『忘却のサチコ』に“ジーニアス黒田”再び! 踊る高畑充希に食う高畑充希……

 高畑充希の魅力を味わい尽くすグルメドラマ『忘却のサチコ』(テレビ東京系)。第9話となる今回もダンス、寸劇、そして見事な食べっぷりと、さまざまな顔を見せてくれました。

(前回までのレビューはこちらから)

■ジーニアスの恋

 人気作家・ジーニアス黒田先生(池田鉄洋)からアイドルとの対談の替え玉役を頼まれた幸子(高畑充希)の編集部の後輩・小林(葉山奨之)。

 第2話に登場したジーニアス黒田は外見を公表していないため、基本対談などはNGにしているのだが、そのアイドル・桃乃もぎか(岩田華怜)が自分のファンだと知ってしまい、どうしても断れない。なぜならジーニアスも桃乃の大ファンだからだ。

「こんな俺(もっさりロン毛の池田鉄洋)が出ていけるわけない!」との思いから、イケメンの小林が自分(ジーニアス)の替え玉をしないのなら原稿を書かないと駄々をこね、あげく難色を示す小林に土下座までする始末。

 しかし、小林に励まされ、「桃乃ちゃんに作品だけでなく、俺のことも好きになってもらいたい!」と、ダイエットを決意する。

 ダイエットで解決する問題なのだろうか? と思ったが、それは置いておこう。池田さんすみません。

 幸子はダイエットをバックアップするため、近隣のスーパー3軒のお惣菜ラインナップより考案した献立表や、1日の健康的なタイムスケジュールを作成するだけでなく、ジーニアスに運動させるために、桃乃の曲の振り付けまで「身体に叩き込んで」きて、ジーニアスに指導する。

 このアイドルの曲「理想の彼氏はあなただぴょん」が、今時のアイドルっぽい音で無駄にちゃんと作られており、フルで聴きたくなるほど。

 その曲に合わせ、アイドルさながらのダンスを真顔でする高畑充希と、同じ動きをする池田鉄洋。

 第2話のおにぎりミュージカルを思い出すコラボ。

 そして数日後、ダイエット失敗。

 桃乃のCM「牛丼をお腹いっぱい食べる人、好き、好き、大好きー!」にまんまとやられ、何十杯も食べてたらしい。

 悲しきファン心理。

 しかし購買力のあるファンを持つアイドルを使う狙いは、そこだから仕方ない。

 スズキの車を購入し、タマホームで家を建てた太いモノノフ(ももいろクローバーZのファン)も、きっといるはずだ。

 

■ジーニアスの想いが爆発

 ということで対談当日、いつも通りの容姿で現れたジーニアスに鹿のお面(被るタイプ)を装着させ、顔出しNGとして対談させる幸子。

 見た目はバンビーノのネタ「ダンソン~フィーザキ~」の狩られる側を想像してほしい。

 対談中も桃乃の質問に答えず、無言でしばし見とれてしまうダメなジーニアスに、手を叩き意識を戻させるなど、けなげにサポートする幸子。

 しかし桃乃のジーニアスを気遣う心に、ジーニアスの想いが爆発。

「僕、桃乃さんのこと、前のグループ、ブリングトップに入る前の素人時代の踊ってみました動画の頃からずっと見てました! 桃乃ちゃんがアイドルとして成長していく過程が僕の創作意欲の原点になってることは間違いありません!」と熱くぶちまけ、あげく嗚咽を漏らすほど興奮。

 引かるかと思ったが、桃乃もジーニアスの手を握りしめて感激、その後、対談はジーニアスの1人しゃべりが5時間に及んだという。

■このシリーズ一番のジェットコースターな展開

 ふらふらになりながらの帰宅途中、ガッツリといきたい幸子は程よく汚いジンギスカンの店に飛び込む。

 今回は逃げられた俊吾さん(早乙女太一)を忘却するためではなく、単にエネルギー補給としての入店。

 一人席に着き、マトンスライスジンギスカンを注文するが、横の席のカップルから「一人でなんでもできちゃう女って、かわいげないよなあ」と揶揄する声が漏れ聞こえる。

 普通のグルメドラマなら、ここからはただジンギスカンを美味しく食べるだけのシーンになると思うのだが「私、一人でなんでもできるからダメなんでしょうか……かわいげって、なんでしょう……」と、ヒツジ肉の焼ける音をバックに悩む幸子。

 さらに「もしも幸子がきゃぴきゃぴした女の子だったら」の妄想シーンに突入。お揃いのロンTを着た俊吾さんといちゃつきながら、ツインテールでパフェを食べる幸子。

 この幸子、いや高畑充希のツインテールの似合いっぷりが半端なく、素直にかわいいと思いました。すみません。

 この妄想にバットマンのようなマントを広げ、シルクハットを被った白井編集長(吹越満)が登場するのだが、この意味不明なキャラも妙にハマっていて、ジンギスカンの焼ける音で唾液が出かかってる最中に何を見させられているんだろうと変な気持ちになる。

「もしも私がそんな風(きゃぴきゃぴ)だったら、俊吾さんはソバにいてくれた……? ……でも……そんなの私じゃない」

 妄想しつつ悩んでいた幸子がふと真顔に戻り、こちらもハッとさせられたことろに、間髪入れずに

「おまたせしました~マトンスライスジンギスカンになりまーす」と注文が到着。

 相変わらず短い時間に丁寧に詰め込んで、観る側をさりげなく揺さぶる作り。地味なジェットコースターに乗ってるようだ。

「そんなの私じゃない」の言葉の耳に残る中、画面にはボールに入った生のマトンともやしが映っている。余韻の波状攻撃。

 いろいろあるけど、結局身体に食べ物を入れないと始まらない。

 いろいろあるけど、明日からも続いていく。

 フィーザキーされた羊の肉を頬張る幸せそうな幸子。

 どんな人間も、忘却しないと生きていけない。

 うるさいカップルを尻目に、一人でジンギスカンを楽しむ幸子を見ていると、なぜかこちらまで幸せな気持ちになってくる。

 こちらのそんな気持ちなどお構いなしに、画面では幸子は延々もやしの感想とか述べている。油断できないドラマだ。

 今回は前半に早乙女太一、ふせえりとの贅沢な演劇シーンもあり、時間稼ぎのようなシーンで誤魔化さず手間を惜しんでないのがうれしい。

『男はつらいよ』のタイトル前の夢芝居みたいなのが毎回数本入ってくるわけだから、撮る側もやる側も大変だ。

 

■小林の片想いは実るのか?

 体調を崩して対談に来れなかった小林が、幸子しかいない編集部に戻ってくる。

「佐々木さんに早く認めてもらいたいので」と、片想い丸出しの小林。

 対談すっぽかしたお詫びにと飯を誘うが、当然幸子は食べてきたからと断る。

 残念そうな小林に「デザートならまだ入ります」と幸子。

「デザートの美味しい店ですね」と生き返ったように検索しだす小林。

「さ、仕事がんばりますよ!」

「はい!」

 暗い編集部に佇む2人の背中でエンディング。

 なんか合ってるかわからないけど、これぞハッピーエンドという気持ちになりました。

 残りの回もあと少し。最近は小林の片想いぶりがハマっているので、そちら目線でも見てしまう。まったく小林の想いが届いていなさそうだったのに、今回のデザートのくだりはちょっとずるい。

 幸子、わかっててやってるのだろうか……? だとしたら、さじ加減が絶妙。また次回。
(文=柿田太郎)

『忘却のサチコ』サワークリームのような甘酸っぱい葉山奨之に母性を刺激される……今回はロシア料理!

 グルメだけにとらわれない新感覚グルメドラマ『忘却のサチコ』(テレビ東京系)。第8話は幸子(高畑充希)を想う後輩の気持ちが、さらに膨らんだ模様。振り返りましょう。

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■大和田伸也、ふたたび

 ライバル誌に大物作家・有村(大和田伸也)の作品掲載を奪われてしまった幸子が編集者を務める文芸誌「さらら」。担当編集者である小林(葉山奨之)がSNSで有村と接している知った編集長(吹越満)は、「ちゃんと会って話さないとコミュニケーション取ってることにならないでしょ?」と注意するが、「わざわざアポとって対面するのって非合理的じゃないですか?」と言い返す“ザ・イマドキノワカモノ”な小林。

 第3話でモンスター新入社員として登場した頃を彷彿とさせる。

 以前より社会人として「まとも」になったように見えていたが、先輩(幸子)との会話中に会社近くで長崎物産展をやっていたから買ったというカステラを広げ、食べ出すなど、相変わらずのマイペースぶり。

 そういえば初登場した時も会社の冷蔵庫を熊本名物「いきなり団子(だご)」で埋め尽くし幸子に注意されていた。

 おそらく意味はないのだろうが、やけに九州の銘菓ばかり食べてるのが気になる。

 

■長崎カステラで宮崎を思い出してしまう幸子

 小林の教育係で、かつ、有村の前・担当者だった幸子は「有村奪還」に向けて動き出すも、カステラ→長崎→九州→宮崎→俊吾さん(前回宮崎旅行中に再会した)と多少強引な連想ゲームで俊吾さん(結婚式当日に失踪した元・新郎=早乙女太一)を思い出し苦しむ。

 たまらず小林のカステラを一切れもらい、「忘却」を試みる幸子。何度もいうが、幸子は美味しいものを食べているときだけ俊吾のことを忘れられる体質だ。

 ザラメ砂糖の甘さや、ふわふわの食感に酔いしれる、そんな幸子を幸せそうに見つめる小林。彼は今、幸子に片思いしており、三角関係が形成されつつある。

 そんな小林の気持ちなどつゆ知らず、さっそくSNSの投稿から、4時間後にバー「ノクターン」に有村が現れると分析する探偵幸子。

 有村が「SNSに上げた写真のお店と日付と時間を全て書き出し、統計を取った結果」から割り出したという。それが実際当たっているからすごい。

 生真面目すぎる奇人ぶりがクローズアップされがちだが、社員として実にデキる人だ。

 

■王道の展開で光る母性キラー・葉山奨之

 そして、今回そんな幸子の「ライバル」として登場したのが、有村をたぶらかし作品掲載を奪ったライバル誌「月刊スピカ」の尾野(佐藤めぐみ)。

 オンナ丸出しでベタベタと接し、ホステスのように有村をたぶらかす尾野に対し、「今回の作品、物足りなく感じました」と気持ちをまっすぐにぶつける幸子。

 担当でもないくせにと尾野に詰め寄られるも、担当ではないが先生の作品を愛していると、曇りのない眼で真摯に訴える。

 それでいて「ファンである以前に編集者でありたいと思っています。作家の可能性を最大限に引き出すのが編集の仕事です。今回の作品に関しては書き直しをお願いしてもよかったのではないかと思っています」と踏み込む。

 怒ると思われた大物(有村)が、しっかり意見を言ってくれる主人公(幸子)を好意的に受け入れ、ライバル(尾野)が悔しがるという王道のパターン。

 危なっかしくも頼もしい幸子の活躍を、横でハラハラしながら見守る後輩・小林の目線がいい。

 葉山奨之は『モンテ・クリスト伯 ―華麗なる復讐―』(フジテレビ系)で上手いんだか下手なんだかわからない悪人役で存在感を見せていたが、こういう少しダメなイマドキな若者役が一番ハマると思う。原作のイケメン小林よりもかわいさが強いのは、葉山だからだろう。なんというか、母性を刺激するオーラがにじみ出ている。

 そう言えば『モンテ・クリスト伯』でも、自分を赤ん坊の頃に生き埋めにした実の母・稲森いずみの母性を歪んだ形ではあるが刺激しまくっていた。

■鈍感なサチコ

 結局、有村から次回の作品掲載の約束を取り付けた幸子は、小林に誘われロシア料理の店に。いわば祝杯だ。

「注文は任せてもらっていいですか?」

「苦手なものとかないですか?」

 小林は片思いしてる幸子とご飯ができる幸せに満ち溢れている。吊り橋効果的なものもあったであろうから尚更だ。

 ピロシキを食べてみたいと考える幸子の気持ちを汲んで「ピロシキは絶対に頼みますね」と言う小林。驚く幸子。

「なんでわかったんですか、私が考えていること」

「それくらい、ちょっと考えたら誰でもわかります」

「みんなそうなんでしょうか……私は今まで相手が何を食べたいかなんて考えたことなかったです」

「僕だって普段はそうですよ」

 実は不器用な2人が、いつも以上に距離の近い会話を自然としてるのが微笑ましい。

 そしてさりげなく幸子への気持ちを口にしている小林だが、こういうことに鈍感な幸子にはまるで届かない。

 小林にはデート、幸子には食事なのだ。

 結局このときも、幸子は俊吾のことを思い出していた。それでも幸子を喜ばそうとメニューを説明する小林が健気だ。

 モンスター後輩だったくせに、感情移入させられるとは少し悔しい。

 

■怒涛のサワークリーム

 まずやってきた皿は「ペリメニ」。小麦粉の皮でひき肉を包んで茹でたロシアの水餃子とのこと。

 ロシアにも餃子が……と幸子は驚いていたが、中国の周りの国には、必ずと言っていいほど餃子っぽい料理が存在する。モンゴルには「ボーズ」という蒸し餃子、ネパールには「モモ」という水餃子が有名だからあの広大なロシアに餃子があるのも頷ける。

 ソースにサワークリームを使っているとのことだが、今回のこの店は「フランス風ロシア料理」とのことで、さらにラタトゥーユまで添えてある。

 フランス風ロシア料理だから馴染みやすいというニュアンスで紹介されていたが、ロシア料理どころかフランス料理すらまともに食べたことがない筆者的には、あまり響かず、なんならサワークリームと聞いてプリングルスのサワークリーム&オニオンを想像してしまう始末。お恥ずかしい。

 続いてピロシキやボルシチなど定番をたいらげ、そしてメインのビーフストロガノフが。

 ハヤシライスとは完全に別物の、でかいビーフがゴロゴロした豪華なやつから湯気が立ち込める。

 ここにもサワークリームが入ってるし、ボルシチにもしっかり添えられていた。日本でいう醤油とか味噌みたいな感覚なのだろう。

 厳密には、本来のロシア料理でよく使うのは「スメタナ」という発酵食品で、実はサワークリームとは別物らしく、こちらはこちらで気になる。ぜひプリングルスで出してほしい。

 一口食べる度に新しい味がどんどん出てくるこの味を「味のマトリョーシカ」を表現する幸子。

 美味しいもの食べている時の幸子は無言ながら、脳内は実に饒舌だ。今回は美味しすぎて幸子の背景にコサックダンスをする群勢が登場。この恒例になりつつある変な効果のシーン、大好きです。

 

■深まる俊吾の謎

 終盤、有村争奪戦に負け悔しがるライバル・尾野が「次会ったら絶対復讐してやる!」と叫ぶなど、割とオーソドックスな展開が目立った回だったが、気になるのはやはり俊吾さんの謎。

 幸子の回想によると、俊吾は入籍を決めていた日が一粒万倍日(一つのいいことが数万倍になるくらい幸運な日とされてる、入籍には大変適した日)だと知り、その日に悪いことをしたらどうなるのか気にしていた。幸子いわく「もちろん数万倍になります」とのことだが、その直後、何かを言おうとしてした俊吾。

 幸子に遮られそれは聞けなかったのだが、あのとき何を言おうとしていたのか? 幸子も今更ながら気にしていた。

 帰り際、本当はオールで幸子と過ごしたい気持ちが見え隠れする、まるでサワークリームのような甘酸っぱい小林と、駅まで急ごうとする何も感じていない幸子。

「本当はちょっと落ち込んでたんです。ありがとうございました。」

 と、理屈屋のくせに素直にしっかり礼をいう小林に、最後まで母性をつつかれる。筆者は中年男性なのに。

「小林さんが有村先生の最高傑作を持ってきてくれるのを楽しみに待っています。」

「早く佐々木さん(幸子)を安心させられるよう頑張ります。」

 こういうのを見せられると、小林と上手くいってほしいと素直に思ってしまう。無理だろうけど、まずは阿部先生(原作者)お願いします。

 そして、第9話には原作に忠実な、あのジーニアス黒田先生(池田鉄洋)が再登場。笑わせてくれつつもホロリとさせられそうな予感が……楽しみです。
(文=柿田太郎)

『忘却のサチコ』グルメドラマなのに展開が気になるなんて……ついに本物の“俊吾さん”が登場!

 高畑充希に笑い、泣かされ、腹まですかされる新感覚なグルメドラマ『忘却のサチコ』(テレビ東京系)。第7話となる今回は、前回の宮崎遠征の続編。友人の結婚式が行われた高級ホテル(シェラトン)で、かつて自身の結婚式の最中に失踪した元・新郎とばったり出くわした問題のシーンからスタートです。

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■幸子、男湯へ

 今まで何度か俊吾さん(元・新郎=早乙女太一)らしき人は登場してきた。しかしそれは幸子の妄想だったり見間違いばかりで、その都度幸子はザワつき、肩をそっと落としてきた。

 今回の「俊吾さん」は、ホテルのロビーを清掃する従業員。慌てた幸子は俊吾さんらしき人物を見失うまいと追いかけ、男湯にまで突入。あげくセグウェイに乗りながら「俊吾さああぁぁぁーーーん!」と松林で絶叫。その声量はカラスの群れが鳴きわめくほどで、おそらく演出というよりハプニング。

 俊吾さん本人か? と、やきもきする視聴者の気持ちを手玉に取るかのように面白シーンを畳み掛ける演出。ちなみにドラマ公式Twitterによると高畑は5分でセグウェイを乗りこなしたというから、お見事。

 

■マツコも夜更かしで食べたトウモロコシ

 結局、俊吾さんは見つからず、疲れ果てた幸子はホテルにて「宮崎の旬なお野菜スープ(月替り)」をオーダー。

 出てきたのは宮崎県産とうもろこし・ゴールドラッシュを使った冷製スープ。

 飲んだことないけど、絶対美味しいであろう黄金色に輝くその見た目。表面は白く泡立ちビールのよう。

 かつて、ゴールドラッシュを紹介していた『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)によると、その糖度は18度。調べてみるとメロンと同じで、イチゴやリンゴ、柑橘類よりは上だが、熟したバナナよりは下くらい。そもそも果物ではないし、茹で汁まで甘いというから、よっぽどだろう。

 そんな、マツコを唸らせた品種をサチコが飲み干す。

 冷たいスープを飲んでるのに、ほわぁ……っとあったかいスープを飲んだかのような吐息を吐く。それだけ沁みる美味さなのが伝わる。

 だが、いつものように生真面目を絵に描いたようなサチコ歩行(進行方向を直角に曲がる)で歩く幸子の顔は曇ったまま。

 美味しいものを食べているときだけ俊吾さんのことを忘れられるというのが、この物語の基本コンセプトなのに、それを揺るがしかねないピンチ。

 それを打開するためにか、タクシードライバー(温水洋一)に教えてもらったネオン輝く繁華街・ニシタチ通りに繰り出した幸子。お目当ては元祖もも焼き・丸万焼鳥本店という地元では誰もが知る人気店。

 

■鶏料理の最高峰・宮崎炭火焼

 宮崎名物・鶏の炭火焼特有の、あの業火の中で焼かれる肉を目の当たりにしたサチコは、

「もはや調理というよりも戦いではないですか…」

「わたし対……鶏!」

 と、徐々にヒートアップ。

「鶏のもも焼き」「鶏のタタキ」「鶏のモツ焼き」と「鶏3連戦!」に挑む。

 鶏のタタキは黄色い皮が炙られ脂が溶けかけながらもレアな肉の弾力はそのまま、歯ごたえを楽しみながら脂の旨味も味わえる一品。水で晒したらしき玉ねぎスライスとの相性も抜群で、幸子の顔に笑みが戻る。

 モツ焼きは口にいれると「風味が一気に広がってくる」という旨味の爆弾。

 たまらずビールを注文する幸子。初めて見かける、幸子、本心からのアルコールオーダー。

 そしていよいよ、もも焼きの登場。見た目はただの焦げ茶色のコマ切れが学食のような銀の皿に乗っているだけの無骨さ。

 タタキには玉ねぎ、モツ焼きには焼いたトマトやシシトウが添えられていたが、もも焼きにはメイン以外何もなし。

 逆に風格すら感じるたたずまい。

 筆者もこの料理が大好きで、鶏料理の中で一番だと勝手に決めている。塩だけの味付けなのに鶏の旨みが炭の風味で包まれて、思い出すだけでヨダレが湧く。

 幸子に至ってはヨダレどころか「暴れてる、誰かが口の中で暴れてる!」とUMAの存在を示唆するほどのハマり具合。

「同じ鶏からこれだけの味の違いを出せるなんて、なんて奥が深いの、鶏!」

 箸が止まらず満足そうな幸子の背景に、荒ぶる猿の群れを効果で入れ込むこのスタッフはなかなか頭おかしい。

 しかし、今回ばかりはグルメ以上に気になるのが俊吾さんは本人なのか問題。

■ついに、俊吾さん登場

 入浴後、牛乳を飲みながら幸せそうに佇むサチコの前に現れたのは、例の「俊吾さん」かもしれない従業員。

 結論からいうと、この俊吾さんは本人だ。気付いた幸子のすっぴんが固まる。

「す、すいません……」と気まずそうに立ち去ろうとするリアル俊吾さんを「あの……!」と呼び止め、ようやく絞り出た続く幸子の言葉が「……お元気でしたか?」。

 かつて24時間テレビで前人未到の200キロマラソンを終え、ゴールしたばかりのヘロヘロの間寛平に向かって「初めまして、裕木奈江です」と自己紹介を丁寧にかました女優・Yを一瞬思い出したが、それはさておき、ドラマを見続け保護者目線になってきてる我々視聴者には、この幸子の不器用さがたまらなく愛おしい。

 何を聞いても「ごめん」としか言わない俊吾さんに対し、

「お会いして早々大変お聞きにくいことをお尋ねしますが~」

「このようなことは申し上げたくはございませんが~」

 と、いつもの幸子より声をやや荒らげながらも、いつもながらの丁寧さを保持しようとする幸子に胸を打たれる。

「仕事が終わったらちゃんと全部話すから」と、0時に焚き火のあるリビング(ホテルのロビーにある)に来てくれと言い残し、俊吾は消えていった。

 夏の日に2人で花火をした記憶を蘇らせながら、焚き火を見つめる幸子。結局俊吾は来なかった。

 幸子の宿泊部屋のドアの下に置いてあった俊吾からの手紙。

「すまない。やはりまだあの日のワケを話すことはできない。ごめん」

 さらに「この手紙を読む頃にはもう僕はこのホテルにはいません。だから探したりはしないでください。本当にごめん。」とつらい内容が。

「どうして……なんで……」と俊吾さんを責めるような口調から一転、「なんでまた行っちゃうの……」と泣き声になるかならないかくらいの掠れた声を絞り出し、気持ちを決壊させ膝をつく幸子。

 我々が思っていた以上に幸子は俊吾さんのことが今でも好きだし、全然『忘却』なんてできちゃいなかった。

 いろいろ笑って見ていたあげく、それを少し申し訳ない気待ちにさせられるなんて、なんだか悔しい。

 その直後一発目のCMで「クリスマス、ケンタッキーにしない?」とパーティーバーレルを抱え笑顔で微笑む幸子、もとい高畑充希。

 もう炭火焼のことすら忘れてしまってるようで、それも悲しい。

 

■温水洋一が男前に

 眠れずに迎えた翌朝。

「こんなときにも」と腹の音が鳴る幸子は、訪れたうどん屋でタクシードライバーと再会。「行きましょ行きましょ」と店内へ連れ込まれる。

 根掘り葉掘り聞いてきたり、つまらない冗談を言ってきたり、リアルな生活で出会ったらきっと鬱陶しく感じてしまうタイプの人かもしれないが、一晩でいろいろ通過し、昨日とは違う景色を見てる幸子には、変わらず接してくる運転手のズケズケさが心地いいに違いない。

 2人で「天玉かうどん」をすする。

 丸天という蒲鉾を揚げた「天」。

 玉子の「玉」。

 天カスの「か」。

 で、「天玉か」。

 うどんの説明をしてくれるだけなのに、温水が昨日より男前に見える。

 讃岐より全然柔らかく、「腰ゼロのうどん」。

 讃岐ブームのおかげで、逆に大阪や福岡、宮崎の柔らかいうどんにも注目が集まるようになった。

「宮崎の人はこの柔らかくてあったかいうどんが大好きなんです。これ食べて、元気をつけて、こっから今日1日を始めるとですよ」

 人間は、口に入れたものからしか身体を作ることはできない。

 柔らかい麺をすすり、汁を飲む幸子は、今回は『忘却』していないように見えた。

 それは美味しくなかったからではなく、忘れずに生きていこうと決めたからではないか。

 そうなるとこの番組が成り立たなくなるのだが、それくらいいい顔をしていた。

 ちなみに原作漫画で俊吾さんと出くわすのは宮崎ではなく、岩手は花巻の湯治場。

 真実を話すからと約束した待ち合わせ時間は、0時ではなく朝の4時。

 さすがに明け方まで待たせて消えているんじゃ鬼畜すぎるから、早めの時間に変えたのだろうか。

 しかし、俊吾さんの、やはりまだ話せない「理由(ワケ)」とは何なのか?

 いつも思い出すのは、フニャコフニャ夫の「ライオン仮面」(ドラえもん)。結末を決めずに展開を引っ張る漫画家(フニャコ)が毎週連載の執筆に困る話だが、作者(阿部潤)は、どこまで見据えて俊吾さんのことを先延ばしにしてるのか心配になる。

 いや、そこを気にするタイプの漫画ではないのは百も承知だが、原作以上にいじらしく真っ直ぐなドラマの幸子に親心を抱くたびにそう思ってしまうのだ。

 俊吾はホテルの従業員仲間に、宮崎に来た理由を「大切な人を傷つけてしまって」(原作では裏切ってしまって)と言っていた。今でも「大切な人」であるのは本心だろう。

 そろそろ佳境を迎えるドラマ終盤、どうまとめるのか。

 原作は連載中だし、ドラマも好評なので、続編を作るためにまだ引っ張ると思われるが、どこまでを描くのか。

 グルメドラマで展開を気にすることになるなんて、悔しいけど続きが楽しみです。
(文=柿田太郎)

 

高畑充希と温水洋一の2人旅『忘却のサチコ』美女と野獣で宮崎を食べまくる

 悲喜こもごもを織り交ぜた新感覚グルメドラメ『忘却のサチコ』(テレビ東京系)。第6話は、我らが佐々木幸子(高畑充希)が友人の結婚式に参加するため単身宮崎遠征。美味しいものにまみれた宮崎を、まさかの温水洋一と旅するロードムービーになりました。

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■「けっこん」が言えないだけで面白い

 まずドラマ冒頭は、久しぶりとなるお母さん・和代(ふせえり)との親子コントからスタート。

 今回は宮崎に住む友人から結婚式へのお誘いのハガキが来たことで、出席すべきかどうかのやりとりが繰り広げられます。

「ああいうことがあったばかり」で「傷も癒えてない」のだから、無理に出席することはないと心配する和代。

 何度も言ってますが、幸子はかつて自分の式当日に新郎が失踪しており、その記憶を忘れるためにグルメに目覚めたという設定。

 式当日はあり得ないほど淡々と振る舞うも、やはりダメージは根深く、今までさまざまな美味しいものを食べて一時的に元新郎(俊吾さん=早乙女太一)を忘却してきたものの、今回はなんと「けっこん」という言葉が言えないという「後遺症」が判明。

 幸子は「もう傷は癒えてるから」と式へ参加の意向を伝えようとするも

「だからあゆみ(友人)のケッ、ケッ、ケ、クッ、コッ……コッ……ッ……(息が乱れ出す)」

「言えないの? もしかして言えない単語があるの……?!」

 心配する母・和代と、どうしても「けっこん」が言えない幸子のやりとりが、くだらなくも面白い。

「あゆみの……ケッ……ケッッ……ケゴス……!」

「ケゴスって何よおおおおお……!」

「けっこん」が言えないまま幸子は宮崎へ旅立ちます。

 

■機内から九州を満喫・アゴユズスープ

 機内のサービスドリンクに「アゴユズスープ」があるとわかるなり、すぐさまオーダーする幸子。もちろん無料だし、これは飲みたい。

 調べてみると、ソラシドエアのアゴユズスープは長崎県産アゴ出汁と大分県産柚子を使ったスープ、というかお汁で、機内販売もされてる模様。

 最近は全国的にお馴染みになってきたアゴとはトビウオのことで、長崎を中心に九州北部ではお雑煮もアゴ出汁で作る、まさにソウルフード。

 カツオ出汁ともいりこ(煮干し)出汁とも違うあの風味に柚子が加わるなんて、毎日飲みたい。きっとうどん入れても美味いはず。ちなみに長崎の五島うどんも、もちろんアゴ出汁。

 機内から九州気分が高まる幸子。

 

■温水洋一とチキン南蛮

 空港に到着し、タクシーに乗り込むも、ここでも「けっこん」の言葉が言えず「け……けこ……」とカエルみたいになってしまう悲しくもかわいい幸子。

 式までに症状を改善させるため、運転手(温水洋一)に宮崎グルメを案内してもらう。

 やけに宮崎弁が自然だと思ったら、温水は宮崎の都城市出身。そのまんま東国原元県知事と出身もフォルムも同じだとは。

 まずは地元の有名店「ふるさと料理・杉の子」でチキン南蛮と冷汁を賞味。

 本場のチキン南蛮はタルタルソースをケチらずぶっかけてるのが気持ちよく、なんならちょっとしたカレーくらいかかっている。

 ちなみに宮崎チキン南蛮にはタルタルなしで甘酢を通しただけで「チキン南蛮」とする流派(直ちゃん)と、甘酢を通した上でタルタルぶっかけ流派(おぐら)の2流派が存在する。

 タルタルなしも、それはそれで食べてみたい。

 今回はタルタルチキン南蛮だが、それを鼻息をふんふん鳴らせながら貪る幸子。ここまでハッキリと女優の鼻息を聞いたのは初めてかも……と、どうでもいいことに気付きながら、幸子の幸せそうな食べっぷりにこちらの腹も鳴る。

■冷汁に完熟マンゴーの畳み掛け

 そして「冷汁定食」到着。

 きゅうり塩もみ、崩した豆腐、みょうが、シソ大葉が入った冷汁を麦飯にぶっかけてすする。

 見た目は似てるものの「想像した『冷たいお味噌汁』とは全然違う」と驚く幸子。

 この店ではどうかわからないが、焼いたアジのほぐし身やゴマを味噌に加えてすり合わせ、それをすり鉢ごと直火で炙るのが「冷たいだけの味噌汁」にしないキモのようだ。

 さらに移動し、今度は店頭で完熟マンゴーを。切り口に格子状に切れ込みを入れて皮のついたままの裏側をボコッと押すと、身がボコッと出てくるあの切り方。

 太陽のタマゴというブランドマンゴーには、今年の初競りで2個40万の値がついたというから恐ろしい。

 よく高級食材に「食べる宝石」という例え方があるが、本当に宝石が買えるほどの値段。

 ドラマでは当たり前のように運転手がオーダーして幸子に食べさせていたが、安いのでも1個数千円はするはずなので、ケチな筆者はそこにドキドキしました。

 

■縁結びの地でダメージを受ける幸子

 失踪した元新郎のことを、またしても思い出してしまい、元気のなくなった幸子は、運転手に有名な観光名所・青島に連れて来られる。

 しかしそこは今や男女の縁結びとして名を馳せる地、傷口に塩を塗り込まれた幸子は「恥ずかしながら逃げてまいりました」と、横井庄一のように島から帰還する。こちらは徒歩でだが。

 青島は今はほぼ沿岸と地続きになりつつある小さな島で、中央に青島神社があるのだが、江戸時代中期までは神聖な場所のため一般人の参拝が禁じられていたという。

 そのころなら幸子がカップルの猛威に苦しめられることもなかったろうに。

 しかし、海岸で宝貝(コーヒー豆みたいなやつ)を探しだすと(本宮近くの場所に納めると)願いが叶うと教えられ、嫁ぐ友人のためにとフォーマルな装いのまま地べたに張り付き潮干狩り開始。

 友人の幸せのため必死に貝を探す姿は、変人だが純粋な幸子をよく表している。

 見つけた貝殻を友人にあげるのかと思いきや、所定の場所に納めて、初めて「願いが叶う」と聞き「神社側が適度に撒いてるのではないか?」と勘ぐってしまう筆者とは、えらい違いだ。

 しかもその「所定の場所」は狭く、明らかに宝貝ではない貝がてんこ盛りになっている。遠目に見ると、ほぼホタテ貝の山。

「旦那様とずっと幸せでありますように」と友人のために手を合わす幸子。

 ホタテの山を武田久美子のクローゼットとしか思えなかった筆者とはえらい違いだ。

 ちなみに青島に貝殻や砂が集まるのは、黒潮の本流と、四国に当たって跳ね返ってきた流れとの2つの海流がぶつかる場所だからとのこと。『ブラタモリ』で言ってました。

 

■幸子、実は魚に詳しい?

 その後、幸子はすぐそばの「港あおしま」という漁協直営の食堂で新鮮な刺身を味わうことに。

 昼の時間(11時から14時半)しかやっていないのが、なんかプロ御用達な感じがしてうれしい。海鮮定食が到着するも、数種の刺身の中からなんの説明を受けずとも「まずはカンパチ」と箸を伸ばす幸子。

 一目でブリともハマチとも悩まずカンパチと確定する幸子の目利きに驚く。メニューに書いてあったのだろうか……?

 さらに「次はヒラアジ」と続けざまに驚異の目利きを披露。

 アジだとはわかってもヒラアジだなんて切り身からはまずわからないと思うのだが、ガチで見分けてるとしたら、すごい。

 しかし刺身のヘリがピンと立つほど新鮮なのがよくわかる。

 九州特有の甘い醤油に一瞬驚きながらも、美味しく食べる幸子。これが漫画版の井之頭五郎(『孤独のグルメ』)なら食べながらも何かしらの文句を言いそうなものだが。

 湯引きハモ、タチウオも平らげ、一度は心折れかけた結婚式へ向かう決心を固める。

 シーガイアにあるシェラトンホテルの挙式会場にて、友人の目を見てしっかりと「結婚、おめでとう」と伝える幸子。言えました。一歩前進。

 しかししかし、式を終えロビーに出たことろで、またしても俊吾さんらしき人が従業員として働く姿を発見!

 もはや何度目なのか、この俊吾さん発見詐欺。

 なんとなく『母を訪ねて三千里』を思い出すこの構成。さて、次回こそ、次回こそは俊吾さんに出会えるのか?

 ちなみにこの「友人の結婚式のため遠征し、式前にタクシーで地元食を食べ回る」というエピソードは、原作においては香川が舞台となっており、うどんタクシーに乗り(実在するらしい)讃岐うどんを食べまくっている。セルフのうどんをすすりまくる高畑充希も、いつか見てみたい。
(文=柿田太郎)

モテ期到来の『忘却のサチコ』高畑充希の無防備さに、親心がうずきだす!?

 高畑充希演じる極度の堅物OL・佐々木幸子が、結婚式当日に新郎(俊吾さん=早乙女太一)に逃げられたという悪夢(現実)を忘れるため、グルメ道に目覚め邁進する飯テロコメディ『忘却のサチコ』(テレビ東京系)。幸子が慣れないコンパにデートに意欲的に挑戦した第5歩(第5話)を振り返ります。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■簡単に信じてしまう無防備な幸子

「新しい出会いしか過去の恋愛を忘れる方法はないと思うんですよねーワタシ」との持論を持つ同僚の“ザ・ゆるふわ女子”橋本(逢沢りな)に誘われ、合コンに参加することになった雑誌編集者・佐々木幸子(高畑充希)。

 幸子は絵に描いたような堅物なので、当然コンパになど参加しなさそうだが、根底は子どものように素直なので納得してしまうと実に素直に受け入れてしまう。

 今回も「新しい作家を見つけるためにたくさんの原稿を読むでしょ? 合コンも新しい恋を見つけるためのコンテストだと思えばいいんですよ」と橋本に提案され「合コンのコンはコンテストのコン」と簡単に納得しかけたほど。

 以前も池田鉄洋演じる人気作家(ジーニアス黒田)に原稿を依頼する際、コスプレで来たら考えてもいいと言われ、白昼の住宅地で即座に美少女キャラのコスプレを装着するなど、しっかりしているように見えてたまに無防備だ。

 今回はその危険な「素直さ」がいろいろと笑いを生み出す。

 いわば「コンパやデートに不慣れな人間が巻き起こすコント回」なのだが、締めるところは締めて魅せてくれます。

 

■コンパ中に会話をメモる生真面目さ

 ということで始まった3対3の合コン。こじゃれた店で早速乾杯。

「素敵なみなさんと出逢えたことにかんぱーい」「まずは自己紹介、じゃあ女子から!」と、仕切る男性陣はコンパ慣れしてる様子。

 幸子と橋本以外のとある女子ととある男子が同じ大阪出身とのことで盛り上がる一同。

 しかし幸子はテーブルの下で逐一その会話をメモ書きする。

 橋本に事前に受けたアドバイス《男子の自己紹介の内容をしっかり覚えておけば後々の会話で「覚えててくれたんだあ(ハート)」と好感度が上がる》を、幸子なりに実践しているのだ。

 しかし空気もクソも知ったこっちゃない真っ直ぐな幸子は、本領を発揮しだす。

「そちらの方(大阪出身の男子)、公平性を保つため、まず名前をお名乗りください」

「先ほどの発言、『関東人はコレやから』の『コレ』が何を指すのか不明瞭です。教えていただけますか?」

「『意味はない』でよろしいですか?」

 文字にするとドラマで見てた以上にヤベエ奴である。橋本がどんな思惑で幸子を誘ったのかイマイチわからなかったが(人数合わせ?)、こうなると絶対に呼んではいけない人員だ。

■へべれけに酔っ払う幸子

 さらに幸子は《相手と同じ飲み物を頼むと好印象を得られる》という同調行動を利用した橋本のアドバイスに従い、男女構わず、誰かが酒を注文するたびに同じものをオーダー。挙げ句、べろんべろんに酔っ払ってしまう。

「橋本しゃん、合コンのコンは混沌のコンなのれしゅね?」と橋本にへべれけの笑顔で微笑むぐでんぐでんの幸子。

 この極度の不器用さ、ここまでくるとある意味「男性が守ってあげたくなる、男性に都合のいい理想の女子」だ。しかも見た目は高畑充希。危険な男が一方的に深くハマって来そうで心配だが、そこに現れたのは遅れて到着した関西弁イケメン男子・梶(清原翔)。

「すきっ腹で飲むからや(笑)」「なんか食い行かへん?」

 店でうたた寝てして、一人取り残された幸子を屋台へと連れ出す梶。

 しかし関西弁と言うのは会話の距離を詰めるのが早い。賛否はあるだろうが、コンパのためにあるような言語だ。

 

■揚げパンで思い出す記憶

 結論から言うと、梶は小学校まで幸子と同じで(中学で関西に転校)、幸子は忘れて途中まで気づかなかったものの、当時片思いしていたという梶はどんどん幸子にアプローチをかける。

 まず連れて行った先が揚げパン屋台という実にニッチなスポット。わからないが、とにかくモテそうなチョイスだ。

 目の前で油で揚げられ、きな粉の中を転がされたコッペパンが美味くないわけがない。

 幸子は「給食の中で一番好きだった」「懐かしさがこみ上げてくる」と、きな粉をまぶした揚げパンを頬張っていたが、筆者が子どもの頃、給食で出てきた揚げパンは砂糖オンリーがまぶされたもの。筆者は東京だが、地域によって違うのだろうか?

「揚げパンて戦後にできた東京の給食のメニューなんやて。お腹すかせた子らのためにこんな美味いもん考えるなんて、ええ人やったんやろな、給食のおばちゃん(笑)」

 梶が揚げパンを齧りながら言ったセリフだが、地域の話はさて置き、実際これをリアルで言われたら「こいつ毎回この手口で女落としてるな?」と勘ぐってしまいそうなほど小慣れた言い回し。イチゴ牛乳を同時に差し出す手口にも「常習性」を感じるが、それ以上に気になったのが「関西発祥じゃないんかい」というところ。昔の東京のちょいといい話をバリバリの関西弁で語っているところに少々笑ってしまった。

 揚げパンを食べて子どもの頃を思い出していた幸子は、梶が小学校の時のあの「梶くん」だと、ようやく認識する。が、その時の「梶くんですか?」の言い方が、かつてのさくらんぼブービー(芸人)のネタ「カジくんだよね?」彷彿とさせた。懐かしい。

 かつての思い出を喚起させるために揚げパンをチョイスしたのだとしたら、梶はやはり相当なやり手だ。しかも全て自然にこなしている。

 さらに幸子が気づいたこのタイミングで「俺の初恋の人やし」と、さりげなく告白するあたりも手練れすぎている。あの、結婚式にて新郎(俊吾さん)が失踪してもさほど動じなかった幸子が、今回片膝をつくほどよろけていたし。梶くん、恐るべし。

 

■それでも俊吾さんを忘れられない

 なんだかんだで2人はデート(横浜・ズーラシア)するのだが、幸子は橋本にコーディネートされたらしく真っ白なロリータファッション。普段、オバケのQ太郎並みに同じデザインのリクルートスーツしか着ていないのに、この受け入れ方は、やはり無防備。

 ここでも橋本のモテ・アドバイスに従い、

・さりげなくボディタッチ→猿の毛繕いを真似て背中を不審に撫でるのみ

・会話で相手を否定しない→冗談を言われても突っ込まない

・うわ目使い→ヤンキーのメンチ切り

 と、順調に奇人ぶりを積み上げていく幸子。しかし基本、幸子に好意を持ってる梶くんはダメージを受けない。

 だが、幸子はヤマアラシに似てると言われ(これでもかというくらい身を守ってるところが……らしい)、失踪した俊吾さんを思い出してしまう。俊吾さんには、ゆっくり前進するという理由で幸子は亀に似てると言われていたのだ。ささいなことから開いてしまう記憶の扉。

「実は私、婚約者に逃げられてしまって、今もその人のことが忘れられず、少しでも前に進めるかと思っていたところ梶くんにお誘いいただきまして、それで……」

 全てを打ち明けてしまった幸子と、初めて顔を強張らせる梶。

 無言での気まずい帰り道「私、最低だ……」と、どっぷり凹む幸子。だがこんなに人間臭い感情を見せる幸子は初めてで、逆に少し安心してしまう。

 

■結局ナポリタンで忘却

 別れ際の喫茶店で、梶が幸子に食べさせたのは玉ねぎやピーマンゴロゴロ入った昔ながらのナポリタン。隠し味にシイタケやイカ、そしてベーコンとソーセージの肉っ気そろい踏み。味付けにケチャップだけじゃなくトマトも入れることでコクが出しているという。

 先ほどまでの気まずさも忘れ、美味そうに爆食いする幸子。もうその目には俊吾さんも梶くんも映っていない。ただただナポリタンの美味さに酔いしれる。

 タバスコや粉チーズを見つけるたびに目を輝かせて味変えを楽しみ、タバスコをかける際には下顎を突き出し猪木の顔真似まで披露(タバスコを日本に輸入したのはアントニオ猪木)する徹底ぶり。

 ここで最後についてくるコーヒーが飲めないからと勘定を済ませ、立ち去ろうとする梶。

「最後くらいカッコつけさせろや~。俺、待っとるから、佐々木がその婚約者っつう奴のこと忘れられるまで。忘れられたら、一番先に連絡してきてや」

 俊吾さんを忘れられない幸子を想っての実にかっこいい引き際なのだが、悲しいかな幸子が俊吾さんを忘却した際には、梶くんのことも跡形もなく忘却しているはず……。今さっきのナポリタンがそうさせたように。

 原作では、梶くんはもっと少年のような、いかにも恋が実らなそうな「いい人」感の強いキャラだったのだが、ドラマではリアルにイケメンになっていたので、幸子が本気で恋に落ちるのではと見ていてヒヤヒヤしてしまう。

 いや、落ちてもいいのだけど、どこか親心のような気持ちで見守ってしまうのは高畑マジックなのだろうか。

 しかも今回ラストに、前回登場したモンスターなイマドキ新入社員・小林(葉山奨之)が幸子に恋心を抱き出していることが判明し、幸子は完全にモテ期到来。親心がうずきます。

 今回も前回に引き続き狗飼恭子脚本に根本和政監督のペア。このコンビは必ずグッとくるいいシーンを入れてくる。

 今回は、幸子がヤマアラシに似てるというどうでもいい会話の流れで、かつての男(俊吾さん)を思い出してしまったり、正直に話しすぎて梶を傷つけたのでは? と幸子が落ち込んでしまったり。その辺だけやけに描写がリアルだ。

 ここにさらにグルメや面白パートが配置されるのだから、30分ではとても足りないはずだが、このドタバタくらいのペースがモタつかず深夜的に見やすいのかもしれない。

 次回はなんと宮崎ロケ。三崎以上の大遠征で、幸子は何を食べるのか? そして俊吾さんがまたしても登場。果たして今回こそ本人なのか? 楽しみです。
(文=柿田太郎)

モテ期到来の『忘却のサチコ』高畑充希の無防備さに、親心がうずきだす!?

 高畑充希演じる極度の堅物OL・佐々木幸子が、結婚式当日に新郎(俊吾さん=早乙女太一)に逃げられたという悪夢(現実)を忘れるため、グルメ道に目覚め邁進する飯テロコメディ『忘却のサチコ』(テレビ東京系)。幸子が慣れないコンパにデートに意欲的に挑戦した第5歩(第5話)を振り返ります。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■簡単に信じてしまう無防備な幸子

「新しい出会いしか過去の恋愛を忘れる方法はないと思うんですよねーワタシ」との持論を持つ同僚の“ザ・ゆるふわ女子”橋本(逢沢りな)に誘われ、合コンに参加することになった雑誌編集者・佐々木幸子(高畑充希)。

 幸子は絵に描いたような堅物なので、当然コンパになど参加しなさそうだが、根底は子どものように素直なので納得してしまうと実に素直に受け入れてしまう。

 今回も「新しい作家を見つけるためにたくさんの原稿を読むでしょ? 合コンも新しい恋を見つけるためのコンテストだと思えばいいんですよ」と橋本に提案され「合コンのコンはコンテストのコン」と簡単に納得しかけたほど。

 以前も池田鉄洋演じる人気作家(ジーニアス黒田)に原稿を依頼する際、コスプレで来たら考えてもいいと言われ、白昼の住宅地で即座に美少女キャラのコスプレを装着するなど、しっかりしているように見えてたまに無防備だ。

 今回はその危険な「素直さ」がいろいろと笑いを生み出す。

 いわば「コンパやデートに不慣れな人間が巻き起こすコント回」なのだが、締めるところは締めて魅せてくれます。

 

■コンパ中に会話をメモる生真面目さ

 ということで始まった3対3の合コン。こじゃれた店で早速乾杯。

「素敵なみなさんと出逢えたことにかんぱーい」「まずは自己紹介、じゃあ女子から!」と、仕切る男性陣はコンパ慣れしてる様子。

 幸子と橋本以外のとある女子ととある男子が同じ大阪出身とのことで盛り上がる一同。

 しかし幸子はテーブルの下で逐一その会話をメモ書きする。

 橋本に事前に受けたアドバイス《男子の自己紹介の内容をしっかり覚えておけば後々の会話で「覚えててくれたんだあ(ハート)」と好感度が上がる》を、幸子なりに実践しているのだ。

 しかし空気もクソも知ったこっちゃない真っ直ぐな幸子は、本領を発揮しだす。

「そちらの方(大阪出身の男子)、公平性を保つため、まず名前をお名乗りください」

「先ほどの発言、『関東人はコレやから』の『コレ』が何を指すのか不明瞭です。教えていただけますか?」

「『意味はない』でよろしいですか?」

 文字にするとドラマで見てた以上にヤベエ奴である。橋本がどんな思惑で幸子を誘ったのかイマイチわからなかったが(人数合わせ?)、こうなると絶対に呼んではいけない人員だ。

■へべれけに酔っ払う幸子

 さらに幸子は《相手と同じ飲み物を頼むと好印象を得られる》という同調行動を利用した橋本のアドバイスに従い、男女構わず、誰かが酒を注文するたびに同じものをオーダー。挙げ句、べろんべろんに酔っ払ってしまう。

「橋本しゃん、合コンのコンは混沌のコンなのれしゅね?」と橋本にへべれけの笑顔で微笑むぐでんぐでんの幸子。

 この極度の不器用さ、ここまでくるとある意味「男性が守ってあげたくなる、男性に都合のいい理想の女子」だ。しかも見た目は高畑充希。危険な男が一方的に深くハマって来そうで心配だが、そこに現れたのは遅れて到着した関西弁イケメン男子・梶(清原翔)。

「すきっ腹で飲むからや(笑)」「なんか食い行かへん?」

 店でうたた寝てして、一人取り残された幸子を屋台へと連れ出す梶。

 しかし関西弁と言うのは会話の距離を詰めるのが早い。賛否はあるだろうが、コンパのためにあるような言語だ。

 

■揚げパンで思い出す記憶

 結論から言うと、梶は小学校まで幸子と同じで(中学で関西に転校)、幸子は忘れて途中まで気づかなかったものの、当時片思いしていたという梶はどんどん幸子にアプローチをかける。

 まず連れて行った先が揚げパン屋台という実にニッチなスポット。わからないが、とにかくモテそうなチョイスだ。

 目の前で油で揚げられ、きな粉の中を転がされたコッペパンが美味くないわけがない。

 幸子は「給食の中で一番好きだった」「懐かしさがこみ上げてくる」と、きな粉をまぶした揚げパンを頬張っていたが、筆者が子どもの頃、給食で出てきた揚げパンは砂糖オンリーがまぶされたもの。筆者は東京だが、地域によって違うのだろうか?

「揚げパンて戦後にできた東京の給食のメニューなんやて。お腹すかせた子らのためにこんな美味いもん考えるなんて、ええ人やったんやろな、給食のおばちゃん(笑)」

 梶が揚げパンを齧りながら言ったセリフだが、地域の話はさて置き、実際これをリアルで言われたら「こいつ毎回この手口で女落としてるな?」と勘ぐってしまいそうなほど小慣れた言い回し。イチゴ牛乳を同時に差し出す手口にも「常習性」を感じるが、それ以上に気になったのが「関西発祥じゃないんかい」というところ。昔の東京のちょいといい話をバリバリの関西弁で語っているところに少々笑ってしまった。

 揚げパンを食べて子どもの頃を思い出していた幸子は、梶が小学校の時のあの「梶くん」だと、ようやく認識する。が、その時の「梶くんですか?」の言い方が、かつてのさくらんぼブービー(芸人)のネタ「カジくんだよね?」彷彿とさせた。懐かしい。

 かつての思い出を喚起させるために揚げパンをチョイスしたのだとしたら、梶はやはり相当なやり手だ。しかも全て自然にこなしている。

 さらに幸子が気づいたこのタイミングで「俺の初恋の人やし」と、さりげなく告白するあたりも手練れすぎている。あの、結婚式にて新郎(俊吾さん)が失踪してもさほど動じなかった幸子が、今回片膝をつくほどよろけていたし。梶くん、恐るべし。

 

■それでも俊吾さんを忘れられない

 なんだかんだで2人はデート(横浜・ズーラシア)するのだが、幸子は橋本にコーディネートされたらしく真っ白なロリータファッション。普段、オバケのQ太郎並みに同じデザインのリクルートスーツしか着ていないのに、この受け入れ方は、やはり無防備。

 ここでも橋本のモテ・アドバイスに従い、

・さりげなくボディタッチ→猿の毛繕いを真似て背中を不審に撫でるのみ

・会話で相手を否定しない→冗談を言われても突っ込まない

・うわ目使い→ヤンキーのメンチ切り

 と、順調に奇人ぶりを積み上げていく幸子。しかし基本、幸子に好意を持ってる梶くんはダメージを受けない。

 だが、幸子はヤマアラシに似てると言われ(これでもかというくらい身を守ってるところが……らしい)、失踪した俊吾さんを思い出してしまう。俊吾さんには、ゆっくり前進するという理由で幸子は亀に似てると言われていたのだ。ささいなことから開いてしまう記憶の扉。

「実は私、婚約者に逃げられてしまって、今もその人のことが忘れられず、少しでも前に進めるかと思っていたところ梶くんにお誘いいただきまして、それで……」

 全てを打ち明けてしまった幸子と、初めて顔を強張らせる梶。

 無言での気まずい帰り道「私、最低だ……」と、どっぷり凹む幸子。だがこんなに人間臭い感情を見せる幸子は初めてで、逆に少し安心してしまう。

 

■結局ナポリタンで忘却

 別れ際の喫茶店で、梶が幸子に食べさせたのは玉ねぎやピーマンゴロゴロ入った昔ながらのナポリタン。隠し味にシイタケやイカ、そしてベーコンとソーセージの肉っ気そろい踏み。味付けにケチャップだけじゃなくトマトも入れることでコクが出しているという。

 先ほどまでの気まずさも忘れ、美味そうに爆食いする幸子。もうその目には俊吾さんも梶くんも映っていない。ただただナポリタンの美味さに酔いしれる。

 タバスコや粉チーズを見つけるたびに目を輝かせて味変えを楽しみ、タバスコをかける際には下顎を突き出し猪木の顔真似まで披露(タバスコを日本に輸入したのはアントニオ猪木)する徹底ぶり。

 ここで最後についてくるコーヒーが飲めないからと勘定を済ませ、立ち去ろうとする梶。

「最後くらいカッコつけさせろや~。俺、待っとるから、佐々木がその婚約者っつう奴のこと忘れられるまで。忘れられたら、一番先に連絡してきてや」

 俊吾さんを忘れられない幸子を想っての実にかっこいい引き際なのだが、悲しいかな幸子が俊吾さんを忘却した際には、梶くんのことも跡形もなく忘却しているはず……。今さっきのナポリタンがそうさせたように。

 原作では、梶くんはもっと少年のような、いかにも恋が実らなそうな「いい人」感の強いキャラだったのだが、ドラマではリアルにイケメンになっていたので、幸子が本気で恋に落ちるのではと見ていてヒヤヒヤしてしまう。

 いや、落ちてもいいのだけど、どこか親心のような気持ちで見守ってしまうのは高畑マジックなのだろうか。

 しかも今回ラストに、前回登場したモンスターなイマドキ新入社員・小林(葉山奨之)が幸子に恋心を抱き出していることが判明し、幸子は完全にモテ期到来。親心がうずきます。

 今回も前回に引き続き狗飼恭子脚本に根本和政監督のペア。このコンビは必ずグッとくるいいシーンを入れてくる。

 今回は、幸子がヤマアラシに似てるというどうでもいい会話の流れで、かつての男(俊吾さん)を思い出してしまったり、正直に話しすぎて梶を傷つけたのでは? と幸子が落ち込んでしまったり。その辺だけやけに描写がリアルだ。

 ここにさらにグルメや面白パートが配置されるのだから、30分ではとても足りないはずだが、このドタバタくらいのペースがモタつかず深夜的に見やすいのかもしれない。

 次回はなんと宮崎ロケ。三崎以上の大遠征で、幸子は何を食べるのか? そして俊吾さんがまたしても登場。果たして今回こそ本人なのか? 楽しみです。
(文=柿田太郎)

『孤独のグルメ』最終回は、まさかの角野卓造登場!“本当の名店”のかつてないニラ玉で最終飯

 いよいよ最終回を迎えた『孤独のグルメ Season7』(テレビ東京系)。今や局を代表するドラマと言っても過言ではない本作。第12話「東京都中央区八丁堀 ニラ玉ライスとエビチリ」を振り返る。

(前回までのレビューはこちらから)

■久住バンドの生演奏からスタート

 今回、井之頭五郎(松重豊)が訪れたのは東京は中央区八丁堀。いつもと冒頭のBGM(松重“五郎”豊のテーマ 「STAY ALONE」)の雰囲気が違うと思ったら、まさかの原作者・久住昌之擁するザ・スクリーントーンズご本人による生演奏。

 五郎が商談で訪れたライブハウスでリハーサルをしていたのがスクリーントーンズだったという設定。目の前で「アイリッシュ・スプーン」(Season7のOP曲)の演奏が開始され「あ、なんか始まっちゃった」と慌てる五郎。からの、そのまま生演奏を活かしてのオープニングで「最終飯」を彩る。

 久住とすれ違う瞬間、五郎は「あれ、あの人……?」と何かに気付きかけるが「……ま、いっか」とやり過ごす。正直よくある手法だが、五郎風に言わせてもらえば「こういうの、なんかうれしい」。

 ちなみにこのライブハウスのマスター「五十嵐さん」を演じるのは大友康平。無茶を平気で言ってくる一見粗野な客だが、五郎もそれを受け入れ、逆に遠慮なく言い返せる認め合った間柄のよう。

 店を出た五郎に今期最後の「空腹」の波が。あんこうやフグなど高級そうな店ばかりの中「もっと庶民の店はないのかな」とさすらう。ようやく見つけた「中華シブヤ」という「教科書通りの町の中華屋」に安堵する五郎。

「庶民メシにありつけそうだ」と暖簾をくぐる。暖簾はなかったが。

 

■角野卓造が中華店にいるパラレル感

「いらっしゃい」

 迎え撃つ大将が、まさかの角野卓造。言わずと知れた「幸楽」(@TBS系『渡る世間は鬼ばかり』)のマスター。漂うラスボス感。

 しかし、この日は白い割烹着や帽子を着用していないので、パラレルワールド感がすごい。当然だが、いつまで経っても泉ピン子やえなりかずきは顔を出さない。

 あの橋田壽賀子が創造した天地とは別の異世界が広がる。メガネもしていないし、黒いポロシャツなんか着てる。もちろん何を着ててもいいのだが、やはり「中華店」に「角野」とハメてきたことで、ちょっとした部分が気になる。

 なんたって、ここの「勇」(渡る世間~での角野の役名)は調理でなくフロア担当だ。もう違和感だけでお腹がいっぱいになりそうだ。

 しかし、

「この赤地に白で手書き文字のオーソドックスなメニュー、これは信頼できそうだ」

 と、ラスボス・角野の撒き散らす「違和感」に気を取られることなく、いつものようにメニューを凝視、熟考する五郎。

「エビトースト? ちょっと気になるじゃないか……」

「ニラ玉かぁ……いやエビチリが俺を呼んでいる気がする……」

「ニラ玉かエビチリか、うーん……気絶するほど悩ましい」

 で、どうするのかと思ったら、

「すみません、ニラ玉とエビチリとライス。あとエビトーストください」

「全部頼む」という解決法。たしかにこれなら気絶しなくて済むが、ずるい。

 

■客が全員注文するメニューとは?

 さっそく出てきたのは「エビトースト」。

 四つ切りにした食パン(耳なし)にエビのすり身的なものを塗り、油でカラッと揚げたもの。

「想像してたのと違う」と、いきなりうれしい誤算。本品もうまそうだが、五郎の想像していた「エビトースト」も気になる。

 そうこうしてるうちに正午を回り、近くのサラリーマンがなだれ込んでくる。

 3人グループのサラリーマンは全員ニラ玉とライス。2人組もニラ玉とライス。さらに後から来た別の2人組がニラ玉丼と、全員がニラ玉だけを欲する異様な状況。

「何? みんなニラ玉? だって『ニラ玉』だよ? いったい何この店?」

 言いたいことはわかるぞ、五郎。だって「ニラ玉」だもん。

 餃子やレバニラなど、いわゆるメインを張る人気者に比べ、ひっそりと野に咲く地味なポジション。そんな「ニラ玉」に今、引く手数多のオファーが。

 そして、その渦中の「ニラ玉」が到着。驚くのはその見た目。

 たっぷりのニラを炒めたその上に、ドーンとでかい卵炒めが覆いかぶさっている。「中華ニラオムレツ」とでも言えばいいだろうか。

 いわゆる我々の知る、ニラと卵が規則正しく入り混じるあの色の配分ではない。真っ黄色の塊の下から少しだけ濃緑がはみ出て見える。

 卵でニラを包むようにして口へ。

「おーーなんじゃこりゃ。ニラ、味が濃い、強い、そして太い」

「野生の裸のニラの旨味だ」

 五郎の顔が至福で歪む。

「これは美味い。注文が殺到するわけだ」

「こんなにもニラの味がダイレクトに飛び込んでくるとは。豚肉もここではニラのサポートに徹してる感じだ」

「卵を一緒に炒めないのはこのためか!」

 一人でどんどん「事件」を解明していく味探偵・五郎。

 別々に炒めているからこそ、一緒に食べた時、味の具合が変化する。口に入れた時、初めて「ニラ玉」が完成する。食べたかのように語らせてもらったが推測だ。

 ついには白米だけを口に入れて「ニラ玉の余韻だけで、ご飯がぐいぐい進む。やっぱり俺は骨の髄から白いご飯至上主義者なんだな」と五郎、自分再発見。白米至上主義者って米国の差別団体みたいで、ちょっと怖い。

 最終的に五郎は「ニラ玉に対する認識がひっくり返った」とまで言っていた。

■エビチリで終わりかと思いきや

 さらにエビチリが到着。絶妙なオレンジ色のとろみ餡が艶かしく光る。

 大きめのエビを頬張り「これはいいエビチリだ。生姜が効いてる」と絶賛。

 筆者は過去に料理本を見ながら拙くもエビチリを作ってみたことがあるのだが、確かにニンニクも生姜も刻んで入れた。しかし、まず第一声でエビを差し置いて生姜を褒めるのが、さすがだ。

「エビチリからのエビトー(スト)」とエビリレー。

 前回はガリガリ君(ガーリックスープにガーリックトースト)だったが、さしずめ今回は「エビエビ君」か。

 さらにエビトーに食べるラー油をかけて「味変え」。どこまでも楽しみ尽くす五郎。

 メニューにない「ニラ玉ラーメン」を頼む常連客が「(味がぼやけるけど)どっちも食べたいんだもん」と笑うのを聞きながら、

「その気持ちわかります。俺とてニラ玉、エビチリ、どっちも食いたい、どうしようもない奴です」と勝手に心の中で自己紹介。

 いつもそうだが、五郎はまわりの雰囲気も「食べて」いる。

 気づけば回りのテーブルが「ニラ玉」で埋め尽くされていくのが壮観。

「ノーヒントで店の看板メニューを引き当てた自分を褒めてやりたい」と自画自賛したくなる気持ちもよくわかる。グルメサイトで得た情報で食べた時には得られない快感。

 パセリも完食し、いよいよ今期も終了かと思いきや、「追加でチャーシュー麺ください」ときた。常連客の「ニラ玉ラーメン」を見て我慢できなくなったのだ。これぞ五郎。

 Season7の初回、とんかつを食べた後に「追いステーキ」という荒技を見せてくれたが、今回もいわば「追いチャーシュー麺」。

 予想を超える追加に角野もたじろぐ。

 

■庶民中華とは何か

 出てきたのはオーソドックスなチャーシュー麺。五郎はチャーシューを噛みしめなごら「この店の誠実さが染み込んでいる」と、うれしそう。面と向かって言われたら「うるせえな」と思ってしまいそうだが、心の中だからOK。

 そして麺をすすりながら「これこれ、『庶民中華』のラーメンだ」と喜ぶ。

 今日は「庶民メシ」「庶民味」とやたら「庶民」という言葉を乱発しているが、今回も昼からメイン3品、しかもラーメンじゃなくチャーシュー麺というブルジョワ・オーダー。

 むしろ「庶民」を乱発しすぎて、逆に五郎がお忍びで下界にやってきた王家の人間に見えて来る。一度でいいから五郎の収支を見てみたい。

 いわゆるこの場合の「庶民中華」は、やたら志を掲げるラーメン専門店とかでない「町中華」という意味なのだろう。五郎は最後にSeason7を総括するように、こう言っている。

「こういう普通のラーメンがいいんだよ。『どうだどうだ』という押し付けがましさが微塵もない、町の定番。でもこんなラーメンを食べられる店が、都会ではどんどん減っている」

「毎日、八丁堀界隈で働く人々に普通の美味しさを淡々と提供し続ける。時代に媚びず、背伸びもせず、地道な味の工夫で客の心をがっちり掴んでいる。こういう店こそが本当の名店だと思う」

 一瞬、宮沢賢治の詩かと思ったが、五郎のコメントをほぼ添削しているという原作者・久住の想いがこもった言葉だ。

「最後はチャーシュー1枚締め。よーーお。(ぺろり)」で終了。チャーシューを用意して一緒に「締め」たかった。

「気持ちいい食べっぷりですね、見てる私までお腹いっぱいになっちゃいましたよ」と角野もご満悦。「お会計お願いします」と言われた時の角野の「あいよ!」の声が心地よく響いた。

「まだまだ、すごい店があるもんだ。明日は浅草か。何を食おうかな。」と街に消えていく五郎。

 つづく「ふらっとQUESUMI」も最終回だからと特段変わった部分もなく、いつも通り酒を飲んで申し訳程度の挨拶をしておしまい。

 気取らない最終回ながら、最後の「本当の名店」に対する台詞には熱い想いを感じた。

 当然あるであろうSeason8に期待もかかるが、力を抜いて作り続けて欲しい。
(文=柿田太郎)

今夜Season7最終飯!『孤独のグルメ』五郎オリジナルの“ガリガリ君”の食べ方とは?

 今晩、早くも最終回を迎える『孤独のグルメ Season7』(テレビ東京系)。ラスト前となる11話も、前回が海外編(ソウル)だったとは思えないほどの「いつも」っぷりだった。

 第11話「千葉市千葉市の特製ニンニクスープと生鮭のバター焼き」を振り返る。

(前回までのレビューはこちらから)

■カレーの匂いに刺激されたが、カレーは食えず

 今回、商談で井之頭五郎(松重豊)が訪れたのは、千葉の西登戸(にしのぶと)。神奈川に登戸(のぼりと)という街があるが、もちろん無関係。

 商談先のインド料理屋で、やけに関西弁の上手いインド人っぽい店主(デニス・植野行雄)に軽快なネタ話を披露されながらも、店内に染み付いたスパイスの匂いで食欲を刺激されてしまい、相当に上の空な五郎。

 そんなことおかまいなしに「見た目ガイジンなのに関西人丸出し」という、デニス植野のために当て書きされたようなインド人っぽい店主は、おしゃべりエンジン全開。

「僕ねお父さんはインド人やけど、生まれも育ちも大阪の鶴橋ですわ。どっちかといったらね、キムチと焼肉がソウルフードですわ」

 なかなかに興味深い内容だが、今の五郎の琴線には一切響かず。もしかしたら苦手なタイプなのかもしれない。

「突発性カレー欲」が収まらず、ついには「ここでカレーを食わせてくれ」と店主に懇願するが、定休日のため食材が一切ないと言われ撃沈。

 五郎は、値引きしてくれとすがる店主を振り切り、食事処を探しに店外へ飛び出すが、2階から降りたその1階が洋食屋(味のレストラン えびすや)なのを発見。店探しの時のあのBGMが、イントロクイズ並みの短さで終了し、即決で入店する。

 

■サービスに流されず、お得なセットになびかない姿勢

 店に入るなり、客の食べているオムライスとハンバーグを横目でマーク、そのクオリティを確認。さすが手馴れている。

 表紙が剥げかけた年季の入った革張りのメニューなど、古き良き洋食店といった感じだが、個人的には女将さんらしき女性を演じるのが藤田弓子なだけで、もう美味そう。

 店内に漂う「特製ニンニクスープ」の匂いに刺激され、1品目はすぐ決定。今日の五郎はやたら嗅覚が鋭い。

 しかし周りのテーブルの料理がみな美味そうで、なかなかもう1品が決まらない。

「惑わされるな、胃袋の声を聞け」

「フィッシュorミート」×3

 碇シンジのようなテンションで悩みに悩んだ五郎が注文したのは、フィッシュ=「生鮭のバター焼き」。

 ニンニクスープと合わせるならと藤田弓子女将にセットメニューを推奨されるも、「カニピラフも頼みたいんで単品でお願いします」と、あっさり拒否。サービスに流されないマイペースぶりがさすが。

 

■滋養強壮に効く“ガリガリ君”

 グラタン皿に入れられ、グツグツと沸き立ちながら運ばれてきた「特製ニンニクスープ」。中で生卵が今まさに半熟となりかけてる、あのズルいやつ。

 まずはニンニクの大きな欠片をサルベージしながら、胃袋に風味が広がるのを楽しむ。

 続いて女将に言われた通り、卵を溶いて粗く混ぜ合わせる。

「最強の滋養強壮スープ」とのことで、疲れてる時にこれだけ飲みに行きたい。

「こいつは脇役じゃない。メインを張れる逸品だ」と五郎のお墨付きのスープだが、実際この店一番の名物らしい。

 そして何やら思いついた五郎はガーリックトーストを追加注文。

 それをドブンとスープに浸し、「ガーリックにガーリックで『ガリガリ君』だ」と悪い顔で微笑む。思いついてもやらなそうなことを即行動に移すのがすごい。そして、味の染み込んだパンを貪りながら言った「まるでニンニクの高野豆腐」は秀逸な表現。ここのガーリックトーストはフランスパンでなくロールパンなのが珍しく、万人受けしそうだ。

 厨房では白髪のマスターがピラフの入った鍋をリズミカルに振る。一朝一夕にはできない年季の入った腰使い。「調理人の手際が見事すぎる場合、役者でなく本人」というのは『孤独~』あるあるだが、今回もそうだった。

■タルタリスト・五郎復活!

 そのカニピラフと生鮭のバター焼きが同時に到着。

 どろりとタルタルソースがかかったバター焼きを見て「タルタリストにはサプライズプレゼント」と喜ぶ五郎。

 今期第8話(中野区・チキン南蛮)で出た「タルタリスト」の名乗りが、またしても聞けるとは。バターにタルタル、さらにレモン汁を絞ってと、そんなのもう絶対美味に決まってる。

「これはお出かけ、よそ行きの美味しさだ。いつも定食屋でテレビ見ながら食べるシャケとは別物」と五郎は言っていたが、その定食屋のシャケだって、絶対美味しそうに食べてるはずなのに。

 付け合わせのニンジンも食べつつ「洋食の付け合わせは、とっても大事。これらの味がいい店はきっと長続きする」と、勝手に太鼓判を押す五郎。確かに、お通しや定食のサラダや漬物が手抜きだと、メインがどんなに美味くても満足度が一気に下がってしまう。そもそも五郎はこの甘いニンジンが「隠れた大好物」とのこと。初耳だ。

 そして、カニピラフ。一口食って「これは大好きな味です」と思わず敬語になってしまうほどの美味さ。

 マッシュルームやピーマン、もちろん蒲鉾ではない本物らしきカニの身も見え隠れし、やや茶色がかった味の濃そうな色味。

「ちょい焼き飯寄りのピラフ。なんで知ってるんだ? 俺がこうゆうのに弱いの」

 完全に浮かれている五郎。

「カニとシャケの豪華共演による洋食シーフード祭り」も、いよいよクライマックス。

「こういうのはどうだ?」と、ガーリックトーストの上にタルタルをたっぷり乗せたシャケの乗っけてかぶりつく。この日、一番食欲を刺激されたシーン。

「おほほーー、いい、いい!」「誰かに教えたい」

 残り汁をご飯に絡めたりするアレンジ食いを五郎はよく披露するが、今回は白米を頼んでいないのでガーリックトーストがその役割を担っていた。もはや途中から「ガリトー」と、まるで「ブリトー」のごとく呼んでいた。

 最後にガリトー in ニンニクスープ・アゲイン。「気取らないよそ行き味」のラストを“ガリガリ君”で締めくくった。

 

■最終飯のメニューは?

 お会計かと思いきや、女将がセットのデザートとコーヒーをつけるか聞いてくる。これが有料なのかサービスなのか解釈がわかれるところだが、なんにせよ食べっぷりがいいから勧めたくなった気持ちはよくわかる。

 女将の手作りプリンとアイスコーヒーで完全にフィニッシュ。

 店を出るなり仕事の電話。五郎は明日も仕事が詰まってるようで「疲れたら美味い飯に助けてもらおう」と、ニヤリと店を振り返り、帰路につく。まるで今回が最終回っぽくも見えたが、あと1回のモチベーションがグーンと上がるいい演出。

 原作者の久住昌之が同店を訪れる「ふらっとQUSUMI」のコーナーでは、「生ハムのサラダ仕立て」や「カキとキノコのオーブン焼き」のほか、「スペイン風スパイシーおじや」が気になった。「特製ニンニクスープ」のような熱々に加熱された鍋に、香辛料の効いてそうなスープとご飯と生卵が入り煮立っている。

 さらに「知ってる人にたまに出す」という「ナスとピーマンの味噌炒め」「ホウレン草のゴマ和え」をサービスで。他にも「切り干し大根」や「ヒジキ煮たやつ」が出たりするらしく、和のお惣菜丸出しで、このフランクさがいい。

 ちなみにこの「えびすや」は何店もあり、ここは幸町店とのこと。JRの千葉駅からでも千葉みなと駅からでもがんばれば歩けるくらいの距離なので、行ける方は是非。

 さて、いよいよ今晩最終飯。東京の八丁堀でニラ玉ライスとエビチリを食らうらしい。予告動画では「こういう店こそが本当の名店だと思う」と、しみじみ語る五郎の姿が。最後も見ながらみんなでお腹を減らしましょう。
(文=柿田太郎)

韓国編後半で意外なゲスト登場!『孤独のグルメ』肉の食べごろはいつなのか問題

『孤独のグルメ Season7』(テレビ東京系)は、引き続き韓国編。前回はセルフビビンパを楽しんだ井之頭五郎(松重豊)だったが、今回は待ってましたの焼肉。Season1から各シリーズごとに必ず1回は登場する(ホルモン焼き含む)ド定番人気メニューだが、本場はもちろん初。

 今回は韓国らしく、でかい肉をハサミで切り分けられつつも「おあずけ」に苦しむ五郎の姿が。第10話「韓国ソウル特別市の骨付き豚カルビとおかずの群れ」。

(前回までのレビューはこちらから)

■朝から「立ち食いそば」感覚でトッポギ

 韓国滞在2日目の朝。朝からやってるトッポギ屋台を発見。

 仕事前のサラリーマンやOLがさっと食べてさっと出て行く様子は、五郎の言う通り「日本の立ち食いそばみたいな感覚」のよう。

 トック(うるち米でできた長細い餅)をコチュジャン(唐辛子味噌)や砂糖で甘辛に炒めたものを熱々でいただく。

 どちらかというと甘めな印象だが、五郎が食べたものはなかなか辛いようで、魚のすり身らしき具も入っている。

 続いて揚げたてのティギム(天ぷら)も追加。イカやさつまいもに混じってキムマリ(春雨海苔巻き)の天ぷらもあり、五郎も気に入った様子。

 水を飲もうと迷っていると、隣で食べていた若者が「おでんのスープと一緒に召し上がるといいですよ」と紙コップにオデンの汁だけよそって手渡してくれた。原作のハードボイルドと違い、ドラマの五郎はかまってあげたくなる。

 あちらのおでんの具は波打つように串に刺された練り物がメインで、スープを紙コップで飲むのも定番のよう。

 どうやら練り物自体を「オデン」と呼ぶようで、前回のビビンパの回も、甘辛いタレにまみれた小粒の「オデン」がおかずの一品に混ざっていた。

 ちなみに、ベースとなる料理は以前からあったとの説があるが、「おでん」という名前は戦時中の日本統治下で広まったものらしい。釜山では以前は「カントウ」と言い、これも関西の「関東炊き」からきているという。

 

■襲い来る「おかずの群れ」

 無事、午前中で仕事も終え、ソウルで昼飯の店探し。

「朝、屋台飯だったからガッツリしたものを(腹に)入れたい」と五郎は力んでいたが、朝からトッポギと天ぷらは、なかなかに「がっつり」だと思う。

 そんな筆者の気持ちなど伝わるわけもなく、「がっつり系 ガツンと響く ソウル飯」と街角で一句詠みつつ店を探す俳人・五郎。

 そして見つけた庶民的な焼肉店。さっそく入店し、隣席で食べている肉を指差したりジェスチャーを交え「デジカルビ」と「白米」を無事注文。独自の愛想を振りまいたからか「面白い日本人だな」と客に笑われるが、気にしない。

 注文後すぐ、前回の全州の店と同じく、オーダーしてないキムチやナムルなどのおかず(パンチャン)が何皿も運ばれてくる。五郎も驚いていたが、これは韓国では普通のことで、さらに基本おかわりもできて無料(というかメインの料理に「込み」)。今回も11皿がずらりと並ぶ、まさに「群れ」。『修羅の群れ』の主演は松方弘樹だが、「おかずの群れ」の主演は松重豊。

 さっそくテンジャンチゲ(味噌チゲ)から「群れ」退治。

「ご飯と汁があれば、あとの全てはおかずとして向こうに回し、定食が完成する」

 いつものように哲学しながら汁をすする。「毎日飲みたい」ほどちょうどいいらしいチョイ辛味噌汁。

 続いてニラ・ネギ・白菜の三種キムチ。一皿ずつしっかり量がある。

 白菜キムチは(前回もそうだが)一枚のまま切っておらず、こういう本場感がうれしい。

「キムチって漬物ではなくて一つの『道』、『教え』のような気がする」と悟りを開き、わしわしと音を立て「教え」を味わう賢者・五郎。

 続くケジャン(ワタリガニの辛い漬物)もうまそうだったが、マヨネーズで和えたリンゴのサラダに妙に惹かれた。給食で食べた淡いマヨネーズ味の和え物に野菜のほかリンゴやパイナップルが入っていた記憶があるが、これと関係があるのだろうか。

 昔は韓国で「サラダ」というと、とにかくマヨネーズで和えたものだったらしく、定番の味らしい。

 

■原作でも食べていたチャプチェ

 そして、主役のデジカルビが登場。骨が付いたままの豚のあばら肉をでかいまま1枚、網全面に広げ焼けるのを待つ。デジモンの「デジ」はデジタルだが、デジカルビの「デジ」は豚だ。

 焼いてる間に、「群れ」のチャプチェ(春雨炒め)やワラビナムルでつなぐのだが、目の前に鎮座する肉塊が気になって仕方ない。

 ナムルなどを楽しみつつも「それにしてもこの肉の焼ける匂い、拷問だよ。理性がグラグラしてきた」と、これから食べる肉の匂いに苦しむ五郎。

「このお預け感はハンパない、ああ、犬のように店の中を駆けずり回りたい」

「いや、俺は犬ではない、人として静かに待とう……」

 もはや満月の夜の人狼。チャプチェを食べる時も「小皿で肉食欲を散らすんだ」と自分の中の「野性」を必死に抑え込んでいた。チャプチェに失礼だぞ、五郎。

 ちなみに今回チャプチェに対し「スキヤキの残り物みたいな哀愁があって結構好きなんだ」とも言っていたが、原作漫画では、川崎を訪れた際に初めてチャプチェを食べており、その時は「なんだか翌日あっためなおしたスキヤキのようだ」と発言している。

 

■食べごろ感のズレが気になる

 ようやく店員が肉をハサミで切り分けたので、「(食べて)オーケー?」と聞くも、「もう少し」とお預けをくらう。

「まだなの?」「あーもう自分で焼きたい」爆発寸前の五郎。

 仕方なく、焼ける間に今度は海苔の和え物を食べて気を紛らわす五郎だが、美味しく味わいながらも正直「肉が気になって味がようわからん」と、もうノイローゼ状態。

 ちなみに筆者も、店員が焼いてくれるタイプのサムギョプサルの有名チェーンに行った時、よくこの感情を抱く。

 個人的な食べごろ時に箸を伸ばすと、もう少し焼いてと静止されてしまうのだ。そうしているうちにジューシー感はピークを越え、水分が減った感じ(ウエルダン)になって初めて「許可」が降りる。あちらではカリカリ感が大切なようで、余分な油をしっかり落とす意味合いもあると思われるが、「食べごろ」感のズレを感じる。

 

■豚肉だけでなく牛肉も

 そして、ようやく店員から念願の肉解禁サインが。

「うまいなあ……」

「おあずけ」を経た胃袋に染み渡る肉の美味さに溺れつつも、付けダレをひと舐めし「ん? ちょっと酸っぱいんだ」と分析する冷静さも持ち合わせているのはさすが。

 あとはただ力一杯味わうだけ。ご飯とともにグイグイ流し込む。

「力強い肉だ。待ちに待った俺をドーンと受け止める、ガッツリ系の最高峰」

「最高! 口がはしゃぎ、喉が喜び、胃袋が踊り狂っている」

「幸せだ。幸せ者とは、まさに今の俺のことなんだろう」

 一番うまいとされる骨の周りの肉も幸せそうに噛み剥がす。

「俺は今、ソウルの黒豹だ」

 勇ましい発言をした直後に勢い余って肉を落としてしまい「俺は黒豹失格だ」と即野獣引退。とにかく楽しそう。

 これで終わりかと思いきや、となりの席に運ばれてきたチャドルバギ(牛カルビの薄切り)を見て、またしても「同じやつください」戦法で追加注文。同時に半ライスも。

 ここでもやしナムルの小皿を完食するも、すぐさまおかわりが勝手に出てくる。五郎いわく「ナムルのわんこそば」。幸せなシステム。

 チャドルバギはデジカルビと違って軽く焼くだけでいいという。厚みの違いもあるが、やはり牛だからだろうか。

 脂身多めのスライス肉を次々と成敗。ごま油と塩を付けて「日本の焼肉屋の今は亡きレバ刺しの食べ方」と故人を偲ぶ。

 次は肉に味噌と白米を巻いて。牛肉と味噌と米。合わないわけがない。

「味噌、酸っぱいタレ、ごま塩。俺の胃袋に肉を放り込ませ続ける最強のトライアングル」

 原作の川崎焼肉回の名文句「うおォン、俺は人間火力発電所だ」を思い起こす食べっぷり。完食するとおかわりが来ちゃうからと「おかずの群れ」は残しつつ、完食。

 終わり際、肉でなく焼き魚定食を食べる酒好きの常連客が登場したのだが、クレジットを見たら『デュエリスト』(2005)や『M』(07)の監督イ・ミョンセ。韓国映画ファンにはうれしいサプライズ。

 そして前回はなかった原作者・久住昌之が同店を訪ねるコーナー「ふらっとQUESUMI」で、ついに久住がソウルへ。

 久住は五郎の頼んでいないサムギョプサルを食べていたが、こちらはあまりカリカリに焼いていなかった。焼く人次第で違うのだろうか?

 得意の、お酒を違うものに例えるくだりでは、マッコリを「牛乳」「コリアンミルク」と表現。このくだりは、ウザがられてもしつこく毎回やってほしい。

 今頃日本人観光客で賑わっているのだろうその店名は「チョンチョムスップルカルビ」。行ける方が羨ましい。

 次回は、千葉市の特製ニンニクスープと生鮭のバター焼き。一瞬何のお店かわからなかったが、いわゆる洋食店。Season7も残りわずか!
(文=柿田太郎)

韓国初上陸!『孤独のグルメ』雷波少年に出てた“あの人”がゲスト同行するも、やはり五郎は独り飯……

「来ちゃいました、初韓国」

 旅ロケっぽい独り言で始まった今回の『孤独のグルメ』(テレビ東京系)は、韓国編。ドラマでは過去に一度、台湾を訪れているが、それ以来の海外。原作では、かつていたパリを再訪し、元カノ(小雪)を思い出しながらアルジェリア料理を食す回があるが、それともまた違うドラマならではのコミカルな雰囲気。地元ゲスト登場も、どこにいようと井之頭五郎(松重豊)はマイペースに一人で飯を食う。第9話「韓国チョンジュ市の納豆チゲとセルフビビンパ」。

(前回までのレビューはこちらから)

■ゲストは『ハングル講座』に出演中の彼と『雷波少年』にも出てた彼女

 

 空港から登場かと思いきや、いきなりタクシーでソウルの住宅街に乗り付ける五郎。

「アイウォントゥーゴーヒヤー」

 片言の英語で道行くおばさまに道を尋ねるも、韓国語で答えられて、いきなり撃沈。貿易商という仕事柄、もう少し海外慣れしててもよさそうだが、この頼りない柔らかさがいい。

 なんとか商談先にたどり着くも、その社長(ソン・シギョン)に、すぐ全州に行き、ヨーロッパ向けのアンティーク商品をチョイスしてほしいと頼まれる。

 公式Twitterによると、ソン・シギョンは番組冒頭のナレーションを暗記していたり、過去に登場した店を訪れたりしている番組の大ファン。そのためか五郎と対面するシーンから喜びが溢れてるように見える。ちなみに現在、Eテレでハングル講座にも出演中。

 結局、彼の部下のパク・スヨン(パク・チョンア)に通訳などアシストしてもらいながら、全州市で伝統工芸品(傘や古家具など)を選ぶ五郎。しかし、飯屋の看板を見るなり仕事中なのに腹減りタイム。パクが事務所で資料をまとめている隙に、すぐさま一人で店探し。普通こういう時は同行してる人と飯を食いそうなものだが、ミスター孤食・五郎はおかまいなし。

 座敷タイプの「俺好み」の店を見つけると「言葉わからなくて追い出されたらそれまでだ」と、前向きに覚悟を決め入店。

 ちなみに、パク・チョンアは元ジュエリーという女性グループで、14年ほど前に日本デビューもしており、それ以前にも『雷波少年』(日本テレビ系)でのシンガポールからソウルまで歌を歌いながら旅する企画に参加していたので、そっちの記憶で覚えている方も多いかもしれない。

■とめどなく運ばれる膨大な皿数

 しかし、かつての台湾編では中国語が読めないなりに「海鮮」だとか「排骨」だとか漢字で手がかりをつかめたが、ここでは値段の数字表記以外、メニューのハングルが一切読めない。

 仕方ないので、一番安いのを頼み、出てきたものを見て、その後を考えるという作戦を決行。

 なんとか6,000ウォンの「チョングッチャン」を注文したはいいが「一体俺は何を頼んだんだ」と自問する五郎がおかしい。

 すぐさま、肉や野菜の皿が並べられ、「へーこんな感じかあ」と、ひとまず安心しかけるも、店のおばさんはとめどなく皿を運び続ける。

 すでに7皿。薬味や白米の茶碗入れたら10皿だ。そこに、ぐつぐつ煮えたぎる石鍋まで到着。約600円でフルコースのような品揃え。まさに「おかずのテーマパーク」。品数におののきながらも、ひとまず白米があることに安堵する五郎。

「もう大丈夫。鬼に金棒、俺に白飯だ」

 まずはチェユックポックム(豚肉の唐辛子炒め)で白米を食べ、「美味い!」と喜ぶやいなや、すかさず「違う違う」とおばさんがカットイン。いきなり出鼻をくじかれる。ステンレス製のボウルにおかずを少しずつ入れて、ハサミで切り刻んで白飯と混ぜて食えという。ここでようやく、これがセルフビピンパだと気づいた五郎。

 ナムルを各種(モヤシ、大根、白山菊)に、キムチ、目玉焼き、豚肉唐辛子炒めを入れて、さらに小粒なさつま揚げを甘辛く似たようなものも入れかけると、それは入れずに食べろと、またカットイン。ちょっとしたトラップだ。

 とりあえず、さつま揚げ以外全てハサミで切り刻み、白米と、コチュジャンを入れて、さらにぐつぐつの石鍋のスープの底に沈んでいる納豆も入れろと言われ、驚きながらも従う五郎。

 この石鍋の料理が「チャングッチョン」(納豆チゲ)で、実はメインはこれだ。

 豆腐や野菜も入って煮立つ汁をひとすすり、日本の納豆汁とはまた違う旨さらしい。

 ようやく完成したビピンパに、海苔をたっぷりかけ、かぶりつく。

「これだけいろんなものを適当に混ぜてこんなにおいしくまとまるって、どうなってるんだ?」と驚きながら、スプーンで次々と胃へ投入。

「まさにビビンパマジック」

 五郎の食べっぷりを見て、今度ビピンパを食べる機会があったら是非納豆も加えてみようと強く思った。

 そして、ビピンパには混ぜるなと言われたさつま揚げ。これはオデンという料理で、甘辛味。別にこれも混ぜてもよさそうに思ってしまうが、五郎も「美味いけど、これはビピンパに入れるもんじゃない、危ないとこだった」と言っているので、馴染まない味なのかも知れない。

 さらにサンチュに味噌を塗り、ビピンパを乗せて、巻き巻きしてかぶり付く。さらに大きな白菜キムチの葉でも巻き巻きアレンジ。絶妙な酸っぱさがうまいらしい。こういう作業をしている時の五郎の顔は、いつ見ても楽しそう。

■ようやく食べ終わったと思ったら、さらにもう一品……

 ペロリと1セット目を平らげると、おもむろに上着を脱ぎ、落語家が噺に入るかのごとく、新ビピンパ製造に取り掛かる井之頭亭。

 先ほどは入れなかった「新たな武器」ごま油も投入。

「全てを放り込んで、切るべし切るべし切るべし」

 さらに青唐辛子も入れて、

「肩の力を抜き、腕全体の力がしなやかに器に伝わるように混ぜるべし、混ぜるべし」

 前回の『あしたのジョー』パロディがよほど気に入っているのか、今週も引きずりまくる。

 気になるお味は「誰がなんと言おうと絶対に美味い」というくらい一杯目を凌駕する出来。

「初めて来た全州の街で最高の飯に出会えたことに、心からカムサハムニダ」

「もしも、またこの店を訪れることがあれば、この納豆汁ビビンパに再挑戦しよう。そしてさらなる高みを目指そう。そして見るんだ、誰も見たことのない納豆汁ビビンパの頂点を……! ごちそうさ……」

 いかにも締めっぽい五郎渾身の独り言の終わり間際、当たり前のように運ばれてくる一品。

「え? まだなんかあるの??」

 食いしん坊な五郎が驚くほど、終わらない宴。

 運ばれてきたのは「ヌルンジ」という、おこげを煮たシンプルなおかゆスープ。韓国では定番の締めの一品。

「それにしても600円でこの品数ってどうなってるんだ? いいのか? こっちが心配になるほどのサービスだ」と、改めて驚きを噛みしめる五郎。

 基本、アジアの国は、残すくらい食べさせるのが美徳のような考え方があるので食事の量は多めなのだが、韓国もご多分にもれず、多い。

 教えてもらったばかりの韓国語で「マシーソッソヨー」(美味しかったです)と店の外から声をかけるほど充実した韓国初日。次回は本場で焼肉!「骨付き豚カルビとおかずの群れ」。
(文=柿田太郎)