗中傷などが寄せられ、かえって精神が荒廃してしまうこともあるでしょうね。

中村 はい。ですので無理は禁物です。

 一方でメリットとしては、書くことでガス抜きできるという点ですね。あとは、自分の体験を話せば同じような体験をした人とつながることもできます。

 ポイントとしては「発信ができるウェブサービス」も今はさまざまなものがありますよね。自分に合った、快適な雰囲気のところで始めることが大切です。

――非公開のグループだったり、コメントを受け取らない仕組みにできたりなど「世界中の人と無条件でつながる」という環境にせず、自分に無理のない範囲にすることが大切なんですね。

中村 ただ重ねてですが、対面で行われ、ファシリテーター(進行役)がおり、「相手の意見を批判していけない」などのルールの下で行われるグループカウンセリングとネットは大きく条件が異なります。苦しい人は無理にやらないでほしいです。

――ネットって、どう見ても心が血まみれになってるのに「効いてないぜ?」とポーズを取る強がりな人もよく見ますね。

 

役に立たねば、の意識がおしゃべりを難しくする

――心に効く「おしゃべり」ですが、中村さんはもともとおしゃべり好きだったんですか?

中村 いえ全く。グループカウンセリングがきっかけでおしゃべり好きになりました。 最初はうまく喋らないと、気の利いたことを言わないと、と思っていたんですが、別にうまくしゃべらなくてもいい場所なんだということが分かってからは力が抜けて、だんだん慣れていきましたね。今の妻ともよくおしゃべりをしていますよ。

――目的のない雑談やおしゃべりは、男性ほど難しいかもしれないですね。

中村 これはちょっと偏見が入った見方かもしれませんが、男性には“役に立つことしか喋っちゃいけない”というような感覚が少なからずありますよね。無駄話はよくないと。そうなると口数は少なくなるわけで。

―― あと一部男性にありがちなのが、何ら解決策を求めていない相手に対し、どや顔で求めてない、役に立たない御託を授ける傾向もありますね。

中村 ですので女性の方がおしゃべりが上手な分、ガス抜きが男性より上手に出来るのかなとは思います。

 ただこれもあくまで「傾向」であり、しゃべってもしゃべっても受け入れられている感覚がしなくて、自己肯定感が育たず、それで結局相手の DV なども受け入れてしまう女性もいたりします。さまざまな要因が絡んでいるため「こうだからこう」と言いきれない複雑さがありますね。

――こういったことは比較的字数制限の緩やかなネット記事向けの話題ですね。また、テレビも分かりやすさを求めてシナリオありきで進む傾向はあるので「この傾向はあるけれど、絶対ではない」という複雑さは嫌われる傾向がありますね。

――4回にわたってお話を伺ってきましたが、DV、虐待、モラハラ加害者がイライラするメカニズムは、「そんなことをしないと思っている人」にも心当たりのあるものでしたね。単に程度の問題なんだと。

中村 はい。条件がそろうと誰でも「そちら側」に回ってしまう可能性があるんです。

 例えば金銭面や健康面に不安があると、心の余裕は一気になくなってしまいますよね。さらに学校や職場など、日ごろの大部分の時間を過ごす場所で疎外されでもしたら、どんどんまともな判断ができなくなっていきます。

――今満たされている人も、いつそうなるかは本当にわからないですよね。

中村 そうなんです。でも「誰だって危うい」と知っているだけでも違うと思います。自分だけは大丈夫と思っている人ほど危ないです。

――「自分だけは大丈夫」の根拠で、自分の育った家庭にモラハラなんてなかった、と思ってる人も多そうですが、気づいていないだけでしっかりモラハラだったケースもあるでしょうしね。

中村 そうです。それに、もし育った家庭が本当にいい家庭だったとしても、それ以外で足をすくわれるケースだって出てきます。新卒で入った企業がブラック企業で文化に染まってしまったとか、悪い友達と付き合いだしてから人が変わってしまったケースなどもありますよね。

――怪しげなネットワークビジネス、自己啓発、スピリチュアル系にハマったりとか、大人になってもいろいろ誘惑はありますよね。

 現在は支援側にかかわっている中村さんですが、支援の現場で感じることはありますか?

中村 カウンセリングは個々人の状況に寄り添うため、人が必要です。日本家族再生センターでも、今ものすごく人材不足ですね。

 ぜひ行政でも取り組んで欲しいところではあるんですが、一方で私自身、行政の現場で支援されている方の日々の奮闘を知っています。 行政の場合、マニュアルやルールとの兼ね合いがあります。人に合わせた支援が必要なのは分かっているが、それに合わせられないという歯がゆさの中、なんとかしたいと仕事をしている方はたくさんいます。行政はお役所仕事の悪いやつ、という言われ方は違うと伝えたいですね。

――最後に、DV、虐待、モラハラにおいて、問題が深刻化しないうちに加害側が気づくことが大切だと思うのですが、一方で加害側にしてみると、配偶者が逃げるほど事態が深刻にならないと気づけないというジレンマがありますよね。これに対して何かいいアイディアなどはあったりしますか。

中村 やはり日ごろから気楽に人と繋がれることが大切ですね。 家族とのことでちょっとモヤモヤがあったとしても、相談するなんてカッコ悪いという雰囲気はありますよね。特に男性はそうだと思います。

 時間のかかることではありますが、そういうことは全然かっこ悪いことじゃない、という価値観を醸成させていくことが必要だと思います。

(文/石徹白未亜 [https://itoshiromia.com/])

◆石徹白未亜の過去記事はこちらから◆

 

ヤマハの楽器用『防音室』は「寝室」として使えるのか? 公式に聞いてみた! 【連載:静かに寝たいあなたに】の画像2★好評発売中!!
『節ネット、はじめました。 「黒ネット」「白ネット」をやっつけて、時間とお金を取り戻す』(CCCメディアハウス)?

卵パック、段ボールに防音効果があるという噂は本当? 防音グッズ専門店が解説【前編】

【「おたぽる」より】

「幹線道路が近い」「居酒屋やコンビニが目の前にある」「隣人や上階、階下の人間がうるさい」など、騒音での睡眠不足に悩んでいる人は少なくない。筆者も耳栓の欠かせない生活を送っているが、できれば耳栓なしでぐっすり眠りたい。当連載では過去にヤマハが展開する「防音室」に取材をしてきたが(参照記事:ヤマハの楽器用『防音室』は「寝室」として使えるのか? 公式に聞いてみた!)、そもそも「防音知識の基礎」がわからないため、防音専門店ピアリビング室水房子代表取締役と、梶原栄二東京支店長に話を伺った。

 

卵のパックに防音効果はあるというネットの噂は本当?

――防音専門店から見て、一般の人たちの防音知識で間違っているな、と思うものはありますか?

室水房子氏(以下、室水) 今はネットでさまざまな防音情報が錯綜していますよね。卵のパックに防音効果があるという情報がネットで流行っていたときもありましたが、卵のパックでは難しいです。

梶原栄二氏(以下、梶原) 段ボールに防音効果があるともよく見ますね。段ボールの場合は、何重にも重ねると確かに防音効果は出てくるのですが、段ボール一箱分くらいではあまり防音効果はありません。

 

防音の基本は遮音と吸音。しかし遮音と吸音って何?

――御社のホームページを見ると、防音は「遮音+吸音」とありました。字面通り「遮音:音を遮る」「吸音:音を吸い込む」だと思うのですが、違いがよくわからなくて。

梶原 遮音は単純で、それこそコンクリートのような「堅い、重い、厚い」素材ならより一層遮音効果が出ると考えていただければ大丈夫です。

室水 一方、吸音ですが、音は振動でありエネルギーです。例えば、堅い壁にボールを強く投げると、結構な強さで跳ね返りますよね。 でも、布団のようなものに投げたら、ボールは硬い壁にぶつけた時よりは跳ね返りません。これは布団の中の繊維が、エネルギーを吸収するためです。

 音も同じです。硬い壁に向け音を出すとそのまま跳ね返りますが、布団のように柔らかいものだと音のエネルギーが吸い込まれて弱くなります。これが「吸音」です。

――跳ね返りが弱くなるほど、吸音効果が高いということですね。

室水 はい。遮音の場合はそれこそコンクリートのような「堅い、重い、厚い」方がより遮音効果は高まります。一方、吸音になると中に音が入り拡散させ、弱めるようなものの方が吸音効果は高まります。

――「遮音」と「吸音」で求められる素材の質感は、ずいぶん異なるんですね。

室水 はい。そして「防音」は「遮音」と「吸音」の両方を兼ね備えてなければいけません。

 

人間も音を吸い込む――がらんとした体育館で音が響く理由――

室水 「遮音」効果は高いものの「吸音」を何もしていない部屋の例として、打ちっぱなしのコンクリートの、何も家具のない室内をイメージしてみてください。この場合、遮音効果は高いのですが吸音できないため、音は反響を繰り返し、うるさく響き続けます。

――テニスの「スカッシュ」のように、音エネルギーが吸い込まれることなく跳ねかえっていくと。

社長 はい。ただこのコンクリート打ちっぱなしの部屋に人が入ったり、カーペットやソファーなど家具が入っていくと、音の反響はどんどん弱まっていきます。

――人間やソファーも「吸音」するんですか?

社長 はい。人もソファーも、コンクリートの壁よりは柔らかいですから。

 体育館をイメージしてみてください。人がほとんどいない体育館で大声を出すと響きますが、人が入れば入るほど声は響きにくくなります。人そのものも、また人が着ている服も吸音するためです。

梶原 昔の和建築は、床は畳、塗り壁、天井は板が用いられていました。これらの素材は吸音性が高く、「しーん」と静かなんです。わび、さびの落ち着く空間なんですね。

――和室が落ち着くのは雰囲気からと思っていましたが、音を吸い込むという意味でも落ち着く要素があったんですね。

梶原 はい。一方で、今の家は床はフローリング、壁はビニールクロスと、「気密性」を重視した作りが主です。そのため吸音性は下がり、音が響きやすくなりました。外から家に入ってくる騒音が家の中で反響し、なかなか音が逃げてくれないんです。

 今の家の構造は、音を気にする人にとっては、イライラしやすい家と言えます。

 

救急車のサイレンは防音しやすくて、トラック走行音は防音しづらい理由

――防音の各種サイトを拝見しますと、「デシベル」と「ヘルツ」が出てきますがこれらの違いは何でしょうか?

梶原 デシベルは「音の大きさ/小ささ」、ヘルツは「音の高さ/低さ」です。

 デシベルは、完全なゼロはあり得ず、しーんとした図書館でも30デシベルくらいあります。TVをつけると50デシベル、音楽が流れている環境で80くらい、ピアノを演奏して110くらいですね。

 一方ヘルツは、車のエンジン音は低く100ヘルツくらい、モスキート音と呼ばれる蚊の羽音のようなあの高音は2万ヘルツくらいです。女性や子供の高い声は1000~2000、低い男性の声で500くらいです。なお、防音対策をしやすいのは「より高い音」です。低い音ほど、防音は難しくなります。

――ピアリビングさんのお客さんは、どうやった音で悩まれていることが多いですか?

梶原 都内の方ですとやはり車の音ですね。環七、環八などの大型幹線道路沿いに住まれていて、車の音に悩まされている方は多いです。走行音が響くトラックは道が空いている夜中や朝方の運行も多いですから。あと救急病院の近くに住んでいる方で、夜中の救急車のサイレンがうるさくて困られている、というケースもあります。

――本当に「気になる音」って、人それぞれですよね。私は車の走行音はほとんど気になりませんが、人の声はわずかでも気になって目が覚めてしまいます。

梶原 「人の声」が苦手な方は多いですね。当社のショールームでも防音カーテンなどを引いた奥でさまざまな音や声を流し、防音効果を体験していただいています。

 カーテンの向こうで音楽を流すと「カーテンがあると気にならないほど小さくなった」と言われる方が多いんです。一方で、人の話し声は一度その人にとって「嫌な声、うるさい声」と聞こえてしまうと、カーテンである程度の防音効果が出ていても「気になる」という感覚が残る方が少なくありません。

 * *

 原稿中編では手ごろな値段でも購入できる防音対策アイテム「防音カーテン」について引き続き室水氏、梶原氏に話を伺う。取材から「防音カーテンを買ってみたけれど効かない」という人には、効かない理由があることが分かっている。次回も静かに寝たい方は必見だ。

(文/石徹白未亜 [https://itoshiromia.com/])

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モラハラ夫だった僕がそれに気づくまで――解決に向けた手掛かり(前編)

 農林水産省の元事務次官の熊澤英昭容疑者が44歳の長男を殺害した事件では、息子による家族への暴力が背景にあったと報道されている。悲惨なDV、虐待のニュースは後を絶たない。また、配偶者からのモラハラで苦しんでいる家庭は多いはずだ。しかし、その時「加害者側」は何を考えているのだろうか? モラハラ夫として妻に去られた経験から回復し、現在は日本家族再生センターでカウンセラーとして被害者、加害者双方の支援活動を行っており『DVはなおる 続』(ジャパンマシニスト社・味沢道明著)の共著者でもある中村カズノリ氏に話を聞く。今回のテーマは「解決に向けた手掛かり」について。 

*これまでのインタビューはこちらから(1) (2)

 

依存対象を分散させる――依存力スカウターを意識する

――2回にわたって加害者当事者の頭の中について伺っており、特徴として「頭の中は地雷がいっぱいで、自分を守るために相手を攻撃してしまうこと」や「家族、家庭願望が人一倍強く、そればかりに依存してしまうこと」などがありました。

 解決策について今回は伺っていきたいと思います。

中村カズノリ氏(以下、中村) まずは「家族、家庭願望が人一倍強く、そればかりに依存してしまうこと」への解決法ですが、依存対象は複数あった方がいいですね。一つがダメになっても他がありますから。依存対象を一つに寄せすぎるのは、なんであれ危険です。

――依存対象をどう散らしていけばいいでしょうか?

中村 依存の対象は人でなくてもいいんですよね。仕事でも趣味でもいいし、それこそオタク趣味のように、フィクション作品やキャラクターに向けてもいいんです。SNSでもいいですし。

 自分の中で「依存力」を数値化してみるといいんです。それこそ『ドラゴンボール』のスカウター的な。依存力が100 万あって、それを家族だけに全部ぶつけてしまったら、ぶつけられた方はきついですよね。そしてぶつける方とて、依存する対象がいなくなってしまったらその行き場のない感情が負の感情として自分の中に溜まっていってしまいます。

――加害者も被害者も仕事をしたり、家族以外の交友関係や趣味があったりと「家族の構成員として以外の自分」がすでにいるはずなのに、そこに関心が持てず「家族であること」ばかり考えてしまう、というのが問題なのかもしれませんね。

 

 

自己肯定と自己受容を養うのは「おしゃべり」

中村 次に「頭の中は地雷がいっぱいで、自分を守るために相手を攻撃してしまうこと」の対策についてです。

 これに効くのは、日常のたわいもないおしゃべり、雑談だと思います。

――「おしゃべり」とは、ちょっと意外ですね。

中村 私は「自分も相手も尊重するコミュニケーション」に慣れていませんでした。もちろん頭では、そういうコミュニケーションが理想的であることは分かっているんです。でもできなかった。原家族(※自分が育った家族)が厳しく、そういった体験をしてこなかったんです。

 野球のバットをただやみくもに振るだけではボールに当たらないですよね。当てるにはキレイなフォームで素振りを繰り返して、習得する必要がある。私の場合「人とのコミュニケーション」という分野において、ずっと間違ったフォームで素振りをし続けてきたんです。

――スポーツなら学校の授業で、クラス全員で同じ競技をやるので、自分がどのくらいうまいか下手なのか把握できますよね。一方で家庭環境って閉ざされていますから、自分の育った家庭のおかしさってなかなか気づけないですね。

中村 はい。私自身人とのコミュニケーションを学べたのが、カウンセリングのグループワークを通じてでした。おしゃべりはコミュニケーションの基本、「素振り」なんです。

――カウンセリングのグループワークではどういったことを話すのですか?

中村 グループワークにはいくつかのルールがあります。まず自分自身の体験を語ることです。一般論や他人のことを話しても仕方ないですし。また、内容は何を話しても良くて、どエライ下ネタでもいいし、「あいつを殺したいくらい嫌いだ」でもいいんです。

――家族の話題だけではないんですね。

中村 そうなんです。お昼何食べた? とか、むしろ雑談がいいんです。雑談という形でコミュニケーションの正しいフォームの素振りをしていくんです。

 

話したくないことを「今は話したくない」という自由

中村 グループワークのルールには「話したくないことは話さなくていい」というものもあります。あるテーマについて話をしたくない時は、この話は自分にはしんどいのでパス、ということもできます。

 地雷が多い人の特徴として、地雷を他人に踏まれそうになったときに、嫌なのに、それを断れないんです。「そのことは話したくない」と言えない。嫌な話題を振られて、断れずイライラを溜めていく。

――いじめ、モラハラ、パワハラ、セクハラなんてまさにそうですよね。大なり小なり、したくない話題を振られ、上手な対処ができず、自己嫌悪や苛立ちを抱えている人など、ゴマンといるのではと思います。

中村 そういったシチュエーションで、適切に自分を守ることができるかどうかですよね。

 第1回で、DV は攻撃ではなく防衛だとお話ししました。嫌なことを言ってくる相手に対しては防衛をする必要はあるんです。ただそれを「暴力や暴言」で解消するのか「このことは話したくない」などの相手を尊重した平和的なやり方で解消できるかで、まったく結果は変わってきますよね。

 

「怒ってはいけない」が逆効果な理由

――防衛の「手段」が変わるということで、防衛する必要自体はあるということですね。

中村 そうなんです。嫌なことを言われて腹が立っているのに「怒ってはいけない、怒るのはダメだ」と自分に言い聞かせるのは無茶です。

 怒りって、2次感情なんです。怒りのもとになる感情があります。寂しい、悔しい、憎らしい、妬ましい、悲しい……。その感情が自分を押しつぶすのを守るために怒りにして外に出すんです。

 ですので「怒っちゃいけない」では、フタをし続けた感情がいつか爆発してしまいます。怒りの1次感情に目を向けることです。今なぜ自分はイライラしているんだろうと自分を見つめる。それがわかれば怒りの条件が揃わないようにすることもできますよね。

 

 

おしゃべりを通じて、過去が変わる

――嫌なことがあったとき、世間話などのささやかなおしゃべりで気持ちが少し和らぐことってありますよね。

中村 おしゃべりには効能があります。内容は天気の話とか他愛のないことでいいんです。

 ただおしゃべりのポイントとして「自分の思ってもいないようなこと」を話さないことですね。自分の思っていることとしゃべってることがずれていくと自己不一致が起きてきてしまうので。

――しかし大人で、特に職場なら、ある程度本音と建前の使い分けは宿命ですよね。

中村 はい。だからこそ、思ってもいないようなことを話さずに済む「気楽なおしゃべり」の場は大人ほど大切です。

――今この流れで思い出したんですが、冬の終わりにちょっと気難しい人と歩いていた時に、今日はあったかいですねと話したら「そんなにあったかいと思わない」とぶっきらぼうに返され、それすら否定かと、もや~っとしたのを思い出しました。でも今ここで、この話をして、それを聞いてもらうことで、なんだか成仏できた感じはあります。笑い話になったというか。

中村 それがまさにおしゃべりの効能です。会話を通じ、過去のモヤモヤが「成仏」するんです。過去そのものは変わりませんが、自分が捉える過去の意味づけが変わるんです。それが傷が癒えるということなんですよね。

――「過去と他人は変えられない」的格言がありますけど、「過去の意味付け」は変えられるんですね。しかも、何も本人に「あのときは傷ついた!」とか問いたださなくても、他の人と話すことで成仏させられるというのは希望のある話ですね。

中村 カウンセリングはまさにそういう作業ですね。そういった作業を通じ、これからの自分の物事の受け取り方も変わってきます。心地いいコミュニケーションができるようになり、自ずと問題も起きにくくなってきます。

 私の場合、雑談でのコミュニケーションを通じ、“何を言っても大丈夫”と受け入れてくれる環境で自己肯定と自己受容を回復させることによって、頭の中の地雷の数を減らしていくことができました。

 * *

 DV、虐待、モラハラの処方箋の1つは「おしゃべり」。気軽にくつろいだ雰囲気の下でのおしゃべりは人を和やかに幸せにする。しかし、気軽なおしゃべりができる相手がいないから困っているのだという人も多いはずだ。最終回となる第4回では、引き続き解決のための手がかり編。中村氏に「おしゃべり」のコツについて聞いていく。

(文/石徹白未亜 [https://itoshiromia.com/])

 

 

◆石徹白未亜の過去記事はこちらから◆

 

 

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モラハラ夫だった僕がそれに気づくまで――「加害者と被害者の共通点」

 農林水産省の元事務次官の熊澤英昭容疑者が44歳の長男を殺害した事件では、息子による家族への暴力が背景にあったと報道されている。悲惨なDV、虐待のニュースは後を絶たない。また、配偶者からのモラハラで苦しんでいる家庭は多いはずだ。しかし、その時「加害者側」は何を考えているのだろうか? モラハラ夫として妻に去られた経験から回復し、現在は日本家族再生センターでカウンセラーとして被害者、加害者双方の支援活動を行っており『DVはなおる 続』(ジャパンマシニスト社・味沢道明著)の共著者でもある中村カズノリ氏に話を聞く。今回のテーマは「加害者と被害者の共通点」について。 

*前回のインタビューはこちらから

頭の中が地雷でいっぱいになってしまう理由

――第1回では、加害者の頭の中は「地雷」まみれだと伺いました。地雷がまったくない人などほとんどいないですが「地雷まみれ」になってしまったら生きにくいですよね。そうなってしまう背景はどこにあるのでしょうか。

中村カズノリ氏(以下、中村) 自己受容と自己肯定の低さがあると思います。私の定義ですが「自己受容」とは自分のだめな部分も含めて「自分はそれでOK」と受け入れること、「自己肯定」は自分の良い部分を認めて自分の承認欲求を満たすことになります。

 ただ、原家族(※最初に育った家族)でのコミュニケーションで自分はこれでいい、という自己受容や自己肯定が育まれないと「自分が誰にも認められないんじゃないか」という不安が残ったままになります。

 それが地雷という形になったり、また、地雷を踏まれたら傷を負うから、防衛のために相手を必要以上に攻撃をしてしまうんです。

――「不安」が「地雷」になるんですね。しかし、原家族に問題のある場合、自分がその問題を次の家庭で継承してしまう連鎖を断ち切るのはなかなか難しそうですね。

中村 はい。そもそも自分の家庭の問題を、問題だと気づけるのも難しいですよね。いろいろな家庭を経験しないと、自分の育った家庭のおかしさに気づけませんから。他の家族と触れ合う機会などがあればいいのでしょうけれど、そういう機会も減ってきていますよね。

壊れた家庭の加害者、被害者の「結婚、家庭願望」は人一倍強い

中村 僕の場合は、原家族が厳しくしんどい場所でした。ですが、自分の中で「家族は大事なもの」という価値観はとても強かったんです。「男は家庭を作って維持してなんぼだ」という気持ちが強くありました。だから元奥さんに逃げられたときはショックでした。家庭が壊れてしまったと。

――『DVはなおる 続』を読んでいて、中村さん同様に、加害当事者は意外なくらい「家庭」や「結婚生活」への思い入れ、こだわり、憧れが強いように感じました。

 DVや虐待やモラハラで家庭を壊しているわりに、結婚や家庭への憧れがむしろ人一倍強いんですよね。結婚しないとダメ、独身でいる選択肢なんて信じられないというか。

中村 それも結局「家庭を作って認められたい」ということなのでしょうね。

――根深いですね。

 同書では被害者側の手記もありますが、被害者側にも似たものを感じます。「家族」への気持ちやこだわりが人一倍強く、読んでいる側としては逃げればいいのにと思ってしまうような壮絶な状況でも留まってしまう。

中村 はい。心の中で「家族」に依存する比重が高すぎるという点で、加害者と被害者は似ています。家族への依存が強すぎるので、ほかに行けないというか、そもそも家族以外の選択肢がないんです。

――中村さんと私は同い年です(1980年生まれ)。ですので、中村さんの話す「家庭と男と責任感と」という感じは、少し古風な印象を受けました。

中村 「男らしさ」へのこだわりが強かったんですよね。実際は全然男らしくなかったのですが。

――一方で「男らしさ」へのこだわりは私たちより10年くらい若くなるとさらに薄れていっていると見ていて感じます。

中村 10歳下くらいから全然違ってきますよね。そういった「世代特有の家庭観」もあります。ですが、その人たちも「親の家庭観」を引きずりますから、一概に皆新しい価値観というわけでもないですね。

 さらに「親の世代特有の家庭観」も子どもは引きずります。例えば今30歳の男性も、彼の父親が若い時に生まれた子なのか、年を取ってからできた子供なのかでも、その彼の持つ家庭観のベースは変わっていきます。

* * 

 2回にわたって加害者側の心の動きについて解説してきた。次回からは解決に向けた手掛かりを引き続き中村氏に伺う。

(文/石徹白未亜 [https://itoshiromia.com/])

 

◆石徹白未亜の過去記事はこちらから◆

 

 

 

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モラハラ夫だった僕がそれに気づくまで――「加害者の共通点」とは

 農林水産省の元事務次官の熊澤英昭容疑者が44歳の長男を殺害した事件では、息子による家族への暴力が背景にあったと報道されている。悲惨なDV、虐待のニュースは後を絶たない。また、配偶者からのモラハラで苦しんでいる家庭は多いはずだ。しかし、その時「加害者側」は何を考えているのだろうか? モラハラ夫として妻に去られた経験から回復し、現在は日本家族再生センターでカウンセラーとして被害者、加害者双方の支援活動を行っており『DVはなおる 続』(ジャパンマシニスト社・味沢道明著)の共著者でもある中村カズノリ氏に話を聞く。今回のテーマは「加害者の共通点」について。

 

歯ブラシを濡らさない妻が気に食わない

――中村さんはモラハラの加害側の当事者でしたが、自覚はあったのでしょうか。

中村カズノリ氏(以下、中村)気づきながらも気づかないふりをしていた、という感じでした。危ないな、というのは自分の中で感じつつも出すことなんてできないし、それで周りに変な目で見られたくないと。

――交際の中で、もともと自分にそういう傾向があると思ったことはありますか?

中村 ありました。異常に嫉妬したりとか。相手の行動や価値観でおかしいと思うところは直すように言ったりとか。

――例えば相手のどういったことを直していましたか?

中村 歯磨きをする前に歯ブラシを僕は濡らしているんですが、元奥さんが濡らさないので、「なんで濡らさないの、おかしくない?」と。「おかしいだろ!」というきつい言い方ではないですが。自分と同じじゃないのが耐えられなくて。

――歯ブラシを濡らした方が歯磨き粉が泡立っていいだろうと。

中村 そうやって理屈っぽく言っていましたね。そういったことがほかにも広がっていきました。

――日常の箸の上げ方、下ろし方まで気になっていくと。相手にしてみたら勘弁してほしいですよね。歯ぐらい好きに磨かせろと。

中村 そういう日々が続くと向こうだって僕に対し険悪になっていきますよね。それを僕も察知して悪循環が続き、相手が何を話しても受け入れられなくなっていってしまったんです。

 どんどん歯止めが利かなくなり、最終的には感情に任せ、家の物を元奥さんの前で壊してしまいました。そこで元奥さんが出て行って、それでようやく、自分のモラハラに気づいたんです。

――物を壊したのはそのときが初めてでしたか?

中村 実際に壊したのは初めてでした。ですがそれ以前にも元奥さんの前で座布団を壁に投げつけたりとかはしていましたね。

――今の中村さんのお話や、『DVはなおる 続』内の加害者側の手記を見る長年家族に対しDV、虐待、モラハラをしている側の人たちにも共通しますが、自身の加害性に気づくのが「配偶者や子どもが家を出て行ってから」なんですよね。

 そうまでしないと気が付けないのかと、ぞっとしました。そうなると被害者側としては、我慢するだけ損だなと。

中村 そう思います。

 

虐待、DV、モラハラは「攻撃」ではなく「防衛」

――今の「歯ブラシ」の件もそうですが、本書の加害者の人たちの手記を見ると、自分たちは相手を「攻撃」しているのではなく、相手が不快なことをしているからそれを「防衛」していた、という主張が共通していましたね。

中村 はい。加害側にしてみればDVや虐待やモラハラは「攻撃」ではなく自分の心を守るための「防衛」なんです。

――怒らせるお前が悪いのだと。

 でも一方で、怒っているときに「怒らせるお前が悪い」という感情は、多かれ少なかれ誰でも持っている感覚ですよね。

中村 そうなんです。そこのセーフとアウトになるはっきりとした境界線はありません。条件がそろうことで攻撃力が上がってしまう。そのトリガーは人によってさまざまです。

――いわゆる「地雷」ですね。

――ほかのことで何か言われても受け流せるけど、この分野で何か言われたりからかわれたりしようものなら許せないのが「地雷」ですよね。

 生い立ち、容姿、学歴、優秀な兄弟と比較されること、健康面の問題、過去の大きな失敗や後悔、どうしてもできないことなど、地雷は人によりさまざまですが、大抵の人は多かれ少なかれありますよね。

中村 はい。ただ、加害の当事者は「地雷」が人一倍多いのだと思います。地雷は触れられたくない部分であり、自分で自分を認められていない部分とも言えます。

 先ほどの「歯ブラシに水をつけないなんて」も、地雷になってしまうんです。

――「歯ブラシに水をつけない」が「生い立ちを否定される」レベルでいらだつとなると、毎日カリカリ、イライラすることだらけで、加害側も相当生きにくいですね。

中村 「歯ブラシに水をつけない」は地雷のサイズとしては小さいのですが、一度地雷に着火すると、ほかの地雷を誘発してしまうんです。「そういえばあのときもああだった! あのときも! ムカつく!」と。そしてどんどん一人で炎上していってしまう。

――しかし度合いに差はあれど、人に腹が立った時に「あの人そういえばあのときもああだった、こうだった、やっぱりムカつく!」となるのって、結構普通ですよね。

中村 そうなんです。なので、DV、虐待、モラハラの加害者とそうでない人の間には、別に明らかな境界線があるわけではなく、程度の問題なんです。よって、何かのきっかけで「そちら側」に行ってしまってもおかしくない、地続きなものだと思います。

 

自分の地雷をあえて自分で踏んでしまうのはなぜ?

中村 そして、頭の中が地雷だらけな人は、自分の地雷を自分で踏み抜いて傷つく回数も多くなります。

 あくまで一例ですが「引きこもりの人は社会と接点を持っていなくて危ない」と言われがちですが、本人が快適に暮らせていれば別に問題はないんじゃないでしょうか。でも、それを引きこもっている本人が一番気にしてしまう。

――そこで本人が「このままじゃ自分はダメだ」と自分で自分を追い込み、Googleで「引きこもり ダメ」と調べ出し、情け容赦ない意見を見て落ち込んで、ますます気持ちは荒んで……というような。

中村 はい。それが自分で自分の地雷を踏むということです。 地雷が多いと、意識的、無意識的にもこういった選択をしてしまいがちになります。

――でも、何も引きこもりの人に限らず、多くの人が、自分の地雷を自分で踏んでいますよね。結婚しなきゃダメ、友達がいないとダメ、いいねをもっともらえないとダメ、痩せなきゃダメ、正社員にならないとダメ、ちゃんとしてないとダメだとか……。何もしなければそれなりに快適だった場所を、自分であえて不快にしてしまっている人は少なくないと思います。

 * *

「加害者側の頭の中は地雷でいっぱい」。冒頭で触れた元事務次官の父親に殺された44歳の長男も、SNSで非常に他者に攻撃的だったという報道もある。

 なにもこの長男に限らず、SNSでいつも怒っている人など普通によく見かける。そういう人たちの頭の中も、おそらく地雷まみれなのだろう。

 本人にしてみれば好きで怒っているのではなく、不愉快な現実や、時として現実ですらなく、自分の頭の中で作ったイメージという仮想敵に怒らされ続けている「被害者」なのだ。毎日怒り散らす本人もつらいだろうが、そういう人の周りにいる側とてたまったものではない。

 第2回では「DV加害者と被害者の共通点」について引き続き中村氏に問う。

(文/石徹白未亜 [https://itoshiromia.com/])

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ヤマハの楽器用『防音室』は「寝室」として使えるのか? 公式に聞いてみた! 【連載:静かに寝たいあなたに】の画像2★好評発売中!!
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ヤマハの楽器用『防音室』は「寝室」として使えるのか? 公式に聞いてみた! 【連載:静かに寝たいあなたに】

「幹線道路が近い」「居酒屋やコンビニが家の目の前にある」「隣人や上階、階下の人間がうるさい」など、騒音での睡眠不足に悩んでいる人は少なくない。筆者も耳栓の欠かせない生活を送っているが、できれば耳栓なしでぐっすり眠りたい。そこで目を付けたのが楽器メーカー、ヤマハが展開する「防音室」だ。そもそも器楽演奏のための防音室なのだが、静かにぐっすり眠りたい人も使えるものなのだろうか――? 公式に聞いてみた。

 

器楽演奏用の防音室は「安眠用」に使えるのか?

――御社の提供する防音室の特徴ついて教えてください。

ヤマハ 当社の提供する防音室は、大きく分けてレッスン室やシアタールームまで、部屋の形や用途に応じて設計できる「自由設計」タイプと、0.8畳から4.3畳までの「定型タイプ」があります。0.8畳の場合、声楽やクラリネットなどの管楽器、2.0畳ならアップライト型のピアノの練習に、3.0畳以上ならグランドピアノも収容できます。設置も数時間程度で行えます。

 当社防音室のこだわりは、音場(おんじょう。音波が届き、音が広がる空間のこと)設計です。一般的な防音室は音を閉じ込めるという性質上、音が外に出ていかず部屋の中で反射を繰り返しますが、音場が整えられていない空間の場合、反射を繰り返した音同士が干渉しあい、不快な響きとなってしまいます。

 当社の防音室は音響調整部材を使用し、音の響きを最適にコントロールすることで、人の声や楽器の音が自然な美しい状態で聴こえる空間を提供しています。

――声や音の心地よい響きは、楽器の演奏以外にも昨今の「歌ってみた」「ゲーム実況」などにも必要とされる要素でしょうね。「安眠時の防音効果」についてはいかがでしょうか。

ヤマハ 結論から申しますと、当社の防音室は主に楽器演奏、歌唱、シアタールームなど室内で音を発する利用シーンを想定しています。

――外からの音をシャットアウトするというよりは、内からの音を外に出さないという目的で作られた防音室なのですね。

ヤマハ ただ、一定程度の遮音性能も有しているため、防音室を睡眠スペースとして利用されている方もいらっしゃいます。ですが製品としての主目的ではなく、1つの活用事例という認識ですね。ユーザーの利用割合としては、約9割が楽器演奏、約1割がそれ以外、というイメージです。最近ではシェアオフィスにおけるワーキングスペースとしての需要も増えています。

――もし睡眠用で使う場合、少なくとも1.5畳はほしいところですが、御社ホームページを見ると1.5畳は73万円からとありますね(製品名AMDB15H、組み立て費、輸送費等別途)。眠るために導入するにはかなり勇気のいる金額です。

ヤマハ ヤマハグループのヤマハミュージックジャパンでは『音レント』という楽器と防音室のレンタルサービスも行っています。新品、もしくはより低価格の中古の防音室をレンタルで提供しており、まずはご自宅で実際にお試しいただき、お気に召していただいた場合はレンタル中にそのままその防音室を購入することもできます。

――そのまま購入できるのはいいですね。自宅に導入する前に、まずは実際の防音室に入ってみたい場合はどうしたらいいでしょうか?

ヤマハ 全国のヤマハや楽器店で、防音室の体験会、相談会も随時行っています。当社ホームページで日程など公開しておりますので、どうぞご相談いただければと思います。

 * * *

「73万から」のお値段で失敗は決して許されないため、レンタルができるというのは心強い。当連載では今後も、静かにぐっすり眠れるための各種アイテムの探求を進めていく。「これぞ」というものがあればぜひご連絡いただければと思う。

(文/石徹白未亜 [https://itoshiromia.com/])

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器楽演奏用の防音室は「安眠用」に使えるのか?

――御社の提供する防音室の特徴ついて教えてください。

ヤマハ 当社の提供する防音室は、大きく分けてレッスン室やシアタールームまで、部屋の形や用途に応じて設計できる「自由設計」タイプと、0.8畳から4.3畳までの「定型タイプ」があります。0.8畳の場合、声楽やクラリネットなどの管楽器、2.0畳ならアップライト型のピアノの練習に、3.0畳以上ならグランドピアノも収容できます。設置も数時間程度で行えます。

 当社防音室のこだわりは、音場(おんじょう。音波が届き、音が広がる空間のこと)設計です。一般的な防音室は音を閉じ込めるという性質上、音が外に出ていかず部屋の中で反射を繰り返しますが、音場が整えられていない空間の場合、反射を繰り返した音同士が干渉しあい、不快な響きとなってしまいます。

 当社の防音室は音響調整部材を使用し、音の響きを最適にコントロールすることで、人の声や楽器の音が自然な美しい状態で聴こえる空間を提供しています。

――声や音の心地よい響きは、楽器の演奏以外にも昨今の「歌ってみた」「ゲーム実況」などにも必要とされる要素でしょうね。「安眠時の防音効果」についてはいかがでしょうか。

ヤマハ 結論から申しますと、当社の防音室は主に楽器演奏、歌唱、シアタールームなど室内で音を発する利用シーンを想定しています。

――外からの音をシャットアウトするというよりは、内からの音を外に出さないという目的で作られた防音室なのですね。

ヤマハ ただ、一定程度の遮音性能も有しているため、防音室を睡眠スペースとして利用されている方もいらっしゃいます。ですが製品としての主目的ではなく、1つの活用事例という認識ですね。ユーザーの利用割合としては、約9割が楽器演奏、約1割がそれ以外、というイメージです。最近ではシェアオフィスにおけるワーキングスペースとしての需要も増えています。

――もし睡眠用で使う場合、少なくとも1.5畳はほしいところですが、御社ホームページを見ると1.5畳は73万円からとありますね(製品名AMDB15H、組み立て費、輸送費等別途)。眠るために導入するにはかなり勇気のいる金額です。

ヤマハ ヤマハグループのヤマハミュージックジャパンでは『音レント』という楽器と防音室のレンタルサービスも行っています。新品、もしくはより低価格の中古の防音室をレンタルで提供しており、まずはご自宅で実際にお試しいただき、お気に召していただいた場合はレンタル中にそのままその防音室を購入することもできます。

――そのまま購入できるのはいいですね。自宅に導入する前に、まずは実際の防音室に入ってみたい場合はどうしたらいいでしょうか?

ヤマハ 全国のヤマハや楽器店で、防音室の体験会、相談会も随時行っています。当社ホームページで日程など公開しておりますので、どうぞご相談いただければと思います。

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「73万から」のお値段で失敗は決して許されないため、レンタルができるというのは心強い。当連載では今後も、静かにぐっすり眠れるための各種アイテムの探求を進めていく。「これぞ」というものがあればぜひご連絡いただければと思う。

(文/石徹白未亜 [https://itoshiromia.com/])

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チケット転売の舞台となる売買サイトやTwitterはどうなる? チケット転売規制法を弁護士がスッキリ解説!

 6月に施行される「チケット転売規制法」を、弁護士法人ALG&Associates山岸純弁護士から、2回にわたり解説してもらっている。

【前編】チケット転売規制法は「高額チケットに苦しむ国民救済」が目的じゃない! 弁護士がスッキリ解説
【中編】「当選権利は対象?」「サイン会は?」「ディズニーランドは?」チケット転売規制法を弁護士がスッキリ解説!

 最終回となる今回は、高額転売の舞台にチケット転売サイトやtwitterやメルカリといったサイトは罪になるのか? という点や、一部チケットではすでにおなじみの「チケットの記名者以外は入場無効」という文言の法的な根拠について伺う。

 

チケット転売の「プラットフォーム」は罪に問われる?

――高額転売が問題となったチケット転売サイト「チケットキャンプ」は2018年に閉鎖されましたが、類似サイトは今だ存在します。こういったサービスは、法律施行後は存在しえないのでしょうか?

山岸純弁護士(以下、山岸) こういったサイトは高額転売の場所を提供しているだけなんですよね。 チケット転売規制法を見ると、不正転売をしてはいけない、そして不正転売を目的に買ってはいけないとありますが「場所の提供者」は規制の対象になっていません。

 これはソープランドの構造に似ているんです。ソープランドの経営者は売春に違反していません。なぜなら、あそこでお客さんと女性が「たまたま」恋愛関係になり、たまたまそこに金銭が発生しているという構図なんです。

 こういったチケット転売サイトが「どうしてもコンサートに行きたい人とコンサートに行けなくなってしまった人をマッチングするサービスです」ときれいにうたっていれば、ぐうの音も出ないわけです。ただ、もし「儲けたい人集まれ! 高額転売可!」と記載していればアウトでしょう。これでは犯罪を教唆しており、教唆犯になります。

 ただそこは当然、うまくやるんでしょうね。どこの会社も「当社は転売目的の利用を禁止しています」とか「転売をして利益を得ようと思っている利用者は当社の規則により排除します」と規約に書くのでしょう。 そこで何かあったとしても「売り手がたまたま行けなくなったからと言っている以上、うちとしてはこれ以上突っ込めない」と言えばもう、どうしようもない。これはメルカリなどのフリマサイトでも同じことが言えます。

――歯がゆいですね。

山岸 でも、このあたりはAIの活躍に期待できます。AIが「この人は1ヶ月に5回も「どうしても行けなくなってしまった」と出品している。不自然だ」と自動的に出品停止にする。実際こういう風に動いていくはずなので、改善されていくとは思いますよ。

――Twitterでもチケットを買いたい、売りたいというやりとりをよく見ますが、Twitter社は問題にならないのでしょうか。

山岸 おそらく、利用約款などでこういう投稿を禁止したりしているのだと思いますよ。「当社はしっかりと取り締まっています」とアピールするためにね。

――ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下、USJ)の入場チケットは営利目的の有無にかかわらず、すべての転売を禁止しておりキャンセルも認めていません。それに対し、NPO法人消費者支援機構関西が規約改善を申し入れています。

 USJの場合、中編(記事はこちらから)で説明頂いた通り、遊戯施設であり今回のチケット転売規制法には該当しませんよね。そうなると、USJが掲げる転売禁止などの規制は、どこまで効力のあるものなのでしょうか。

山岸 そのチケットに名前が書いてある場合、法律上それは「記名式債券」と呼ばれます。

 チケットとは、あることができる権利を紙の上にのせたものです。「切符」がそうですよね。130円区間を乗車することができる権利が紙きれに乗っかっているんです。 切符には名前が書いていませんよね。切符を持ってる人は誰でも130円分の区間に乗れます。

 一方で、記名式債権は「この書かれた名前の人のみに、うちはサービスを提供します」という債権です。「定期券」がそうですよね。

――確かに、ほかの人の定期券は使えないですよね。

山岸 鉄道会社の定期券は記名者以外は使えないという条件のもと発行しています。同様に、USJがチケットに「入場券・山岸純」と記載している場合、私しか使ってはいけないでしょうね。ただ、私以外の人がそのチケットを使って入ろうとする場合、最終的に入場を拒否するかどうかは施設側の判断になります。

――なるほど。6月に施行されるチケット転売規制法以外に、既存の「記名式債券のルール」もあるんですね。

 遊戯施設のようなチケット転売規制法の対象ではないチケットでも、記名されたチケットならば「記名式債券のルール」に基づいて、チケットの名義と入場者が異なると施設側から入場を拒まれる可能性があると。

山岸 はい。あとは施設側の判断によることになります。

 最後に、繰り返しになりますが、今回の「チケット転売規制法」は直接的には興行主のために作られた法律になります。高額でしかチケットを入手できず、競合興行先へファンが流れることを防止することが主目的です。

 ただ誤解しないでいただきたいのは、広い目で見れば、すべての法律は国民のために作られている、という点です。チケットが高額で出回らないようにすれば、今チケットを高額でしか購入できず困っている人だけでなく、将来あるアイドルのファンになりチケットを購入しようとしたものの、定価で買えず、転売価格が高すぎて購入できない、という人にとっても助けになりますよね。今この時だけではなく、法律の対象は「広くあまねく国民のため」なのです。

(文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/])