近年、美容や健康に関する真偽不明な情報がネットに跋扈している。「痩せる」「胸が大きくなる」「不調が治る」といった“謳い文句”につられサプリや整形に手を出したら、体に害が及んだというケースも少なくない。私たちの身近にあるそれら「悪質商品」から、2019年に問題となった事例について消費生活専門相談員・平林有里子氏が解説する。
お住いの自治体にある「消費生活センター」をご訪問されたことはありますか? 私は、瀬戸内の島にある消費生活相談窓口の相談員になって10年ほどの、消費生活専門相談員です。所属を離れ個人的な意見として、今回お伝えさせてください。
「花粉を水に変える」「貼るだけで痩せる」そんな魔法はない
今年7月に消費者庁が「光触媒を使用したマスク」の販売業者4社を景品表示法違反で行政処分しました。昨年、歌舞伎役者の市川海老蔵氏を起用し大々的に宣伝され、ネットなどで猛批判が起こっていた、あの「花粉を水に変える」マスク等です。
「花粉を水に変えるマスク」と謳うマスクには、「花粉が水に変わるわけないだろ!」というツッコミが沸き起こるとともに、タレント・荻野目慶子さんの再婚相手でもある販売業者代表の医師が、過去に指定医資格停止処分を受けていたことが発掘されるなど、なかなか大変な話になっていました。
ただ、勘違いされがちですが、消費者庁の行政処分資料を見ると「花粉を水に変える」効果がないことが問題にされたのではなく、「商品に含まれる光触媒によって花粉由来アレルギー原因物質が体内に吸入されることを防ぐ」かのように消費者を誤認させたことが問題とされたのです。つまり、実際は表示の裏付けとなる合理的な根拠がなかった。
今年を振り返るだけでも、「花粉を水に変えるマスク」だけでなく、「貼るだけで痩せるパッチ」「白髪が黒髪になるサプリ」「着るだけでメタボ腹をたたき割る加圧トレーニングシャツ」等、願望につけ込む効果のない商品を販売した業者が消費者庁により処分されています。ネット通販市場の急速な拡大により、消費者の願望を叶えるかのような広告が跋扈していますが、花粉を水に変えたり、パッチを貼るだけで痩せる魔法は発明されてはいません。願望につけ込む悪質商品にはご注意ください。
「つけ込む」といえば、消費者の容姿等への劣等感につけ込み、安全性の保証されていない機器や施術を購入させる「コンプレックス商法」と呼ばれる悪質商法があります。代表的なものに医療脱毛、脂肪吸引、二重まぶた手術などの「美容医療トラブル」があり、全国の消費生活センターには毎年、2,000件前後の苦情相談が寄せられています。うち8割が女性からの相談で、今春には、厚生労働省が豊胸術について注意を呼び掛けています。
問題となっているのは胸に注入する「充填剤」で、厚労省によると「長期安全性が不明確な充填剤が患者に使用される可能性がある」とのことで、安全性が証明されるまでは「非吸収性充填剤を豊胸目的に注入することは実施するべきではない」と強く訴えています。しかし、医師が個人輸入して患者に使用することは許されているとのこと。朝日新聞デジタルの記事内にある専門家のコメントによると「日本は実験場」といわれているとのことで、怖いですね。
「コンプレックス商法」は女性だけの問題ではなく、男性の包茎手術や薄毛治療でも深刻な問題が起こっています。不要な手術で勃起不全や壊死など深刻な医療ミスも報告されています。コンプレックスを煽り、必要ない施術を行う自由診療悪質商法にはご用心くださいね。
ダイエットサプリ「ケトジェンヌ」は前代未聞の問題
とはいえ、容姿へのコンプレックスを解消するのは難しいですよね。気軽にサプリで豊胸や痩身できるなら、「ダメもと」でも試してみたいもの。そんな思いをかなえるような謳い文句で販売されている健康食品について、健康被害の苦情相談も急増しました。今年5月には、女性ホルモンに似た作用を持つ成分が含まれるとされる「プエラリア・ミリフィカ」等4つの成分について、「特別の注意を要する成分」と厚生労働省が指定しています。
そして消費者庁は今年9月、ダイエットサプリ「ケトジェンヌ」を使用した消費者への身体被害について消費者安全法に基づく公表を実施しました。健康食品に関して、消費者安全法に基づき事業者名を公表し注意喚起を行ったのは今回が初めてです。しかも、「『ケトジェンヌ』を使用する場合は、身体被害が生じ得ることに御留意ください」と、消費者庁はかつてないほど強い表現を用いて注意を呼びかけていて、問題の深刻さを感じさせます。
消費者庁による「ケトジェンヌ」への注意喚起が発表された日、販売業者のe.Cycleは「事故情報は製品の販売実績の1000分の1の件数、通常の量をのむことは問題ない」と公表しました。販売する食品の1000分の1に健康被害が報告されているなら、とても食品安全性上「問題ない」とはいえないはずですが。また同社は、製造工場が「公益財団法人日本健康栄養食品協会が定めたGMP認定制度に適合」していることから、「お客様に安心して召し上がっていただけるものと考えております」と安全性に問題ないと反論していました。
この「GMP認定制度」というものは、健康食品市場で用いられている“一定の品質を担保する”制度です。厚生労働省も「GMPマークを目印に健康食品を選びましょう」とお墨付きを与えた制度なのですが、そのお墨付きのある同社製造工場からは、過去に医薬品成分が入った違法なサプリを製造していたことがわかっています。それでも、いまだGMPマークは剥奪されていません。これもまた怖い話ですよね。
その後、「販売実績の1000分の1の件数」事故情報が報告されている「ケトジェンヌ」の事故原因は明らかになっておらず、販売業者も製造業者も自主回収などの対応を行っていません。
消費者ホットラインを知ってください
今年は「桜を見る会」問題の影響で、消費者被害に注目が集まったように思います。首相からの招待状を勧誘に利用して全財産を奪うなど、おじいちゃん、おばあちゃんを悲惨な目に遭わせた「ジャパンライフ」は、政治家や官僚、マスコミ、芸能人らと繋がりながら、おじいちゃん、おばあちゃんの健康不安や孤独につけ込み、マッサージやエステで信用させて言葉巧みに財産を奪い、4度という異例の行政処分を受けても事業を継続し、結局破綻しました。ただ、同様の手口の悪質業者は、ほかにもまだまだいます。
「健康、金、孤独」という3Kと呼ばれる高齢者が抱える不安に悪質業者はつけ込みます。でも、おばあちゃんでなくても不安はないですか? 「健康、金、孤独」のこと。
そんな不安につけ込む悪質商法の被害に遭ったとき、遭いそうになったときは、自治体の消費生活センターにご相談、情報提供ください。消費生活センターには消費者庁のような行政処分を行う権限はありませんが、そこに寄せられた皆様の声は、行政を動かす力となります。
■消費者ホットライン=電話番号188
平林有里子(ひらばやし・ゆりこ)
消費生活専門相談員。消費生活アドバイザー。


