「私は悪いことはしていない」——生活保護から抜け出した女性が訴えたいこと

 ブラック企業での勤務によるうつ病、貧困、生活保護、そして生活保護から抜け出すまでの壮絶な体験を綴った『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』(イースト・プレス)を上梓した小林エリコさん。前編では生活に困っている人の相談支援活動を行うNPO法人ほっとプラスの代表で、『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)や『貧困クライシス 国民総「最底辺」社会』(毎日新聞出版)の著書もある社会福祉士の藤田孝典さんと、精神障害者をめぐる状況や生活保護の実情について語ってもらった。後編では、現代の貧困問題や当事者の意識について踏み込む。

(前編はこちら)

■3割がケースワーカーの資格を持たないまま働いている

――小林さんの担当のケースワーカーさん(福祉事務所や児童相談所といった公的機関で働く人)はまったく親身になってくれない方と著書にありましたが、なぜケースワーカーによって違いがあるのでしょうか?

藤田孝典さん(以下、藤田) 「社会福祉主事」という資格がある人しか福祉事務所のケースワーカーになれないと、法律で決まっています。でも、実は、社会福祉主事の資格を持っているケースワーカーは全国平均で7割しかいないという調査結果もあり、3割は無資格のまま働いている。自治体の納税課・収税課、土木課から異動してきた人が担当している場合もあります。ケースワーク業務を誰でもできる仕事だと、いまだに思っている役所があるんです。「怠けているだけで、頑張れば仕事なんて見つかるでしょ」とか「頑張って外に出なさい」と、平気で言ってしまう人が配属されていて、要するに専門性が低い。それを今、社会福祉士や精神保健福祉士の資格を持っている人をなるべく配属させようと、厚生労働省や先駆的自治体などは推進しています。

 でも、役所としては、専門職を雇うと福祉の現場でしか回せなくなってしまうので、土木課や水道課に異動できない人を雇うわけにもいかない――という考えから進んでいません。1〜2年したら異動になるという、このお役所文化を、福祉分野だけでもそろそろ変えないといけないと思います。

小林エリコさん(以下、小林) 1つの仕事をずっとやっているほうが、専門性が身についていいはずですよね。

――役所では、ケースワーカーに関する研修は行われないんですか?

藤田 一応研修はやります。僕も福祉事務所向けの研修などで「ケースワーカーは、こうあるべきですよ」という話をしますが、いかんせん今は、公務員削減の一方で、生活保護受給者が増えてきているんです。都市部だと、1人のケースワーカーさんが120〜150世帯担当している場合もあります。厚労省は、標準世帯数といって、1人のケースワーカーさんの受け持ちは都市部では80世帯、郡部では65世帯までが適正な担当ケース数だと決めています。しかし、ほとんど守られていません。

――受給者が増えているということは、貧困層が増えているということですよね。

藤田 貧困が増えているし、40歳以下で精神障害のある方も増えている。長時間労働と低賃金と家族問題ですね。あとは、ストレスによるアルコールやギャンブルへの依存。受給者が増えている一方で、ケースワーカーは増えないのが課題です。

 また、昔の貧困は生活保護でお金だけ渡していれば、地域の人や民生委員さんなど、いろんな方がサポートしてくれていたのですが、現在はお金を渡しても、その人の孤立状況はなかなか解消されません。その分、ケースワーカーがなんでもやらないといけない状態があり、責任感の強いワーカーさんの中には、母子家庭の子どもの勉強を見たり、学校の送迎をしたり、入院患者へのお見舞いをしたり、一生懸命がんばりすぎてうつになる方もいます。

小林 私は病気になってから、ソーシャルワーカー(社会福祉士や精神保健福祉士という国家資格の有資格者の総称)の方と知り合う機会が多いのですが、みなさんすごくお給料が安くて、こちらが申し訳なくなります。病気の人にちゃんと電話をして訪問支援している方々が薄給なのが、すごく心苦しくて。お給料がもっとよくなり、「ソーシャルワーカーになりたい!」という人が増えれば、ワーカー不足は改善されるのではないかと思います。

藤田 本当にそうですよね。今はケースワーカーだけでなく、介護士、保育士も、
非常勤や低所得の方がすごく多いです。福祉事務所にも非常勤の公務員が増えてきました。少し前までは福祉事務所でケースワーカーとして相談を受けて支援をしていた人が、逆にうつになってしまうというのは、全国的に散見されている事例です。

――小林さんの本の中には、ケースワーカーさんが生活保護から抜け出す方法をなかなか教えてくれなかったとありますが、きちんと教えてくれる方もいますよね?

藤田 もちろんいます。ただ、ケースワーカーさん自身もあまり生活保護のことをわかっていない人が多いし、今、ケースワーカーの7〜8割は、経験が3年未満なので、知識や経験があまりないのだと思います。また、みんな総務課とか人事課とか税務課などの花形の課に行きたがって、生活保護課や福祉課に配属されると、すぐに異動願を出す人もいます。なかには嫌々ながら仕事をしている人もいるのが事実ですよね。

小林 生活保護課は、すごく対応がひどかったのが印象的でした。障害支援課だと、書類も「ここに記入してくださいね」などと丁寧に教えてくれるのですが、生活保護課だと書類を投げるように渡されました。課が違うとこんなに対応が違うのかと、驚きました。

藤田 僕もびっくりしました。僕は新宿と府中で、非常勤として福祉事務所に関わっていたことがありました。そのころ、僕は生活保護課の仕事を興味深いと思って取り組んでいましたが、周りの同僚には早く異動したがっている人たちが多かったと記憶しています。なかには生活保護受給者を下に見ているというか、見下しているような人もいて、そんな状況をなくさなければいけないと思います。

小林 積極的に福祉の仕事をしたくない人も世の中にいるのは確かですからね。華やかな職場で楽しくやりたい人もいるんでしょうけど(笑)。でも、藤田さんみたいに志の高いワーカーさんもいるので、希望を持ちたいですよね。

――今回、この対談で小林さんは顔出しをしてくださるとのことで、非常に驚きました。なぜ顔を出そうと思ったのですか?

小林 社会福祉に関するテレビ番組などを見ていると、当事者はたいてい顔から下のみの出演だったり、モザイクなどで顔を隠します。その結果、あたかも犯罪者のように見えてしまい、いつも違和感を覚えていました。隠すことによって、「私は差別を受けるような人間なんです」というメッセージを自ら発信している気がするんです。悪いことはしていないのに悪人みたいに映ってしまうので、私は顔を出していこうと思いました。

藤田 勇気がありますね。

小林 不動産屋が私の本や記事を見つけたら、何か言われるかなとは思いますが(笑)。でも、生きていて恥ずかしい人間なんて、そんなにいないですよ。みんな生きているから、大丈夫です。

藤田 こうやって、当事者の方がどんどん発信できるようになるといいですね。

小林 でも、『この地獄を生きるのだ』のAmazonレビューで、生活保護受給者に対するバッシングは書かれないのが意外でした。私は絶対バッシングされると思い、出版する前から、それは覚悟していたのですが、なぜなんでしょうね?

藤田 最近それを、僕も感じています。2012年から、生活保護に対する市民意識を変えていこうという活動を、弁護士さんたちと続けているんです。正しい情報を伝え、みんな隣り合わせで、いつ生活保護をもらうことになってもおかしくないんですよ――ということを打ち出しています。その結果が出てきているのかな、という印象があります。

 一番ひどかったのは、次長課長の河本準一さんの親が生活保護を受けていたのに対し、政治家も含めて、メディアから一斉に「親の面倒見ろよ」みたいなバッシングがあったことです。当時と比べると貧困の人たちが増えているということもあり、自分の問題だと思う人が増えている実感はあります。だから、もう少し実態を語れる当事者の方たちが出てきてくれれば、もっと状況は変わると思っています。

小林 私もそうなれば心強いです。

藤田 生活保護受給経験のある人のネットワークとか、当事者の人たちのネットワークって、ありませんよね?

小林 精神疾患を持っている方の当事者会はありますが、生活保護の当事者会はないと思います。

藤田 僕の知る限りで、当事者として単著まで出して有効な発信をしているのは、夫からのDV経験があり、精神障害を患い、生活保護を受けていた経験を綴った手記『生活保護とあたし』(あけび書房)の著者の和久井みちるさんと、小林さんくらいです。そういうナマの声が、ケースワーカーや福祉業界、世間一般に伝わるといいなと思います。

小林 支援者や専門家の意見はすごく通るのですが、当事者って意外と声を上げにくい立場というか……。でも、実際の主役は当事者ですよね。サービスを受けている人のニーズが重要だと思うので、この本もソーシャルワーカーの方や福祉事務所の方に読んでもらいたいです。
(姫野ケイ)

小林エリコ(こばやし・えりこ)
1977年生まれ。茨城県出身。短大卒業後、エロ漫画雑誌の編集に携わるも自殺を図り退職、のちに精神障害者手帳を取得。現在も精神科に通院を続けながら、NPO法人で事務員として働く。ミニコミ「精神病新聞」を発行するほか、漫画家としても活動し、ウェブ上で発表された「宮崎駿に人生を壊された女」が話題となる。同人誌即売会「文学フリマ」にて頒布された『生活保護を受けている精神障害者が働くまで(仮)』を大幅に加筆編集した『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』(イースト・プレス)が初の著書。

藤田孝典(ふじた・たかのり)
1982年生まれ。埼玉県越谷市在住。NPO法人ほっとプラス代表理事。社会福祉士。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。首都圏で生活困窮者支援を行うソーシャルワーカー。生活保護や生活困窮者支援の在り方に関する活動と提言を行う。聖学院大学客員准教授(公的扶助論)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(2013年度)。著書に『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』『続・下流老人 一億総疲弊社会の到来』(朝日新聞出版)、『貧困クライシス 国民総「最底辺」社会』(毎日新聞出版)など。

「私は悪いことはしていない」——生活保護から抜け出した女性が訴えたいこと

 ブラック企業での勤務によるうつ病、貧困、生活保護、そして生活保護から抜け出すまでの壮絶な体験を綴った『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』(イースト・プレス)を上梓した小林エリコさん。前編では生活に困っている人の相談支援活動を行うNPO法人ほっとプラスの代表で、『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)や『貧困クライシス 国民総「最底辺」社会』(毎日新聞出版)の著書もある社会福祉士の藤田孝典さんと、精神障害者をめぐる状況や生活保護の実情について語ってもらった。後編では、現代の貧困問題や当事者の意識について踏み込む。

(前編はこちら)

■3割がケースワーカーの資格を持たないまま働いている

――小林さんの担当のケースワーカーさん(福祉事務所や児童相談所といった公的機関で働く人)はまったく親身になってくれない方と著書にありましたが、なぜケースワーカーによって違いがあるのでしょうか?

藤田孝典さん(以下、藤田) 「社会福祉主事」という資格がある人しか福祉事務所のケースワーカーになれないと、法律で決まっています。でも、実は、社会福祉主事の資格を持っているケースワーカーは全国平均で7割しかいないという調査結果もあり、3割は無資格のまま働いている。自治体の納税課・収税課、土木課から異動してきた人が担当している場合もあります。ケースワーク業務を誰でもできる仕事だと、いまだに思っている役所があるんです。「怠けているだけで、頑張れば仕事なんて見つかるでしょ」とか「頑張って外に出なさい」と、平気で言ってしまう人が配属されていて、要するに専門性が低い。それを今、社会福祉士や精神保健福祉士の資格を持っている人をなるべく配属させようと、厚生労働省や先駆的自治体などは推進しています。

 でも、役所としては、専門職を雇うと福祉の現場でしか回せなくなってしまうので、土木課や水道課に異動できない人を雇うわけにもいかない――という考えから進んでいません。1〜2年したら異動になるという、このお役所文化を、福祉分野だけでもそろそろ変えないといけないと思います。

小林エリコさん(以下、小林) 1つの仕事をずっとやっているほうが、専門性が身についていいはずですよね。

――役所では、ケースワーカーに関する研修は行われないんですか?

藤田 一応研修はやります。僕も福祉事務所向けの研修などで「ケースワーカーは、こうあるべきですよ」という話をしますが、いかんせん今は、公務員削減の一方で、生活保護受給者が増えてきているんです。都市部だと、1人のケースワーカーさんが120〜150世帯担当している場合もあります。厚労省は、標準世帯数といって、1人のケースワーカーさんの受け持ちは都市部では80世帯、郡部では65世帯までが適正な担当ケース数だと決めています。しかし、ほとんど守られていません。

――受給者が増えているということは、貧困層が増えているということですよね。

藤田 貧困が増えているし、40歳以下で精神障害のある方も増えている。長時間労働と低賃金と家族問題ですね。あとは、ストレスによるアルコールやギャンブルへの依存。受給者が増えている一方で、ケースワーカーは増えないのが課題です。

 また、昔の貧困は生活保護でお金だけ渡していれば、地域の人や民生委員さんなど、いろんな方がサポートしてくれていたのですが、現在はお金を渡しても、その人の孤立状況はなかなか解消されません。その分、ケースワーカーがなんでもやらないといけない状態があり、責任感の強いワーカーさんの中には、母子家庭の子どもの勉強を見たり、学校の送迎をしたり、入院患者へのお見舞いをしたり、一生懸命がんばりすぎてうつになる方もいます。

小林 私は病気になってから、ソーシャルワーカー(社会福祉士や精神保健福祉士という国家資格の有資格者の総称)の方と知り合う機会が多いのですが、みなさんすごくお給料が安くて、こちらが申し訳なくなります。病気の人にちゃんと電話をして訪問支援している方々が薄給なのが、すごく心苦しくて。お給料がもっとよくなり、「ソーシャルワーカーになりたい!」という人が増えれば、ワーカー不足は改善されるのではないかと思います。

藤田 本当にそうですよね。今はケースワーカーだけでなく、介護士、保育士も、
非常勤や低所得の方がすごく多いです。福祉事務所にも非常勤の公務員が増えてきました。少し前までは福祉事務所でケースワーカーとして相談を受けて支援をしていた人が、逆にうつになってしまうというのは、全国的に散見されている事例です。

――小林さんの本の中には、ケースワーカーさんが生活保護から抜け出す方法をなかなか教えてくれなかったとありますが、きちんと教えてくれる方もいますよね?

藤田 もちろんいます。ただ、ケースワーカーさん自身もあまり生活保護のことをわかっていない人が多いし、今、ケースワーカーの7〜8割は、経験が3年未満なので、知識や経験があまりないのだと思います。また、みんな総務課とか人事課とか税務課などの花形の課に行きたがって、生活保護課や福祉課に配属されると、すぐに異動願を出す人もいます。なかには嫌々ながら仕事をしている人もいるのが事実ですよね。

小林 生活保護課は、すごく対応がひどかったのが印象的でした。障害支援課だと、書類も「ここに記入してくださいね」などと丁寧に教えてくれるのですが、生活保護課だと書類を投げるように渡されました。課が違うとこんなに対応が違うのかと、驚きました。

藤田 僕もびっくりしました。僕は新宿と府中で、非常勤として福祉事務所に関わっていたことがありました。そのころ、僕は生活保護課の仕事を興味深いと思って取り組んでいましたが、周りの同僚には早く異動したがっている人たちが多かったと記憶しています。なかには生活保護受給者を下に見ているというか、見下しているような人もいて、そんな状況をなくさなければいけないと思います。

小林 積極的に福祉の仕事をしたくない人も世の中にいるのは確かですからね。華やかな職場で楽しくやりたい人もいるんでしょうけど(笑)。でも、藤田さんみたいに志の高いワーカーさんもいるので、希望を持ちたいですよね。

――今回、この対談で小林さんは顔出しをしてくださるとのことで、非常に驚きました。なぜ顔を出そうと思ったのですか?

小林 社会福祉に関するテレビ番組などを見ていると、当事者はたいてい顔から下のみの出演だったり、モザイクなどで顔を隠します。その結果、あたかも犯罪者のように見えてしまい、いつも違和感を覚えていました。隠すことによって、「私は差別を受けるような人間なんです」というメッセージを自ら発信している気がするんです。悪いことはしていないのに悪人みたいに映ってしまうので、私は顔を出していこうと思いました。

藤田 勇気がありますね。

小林 不動産屋が私の本や記事を見つけたら、何か言われるかなとは思いますが(笑)。でも、生きていて恥ずかしい人間なんて、そんなにいないですよ。みんな生きているから、大丈夫です。

藤田 こうやって、当事者の方がどんどん発信できるようになるといいですね。

小林 でも、『この地獄を生きるのだ』のAmazonレビューで、生活保護受給者に対するバッシングは書かれないのが意外でした。私は絶対バッシングされると思い、出版する前から、それは覚悟していたのですが、なぜなんでしょうね?

藤田 最近それを、僕も感じています。2012年から、生活保護に対する市民意識を変えていこうという活動を、弁護士さんたちと続けているんです。正しい情報を伝え、みんな隣り合わせで、いつ生活保護をもらうことになってもおかしくないんですよ――ということを打ち出しています。その結果が出てきているのかな、という印象があります。

 一番ひどかったのは、次長課長の河本準一さんの親が生活保護を受けていたのに対し、政治家も含めて、メディアから一斉に「親の面倒見ろよ」みたいなバッシングがあったことです。当時と比べると貧困の人たちが増えているということもあり、自分の問題だと思う人が増えている実感はあります。だから、もう少し実態を語れる当事者の方たちが出てきてくれれば、もっと状況は変わると思っています。

小林 私もそうなれば心強いです。

藤田 生活保護受給経験のある人のネットワークとか、当事者の人たちのネットワークって、ありませんよね?

小林 精神疾患を持っている方の当事者会はありますが、生活保護の当事者会はないと思います。

藤田 僕の知る限りで、当事者として単著まで出して有効な発信をしているのは、夫からのDV経験があり、精神障害を患い、生活保護を受けていた経験を綴った手記『生活保護とあたし』(あけび書房)の著者の和久井みちるさんと、小林さんくらいです。そういうナマの声が、ケースワーカーや福祉業界、世間一般に伝わるといいなと思います。

小林 支援者や専門家の意見はすごく通るのですが、当事者って意外と声を上げにくい立場というか……。でも、実際の主役は当事者ですよね。サービスを受けている人のニーズが重要だと思うので、この本もソーシャルワーカーの方や福祉事務所の方に読んでもらいたいです。
(姫野ケイ)

小林エリコ(こばやし・えりこ)
1977年生まれ。茨城県出身。短大卒業後、エロ漫画雑誌の編集に携わるも自殺を図り退職、のちに精神障害者手帳を取得。現在も精神科に通院を続けながら、NPO法人で事務員として働く。ミニコミ「精神病新聞」を発行するほか、漫画家としても活動し、ウェブ上で発表された「宮崎駿に人生を壊された女」が話題となる。同人誌即売会「文学フリマ」にて頒布された『生活保護を受けている精神障害者が働くまで(仮)』を大幅に加筆編集した『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』(イースト・プレス)が初の著書。

藤田孝典(ふじた・たかのり)
1982年生まれ。埼玉県越谷市在住。NPO法人ほっとプラス代表理事。社会福祉士。ルーテル学院大学大学院総合人間学研究科博士前期課程修了。首都圏で生活困窮者支援を行うソーシャルワーカー。生活保護や生活困窮者支援の在り方に関する活動と提言を行う。聖学院大学客員准教授(公的扶助論)。反貧困ネットワーク埼玉代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員(2013年度)。著書に『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』『続・下流老人 一億総疲弊社会の到来』(朝日新聞出版)、『貧困クライシス 国民総「最底辺」社会』(毎日新聞出版)など。

「精神障害者になると思ってなかった」当事者が語る生活保護受給者の実情

 2017年12月、厚生労働省は国費160億円削減に向け、生活保護支給額の見直しを行った。当初は生活保護水準に対して最大13%減の見直し案を提示していたが、批判が殺到。結局、最大5%減にとどめることを発表した。生活保護に関する話題に関心が高まる中、『この地獄を生きるのだ うつ病、生活保護。死ねなかった私が「再生」するまで。』(イースト・プレス)を上梓した小林エリコさん。休みなく働いて月収12万というブラック企業で働いたことで心を病み、生活保護を受給、そこから抜け出すまでの凄まじい体験を綴った自伝的エッセイとなっている。今回は、生活に困っている人の相談支援活動を行うNPO法人ほっとプラスの代表で、『下流老人 一億総老後崩壊の衝撃』(朝日新聞出版)や『貧困クライシス 国民総「最底辺」社会』(毎日新聞出版)の著書もある社会福祉士の藤田孝典さんと小林さんに、うつ病などの精神障害者をめぐる状況、生活保護やソーシャルワーカー(社会福祉士や精神保健福祉士という国家資格の有資格者の総称)の実情を語ってもらった。

■当事者が自分の経験を発信することは、つらすぎてほとんどできない

――藤田さんは、小林さんの本を読まれて、どんな感想を抱かれましたか?

藤田孝典さん(以下、藤田) 僕は生活に困窮されていらっしゃる方の相談支援活動のNPOを15年ほどやっているのですが、当事者の方が自分の経験を発言するということは、つらすぎてほとんどできていません。僕も貧困に関する本を出しているのですが、当事者ではないので「本人の思いはこうではないか?」と独自に解釈して代弁するしかありません。ある種、当事者と少し距離がある状態で問題と関わってきました。勇気を持って発信してくださった小林さんに、尊敬の念を抱いています。感謝したいです。

――小林さんは、本を出されて、どのような反響がありましたか?

小林エリコさん(以下、小林) 主にインターネット上での反応で多いのは「ひとごとじゃない」ということでした。心を病んだり精神障害者になったりするのは、誰にでも起こり得ることだというのが他の人に伝わったのは、すごくうれしかったです。私自身も10代の頃は、自分が精神障害者になるとは思っていなかったので。

藤田 この本、すごいですよね。僕らのところに相談に来る人は、ブラック企業で心身を病んだり、失職、自殺未遂の中で1つか2つ経験している人はいますが、小林さんはすべて経験していらっしゃって、貧困の要因問題に関するデパートのようになっていますよね。

小林 売るほどあります(笑)。

藤田 これらを僕らは「多問題当事者」または「多問題家族」と呼ぶのですが、まさにその典型のようで、それでいて発信できるのは、自分の中で整理したり、乗り越えてきたりした強さがあるのだろうなと、読んでいて感じました。

――小林さんは生活保護受給時、とてもつらい精神状況だったと思うのですが、心の拠り所などはあったのでしょうか?

小林 本の中にも出てきますが、北海道にある「べてるの家」(精神障害当事者のための地域活動拠点)のソーシャルワーカーがよくしてくれたことです。支援してくれる方や病気のことを理解してくれる自助グループには、すごく助けられました。同じ病気の人と話すことで安心したり、自分の病気がどういうものかを眺めたりする活動によって、社会のつながりができたので、行ってよかったなと思います。

藤田 べてるの家をはじめ、いろんな社会資源がありますが、当事者をそこへ案内するためには、僕らと人間関係を築いてもらわねばならず、そこで、すごく労力を必要とすることが悩みです。当事者の中には支援者を信頼できない人もいて、自分が自助グループに参加しても何も解決しないのではないかという不信感と不安感を抱いているんです。社会資源につながることができたら、ほとんど解決のようなものなのですが、小林さんは、そこにつながるまで大変ではありませんでしたか?

小林 私の場合は、短大のときの教授がべてるの家を教えてくれて、べてるの家に関する本をたくさん読んでいたので、ここなら信用できると思っていました。そして、べてるの家の向谷地生良さんという有名なソーシャルワーカーさんに電話したとき、すごく親身になって話してくれたんです。

 それまでは、私も支援者を信用することはほとんどなかったのですが、向谷地さんは私がかけた電話にすべて折り返してくれるんです。ほかのソーシャルワーカーさんだと出られなかった電話はそのままという人もいるので、向谷地さんなら信用できると思いました。

――信頼できる自助グループをどこで知るかということも大きいと思うのですが、貧困に陥っている方は学歴もない方が多いので、そのような情報を持っていない場合もありますよね。

藤田 僕らのところに来られる方は、高校中退や中学までの学歴しかなかったりする方も多いので、そもそも情報がありません。あとは孤立していて、援助を受ける力「受援力」が弱まっている方もいます。実際に自助グループに行ってみると、支援者の方がたくさんいるし、同じ経験をしている方もいるので、安心したり、次のステップに進めたりするのですが、受援力自体が弱まっていて、僕らが「ここに行きましょう」と案内してもなかなか難しい場合があります。

小林 一歩を踏み出すまでが、すごく難しいというのはありますよね。

藤田 時間がかかりますし、それこそ信頼関係が重要ですよね。

――小林さんが通われていたクリニックは利益重視のひどいところだったと本にも書かれていますが、きちんと治そうとしてくれるクリニックと、そうでないクリニックの見分け方はあるのでしょうか?

藤田 うーん(苦笑)。僕がずっと貧困問題に関わっていて思うのは、ソーシャルワーカーの方がきちんとクリニックに配属され、クリニックの運営に関わっているかどうかです。薬だけを大量に出すようなクリニックは「医学モデル」といって、医療中心なんです。一方、ソーシャルワーカーは、「生活モデル」として見ていて、どうやって生活習慣を変えたり、ストレス環境をなくしたりしていくかに取り組んでいます。

 だから、クリニックにソーシャルワーカーがどのくらい配置されているか、その人たちがちゃんと相談を受けてくれるか、仕事ができているかということで、僕らは判断をします。医師の質というよりは、ソーシャルワーカーがどのくらい活発に動いているかというところです。小林さんが通っていたクリニックには、ソーシャルワーカーさんはいたんですか?

小林 いたのですが、予約を取るのが大変で、2〜3週間待ちでした。藤田さんがおっしゃったような、ワーカーさんと関わったのは、生活保護を受けるときと、車で市役所を往復するときだけで、それ以外は特に困っている点を聞かれることはなかったです。

藤田 僕らが関わっている精神科のクリニックや、済生会の病院などは、医師とソーシャルワーカーがセットなんです。薬についても、医師と意見交換しながら処方について進めていっています。医師とソーシャルワーカーが一緒になり、チームのようにして関わってくれる病院だと、比較的安心で信頼できるかと思いますが、なかなか多くはないです。

小林 ずっとお伺いしたいことがあって、私はずっと男性のケースワーカー(福祉事務所や児童相談所といった公的機関で働く人)だったのですが、女性に替えてほしいと役所の人に言っても、一度も替えてもらえませんでした。そういう場合、替えてもらうことは難しいのでしょうか?

藤田 女性のケースワーカーさんがどのくらいいるかにもよりますが、今は一定数女性の方も増えていると思うので、そういう要望があったら聞いてあげてもいいと思います。生活保護は地区割で、住んでいる地域で担当が決まっています。それも1〜2年で担当が交代するんです。でも、DV被害や性被害の経験があって男性に家に来てほしくない事情があるなら、ケースワーカーを替える措置はあって然るべきだと思います。小林さんの本を読んでいても、女性のケースワーカーの方がいいのではないかと思いました。

小林 そうですね。やはり男性が家に来るのは、抵抗がありました。途中でケースワーカーさんが替わり、最初のケースワーカーさんは玄関口までしか来なかったのですが、次の方は、家の中に上がって「金目のものがないかチェックする」と言いだしまして……。

藤田 それは、はっきり言われるんですか?

小林 言いましたね。タンスの中まで全部見られるのかな……と不安になって、怖かったです。

藤田 法律的には「資産調査」といって、指輪や宝石類、今はなくなりましたが、株券などがないかチェックします。本当は資産があるのに受給をする方がごく一部いるので、それがないよう、調査が厳しくなっているんです。不正受給対策で、相談に来られた当事者を疑って見ることになります。でも、ほとんど大多数が相談に来た時点で困窮していますから、本当はすぐに支援しないといけないのですが、ごく一部の資産を持つ方に支給してしまうと、役所も叩かれます。

 生活保護法が改正され、12年以降は特に調査も厳しくなりました。調査をしっかりして、親族にも連絡をとり、扶養できるのかどうかを確認する「扶養照会」という動きも強まっています。

小林 私も、扶養照会で自分の親きょうだいから「扶養できません」と言われ、生活保護を受けました。

(後編へつづく)

(姫野ケイ)

「貧困ビジネス」がなくならないワケ あえて劣悪な環境を選ぶ人もいる生活保護の現実

<p> 自動車工場から原発、戦場までルポルタージュの王道といえば「潜入取材」だ。危険を伴うこともあり、誰にでもできるわけではないのだが、現在36歳の長田龍亮(おさだ・りゅうすけ)氏は「貧困ビジネス」の現場である低額宿泊施設に潜入、この3月に『潜入 生活保護の闇現場』(ミリオン出版)を上梓した。1日の小遣い500円・1人分2畳のスペースで暮らす人たちの実態に迫る。</p>