『さすらい温泉』故・佐々木すみ江の最期の仕事に……『花男』『ふぞろい』にも負けない仕事ぶりが光る

 遠藤憲一が役者を引退する決意で温泉宿の仲居になり、そこで出会った人々のために一肌脱ぐ。そんなパラレルワールドを見せてくれるドキュメンタリー風の人情温泉ドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。まさに、この記事の執筆中に、第5話のマドンナである佐々木すみ江さんの訃報が届いた。

 亡くなったから言うわけではなく、凛とした芯の通った演技でドラマ全体を引っ張っていただけにとても驚いた。佐々木すみ江の活躍を中心に、第5話を振り返ります。

(前回までのレビューはこちらから)

■一人で銀行から金を下ろせない遠藤憲一

 今回も遠藤のリアルな人となりを同級生や事務所スタッフから聞き出すインタビューから番組はスタート。

 今回は遠藤は一人では銀行からお金を下ろせないことが暴露される。

 そうなってくると、バスの予約なども一人ではできなそうな気がするので、どうやって毎回各地の温泉に移動しているのか考えてしまう。

 そんな遠藤がやってきたのは、群馬と新潟の県境にある法師温泉。温泉界ではレジェンドと言ってもいいほどの温泉だ。

 ちなみに番組内でも軽く触れていたが、かの田中角栄は法師温泉のすぐ横の三国峠をダイナマイトで吹っ飛ばし、その土砂で日本海を埋め立て佐渡島まで歩いて行けるようにすると新人時代の選挙演説で語っていた。実現していたら法師温泉のお湯も途絶えていたかもしれないので、実行されなくて何より。

■死を覚悟した旅行者役を熱演した佐々木

 この温泉で出会った宿泊客が佐々木すみ江演じる笠木澄恵。

 戦争に行ったまま戻らない、かつての許嫁との想い出を振り返りに、一人で来ているという。

 健さん(遠藤は派遣仲居のときは中井田健一と名乗っている)がその許嫁に似ているらしく、健さんに出会った瞬間の驚き→喜び→恥じらいと変わる佐々木演じる笠木の表情の変化が素晴らしい。しばらく無言なのに、画がじつに持つ。ここから一気に笠木の存在感に引き込まれる。

 その許嫁と、かつて笠木が泊まった宿が今回の舞台である法師温泉・長寿館で、その滞在の直後、召集令状が届き、そのまま彼は戻ってこなかったという。

 今は結婚し、孫までいて幸せだと語る笠木だが、祝言すら挙げられぬまま引きちぎられるような形で想い出もろとも戦争に奪われてしまった、かつての許嫁の存在は今でも大きいようだ。

 笠木が死を目前に控えたステージ4の末期の膵臓がんであることを知った健さんは、悩みながらも笠木の願い通り、もう一泊、笠木のケアをすることに。

 そして今回も、あのなんでも出てくる四次元トランクを開く時が。

 出てきたのは想い出の写真に写る許嫁と同じ軍服。

 それを着て枕元に立つ健さんが笠木に語りかける。驚きながらも、それを許嫁の「加瀬清次(清さん)」として受け入れる笠木。

「久しぶり」

「お久しぶりです」

「よくまたここにきてくれたね」

「ずいぶん時間が経っちゃいましたけど……」

 夢だと思っていたのかもしれないが、逢えぬはずの人に逢える喜びは、ひとしおだろう。

■佐々木と遠藤の幻の混浴シーン

 彼が照れ屋のため名物の混浴風呂に一緒に入れなかったのが心残りだという笠木を、風呂に誘う、健さん演じる清さん。

 風呂に向かう途中で、笠木の姿はあの頃の若い姿(堀田真由)に変わっていた。

 健さんの錯覚なのか、笠木本人のイメージなのか、はたまた科学を超えたファンタジーなのかわからないが、笠木の心が軽くなって行くのがわかる。

 堀田は『わろてんか』(NHK総合)で葵わかなの妹役や、最近では『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)で、フェイク動画を作った犯人だと疑われる水泳部員役など活躍する若手。実在はしているものの、姿は観念であるという難しい入浴シーンを、雰囲気たっぷりに演じた。

 作中でも触れていたが、ここのお湯は風呂の底が砂利引きになっており、底から50年前の雨水が温泉となり滲み出ている。

 当時の許嫁との「再会」には、ぴったりの場所だ。

 作家の田中眞一のTwitterによると、佐々木はこの脚本をとても褒めてくれていたという。

 実際に享年90歳で亡くなってしまった佐々木も、17歳で終戦を迎えていたはずで、許嫁でなくとも大切な人を亡くしたり、亡くした人の悲しみに触れたりしてきたはずだ。

 佐々木が亡くなったのがどんな原因かは執筆してる今現在まだわからないし、なんなら知る必要も特にないが、何にせよ年齢的に人生の終幕を大なり小なり意識していたであろう中で今回の仕事に挑んでいたのは間違いないだろう。

 1コマずつまで丁寧に演じて、役柄から彼女(笠木)の持つであろう「想い出」を振り絞っているのがわかる。

 贅沢を言えば、ほんの一瞬でいいから、若き日を演じた堀田真由との混浴シーンのどこかで、今の佐々木と遠藤が笑顔で温泉に浸かってる画も差し込んでほしかった。

 佐々木が亡くなった今だから余計にそう感じるのかもしれないが、「今の笠木」を笑顔で「清さん」とお風呂に入れてあげたかった。

 こんなときに不謹慎なのかもしれないが、『スターウォーズ』のファーストシリーズのラストシーン(ジェダイの帰還)で改心したアナキン(ダースベーダー)が幽霊のように出てくるシーンがあるが、ずっと年老いたアナキンの姿だったのに、ジョージルーカスが途中で改訂してしまい、現行版では若き日のアナキンになってしまったことを思い出した。

 若き日のアナキンもよいのだが、いろいろあった上でそれはそれとして、いろいろなことを経た年老いたアナキンの笑顔の方を求めるファンも多かったので、後藤監督がディレクターズ・カットを作るとしたら、是非一瞬でも今の笠木の、佐々木の笑顔での混浴もお願いしたかった。

 こんなふざけた願いも、もはや絶対に叶わないのが、ただただ悲しい。

 

■飛鳥凛が深刻さを中和する

 今回は佐々木が圧巻の存在感を見せてくれたため、その影に回ってしまった感があるが、飛鳥凛のサバサバした仲居(久美)もいい味わいで、死別や戦争をテーマとした中で息抜きのような演技を挟みこみ、全体を中和してくれた。

 時間があれば、もっと健さんとの絡みも見たかった。

 病院へと戻る笠木を見送る健さんに、「泣いてるの……?」と久美が尋ねるラストは、訪ねておきながらいなくなる久美の気遣いが感じられて、いいシーンだった。

 今はエイベックスにいる飛鳥だが、元はスターダスト所属で、ももクロのデビューイベントの舞台も一緒に踏んでいる苦労人(メンバーではない)。きっぷの良さそうな役などハマりそうなのでもっと芝居を見てみたい。

 佐々木が亡くなったことで、かつての代表作(TBS『ふぞろいの林檎たち』『花より男子』、NHK『ゲゲゲの女房』『篤姫』など)がいろいろ流れる中で、この『さすらい温泉』も佐々木のギリギリまで灯された役者人生の最後を飾るのに見劣りしないものだったと思う。

 それはベテランながら深夜ドラマだろうと手を抜かない佐々木の姿勢も大きいし、ドラマを丁寧に作っている『さすらい温泉』制作側の姿勢も大きいだろう。

 paraviでも見られるが、ぜひもう一度、地上波で再放送して、佐々木の最期の仕事を、まだ見ていない人にも見せてあげてほしい。

 ご冥福をお祈りします。
(文=柿田太郎)

『さすらい温泉』故・佐々木すみ江の最期の仕事に……『花男』『ふぞろい』にも負けない仕事ぶりが光る

 遠藤憲一が役者を引退する決意で温泉宿の仲居になり、そこで出会った人々のために一肌脱ぐ。そんなパラレルワールドを見せてくれるドキュメンタリー風の人情温泉ドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。まさに、この記事の執筆中に、第5話のマドンナである佐々木すみ江さんの訃報が届いた。

 亡くなったから言うわけではなく、凛とした芯の通った演技でドラマ全体を引っ張っていただけにとても驚いた。佐々木すみ江の活躍を中心に、第5話を振り返ります。

(前回までのレビューはこちらから)

■一人で銀行から金を下ろせない遠藤憲一

 今回も遠藤のリアルな人となりを同級生や事務所スタッフから聞き出すインタビューから番組はスタート。

 今回は遠藤は一人では銀行からお金を下ろせないことが暴露される。

 そうなってくると、バスの予約なども一人ではできなそうな気がするので、どうやって毎回各地の温泉に移動しているのか考えてしまう。

 そんな遠藤がやってきたのは、群馬と新潟の県境にある法師温泉。温泉界ではレジェンドと言ってもいいほどの温泉だ。

 ちなみに番組内でも軽く触れていたが、かの田中角栄は法師温泉のすぐ横の三国峠をダイナマイトで吹っ飛ばし、その土砂で日本海を埋め立て佐渡島まで歩いて行けるようにすると新人時代の選挙演説で語っていた。実現していたら法師温泉のお湯も途絶えていたかもしれないので、実行されなくて何より。

■死を覚悟した旅行者役を熱演した佐々木

 この温泉で出会った宿泊客が佐々木すみ江演じる笠木澄恵。

 戦争に行ったまま戻らない、かつての許嫁との想い出を振り返りに、一人で来ているという。

 健さん(遠藤は派遣仲居のときは中井田健一と名乗っている)がその許嫁に似ているらしく、健さんに出会った瞬間の驚き→喜び→恥じらいと変わる佐々木演じる笠木の表情の変化が素晴らしい。しばらく無言なのに、画がじつに持つ。ここから一気に笠木の存在感に引き込まれる。

 その許嫁と、かつて笠木が泊まった宿が今回の舞台である法師温泉・長寿館で、その滞在の直後、召集令状が届き、そのまま彼は戻ってこなかったという。

 今は結婚し、孫までいて幸せだと語る笠木だが、祝言すら挙げられぬまま引きちぎられるような形で想い出もろとも戦争に奪われてしまった、かつての許嫁の存在は今でも大きいようだ。

 笠木が死を目前に控えたステージ4の末期の膵臓がんであることを知った健さんは、悩みながらも笠木の願い通り、もう一泊、笠木のケアをすることに。

 そして今回も、あのなんでも出てくる四次元トランクを開く時が。

 出てきたのは想い出の写真に写る許嫁と同じ軍服。

 それを着て枕元に立つ健さんが笠木に語りかける。驚きながらも、それを許嫁の「加瀬清次(清さん)」として受け入れる笠木。

「久しぶり」

「お久しぶりです」

「よくまたここにきてくれたね」

「ずいぶん時間が経っちゃいましたけど……」

 夢だと思っていたのかもしれないが、逢えぬはずの人に逢える喜びは、ひとしおだろう。

■佐々木と遠藤の幻の混浴シーン

 彼が照れ屋のため名物の混浴風呂に一緒に入れなかったのが心残りだという笠木を、風呂に誘う、健さん演じる清さん。

 風呂に向かう途中で、笠木の姿はあの頃の若い姿(堀田真由)に変わっていた。

 健さんの錯覚なのか、笠木本人のイメージなのか、はたまた科学を超えたファンタジーなのかわからないが、笠木の心が軽くなって行くのがわかる。

 堀田は『わろてんか』(NHK総合)で葵わかなの妹役や、最近では『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(日本テレビ系)で、フェイク動画を作った犯人だと疑われる水泳部員役など活躍する若手。実在はしているものの、姿は観念であるという難しい入浴シーンを、雰囲気たっぷりに演じた。

 作中でも触れていたが、ここのお湯は風呂の底が砂利引きになっており、底から50年前の雨水が温泉となり滲み出ている。

 当時の許嫁との「再会」には、ぴったりの場所だ。

 作家の田中眞一のTwitterによると、佐々木はこの脚本をとても褒めてくれていたという。

 実際に享年90歳で亡くなってしまった佐々木も、17歳で終戦を迎えていたはずで、許嫁でなくとも大切な人を亡くしたり、亡くした人の悲しみに触れたりしてきたはずだ。

 佐々木が亡くなったのがどんな原因かは執筆してる今現在まだわからないし、なんなら知る必要も特にないが、何にせよ年齢的に人生の終幕を大なり小なり意識していたであろう中で今回の仕事に挑んでいたのは間違いないだろう。

 1コマずつまで丁寧に演じて、役柄から彼女(笠木)の持つであろう「想い出」を振り絞っているのがわかる。

 贅沢を言えば、ほんの一瞬でいいから、若き日を演じた堀田真由との混浴シーンのどこかで、今の佐々木と遠藤が笑顔で温泉に浸かってる画も差し込んでほしかった。

 佐々木が亡くなった今だから余計にそう感じるのかもしれないが、「今の笠木」を笑顔で「清さん」とお風呂に入れてあげたかった。

 こんなときに不謹慎なのかもしれないが、『スターウォーズ』のファーストシリーズのラストシーン(ジェダイの帰還)で改心したアナキン(ダースベーダー)が幽霊のように出てくるシーンがあるが、ずっと年老いたアナキンの姿だったのに、ジョージルーカスが途中で改訂してしまい、現行版では若き日のアナキンになってしまったことを思い出した。

 若き日のアナキンもよいのだが、いろいろあった上でそれはそれとして、いろいろなことを経た年老いたアナキンの笑顔の方を求めるファンも多かったので、後藤監督がディレクターズ・カットを作るとしたら、是非一瞬でも今の笠木の、佐々木の笑顔での混浴もお願いしたかった。

 こんなふざけた願いも、もはや絶対に叶わないのが、ただただ悲しい。

 

■飛鳥凛が深刻さを中和する

 今回は佐々木が圧巻の存在感を見せてくれたため、その影に回ってしまった感があるが、飛鳥凛のサバサバした仲居(久美)もいい味わいで、死別や戦争をテーマとした中で息抜きのような演技を挟みこみ、全体を中和してくれた。

 時間があれば、もっと健さんとの絡みも見たかった。

 病院へと戻る笠木を見送る健さんに、「泣いてるの……?」と久美が尋ねるラストは、訪ねておきながらいなくなる久美の気遣いが感じられて、いいシーンだった。

 今はエイベックスにいる飛鳥だが、元はスターダスト所属で、ももクロのデビューイベントの舞台も一緒に踏んでいる苦労人(メンバーではない)。きっぷの良さそうな役などハマりそうなのでもっと芝居を見てみたい。

 佐々木が亡くなったことで、かつての代表作(TBS『ふぞろいの林檎たち』『花より男子』、NHK『ゲゲゲの女房』『篤姫』など)がいろいろ流れる中で、この『さすらい温泉』も佐々木のギリギリまで灯された役者人生の最後を飾るのに見劣りしないものだったと思う。

 それはベテランながら深夜ドラマだろうと手を抜かない佐々木の姿勢も大きいし、ドラマを丁寧に作っている『さすらい温泉』制作側の姿勢も大きいだろう。

 paraviでも見られるが、ぜひもう一度、地上波で再放送して、佐々木の最期の仕事を、まだ見ていない人にも見せてあげてほしい。

 ご冥福をお祈りします。
(文=柿田太郎)

『さすらい温泉 遠藤憲一』しずちゃんの代打で漫才披露! 天津・木村が相方役を好演

 遠藤憲一が俳優を引退する決意で、派遣の仲居として各地の温泉で働いている。そんな設定のちょっとだけドキュメンタリー風味なドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。

 第4話となる今回は、南海キャンディーズ・しずちゃんと天津・木村の「新コンビ」が登場、我らが遠藤「健さん」も漫才を披露してくれました。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■愛犬家・遠藤憲一

 今回も遠藤の30年来の友人(伊藤さん)のインタビューからスタート。「彼(遠藤)の本性に迫るべく」敢行してるインタビューらしいのだが、今回はずっと遠藤の飼っていたマルチーズの話。「引退」や「俳優」からどんどん遠ざかってゆく話題。

 後ほど温泉宿で卓球に興じる遠藤に、この亡くなった犬の話題を振ると明らかに動揺し始め、何かを振り切るように力み過ぎのスマッシュを鬼の形相で連発。

 引退の真相はいまだ謎だが、とりあえず彼がかなりの愛犬家だということだけはわかった。

 

■『千と千尋』のモデルとウワサの旅館

 今回、遠藤改め中井田健一(派遣中居業の時の名前)、通称・健さんが訪れたのは、長野県の渋温泉。

「厄除巡浴九湯めぐり」という9つの外湯巡りが人気の歴史ある温泉。奈良時代に発見され、戦国の世には、前回の山梨・下部温泉と同じく武田信玄の隠し湯になっていたという。

 健さんが今回働く宿・金具屋は、あの『千と千尋の神隠し』の舞台の参考になっているとの説もある見事な木造4階建て。

 変わった名前だと思ったらどうやら元が鍛冶屋で、温泉が出たため鞍替えしたということらしい。

 3つの名物風呂と並んでこの宿の売りは、登録有形文化財に指定されている130畳の大広間・飛天の間。昔は芝居小屋としても使われていたというこの舞台に地方営業として出演するため、ある芸人がやってくる。

 いまいち芽の出ない漫才コンビ・ワンワンパニックだ。

 遠藤のペットのインタビューからの流れから考えると、実に悪意のあるネーミングである。

 ちなみにファミコンカセット『オバケのQ太郎 ワンワンパニック』から取ったのかは、明らかにされなかった。

 

■ギスギスするお笑いコンビ

 しずちゃん演じる石原聡美は、舞台以外でも芸人らしく笑いを取ろうといじってくる相方のヒロト(天津・木村卓寛)に嫌気が差しており、支配人や健さんらの前でも、その不快感を隠そうとしない。

「こいつね、こんなブサイクな顔してますけど石原聡美って名前なんですよ? 聡明で美しいって書く……って、どこがやねん!」

「……(無視)」

 売れる気満々のヒロトに対し、役割を放棄し、無言を貫く聡美のギクシャクぶりが見るに耐えない。周囲が気を使うパターン。

 ヒロトは隙あらば売れようと「種」を巻き続けるタイプ。

 そしておそらく聡美は少なくとも舞台以外では割り切って「芸」を見せようとしないタイプ。

 どちらも間違いではないのだろうが、現時点では聡美の不満が燻って着火しかけてるのがわかる。

 さらに聡美には溺愛する男がおり、芸人を辞めて男と一緒になるつもりだという。

 結論から言うと、この彼氏は聡美を金ヅルとして利用していただけなのだが、電話で男に金を無心されてる姿を見てしまった健さんは、いきなり聡美に金を握らせる(おそらく1~2万円)。介入するスピードが光のように速い。

 営業のステージをすっぽかし、こっそり帰ろうとする聡美を待ち伏せし、バカを装って外湯めぐりに連れ出す健さん。聞き上手の健さんに心を開く聡美。

 いつも思うのだが、健さんはこういうとき、仲居の仕事を完全に放棄している。

 この日も夕方まで8つもの外湯を一緒に巡っており、やりたい放題。うらやましい。

 しかし、結局男の元へと去った聡美の代わりにヒロトと営業の舞台に立つ健さん。

■今回、四次元トランクから出てきたものは?

 なんでも出てくる健さんの「四次元トランク」から、今回は聡美と全く同じ舞台衣装(髪留めや蝶ネクタイまで)が。

 あらかじめ用意していたわけがあるはずないのだが、それでも出てくる。この番組唯一のファンタジー要素。

 今回は目的の服を探しているとき、トランクの中からテディベアらしきものや草鞋らしきものが飛び出しており、この「関係ない余計なもの」を見つけるのも楽しい。

 

■健さんの初漫才

 女装して漫才を行う健さん。

 関係ない枕からの「あーー結婚したい!」「突然やな!」。ネタへの入り方がよくある導入で笑ってしまった。

 細かくは省くが、この漫才シーンはしっかりネタ合わせして、舞台さながらに「ネタ」として披露したのだろう。

 荒いながらも新鮮なグルーブ感が出ていた。

 そして、イマイチ受けなくなってきた後半、帰ったはずの聡美が戻ってくる。

 男を振って吹っ切れたからなのか、健さんとの話で初心を思い出したからなのか、前のめりで大爆笑をとる聡美。

 だが、舞台を降りると恩人の健さんの姿はどこにもない。

「貴女の夢の足かせになっちゃいけない」と、聡美の「想い」が膨らむ前に身を引いたのだ。

 惚れさすだけ惚れさせて、置いていなくなる、西部劇のような美学。

 宿から出てきた聡美が大声で叫んだ「健さーーーん!」の声が「シェーーーン、カムバーーク!」みたいに聞こえた。

 仕事の途中で挨拶もなく派遣先からいなくなることになるが、そんなことはどうでもいいのだ。渡り鳥のように健さんは次の温泉に向かう。社会人失格なその気まぐれっぷりは、まさに「さすらい」。

 

■天津・木村の巧さ

 2006年に公開された映画『フラガール』以降、役者としても評価されているしずちゃんももちろんよかったが、天津・木村の「いかにもいそうな関西の若手漫才師のツッコミ」役もとてもよかった。

 相方との開きかけた距離を感じながらも、マネジャーもついてこない現場でマネジャー的な仕事もこなしつつ、割り切ったかのように相方の分まで腐らず周りに媚を売る。

 出番は決して多くないのだが、メインの邪魔をしない存在感で、的確に芝居を締めた。

 終わった後、爆笑だったことを支配人に褒められているときの、喜びながらも心の底からは喜んでいない、どこか醒めているような半・作り笑顔は、おそらく普段からしているのだろう、なんとも言えない味わいがあった。

 境目が薄れつつあるこのご時世、こんな分類に意味はないのかもしれないが、それでもコント師以上に漫才師は普段から素の部分まで微妙に「演じて」いるのだろう。そんな風に知ったかぶりたくなるくらい、自然な芝居だった。

 そして、ドラマ『火花』のときの井下好井・好井、とろサーモン・村田もそうだったが、ネタ中、片方が「本職」だと急造のコンビでもネタが締まる。

 面白い面白くない以前の、漫才として成り立ってる空気を作り出せるのが、プロならではの技術だ。

 今回の木村も、同じプロであるしずちゃん相手のときはともかく、「素人」である遠藤を、さりげなくフォロー、誘導しながら漫才として成り立たせていた。

 ただ台本のネタをやるだけでなく、観客へ見やすく橋渡しをし、呼吸をするように見所を整えながら、自然に話してるように話を運ぶのは、場数や経験がものをいうはずだ。

 木村が隙間を埋めたり諸々を担ってくれたので、急造のコンビの割に遠藤もやりやすかったのではないだろうか。

 途中から(演出的に)、意味なくエロ詩吟をやらされてしまうのでは? と、勝手にハラハラしながら見ていたが、そんな野暮なこともさせられることなく、無事役目を全うしていたのでよかったです。

 やってても、それはそれで見たかったけど。

 さて次回は法師温泉。オープニングでも使われてるあの名湯が登場。見ましょう。
(文=柿田太郎)

 

『さすらい温泉 遠藤憲一』旅情とエロス……久しぶりに地上波で女性の“生尻”を見た!

 遠藤憲一が俳優を引退する決意で、派遣の仲居として各地の温泉で働いている。そんな設定のちょっとだけドキュメンタリー風味なドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。

 第3話となる今回は、人気が落ちることを恐れ、仮病で休業中のトップアイドルのために健さんこと中井田健一(遠藤)が奮闘する。なんでも出てくるトランクから、今回もあり得ないサイズのモノが出てきます。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■遠藤の友人が今回も登場

 今回も前回と同様、冒頭のインタビューでリアル(だと思われる)な友人・知人が普段の遠藤について語っている。

「(役者は)天職ではない」

「(遠藤は)そんなに器用ではない」

 のっけから営業妨害ではないかと思えるほどのコメントを叩きつける、遠慮ない素人たち。

 だが「台本を人の3倍(10倍)読む」など、非常に努力家な面も語られた。

 普段頑張りすぎている分、今回「風に当たってる」のではないかとの見立ても。

 いわゆるフェイクドキュメンタリーなのだが、引退とかの「設定」はともかく、知人らの遠藤に対する発言は本物だろう(そうあってほしい)。

 

■ビシバシステムに見えなくもない遠藤

 そんな健さんが今回訪れたのは山梨の下部温泉で、かの武田信玄の隠し湯とされる場所。

 さらにここは、全国に21カ所しかない「国民保険温泉地」の一つ。調べてみると、まず温泉として効能が折紙付となる「国民保養温泉地」というくくりがあり、その中でも医師の協力を得て温泉の保健的利用を促進することが期待できる条件を備えた温泉地を「国民保険温泉地」と呼ぶらしい。有名どころだと、大分・湯布院温泉や奈良の十津川温泉郷などもこれに当たる。

 そして今回派遣された宿は大市館・裕貴屋。明治8年創業で木造3階建ての建物(昭和11年建設)は、登録有形文化財に認定されているとのことで、温泉地に溶け込みながらも控えめな格式を感じる。

 ちなみに宿の支配人を住田隆が演じており、目のぎょろりとした遠藤と並ぶと初代ビシバシステムのように見えなくもない。住田の初代の相方は緋田康人(当時の名は西田康人)。ドラマ『半沢直樹』(TBS系)で日本中をムカつかせたあの「小木曽」といえば、わかる人も多いだろう。

 

■乃木坂46のヒット曲を作曲した人が劇中曲を

 さっそく働き出した健さんは、橋から川を見つめる宿泊客を勝手に自殺志願者だと思い込み、救助。それが、なんとあの人気アイドルグループ神田川55(KDG55)のセンター・大賀みな(大場美奈・SKE48)だった。無期限休養中の“みなるん”は、負傷した足の治療で湯治に来ているらしいのだが、どうやら人気投票でセンターから陥落しそうなのが怖くて、引退覚悟で逃げてきているのが本当のところらしい。

 部屋まで上がりこんで飯を食わそうとするお節介な健さんを、当初はうざがっていたみなるんだが、自分のために振り付けまで覚えようとしてる熱意にほだされ、心を開きかける。

 この劇中曲を作ったのは、坂道グループの曲も手掛けている小田切大(乃木坂46「おいでシャンプー」や欅坂46「302号室」作曲など)、ダンスの振り付けはNGT48の振り付けを手がけたこともある富田彩(監督・後藤庸介のツイッター情報)。

 同じテレ東の深夜ドラマ『忘却のサチコ』でもそうだったが、劇中の使い捨てのような架空の曲がちゃんと作られていると、何か誠意を感じる。

 

■国民的アイドルのはずなのに……

 面白かったのはネットでウワサを聞きつけ集まってきたファンたちと、みなるんの距離感が全然「国民的アイドル」のそれではなかったこと。

「いっつもいっつもなんなの?」「握手会のときだって何回もしつこく来るし!」と、集まって来たファンたちをひとかたまりに敵と見なし、ブチ切れるみなるんも凄いが、「なんだよそれ……! みなるんをセンターにするために、幾らつぎ込んだと思ってるんだよ!」「そうだそうだ」「僕たちがいなけりゃ、とっくにセンター取られてるよ?」「そうだそうだ」と、負けじと本音をぶちまけるファンも凄い。

 ネットで匿名をいいことに本音をさらけ出す人は多くいるかもしれないが、白昼ファンが本人を取り囲んで文句を浴びせている様子は、荒れた地下アイドルの現場のよう。

 売れている「国民的アイドル」を取り囲む人の輪にライト層がまったくいないのが違和感の原因だと思うが、「人気」を表現するのは意外と難しい。

■武田信玄の鎧まで持参してる健さん

 そして再度心を閉ざしかけたみなるんを元気付けるため、恒例の健さん変装タイム。今回、古めかしく、さほど大きくもないトランクから出てきたのは、なんと武田信玄を思わせる鎧兜と衣類一式。腰には刀まで装着していたから、それも入っていたのだろう。もう絶対に収まる寸法ではないのだが、一体トランク内はどんな宇宙が広がっているのか。

 例によって、入っている他の服を撒き散らしながらトランク内を探すシーンでも、途中サンタの衣装らしきものをほっぽり投げていた。みなるんの薄着の私服から考えるに季節は夏前後だろうに、冬物までも押さえているのはさすがだ、というか怖い。

 怖いといえば、夜中に旅館内を鎧を着た男がうろついてるのに平然と後を追っかけるみなるんも怖い。

 普通に考えて超常現象なはずだし、そうじゃなかったとしても、かなり不審者だし、どっちにしろ、かなり怖いはずなのに。ファンへの対応といい、度胸が凄い。

 そして、鎧武者を追いかけていくと、そこにはオタ仲間らしき数人とサイリウムを両手にオタ芸(サイリウムダンス)をする健さんが。おそらく早着替えで鎧を脱いだのだろうが、たかだかこのためだけに鎧を着てまでみなるんを導くという発想が凄い。

 この健さんの熱意が届いたのか、みなるんも本域で踊り出し、アイドルとしてやっていこうという気持ちを取り戻すのだが、この時のみなるんのダンスが普通にかっこいい。ここだけで終わらせるのももったいないから、どこかで披露してしっかり成仏させてあげてほしい。

 

■フェイクドキュメンタリーという設定は後付け?

 ちなみに、みなるんはいわば俳優・遠藤憲一の同業者にあたるわけだが、どちらもお互いのことを知らなかったし、「えーー? まさか遠藤憲一さん!?」的なカタルシスも最後までない。

 フェイクドキュメンタリーとして見せようとしながらも、メーンのドラマ本編でまったく「遠藤憲一」的要素が入らないのは、あくまで流れ者の仲居ドラマとして撮った完全なフィクションに、何か事情があって後から頭とお尻にドキュメンタリー部分を付け足したのだろうか?

 そう思ってしまうくらい「ドキュメンタリー」部分と「ドラマ・フィクション」部分が断絶している。今後、種明かしがあるのだろうか?

 

■説明するほどでもない宿の情報を疑似体験

 今回も、「良さげな抹茶が出てくる」とか「ロースルロイスで送迎」とか「マシュマロを焼いて食べられる」とか(食べ放題らしく、ゆで卵やポップコーンも)、ドラマの中で実在する旅館の情報がさりげなく差し込まれており、行ったこともないのに見ているだけで旧知の宿に思えてくる。

 温泉(旅館)の贅沢なプロモーションビデオとして楽しむのも正解なのかもしれない。

 今回は女性の入浴シーンが踏み込んでいて、成宮潤というセクシー系の女優は、ぼかしていたとはいえ生尻まで披露していた。今や地上波ではなかなか見られなくなったお色気シーン。

 旅情だけでなく、そんな部分でも昭和を味わせてくれた。

 次回は南海キャンディーズのしずちゃんがマドンナで登場します。面白そう。
(文=柿田太郎)

 

『さすらい温泉 遠藤憲一』旅情とエロス……久しぶりに地上波で女性の“生尻”を見た!

 遠藤憲一が俳優を引退する決意で、派遣の仲居として各地の温泉で働いている。そんな設定のちょっとだけドキュメンタリー風味なドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。

 第3話となる今回は、人気が落ちることを恐れ、仮病で休業中のトップアイドルのために健さんこと中井田健一(遠藤)が奮闘する。なんでも出てくるトランクから、今回もあり得ないサイズのモノが出てきます。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■遠藤の友人が今回も登場

 今回も前回と同様、冒頭のインタビューでリアル(だと思われる)な友人・知人が普段の遠藤について語っている。

「(役者は)天職ではない」

「(遠藤は)そんなに器用ではない」

 のっけから営業妨害ではないかと思えるほどのコメントを叩きつける、遠慮ない素人たち。

 だが「台本を人の3倍(10倍)読む」など、非常に努力家な面も語られた。

 普段頑張りすぎている分、今回「風に当たってる」のではないかとの見立ても。

 いわゆるフェイクドキュメンタリーなのだが、引退とかの「設定」はともかく、知人らの遠藤に対する発言は本物だろう(そうあってほしい)。

 

■ビシバシステムに見えなくもない遠藤

 そんな健さんが今回訪れたのは山梨の下部温泉で、かの武田信玄の隠し湯とされる場所。

 さらにここは、全国に21カ所しかない「国民保険温泉地」の一つ。調べてみると、まず温泉として効能が折紙付となる「国民保養温泉地」というくくりがあり、その中でも医師の協力を得て温泉の保健的利用を促進することが期待できる条件を備えた温泉地を「国民保険温泉地」と呼ぶらしい。有名どころだと、大分・湯布院温泉や奈良の十津川温泉郷などもこれに当たる。

 そして今回派遣された宿は大市館・裕貴屋。明治8年創業で木造3階建ての建物(昭和11年建設)は、登録有形文化財に認定されているとのことで、温泉地に溶け込みながらも控えめな格式を感じる。

 ちなみに宿の支配人を住田隆が演じており、目のぎょろりとした遠藤と並ぶと初代ビシバシステムのように見えなくもない。住田の初代の相方は緋田康人(当時の名は西田康人)。ドラマ『半沢直樹』(TBS系)で日本中をムカつかせたあの「小木曽」といえば、わかる人も多いだろう。

 

■乃木坂46のヒット曲を作曲した人が劇中曲を

 さっそく働き出した健さんは、橋から川を見つめる宿泊客を勝手に自殺志願者だと思い込み、救助。それが、なんとあの人気アイドルグループ神田川55(KDG55)のセンター・大賀みな(大場美奈・SKE48)だった。無期限休養中の“みなるん”は、負傷した足の治療で湯治に来ているらしいのだが、どうやら人気投票でセンターから陥落しそうなのが怖くて、引退覚悟で逃げてきているのが本当のところらしい。

 部屋まで上がりこんで飯を食わそうとするお節介な健さんを、当初はうざがっていたみなるんだが、自分のために振り付けまで覚えようとしてる熱意にほだされ、心を開きかける。

 この劇中曲を作ったのは、坂道グループの曲も手掛けている小田切大(乃木坂46「おいでシャンプー」や欅坂46「302号室」作曲など)、ダンスの振り付けはNGT48の振り付けを手がけたこともある富田彩(監督・後藤庸介のツイッター情報)。

 同じテレ東の深夜ドラマ『忘却のサチコ』でもそうだったが、劇中の使い捨てのような架空の曲がちゃんと作られていると、何か誠意を感じる。

 

■国民的アイドルのはずなのに……

 面白かったのはネットでウワサを聞きつけ集まってきたファンたちと、みなるんの距離感が全然「国民的アイドル」のそれではなかったこと。

「いっつもいっつもなんなの?」「握手会のときだって何回もしつこく来るし!」と、集まって来たファンたちをひとかたまりに敵と見なし、ブチ切れるみなるんも凄いが、「なんだよそれ……! みなるんをセンターにするために、幾らつぎ込んだと思ってるんだよ!」「そうだそうだ」「僕たちがいなけりゃ、とっくにセンター取られてるよ?」「そうだそうだ」と、負けじと本音をぶちまけるファンも凄い。

 ネットで匿名をいいことに本音をさらけ出す人は多くいるかもしれないが、白昼ファンが本人を取り囲んで文句を浴びせている様子は、荒れた地下アイドルの現場のよう。

 売れている「国民的アイドル」を取り囲む人の輪にライト層がまったくいないのが違和感の原因だと思うが、「人気」を表現するのは意外と難しい。

■武田信玄の鎧まで持参してる健さん

 そして再度心を閉ざしかけたみなるんを元気付けるため、恒例の健さん変装タイム。今回、古めかしく、さほど大きくもないトランクから出てきたのは、なんと武田信玄を思わせる鎧兜と衣類一式。腰には刀まで装着していたから、それも入っていたのだろう。もう絶対に収まる寸法ではないのだが、一体トランク内はどんな宇宙が広がっているのか。

 例によって、入っている他の服を撒き散らしながらトランク内を探すシーンでも、途中サンタの衣装らしきものをほっぽり投げていた。みなるんの薄着の私服から考えるに季節は夏前後だろうに、冬物までも押さえているのはさすがだ、というか怖い。

 怖いといえば、夜中に旅館内を鎧を着た男がうろついてるのに平然と後を追っかけるみなるんも怖い。

 普通に考えて超常現象なはずだし、そうじゃなかったとしても、かなり不審者だし、どっちにしろ、かなり怖いはずなのに。ファンへの対応といい、度胸が凄い。

 そして、鎧武者を追いかけていくと、そこにはオタ仲間らしき数人とサイリウムを両手にオタ芸(サイリウムダンス)をする健さんが。おそらく早着替えで鎧を脱いだのだろうが、たかだかこのためだけに鎧を着てまでみなるんを導くという発想が凄い。

 この健さんの熱意が届いたのか、みなるんも本域で踊り出し、アイドルとしてやっていこうという気持ちを取り戻すのだが、この時のみなるんのダンスが普通にかっこいい。ここだけで終わらせるのももったいないから、どこかで披露してしっかり成仏させてあげてほしい。

 

■フェイクドキュメンタリーという設定は後付け?

 ちなみに、みなるんはいわば俳優・遠藤憲一の同業者にあたるわけだが、どちらもお互いのことを知らなかったし、「えーー? まさか遠藤憲一さん!?」的なカタルシスも最後までない。

 フェイクドキュメンタリーとして見せようとしながらも、メーンのドラマ本編でまったく「遠藤憲一」的要素が入らないのは、あくまで流れ者の仲居ドラマとして撮った完全なフィクションに、何か事情があって後から頭とお尻にドキュメンタリー部分を付け足したのだろうか?

 そう思ってしまうくらい「ドキュメンタリー」部分と「ドラマ・フィクション」部分が断絶している。今後、種明かしがあるのだろうか?

 

■説明するほどでもない宿の情報を疑似体験

 今回も、「良さげな抹茶が出てくる」とか「ロースルロイスで送迎」とか「マシュマロを焼いて食べられる」とか(食べ放題らしく、ゆで卵やポップコーンも)、ドラマの中で実在する旅館の情報がさりげなく差し込まれており、行ったこともないのに見ているだけで旧知の宿に思えてくる。

 温泉(旅館)の贅沢なプロモーションビデオとして楽しむのも正解なのかもしれない。

 今回は女性の入浴シーンが踏み込んでいて、成宮潤というセクシー系の女優は、ぼかしていたとはいえ生尻まで披露していた。今や地上波ではなかなか見られなくなったお色気シーン。

 旅情だけでなく、そんな部分でも昭和を味わせてくれた。

 次回は南海キャンディーズのしずちゃんがマドンナで登場します。面白そう。
(文=柿田太郎)

 

『さすらい温泉 遠藤憲一』つげ義春も通った北温泉旅館 天狗の鼻に弄ばれる山口紗弥加がエロすぎた!

 役者を引退し、さまざまな名湯に派遣され仲居として働く遠藤憲一。そんな「脱・今の生活」を成し得た役者の遠藤憲一改め仲居の中井田健一が、時間が止まったような温泉地を舞台に儚い夢のような物語と、その温泉宿の情報や押し付けがましくなく見せてくれる、ちょっと変な番組『さすらい温泉 遠藤憲一』(テレビ東京系)。

 主に冒頭と終わり部分をフェイクドキュメンタリーとして見せつつも、基本はしっかりと「ドラマ」。第2話はその筋では有名な奥那須・北温泉(栃木県)を「さすらい」ます。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■遠藤憲一の同級生が暴露

 今回は冒頭のドキュメンタリーチックなパートに、遠藤の中学の同級生(現在は社会科教師)が登場。遠藤が歴史や漢字にかなり疎いことなどプライベート情報を暴露する。

 遠藤が大河ドラマに出るたびに、その都度、歴史についてレクチャーしてあげてるのだという。

 この後、奥那須を行く遠藤が、その地の歴史や由来を渋い声で語るのだが、直前の「暴露」のおかげで「知ったかぶり」に見えてしまい、なんだか微笑ましい。基本このドラマでの遠藤は三枚目だ。

 ちなみに遠藤が最初に立ち寄った奥那須の名所・殺生石は「京の都を荒らした九尾の狐がこの地で退治され石になったと言われている」場所だが、この「九尾の狐」は漫画『うしおととら』(小学館)のあのラスボス・白面の者のモチーフ。

 石の周りからは絶えず火山ガスが出ており、いやが上にも温泉気分が盛り上がる。

 

■1,200年前からある温泉

 そして到着したのは奥那須・北温泉旅館。1,200年前に天狗が発見したとされる温泉と、江戸、明治、昭和と増築を重ね、迷路のように伸びた木造建築が得も言われぬ雰囲気を醸し出す秘湯。

 中井田(遠藤)が到着すると、若い女性の仲居・森本千秋(鮎川桃果)が出迎える。第1話と同じく中井田は「健さんと呼んでください」とアピール。

 さらに同じく第1話でも披露された「極上のおもてなしを……(提供します)」という健さん渾身の決めセリフに「こちらです」と、ぶった切るように言葉を被せ、奥へ消えてゆく森本が可愛くもどこか不気味でいい。

 決めセリフの腰を折られ、不安げな健さんの表情もいい。建物の作りだけでなく、精神的にも迷路に入りこんだかのよう。

 巨大な天狗のお面がいくつも壁に飾られた独特すぎる内湯(天狗の湯)に浸かる健さん。

「源泉の湯量が豊富」「鉄分を含んだ単純泉」「子宝の湯」であることなどをさりげなく心の声で教えてくれる。気持ちよさそうな温泉シーンは、やはりこのドラマの主役だ。

 

■官能小説家が似合う山口紗弥加

 そんな浮世離れした宿で今回出会ったのは官能小説家・艶口さやか(山口紗弥加)。部屋にこもって執筆に励むも、筆が進まず編集者にせっつかれている。今回も出会ってすぐ、このマドンナに惹かれる健さん。恋多き仲居。

 妖艶な魅力溢れる艶口だが、実は男性恐怖症で、過去のトラウマから男性の体に触れることができず、それがプレッシャーとなり作品が書けなくなっているという。

 これは旅館の敷地内にある鬼子母神に祀られてる男根を模した彫刻に、艶口が触れないことから発覚したのだが、雑誌(週刊プロレス別冊)の表紙になってる本間朋晃(新日本プロレス)すら触れないくらいだから、かなり重症だ。

 艶口は悩みを打ち明ける前に健さんを混浴に誘い、自身を「荒治療」をしようとしていたのだが、結局健さんに触れることもできず失敗に終わった。映画『座頭市』(1989)での勝新と樋口可南子くらい濃厚な温泉での濡れ場を期待したのだが残念。

 だが「私もう無理だあ」「元から無理だったんだよね。才能ないの気付いてたし」と、はにかむように告白する艶口の姿もとても可愛らしかった。

■天狗姿で夜這いする健さん

 ここで我らが健さんが一肌脱ぐ。毎度恒例、唯一持参した古ぼけた小さなトランクから、なぜか出てくる、その時に必要な「こんなものまで持ってきてたの?」的な衣装が今回も登場。

 深夜、艶口が目を覚ますと布団の上に覆いかぶさっていたのは、いかつい真っ赤な天狗。

 しかもよく見ると天狗の顔はお面でなく、艶口を射抜くように伸びた鼻とぼうぼうの眉毛以外は、健さんの地肌。肌を真っ赤に塗っているのだ。普通にとても怖い。黒光りならぬ赤光りする肌の男が暗い部屋で自分にまたがり、無言で見つめてくるのだ。『水曜日のダウンタウン』(TBS系)でやりそうなドッキリだが、実際は死ぬほど怖いはず。

 ここで、男根のごとく伸びた鼻で艶口の輪郭を焦らすように撫で始めるエロ天狗。さらにその鼻は艶口の桃のごとき2つの膨らみをなぞり、そしてその下の秘境へと這い降りる。

 顎を突き上げ、身悶えしながら吐息を漏らす艶口。そして、散々喘いだあとに「……健さん?」と、ようやく気づく。得体の知れないUMA相手に、あんなに感じていたのが逆に凄い。この時、健さんの本当の「鼻」は固くなっていたのだろうか?

 さらに健さん天狗は「鼻を触って」と真顔で指示。ウイスパーボイスで、とんちんかんなことを言う面白さ。

 しかも隠語ではなく、まんま鼻(作り物)を触ってという意味。上の鼻だが、それでもエロい。だが、それすら触れない艶口を天狗が説き伏せる。

「恐れずに」

「……これでいいの?」

「それでいい!!」

 ど、どれ??

 私の声はもちろん二人には届かない。

 ここで健さん天狗は、官能小説の一節のように今の状況を語れと艶口に指示。

「私はその屹立した天狗の鼻にそっと触れた。逞しく猛々しい天狗に鼻に指を這わせる。今までの恐れは消え、愛おしさすら覚え始めていた……」

 この時「素晴らしい」と喜ぶ天狗の口元が緩み、中から白い歯がずらりと現れるのだが、ものすごく怖かった。

 薄暗い部屋の中で、そこにある何よりも明るく光る歯。艶口の肌より白い生々しい輝き。長く伸びた鼻なんかよりよっぽど怖い。

 絶頂に達したように深い呼吸をした艶口がゆっくり目を開けると、もはや天狗の姿はどこにもなかった。翌日、憑き物が取れたようにすっきりした顔で旅館を後にする艶口。

「今度はゆっくりサービスしてあげるから」と、いたずらに笑う姿は、今までと違っていた。

 

■第2話に感じた、つげ義春的世界

 今回は、前回のお人好しな「寅さん」的雰囲気ではなく、不安定な場所に迷い込んだ「つげ義春」的空気を強く感じた。

 そもそもこの北温泉旅館は、つげのお気に入りで、何度も足を運んだり作品にも登場させたりしている「ゆかりの地」。

 しかも映画『無能の人』(1991)にも登場していた「かんべちゃん」こと神戸浩が、今回謎のキャラで物語内を徘徊しており、これが余計に「つげ」感を増幅していた。

 最近では映画の『テルマエ・ロマエ』(2012)で上戸彩の実家として登場したりして観光客が増えたためか、脱衣所や通路が綺麗になったりして、一部の人からやや残念がられているが、それでも世間から取り残されたような存在感は健在。

 同じテレ東の深夜ドラマ『日本ボロ宿紀行』では味のあるB級宿泊施設を愛情を込めて「ボロ宿」と呼んでいるが、それに通じる愛され方をしている。

 このドラマを見ると温泉に入りたくなるのはもちろんなのだが、入ったかのようなリフレッシュ感も味わえる。

 平日深夜の30分で気軽に味わえる極小旅行として、これからの回も期待したい。
(文=柿田太郎)

『さすらい温泉 遠藤憲一』テレ東深夜に連なる、新たな「フェイクドキュメンタリー」の系譜

 あの遠藤憲一が、役者を引退して温泉宿で仲居として働くらしい……なかなか奇抜なビッグニュースが飛び込んできた。

 その真偽を確かめるべく遠藤にカメラが密着、そこに映るのは、温泉街で起こるさまざまな人間ドラマに、前のめりに首を突っ込む遠藤の姿。またしても一癖ありそうなテレ東深夜ドラマ『さすらい温泉 遠藤憲一』の第1話。振り返りましょう。

 

■フェイクドキュメンタリーである必然性は?

 番組は、遠藤本人への直撃取材からはじまる。

「遠藤さんが俳優を引退されるって聞いたんですけど」

 真意を問う番組ディレクターの質問を無視して、旅支度を進める遠藤。ドキュメンタリーであることを強調した導入部分だ。

 野暮を承知で言わせていただくなら、遠藤は現実では役者も辞めないし、温泉で働きもしない。現実とフィクションが交錯するいわゆるフェイクドキュメンタリーと呼ばれる手法。

 この手法は、テレ東深夜ではお馴染みで、『山田孝之の東京都北区赤羽』や『山田孝之のカンヌ映画祭』、斎藤工が芸人を目指した『マスクメン』、そして、それこそ同じ遠藤が本人役で出演した『バイプレイヤーズ』などもこれに含まれる。

 番組名に「遠藤憲一」の文字がデカデカと入っているのも、本人のままであると強調するためだろう。

 しかし、この冒頭の「前フリ」パート以降、ドキュメンタリー的な見せ方は影を潜める。

 草津の温泉宿(奈良屋)に着くなり、そこの番頭に「温泉宿専門、仲居派遣サービス・エンスタワーから参りました、中井田健一です」と自己紹介する遠藤。

 宿の従業員らも、彼があの「遠藤憲一」であると気づく様子もなく、これ以降、中井田健一を主役とした「温泉を舞台にした人情ドラマ」が進む。

 1話見ただけで言うのもなんだが、今のところこの作品における「ドキュメンタリー」部分の必要性は、他のテレ東のフェイクドキュメンタリー番組に比べると低いと思われる。

 他の番組(『山田孝之の~』や『バイプレイヤーズ』など)は、それが本人である必然性があるのだが、この番組は「中井田健一」と名乗って以降、彼が「遠藤憲一」本人であるとする見せ方は特になく、ドラマ終了後に、再び冒頭のディレクターが遠藤にインタビューするごく短いくだりはあるものの(やはり質問には答えない)、完全にドラマパートとフェイクドキュメンタリーパートが別れている。

 この見せ方が今後どんな効果を生むのか。

 

■「健さん」と呼ばれたがる遠藤

 遠藤、いや中井田は、自己紹介時に必ず「健さんと呼んでください」とアピールしており、意図的に違う自分になろうとしているようにも見える。

 しかも、さっそく奈良屋で働き出すのだが、その所作は昨日今日仲居を始めた人間のこなれ方ではなく、もはや長年役者と二足の草鞋を履いていたかのような、こなれっぷり。得体が知れない。

 ちなみに、温泉の効能や男湯女湯が入れ替わる時間など、実在する奈良屋の説明を中井田……いや健さんが働きながらしてくれるのだが、温泉ロケ番組でリポーターから情報を説明されるよりも、ドラマの中でさりげなく(というか、あからさまな、でもあるが)情報に触れさせられる方が、遠藤の色気溢れる声のおかげもあって押し付けがましくなく、聞いていて心地よい。

 これはフェイクドキュメンタリーにしているからこそ許される見せ方だろう。普通のドラマで宣伝の強い台詞やナレーションが入ったら興醒めしてしまうはずだ。

 そして、健さんは実に気持ちよさそうに風呂に入る。

 いや、実際気持ちいいのだろうが、グラビアアイドルとかでもないのに、その入浴っぷりについ見入ってしまうほど「画がもつ」。女性ファン的には、やはりたまらないのだろうか?

■寅さんばりに、すぐ恋に落ちる

 今回、健さんが恋に落ちる相手は、ともさかりえ演じる、同じく仲居である富永理恵。

「今回」と、毎回恋に落ちるような決めつけで書いたが、初回を見るとその可能性は実に高そう。今回も出会って15秒で「落ちて」いたほど。

 富永の入浴シーンを妄想する健さん。

 富永と2人でお使いに出かけるため、番頭に嘘をつく健さん。

 富永に借りたハンカチの匂いを嗅ぎ、ニヤニヤする健さん。

 冒頭のドキュメンタリーシーンで、ディレクターに冷たく当たっていた人物とは思えないほどの3枚目ぶり。

 富永に子どもがいるとわかっても、富永の罪な態度(「健さんみたいな優しい人がパパならあの子も幸せなのに……」)が、健さんを俄然燃え上がらせる。旦那とは別居中らしい)。

 だんだんテレ東の深夜ドラマを見てるのか『男はつらいよ』を見てるのか、わからなくなってくる。

 特に、富永の幼い子ども(勇介=五十嵐陽向)と触れ合いながら「母ちゃんにさ、『健さんに親切にしてもらった』って伝えんだぞ?」と真顔で伝えるシーンや、富永と上手くいっていると勘違いして、大声で歌(草津よいと~こ~)を歌いながら仕事(湯もみ)しちゃうシーンなど、その純粋さや「大人げなさっぷり」が、強く『寅さん』を感じさせた。

 

■4次元ポケットのようなトランク

 そして、クライマックス。

 実は富永の夫は刑務所に入っているのだが、豪華客船の船長で、ずっと航海に出ていると聞かされてる勇介のために、船長のような上下白いスーツと制帽を身につけ、まだ見ぬ父親役を買って出た健さん。

「お前のお父さんだよ」

「嘘だ。お母さんと一緒に働いてるじゃん」

 いきなり撃沈しかけるも、

「父さんは、世界のどの海の上にいても、お前のこと思ってる」

「強くなって母さんのこと守ってやるんだ」

「俺がいない時はお前が家族の船長だ」

 熱い畳みかけで子どもの心をつかみほぐし、励ました。

 このときの船長の衣装が、なぜか健さん唯一の荷物である古びたトランクから出てくる出てくるのだが、この「そんな物まで詰め込んでたの?」という驚きが毎回見どころのひとつのようだ。

 そういえば、遠藤憲一として冒頭で直撃インタビューされているとき、衣装さんらしきスタッフと荷物の確認をしていた。

 ドラえもんの4次元ポケットや21エモンのなんでも入るバッグのような存在を思わせる、健さんの古ぼけたトランク。

 中からどんな「こんなものが?」が飛び出すのか次回以降楽しみだ。

 

■奈良屋のお湯に「無料」で入る方法

 いじめられてる子どもの精神的ケアもしてあげ、いよいよ告白というタイミングで、「来月旦那が出所する」と、うれしそうに富永に伝えられてしまう健さん。失恋具合も見事に寅さん。

 正直、内容的にはよくある話のオンパレードなのだが、「さまざまなしがらみから離れ、人里離れた地で違う自分となって働く」という潜在的な願望が刺激されるからなのか、丁寧な作りも相まって、見ていて陳腐に感じることはない。

 温泉に浸かりながら、誰もが描く淡い夢を丁寧に見せてくれつつ、温泉ガイドもしてくれる。

 実在の遠藤憲一が実在の温泉でこれをしてるという「事実」が、このありふれた夢物語を、少しだけ生々しく感じさせてくれる。

 まだ始まったばかりだが、今後どんな効果を生むのか楽しみなドラマだ。

 ちなみに情緒溢れる奈良屋は泊まらなくても1,200円で日帰り入浴もできるし、そもそも近くの無料で入れる白旗の湯(草津最古の湯とされる)のお湯を引いているので、そこに行くのもアリ。

 草津にはこうした無料で入れる浴場が大小10カ所ほどあるので、それらを回るだけでも楽しい。

 次回は、山口紗弥加が、ゲストというかマドンナ。予告では濃厚な濡れ場っぽいシーンも見られたので、ドキドキしながらオンエアを待ちたいと思います。
(文=柿田太郎)

食べることは生きること『忘却のサチコ』最終回 “サイコな俊吾さん”で「シーズン2」はあり得るのか?

 前回、幸子(高畑充希)の元に突如戻ってきた元・新郎の俊吾さん(早乙女太一)。結婚式の最中に突如失踪し、その後偶然旅先(宮崎)で再会するも再度失踪、そんな「どのツラ下げて」な俊吾さんがついに……。

 グルメドラマなのにグルメどころじゃなくなってる『忘却のサチコ』(テレビ東京系)最終回を振り返ります。

(前回までのレビューはこちらから)

■何事もなかったような俊吾が怖い

 俊吾が現れるや否や、幸子に恋心を抱いている後輩の小林(葉山奨之)は「今さらどういうつもりで!」とブチ切れる。もともとモンスター後輩だったのに今や実に常識人、かつ幸子の一番の理解者。

 もうこの子とくっつけばいいのに! と何度も思ってきたが、そうは原作が許さない(想像ですが)。すかさず「ご紹介遅れました、こちら俊吾さんです」と、いつものように馬鹿丁寧にことを進めようとする幸子だが、内心かなり慌てている様子。

 そして渦中の俊吾さんは、「いつも幸子さんがお世話になってます」と笑顔で挨拶、こちらは未だ、まったくもって真意が読めない。

 少なくとも今まで幸子へしてきた仕打ちを気にもとめず、平然と笑顔で挨拶してくる様子は、とんでもないサイコパス野郎。手土産に生鮭を一匹渡すところも、もはや不気味。

 そんな俊吾に「行こう」と言われ、迷いつつも着いて行く幸子。残された小林の気持ちを思うとなかなか辛い。

 幸子の家に着いてからも、いなくなった理由を聞きたい幸子の気持ちをよそに、生鮭の保冷を気にしたり、幸子の身長が伸びたことに触れたりと、まったく心が読めない俊吾。

 もうここまでくると外見はそのままで中身が宇宙人に乗っ取られてるとかじゃないと説明がつかない気がする。映画『ゼイリブ』みたいに。

■さよなら、俊吾さん

 次の日、仕事も手につかず帰宅した幸子は、真意を問おうと家事をする俊吾に背後から近づくも、結局背中を抱きしめてしまう。絵に描いたような「好きになったら負け」っぷり。

 小林にやんや言われても、つい俊吾をフォローしてしまい、「それで佐々木さんが幸せならどうぞご自由に」と呆れられてしまう。

 今まで合理的な正解しか選んでこなかった幸子が初めて見せる間違った選択の数々。

 そんな中、担当作家・姫村(長谷川朝晴)との打ち合わせで(幸子は文芸雑誌の編集員)、その姫村が言った「見たいものを見に行くのが放浪、見たくないものから逃げのが逃亡」という何気ない一言が、幸子に突き刺さる。

 俊吾は果たして、ただの気まぐれな放浪だったのか、それとも幸子との結婚が嫌で逃亡していたのか……?

 それを幸子が確認しようとする前に、俊吾がついに失踪について幸子に詫びる。

「どんなに謝っても許してもらえないことをしたと思ってる。本当にごめんなさい」と土下座。

 気持ちを落ち着かせるかのように、第1話の鯖味噌からの今までの忘却遍歴を語る幸子。そして、核心を突く。

「なぜ結婚式のあの日、私を置いて逃げたのですか?」

「嫌なものから目を背けたかっただけなんですよね? 本当は私と結婚したくなかったんですよね? あの日、私から逃げたんですよね?」

 謝りながらも今でも幸子を愛していると言いかけた俊吾を遮って幸子は言う。

「ダメです、もう逃げてはダメです。私ももう逃げません。私、きちんと俊吾さんを忘れます」

 当の幸子も現実から「逃亡」していたのだ。心からの「忘却」なんてできちゃいなかった。

 俊吾のことを好きだったと告げつつ、握ろうとしてきたの俊吾の手を振り払って幸子は言った。

「さよなら俊吾さん」

 ラブイズオーバー。

■別れた直後の一人石狩鍋

 一人になった部屋で、残された食べ頃の2人前の石狩鍋をキチンと味わう幸子。おじやまでちゃんも作って食べた。俊吾オススメのバターも入れた。

 普通なら一番食欲がなくなるタイミングなのかもしれないが、幸子は食べた。忘れようとしていたからなのか、忘れないようにしたからなのかはわからない。

 バターと味噌の相性を確かめながら言う。

「んー、間違いない。うん……間違ってない……」

 少なくとも幸子が前を向いていたことだけは間違いないだろう。

 不条理な死を扱うドラマ『アンナチュラル』(TBS系)では、主人公がやたらとものを食べるシーンが生々しく挿入されており、食事が「生」の象徴として描かれていた。

 違うドラマの褌を借りるような言い方になってしまうが、幸子のこの食事にも同じようなメッセージを感じた。

「生」とまで言わないが、幸子のこの食事は前を向いて歩いてゆくこと=それでも生きていくことの決意なのだろう。

 毎日ルーティーンになってしまっている食事というものの本来の意味を考えさせられる。

 こんなに重い「飯テロ」も珍しい。飯テロというか「飯哲」。飯の哲学。お腹も空くし頭も使う。そして結局余計お腹が空く。

『アンナチュラル』を見てお腹が空くことはあまりなかったから、やはり『忘却のサチコ』はこれまでにないドラマだ。

■シーズン2はあるのか?

 翌日、腫れ物に触るように接してくる職場仲間を昼飯に誘う幸子。

 幸子が連れてきたのは第1話の三宝食堂(東府中)。幸子が『忘却』に目覚めた鯖味噌定食を全員で食べる。ドラマ最後の晩餐。大人数で食べるのことのよさがなんとなく伝わってくる。

 その時、食堂のテレビの街角中継に、南の国へ放浪してるはずの俊吾さんの姿が映る。

「サチコさん、メリークリスマス! 待っててね、必ず帰るから!」

 笑うところなのかも知れないがここは完全にホラーだと思った。

「ご心配なく、綺麗さっぱり忘却しましたから」と幸子は言っているが、この俊吾さんの放浪はシーズン2がいつ来てもいいための布石だろう。

 しかし、ここまで俊吾さんが不気味に描かれてしまうと、次から幸子が悩みにくいのではないだろうか?

 もしくは次からは単にストーカーと化した俊吾さんのあの手この手の嫌がらせから『忘却」するために食べる話になるのだろうか。

 まあ未確定な先の話はさて置き、少なくとも幸子が前を向けたのだから、これはこれでハッピーエンドなのだろう。

 最終回は雑に扱ってしまいがちな自分をちゃんと労ってやりたくなるような回で、前向きに胃袋に何かを入れてあげたくなるような回でした。

■俊吾さんは困難の象徴?

 ふざけた回から考えさせられる回まで、実に振り幅の広いドラマで、正直どういう流れで見ていいのかレビュー的に難しいところもあったのだが、見終わった瞬間感じたのは、そんな細かいことなどどうでもいいという爽快感。

 結局、俊吾さんの整合性などどうでもよいのだ。象徴としての「困難そのもの」だと思うと見やすくなる。最後はそんなずるい見方になってしまいました。

 原作の幸子はもっと機械的でコミカルだし、ドラマほど生々しい弱さや人としての悩みを露わにしなかったので、ドラマは結末も含めて別物として見るのが正解だろう。

 別物と言ってもしっかり手を抜かず、原作が続行してる中で、作る側の試行錯誤や遊びがふんだんに盛り込まれていたので、毎回新鮮に楽しめたのがよかったです。

 なんなら最後、俊吾さんがやはり宇宙人に乗っ取られていて突如エイリアンとの死闘に変わるとか、ロバート・ロドリゲス的な展開も期待してしまったので、シーズン2ではさらなる遊びを期待してます!
(文=柿田太郎)

『忘却のサチコ』今度は本格ラップ! なんでもこなす高畑充希の器用っぷり

 年末を迎え、今夜最終回を迎える『忘却のサチコ』(テレビ東京系 )。第11歩(第11話)となる「YO! 夜明けのソルロンタン」を振り返ります。

(前回までのレビューはこちらから)

■「作家」は曲者だらけ

 担当している姫村先生(長谷川朝晴)の執筆の相談に乗る編集者・佐々木幸子(高畑充希)。

 だが幸子は、小説の登場人物が「なぜ結婚破談になったか?」という話題において、「ケッコン」や「ハダン」の言葉が言えない。

 あげく、結婚式の当日に新郎に逃げたられた記憶が蘇り、フリーズしてしまう。

 その新郎こと俊吾さん(早乙女太一)がどこにいるのか? なぜいなくなったのか? の部分が、もはやグルメパート以上にキモになってきている。今回も出てきた食事は1回のみ。多い時は立ち食い的なのを含め3回くらい食べたりするので、やや少ない印象。

 それはさておき、公園で佇む幸子の背後から、芝の斜面を段ボールに寝そべり、身体を揺すりながら滑って登場した笑顔の姫村先生の不審者感は際立っていた。

 一見ちゃんとして見える人物だけに、そのポテンシャルは未知数。

 このドラマを見ていると、文芸作家というのは異常な人しかいないのだな……と錯覚してしまうほど、ジーニアス黒田(池田鉄洋)といい有村先生(大和田伸也)といい、クセの強い作家ばかり登場する。

 特に幸子ら編集者側からは“機嫌を損ねてはならない相手”だけに、余計にそう描かれているのかもしれないが、このドラマの魅力の1つが曲者だらけの作家先生たちなのは間違いない。

 ちなみに姫村を演じる長谷川朝晴は元ジョビジョバだし、コメディ芝居が上手いのはもちろんなのだが、タレントの千秋のリアル同級生で仲も良かったと知り、不審者感の細かい演技が上手いのも、なぜか納得してしまった。

 

■俊吾は「クソ野郎」

 幸子は編集部の後輩・小林(葉山奨之)の協力のもと、姫村の執筆に生かすべく、結婚が破談になった相手に取材をすることになるのだが、取材の席で聞く破談経験者の意見が、つらい記憶を刺激し、ギアが一段上がってしまう。

「何か止むに止まれぬ理由があったんですよね? 例えば元恋人が、実は血のつながった兄弟だったと判明したとか? そして、許されざる愛から身を引かれた……」

「違います」(破談経験者)

「もしくは、なんらかの組織に命を狙われていて彼女の身を危険から守るために」

「違います」

「もしくは実家が倒産して、莫大な借金を……」

「抱えてません」

「披露宴の最中に突然記憶喪失に……」

「なってません」

 幸子の「何か止むに止まれぬ事情があってほしい」感が溢れ出し、取材される破談経験者も段々とぶった切るように否定しだす。普通に考えたら重い内容なのだが、台詞がいいのか見ていて気持ちのいい掛け合い。

 結局、統計すると「なんとなく好きではなくなった」という漠然とした理由が多く、それに納得できない幸子は、もっと徹底的に調べた方が……とムキになる。

 そんな幸子を、「これ以上、傷口に塩を塗るようなことはしなくても」と小林がなだめる。幸子の「傷口」に、初めてしっかりと触れる小林。

 腫れ物に触るような人たちばかりの中、この小林の踏み込みは新鮮だ。

 さらに、一度再会してるのに再度逃げられ(第7話)、それでも俊吾を信じようとする幸子に、振り向いてもらえない小林の想いが爆発する。

「馬鹿なんですか? 現実見てくださいよ? 2年も付き合った結婚式当日に紙切れ一枚で逃げて、再会しても紙切れ一枚で逃げて、そういう奴をなんて言うかわかりますか? クソ野郎って言うんですよ」と痛烈。

 好きだからこその苛立ち。

「本当に優しい人間が逃げるわけないでしょ? まだそんな人間を引きずってるなんて、佐々木さんも佐々木さんですよ」

 言うだけ言ってしまった後、我に返り後悔するような小林が切ない。

■ラップも上手い高畑充希

 所変わって、幸子の勤め先・文芸誌さららの忘年会。居酒屋とかではなく、温泉の大宴会場のような場所を借り切って全員浴衣での本格的な宴会だ。

 ここで披露される部下たちの一芸を、編集長(吹越満)は「つまらなかったら次の年、あらゆる企画が通らなくなる」ほど楽しみにしてるらしい。

 幸子も例によって生真面目に宴会芸を考えているようで、その候補リストにチラッと見えた文字は、二人羽織や似顔絵描き、作家先生のモノマネ(ジーニアス黒田)と比較的オーソドックスなものから、「一発ギャグ20連発」というリスクの高いものまで並ぶ。

 中には「Tシャツ何枚重ね着できるか」、という「演目」もあり、幸子がいかにこの宴会芸に真剣に取り組んでいるかがわかる。

 その宴会芸で、小林はなんとオペラをアカペラで披露。『夢遊病の女』(ヴィンチェンツォ・ベッリーニ)の中から「どうか許しておくれ、愛しい人よ」を熱唱。

 どうやら強く当たってしまった幸子に謝ってるつもりらしいが、当の幸子は仲居さんにデザートを出すタイミングを指示しており、まったくその歌を聞いてない。聞いててもイタリア語なのでわかるかは不明だが。

 そして、幸子の出番。

 B-BOYの格好で登場した幸子が、シンプルなトラックに乗せてライムを繰り出す。

 それもとりあえずできないなりにラップしてみましたというより、日々、逆おしくらまんじゅうみたいに、井戸端会議みたいに向かい合ってラップでけなし合うやつ(サイファーと言うらしい)やって腕磨いてますといった感じで本格的。

 自己紹介からの「編集のお仕事紹介、必要なスキルは長文読解、読んだ原稿奥深い、校了終えたら即公開、センテンス組み合わせ作る世界、力合わせて交わすは誓い、私たちで作ろう出版業界ーー!」。

 盛り上がる浴衣姿のオーディエンスたち。

 なんか韻を踏んでると「凄い感」が増し、盛り上がりそうなので、若手が宴会芸を披露する際、ラップは意外とありかも。鼻に付く危険性も多分にあるが。

「なんか不思議と上がるな」とご機嫌な編集長だが、後半から盛り上がりのための人柱に選ばれ、ディスられまくる。

「say! 編集長(編集長)長! 長! 長! ゲラチェックをお願いに、そこで見たのはスマホゲーム、こっそりこそこそスマホゲーム(スマホゲーム)、そこで見たのはPC動画(PC動画)!」

 上司をいじって盛り上がるのは、内輪の集まりの鉄則。しかし異様に盛り上がってしまっていただけに、幸子がこの先どこか理不尽な部署に移動させられないかが心配だ。

 

■新大久保で牛骨スープ

 明け方お開きになった後、小林は幸子をソルロンタンの朝食に誘う。

 ソルロンタンは韓国料理で牛骨で出汁を取ったスープ。乳白色でこってりしていそうだが、実はあっさり味で朝飯にもぴったりだという。

 ある程度食べた後、キムチやカクテを混ぜて味変えしてもいいし、ご飯を投入して、おじやにしてもいい。

 石焼の器だからご飯投入後も熱が保たれるのがうれしい。

 調べてみるとこの店は新大久保の「とまと」というサムギョプサル専門店。しかしランチでソルロンタンの定食があるらしいので、サチコ体験したい人は是非。

 

■またまたまた、俊吾さん登場

 帰り道、先日の件を謝り仲直りしつつ、幸子への恋の告白をしかける小林。

 しかし告白する寸前、橋の向こうから現れたのは、なぜか生鮭の発泡スチロールを抱えた俊吾さん。

 漁師っぽいかっこをしてるのが気になるが、しっかり「ただいま」と微笑むその姿は、紛れもなく俊吾さん本人だ。

 三崎漁港に行った際、まるで似ていない地元漁師(東京03・角田晃広)を俊吾だと空目していたことがあった(第4話)ので油断はできないが、いよい大団円だし、さすがに本人であってほしい。

 俊吾さんが消えた理由は気になるものの、それが解決すると幸子が『忘却』する必要もなくなってしまうので、なんとも複雑だ。

 いよいよ今夜最終回。

 来期のドラマ『メゾン・ド・ポリス』(TBS系)で、西島秀俊、小日向文世、野口五郎、さらに近藤正臣ら豪華キャストと共演する幸子、いや充希。

 このドラマを見てると不器用な幸子に親心を抱いてしまうので、次期ドラマへ無事旅立てるのかとお節介にも気になってしまう。まずはこちらの最終回、楽しみに待ってます。

(文=柿田太郎)

 

『忘却のサチコ』漆黒の三代目登場! 新春の『孤独のグルメ』に登場してほしい

 我が道を行く新感覚グルメドラマ『忘却のサチコ』(テレビ東京系)。第10話では、あの有名店のオムライスに幸子がほだされます。

(前回までのレビューはこちらから)

■「いつも通り=精一杯努める」の幸子

 編集者によるネット討論番組に出演することになった我らが佐々木幸子(高畑充希)。その名も「今必要な恋愛小説」。

 編集長(吹越満)から「いつも通りでいいからな」と言われるも「はい、精一杯努めてまいります!」と高らかに返事する幸子。確かに、いつでも愚直に手抜きなしが幸子の「いつも通り」。編集長はおそらくリラックスさせる意図で言ったのだろうが、そう受け取れない不器用な幸子がかっこいい。

 

■まずは「おやき」で忘却

 しかし本番前、ネット番組→全世界の人が見ている→結婚式当日に失踪した元・新郎の俊吾さん(早乙女太一)が生放送中に現れるかも! と妄想し、パニックになりかけた幸子は、いつものように美味しいものを食べてつらい気持ちを「忘却」することに。

 幸子の目に留まったのは、主催者が長野出身とのことでケータリングに置かれていた「おやき」。

 言わずと知れた、きんぴらやかぼちゃなどの具を小麦の皮で包んで焼いたお惣菜饅頭。

 幸子が選んだのは、定番中の定番の具材、野沢菜。

 奇をてらってない飽きの来ない味は、いつ食べても落ち着く。

 蒸した肉まんよりやや皮が硬めなのも、武骨でいい。素朴を絵に描いたような郷土の味ながら、現代でも通じる惣菜パン的おやつ。

 

■幸子のライバル

 実はこの討論番組のキャスティングは、「月刊スピカ」の尾野真由美(佐藤めぐみ)が裏で手を回し仕組んだもの。

 8話で初登場し、接待の場で幸子に大敗を喫した尾野は、幸子を陥れるために復讐の炎を燃やす、わかりやすい女狐タイプのライバルだ。

 今回も本番前に主催者で司会の社会学者(六角慎司)の手をハプニングを装って握り、色仕掛けに走るなど余念がないが、幸子にストッキングが伝線してることを教えられパニクるなどやはり天敵・幸子にペースを乱される。

 本番中も、社会問題に恋愛を絡めたような作品、読者の知識レベルや倫理観を高められるような小説が必要、毒にも薬にもならない小説は必要ないと強弁し、存在感を示そうと躍起になる尾野。

 それに対し、社会的弱者であろうとなかろうと悩みはさまざまなので、自分の物語だと思える作品を見つけることができるのが「小説」であるから、よって「今必要な恋愛小説」の答えは「全ての恋愛小説」だとある種の正解を出してしまう幸子。

 さらにネット住民が喜びそうな作家と編集者との色恋話をあえて繰り出す尾野に対し、幸子は、小説家とは身体一つで真っ暗な宇宙(未知の世界)へ飛び込んで人類(読者)を新しい世界へと誘うパイオニア「はやぶさ2号」(小惑星探査機)であると、壮大な例えを繰り出す。

 当初そんな存在と恋愛はできないとしていた幸子だが、悩んだ挙句、作家の先生を尊敬しているから、「もし愛する人が作家になったら愛と尊敬を両立させ新しい感情の扉を開くことができるかもしれません」と気持ちを吐き出す。

 尾野が常に視聴者や世論など他者のウケを優先し、ある種、媚びて発言するのに対し、幸子の発言は無茶苦茶ながらも自分の想いが貫かれており、そこに嘘がない。

■幸子は嘘をつかない

 そう、この討論に限らず幸子は嘘をつかないのだ。

 いや、つけないと言ってもいいのかもしれない。

 式の最中に新郎がいなくなった時も、逃げられた悲劇の新婦である以上に、責任を伴う立場の当事者として、自ら状況を正直に淡々と説明、最悪の状況を「以上です」で締めくくり参列者を驚かせた。

 常に嘘がない故に、空気を読むことに長けまくっている現代の世では奇特に見えてしまうことも多いが、そのひたむきさにどこか胸を打たれることも多い。

 他人どころか自らを騙すなど自分に嘘がつけないから、毎度逃げた俊吾さんを思い出しては苦しんでしまうのだろう。

 当初は幸子、というか高畑のコスプレが必ずあったのだが、最近は俊吾さんこと早乙女太一のコスプレに移行してきている。

 今回も、宇宙から来た正義のヒーローや和装の文豪に早乙女が扮しているが、借り物的なコスプレではなくかなりの熱演で、早乙女の新たな魅力を見せてくれている。

 

■三代目登場!

 番組終了後、幸子が立ち寄った店はあの「たいめいけん」。

 オムライスと真っ黒な3代目店長でお馴染みのあの老舗洋食店。

 絶品のカニクリームコロッケやコンソメスープを味わったあと、いよいよ名物タンポポオムライスが到着。

 伊丹十三の映画『たんぽぽ』(1985)でもお馴染みの、切り開くととろとろの卵が溢れるあのオムライス。

 デミグラスソースを纏った卵とチキンライスを口にいれ、思わず目を細める幸子。

 ケチャップもいいが洋食店ならではのデミグラスもいい。

 店長と見分けがつかないくらいの漆黒が卵に映える。

 食べてる最中、第2話のように3代目と踊り出すのでは? とソワソワしたが、無事そういうハプニングもなく終了。3代目の不自然な固い笑顔がよかった。

 ちなみに映画『たんぽぽ』で、このオムライスが登場した時は、デミグラスではなく真っ赤なケチャップをかけている。

 トマトが好物な高畑にはそちらも食べさせてみたかった。

 

■脇役の宝庫

 結局この日も幸子にいいところを持っていかれ、またしてもグギギとなった尾野真由美だが、だんだんその純粋な負けん気が可愛く見えてくるから不思議だ。

 そして、ニコニコ動画らしきサイトで「佐々木さん頑張れ」と必死にコメントを連打する後輩・小林(葉山奨之)も、どんどん存在感を増している。

 そして、堂々としてるがゆえに見落としがちだが、小林より先に「佐々木頑張れ」とコメントを打とうと言い出し、実践していた編集長。

 原作でもそうだが、時折佐々木を想う場面が見られる(恋愛感情かどうかは定かでないが)ので、もっと編集長を活躍させてあげてほしい。

 残りあとわずか。

『孤独のグルメ』新春スペシャルで一部生放送をやるらしいので、そこにサチコがカメオ出演とかしないかなーと期待してますが、叶ったら嬉しいです。
(文=柿田太郎)