おじさんの一人飯の心情を描く孤高のドラマ『孤独のグルメ Season7』(テレビ東京系)。今回は久しぶりの居酒屋飯。思えばSeason1の第1回放送も、門前仲町の居酒屋からだった。酒を飲まない五郎(松重豊)にかかれば居酒屋も立派な食堂に。「第八話 東京都中野区百軒横丁のチキン南蛮と地鶏モモ串」。
(前回までのレビューはこちらから)
■いきなり中野ブロードウェイ入り口からスタート
知らない方のために説明させてもらうと、中野ブロードウェイとは1966年にできたショッピングセンターで、当初は商店街の延長のような普通の店舗(服飾や飲食など)が多かったが、1990年に「まんだらけ」が出店以降、サブカル系の店舗が続々と集まり、今や「サブカルの殿堂」とまで呼ばれるようになった都内随一の空間である。
それでいて、今でも創業当時の飲食店やおばさま向けのブティックも残っていたり、一時はビットコインのATMまで置いてあったりと、イオンなどでは絶対あり得ない雑多なジャンルの店舗が300以上ひしめきあっている。
そんなブロードウェイに初めて足を踏み入れた五郎。2階の喫茶店で商談の予定が、3階直通のエスカレーターに乗ってしまい2階を通過、軽くパニックに。このトラップ、ブロードウェイあるあるだ。
しかも待ち合わせ場所が見つからず先方に電話するも、当の社長(東京03・角田晃広)は時間を勘違いして、近所で中華を食べており拍子抜け。ちなみにこの中華屋はブロードウェイ入り口に対し右の方向にある珉珉。
仕方なく古銭やコスプレ、鉄道模型の店と、ブロードウェイ内部を散策、満喫する五郎。
なんだかんだで昔ながらの喫茶店「喫茶 絵夢」(2階)にて商談開始。欲を言えば2階の通路だけ変に天井が低いので、そこを歩く長身の五郎が見たかった。が、ここでまさかの大口取引が決定!
「お祝いに相応しい飯を食おう」とブロードウェイを出た南東側に広がる飲食店エリア=「飲食店のジャングル」で良さげな店を見極めようと気合の入る「密林の狩人」五郎。
珍しく夕暮れ時の繁華街をうろつくため、五郎の「孤独」ぶりが浮き立つ。
そう言えば五郎が友人らと食事をしているシーンは、基本見たことがない。そういうコンセプトだから当たり前なのかもしれないが、夜に差し掛かる時間だし、誰かを誘おうという考えに至らないところが五郎の存在を際立たせる。
「みんな楽しそうだ、しかし下戸の俺の居場所はこの辺りにはないんだろうか」
当初、連載の限られたページ数(8ページ)の中で収めるために五郎は下戸になったらしいが、これは結果オーライで、飲める主人公だったら今の飄々とした雰囲気は出なかったかもしれない。今回も居酒屋を「敵地」と表現するくだりがあり、この立ち位置は面白い。
■ボクシングの例えだらけ
ようやく見つけた店は「やきとり 泪橋」。宮崎料理が得意な店らしく、「チキン南蛮」の文字が五郎に突き刺さり、入店。
「ジョーよ泪橋を逆に渡れ。明日のために食うべし食うべし」
と、店名から『あしたのジョー』モードの五郎。(ジョーが暮らすドヤ街の入り口に掛かる橋が泪橋で、いつかドヤ暮らしから抜け出すことを「逆に渡る」と作中で表現)。店員役が千葉哲也で、ジョーの作者(ちばてつや)と同姓同名なのも遊んでいる。このためか、この日はしつこいくらいにボクシングにちなんだ発言が連発される。
・「試合開始のゴング前から胃袋が飛び出しそうだ」←注文前に炭で焼かれてる焼き鳥を見て
・「試合開始前から会場は熱気に包まれている」←注文繰り返す店員の威勢が良いだけで
・「先制の左ジャブだ」←お通しが美味くて
・「ガードが追いつかない」←チキン南蛮が美味しくて
・「でももうちょっと戦いたい」←あと少し何か食べたい
・「最終ラウンド」←ご飯をお代わりして
・「今夜このリングに立てたことを俺は誇りに思う」←食べ終わって
……などなど。
■「ご飯」さえあればこっちのもの
ほぼカウンターのみの小さな店。飲み屋なのでまずはお通しから。
・アボカドとチーズの正油和え
・鶏皮の酢の物
「飲まないからお通しには敏感なんだ」という五郎の下戸審美眼を持ってしても「おざなりでない」満足の逸品。
地鶏の皮の、歯ごたえの良さもさることながら、やや甘めであるところを「烏龍好き、ウーロンジャーには悪くない」と評価。第2話のバイキングの時は「バイキンガー」と名乗っていたし、今日はのちに「タルタリスト」とも宣言するし、一体いくつの顔を持っているのか?
そしてオーダーしたのは以下の「五郎’s 居酒屋定食セレクション」
・チキン南蛮
・鯖串
・豚ばらの味噌串
・鶏がらスープ
・ささ身ときゅうりのごま和え
・ご飯
ご飯が「レンチンになっちゃう」と言われるも、全く問題とせず、むしろ米をゲットできたことに安堵する五郎。「チンだってなんだっていい、ご飯さえあればこっちのもんだ」「ご飯があれば飲み屋だってパラダイス」とは、居酒屋で飯を食う下戸の本音だ。あるとないとじゃ大違い。しかも麦飯で、うれしい誤算。
「ささ身ときゅうりのごま和え」をつまみ「定食屋では会えない味だ」と感慨にふける。今回、居酒屋を「敵地」と表現するくだりがあったが、そこに、濃厚そうなタルタルソース滴る「チキン南蛮」が到着。一心不乱に掻きこむ。
揚げたてだが、甘酢を絡ませてあるのだろう、衣はしっとり。タルタルも一味違うらしく、調べてみると宮崎出身者おすすめの店とのことで、本場の味だ。慣れない美味さに「舌と頭が戸惑いながら喜んでいる」という五郎。ちなみにチキン南蛮は『孤独~』初登場。
興奮しすぎた五郎は一旦我に返り、スープを挟む。「美味い焼き鳥屋の鶏スープが不味いわけがない」と、ごもっともな意見。中から鶏肉のかけらをサルベージし「お宝発見」と喜ぶ。
鯖串は文字通り、串に刺したサバを焼いたもの。「サバってやつは、いつだって俺を喜ばせてくれる、いいやつだ」とのことで「これからもずっと仲良くしていこう」と唐突な決意表明。
豚ばら味噌串は、当然米に合う味らしく、すぐさま五郎はご飯に乗っけてミニ丼を作成。きっとやるだろうなあ……と思っていると、案の定やってくれるからうれしい。
■「地鶏の炭火焼」の魔力
残りのチキン南蛮を改めて美味しくかきこみ、それでもあと少し何か食べたい気分の五郎の目の前に現れたのが、他の客がオーダーした「地鶏のモモ串」。
狭い店内で、後ろに座る客に手渡すために受け取ったのに思わず凝視、そして注文。
宮崎名物の「地鶏の炭火焼」を串に刺して出しているのだと店主。
「地鶏の炭火焼」は名前もありふれてるし、結局焼いただけでしょ? みたいに思われがちだが筆者は鶏料理で一番くらいに好きなメニューだ。炭火の炎が立ち上る金網の上で、歯ごたえのある地鶏のぶつ切りを転がしながら焼いたもので、特段派手な部分はないが、炭の香りとシンプルな塩味で純粋に鶏の旨味を味わえる。歯ごたえあり、香ばしさあり、脂も肉汁もあり。添えられる柚子胡椒も、このために発明されたのでは? というくらい、合う。宮崎近辺ではお祭りの屋台などでも普通に見られる。
一口食って、弾力と旨味に感激し、すぐさま麦飯に乗っけてまたかきこむ。ああ、美味そう。
「大口が決まったお祝いに、まさに相応しい宴」と五郎は大満足だったが、これが寿司や焼肉とならないところが「らしい」。かと言って正直普段のチョイスと何が違うのかはわからなかったが、原作での名言を使って言わせてもらえれば「まあ、感じ感じ」というとこだろう。
店を出てエンディングが流れ終了……かと思いきや、エンドロール終盤で五郎のガラケーが鳴る。短いやり取りの後、「来週韓国かよ、いきなりだなあ」とワクワクする煽りで終了。映画みたいだ。
すでにネットニュース等で知らされていたので驚かなかったが、「予告」もなくいきなり韓国行きを突きつけてくれた方がテンション上がるのになあと、少しだけ思いました。
原作者・久住昌之が同店を訪れる「ふらっとQUSUMI」のコーナーでは、ちろり(酒を燗する金属製の容器)に入って出てくる焼酎を飲みつつ、「地鶏たたき」や、「アボカド炭火焼」「冷汁」と宮崎づくし。
今回謎だったのは、やくみつるが特に見せ場もなく横で串を食ってたこと。店員役の千葉が「ちばてつや」とかかっていただけに、いろいろ「意味」を考えてしまったのだが、亀田家と揉めたことくらいしかボクシングとの共通点もないし、出身も宮崎というわけでもないし、おそらく意味はないのだが、気になるキャスティングだ。
さて、来週から2週に渡りいよいよ韓国。何か電話でお願いをされていたようだが、果たしてその内容とは?
(文=柿田太郎)