いとうまい子、弁護士からの”痴漢被害”をブチギレ告発で騒然「お店を出たらお尻を触ってきた」

 タレントのいとうまい子が 24日、自身のツイッターで、”痴漢被害”を訴えた。

「超超超、超~気持ち悪い弁護士さんとのご飯会だったよー ベタベタ触るのやめて下さい‼️と、訴えてるのに『それは触って欲しいという意味だね♪』と脳内変換するのは何かの病気ですか?お店を出たらお尻を触ってきたので、これは痴漢行為ですよ!と強く言ってタクシーに乗せて追い返した」

 現在、54歳のいとうは1982年に初代ミスマガジンに選ばれ、84年の大映テレビ制作のドラマ『不良少女とよばれて』(TBS系)のヒロインでブレイク。最近では49歳時には初のビキニ姿でのグラビアを披露するなど、その若々しすぎる美貌がたびたび話題になったものだった。

「いとうの被害ツイートに対し、ファンからは『女性をなんだとおもってるんだ!』『弁護士会に訴えていいと思います!』との声が殺到。これに対して、いとうも『弁護士さんは、ギリギリを知っているので、ある意味タチが悪いですね』『そんな所に言うより、何かあれば公開処刑です』とコメントし、その弁護士とは二度と会わないと宣言しています」(芸能ライター)

 そのいとうは、過去にもテレビ番組で痴漢体験を告白したことがある。

「彼女のエピソードで衝撃だったのが、『痴漢に2000回くらいあったことがある』というもの。なんでも、彼女は中学、高校の学生時代はほぼ毎日痴漢にあっていたといい、中には下着の中に手を入れてくる男や、満員電車で“握ら”され、手の中に……ということもあったとか。また、別の番組では、催眠術により痴漢の呪縛から解き放たれるという企画に挑み、痴漢されていた過去にタイムスリップした彼女は『周りの大人たちは誰も助けてくれなかった』『(痴漢に言いたかったことは?と催眠術師に聞かれ)止めてください!』と涙ながらに絶叫したこともありました」(テレビ誌ライター)

 この弁護士も、いとうが番組で痴漢エピソードを語っていたことを知っていて、“イケる”と脳内変換したのかもしれないが……公開処刑は免れない?

「触られるのは嫌だ」と言う権利はある! “痴漢抑止バッジ”の効果と、その後

 「痴漢は犯罪です」「私たちは泣き寝入りしません」そんなフレーズが書かれたバッジ「痴漢抑止バッジ」。女子高生が考案した「痴漢抑止カード」をもとに、「かわいくてつけやすいものを」とデザインを公募し、2016年に誕生した。その後、多くのメディアで取り上げられた痴漢抑止バッジだが、現在はどれぐらい広まっているのか? なにより効果はあるのか? 性犯罪防止・抑止のためにバッジの制作や普及を進める「一般社団法人 痴漢抑止活動センター」代表理事の松永弥生さんに話を聞いた。

■共感が広がる一方で、課題も

 松永さんはバッジを普及させるために、防犯キャンペーンなどの無料配布ではなく、流通に乗せたいと考えている。「キャンペーンでは、その時その場にいた人しか入手できません。防犯ブザーのように必要とする人が、いつでも手に入れられるようにしたい」というのが理由だ。営業は未経験だったが、商談会にも参加し、販路を求めた。

 初めての商談会で、イトーヨーカドー津久野店と商談が成立。16年10月に販売がスタートした。バイヤーは、新聞記事で痴漢抑止バッジを知っていたそうだ。17年2月には、別の大手スーパーでも期間限定で関西の10店舗、3月に南海電鉄が運営するコンビニ「アンスリー」20店舗で販売。夏には首都圏にも進出。小田急電鉄と相模鉄道の売店、原宿竹下通りの雑貨店「ハッピーワン」で取り扱いが始まった。18年3月からは東急ハンズあべのキューズモール店で、防犯ブザーと同じ棚で販売されている。

「かつて自分も痴漢被害に遭い、悔しい思いをしたという女性バイヤーさんや、この活動に意義を感じた男性のバイヤーさんが、積極的に上司に掛け合ってくださり、実現しました。駅構内や駅の近くのお店は、特に売れ行きがいいです」

 現在、痴漢抑止バッジは約6000個普及しているそうだ。引き続き、駅ナカ・駅チカ店舗に向けて営業活動を続けているが、バッジを扱ってもらうには大きく分けると2つの課題があるという。

「バッジは利益が出にくい商品なのです。食べ物や消耗品ではないので、次々売れることはありません。また、このバッジは利幅が少ないので、売れたとしても大きな利益にならないのです。特に駅のコンビニは商品がよく売れる立地で、かつ坪数が狭い『激戦区』。坪数に応じて売り上げを上げないといけないので、簡単には置いてもらえません」

 さらに利益の面だけではなく、鉄道系列ならではの事情もあるらしい。

 バッジを紹介したバイヤーさんが関心を持ち、上司に話を上げてくれても、「このバッジを売店で売っていたら、痴漢が多い鉄道だと思われる」と却下されたことがあったという。「三大首都圏は、どの路線も痴漢が多いんですけどね」と松永さんは苦笑する。

「『ほかの鉄道会社と足並みをそろえ、一斉に販売できるなら扱う』という会社もあります。痴漢が減るのは鉄道会社にとっても大きなメリットだと思いますが、ブランディングイメージも大切なのでしょう」

 なかなか順調に進まないバッジの普及。しかし、松永さんは手ごたえを感じているという。

「取扱店舗は増えていますし、警察からの共感も得られ、防犯キャンペーンにバッジを使っていただくこともありました。社会が少しずつ、痴漢抑止バッジを活用する方向に動いていると感じます」

 痴漢抑止活動を立ち上げた15年当初、「やってもいないことで罪に問われる男の方が大変」という否定的な意見もあったという。しかし、バッジを製作する資金調達のために行ったクラウドファンディングでは、協力者の4割が男性、バッジのデザインコンテストの応募者、バッジ購入者も4割が男性。男性支援者から、「被害者も加害者も出したくない」「性犯罪に苦しむ人がいなくなることを願っております」といったメッセージもあったという。

 また、一部のフェミニストから「被害に遭う女の子は悪くないのに、バッジで被害を防止させようとするのは、セカンドレイプにつながる」という指摘もあった。松永さんは一定の理解を示しつつも反論する。

「これまで痴漢やレイプ被害に遭った女性は、警察をはじめ周りの大人や友人から、『暗い道を歩いていたから』『あなたにも隙があった』などと言われてきた。だから、それを思わせるような言動はいけないということなのでしょう。ですが、これから初めて通勤ラッシュの電車に乗って学校に行く女子高生に、電車の中に痴漢がいることや、身の守り方を教えずに送り出すのは危険です」

■9割以上が効果に肯定的な評価

 批判を受けたり、販路拡大に苦戦したりしながらも、痴漢抑止バッジは個人や企業、警察の理解や共感により、徐々に広がりつつある。だが、本当に痴漢を抑止する効果はあるのだろうか?

 松永さんは16年に埼玉県の浦和麗明高校に100個寄贈した際、バッジについての感想をはがきで募り、女子生徒からの回答を集計した。回答した70名の生徒のうち「効果があった」(バッジをつけるまでは痴漢被害に遭っていたが、つけたら被害がなくなった等)と答えた生徒は61.4%、「効果を感じた」(痴漢被害に遭ったことはあるが、最近は被害に遭っておらず、バッジをつけてからもない。バッジをつけると、より安心。電車に乗ると、周りにほかの女性客が立ってくれるといった配慮があった等)と答えた生徒は32.9%と、90%以上の生徒が肯定的な評価をしている。「変化なし」(これまで痴漢に遭ったことがない)は4.3%、「効果がないと思う」(友達がそう言っていた)は1.4%だったそうだ。

 松永さんは、「『バッジをつけていたのに痴漢に遭った』というコメントは、今までのところ届いていません。痴漢抑止バッジには効果があります」と断言する。

■コンテストで痴漢問題を共有

 バッジのデザインは、毎年コンテストを実施し、選ばれた5種類を商品化している。2回目の16年度からは、将来デザイナーを目指す学生を対象とした。これは、「コンテストに参加することで、同世代が痴漢被害に遭っていると知り、自分のデザインで解決する方法を考えてほしい」という狙いがある。自分は男だから関係ない、私は痴漢に遭ったことがないから関係ない――などと他人事として捉えるのではなく、社会の課題として、皆で解決法を考える機会が「痴漢抑止バッジデザインコンテスト」だ。

「私は、『このバッジをつけて、自分を守りなさい』と被害者を突き放すつもりはありません。活動を通じて、10年後の社会を変えていきたいのです。世の中の表現には、すべてデザインの要素があります。ジェンダー意識の高いデザイナーが増えれば、社会に発信される情報の質も変わるでしょう」

 17年度のコンテストには、全国43都道府県とニューヨーク、ソウルから1338作品の応募があった。デザインと共に、活動へのメッセージも寄せられている。「今後は学校との連携も強化して、参加者を増やしていきたい」と松永さんは話す。今年も、8月にコンテストを実施するそうだ。

 松永さんは今後、バッジの普及に加えて、中学生・高校生に対して痴漢から自分の身を守るための教育をしたいとも考えている。

「バッジをつけていても、痴漢に遭う可能性はゼロではありません。バッジが見えないかもしれないし、加害者の視力によっては『私たちは泣き寝入りしません 痴漢は犯罪です』の文字が見えにくい場合もあります。だから、バッジでの痴漢の抑止と、痴漢に遭ってしまった時の対処方法の両方が必要だと考えています」

 そして、バッジの有無にかかわらず、痴漢抑止のために伝えていきたいことがあるという。

「もし電車内で触れるなど、痴漢に遭ったのでは――と感じたら『当たっています。どけてください』と言うように伝えたい。警察から『痴漢です』と大きな声を出すように指導されることがありますが、加害者と周りの2〜3人に聞こえる程度の声で十分です。また、『痴漢です』と言うことは『あなたは犯罪者です』と言うことで、決めつけになってしまうし、『冤罪だ』と主張されると、周りの人も助けづらくなります。でも『当たっている手をどけてほしい』のは事実。これなら『痴漢!』よりは言いやすいですよね」

 確かに相手に面と向かって「痴漢」だと言うのは、冤罪を引き起こすかもしれないと思い、声を上げるのをためらうケースもあるだろう。

「『これは痴漢かな? 偶然、手が当たっただけかな?』と考える必要はありません。加害者はその迷いにつけ込み、どちらとも取れるような触り方をします。それを繰り返しても何も言ってこないとわかったら、下着の中に手を入れてくるなど、エスカレートすることも。その状態になると、怖くて声が出せなくなります。だから、早く声を上げる必要があるのです」

 「どけてください」の一言が言えない理由を、松永さんは教育の不足だと考えている。

「私たちには、嫌な触られ方をしたら『嫌だ』という権利があります。けれど、これまで大人は子どもに、そのルールを伝えてきませんでした。教えなければ、子どもは被害に遭っても『嫌だ』と言えません。特に、子どもが知らない大人に対して言うのは難しいです。将来的には、子どもたちへ『NOを言う権利』を伝えるワークショップを行いたいですね」

 15年に、ひとりの女子高生と彼女を支援する数人の人たちから始まった痴漢抑止活動。バッジで痴漢から被害者を守り、デザインコンテストで問題をシェアする。「性暴力に対してNOと言う」ことに対する理解と共感の輪が、世代や性別、立場を超えて、少しずつ広がっているのが感じられた。
(谷町邦子)

一般社団法人痴漢抑止活動センター

「触られるのは嫌だ」と言う権利はある! “痴漢抑止バッジ”の効果と、その後

 「痴漢は犯罪です」「私たちは泣き寝入りしません」そんなフレーズが書かれたバッジ「痴漢抑止バッジ」。女子高生が考案した「痴漢抑止カード」をもとに、「かわいくてつけやすいものを」とデザインを公募し、2016年に誕生した。その後、多くのメディアで取り上げられた痴漢抑止バッジだが、現在はどれぐらい広まっているのか? なにより効果はあるのか? 性犯罪防止・抑止のためにバッジの制作や普及を進める「一般社団法人 痴漢抑止活動センター」代表理事の松永弥生さんに話を聞いた。

■共感が広がる一方で、課題も

 松永さんはバッジを普及させるために、防犯キャンペーンなどの無料配布ではなく、流通に乗せたいと考えている。「キャンペーンでは、その時その場にいた人しか入手できません。防犯ブザーのように必要とする人が、いつでも手に入れられるようにしたい」というのが理由だ。営業は未経験だったが、商談会にも参加し、販路を求めた。

 初めての商談会で、イトーヨーカドー津久野店と商談が成立。16年10月に販売がスタートした。バイヤーは、新聞記事で痴漢抑止バッジを知っていたそうだ。17年2月には、別の大手スーパーでも期間限定で関西の10店舗、3月に南海電鉄が運営するコンビニ「アンスリー」20店舗で販売。夏には首都圏にも進出。小田急電鉄と相模鉄道の売店、原宿竹下通りの雑貨店「ハッピーワン」で取り扱いが始まった。18年3月からは東急ハンズあべのキューズモール店で、防犯ブザーと同じ棚で販売されている。

「かつて自分も痴漢被害に遭い、悔しい思いをしたという女性バイヤーさんや、この活動に意義を感じた男性のバイヤーさんが、積極的に上司に掛け合ってくださり、実現しました。駅構内や駅の近くのお店は、特に売れ行きがいいです」

 現在、痴漢抑止バッジは約6000個普及しているそうだ。引き続き、駅ナカ・駅チカ店舗に向けて営業活動を続けているが、バッジを扱ってもらうには大きく分けると2つの課題があるという。

「バッジは利益が出にくい商品なのです。食べ物や消耗品ではないので、次々売れることはありません。また、このバッジは利幅が少ないので、売れたとしても大きな利益にならないのです。特に駅のコンビニは商品がよく売れる立地で、かつ坪数が狭い『激戦区』。坪数に応じて売り上げを上げないといけないので、簡単には置いてもらえません」

 さらに利益の面だけではなく、鉄道系列ならではの事情もあるらしい。

 バッジを紹介したバイヤーさんが関心を持ち、上司に話を上げてくれても、「このバッジを売店で売っていたら、痴漢が多い鉄道だと思われる」と却下されたことがあったという。「三大首都圏は、どの路線も痴漢が多いんですけどね」と松永さんは苦笑する。

「『ほかの鉄道会社と足並みをそろえ、一斉に販売できるなら扱う』という会社もあります。痴漢が減るのは鉄道会社にとっても大きなメリットだと思いますが、ブランディングイメージも大切なのでしょう」

 なかなか順調に進まないバッジの普及。しかし、松永さんは手ごたえを感じているという。

「取扱店舗は増えていますし、警察からの共感も得られ、防犯キャンペーンにバッジを使っていただくこともありました。社会が少しずつ、痴漢抑止バッジを活用する方向に動いていると感じます」

 痴漢抑止活動を立ち上げた15年当初、「やってもいないことで罪に問われる男の方が大変」という否定的な意見もあったという。しかし、バッジを製作する資金調達のために行ったクラウドファンディングでは、協力者の4割が男性、バッジのデザインコンテストの応募者、バッジ購入者も4割が男性。男性支援者から、「被害者も加害者も出したくない」「性犯罪に苦しむ人がいなくなることを願っております」といったメッセージもあったという。

 また、一部のフェミニストから「被害に遭う女の子は悪くないのに、バッジで被害を防止させようとするのは、セカンドレイプにつながる」という指摘もあった。松永さんは一定の理解を示しつつも反論する。

「これまで痴漢やレイプ被害に遭った女性は、警察をはじめ周りの大人や友人から、『暗い道を歩いていたから』『あなたにも隙があった』などと言われてきた。だから、それを思わせるような言動はいけないということなのでしょう。ですが、これから初めて通勤ラッシュの電車に乗って学校に行く女子高生に、電車の中に痴漢がいることや、身の守り方を教えずに送り出すのは危険です」

■9割以上が効果に肯定的な評価

 批判を受けたり、販路拡大に苦戦したりしながらも、痴漢抑止バッジは個人や企業、警察の理解や共感により、徐々に広がりつつある。だが、本当に痴漢を抑止する効果はあるのだろうか?

 松永さんは16年に埼玉県の浦和麗明高校に100個寄贈した際、バッジについての感想をはがきで募り、女子生徒からの回答を集計した。回答した70名の生徒のうち「効果があった」(バッジをつけるまでは痴漢被害に遭っていたが、つけたら被害がなくなった等)と答えた生徒は61.4%、「効果を感じた」(痴漢被害に遭ったことはあるが、最近は被害に遭っておらず、バッジをつけてからもない。バッジをつけると、より安心。電車に乗ると、周りにほかの女性客が立ってくれるといった配慮があった等)と答えた生徒は32.9%と、90%以上の生徒が肯定的な評価をしている。「変化なし」(これまで痴漢に遭ったことがない)は4.3%、「効果がないと思う」(友達がそう言っていた)は1.4%だったそうだ。

 松永さんは、「『バッジをつけていたのに痴漢に遭った』というコメントは、今までのところ届いていません。痴漢抑止バッジには効果があります」と断言する。

■コンテストで痴漢問題を共有

 バッジのデザインは、毎年コンテストを実施し、選ばれた5種類を商品化している。2回目の16年度からは、将来デザイナーを目指す学生を対象とした。これは、「コンテストに参加することで、同世代が痴漢被害に遭っていると知り、自分のデザインで解決する方法を考えてほしい」という狙いがある。自分は男だから関係ない、私は痴漢に遭ったことがないから関係ない――などと他人事として捉えるのではなく、社会の課題として、皆で解決法を考える機会が「痴漢抑止バッジデザインコンテスト」だ。

「私は、『このバッジをつけて、自分を守りなさい』と被害者を突き放すつもりはありません。活動を通じて、10年後の社会を変えていきたいのです。世の中の表現には、すべてデザインの要素があります。ジェンダー意識の高いデザイナーが増えれば、社会に発信される情報の質も変わるでしょう」

 17年度のコンテストには、全国43都道府県とニューヨーク、ソウルから1338作品の応募があった。デザインと共に、活動へのメッセージも寄せられている。「今後は学校との連携も強化して、参加者を増やしていきたい」と松永さんは話す。今年も、8月にコンテストを実施するそうだ。

 松永さんは今後、バッジの普及に加えて、中学生・高校生に対して痴漢から自分の身を守るための教育をしたいとも考えている。

「バッジをつけていても、痴漢に遭う可能性はゼロではありません。バッジが見えないかもしれないし、加害者の視力によっては『私たちは泣き寝入りしません 痴漢は犯罪です』の文字が見えにくい場合もあります。だから、バッジでの痴漢の抑止と、痴漢に遭ってしまった時の対処方法の両方が必要だと考えています」

 そして、バッジの有無にかかわらず、痴漢抑止のために伝えていきたいことがあるという。

「もし電車内で触れるなど、痴漢に遭ったのでは――と感じたら『当たっています。どけてください』と言うように伝えたい。警察から『痴漢です』と大きな声を出すように指導されることがありますが、加害者と周りの2〜3人に聞こえる程度の声で十分です。また、『痴漢です』と言うことは『あなたは犯罪者です』と言うことで、決めつけになってしまうし、『冤罪だ』と主張されると、周りの人も助けづらくなります。でも『当たっている手をどけてほしい』のは事実。これなら『痴漢!』よりは言いやすいですよね」

 確かに相手に面と向かって「痴漢」だと言うのは、冤罪を引き起こすかもしれないと思い、声を上げるのをためらうケースもあるだろう。

「『これは痴漢かな? 偶然、手が当たっただけかな?』と考える必要はありません。加害者はその迷いにつけ込み、どちらとも取れるような触り方をします。それを繰り返しても何も言ってこないとわかったら、下着の中に手を入れてくるなど、エスカレートすることも。その状態になると、怖くて声が出せなくなります。だから、早く声を上げる必要があるのです」

 「どけてください」の一言が言えない理由を、松永さんは教育の不足だと考えている。

「私たちには、嫌な触られ方をしたら『嫌だ』という権利があります。けれど、これまで大人は子どもに、そのルールを伝えてきませんでした。教えなければ、子どもは被害に遭っても『嫌だ』と言えません。特に、子どもが知らない大人に対して言うのは難しいです。将来的には、子どもたちへ『NOを言う権利』を伝えるワークショップを行いたいですね」

 15年に、ひとりの女子高生と彼女を支援する数人の人たちから始まった痴漢抑止活動。バッジで痴漢から被害者を守り、デザインコンテストで問題をシェアする。「性暴力に対してNOと言う」ことに対する理解と共感の輪が、世代や性別、立場を超えて、少しずつ広がっているのが感じられた。
(谷町邦子)

一般社団法人痴漢抑止活動センター

「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が起こる理由

 満員電車で起こることの多い痴漢。しかし、痴漢のニュースが報じられるたびに、「冤罪かもしれない」「痴漢を疑われたら人生の終わり」という意見もネット上で飛び交っている。なぜ、これほどまでに痴漢冤罪の話題が持ち上がるのか? 『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)の著者で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏と弁護士の三浦義隆氏に、痴漢と痴漢冤罪、どちらも防ぐことはできないのか、語り合ってもらった。

(前編はこちら)

■痴漢だけ冤罪を問題視しているのは、ご都合主義

――痴漢のニュースが取り上げられるたび、ネット上では「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が見られます。どちらもあってはならないことですが、なぜ必要以上に冤罪を恐れる人がいるのでしょうか?

斉藤章佳氏(以下、斉藤) 痴漢冤罪をWeb上で訴えるチームがあるのかと思うほど、私が痴漢に関する取材を受けた記事が出ると、必ずといっていいくらいコメント欄が荒れます。そして、いつも同じような内容のコメントが書き込まれるのです。

三浦義隆氏(以下、三浦) 殺人や強盗などの事件でも冤罪は起こっていますが、そういう疑いをかけられるのは、例えば日頃から素行が悪かったり、不良との交友関係がある人なのだろうと思われがちです。実際は必ずしもそうではないのですが、疑われるような行動をしていなければ冤罪に問われることはないと思っている人が多いと思います。ただ、痴漢冤罪に関しては電車に乗っているだけで巻き込まれる可能性があることが明らかですから、そこが怖いのだと思います。

 冤罪はあってはならないことなので、痴漢冤罪に対して騒ぎ立てるのはいいと思うんです。でも、私がちょっとおかしいなと思うのは、ほかの種類の犯罪については、弁護士のような特殊な人種を除くほとんどの人は、容疑があって逮捕されたという報道が出た段階から、容疑者を犯人と決めつけて、社会的制裁を加える側に率先して回っているわけじゃないですか。でも、痴漢だけは冤罪を問題視する。そういうご都合主義なことでいいのか、とは思います。

 別に痴漢についてだけ冤罪が起こるわけではなく、それは日本の刑事司法や捜査機関全体の問題なのですから、全体を変える以外に痴漢冤罪を減らしていく方法はないと思うんです。

――そもそも、痴漢冤罪はなぜ起こるのでしょうか?

三浦 痴漢を被害者や周囲の乗客がなかなか検挙できない理由も、痴漢冤罪が起こる理由も、基本的には同じ構造だと思っています。まず、痴漢の起こりやすい満員電車があることですよね。

 満員電車は偶然に体が触れることもあり、「偶然」で言い訳の立つような範囲もあるので、普通の人が痴漢をしてしまう。それが、だんだんと大胆な行為になっていくわけです。人が密集しているので、誰がやっているのかも、なかなか特定することができない状況です。冤罪も、悪意のでっち上げよりは、被害者や目撃者が犯人を取り違えたことによるものが多いと思われます。満員電車をなくせば、痴漢も痴漢冤罪も大幅に減らせると思うのですが、それができるのかどうかという話ですよね。

斉藤 性犯罪者は幼少期からそういう性癖があったとか、もともと性欲がコントロールできない変態的な嗜好がある人だろうと思われています。しかし、この本にも書きましたが、痴漢で最も多いのは「四大卒の家庭持ちでサラリーマン」という、いわゆる普通の男性たちです。最近注目すべきなのは、外国人の痴漢加害者の相談が増えてきたことです。海外から日本に出向してきた優秀なエンジニアなど、それなりにエリートの人の痴漢事件をめぐる相談があるのですが、その人たちも、やはり何回も繰り返しています。

 彼らは自分の国に満員電車がないので、他の性犯罪も含めて、やったことがないんです。それが、日本の満員電車に乗るというライフスタイルになってから、痴漢行為を始めています。痴漢を含む反復する性的逸脱行動は、学習された行動です。慣れない日本での生活の中で、本人が環境に適応するためのストレスへの対処行動(支配欲や優越感の充足)として選択したのが、痴漢だったというわけです。性犯罪は特殊な人がやっているというイメージが根強いですが、実は大多数はそうではないと認識を改めてもらいたいと思います。

三浦 痴漢加害者は、もともと特殊な性癖の人ではないというのは、おっしゃる通りだと思います。しかし、これは弁護士としてではなく、男性としての素朴な感想ですが、私も普通に性欲はあります。でも、その自分の性欲の延長線上に痴漢があるとは、どうしても思えないんですよね。

 ネット上では「男の性欲というのはコントロール困難なものであって……」というところから、派手な服を着て男の部屋に行く女性が悪いなどと、被害者を非難する声が多い。すると、その人たちは自分の性欲の延長線上に性犯罪があると思っていて、自分も機会があればやってしまうという意味なのかなと、非常に不思議に感じるんですよね。

――痴漢をなくすためには、どうすればいいと思いますか?

斉藤 当院に来る性加害者は、自分の痴漢行為や性犯罪を「逮捕されなければ、おそらくずっと続けていた」と言います。加害者やその家族にとって、逮捕というのはもちろん望んでいない出来事ですが、我々には、そこを治療の動機づけの最大のチャンスとして生かしていく視点が求められています。

 本来は、一次予防教育と再犯防止教育をセットで行えるのが望ましいのですが、現状ではなかなか性犯罪の一次予防は難しいです。これからこのあたりの取り組みや研究を性教育分野の専門家とともに協同していきたいと考えていますが、それよりも今は、どうすれば再発防止できるのかが当面の課題かと思います。

三浦 逮捕されるまでやめられないというのは、おっしゃる通りだと思います。痴漢を繰り返して一度もバレたことがなく、周りの誰にも知られていないけど、「これはいけない」と思って、自主的にやめようという人はあまりいないでしょうね。

斉藤 痴漢ではないですが、露出や盗撮、のぞき、下着窃盗といったいわゆる非接触型の性犯罪の人も来ます。接触する性犯罪の場合は顕在化し逮捕されるケースが多いのですが、接触しない性犯罪だと相手に気づかれずに行為を行うことができるのです。こうなると治療につながる機会がなく、膨大に潜在化しているケースがあります。年に1〜2人くらい、「このままでは逮捕されるかもしれない」と自らの危機感から来院するレアケースもあります。

三浦 逮捕自体が初めてという人は、その前の段階で常習性はあったのかもしれませんが、初犯として起訴猶予で終わるケースも結構あります。私が担当する痴漢の案件も約半数は逮捕が初めてという人なんですよ。その後の追跡調査をしているわけではありませんが、初犯でやめている人もかなりいるだろうと推測はできます。

 冒頭のお話にあった通り、失うものの多い人が、かなりいるじゃないですか。「次やったら、本当におしまいだぞ」という状況に追い込まれたとき、そこでやめている人も、ある程度いるのだろうと思います。痴漢の再犯率が高いという話にしても、再犯率というもの自体が、一回裁判の手続きにのって有罪になり、前科がついた人を対象にしています。痴漢だと犯人は起訴猶予になることも多いですから、実は前科1犯になる時点でもう「再犯」の場合が多いんですね。そうすると、それはかなり犯罪性の進んだ人で、再犯率が高いのも無理ないのかと思いますね。

斉藤 犯罪傾向の進んだ人の再犯率が高いという点については、私も同じ意見です。これは、ほかの刑事政策や犯罪心理学の領域でも、前科前歴がなく、これから事件を起こす可能性のある潜在的な層と、初犯の方に関しては、罰による問題行動の修正に比較的効果がある層だと言われています。クリニックに来ているような、かなり常習性のある人に対して、罰や監視のみによる行動変容はあまり効果がないというのは、その通りです。

――痴漢だけでなく、同時に冤罪もなくすには、何か良い方法はあるのでしょうか?

三浦 容疑者を検挙して有罪にすることを国家が行っている限り、冤罪はついて回る問題です。痴漢がなくなれば痴漢冤罪もなくなるというのは当たり前の話ですが、実質的にはあまり意味のないことです。冤罪をなくすためには、単純に裁判所が厳格に事実認定をすればいい話ですし、そこからさかのぼって捜査機関も、全件微物鑑定するなり、供述頼みではないきちんとした固い立証を心がけることです。どれも、痴漢に限った話ではないですよ。

斉藤 痴漢に関しては、おそらく東京都と公共交通機関が本気になったら、満員電車をなんとかできると思います。自殺予防のためのホームドアは、多くの予算をかけて、ほぼ整いつつあります。でも、痴漢防止に関して目に見える対策は特に何もなく、鉄道会社も乗客に自衛を任せるだけにとどまっているように見えます。これは、痴漢対策に予算を投入することで、どれくらい経済的な損失を防げるのかを考えたとき、自殺予防のホームドアほどはメリットがないからだと思います。

 また、満員電車をなくすには、働き方の改革が必要です。朝と夜のラッシュ時の混雑をもう少し緩和するためには、日本人の働き方自体を変えていくような政策なり施策が必要です。週に何日か自宅でも仕事できるようにするとか、ワークライフバランスの問題とも関連してきますね。

三浦 企業側に何かインセンティブを与えないと、難しいでしょうね。

斉藤 そうでしょうね。当院もそうなのですが、職員は朝9時頃から夜6時頃までの勤務時間に合わせて出退勤します。他業種や公務員も同様です。小池百合子都知事を中心に、2020年の東京オリンピックまでに、日本人の働き方改革を手始めに、痴漢問題を含む満員電車対策をどうしていくかという切り口の話をしていけば、建設的な議論になるかと思います。
(姫野ケイ)

斉藤章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アジア最大規模といわれる依存症治療施設である榎本クリニックにて、アルコール依存症を中心に、ギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。また、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)、『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)がある。その他、論文多数。

三浦義隆(みうら・よしたか)
千葉県弁護士会所属。おおたかの森法律事務所。主な取り扱い分野は、離婚、労働、相続、交通事故、債務整理、刑事等。

「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が起こる理由

 満員電車で起こることの多い痴漢。しかし、痴漢のニュースが報じられるたびに、「冤罪かもしれない」「痴漢を疑われたら人生の終わり」という意見もネット上で飛び交っている。なぜ、これほどまでに痴漢冤罪の話題が持ち上がるのか? 『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)の著者で精神保健福祉士・社会福祉士の斉藤章佳氏と弁護士の三浦義隆氏に、痴漢と痴漢冤罪、どちらも防ぐことはできないのか、語り合ってもらった。

(前編はこちら)

■痴漢だけ冤罪を問題視しているのは、ご都合主義

――痴漢のニュースが取り上げられるたび、ネット上では「痴漢をなくしたい人VS痴漢冤罪を訴える人」の対立構造が見られます。どちらもあってはならないことですが、なぜ必要以上に冤罪を恐れる人がいるのでしょうか?

斉藤章佳氏(以下、斉藤) 痴漢冤罪をWeb上で訴えるチームがあるのかと思うほど、私が痴漢に関する取材を受けた記事が出ると、必ずといっていいくらいコメント欄が荒れます。そして、いつも同じような内容のコメントが書き込まれるのです。

三浦義隆氏(以下、三浦) 殺人や強盗などの事件でも冤罪は起こっていますが、そういう疑いをかけられるのは、例えば日頃から素行が悪かったり、不良との交友関係がある人なのだろうと思われがちです。実際は必ずしもそうではないのですが、疑われるような行動をしていなければ冤罪に問われることはないと思っている人が多いと思います。ただ、痴漢冤罪に関しては電車に乗っているだけで巻き込まれる可能性があることが明らかですから、そこが怖いのだと思います。

 冤罪はあってはならないことなので、痴漢冤罪に対して騒ぎ立てるのはいいと思うんです。でも、私がちょっとおかしいなと思うのは、ほかの種類の犯罪については、弁護士のような特殊な人種を除くほとんどの人は、容疑があって逮捕されたという報道が出た段階から、容疑者を犯人と決めつけて、社会的制裁を加える側に率先して回っているわけじゃないですか。でも、痴漢だけは冤罪を問題視する。そういうご都合主義なことでいいのか、とは思います。

 別に痴漢についてだけ冤罪が起こるわけではなく、それは日本の刑事司法や捜査機関全体の問題なのですから、全体を変える以外に痴漢冤罪を減らしていく方法はないと思うんです。

――そもそも、痴漢冤罪はなぜ起こるのでしょうか?

三浦 痴漢を被害者や周囲の乗客がなかなか検挙できない理由も、痴漢冤罪が起こる理由も、基本的には同じ構造だと思っています。まず、痴漢の起こりやすい満員電車があることですよね。

 満員電車は偶然に体が触れることもあり、「偶然」で言い訳の立つような範囲もあるので、普通の人が痴漢をしてしまう。それが、だんだんと大胆な行為になっていくわけです。人が密集しているので、誰がやっているのかも、なかなか特定することができない状況です。冤罪も、悪意のでっち上げよりは、被害者や目撃者が犯人を取り違えたことによるものが多いと思われます。満員電車をなくせば、痴漢も痴漢冤罪も大幅に減らせると思うのですが、それができるのかどうかという話ですよね。

斉藤 性犯罪者は幼少期からそういう性癖があったとか、もともと性欲がコントロールできない変態的な嗜好がある人だろうと思われています。しかし、この本にも書きましたが、痴漢で最も多いのは「四大卒の家庭持ちでサラリーマン」という、いわゆる普通の男性たちです。最近注目すべきなのは、外国人の痴漢加害者の相談が増えてきたことです。海外から日本に出向してきた優秀なエンジニアなど、それなりにエリートの人の痴漢事件をめぐる相談があるのですが、その人たちも、やはり何回も繰り返しています。

 彼らは自分の国に満員電車がないので、他の性犯罪も含めて、やったことがないんです。それが、日本の満員電車に乗るというライフスタイルになってから、痴漢行為を始めています。痴漢を含む反復する性的逸脱行動は、学習された行動です。慣れない日本での生活の中で、本人が環境に適応するためのストレスへの対処行動(支配欲や優越感の充足)として選択したのが、痴漢だったというわけです。性犯罪は特殊な人がやっているというイメージが根強いですが、実は大多数はそうではないと認識を改めてもらいたいと思います。

三浦 痴漢加害者は、もともと特殊な性癖の人ではないというのは、おっしゃる通りだと思います。しかし、これは弁護士としてではなく、男性としての素朴な感想ですが、私も普通に性欲はあります。でも、その自分の性欲の延長線上に痴漢があるとは、どうしても思えないんですよね。

 ネット上では「男の性欲というのはコントロール困難なものであって……」というところから、派手な服を着て男の部屋に行く女性が悪いなどと、被害者を非難する声が多い。すると、その人たちは自分の性欲の延長線上に性犯罪があると思っていて、自分も機会があればやってしまうという意味なのかなと、非常に不思議に感じるんですよね。

――痴漢をなくすためには、どうすればいいと思いますか?

斉藤 当院に来る性加害者は、自分の痴漢行為や性犯罪を「逮捕されなければ、おそらくずっと続けていた」と言います。加害者やその家族にとって、逮捕というのはもちろん望んでいない出来事ですが、我々には、そこを治療の動機づけの最大のチャンスとして生かしていく視点が求められています。

 本来は、一次予防教育と再犯防止教育をセットで行えるのが望ましいのですが、現状ではなかなか性犯罪の一次予防は難しいです。これからこのあたりの取り組みや研究を性教育分野の専門家とともに協同していきたいと考えていますが、それよりも今は、どうすれば再発防止できるのかが当面の課題かと思います。

三浦 逮捕されるまでやめられないというのは、おっしゃる通りだと思います。痴漢を繰り返して一度もバレたことがなく、周りの誰にも知られていないけど、「これはいけない」と思って、自主的にやめようという人はあまりいないでしょうね。

斉藤 痴漢ではないですが、露出や盗撮、のぞき、下着窃盗といったいわゆる非接触型の性犯罪の人も来ます。接触する性犯罪の場合は顕在化し逮捕されるケースが多いのですが、接触しない性犯罪だと相手に気づかれずに行為を行うことができるのです。こうなると治療につながる機会がなく、膨大に潜在化しているケースがあります。年に1〜2人くらい、「このままでは逮捕されるかもしれない」と自らの危機感から来院するレアケースもあります。

三浦 逮捕自体が初めてという人は、その前の段階で常習性はあったのかもしれませんが、初犯として起訴猶予で終わるケースも結構あります。私が担当する痴漢の案件も約半数は逮捕が初めてという人なんですよ。その後の追跡調査をしているわけではありませんが、初犯でやめている人もかなりいるだろうと推測はできます。

 冒頭のお話にあった通り、失うものの多い人が、かなりいるじゃないですか。「次やったら、本当におしまいだぞ」という状況に追い込まれたとき、そこでやめている人も、ある程度いるのだろうと思います。痴漢の再犯率が高いという話にしても、再犯率というもの自体が、一回裁判の手続きにのって有罪になり、前科がついた人を対象にしています。痴漢だと犯人は起訴猶予になることも多いですから、実は前科1犯になる時点でもう「再犯」の場合が多いんですね。そうすると、それはかなり犯罪性の進んだ人で、再犯率が高いのも無理ないのかと思いますね。

斉藤 犯罪傾向の進んだ人の再犯率が高いという点については、私も同じ意見です。これは、ほかの刑事政策や犯罪心理学の領域でも、前科前歴がなく、これから事件を起こす可能性のある潜在的な層と、初犯の方に関しては、罰による問題行動の修正に比較的効果がある層だと言われています。クリニックに来ているような、かなり常習性のある人に対して、罰や監視のみによる行動変容はあまり効果がないというのは、その通りです。

――痴漢だけでなく、同時に冤罪もなくすには、何か良い方法はあるのでしょうか?

三浦 容疑者を検挙して有罪にすることを国家が行っている限り、冤罪はついて回る問題です。痴漢がなくなれば痴漢冤罪もなくなるというのは当たり前の話ですが、実質的にはあまり意味のないことです。冤罪をなくすためには、単純に裁判所が厳格に事実認定をすればいい話ですし、そこからさかのぼって捜査機関も、全件微物鑑定するなり、供述頼みではないきちんとした固い立証を心がけることです。どれも、痴漢に限った話ではないですよ。

斉藤 痴漢に関しては、おそらく東京都と公共交通機関が本気になったら、満員電車をなんとかできると思います。自殺予防のためのホームドアは、多くの予算をかけて、ほぼ整いつつあります。でも、痴漢防止に関して目に見える対策は特に何もなく、鉄道会社も乗客に自衛を任せるだけにとどまっているように見えます。これは、痴漢対策に予算を投入することで、どれくらい経済的な損失を防げるのかを考えたとき、自殺予防のホームドアほどはメリットがないからだと思います。

 また、満員電車をなくすには、働き方の改革が必要です。朝と夜のラッシュ時の混雑をもう少し緩和するためには、日本人の働き方自体を変えていくような政策なり施策が必要です。週に何日か自宅でも仕事できるようにするとか、ワークライフバランスの問題とも関連してきますね。

三浦 企業側に何かインセンティブを与えないと、難しいでしょうね。

斉藤 そうでしょうね。当院もそうなのですが、職員は朝9時頃から夜6時頃までの勤務時間に合わせて出退勤します。他業種や公務員も同様です。小池百合子都知事を中心に、2020年の東京オリンピックまでに、日本人の働き方改革を手始めに、痴漢問題を含む満員電車対策をどうしていくかという切り口の話をしていけば、建設的な議論になるかと思います。
(姫野ケイ)

斉藤章佳(さいとう・あきよし)
精神保健福祉士・社会福祉士/大森榎本クリニック精神保健福祉部長。アジア最大規模といわれる依存症治療施設である榎本クリニックにて、アルコール依存症を中心に、ギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション問題に携わる。専門は加害者臨床で「性犯罪者の地域トリートメント」に関する実践・研究・啓発活動を行っている。また、大学や専門学校では早期の依存症教育にも積極的に取り組んでおり、講演も含めその活動は幅広く、マスコミでもたびたび取り上げられている。著書に『性依存症の治療』『性依存症のリアル』(ともに金剛出版/共著)、『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)がある。その他、論文多数。

三浦義隆(みうら・よしたか)
千葉県弁護士会所属。おおたかの森法律事務所。主な取り扱い分野は、離婚、労働、相続、交通事故、債務整理、刑事等。

JR上野駅で痴漢被害を訴えられて死亡……冤罪の場合、慰謝料請求は可能?

「ドラマのこのシーンってありえるの?」「バラエティーのあのやり方ってコンプライアンス的にどうなの?」……テレビを見ていて感じた疑問を弁護士に聞いてみる、テレビ好きのための法律相談所。

<今回の番組>
各局ニュース番組

<今回の疑問>
痴漢被害を訴えられて自殺……冤罪の場合、遺族は訴えた女性に慰謝料請求できるのか?

 5月12日未明、JR上野駅で痴漢を疑われた男性が逃走し、ビルから転落死する事件が起きた。男性は、京浜東北線の車内で女性に「手を握られた」と訴えられ、上野駅で降ろされた後、駅の事務室で事情を聞かれている途中、隙を見て突然逃げ出したという。その後、周辺を捜索していた警察官が近くのビルとビルの隙間で倒れている男性を発見し、死亡が確認された。警察は自殺の可能性が高いと捜査を進めている。

 痴漢で起訴された被告が裁判で無罪となった例もあるが、刑事事件で起訴されると有罪になる確率が99%といわれており、現実的には痴漢の冤罪が認められる確率はかなり低い。だが、もし今回の痴漢が冤罪だった場合、男性の遺族が女性に慰謝料を請求することは可能なのだろうか? アディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士に聞いた。

「一般に、加害者(この事件の場合、痴漢被害を訴えた女性)が行った不法行為に対して、被害者(死亡した男性)が持つ損害賠償請求権は相続されます。また、近親者は加害者に対する固有の慰謝料請求権利が認められる場合もあります。したがって、配偶者などの相続人や、親・きょうだいなどの近親者は、加害者に対して損害賠償請求ができる場合があります。もっとも、損害賠償請求が認められるためには、加害者に故意(わざと)又は過失(うっかり)が必要です。男性が痴漢ではないのをわかっていながら、女性が虚偽の供述をしたなどの事情が発覚しない限り、女性の故意又は過失はなかなか認められないでしょう」

 つまり、今回のケースは、男性の遺族が痴漢を訴えた女性に損害賠償を請求しても、認められる可能性が低いということになる。本当に痴漢行為があったかどうかは定かではないが、いずれにせよ、男性の遺族はもちろんのこと、被害を訴えた女性にとっても、最もつらい結果になってしまったのではないだろうか。

アディーレ法律事務所

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「一度、性暴力に遭った女性は繰り返し遭う」友人や家族が被害者になったら、どうすればいいか

<p> NPO法人「しあわせなみだ」の副理事長、卜沢彩子(うらさわ あやこ)さんは自身も性暴力サバイバーであり、その体験をもとに現在は同じサバイバー女性のサポートと、性暴力ゼロを目指す啓蒙活動に力を入れている。講演会やメディアの取材などで性暴力被害について話すと、必ず次のような反応があるという。<br /> </p>

痴漢はどうしたら撲滅できるのか? ひとりの加害者が、何千人という被害者を生む現実

<p> 日常に潜んでいながら姿が見えない、得体の知れない痴漢加害者は、女性にとって恐怖でしかない。けれど、今日という日も犯罪者は当然の顔をして電車やバスに乗り、犯行を繰り返している。<br />  被害者として多くの痴漢に接してきた体験を通して、その実態を考える漫画家・ライターの田房永子氏と、性犯罪再犯防止プログラムを通しての現場で、日々多くの元痴漢加害者と向き合っている精神保健福祉士・社会福祉士である斉藤章佳氏。両氏による対談後編は、「痴漢は撲滅できるのか?」がテーマとなった。こんなにも危険な存在が野放しにされているのはなぜなのか? 鉄道各社も事あるごとに撲滅をうたうが、一向にその成果が報告されないのはなぜなのか? この疑問を解くヒントは、痴漢たちがおのおの作り上げる“膜の中のストーリー”にある。</p>

これ以上、性犯罪被害者を出さないために 加害者の治療と家族の役割

<p> 昨今、有名人が相次いで逮捕されたり、痴漢抑止バッジが作成されたりと、性犯罪に関する話題が盛んに報道されているが、性犯罪において、女性は主に「被害者」である。たとえば、「犯罪白書」※によると、平成26年の強制わいせつ認知件数の男女比は、約34:1。男性から女性に加えられる理不尽このうえない暴力であり、被害者に与えるダメージは甚大で、「魂の殺人」ともいわれる性犯罪。その発生件数を少しでも減らしたいとは誰もが願うところだが、性犯罪は「未然に防ぎにくい」という側面がある。逮捕されるまで、家族を含む周囲の誰もが気づかない。本人も自分を止められない。そうして犯行は繰り返され、被害者が増えていく。</p>